(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022801
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】抵抗溶接装置、及び、抵抗溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20240214BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/11 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126155
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 紘次朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝治
(72)【発明者】
【氏名】森脇 幹文
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博紀
(72)【発明者】
【氏名】氏平 直樹
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA32
4E165AB02
4E165AB13
4E165BA01
4E165BB02
4E165BB13
4E165BB23
(57)【要約】
【課題】抵抗溶接に用いられる電極の劣化を抑制する。
【解決手段】抵抗溶接装置1は、第1電極2と、第2電極3と、を備え、第1電極は、少なくとも1の第1加圧部22及び、少なくとも1の第1給電部23を有し、第2電極は、少なくとも1の第2加圧部32及び、少なくとも1の第2給電部33を有し、第1加圧部と第2加圧部とは、積層方向に重なり合っていて、ワーク100を加圧し、第1電極及び第2電極は、第1給電部及び第2給電部を通じてワークに給電し、第1給電部と第2給電部とは、第1給電部と第2給電部とを結ぶ線が、第1加圧部と第2加圧部とを結ぶ線に対して交差するように位置している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の被溶接材からなるワークを積層方向に加圧しかつ、前記ワークに給電することによって、前記複数の被溶接材を溶接する抵抗溶接装置であって、
前記ワークに対して、前記積層方向の第1側に位置する第1電極と、
前記ワークに対して、前記積層方向の第2側に位置しかつ、前記第1電極と共に、前記ワークを挟み込む第2電極と、を備え、
前記第1電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第1加圧部及び、少なくとも1の第1給電部を有し、
前記第2電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第2加圧部及び、少なくとも1の第2給電部を有し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とは、前記積層方向に重なり合っていて、前記ワークを加圧し、
前記第1電極及び前記第2電極は、前記第1給電部及び前記第2給電部を通じて前記ワークに給電し、
前記第1給電部と前記第2給電部とは、前記第1給電部と前記第2給電部とを結ぶ線が、前記第1加圧部と前記第2加圧部とを結ぶ線に対して交差するように位置している、抵抗溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗溶接装置において、
前記第1給電部と前記第2給電部とは、前記積層方向に直交する方向に互いに離れて位置し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とは、前記積層方向に直交する方向に対して、前記第1給電部と前記第2給電部との間に位置している、抵抗溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抵抗溶接装置において、
前記第1給電部及び前記第2給電部は、前記第1加圧部と前記第2加圧部とを結ぶ線に対して対称に位置している、抵抗溶接装置。
【請求項4】
請求項1に記載の抵抗溶接装置において、
前記第1加圧部及び前記第2加圧部はそれぞれ、少なくとも一部が絶縁材によって構成されている、抵抗溶接装置。
【請求項5】
請求項1に記載の抵抗溶接装置において、
前記第1給電部において前記ワークに接触する接触面と、前記第1加圧部において前記ワークに接触する接触面とは連続し、
前記第2給電部において前記ワークに接触する接触面と、前記第2加圧部において前記ワークに接触する接触面とは連続する、抵抗溶接装置。
【請求項6】
第1電極と第2電極とを用いて、積層された複数の被溶接材からなるワークを積層方向に加圧しかつ前記ワークに給電することによって、前記複数の被溶接材を溶接する抵抗溶接方法であって、
前記第1電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第1加圧部及び、少なくとも1の第1給電部を有し、
前記第2電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第2加圧部及び、少なくとも1の第2給電部を有し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とは、前記積層方向に重なり合っていて、前記ワークを加圧し、
前記第1給電部と前記第2給電部とは、前記第1給電部と前記第2給電部とを結ぶ線が、前記第1加圧部と前記第2加圧部とを結ぶ線に対して交差するように位置し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とによって、前記ワークを前記積層方向に加圧し、
前記第1給電部と前記第2給電部とによって、前記ワークに給電する、抵抗溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、抵抗溶接装置、及び、抵抗溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、抵抗スポット溶接用電極が記載されている。この溶接用電極は、片側抵抗スポット溶接に用いられる。第1板材と第2板材とからなるワークに対する片側抵抗スポット溶接では、溶接用電極を第1板材の表面に接触して加圧力を付与し、第2板材にアース電極を通電可能に接続する。溶接用電極とアース電極との間に電流が流れると、第1板材と第2板材の接合点にナゲットが形成される。片側抵抗スポット溶接では、溶接用電極とアース電極とが必ずしも対向しないため、特許文献1に図示されているように、ワーク内の通電経路は、電極の加圧方向に一致しない場合がある。
【0003】
