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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022687
(43)【公開日】2024-02-19
(54)【発明の名称】船舶用プロペラ
(51)【国際特許分類】
   B63H 1/18 20060101AFI20240209BHJP
【FI】
B63H1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022133682
(22)【出願日】2022-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】592005641
【氏名又は名称】井上 冨士夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 冨士夫
(57)【要約】
【課題】 特にプロペラの高速回転中に回転翼の後進面にできる非常に低い水圧域を飽和蒸気圧以下とならないように、キャビテーション初生直前のキャビテーションが発生し難い水圧まで高めて、キャビテーションの発生を阻止するプロペラを提供すること。
【解決手段】 各回転翼の後進面においてプロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な範囲箇所それぞれに単数又は複数の流出口を開口する。流出口とそれぞれの連通孔又はスリットによって連通する流入口を各回転翼の前進面に開口する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備える船舶用のプロペラにおいて、
各回転翼の後進面にプロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれに単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、
単数又は複数開口した前記流出口とそれぞれの連通孔又はスリットによって連通する流入口を各回転翼の前進面にそれぞれ開口して設けて構成されていることを特徴とする船舶用のプロペラ。
【請求項2】
それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、前記流出口の開口面積を、前記流入口の開口面積に対して拡径又は拡開されていることを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項3】
流出口と流入口とを連通するそれぞれの連通孔又はスリットの長手方向の中心線をプロペラの回転中心軸線と平行線上に配置したことを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項4】
各回転翼における後進面側の翼端部か又は後進面側の翼端部の前縁側と後縁側か又は双方に、各回転翼の撓りを制止するための撓り制止板又は撓り制止棒を、プロペラの回転軸中心線がドリル加工機の平面台に対して垂直方向を向くように一定の長さ突設させて一体化して設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項5】
それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、前記流出口の開口位置を、前記流入口の開口位置に対してプロペラ回転方向の遅れ側位置に開口して設け、前記流入口の開口位置を、前記流出口の開口位置に対してプロペラ回転方向の進み側位置に開口して設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項6】
それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、前記流出口の開口位置を、前記流入口の開口位置に対してプロペラ回転方向の進み側位置に開口して設け、前記流入口の開口位置を、前記流出口の開口位置に対してプロペラ回転方向の遅れ側位置に開口して設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項7】
それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、前記流出口の開口位置を、前記流入口の開口位置に対してプロペラ回転軸中心から遠い位置に開口して設け、前記流入口の開口位置を、前記流出口の開口位置に対してプロペラ回転軸中心に寄った位置に開口して設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項8】
プロペラの回転軸中心線から半径方向に向かって伸びる第1平面と、前記回転軸中心線と平行する平行線を交線として前記第1平面と直交する第2の平面上で、かつ、前記交線を長手方向の平均的な中心線とする各連通孔又は各スリットの形状くの字形に形成するとともに、前記くの字形状の屈曲部を、プロペラの回転方向遅れ側に向けて位置させて設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶用のプロペラ。
【請求項9】
回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備える船舶用のプロペラにおいて、
各回転翼における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に、半径方向に単数又は複数本の通水路をそれぞれ形作って設け、
前記通水路に連通して水を供給するための取水口を、前記回転翼を支持するボス部の前方外周囲面にそれぞれ設けるとともに、
前記各回転翼の前縁から後進面にかけて、プロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれに単数又は複数の流出口を開口して設け、
各取水口と連通し各回転翼内部に設けた前記通水路とそれぞれの流出口間を連通孔又はスリットによってそれぞれ連通させことを特徴とする船舶用のプロペラ
【請求項10】
回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備える船舶用のプロペラにおいて、
各回転翼における前縁の複数箇所に、中央先端部が前進面側から前縁を切り込み、さらに、後端部が後進面側へ掛けて切り込まれて形成するV字型形状やU字型形状などの切り欠き部を設けたことを特徴とする船舶用のプロペラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用プロペラの回転時において、プロペラ回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる回転翼が水をかくことにより、プロペラ回転中心軸方向に揚力を作り、推進する力を得る船舶用プロペラに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用プロペラは、プロペラ回転時において、回転翼に働く揚力を利用して推進力を発生させるが、高速回転時においては多様なキャビテーション現象も発生する。キャビテーション現象とは空洞現象とも呼ばれ、水の中に気体の泡が発生する現象で、高速で回転する各回転翼の前縁や先端付近など、流速が非常に速くなる部分に発生しやすく、ベルヌーイの法則から流速が速い分だけ圧力(静圧)は低くなり、それが飽和蒸気圧以下に達すると水中で気泡が発生し、これがキャビテーションである。
【0003】
そして、船の推進力には、この回転翼の後進面(背面)にできる非常に低い圧力を利用し、圧力が低いほど大きな推力が得られるが、反面、高速回転時においては多様なキャビテーションが発生しやすくなり、回転翼の後進面(背面)にキャビテーションが広がると推力が減少し、騒音・振動が発生するとともにキャビテーションで発生した気泡がプロペラ表面の近くで崩壊すると回転翼表面を腐食させてしまうこともある。
【0004】
その多様なキャビテーションに起因する船尾振動や翼面エロージョン(磨耗的腐食)の低減を図ることを目的とした船舶用プロペラの技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
なお、日本舶用機関整備協会によると、プロペラを船尾側から見たときに、回転翼の背面側を後進面と称し、また、正面側を前進面と称すとのことにより、文中において、回転翼の背面側を後進面と呼び、また、正面側を前進面と呼ぶこととした。
【0006】
また、船舶用スクリュープロペラは、海事従事者の間では略して一般にプロペラと呼ばれることが多く、スクリューと略されることは少ない。ペラと略す業界もある。よって、以下、スクリュープロペラをプロペラと略して記す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-022570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プロペラの回転中心軸の回転数が増すに連れて発生する多様なキャビテーションをできる限り阻止するためには、回転翼のピッチを弱め、回転数の上限を規制する必要があるが、反面、船速の向上を図り辛いなどのジレンマも生じていた。さらに、プロペラ回転数の低減化を図るためにプロペラの直径の大径化を図ると、喫水の制約もあって限度がある。
【0009】
キャビテーション対策の一例として、例えば、従来、回転翼の各々のピッチ角を、翼面上でキャビテーションの発生し易い位置(Θ=0°付近)にあるときには小さくし、翼面上でキャビテーションの発生し難い位置(Θ=120°又は240°付近)にあるときには大きくする。これにより、船尾伴流の大きい水深の浅い位置におけるキャビテーションの発生を格段に抑制できるとともに、Θ=0°~180°にかけて迎角の変動幅をなだらかにでき、発生したキャビテーションも穏やかに消滅させることができる。そのため、大きな船尾振動の発生やエロージョンの発生を低減する対策方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなキャビテーション対策方法により、発生したキャビテーションを穏やかに消滅させることはできるが、プロペラの機構自体が複雑になりコストアップになるなどの問題点があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために成されたもので、特に、プロペラの高速回転中に回転翼の後進面にできる非常に低い水圧域を、飽和蒸気圧以下とならないように、キャビテーション初生直前のキャビテーションが発生し難い水圧まで高めて、多様なキャビテーションの発生を阻止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備える船舶用のプロペラにおいて、各回転翼の後進面にプロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれに単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、単数又は複数開口した前記流出口とそれぞれの連通孔又はスリットによって連通する流入口を各回転翼の前進面にそれぞれ開口して設けて構成されていることを特徴とする。
【0012】
そして、上記プロペラの場合、それぞれの連通孔又は各スリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口面積を、流入口の開口面積に対して拡径又は拡開されていることが好ましい。
【0013】
また、上記プロペラの場合、流出口と流入口とを連通するそれぞれの連通孔又はスリットの長手方向の中心線をプロペラの回転中心軸線と平行線上に配置してもよい。
【0014】
そしてさらに、上記プロペラの場合、各回転翼における後進面側の翼端部か又は後進面側の翼端部の前縁側と後縁側か又は双方に、各回転翼の撓りを制止するための撓り制止棒を、プロペラの回転軸中心線がドリル加工機の平面台に対して垂直方向を向くように一定の長さ突設させて一体化して設けておくとよい。
【0015】
