IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図1
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図2
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図3
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図4
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図5
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図6
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図7
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図8
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図9
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図10
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図11
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図12
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図13
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図14
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図15
  • 特開-植生マットおよび植生袋 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022756
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】植生マットおよび植生袋
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
E02D17/20 102B
E02D17/20 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126075
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DA02
2D044DA03
2D044DA12
(57)【要約】
【課題】より効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とする植生マットを提供する。
【解決手段】法面Gの土壌緑化に使用される植生マット10は、縦横に平面状に延在し、縦方向が法面の傾斜方向に沿うように法面に敷設されるシート体11と、該シート体11に保持され、土壌緑化のための植生基材が充填された1または複数の植生袋100と、を備える。植生袋100は、第1の種子密度d1を有する植生基材からなる第1内容物111を内包する第1袋部103と、第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2を有する植生基材からなる第2内容物112を内包する第2袋部105と、を備える。第1内容物111と第2内容物112との間を植物Pの根が伸長可能であるように、第1袋部103および第2袋部105が隔壁102を介して互いに接触している。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面の土壌緑化に使用される植生マットであって、
縦横に平面状に延在し、縦方向が法面の傾斜方向に沿うように法面に敷設されるシート体と、
前記シート体に保持され、土壌緑化のための植生基材が充填された1または複数の植生袋と、を備え、
前記植生袋は、
第1の種子密度d1を有する植生基材からなる第1内容物を内包する第1袋部と、
前記第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2を有する植生基材からなる第2内容物を内包する第2袋部と、を備え、
前記第1内容物と前記第2内容物との間を植生植物の根が伸長可能であるように、前記第1袋部および前記第2袋部が隔壁を介して互いに接触していることを特徴とする植生マット。
【請求項2】
前記シート体は、縦方向において、法面の法肩側に配置される上部と、法面の法尻側に配置される下部とを有し、前記第1袋部および前記第2袋部は、前記シート体の縦方向に隣接して配置され、前記第1袋部が前記第2袋部よりも前記シート体の上部側に位置することを特徴とする請求項1に記載の植生マット。
【請求項3】
前記第1袋部および前記第2袋部は、透水性および通根性を有する材料からなる壁材を備えることを特徴とする請求項2に記載の植生マット。
【請求項4】
前記第1袋部は、水解性材料または水溶性材料からなる壁材を備えることを特徴とする請求項2に記載の植生マット。
【請求項5】
前記第2袋部の地面と反対側を向く面には、遮水性の表皮部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の植生マット。
【請求項6】
前記植生袋は、透水性および通根性を有する1枚のシート材により一体的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の植生マット。
【請求項7】
法面に敷設されるシート体に保持され、土壌緑化のための植生基材が充填された植生袋であって、
第1の種子密度を有する植生基材からなる第1内容物を内包する第1袋部と、
前記第1袋部と隣接して配置されるとともに、種子を含有しない、または、前記第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2を有する植生基材からなる第2内容物を内包する第2袋部と、を備え、
