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  • 特開-キノコ菌床用培地の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022753
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】キノコ菌床用培地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20240214BHJP
【FI】
A01G18/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126068
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】521439671
【氏名又は名称】ジャパンアグリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】楡木 泰彦
【テーマコード(参考)】
2B011
【Fターム(参考)】
2B011AA01
2B011AA02
2B011AA04
2B011BA07
2B011BA09
2B011BA13
2B011GA04
2B011PA01
2B011PA02
(57)【要約】
【課題】培地基材として特定のおが粉の樹種だけでなく広い範囲の樹種から選択できるようになり、米ぬか等の栄養剤の添加量を増加しなくても高収量を実現できる菌床培地の製造方法を提供する。
【解決手段】培地原料が内部に充填された容器を準備し、上記容器内の培地原料を蒸気殺菌する殺菌工程と、上記容器内の殺菌済みの培地原料を凍結する凍結工程と、を有するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地原料が内部に充填された容器を準備し、
上記容器内の培地原料を蒸気殺菌する殺菌工程と、
上記容器内の殺菌済みの培地原料を凍結する凍結工程と、
を有するキノコ菌床用培地の製造方法。
【請求項2】
上記凍結工程において、上記殺菌済みの培地原料の内部温度が0~-5℃の温度帯に少なくとも5時間あるよう温度制御を行うものである請求項1記載のキノコ菌床用培地の製造方法。
【請求項3】
上記殺菌工程に供される培地原料において、下記の式(1)で示される含水率が0.60~0.75となるように設定されたものを用いる請求項1または2記載のキノコ菌床用培地の製造方法。
含水率=1-(乾燥質量W/質量M) ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ菌床用培地の製造方法に関し、さらに詳しくは、キノコの菌糸生長がよくなり、子実体の増量を図ることができるキノコ菌床用培地の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、キノコの栽培には、計画的な生産が可能で、比較的軽労働である等の理由により、菌床栽培が多用されている。この菌床栽培は、一般に、培地基材(おが粉等)に栄養剤(米ぬか等)を配合した培地原料を、瓶や袋等の小型培養容器に充填・殺菌して、キノコ菌床用培地(以下「菌床培地」とすることがある)を作製し、この菌床培地にキノコの種菌を植菌して菌床となるまで培養し、この菌床を所定条件下で栽培してキノコを収穫するものである。
【0003】
上記菌床栽培においては、良品質のキノコを計画的かつ高収量に生産するために、菌床培地に用いる培地基材の樹種を特定したり、培地基材に多種多様の栄養剤を添加したりする等の、様々な工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-285731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年のおが粉等の培地基材の価格の高騰から、培地基材として特定の樹種だけでなく広い範囲から樹種を選択できないか模索されている。また、米ぬか等の栄養剤についても価格の高騰があり、少量の添加としながら高収量を実現できないか検討されている。