特許文献2には、第1電極と第2電極とを備えた抵抗溶接装置が記載されている。第1電極及び第2電極はそれぞれ、内側電極及び外側電極からなる。抵抗溶接装置は、先ず、内側加圧力及び外側加圧力のうちいずれか一方の加圧力を他方の加圧力よりも大きくした状態で、内側電極及び/又は外側電極の間で通電を行わせることにより、複数の被溶接部材のうち少なくとも1つの被溶接部材を軟化させ、その軟化後に、内側加圧力を外側加圧力よりも大きくした状態で、内側電極及び/又は外側電極の間で通電を行わせることにより、内側加圧力が作用する箇所において複数の被溶接部材を互いに溶接する。この抵抗溶接装置は接合不良が生じ難いから、例えば鉄系部材とアルミニウム系部材の溶接に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-55925号公報
【特許文献2】特開2021-41441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば軽量化、及び/又は、機能最適化を目的として、様々な材料が自動車の車体に採用されている。それに伴い、マルチマテリアルの接合技術が求められている。特許文献2に記載された溶接技術は、マルチマテリアルの接合技術の一つである。
【0006】
マルチマテリアルの溶接に際し適切な接合界面状態をつくることは、溶接品質を安定にする。ここでいう接合界面状態は、例えば各材料の溶融量又は接合界面温度を含む。マルチマテリアルの溶接品質の安定には、接合界面状態を高精度に管理することが必要である。
【0007】
いわゆるスポット溶接に用いられる電極は、溶接を繰り返すと、例えば摩耗によって先端形状が変化する。以下、摩耗又はその他の要因による電極先端の状態変化を総称して、電極の劣化と言う。電極の劣化はワーク内の通電経路を変化させ、通電経路の変化は、電流密度を変化させる。電流密度が変化すると、接合界面における発熱状態が変わる。電極の劣化は、接合界面状態の高精度の管理を困難にし、マルチマテリアルの溶接品質を不安定にする。
【0008】
また、電極の劣化は、マルチマテリアルの溶接に限らず抵抗溶接の全般において、次のような不都合も招く。つまり、従来のスポット溶接技術は、電極の劣化によって発熱状態が一回一回変化してしまうため、所望の溶接品質が確保できる範囲で発熱状態の変化を許容していた。溶接回数が所定回数を超えると所望の溶接品質が確保できなくなるため、電極のドレス又は交換が行われる。電極のメンテナンスのために、製造ラインを停止させなければならない。電極が劣化しやすいと、製造ラインの停止頻度が高くなってしまう。また、電極が劣化しても所望の品質が確保できるよう、溶接時の給電量を予め高める場合がある。高い給電量はエネルギロスを招く。
【0009】
ここに開示する技術は、抵抗溶接に用いられる電極の劣化を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、抵抗溶接において電極が劣化するメカニズムを検討した。
図12は、従来の抵抗溶接装置10がワーク100の溶接を行っている様子を示している。抵抗溶接のプロセスは、次の(1)~(4)のステップから構成される。
(1)積層された複数の被溶接材101、102からなるワーク100を、溶接ガンに取り付けられた第1電極20及び第2電極30によって挟んで積層方向に加圧し、第1電極20及び第2電極30を通じてワーク100に給電する(
図12の破線の矢印参照)。積層方向は、
図12における紙面上下方向に対応する。
図12の抵抗溶接装置10において、加圧方向と給電方向とは一致する。
(2)ワーク100内の接合界面103においてジュール熱が発生してワーク100が加熱されると共に、熱の一部は第1電極20及び第2電極30に伝わってワーク100が冷却される。
(3)ワーク100が熱によって軟化及び溶融して、ワーク100が塑性変形する。
(4)ワーク100の接合界面103における溶融金属が凝固することによりナゲットが形成されて、ワーク100の溶接が完了する。
【0011】
本願発明者らの検討によると、前記(3)のステップにおいてワークが塑性変形する際に、電極表面とワーク表面との間でアーク放電が発生し、このアーク放電が電極の劣化を招いていることがわかった。より詳細に、溶接ガンのアームは、ワークの加圧中に撓んでいる。ワークが塑性変形して電極がワークに対して沈み込む際に、アームの応力が解放される。この応力解放に起因して電極がワーク表面に対して滑ったり、電極がワーク表面に対して傾いたりする。その結果、電極とワーク表面との接触状態が変わる。電極とワーク表面との接触状態の変化は、電極とワークとの間の電流経路を急激に変化させるから、電極表面とワーク表面との間でアーク放電が発生する。
【0012】
電極の劣化メカニズムに関する新たな知見が得られたことから、本願発明者らは、ワークが塑性変形する際に電極とワーク表面との接触状態の変化を抑制する点に着目をした。そして、本願発明者らは、電極構造を工夫することによって、ここに開示する技術を完成させるに至った。
【0013】
具体的には、
図12に示すように、従来の抵抗溶接装置10では、第1電極20及び第2電極30が、ワーク100に対する加圧と給電とを一体的に行っている。そのため、ワーク100の塑性変形に伴い、ワーク100を加圧している第1電極20及び第2電極30がワーク100に沈み込むと、その沈み込みに伴い第1電極20及び第2電極30とワーク100との接触状態が変化してしまう。
【0014】
そこで、本願発明者らは、第1電極及び第2電極における、加圧機能と給電機能とを分離させることによって、第1電極及び/又は第2電極のワークへの沈み込みを抑制するようにした。
【0015】
ここに開示する技術は、積層された複数の被溶接材からなるワークを積層方向に加圧しかつ、前記ワークに給電することによって、前記複数の被溶接材を溶接する抵抗溶接装置であって、
前記ワークに対して、前記積層方向の第1側に位置する第1電極と、
前記ワークに対して、前記積層方向の第2側に位置しかつ、前記第1電極と共に、前記ワークを挟み込む第2電極と、を備え、
前記第1電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第1加圧部及び、少なくとも1の第1給電部を有し、
前記第2電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第2加圧部及び、少なくとも1の第2給電部を有し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とは、前記積層方向に重なり合っていて、前記ワークを加圧し、
前記第1電極及び前記第2電極は、前記第1給電部及び前記第2給電部を通じて前記ワークに給電し、
前記第1給電部と前記第2給電部とは、前記第1給電部と前記第2給電部とを結ぶ線が、前記第1加圧部と前記第2加圧部とを結ぶ線に対して交差するように位置している。