前記第1内容物と前記第2内容物との間を植生植物の根が伸長可能であるように、前記第1袋部および前記第2袋部が隔壁を介して互いに接触可能に構成されていることを特徴とする植生袋。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の植生マットが法面に設置された設置構造であって、前記第1袋部および前記第2袋部が法面の傾斜方向に隣接して配置され、前記第1袋部が前記第2袋部に対して法面の法肩側に位置することを特徴とする設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面を土壌緑化するために用いられる植生マット、植生袋、および、該植生マットの法面への設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種法面や新規造成地等の施工面においては、その緑化を積極的に行って、法面等の美化と共に土砂の流失を防止することが行われている。従来、土、種子、肥料、保水材などの植生基材が植生用の袋体(以下、植生袋という)に充填される。そして、この植生袋とともに植生マットが緑化すべき地面に設置されることにより、土壌の植生植物の生長を促進し、結果的に、景観の向上とともに土砂の流失を防止することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、法面に対する植生を行うことができる植生材袋(植生袋)およびそれを保持する植生用網状体(シート体)を開示している。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。植生材袋(10)は、肥料、土壌改良材、保水材等の植生基材(30)を包み込んで形成されて、植生用網状体(20)の袋状部(21)内に収納される。この植生基材(30)内に法面(40)の植生に必要な植物の種子を混入させることも行われる。そして、植生材袋(10)の谷側となる下側約半分を水に対して非溶解性の材料によって非溶解部(11)を形成するとともに、植生材袋(10)の山側となる上側約半分を水に対して溶解性のある材料によって溶解部(12)を形成した。雨等が降れば、溶解部(12)は、その溶解を始めて当該植生材袋(10)内の植生基材(30)が水分を吸収し得る状態にするとともに、徐々にまたは十分な雨があれば早期に消失する。これに対して、植生材袋(10)の非溶解部(11)は雨等に対して溶解しないので、例えば植生用網状体(20)の袋状部(21)内に残留したままであるとともに、この非溶解部(11)は山側に向けて開口した状態を維持するものとなる。このため、植生材袋(10)内に包まれていた植生基材(30)の一部は、この非溶解部(11)によって保持されたままとなる。非溶解部(11)は、植生材袋(10)内に包まれていた植生基材(30)の一部の保持を行っているものであり、これによって法面(40)の植生作用が継続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-7027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の植生マットは、それ相応の量または厚さを構成する土壌などの植生基材を充填した植生袋をシート体に保持して法面に設置することによって、法面の土壌緑化を促進するものである。また、植生マットは、植生袋の植生基材に導入植物の種子材を混入することによって、必要な植生植物を導入した植生を行うことを可能とする。この植生基材に導入された種子材は、袋内部で植生基材と無作為に混ざり合い、植生マットの設置後、植生袋から発芽および生長する。図16は、従来の植生マットおよび植生袋における種子材の発芽状況を説明するための模式図である。図16に示すように、法面Gに設置された植生マット1において、シート体2の収容部3に植生袋5が保持されている。この植生袋5に充填された植生基材6には、所定の種子密度dで種子7が混ぜられている。つまり、植生袋5に包含された植生基材6は、全体として均一な種子密度dを有する。図16に示すように、植生基材6に導入した種子材のうち発芽が可能である種子7は、植生基材6(または植生袋)の表面近傍から20mm程度の深さまでのものとされている。説明の便宜上(明確に区分けすることはできないが)、この発芽が可能な領域を発芽領域R1と示し、それ以外の根系が伸長する領域を根系伸長領域R2と示した。そのため、植生基材を厚くすればするほど、1つの袋の内部空間で発芽しない種子の粒数が比例して増加し、多くの種子が無駄になることが避けられない。すなわち、発明者らは、従来の植生マットや植生袋では、種子材の活用が非効率的且つ非経済的であることを課題として着目した。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とする植生マット、植生袋、および、該植生マットの法面への設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の植生マットは、法面の土壌緑化に使用される植生マットであって、
縦横に平面状に延在し、縦方向が法面の傾斜方向に沿うように法面に敷設されるシート体と、
前記シート体に保持され、土壌緑化のための植生基材が充填された1または複数の植生袋と、を備え、
前記植生袋は、
第1の種子密度を有する植生基材からなる第1内容物を内包する第1袋部と、
前記第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2(第2の種子密度d2は種子を含有しないものを含む)を有する植生基材からなる第2内容物を内包する第2袋部と、を備え、
前記第1内容物と前記第2内容物との間を植生植物の根が伸長可能であるように、前記第1袋部および前記第2袋部が隔壁を介して互いに接触していることを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態の植生マットによれば、植生袋は、内容物が移動しないように隔壁によって区切られた第1袋部と第2袋部とから構成され、第1の種子密度d1を有する植生基材からなる第1内容物を第1袋部に内包し、かつ、種子を含有しない、または、第2の種子密度d2(<d1)を有する植生基材からなる第2内容物を第2袋部に内包したものである。これにより、本発明の植生マットは、より高い種子密度を有する第1袋部を主に種子の発芽のための領域に重合させ、より少ない種子密度を有する第2袋部を根系が伸長するための領域に重合させるように、法面に設置され得る。したがって、本発明の植生マットは、発芽せずに無駄になる種子量を軽減させ、効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とするものである。
【0009】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記シート体は、縦方向において、法面の法肩側に配置される上部と、法面の法尻側に配置される下部とを有し、前記第1袋部および前記第2袋部は、前記シート体の縦方向に隣接して配置され、前記第1袋部が前記第2袋部よりも前記シート体の上部側に位置することを特徴とする。すなわち、植生マットが法面に設置された際、植生マットに保持された植生袋の第1袋部が第2袋部よりも傾斜方向(または鉛直方向)の上側に配置されることから、第1袋部の第1内容物の種子を優先的に発芽させることが可能である。
