(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022797
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】絶縁シート
(51)【国際特許分類】
H01B 17/56 20060101AFI20240214BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01B17/56 A
H02K3/34 C
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126149
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤木 淳
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅
(72)【発明者】
【氏名】徳永 理子
【テーマコード(参考)】
5G333
5H604
【Fターム(参考)】
5G333AA02
5G333AB05
5G333CA01
5G333DA03
5G333DA06
5G333DA08
5G333DA18
5H604CC01
5H604DB15
5H604DB25
5H604DB26
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】本発明は、絶縁紙として全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙を用いた場合であっても、十分な耐トラッキング性を発揮することができる絶縁シートを提供する。
【解決手段】本発明に係る絶縁シートは、接着剤層と、該接着剤層の一方面に積層されて最外層を構成する絶縁紙と、を備え、前記絶縁紙は、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙であり、前記接着剤層は、樹脂組成物で構成されており、熱質量示差熱分析(TG-DTA)において、5質量%の質量減少が認められる温度が350℃以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤層と、
該接着剤層の一方面に積層されて最外層を構成する絶縁紙と、を備え、
前記絶縁紙は、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙であり、
前記接着剤層は、樹脂組成物で構成されており、熱質量示差熱分析(TG-DTA)において、5質量%の質量減少が認められる温度が350℃以下である
絶縁シート。
【請求項2】
前記絶縁紙の厚さをTIPとし、前記接着剤層の厚さをTALとしたときに、厚さTIPに対する厚さTALの比率が40%以上である
請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記接着剤層の他方面に基材フィルムをさらに備え、
前記基材フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレンナフタレートフィルムである
請求項1または2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記接着剤層は、アクリル樹脂を含むアクリル樹脂組成物で構成されている
請求項1または2に記載の絶縁シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁シートに関する。
より詳しくは、自動車の駆動モータの絶縁シートとして用いられるモータ用絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の駆動モータは、ロータと、該ロータを回転させるための力を発生させるステータとを備えている。
前記ステータは、複数のコイルを備えており、該複数のコイルに磁界を発生させることによりローレンツ力を得て、該ローレンツ力によって前記ロータを回転させている。
【0003】
上記のような駆動モータにおいて、前記コイルは、例えば、互いに接続された複数のセグメント導体によって構成されており、通常、ステータコアやロータコアと呼ばれる磁性鋼板が積層された部材に装着されて用いられる。
【0004】
上記のような駆動モータでは、ステータコアやロータコアなどのコアが複数のスロット溝を有しており、前記複数のスロット溝のそれぞれに前記コイルが収容されている。
また、上記のような駆動モータでは、前記コイルと前記スロット溝の内壁面との間の絶縁性を確保するための絶縁シートが、前記コイルとともに前記スロット溝内のそれぞれに収容されている。より詳しくは、前記絶縁シートは、前記コイルに周回された状態で前記スロット溝内に収容されている。
そして、前記絶縁シートで周回された前記コイルは、前記スロット溝内に含浸させた絶縁樹脂(例えば、エポキシワニス)によって、前記スロット溝内に固定されている。
【0005】
前記絶縁シートは、例えば、下記特許文献1に記載されているように、ポリエステルフィルムで構成されたポリエステル樹脂層と、前記ポリエステル樹脂層の上方側及び下方側のそれぞれに配される2層の紙状シート層と、前記ポリエステル樹脂層と前記紙状シートとの間にそれぞれ配される2層の接着剤層と、を備える5層構造とされている。
すなわち、前記絶縁シートは、前記紙状シート層が表層に配され、前記ポリエステル樹脂層が内層として配された5層構造とされている。
また、前記紙状シート層は、下記特許文献1に記載されているように、紙状シートで構成されており、前記紙状シートとしては、例えば、全芳香族ポリアミド繊維を主たる材料とした、いわゆる、“アラミド紙”が用いられる。
さらに、前記接着剤層は、通常、ポリウレタン樹脂などを主成分とする接着剤によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、自動車の駆動モータの高出力化がますます要求されている。
そして、自動車の駆動モータの高出力化に伴い、該駆動モータに用いられる絶縁シートには、高耐熱性及び高耐電圧性といった特性が要求される。
【0008】
アラミド紙のような全芳香族ポリアミド紙は耐熱性に優れるという特性を有し、ポリエステルフィルムは耐熱性及び耐電圧性に優れるという特性を有する。
そのため、上記特許文献1に記載されたように、表層に全芳香族ポリアミド紙が配され、内層にポリエステルフィルムで構成されたポリエステル層が配された絶縁シートは、高出力化の要求に応えられるものである。
【0009】
ところで、上記のような駆動モータにおいて、前記コイルと前記スロット溝の内壁面との絶縁性を確保すべく、特許文献1に記載されたような絶縁シートを用いた場合、前記駆動モータを駆動させているときに、前記スロット溝の内壁面が高温に達するようになる。
上で説明したように、前記全芳香族ポリアミド紙は耐熱性に優れることから、前記スロット溝の内壁面が高温に達したときにおいても前記全芳香族ポリアミド紙の外表面(前記スロット溝の内壁面と接する面)では前記全芳香族ポリアミド紙に含まれる有機物が熱分解され難くなっている。
そのため、前記有機物の分解物はガス化されずに遊離炭素の状態で前記全芳香族ポリアミド紙の外表面に残存するようになって、前記全芳香族ポリアミド紙の外表面に前記遊離炭素が原因となる導電路が形成されるようになる。
すなわち、前記全芳香族ポリアミド紙の外表面においてトラッキングが生じてしまうことがある。
【0010】
また、前記全芳香族ポリアミド紙の外表面に形成される導電路が微小であったとしても、前記駆動モータの高出力化がより一層進むと、前記全芳香族ポリアミド紙の外表面ではトラッキングが顕著に生じるようになる。
【0011】
このように、前記駆動モータの高出力化に伴って、前記トラッキングが生じるようになると前記絶縁シートは耐トラッキング性に劣るものとなることから好ましくない。
上記のように前記絶縁シートが耐トラッキング性に劣るものとなることは、前記絶縁シートを前記駆動モータ以外に用いた場合にも同様に生じる。
しかしながら、前記絶縁シートが耐トラッキング性に劣るものとなることを抑制することについて未だ十分な検討がなされているとは言い難い。
【0012】
