(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022903
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電動機診断のデータ収集装置、データ収集プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240214BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126349
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】平手 利昌
(72)【発明者】
【氏名】上地 純平
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】型番や諸元などの情報を用いることなく、任意の時期に任意の運転状態で電動機を診断するためのデータを収集するデータ収集装置を提供する。
【解決手段】一実施形態による電動機14を診断するためのデータ収集装置10は、音取得部21、特性取得部41、データ作成部42、および記憶部26を備える。音取得部21は、電動機14から発生する音を取得する。特性取得部41は、電動機14の回転数と音取得部21で取得した音の周波数との関係を音特性として取得する。データ作成部42は、電動機14を予め設定した運転条件で回転数が変化するように運転したとき、電動機14の回転数と音取得部21で取得した音の周波数との関係から基準データを作成する。記憶部26は、データ作成部42で作成された基準データを記憶する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機から発生する音を取得する音取得部と、
前記電動機の回転数と前記音取得部で取得した音の周波数との関係を音特性として取得する特性取得部と、
前記電動機を予め設定した運転条件で前記回転数が変化するように運転したとき、前記電動機の回転数と前記音取得部で取得した音の周波数との関係から基準データを作成するデータ作成部と、
前記データ作成部で作成された前記基準データを記憶する記憶部と、
を備える、電動機を診断するためのデータ収集装置。
【請求項2】
前記データ作成部は、前記電動機から発生する音について予め設定された任意の周波数の範囲を設定周波数範囲として2つ以上設定し、前記設定周波数範囲ごとに前記電動機の回転数に対応する代表値を設定する、請求項1記載のデータ収集装置。
【請求項3】
前記基準データの作成後に、前記運転条件と同一または異なる条件で前記電動機を運転し、前記特性取得部で取得した前記音特性を用いて前記基準データを更新するデータ更新部をさらに備える、請求項1または2記載のデータ収集装置。
【請求項4】
前記基準データに含まれる前記音特性に応じて、前記電動機の診断の可否を判定する診断判定部をさらに備える、請求項3記載のデータ収集装置。
【請求項5】
携帯端末を、電動機の診断に用いるデータを収集するデータ収集装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記電動機から発生する音を回転数の変化にあわせて音取得部で取得する音取得手順と、
予め設定した運転条件で前記電動機を運転したとき、前記音取得手順で取得した前記電動機の回転数と前記音取得部で取得した音の周波数との関係から基準データを作成するデータ作成手順と、
前記データ作手順で作成した前記基準データを記憶部に記憶する記憶手順と、
を実行させるデータ収集プログラム。
【請求項6】
前記データ作成手順では、前記電動機から発生する音について予め設定された任意の周波数の範囲を設定周波数範囲として2つ以上設定し、前記設定周波数範囲ごとに前記電動機の回転数に応じた代表値を設定する、請求項5記載のデータ収集プログラム。
【請求項7】
前記基準データの作成後において、前記運転条件と同一または異なる条件で前記電動機を運転したときに、
前記音取得手順で取得した前記音特性を用いて前記基準データを更新して更新データを作成させる更新データ作成手順をさらに実行させる、請求項5または6記載のデータ収集プログラム。
【請求項8】