【0010】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記第1袋部および前記第2袋部は、透水性および通根性を有する材料からなる壁材を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記第1袋部は、水解性材料または水溶性材料からなる壁材を備えることを特徴とする。すなわち、より種子密度が高い第1袋部の壁材を水解性または水溶性とすることにより、設置後、壁材が降雨によって消失し、第1内容物が外部に露出する。これにより、第1内容物内の種子が壁材に抑制されることなく生長し、結果として、植生植物の生長をより一層促進することができる。
【0012】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記第2袋部の地面と反対側を向く面には、遮水性の表皮部が形成されていることを特徴とする。すなわち、法面の下側に位置する第2袋部の表面が遮水性の表皮部で覆われることにより、根系の伸長領域として機能する第2内容物の水分を保持し、植生植物の生育を効果的に促進することができる。
【0013】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記第1袋部および前記第2袋部は、透水性および通根性を有する1枚のシート材により一体的に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態の植生袋は、法面に敷設されるシート体に保持され、土壌緑化のための植生基材が充填された植生袋であって、
第1の種子密度を有する植生基材からなる第1内容物を内包する第1袋部と、
前記第1袋部と隣接して配置されるとともに、前記第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2を有する植生基材からなる第2内容物を内包する第2袋部と、を備え、
前記第1内容物と前記第2内容物との間を植生植物の根が伸長可能であるように、前記第1袋部および前記第2袋部が隔壁を介して互いに接触可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一形態の設置構造は、上記形態の植生マットが法面に設置された設置構造であって、前記第1袋部および前記第2袋部が法面の傾斜方向に隣接して配置され、前記第1袋部が前記第2袋部に対して法面の法肩側に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の植生マットおよび植生袋は、より効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態の植生マットの概略斜視図。
図2図1の植生マットの部分拡大図。
図3】本発明の一実施形態の植生袋の概略斜視図。
図4図1の植生袋の断面図。
図5】本発明の別実施形態の植生袋の断面図。
図6図3の植生袋を製造する方法の各工程を示す模式図であって、(a)1枚のシート材を折り曲げて筒状体に形成する工程、(b)植生袋に第1袋部および第2袋部を形成する工程、および(c)第1袋部および第2袋部に植生基材をそれぞれ充填した植生袋を、内容物を接触させるように変形させる工程を示す。
図7】本発明の一実施形態の植生マットを法面に設置した直後の設置構造を示す模式図。
図8】本発明の一実施形態の植生マットを法面に設置した後、種子が発芽した状態の設置構造を示す模式図。
図9】本発明の実証試験に係る(a)実施例1、(b)比較例の植生マットを示す模式図。
図10】本発明の植生マットの実証試験における20日経過後の状態の写真であって、実施例1および比較例を示す。
図11】本発明の植生マットの実証試験における43日経過後の状態の写真であって、実施例1および比較例を示す。
図12】本発明の実証試験に係る(a)実施例2、(b)実施例3、および(c)実施例4の植生マットを示す模式図。
図13】本発明の植生マットの実証試験における19日経過後の状態の写真であって、実施例2~4を示す。
図14】本発明の植生マットの実証試験における25日経過後の状態の写真であって、実施例2~4を示す。
図15】本発明の別実施形態の植生マットを法面に設置した後、種子が発芽した状態の設置構造を示す模式図。
図16】従来例の植生マットにおける種子材の発芽状況を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施形態の植生マット10および植生袋100は、法面の傾斜面に設置され、植生植物による法面の土壌緑化の促進を可能とするものである。なお、本明細書では、植生袋100とともに植生マット10が法面に敷設されたときに法面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、法面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。さらに、植生マット10が法面に敷設されたときに法面の法肩側(上方または高所側)に配置される側を「上部」とし、法面の法尻側(下方または低所側)に配置される側を「下部」として定義する。
【0020】
図1および図2に示すように、植生マット10は、縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性のシート体11と、該シート体11に保持された複数の植生袋100とを備える。また、植生マット10には、シート体11および植生袋100を貫通して地面に固定するためのピン状の固定部材18が用いられる。
【0021】
シート体11は、ロール状に巻取り可能であるように十分な可撓性および柔軟性を有する。シート体11は、縦横に平面状に延在する網状シートを備える。ここで、法面に敷設されたシート体11は、縦方向が法面の傾斜方向に沿うように法面に敷設される。
【0022】
網状シートは、縦糸及び横糸を略直交に編み込んで形成された2重織ネットからなり、その縦糸および横糸は、合成樹脂材料や天然材料の繊維から形成され得る。この網状シートは、法面の土砂の流出などを抑える法面の保護効果を発揮し得る。網状シートの網目模様や目合いは任意に選択され得る。
【0023】