そして、上記プロペラの場合、それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口位置を、流入口の開口位置に対してプロペラ回転方向の遅れ側位置に開口して設け、前記流入口の開口位置を、前記流出口の開口位置に対してプロペラ回転方向の進み側位置に開口してもよい。
【0016】
さらに、上記プロペラの場合、それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口位置を、流入口の開口位置に対してプロペラ回転方向の進み側位置に開口して設け、流入口の開口位置を、流出口の開口位置に対してプロペラ回転方向の遅れ側位置に開口してもよい。
【0017】
また、上記プロペラの場合、それぞれの連通孔又はスリットによって連通し前記連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口位置を、流入口の開口位置に対してプロペラ回転軸中心から遠い位置に開口して設け、前記流入口の開口位置を、前記流出口の開口位置に対してプロペラ回転軸中心に寄った位置に開口して設けてもよい。
【0018】
さらに、上記プロペラの場合、プロペラの回転軸中心線から半径方向に向かって伸びる第1平面と、前記回転軸中心線と平行する平行線を交線として前記第1平面と直交する第2の平面上で、かつ、前記交線を長手方向の平均的な中心線とする各連通孔又は各スリットの形状をくの字形に形成するとともに、前記くの字形状の屈曲部を、プロペラの回転方向遅れ側に向けて位置させて設けておくと効果的である。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備える船舶用のプロペラにおいて、各回転翼における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に、半径方向に単数又は複数本の通水路をそれぞれ形作って設け、前記通水路に連通して水を供給するための取水口を、前記回転翼を支持するボス部の前方外周囲面にそれぞれ設けるとともに、前記各回転翼の前縁から後進面にかけて、プロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれに単数又は複数の流出口を開口して設け、各取水口と連通し各回転翼内部に設けた前記通水路とそれぞれの流出口間を連通孔又はスリットによってそれぞれ連通させことを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備える船舶用のプロペラにおいて、各回転翼における前縁の複数箇所に、中央先端部が前進面側から前縁を切り込み、さらに、後端部が後進面側へ掛けて切り込まれて形成するV字型形状やU字型形状などの切り欠き部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明によれば、プロペラ回転中において、回転翼における後進面に発生する非常に低い水圧域に対して、プロペラの各回転翼における前進面に発生する非常に高い水圧域の水を常時供給するか、又は、前進中にボス部前方面の周囲に開設した取水口から独自に取り込んだ水を、プロペラの各回転翼における後進面に発生する非常に低い水圧域に常時供給することにより、飽和蒸気圧以下に達する直前のキャビテーションが発生し難い圧力域に高めて、多様なキャビテーションの発生を阻止することができ、結果的に、プロペラの設計自由度を高めることが可能となり、例えば、回転翼のピッチやプロペラの回転数を高めることによって、さらに、船速の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】同図(a)は本発明の実施の形態に係るプロペラの概略側面図であり、プロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)を前後方向(プロペラの回転軸中心線方向)に切断した断面部を図示し、同図(b)はプロペラの一回転翼を前後方向に切断した断面部の一部を拡大した拡大図である。
図2】プロペラの後進面を船首側から見た概略背面図であり、各回転翼の後進面側に特にプロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれをプロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)に図示している。
図3】オーバル形を形成する流出口及び流入口を模式的に示す平面図である。
図4】プロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)をプロペラの回転軸中心線を含む平面とプロペラの回転軸中心線と平行する平行線を交線として直交する平面で切断した概略断面図であり、その平面上に長手方向中心線を位置させたある連通孔又はスリットの様子を示す。
図5】各回転翼における前進面側の翼端部に、撓りを制止するための撓り制止板(又は制止棒)をフライス盤のテーブル方向に向けてそれぞれ一定の長さに突設させた側面図である。
図6】プロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)における連通孔又はスリットが開口する部分をプロペラの回転軸中心線と直交する(図2に示すC―C部分)方向に切断した断面図であり、連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口位置を、流入口の開口位置に対してプロペラ回転方向の遅れ側位置に開口し、流入口の開口位置を、流出口の開口位置に対してプロペラ回転方向の進み側位置に開口した様子を示す。
図7】プロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)における連通孔又はスリットが開口する部分をプロペラの回転軸中心線と直交する(図2に示すC―C部分)方向に切断した断面図であり、連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口位置を、流入口の開口位置に対してプロペラ回転方向の進み側位置に開口し、流入口の開口位置を、流出口の開口位置に対してプロペラ回転方向の遅れ側位置に開口し様子を示す。
図8】連通孔又はスリットの両端部に開口する流出口と流入口とにおいて、流出口の開口位置を、流入口の開口位置に対してプロペラ回転軸中心から遠い位置に開口し、流入口の開口位置を、流出口の開口位置に対してプロペラ回転軸の中心に寄った位置に開口しことを示す正面図で、流出口及び流入口を連通するいくつかの連通孔の内、一連通孔を例に示す。
図9】プロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)における連通孔又はスリットが開口する部分をプロペラの回転軸中心線と直交する(図2に示すC―C部分)方向に切断した断面図であり、連通孔又はスリットの平均的な中心線形状をV型状に形成し、前記V型状の屈曲部をプロペラ回転方向の遅れ側に向けて位置させた様子を示す。
図10】船首側から見た各回転翼の一回転翼(他の回転翼は図示せず)内部に通水路と、前記通水路と連通するボス部に設けた取水口とを模式的に示す背面図である。
図11】軸受け部後方の形状と、ボス部前面に開口する取水口の位置及び形状と、前記ボス部に一体化する各回転翼の内、一回転翼(他の回転翼は取水口と前記取水口と連通する通水路を図示せず)の内部に設けられ前記取水口と連通する通水路の形状及び方向と、前記通水路と連通孔又はスリットによって連通する流出口の開口位置を示す側面図である。
図12】船尾側から見た各回転翼の一回転翼(他の回転翼は取水口と前記取水口と連通する通水路を図示せず)の前進面に水を取り込むための取水口と前記取水口と連通する通水路を設けたことを示す正面図である。
図13】ボス部前面に開口する取水口と、前記取水口と連通する主通水路と、前記主通水路から枝分かれした副通水路と、後進面4に開口し前記副通水路と連通する流出口の構成を示す模式的な斜視図である。
図14】船首側から見た各回転翼の一部回転翼(他の回転翼は図示せず)内部に設けた複数の通水路と、複数の前記通水路と連通するボス部前面に開口する取水口を模式的に示す背面図である。
図15】同図(a)は各回転翼(他の回転翼は図示せず)における前縁の複数箇所にV字型形状(やU字型形状)などの切り欠き部を設けたことを示す模式的に示す背面図で、同図(b)は前記切り欠き部を拡大した拡大図である。
図16】ブレードの断面図で、一方上面外皮と他方下面外皮と連通孔の長手方向の断面を示す。
図17】楕円錐台筒形状部分の流出口の口径と円筒形状部分の内径とが異なる各連通孔の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
船舶用プロペラは、現代船では主に金属で作られ、プロペラの回転中心軸に連結されたボス部と、前記ボス部に所要数の回転翼(又はブレード)と呼ばれる翼面部分を半径方向に突設して構成され、また、金属材料としては、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼、マンガン青銅、ニッケルアルミ青銅などが採用され、大型船舶においては銅系のプロペラ合金(高力黄銅HBsCやアルミ青銅AlBC)が多用され、小型船舶においてはニッケルアルミ青銅やステンレス鋼などが採用されており、また、電蝕により船体の材料である鋼がダメージを受けるため、近傍に「ジンク」と呼ばれる亜鉛材による「身代わりとして犠牲になる」部品を配置する。近年では、繊維強化プラスチック複合材など、代替材料の研究開発も進められている。形状が楕円、あるいは扇形に近く、飛行機のプロペラに比べて翼が短く広い。回転翼は小型船では枚数が少なく、大型船では多い傾向にある。
【0024】
製造方法において、小型のプロペラでは、主に鋳造製法が採用され、例えば、精密金型によるダイキャスト鋳造製法では、精密金型内へ溶融金属を流し込んで加圧し、そして、冷えた時点で精密金型のパーティング面(分離面)より金型を離型することによりプロペラの素材が作られる。また、ロストワックス鋳造法では、まず鋳造する製品と同じ形状の原型をワックス(蝋)のように高温で消失する素材で製作し、この原型にはあらかじめ湯口の部分を作っておく。次に原型の周囲を耐火性石膏等の耐火材で覆い、硬化、乾燥後に高温で脱蝋、鋳型を造る。このとき原型のワックスは熱で融け出して消失する。こうして完成した鋳型へ溶融金属を流し込み、冷えた時点で鋳型を破壊すると鋳物が残りプロペラの素材が作られる。さらに、発泡スチール鋳造法では、『フルモールド鋳造』、『消失模型鋳造法』『ロストフォーム法』『フルモールド法』と呼ばれる方法で、まず鋳造する製品と同じ形状の原型を、発泡スチールで製作し、この原型にはあらかじめ湯口の部分を作っておく。周囲を鋳物用の砂などで覆い、型の硬化後、直接溶融金属を流し込むと発泡スチロールが溶けて消失する。冷却後鋳型を破壊するとプロペラの素材が作られ、さらに、素材に機械加工を施して成形しプロペラの完成となる。
【0025】
また、大型のプロペラにおいても主に鋳造製法が採用され、大型船舶のプロペラの場合は、一品受注生産品であり、よって、模型を使用することなく、独自の鋳型製作法により造型される廻し型(挽型)と呼ばれる方法で鋳型を製造する。地板の中心にボス木型とボス中心を回転軸とするスピンドルを設置し、そのスピンドルにはアームが伸びており、アーム先端には挽板と呼ばれる板が付いている。その板は、プロペラのピッチ角に合せた案内板に沿って回転し、挽板がらせん状に砂を削り落としてプロペラの前進面となる下型を作り出す。下型の上には、収縮量、変形量、削り代を含んだ翼断面形状をした薄い型板をプロペラの図面に定義される各セクション上に沿わせる。その各セクション上に並べた型板の空間を砂で盛り、へらでならしてプロペラの回転翼となる部分を造型し、この型の外枠に型枠を接地し砂を込め、プロペラの後進面となる上型を造型する。完成した後に、上型を引き上げプロペラの回転翼となる部分の砂とボス木型を取り除き、再度上型と下型を組み合わせることでプロペラの鋳型が完成する。本発明の大小の各プロペラは、上述した各種製造技術によって製造される。
【0026】
(第1の実施の形態)