前記基準データに含まれる前記音特性に応じて、前記電動機の診断の可否を判定する診断判定手順をさらに実行させる、請求項7記載のデータ収集プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電動機の回転数と電動機から発生する音との関係から電動機を診断するためのデータ収集装置、および携帯端末をデータ収集装置としての機能させるデータ収集プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、軸受など機械的な損傷にともなう振動や騒音、および電気的な不良にともなう電磁騒音を発生する。電動機は、これら振動や騒音に基づいて不具合の有無が診断される。従来は、電動機は、型番による諸元を用いて、回転数を一定にして不具合の診断が行なわれている。
【0003】
しかしながら、電動機を診断するたびに型番などの情報を取得する必要があり、任意の時期における迅速な診断の妨げとなっている。また、電動機に用いられる軸受部は、製造者が電動機と異なることもあり、型番や諸元の特定が困難であるとともに、型番の特定に電動機からの取り外しが必要になるなど、情報の取得が困難な場合もある。さらに、近年では、電動機は、回転数を可変として運転されることが多く、診断のために回転数を一定に制御する必要があるなど、診断の煩雑化を招いている。加えて、電動機から発生する電磁騒音の診断には設計情報も必要であり、製造者以外は電磁騒音に基づく電動機の診断は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、型番や諸元などの情報を用いることなく、任意の時期に任意の運転状態で電動機を診断するためのデータを収集するデータ収集装置を提供することを目的とする。
また、型番や諸元などの情報を用いることなく、携帯端末に、任意の時期に任意の運転状態で電動機を診断するためのデータの収集を実行させるデータ収集プログラムを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態による電動機を診断するためのデータ収集装置は、音取得部、特性取得部、データ作成部、および記憶部を備える。音取得部は、電動機から発生する音を取得する。特性取得部は、前記電動機の回転数と前記音取得部で取得した音の周波数との関係を音特性として取得する。データ作成部は、前記電動機を予め設定した運転条件で前記回転数が変化するように運転したとき、前記電動機の回転数と前記音取得部で取得した音の周波数との関係から基準データを作成する。記憶部は、前記データ作成部で作成された前記基準データを記憶する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による電動機を診断するためのデータ収集装置の概略的な構成を示す模式図
【
図2】一実施形態による電動機を診断するためのデータ収集装置の構成を示すブロック図
【
図3】電動機の回転数の経時的な変化にともなう、電動機から発生する音、および実効値RMSの変化を示す概略図
【
図4】電動機から発生する音の周波数帯域ごとの経時的な変化を示す概略図
【
図5】電動機から発生する音の周波数帯域ごとの代表値の経時的な変化を示す概略図
【
図6】電動機から発生する音の周波数の代表値の分割について説明するための概略図
【
図7】電動機から発生する音の周波数の代表値の分割について説明するための概略図
【
図8】電動機から発生する音の周波数帯域ごとの代表値の経時的な変化を示す概略図
【
図9】電動機から発生する音の0~1kHz帯域において見られる顕著な代表値を説明するための概略図
【
図10】電動機から発生する音の2~7kHz帯域において見られる顕著な代表値を説明するための概略図
【
図11】一実施形態によるデータ収集装置における処理の流れを示す概略図
【
図12】一実施形態によるデータ収集装置で作成した基準データの構成を示す概略図
【
図13】一実施形態によるデータ収集装置における処理の流れを示す概略図
【
図14】一実施形態によるデータ収集装置における処理の流れを示す概略図
【
図15】一実施形態によるデータ収集装置で作成した基準データの構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、データ収集装置の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1および
図2は、一実施形態によるデータ収集装置10の構成を示す概略図である。データ収集装置10は、携帯端末11を備える。携帯端末11は、例えばいわゆるスマートフォンやタブレットと称される。また、データ収集装置10は、携帯端末11に加えて、サーバ機器12を備えていてもよい。サーバ機器12は、例えばHDDなどの電磁気的または光学的にデジタルデータを記憶可能な記憶領域を有する機器である。これら、携帯端末11とサーバ機器12との間は、通信ネットワーク13を経由して通信可能に接続されている。通信ネットワーク13は、例えばローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット、携帯電話通信網、イーサネットなど、任意の通信ネットワークを利用することができる。
