(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022779
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240214BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240214BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20240214BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126114
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小山 莉央
(72)【発明者】
【氏名】米澤 諭
(72)【発明者】
【氏名】国頭 正樹
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029HJ01
5H029HJ14
5H029HJ20
(57)【要約】
【課題】充放電による化学劣化を抑制できる固体二次電池を提供すること。
【解決手段】正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池であって、酸化耐性を有する第1の固体電解質と、還元耐性を有する第2の固体電解質と、を有し、正極層に含有される固体電解質のうち、第1の固体電解質の含有量は、第2の固体電解質よりも多く、固体電解質層の正極層側の領域に含有される固体電解質のうち、第1の固体電解質の含有量は、第2の固体電解質よりも多く、固体電解質層の負極層側の領域に含有される固体電解質のうち、第2の固体電解質の含有量は、第1の固体電解質の含有量よりも多い、固体二次電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池であって、
酸化耐性を有する第1の固体電解質と、還元耐性を有する第2の固体電解質と、を有し、
前記正極層に含有される固体電解質のうち、前記第1の固体電解質の含有量は、前記第2の固体電解質よりも多く、
前記固体電解質層の前記正極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第1の固体電解質の含有量は、前記第2の固体電解質よりも多く、
前記固体電解質層の前記負極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第2の固体電解質の含有量は、前記第1の固体電解質の含有量よりも多い、固体二次電池。
【請求項2】
前記第1の固体電解質のイオン伝導率以上、かつ前記第2の固体電解質のイオン伝導率以上のイオン伝導率を有する第3の固体電解質を更に有し、
前記固体電解質層の前記正極層側の領域と前記負極層側の領域との間の領域である中間領域に含有される固体電解質のうち、前記第3の固体電解質の含有量は、他の種類の固体電解質よりも多い、請求項1に記載の固体二次電池。
【請求項3】
前記第1の固体電解質、前記第2の固体電解質、及び前記第3の固体電解質のいずれよりも低い融点を有する第4の固体電解質を更に有する、請求項2に記載の固体二次電池。
【請求項4】
前記正極層は、正極活物質を有し、
前記正極活物質の表面は、前記第1の固体電解質を50質量%以上含む固体電解質で被覆される、請求項1~3のいずれかに記載の固体二次電池。
【請求項5】
正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池の製造方法であって、
酸化耐性を有する第1の固体電解質を含む材料を用いて前記正極層を形成する工程と、
前記第1の固体電解質と、還元耐性を有する第2の固体電解質とを含む材料を用いて前記固体電解質層を形成する工程と、を含み、
前記固体電解質層を形成する工程は、前記固体電解質層の前記正極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第1の固体電解質の含有量は、前記第2の固体電解質よりも多く、かつ前記固体電解質層の前記負極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第2の固体電解質の含有量は、前記第1の固体電解質の含有量よりも多くなるように、前記固体電解質層を形成する、固体二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層を形成する工程は、
前記正極層側に前記第1の固体電解質を前記第2の固体電解質よりも多く含む材料を用いて前記固体電解質層の一部の層を形成する工程と、
前記負極層側に前記第2の固体電解質を前記第1の固体電解質よりも多く含む材料を用いて前記固体電解質層の一部の層を形成する工程と、を含む、請求項5に記載の固体二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記固体電解質層を形成する工程は、
前記第1の固体電解質のイオン伝導率以上、かつ前記第2の固体電解質のイオン伝導率以上のイオン伝導率を有する第3の固体電解質を含む材料を用いて前記固体電解質層を形成し、