そこで、本発明は、絶縁紙として全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙を用いた場合であっても、十分な耐トラッキング性を発揮できる絶縁シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところ、接着剤層と、該接着剤層の一方面に積層されて最外層を構成する絶縁紙と、を備え、前記絶縁紙が全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙である絶縁シートにおいて、前記接着剤層を樹脂組成物で構成した上で、熱質量示差熱分析(TG-DTA)における5質量%の質量減少が認められる温度を350℃以下とすることにより、前記絶縁シートは、十分な耐トラッキング性を発揮できることを見出した。
そして、本発明を想到するに至った。
【0014】
即ち、本発明に係る絶縁シートは、
接着剤層と、
該接着剤層の一方面に積層されて最外層を構成する絶縁紙と、を備え、
前記絶縁紙は、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙であり、
前記接着剤層は、樹脂組成物で構成されており、熱質量示差熱分析(TG-DTA)において、5質量%の質量減少が認められる温度が350℃以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、絶縁紙として全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙を用いた場合であっても、十分な耐トラッキング性を発揮できる絶縁シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁シートの構成を示す断面図。
【
図2】自動車の駆動モータのステータの概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下では、本発明の一実施形態を、単に、本実施形態と称する。
【0018】
本実施形態に係る絶縁シートは、接着剤層と、該接着剤層の一方面に積層されて最外層を構成する絶縁紙と、を備えている。
本実施形態に係る絶縁シートにおいては、前記絶縁紙は、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙である。
本実施形態に係る絶縁シートにおいては、前記接着剤層は、樹脂組成物で構成されており、熱質量示差熱分析(TG-DTA)において、5質量%の質量減少が認められる温度が350℃以下である。
なお、前記樹脂組成物は、樹脂を懸濁・溶解させるための有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン(MEK)など)を含んでいてもよい。
すなわち、前記樹脂組成物は前記有機溶剤を含む樹脂溶液であってもよい。
【0019】
以下では、
図1に示したような5層構造の絶縁シートを例に挙げて、本実施形態に係る絶縁シートについて説明する。
【0020】
(絶縁シート)
本実施形態に係る絶縁シート10は、
図1に示したように、基材フィルム1aの両面に、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bを介して第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bがそれぞれ積層されて構成されている。
すなわち、本実施形態に係る絶縁シート10は、第1絶縁紙3a、第1接着剤層2a、基材フィルム1a、第2接着剤層2b、及び、第2絶縁紙3bがこの順に積層された5層構造を有している。
本実施形態に係る絶縁シート10では、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bが最外層を構成している。
【0021】
本実施形態に係る絶縁シート10は、例えば、自動車の駆動モータの絶縁シートとして用いられる。
前記自動車の駆動モータとしては、油冷式駆動モータが挙げられる。
なお、前記油冷式駆動モータは、ATFなどの冷却油によって冷却される駆動モータである。
前記自動車としては、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)などが挙げられる。
また、前記駆動モータとしては、例えば、HVモータ、モータジェネレータ、オルタネータ、4WDモータ、オイルポンプモータ、EPSモータ、コンプレッサモータ、インホイールモータなどが挙げられる。
【0022】
本実施形態に係る絶縁シート10においては、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bは、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙である。
前記全芳香族ポリアミド紙は耐熱性に優れるという性質を有することから、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bが全芳香族ポリアミド紙であることにより、本実施形態に係る絶縁シート10に優れた耐熱性を発揮させることができる。
前記全芳香族ポリアミド紙は、全芳香族ポリアミド繊維を用いて湿式抄紙法により作製されたものであることが好ましい。
【0023】
前記全芳香族ポリアミド紙としては、例えば、アミド基以外がベンゼン環で構成された、フェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物(全芳香族ポリアミド)を繊維化し、繊維化した全芳香族ポリアミド繊維を主たる構成材として形成されたものが挙げられる。
前記全芳香族ポリアミド紙としては、例えば、Dupont社から「Nomex(登録商標)」の商品名にて市販されているものを使用することができる。
【0024】
前記全芳香族ポリアミド紙は、コーティング剤を用いて表面にコーティング処理が施されたものであってもよいし、表面にコーティング処理が施されていないものであってもよい。
前記コーティング剤としては、ポリアミド樹脂を含有するものが挙げられる。
また、前記ポリアミド樹脂としては、アミド基部位の少なくとも一部がメトキシメチル化されたメトキシメチル化ポリアミド樹脂が好適に用いられる。
【0025】
第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの厚さは、20μm以上であってもよいし、25μm以上であってもよいし、30μm以上であってもよい。
また、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙の厚さは、250μm以下であってもよいし、10μm以下であってもよいし、70μm以下であってもよい。
上で説明したように、本実施形態に係る絶縁シート10においては、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bとして全芳香族ポリアミド紙が用いられているので、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの厚さを上記のごとき数値範囲内とすることにより、絶縁シート10に高い機械的特性を付与することができる。
また、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの厚さを上記のごとき数値範囲内とすることにより、曲げ加工を施した絶縁シート10を保形性に優れるものとすることができる。
さらに、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの厚さは、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0026】
第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの厚さは、デジタル式のマイクロメータを用いて、ランダムに選んだ任意の10箇所の厚さを測定し、これらの測定値を算術平均することにより求めることができる。
【0027】
本実施形態に係る絶縁シート10においては、第1接着剤層2aは、例えば、基材フィルム1aの一方面に樹脂組成物を塗布することにより形成することができ、第2接着剤層2bは、基材フィルム1aの他方面に樹脂組成物を塗布することにより形成することができる。
また、第1接着剤層2aは、第1絶縁紙3aの一方面(基材フィルム1aと対向する面)に樹脂組成物を塗布することにより形成することもでき、第2接着剤層2bは、第2絶縁紙3bの一方面(基材フィルム1aと対向する面)に樹脂組成物を塗布することにより形成することもできる。
前記樹脂組成物の塗布量は、10g/m2以上20g/m2以下であることが好ましい。
塗布量が10g/m2以上であることにより、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bは十分な接合強度を有するものとなる。