【0009】
データ収集装置10は、
図1に示すように対象となる電動機14を診断する図示しない操作者が利用する。操作者は、例えば電動機14の所有者や整備担当者など、電動機14を取り扱う者、異常の有無などを診断する者などが該当する。携帯端末11は、電動機14の診断を実行するとき、操作者が所持する。操作者は、携帯端末11を用いて電動機14を診断するためのデータとなる音を収集する。
【0010】
電動機14は、固定子15、および回転軸部材16を中心に回転する回転子17を有している。回転子17は、軸受部材18によって回転可能に支持されている。電動機14は、制御装置19に接続され、例えば制御装置19に設けられている図示しないインバータから出力される電力によって駆動される。電動機14は、予め回転数などが設定された運転条件にしたがって制御装置19によって運転される。
【0011】
データ収集装置10を構成する携帯端末11は、
図2に示すように音取得部21、表示部22、入力部23、通信部24および制御部25を備えている。音取得部21は、マイクロフォンであり、携帯端末11に必須の機器として設けられている。音取得部21は、電動機14の運転にともなって発生する音を取得する。表示部22は、例えば液晶や有機LEDなどで構成されるディスプレイであり、携帯端末11に必須の機器として設けられている。入力部23は、例えば表示部22と一体に構成されているタッチパネルなどであり、これも携帯端末11に必須の機器として設けられている。通信部24は、外部の通信ネットワーク13と接続するために用いられ、携帯端末11に必須の機器として設けられている。制御部25は、CPU、ROMおよびRAMを有するマイクロコンピュータで構成され、音取得部21、表示部22、入力部23および通信部24をはじめとする携帯端末11の全体を制御する。データ収集装置10は、携帯端末11でデータ収集プログラムを実行することにより、ソフトウェア的に実現される。
【0012】
データ収集装置10は、記憶部26を備えている。記憶部26は、携帯端末11に設けてもよく、外部のサーバ機器12に設けてもよい。本実施形態の場合、記憶部26は、携帯端末11に設けられている携帯記憶部27、およびサーバ機器12に設けられている主記憶部28を有している。携帯記憶部27は、例えば不揮発性メモリやRAMなどの記憶媒体で構成されている。主記憶部28は、例えばHDDなど、メモリなどと比較してより安価で大容量の記憶媒体で構成することが好ましい。例えば容量の大きなデータはサーバ機器12の主記憶部28に記憶し、携帯端末11で電動機14から取得した音に関するデータや電動機14の診断で用いるデータなどの一部のデータを、携帯端末11の携帯記憶部27に記憶する構成としてもよい。このように、携帯記憶部27および主記憶部28は、用途に応じて任意に使い分けることができる。携帯端末11の制御部25は、携帯記憶部27を制御する。
【0013】
サーバ機器12は、主記憶部28に加え、通信部31および制御部32を有している。通信部31は、外部の通信ネットワーク13と接続するために用いられる。サーバ機器12は、通信部31および通信ネットワーク13を通して、携帯端末11と通信する。制御部は、CPU、ROMおよびRAMを有するマイクロコンピュータで構成され、主記憶部28および通信部31をはじめとするサーバ機器12の全体を制御する。
【0014】
データ収集装置10は、特性取得部41、データ作成部42、データ更新部43および診断判定部44を備える。これら特性取得部41、データ作成部42、データ更新部43および診断判定部44は、制御部25のCPUでコンピュータプログラムを実行することにより、携帯端末11においてソフトウェア的に実現されている。これら特性取得部41、データ作成部42、データ更新部43および診断判定部44は、ソフトウェア的に限らず、ソフトウェアとハードウェアとの協働で実現する構成としてもよい。本実施形態のように携帯端末11を用いる場合、制御部25のCPUでコンピュータプログラムであるデータ収集プログラムを実行することにより、携帯端末11は、特性取得部41、データ作成部42、データ更新部43および診断判定部44を、ソフトウェア的に実現している。
