(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002285
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】表面性状推定装置及び研削盤
(51)【国際特許分類】
B24B 49/04 20060101AFI20231228BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20231228BHJP
B24B 49/18 20060101ALI20231228BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20231228BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20231228BHJP
B23Q 17/12 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
B24B49/04 A
B24B49/10
B24B49/18
B24B5/04
B24B53/00 A
B23Q17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101387
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慶太
(72)【発明者】
【氏名】野々山 眞
(72)【発明者】
【氏名】岸本 稜平
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
3C047
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034BB74
3C034BB92
3C034CA02
3C034CA24
3C034CB12
3C034CB13
3C034CB14
3C034DD01
3C034DD05
3C034DD07
3C043AA01
3C043CC03
3C043DD02
3C043DD03
3C043DD04
3C043DD05
3C043DD06
3C043EE03
3C043EE04
3C047AA02
(57)【要約】
【課題】固有振動特性のゲイン不安定周波数帯によるノイズの影響を緩和して、表面性状の推定精度を向上させる表面性状推定装置を提供する。
【解決手段】表面性状推定装置2の演算処理装置20は、定寸装置3の加速度センサ32の第1スパイラルデータD1を取得する信号データ取得部21と、加速度センサ32の固有振動特性Kにおいて、ゲイン安定周波数帯K0とゲイン不安定周波数帯K1とが設定された評価情報Iを格納する評価情報格納部23と、砥石車12の加工時回転速度Vt1と工作物Wの加工時回転速度Vw1との関係に基づいて、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定する回転速度設定部25と、測定時において工作物Wを測定時回転速度Vw2にて回転させたときに信号データ取得部21により取得された第1スパイラルデータD1に基づいて、工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を表面性状Sとして推定する表面性状推定部22と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削盤にて砥石車により研削加工された工作物の研削周面の表面性状を推定する表面性状推定装置であって、
前記研削盤に設けられ、前記工作物を回転させながら研削加工している最中において前記研削周面の径を測定する定寸装置と、
前記工作物の研削加工後の測定時において前記定寸装置に設けられたセンサから出力される信号データに基づいて、前記砥石車の凹凸表面が転写された砥石車起因による前記工作物の前記研削周面の凹凸面状態を前記表面性状として推定する演算処理装置と、
を備え、
前記演算処理装置は、
前記工作物を回転させながら前記定寸装置と前記工作物とを前記工作物の軸方向に相対移動させるときの前記信号データを、前記研削周面の前記凹凸面状態に対応して取得する信号データ取得部と、
前記定寸装置に周波数を変化させた振動を入力として与えたときに、前記センサから出力される出力データの周波数応答特性としての固有振動特性において、前記固有振動特性のゲインのばらつきが所定値内に含まれるゲイン安定周波数帯と、前記ゲイン安定周波数帯よりも周波数が低く、かつ前記固有振動特性の前記ゲインのばらつきが前記所定値を超えるゲイン不安定周波数帯とが設定された評価情報を格納する評価情報格納部と、
前記砥石車による前記工作物の研削加工時における、前記砥石車の加工時回転速度Vt1及び前記工作物の加工時回転速度Vw1を取得する加工条件取得部と、
前記砥石車の加工時回転速度Vt1と前記工作物の加工時回転速度Vw1との関係に基づいて、前記測定時における前記工作物の測定時回転速度Vw2を想定したときに、前記信号データに含まれることになる基本周波数成分、及び前記基本周波数成分の高調波成分のうちの少なくとも2つの選択周波数が前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、前記工作物の測定時回転速度Vw2を設定する回転速度設定部と、
前記測定時において前記工作物を前記測定時回転速度Vw2にて回転させたときに前記信号データ取得部により取得された前記信号データに基づいて、前記研削周面の前記凹凸面状態を前記表面性状として推定する表面性状推定部と、
を備える、表面性状推定装置。
【請求項2】
前記回転速度設定部は、
少なくとも2つの前記選択周波数が前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、想定する前記工作物の測定時回転速度Vw2を変更して繰り返し演算を行って、前記工作物の測定時回転速度Vw2を決定する、請求項1に記載の表面性状推定装置。
【請求項3】
前記表面性状推定部は、
前記測定時において前記工作物を前記測定時回転速度Vw2にて回転させたときに前記信号データ取得部により取得された前記信号データに基づいて、前記選択周波数を個別に含む複数個の所定範囲の演算用周波数を抽出し、前記演算用周波数の振幅に基づいて、前記研削周面の前記凹凸面状態を前記表面性状として推定する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項4】
前記回転速度設定部は、
前記工作物の加工時回転速度Vw1に対する前記砥石車の加工時回転速度Vt1の比である回転速度比Vrに、前記工作物の測定時回転速度Vw2を乗算することに基づいて、前記基本周波数成分を求める、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項5】
前記評価情報格納部の前記評価情報には、
前記ゲイン安定周波数帯及び前記ゲイン不安定周波数帯の他に、前記ゲイン安定周波数帯よりも周波数が高く、かつ反共振特性により前記固有振動特性の前記ゲインが上下に振れるゲイン補償不可能な反共振周波数帯が設定されており、
前記回転速度設定部は、
少なくとも2つの前記選択周波数が、前記ゲイン不安定周波数帯及び前記反共振周波数帯を除き、かつ前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、前記工作物の測定時回転速度Vw2を設定する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項6】
前記評価情報格納部の前記評価情報の前記ゲイン安定周波数帯には、
共振特性により前記固有振動特性の前記ゲインが上下に振れるゲイン補償可能な共振周波数帯が含まれており、
前記回転速度設定部は、