【0006】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、おが粉等の培地基材として特定の樹種だけでなく広い範囲から樹種を選ぶことができ、しかも、米ぬか等の栄養剤の使用量が少なくても高収量を実現できる菌床培地の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、培地原料が内部に充填された容器を準備し、上記容器内の培地原料を蒸気殺菌し、ついで上記容器内の殺菌済みの培地原料を凍結することにより、キノコの菌糸生長がよくなり、子実体の増量を図ることができる菌床培地を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 培地原料が内部に充填された容器を準備し、上記容器内の培地原料を蒸気殺菌する殺菌工程と、上記容器内の殺菌済みの培地原料を凍結する凍結工程と、を有するキノコ菌床用培地の製造方法。
[2] 上記凍結工程において、上記殺菌済みの培地原料の内部温度が0~-5℃の温度帯に少なくとも5時間あるよう温度制御を行うものである[1]記載のキノコ菌床用培地の製造方法。
[3] 上記殺菌工程に供される培地原料において、下記の式(1)で示される含水率が0.60~0.75となるように設定されたものを用いる[1]または[2]記載のキノコ菌床用培地の製造方法。
含水率=1-(乾燥質量W/質量M) ・・・(1)
【発明の効果】
【0009】
本発明は、培地原料が内部に充填された容器を準備し、上記容器内の培地原料を蒸気殺菌する殺菌工程と、上記容器内の殺菌済みの培地原料を凍結する凍結工程と、を有する菌床培地の製造方法であるため、キノコの菌糸生長をよくするとともに、子実体の増量を図ることができる菌床培地を、コストの上昇を招くことなく効率よく製造することができる。
【0010】
そして、本発明のなかでも、上記凍結工程において、上記殺菌済みの培地原料の内部温度が0~-5℃の温度帯に少なくとも5時間あるよう温度制御を行うものであると、殺菌済みの培地原料に対して、いわゆる緩慢凍結が行われるため、おが粉等の培地基材に浸透した水が凍結して組織内部で氷の結晶がより大きく発達し、その発達の際に上記内部の組織を破損して柔軟化し、よりキノコの菌糸がより成長しやすくなる。
そして、解凍された後には、上記氷が解けて水となって流れ出て、氷の結晶が形成された箇所が空隙となり、菌床培地内部に適度な隙間が形成されるため、キノコの菌糸の成長に必要な酸素が行きわたり易くなり、菌糸がより成長しやすくなる。
【0011】
また、本発明のなかでも、上記殺菌工程に供される培地原料において、下記の式(1)で示される含水率が0.60~0.75となるように設定されたものを用いると、凍結工程において氷の結晶がより十分に発達し、菌糸がより成長しやすくなる菌床培地を製造することができる。
含水率=1-(乾燥質量W/質量M) ・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は従来の製法の概要を示すフロー図であり、(b)は本発明の製法の概要を示すフロー図である。
図2】実施例の培地原料の内部温度の変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
【0015】
さらに、本発明において、主成分とは、その原料の特性に大きな影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、原料全体の50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0016】
本発明の一実施形態に用いるキノコ菌床用培地は、例えば、シイタケ、エリンギ、エノキダケ、シメジ、マイタケ、ヒラタケ等のキノコを菌床栽培するに際して用いられるものである。
【0017】
キノコを菌床栽培するには、通常、図1(a)に示すように、培地基材であるおが粉等と栄養剤である米糠等が混合された培地原料を栽培瓶等に充填し、栽培瓶等ごと培地原料の殺菌を行って得られた菌床培地にキノコの種菌を植菌する。
上記植菌された菌床培地は、雑菌等が侵入しないように密閉され、培養室で菌糸がまん延した状態になるまで培養し、菌床を作製する。
得られた菌床は、発生室で上記菌床から生じた子実体(キノコ)が収穫できる大きさになるまで栽培に供される。
【0018】
本発明における菌床培地の製造およびキノコの栽培も、概ねこの流れに従って行われるが、殺菌工程において蒸気殺菌を採用し、殺菌済みの培地原料を凍結する凍結工程を備える点で従来法と大きく異なっている。
すなわち、本発明の菌床培地の製造方法は、図1(b)に示すように、培地原料が内部に充填された容器を準備し、殺菌工程において上記容器内の培地原料を蒸気殺菌し、上記容器内の殺菌済みの培地原料を凍結する凍結工程を有している。