また、シート体11には、植生袋100を収容するための複数の収容部14が設けられている。各収容部14は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、同じく長筒状の植生袋100を内部に保持可能に構成されている。収容部14は、縦方向に位置する複数の縦糸と、該縦糸を連結する横糸とにより構成されて、横糸を表裏に分割してこれら各横糸のそれぞれに各縦糸を横方向に対して交互に編み込むことにより筒状を形成したものである。つまり、収容部14は、2枚のネットが重ね合わされた袋状に形成されている。そして、収容部14は、その長手方向がシート体11の横方向に沿うように一端から他端に亘って延在している。該収容部14の長手方向の端部の一端又は両端が開口し、筒状の植生袋100を開口から挿入可能に構成されている。
【0024】
植生袋100は、シート体11に保持された状態で、緑化すべき法面に設置され、内包する導入種子によって特定の植生植物の導入を可能とするものである。図3は、植生袋100の概略斜視図である。ここで、説明の便宜上、植生袋100の一部が切り欠かれて描写されている。図4は、植生袋100の(植生マット10の縦方向に沿って切断した)概略横断面図である。
【0025】
植生袋100は、図3に示すように、全体として長手方向に延びる細長い長筒状に形成された袋体からなる。植生袋100は、その長手方向が法面の等高線方向(または植生マット10の横方向)に沿うようにシート体11に配置される。植生袋100は、その外表面を成すとともに内部空間を画定する周壁101と、該周壁101の内部空間を2つに分ける隔壁102と、周壁101外面の一部に形成された遮水性の表皮部107と、該周壁101に内包される植生基材(第1内容物111および第2内容物112)とを備える。ここで、植生基材は、植生に用いられる材料であって、肥料材、土壌改良材および土壌のうち少なくとも1種類を含むものであり、全体として、導入される植生植物の所定量の種子113を含有している。
【0026】
周壁101は、長手方向に延びる長筒形状を有し、横断面視長円(または楕円)形状を有する。また、図4に示すように、周壁101は、地面側に配置される底壁部101a、および、地面の反対側に配置される頂壁部101bを有する。そして、横断面視において、周壁101を内部空間を2つに区画するように、周壁101内部には隔壁102が形成されている。隔壁102は、底壁部101aと頂壁部101bとの間に延在している。本実施形態では、周壁101および隔壁102は、透水性および通根性を有する1枚のシート材から一体的に形成された。例えば、周壁101および隔壁102をなすシート材は、不織布、織布又はこれらの組み合わせ等から選択され得る。より具体的には、不織布および織布の素材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、コットン又はこれらの混合物等から選択可能である。
【0027】
そして、植生袋100には、この隔壁102によって互いに隔絶する内部空間を有する第1袋部103および第2袋部105が形成されている。第1袋部103および第2袋部105は、隔壁102の略中央で一体的に連結されている。この隔壁102は、第1内容物111および第2内容物112が移動して混合することを実質的に防止する。ただし、本発明において、隔壁は、両者の種子密度に大きな変動を生じさせない限り、細孔や破れなどによって少量の植生基材の通過を許容してもよい。また、第1袋部103および第2袋部105は、シート体11の収容部14内で縦方向に隣接して配置され、第1袋部103が第2袋部105よりもシート体11の上部側に位置する。すなわち、第1袋部103および第2袋部105が隔壁102を介して互いに接触している。そして、第1袋部103および第2袋部105には、植生基材として、互いに異なる種子密度d1,d2を有する第1内容物111および第2内容物112が充填されている。ここで、隔壁102が通根性を有することから、植物の根は、隔壁102を介して第1内容物111と第2内容物112との間を伸長可能である。また、隔壁102によって、周壁101内部に包含された種子113が、第1袋部103および第2袋部105の間で移動することが防止される。すなわち、第1袋部103および第2袋部105内部の種子密度がそれぞれ維持される。
【0028】
第1袋部103は、第1の内部空間を包囲する壁材を備え、第1の種子密度d1を有する植生基材からなる第1内容物111を内包している。また、第2袋部105は、第2の内部空間を包囲する壁材を備え、第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2を有する植生基材からなる第2内容物112を内包している。第1袋部103および第2袋部105は、内部空間を包囲する壁材を個別に有しており、2つの壁材が重ね合さって隔壁102を形成している。すなわち、隔壁102は、第1袋部103の壁材と第2袋部105の壁材とが重合した部分である。しかしながら、本発明は本実施形態に限定されず、第1袋部103および第2袋部105の壁材を部分的に一体化し、隔壁102が1つの壁材から構成されてもよい。
【0029】
また、図4に示す実施形態では、第2内容物112は種子を含有していない(つまり、第2の種子密度d2=0)。しかしながら、本発明において、図5(a)に示す植生袋1001のように、第2内容物112は、少なくとも第1の種子密度d1よりも低い第2の種子密度d2であれば、任意の種子量を含有させることができる。ここで、第1の種子密度d1に対する第2の種子密度d2の割合d2/d1は、0~0.7の範囲であることが好ましい。種子密度の割合を上記範囲とすることで、種子材をより効率的かつ経済的に活用可能である。また、図5(b)、(c)に示す植生袋1002,1003のように、第1袋部103および第2袋部105の容量比やその位置関係は、任意に設定され得る。ただし、本発明の効果を少なくとも発揮するには、全容量中に第1袋部103が占める容量は、約10~70%の範囲であることが好ましい。なお、図5(a)~(c)に示すように、遮水性の表皮部が任意に省略されてもよい。
【0030】
また、第2袋部105の地面と反対側を向く面(つまり、頂壁部101b外面の下側部分)には、遮水性の表皮部107が形成されている。表皮部107は、長手方向に延在する遮水シートから形成され、周壁101の頂壁部101bであって第2袋部105の外面に形成されている。この表皮部107によって、周壁101の地面と反対側を向くとともに法面の法尻側を向く箇所の少なくとも一部には、周壁101の内外への通水を遮断する遮水性領域が形成される。より具体的には、表皮部107は、植生マット10を水平に置いたとき、植生マット10の縦方向に切断した断面視(つまり、植生袋100の横断面視)において、周壁101の3時方向が植生マット10の上部を向くとして、周壁101の約9~12時方向の範囲に延在している。この表皮部107は、第2内容物112の水分蒸発を防止するように作用する。一方で、表皮部107以外の箇所には、周壁101の内外への通水を許容する透水性領域が形成されている。本実施形態の植生袋100は、透水性領域によって、流水が通過するための流路を形成することで、植生袋100に適度な保水(保湿)効果を発揮させるものである。この表皮部107を成す遮水シートは、例えば、(本発明を限定しないが)紙、樹脂フィルム(例えば、ポリエチレン製防水ラミネートシート)、発泡樹脂シート又はこれらの組み合わせなどから選択され得る。また、遮水シートは、植生基材の過度な温度変化を抑えるべく、遮水性に加えて断熱性を有することがより好ましい。本実施形態では、遮水シートの素材は、断熱性を有する独立気泡成型による発泡ポリエチレンシートが選択された。なお、遮水シートが断熱性を発揮するために、発泡ポリエチレンシートの厚みが約0.5mm~2.0mm程度であることが好ましい。
