(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022815
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】鋼片の直接通電加熱装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20240214BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20240214BHJP
B21B 45/00 20060101ALI20240214BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C21D9/00 101M
C21D1/00 B
B21B45/00 D
H05B3/00 340
C21D1/00 114Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126174
(22)【出願日】2022-08-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【テーマコード(参考)】
3K058
4K034
【Fターム(参考)】
3K058AA71
3K058AA81
3K058BA19
3K058FA07
3K058GA06
4K034AA05
4K034AA06
4K034AA11
4K034AA19
4K034BA08
4K034CA01
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB04
4K034EA15
4K034EB11
(57)【要約】
【課題】 圧延歩留及び品質に良い鋼片加熱装置を提供する。
【解決手段】 棒線条用の鋼片の圧延に際して直接通電により急速加熱して鋼片の酸化・脱炭を防止する。加熱台に複数の鋼片を積載し、各鋼片の両端部近傍に電極と継電ブスバーを設け直列回路を形成する。抵抗値の増加によって電源の電流値を10万アンペア以下に抑制する。電極は回転するワイヤブラシとして多点接触によりスパークを抑制するとともに鋼片端面と水中に設けられた継電ブスバーを短絡させ、且つ電極先端部を冷却する。 圧延歩留が約1%向上、表面キズ及び脱炭欠陥が減少する。該装置を既設の加熱炉の搬出部近傍に設け、鋼片を600~800℃に予熱するなら消費電力量は半減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒・線・条用の鋼片を直接通電加熱する装置であって、2本以上の鋼片を積載し該鋼片を並列・並進させるウォーキング・ビームを保有する加熱台と、該加熱台上の各鋼片の両端面に接触・離反することが可能な該加熱台外側に設けられた電極と、該鋼片を直列回路とするよう該電極間を電気接続する水中に設けられた継電ブスバーと、該回路に通電する電源とから構成され、該電極の接点部は回転する導通可能なブラシロールであって稼働中は該鋼片端面と該継電ブスバーとの2点で摺動接触することを特徴とする鋼片の加熱装置。
【請求項2】
下記6条件、
1) 積載する鋼片をガス加熱炉により600℃以上800℃以下に予熱すること、
2) 直列回路への通電は各電極が各鋼片と接触した後、切電は離反する前に行うこと、
3) ブラシロールの幅を鋼片幅以上とし、径を鋼片高さの2倍以上5倍以下とすること、
4) ブラシロールは一定押圧力で鋼片端面と水中ブスバーに接触すること、
5) 回路抵抗センサーを設け、異常時には通電不能とすること、
6) 加熱台への鋼片の積載数を偶数とすること、
のうちどれか一つ以上を組み込んだことを特徴とする請求項1に記載した鋼片の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒・線・条用鋼片を熱間圧延に供するに当たって1000℃以上の高温に再加熱する装置に関している。