【0016】
この構成によると、抵抗溶接装置の第1電極と第2電極とは、ワークを積層方向に加圧しかつ、ワークに給電する。
【0017】
第1電極は、少なくとも1の第1加圧部及び、少なくとも1の第1給電部を有する。第2電極も、第1電極と同様に、少なくとも1の第2加圧部及び、少なくとも1の第2給電部を有する。
【0018】
第1加圧部と第2加圧部とは、積層方向に重なり合う。尚、積層方向に重なり合うとは、第1電極側(又は第2電極側)から、積層方向に延びる軸に沿って第2電極(又は第1電極)を見た場合に、第1加圧部と第2加圧部とが重なることを意味し、第1加圧部と第2加圧部とが直接的に接触することを意味しない。第1電極と第2電極とがワークを挟んで加圧した際に、第1加圧部と第2加圧部とは、積層方向に対向してワークを実際に加圧する。第1電極及び第2電極において、ワークを実際に加圧する部分は、第1電極及び第2電極の一部分である。
【0019】
ワークに対する給電は、第1給電部及び第2給電部を通じて行われる。この抵抗溶接装置において、第1電極及び第2電極はそれぞれ、ワークを加圧する機能と、ワークに給電する機能とが分離されている。
【0020】
第1電極と第2電極とがワークを挟み込んで加圧しかつ、ワークに給電した場合には、第1加圧部と第2加圧部とに対応する箇所の接合界面において被溶接材同士が接触する。また、第1給電部と第2給電部とは、第1給電部と第2給電部とを結ぶ線が、第1加圧部と第2加圧部とを結ぶ線に対して交差するように位置している。第1及び第2給電部と第1及び第2加圧部との位置関係から、前述した被溶接材同士が接触する箇所において、通電経路が形成される。当該箇所においてジュール熱が発生して、ワークが軟化及び溶融する。ワークが軟化及び溶融する範囲は、おおよそ、第1加圧部と第2加圧部とに対応する範囲である。
【0021】
ワークの軟化及び溶融によってワークが塑性変形した際に、第1電極及び第2電極のそれぞれにおいて、ワークを加圧している第1加圧部及び第2加圧部は、第1電極及び第2電極の一部である。また、第1給電部及び第2給電部も、ワークに接触しているため、第1電極及び第2電極においてワークに接触をしている全面積は、第1加圧部及び第2加圧部の接触面積よりも大きい。第1電極及び第2電極がワークに対して沈み込むことが抑制される。電極とワーク表面との接触状態、特に第1給電部及び第2給電部とワーク表面との接触状態の変化が抑制されるため、電極表面とワーク表面との間でアーク放電が発生することが抑制される。つまり、電極の劣化が抑制される。
【0022】
また、前記構成の第1電極及び第2電極は、第1加圧部及び第2加圧部が、第1電極及び第2電極の一部分であるため、ワークから第1電極又は第2電極へ伝わる熱量が減る。それと共に、第1給電部及び第2給電部を有している第1電極及び第2電極の体積は、比較的大きいため、第1電極又は第2電極の熱容量は比較的大きい。それらの結果、第1電極及び第2電極がワークからの熱によって高温になって、電極表面の合金化又は電極表面の変形といった電極の劣化も抑制される。
【0023】
電極の劣化が抑制される結果、この抵抗溶接装置は、接合界面状態の高精度な管理が可能になる。この抵抗溶接装置は、例えばマルチマテリアルの溶接品質を安定化させる。また、この抵抗溶接装置では、製造ラインの停止頻度が低下し、製造コストの低減に有利である、さらに、電極の劣化を考慮して溶接時の給電量を予め高める必要がないため、この抵抗溶接装置は、エネルギロスの抑制も可能である。
【0024】
また、第1給電部及び第2給電部は、溶接プロセスの間、ワークに沈み込まずにワークの表面に対して安定的に接触している。ワークの軟化及び溶融に伴い被溶接材が熱膨張した時に、第1給電部及び第2給電部が、熱膨張する被溶接材を押さえる。この抵抗溶接装置は、溶接完了後のワークの歪みを抑制できる。
【0025】
さらに、第1電極、及び、第2電極は、それぞれ加圧部と給電部とを含むため、ワークに接触する面積が比較的大きい。第1電極及び第2電極はそれぞれ、ワークの表面に対して傾くことなく、ワークの表面に安定して接触できる。電極の安定接触は、第1電極及び第2電極による安定的な加圧と、安定的な給電とを実現する。安定加圧及び安定給電は、溶接品質の安定化に有利である。
【0026】
前記第1給電部と前記第2給電部とは、前記積層方向に直交する方向に互いに離れて位置し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とは、前記積層方向に直交する方向に対して、前記第1給電部と前記第2給電部との間に位置している、としてもよい。
【0027】
こうすることで、第1給電部と第2給電部とは、加圧機能を発揮しないため、第1電極及び第2電極がワークに対して沈み込むことが、より効果的に抑制される。また、第1給電部及び第2給電部は、ワークの表面に対する接触状態を安定的に維持できる。
【0028】
前記第1給電部及び前記第2給電部は、前記第1加圧部と前記第2加圧部とを結ぶ線に対して対称に位置している、としてもよい。
【0029】
こうすることで、第1給電部及び第2給電部は、第1加圧部と第2加圧部とに対応する箇所であって、被溶接材同士が接触する箇所に、効率的に給電できる。抵抗溶接のエネルギロスが低減する。
【0030】
また、ワークの表面に接触する第1給電部及び第2給電部が、第1加圧部と第2加圧部とを結ぶ線に対して対称に位置しているため、第1電極及び第2電極は、ワークの表面に安定的に接触できる。
【0031】
前記第1加圧部及び前記第2加圧部はそれぞれ、少なくとも一部が絶縁材によって構成されている、としてもよい。
【0032】
絶縁材によって構成された第1加圧部及び第2加圧部は給電機能を発揮しないため、第1電極及び第2電極は、加圧機能と給電機能とが分離される。
【0033】
前記第1給電部において前記ワークに接触する接触面と、前記第1加圧部において前記ワークに接触する接触面とは連続し、
前記第2給電部において前記ワークに接触する接触面と、前記第2加圧部において前記ワークに接触する接触面とは連続する、としてもよい。
【0034】
こうすることで、第1電極及び第2電極のそれぞれにおいて、加圧機能と給電機能とを分離しつつ、電極構造が簡略化できる。
【0035】
ここに開示する技術は、第1電極と第2電極とを用いて、積層された複数の被溶接材からなるワークを積層方向に加圧しかつ前記ワークに給電することによって、前記複数の被溶接材を溶接する抵抗溶接方法に係る。この抵抗溶接方法では、
前記第1電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第1加圧部及び、少なくとも1の第1給電部を有し、