【0015】
特性取得部41は、音特性を取得する。音特性は、電動機14の回転数と音取得部21で取得する音の周波数との関係である。電動機14から発生する音は、電動機14の回転数によって異なる。すなわち、電動機14から発生する音は、電動機14の回転数が上昇するとともに大きくなるだけでなく、回転数に応じて発生する音の周波数に特定の傾向がある。特性取得部41は、このような特定の傾向を把握するために、電動機14の回転数と音の周波数との関係を音特性として取得する。
【0016】
データ作成部42は、基準データを作成する。基準データは、予め設定した運転条件で電動機14を運転したときに取得される音特性である。すなわち、電動機14は、基準となるモデルとして、予め設定した運転条件で運転される。そして、データ作成部42は、この運転条件における電動機14の回転数と音取得部21で取得した音の周波数との関係である音特性を用いて基準データを作成する。作成された基準データは、記憶部26に記憶される。
【0017】
データ更新部43は、基準データが作成された後、基準データを更新するための更新データを作成し、基準データを更新する。基準データは、上述のように予め設定した運転条件で作成される。一方、電動機14は、例えば使用の継続によって使用する回転数の範囲が拡大したり、部品が交換されたりのように、運転時の設定が変更されることがある。このように設定が変更されると、基準データでは得られない音特性が必要となることがある。そこで、データ更新部43は、基準データが作成された後であっても、特性取得部41で取得した音特性を用いて更新データを作成し、基準データを更新データに置き換える。この場合、データ更新部43は、基準データを作成したときと同一の運転の設定で電動機14を運転して音特性を取得してもよく、基準データを作成したときと異なる設定で電動機14を運転して音特性を取得してもよい。
【0018】
診断判定部44は、電動機14の診断を行なってよいか否か、つまり電動機14の診断の可否を判定する。上述のように基準データまたは更新データは、電動機14のすべての運転条件における基準データが揃っていないことがある。すなわち、基準データまたは更新データに特定の周波数帯域の基準データが含まれていないことがある。このように、特定の周波数帯域における基準データまたは更新データが無いとき、電動機14の診断はできないことにある。そこで、診断判定部44は、記憶部26に記憶されている基準データ、または更新データを用いて、対象とする周波数帯域における電動機14の診断が可能か否かを判断する。
【0019】
以下、電動機14のデータ収集装置10による処理の詳細について説明する。
(基準データの作成)
基準データは、予め設定された運転条件で電動機14を運転することにより取得する。予め設定された運転条件は、例えば
図3に示すように「始動」-加速領域-「定格回転数Rs」-減速領域-「停止」というパターンが用いられる。電動機14は、時間T0で運転を開始し、時間T1で定格回転数Rsに到達し、時間T2まで定格回転数Rsを維持して、時間T3で停止する。つまり、電動機14は、時間T0から時間T1までが加速領域、時間T1から時間T2までが定速領域、時間T2から時間T3までが減速領域である。ここで、「定格回転数Rs」は、これに代えて電動機14の回転で予想される「最大回転数」としてもよい。また、上記の運転条件は一例であり、予め電動機14に特定の運転パターンが決められているとき、この特定の運転パターンを運転条件としてもよい。このように、基準データを得るための運転条件は、任意に設定することができる。本実施形態では、上記の例のように「始動」-「定格回転数Rs」-「停止」という運転パターンを用いる例について説明する。
図3では、電動機14の回転数の時間的な変化、電動機14から発生する音の周波数帯域の全体における時間的な変化、およびこの音に基づく実効値RMS(Root Mean Square value)の時間的な変化を示している。
【0020】
運転条件にしたがって電動機14の運転が開始されると、音取得部21は電動機14から発生する音を取得する。音取得部21は、上述のように携帯端末11に設けられているマイクロフォンを用いて電動機14から発生する音を取得する。特性取得部41は、音取得部21で取得した電動機14の音、および電動機14の回転数から、音特性を取得する。電動機14の回転数は、電動機14の運転が開始された時間T0からの経過時間に対応している。すなわち、電動機14の回転数は、制御装置19によって予め設定された運転条件に基づいて制御される。そのため、電動機14の回転数は、電動機14が始動してからの経過時間に相関する。これにより、電動機14の回転数は、例えば回転数センサなどの検出手段を用いることなく、始動からの経過時間に応じて特定される。なお、当然ながら、電動機14の回転数は、例えばセンサなどを用いて検出してもよい。
