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特開2024-22701誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法
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  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図1
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図2
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図3
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図4
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図5
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図6
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図7
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図8
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図9
  • 特開-誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022701
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20240214BHJP
   H05B 6/02 20060101ALI20240214BHJP
   H05B 6/14 20060101ALI20240214BHJP
   H05B 6/24 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H05B6/10 331
H05B6/02 Z ZNM
H05B6/14
H05B6/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020215934
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】391043332
【氏名又は名称】公益財団法人福岡県産業・科学技術振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】波多江 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA02
3K059AA08
3K059AB13
3K059AB15
3K059AB28
3K059AC10
3K059AD03
3K059AD04
3K059CD47
3K059CD52
(57)【要約】
【課題】 本発明は、誘導コイルの周囲に磁場に影響を与える金属を配置する必要がある場合でも、良好な加熱効率を得られる誘導加熱装置等を提供することを目的とする。
【解決手段】 誘導加熱方式により対象物を加熱する誘導加熱装置であって、金属製の対象物と、前記対象物の周囲に設置されて前記対象物を加熱する誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備える、誘導加熱装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱方式により対象物を加熱する誘導加熱装置であって、
金属製の対象物と、
前記対象物の周囲に設置されて前記対象物を加熱する誘導コイルと、
前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備える、誘導加熱装置。
【請求項2】
前記磁場閉込部は、棒状又は板状である、請求項1記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記磁場閉込部は、前記対象物を固定するための複数の柱である、請求項2記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記磁場閉込部の主素材は、強磁性体である、請求項1から3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記主素材は、ステンレス又はフェライトである、請求項4記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記磁場閉込部の主素材は、反磁性体である、請求項1から3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記誘導コイルに交流電流を供給するインバータは、Si、SiC、IGBT、又はGaNを素材とするFETを有する、請求項1から6のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項8】