また、塗布量が20g/m2以下であることにより、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bを薄く形成することができる。
上記のように、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bが薄く形成することにより、本実施形態に係る絶縁シート10の厚さを薄くすることができる。
その結果、本実施形態に係る絶縁シート10は、狭小な箇所に介装し易いものとなる。
【0028】
第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bは、同じ厚さを有していてもよいし、異なる厚さを有していてもよいが、同じ厚さを有していることが好ましい。
【0029】
前記樹脂組成物は、樹脂として、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などを含んでいることが好ましい。
前記樹脂組成物は、前記樹脂として、前記アクリル樹脂、前記ポリウレタン樹脂、または、前記エポキシ樹脂を含んでいることがより好ましく、前記アクリル樹脂を含んでいることが特に好ましい。
【0030】
前記アクリル樹脂としては、例えば、下記式(1)で表される単量体の単独共重合体、または、該単量体に基づく構成単位を有する共重合体を使用することができる。
【0031】
【化1】
ただし、式中、R
1は水素原子または低級アルキル基であり、R
2は炭素原子数1~12のアルキル基である。
【0032】
具体的には、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル(PAB)などのポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチルなどのポリメタクリル酸エステル、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル-アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、アクリル酸エステル-アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル-ブタジエン共重合体、メタクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合などの共重合体を、1種または2種以上組み合わせたものを使用することができる。
【0033】
これらの中でも、前記アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸ブチル(PAB)を用いることが好ましい。
また、前記樹脂組成物が前記アクリル樹脂として前記ポリアクリル酸ブチルを含む場合、前記樹脂組成物は前記ポリアクリル酸ブチルに加えてポリイソシアネートを含んでいることが好ましい。
そして、上記のように、前記ポリアクリル酸ブチルと前記ポリイソシアネートを含む樹脂組成物においては、前記ポリアクリル酸ブチルは前記ポリイソシアネートで架橋されていることが好ましい。
さらに、上のような場合、前記樹脂組成物は、前記ポリアクリル酸ブチルの100質量部に対して、前記ポリイソシアネートを3質量部以上含んでいることが好ましく、10質量部以上含んでいることがより好ましい。
また、前記樹脂組成物は、前記ポリアクリル酸ブチルの100質量部に対して、前記ポリイソシアネートを25質量部以下含んでいることが好ましく、20質量部以下含んでいることがより好ましい。
なお、ポリアクリル酸ブチル(PAB)は、カルボキシ基を有していてもよい。
【0034】
さらに、前記樹脂組成物が前記ポリアクリル酸ブチルと前記ポリイソシアネートとを含んでいる場合、前記樹脂組成物は、テルペンフェノールをさらに含んでいることが好ましい。
また、前記樹脂組成物においては、前記ポリアクリル酸及び前記テルペンフェノールは、前記ポリイソシアネートによって架橋されていることが好ましい。
上のような場合、前記樹脂組成物は、前記ポリアクリル酸ブチルの100質量部に対して、前記テルペンフェノールを1質量部以上30質量部以下含んでいることが好ましい。
また、前記樹脂組成物は、前記テルペンフェノールに代えてアルキルフェノールを含んでいてもよい。
上のような場合、前記樹脂組成物は、前記ポリアクリル酸ブチルの100質量部に対して、前記アルキルフェノールを1質量部以上30質量部以下含んでいることが好ましい。
【0035】
前記ポリウレタン樹脂は、1分子中に2以上の水酸基を有するポリオール成分と、1分子中に2以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート成分とを含む反応成分をウレタン結合させて得られるものである。
なお、本明細書において、「ポリウレタン樹脂」とは、「ポリウレタン-ウレア樹脂」を含む広義の「ポリウレタン樹脂」を意味するものではなく、ウレア結合を実質的に含んでいない「ポリウレタン樹脂」を意味する。
【0036】
前記ポリオール成分としては、ポリウレタン樹脂の合成の際に用いられる従来公知のポリオール成分を用いることができる。
前記ポリオール成分の具体例としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、その他のポリオールなどを挙げることができる。
【0037】
前記ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリ-3-メチルペンタンアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ-3-メチルバレロラクトンジオールなどが挙げられる。
前記ポリエステルポリオールは、耐熱性に優れるという性質を有する。
そのため、前記樹脂組成物が前記ポリウレタン樹脂を含んでいて、該ポリウレタン樹脂の前記ポリオール成分が前記ポリエステルポリオールである場合には、前記樹脂組成物によって形成される接着剤層は、耐熱性に優れるものとなる。
【0038】
前記ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及び、これらのランダム/ブロック共重合体などが挙げられる。
前記ポリエーテルポリオールは、耐加水分解性に優れるという性質を有する。
そのため、前記樹脂組成物が前記ポリウレタン樹脂を含んでいて、該ポリウレタン樹脂の前記ポリオール成分が前記ポリエーテルポリオールである場合には、前記樹脂組成物によって形成される接着剤層は、耐加水分解性に優れるものとなる。
【0039】
前記ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール、及び、これらのランダム/ブロック共重合体などが挙げられる。
前記ポリカーボネートポリオールは、耐熱性に優れるとともに耐加水分解性にも優れるという性質を有する。
そのため、前記樹脂組成物が前記ポリウレタン樹脂を含んでいて、該ポリウレタン樹脂の前記ポリオール成分が前記ポリカーボネートポリオールである場合には、前記樹脂組成物によって形成される接着剤層は、耐熱性に優れるとともに耐加水分解性にも優れるものとなる。
【0040】
前記その他のポリオールの具体例としては、ダイマージオールやその水素添加物、ポリブタジエンポリオールやその水素添加物、ポリイソプレンポリオールやその水素添加物、アクリルポリオール、エポキシポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、シロキサン変性ポリオール、α,ω-ポリメチルメタクリレートジオール、α,ω-ポリブチルメタクリレートジオールなどが挙げられる。
これらの中で、ダイマージオールの水素添加物、及び、ポリブタジエンポリオールの水素添加物は、前記ポリカーボネートポリオールと同様に、耐熱性及び耐加水分解性に優れという性質を有する。
そのため、前記樹脂組成物が前記ポリウレタン樹脂を含んでいて、該ポリウレタン樹脂の前記ポリオール成分が前記ダイマージオールの水素添加物または前記ポリブタジエンポリオールの水素添加物である場合には、前記樹脂組成物によって形成される接着剤層は、耐熱性及び耐加水分解性に優れるものとなる。
【0041】
前記ポリウレタン樹脂を含む樹脂組成物、すなわち、ウレタン樹脂組成物としては、DIC社製の製品名「タイフォース SA-30-L」などを用いることができる。