【背景技術】
【0002】
条鋼・棒鋼・線材等の圧延鋼材は連続鋳造、又は連続鋳造と分塊圧延によって得られた鋼片を約1200℃に再加熱した後、所定形状の鋼材に圧延されたものである。
再加熱工程に関して、設備は通常ガスバーナーを付設したウォーキング式炉床を持つ連続加熱炉が使用され、加熱時間は1~2時間を要し、燃料原単位は性能の優れたバーナーの適用や操業上の効率化等により25~40×104kcal/t(加熱効率70~40%)であり、低減はほぼ限界に近く、コスト上の問題は概ね解決されている。
【0003】
該再加熱炉における問題を挙げる。
1) 火炎は低速加熱故に時間を要し、鋼片表面の酸化が進行、歩留損は1.0~1.5%になる。鋼材価格が炭素鋼の数倍もするステンレス鋼等の高合金鋼では当歩留損はバカにならない。
2) 同様に鋼片表面が脱炭し、例え薄くても孔型圧延の過程で不均一延伸により脱炭層の部分集積が発生して高級鋼では下流工程で表面除去が必要になる。
3) 酸化によるスケール(酸化鉄の薄片)が炉床に堆積・溶着し、鋼片移送時に表面キズを発生させる。炉床の補修作業が欠かせない。
ちなみに小型鍛鋼品を製造する場合、しばしば高周波加熱のビレットヒーターによって急速加熱され、この場合上記3問題は全く発生しない。
該ビレットヒーターを前記量産鋼材に適用すると上記3問題の解決は容易だが、加熱効率は誘導炉固有の問題により60%を超えられず、電力コストが決定的弱点となる。
【0004】
特許文献1には、直進する鋼線を約1000℃に連続加熱する方法が開示されている。それによると従来のソレノイドコイルに貫通させて高周波誘導加熱する方法に対して2個の電極ロール間に直接通電している。加熱効率は95%以上が得られ、直接通電の優秀性が立証されているが、設備的には約10mm径の鋼線に対して電流値は3000~4000Aが必要である。
【0005】
鋼線の直接通電加熱方法を鋼片に適用する場合の問題を検討する。
鋼片の断面積は鋼線のそれの100倍以上である。電流値は10万Aを優に超える(例;30万A)。これ程の大電流になると変圧器だけでなく継電器・制御器や配線・電極の設計及び操業に問題多々と推測される。電源面では一般的なアーク炉用電源から乖離し、特殊設計となって設備費が割高となる。作業面では、通電の入り切りに際して鋼片電極間にスパークが発生すると、強烈故に両者の接触部に溶蝕・溶着が発生し、電極が耐久し得ない。そもそも回転するロールと静止鋼片は馴染まない等種々の問題が予測される。
【0006】
鋼片の直接通電加熱に成功している事例は、発明者の知るところ世界で1工場
(Thyssen Ederstahl Werke Witten)である。実施状況を整理する。
特殊鋼線材を対象とし、鋼片寸法は90mm角×6m、電極に工夫があり、約20mm径半球状の圧接端子を各面2個、端面に5個を保持する電極バイスを鋼片両端部に噛みつかせる。約3分で1100℃に昇温、電流値は約10万Aである。
当該装置は鉄筋用棒鋼の鋼片(130mm角)の再加熱に応用されたが、電極の耐久が全く巧く行かず実用されなかった。
【0007】
成否の要因を検討すると、前者の成功例では電極の接触・通電がほぼ安定していて耐久性は容認できる程度であったこと、後者の失敗例では処理能力の増強(約5倍)や断面積増に起因する電流値の増大が電極の耐久問題を困難にしたと推測される。
【0008】
電極の耐久に関して、鋼線では容易、鋼片では困難にしている要因は、鋼線と電極ロールとは同期しているので接触点はロールの回転により両者とも時々刻々移動して局所異常発熱が無いが、鋼片と電極とでは接触点が固定しており異常発生の可能性が大きい。
【0009】