図1、同図(a)は本発明の実施の形態に係るプロペラの概略側面図であり、プロペラの一回転翼3a(他の回転翼3b、3cは図示せず)を前後方向(プロペラの回転軸中心線方向)に切断した断面部を図示し、回転中心軸を有するボス部と、前記ボス部の外周から半径方向に突設して延びる所要数の回転翼を備えて構成された本発明の一実施形態に係るプロペラで、同図(b)はプロペラの一回転翼を前後方向に切断した断面部の一部を拡大した拡大図である。図2は、プロペラの後進面を船首側から見た背面図であり、各回転翼の後進面側に特にプロペラの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれをプロペラの一回転翼(他の回転翼は図示せず)に図示し、三枚の回転翼を半径方向に突設させるとともに前進時に船尾側から見て右回転(右回り)をする場合を例に図示している。また、船首側からプロペラの後進面を見た背面図であり、よって、図面上プロペラは左回りとなる。
【0027】
続いて本発明の船舶用プロペラ1について詳細に説明する。
回転中心軸を有するボス部2と、前記ボス部2の外周から半径方向に突設して延びる所要数の回転翼3a、3b、3c(回転翼3b、3cは図1に図示せず)を備えて構成された船舶用プロペラ1は、図1及び図2に示すように、各回転翼3a、3b、3cの後進面4に、特にプロペラ1の高速回転時に発生し易いシートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5aやバブルキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5b、また、クラウドキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5cや、さらに、翼端渦キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5d(各回転翼の前縁と後縁を翼端部で繋ぐ側縁を含む)など、多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5b、5c、5d(各回転翼の前縁と後縁を翼端部で繋ぐ側縁を含む)、…それぞれに、単数又は複数の流出口6を開口して設けるとともに、前記流出口6と回転翼を貫通する各連通孔9又はスリット10により連通する単数又は複数の流入口8を、各回転翼3a、3b、3cの前進面7に開口して設けて構成されている。
【0028】
図3
そして、それぞれの連通孔9又はスリット10の両端部に開口する流出口6と流入口8との形状は、限定的ではないが、連通孔9の場合は加工が容易な円形状が好ましく、また、スリット10の場合は、図3に示す平面図のように、オーバル形状(卵形、長円形、楕円形、楕円形に近い細長い円形など、以下、「オーバル形状」という)が好ましい。そして、オーバル形状のスリット10を採用した場合は、オーバル形状のスリット10の長軸方向をプロペラの半径方向に向けて開口することにより後進面4側の広範囲に拡散し、後進面4側の低い水圧域の水に常時流出させた水を混合させることができ、また、連通孔9とスリット10とを併用してもよい(以下、各実施形態においても同様である)。
【0029】
さらに、それぞれの連通孔9又はスリット10によって連通するとともに、前記連通孔9又はスリット10の両端部に開口する流出口6と流入口8とにおけるそれぞれの開口面積においては、各回転翼の後進面4に開口する流出口6の開口面積を、各回転翼の前進面7に開口する流入口8の開口面積に対して、図1の一部拡大図に示すように、拡径(連通孔9の場合)又は拡開(スリット10の場合)するとよく、流出口6の開口面積を、流入口8の開口面積に対して拡径又は拡開することにより、後進面4の低い水圧域の水に対して、前進面7に発生した高い水圧域の水は圧力差によりそれぞれの連通孔9又はスリット10の内部に流入し、その後、後進面4に開口した流出口6方向へ向かうにしたがい、前記連通孔9又はスリット10における長手方向の中心線と直交する方向の断面積が徐々に拡径又は拡開し続けているために、通過する水は減圧・減速しながら流動し、さらに、後進面4に開口した流出口6から流出しながら後進面4表面付近の低い水圧域の水に向かって拡散することにより、後進面4表面付近の低い水圧域の水を飽和蒸気圧以下に達しない状態に保つ効果を得ることができる。よって、上述した効果を得るために、流出口6が流入口8に対して、拡径又は拡開されて開口して構成された場合の実施形態について説明する。ただし、拡径又は拡開に限定はされない。
【0030】
また、それぞれの連通孔9又はスリット10によって連通するとともに、前記連通孔9又はスリット10の両端部に開口する流出口6と流入口8とにおける開口位置においては、各回転翼3a、3b、3cの後進面4において特にプロペラ1の高速回転時に発生し易い多様なキャビテーションは、後進面4におけるそれぞれの発生範囲に均等に発生するのではなく、例えば、翼端渦キャビテーションにおいても、翼端渦キャビテーションが強く発生する場所と翼端渦キャビテーションが弱く発生する場所が存在する。よって、例えば、翼端渦キャビテーションが強く発生する場所に対しては、流出口6と流入口8が両端部に開口する各連通孔9又は各スリット10の間隔を狭めて単位面積当たりの各連通孔9又は各スリット10の開口数を増やして設け、また、翼端渦キャビテーションが弱く発生する場所に対しては、流出口6と流入口8が両端部に開口する各連通孔9又は各スリット10の間隔を広めて単位面積当たりの各連通孔9又は各スリット10の開口数を減らして設けるとよい。さらに、翼端渦キャビテーションが強く発生する場所に開口する後進面4側の流出口6の開口面積と前進面7側に開口する流入口8との開口面積とを、翼端渦キャビテーションが弱く発生する場所に開口する後進面4側の流出口6の開口面積と前進面7側に開口する流入口8との開口面積とに対して、大径化を図ってもよい。翼端渦キャビテーションを例に説明したが、他のキャビテーションにおいても同様に対処することとする。
【0031】
そして、各回転翼における後進面4に開口し円形状を形成する流出口6と、前進面7に開口し円形状を形成する流入口8とを連通する連通孔9の場合においては、流入口8に対して拡径された底面(一方底面)を流出口6とし、天面(他方底面)を流入口8とした略斜円錐台筒形状又は略円錐台筒形状を形成し、その略斜円錐台筒形状又は略円錐台筒形状を形成する連通孔9においては、図4に示す実施形態のように、略斜円錐台筒形状を形成する各連通孔9の長手方向の中心線A―Aを、プロペラの回転軸中心線B―Bとそれぞれ平行線上に位置するように設けた場合に形成され、よって、円形状を形成する流出口6と流入口8との各中心点は、プロペラの回転軸中心線B―Bと平行線上の位置に重なることになる。
【0032】
ちなみに、連通孔9の長手方向の中心線A―Aを、後進面4側から垂直方向に向けて開口した場合の連通孔9の形状では、図1に示すように、略円錐台筒形状を形成する。ただし、それぞれの連通孔9の長手方向の中心線A―Aを後進面4側から垂直方向に向けて開口した場合は、後進面4が曲面で構成されているために、それぞれの連通孔9の長手方向の中心線A―Aが平行線状態とならず、よって、2方向抜き金型のダイカスト法による製造方法では製造できず、ロストワックス鋳造法や発泡スチール鋳造法など他の製造方法によって製造することになる。
【0033】
さらに、連通孔9又はスリット10の内、オーバル形状を形成して開口する流出口6と流入口8とを連通するそれぞれのスリット10の場合においては、オーバル形状の流入口8に対して拡開された底面(一方底面)を流出口6とし、オーバル形状の天面(他方底面)を流入口8とした略斜オーバル錐台筒形状又は略オーバル錐台筒形状に形成され、上述したように、オーバル形状のスリット10の長軸方向をプロペラの半径方向に向けて開口することにより広範囲に拡散し、後進面4側の低い水圧域の水に常時流出させた水を混合させることができる。
【0034】
なお、前記略斜円錐台筒形状又は略円錐台筒形状や略斜オーバル錐台筒形状又は略オーバル錐台筒形状などにおいて略を付けた理由は、プロペラ1の前進面7と後進面4とはそれぞれ曲面で構成されているために、前進面7と後進面4は正確には平行面となっておらず、よって、略を付けている(以下、同様)。
【0035】
そして、略斜円錐台筒形状又は略円錐台筒形状を形成する連通孔9の前進面7側に開口する各流入口8の角部分や、略斜オーバル錐台筒形状又は略オーバル錐台筒形状を形成するスリット10の前進面7側に開口する各流入口8の角部分などにおいては、各回転翼3a、3b、3cにおける前進面7側の角(図1に示す角C)が鋭角となって強度が低下しないように、可能な範囲で、前進面7側の角部分に丸みを付けておくか、又は、各流入口8の角部分付近を、後進面4方向に向けて円筒形(連通孔9の場合)やオーバル筒形(スリット10の場合)に成形しておくと前進面7側の角部分の強度を高めることができる。
【0036】
上記構成により、プロペラ1の特に高速回転時において、各回転翼の前進面7に発生した高い水圧域の水は、各回転翼の後進面4に発生した低い水圧域との圧力差により、前進面7に設けられたそれぞれの流入口8(図1の一部拡大図参照)からそれぞれ連通する各連通孔9又は各スリット10(図1の一部拡大図参照)の内部に流入し、そして、後進面4に拡径又は拡開されて設けられた各流出口6(図1の一部拡大図参照)側に向かうにしたがい、それぞれの連通孔9又はスリット10は、長手方向の中心線と直交する方向の断面積が徐々に拡大し続けているために、通過する水は減圧・減速しながら流動し、さらに、後進面4に設けた各流出口6から後進面4の低い水圧域に向かって流出し続けて拡散し、後進面4側の低い水圧域の水に常時流出させた水が混合されて、後進面4表面付近の低い水圧域を飽和蒸気圧以下に達しない状態に保つことができ、結果的に、キャビテーション初生直前のキャビテーションが発生し難い水圧まで高めることにより、多様なキャビテーションの発生を阻止することができるとともに、プロペラ1を効率の良い回転域で回転し続けることも可能となり、高い推進力を確保することもできる。
【0037】
なお、前進面7に設ける各流入口8と、後進面4に設ける各流出口6とにおける開口位置、開口面積比、開口数や流入量、流出量、流出方向などにおいては、キャビテーション初生直前のキャビテーションが発生し難い水圧まで高められるように、プロペラのサイズや用途など各諸条件を鑑みた上で決定することとする。よって、図2において、キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に各流出口6の開口位置を図示していない。
【0038】
さらに、プロペラ1における各回転翼3a、3b、3cの後進面4に設けるそれぞれの流出口6の開口位置、開口面積比、開口数や流出量、流出方向などは統一することとし、また、プロペラ1における各回転翼3a、3b、3cにおける前進面7に設けるそれぞれの流入口8においても、前記流入口8の開口位置、開口面積比、開口数や流入量など、各回転翼3a、3b、3cにおいても統一することにより、プロペラ1回転時の振動を低減し回転バランスを確保することができる。
【0039】
そして、前進面7に発生した高い水圧域の水を、前進面7に設けた各流入口8からそれぞれの連通孔9又はスリット10を通じて後進面4に設けた各流出口6へ供給し流出する水量においては、船の推進力が、各回転翼の後進面4に生じる非常に低い水圧域を利用して大きな推力を得ているために、船速を確保した上で、各回転翼における後進面4の圧力上昇を必要最小限に留め置き、特に、高速回転時における多様なキャビテーションキャビテーション初生直前のキャビテーションが発生し難い水圧まで高めることが可能な水量とする。
【0040】