前記固体電解質層の前記正極層側の領域と前記負極層側の領域との間の領域である中間領域に、前記第3の固体電解質を他の種類の固体電解質よりも多く含む材料を用いて前記固体電解質層の一部の層を形成する工程を更に含む、請求項5又は6に記載の固体二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記正極層を形成する工程、及び前記固体電解質層を形成する工程のうち少なくとも何れかは、前記第1の固体電解質、前記第2の固体電解質、及び前記第3の固体電解質のいずれよりも低い融点を有する第4の固体電解質を含む材料を用いて各層を形成する工程であり、
前記第4の固体電解質が配置された後に、加熱することで前記第4の固体電解質を溶融させる加熱処理工程を更に含む、請求項7に記載の固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。二次電池の中でも固体電池は、リチウムイオン等の電荷移動媒体の伝導体として使用される固体電解質が不燃性であるために安全性が向上する点や、より高いエネルギー密度を有する点において優れており、特に注目を集めている。
【0003】
固体電解質としては、例えば、リチウムイオン伝導率が高い硫化物系固体電解質が従来知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体二次電池は、正極層と、固体電解質層と、負極層と、がこの順に積層された積層体を有する。固体電解質は、固体電解質層だけでなく、正極層や負極層にも含まれ得る。特許文献1に開示された技術を含め、従来の技術では、単一の種類の固体電解質が使用されることが一般的だった。この結果、固体二次電池の充放電を繰り返すにつれ、正極層やその付近の固体電解質層では固体電解質が酸化され、負極層やその付近の固体電解質層では固体電解質が還元されることで、固体二次電池が劣化するという課題がある。正極と負極の何れに対しても安定な広い電位窓を有する固体電解質を使用することも考えられるが、そのような固体電解質は従来知られていないのが現状だった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、充放電による化学劣化を抑制できる固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池であって、酸化耐性を有する第1の固体電解質と、還元耐性を有する第2の固体電解質と、を有し、前記正極層に含有される固体電解質のうち、前記第1の固体電解質の含有量は、前記第2の固体電解質よりも多く、前記固体電解質層の前記正極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第1の固体電解質の含有量は、前記第2の固体電解質よりも多く、前記固体電解質層の前記負極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第2の固体電解質の含有量は、前記第1の固体電解質の含有量よりも多い、固体二次電池に関する。
【0008】
(1)の発明によれば、充放電による化学劣化を抑制できる固体二次電池を提供できる。
【0009】
(2) 前記第1の固体電解質のイオン伝導率以上、かつ前記第2の固体電解質のイオン伝導率以上のイオン伝導率を有する第3の固体電解質を更に有し、前記固体電解質層の前記正極層側の領域と前記負極層側の領域との間の領域である中間領域に含有される固体電解質のうち、前記第3の固体電解質の含有量は、他の種類の固体電解質よりも多い、(1)に記載の固体二次電池。
【0010】
(2)の発明によれば、固体二次電池の抵抗の増加を抑制できる。
【0011】
(3) 前記第1の固体電解質、前記第2の固体電解質、及び前記第3の固体電解質のいずれよりも低い融点を有する第4の固体電解質を更に有する、(2)に記載の固体二次電池。
【0012】
(3)の発明によれば、固体二次電池の抵抗の増加を抑制でき、拘束圧を低下させることができると共に、デンドライトの析出を抑制できる。
【0013】
(4) 前記正極層は、正極活物質を有し、前記正極活物質の表面は、前記第1の固体電解質を50質量%以上含む固体電解質で被覆される、(1)~(3)いずれかに記載の固体二次電池。
【0014】
(4)の発明によれば、正極活物質の表面に存在する固体電解質が酸化されて抵抗が上昇することを抑制できる。
【0015】
(5) また、本発明は、正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池の製造方法であって、酸化耐性を有する第1の固体電解質を含む材料を用いて前記正極層を形成する工程と、前記第1の固体電解質と、還元耐性を有する第2の固体電解質とを含む材料を用いて前記固体電解質層を形成する工程と、を含み、前記固体電解質層を形成する工程は、前記固体電解質層の前記正極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第1の固体電解質の含有量は、前記第2の固体電解質よりも多く、かつ前記固体電解質層の前記負極層側の領域に含有される固体電解質のうち、前記第2の固体電解質の含有量は、前記第1の固体電解質の含有量よりも多くなるように、前記固体電解質層を形成する、固体二次電池の製造方法に関する。