少なくとも2つの前記選択周波数が、前記ゲイン不安定周波数帯を除き、かつ前記共振周波数帯を除く前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、前記工作物の測定時回転速度Vw2を設定する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項7】
前記回転速度設定部は、
1次成分としての前記基本周波数成分、及び2次成分から5次成分までとしての前記基本周波数成分の2~5倍の高調波成分、のうちの少なくとも2つの前記選択周波数が前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、前記工作物の測定時回転速度Vw2を設定する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項8】
前記回転速度設定部は、
2次成分から5次成分までとしての前記基本周波数成分の2~5倍の高調波成分である4つの前記選択周波数が前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、前記工作物の測定時回転速度Vw2を設定する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項9】
前記信号データ取得部は、
前記ゲイン安定周波数帯よりも高い周波数にカットオフ周波数が設定されたローパスフィルタを介して前記信号データを取得するとともに、前記カットオフ周波数の2倍以上のサンプリング周波数によって前記信号データを取得する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項10】
前記定寸装置は、前記工作物の前記研削周面に接触して、前記研削周面の前記凹凸面状態に倣って変位する接触部材と、前記接触部材に配置された前記センサとしての加速度センサとを有する、請求項1又は2に記載の表面性状推定装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の表面性状推定装置を備える研削盤。
【請求項12】
前記表面性状推定装置が推定した前記表面性状に基づいて、前記工作物の研削加工の良否判定、次回以降に加工する前記工作物の加工条件の調整の必要性の判定、及び前記砥石車の修正タイミングの調整の必要性の判定のうちの少なくとも1つを実行する判定部を備える、請求項11に記載の研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状推定装置及び研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
表面性状推定装置は、研削盤に回転可能に支持された工作物の表面における凹凸等の表面性状を推定(測定)するために用いられる。研削盤の砥石車の砥石表面には、多数の砥粒による凹凸が形成されており、研削加工時には、この砥粒による凹凸が工作物の表面に反映される。そして、研削盤における、砥石車の砥粒の状態、砥石車の回転速度、工作物の回転速度等の加工条件、及び工作物の形状などに応じて、工作物の表面に形成される表面性状が変化する。表面性状推定装置においては、センサを有する定寸装置等を用いて、工作物の表面の、周方向及び軸方向に生じた凹凸を測定し、この凹凸の測定結果を利用して工作物の表面の表面性状を推定している。
【0003】
例えば、特許文献1の表面性状推定システムにおいては、工作物の表面における測定位置を周方向及び軸方向に螺旋状に移動させたときに、センサによって工作物の表面における凹凸を検出し、この検出に関する時系列データに基づいて工作物の表面の表面性状を生成することが記載されている。時系列データは、工作物の回転軸に対する所定角度毎の螺旋状の位置に対応して取得され、時系列データに基づいて、工作物の異なる角度かつ工作物の異なる軸方向位置のそれぞれにおける周方向びびりが生成される。そして、周方向びびりが、工作物の同一角度における複数の周方向びびりとみなされて、複数の周方向びびりを軸方向に並列させた面状びびりが生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
定寸装置等を構成するセンサは、研削盤の各部に生じる振動等の影響を受けて、周波数応答特性としての固有振動特性を有する。この固有振動特性は、定寸装置等による工作物の表面の凹凸の測定にノイズとして影響を与え、工作物の表面の表面性状の推定における誤差要因となる。特許文献1の表面性状推定システムにおいても、この固有振動特性を考慮しておらず、表面性状の生成(推定)に誤差が生じるおそれがある。そのため、表面性状推定装置による工作物の表面の表面性状の推定精度を向上させるためには、更なる工夫が必要とされる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、固有振動特性のゲイン不安定周波数帯によるノイズの影響を緩和して、表面性状の推定精度を向上させることができる表面性状推定装置及び研削盤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
研削盤にて砥石車により研削加工された工作物の研削周面の表面性状を推定する表面性状推定装置であって、
前記研削盤に設けられ、前記工作物を回転させながら研削加工している最中において前記研削周面の径を測定する定寸装置と、
前記工作物の研削加工後の測定時において前記定寸装置に設けられたセンサから出力される信号データに基づいて、前記砥石車の凹凸表面が転写された砥石車起因による前記工作物の前記研削周面の凹凸面状態を前記表面性状として推定する演算処理装置と、
を備え、
前記演算処理装置は、
前記工作物を回転させながら前記定寸装置と前記工作物とを前記工作物の軸方向に相対移動させるときの前記信号データを、前記研削周面の前記凹凸面状態に対応して取得する信号データ取得部と、
前記定寸装置に周波数を変化させた振動を入力として与えたときに、前記センサから出力される出力データの周波数応答特性としての固有振動特性において、前記固有振動特性のゲインのばらつきが所定値内に含まれるゲイン安定周波数帯と、前記ゲイン安定周波数帯よりも周波数が低く、かつ前記固有振動特性の前記ゲインのばらつきが前記所定値を超えるゲイン不安定周波数帯とが設定された評価情報を格納する評価情報格納部と、
前記砥石車による前記工作物の研削加工時における、前記砥石車の加工時回転速度Vt1及び前記工作物の加工時回転速度Vw1を取得する加工条件取得部と、
前記砥石車の加工時回転速度Vt1と前記工作物の加工時回転速度Vw1との関係に基づいて、前記測定時における前記工作物の測定時回転速度Vw2を想定したときに、前記信号データに含まれることになる基本周波数成分、及び前記基本周波数成分の高調波成分のうちの少なくとも2つの選択周波数が前記ゲイン安定周波数帯に含まれるように、前記工作物の測定時回転速度Vw2を設定する回転速度設定部と、
前記測定時において前記工作物を前記測定時回転速度Vw2にて回転させたときに前記信号データ取得部により取得された前記信号データに基づいて、前記研削周面の前記凹凸面状態を前記表面性状として推定する表面性状推定部と、
を備える、表面性状推定装置にある。
【0008】
本発明の他の態様は、上述の一態様の表面性状推定装置を備える研削盤にある。
【発明の効果】
【0009】
前記一態様の表面性状推定装置においては、センサによる固有振動特性の評価情報を格納し、固有振動特性を考慮して、工作物の加工時回転速度(回転数)Vw1に対して工作物の測定時回転速度(回転数)Vw2を意図的に変更することによって、固有振動特性が表面性状の推定に及ぼす影響を緩和する。具体的には、評価情報格納部の評価情報においては、固有振動特性についてのゲイン安定周波数帯とゲイン不安定周波数帯とが設定されている。
【0010】