以下、各工程を説明する。
【0019】
<準備工程>
本発明の用いる培地原料は、通常、キノコを栽培するのに用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、おが粉等の培地基材と、米ぬか等の栄養剤等とを混合したものを用いることができる。
加えて、本発明では、キノコを栽培するのに一般的には用いられない樹種のおが粉を用いることができる。すなわち、キノコを栽培するのに用いられるおが粉の樹種は、その硬さや阻害成分の含有量等の理由によって限定されているが、本発明では、このような阻害成分の除去と培地基材組織の柔軟化、菌糸が利用しやすい物質への分解等が行われるため、今まで積極的に利用されなかった樹種についても、培養期間や収穫量に影響を与えることなく、利用(混用含む)が可能となる。
キノコ栽培に用いるおが粉の樹種として、スギ、ヒノキ、クヌギ、コナラ、ブナ等が汎用されている。一方、ハンノキ、ヤナギ、カエデ、サクラ等は、これまで上記の理由等によって積極的に利用されていなかったが、本発明の製造方法によると、これらについても利用できるようになる。
なお、菌糸培養および菌床栽培期間が長いキノコ種ほど、おが粉等の培地基材の分解が多く行われているため、このようなキノコ種に対する菌床培地の製造に特に有用である。ちなみに、食用キノコの菌糸培養および菌床栽培期間は、通常、ヒラタケ:45日(収穫回数1回)、エリンギ:56日(収穫回数1回)、ブナシメジ:105日(収穫回数1回)、ナメコ:115日(収穫回数1~2回)、シイタケ:110~200日(収穫回数1~4回)である。
【0020】
上記培地原料が充填される容器としては、特に限定するものではなく、通常、キノコの栽培に用いられる容器を使用することができる。ただし、後述のとおり、蒸気殺菌を経由させるため、100℃以上の熱によっても所定形状を保つことができるものが好ましい。
また、蒸気殺菌を行う際には、培地原料内部を所定温度に制御することが好ましいことから、プランタ等の大型の容器よりも、キノコの培養袋のような、内部に培地原料が充填された状態であっても人力で持ち運べる程度の大きさの容器であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、後述する凍結工程での培地原料の凍結状態を考慮して、つぎの殺菌工程に供される培地原料において、下記の式(1)で示される含水率が0.60~0.75となるように設定されたものであることが好ましく、0.62~0.73に設定されたものがより好ましく、0.65~0.70に設定されたものがさらに好ましい。すなわち、本発明においては、後述する凍結工程での効果をより高めるため、通常よりも含水率が高く設定されていることが好ましい。下記質量Mは培地原料(培地基材と栄養剤等との合計)の質量とし、下記乾燥質量Wは上記培地原料を乾燥させたもの(水分5質量%以下)の質量とする。
含水率=1-(乾燥質量W/質量M) ・・・(1)
【0022】
<殺菌工程>
殺菌工程は、培地原料内に生存する有害菌を殺菌するために行うものであり、上記殺菌方法としては、種々のものが知られているが、本発明においては蒸気殺菌を用いることが重要である。
すなわち、蒸気殺菌を行うことにより、おが粉中に含まれる菌糸生長を阻害する有害物質を除去することができる。上記有害物質としては、おが粉の原料である木材が病虫害を防御する目的で有するタンニン、フェルギノールなどに代表されるフェノール物質、タキシフォリンなどのフラボノイド化合物、テルペノイド等の樹脂成分があげられる。
【0023】
そして、蒸気殺菌を行うことで、セルラーゼやラッカーゼ等の木材分解酵素を用いた菌糸の木材組織の分解を促進し、キノコの菌糸がおが粉を腐食しやすくすることができる。
また、デンプン等の高分子糖は、加熱により低分子化し資化性が増加する傾向がみられ、タンパク質は、熱変性すると微生物の分解を受けやすくなる傾向がみられる。
さらに、蒸気殺菌によって、容器に充填された培地原料がしっかりと固化されるため、植菌のために設けられる孔の形状を保持することが容易となる。
【0024】
上記蒸気殺菌には、殺菌釜に圧力をかけずに行う常圧殺菌と、殺菌釜に圧力をかけて行う高圧殺菌とがあり、本発明ではいずれの方法によっても行うことができる。しかし、耐圧性の殺菌釜等の特殊な装置が不要な点からは常圧殺菌が好ましく、短時間で効率よく製造できる点からは高圧殺菌が好ましい。
