(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022781
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】硫化物系固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20240214BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240214BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240214BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240214BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240214BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240214BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01B1/10
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/133
H01M4/40
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126120
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小山 莉央
(72)【発明者】
【氏名】米澤 諭
(72)【発明者】
【氏名】国頭 正樹
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ13
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA12
5H050AA18
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】耐酸化性及び耐還元性に優れた硫化物系固体電解質を提供すること。
【解決手段】硫化物系固体電解質であって、Li
2S-P
2S
5と、LiBH
4と、の間に化学結合が形成され、Li
2S-P
2S
5と、LiBH
4とのモル比が、1:0.5である、硫化物系固体電解質。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系固体電解質であって、
Li2S-P2S5と、LiBH4と、の間に化学結合が形成され、
前記Li2S-P2S5と、前記LiBH4とのモル比が、1:0.5である、硫化物系固体電解質。
【請求項2】
正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池であって、
前記正極層、前記固体電解質層、及び前記負極層のうち少なくとも何れかは、請求項1に記載の硫化物系固体電解質を有し、
前記負極層は、リチウム金属層を有する、固体二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法であって、
Li2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比が、6:2:3となるように液相法によって調製する工程を含む、硫化物系固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。二次電池の中でも固体電池は、リチウムイオン等の電荷移動媒体の伝導体として使用される固体電解質が不燃性であるために安全性が向上する点や、より高いエネルギー密度を有する点において優れており、特に注目を集めている。
【0003】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導率が高い硫化物系固体電解質が従来知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている硫化物系固体電解質は、固体電池の負極としてリチウム金属を用いた場合のリチウム金属に対する耐還元性に課題がある。固体電解質が還元されると、例えばLi2S等による抵抗層が形成される。また、硫化物系固体電解質は、高電位活物質に対する耐酸化性に課題がある。固体電解質が酸化されると、酸化被膜により抵抗が増加する。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、耐酸化性及び耐還元性に優れた硫化物系固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、硫化物系固体電解質であって、Li2S-P2S5と、LiBH4と、の間に化学結合が形成され、前記Li2S-P2S5と、前記LiBH4とのモル比が、1:0.5である、硫化物系固体電解質に関する。
【0008】
(1)の発明によれば、耐酸化性及び耐還元性に優れた硫化物系固体電解質を提供できる。
【0009】
(2) 正極層と、固体電解質層と、負極層と、が積層されてなる積層体を有する固体二次電池であって、前記正極層、前記固体電解質層、及び前記負極層のうち少なくとも何れかは、(1)に記載の硫化物系固体電解質を有し、前記負極層は、リチウム金属層を有する、固体二次電池。
【0010】
(2)の発明によれば、負極層としてリチウム金属層を有する固体二次電池において、固体電解質が優れた耐還元性を有しているため、固体二次電池の耐久性を向上できる。
【0011】
(3) (1)に記載の硫化物系固体電解質の製造方法であって、Li2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比が、6:2:3となるように液相法によって調製する工程を含む、硫化物系固体電解質の製造方法。
【0012】
(3)の発明によれば、(1)に記載の硫化物系固体電解質を好ましく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例及び比較例に係る硫化物系固体電解質のXRDスペクトルである。
【
図2】実施例に係る硫化物系固体電解質の充放電試験結果を示すグラフである。
【
図3】実施例に係る硫化物系固体電解質の充放電試験結果を示すグラフである。
【