そして、回転速度設定部においては、砥石車の加工時回転速度Vt1と工作物の加工時回転速度Vw1との関係に基づいて、測定時における工作物の測定時回転速度Vw2を想定したときに、信号データ取得部の信号データに含まれることになる基本周波数成分及び高調波成分のうちの少なくとも2つの選択周波数がゲイン安定周波数帯に含まれるように、工作物の測定時回転速度Vw2を設定する。
【0011】
このように工作物の測定時回転速度Vw2を設定することにより、測定時において、信号データ取得部によって取得される信号データに、固有振動特性のゲイン不安定周波数帯によるノイズの影響が生じないようにすることができる。そして、誤差要因が小さくなることによって、表面性状推定部による表面性状の推定精度を向上させることができる。
【0012】
それ故、前記一態様の表面性状推定装置によれば、固有振動特性のゲイン不安定周波数帯によるノイズの影響を除外して、表面性状の推定精度を向上させることができる。
【0013】
前記他の態様の研削盤によれば、上述した一態様の表面性状推定装置による効果と同様の効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態にかかる、表面性状推定装置を含む研削盤を示す説明図。
【
図2】実施形態にかかる、工作物の研削加工後の測定時における表面性状推定装置を示す説明図。
【
図3】実施形態にかかる、工作物の研削加工時における表面性状推定装置を示す説明図。
【
図4】実施形態にかかる、研削盤の研削工程を示すフローチャート。
【
図5】実施形態にかかる、研削盤によって研削された工作物の研削周面の表面性状を示す説明図。
【
図6】実施形態にかかる、表面性状推定装置の構成を示す説明図。
【
図7】実施形態にかかる、加速度センサによる第1スパイラルデータの分割データを示す説明図。
【
図8】実施形態にかかる、加速度センサによる第1スパイラルデータの位相合わせデータを示す説明図。
【
図9】実施形態にかかる、加速度センサによる第1スパイラルデータに基づくびびりマップを示す説明図。
【
図10】実施形態にかかる、変位センサによる第2スパイラルデータ及び回転データに基づく半径マップを示す説明図。
【
図11】実施形態にかかる、びびりマップと半径マップとが合成された表面性状マップを示す説明図。
【
図12】実施形態にかかる、加速度センサの固有振動特性を示すグラフ。
【
図13】実施形態にかかる、加速度センサによる第1スパイラルデータについての高速フーリエ変換後のフーリエ変換データを示すグラフ。
【
図14】実施形態にかかる、加速度センサによる第1スパイラルデータについての高速フーリエ変換後のフーリエ変換データを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述した表面性状推定装置及び表面性状推定装置を備える研削盤にかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
(実施形態)
【0016】
1.研削盤1の構成
研削盤1の構成について説明する。
図1に示すように、研削盤1は、表面性状推定装置2を備える。表面性状推定装置2は、研削盤1における研削状態の解析装置として使用される。特に、表面性状推定装置2は、研削盤1にて砥石車12により研削加工された工作物Wの研削周面W1の表面性状Sを推定するものである。研削盤1は、表面性状推定装置2によって推定された工作物Wの研削周面W1の表面性状Sを、マップ化された画像としての表面性状マップMによって出力する画像出力装置4を備える。
【0017】
研削盤1は、工作物W及び砥石車12を回転させながら、工作物Wと砥石車12とを相対移動させることにより、工作物Wの研削周面W1の研削加工を行う。研削盤1は、工作物Wをトラバースさせるテーブルトラバース型研削盤に適用することもできるし、砥石車12を支持する砥石台13をトラバースさせる砥石台トラバース型研削盤に適用することもできる。以下には、研削盤1の例として、テーブルトラバース型研削盤について説明する。
【0018】
研削盤1は、ベッド11、砥石車12、砥石台13、主軸台14、心押台15、主軸テーブル16、制御装置10及び表面性状推定装置2を備える。工作物Wは、その軸線方向の両端が主軸台14及び心押台15に支持され、主軸台14によって駆動されて回転する。工作物Wの形状は、特に限定されず、円柱状、円筒状等の形状とすればよい。
図2に示すように、工作物Wの研削周面W1は、円柱状又は円筒状の工作物Wの外周面だけでなく、円筒状の工作物Wの内周面としてもよい。
【0019】
本実施形態においては、工作物Wが円柱状である場合を例示する。研削盤1は、回転する工作物Wの研削周面W1としての外周面に砥石車12を当接させ、砥石車12によって工作物Wの外周面を研削する。
【0020】
ここで、主軸台14及び心押台15に支持された工作物Wの軸線方向に平行な方向をZ軸方向といい、Z軸方向に直交して、工作物Wに対して砥石車12が接近する方向をX軸方向という。各図においては、Z軸方向を符号Zによって示し、X軸方向を符号Xによって示す。砥石車12は、Z軸方向に平行な軸線回りに回転可能な状態で砥石台13に支持されている。ベッド11上には、砥石台案内部11aが設けられており、砥石台13は、X軸方向に移動可能に砥石台案内部11aに支持されており、制御装置10によって制御される駆動源(図示略)によってX軸方向に移動する。
【0021】
砥石車12は、制御装置10によって制御される、砥石台13の砥石回転モータ12aによって駆動されて回転する。砥石車12は、砥石台13がX軸方向に移動することにより、工作物Wの研削周面W1に接近し、工作物Wの研削周面W1を研削する。
【0022】
主軸テーブル16は、ベッド11上に設けられた主軸テーブル案内部11bによって、Z軸方向に移動可能に支持されており、制御装置10によって制御される駆動源(図示略)によってZ軸方向に移動する。主軸台14及び心押台15は、主軸テーブル16上に対向配置されている。工作物Wは、制御装置10によって制御される、主軸台14の主軸回転モータ14aによって駆動されて回転する。
【0023】
2.表面性状推定装置2の概要
表面性状推定装置2の概要について説明する。
図2は、工作物Wの研削加工後の測定時における表面性状推定装置2を示し、
図3は、工作物Wの研削加工時(単に加工時ということがある。)における表面性状推定装置2を示す。
図2及び
図3に示すように、表面性状推定装置2は、研削盤1にて砥石車12により研削加工された工作物Wの研削周面W1の表面性状Sを推定するものである。
【0024】
表面性状推定装置2は、センサとしての加速度センサ32が設けられた定寸装置3と、演算処理装置20とを備える。定寸装置3は、研削盤1に設けられており、工作物Wを回転させながら研削加工している最中において工作物Wの研削周面W1の径を測定するものである。演算処理装置20は、工作物Wの研削加工後の測定時において、定寸装置3の加速度センサ32から出力される信号データに基づいて、砥石車12の凹凸表面が転写された砥石車12に起因する工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を表面性状Sとして推定するものである。
【0025】
3.表面性状推定装置2の定寸装置3の構成
次に、定寸装置3について説明する。本実施形態においては、
図2に示すように、円柱状の工作物Wの研削周面W1としての外周面が研削され、定寸装置3は、外径測定装置として工作物Wの外周面の外径を測定する。定寸装置3は、工作物Wの研削周面W1としての内周面の内径を測定するものとしてもよい。定寸装置3によって測定された工作物Wの研削周面W1の径は、研削工程の切替のために用いられる。ただし、本実施形態においては、定寸装置3は、表面性状推定装置2による工作物Wの研削周面W1の表面性状Sの推定のためにも用いられる。
【0026】
