IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-凍結システムおよび地盤沈下抑制方法 図1
  • 特開-凍結システムおよび地盤沈下抑制方法 図2
  • 特開-凍結システムおよび地盤沈下抑制方法 図3
  • 特開-凍結システムおよび地盤沈下抑制方法 図4
  • 特開-凍結システムおよび地盤沈下抑制方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022889
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】凍結システムおよび地盤沈下抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/115 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
E02D3/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126328
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一成
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
(72)【発明者】
【氏名】大野 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】江崎 太一
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043CA14
(57)【要約】
【課題】凍結範囲を能動的に制御でき、地盤の復旧が容易な凍結システムおよび地盤沈下抑制方法を提供する。
【解決手段】少なくとも地表から所定の範囲において周囲に断熱材7が形成された凍結管3を地中に配置し、地表から所定深さにおいて、断熱材7の少なくとも一部の周囲を囲むように地盤膨張規制部材である鋼矢板10を配置して、凍結システム12を構築する。そして、凍結管3に冷却媒体15を流して、地中の所定の部位を凍結させた後、凍結管3への冷却媒体15の循環を停止して凍土を融解させ、鋼矢板10の内側の沈下部16を埋め戻す。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に配置され、内部に冷却媒体が流れる凍結管と、
少なくとも、地表から所定の範囲において前記凍結管の外周部に配置される断熱手段と、
地表から所定の深さまで、前記断熱手段の少なくとも一部を囲むように配置される地盤膨張規制部材と、
を具備することを特徴とする凍結システム。
【請求項2】
前記地盤膨張規制部材は、前記断熱手段における凍結予定部の外側に配置されることを特徴とする請求項1記載の凍結システム。
【請求項3】
前記地盤膨張規制部材の少なくとも上部において、対向する前記地盤膨張規制部材同士を連結する連結部材が設けられることを特徴とする請求項1記載の凍結システム。
【請求項4】
前記地盤膨張規制部材には、加熱装置が配置されることを特徴とする請求項1記載の凍結システム。
【請求項5】
少なくとも地表から所定の範囲において周囲に断熱手段が形成された凍結管を地中に配置する工程と、
地表から所定深さにおいて、前記断熱手段の少なくとも一部の周囲を囲むように地盤膨張規制部材を配置する工程と、
前記凍結管に冷却媒体を流して、地中の所定の部位を凍結させる工程と、
前記凍結管への冷却媒体の循環を停止して凍土を融解させる工程と、
前記地盤膨張規制部材の内側の沈下部を埋め戻す工程と、
を具備することを特徴とする地盤沈下抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結システムおよび地盤沈下抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
凍結工法は、図5(a)に示すように、地盤101に凍結管102を設置して冷却媒体を循環させることで地中の水分を凍結させて凍土103を形成する工法であり、凍土103は遮水壁や耐力壁等として使用される。このとき、冷却媒体の温度が低すぎたり凍結期間が長かったりすると、凍結膨張により凍土103の周辺の地盤101が矢印に示す方向に圧密される。土圧が小さい地盤101の浅層部では深層部よりも凍結膨張量が大きく圧密量も大きくなるが、圧密は不可逆変化なので凍結を終了して凍土103が融解しても周囲の圧密された部分は元の位置には戻らない。そのため、図5(b)に示すように水分を多く含む融解部105が自重圧密して沈下部104が発生する。
【0003】