【0016】
(5)の発明によれば、充放電による化学劣化を抑制できる固体二次電池を製造できる。
【0017】
(6) 前記固体電解質層を形成する工程は、前記正極層側に前記第1の固体電解質を前記第2の固体電解質よりも多く含む材料を用いて前記固体電解質層の一部の層を形成する工程と、前記負極層側に前記第2の固体電解質を前記第1の固体電解質よりも多く含む材料を用いて前記固体電解質層の一部の層を形成する工程と、を含む、(5)に記載の固体二次電池の製造方法。
【0018】
(6)の発明によれば、充放電による化学劣化を抑制できる固体二次電池を好ましく製造できる。
【0019】
(7) 前記固体電解質層を形成する工程は、前記第1の固体電解質のイオン伝導率以上、かつ前記第2の固体電解質のイオン伝導率以上のイオン伝導率を有する第3の固体電解質を含む材料を用いて前記固体電解質層を形成し、前記固体電解質層の前記正極層側の領域と前記負極層側の領域との間の領域である中間領域に、前記第3の固体電解質を他の種類の固体電解質よりも多く含む材料を用いて前記固体電解質層の一部の層を形成する工程を更に含む、(5)又は(6)に記載の固体二次電池の製造方法。
【0020】
(7)の発明によれば、抵抗の増加が抑制された固体二次電池を製造できる。
【0021】
(8) 前記正極層を形成する工程、及び前記固体電解質層を形成する工程のうち少なくとも何れかは、前記第1の固体電解質、前記第2の固体電解質、及び前記第3の固体電解質のいずれよりも低い融点を有する第4の固体電解質を含む材料を用いて各層を形成する工程であり、前記第4の固体電解質が配置された後に、加熱することで前記第4の固体電解質を溶融させる加熱処理工程を更に含む、(7)に記載の固体二次電池の製造方法。
【0022】
(8)の発明によれば、固体二次電池の抵抗の増加が抑制され、拘束圧を低下させることができると共に、デンドライトの析出が抑制される固体二次電池を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固体二次電池の積層体の構成を示す断面模式図である。
【
図2】実施例及び比較例に係る硫化物系固体電解質のXRDスペクトルである。
【
図3】実施例に係る硫化物系固体電解質の充放電試験結果を示すグラフである。
【
図4】実施例に係る硫化物系固体電解質の充放電試験結果を示すグラフである。
【
図5】実施例に係る硫化物系固体電解質の熱処理時間とイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例に係る硫化物系固体電解質のLSV測定結果である。
【
図7】実施例に係る硫化物系固体電解質の耐久試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<固体二次電池>
本実施形態に係る固体二次電池は、
図1に示すように、正極層2と、固体電解質層3と、負極層4と、がこの順に積層されてなる積層体1を有する。積層体1における上記いずれの層にも固体電解質が含まれ得る。本実施形態に係る固体二次電池は、正極層2及び正極層2側の固体電解質層3に酸化耐性を有する第1の固体電解質が比較的多く含まれ、負極層4側の固体電解質層3に還元耐性を有する第2の固体電解質が比較的多く含まれる。これにより、固体二次電池の充放電による化学劣化を抑制することができる。
【0025】
(固体電解質)
本実施形態に係る固体二次電池は、酸化耐性を有する第1の固体電解質32と、還元耐性を有する第2の固体電解質34と、を有する。上記以外に、固体二次電池は、第3の固体電解質33及び第4の固体電解質31のうち少なくとも何れかを更に有していてもよい。
【0026】
第1の固体電解質32は、高電位の正極に対して酸化され難く安定な固体電解質である。第1の固体電解質32の具体例としては、例えば、Li2ZrCl6等の塩化物、LLZO(Li7La3Zr2O12)等の酸化物が挙げられる。
【0027】
第2の固体電解質34は、低電位の負極に対して還元され難く安定な固体電解質である。第2の固体電解質34の具体例としては、例えば、LiBH4、LiBH4-LiNH2等の水素化物、LIPON等の酸化物が挙げられる。
【0028】
第1の固体電解質32及び第2の固体電解質34のうち少なくとも何れかとして、Li2S-P2S5と、LiBH4と、の間に化学結合が形成され、Li2S-P2S5と、LiBH4とのモル比が、1:0.5である硫化物系固体電解質を用いてもよい。上記硫化物系固体電解質は、優れた耐還元性及び耐酸化性を有するためである。即ち、第1の固体電解質32及び第2の固体電解質34のいずれも上記硫化物系固体電解質として共通の固体電解質としてもよい。
【0029】
第3の固体電解質33は、第1の固体電解質32、及び第2の固体電解質34よりも高いイオン伝導率を有する固体電解質である。第3の固体電解質33の具体例としては、例えば、Li2S-P2S5-LiX(X:ハロゲン)等のLPS系-LiX硫化物系固体電解質が挙げられる。なお、上記「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物系固体電解質材料を意味する。