【0021】
特性取得部41は、電動機14の回転数ごとに振動波形の代表値を特定する。ここで、振動波形の代表値とは、実効値または絶対値の平均値など、音の強度を示す波形の大きさを定量的に把握できる数値であれば任意に用いることができる。特性取得部41は、電動機14の回転数ごとに周波数を分析する。そして、特性取得部41は、各回転数において顕著に現われる周波数の卓越成分を代表値として抽出する。以下、代表値の抽出について、詳細に説明する。
【0022】
特性取得部41は、音取得部21で取得した音から特定の周波数帯域の音の通過を許容する図示しない複数の周波数フィルタを有している。特性取得部41は、これらの周波数フィルタに通すことにより、音取得部21で取得した音を、複数の周波数帯域の成分に分離する。具体的には、特性取得部41は、任意の設定周波数範囲を設定し、この設定周波数範囲ごとに音を分離する。特性取得部41は、例えば周波数を分析する周波数帯域が0~10kHzのとき、0~1kHzの周波数帯域、1~2kHzの周波数帯域、・・・9~10kHzの周波数帯域のように、設定周波数範囲として10に分割した範囲を設定する。そして、特性取得部41は、この設定周波数範囲ごとに、周波数フィルタを通した波形を作成する。このとき、特性取得部41は、設定周波数範囲にごとに、電動機14の回転数に相関する波形を作成する。さらに、特性取得部41は、この設定周波数範囲ごとの波形から、回転数ごとに代表値を特定する。代表値は、卓越成分のように上述のように定量的に把握できる数値として特定される。
【0023】
ここで、特性取得部41で取得される音特性における卓越成分は、次のような要因で発生する。
・回転不均衡による卓越成分
この回転不均衡による卓越成分は、回転子17などに固有の回転のアンバランスによって生じ、比較的低い回転数によって発生しやすい。この卓越成分は、例えば電動機14が加速領域にあるとき、または減速領域にあるときなど、回転子17ごとに固有の危険回転数領域で発生する傾向にある。また、この比較的低い回転数で発生する卓越成分は、電動機14の設備への据え付けが不良な場合にも生じやすい。この回転不均衡による卓越成分は、例えば設定周波数範囲が0~1kHzで出現しやすい傾向にある。
【0024】
・軸受部材の摺動部における卓越成分
軸受部材18の摺動部における卓越成分は、回転子17とこれを支持する軸受部材18との摺動部において生じ、定速領域での運転中に発生しやすい。この卓越成分は、例えば軸受部材18の摩耗や潤滑の不足など、軸受部材18の構造に起因して発生する傾向にある。また、この卓越成分は、電動機14の構造的な固有振動数によっても生じやすい。この卓越成分は、例えば設定周波数範囲が2~8kHzで出現しやすい傾向にある。
【0025】
・電動機の電磁力や誘導電力を起因とする卓越成分
電動機14の電力などを起因とする卓越成分は、電磁的な歪みや通電時のノイズなどによって生じ、全回転数の領域で発生しやすい。この卓越成分は、例えば回転数とは無関係に、電動機14の負荷が大きくなると発生する傾向にある。この卓越成分は、例えば設定周波数範囲が1~5kHzで出現しやすい傾向にある。
【0026】
このように、電動機14から発生する音は、音の発生原因に応じて、回転数ごとに卓越成分に特徴がある。そして、これらの卓越成分は、電動機14の回転数や負荷によって変化するものの、電動機14に異常がないとき、つまり電動機14の機械的な状態に変化がないときは大きく変化しない。そこで、特性取得部41は、運転条件にしたがって始動から定格回転数での運転を経て停止までの間に電動機14から発生する音を取得して、各回転数における卓越成分となる代表値を抽出する。
【0027】
データ作成部42は、定常的な運転に先立って、予め設定された特定の運転条件で運転された電動機14から得られる音特性を用いて、基準データを作成する。作成された基準データは、記憶部26に記憶される。
【0028】
次に、電動機14から発生する音およびその性質について詳細に説明する。
(電動機が発する音)
電動機14は、始動から停止まで、