真空チャンバーを備え、誘導加熱方式によりるつぼを加熱する真空蒸着装置であって、
前記真空チャンバーの中に、
金属製の前記るつぼと、
前記るつぼの周囲に設置されて前記るつぼを加熱する誘導コイルと、
前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備える、真空蒸着装置。
【請求項9】
局所を加熱する局所加熱装置であって、
前記局所に向かって先端が尖ったプローブと、
プローブの前記先端以外の部分の周囲に設置されて前記プローブを加熱する誘導コイルと、
前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が強磁性体からなる磁場閉込部とを備える、局所加熱装置。
【請求項10】
前記磁場閉込部は、前記プローブを固定する複数の柱であり、
前記柱の延びた側であって前記プローブの前記先端の側に、先端が尖った副プローブをさらに備える、請求項9記載の局所加熱装置。
【請求項11】
前記副プローブの前記先端も、前記局所に向かっている、請求項10記載の局所加熱装置。
【請求項12】
局所を計測する局所計測装置であって、
前記局所に向かって先端が尖ったプローブと、
プローブの前記先端以外の部分の周囲に設置されて前記プローブを通る磁束を発生させる誘導コイルと、
前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が強磁性体からなる磁場閉込部と、
前記磁束の変化を計測する磁場センサとを備える、局所計測装置。
【請求項13】
誘導加熱方式により対象物を加熱する誘導加熱装置を用いた誘導加熱方法であって、
前記誘導加熱装置は、
金属製の対象物と、
前記対象物の周囲に設置されて前記対象物を加熱する誘導コイルと、
前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備え、
前記誘導コイルに交流電流を流して前記対象物を加熱する誘導加熱ステップを含む、誘導加熱方法。
【請求項14】
局所を計測する局所計測装置を用いた局所計測方法であって、
前記局所計測装置は、
前記局所に向かって先端が尖ったプローブと、
プローブの前記先端以外の部分の周囲に設置されて前記プローブを通る磁束を発生させる誘導コイルと、
前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が強磁性体からなる磁場閉込部と
前記磁束の変化を計測する磁場センサとを備え、
前記誘導コイルに交流電流を流して前記プローブを通る磁束を発生させる磁束発生ステップと、
前記磁場センサが、前記磁束の変化を計測する計測ステップとを含む、局所計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置、真空蒸着装置、局所加熱装置、局所計測装置、誘導加熱方法及び局所計測方法に関し、特に、誘導加熱方式により対象物を加熱する誘導加熱装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電子デバイスの大型化に伴い、大電流での真空蒸着の手法が必要とされている。本願の発明者らは、これまでに誘導加熱方式において、大電流を使用することに堪える真空蒸着装置を開発してきた(例えば、特許文献1-4参照)。
【0003】
図10は、従来の誘導加熱装置の誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。誘導加熱装置は、誘導コイル101と、るつぼ103、るつぼ保持部105を備える。図10(a)誘導コイル101の周囲に何もない場合は、磁束107に大きなひずみが生じることはなく、誘導コイル101内部のるつぼ103部分の磁束密度を大きくすることができ、加熱効率は良好である。このように、従来の誘導加熱装置では、良好な加熱効率を得るためには、被加熱物及び誘導コイル101の周囲に金属等の磁場に影響与えるものは配置せず、誘導コイル101に流す電流を大きくすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6709271号
【特許文献2】特許第6709272号
【特許文献3】特許第6709273号
【特許文献4】特許第6734904号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図10(b)誘導コイル101の周囲に例えばステンレス単管109等の金属を配置する場合、磁束107に大きなひずみが生じるため、誘導コイル101内部のるつぼ103部分の磁束密度が大きくなるとは限らない。また、ステンレス単管109をある程度のサイズに納めようとすれば、ステンレス単管109にも磁束107が入り、ステンレス単管109も加熱されてしまう。このように、さらに誘導加熱方式による真空蒸着装置の加熱効率を高める余地が残されていた。
【0006】