上記常圧殺菌では、例えば、殺菌釜の内部温度を90℃以上にすることが好ましく、95℃以上にすることがより好ましく、98℃以上にすることがさらに好ましい。
また、常圧殺菌は、培地原料の内部温度が98℃に達してから4時間以上行うことが好ましく、5~8時間行うことがより好ましい。
なお、本発明において、培地原料の内部温度とは、容器外部からの熱が一番伝わりにくい箇所(通常、培地原料の中心部)で測定される温度とする。
【0025】
上記高圧殺菌では、例えば、殺菌釜の内部温度を100℃以上にすることが好ましく、115℃以上にすることがより好ましく、118℃以上にすることがさらに好ましく、121℃以上にすることが一層好ましい。
また、高圧殺菌は、培地原料の内部温度が設定された温度になってから、F値相関で設定された時間行うことが好ましい。例えば、121℃に温度を設定した場合には、通常、121℃に達してから1時間程度が設定される。
【0026】
<凍結工程>
凍結工程は、上記殺菌工程を経由した容器を、例えば、所定の温度に設定された凍結機(冷凍庫)内に収容することにより上記容器内の培地原料を凍結する工程であり、培地原料を凍結させることにより、培地原料内に含まれる水を氷の結晶へ変化させて、上記培地原料に含まれる各原料の組織を破損させることができる。すなわち、水が氷になるときには、約9%の体積が膨張するため、この状態変化を上記組織の破損に利用している。
【0027】
例えば、食品を凍らせる場合には、通常、0℃以下の氷結点に到達するまでは速やかに品温は低下するが、その後の-1~-5℃の温度帯での品温は横ばいとなり、食品中の水分の80%程度が氷結晶化しないとそれ以下の温度に下がらないことが知られている。これは、冷却エネルギーの大半が氷結潜熱を除くために使われるためであり、上記-1~-5℃の温度帯を最大氷結晶生成帯という。
【0028】
通常、食品を凍結させる場合には、解凍後の風味を損なわないために、できるだけ急速に凍結を行い、上記最大氷結晶生成帯を速やかに通過させてそれ以下の温度に保つことが好ましいとされている。食品を急速凍結すると、組織内部に形成される氷の結晶が小さくなり、組織の破損が少ないため、解凍後のドリップが少ない傾向がみられる。
なお、急速凍結とは、通常、品温(内部温度)が上記最大氷結晶生成帯を30分以内に通過するよう行われる凍結をいう。
【0029】
本発明では、凍結させることができれば、どのように温度制御がなされていてもよく、急速凍結を必須とするものではない。むしろ、緩慢凍結を行って、上記殺菌済みの培地原料の内部温度が、0~-5℃の温度帯に少なくとも5時間あるよう温度制御が行われることが好ましく、上記温度帯に6時間以上あることがより好ましく、凍結工程の大半の時間が上記温度帯にあってもよい。緩慢凍結を行うことにより、凍結時により氷の結晶が大きく発達するため、より組織が大きく損壊しやすくなる。
このため、解凍後のドリップが多くなったとしても、再度、組織内に浸透、保持されて表面(外部)に認められる離水自体を少なくできる。
【0030】
このようにして作製された菌床培地は、通常、凍結状態のまま保管され、使用時(植菌時)に解凍されて用いられる。また、凍結状態で長期間の保管が可能であるため、高需要期間(高価格期間)に向けて貯蔵による生産調整や、輸送時の冷凍コンテナの活用等なども可能となる。
【0031】
上記解凍方法としては、特に限定するものではなく、自然解凍(常温解凍)であっても、意図的に解凍させるものであってもよい。上記意図的に解凍させるものとしては、例えば、低温解凍、高温解凍、流水解凍、温水解凍、加熱解凍、電子レンジ解凍等があげられる。
【0032】
そして、解凍された菌床培地に対する植菌は、通常の工程と同様に、例えば、植菌機等を用いて行うことができる(植菌工程)。植菌された菌床培地は、所定条件に設定された培養室で培養して菌床を作製することができる(培養工程)。得られた菌床を所定条件に設定された栽培室で栽培して子実体(キノコ)を発生させ、所定のサイズになったものを収穫することができる(栽培工程)。
【0033】
本発明の上記製法によると、容器に充填された際には、培地原料に浸透せずに周囲に多く存在していた水が、殺菌工程を経由することにより、培地原料内部まで深く浸透する。そして、凍結工程を経由することにより、上記培地原料内部に浸透した水が氷の結晶に変化し、培地原料組織を破損する。これにより、上記培地原料が柔軟化して、キノコの菌糸が成長しやすくなるとともに、培地原料が解凍され、氷が水となって流れ出た跡に隙間が形成さるため、酸素供給がスムーズに行われて菌糸がより成長しやすくなる。