特許文献2には最良の電極ロールが開示されている。それによると電極はタッチロール方式であるが、通電性の良いCCコンポジット(黒鉛と黒鉛繊維の複合材)の薄片を植毛したブラシ・ロールにより通電する。接触点が多数になって個々の接点の離反に際して生ずるスパークは微少になってスパーキズ問題が解決される。ブラシ尖端の昇温は導電性の大きいCCコンポジットにより他端の水冷銅合金製環状植毛台により冷却され、黒鉛が燃焼しない400℃以下に維持される。
本方法の特徴は円滑な多点接触故に鋼線とロールを同期させる必要がない。逆回転も可能である。これは静止鋼片にも応用可能と推測される。
【0010】
上記CCコンポジットの薄片植毛のブラシロールを鋼片加熱に応用しようとすると、1) 特殊ブラシロールの製作が困難、且つ高価になり未だに実用されていない、
2) ブラシ自体に1200℃の鋼片の熱と通電発熱が負荷され、10万Aを超える大電流では植毛台の冷却能が追いつかず黒鉛ブラシが燃焼すると言う問題が生ずる。
冷却能が不足する理由は、鋼線の場合接触幅が1mm程度に対して熱媒体となる薄片幅は20mm程度になって接触部の高熱は容易に植毛台に伝導する。鋼片の場合、接触幅と熱媒体幅は同等となり、媒体の伝熱面積が不足するからである。
【0011】
電極がどの様な構造であれ、静置している鋼片に電極を安定して接触させることは当業者にとっても意外と困難な問題である。
1) 鋼片端面の位置は鋼片長のバラツキや移送時の位置ずれにより軸方向にばらつく。
2) 線膨張によってもずれてくる。
3) 鋼片の曲がりにより端面の上下左右方向のずれも発現する。
4) 変な電極離反が生ずると大スパークが発生する。
大電流への対処、電極耐久の他に、これらの問題も同時に解決しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】公開特許公報平成11-29827
【特許文献2】公開特許公報2004-63293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、圧延鋼材の品質向上と歩留向上を目的とし、そのための手段として鋼線の連続加熱に適用されている直接通電加熱を鋼片の加熱に応用する。その際、想定される電流値は数10万アンペアになり、電気設備の設計と製作が困難且つ高価になると言う問題が生ずる。
さらに唯一の成功例であるグリップ式電極は電流値が増加すると劣化が激しい、内部水冷式の黒鉛ブラシロール式電極は冷却が追いつかず耐久が問題となる。
鋼片両端面の位置は諸状況により前後・上下・左右にばらつき、鋼片電極間の接触不良が生じ易い。
本願発明は鋼片の直接通電加熱において簡素低廉な電源を提供すること、耐久性があり且つ通電性が安定した電極を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
電流値の抑制と言う課題に対して、被加熱材(鋼片)の抵抗を大きくする必要があり、そのため先行例の回分処理(1本ごとの加熱)ではなく、連続処理に近い複数本の併行加熱とし、鋼片群を直列回路とする。
電極の耐久と言う課題に対しては、ワイヤーブラシロールにより多点接触として電流を分散するとともに水中継電ブスバーを考案して通電即冷却を組み込む。
接触面の位置バラツキに対しては電極構造に工夫を凝らした。
【0015】
第1の発明は、棒・線・条用の鋼片を直接通電加熱する装置であって、2本以上の鋼片を積載し該鋼片を並列・並進させるウォーキング・ビームを保有する加熱台と、該加熱台上の各鋼片の両端面に接触・離反することが可能な該加熱台外側に設けられた電極と、該鋼片を直列回路とするよう該電極間を電気接続する水中に設けられた継電ブスバーと、該回路に通電する電源とから構成され、該電極の接点部は回転する導通可能なブラシロールであって稼働中は該鋼片端面と該水中ブスバーとの2点で摺動接触することを特徴とする鋼片の直接通電加熱装置である。
【0016】
第2の発明は、下記6条件、
1) 積載する鋼片をガス加熱炉により600℃以上800℃以下に予熱すること、
2) 直列回路への通電は各電極が各鋼片と接触した後、切電は離反する前に行うこと、