そして、それぞれの連通孔9又はスリット10の両端部に開口する流出口6と流入口8とを設ける開口位置においては、前記流出口6と流入口8とを連通し略斜円錐台筒形状又は略円錐台筒形状を形成するそれぞれの連通孔9の長手方向の中心線A―Aや、天面及び底面がオーバル形状で略斜オーバル錐台筒形状又は略オーバル錐台筒形状を形成するそれぞれのスリット10の長手方向の中心線A―Aを、図4に示すように、プロペラ1aの回転軸中心線B―Bと平行線上に位置するように設けておくと、連通孔9は略斜円錐台筒形状を形成し、スリット10は略斜オーバル錐台筒形状を形成する。さらに、例えば、プロペラ1aを2方向抜き金型のダイカスト法によって製造する場合に、金型に溶融金属(ニッケルアルミ青銅など)を流し込み、その後、金型から成形品を取り出す際に、それぞれの連通孔9又はスリット10を模したピン型の金型部における長手方向の中心線が、2方向抜き金型のパーティング面(分離面)に対してそれぞれ垂直(プロペラ1aの回転軸中心線B―Bと平行線)に配置されるために、結果的に、2方向抜き金型を直線上で離型することができるとともに、容易に金型から成形品を取り出すことができる。よって、流出口6と流入口8とを設ける開口位置(流出口6と流入口8それぞれの中心点)においては、連通孔9又はスリット10における長手方向の中心線A―Aをプロペラ1aの回転軸中心線B―Bと平行線上に位置させて、長手方向の中心線A―Aと後進面4との交点を中心点とした流出口6を開口し、さらに、長手方向の中心線A―Aと前進面7との交点を中心点とした流入口8を開口するとよい。このときのそれぞれの連通孔9は、天面(他方の底面)を流入口6とし、底面(一方の底面)を流出口8とした略斜円錐台筒形状となり、また、このときのそれぞれのスリット10においては、天面(他方の底面)及び底面(一方の底面)がオーバル形状を形成した略斜オーバル錐台筒形状となる。
【0041】
また、上述した図4に示す、略斜円錐台筒形状を形成するそれぞれの連通孔9の長手方向の中心線A―Aや、略斜オーバル錐台筒形状を形成するそれぞれのスリット10の長手方向の中心線A―Aを、プロペラ1aの回転軸中心線B―Bと平行線上に位置するように配列すると、機械加工による孔開け加工が容易となる。
【0042】
そして、プロペラ1の各回転翼3a、3b、3cに、機械加工によってそれぞれの連通孔9又はスリット10を開口する場合に、例えば、フライス盤のテーブルに対してプロペラ1の回転軸中心線B―Bが垂直方向を向くように載置して取付け、ドリルやテーパーリーマー先端を各回転翼3a、3b、3cに当てて加工を施すときに、各回転翼3a、3b、3cの翼端部方向側に撓りが生じないように、各回転翼における前進面7側の翼端部か、又は前進面7側の翼端部の前縁側と後縁側か、又は双方に、図5図5では、翼端部に一体化)に示すように、プロペラ1の回転軸中心線がフライス盤のテーブルに対して垂直方向を向くように、撓りを制止するための撓り制止板(又は撓り制止棒)11を前記テーブル方向に向けてそれぞれ一定の長さに突設させ一体化しておくことにより、正確に孔開け加工を施すことができ、また、流出口6側から流入口8側へドリルによって連通孔9又はスリット10を開口し、さらに、ドリルからテーパーリーマーに切り替えて、開口した穴(流入口8側と同径の穴)の流出口6側からテーパーリーマーによって拡径又は拡開する流出口6を開口することができる。さらに、プロペラ1を返してプロペラ1におけるボス部前方側(船首側)を、フライス盤のテーブルに対してプロペラの回転軸中心線が垂直方向を向くように載置して取付け、流入口8側に軽く皿モミ加工を施しておくと流入口8側も僅かに円錐形状を成して周囲の強度を確保することができる。さらに他の回転翼においても同様に機械加工を施してプロペラ1aの各回転翼3a、3b、3cに、機械加工によってそれぞれの連通孔9又はスリット10を開口することとする。
【0043】
なお、各回転翼3a、3b、3cそれぞれに設けた各撓り制止板(又は撓り制止棒)11におけるテーブル側の先端部と、ボス部2における船尾側先端部とは、同一平面上に位置してテーブルに当接(テーブルに対してプロペラ1aの回転軸中心線が垂直方向を向いて載置)させ、また、前記各撓り制止板(又は撓り制止棒)11は、各連通孔9又はスリット10を開口した後に切削・研磨することとする。
【0044】
そして、それぞれの連通孔9又はスリット10によって連通する流出口6と流入口8との開口位置(流出口6と流入口8それぞれの中心点)の変形例として、図6に示すように、流出口6における中心点の位置を、流入口8における中心点の位置に対して、プロペラ1bの回転(図6において、図面左側より右方向に回転)方向遅れ側に設け、流入口8における中心点の位置を、流出口6における中心点の位置に対して、プロペラ1bの回転方向進み側に設けてもよい。
【0045】
ただし、この実施形態において、それぞれの連通孔9を略斜円錐台筒形状か又はスリット10を略斜オーバル錐台筒形状としたときに、前記略斜円錐台筒形状や略斜オーバル錐台筒形状におけるプロペラ1bの回転翼における進み側の母線が、最大でもプロペラ1bの回転軸中心線B―Bと平行線上に位置する場合は、2方向抜き金型によってプロペラ1bを成形することができるが、図6に示すように、流出口6と前記流出口6側の母線との交点Eが、流入口8と前記流入口8側の母線との交点Fに対して、プロペラ1bの遅れ側位置となったときには、金型から成形品を取り出す際にアンダーカット(金型から成形品を取り出す際に、そのままの状態で離型できない形状)となり、2方向抜き金型のダイカスト法による製造方法では成形できず、例えば、ロストワックス鋳造法や発泡スチール鋳造法など、他の鋳造法によって製造することになる。
【0046】
上記構成により、プロペラ1bの回転によって圧力の高まった各回転翼における前進面7側の高い水圧域の水は、プロペラ1bの回転方向進み側の位置に設けたそれぞれの流入口8から、各回転翼の進行方向と逆方向に沿って設けた連通孔9又はスリット10の内部に流入し易く、さらに、連通孔9又はスリット10の内部に流入した後、プロペラ1bにおける各回転翼の後進面4に、特に高速回転時に発生し易い多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…に設けた各流出口6からの流出時に、後進面4の表面を流れる水流により下流側表面に流されながら低い水圧域の水に拡散して混合され、後進面4側を飽和蒸気圧以下に低下させない水圧まで高めて、多様なキャビテーションの発生を阻止することができる。
【0047】
さらに、他の変形例として、それぞれの連通孔9又はスリット10によって連通する流出口6と流入口8とを開口する位置において、図6の変形例とは逆に、図7に示すように、流出口6における中心点の位置を、流入口8における中心点の位置に対して、プロペラ1cの回転(図7において、図面左側より右方向に回転)方向進み側の位置に設け、流入口8における中心点の位置を、流出口6における中心点の位置に対して、プロペラ1cの回転方向遅れ側の位置に設けてもよい。
【0048】
上記実施形態では、流出口6における中心点の位置を、流入口8における中心点の位置に対してプロペラ1cの回転方向進み側の位置に設けることにより、連通孔9又はスリット10に流入し辛いが、各回転翼の後進面4に発生した低水圧域の水流に逆らうように後進面4の表面に沿って混合することによって、後進面4側を飽和蒸気圧以下に低下させない水圧まで高め、キャビテーションの発生を阻止することができる。
【0049】
さらに、他の変形例として、それぞれの連通孔9又はスリット10によってそれぞれ連通する各流出口6と各流入口8とを開口する位置(流出口6と流入口8それぞれの中心点)において、図8に示すように、流出口6における中心点Mを、流入口8における中心点Nに対してプロペラ1dの回転軸中心から遠い位置に設け、また、流入口8における中心点Nの位置を、流出口6における中心点の位置に対してプロペラ1dの回転軸中心に寄った位置に設けてもよく、プロペラ1dの回転により圧力の高まった前進面7の高水圧域の水を、前進面7側に設けた各流入口8から、それぞれの連通孔9又はスリット10の内部に押し込むと同時に、プロペラ1dの回転によって生じた遠心力が加わり、プロペラ1dの回転軸中心線B―Bより遠い位置に設けた各流出口6に向けて勢いよく流動し、プロペラ1dの後進面4における、特に、高速回転時に発生した多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…に設けた各流出口6から流出させることにより、上述した実施形態と同様に、キャビテーションの発生を阻止することができる。なお、図8に示す流出口6及び流入口8においては誇張して描いている。
【0050】
そして、各回転翼3a、3b、3cに厚みを有す大型船舶用プロペラ1eの場合には、変形例として、プロペラ1eの回転軸中心線B-Bから半径方向に向かって伸びる第1平面(図9の平面)と、前記回転軸中心線B-Bと平行する平行線を交線として前記第1平面と直交する第2の平面上でかつ前記交線を長手方向の平均的な中心線とするそれぞれの連通孔9又はスリット10の形状を、図9に示すように、くの字型に形成し、前記くの字型状の屈曲部をプロペラ1eの回転方向(図9に示す矢印方向)遅れ側(図9の左側)に向けて位置させて開口させてもよく、前進面7の高水圧域の水は、前進面7に開口する各流入口8からそれぞれの連通孔9又はスリット10の前半部分に流入しやすく、さらに、それぞれの連通孔9又はスリット10の後半部分の端部に開口する各流出口6からの流出時において、各回転翼の後進面4に発生した低水圧域の水流に逆らうように後進面4表面に沿って混合することにより、後進面4表面に発生した低い水圧域に混合し易くなる。
【0051】
上記実施形態では、プロペラ1eの回転軸中心線B-Bから半径方向に向かって伸びる第1平面と、前記回転軸中心線B-Bと平行する平行線を交線として前記第1平面と直交する第2の平面上で、かつ前記交線をそれぞれの連通孔9又はスリット10の平均的な中心線と設定しているが、限定はされず、プロペラ1eの回転域における各回転翼3a、3b、3cの前進面7を流れる水流の方向と、後進面4を流れる水流の方向とを考慮した上で、最適な各流出口6と各流入口8との開口位置を決定し、開口位置を決定した後、各流出口6と各流入口8とを連通するそれぞれ各連通孔9は各スリット10の平均的な中心線の最適化を図って決定することが望ましい。
【0052】
よって、例えば、それぞれの連通孔9又はスリット10によって流入口8と連通する流出口6の開口位置を、プロペラ1eの回転軸中心線から遠い位置に開口し、また、それぞれの連通孔9又はスリット10によって流出口6と連通する流入口8の開口位置を、プロペラ1eの回転軸中心線に近い位置に開口した場合には、プロペラ1eの回転軸中心線と平行する平行線を含まず、第1平面と、前記第1平面と直交する第2平面との交線(連通孔9又はスリット10の平均的な中心線)の延長線は、船尾後方でプロペラ1eの回転軸中心線B-Bと交差することになる。
【0053】
また、他の変形例として、それぞれの連通孔9又はスリット10が、二次関数放物線を成す形状を有す実施形態も考えられ、それぞれの連通孔9又はスリット10がくの字型を形成する上述した実施形態や二次関数放物線を成す実施形態では、2方向抜き金型のダイカスト法による製造方法ではなく、それぞれの連通孔9又はスリット10がくの字型状に形成したそれぞれの連通孔9又はスリット10や二次関数放物線を成す連通孔9又はスリット10を模した中子をあらかじめ用意しておき、くの字型状に成形した中子の屈曲部や二次関数放物線を成す中子の頂点が、プロペラ1の回転方向遅れ側に向くように鋳型内に各中子を配置した鋳造法によって製造することになる。そして、中心線をくの字型状に形成するそれぞれ各連通孔9又各スリット10や、二次関数放物線を成すそれぞれ各連通孔9又各スリット10においても、各流出口6側を各流入口8に対して拡径又は拡開しておくと、後進面4に設けた各流出口6まで減圧し続け、流出時に水が拡散して低水圧域の水に混合されることになる。
【0054】
そして、上述した各実施形態や、後述する実施形態などを組み合わせた他の実施形態も十分に考えられ、例えば、上述した図6示す流出口6における中心点の位置を、流入口8における中心点の位置に対して、プロペラ1bの回転方向遅れ側に設け、流入口8における中心点の位置を、流出口6における中心点の位置に対して、プロペラ1bの回転方向の進み側に設けるとともに、図8に示すように、流出口6における中心点の位置Mを、流入口8における中心点の位置Nよりプロペラ1dの回転軸中心から遠い位置に設け、また、流入口8における中心点の位置Nを、流出口6における中心点の位置Mよりプロペラ1dの回転軸中心に寄った位置に設けてもよい。さらに、多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…それぞれに採用する流出口6と流入口8との面積や開口位置、また、連通孔9又はスリット10の中心線方向など、最適化を図って採用するとよい。