【0034】
このため、従来、菌糸の成長が阻害されるとして菌床培地に適していない、と判断された樹種のおが粉であっても、菌床培地に用いることができるようになる。一方、菌床培地の中には、長期間栽培を行うことを目的として、ボリュームを出し(緻密にしない)ために、様々な形状のおが粉が使われることがある。
例えば、細かいキューブ状のもの、繊維状のもの、チップダスト、カンナ屑、チップ状のもの、木片状のものは、いずれも形状が大きくなるに従って、内部に菌糸が浸透することが困難になる傾向がみられるが、このような形状であっても、菌糸の成長が阻害されることがない。
【実施例0035】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0036】
[実施例1~4、比較例1]
培地原料として、おが粉(コナラ)、米糠、フスマが、8:1:1の割合(乾燥質量比)で配合されたものを用い、上記培地原料を下記の容器に対し1.2kg充填し、上記培地原料の表面から植菌用の孔をその中央部に形成した。このときの培地原料の含水率は62%であった。上記容器内の培地原料に対し、120℃、70分間の蒸気殺菌を行い、室温になるまで放冷した。その後、実施例1~4はそれぞれ表1に示す条件で凍結工程を経由させ、菌床培地を作製した。上記凍結工程は各実施例に対し12時間行っている。また、このときの培地原料の内部温度の変化を図2に示す。
(容器)
通気フィルターが取り付けられた、厚み50μmの高密度ポリエチレン(HDPE)からなる直径12cmの円筒形の菌床培養袋。
【0037】
上記菌床培地に対し、シイタケ種菌8gを植菌し、下記の条件で培養を行って菌糸のまん延状態になるまでの日数を測定した。上記まん延状態とは、菌床培地の95%以上が菌糸で被覆された状態をいう(以下に同じ)。その結果を下記の表1に併せて示す。
なお、凍結工程を経由させた菌床培地は、室温(23℃近傍)で自然解凍した後に植菌を行った。
(培養条件)
温度20~23℃、湿度60~80%、CO2濃度3000ppm以下。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1~4は、いずれも従来法(比較例1)に対して菌糸がまん延するまでの日数が少なくなっており、シイタケ菌糸の成長促進効果認められた。なかでも、凍結工程において、0~-5℃の温度帯を通過する時間が5時間以上ある実施例1,2は、菌糸がまん延するまでの日数がより短くなっており、一層の効果が認められた。
【0040】
[実施例5~6、比較例2]
培地原料として、おが粉(スギ)、フスマ、米糠、コーンコブが、6:3:2:1の割合(乾燥質量比)で配合されたものを用い、上記培地原料を下記の容器に対し1.2kg充填し、上記培地原料の表面から植菌用の孔をその中央部に形成した。このときの培地原料の含水率は66%であった。上記容器内の培地原料に対し、98℃、450分間の蒸気殺菌を行い、室温になるまで放冷した。その後、実施例5~6はそれぞれ表2に示す条件で凍結工程を経由させ、菌床培地を作製した。なお、凍結工程を経由させた菌床培地は、室温(23℃近傍)で解凍した後に植菌を行った。
(容器)
通気フィルターが取り付けられた、厚み50μmの高密度ポリエチレン(HDPE)からなる直径12cmの円筒形の菌床培養袋。
【0041】
上記菌床培地に対し、エリンギ種菌8gを植菌し、下記の条件で培養を行って菌糸のまん延状態になるまでの日数を測定した。その結果を下記の表2に併せて示す。
(培養条件)
温度20~23℃、湿度70~80%、CO2濃度3000ppm以下。
【0042】
【表2】
【0043】
表2の結果から、シイタケだけでなく、エリンギにおいても同様の、菌糸の成長促進の優れた効果が認められた。
【0044】
[実施例7~8、比較例3~4]
培地原料として、おが粉(コナラ)、米糠、フスマが、8:1:1の割合(乾燥質量比)で配合されたものを用い、上記培地原料を下記の容器に対し1.2kg充填し、上記培地原料の表面から植菌用の孔をその中央部に形成した。このとき、下記の表3に示す含水率になるよう培地原料の含水率を調整した。ついで、上記容器内の培地原料に対し、120℃、90分間の蒸気殺菌を行い、室温になるまで放冷した。その後、実施例7~8はそれぞれ表3に示す条件で凍結工程を経由させ、菌床培地を作製した。