凍土の融解後の沈下を抑制するためには、限定凍結管を用いて凍結範囲を限定的にする(例えば特許文献1参照)、ジェットグラウトのように地盤改良によって地盤の剛性を増加させる等の対策がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実願昭55-47957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、限定凍結管を用いても地盤と凍結管との間を完全に断熱することはできないので、凍結期間が長期化すると計画外凍土が形成されて周囲の
地盤が圧密される。また地盤改良を行うと復旧が困難である。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、凍結範囲を能動的に制御でき、地盤の復旧が容易な凍結システムおよび地盤沈下抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、地中に配置され、内部に冷却媒体が流れる凍結管と、少なくとも、地表から所定の範囲において前記凍結管の外周部に配置される断熱手段と、地表から所定の深さまで、前記断熱手段の少なくとも一部を囲むように配置される地盤膨張規制部材と、を具備することを特徴とする凍結システムである。
【0008】
第1の発明では、凍結管の外周部に断熱手段を配置することにより、地盤の凍結範囲を能動的に制御できる。さらに、地表から所定の深さまで地盤膨張規制部材を配置することにより、地盤の浅層部において地盤膨張規制部材の外側の地盤の凍結膨張による圧密を防止して地盤沈下を抑制できる。さらに、地盤への沈下部の発生範囲を地盤膨張規制部材の内側に限定できるので、凍土の融解後の復旧が容易である。
【0009】
前記地盤膨張規制部材は、前記断熱手段における凍結予定部の外側に配置されることが望ましい。
これにより、凍結システムの供用中に断熱手段の周囲の地盤が凍結しても、地盤膨張規制部材で凍土が拘束されるので地盤膨張規制部材の外側の地盤の圧密が防止される。
【0010】
前記地盤膨張規制部材の少なくとも上部において、対向する前記地盤膨張規制部材同士を連結する連結部材が設けられることが望ましい。
これにより、凍結膨張によって水平方向に力がかかりやすい地表付近において、地盤膨張規制部材の変形を防止できる。
【0011】
前記地盤膨張規制部材には、加熱装置が配置されてもよい。
これにより、地盤膨張規制部材周辺の地盤を加熱して凍結を防止できる。
【0012】
第2の発明は、少なくとも地表から所定の範囲において周囲に断熱手段が形成された凍結管を地中に配置する工程と、地表から所定深さにおいて、前記断熱手段の少なくとも一部の周囲を囲むように地盤膨張規制部材を配置する工程と、前記凍結管に冷却媒体を流して、地中の所定の部位を凍結させる工程と、前記凍結管への冷却媒体の循環を停止して凍土を融解させる工程と、前記地盤膨張規制部材の内側の沈下部を埋め戻す工程と、を具備することを特徴とする地盤沈下抑制方法である。
【0013】
第2の発明では、凍結管の外周部に断熱手段を形成することにより、地盤の凍結範囲を能動的に制御できる。さらに、地盤膨張規制部材を配置することにより、地盤の浅層部において地盤膨張規制部材の外側の地盤の凍結膨張による圧密を防止して地盤沈下を抑制できる。さらに、地盤への沈下部の発生範囲を地盤膨張規制部材の内側に限定できるので、凍土の融解後の復旧が容易である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、凍結範囲を能動的に制御でき、地盤の復旧が容易な凍結システムおよび地盤沈下抑制方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】凍結システム12の鉛直方向の断面図。
図2】凍結システム12の水平方向の断面図。
図3】運用中の凍結システム12の鉛直方向の断面図。
図4】凍土13および計画凍土14の融解後の凍結システム12の鉛直方向の断面図。
図5】凍結工法について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は凍結システム12の鉛直方向の断面図、図2は凍結システム12の水平方向の断面図である。図1図2に示す矢印B-Bによる断面、図2図1に示す矢印A-Aによる断面を示す。
【0018】
凍結システム12は、凍結管3、断熱手段である断熱材7、地盤膨張規制部材である鋼矢板10、連結部材11等を具備する。凍結管3は、例えば三重管方式であり、外管4の内側に内管5が配置され、外管4と内管5との間に外管4の上端から途中の深さまでの限定管6が配置され、限定管6と外管4との間に断熱材7が配置される。凍結管3が配置される範囲では、地盤1の表面に凹部2が形成される。凍結管3は、地盤1に1本以上配置される。