【0055】
上述した各実施形態では、各回転翼3a、3b、3cの後進面4において、特に、高速回転時に発生し易い多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…すべてに発生した場合を例に説明しているが、多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…の内、例えば、あるプロペラにおいては、高速回転時に特に翼端渦キャビテーションが発生し易い場合に、その翼端渦キャビテーションが発生し易いを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5dに特定して対処してもよく、さらに、他のキャビテーションにおいても特定したキャビテーションに対処してもよい。
【0056】
(第2の実施の形態)
次いで、客船や貨物船、コンテナ船など大型船舶に用いるプロペラのように、小型船舶用プロペラに対して、相対的に大径で各回転翼に厚みを有すプロペラ1fの場合においては、図10に示すように、各回転翼3a、3b、3c(図10では回転翼3aを例に示す)における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に半径方向に向けて通水路20を形作って設け、前記通水路20に連通して水を供給するための各取水口21を、各回転翼3a、3b、3cを支持するボス部2の前方外周囲面22の三分の一の範囲内に開口して設け、そして、各回転翼の後進面に特にプロペラ1fの高速回転時に発生しやすい多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれに、単数又は複数の流出口6(図示せず)を開口して設けるとともに、各取水口21と連通し各回転翼3a、3b、3c内部に設けた通水路20と、それぞれの前記流出口6とを、各連通孔9又はスリット10(図示せず)によって連通させて構成された実施形態も考えられる。
【0057】
また、上述した実施形態では、特に高速回転時に後進面4に発生し易い多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な各想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…それぞれに単数又は複数の流出口6を設け、さらに、前記流出口6と前記通水路20とをそれぞれの連通孔9又はスリット10によって連通させて、多様なキャビテーションの発生を阻止するが、多様なキャビテーションの内、例えば、プロペラ1fの翼端部が薄く通水路20を形作れない場合に、翼端渦キャビテーションに限って、翼端渦キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5dに、前記後進面4に単数又は複数の流出口6(図示せず)を設け、また、各回転翼3a、3b、3cの前進面7に単数又は複数の流入口8を設け、前記各流出口6と各流入口8とをそれぞれの連通孔9又はスリット10(図示せず)によって連通させて、翼端渦キャビテーションの発生を阻止する実施形態も考えられる。
【0058】
そして、図10に示す、ボス部2の前方外周囲面22に取水口21を設ける場合には、ボス部2の外径寸法を、プロペラ1fの回転軸受け部の後方端部(又は回転軸カバーの後方端部)における外径寸法に対して大きく設定し、プロペラ1fの回転軸の軸受け部や回転軸カバーなどの外径からはみ出たボス部2の前方外周囲面22に取水口21を設け、さらに、対向する水を取り込みやすくするために、ボス部2の前方外周囲面22に設けた前記取水口21には、プロペラ1fの周方向に、各回転翼3a、3b、3cのピッチ角と同方向にピッチ角を付けた案内翼24を複数枚備えておくとよい。また、浮遊物などを避けるガードリング(図示せず)を取水口21の周方向に一体化して設けてもよい。
【0059】
さらに、変形例として、図11に示すように、プロペラ1fの回転軸の軸受け部23を、ある位置から後方に行くに従いボス部2の前方外周囲面22に対して、可能な限り徐々に絞り込んで小径化を図った形状に成形し、前記軸受け部23の後方端部25の外径寸法より大径のボス部2の前方外周囲面22に、対向する水を取り込むための取水口21を設けてもよい。この実施形態では、取水口21を設けたボス部2の前方外周囲面22の径を大きくすることなく取水口21を設けることができ、対向する水からの抵抗を軽減することができるとともに各回転翼を効果的に使用することができる。
【0060】
そして、取水口21から取り込んだ水は、前記取水口21と連通する通水路20と、前記通水路20と連通する連通孔9又はスリット10を経て、後進面4に開口したそれぞれの各流出口6から流出し、後進面4の表面を流れる水流により下流側に流されながら低い水圧域の水に混合され、後進面4側を飽和蒸気圧以下に低下させない水圧まで高めて多様なキャビテーションの発生を阻止することができる。
【0061】
また、他の変形例として、各回転翼の前進面7側に水を取り込むための取水口21を設けた実施形態も考えられ、例えば、図12に示すように、低抵抗のNACA式取水口26を採用した場合には、各回転翼における前進面7の表面を流れる水流の上流方向に前記NACA式取水口26における先端入口部26aを向けて設け、さらに、NACA式取水口26と連通する通水路20を、各回転翼3a、3b、3cにおける最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に放射方向に形作って設けておくと、抵抗を最小限に保ちつつ航行中に各回転翼3a、3b、3cの前進面7に発生した高い水圧域から水を取り込むことができる。
【0062】
NACA式取水口26を設ける位置においては、特にプロペラ1gの高速回転時に、シートキャビテーションやバブルキャビテーション、また、クラウドキャビテーションや、さらに、翼端渦キャビテーションなどそれぞれに近い位置に設けておくと、各回転翼3a、3b、3cにおける最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に放射方向に形作って設ける通水路20の全長を短くすることができ、プロペラ1gの強度低下を防ぐことができる。また、通水路20を専用とせずに、例えば、シートキャビテーションとバブルキャビテーションとで共有してもよい。さらに、プロペラ1g内部側に設けたNACA式取水口26に替えて、抵抗は増加するが外側に張り出したスクープ形状の取水口(図示せず)でもよい。
【0063】
プロペラ1gにおける各回転翼の前進面7側に水を取り込むための取水口21を設ける実施形態においては、船外機のように、エンジン本体の排気口から排出された排気ガスが、アッパーケース内の排気通路を通ってロアーケース内の排気空間に送りこまれ、ロアーケース内の排気空間からプロペラのボス部を通して水中に排出される場合に、ボス部の径のさらなる拡大を防ぐことができる。また、各回転翼における前縁に水を取り込むための取水口を設ける実施形態や、前縁の後進面側にNACA式取水口を設けてもよい。上述した実施形態において、客船や貨物船、コンテナ船などの大型船舶用のプロペラへの採用も十分に考えられる。
【0064】
さらに、他の変形例(図示せず)として、図10に示す実施形態と同様に、前記取水口21と連通する通水路20を、各回転翼3a、3b、3cにおける最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に半径方向に向けて1本形作って設け、そして、前縁28から後進面4に平たくシート状に広がるシートキャビテーションや、前記シートキャビテーション後方のバブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションや、翼端渦キャビテーションを阻止するために、前記通水路20と、プロペラの各回転翼後進面4において、特に高速回転時に発生し易いシートキャビテーション、バブルキャビテーション、クラウドキャビテーション、翼端渦キャビテーションなど、それぞれのキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に設けた複数の流出口6とをそれぞれ連通孔又はスリットによって連通させてもよい。
【0065】
また、上述した実施形態のように、各回転翼3a、3b、3cにおける最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に半径方向に向けて1本の通水路20を形作って設けたときに、各回転翼3a、3b、3cの後進面において、特に高速回転時に発生し易いシートキャビテーション、バブルキャビテーション、クラウドキャビテーション、翼端渦キャビテーションなど、多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な各想定範囲箇所それぞれに設けた複数の流出口6それぞれと連通する連通孔又はスリットと、前記通水路20とを連通させる場合と、図13に示すように、取水口21(取水口21内部の案内翼24は図示せず)と、前記取水口21と連通する主通水路27と、前記主通水路27から枝分かれした副通水路27aを複数本設け、各回転翼3a、3b、3cの後進面4において、特に高速回転時に発生し易いシートキャビテーション、バブルキャビテーション、クラウドキャビテーション、翼端渦キャビテーションなど、多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な各想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…それぞれに設けた複数の流出口6と連通する連通孔9又はスリット10と、最も近い前記各副通水路27aとを連通させてもよい。
【0066】
そして、図13に示す通水路を製造する場合においては、鋳造製法により製造すると容易に各回転翼内部に形作ることができ、そこで、取水口21と、前記取水口21と連通する主通水路27と、前記主通水路27から枝分かれした複数本の副通水路27aと、さらに、各回転翼3a、3b、3cの後進面4において、特に高速回転時に発生し易いシートキャビテーション、バブルキャビテーション、クラウドキャビテーション、翼端渦キャビテーションなど、多様なキャビテーションを効果的に阻止することが可能な各想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…それぞれに設けた複数の流出口6と連通する連通孔9又はスリット10と、最も近い前記各副通水路27aとを連通させた中子28を砂などによりあらかじめ形作って用意しておき、上述した鋳造製法によって、各回転翼の内部に通水路を形作ることができる。
【0067】
また、他の変形例として、プロペラの各回転翼3a、3b、3cにおける最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近内部の半径方向に、取水口21と連通する一本の通水路20を形作って設け、前縁28から後進面4に平たくシート状に広がるシートキャビテーションを阻止するために、前記通水路20と、プロペラ1の各回転翼後進面4において、特に高速回転時に発生し易いシートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5aに開口して設けた複数の流出口6とをそれぞれの連通孔9又はスリット10によって連通させ、さらに、シートキャビテーション後方のバブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションにおいては、シートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5aに設けた複数の流出口6から流出する水量を、バブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションの発生を阻止することが可能な水量とし、また、厚みが比較的に薄い翼端部においては、翼端部まで通水路20を延長して設けずに、各回転翼3a、3b、3cにおける後進面4に、特に高速回転時に発生し易い翼端渦キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5dに単数又は複数の流出口6を開口して設け、各回転翼の前進面7に単数又は複数の流入口8を開口して設け、各流出口6と各流入口8とをそれぞれの連通孔9又はスリット10によって連通させることにより、上述した実施形態と同様に、各種類のキャビテーションを阻止する実施形態も考えられる。さらに、シートキャビテーション後方のバブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションにおいても、バブルキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5bに複数の流出口6を開口して設け、シートキャビテーションとバブルキャビテーションに開口した複数の流出口6から流出する水によってクラウドキャビテーションの発生を阻止してもよい。
