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  • 特開-ピストン、及び、エンジン 図1
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  • 特開-ピストン、及び、エンジン 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022785
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ピストン、及び、エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
F02F3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126126
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】仙石 哲考
(57)【要約】
【課題】ピストンランドに耐摩環が鋳包まれたピストンにおいて、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランドを最先に(すなわち、ピストントップを含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン(エンジン)がより大きなダメージを受けることを防止することが可能なピストンを提供する。
【解決手段】ピストン10は、ピストンランド101に鋳包まれ、ピストンリング104が装着される耐摩環105を備えている。耐摩環105には、ピストンランド101の強度をピストントップ102を含む他の部位の強度よりも低く抑える脆弱部105aが形成されている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンランドに鋳包まれ、ピストンリングが装着される耐摩環を備え、
前記耐摩環には、前記ピストンランドの強度をピストントップを含む他の部位の強度よりも低く抑える脆弱部が形成されていることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記耐摩環は、前記ピストンの周方向、及び/又は、径方向に沿って、複数に分割されていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記耐摩環には、前記ピストンの周方向、及び/又は、径方向に沿って、切り込みが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項4】
前記耐摩環は、断面が、アルファベットのUの字状又はカタカナのコの字状に形成され、底部の隅Rが所定値よりも小さく、かつ、ピストンスカート側の肉厚がピストントップ側の肉厚よりも薄く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピストンを備えることを特徴とするエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩環を有するピストン、及び、該ピストンを備えるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、混合気の燃焼圧によりピストンが押し下げられると、ピストンの往復直線運動がコネクティングロッドを介して回転運動に変換され、クランクシャフトがメインジャーナルの中心軸を回転中心として回転する。
【0003】
ところで、従来から、ピストンのピストンランドには、シリンダ内壁とピストンとの間の気密を保ち、燃焼室で発生する高圧の燃焼ガスをシールする(漏れを防ぐ)ピストンリング(トップリング)が装着されている。また、従来から、アルミニウム合金からなるピストンランドと、鋼材や鋳鉄等からなるピストンリングとの凝着(高温・高圧環境下での異材凝着)を防止するため、ピストンランド(トップリング溝)に、ニレジスト鋳鉄等からなる耐摩環が鋳包まれたピストンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-240347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、プレイグニッション等の異常燃焼が発生し、筒内圧が異常上昇したときに、ピストンランドの一部を最先に破損させて高圧の燃焼ガスを抜くことにより、ピストントップ(冠面)等の部位が破壊され、ピストン(エンジン)がより大きなダメージを受けることを防止したいケースがある。しかしながら、ピストンランドに耐摩環を鋳包むと、ピストンランドの強度が上がるため、異常燃焼発生時等に、ピストンランドを他の部位に先駆けて破損させることができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、ピストンランドに耐摩環が鋳包まれたピストンにおいて、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランドを最先に(すなわち、ピストントップを含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン(エンジン)がより大きなダメージを受けることを防止することが可能なピストン、及び、該ピストンを備えるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るピストンは、ピストンランドに鋳包まれ、ピストンリングが装着される耐摩環を備え、該耐摩環には、ピストンランドの強度をピストントップを含む他の部位の強度よりも低く抑える脆弱部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ピストンランドに耐摩環が鋳包まれたピストンであっても、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランドを最先に(すなわち、ピストントップを含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン(エンジン)がより大きなダメージを受けることを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るピストンが組み込まれたエンジン(シリンダブロック)を示す水平断面図である。
図2】実施形態に係るピストンを示す正面図である。
図3】実施形態に係るピストンの要部を示す断面図である。
図4】変形例に係るピストンの要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0011】
まず、図1図3を併せて用いて、実施形態に係るピストン10の構成について説明する。図1は、ピストン10が組み込まれたエンジン1(シリンダブロック11)を示す水平断面図である。図2は、ピストン10を示す正面図である。図3は、ピストン10の要部を示す断面図である。
【0012】
本実施形態では、ピストン10を水平対向型の4気筒エンジン1に適用した。エンジン1のシリンダブロック11には円筒状のシリンダ12が形成されている。各シリンダ12には、ピストン10が往復動自在に収容されている。エンジン1では、ピストン10がシリンダ12内を往復運動して吸気、圧縮、膨張、排気の4行程を繰り返して行うことにより、空気と燃料の混合気を燃焼させて駆動力を得る。
【0013】
各ピストン10には、コネクティングロッド13の一端が回転自在に接続されている。コネクティングロッド13の他端は、クランクアームのクランクピンに回転自在に取り付けられている。エンジン1では、コネクティングロッド13により、ピストン10の往復直線運動が回転運動に変換され、クランクシャフト14が回転する。
【0014】
ピストン10は、例えば、アルミニウム合金等からなり、略円筒形状に形成されている。ピストン10外周面のピストンランド101(トップランド1011、セカンドランド1012、サードランド1013)には、軸方向に沿って例えば3列の円環状のピストンリング溝103が形成されている。すなわち、ピストントップ(冠面)102側から、トップリング溝1031、セカンドリング溝1032、オイルリング溝1033が形成されている。