定寸装置3は、工作物Wの研削周面W1に接触して、研削周面W1の凹凸面状態に倣って変位する一対の接触部材31と、接触部材31の一方に配置された加速度センサ32とを有する。加速度センサ32を用いることにより、工作物Wの研削周面W1における高周波成分の凹凸面の測定が容易になる。
【0027】
一対の接触部材31の先端部には、工作物Wの研削周面W1に接触する接触子33が設けられている。接触子33は、工作物Wの回転中心Oを挟んだ2点において工作物Wの研削周面W1に当接し、研削周面W1に形成された凹凸面に倣って変位する。接触子33の変位は、変位センサ34によって測定される。変位センサ34には、例えば、機械的な直線運動を変位量として電気信号に変換する差動トランス等が用いられる。
【0028】
定寸装置3は、変位センサ34の機械的変位を電気信号である信号データに変換することにより工作物Wの研削周面W1の外径を測定し、かつ加速度センサ32によって検出される加速度を変位に変換するとともに電気信号である信号データに変換することにより、工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を測定する。
図1に示すように、定寸装置3は、制御装置10によって制御される軸方向移動装置35により、工作物Wの中心軸線に平行なZ軸方向に移動可能である。
【0029】
工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態は、研削後の工作物Wを回転させて工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を測定する測定時において、変位センサ34の信号データに基づいて検知される低周波数成分の凹凸面と、加速度センサ32の信号データに基づいて検知される高周波成分の凹凸面として測定される。変位センサ34の信号データに基づいて検知される低周波数成分は、例えば、10Hz以下の周波数として検知され、加速度センサ32の信号データに基づいて検知される高周波成分は、例えば、10Hz超過2500Hz以下の周波数として検知される。
【0030】
4.研削盤1の研削工程
次に、研削盤の研削工程について説明する。
図4に示すように、研削工程は、砥石車12のX軸方向への送り速度の違いによって分けられ、粗研削工程St1、精研削工程St2、微研削工程St3及びスパークアウト工程St4の順で行われる。各工程の砥石車12の送り速度は、粗研削工程St1>精研削工程St2>微研削工程St3>スパークアウト工程St4となる。粗研削工程St1では、工作物Wの大まかな形状を形成する。続く精研削工程St2及び微研削工程St3では、砥石車12の送り速度を小さくしながら、工作物Wの表面形状を整える。最後のスパークアウト工程St4では、工作物Wの表面の仕上げを行い、工作物Wを完成させる。
【0031】
研削工程の切替には、定寸装置3によって測定された工作物Wの研削周面W1の径が用いられる。研削盤1の制御装置10においては、粗研削工程St1と精研削工程St2との切替時の工作物Wの径、精研削工程St2と微研削工程St3との切替時の工作物Wの径、及び微研削工程St3とスパークアウト工程St4との切替時の工作物Wの径が設定されている。研削加工中において、定寸装置3によって測定される工作物Wの径が設定された径に到達した際には、研削盤1の制御装置10によって研削工程が切り替えられる。
【0032】
ここで、表面性状推定装置2においては、研削が完了するスパークアウト工程St4後の工作物Wの表面性状Sを推定することが好ましい。表面性状推定装置2は、インプロセスにおいて、工作物Wの表面性状Sを推定するものである。インプロセスとは、工作物Wが、研削加工された後、研削盤1から取り外されるまでの期間であって、スパークアウト工程St4後も含む。本形態の表面性状推定装置2は、工作物Wの研削完了後に工作物Wの研削加工時の回転状態を維持するとともに、工作物Wの測定時回転速度Vw2として適宜回転速度を速くして、工作物Wの表面性状Sを推定する。
【0033】
5.工作物Wの研削周面W1の表面性状S
次に、工作物Wの研削周面W1の表面性状Sについて説明する。
図5に示すように、研削盤1によって研削された工作物Wの研削周面W1の表面性状Sは、種々の要因に起因して形成される。本実施形態においては、表面性状Sは、砥石車12の研削外周面の表面状態としての凹凸表面が転写された、砥石車12に起因するものを示すこととする。
【0034】
砥石車12に起因する研削周面W1の表面性状Sは、砥石車12の凹凸表面が転写された表面性状S1と、工作物Wの周方向Cにおける基準半径のばらつきによる表面性状S2とに分離される。表面性状Sは、表面性状S1,S2を合成する(加算する)ことによって生成される。工作物Wの周方向Cにおける基準半径のばらつきは、真円度等として表され、主に、研削加工時における砥石車12の中心と工作物Wの中心との間の距離がずれることによって生じると考えられる。
【0035】
6.表面性状推定装置2の演算処理装置20の構成
次に、表面性状推定装置2の演算処理装置20について説明する。
図6に示すように、演算処理装置20は、信号データ取得部21、評価情報格納部23、加工条件取得部24、回転速度設定部25、工作物主軸駆動部26及び表面性状推定部22を備える。
【0036】
信号データ取得部21は、工作物Wを回転させながら定寸装置3と工作物Wとを工作物WのZ軸方向に相対移動させるときに、換言すれば定寸装置3の接触子33が工作物Wに接触する位置をZ軸方向に螺旋状に相対移動させるときに、定寸装置3の加速度センサ32による信号データと、定寸装置3の変位センサ34による信号データとを、研削周面W1の凹凸面状態に対応して取得する。加速度センサ32による信号データは、高周波成分の第1スパイラルデータD1として取得され、変位センサ34による信号データは、低周波成分の第2スパイラルデータD2として取得される。また、信号データ取得部21は、定寸装置3と工作物WとのZ軸方向の相対位置を固定して工作物Wを回転させる際に、変位センサ34による信号データを、回転データD3として取得する。
【0037】
図5においては、定寸装置3によって第1スパイラルデータD1及び第2スパイラルデータD2が測定される状態と、定寸装置3によって回転データD3が測定される状態とを破線によって示す。第1スパイラルデータD1及び第2スパイラルデータD2は、工作物Wの研削周面W1のZ軸方向の一部及び周方向Cの一部のデータとして、同時に取得される。第1スパイラルデータD1の周方向Cの一部は、工作物Wの研削周面W1に対して砥石車12の砥石表面121が複数回転写される範囲として抽出される。この研削周面W1の周方向Cの一部の範囲内には、砥石車12の各砥粒による研削痕が繰り返し出現する。加速度センサ32による第1スパイラルデータD1は、工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を測定するために用いられる。
【0038】
変位センサ34による第2スパイラルデータD2は、工作物WのZ軸方向における半径の違いを測定するために用いられる。工作物WのZ軸方向における半径の違いは、本来は、定寸装置3を工作物WのZ軸方向に相対移動させれば測定できる。ただし、第2スパイラルデータD2は、接触子33が、加速度センサ32と同時に周方向C及びZ軸方向に螺旋状に相対移動するときに取得される。そのため、第2スパイラルデータD2による工作物Wの研削周面W1のZ軸方向における半径の変化及び工作物Wの研削周面W1の周方向Cにおける半径の変化から、回転データD3による工作物Wの研削周面W1の周方向Cにおける半径の変化を除外することにより、工作物Wの研削周面W1のZ軸方向における半径の変化を取得する。
【0039】