3) ブラシロールの幅を鋼片幅以上とし、径を鋼片高さの2倍以上5倍以下とすること、
4) ブラシロールは一定押圧力で鋼片端面と水中ブスバーに接触すること、
5) 回路抵抗センサーを設け、異常時には通電不能とすること、
6) 加熱台への鋼片の積載数を偶数とすること、
のうちどれか一つ以上を組み込んだことを特徴とする第1発明に記載した鋼片の直接通電加熱装置である。
【発明の効果】
【0017】
第1の効果は、鋼片1本ごとを加熱するのではなく、複数本を直列回路にしているので加熱中の平均抵抗値は本数に比例して増大し、電源の必要電流値は大きく低下する。
具体的には通常の生産能率の電源出力において設計製作容易な10万アンペア以下とすることができる。
【0018】
第2に、急速加熱の故に鋼片表面の酸化量が極めて少なく、圧延歩留まりが向上する。従来の加熱炉と比較して1.0%以上が期待される。
【0019】
加熱・酸化による脱炭現象がほとんど無く高級特殊鋼に適する。後続の線材表面の皮剥工程が省略される。スケール起因の表面キズが低減する。通常、鋼片は加熱炉から搬出後、高圧水デスケーラーにより脱スケールがなされているが、当該処理が不要になる。
【0020】
電極の接点部は導電性の回転するワイヤーブラシであって、多点接触且つ十分な接触面積を持ち、スパークは微少で耐久に優れる。ブラシは通電昇温し、しかも尖端は接触昇温が上乗せされるが、回転により即時に水中に浸漬されて冷却する。ブラシの耐久に優れる。
電極ロールの寸法は十分な直径と幅を持ち、鋼片端面の位置が上下左右にばらついても安定して対処可能である。前後方向のバラツキにも定圧シリンダーにより前後進対処する。
【0021】
加熱エネルギーコストは従来のガス加熱炉に劣るが、ガス加熱予熱炉を付設(既存を流用してもよい)すると、設備費、電力費ともに半減する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本願発明の鋼片の直接通電加熱装置の平面図的概念図である。
【
図2】本願発明の要所である電極の構造を示し、Aは平面、Bは側面図である。
【
図3】本願発明の電極接触部における鋼片端面とワイヤーブラシとの位置関係を鋼片軸方向に見た図である。
【
図4】鋼の抵抗率の温度変化を示す図であり、SK5は高炭素鋼、SUS304はステンレス鋼である。
【
図5】本願発明の鋼片の直接通電加熱装置を既存の鋼片加熱炉の出側近傍に付設して予熱炉とした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に従って本願発明の鋼片の直接通電装置の構造を説明する。
1は鋼片供給台であり、該鋼片供給台1上の鋼片2はウォーキングビーム3’により鋼片加熱台3に順次積載され、該ウォーキングビーム3’のストロークに対応した間隔で並列し所定ピッチで間欠並進する。
各鋼片4,7,8,9の両端外側には鋼片に通電する電極5が鋼片4,7,8,9と着脱可能に設けられる。隣在電極間には適宜継電ブスバー6が設けられ、各鋼片4,7,8,9が電源10と該電源10に接続するブスバー11,13により直列回路を形成する。
【0024】
直列回路が接続されると電源10入りとし、各鋼片4,7,8,9は昇温する。所定時間(ピッチ)後、電源10切り、電極5切り(後退)とし、ウォーキングビーム3’を作動させて新鋼片1本を加熱台3上へ、加熱台3から加熱された鋼片9を搬出テーブル13へ移送する。該鋼片9は熱間圧延に供される。
【0025】
先行例の鋼片直接通電加熱では鋼片を1本毎に加熱(回分式)するが、本願発明では複数本の鋼片を直列回路に接続するので回路の抵抗値が本数比例で増加し、電源の所定出力に対して必要電流値を低位に誘導することができる。先行方式では一般的な鋼片に対して数10万アンペアが必要となるが、本方式により数万アンペアに抑制することが可能になる。