なお、「タイフォース SA-30-L」は、トルエン(TOL)とメチルエチルケトン(MEK)との混合有機溶媒(トルエン(TOL):40~50vol%、メチルエチルケトン(MEK):30~40vol%)にポリウレタン樹脂を所定濃度(15~25質量%)で懸濁させたものである。
【0042】
前記ポリイソシアネート成分としては、ポリウレタン樹脂の製造に用いられる従来公知のポリイソシアネート成分を用いることができる。
【0043】
前記ポリイソシアネート成分の具体例としては、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、及び、クルードまたはポリメリックMDI、ジュリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネートジベンジルなどの芳香族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロへキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、水添XDIなどの脂環式イソシアネート;これらのジイソシアネートと、低分子量のポリオールとを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマーなどが挙げられる。
【0044】
なお、前記ポリウレタン樹脂は、従来公知のポリウレタンの製造方法により製造することができる。
例えば、前記ポリウレタン樹脂は、前記ポリオール成分と前記ポリイソシアネート成分とを、ワンショット法や多段法により反応させることにより製造することができる。
また、前記ワンショット法や多段法は、通常、20℃以上150℃以下、好ましくは、60℃以上110℃以下の範囲の温度で実施することができる。
【0045】
前記エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、変性ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などの各種公知のエポキシ樹脂を使用することができる。
これらの中でも、前記エポキシ樹脂としては、前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
また、前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、150g/eq以上であることが好ましく、160g/eq以上であることがより好ましく、170g/eq以上であることがより好ましい。
また、前記エポキシ当量は、200g/eq以下であることが好ましく、190g/eq以下であることがより好ましく、180g/eq以下であることがより好ましい。
前記エポキシ当量は、JIS K 7236により求めることができる。
【0046】
前記樹脂組成物が前記エポキシ樹脂を含む場合、前記樹脂組成物はさらに前記エポキシ樹脂の硬化剤を含んでいることが好ましい。
前記エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤などが挙げられる。
前記フェノール系硬化剤、前記アミン系硬化剤、及び、前記酸無水物系硬化剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
これらの中でも、前記フェノール系硬化剤を用いることが好ましい。
前記フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、ビスフェノール系フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂などが挙げられる。
前記アミン系硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ジアミノフェニルメタン、トリエチレンテトラミンなどが挙げられる。
前記酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0047】
また、上記のような場合、前記樹脂組成物は、エポキシ樹脂の100質量部に対して、前記エポキシ樹脂の硬化剤を10質量部以上含んでいてもよいし、20質量部以上含んでいてもよいし、30質量部以上含んでいてもよいし、40質量部以上含んでいてもよい。
さらに、上記のような場合、前記樹脂組成物は、エポキシ樹脂の100質量部に対して、前記エポキシ樹脂の硬化剤を70質量部以下含んでいてもよいし、60質量部以下含んでいてもよいし、50質量部以含んでいてもよい。
【0048】
また、上記のような場合、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂の硬化剤に加えて硬化促進剤をさらに含んでいてもよい。
前記硬化促進剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート(Tetraphenylphosphonium tetraphenylborate)、イミダゾール類、トリフェニルフォスフェイト(TPP)、アミン系硬化促進剤などが挙げられる。
前記アミン系硬化促進剤としては、例えば、三フッ化ホウ素モノエチルアミンなどが挙げられる。
また、上記のような場合、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂の100質量部に対して、前記硬化促進剤を0.1質量部以上含んでいてもよく、0.5質量部以上含んでいてもよく、1質量部以上含んでいてもよく、2質量部以上含んでいてもよい。
さらに、上記のような場合、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂の100質量部に対して、前記硬化促進剤を10質量部以下含んでいてもよく、7質量部以下含んでいてもよく、4質量部以下含んでいてもよい。
【0049】
前記樹脂組成物が前記エポキシ樹脂を含む場合、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂に加えて、前記アクリル樹脂を含んでいてもよい。
また、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂として前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂を含んだ上で、前記アクリル樹脂として前記ポリアクリル酸ブチル(PAB)を含んでいることが好ましい。
上のような場合、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂の100質量部に対して、前記アクリル樹脂を100質量部以上含んでいてもよく、150質量部以上含んでいてもよく、200質量部以上含んでいてもよい。
また、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂の100質量部に対して、前記アクリル樹脂を300質量部以下含んでいてもよく、250質量部以下含んでいてもよい。
【0050】
上で説明したように、本実施形態に係る絶縁シート10においては、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bは、熱質量示差熱分析(TG-DTA)において、5質量%の質量減少が認められる温度が350℃以下である。
そのため、本実施形態に係る絶縁シート10が高温雰囲気下に曝された場合においては、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bにおいて、これらの接着剤層に含まれる樹脂などの有機物が熱分解され易くなっている。
なお、5質量%の質量減少が認められる温度は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0051】
本実施形態に係る絶縁シート10は、例えば、ロータと、複数のスロット溝を備えるステータと、前記複数のスロット溝に収容される複数のコイルと、を備える駆動モータにおいて、前記ステータと前記複数のコイルとの絶縁性を確保すべく用いられる。
詳しくは、本実施形態に係る絶縁シート10は、前記複数のコイルのそれぞれに周回された状態で前記複数のスロット溝のそれぞれに収容されることにより、前記ステータと前記複数のコイルとの絶縁性を確保すべく用いられる。
【0052】
そして、前記駆動モータを駆動させると、前記複数のスロット溝のそれぞれの内表面は高温に達するようになる。
ここで、上で説明したように、本実施形態に係る絶縁シート10では、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bにおいて、これらの接着剤層に含まれる樹脂などの有機物が熱分解され易くなっている。