前記第2電極は、それぞれ前記ワークに接触する、少なくとも1の第2加圧部及び、少なくとも1の第2給電部を有し、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とは、前記積層方向に重なり合っていて、前記ワークを加圧し、
前記第1給電部と前記第2給電部とは、前記第1給電部と前記第2給電部とを結ぶ線が、前記第1加圧部と前記第2加圧部とを結ぶ線に対して交差するように位置し、
前記抵抗溶接方法は、
前記第1加圧部と前記第2加圧部とによって、前記ワークを前記積層方向に加圧し、
前記第1給電部と前記第2給電部とによって、前記ワークに給電する。
【0036】
この抵抗溶接方法によれば、第1電極及び第2電極がワークに対して加圧及び給電を行い、ワークの軟化及び溶融によってワークが塑性変形した際に、第1電極及び第2電極がワークに対して沈み込むことが抑制される。電極とワーク表面との接触状態の変化が抑制されるため、電極表面とワーク表面との間でアーク放電が発生することが抑制される。つまり、電極の劣化が抑制される。
【0037】
電極の劣化が抑制される結果、この抵抗溶接方法は、例えばマルチマテリアルの溶接品質を安定化させる。また、この抵抗溶接方法では、製造ラインの停止頻度が低下し、製造コストの低減に有利である、さらに、電極の劣化を考慮して給電量を予め高める必要がないため、この抵抗溶接方法では、エネルギロスも抑制できる。
【発明の効果】
【0038】
抵抗溶接装置、及び、抵抗溶接方法は、電極の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図2】
図2は、抵抗溶接装置がワークの溶接を行っている状態を示している。
【
図3】
図3は、抵抗溶接装置の溶接プロセスを示している。
【
図4】
図4は、第1電極及び第2電極を示している。
【
図5】
図5は、第1電極及び第2電極を示している。
【
図6】
図6は、第1電極及び第2電極を示している。
【
図7】
図7は、第1電極及び第2電極を示している。
【
図8】
図8は、第1電極及び第2電極を示している。
【
図9】
図9は、第1電極及び第2電極を示している。
【
図11】
図11は、従来の電極の場合の電極間抵抗値の変化と、
図4の電極の場合の電極間抵抗値の変化とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、抵抗溶接装置、及び、抵抗溶接方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する抵抗溶接装置、及び、抵抗溶接方法は例示である。
【0041】
(抵抗溶接装置の全体構造)
図1は、抵抗溶接装置1の全体を例示している。抵抗溶接装置1は、積層された複数の被溶接材101、102からなるワーク100を積層方向に加圧しかつ、ワーク100に給電することによって、複数の被溶接材101、102を溶接する。抵抗溶接装置1は、いわゆるスポット溶接装置である。
図1の抵抗溶接装置1において、積層方向は、紙面上下方向である。積層方向は上下方向に限定されない。
【0042】
2つの被溶接材101、102は、金属板であり、例えば、1つが鉄系部材であり、残りの1つがアルミニウム系部材である。鉄系部材は、例えば高張力鋼のように強度及び剛性が高い鋼部材であり、アルミニウム系部材は、例えばアルミニウム合金部材である。尚、被溶接材101、102の両方が、共に鉄系部材であってもよい。
図1の例においてワーク100は、2つの被溶接材101、102からなるが、ワーク100は、3つ以上の被溶接材からなってもよい。尚、
図1において2つの被溶接材101、102は同じ厚みであるが、被溶接材101、102の厚みは異なっていてもよい。
【0043】
図1に例示する抵抗溶接装置1は、少なくとも溶接ガン11、制御器12、及び、電源13を備えている。
【0044】
溶接ガン11は、例えば図示しないロボットに支持されている。ロボットは、溶接ガン11を、ワーク100において溶接を行う位置に位置づける。
【0045】
溶接ガン11は、第1電極2と、第2電極3とを支持する。第1電極2は、ワーク100に対して、積層方向の第1側に位置する。
図1において、第1電極2は、ワーク100の上側に位置している。第2電極3は、ワーク100に対して積層方向の第2側に位置する。
図1において、第2電極3は、ワーク100の下側に位置している。第1電極2と第2電極3とは、ワーク100を積層方向に挟み込んで、積層方向にワーク100を加圧する。
【0046】
第1電極2は、積層方向に延びる柱状である。第2電極3も、積層方向に延びる柱状である。第1電極2と第2電極3とは、積層方向に対向している。
【0047】
溶接ガン11は、加圧装置14を有している。加圧装置14は、第1電極2を、ワーク100に対して相対的に、積層方向に移動させる。加圧装置14は、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、又はサーボモータを含んで構成される。溶接ガン11が、第2電極3の先端をワーク100の表面に接触させた状態で、加圧装置14が第1電極2を移動させることによって、第1電極2及び第2電極3は、ワーク100を積層方向に挟み込んで、積層方向にワーク100を加圧することができる。
【0048】
制御器12は、抵抗溶接装置1において、ワーク100に対する加圧及び給電を制御する。制御器12は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであり、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力バスを含んでいる。CPUは、コンピュータプログラムを実行する中央演算処理装置である。コンピュータプログラムは、OS(Operating System)等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含んでいる。ROMには、種々のコンピュータプログラムや、データ等が格納されている。RAMは、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バスは、制御器12に対して電気信号の入出力をする。
【0049】
制御器12は、ROMに格納されている制御プログラムに従って、加圧装置14に制御信号を出力することにより、第1電極2及び第2電極3を使って、ワーク100を加圧する。
【0050】
制御器12はまた、第1電極2及び第2電極3を通じて、電源13からの溶接電流を、ワーク100へ供給する。電流センサ121は、溶接電流に対応する計測信号を制御器12へ出力する。制御器12は、電流センサ121の計測信号から、第1電極2及び第2電極3の間の電気抵抗値を得ることができる。制御器12は、第1電極2及び第2電極3の間の電気抵抗値に基づいてワーク100へ供給する溶接電流を調整する。
【0051】
(第1電極及び第2電極の基本構造)