回転データD3は、第1スパイラルデータD1及び第2スパイラルデータD2のZ軸方向の一部の範囲と重なるZ軸方向の同一位置において、周方向Cの全周分のデータとして取得される。真円度等によって示される、工作物Wの研削周面W1の周方向Cにおける半径の変化は、Z軸方向において同様の状態が維持されていると考えられる。そのため、回転データD3は、Z軸方向の1箇所の位置において取得すればよい。ただし、精度を向上させるために、第1スパイラルデータD1及び第2スパイラルデータD2のZ軸方向の範囲において、回転データD3をZ軸方向の複数位置について取得してもよい。
【0040】
図6に示すように、表面性状推定部22は、測定時において工作物Wを測定時回転速度Vw2にて回転させたときに信号データ取得部21により取得された信号データに基づいて、研削周面W1の凹凸面状態を表面性状Sとして推定する。表面性状推定部22は、第1スパイラルデータD1、第2スパイラルデータD2及び回転データD3について信号処理を行って、工作物Wの研削周面W1の表面性状Sを推定し、表面性状Sを色の違いによって視覚的に表現する表面性状マップMを作成する。表面性状マップMは、砥石車12の凹凸表面に起因する研削周面W1の表面性状S1を示すびびりマップM1と、研削周面W1の真円度、半径等の誤差に起因する研削周面W1の表面性状S2を示す半径マップM2とを合成することによって作成される。
【0041】
びびりマップM1は、加速度センサ32による信号データである第1スパイラルデータD1について、信号処理が行われて作成される。この信号処理は、ゲイン補正処理221a、分割処理222、高周波成分解析223a及び位相合わせ処理224の各工程によって行われる。ゲイン補正処理221aにおいては、加速度センサ32が、特定の周波数を超える入力信号に対する出力信号を減衰させる入出力特性を有することが考慮され、加速度センサ32の出力信号のばらつきが小さくなるように、周波数ごとの出力信号が補正される。
【0042】
図7に示すように、分割処理222においては、工作物Wの研削周面W1についての螺旋状の第1スパイラルデータD1が、Z軸方向に所定間隔で設定されたZ軸方向の各位置についての、周方向Cに所定間隔で設定された周方向Cの各位置のデータとしての複数の分割データD11に分割される。高周波成分解析223aにおいては、各分割データD11について高速フーリエ変換(FFT)が行われる。そして、砥石車12の各砥粒による砥粒痕が繰り返し形成された研削周面W1の凹凸面状態について、各砥粒痕の形成状態が、周波数(又は周期)及び振幅によって表される高周波成分のフーリエ変換データとして抽出される。
【0043】
その後、高周波成分のフーリエ変換データにおけるノイズ成分を除去するように特定の高周波成分を抽出し、抽出した高周波成分について逆高速フーリエ変換(逆FFT)が行われる。これにより、各分割データD11におけるノイズ成分が除去される。ノイズ成分には、機械振動等によるノイズが含まれる。
【0044】
本実施形態においては、後述するように、工作物Wの測定時回転速度Vw2が増加方向に調整されることにより、研削周面W1における各砥粒痕の繰り返し出現数が増加され、高周波成分解析223aにおいて第1スパイラルデータD1がフーリエ変換されたときの周波数が増加方向に調整される。
【0045】
図8に示すように、位相合わせ処理224においては、Z軸方向の各位置であって周方向Cの各位置にずれて設定されたノイズ成分除去後の分割データD11が、周方向Cの同じ部位に位置するように位相合わせが行われ、位相合わせデータD12が作成される。この位相合わせが行われるときには、位相合わせデータD12における研削周面W1の凹凸面状態が、Z軸方向において断続的にならないように周方向Cの位相が微調整される。こうして、
図9に示すように、加速度センサ32による第1スパイラルデータD1についてのびびりマップM1が作成される。
【0046】
半径マップM2は、定寸装置3の変位センサ34による信号データである第2スパイラルデータD2及び回転データD3について、信号処理が行われて作成される。この信号処理は、第2スパイラルデータD2についてのゲイン補正処理221b及び低周波成分解析223bの各工程と、回転データD3についてのゲイン補正処理221c及び真円度解析225の各工程とに分けて行われ、その後、真円度分除去処理226として、低周波成分解析223bが行われた後の第2スパイラルデータD2と、真円度解析225が行われた後の回転データD3とが用いられて、工作物Wの研削周面W1におけるZ軸方向の半径の変化が取得される。
【0047】
第2スパイラルデータD2及び回転データD3のゲイン補正処理221b,221cにおいては、変位センサ34が、特定の周波数を超える入力信号に対する出力信号を減衰させる入出力特性を有することが考慮され、変位センサ34の出力信号のばらつきが小さくなるように、周波数ごとの出力信号が補正される。
【0048】
第2スパイラルデータD2の低周波成分解析223bにおいては、第2スパイラルデータD2について高速フーリエ変換(FFT)が行われる。そして、工作物Wの研削周面W1のZ軸方向及び周方向Cにおける半径の変化が、周波数(又は周期)及び振幅によって表される低周波成分のフーリエ変換データとして抽出される。
【0049】
その後、低周波成分のフーリエ変換データにおけるノイズ成分を除去するように特定の低周波成分を抽出し、抽出した低周波成分について逆高速フーリエ変換(逆FFT)が行われる。これにより、第2スパイラルデータD2におけるノイズ成分が除去される。ノイズ成分には、機械振動等によるノイズが含まれる。第2スパイラルデータD2においては、工作物Wの研削周面W1のZ軸方向における半径の変化も含まれている。
【0050】
回転データD3の真円度解析225においては、工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態に、真円度の誤差による凹凸がどれだけ生じているかを解析する。そして、真円度分除去処理226においては、低周波成分解析223bが行われた後の第2スパイラルデータD2に真円度解析225が行われた後の回転データD3が照合され、第2スパイラルデータD2から、周方向C及びZ軸方向における凹凸の影響、及び真円度の誤差による凹凸の影響が除外される。そして、Z軸方向の各位置についての半径の違いを示す半径データが取得され、
図10に示すように、半径データに基づいて半径マップM2が作成される。
【0051】
その後、
図11に示すように、びびりマップM1と半径マップM2とが合成されて表面性状マップMが作成される。表面性状マップMにおいては、Z軸方向の各位置における半径の違いが反映された、工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態が、色分け等によって可視化される。
図11においては、工作物Wの研削周面W1の周方向Cにおいて、砥石車12の1回転分が転写された幅を示す。
【0052】
7.工作物Wの測定時回転速度Vw2の調整
次に、工作物Wの測定時回転速度Vw2の調整について説明する。本実施形態の表面性状推定部22は、加速度センサ32が有する固有振動特性Kを考慮して、工作物Wの測定時回転速度Vw2を調整し、加速度センサ32による第1スパイラルデータD1についての高周波成分解析223aを行う。具体的には、
図6に示すように、表面性状推定装置2の評価情報格納部23、加工条件取得部24、回転速度設定部25及び工作物主軸駆動部26によって、工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態の測定時における工作物Wの測定時回転速度Vw2を調整して、加速度センサ32の固有振動特性Kによるノイズが表面性状Sの推定に与える影響を小さくする。
【0053】