【0068】
なお、バブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションの発生を阻止することが可能な水量を確保するためには、後進面4におけるシートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5aに設けた複数の流出口6の直径の大径化を図るとともに、連通孔9又はスリット10によって連通する前進面7側に設けた流入口8においても直径の大径化を図ることにより、十分な流入水量を確保することができる。
【0069】
前記実施形態では、前進航行時にボス部2の前方外周囲22に受ける水圧や、また、プロペラの回転中に発生する遠心力によって取水口21から取り込んだ水を、各通水路20を半径方向に移動させ、最終的に、後進面4に設けた各流出口6から流出させることにより、上述した実施形態と同様に、シートキャビテーションの発生を阻止するとともに、後進面4において、特にプロペラの高速回転時に発生し易いシートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5aに設けた各流出口6からの流出水量を、バブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションの発生を阻止可能な水量としたことにより、バブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションの発生も同時に阻止することができ、さらに、翼端渦キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5dに単数又は複数開口して設けた流出口6と、各回転翼の前進面7に単数又は複数開口して設けた流入口8をそれぞれの連通孔9又はスリット10によって連通させることにより、上述した実施形態と同様に、多様なキャビテーションを阻止することもできる。
【0070】
また、上記実施形態において、特に高速回転時に発生し易い翼端渦シートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5dの翼厚が通水路20を設けることが可能な厚さを有していれば、通水路20を翼端部付近まで延長して、各回転翼の後進面4に単数又は複数の流出口6を設け、通水路20と流出口6とをそれぞれの連通孔9又はスリット10によって連通させて、翼端渦キャビテーションを阻止してもよい。
【0071】
そしてさらに、取水口21と連通する通水路20を、各回転翼における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に半径方向に向けてそれぞれ複数本形作って設ける他の変形例も考えられ、通水路20を複数本形作って設けることにより、一本当たりの通水量も少量となって、通水路20の小径化を図ることができ、比較的に各回転翼における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近に厚みが薄いプロペラにおいても通水路20を形作って設けることができる。
【0072】
変形例として、図14示すように、プロペラ1hが三枚翼(図14では一枚の回転翼を示す)で構成されている場合において、ボス部2の前方外周囲面22の三分の一の範囲内に一枚の回転翼専用の各取水口21を設け、そして前記各取水口21と連通する前方通水路20a、中通水路20b、後方通水路20cを回転翼における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に半径方向に向けてそれぞれ形作って設け、そして、前記前方通水路20aと、各回転翼3a、3b、3cの後進面4において、プロペラ1の高速回転時に発生し易いシートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5aに設けた複数の流出口6(図示せず)とを連通孔9又はスリット10(図示せず)によって連通し、また、前記中通水路20bと、各回転翼3a、3b、3cの後進面4における、プロペラ1の高速回転時に発生し易いバブルキャビテーション及び翼端渦キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5b、5dに設けた複数の流出口6(図示せず)とを連通孔9又はスリット10(図示せず)によって連通し、また、前記後方通水路20cと、各回転翼3a、3b、3cの後進面4において、プロペラ1の高速回転時に発生し易いクラウドキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5cに設けた複数の流出口6(図示せず)とを連通孔9又はスリット10(図示せず)によって連通して構成してもよい。
【0073】
また、前記取水口21と連通する通水路を前方通水路20aと後方通水路20cと二本の通水路を設け、前方通水路20aと、シートキャビテーション及び翼端渦キャビテーションとを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5a、5dに設けた複数の流出口6を連通孔9又はスリット10によって連通し、また、後方通水路20cと、バブルキャビテーション及びクラウドキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5b、5cに設けた複数の流出口6とを連通孔9又はスリット10によって連通してもよい。そして、翼端渦キャビテーションにおいては、前方通水路20aと連通させずに、後進面4において、翼端渦キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所5dに単数又は複数開口して設けた流出口6と、各回転翼の前進面7に単数又は複数開口して設けた流入口8とをそれぞれの連通孔9又はスリット10によって連通させて、翼端渦キャビテーションを阻止することもできる。
【0074】
上述した各実施形態では、ボス部2の前方外周囲面22や、各回転翼3a、3b、3cにおける前進面7側などに設けたそれぞれの取水口21は、前進航行時に受ける水圧やプロペラの回転中に発生する遠心力により、前記取水口21から取り込んだ水が、各通水路20a、20b、20cの半径方向に向かって移動し、最終的に、後進面4に設けたそれぞれの各流出口6から流出することにより、上述した実施形態と同様に多様なキャビテーションの発生を阻止することができる。
【0075】
そして、多くの大型船舶に用いるプロペラにおいては、鋳型方法によって製造されるために、各回転翼における最大羽根厚部又は最大羽根厚部付近の内部に半径方向に向けて形作る通水路及び前記通水路に連通する複数の連通孔又はスリットにおいては、通水路及び前記通水路に連通する複数の連通孔又はスリットを模した中子を砂などによりあらかじめ製造して用意しておき、例えば、上述した、廻し型(挽型)と呼ばれる鋳型製作法によって造型される鋳型を製造し、用意した中子を製造した鋳型の内、プロペラの後進面となる上型の所定の位置に据え付け、中子を据え付けた上型と下型を再度組み合わせ、熱で溶かした金属材料を型に流し入れた後に、中子を砂で固めて作った場合には、その砂を取り除いた後に、各回転翼内部の放射方向に、通水路及び前記通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットが形作られることになる。
【0076】
また、プロペラの後進面となる鋳型を構成する上型の所定の位置に前記中子を据え付けるとき、通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットの先端部(流出口となる部分)が差し込まれる穴を、あらかじめ後進面となる上型の所定の位置に前記先端部分の径より大きめに開けておき、そして、それぞれの連通孔又はスリットの先端部分を先端部が差し込まれる穴に差し込んだ後に、先端部周囲を、例えば、砂やパテなどで囲むように埋没させておくとよい。また、先端部周囲を砂やパテなどで囲んで埋没させるときには、後進面の面より僅かに凹んだ状態に仕上げておくと、熱で溶かした金属材料を鋳型に流し込んで、その後に、鋳型を壊してプロペラを取り出したときに、プロペラ後進面の鋳型表面が僅かに膨らんだ状態に仕上がるが、その後の表面加工を施すことにより先端部(流出口となる部分)周囲が後進面の面と同一面に成形され、さらに、後進面のそれぞれの連通孔又はスリットにおける先端部分においてもドリルなどによる整形加工を施すことにより、より精密に流出口を仕上げることができる。
【0077】
さらに、他の変形例として、プロペラの金属材料と同様な、例えば、銅系の金属製で径の異なるパイプを組み合わせて、例えば、図13に示すような、溶接(アーク溶接、ガス溶接、レーザー溶接など)によって、あらかじめ通水路及び前記通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットを立体的に製造して用意しておき、立体的に製造して用意した前記通水路及び前記通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットを、上述した廻し型(挽型)と呼ばれる鋳型製作法で製造した鋳型の内、プロペラの後進面となる上型の所定の位置に据え付け、熱で溶かした金属材料を型に流し入れて、通水路及び前記通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットを備えたプロペラを製造する方法も考えられる。
【0078】
また、前記通水路及び前記通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットを、上型の所定の位置に据え付けるときには、熱で溶かした金属材料を型に流し入れたときに、それぞれの連通孔又はスリットの先端部(流出口となる部分)から内部に金属材料が流れ込んで埋没しないように、先端部分周囲を、例えば、砂やパテなどで囲んで埋没させておくとよい。また、鋳型を壊して取り出した後に、鋳型内部側に入り込ませた先端部分を後進面と同一面となるように研磨加工を施して同一面に整形し、後進面のそれぞれの連通孔又はスリットにおける先端部分においてもドリルなどによって成形加工を施すことにより、より精密に流出口を仕上げることができる。
【0079】
上述したように、通水路及び前記通水路と連通するそれぞれの連通孔又はスリットを模した中子を、あらかじめ、用意しておくか、又は、例えば、銅系の金属製で径の異なるパイプを組み合わせて、通水路及び前記通水路と連通するそれぞれの連通孔又はスリットを直線形状や曲線形状に加工した各パーツ部分を立体的に組み付け、あらかじめ用意しておくことにより、後進面において、特に高速回転時に各種類のキャビテーションが発生し易い各想定範囲箇所5a、5b、5c、5d、…の所定の位置に設ける複数の流出口の開口位置を適切な位置に設けることができるとともに、水を目的方向に向けて流出させることができる。よって、あらかじめ用意した通水路に連通するそれぞれの連通孔又はスリットにおける長手方向の中心線においては、全てが異なる場合もあり得る。
【0080】
(第3の実施の形態)