図2は、第1電極2及び第2電極3の基本構造を例示している。第1電極2及び第2電極3は、加圧機能と給電機能とが分離しているという特徴を有している。
【0052】
第1電極2は、第1加圧部22と、第1給電部23とを有している。第1加圧部22は、接触面221を有している。接触面221は、ワーク100の表面、より具体的に被溶接材101の表面に接触する。接触面221は、例えば平坦面である。接触面221は、平坦面に限らない。第1給電部23も、接触面231を有している。接触面231は、ワーク100の表面、より具体的に被溶接材101の表面に接触する。接触面231は、例えば平坦面である。接触面231は、平坦面に限らない。接触面221と接触面231とは連続していない。第1加圧部22と、第1給電部23とは、分離している。
【0053】
第2電極3は、第2加圧部32と、第2給電部33とを有している。第2加圧部32は、接触面321を有している。接触面321は、ワーク100の表面、より具体的に被溶接材102の表面に接触する。接触面321は、例えば平坦面である。接触面321は、平坦面に限らない。第2給電部33も、接触面331を有している。接触面331は、ワーク100の表面、より具体的に被溶接材102の表面に接触する。接触面331は、例えば平坦面である。接触面331は、平坦面に限らない。接触面321と接触面331とは連続していない。第2加圧部32と、第2給電部33とは、分離している。
【0054】
第1加圧部22と第2加圧部32とは、積層方向に互いに重なり合う。第1給電部23と第2給電部33とは、積層方向に互いに重なり合わない。より詳細に、第1給電部23は、第1加圧部22に対して積層方向に直交する方向の第1側に位置している。第1側は、
図2における紙面左側である。第2給電部33は、第2加圧部32に対して積層方向に直交する方向の第2側に位置している。第2側は、
図2における紙面右側である。第1給電部23と第2給電部33とは、積層方向に直交する方向に、所定距離だけ互いに離れて位置し、第1加圧部22と第2加圧部32とは、積層方向に直交する方向に対して、第1給電部23と第2給電部33との間に位置している。第1給電部23及び第2給電部33は、第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線を挟んで、積層方向に直交する方向の両側に、対称に位置している。
【0055】
第1電極2と第2電極3とがワーク100を積層方向に加圧した際に、第1電極2及び第2電極3において積層方向に重なり合う部分は、第1加圧部22及び第2加圧部32である。第1加圧部22と第2加圧部32とは、ワーク100を実際に加圧する。第1電極2及び第2電極3において、ワーク100を実際に加圧する部分は第1電極2及び第2電極3における一部分である。第1電極2及び第2電極3において、ワーク100の表面に接触する面積、つまり、接触面221,231、321、331の合計面積よりも、第1加圧部22及び第2加圧部32の接触面積221、321は小さい。
【0056】
第1給電部23と第2給電部33とは、積層方向に互いに重なり合わない。第1給電部23及び第2給電部33は、主にワーク100に給電する。
【0057】
第1給電部23と第2給電部33とを結ぶ線は、第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線(
図2の一点鎖線参照)に対して、ワーク100の接合界面103付近において交差する。ワーク100内において、第1給電部23と第2給電部33とを結ぶように、通電経路が形成される(
図2の破線の矢印参照)。
【0058】
このようにして、第1電極2及び第2電極3はそれぞれ、ワーク100を加圧する機能と、ワーク100に給電する機能とが分離している。
【0059】
図3は、第1電極2及び第2電極3を備えた抵抗溶接装置1による、溶接プロセスを例示している。溶接プロセスは、5つのステップS1~S5を含んでいる。尚、
図3の上段は、各ステップにおける第1電極2、第2電極3及びワーク100との関係を例示し、中段は、各ステップにおける接合界面103付近の状態を例示し、下段の
図301は、溶接プロセスにおける電極間抵抗値の時間変化を例示している。
【0060】
第1ステップS1は、第2電極3をワーク100の下面に当てた状態で、第1電極2をワーク100の上面へ向かって移動させるステップである。第1電極2及び第2電極3は、ワーク100を積層方向に挟み込んで、積層方向にワーク100を加圧する。
【0061】
第2ステップS2は、第1電極2及び第2電極3が、積層方向にワーク100を加圧しながら、第1電極2及び第2電極3によってワーク100に給電するステップである。このときに、前述の通り、第1加圧部22及び第2加圧部32が、ワーク100を積層方向に加圧する。ワーク100の接合界面103の、第1加圧部22及び第2加圧部32に対応する箇所において、二つの被溶接材101、102が接触することにより、第1給電部23と第2給電部33との間で、ワーク100内に通電経路105が形成される。この状態において、接合界面103での通電経路105に対して、第1電極2、第2電極3で離間した各電極の外周部分A、Bが存在する。
【0062】
第3ステップS3は、ワーク100の接合界面103の、第1加圧部22及び第2加圧部32に対応する箇所においてジュール熱が発生し、同図に黒い矢印で示すように、当該箇所において熱膨張が生じるステップである。こうした熱膨張に対して、上記外周部分A、Bは離間しているため、熱膨張による位置ずれの影響が抑制される。
【0063】
第4ステップS4は、第3ステップS3での発熱及び熱膨張に伴い、ワーク100の接合界面103に、通電経路105が形成されるステップである。通電経路105は、後にナゲットを生成する。この状態では、加圧・通電されている第2ステップS2の通電経路105に比べ、加圧されている接合界面103での通電経路105が狭まる。
【0064】
第5ステップS5は、ワーク100の接合界面103において、被溶接材101、102が溶融し、通電経路105が拡大するステップである。
【0065】
図3では図示を省略するが、第5ステップS5の後、溶融した被溶接材101、102が凝固してナゲットが生成され、溶接プロセスが完了する。尚、第4ステップS4、及び、第5ステップS5の状態でも、ナゲットによるワーク100の変形に対し、ナゲットから離間した外周部分A、Bでの位置ずれの影響は小さい。
【0066】
図2に示すように、第1電極2及び第2電極3のそれぞれにおいて、通電経路105が形成される面積であってワーク100を加圧している第1加圧部22及び第2加圧部32の面積は、相対的に小さい。これにより、前記第4ステップS4乃至第5ステップS5においてワーク100が塑性変形した際に、第1電極2及び第2電極3がワーク100に対して沈み込むことが抑制される。
【0067】