そこで、本発明は、誘導コイルの周囲に磁場に影響を与える金属を配置する必要がある場合でも、良好な加熱効率を得られる誘導加熱装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、誘導加熱方式により対象物を加熱する誘導加熱装置であって、金属製の対象物と、前記対象物の周囲に設置されて前記対象物を加熱する誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備える、誘導加熱装置である。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点の誘導加熱装置であって、前記磁場閉込部は、棒状又は板状である。
【0009】
本発明の第3の観点は、第2の観点の誘導加熱装置であって、前記磁場閉込部は、前記対象物を固定するための複数の柱である。
【0010】
本発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の誘導加熱装置であって、前記磁場閉込部の主素材は、強磁性体である。
【0011】
本発明の第5の観点は、第4の観点の誘導加熱装置であって、前記主素材は、ステンレス又はフェライトである。
【0012】
本発明の第6の観点は、第1から第3のいずれかの観点の誘導加熱装置であって、前記磁場閉込部の主素材は、反磁性体である。
【0013】
本発明の第7の観点は、第1から第6のいずれかの観点の誘導加熱装置であって、前記誘導コイルに交流電流を供給するインバータは、Si、SiC、IGBT、又はGaNを素材とするFETを有する。
【0014】
本発明の第8の観点は、真空チャンバーを備え、誘導加熱方式によりるつぼを加熱する真空蒸着装置であって、前記真空チャンバーの中に、金属製の前記るつぼと、前記るつぼの周囲に設置されて前記るつぼを加熱する誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備える、真空蒸着装置である。
【0015】
本発明の第9の観点は、局所を加熱する局所加熱装置であって、前記局所に向かって先端が尖ったプローブと、プローブの前記先端以外の部分の周囲に設置されて前記プローブを加熱する誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が強磁性体からなる磁場閉込部とを備える、局所加熱装置である。
【0016】
本発明の第10の観点は、第9の観点の局所加熱装置であって、前記磁場閉込部は、前記プローブを固定する複数の柱であり、前記柱の延びた側であって前記プローブの前記先端の側に、先端が尖った副プローブをさらに備える。
【0017】
本発明の第11の観点は、第10の観点の局所加熱装置であって、前記副プローブの前記先端も、前記局所に向かっている。
【0018】
本発明の第12の観点は、局所を計測する局所計測装置であって、前記局所に向かって先端が尖ったプローブと、プローブの前記先端以外の部分の周囲に設置されて前記プローブを通る磁束を発生させる誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が強磁性体からなる磁場閉込部と、前記磁束の変化を計測する磁場センサとを備える、局所計測装置である。
【0019】
本発明の第13の観点は、誘導加熱方式により対象物を加熱する誘導加熱装置を用いた誘導加熱方法であって、前記誘導加熱装置は、金属製の対象物と、前記対象物の周囲に設置されて前記対象物を加熱する誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が金属又は金属酸化物からなる磁場閉込部とを備え、前記誘導コイルに交流電流を流して前記対象物を加熱する誘導加熱ステップを含む、誘導加熱方法である。
【0020】
本発明の第14の観点は、局所を計測する局所計測装置を用いた局所計測方法であって、前記局所計測装置は、前記局所に向かって先端が尖ったプローブと、プローブの前記先端以外の部分の周囲に設置されて前記プローブを通る磁束を発生させる誘導コイルと、前記誘導コイルの外側に設置されて、少なくとも一部が強磁性体からなる磁場閉込部と前記磁束の変化を計測する磁場センサとを備え、前記誘導コイルに交流電流を流して前記プローブを通る磁束を発生させる磁束発生ステップと、前記磁場センサが、前記磁束の変化を計測する計測ステップとを含む、局所計測方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明者らは、従来の誘導加熱装置を用いて大電流を流すに際し、るつぼや蒸着材料が加熱されるだけではなく、真空チャンバー等の周囲の金属への無視できない程度のエネルギーロスが発生しうることに着目した。
【0022】
本発明の各観点によれば、誘導コイルが発生する磁束を磁場閉込部でトラップして磁束密度の空間分布を制御し、磁束の漏れを抑制することが可能となる。これにより、意図しない部分の加熱を防ぐ等、エネルギーロスを抑制して効率のよい誘導加熱や磁束変化の計測が可能となる。
【0023】
本発明の第2及び第3の観点によれば、誘導コイル周りの磁場を確実に閉じ込める具体的な構造を実現することが容易となる。また、磁場の閉じ込めと発熱のバランスを考慮した構造とすることにより、磁場閉込部の加熱を最小限とし、エネルギーロスを抑制することがさらに容易となる。
【0024】
本発明の第4から第6のいずれかの観点によれば、誘導コイル周りの磁場を閉じ込めてエネルギーロスを抑制することがさらに容易となる。
【0025】