(容器)
通気フィルターが取り付けられた、厚み50μmの高密度ポリエチレン(HDPE)からなる直径12cmの円筒形の菌床培養袋。
【0045】
作製した菌床培地を容器側面から観察し、下記の指標に基づいて評価した。なお、凍結工程を経由させた菌床培地は、室温(23℃近傍)で解凍した後に評価を行った。
◎(とてもよい):離水が全くない。
〇(よい) :下部1/5に離水が認められた。
△(ややわるい):下部1/3に離水が認められた。
×(わるい) :下半分に離水が認められた。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から、凍結工程を経由させた実施例7,8は、菌床培地の内部まで十分に水を浸透させることができ、離水として認められる水量を少なくできた。菌床培地の離水量が多すぎるとキノコ菌糸の成長が阻害される傾向がみられるため、比較例3,4は、キノコの菌糸の成長が遅くなることが推定される。
【0048】
[実施例9、比較例5]
培地原料として、おが粉(コナラ)、米糠、フスマが、8:1:1の割合(乾燥質量比)で配合されたものを用い、上記培地原料を下記の容器に対し1.2kg充填し、上記培地原料の表面から植菌用の孔をその中央部に形成した。このときの培地原料の含水率は60%であった。上記容器内の培地原料に対し、120℃、70分間の蒸気殺菌を行い、室温になるまで放冷した。その後、実施例9は表4に示す条件で凍結工程を経由させ、菌床培地を作製した。すなわち、実施例9および比較例5は、いずれも上記おが粉として、コナラを100%使用している。
(容器)
通気フィルターが取り付けられた、厚み50μmの高密度ポリエチレン(HDPE)からなる直径12cmの円筒形の菌床培養袋。
【0049】
上記菌床培地に対し、シイタケ種菌8gを植菌し、培養室で下記の条件で培養を行って菌糸をまん延させた。なお、凍結工程を経由させた菌床培地は、室温(23℃近傍)で解凍した後に植菌を行った。
(培養条件)
温度20~23℃、湿度60~80%、CO2濃度3000ppm以下。
【0050】
上記菌糸がまん延した菌床を発生室に移動させ、下記の条件で子実体(シイタケ)を発生させた。そして、その破袋後20日までに発生したシイタケを収穫し、その収穫量を測定した。測定した結果を下記の表4に合わせて示す。
(発生条件)
温度13~17℃、湿度80~90%、CO2濃度3000ppm以下、照度100~500Lux。
【0051】
【表4】
【0052】
表4の結果から、菌床培地のおが粉として汎用されるコナラを用いた場合であっても、比較例品に比べて実施例品の方が、破袋後20日までのシイタケ収穫量が多くなることが認められた。シイタケの発生状態から、栽培期間が長くなればさらに収穫量に差が認められるものと推定された。
【0053】
[実施例10、比較例6]
培地原料におけるおが粉の内訳を、コナラ75%、ハンノキ25%に代えた以外は実施例9または比較例5と同様にして、シイタケ収穫量を測定した。測定した結果を下記の表5に合わせて示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5の結果から、菌床培地のおが粉として汎用されていないハンノキを25%混合した場合には、コナラ100%のものと比べると収穫量自体は減少したものの、比較例品に比べて実施例品の方が、破袋後20日までのシイタケ収穫量の差がさらに認められた。
【0056】
[実施例11、比較例7]
培地原料におけるおが粉の内訳を、コナラ50%、ハンノキ50%に代えた以外は実施例9または比較例5と同様にして、シイタケ収穫量を測定した。測定した結果を下記の表6に合わせて示す。
【0057】
【表6】
【0058】
表6の結果から、ハンノキの配合量をさらに増やして50%にした場合には、コナラ100%のものと比べると収穫量自体はさらに減少したものの、比較例品に比べて実施例品の方が、破袋後20日までのシイタケ収穫量の差が一層認められた。
これらの結果から、培地基材の樹種として汎用されていないものであっても、キノコの菌床培地として利用できる可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のキノコ菌床用培地の製造方法は、子実体の増量を図ることができるキノコ菌床用培地の製造に適する。
図1
図2