図3に示すように加速領域、定速領域および減速領域を含んでいる。加速領域は、電動機14の回転数が上昇する領域である。定速領域は、電動機14が予め設定された一定の回転数で運転される領域である。減速領域は、電動機14の回転数が下降する領域である。加速領域および減速領域は、電動機14の回転数が変化することから、電動機14に固有の回転数において発生する音が顕著になる傾向ある。この音は、上述のように電動機14の部材のアンバランスによるものであり、電動機14に固有の特定の回転数で発生する。一方、加速領域および減速領域は、電動機14の回転数が低いため、軸受部材18などに起因する音の検出が困難である。
【0029】
これに対し、定速領域は、電動機14の回転数が比較的高くほぼ一定に維持されることから、軸受部材18から発生する音が顕著になる傾向にある。この音は、上述のように軸受部材18に生じる異常によるものであり、回転数の変化と無関係である。一方、定速領域は、電動機14の回転数がほぼ一定であるため、電動機14の部材のアンバランスに起因する音の検出が困難である。
【0030】
(音の性質)
本実施形態では、電動機14から発生する音は、電動機の始動から定速領域を経て停止するまで
図3に示すように経時的に取得される。
図3の場合、横軸は、電動機14が始動してからの経過時間を示している。縦軸は、回転数、音の強度、RMS実効値の大きさをそれぞれ示している。音の強度は、PaやdBなど、絶対的または相対的に音の強度を取得できるものであれば任意に用いることができる。特性取得部41は、音取得部21から取得した電動機14の音を、図示しない周波数フィルタを通すことにより、複数の周波数帯域に分解する。例えば
図4に示すように、電動機14の音は、0~1kHzの周波数帯域、1~2kHzの周波数帯域、2~8kHzの周波数帯域に分解される。当然ながら、周波数帯域は、より多くの領域に分解してもよい。
【0031】
特性取得部41は、電動機14の回転数ごとに、各周波数帯域の代表値を取得する。上述のように、電動機14の回転数は、始動してからの経過時間によって特定される。そして、特性取得部41は、電動機14の特定の回転数における代表値を、周波数帯域ごとに取得する。代表値は、上述のように実効値または絶対値の平均値など、振動の波形の大きさを定量的に把握できる数値である。
【0032】
例えば、電動機14の音を0~10kHzの範囲で取得し、設定周波数帯域として、0~1kHz、1~2kHz、2~3kHz、・・・9~10kHzの10に分解した場合、経過時間すなわち回転数ごとの代表値は、
図5に示すように取得される。この
図5から回転数ごとの代表値は、周波数帯域ごとに特徴があることがわかる。
【0033】
設定周波数範囲は、上述のように任意に設定することができる。
図6および
図7は、特定の回転数において取得された音の周波数と強度との関係を示している。設定周波数範囲は、例えば
図6に示すように0~1kHzと、3~8kHzとの2つの領域に設定したり、
図7に示すように1kHzずつ10の領域に設定したりすることができる。他にも、設定周波数範囲は、
図8に示すように0~1kHz、2~3kHz、7~8kHzの3つの領域に設定してもよい。このうち、0~1kHzの設定周波数範囲は、回転不均衡など部材のアンバランスに起因する音の変化が現われやすい領域である。2~3kHzの設定周波数範囲は、電磁的な歪みや通電時のノイズなど電磁的な音の変化が現われやすい領域である。7~8kHzの設定周波数範囲は、軸受部材18の損傷など機械的な損傷に起因する音の変化が現われやすい領域である。このように、設定周波数範囲の数は、例えば記憶部26の容量や携帯端末11の処理能力などに応じて任意に設定される。
【0034】
次に、基準データを用いた電動機14の診断における判断基準について説明する。
設定周波数範囲を0~1kHzとして作成した音特性は、回転数としての経過時間と音の強度とが
図9に示すような関係となる。この設定周波数範囲の音特性は、
図9のA1およびA2において、音の強度が顕著に上昇する領域を含んでいる。A1は、加速領域において電動機14の回転数が上昇するときに現われる値であり、A2は、減速領域において回転が下降するときに現われる値である。このA1またはA2で現われる顕著な値は、電動機14のアンバランスの進行や電動機14の据え付け不良によって生じる。そのため、基準データに含まれる設定周波数範囲が0~1kHzの音特性を用いることにより、電動機14に生じている異常の原因としてアンバランスの進行や据え付け不良を診断することができる。
【0035】
また、設定周波数範囲を2~7kHzとして作成した音特性は、回転数としての経過時間と音の強度とが