本発明の第7の観点によれば、本発明の誘導加熱装置において、高周波数1-2MHzを低いスイッチングロスで効率的に加熱することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例1に係る誘導加熱装置の中核をなす誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。
図2】誘導加熱装置における磁場閉込部の有無による磁束の違いを示すイメージ図である。
図3】磁場閉込部を備える誘導加熱装置での温度変化を示す図である。
図4】磁場閉込部を備えていない誘導加熱装置での温度変化を示す図である。
図5】本発明の実施例1と実施例2の誘導コイル周辺の構造の差異を示す図である。
図6】本発明の実施例2に係る誘導加熱装置の概要を示す図である。
図7】本発明の実施例3に係るボルトの焼き締めに用いる局所加熱装置の概要を示す図である。
図8】本発明の実施例4に係る局所計測装置の中核をなす誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。
図9】本発明の実施例5に係る磁場シールドを備える誘導加熱装置の概要を示す図である。
図10】従来の誘導加熱装置の誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の実施例を限定するものではない。
【実施例0028】
図1は、本発明の誘導加熱装置の中核をなす誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。誘導加熱装置1は、るつぼ3と、誘導コイル5と、支柱7(本願請求項の「磁場閉込部」の一例)と、支柱保持部9と、るつぼ保持部11とを備える。
【0029】
誘導コイル5は、コイル状の導線であり、交流電流が流れると磁場13を発生させる。支柱7は、棒状の強磁性金属であり、誘導コイル5の外側に複数設けられている。また、複数の支柱7は、同じく強磁性金属からなる支柱保持部9に接続されている。ここでは、強磁性を有するステンレスを用いた。
【0030】
るつぼ保持部11は、誘導コイル5の内部に、材料を収容するるつぼ3を保持する。また、るつぼ保持部11は、支柱7によって保持されている。
【0031】
図1に示すように、誘導コイル5の外側に強磁性体材料からなる支柱7を配置し、下部構造を山の字にすることにより、トランスのコアが磁束を閉じ込めるかのような疑似トランス構造を形成できる。これにより、疑似トランス部に磁束をトラップすることが可能となる。そのため、外部の影響を受けにくく、被加熱体に磁束を集中させることが可能となる。誘導コイルの外部に金属を配置した場合でも、磁束のひずみを生じさせにくくすることも可能となる。
【0032】
図2は、誘導加熱装置における磁場閉込部の有無による磁束の違いを示すイメージ図であり、(a)磁場閉込部としてのステンレスの支柱21を備える場合、(b)磁場閉込部としての支柱を備えない場合の一例を示す図である。図2(b)に示す構成は、支柱21がないこと以外は図2(a)に示す構成と同一である。なお、図示しないが、図2の誘導加熱装置は、筒状のステンレスからなる真空チャンバーの内に設けられている。真空チャンバーは、強度の要請から少なくとも一部が金属で構成されているものが多く、本実施例の真空チャンバーもその1つである。
【0033】
図2に示すように、磁場閉込部としての支柱21を誘導コイル23の外側に設置することにより、磁束25を閉じ込めて真空チャンバーなどに漏れることを抑制することが可能となる。
【0034】
図3は、磁場閉込部としての支柱21を備える誘導加熱装置を用いて加熱した際の温度変化を示す図である。最大25Wの電力で500℃まで昇温し、約1時間保持することが可能だった。
【0035】
図4は、図3との比較例として、磁場閉込部としての支柱を備えない誘導加熱装置を用いて加熱した際の(a)温度変化、(b)供給電力を示す図である。図4に示すように、約26Wの電力を供給している580秒付近で、温度が急に減少した。
【0036】
磁場閉込部としての支柱21を備える誘導加熱装置において、支柱を備えない誘導加熱装置に比べて、加熱効率を向上させ得ることが示された。本発明の誘導加熱装置によれば、磁束密度の空間分布を制御することにより、意図しない部分の加熱を防ぎ、加熱効率を向上させることが可能になる。
【0037】
なお、支柱を備えない誘導加熱装置を用いて誘導加熱を行った際、目視と触診により、蒸着源と真空チャンバーを接続するフランジの固定用ボルトが触れないほど高温に加熱されていたことが確認された。また、このボルトを外して、再度誘導加熱を行ったところ、今度は奥のボルトが加熱されることが確認された。図2に示す通り、支柱を備えない誘導加熱装置においては、支柱21を備える場合よりも、誘導コイル23からの磁束25の空間的な広がりが大きくなってしまうため、少なくとも磁場(磁束密度)がるつぼだけではなく、るつぼの周囲に配置された真空チャンバー等の金属にも入り、特に透磁率が高い上に凸構造となっているボルト部分に集中したと考えられる。このことから、本発明者らは、後述するプローブの先端を尖った構造とする技術的思想の着想を得た。
【実施例0038】
実施例2では、誘導コイル内部の対象物を直接的に誘導加熱する実施例1とは異なり、誘導コイル外部の対象物を間接的に加熱する局所加熱装置の一例を示す。