図12に示すように、評価情報格納部23は、定寸装置3の加速度センサ32に周波数を変化させた振動を入力として与えたときに、加速度センサ32から出力される出力データの周波数応答特性としての固有振動特性Kにおいて、固有振動特性KのゲインGのばらつきΔGが所定値内に含まれるゲイン安定周波数帯K0と、ゲイン安定周波数帯K0よりも周波数が低く、かつ固有振動特性KのゲインGのばらつきΔGが所定値を超えるゲイン不安定周波数帯K1とが設定された評価情報Iを格納する。
【0054】
ゲイン不安定周波数帯K1においては、加速度センサ32の入出力比を示すゲインGが1よりも大幅に大きいだけでなく、ゲインGのばらつきΔGが大きい。表面性状推定部22の高周波成分解析223aにおいては、ゲイン不安定周波数帯K1に含まれる周波数の第1スパイラルデータD1を使用しないようにした方がよい。
【0055】
また、本実施形態においては、評価情報格納部23の評価情報Iには、ゲイン安定周波数帯K0及びゲイン不安定周波数帯K1の他に、ゲイン安定周波数帯K0よりも周波数が高く、かつ加速度センサ32の反共振特性により固有振動特性KのゲインGが上下に振れるゲイン補償不可能な反共振周波数帯K2が設定されている。ゲインGが上下に振れるとは、周波数が変化するときに、ゲインGが1よりも大きく振れる場合とゲインGが1よりも小さく振れる場合とが続けて出現する状態のことをいう。ゲイン補償不可能とは、加速度センサ32の入出力比としてのゲインGが1に近くなるように補正することが難しい状態のことをいう。表面性状推定部22の高周波成分解析223aにおいては、反共振周波数帯K2に含まれる周波数の第1スパイラルデータD1を使用しないようにした方がよい。
【0056】
加速度センサ32の固有振動特性Kを取得するに当たっては、表面性状推定装置2及び研削盤1の稼働前において、
図2に示す加振装置5によって定寸装置3の接触部材31に周波数を変化させた振動が与えられ、加速度センサ32による出力の変化が測定される。そして、加振装置5による加速度センサ32への振動入力の振幅に対する、加速度センサ32の出力の振幅の増減度が、加速度センサ32のゲインGについての周波数応答特性として得られる。固有振動特性Kは、このゲインGについての周波数応答特性において、周波数ごとのゲインGのばらつき(変動)ΔGの大きさに着目して、周波数が低い側から順に、ゲイン不安定周波数帯K1、ゲイン安定周波数帯K0及び反共振周波数帯K2が設定されている。
【0057】
ゲインGは、入力の振幅に対する出力の振幅が同じである場合を1とし、出力の振幅が大きくなるときには1よりも大きな数値となり、出力の振幅が小さくなるときには1よりも小さな数値となる。ゲインGのばらつきΔGは、周波数の所定幅の範囲内におけるゲインGの変動の幅を示す。
【0058】
ゲイン不安定周波数帯K1は、ゲインGが100付近の大きな値から1に近づく周波数の範囲であって、ばらつきΔGが所定値を超える周波数の範囲として設定される。ゲイン安定周波数帯K0は、ゲインGが1に近い周波数の範囲であって、ばらつきΔGが所定値内に収まる周波数の範囲として設定される。反共振周波数帯K2は、ゲインGが1よりも大きい側と1よりも小さい側とに大きく振れる周波数の範囲として設定される。ばらつきΔGの所定値は、周波数の所定幅の範囲内におけるゲインGの変動の許容幅に着目して決定する。ゲインGの変動の許容幅は、例えば、ゲインGの変動が±1.2倍等の数値の幅として設定される。
【0059】
本形態においては、評価情報格納部23の評価情報Iのゲイン安定周波数帯K0には、加速度センサ32の共振特性により固有振動特性KのゲインGが上下に振れるゲイン補償可能な共振周波数帯K3が設定されている。共振周波数帯K3は、ゲインGが上下に振れる一方、ゲインGのばらつきΔGは所定値内にある。共振周波数帯K3は、加速度センサ32の入出力比としてのゲインGが1に近くなるように補正することが可能な周波数帯であり、共振周波数帯K3に含まれる周波数の第1スパイラルデータD1は、表面性状推定部22の高周波成分解析223aに使用してもよい。ただし、共振周波数帯K3に含まれる周波数の第1スパイラルデータD1は、ゲインGの補正を簡単にするためには、使用しなくてもよい。
【0060】
図6に示すように、加工条件取得部24は、砥石車12による工作物Wの研削加工時における、砥石車12の加工時回転速度Vt1及び工作物Wの加工時回転速度Vw1を取得する。砥石車12の回転速度は工作物Wの回転速度よりも速く、砥石車12の加工時回転速度Vt1は、工作物Wの加工時回転速度Vw1よりも大きくなる。
【0061】
図6及び
図12に示すように、回転速度設定部25は、加工条件取得部24によって取得される砥石車12の加工時回転速度Vt1と工作物Wの加工時回転速度Vw1との関係に基づいて、測定時における工作物Wの測定時回転速度Vw2を想定したときに、加速度センサ32の信号データである第1スパイラルデータD1に含まれることになる基本周波数成分F1、及び基本周波数成分F1の高調波成分F2のうちの少なくとも2つの選択周波数Fsがゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定する。
【0062】
基本周波数成分F1は、工作物Wの研削周面W1において、砥石車12の多数の砥粒による研削痕としての凹凸が、工作物Wを測定時回転速度Vw2で回転させるときに、定寸装置3の加速度センサ32によって繰り返し検知される周波数を表す。高調波成分F2は、基本周波数成分F1の整数倍の成分として、基本周波数成分F1を1次成分としたとき、2次成分以上の周波数として表される。高調波成分F2は、加速度センサ32が有する特性によって生じる。
【0063】
表面性状推定部22の高周波成分解析223aは、定寸装置3によって工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を測定する測定時において、工作物Wの測定時回転速度Vw2を、工作物Wの加工時回転速度Vw1よりも速くする。工作物Wの測定時回転速度Vw2を速くすることにより、高周波成分解析223aに使用される、加速度センサ32による第1スパイラルデータD1の分割データD11における周波数成分の周波数が高い方へシフトする。換言すれば、工作物Wの測定時回転速度Vw2を速くすることにより、加速度センサ32によって工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態を測定するときに、砥石車12の多数の砥粒による砥粒痕の凹凸が繰り返し測定される周期が短くなる。
【0064】
また、本実施形態においては、回転速度設定部25は、少なくとも2つの選択周波数Fsが、ゲイン不安定周波数帯K1及び反共振周波数帯K2を除き、かつゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定する。この構成により、少なくとも2つの選択周波数Fsが反共振周波数帯K2からも除かれ、高周波成分解析223aの精度が向上する。
【0065】
図13には、表面性状推定部22の高周波成分解析223aにおいて、第1スパイラルデータD1に高速ラプラス変換が行われて取得された、周波数と振幅の関係によって表される高周波成分のフーリエ変換データを示す。
図13には、4つの選択周波数Fsである、2次成分としての高調波成分F21、3次成分としての高調波成分F22、4次成分としての高調波成分F23及び5次成分としての高調波成分F24が、共振周波数帯K3を含めたゲイン安定周波数帯K0に含まれる状態を示す。選択周波数Fsが、共振周波数帯K3に含まれてもよいとする場合には、選択周波数Fsの選択が比較的容易である。
【0066】
さらに、本実施形態においては、回転速度設定部25は、少なくとも2つの選択周波数Fsが、ゲイン不安定周波数帯K1及び反共振周波数帯K2を除き、かつ共振周波数帯K3を除くゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定する。この構成により、少なくとも2つの選択周波数Fsが共振周波数帯K3からも除かれ、高周波成分解析223aの精度がさらに向上する。