次ぎに、特に高速回転時において各回転翼3a、3b、3cの前縁28から後進面4に掛けてシートキャビテーションが発生し易いプロペラに対処するために、各回転翼3a、3b、3cにおける前縁28の複数箇所に、図15に示すように、中央先端部30が前進面7側から前縁28を切り込み、後端部31が後進面4側へ掛けて切り込まれて形成するU字形状やV字形状などの切り欠き部32を設けた実施形態が考えられる(図15に示す切り欠き部はV字形状に成形されている)。
【0081】
前記U字形状やV字形状などの切り欠き部32における中央先端部30と後端部31を結ぶ長手方向の中心線においては、プロペラの周方向と同方向又は後進面4を流れる水流方向に向けて設けるとよい。そして、前縁28の複数箇所に設ける前記各切り欠き部32の間隔や大きさなどは、プロペラのサイズやプロペラの用途など、各諸条件を鑑みて決定することとする。
【0082】
上記構成によって、各回転翼3a、3b、3cの前縁部28に複数箇所切り欠き部32を設けることにより、前記切り欠き部32両脇の前縁部28が、対向する水を各回転翼3a、3b、3cの前縁部28で後進面4側と前進面7側とに二分割するのに対して、前記切り欠き部32においては、対向する水を、切り欠き部32の中央先端部30でほぼ後進面4側方向に誘導して流すことにより、各回転翼3a、3b、3cにおける後進面4の低い水圧域に高い水圧域が徐々に加わって混合し、後進面4において、特にプロペラの高速回転時に発生し易いシートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所の低い水圧域を、シートキャビテーションが発生し難い水圧まで高めておくことにより、シートキャビテーションの発生を阻止することができる。U字形状やV字形状などの切り欠き部32と上述した各実施形態と組み合わせてもよい。
【0083】
上述したように、本発明のプロペラを採用することにより、多様なキャビテーションの発生を阻止することができ、結果的に、プロペラの設計自由度を高めることにより、船速の向上を図れ、また、目的地までの航行時間の短縮と燃費の低減を図ることができる。
【0084】
そして、従来のプロペラにおいては、キャビテーションで発生した気泡がプロペラ表面近くで崩壊した場合に、プロペラの表面を腐食させ、騒音・振動が発生することもあり、最悪の場合においては、船舶をドックに上架させて修理又はプロペラの交換を行う必要が生じ、その間、特に大型の船舶においては、船舶の運航を中止せざるを得ず、商船の場合は、収益に結びつかない等の欠点があったが、それらの欠点を解消することができる。
【0085】
さらに、本発明のプロペラは略単体で機能するために、新造船はもとより、すでに就航中の船舶においても、使用中のプロペラを本発明のプロペラに交換することにより、上述した効果と同様な効果を得ることができる。
【0086】
そして、上述した本発明の船舶用プロペラの構成を発動機(ジェットエンジンを利用してプロペラを回転させる飛行機を含む)から動力を伝達されたプロペラにより推進力を得るプロペラ飛行機(以下、プロペラ機)の各回転翼に採用することも十分に考えられ、船舶用プロペラの場合は、回転翼が水をかくことによってプロペラの回転中心軸方向に揚力を作り推進する力を得るが、プロペラ機の場合は、プロペラの各回転翼が空気をかくことによってプロペラの回転中心軸方向に揚力を作り推進する力を得ている。よって、船舶用プロペラの場合と同様に、プロペラの高速回転中に各回転翼の後進面に各種類のキャビテーションが発生する可能性がある。
【0087】
そこで、船舶用プロペラの場合と同様に、回転中心軸を有するボス部の外周から半径方向に延びる所要数の回転翼を備えるプロペラ機において、各回転翼の後進面にプロペラの高速回転時に発生しやすい各種類のキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所それぞれに単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、単数又は複数の前記流出口とそれぞれの連通孔又はスリットによって連通する流入口を各プロペラの前進面にそれぞれ開口して設けることにより、結果的に、キャビテーション初生直前のキャビテーションが発生し難い空気圧まで高めることにより、多様なキャビテーションの発生を阻止することができるとともに、プロペラを効率の良い回転域で回転し続けることも可能となり高い推進力を確保することができる。さらに、多様なキャビテーションの発生を阻止するために実施された従来の対処方法を見直すことも可能となり、さらなる効率の良いプロペラを効率の良い回転域で回転させることもできる。なお、詳細においては、上述した各実施形態や後述する各実施形態を参照することとする。
【0088】
また、固定翼(主に主翼)によって揚力を得る飛行機に本発明の船舶用プロペラの構成を採用することも十分に考えられ、飛行機の場合においては、飛行機が飛行中に固定翼の下面と上面に生ずる気流の圧力差、つまり上面の圧力が低くなる為に上に持ち上げようとする下面の圧力が翼端付近に近づくと、その圧力差を埋めようと翼の横から気流が上面側への流れ込みが起こって渦となり、これが翼端渦で、この翼端渦は飛行機の後方へ流れ去ると後方に乱気流を発生させる。離陸時においての後方乱気流は、後続の航空機に影響を及ぼすために、航空機の離陸間隔が規制されているが、主翼の翼端部にウイングレットを一体化して翼端渦の発生を防いでいる。しかし、ウイングレットを設けることによって機体は重くなり、燃費の悪化にもつながる。そこで、飛行中の固定翼上面の翼端部において発生しやすい翼端渦を効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に、単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、前記流出口と固定翼を貫通する連通孔又はスリットによって連通する流入口を固定翼下面にそれぞれ開口して設けることにより翼端渦の発生が低下して、後方への乱気流が減じ、離陸時において後続の航空機への影響が軽減されるために、航空機の離陸間隔を短くすることができ、航空機の離着時の効率化や燃費の向上などを図れることになる。
【0089】
また、流出口と固定翼を貫通する連通孔又はスリットによって連通する流入口の開口位置においては、固定翼下面に設けてもよいが、固定翼下面に設けると確実に揚力が低下することになる。そこで、例えば、エンジンやモーターなどの回転力を利用してエアーポンプやエアーコンプレッサーを回転させ、そこから吐出した空気を連通孔を経由して固定翼上面に開口した流出口へ供給し、その流出口から噴出させることによって、固定翼上面の翼端部に生じる翼端渦の低減を図る方法も考えられ、さらに、胴体表面にNACA式取水口を開口させて飛行中の空気流を取り込み、取り込んだ空気を連通孔を経由して固定翼上面に開口した流出口へ供給してもよい。
【0090】
さらに、例えば、回転翼航空機であるヘリコプターにおいて、水平飛行や上昇飛行に対して、特にヘリコプター着陸時などの下降飛行時に、機体全体が下方に動いているときには、ローターも下方に動き、時としてブレード(回転翼)の上面から放出された翼端渦に後方のブレードが出くわし、ブレードと翼端渦がブレードのある部分で衝突をするとブレードの上では瞬時に揚力の変化が起こり、空間のある部分において圧力変化が発生した時の変動が人間の耳には衝撃騒音となって到達する。
【0091】
よって、ブレードの上面から放出される翼端渦を減らすことにより、騒音の低減化を図ることができることになる。そこで、上述した実施形態のように、各ブレード上面(上述した実施形態におけるプロペラの後進面)の翼端部において、ブレード回転時に発生しやすい翼端渦を効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に、単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、前記流出口とブレードを貫通する連通孔又はスリットによっ13て連通する流入口をブレード下面(上述した実施形態におけるプロペラの前進面)にそれぞれ開口して設けることにより上述した実施形態と同様な効果を得ることができ、結果的に、翼端渦の発生を低下させて衝撃騒音の低減化を図ることができる。
【0092】
また、従来のヘリコプターにおけるブレード(飛行機においては固定翼)には、翼端渦の発生を抑制する目的で、ブレードの取り付け角(迎角)が付け根から翼端方向に行くにしたがって浅くなり、翼端前縁を下げたねじり下げが施されているが、ブレードの翼端部はブレードのなかでも最も揚力の発生が大きく、したがって、翼端部にねじり下げを施すことにより揚力は減少する。そこで、各ブレード上面の翼端部において、ブレード回転時に発生しやすい翼端渦を効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に、単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、前記流出口とブレードを貫通する連通孔又はスリットによって連通する流入口をブレード下面にそれぞれ開口して設けることにより、翼端渦の発生が低下することにより、ねじり下げを浅くすることが可能となって、翼端部の揚力を確保することができるとともに燃費の向上も図ることができる。
【0093】
さらに、流出口とブレードを貫通する連通孔又はスリットによって連通する流入口の開口位置においては、ブレード下面に設けてもよいが、ブレード翼端部はブレードのなかでも最も揚力の発生が大きく、したがって、ブレード翼端部の揚力を確保するために、ブレード翼端部の下面には開口せずに、なるべくローターの回転軸中心に近いブレード下面に開口するとよい。そして、流出口と流入口とを連通する連通孔においては、ブレード内部の放射方向に設けることにより連通孔の内部を流れる空気流にローターの回転によって生じる遠心力が加わり、流出口に向かって加速されて流出口より噴出し、ブレード上面の翼端部に生じる翼端渦の低減を図ることができる。また、特に前記連通孔を設けずに、連通孔に替えてブレード内側の空間部を空気の通路としてもよい。
【0094】
さらに、本発明の船舶用プロペラの構成を風力発電機(風力発電装置)へ採用することも十分に考えられ、例えば、揚力型の風力発電機の場合においては、風力発電機を構成しローターに一体化された複数枚のブレードの翼端部においても翼端渦が発生し、この翼端渦は騒音発生の原因の一つとして考えられ、そこで、ローターの半径方向に取付けられた複数枚のブレードにおいて、ローター回転中のブレード一方上面(揚力が発生する側の面で、以下、一方上面という)の翼端部に発生し易い翼端渦を効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に、単数又は複数の流出口を開口して設けるとともに、前記流出口とブレードを貫通する連通孔又はスリットによって連通される流入口をブレードの他方下面(上述したブレードの一方上面と反対側の面で、以下、他方下面という)にそれぞれ開口して設けることにより、騒音源の一つとなる翼端渦を減して、騒音の軽減を図ることができる。
【0095】
また、流出口とブレードを貫通する連通孔又はスリットによって連通する流入口の開口位置においては、ブレード翼端部の他方下面に設けてもよいが、ブレード翼端部の他方下面に設けると確実に揚力が低下することになる。そこで、揚力の低下を防ぐために、例えば、ローター回転軸中央のノーズコーン中央部に向かい風を受け入れるための流入口(空気の取入れ口の形状がトランペット(ラッパ先端)状)を開口して設け、前記流入口から流入した流入風を(流入口と後記連通孔以外と)密封されたノーズコーン内に入れ込み、さらに、密封された前記ノーズコーンとブレード内側の空間部間を前記連通孔などによって連通させておき、密封された前記ノーズコーン内に入れ込んだ流入風を、ブレード内部を連通路として、ブレードの一方上面の翼端部に発生し易い翼端渦を効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に開口して設けた流出口から流出することにより、ブレード翼端部の一方上面に生じる翼端渦の低減を図ることもできる。
【0096】