【0030】
第4の固体電解質31は、第1の固体電解質32、第2の固体電解質34、及び前記第3の固体電解質33のいずれよりも低い融点を有する。第4の固体電解質31の具体例としては、例えば、LiBH4-LiNH2が挙げられる。なお、LiBH4とLiNH2とのモル比は任意に設定することができる。第4の固体電解質31を溶融させた後に冷却して凝固させることで、第4の固体電解質31の粒子は他の粒子間に充填配置されることで結着材として機能する。このため、有機バインダに代えて第4の固体電解質31を用いることで、抵抗の増加を抑制できるだけでなく、接着を維持するための拘束圧を低下させた場合においても固体二次電池の電池性能を維持することができる。従って、固体二次電池に拘束圧を加える部材の設置スペースや製造コストを低減できる。また、負極層4としてリチウム金属を用いた場合、第4の固体電解質31により固体電解質層3と負極層4との間に均一な界面を形成することができるため、デンドライトの析出を抑制することができる。
【0031】
(正極層)
正極層2は、正極集電体と、少なくとも正極活物質21を含有する正極活物質層と、固体電解質と、を有する層である。なお、正極集電体については
図1では図示を省略している。
【0032】
正極集電体は、正極層の集電を行う機能を有するものであれば、特に限定されず、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム、アルミニウム合金及びステンレスが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状等を挙げることができる。
【0033】
正極活物質21は、一般的な固体電池の正極層に用いられるものと同様のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、リチウムイオン電池であれば、リチウムを含有する層状活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質等を挙げることができる。正極活物質21の具体例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、LiNipMnqCorO2(p+q+r=1)、LiNipAlqCorO2(p+q+r=1)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、Li1+xMn2-x-yMyO4(x+y=2、M=Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる少なくとも1種)で表される異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム(Li及びTiを含む酸化物)、リン酸金属リチウム(LiMPO4、M=Fe、Mn、Co、及びNiから選ばれる少なくとも1種)等が挙げられる。
【0034】
正極層2における固体電解質のうち、第1の固体電解質32の含有量は、第2の固体電解質34よりも多い。本実施形態において、正極層2における固体電解質のうち、第1の固体電解質32の含有量は、5~55質量%であり、第3の固体電解質33の含有量は、40~85質量%であり、第4の固体電解質31の含有量は5~10質量%であることが好ましい。
【0035】
正極活物質21の表面は、第1の固体電解質32を50質量%以上含む固体電解質で被覆されていることが好ましい。これにより、正極活物質21の表面に存在する固体電解質が酸化されて抵抗が上昇することを抑制できる。正極活物質21の表面を被覆する固体電解質のうち、第1の固体電解質32の含有量は、50~100質量%であり、第3の固体電解質33の含有量は、0~50質量%であることが好ましい。上記正極活物質21の表面を固体電解質で被覆する方法としては、例えば、正極活物質21と固体電解質とを混合してミキサー等により強いせん断力を加えることで、正極活物質21と固体電解質とを複合化する方法が挙げられる。上記方法によれば、粒径の差が大きい正極活物質21と固体電解質とが分子間力により結合し、複合化が起こるものと考えられる。
【0036】
正極層2は、上記以外に、導電性を向上させるために任意に導電助剤22を含んでいてもよい。さらに、粒子間の結着力と塗工性を向上させる等の観点から、任意にバインダを含んでいてもよい。一方で、本実施形態における正極層2には、第4の固体電解質31が含まれることから、正極層2は、バインダを含有しないことが好ましい。正極層2に含まれ得る導電助剤22及びバインダとしては、特に限定されず、一般に固体電池に使用されるものを用いることができる。
【0037】
(固体電解質層)
固体電解質層3は、正極層と負極層との間に積層される層であり、少なくとも固体電解質を含有する層である。固体電解質層3に含まれる固体電解質を介して、正極活物質及び負極活物質の間の電荷移動媒体伝導を行うことができる。
【0038】
固体電解質層3は、固体電解質層3に含まれる固体電解質の比率がそれぞれ異なる、複数の領域を有する。本実施形態において、固体電解質層3は、正極層2側の領域R1と、負極層4側の領域R3及びR4と、中間領域R2と、を含む。なお、領域R4は、負極層4に隣接する領域であり、領域R3は領域R4に隣接する領域である。