【0067】
図14には、
図13と同様に、表面性状推定部22の高周波成分解析223aにおいて、第1スパイラルデータD1に高速ラプラス変換が行われて取得された、周波数と振幅の関係によって表される高周波成分のフーリエ変換データを示す。
図14には、3つの選択周波数Fsである、2次成分としての高調波成分F21、3次成分としての高調波成分F22及び5次成分としての高調波成分F24が、共振周波数帯K3を除いたゲイン安定周波数帯K0に含まれる状態を示す。
【0068】
表面性状推定部22の高周波成分解析223aは、測定時において工作物Wを測定時回転速度Vw2にて回転させたときに信号データ取得部21により取得された、加速度センサ32による信号データである第1スパイラルデータD1に基づいて、選択周波数Fsを個別に含む複数個の所定範囲の演算用周波数Fcを抽出し、複数個の演算用周波数Fcの振幅に基づいて、研削周面W1の凹凸面状態を表面性状Sとして推定する。
【0069】
図13及び
図14に示すように、本実施形態の高周波成分解析223aにおいては、高速フーリエ変換が行われた第1スパイラルデータD1の分割データD11について、複数個の所定範囲の演算用周波数Fcが抽出される。演算用周波数Fcは、基本周波数成分F1、及び基本周波数成分F1の整数倍の成分である高調波成分F2のうちの少なくとも2つの選択周波数Fsについて、所定幅を有する周波数の範囲として抽出される。演算用周波数Fcは、例えば、基本周波数成分F1又は高調波成分F2の周波数を中心として、周波数が高い側と低い側とに所定幅を設定して抽出してもよい。
【0070】
なお、所定幅を有する周波数の範囲としての演算用周波数Fcの一部は、共振周波数帯K3に含まれていてもよい。また、所定幅を有する周波数の範囲としての演算用周波数Fcの全体が、共振周波数帯K3に含まれないようにしてもよい。また、ゲイン不安定周波数帯K1及び反共振周波数帯K2には、演算用周波数Fcの一部でも含まれないようにした方がよい。
【0071】
高周波成分解析223aにおいては、高速フーリエ変換が行われた第1スパイラルデータD1の分割データD11のうち、複数個の演算用周波数Fcとして抽出された周波数の範囲について逆高速フーリエ変換が行われる。これにより、表面性状推定部22によって作成されるびびりマップM1に、ノイズ成分を除いて、工作物Wの研削周面W1に現れた、多数の砥粒による砥粒痕としての凹凸が、より高精度に現れるようにすることができる。
【0072】
本実施形態においては、回転速度設定部25は、1次成分としての基本周波数成分F1、及び2次成分から5次成分までとしての基本周波数成分F1の2~5倍の高調波成分F2(F21,F22,F23,F24)、のうちの少なくとも2つの選択周波数Fsが、共振周波数帯K3を除くゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定する。高調波成分F2は5次成分までとすることにより、表面性状マップMを作成する精度を維持することができる。
【0073】
また、回転速度設定部25は、2次成分から5次成分までとしての基本周波数成分F1の2~5倍の高調波成分F2(F21,F22,F23,F24)である4つの選択周波数Fsが共振周波数帯K3を除くゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定することが好ましい。
【0074】
実験において、1次成分としての基本周波数成分F1がゲイン安定周波数帯K0に含むように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を工作物Wの加工時回転速度Vw1よりも大幅に高速化した場合には、研削盤1の構成要素に振動が生じることにより表面性状Sを高精度に推定できないことがあった。表面性状Sを高精度に推定するためには、1次成分としての基本周波数成分F1はゲイン不安定周波数帯K1に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定した方がよい場合があることが判明している。そのため、2次成分から5次成分までの高調波成分F2に基づいて表面性状マップMを作成することにより、表面性状マップMの精度を容易に維持することができる。
【0075】
例えば、2次成分から5次成分までの高調波成分F2(F21,F22,F23,F24)である3つ又は4つの選択周波数Fsが、ゲイン不安定周波数帯K1、反共振周波数帯K2及び共振周波数帯K3を除いて、ゲイン安定周波数帯K0に含まれるようにすることは容易ではない場合も想定される。このような場合を考慮して、回転速度設定部25は、少なくとも2つの選択周波数Fsがゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、想定する工作物Wの測定時回転速度Vw2を変更して繰り返し演算を行って、工作物Wの測定時回転速度Vw2を決定してもよい。例えば、2次成分から5次成分までの高調波成分F2(F21,F22,F23,F24)である4つの選択周波数Fsが、共振周波数帯K3を除くゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、想定する工作物Wの測定時回転速度Vw2を変更して繰り返し演算を行うことが好ましい。
【0076】
図6に示すように、工作物主軸駆動部26は、定寸装置3による工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態の測定時において、工作物Wの回転速度を測定時回転速度Vw2に維持する。工作物主軸駆動部26は、制御装置10内に構成されており、回転速度設定部25から、工作物Wの測定時回転速度Vw2の情報を取得して、主軸台14の主軸回転モータ14aを測定時回転速度Vw2にて回転させる。
【0077】
評価情報格納部23、加工条件取得部24、回転速度設定部25及び工作物主軸駆動部26による工作物Wの測定時回転速度Vw2の調整は、砥石車12の加工時回転速度Vt1及び工作物Wの加工時回転速度Vw1の少なくとも一方の加工条件が変更されるときに行えばよい。工作物Wの加工時回転速度Vw1が一旦設定された後には、砥石車12の加工時回転速度Vt1及び工作物Wの加工時回転速度Vw1の少なくとも一方の加工条件が変更されるまでは、工作物Wの測定時回転速度Vw2の調整は行わなくてもよい。
【0078】
8.砥石車12と工作物Wの研削周面W1における凹凸状表面との関係
次に、砥石車12と工作物Wの研削周面W1における凹凸状表面との関係について説明する。砥石車12は、多数の砥粒、砥粒同士を結合する結合剤、及び気孔によって構成されている。砥石車12の砥石表面(外周面)121には、多数の砥粒による凹凸表面が形成されている。砥石車12の外周面によって研削される工作物Wの研削周面W1には、多数の砥粒による凹凸表面が転写された凹凸面状態が形成される。
【0079】
図3に示すように、砥石車12の外径は、工作物Wの研削周面W1の外径に比べて大きい。また、砥石車12の加工時回転速度Vt1は、工作物Wの加工時回転速度Vw1に比べて大きい。加工時において、工作物Wが1回転する間に、砥石車12は複数回回転する。そして、工作物Wが1回転する間において、工作物Wの研削周面W1には、砥石車12の外周面における多数の砥粒のそれぞれが衝突するときに生じる凹凸が繰り返し形成される。
【0080】
図3においては、砥石車12と工作物Wとが、これらの接触位置において互いに同じ方向に回転する場合を示す。砥石車12と工作物Wとは、これらの接触位置において互いに逆方向に回転してもよい。
【0081】