図4】実施例に係る硫化物系固体電解質の熱処理時間とイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例及び比較例に係る硫化物系固体電解質のLSV測定結果である。
【
図6】実施例に係る硫化物系固体電解質の耐久試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<硫化物系固体電解質>
本実施形態に係る硫化物系固体電解質は、耐還元性、及び耐酸化性のいずれも従来の硫化物系固体電解質よりも優れている。従って、本実施形態に係る硫化物系固体電解質は、例えば負極をリチウム金属等の比較的低電位の材料で構成した固体二次電池に対して好ましく適用することができる。
【0015】
本実施形態に係る硫化物系固体電解質は、Li2S-P2S5と、LiBH4と、の間に化学結合が形成され、Li2S-P2S5と、LiBH4とのモル比が、1:0.5である。本実施形態に係る硫化物系固体電解質は、XRD測定により得られるXRDスペクトルにおいて、2θ[deg]=29、33、48、及び57付近に結晶ピークを有する新規の結晶構造を有しており、上記化学結合の形成が推認される。
【0016】
本実施形態に係る硫化物系固体電解質は、錯イオンであるBH4-が存在することから、リチウム金属等の比較的低電位の材料により構成される負極に対する、耐還元性が向上すると考えられる。
【0017】
<硫化物系固体電解質の製造方法>
本実施形態に係る硫化物系固体電解質の製造方法としては、Li2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比、Li2S:P2S5:LiBH4が6:2:3となるように、液相法によって調製する工程を含む。上記液相法によって調製する工程は、Li2Sと、P2S5と、LiBH4と、を、モル比が、6:2:3となるように配合し、THF等の任意の溶媒内で撹拌する撹拌工程と、撹拌を続けながら加温して溶媒を除去する溶媒除去工程と、を含む。上記以外に、硫化物系固体電解質の製造方法としては、熱処理工程を含んでいてもよい。熱処理工程により、硫化物系固体電解質の結晶を成長させ、伝導性を向上させることができる。
【0018】
<固体二次電池>
本実施形態に係る固体二次電池は、正極層と、固体電解質層と、負極層と、がこの順に積層されてなる積層体を有する。上記正極層、固体電解質層、及び負極層のうち少なくとも何れかは、本実施形態に係る硫化物系固体電解質を有する。上記積層体は、固体電解質層と負極層との間に、負極層の界面への金属の不均一な析出を抑制する中間層を有していてもよい。一方で、本実施形態に係る硫化物系固体電解質は優れた耐還元性を有しているため、上記中間層を有しない積層体により、固体二次電池を構成することもできる。これにより、固体二次電池のエネルギー密度を向上でき、かつ製造コストを低下させることができる。
【0019】
(正極層)
正極層は、正極集電体と、少なくとも正極活物質を含有する正極活物質層と、を有する層である。
【0020】
正極集電体は、正極層の集電を行う機能を有するものであれば、特に限定されず、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム、アルミニウム合金及びステンレスが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状等を挙げることができる。
【0021】
正極活物質層に含有される正極活物質としては、一般的な固体電池の正極層に用いられるものと同様とすることができ、特に限定されない。例えば、リチウムイオン電池であれば、リチウムを含有する層状活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質等を挙げることができる。正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、LiNipMnqCorO2(p+q+r=1)、LiNipAlqCorO2(p+q+r=1)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、Li1+xMn2-x-yMyO4(x+y=2、M=Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる少なくとも1種)で表される異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム(Li及びTiを含む酸化物)、リン酸金属リチウム(LiMPO4、M=Fe、Mn、Co、及びNiから選ばれる少なくとも1種)等が挙げられる。
【0022】
正極活物質層は、電荷移動媒体伝導性を向上させる観点から、任意に固体電解質を含んでいてもよい。上記固体電解質としては、耐酸化性を有することから、本実施形態に係る硫化物系固体電解質であることが好ましい。また、正極活物質層は、導電性を向上させるために任意に導電助剤を含んでいてもよい。さらに、粒子間の結着力を発現させる等の観点から、任意にバインダを含んでいてもよい。導電助剤及びバインダについては、一般に固体電池に使用されるものを用いることができる。
【0023】
(固体電解質層)
固体電解質層は、正極層と負極層との間に積層される層であり、少なくとも固体電解質材料を含有する層である。固体電解質層に含まれる固体電解質材料を介して、正極活物質及び負極活物質の間の電荷移動媒体伝導を行うことができる。固体電解質層に含有される固体電解質は、本実施形態に係る硫化物系固体電解質であることが好ましい。
【0024】
(負極層)
負極層は、負極集電体と、少なくとも負極活物質を含有する負極活物質層と、からなる層である。
【0025】
負極集電体は、負極層の集電を行う機能を有するものであれば、特に限定されず、負極集電体の材料としては、例えばニッケル、銅、及びステンレス等を挙げることができる。また、負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状等を挙げることができる。
【0026】