【0039】
正極層2側の領域R1に含有される固体電解質のうち、第1の固体電解質32の含有量は、5~55質量%であり、第3の固体電解質33の含有量は、40~85質量%であり、第4の固体電解質31の含有量は5~10質量%であることが好ましい。
【0040】
中間領域R2に含有される固体電解質のうち、第3の固体電解質33の含有量は、90~99質量%であり、第4の固体電解質31の含有量1~10質量%であることが好ましい。
【0041】
負極層4側の領域R3に含有される固体電解質のうち、第2の固体電解質34の含有量は、5~55質量%であり、第3の固体電解質33の含有量は、40~85質量%であり、第4の固体電解質31の含有量は5~10質量%であることが好ましい。
【0042】
負極層4側の領域R4に含有される固体電解質のうち、第2の固体電解質34の含有量は、0~95質量%であり、第4の固体電解質31の含有量は5~100質量%であることが好ましい。
【0043】
固体電解質層3を上記構成とすることにより、固体二次電池の充放電による化学劣化を抑制できると共に、抵抗の増加を抑制でき、固体二次電池の拘束圧を低減することができる。また、固体二次電池の負極層4としてリチウム金属を用いた場合に、デンドライトの析出を抑制できる。
【0044】
(負極層)
負極層4は、負極集電体と、少なくとも負極活物質を含有する負極活物質層と、固体電解質と、を有する層である。
【0045】
負極活物質層に含有される負極活物質としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン等の電荷移動媒体を吸蔵及び放出、又は溶解及び析出させることができる公知の材料を適宜選択して用いることができる。例えば、チタン酸リチウム等のリチウム遷移金属酸化物、TiO2、Nb2O3及びWO3等の遷移金属酸化物、Si、SiO、金属硫化物、金属窒化物、並びに人工黒鉛、天然黒鉛、グラファイト、ソフトカーボン及びハードカーボン等の炭素材料、並びに金属リチウム、金属インジウム及びリチウム合金等が挙げられる。負極活物質層としては、リチウム金属層を有することが好ましい。
【0046】
負極活物質層は、電荷移動媒体伝導性を向上させる観点から、第2の固体電解質34、第4の固体電解質31等の任意の固体電解質を含んでいてもよい。負極活物質層は、バインダを含んでいてもよいが、バインダを含まないことが好ましい。
【0047】
<固体二次電池の製造方法>
本実施形態に係る固体二次電池の製造方法は、正極層2と、固体電解質層3と、負極層4とをこの順序で積層させることで製造される。なお、上記積層した後は、任意にプレスして一体化してもよい。更に、上記構成単位を単位電池として複数積層してもよい。
【0048】
正極層2、及び負極層4を形成する工程は、例えば、上記正極活物質層を構成する成分を含む正極合材スラリーを正極集電体に対して塗工する工程であってもよい。塗工する手段としては特に限定されず、インクジェット法、スクリーン印刷法、CVD法、スパッタ法などを用いることができるほか、ドクターブレード、ディッピング等の公知の塗工手段を用いてもよい。負極層4の負極活物質層としてリチウム金属を用いる場合は、リチウム金属と負極集電体とをクラッド材等により接合してもよい。
【0049】
固体電解質層3を形成する工程は、例えば、正極層2側に配置される固体電解質層3の一部の層を形成する固体電解質スラリーと、負極層4側に配置される固体電解質層3の一部の層を形成する固体電解質スラリーと、正極層2側の領域と負極層4側の領域との間の領域である中間領域に配置される固体電解質層3の一部の層を形成する固体電解質スラリーと、を個別に調製する工程と、上記調製した固体電解質スラリーを用いて順次、固体電解質層の一部の層を形成する工程と、を含んでいてもよい。上記各領域に配置される固体電解質層に含まれる固体電解質の比率は上述の通りである。
【0050】
上記固体電解質層の一部の層を順次形成する工程は、各固体電解質層の一部の層を個別に作成して積層させる工程であってもよいし、正極層2又は負極層4に対して順次固体電解質スラリーを塗工する工程であってもよい。固体電解質スラリーを塗工する手段としては、上記正極合材スラリーを塗工する手段と同様の手段を用いることができる。
【0051】
正極層2、及び固体電解質層3を第4の固体電解質31を用いて形成する場合、上記塗工工程後に各層を加熱することで第4の固体電解質31を溶融させる加熱処理工程を含むことが好ましい。加熱処理工程により、第4の固体電解質31が溶融し、その後冷却して凝固することで、第4の固体電解質31の粒子を他の粒子間に充填配置することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例0053】
以下、実施例を用いて、本発明の第1の固体電解質及び第2の固体電解質として用いることができる、Li2S-P2S5と、LiBH4と、の間に化学結合が形成され、Li2S-P2S5と、LiBH4とのモル比が、1:0.5である硫化物系固体電解質について詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0054】