加工時において、砥石車12の加工時回転速度(回転数)Vt1[rps]、及び工作物Wの加工時回転速度(回転数)Vw1[rps]を用いたとき、工作物Wが1回転する間には、工作物Wの研削周面W1には、Vt1/Vw1に基づいて求められる回数分だけ砥石車12の砥粒のそれぞれが衝突する。工作物Wの加工時回転速度Vw1は、工作物Wの加工終了時の回転速度とした方がよい。工作物Wの研削周面W1には、この砥粒の衝突の回数分の砥石表面情報が転写され、特定の周波数の振動として、定寸装置3の加速度センサ32によって測定されることになる。
【0082】
一方、測定時において、工作物Wの測定時回転速度Vw2が工作物Wの加工時回転速度Vw1から変更された場合には、Vt1/Vw1×Vw2に基づいて求められる周波数の振動が定寸装置3の加速度センサ32によって測定されることになる。表面性状推定装置2においては、この周波数の振動が、基本周波数成分F1として測定される。工作物Wの測定時回転速度Vw2は、工作物Wの加工時回転速度Vw1よりも大きく変更される場合があるだけでなく、工作物Wの加工時回転速度Vw1よりも小さく変更される場合があってもよい。
【0083】
本実施形態の回転速度設定部25は、工作物Wの加工時回転速度Vw1に対する砥石車12の加工時回転速度Vt1の比である回転速度比Vr(Vt1/Vw1)に、工作物Wの測定時回転速度(回転数)Vw2[rps]を乗算することに基づいて、基本周波数成分F1を求める。基本周波数成分F1は、Vr×Vw2に基づいて求められる。
【0084】
9.その他の構成
信号データ取得部21は、定寸装置3による工作物Wの研削周面W1の凹凸面状態の測定時において、サンプリング周波数の1/2以上の周波数帯が、折り返し雑音として表面性状推定部22の高周波成分解析223aの結果に影響することを防止する構成を有している。そこで、表面性状推定装置2は、ローパスフィルタ211をさらに備えるようにするとよい。
【0085】
具体的には、
図6に示すように、信号データ取得部21は、ゲイン安定周波数帯K0よりも高い周波数にカットオフ周波数が設定されたローパスフィルタ211を介して信号データを取得する。カットオフ周波数は、評価情報格納部23に格納された固有振動特性Kの上限の周波数に設定すればよい。本実施形態の評価情報格納部23においては、2500Hzまでの周波数の固有振動特性Kが格納されている。そして、ローパスフィルタ211のカットオフ周波数は、2500Hzを超える周波数成分を十分に減衰させるものとすればよい。
【0086】
また、信号データ取得部21は、カットオフ周波数の2倍以上のサンプリング周波数によって信号データを取得する。本実施形態においては、信号データ取得部21のサンプリング周波数は、評価情報格納部23に格納された固有振動特性Kの上限の周波数の2倍以上として、5000Hz以上に設定されている。
【0087】
図1に示すように、研削盤1は、表面性状推定装置2が推定して作成された表面性状マップMを利用して種々の判定を行う判定部101を有していてもよい。判定部101は、表面性状マップMに基づいて、工作物Wの研削加工の良否判定を行ってもよい。表面性状推定装置2は、工作物Wに対して良好な研削加工が行われた場合についての基準となる基準表面性状マップを記憶し、判定部101は、研削盤1において工作物Wの研削加工を1回又は所定回行うごとに作成される表面性状マップMを基準表面性状マップと照合する。そして、判定部101は、基準表面性状マップにおける表面性状と比較して、研削加工を行った工作物Wの研削周面W1の表面性状Sが悪化したときには、研削加工が不良であることを判定してもよい。
【0088】
判定部101は、表面性状マップMに基づいて、次回以降に加工する工作物Wの加工条件の調整の必要性の判定を行ってもよい。工作物Wの加工条件には、砥石車12の加工時回転速度Vt1及び工作物Wの加工時回転速度Vw1の他に、砥石車12のX軸方向への送り速度(切り込み量)等がある。この場合にも、表面性状推定装置2は、基準表面性状マップを記憶し、判定部101は、研削盤1において工作物Wの研削加工を1回又は所定回行うごとに作成される表面性状マップMを基準表面性状マップと照合する。そして、判定部101は、基準表面性状マップにおける表面性状と比較して、研削加工を行った工作物Wの研削周面W1の表面性状Sが悪化したときには、加工条件の調整の必要性があることを判定してもよい。
【0089】
判定部101は、表面性状マップMに基づいて、砥石車12の修正タイミングの調整の必要性の判定を行ってもよい。砥石車12の修正タイミングは、砥石車12の修正を行う頻度を示す。砥石車12の修正には、砥石車12の振れ、形状等の修正としてのツルーイング(形直し)、砥粒の突き出し量、砥粒の切れ刃の創生等の修正としてのドレッシング(目直し)などがある。この場合にも、表面性状推定装置2は、基準表面性状マップを記憶し、判定部101は、研削盤1において工作物Wの研削加工を1回又は所定回行うごとに作成される表面性状マップMを基準表面性状マップと照合する。そして、判定部101は、基準表面性状マップにおける表面性状と比較して、研削加工を行った工作物Wの研削周面W1の表面性状Sが悪化したときには、砥石車12を修正する頻度を短くする必要性があることを判定してもよい。
【0090】
10.作用効果
本実施形態の表面性状推定装置2においては、加速度センサ32による固有振動特性Kの評価情報Iを格納し、固有振動特性Kを考慮して、工作物Wの加工時回転速度Vw1に対して工作物Wの測定時回転速度Vw2を意図的に変更することによって、固有振動特性Kが表面性状Sの推定に及ぼす影響を緩和する。具体的には、評価情報格納部23の評価情報Iにおいては、固有振動特性Kについてのゲイン安定周波数帯K0、ゲイン不安定周波数帯K1、反共振周波数帯K2及び共振周波数帯K3が設定されている。
【0091】
そして、回転速度設定部25においては、砥石車12の加工時回転速度Vt1と工作物Wの加工時回転速度Vw1との関係に基づいて、測定時における工作物Wの測定時回転速度Vw2を想定したときに、信号データ取得部21の第1スパイラルデータD1に含まれることになる2次成分から5次成分までの高調波成分F2のうちの少なくとも2つの選択周波数Fsが、共振周波数帯K3を除くゲイン安定周波数帯K0に含まれるように、工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定する。
【0092】
このように工作物Wの測定時回転速度Vw2を設定することにより、測定時において、信号データ取得部21によって取得される第1スパイラルデータD1に、固有振動特性Kのゲイン不安定周波数帯K1、反共振周波数帯K2及び共振周波数帯K3によるノイズの影響が生じないようにすることができる。そして、誤差要因が小さくなることによって、表面性状推定部22による表面性状Sの推定精度を向上させ、表面性状マップMの精度を向上させることができる。
【0093】
それ故、本実施形態の表面性状推定装置2によれば、固有振動特性Kのゲイン不安定周波数帯K1によるノイズの影響を除外して、表面性状マップMの精度を向上させることができる。
【0094】
本発明は、実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 研削盤
12 砥石車
2 表面性状推定装置
20 演算処理装置
21 信号データ取得部
22 表面性状推定部
23 評価情報格納部
24 加工条件取得部
25 回転速度設定部
3 定寸装置
32 加速度センサ
34 変位センサ
W 工作物
W1 研削周面
S 表面性状
F1 基本周波数成分
F2 高調波成分
Fs 選択周波数
Fc 演算用周波数
M 表面性状マップ
G ゲイン
ΔG ばらつき
K 固有振動特性
I 評価情報
K0 ゲイン安定周波数帯
K1 ゲイン不安定周波数帯
K2 反共振周波数帯
K3 共振周波数帯
Vt1 砥石車の加工時回転速度
Vw1 工作物の加工時回転速度
Vw2 工作物の測定時回転速度