【0015】
トップリング溝1031には、アルミニウム合金からなるピストンランド101と、鋼材や鋳鉄等からなるピストンリング104との凝着(高温・高圧環境下での異材凝着)を防止するため、また、耐摩耗性を向上させるため、例えばニレジスト鋳鉄等からなる耐摩環105が鋳包まれている。なお、耐摩環105は、ピストン10の鋳造時に鋳包まれる。
【0016】
各ピストンリング溝103には、ピストンリング104が装着されている。より具体的には、トップリング溝1031(耐摩環105)には、シリンダ内壁とピストン10との間の気密を保ち、燃焼室で発生する高圧の燃焼ガスをシールする(漏れを防ぐ)トップリング(コンプレッションリング)1041が装着されている。セカンドリング溝1032には、トップリング1041と同様に、燃焼室からのガス漏れ防止などの機能を有するセカンドリング(コンプレッションリング)1042が装着されている。また、オイルリング溝1033には、余分なエンジンオイルの掻き落としや燃焼室へのエンジンオイルの浸入防止などの機能を有するオイルリング1043が装着されている。上述したように、トップリング1041等の各ピストンリング104は、例えばプレス鋼板や特殊鋳鉄等から形成される。
【0017】
特に、ピストン10は、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランド101を最先に(すなわち、ピストントップ102を含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ102等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン10(エンジン1)がより大きなダメージを受けることを防止する機能を有している。
【0018】
そのため、ピストンランド101に鋳包まれた耐摩環105には、ピストンランド101の強度をピストントップ102を含む他の部位の強度よりも低く抑える脆弱部105aが形成されている。
【0019】
より具体的には、図3に示されるように、耐摩環105は、ピストン10の周方向、及び/又は、径方向に沿って、複数に分割(例えば4分割等)されている。よって、耐摩環105の分割部105aが上記脆弱部として機能する。
【0020】
上述したように構成されることにより、すなわち、耐摩環105に脆弱部(分割部)105aが形成されることにより、ピストンランド101の強度がピストントップ(冠面)102等の他の部位よりも低く抑えられる。そのため、例えば、プレイグニッション等の異常燃焼が発生し、筒内圧が異常上昇した場合、最先に、耐摩環105の脆弱部(分割部)105aを起点としてピストンランド101の一部が破損する(図3の二点鎖線参照)。そして、ピストンリング104が倒れ、当該破損個所から高圧の燃焼ガスが抜ける。すなわち、ピストンランド101がピストン破壊のヒューズとして機能する。
【0021】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、例えば、プレイグニッション等の異常燃焼が発生し、筒内圧が異常上昇したときに、耐摩環105の脆弱部(分割部)105aを起点として、ピストンランド101の一部を最先に破損させて高圧の燃焼ガスを抜くことができる。その結果、ピストンランド101に耐摩環105が鋳包まれたピストン10であっても、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランド101を最先に(すなわち、ピストントップ102を含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ102等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン10(エンジン1)がより大きなダメージを受けることを防止することが可能となる。
【0022】
また、本実施形態によれば、耐摩環105が、ピストン10の周方向、及び/又は、径方向に沿って、複数に分割されているため、その分割部105aを脆弱部として適確に機能させることができる。
【0023】
(変形例)
上記実施形態では、耐摩環105を、ピストン10の周方向、及び/又は、径方向に沿って、複数に分割することにより、その分割部105aを脆弱部として機能させたが、耐摩環105を複数の分割することに代えて、又は加えて、図4に示されるように、耐摩環105Bに、ピストン10Bの周方向、及び/又は、径方向に沿って、切り込み(溝)105bを形成する構成としてもよい。図4は、変形例に係るピストン10Bの要部を示す断面図である。なお、その他の構成については上述した実施形態と同一又は同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0024】
本変形例によれば、耐摩環105Bに形成された切り込み(溝)105bが脆弱部となるため、上記実施形態と同様に、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランド101を最先に(すなわち、ピストントップ102を含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ102等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン10B(エンジン1)がより大きなダメージを受けることを防止することができる。
【0025】
(第2変形例)
また、耐摩環105を複数に分割することなどに代えて、又は加えて、断面が、アルファベットのU字状又はカタカナのコ字状に形成された耐摩環105の内側底部の隅Rを所定値(例えば、R0.4)よりも小さく、かつ、ピストンスカート側(下側)の肉厚をピストントップ102側(上側)の肉厚よりも薄く形成してもよい。なお、その他の構成については上述した実施形態と同一又は同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0026】
本変形例によれば、応力が集中する耐摩環105の隅R部から肉厚の薄いピストンスカート側(下側)にかけての部位が脆弱部となるため、当該部位を起点として最先にピストンランド101が破損する。その結果、異常燃焼発生時等に(筒内圧が異常上昇したときに)、ピストンランド101を最先に(すなわち、ピストントップ102を含む他の部位よりも先に)破損させて、ピストントップ102等の破壊を防ぐ、すなわち、ピストン10(エンジン1)がより大きなダメージを受けることを防止することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、ピストン10を水平対向型の4気筒エンジン1に組み込んだ(適用した)場合を例にして説明したが、本発明は、例えば、直列型の4気筒エンジンやV型の6気筒エンジンなどにも適用することができる。また、ガソリンエンジンの他、ディーゼルエンジン等にも適用することができる。
【0028】
また、耐摩環105、105Bの脆弱部105a、105bの構成は、上記実施形態や変形例に限られない。例えば、耐摩環105の分割数や分割箇所、及び、切り込み105bの数、深さ、箇所等は、要件等に応じて任意に設定することができる。
【0029】
さらに、上記実施形態で示した寸法、材料、その他具体的な数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であり、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0030】
1 エンジン
10、10B ピストン
101 ピストンランド
1011 トップランド
1012 セカンドランド
1013 サードランド
102 ピストントップ(冠面)
103 ピストンリング溝
1031 トップリング溝
1032 セカンドリング溝
1033 オイルリング溝
104 ピストンリング
1041 トップリング
1042 セカンドリング
1043 オイルリング
105、105B 耐摩環
105a 分割部(脆弱部)
105b 切り込み(脆弱部)
11 シリンダブロック
12 シリンダ
13 コネクティングロッド(コンロッド)
14 クランクシャフト
図1
図2
図3
図4