言い換えると、第1電極2及び第2電極3のそれぞれが、第1給電部23及び第2給電部33を有しているため、第1電極2及び第2電極3がワーク100に対して沈み込むことが抑制される。第1給電部23及び第2給電部33はそれぞれ、ワーク100への沈み込みを抑制する第1抑制部及び第2抑制部である。
【0068】
図12に例示する従来の抵抗溶接装置10では、第1電極20及び第2電極30がワーク100に対して沈み込むため、電極表面とワーク表面との間でアーク放電が発生して電極が劣化してしまう。
【0069】
図2の抵抗溶接装置1は、第1電極2及び第2電極3がワーク100に対して沈み込むことが抑制されるから、電極表面とワーク表面との間でアーク放電が発生することが抑制される。つまり、電極の劣化が抑制される。
【0070】
また、第1電極2及び第2電極3は、第1加圧部22及び第2加圧部32の面積が相対的に小さいため、溶接プロセス中にワーク100から第1電極2又は第2電極3へ伝わる熱量が減る。また、第1給電部23及び第2給電部33を有している第1電極2及び第2電極3の体積は、比較的大きいため、第1電極2又は第2電極3の熱容量は比較的大きい。それらの結果、第1電極2及び第2電極3がワーク100からの熱によって高温になって、電極表面が合金化したり、電極表面が変形したりすることも抑制される。
【0071】
電極の劣化が抑制される結果、この抵抗溶接装置1は、接合界面状態の高精度の管理が可能である。接合界面状態の高精度の管理は、例えばマルチマテリアルの溶接品質を安定化させる。また、この抵抗溶接装置1は、電極の劣化が抑制されるため、製造ラインの停止頻度が低下して、製造コストの低減に有利である、さらに、電極の劣化を考慮して溶接時の給電量を予め高める必要がないため、この抵抗溶接装置1は、エネルギロスの抑制も可能である。
【0072】
また、第1給電部23及び第2給電部33は、溶接プロセスの間、ワーク100に沈み込まずにワーク100の表面に対して安定的に接触している。ステップS2において被溶接材101、102が熱膨張した時に、第1給電部23及び第2給電部33が、熱膨張する被溶接材101、102を押さえる。その結果、溶接完了後のワーク100の歪みが抑制される。
【0073】
ここで、第1電極2及び第2電極3のそれぞれにおいて、接触面221、231、321,331の全体面積に対する加圧部22、32の接触面221、321の面積の割合は、10~90%にしてもよい。こうすることで、第1電極2及び第2電極3は、電極の沈み込みを効果的に抑制できるから、劣化を抑制できる。
【0074】
第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線と、ワーク100の接合界面103とが交差する箇所は、第1加圧部22及び第2加圧部32の加圧によって被溶接材101、102同士が接触して、通電経路が形成される箇所であり、この箇所は溶接予定箇所である。ワーク100に給電する第1給電部23と第2給電部33とを結ぶ線が、通電経路が形成される溶接予定箇所に交差することによって、第1電極2及び第2電極3は、ワーク100の溶接予定箇所において効率的にジュール熱を発生させることができる。
【0075】
また、第1給電部23と第2給電部33とは、第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線に対して対称に位置していることにより、第1給電部23及び第2給電部33は、第1加圧部22と第2加圧部32とに対応する箇所であって、被溶接材101、102同士が接触する箇所に、効率的に給電できる。抵抗溶接のエネルギロスが低減する。また、第1電極2及び第2電極3は、ワーク100の表面に安定的に接触できる。
【0076】
(第1電極及び第2電極の具体構造)
(第1例)
図4は、第1電極2及び第2電極3の具体構造を例示している。
図4(a)は、第1電極2の断面図、(b)は、第1電極2の平面図、(c)は、第2電極3の平面図、(d)は、第2電極3の断面図であり、(e)は、第1電極2及び第2電極3を用いて接合されたワーク100のナゲット100の形状を示している。尚、以下で説明する
図5~10それぞれの(a)~(e)も同様である。
【0077】
第1電極2及び第2電極3はそれぞれ、同径の円柱形状を有している。第1電極2及び第2電極3は同軸である。
【0078】
第1電極2の接触面221及び接触面231は連続していて、全体として扇形状の第1接触面21を構成している。以下の説明において、第1接触面21は、第1加圧部22の接触面221と第1給電部23の接触面231とによって構成される面をいう。
【0079】
第2電極3の接触面321及び接触面331も連続していて、全体として扇形状の第2接触面31を構成している。以下の説明において、第2接触面31は、第2加圧部32の接触面321と第2給電部33の接触面331とによって構成される面をいう。尚、(e)における二点鎖線は、第1接触面21及び第2接触面31の形状をワーク100に投影した線である。
【0080】
第1接触面21及び第2接触面31の扇形状の径は、円柱状の第1電極2及び第2電極3の径よりも大きい。第1電極2及び第2電極3の軸は、第1接触面21及び第2接触面31の内部に位置している。
【0081】
第1電極2と第2電極3とは、軸に対して反転している。第1電極2の先端において、第1接触面21以外の箇所は、(a)に示すように、第1凹陥部24である。同様に、第2電極3の先端において、第2接触面31以外の箇所は、(d)に示すように、第2凹陥部34である。これら凹陥部24、34にはそれぞれ、絶縁体240、340が位置している。絶縁体240、340は、ワーク100の表面に接触する。絶縁体240、340はそれぞれ、電気絶縁性を有している。絶縁体240、340は、例えば窒化ケイ素によって構成できる。尚、絶縁体240、340は、断熱機能を有していてもよい。絶縁体240、340が断熱機能を有していると、ワーク100から第1電極2又は第2電極3へ伝わる熱量が減る。
【0082】
第1電極2と第2電極3とを対向させた場合に、第1接触面21と第2接触面31とにおいて重なり合う箇所は、
図4(b)(c)にクロスハッチを付した箇所であって、軸を含む四角形の箇所である。当該箇所が、第1加圧部22及び第2加圧部32である。また、第1接触面21及び第2接触面31において、第1加圧部22及び第2加圧部32を除く箇所が、第1給電部23及び第2給電部33である。第1給電部23及び第2給電部33は、積層方向に重なり合わない。
【0083】
第1給電部23は、第1加圧部22に対して積層方向に直交する方向の第1側に位置し、第2給電部33は、第2加圧部32に対して積層方向に直交する方向の第2側に位置している。第1給電部23及び第2給電部33は、第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線を挟んで、積層方向に直交する方向の両側に、対称に位置している。