負極活物質層に含有される負極活物質としては、リチウムイオン等の電荷移動媒体を吸蔵及び放出、又は溶解及び析出させることができる公知の材料を適宜選択して用いることができる。例えば、チタン酸リチウム等のリチウム遷移金属酸化物、TiO2、Nb2O3及びWO3等の遷移金属酸化物、Si、SiO、金属硫化物、金属窒化物、並びに人工黒鉛、天然黒鉛、グラファイト、ソフトカーボン及びハードカーボン等の炭素材料、並びに金属リチウム、金属インジウム及びリチウム合金等が挙げられる。負極活物質層としては、リチウム金属層を有することが好ましい。本実施形態に係る硫化物系固体電解質は、優れた耐還元性を有するため、比較的低電位の材料である金属リチウムを有するLi金属層を負極活物質層として使用した場合においても、好ましい固体二次電池の耐久性が得られる。
【0027】
負極活物質層は、電荷移動媒体伝導性を向上させる観点から、任意に固体電解質を含んでいてもよい。上記固体電解質としては、耐還元性を有することから、本実施形態に係る硫化物系固体電解質であることが好ましい。また、可撓性を発現させる等の観点から、任意にバインダを含んでいてもよい。バインダについては、一般に固体電池に使用されるものを用いることができる。
【0028】
<固体二次電池の製造方法>
本実施形態に係る固体二次電池の製造方法は、特に限定されるものでは無く、上記正極層と、固体電解質層と、負極層と、をこの順序で積層させることで製造される。なお、上記積層した後は、任意にプレスして一体化してもよい。更に、上記構成単位を単位電池として複数積層してもよい。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例0030】
以下、実施例を用いて本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0031】
<硫化物系固体電解質の調製>
(実施例1)
硫化物系固体電解質の原料としてのLi2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比が、3:1:2となるように配合し、フラスコミキサーを用いて、溶媒としてのTHF20mlと共に撹拌(30rpm、25℃)し、均一な分散・溶解状態とした。次に、撹拌しながらマントルヒーターで加熱することで溶媒を除去した(30rpm、150℃)。溶媒除去後、真空電気炉で熱処理(100℃)することで、実施例1に係る硫化物系固体電解質を調製した。
【0032】
(比較例1、2)
Li2Sと、P2S5と、LiBH4とのモル比を、表1に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1、2に係る硫化物系固体電解質を調製した。
【0033】
【0034】
[XRD測定]
XRD(Bruker AXS社製「D8 ADVANCE」、X線源)を用いて、上記実施例及び比較例に係る硫化物系固体電解質の結晶構造を解析した。得られたXRDスペクトルを
図1に示す。
【0035】
図1に示すように、比較例1、2に係る硫化物系固体電解質は、原料物質に起因するピーク(P21~P24)が認められる。一方で、実施例1に係る硫化物系固体電解質は、上記原料物質に起因するピークが消失し、新たにXRDデータベースに存在しない未知のピーク(P11~P14)が、それぞれ2θ[deg]=29、33、48、及び57付近に認められた。これにより、新たな結晶構造が確認され、Li
2S-P
2S
5と、LiBH
4と、の間に化学結合が形成されていることが推認される。
【0036】
[充放電試験]
実施例1に係る硫化物系固体電解質の熱処理条件を250℃、18時間として結晶を成長させた硫化物系固体電解質を固体電解質層に用い、正極活物質をNCM811(LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2)として正極層を作製し、リチウム-アルミニウム合金を負極層として固体電池セルを作製し、充放電試験を行った。結果を
図2に示す。また、熱処理条件を250℃、60時間として結晶を成長させた硫化物系固体電解質を用いて上記と同様に固体電池セルを作製し、充放電試験を行った。結果を
図3に示す。
【0037】
図2及び
図3に示すように、本実施形態に係る硫化物系固体電解質を用いた固体二次電池は、充放電が行えることが確認された。また、熱処理時間を増やすことで、電気容量が増大することが確認された。
【0038】
[イオン伝導度測定]
図4は、実施例1に係る硫化物系固体電解質の熱処理条件を変化させた場合における、イオン伝導度の測定結果である。イオン伝導度は、実施例1に係る固体電解質単体に対して交流インピーダンス測定を行い、得られた抵抗値から算出した。
図4の結果から、熱処理温度250℃、熱処理時間88時間とした場合に、イオン伝導度が最大になる結果が確認された。
【0039】
[LSV測定]
図5は、実施例1に係る硫化物系固体電解質を固体電解質層に用い、正極活物質をNCM811として正極層を作製し、負極層としてリチウム金属を用いて作製した固体二次電池(
図5中、LPSBH)の、LSV測定結果を示すグラフである。
図5のLSV測定条件は、NCM811の満充電時における標準電位から、リチウム金属の標準電位まで、5mV/sで掃引した。また、市販の硫化物系固体電解質(
図5中、LPS-LiX、X:ハロゲン)を用いたこと以外は上記と同様にして固体二次電池を作製し、上記と同様の条件でLSV測定を行った。
図5のグラフ中、横軸が電位(V)を示し、縦軸が電流(mA)を示す。
【0040】
図5に示すように、実施例1に係る硫化物系固体電解質を用いた固体二次電池は、従来の硫化物系固体電解質を用いた固体二次電池と比較して、酸化反応及び還元反応がほとんど起こっておらず、耐酸化性及び耐還元性に優れている結果が確認された。
【0041】
[抵抗劣化測定]
図5に示す固体電解質を用いて固体二次電池を作成し、交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。その後満充電の状態でそれぞれ3日間、及び7日間放置した後に、同様に交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、実施例1に係る硫化物系固体電解質を用いて製造した固体二次電池は、満充電で7日間放置した後であっても抵抗値が上昇せず、好ましい耐久性が得られる結果が確認された。これに対して、従来のアルジロダイト型硫化物系固体電解質を用いて同様に交流インピーダンス法により抵抗値を測定したところ、満充電で7日間放置した後の抵抗値は初期の抵抗値に対して12倍に上昇し、満充電で14日間放置した後の抵抗値は初期の抵抗値に対して23倍に上昇する結果が確認された。