各鋼片は移送時には通電されないので間欠的段階加熱となる。電源出力は切電時間比率に対応して定格出力を乗算しなければならない。
【0026】
図2は電極5の構造を示す。電極5は鋼片21の端面と継電ブスバー26を導通させる機能を持ち、適宜着脱可能のメカニズムを持つ。
電極5は接点部となる電極ロール22と該電極ロール22を前後進させて鋼片21の端面に着脱させるシリンダー28と、該シリンダー28を支点軸30を介して該電極ロール22を下方に設けられた継電ブスバー26に圧接させるばね29と、電極ロールを回転させるモーター25とから成る。
電極ロール22は主に導電性の環状植毛台23と該植毛台23上の導電性ワイヤーブラシ24とから成る。
電極ロール22は一定の空気圧によって適切な押圧力で鋼片端面に接する。またばね30の反発力を調節して継電ブスバー26へ適切な押圧力を与える。
【0027】
電極ロール22の下方には継電ブスバー26が水箱27中に浸漬されて設けられる。鋼片と接して昇温したワイヤーブラシ24の尖端はモーター25の駆動により直ちに水中に冷却され、ワイヤーの耐久が得られる。ワイヤーブラシ24の一部は常時該継電ブスバー26に接触していて両者間の導通は安定している。
該水箱27と継電ブスバーは隣設の電極下方にまで広がっていて、該継電ブスバー27から隣設の電極を通り隣の鋼片7を通電加熱する。
【0028】
電源10は変圧器と電圧調節器と回路遮断機(VCB;Vacuum Circuit Breaker)とから成る。通電加熱に際して、まず各電極が鋼片と継電ブスバーに接触して直列回路を形成し、その後遮断器を接続する。通電を停止する場合、回路遮断器を先行させる。逆になると大電流故に鋼片電極間で爆発的放電が発生して極めて危険である。
【0029】
鋼片端面と電極との接触の安定性について
図3を参考に説明する。既述のように、
1) 鋼片端面の位置は鋼片長のバラツキや移送時の位置ずれにより軸方向にばらつく。
2) 昇温による線膨張によってもずれてくる。
当問題に対して本発明では電極ロールは空圧シリンダー28により一定圧力で端面に接触しており、電極は適時前後進して正常接触を維持する。
3) 鋼片の曲がりにより端面の上下左右方向のズレも発現する。
当問題に対して電極ロールの直径を鋼片断面高さの2倍以上5倍以下として上下のズレを吸収し、ブラシ幅を鋼片幅以上として左右のズレを吸収する。
【0030】
4) 変な電極離反が生じたり、接触不良のまま通電すると大スパークが発生する危険性がある。当問題に対して回路抵抗検出装置(図示せず)を付設して異常を事前検出し、通電前にアラームを発するとともに回路遮断機を作動不可する。
以上のごとく本願発明の電極は作業上の種々のトラブルやバラツキに対処容易な構造となっている。
【0031】
加熱速度について検討する。
図4は鋼の抵抗率の温度依存性を示す。SK5は高炭素鋼、SUS304は通常のステンレス鋼である。抵抗率は昇温とともに急速に増加する。直列鋼片の抵抗値の算出には平均抵抗率を使用する。
生産能率(t/h)と鋼片単重(t/本)に対応して加熱ピッチ(分/本)が算出される。例えば、2t鋼片を60t/hの能率で処理する場合、ピッチは2分である。
先行例の1本ごとの加熱方式では加熱速度は1200℃/3分で400℃/分の急速加熱になる。
本発明では複数加熱であるから加熱時間は積載本数倍となり、加熱速度は本数に反比例して低下する。それでも鋼片表面が酸化する時間は数10秒であり、加熱炉の数10分とは圧倒的な差となり、急速加熱の効果は失われない。
【0032】
加熱に必要なエネルギー量とエネルギーコストについて検討する。
直接通電加熱では適切な設計により加熱効率は95%以上が得られる。1200℃における鋼材の含熱量は180kcal/kg、効率を95%とすると必要電力は220
kWh/tとなる。