【0039】
図5は、比較しやすいよう、(a)実施例1の誘導コイル周辺の構成の概要と(b)実施例2の誘導コイル周辺の構成の概要とを並べて示す図である。上述の通り、図5(a)に示す実施例1においては、対象物31は誘導コイル33内部に設置されて、誘導加熱される。対象物31を含む疑似トランス構造が形成されて磁束35をトラップすることが可能になる。そのため、誘導コイル33の外部に金属を配置した場合でも、磁束35のひずみを生じさせにくくなる。この結果、外乱に強くなる。
【0040】
一方、図5(b)に示す実施例2においては、誘導コイル33及び支柱37の構成は同一であるものの、誘導コイル33の内部ではなく、磁束35が集中するトランス中央部に対象物41を配置して、形成されている疑似トランス構造を用いて間接的に誘導加熱を行う。
【0041】
なお、図示していないが、誘導コイルの中央に、対象物に向かって伸びるプローブを設けることにより、プローブの先端に磁束を集中させることができる。また、実施例2でも当然ながら、対象物41が強磁性であれば加熱効率が高くなる。
【0042】
図6は、本発明の局所加熱装置51の中核をなす誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。図6(a)は、μLEDや表面実装用電子パーツ固定プロセスに応用した図である。図6(b)は、癌細胞のナノ粒子加熱に応用した図である。
【0043】
局所加熱装置51は、誘導コイル53と、磁場閉込部55と、中央プローブ57(請求項記載の「プローブ」の一例)と、副プローブ59(請求項記載の「副プローブ」の一例)と、保持部61と、冷却管63とを備える。
【0044】
誘導コイル53は、中央プローブ57の先端以外の部分の周囲に設置されているコイル状の導線であり、交流電流が流れると磁場を発生させ、中央プローブ57を加熱する。
【0045】
磁場閉込部55は、棒状の強磁性金属であり、誘導コイル53の外側に複数設けられている。また、複数の磁場閉込部55は、中央プローブ57を固定する複数の柱でもある。複数の磁場閉込部55は、同じく強磁性金属からなる保持部61に接続されている。強磁性金属が好ましい。本実施例では強磁性金属としてステンレスを用いた。
【0046】
中央プローブ57は、局所に向かって先端が尖った棒状の強磁性金属であり、誘導コイル53の内部に1本設けられている。また、中央プローブ57は、磁場閉込部55及び副プローブ59と共に、保持部61によって保持されている。
【0047】
副プローブ59は、局所に向かって先端が尖った棒状の強磁性金属であり、磁場閉込部55の延びた側であって中央プローブ57の先端に2本設けられている。また、2本の副プローブ59は、保持部61によって保持されている。
【0048】
冷却管63は、誘導コイル53の内部、かつ、中央プローブ57の周囲に設けられていて、誘導コイル53の内部の中央プローブ57の先端以外の部分を冷却している。
【0049】
図6の局所加熱装置は、誘導コイル53が発生させる磁束を磁場閉込部55でトラップして磁束密度の空間分布を制御し、中央プローブ57及び副プローブ59の先端に磁束密度を集中させ、中央プローブ57及び副プローブ59の先端に設置した対象物を加熱するものである。磁場閉込部55があることにより、磁場閉込部55がない場合に比べて、加熱効率が高く、他の電子機器への影響を低減できる。これにより、様々な分野において、微小領域の高速加熱が可能になる。
【0050】
例えば、局所加熱装置51で加熱することにより、ごく小さなLEDを固定するμLED固定プロセスにおける半田の精密な溶接や接合の修正を高速かつ安定的に行うことができる。局所的に周波数を1-2MHzと高く設定することで効率よく加熱することが可能である。このために、誘導コイルに交流電流を供給するインバータは、GaNを素材とするFETを有するものとした。また、局所加熱装置51で癌細胞磁性を有するナノ粒子を結合させ、このナノ粒子を加熱して死滅させる応用も考えられる。これにより、微小領域に短時間の加熱を行い、患者への負担を軽減できると考えられる。
【実施例0051】
図7は、ボルトの焼き締めに用いる局所加熱装置71の概要を示す図であり、(a)本発明の磁場閉込部を備える場合、(b)磁場閉込部を備えない場合の一例を示す図である。図7(a)では、誘導コイル73の外側に強磁性体材料からなる磁場閉込部75を備え、疑似トランス構造が形成されている。これにより、図7(b)に示す磁場閉込部がない場合に比べ、誘導コイル73からの磁束77がボルト79に集中し、ボルト79のみを局所的に加熱して焼き締めることができる。焼き締めだけでなく狭い場所の半田付けや銀ロウの加熱のように、加熱対象の周囲にも金属がある場合の局所加熱が可能である。
【0052】
一方、図7(b)に示す磁場閉込部がない場合は、図7(a)に示す磁場閉込部75がある場合に比べ、誘導コイル73からの磁束77の空間的な広がりが大きくなる。また、誘導コイル73の近くの金属81の影響により磁束77に歪みが生じる。さらに、誘導コイル73の近くの金属81まで意図せず加熱されてしまい、加熱効率が低下する。
【実施例0053】