図10に示すような関係となる。この設定周波数範囲の音特性は、
図10のA3において、音の強度が顕著に上昇する領域を含んでいる。A3は、定速領域において電動機14の回転数が概ね一定のときに現われる値である。このA3で現われる顕著な値は、主に軸受部材18の異常によって生じる。そのため、基準データに含まれる設定周波数範囲が2~7kHzの音特性を用いることにより、電動機14に生じている異常の原因として軸受部材18の異常を診断することができる。
【0036】
このように、基準データを取得した後、電動機14は、通常の運転において発生する音が取得される。この取得された音の音特性と基準データとを比較することにより、電動機14の異常の有無および異常の原因が診断される。
【0037】
以上の構成によるデータ収集装置の処理の流れについて説明する。
(基準データ作成処理)
電動機14の診断に先立って、
図11に示す流れにしたがって基準データが作成される。基準データ作成処理が開始されると、音取得部21は、電動機14の音をすべての回転数領域で取得する(S101)。電動機14は、予め設定された運転条件にしたがって運転される。このとき、電動機14は、運転条件として例えば上述のように始動から定格回転数を経て停止までの一連の動作が設定されている。運転条件は、始動から定格回転数を経て停止までに限らず、電動機14が運用される特定の回転数の範囲など、任意に設定することができる。電動機14は、制御装置19によって、始動した後、時間の経過とともに加速領域、定速領域、減速領域を経て停止する。これにより、電動機14は、始動後の経過時間と回転数とが相関している。
【0038】
特性取得部41は、音取得部21で取得した音をフィルタで処理する(S102)。すなわち、特性取得部41は、音取得部21で取得した電動機14の音を、任意の設定周波数範囲ごとに分離する。この分離した音の波形は、
図4などに示すように電動機14の始動からの経過時間に対応する強度として得られる。特性取得部41は、得られた複数の設定周波数範囲において、電動機14の回転数ごとに代表値を取得する(S103)。このとき、特性取得部41は、電動機14のすべての回転数について、代表値を取得する。すなわち、特性取得部41は、複数の設定周波数ごと、および電動機14の回転数ごとに、代表値を取得する。これにより、例えば
図5に示すように経過時間つまり電動機14の回転数に対する周波数の代表値が設定周波数範囲ごとに取得される。
【0039】
データ作成部42は、基準データを作成する(S104)。基準データは、例えば
図12に示すように電動機14の回転数と周波数帯域ごとの代表値との関係を示すデータベースとして作成される。作成された基準データは、記憶部26に記憶される(S105)。
【0040】
(診断データ作成処理1)
電動機14の診断データ作成処理1の流れを
図13に基づいて説明する。電動機14の診断を実行する診断データ作成処理1は、上述の基準データ作成処理と同様である。したがって、概略を説明する。但し、診断データ作成処理1のとき、電動機14は予め設定された運転条件と同一の設定で運転されるとは限らない。
音取得部21は、電動機14の音をすべての回転数領域で取得する(S201)。このとき、電動機14は、任意の設定にしたがって運転される。電動機14を運転する設定は、基準データ作成処理と同一の設定でもよく、異なる設定でもよい。この場合も、電動機14は、制御装置19によって運転が制御される。
【0041】
特性取得部41は、音取得部21で取得した音をフィルタで処理する(S202)。すなわち、特性取得部41は、音取得部21で取得した電動機14の音を、任意の設定周波数範囲ごとに分離する。そして、特性取得部41は、得られた複数の設定周波数範囲において、電動機14の回転数ごとに代表値を取得する(S203)。このとき、特性取得部41は、電動機14のすべての回転数について、代表値を取得する。すなわち、特性取得部41は、複数の設定周波数ごと、および電動機14の回転数ごとに、代表値を取得する。
【0042】
データ作成部42は、診断データを作成する(S204)。診断データは、基準データと同様に例えば
図11に示すように回転数と周波数帯域ごとの代表値との関係を示すデータベースとして作成される。作成された診断データは、記憶部26に記憶される(S205)。
【0043】
(診断データ作成処理2)
電動機14の診断データ作成処理2の流れを
図14に基づいて説明する。この診断データ作成処理2は、上述の基準データ作成処理および診断データ作成処理1と異なり、電動機14の音を特定の回転数でのみ取得する。