そのため、前記複数のスロット溝のそれぞれの内表面と接する絶縁紙(第1絶縁紙3aまたは第2絶縁紙3bのいずれか一方)の外表面において、該絶縁紙に含まれる有機物の熱分解が進行する前に、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bにおいて、これらの接着剤層に含まれる有機物の熱分解が進行するようになる。
【0053】
このように、前記複数のスロット溝の内表面が高温に達することによって発生した熱は、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bに含まれる有機物を熱分解させるために消費されるようになるため、前記絶縁紙の外表面において、該絶縁紙に含まれる有機物の熱分解が抑制されるようになる。
そして、前記絶縁紙に含まれる有機物の熱分解が抑制される分だけ、前記絶縁紙の外表面に遊離炭素が原因となる導電路が形成されることが抑制されるようになる。
【0054】
また、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bに含まれる有機物が熱分解され易くなっている分だけ、前記有機物は、遊離炭素の状態に留まらずに、二酸化炭素などのガスにまで十分に熱分解されるようになる。
そして、上のようなガスが生じる反応は吸熱反応となることから、この吸熱反応によっても前記複数のスロット溝のそれぞれの内表面で生じる熱は奪われるようになる。
これによっても、前記絶縁紙の外表面において該絶縁紙に含まれる有機物の熱分解が抑制されるので、前記外表面において遊離炭素が原因となる導電路が形成されることがより一層抑制されるようになる。
【0055】
以上により、本実施形態に係る絶縁シート10は、最外層を構成する第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bが全芳香族ポリアミド紙であるものの、十分な耐トラッキング性を発揮できるものとなる。
【0056】
第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bの厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
また、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bの厚さは、40μm以下であることが好ましい。
第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bの厚さは、デジタルマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製の型式VHX-8000)を用いて測定することができる。
具体的には、以下のようにして測定することができる。
(1)前記デジタルマイクロスコープが備えるカメラによって絶縁シート10の一側面を撮像した画像を得る。
(2)前記デジタルマイクロスコープが備えるモニタに前記画像を映し出す。
(3)前記モニタに映し出された画像において、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bのそれぞれについてランダムに選んだ任意の10箇所において厚さを求め、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bのそれぞれについて求めた厚さの値を算術平均する。
【0057】
本実施形態に係る絶縁シート10においては、絶縁紙の厚さ(第1絶縁紙3aの厚さと第2絶縁紙3bとの厚さとの合算値)をTIPとし、接着剤層の厚さ(第1接着剤層2aの厚さと第2接着剤層2bの厚さとの合算値)をTALとしたときに、厚さTIPに対する厚さTALの比率が40%以上であることが好ましい。
【0058】
厚さTIPに対する厚さTALの比率が上の数値範囲内であることは、本実施形態に係る絶縁シート10においては、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bが十分な厚さを有していることを意味する。
そして、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bが十分な厚さを有していることは、本実施形態に係る絶縁シート10において、熱分解が進行し易い有機物がより十分に存在していることを意味する。
そのため、厚さTIPに対する厚さTALの比率が上の数値範囲内であれば、第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bにおいて、これら接着剤層に含まれる有機物の熱分解をより十分に進行させることができる。
その結果、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの外表面において、これら絶縁紙に含まれる有機物が熱分解することをより一層抑制できるので、これら絶縁紙の外表面に遊離炭素が原因となる導電路が形成されることをより一層抑制することができる。
以上により、本実施形態に係る絶縁シート10は、より十分な耐トラッキング性を発揮することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る絶縁シート10においては、厚さTIPに対する厚さTALの比率は、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがより好ましい。
厚さTIPに対する厚さTALの比率が上の数値範囲内であることにより、本実施形態に係る絶縁シート10は、さらに十分な耐トラッキング性を発揮することができる。
なお、厚さTIPに対する厚さTALの比率は、80%以下であってもよく、70%以下であってもよい。
【0060】
さらに、本実施形態に係る絶縁シート10においては、該絶縁シート10の厚さ(総厚さ)をTTとしたときに、厚さTTに対する厚さTALの比率が21%以上であることが好ましく、22%以上であることがより好ましく、23%以上であることがより好ましい。
厚さTTに対する厚さTALの比率が上の数値範囲内であることにより、本実施形態に係る絶縁シート10は、さらに十分な耐トラッキング性を発揮することができる。
なお、厚さTTに対する厚さTALの比率は、30%以下であってもよいし、28%以下であってもよいし、26%以下であってもよい。
【0061】
第1接着剤層2a及び第2接着剤層2bは、各種公知の添加剤を含んでいてもよい。
前記添加剤としては、粘着付与剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料などが挙げられる。
【0062】
第1実施形態に係る絶縁シート10においては、基材フィルム1aは、ポリエステル樹脂で構成されたポリエステルフィルムであることが好ましい。
前記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂またはポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂のいずれかであることが好ましい。
すなわち、前記ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムのいずれかであることが好ましい。
また、基材フィルム1aは、ポリイミド(PI)樹脂で構成されたポリイミド(PI)フィルムであってもよい。
【0063】
基材フィルム1aがPETフィルムやPENフィルムである場合、該フィルムは、オリゴマー含有量が1質量%以下の低オリゴマー品で構成されていてもよい。
前記フィルムを低オリゴマー品で構成することにより、基材フィルム1aは耐加水分解性に優れるものとなる。
オリゴマー含有量は、例えば、以下のようにして求めることができる。
(1)一辺が5cm程度の略正方形状のフィルムサンプルをメタノールで洗浄した後、該フィルムサンプルを160℃の熱風オーブン中で1時間乾燥して初期質量(M1(g))を求める。
(2)ソックスレー抽出器などを用いて沸騰キシレン(約400mL)にて、前記フィルムサンプルに48時間抽出処理を行う。
(3)抽出処理後のフィルムサンプルの質量(M2(g))を測定して、初期質量(M1)に対する質量減少(M1-M2)の割合((M1-M2)/M1)を計算する。
ここで、抽出処理後のフィルムサンプルの質量(M2(g))は、抽出処理に利用したキシレンをフィルムサンプルから十分に除去した後に測定を行わないと、質量減少を正確に求めることができない。