実施例4は、実施例2の局所加熱装置とほぼ同様の構成を、透磁率の計測装置として応用する例について示す。
【0054】
図8は、本発明の局所計測装置の中核をなす誘導コイル周辺の構成の概要を示す図である。局所計測装置83は、誘導コイル84と、磁場閉込部85と、プローブ86と、保持部87と、図示しない共振用コンデンサと、図示しない磁場センサとを備える。局所計測装置83は、プローブ86、誘導コイル84、共振用コンデンサ88からなる直列のLCR共振回路の共振周波数の変化に基づいて計測を行う。
【0055】
誘導コイル84は、プローブ86の先端以外の部分の周囲に設置されているコイル状の導線であり、プローブ86を通る磁束を発生させる。
【0056】
磁場閉込部85は、棒状の強磁性金属であり、誘導コイル84の外側に複数設けられている。また、複数の磁場閉込部85は、同じく強磁性金属からなる保持部87に接続されている。強磁性金属が好ましい。本実施例では、強磁性金属としてステンレスを用いた。
【0057】
プローブ86は、局所に向かって先端が尖った棒状の金属であり、誘導コイル84の内部に1本設けられている。また、プローブ86は、保持部87に接続されている。プローブ86及び磁場閉込部85は、数cm程度のサイズで実現可能である。
【0058】
磁場センサ89は、磁束の変化を計測する。磁場センサ89は、計測値記憶部を有し、ロギング機能を有する。なお、磁場センサ89は表示器で計測値を数値化するものであってもよい。このような機能は例えばマイコンで実現される。
【0059】
本発明の局所計測装置83によれば、誘導コイル84に交流電流を流してプローブ86を通る磁束を発生させた後に(本願請求項の「磁束発生ステップ」の一例)、磁場センサ89により磁束の変化を計測する(本願請求項の「計測ステップ」の一例)ことにより、局所の透磁率を計測できる。磁場閉込部85により、誤差の原因となる周囲の金属による磁束のひずみを低減して外乱の影響を低減できるため、目的とする部分の透磁率を高感度で計測することが可能になる。特に、透磁率の高い材質で疑似トランス構造を形成することにより、測定対象物の透磁率の計測を高精度に評価可能となる。このため、狭い領域を高感度に計測して、磁性表面の透磁率のマッピングを高精度に行うことも可能となる。
【実施例0060】
図9は、磁場シールドを備える誘導加熱装置の概要を示す図である。誘導加熱装置91は、誘導コイル93と、るつぼ95と、磁場シールド97と、真空チャンバー99とを備える。
【0061】
磁場シールド97は、真空チャンバー99よりも内側、かつ、誘導コイル93の周囲に設ける反磁性材料からなる筒状の構造体である。磁場シールド97により、誘導コイル93からの磁束が真空チャンバー99に入ってしまうことを防止し、磁束を真空チャンバー99の内部に留めることができる。そのため、加熱効率をさらに向上させることができる。
【0062】
また、図1に示す構成と同様に、誘導コイル93の外側に強磁性体材料を用いて、山の字の下部構造をさらに備えることで疑似トランス構造を形成できる。これによりこのトランス部に磁束をトラップすることが可能であり、外部の影響を受けにくく、被加熱体にも磁束を集中させることが可能となる。
【0063】
なお、上記の各実施例において、磁場閉込部又は副プローブは、2本に限定する必要はなく、3本、4本、又は、それ以上の複数本でもよい。磁束の空間分布を対称にする必要がある場合は、3本以上にするとよいと思われる。
【0064】
また、磁場閉込部の形状は、中空の棒上であってもよい。また、磁場閉込部の形状は、棒状に限定されるものではなく、管状、円筒状、円形のプレート状等の形状でもよい。
【0065】
さらに、実施例2の局所加熱装置において、中央プローブ57の発熱を抑えて透磁率を維持することができれば磁場閉じ込め効果が保たれる。そのため、冷却管63の代わりに他の構造で中央プローブ57を冷却してもよいし、他の方法で中央プローブ57を冷却するものであってもよい。
【0066】
なお、誘導コイルには1-2MHzの交流電流を流すことが考えられる。この場合、Si,GaNインバータを用いて定電圧電源で実現可能である。特に、加熱装置として用いる際にGaNインバータを用いることにより、低いスイッチングロスで効率的に加熱することが容易となる。
【符号の説明】
【0067】
1:誘導加熱装置、3:るつぼ、5:誘導コイル、7:支柱、9:支柱保持部、11:るつぼ保持部、13:磁場、21:支柱、23:誘導コイル、25:磁束、31:対象物、33:誘導コイル、35:磁束、37:支柱、41:対象物、51:局所加熱装置、53:誘導コイル、55:磁場閉込部、57:中央プローブ、59:副プローブ、61:保持部、63:冷却管、71:局所加熱装置、73:誘導コイル、75:磁場閉込部、77:磁束、79:ボルト、81:誘導コイル近くの金属、83:局所計測装置、84:誘導コイル、85:磁場閉込部、86:プローブ、87:保持部、91:誘導加熱装置、93:誘導コイル、95:るつぼ、97:磁場シールド、99:真空チャンバー、
101:誘導コイル、103:るつぼ、105:るつぼ保持部、107:磁束、109:ステンレス単管
図1
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図10