ガスと電力の単価は変動するのでエネルギーコスト比較は概算になるが後者は前者の約2倍になる。これが直接通電が実施されない理由の一つであるが、特殊鋼の歩留効果を勘案すると本方法はコスト面でも捨てたものではない。
【0033】
本願発明の直接通電を効果的に適用する方法を
図5に従い提示する。
当該加熱装置の上流側に従来同様のガス加熱炉51を付設し、鋼片を600℃以上800℃以下に予熱した後通電加熱する。上記温度は鋼表面の酸化が加速する温度であり、炭素鋼では約600℃、ステンレス鋼では約800℃である。
予熱により加熱装置の電源出力は半減、設備費半減、消費電力半減が得られる。本来の効果は何ら低下しない。
実施に際しては既存工場において加熱炉出口近傍に本願発明の新加熱装置を付設すればよい。従来設備が流用され新設備費は軽減される。
【0034】
ブラシ材料としては、ばね用銅合金線が無難であるが、耐摩性と水冷効果から高強度スチールコード素線も使用可能である。
積載する鋼片数は偶数が望ましい。ブスバーの長さが短縮される。
水中継電ブスバーのブラシ接触部は耐摩処理が望ましい。
注意すべきは、隣接2本の導体に同方向の大電流が流れる場合接近力が発現する。本願発明では異方向で反発力が作用する。加熱台上の鋼片の間隔が狭いと鋼片が通電ショックを受ける。適度の間隔や着地点の拘束用ハメコミを設けることが望ましい。
鋼片断面積は400cm2 以下が望ましい、以上では電流値が過大になる、又は積載数が過大になる。これが棒・線・条用と特定した理由である。
電流値は10万アンペア以下が望ましいが15万アンペアまでは無理が無さそうだ。
通電には交流・直流とも使用可能だが、単相回路であるから一次電源に歪みの問題が生ずるかも知れない。3相交流から3単相を引き出し、サイリスタで直流変換する方が良いかも知れない。
【実施例0035】
通常規模の棒線ミルに本願発明の鋼片直接通電加熱装置を適用する場合の諸条件を以下に示す。
鋼片; 115mm×115mm、長さ20m、単重2000kg
鋼種; 高炭素鋼
処理能率; 60t/h
ピッチ; 2分/本
ストローク; 400mm
加熱温度; 1200℃
含熱量; 180kcal/kg(=210kWh/t)
理論必要出力;12600kW(=210×60)
電源稼働率; 90%
加熱効率; 96%
電源出力P; 14600kW
抵抗率; 平均70μΩcm
積載数; 4本
回路抵抗R; 0.0043Ω(=70×10-6×2000×4/130)
電流値; 58000A(=√(P/R))
電圧; 250V
電極ロール径;500mm
電極ロール幅;150mm
必要電流値は6万アンペア以下に抑制することが可能になる。鋼片寸法、処理能率が変わっても上記の手順で適宜積載数を設定する。他の条件の最適化は当業者にとって困難ではない。例えば160mm角10m鋼片の場合、抵抗は1/4になるので電流を2倍とする。本数を6にすると√(4/6)倍に軽減、600℃に予熱するとさらに半減する。
1;鋼片供給台 2;鋼片 3;加熱台 3’;ウオーキング・ビーム 4;鋼片 5;電極 6;継電ブスバー 7,8,9;鋼片 10;電源 11;ブスバー 12;ブスバー 13;搬出テーブル 21;鋼片 22;電極ロール 23;環状植毛台 24;ワイヤーブラシ 25;モーター 26;継電ブスバー 27;水箱 28;シリンダー 31,35;鋼片端面 32,34;ワイヤーブラシ 33;継電ブスバー 36水箱 51;ガス加熱予熱炉
棒・線・条用の鋼片を直接通電加熱する装置であって、2本以上の鋼片を積載し該鋼片を並列・並進させるウォーキング・ビームを保有する加熱台と、該加熱台上の各鋼片の両端面に接触・離反することが可能な該加熱台外側に設けられた複数の電極と、該鋼片を直列回路とするよう該電極間を電気接続する水中に設けられた継電ブスバーと、該回路に通電する電源とから構成され、該複数の電極の接点部は回転する導通可能なブラシロールであって通電中は該鋼片端面と該継電ブスバーとの2点で摺動接触することを特徴とする鋼片の加熱装置。