そのため、キシレン抽出後にフィルムサンプルを水洗し、かつ、表面に付着しているキシレンを軽く拭き取った後、さらに160℃の熱風オーブン中で8時間乾燥し、デシケータ内で放冷した後に測定することが好ましい。
【0064】
基材フィルム1aの厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがより好ましい。
また、基材フィルム1aの厚さは、250μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、75μm以下であることがより好ましい。
基材フィルム1aの厚さも、第1絶縁紙3a及び第2絶縁紙3bの厚さと同様にして測定することができる。
【0065】
本実施形態に係る絶縁シート10は、1×1013Ω・cm以上の体積抵抗率を有していることが好ましく、1×1014Ω・cm以上の体積抵抗率を有していることがより好ましい。
上記のごとき体積抵抗率を有していることにより、本実施形態に係る絶縁シート10は、優れた電気絶縁性を発揮し得るものとなる。
【0066】
本実施形態に係る絶縁シート10は、上記したように、自動車の駆動モータに使用される。
そのため、以下では、
図2~4を参照しながら、本実施形態に係る絶縁シート10を自動車の駆動モータに使用する例について説明する。
【0067】
前記駆動モータは、永久磁石を備えたロータと、コイルを備えたステータとを備え、かつ、セグメント導体(Segment Conductor)によって形成されたコイルを備えている。
そして、本実施形態に係る絶縁シート10は、前記ステータにおけるコイルとコアとの絶縁のために使用される。
【0068】
図2は、駆動モータのステータ1の斜視図であり、図にも示されているように、ステータ1は、ステータコア20とコイル30とを有している。
図3は、このステータ1をロータ(図示せず)の回転軸方向(矢印AD)から見た平面図であり、
図4は、
図3に示したステータコア20のA部に複数のコイル30を収容させた様子を示した断面図である。
【0069】
これらの図にも示されているように、ステータ1では、円筒状のステータコア20の内周面側に複数条のスロット溝21が形成されている。
ステータ1は、ステータコア20と、ステータコア20に形成された複数条のスロット溝21に収容されている複数のコイル30とを有している。
複数条のスロット溝21は、各スロット溝21がステータコア20の回転軸方向(
図3のAD)に沿って延在し、かつ、ステータコア20の周方向(
図3のRD)において、互いに一定の間隔を保った状態で ステータコア20に配されている。
スロット溝21は、ステータコア20の回転軸方向ADにおける全長にわたって形成されており、ステータコア20の一方の端面20a(
図3における上側、以下「上端面20a」ともいう)及び他方の端面20b(以下「下端面20b」ともいう)には、スロット溝21の断面形状と同形状の開口部21bが形成されている。
【0070】
ステータコア20では、上記のように複数条のスロット溝21が並行していることから、隣り合うスロット溝21の間が板状突起22となっている。
この板状突起22(以下「ティース22」ともいう)は、ステータコア20の径方向(
図2のDD方向)内側に向けて突出した状態で複数形成されている。
なお、
図3及び
図4に示したように、ティース22は、突出方向先端部にステータコア20の周方向RDに広がる広幅部22aを有しており、断面形状がT字状となっている。
そのため、ステータコア20の内周面側では、このスロット溝21の幅が狭くなっており、線状の開口部21aが僅かに形成されているのみとなっている。
【0071】
コイル30は、互いに接続された複数のセグメント導体31によって構成されている。
なお、コイル形成前のセグメント導体31は、
図2に示したように、U字状に折り曲げ加工された平角エネメル線であり、2本の脚部31bとこの2本の脚部31bどうしを繋ぐ頭部31aとを備えたものである。
【0072】
セグメント導体31は、頭部31aとは逆側の脚部31bの先端部31bxに、絶縁被膜が剥離された銅線露出部を有している。
コイル30は、ステータコア20の上端面20aにおけるスロット溝21の開口部21bからセグメント導体31の脚部31bを挿入し、かつ、その先端部31bxをステータコア20の下端面20bから露出させた後で、一つのセグメント導体31の脚部31bと別のセグメント導体31の脚部31bとを銅線露出部において電気的に接続して接続部31xを形成し、さらに、この接続部31xに絶縁処理を施して作製されたものである。
なお、一つのセグメント導体31の2本の脚部31bは、それぞれ、別のスロット溝21内に挿入される。
【0073】
コイル30は、上記のようにして作製されるので、ステータ1は、ステータコア20の上端面20a側にセグメント導体31の頭部31aによって構成された上側コイルエンド部を有するとともに、下端面20b側に脚部31bどうしを接続して形成した接続部31xによって構成された下側コイルエンド部を有する。
【0074】
図4に示したように、ステータコア20のスロット溝21には、コイル30を形成しているセグメント導体31の脚部31bがそれぞれ4本ずつ収容されており(4個のセグメント導体31の一方の脚部31bがそれぞれ収容されており)、各スロット溝21には、内周面側から外周面側に向けて一列に並んだ状態で、計4本の脚部31bが収容されている。
【0075】
図4に示したように、本実施形態に係る絶縁シート10は、4本の脚部31bとスロット溝21の内壁面との間に介装されている。
本実施形態に係る絶縁シート10は、セグメント導体31の脚部31bの長手方向に沿って縦添えされて、4本の脚部31bの周りを一周以上周回する形でスロット溝21内に配されるとともに、回転軸方向ADにおける両端部をステータコア20の上端面20a及び下端面20bから回転軸方向ADの外方に突出させてスロット溝21内に配されている。
本実施形態に係る絶縁シート10は、上記のごとく、4本の脚部31bの周りを一周以上周回する形でスロット溝21内に配されているため、この周回方向における両端部が重ね合されてスロット溝21内に配されている。
すなわち、ステータ1では、本実施形態に係る絶縁シート10どうしが重なり合った重複部10dがスロット溝21内に形成されている(
図4参照)。
そして、
図4に示したように、ステータ1では、重複部10dは径方向DDの外側に位置している。
なお、ステータコア20の上端面20a及び下端面20bから回転軸方向ADに突出させた部分は、スロット溝21の上端側及び下端側の少なくとも一方に引っ掛けられるように(係止されるように)、スロット溝21の外方に向かって折り曲げられていてもよい。
【0076】
本実施形態に係る絶縁シート10で周回されたコイル30は、絶縁樹脂(例えば、エポキシワニス)をスロット溝21内に含浸させることにより、前記絶縁樹脂により、スロット溝21内に固定される。
【0077】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
【0078】
(1)
接着剤層と、
該接着剤層の一方面に積層されて最外層を構成する絶縁紙と、を備え、
前記絶縁紙は、全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド紙であり、
前記接着剤層は、樹脂組成物で構成されており、熱質量示差熱分析(TG-DTA)において、5質量%の質量減少が認められる温度が350℃以下である
絶縁シート。
【0079】
斯かる構成によれば、前記絶縁シートは、十分な耐トラッキング性を発揮することができる。
【0080】
(2)
前記絶縁紙の厚さをTIPとし、前記接着剤層の厚さをTALとしたときに、厚さTIPに対する厚さTALの比率が40%以上である
上記(1)に記載の絶縁シート。
【0081】
斯かる構成によれば、前記絶縁シートは、より十分に耐トラッキング性を発揮できるものとなる。
【0082】
(3)
前記接着剤層の他方面に基材フィルムをさらに備え、
前記基材フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレンナフタレートフィルムである
上記(1)または(2)に記載の絶縁シート。
【0083】
斯かる構成によれば、前記絶縁シートは、耐熱性に優れるものとなる。
【0084】
(4)
前記接着剤層は、アクリル樹脂を含むアクリル樹脂組成物で構成されている
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の絶縁シート。