【0019】
断熱材7は、地盤1の表面から凍結を抑制したい深さまでの凍結抑制範囲9に配置される。鋼矢板10は、地盤1の表面から所定の深さまで、断熱材7の長さ方向の少なくとも一部を囲むように配置される。すなわち、鋼矢板10は凍結抑制範囲9の全長に配置されてもよいし、地盤1の表面から凍結抑制範囲9の深さの途中まで配置されてもよい。鋼矢板10は、凍結抑制範囲9における凍結予定部8の外側を囲むように配置される。連結部材11は、例えばタイロッドであり、鋼矢板10の上部において鋼矢板10の対向する部分同士を連結する。
【0020】
次に、凍結システム12による地盤沈下抑制方法について述べる。凍結システム12を用いて地盤1の沈下を抑制するには、まず、地盤1に必要に応じて凹部2を形成し、凍結抑制範囲9において外周部に断熱材7が配置された凍結管3を地盤1中に配置する。次に、地盤1の表面から所定の深さまで鋼矢板10を配置し、鋼矢板10の上部を連結部材11で連結して、凍結システム12の設置を完了する。鋼矢板10の上端および連結部材11は地表から突出しないように凹部2内に配置される。
【0021】
図3は、運用中の凍結システム12の鉛直方向の断面図である。凍結システム12の設置が完了したら、図3に示すように、凍結管3に冷却媒体15を流して地盤1を凍結させる。凍結管3に冷却媒体15を流すと、凍結管3のうち断熱材7が配置されない部分の周囲の地盤1に計画凍土14が形成される。凍結管3のうち断熱材7が配置された部分の地盤1では、断熱材7で冷却が抑制されると同時に鋼矢板10によって凍結管3周辺への地下水の移動が遮られるので、計画凍土14よりも小規模の凍土13が形成される。ここで、凍土13が地盤1の表層付近で凍結膨張すると周囲の地盤1に水平方向の力がかかるが、鋼矢板10が地盤1を拘束しているため鋼矢板10の外側の地盤1は圧密されない。
【0022】
図4は、凍土13および計画凍土14が融解した後の凍結システム12の鉛直方向の断面図である。計画凍土14の使用が終了した後、図4に示すように、凍結管3への冷却媒体15の循環を停止し、凍土13および計画凍土14を融解させる。凍結システム12を用いれば、鋼矢板10の外側の地盤1が圧密されないため、鋼矢板10の外側では凍土13の融解に伴う地盤沈下の発生が抑制される。鋼矢板10の内側では多少の沈下部16が発生するため埋め戻す。その後、必要に応じてグラウト等で置換しながら凍結管3を地盤1から引き抜き、鋼矢板10および連結部材11を撤去して地盤1の復旧を完了する。
【0023】
このように本実施形態では、凍結管3の外周部に断熱材7を配置することにより、地盤1の凍結範囲を能動的に制御することができる。さらに、鋼矢板10を配置することにより、地盤1の浅層部において凍結膨張による鋼矢板10の外側の地盤1の圧密を防止して地盤沈下を抑制できる。また、地盤1への沈下部16の発生範囲を鋼矢板10の内側に限定できるので、凍土13および計画凍土14の融解後に地盤1を容易に復旧できる。
【0024】
なお、鋼矢板10には、必要に応じて電熱線やヒーター等の加熱装置を配置してもよい。加熱装置を稼働させれば、鋼矢板10近傍の凍土13を融解させて地盤1の圧密をより確実に防止できる。
【0025】
本実施形態では、凍結管3として三重管方式のものを例示したが、凍結管はこれに限らない。凍結管は二重管方式でもよいし、アルミマイクロチャンネルを用いたものでもよい。また、凍結管の外周部に配置される断熱手段は空気層等でもよく、地盤膨張規制部材は鋼矢板10に限らず、地盤1の剛性を高められる部材であればよい。
【0026】
また、凍結管3を囲む鋼矢板10の形状は矩形でなくてもよく、円形であってもよい。また、凍結壁のように、長い距離にわたって連続して凍土が形成される場合において、地盤膨張規制部材によって、断熱手段の少なくとも一部を囲むように配置するとは、少なくとも凍結管3の両側を挟み込むようにして配置されるものを含むものとする。
【0027】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0028】
1、101………地盤
2………凹部
3、102………凍結管
4………外管
5………内管
6………限定管
7………断熱材
8………凍結予定部
9………凍結抑制範囲
10………鋼矢板
11………連結部材
12………凍結システム
13、103………凍土
14………計画凍土
15………冷却媒体
16、104………沈下部
105………融解部
図1
図2
図3
図4
図5