<硫化物系固体電解質の調製>
(実施例1)
硫化物系固体電解質の原料としてのLi2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比が、3:1:2となるように配合し、フラスコミキサーを用いて、溶媒としてのTHF20mlと共に撹拌(30rpm、25℃)し、均一な分散・溶解状態とした。次に、撹拌しながらマントルヒーターで加熱することで溶媒を除去した(30rpm、150℃)。溶媒除去後、真空電気炉で熱処理(100℃)することで、実施例1に係る硫化物系固体電解質を調製した。
【0055】
(比較例1、2)
Li2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比を、表1に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1、2に係る硫化物系固体電解質を調製した。
【0056】
【0057】
[XRD測定]
XRD(Bruker AXS社製「D8 ADVANCE」、X線源)を用いて、上記実施例及び比較例に係る硫化物系固体電解質の結晶構造を解析した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。
【0058】
図2に示すように、比較例1、2に係る硫化物系固体電解質は、原料物質に起因するピーク(P21~P24)が認められる。一方で、実施例1に係る硫化物系固体電解質は、上記原料物質に起因するピークが消失し、新たにXRDデータベースに存在しない未知のピーク(P11~P14)が、それぞれ2θ[deg]=29、33、48、及び57付近に認められた。これにより、新たな結晶構造が確認され、Li
2S-P
2S
5と、LiBH
4と、の間に化学結合が形成されていることが推認される。
【0059】
[充放電試験]
実施例1に係る硫化物系固体電解質の熱処理条件を250℃、18時間として結晶を成長させた硫化物系固体電解質を固体電解質層に用い、正極活物質をNCM811(LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2)として正極層を作製し、リチウム-アルミニウム合金を負極層として固体電池セルを作製し、充放電試験を行った。結果を
図3に示す。また、熱処理条件を250℃、60時間として結晶を成長させた硫化物系固体電解質を用いて上記と同様に固体電池セルを作製し、充放電試験を行った。結果を
図4に示す。
【0060】
図3及び
図4に示すように、本実施形態に係る硫化物系固体電解質を用いた固体二次電池は、充放電が行えることが確認された。また、熱処理時間を増やすことで、理論容量が増大することが確認された。
【0061】
[イオン伝導度測定]
図5は、実施例1に係る硫化物系固体電解質の熱処理条件を変化させた場合における、イオン伝導度の測定結果である。イオン伝導度は、実施例1に係る固体電解質単体に対して交流インピーダンス測定を行い、得られた抵抗値から算出した。
図5の結果から、熱処理温度250℃、熱処理時間88時間とした場合に、イオン伝導度が最大になる結果が確認された。
【0062】
[LSV測定]
図6は、実施例1に係る硫化物系固体電解質を固体電解質層に用い、正極活物質をNCM811として正極層を作製し、負極層としてリチウム金属を用いて作製した固体二次電池(
図6中、LPSBH)の、LSV測定結果を示すグラフである。
図6のLSV測定条件は、NCM811の満充電時における標準電位から、リチウム金属の標準電位まで、5mV/sで掃引した。また、市販の硫化物系固体電解質(
図6中、LPS-LiX、X:ハロゲン)を用いたこと以外は上記と同様にして固体二次電池を作製し、上記と同様の条件でLSV測定を行った。
図6のグラフ中、横軸が電位(V)を示し、縦軸が電流(mA)を示す。
【0063】
図6に示すように、実施例1に係る硫化物系固体電解質を用いた固体二次電池は、従来の硫化物系固体電解質を用いた固体二次電池と比較して、酸化反応及び還元反応がほとんど起こっておらず、耐酸化性及び耐還元性に優れている結果が確認された。
【0064】
[抵抗劣化測定]
図6に示す固体電解質を用いて固体二次電池を作成し、交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。その後満充電の状態でそれぞれ3日間、及び7日間放置した後に、同様に交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。結果を
図7に示す。
図7に示すように、実施例1に係る硫化物系固体電解質を用いて製造した固体二次電池は、満充電で7日間放置した後であっても抵抗値が上昇せず、好ましい耐久性が得られる結果が確認された。これに対して、従来のアルジロダイト型硫化物系固体電解質を用いて同様に交流インピーダンス法により抵抗値を測定したところ、満充電で7日間放置した後の抵抗値は初期の抵抗値に対して12倍に上昇し、満充電で14日間放置した後の抵抗値は初期の抵抗値に対して23倍に上昇する結果が確認された。