【0085】
斯かる構成によれば、前記絶縁シートは、より十分に耐トラッキング性を発揮できるものとなる。
【0086】
本発明に係る絶縁シートは、上記実施形態に限定されるものではない。
また、本発明に係る絶縁シートは、上記した作用効果によって限定されるものでもない。
さらに、本発明に係る絶縁シートは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0087】
例えば、上の実施形態では、絶縁シート10として、第1絶縁紙3a、第1接着剤層2a、基材フィルム1a、第2接着剤層2b、及び、第2絶縁紙3bがこの順に積層された5層構造を有するものについて説明したが、本発明に係る絶縁シートは、5層構造を有するものに限られる訳ではない。
絶縁紙たる全芳香族ポリアミド紙の2枚で1層の接着剤層が両面側から挟持された3層構造の絶縁シートであってもよい。
すなわち、本発明に係る絶縁シートは、一の絶縁紙、接着剤層、及び、他の絶縁紙がこの順に積層された3層構造を有するものであってもよい。
このような3層構造を有する絶縁シートであっても、前記接着剤層において熱分解によって生じる炭素原子の比率を低減させることができるので、最外層としての絶縁紙たる全芳香族ポリアミド紙の外表面に、前記炭素原子によって導電路が形成されることを抑制できる。
要すれば、本発明に係る絶縁シートは、最外層として絶縁紙たる全芳香族ポリアミド紙を備えた上で、前記絶縁紙の一方面に前記接着剤層が積層された構成を有していればよい。
【実施例0088】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。以下の実施例は、本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0089】
(実施例1)
実施例1に係る絶縁シートとして、以下の順に層が積層されたシート(5層構成のシート)を作製した。
全芳香族ポリアミド紙(第1絶縁紙。厚さ:50μm)
アクリル樹脂層(第1接着剤層。厚さ:30μm)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材フィルム。厚さ:75μm)
アクリル樹脂層(第2接着剤層。厚さ:30μm)
全芳香族ポリアミド紙(第2絶縁紙。厚さ:50μm)
なお、実施例1に係る絶縁シートの厚さは、235μmであった。
実施例1に係る絶縁シートにおいては、アクリル樹脂層(第1接着剤層及び第2接着剤層)は、ポリアクリル酸ブチル(PAB)とテルペンフェノールとポリイソシアネートとを固形分濃度が27%となるように有機溶剤(メチルエチルケトン(MEK))に懸濁させて得たアクリル樹脂溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの両面に厚さ30μmとなるように塗工することにより形成した。
前記ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの前記アクリル樹脂溶液の塗工は、ロールコータを用いて塗工ギャップ250μmの条件で実施した。
なお、前記アクリル樹脂溶液の粘度は約300mPa・sであった。
また、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層は、温度130℃で24時間エージング処理した。
すなわち、実施例1に係る絶縁シートにおいては、前記アクリル樹脂層は、熱硬化されたものであった。
なお、全芳香族ポリアミド紙としては、DuPont社製のノーメックス(登録商標)紙を用い、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムとしては、DuPont社製の「メリネックス(登録商標)238」を用いた。
【0090】
(実施例2)
実施例2に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
実施例2に係る絶縁シートは、第1絶縁紙及び第2絶縁紙たる全芳香族ポリアミド紙を厚さ40μmのもの(Dupont社製の「ノーメックス(登録商標)紙」)とし、基材フィルムたるPETフィルムを厚さ125μmのもの(Dupont社製の「メリネックス(登録商標)238」)とした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、実施例2に係る絶縁シートの厚さは、265μmであった。
また、実施例2に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層は、実施例1と同条件でエージング処理した。
すなわち、実施例2に係る絶縁シートにおいても、前記アクリル樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0091】
(実施例3)
実施例3に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
実施例3に係る絶縁シートは、基材フィルムたるPETフィルムを厚さ125μmのもの(Dupont社製の商品名「メリネックス(登録商標)238」)とした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、実施例3に係る絶縁シートの厚さは、285μmであった。
また、実施例3に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層は、実施例1と同条件でエージング処理した。
すなわち、実施例3に係る絶縁シートにおいても、前記アクリル樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0092】
(実施例4)
実施例4に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
実施例4に係る絶縁シートは、第1絶縁紙及び第2絶縁紙たる全芳香族ポリアミド紙を厚さ80μmのもの(Dupont社製のノーメックス(登録商標)紙)とした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、実施例4に係る絶縁シートの厚さは、295μmであった。
また、実施例4に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層は、実施例1と同条件でエージング処理した。
すなわち、実施例4に係る絶縁シートにおいても、前記アクリル樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0093】
(実施例5)
実施例5に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
実施例5に係る絶縁シートは、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層の厚さを10μmとした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、実施例5に係る絶縁シートの厚さは、195μmであった。
実施例5に係る絶縁シートにおいては、前記アクリル樹脂層は、ポリアクリル酸ブチル(PAB)とテルペンフェノールとポリイソシアネートとを固形分濃度が19%となるように懸濁させて得たアクリル樹脂溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの両面に厚さ10μmとなるように塗工することにより形成した。
前記ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの前記アクリル樹脂溶液の塗工は、ロールコータを用いて塗工ギャップ70μmの条件で実施した。
なお、前記アクリル樹脂溶液の粘度は約300mPa・sであった。
また、実施例5に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層は、実施例1と同条件でエージング処理した。
すなわち、実施例5に係る絶縁シートにおいても、前記アクリル樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0094】
(実施例6)
実施例6に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