【0084】
図4の第1電極2及び第2電極3を用いることによって、通電経路が形成される面積であって、ワーク100が加圧される面積が制限される。ワーク100に、おおよそ四角形のナゲット104が形成される。
【0085】
(第2例)
図5の第1電極2は、半円のような形状の第1接触面21を有し、第2電極3は、第1電極2と同様に、半円のような形状の第2接触面31を有している。第1電極2と第2電極3とは、軸に対して反転している。第1電極2の先端において、第1接触面21以外の箇所は、(a)に示すように、第1凹陥部24である。同様に、第2電極3の先端において、第2接触面31以外の箇所は、(d)に示すように、第2凹陥部34である。これら凹陥部24、34にはそれぞれ、絶縁体240、340が位置している。絶縁体240、340は、ワーク100の表面に接触する。
【0086】
第1電極2と第2電極3とを対向させた場合に、第1接触面21と第2接触面31とにおいて重なり合う箇所は、
図5(b)(c)にクロスハッチを付した箇所であって、軸を含む線状の箇所である。当該箇所が、第1加圧部22及び第2加圧部32である。また、第1接触面21及び第2接触面31において、第1加圧部22及び第2加圧部32を除く箇所が、第1給電部23及び第2給電部33である。第1給電部23及び第2給電部33は、積層方向に重なり合わない。
【0087】
第1給電部23は、第1加圧部22に対して積層方向に直交する方向の第1側に位置し、第2給電部33は、第2加圧部32に対して積層方向に直交する方向の第2側に位置している。第1給電部23及び第2給電部33は、第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線を挟んで、積層方向に直交する方向の両側に、対称に位置している。
【0088】
図5の第1電極2及び第2電極3を用いることによって、ワーク100に、線状のナゲット104が形成される。通電経路が形成される面積であって、ワーク100が加圧される面積が制限される。当該ナゲット104は方向性を有している。方向性を有しているとは、ナゲット104の第1方向の長さが、第2方向の長さよりも、十分に長いことを言う。ワーク100に応じて、ナゲット104の方向を適切に設定することにより、必要強度を確保することが可能になる。また、ナゲット104は、
図5における紙面左右方向の幅が狭いため、ワーク100の狭い箇所を溶接できる。線状のナゲット104は、例えば溶接対象のフランジの幅を狭くできるといった利点が得られる。尚、ナゲット104の幅は、第1加圧部22及び第2加圧部32の幅の調整によって、適宜調整することができる。
【0089】
(第3例)
図6の第1電極2は、円形状の第1接触面21を有し、第2電極3は、第1電極2とは異なり、円環形状の第2接触面31を有している。
図6の例において、第1接触面21と第2接触面31とは、異なる形状を有している。尚、第1電極2の第1接触面21の形状と、第2電極3の第2接触面31の形状とは、入れ替えてもよい。第1電極2の先端において、第1接触面21以外の箇所は、(a)に示すように、第1凹陥部24である。同様に、第2電極3の先端において、第2接触面31以外の箇所は、(d)に示すように、第2凹陥部34である。これら凹陥部24、34にはそれぞれ、絶縁体240、340が位置している。絶縁体240、340は、ワーク100の表面に接触する。
【0090】
第1電極2と第2電極3とを対向させた場合に、第1接触面21と第2接触面31とにおいて重なり合う箇所は、
図6(b)(c)にクロスハッチを付した箇所であって、軸を中心とした円環状の箇所である。当該箇所が、第1加圧部22及び第2加圧部32である。第1加圧部22は、第1接触面21の外周部に位置する円環形状である。第2加圧部32は、第2接触面31の内周部に位置する円環形状である。また、第1接触面21において、第1加圧部22の内側に位置する円形状の箇所が、第1給電部23であり、第2接触面31において、第2加圧部32の外側に位置する円環形状の箇所が、第2給電部33である。第1給電部23及び第2給電部33は、積層方向に重なり合わない。
【0091】
第1給電部23は、(a)に示す断面において、第1加圧部22に対し積層方向に直交する方向の第1側、つまり径方向内側に位置し、第2給電部33は、(d)に示す断面において、第2加圧部32に対し積層方向に直交する方向の第2側、つまり径方向外側に位置している。第1給電部23及び第2給電部33は、第1加圧部22と第2加圧部32とを結ぶ線を挟んで、積層方向に直交する方向の両側に位置している。
【0092】
図6の第1電極2及び第2電極3を用いることによって、通電経路が形成される面積であって、ワーク100が加圧される面積が制限される。ワーク100に、円環形状のナゲット104が形成される。
【0093】
(第4例)
図7の第1電極2は、三角形状の第1接触面21を有し、第2電極3は、第1電極2と同様に、三角形状の第2接触面31を有している。第1接触面21及び第2接触面31は、より正確には正三角形状である。尚、第1電極2と第2電極3とは、軸に対して反転している。第1接触面21と第2接触面31とは、それぞれの三角形の重心が積層方向に重なり合うように位置している。第1電極2の先端において、第1接触面21以外の箇所は、(a)に示すように、第1凹陥部24である。同様に、第2電極3の先端において、第2接触面31以外の箇所は、(d)に示すように、第2凹陥部34である。これら凹陥部24、34にはそれぞれ、絶縁体240、340が位置している。絶縁体240、340は、ワーク100の表面に接触する。
【0094】
第1電極2と第2電極3とを対向させた場合に、第1接触面21と第2接触面31とにおいて重なり合う箇所は、
図7(b)(c)にクロスハッチを付した箇所であって、軸を中心とした正六角形状の箇所である。当該箇所が、第1加圧部22及び第2加圧部32である。また、第1接触面21において、第1加圧部22を除く三つの三角形状の箇所、つまり、三角形の各頂点付近の箇所が、第1給電部23であり、第2接触面31において、第2加圧部32を除く三つの三角形状の箇所、つまり、三角形の各頂点付近の箇所が、第2給電部33である。三つの第1給電部23及び三つの第2給電部33は全て、積層方向に重なり合わない。
図7の第1電極2及び第2電極3は、複数の第1給電部23及び第2給電部33を有している。
【0095】
図7の第1電極2及び第2電極3を用いることによって、通電経路が形成される面積であって、ワーク100が加圧される面積が制限される。ワーク100に、六角形状のナゲット104が形成される。
【0096】