【0031】
次に、図6を参照して、本実施形態の植生袋100を製造する方法を例示する。植生袋100の本体部分(周壁101および隔壁102)は、長手方向に延在する1枚のシート材108を接合することによって一体的に形成されたものである。なお、接合手段は、縫製、接着等の任意の手段から選択され得る。具体的には、図6(a)に示すとおり、シート材108を、幅方向の中央の折り線(点線)に沿って折り曲げて、筒状の周壁101を形成するように、幅方向の両端部を合わせて接合する。このとき、表皮部107を形成するために、遮水シート109を幅方向の端部に接合することが好ましい。次いで、図6(b)に示すとおり、幅方向に2つの袋部(第1袋部103および第2袋部105)を形成するように、周壁101の幅方向の略中央部分を長手方向に接合する。この接合位置は、周壁101の幅方向の中心からずれた位置であってもよく、第1袋部103および第2袋部105の容量比に応じて定められる。続いて、周壁101の長手方向の一方の端部を接合し、他方の開口端部から植生基材を充填する。図6(c)に示すように、第1袋部103には第1内容物111が充填され、第2袋部105には第2内容物112が充填される。充填後、開口端部を接合して綴じることで、周壁101の内部に植生基材を保持することができる。そして、第1袋部103および第2袋部105を互いに接触させるように、周壁101を幅方向に潰して横断面視長円状に変形させることにより、図3および図4に示すような植生袋100を形成することができる。
【0032】
次に、図7を参照して、本実施形態の植生袋100および植生マット10を法面Gに設置した設置構造について説明する。設置構造において、植生マット10は、その縦方向が法面Gの傾斜方向に沿うように配置され、ピンとしての固定部材18(図1,2参照)によって法面Gに固定されている。また、固定部材18は、植生袋100を貫通するように配置されている。これにより、植生袋100がずれることなくシート体11および法面Gに連結され得る。また、植生袋100は、その長手方向が植生マット10の横方向に沿って植生マット10に装着されていることから、斜面の等高線方向に沿って配列している。そして、複数の植生袋100が、法面Gの傾斜方向に配置される。このように、複数の植生袋100が法面Gの傾斜方向に直交する方向に延在することにより、法面流水を堰止めて、より効率的に吸水効果や土砂流失効果を発揮することができる。
【0033】
また、設置構造において、第1袋部103および第2袋部105が法面Gの傾斜方向に隣接して配置されている。第1袋部103が第2袋部105の法肩側に位置している。これにより、第1の種子密度d1を有する第1内容物111が、種子を包含しない(または第2の種子密度d2(<d1)を有する)第2内容物112に対して、上部から隔壁102を介して接触している。隔壁102が通根性および透水性を有することから、第1内容物111および第2内容物112を一塊の植生基材として捉えることができる。そして、一塊の植生基材として捉えた場合、植生基材の上部の表層部分(上部表面から約20mmの深さの部分)が、種子113の発芽に適している発芽領域R1を形成し、その下部側が、種子113の発根および根系伸長に適している根系伸長領域R2を形成する。図7に示すように、より多くの種子を含有する第1袋部103が、発芽領域R1の大部分を含むように配置されている一方で、第2袋部105が、なるべく発芽領域R1を含まずに根系伸長領域R2の大部分を含むように配置されている。すなわち、本実施形態の植生マット10では、第1の種子密度d1(>d2)を有する第1内容物111が発芽領域R1に保持されることで、より多数の種子113が発芽領域R1に相対的に集まるように配置されている。
【0034】
また、遮水性の表皮部107が、周壁101の下部(法面Gの法尻側略半分の部位)において、地面と反対側を向くように配置されている。これにより、周壁101の下部の地面と反対側を向く面(頂壁部101b)には、遮水性領域が形成されている。この遮水性領域が根系伸長領域R2の第2内容物112を上方(表面側)から覆っていることで、第2内容物112の水分の蒸発を抑え、植生基材の保水(保湿)効果が発揮され得る。他方、周壁101の上部(法面Gの法肩側略半分の部位)において、表皮部107が形成されずに、上部通水領域が形成されている。この上部通水領域から、法面Gを流れる流水を周壁101の内部に効果的に取り込むことが可能である。また、周壁101の下部の地面側を向く面には、下部通水領域が形成されている。この下部通水領域は、周壁101内部に取り込んだ水の排水口として機能する。下部通水領域の適度な水抜け作用によって、周壁101内部に取り込んだ水のオーバーフロー(植生袋100内部に流れ込んだ水が、植生基材とともに上部通水領域から溢れ出すこと)を抑え、造成した植生基材が、周壁101の上部から流出することを防止し得る。さらに、表皮部107が頂壁部101bの根系伸長領域R2を覆う部位にのみ形成されていることで、種子113の発芽障害や根系の伸長障害が起こることが抑えられる。換言すると、(根の通過を許容しない)遮水性領域が、仮に周壁101の底壁部101a全体に設けられた場合、種子113の根が周壁101を貫通して地中に伸長することができず、根系の伸長障害が起こることが考えられる。また、(芽の通過を許容しない)遮水性領域が、仮に周壁101上部の頂壁部101b全体に設けられた場合、種子113から発芽した芽が周壁101を貫通して地上に伸長することができず、発芽障害が起こることが考えられる。すなわち、本実施形態の設置構造では、表皮部107を周壁101の約9~12時方向の範囲のみに設けたことにより、植生植物の発芽および生長がより一層促進され得る。
【0035】