そして、前記ブレードは、主にFRP(繊維強化プラスチック)やGFPR(ガラス繊維強化プラスチック)などによって製造され、ブレード一方上面の外皮とブレード他方下面の外皮とを骨組みを構成する単数又は複数のスパー(桁)を挟んで合せ、ブレードの前縁、後縁、翼端部と、スパー(桁)に一体化した一方のフランジとブレード一方上面の外皮内面間、また、スパー(桁)に一体化した他方のフランジとブレード他方下面の外皮内面間など、それぞれの接着部で所定の接着材等を塗布して一体化されている。よって、空間部も存在することになる。
【0097】
このように、空間部を有すブレードに流出口と流入口を連通する連通孔又はスリットを設ける場合には、あらかじめ、図16に示す連通孔9又はスリット10を単体で製造しておくとともに、ブレード一方上面の外皮40とブレード他方下面の外皮41とを製造するときに、ブレード一方上面の外皮40における所定の位置においては、連通孔又はスリットの流出口端部を差し込むための段付き孔42(段付き孔における段付き位置を境に、ブレード一方上面の外皮面側が大径に、また、外皮の内面側が小径に形成されている)を開口しておき、また、ブレード他方下面41の外皮における所定の位置においては、連通孔又はスリットの流入口端部を差し込むための段付き孔43(FRPやGFPRなどで製造した後記スリーブ44を、流入口端部の段付き位置まで嵌め込むために、段付き孔42における段付き位置を境に、ブレード他方下面の外皮面側が大径に、また、外皮の内面側が小径に形成されている)を開口しておく。さらに、ブレード一方上面の外皮40とブレード方下面と外皮41とに開口する各段付き孔42,43は、ブレード一方上面の外皮40とブレード他方下面の外皮41とを合せて一体化したときに生じる寸法の誤差を吸収することができるように、多少大きめに開口しておくとよい。
【0098】
また、あらかじめ単体で製造しておく連通孔9又はスリット10においては、連通孔9又はスリット10を設ける位置によりブレードの厚みが異なり、よって、連通孔9又はスリット10の長さ(ブレード一方上面外皮とブレード他方下面外皮間)も異なる。図16に示す連通孔9又はスリット10では略円錐台筒形状の部分Lの長さを、ブレードの厚みが最も薄い位置に用いる連通孔におけ略円錐台筒形状の部分Lの長さに合せて統一化し、そして、連通孔略円筒形状部分Mの長さを、ブレードの厚みが最も厚い位置に用いる連通孔の長さよりも僅かにブレード他方下面側の段付き孔43から突出する長さとして統一化を図り、各連通孔9又はスリット10において、ブレード一方上面の段付き孔42やブレード他方下面側の段付き孔43から突出し略円筒形状部分を研削・研磨してブレードの厚みに合せることとする。また、各連通孔9又はスリット10における上端面を研削・研磨せずに、あらかじめ連通孔9又はスリット10製造時に、ブレード一方上面略同一面となるように製造してもよい。さらに、連通孔9又はスリット10においては、FRPやGFPRで製造しておくと、FRPやGFPRなどで製造したブレードと一体化しやすい。
【0099】
そして、ブレード一方上面の翼端部に発生する翼端渦は、均等に発生するのではなく、強い翼端渦が発生する場所と弱い翼端渦が発生する場所が存在するが、各連通孔における流出口の径と流入口の径をそれぞれ統一した場合は、強い翼端渦が発生する場所に設ける連通孔においては隣り合う連通孔の間隔を狭く(連通孔の密度を高く)、また、弱い翼端渦が発生する場所に設ける連通孔においては隣り合う連通孔の間隔を広く(連通孔の密度を低く)するとよい。さらに、強い翼端渦が発生する場所に設ける連通孔のおいては、弱い翼端渦が発生する場所に設ける連通孔に対して、連通孔における流出口の径及び流入口の径の大径化を図り、弱い翼端渦が発生する場所に設ける連通孔においては、強い翼端渦が発生する場所に設ける連通孔に対して、連通孔における流出口の径及び流入口の径の小径化を図ってもよい。
【0100】
さらに、図17に示す連通孔9a、9b、9cでは、連通孔の円錐台筒形状の部分の長さを統一せず、それぞれの流出口の口径が異なる円錐台筒形状の部分Ld、Le、Lfと、内径の異なる円筒形状の部分Md、Me、Mfとを合せ備えた連通孔9a、9b、9cで、ブレードの厚みによって全長の異なる連通孔を使い分けることになる。ただし、流出口の径と流入口の径とをそれぞれ統一した全長の異なる連通孔も考えられる。
【0101】
そして、ブレードの前縁、後縁、翼端部と、スパー(桁)に一体化した一方のフランジとブレード一方上面の外皮内面間、また、スパー(桁)に一体化した他方のフランジとブレード他方下面の外皮内面間など、それぞれの接着部で所定の接着材等を塗布して接続されて一体化してブレード本体を形成するが、内部には空間部も存在することになる。
【0102】
よって、前記ブレード本体に流出口と流入口を連通する連通孔又はスリットを設けるために、あらかじめ製造したブレード一方上面の外皮40側に開口した連通孔又はスリットの流出口端部を差し込むための段付き孔42と、ブレードの他方下面の外皮41側に開口した連通孔又はスリットの流入口端部を差し込むための段付き孔43とに所定の接着材等を塗布しておき、連通孔又はスリットの流入口端部側を、ブレードの一方上面側の段付き孔42に差込み、次いで、ブレード他方下面側の段付き孔43に差し込み、さらに、FRPやGFPRなどで製造したスリーブ44の内周面に所定の接着材等を塗布し、前記スリーブ44を、ブレード他方下面の外皮41に開口した段付き孔43から突出した連通孔又はスリットの流入口端部分側の円筒形状部分に差し込んで、段付き孔43の段付き位置まで嵌め込み、次いで、ブレード一方上面側の段付き孔42と連通孔又はスリットにおける流出口端部間及びブレード他方下面側の段付き孔43と連通孔又はスリットにおける流出口端部間それぞれを接着材等によって埋め込み、その後、塗布した接着材等が硬化した後に、ブレード一方上面の外皮40より突出した連通孔又はスリットにおける流出口端部側を、ブレード一方上面の外皮40表面と同一面になるまで研削・研磨し、また、流入口端部側においても、ブレード他方下面の外皮41より突出した連通孔又はスリットにおける流入口端部側の略円筒形状部分を、ブレード他方下面の外皮41表面と同一面になるまで研削・研磨することによって、内部に空間部が存在するブレード本体に流出口と流入口を連通する連通孔又はスリットを設けることができる。
【0103】
ただし、上述した製造方法や製造工程には限定されずに、例えば、FRPやGFPRなどによって、あらかじめ製造しておいた連通孔9又はスリット10とスパー(桁)と一体構成するフランジとを、ブレード一方上面の外皮40側か、又はブレード他方下面の外皮41側の内、いずれか一方の外皮側に、所定の接着材等によって一体化しておき、残ったいずれか他方の外皮とを合せて所定の接着材等によって連通孔又はスリットとスパー(桁)に一体化したフランジとを一体化して、ブレード本体に、上述したように、流出口と流入口を連通する連通孔又はスリットを設ける製造方法(図示せず)も考えられる。
【0104】
この方法では、例えば、ブレード一方上面の外皮40側に連通孔又はスリットの流出口端部を一体化した場合には、ブレード一方上面の外皮40側の所定の位置に開口した連通孔又はスリットの流出口端部を差し込むための段付き孔42に、前記流出口端部が所定の接着材等によってあらかじめ接続されて一体化されているために、連通孔又はスリットの流入口端部側を、残ったブレード他方下面の外皮41側に開口した段付き孔43に差し込むときに、ブレードのサイズが大きくなればなるほどに、連通孔又はスリットの流入口端部と前記段付き孔43の開口位置にズレが生じる確率が高まるが、ブレード他方下面の外皮41側に開口する段付き孔43の径を大径化することによって、連通孔又はスリットの流入口端部側の略円筒形状部分をブレード他方下面の外皮41側に開口した段付き孔43に差し込むことができる。また、この方法では、連通孔又はスリットの流入口端部側に差し込むスリーブ44の外形寸法においても、大径化を図った段付き孔43と連通孔又はスリットの流入口端部周囲との隙間を埋めるために大径化を図る必要がある。
【0105】
そして、回転翼航空機であるヘリコプターのローターブレードや飛行機の固定翼などにおいても連通孔又はスリットを設ける位置の内部に空間部が存在する場合には、連通孔又はスリットをあらかじめ上述した構造や製造方法等により連通孔又はスリットを製造しておき、ローターブレードや固定翼などに採用してもよい。さらに、連通孔又はスリットにおいては、ローターブレードや飛行機の固定翼などが金属製の場合は、金属素材で製造し、また、ローターブレードや飛行機の固定翼などがFRPやGFPR製などの場合は、FRPやGFPR素材で製造すると、両者を一体化しやすい。
【0106】
さらに、上述した船舶用プロペラの構成を、液体を移送・汲み上げ・攪拌するときに用いる各種類のポンプへの採用も十分に考えられ、例えば、船底から汲み上げた水を、主機(動力源)によって動作する高圧ポンプにより水(液体)を移送、後方のノズルから勢い良く吐出する事で推進力を得るウォータージェット、又はハイドロジェット推進における前記高圧ポンプのインペラーに採用することも可能であり、前記インペラーにおける負圧面(上述した実施形態におけるプロペラの後進面)において、インペラーが特に高速回転時に発生しやすいキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所に複数の流出口を開口して設け、複数の前記流出口が開口する負圧面と反対側のインペラー静圧面(上述した実施形態におけるプロペラの前進面)に複数の流入口を開口して設け、前記流出口と流入口とを、インペラーを貫通するそれぞれの連通孔又はスリットによってそれぞれ連通させることにより、上述した各プロペラと同様に、キャビテーションの発生を阻止する効果を得ることができる。
【0107】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変更例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明を適用することにより、取水口から取り込んだ水をプロペラの各回転翼における後進面に発生する非常に低い水圧域に常時供給することにより、飽和蒸気圧以下に達する直前のキャビテーションが発生し難い圧力域に高めて、キャビテーションの発生を阻止することができる。結果的に、プロペラの設計自由度を高めることが可能となり、例えば、回転翼のピッチやプロペラの回転数を高めることによって、船速の向上を図ることができる。本発明は、船舶用プロペラを始め、ヘリコプターにおけるローターブレード、風力発電装置におけるローターブレード、ポンプにおけるインペラーなどの分野に利用できるとともに、装置を構成する翼(又はブレードなど)の正圧面側と負圧面側の圧力差によって生じるキャビテーションを阻止する必要がある多様な装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h,1i,1j…船舶用プロペラ、2…ボス部、3a,3b,3c…回転翼、4…後進面、5a…シートキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所、5b…バブルキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所、5c…クラウドキャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所、5d…翼端部キャビテーションを効果的に阻止することが可能な想定範囲箇所、6…流出口、7…前進面、8…流入口、9,9a,9b,9c…連通孔、10…スリット、11…撓り撓り制止板(又は制止棒)、20…通水路、21…取水口、22…前方外周囲面、23…軸受け部、24…案内翼、25…軸受け部の後方端部、26…NACA式取水口、26a…NACA式取水口の先端入口部、27…主通水路、27a…副通水路、28…前縁、30…切り欠き部の中央先端部、31…切り欠き部の後端部、32…切り欠き部、40…ブレード一方上面の外皮、41…ブレード他方下面の外皮、42…ブレード一方上面の段付き孔、43…ブレード他方下面側の段付き孔、44…スリーブ。
図1
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