ここで、第1給電部23及び第2給電部33が、第1加圧部22及び第2加圧部32の周囲に等間隔で複数配置されているため、ワーク100が熱膨張した際に、複数の第1給電部23及び複数の第2給電部33が、熱膨張する被溶接材を効果的に押さえることができる。
【0097】
尚、第1接触面21及び第2接触面31の形状は、正三角形状に限定されない。第1接触面21及び第2接触面31の形状は、例えば二等辺三角形状であってもよい。また、第1接触面21及び第2接触面31の形状は、三角形以外の多角形状であってもよい。
【0098】
(第5例)
図8の電極は、第3例と第4例とを組み合わせている。つまり、第1電極2は、第4例と同様に三角形状の第1接触面21を有している。第2電極3は、第3例と同様に円環形状の第2接触面31を有している。第2接触面31の外径は、第1接触面21の三角形の外接円の径に一致し、第2接触面31の内径は、第1接触面21の三角形の内接円の径に一致する。凹陥部24、34にはそれぞれ、絶縁体240、340が位置している。
【0099】
第1電極2と第2電極3とを対向させた場合に、第1接触面21と第2接触面31とにおいて重なり合う箇所は、
図8(b)(c)にクロスハッチを付した箇所であって、三角形の各頂点近傍の箇所である。これらの箇所の全てが、第1加圧部22及び第2加圧部32である。
図8の第1電極2及び第2電極3は、複数の第1加圧部22及び第2加圧部32を有している。また、第1接触面21において、第1加圧部22を除く内接円の箇所が、第1給電部23であり、第2接触面31において、第2加圧部32を除く円の一部分の箇所(つまり、弓形の箇所)が、第2給電部33である。第1給電部23及び三つの第2給電部33は全て、積層方向に重なり合わない。
【0100】
図8の第1電極2及び第2電極3を用いることによって、通電経路が形成される面積であって、ワーク100が加圧される面積が制限される。ワーク100に、複数のナゲット104が形成される。
【0101】
尚、第1接触面21の三角形と第2接触面31の円環との関係は、前述した三角形の外接円及び内接円の関係に限定されない。
【0102】
また、第1電極2の第1接触面21は三角形に限らず、その他の多角形であってもよい。
【0103】
さらに、第1電極2の形状と第2電極3の形状とを入れ替えてもよい。
【0104】
(第6例)
図9の第1電極2及び第2電極3は、加圧部に絶縁体を有している。
図9の第1電極2は、
図4の第1電極2と同様に、扇形状の第1接触面21を有している。第1電極2は、第1加圧部22の位置に埋め込まれた第1絶縁体25を有している。第1絶縁体25は四角形状であり、その表面は、第1給電部23の接触面231に連続する接触面221を構成する。つまり、第1給電部23と第1絶縁体25とのワーク100との接触面は同一平面となる。第1電極2と同様に、
図9の第2電極3は、扇形状の第2接触面31を有している。第2電極3は、第2加圧部32の位置に埋め込まれた第2絶縁体35を有している。第2絶縁体35は四角形状であり、その表面は、第2給電部33の接触面331に連続する接触面321を構成する。つまり、第2給電部33と第2絶縁体35とのワーク100との接触面は同一平面となる。尚、凹陥部24、34にはそれぞれ、絶縁体が位置していない。
【0105】
第1絶縁体25及び第2絶縁体35はそれぞれ、電気絶縁性を有している。第1加圧部22及び第2加圧部32はそれぞれ、給電部として機能しない。第1電極2及び第2電極3は共に、加圧機能と給電機能とを分離できる。尚、第1絶縁体25及び第2絶縁体35は、断熱機能を有していてもよい。第1絶縁体25及び第2絶縁体35が断熱機能を有していると、ワーク100から第1電極2又は第2電極3へ伝わる熱量がさらに減る。
【0106】
(第7例)
図10の第1電極2及び第2電極3も、加圧部の位置に第1絶縁体25及び第2絶縁体35を有している。第1絶縁体25は、第1加圧部22の一部を構成する。第1絶縁体25は、三角形状を有している。第2絶縁体35も、三角形状を有している。第1絶縁体25及び第2絶縁体35は、軸を挟んで、積層方向に直交する方向の両側に、対称に位置している。第1絶縁体25及び第2絶縁体35は、積層方向に対向しない。
図10の第1電極2及び第2電極3では、第1加圧部22及び第2加圧部32の一部が給電機能を有する場合がある。
【0107】
尚、前述した第1例~第7例において、第1加圧部22の接触面221と第1給電部23の接触面231とは不連続であってもよい。例えば接触面221と接触面231との境界に、第1電極2の第1接触面21から凹陥する溝が形成されていてもよい。同様に、第2加圧部32の接触面321と第2給電部33の接触面331とは不連続であってもよい。例えば接触面321と接触面331との境界に、第2電極3の第2接触面31から凹陥する溝が形成されていてもよい。
【0108】
(実施例)
図11は、電極の劣化の抑制効果を確認した実施例を示している。
図11の上図は、
図12に示す、従来の電極を使ってスポット溶接を繰り返した場合に、1回目の溶接時の電極間抵抗値の時間変化と、101回目の溶接時の電極間抵抗値の時間変化と、を比較している。
図11の下図は、
図4に示す本件電極を使ってスポット溶接を繰り返した場合に、1回目の溶接時の電極間抵抗値の時間変化と、101回目の溶接時の電極間抵抗値の時間変化と、を比較している。
【0109】
図11の上図から、従来の電極では、1回目の溶接時における、溶接開始初期の電極間抵抗値に対して、101回目の溶接時における、溶接開始初期の電極間抵抗値は、大きく低下していた。電極間抵抗値の低下は、スポット溶接を繰り返すことに伴い、電極が劣化したためである。
【0110】
これに対し、
図11の下図から、本件電極では、1回目の溶接時における、溶接開始初期の電極間抵抗値に対して、101回目の溶接時における、溶接開始初期の電極間抵抗値は、ほとんど変化しなかった。つまり、本件電極は、電極の劣化が抑制されている。
【0111】
ここで、抵抗溶接における加圧密度、又は、電流密度の基準として、RWMA(Resistance Welding Manufacturing Alliance)が策定した基準が知られている。前述した第1例~第7例の電極を用いた抵抗溶接時にも、RWMA基準に準じて、加圧密度、又は、電流密度を定めればよい。
【0112】
具体的に、ここに開示する抵抗溶接装置1において、加圧密度は、4~10kgf/mm2としてもよい。また、電流密度は、200~500A/mm2としてもよい。
【0113】
尚、上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0114】
1 抵抗溶接装置
100 ワーク
101、102 被溶接材
103 接合界面
2 第1電極
22 第1加圧部
221 接触面
23 第1給電部
231 接触面
25 第1絶縁体
3 第2電極
32 第2加圧部
321 接触面
33 第2給電部
331 接触面
35 第2絶縁体