次に、図8を参照して、植生マット10を法面Gに設置した設置構造の経時変化について説明する。図8に示す設置構造において、植生袋100の上部の表層部分(第1内容物111)の種子113が優先的に発芽し、植生植物が生長している。この発芽した種子113の根が、第1袋部103の第1内容物111から第2内容物112へと隔壁102を貫通して伸長しているとともに、底壁部101aを貫通して法面Gの地中へと伸長している。特には、第1袋部103に包含された種子113のうち、頂壁部101b側に位置する種子113が発芽し、底壁部101a側の残りの種子113は発芽していない。ここで、本実施形態の植生マット10と、図16に示した従来例の植生マット1とを比較する。植生マット1の植生基材6の種子密度をdとし、植生袋100および植生袋5に導入された種子数を同数と仮定すると、種子密度d、d1、d2の関係は、d2(=0)<d<d1となる。従来例の植生マット1では、植生基材6に導入された種子7のうち約3/4が発芽せずに無駄になっているのに対し、本実施形態の植生マット10では、より多くの種子113が発芽領域R1に集中的に配置されていることから、発芽する種子113の量が相対的に増加している。すなわち、植生マット10および植生袋100は、法面Gに設置された際、植生基材中の発芽領域R1における種子密度を相対的に高くし、根系伸長領域R2における種子密度を相対的に低くするように植生基材を配置することを可能とし、その結果として、種子材の効果的な発芽を促進するものである。したがって、本実施形態の植生マット10および植生袋100は、発芽せずに無駄になる種子量を軽減させ、効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とする。なお、図5に示した別実施形態の植生袋1001、1002、1003を用いた植生マットもまた、その程度の違いはあるとしても、従来と比べて、発芽せずに無駄になる種子量を軽減させ、効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とすることは云うまでもない。
【0036】
続いて、植生マット10を用いて法面Gを緑化する方法について説明する。まず、法面Gの緑化すべき領域の面積に合わせて、シート体11の収容部14の一部または全部に、複数の植生袋100が差し込まれた所定の寸法の1または複数の植生マット10を準備する。そして、植生マット10の縦方向が法面Gの傾斜方向に沿うように、植生マット10を法面Gに敷設する。ここで、植生マット10は、複数の植生袋100が工場等でシート体11に予め装着されることで準備され得るが、シート体11を先に法面Gに敷設した後、作業者が、シート体11の収容部14の一部または全部に、複数の植生袋100を差し込んでもよい。次に、複数の固定部材18を植生マット10を貫通させて法面Gに打設する。いくつかの固定部材18は、植生袋100を貫通するように打設されることが好ましい。以上の工程を経て、植生マット10を法面Gに設置し、法面Gの保護および緑化を促進することができる。
【0037】
発明者らは、上述した本発明の植生マットの作用効果を確認するために実証試験を行った。実証試験は、法面と同様の環境を擬似的に構築するように、約45度傾斜させて設置したトレイに土壌を形成し、土壌表面に各種形態の植生マットを設置し、そして、その経時変化を観察することによって実施された。この実証試験は、外部からの立ち入りが禁止された完全に非公開の敷地内において、5月下旬~6月中旬の植物の生育に適切な気候の下、屋外にて実施された。
【0038】
図9(a)、(b)は、実証試験における実施例1および比較例の植生袋および植生マットの形態を模式的に示している。なお、各要素の符番は上記実施形態の各要素に対応するように付された。実施例1および比較例の植生マットは、シート体として、収容部の上側半分の網目を粗目とし、下半分の網目を細目とした網状シートを用いた。実施例1および比較例の植生袋は、上記実施形態と同様に、斜面上部に第1袋部および斜面下部に第2袋部を設けたものであり、第1袋部と第2袋部との容量比を1:2.5とした。実施例1および比較例の植生袋において、周壁をなす壁材は、透水性および通根性を有する不織布とし、遮水シートからなる表皮部を設けていない。実施例1の植生袋は、植生基材として、第1袋部に第1の種子密度d1を有する土壌を充填し、第2袋部に種子を含有しない(つまり、第2の種子密度d2=0)土壌を充填したものである。第1の種子密度d1は、約2.4g/L(複数種の混合種子)とした。他方、比較例の植生袋は、植生基材として、第1袋部および第2袋部に種子密度dを有する土壌を充填したものである。そして、実施例1と比較例とで植生袋全体の種子量を等量とするように、第1の種子密度d1を種子密度dの3.5倍とした。なお、植生基材を充填した植生袋の厚みを、約50mmとし、(傾斜方向の)幅を約70mmとし、長さを約300mmとした。そして、ピンによって植生袋およびシート体が土壌に固定された。実施例1および比較例の試料は、隣りに並べて配置され、すなわち同等の環境下で生育された。
【0039】
評価方法として、植生マットの設置直後の状態から20日経過後および43日経過後に種子の発芽状態および植生植物の生育状態を撮影した(図10図11参照)。また、15日経過後、20日経過後および43日経過後の試料について、目視による観察により、植生マット表面の植生植物の割合に基づいて、植生袋1本当たりの発芽本数および緑化被覆率を計測し、さらに、植生植物の草丈の最大値を測定した。なお、緑化被覆率は、トレイ表面積に対して、生長した植生植物に被覆された面積の割合である。
【0040】
図10および図11は、それぞれ、実証試験の試験結果として、植生マットを設置してから20日経過後および43日経過後の実施例1および比較例の植生マットの写真(全体写真および拡大写真)を示している。また、15日、20日および43日経過した試料の計測結果(発芽本数、緑化被覆率、最大草丈)を以下の表1に示す。なお、43日経過した試料では、発芽本数が多くなり、発芽本数が計測不可能であったため、緑化被覆率のみで差異を評価した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示すように、15日経過後の観察結果によれば、最大草丈には差異が見られないが、実施例1の発芽本数が306本であるのに対し、比較例の発芽本数が75本である。実施例1の方が比較例と比べて、より多くの種子が効率的に発芽していることが分かった。
【0043】
図10に示すように、20日経過後の観察結果によれば、実施例1および比較例の両方で、植生袋の上部(第1袋部)から植物が優先的に発芽していることが分かる。この写真において、実施例1の方が比較例よりも多くの芽が伸び出ていることが観察された。また、表1に示すように、最大草丈には大きな差異が見られないが、実施例1の発芽本数が536本、緑化被覆率が5~10%であるのに対し、比較例の発芽本数が163本、緑化被覆率が5%未満である。15日経過後の段階から引き続いて、20日経過後の段階でも同様に、実施例1の方が比較例と比べて、より多くの種子が効率的に発芽および生長していることが分かった。