実施例6に係る絶縁シートは、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層の厚さを20μmとした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、実施例6に係る絶縁シートの厚さは、215μmであった。
実施例6に係る絶縁シートにおいては、前記アクリル樹脂層は、ポリアクリル酸ブチル(PAB)とテルペンフェノールとポリイソシアネートとを固形分濃度が27%となるように懸濁させて得たアクリル樹脂溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの両面に厚さ20μmとなるように塗工することにより形成した。
前記ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの前記アクリル樹脂溶液の塗工は、ロールコータを用いて塗工ギャップ170μmの条件で実施した。
なお、前記アクリル樹脂溶液の粘度は約300mPa・sであった。
また、実施例6に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第2接着剤層たるアクリル樹脂層は、実施例1と同条件でエージング処理した。
すなわち、実施例6に係る絶縁シートにおいても、前記アクリル樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0095】
(実施例7)
実施例7に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
実施例7に係る絶縁シートは、第1接着剤層及び第2接着剤層をウレタン樹脂層(厚さ10μm)とした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、実施例7に係る絶縁シートにおいては、ポリウレタン樹脂層(第1接着剤層及び第2接着剤層)は、ポリオール成分とイソシアネート成分とをウレタン結合させたものを固形分濃度が25%となるように有機溶剤(トルエン(TOL)とメチルエチルケトン(MEK)との混合有機溶剤)に懸濁させて得たポリウレタン樹脂溶液(DIC社製の製品名「タイフォース SA-30-L」)をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの両面に厚さ10μmとなるように塗工することにより形成した。
前記ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの前記ウレタン樹脂溶液の塗工は、ロールコータを用いて塗工ギャップ70μmの条件で実施した。
また、実施例7に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第接着剤層たるウレタン接着剤層は、130℃で24時間エージング処理した。
すなわち、実施例7に係る絶縁シートにおいては、前記ウレタン樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0096】
(比較例1)
比較例1に係る絶縁シートとして、実施例1と同様にして5層構成の積層シートを作製した。
比較例1に係る絶縁シートは、第1接着剤層及び第2接着剤層をアクリル樹脂(ポリアクリル酸ブチル(PAB))とエポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂。エポキシ当量は176g/eq~180g/eq)と前記エポキシ樹脂の硬化剤(フェノール系硬化剤)の混合樹脂層(厚さ10μm)とした以外は、実施例1に係る絶縁シートと同構成とした。
なお、比較例1に係る絶縁シートの厚さは、195μmであった。
また、比較例1に係る絶縁シートにおいては、前記混合樹脂層(第1接着剤層及び第2接着剤層)は、ポリアクリル酸ブチル(PAB)を含む有機溶剤(メチルエチルケトン(MEK))にフェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、及び、硬化促進剤をさらに加えて得た混合樹脂溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの両面に厚さ10μmとなるように塗工することにより形成した。
なお、前記ポリアクリル酸ブチルは前記有機溶剤の100質量部に対して140質量部含まれており、前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂は前記有機溶剤の100質量部に対して60質量部含まれていた。
また、前記フェノール系硬化剤は、前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂の100質量部に対して45質量部含まれており、前記硬化促進剤は3質量部含まれていた。
前記ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの前記混合樹脂溶液の塗工は、ロールコータを用いて塗工ギャップ70μmの条件で実施した。
また、比較例1に係る絶縁シートにおいても、第1接着剤層及び第2接着剤層たる混合樹脂層は、130℃で24時間エージング処理した。
すなわち、比較例1に係る絶縁シートにおいても、前記混合樹脂層は、熱硬化されたものであった。
【0097】
<熱質量示差熱分析(TG-DTA)での熱分解性評価>
各例の接着剤層について、熱質量示差熱分析(TG-DTA)での熱分解性を評価した。
具体的には、以下の手順にしたがって評価した。
(1)各例に係る樹脂組成物を剥離紙の一方面の全面に塗工した後、100℃で1分間乾燥させて、各例について接着剤層付の剥離紙を作製する。
なお、塗工は、乾燥後の接着剤層の厚みが12μmとなるように行う。
(2)各例の接着剤層付の剥離紙を所定温度のオーブン中に所定時間放置して、前記接着剤層において硬化反応を進行させる。
なお、各例の接着剤層付の剥離紙は、130℃のオーブン中に24時間放置して硬化反応を進行させる。
硬化反応を進行させた後、各例の接着剤層付の剥離紙から剥離紙を剥離する。
(3)熱質量示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、型式「EXSTAR6000」)を用い、空気100mL/分の雰囲気下、常温(23±2℃)から10℃/分で昇温を行って、剥離紙から剥離した各例に係る接着剤層についてのTG-DTA曲線を得る。そして、5質量%の質量減少が認められる温度を読み取る。
各例に係る接着剤層について、5質量%の質量減少が認められる温度(5%質量減少温度)を読み取った結果を、以下の表1に示した。
【0098】
<耐トラッキング性(CTI)の評価>
国際電気標準会議の規格、具体的にはIEC60112に従って試験を実施した。
詳しくは、100mm×100mmのサイズ、3mm以上の厚さの平板状試験サンプルを20枚用意する。白金電極を試験サンプル表面に置き、電極間に電圧を印加し、電圧を印加した状態で電極間に一定間隔で電解液(0.1質量%塩化アンモニウム水溶液)を滴下する。トラッキングが発生するまで、又は、滴下数が100滴に達するまで試験を継続する。そして、トラッキングが発生するまでに要した電解液の滴下数をカウントする。1電圧ごとに5回の試験を実施し、カウントされた滴下数が全て50滴以上であれば、印加した電圧では合格と判断する。このような操作を25V刻みの様々な電圧で繰り返し、CTI(比較トラッキング指数)を求める。
各例について、耐トラッキング性(CTI)を評価した結果を、以下の表1に示した。
【0099】
なお、以下の表1には、絶縁紙の厚さTIP(TIP1+TIP2)に対する接着剤層の厚さTAL(TAL1+TAL2)の比率、及び、絶縁シートの厚さTTに対する接着剤層の厚さTALの比率についても示している。
【0100】
【0101】
表1より、各実施例に係る絶縁シートでは、5%質量減少温度が350℃以下となっており、耐トラッキング性の評価結果が400V以上となっているのに対し、比較例1に係る絶縁シートでは、5%質量減少温度が350℃を超える357℃となっており、耐トラッキング性の評価結果が400Vを下回る375Vとなっていることが分かる。
この結果から、5%質量減少温度を350℃以下とすることにより、耐トラッキング性に優れる絶縁シートが得られることが把握される。
また、表1より、厚さTIPに対する厚さTALの比率を40%以上とすることにより、耐トラッキング性の評価結果は、525V以上もの高い値を示すことが分かる(実施例1~3及び実施例6)。
この結果から、厚さTIPに対する厚さTALの比率を40%以上とすれば、耐トラッキング性により優れる絶縁シートが得られることが把握される。