【0044】
図11に示すように、43日経過後の観察結果によれば、実施例1および比較例の両方で、植生袋の上部(第1袋部)で植物が繁茂していることが分かる。この写真において、実施例1の方が比較例よりも植物の生長の度合いが優位であることが観察された。また、表1に示すように、実施例1の緑化被覆率が80~90%、最大草丈が25cmであるのに対し、比較例の緑化被覆率が40~50%、最大草丈が16cmである。43日経過後の段階では、20日経過後の段階よりも両試料の差異が顕著となり、実施例1の方が比較例と比べて、斜面を効率的に緑化することができることが分かった。
【0045】
上記実証試験の結果によれば、本発明の実施例1は、比較例と等量の種子材を用いているのにもかかわらず、種子の発芽段階から生育段階に亘って、植生緑化において有利な効果を発揮することが分かった。換言すれば、植生基材に導入する種子の総量を減らしたとしても、本発明の植生マットは、従来の植生マットと比べて、同程度の緑化を実現可能であると言うこともできる。したがって、本発明の植生マットおよび植生袋が、従来のものと比べて、より効率的かつ経済的に種子材を活用していることが実証された。
【0046】
また、発明者らは、上述した本発明の植生マットにおける遮水性の表皮部の効果を確認するために第2の実証試験を行った。第2の実証試験は、法面と同様の環境を擬似的に構築するように、約45度傾斜させて設置したトレイに土壌を形成し、土壌表面に各種形態の植生マットを設置し、そして、その経時変化を観察することによって実施された。この実証試験は、外部からの立ち入りが禁止された完全に非公開の敷地内において、5月上旬~5月下旬の植物の生育に適切な気候の下、屋外にて実施された。
【0047】
図12(a)~(c)は、第2の実証試験における実施例2~4の植生袋および植生マットの形態を模式的に示している。なお、各要素の符番は、上記実施形態の各要素に対応するように付された。実施例2、3の植生マットは、シート体として、収容部の上側半分の網目を粗目とし、下半分の網目を細目とした網状シートを用いた。実施例4の植生マットは、収容部の全体が粗目の網状シートを用いた。実施例2~4の植生袋は、実施例1と同じ構成とした。なお、植生基材を充填した植生袋の厚みを、約50mmとし、(傾斜方向の)幅を約70mmとし、長さを約300mmとした。実施例2の植生袋において、周壁をなす壁材は、透水性および通根性を有する不織布とし、遮水シートからなる表皮部を設けていない。実施例3、4の植生袋において、周壁をなす壁材は、透水性および通根性を有する不織布とし、周壁下部の地面と反対側を向く領域に遮水シートからなる表皮部をその外面に装着した。この表皮部による遮水性領域は、上記実施形態の第2袋部の地面と反対側を向く面に位置している。本実施例例3、4では、表皮部を1mm厚、幅約60mmの発泡ポリエチレンシートとした。そして、ピンによって植生袋およびシート体が土壌に固定された。実施例2~4の試料は、隣りに並べて配置され、すなわち同等の環境下で生育された。
【0048】
評価方法として、植生マットの設置直後の状態から19日経過後および25日経過後に種子の発芽状態および植生植物の生育状態を撮影した(図13図14参照)。また、14日経過後、19日経過後および25日経過後の試料について、目視による観察により、植生袋1本当たりの発芽本数および緑化被覆率を計測し、さらに、植生植物の草丈の最大値を測定した。
【0049】
図13および図14は、それぞれ、第2の実証試験の試験結果として、植生マットを設置してから19日経過後および25日経過後の実施例2~4の植生マットの写真を示している。また、14日、19日および25日経過後の試料の計測結果(発芽本数、緑化被覆率、最大草丈)を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、14日経過後の観察結果によれば、最大草丈には差異が見られないが、実施例2の発芽本数が208本であるのに対し、実施例3、実施例4の発芽本数がそれぞれ360本、406本である。遮水性の表皮部を設けた実施例3、4の方が実施例2と比べて、より多くの種子が効率的に発芽していることが分かった。一方、実施例3、4における、シート体の網目の違いによっては、有意な差が見られないことが分かった。
【0052】
図13に示すように、19日経過後の観察結果によれば、実施例2~4で、植生袋の上部(第1袋部)から植物が優先的に発芽していることが分かる。この写真において、実施例3、4の方が実施例2よりも多くの芽が伸び出ていることが観察された。また、表2に示すように、最大草丈には大きな差異が見られないが、実施例3、実施例4の発芽本数がそれぞれ654本、648本であり、緑化被覆率が30~40%であるのに対し、実施例2の発芽本数が342本であり、緑化被覆率が20~30%である。14日経過後の段階から引き続いて、19日経過後の段階でも同様に、(遮水性の表皮部を有する)実施例3、4の方が、(表皮部を有しない)実施例2と比べて、より多くの種子が効率的に発芽および生長していることが分かった。また、実施例3、4における、シート体の網目の違いによっては、有意な差が見られないことが分かった。
【0053】
図14に示すように、25日経過後の観察結果によれば、実施例2~4で、植生袋の上部(第1袋部)で植物が繁茂していることが分かる。この写真において、実施例3、4の方が実施例2よりも植物の生長の度合いが優位であることが観察された。また、表2に示すように、最大草丈には大きな差異が見られないが、実施例3、実施例4の緑化被覆率が70~80%であるのに対し、実施例2の緑化被覆率が50~60%である。25日経過後の段階でも同様に、実施例3、4の方が実施例2と比べて、斜面を効率的に緑化することができることが分かった。また、実施例3、4における、シート体の網目の違いによっては、有意な差が見られないことが分かった。
【0054】
上記第2の実証試験の結果によれば、本発明の実施例3、4は、遮水性の表皮部を設けたことにより、(表皮部を有しない)実施例2と比べて、種子の発芽段階から生育段階に亘って、植生緑化において有利な効果を発揮することが分かった。したがって、本発明の植生マットおよび植生袋において、植生袋の周壁の約9~12時方向の範囲に遮水性の表皮部を選択的に設けたことにより、植生基材の保水(保湿)効果を発揮し、より早期の植生の導入が可能となることが実証された。
【0055】
以上を踏まえ、本発明の一実施形態の植生マット10および植生袋100の作用効果について説明する。
【0056】
本実施形態の植生マット10および植生袋100によれば、植生袋100は、内容物が移動しないように隔壁102によって区切られた第1袋部103と第2袋部105とから構成され、第1の種子密度d1を有する植生基材からなる第1内容物111を第1袋部103に内包し、かつ、種子を含有しない、または、第2の種子密度d2(<d1)を有する植生基材からなる第2内容物112を第2袋部105に内包したものである。これにより、本実施形態の植生マット10は、より高い種子密度を有する第1袋部103を主に種子113の発芽のための領域(発芽領域R1)に重合させ、より少ない種子密度を有する第2袋部105を根系が伸長するための領域(根系伸長領域R2)に重合させるように、法面に設置され得る。したがって、本実施形態の植生マット10および植生袋100は、発芽せずに無駄になる種子量を軽減させ、効率的且つ経済的に種子材を活用することを可能とするものである。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限定されず、さらなる実施形態および種々の変形例を取り得る。以下、本発明の別実施形態および変形例を説明する。なお、別実施形態および各変形例において、符番が共通する構成要素は、説明がない限り、同一又は類似の特徴を有し、その説明を一部省略する。
【0058】
(1)本発明の植生マットおよび植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。図15は、別実施形態の植生マット10Aおよび植生袋100Aによる経時後の設置構造を示している。本実施形態の植生マット10Aおよび植生袋100Aは、第1袋部103Aが(透水性および通根性の有無にかかわらず)水解性材料からなる壁材を備えることを特徴とする。他方、第2袋部105Aは、透水性および通根性を有する非水解性材料の壁材からなる。図15に示すように、設置後の降雨によって、第1袋部103Aの壁材が消失し、種子113を多く含む第1内容物111が露出することになる。他方、第2袋部105Aの壁材は、消失せずに残っているので、隔壁102Aにより第1内容物111を法面Gの下側から受け止めることができる。すなわち、より種子密度が高い第1袋部103Aの壁材を水解性としたことにより、設置後、壁材が降雨によって消失し、第1内容物111が流失し易くはなるが、第1内容物111内の種子の発芽または生長が壁材に抑制されることを抑え、結果として、植生植物の生長をより一層促進することができる。なお、第1袋部103Aの壁材は、水解性の不織布、水解性の織布、水溶性フィルム、紙又はこれらの組み合わせ等から形成され得る。より具体的には、水解性の不織布及び織布は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、コットン、又は、これらの混合物を、水溶性の接着剤(ポリビニルアルコール、PVA)等で結合したものである。また、水溶性フィルムは、PVAフィルム等から選択可能である。なお、水溶性フィルムは、分解前の形態では透水性や通根性を有しないが、降雨によって容易に消失することから、種子の発芽や根系の伸長を阻害することはない。なお、当該実施形態では、第1袋部の壁材のみを水解性材料としたが、第2袋部の壁材も同様に水解性材料とし、設置後の降雨によって植生袋全体が水解するように構成されてもよい。
【0059】
(2)本発明の植生マットおよび植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、植生袋の本体部分は、1枚のシート材によって一体的に形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、別体の2つの袋体が、互いに接触するように配置されることで、第1袋部および第2袋部が形成されてもよい。あるいは、1つの袋体の内部に、隔壁として仕切りが追加されることで、第1袋部および第2袋部が形成されてもよい。
【0060】
(3)本発明の植生マットおよび植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、植生袋の袋体は、長筒形状を有しているが、袋体の形状は、長筒形状に限定されず、設置される環境に応じて、当業者によってその形状が適宜選択または変更されてもよい。
【0061】
(4)本発明の植生マットは、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、シート体は、2重織ネットからなる、収容部を有する網状シートによって形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、シート体は、網状シートに貼り付けられた種子付シートを有してもよい。あるいは、シート体は、網状シートを含まずに、単層状または多層状の不織布、織布、紙等で構成されてもよい。そして、シート体は、収容部を省略してもよく、植生袋がシート体上に載置されてピンや接着剤などで固定されて保持されてもよい。
【0062】
(5)本発明の植生マットおよび植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生袋では、遮水性の表皮部が周壁の外面に装着されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、遮水性の表皮部が、周壁(頂壁部)の一部として形成されてもよい。
【0063】
(6)本発明の植生マットおよび植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生袋は、1つの隔壁によって仕切られた第1袋部および第2袋部の2つの袋部を備えるものであるが、本発明はこれに限定されず、本発明の作用効果を発揮し得るかぎり、さらなる袋部や隔壁が追加で設けられてもよい。
【0064】
(7)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、植生袋は、植生マットの一部としてシート体に装着されて使用されたが、法面の地面に直接配置されて使用されてもよい。
【0065】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0066】
10 植生マット
11 シート体
14 収容部
18 固定部材
100 植生袋
101 周壁
101a 底壁部
101b 頂壁部
102 隔壁
103 第1袋部
105 第2袋部
107 表皮部
108 シート材
109 遮水シート
111 第1内容物(植生基材)
112 第2内容物(植生基材)
113 種子
G 法面
R1 発芽領域
R2 根系伸長領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16