電動機14は、定常的な運転状態にあるとき、回転数が一定に維持されていたり、回転数の変動が小さくなるように維持されたりすることがある。つまり、電動機14は、予め設定された運転条件とは異なり、特定の回転数の範囲のみで運転されることがある。このような場合、特性取得部41は、電動機14の定常的な運転中において、基準データの作成と同様な電動機14の全ての回転数で音の測定ができないことがある。一方、電動機14を診断するためのデータは、必ずしも電動機14のすべての回転数で取得する必要がなく、特定の回転数であっても当該回転数における診断のためのデータだけを取得してもよい。そこで、診断データ作成処理2では、電動機14の音を特定の回転数のみで取得する例について説明する。
【0044】
音取得部21は、電動機14の音を特定の回転数領域で取得する(S301)。電動機14は、通常の運転状態にあるとき、必ずしも始動から停止まで加速や減速をともなうことなく、特定の回転数の範囲でのみ運転されることがある。このように、通常の運転のための設定であるとき、電動機14の診断はこの設定における回転数に基づいて実行される。そのため、診断データ作成処理2では、特定の設定における限定された回転数領域で電動機14の診断のための音を取得する。
【0045】
特性取得部41は、音取得部21で取得した音をフィルタで処理する(S302)。すなわち、特性取得部41は、音取得部21で取得した電動機の音を、任意の設定周波数範囲ごとに分離する。そして、特性取得部41は、得られた複数の設定周波数範囲において、電動機14の特定の回転数における代表値を取得する(S303)。すなわち、特性取得部41は、電動機14の特定の回転数において、設定周波数ごとに代表値を取得する。
【0046】
データ作成部42は、診断データを作成する(S304)。診断データは、例えば
図15に示すように特定の回転数において周波数帯域ごとの代表値のデータベースとして作成される。作成された診断データは、記憶部26に記憶される(S305)。
【0047】
ところで、電動機14は、設備へ設置された後の例えば仕様の変更によって、運転の回転数や構造に変化が生じるときがある。このようなとき、データ更新部43は、仕様が変更された後の電動機14の運転に基づいて、基準データを更新して更新データを作成する。電動機14の仕様の変更によって、例えば
図15に示すように基準データとなるデータベースに代表値が取得されていない領域があるとき、データ更新部43は、最新の運転で取得した音特性から、データベースの空欄に該当する代表値を抽出し、基準データのデータベースを更新し、更新データとする。これにより、データ更新部43は、電動機14を診断するための最新となる更新データのデータベースを作成する。
【0048】
また、診断判定部44は、電動機14の診断を行なってよいか否か、つまり電動機14の診断の可否を判定する。上述の
図15に示すように、基準データは、電動機14のすべての運転条件における基準データが揃っていないことがある。このように、特定の周波数帯域における基準データが無いとき、電動機14の診断はできないこともある。そこで、診断判定部44は、記憶部26に記憶されている基準データ、つまり更新データによって更新された基準データを用いて、対象とする周波数帯域における電動機14の診断が可能か否かを判断する。
【0049】
以上のような手順により、データ収集装置10は、電動機14を診断するための基準データ、更新データおよび診断データを作成する。電動機14を診断する診断者は、記憶部26に記憶されている基準データまたは更新データと、携帯端末11を用いて電動機14から取得した最新の音に基づく診断データを用いて電動機14を診断する。すなわち、診断者は、最新の診断データと、基準データまたは更新データとを比較する。そして、診断者は、最新の診断データとして得られた電動機14の音特性から、電動機14の異常の有無を診断するとともに、異常が発生している箇所を特定する。診断者による電動機14の診断の具体的な手順は、任意に設定することができる。
【0050】
以上説明した一実施形態では、携帯端末11を用いて電動機14の音特性を取得する。操作者は、予め設定した運転条件で取得した電動機14の音特性である基準データまたは更新データと、電動機14から取得した最新の診断データとを比較することにより、電動機14の異常の有無および異常の原因を診断する。すなわち、一実施形態では、電動機14の回転数と発生する音の周波数との関係を、特定の運転条件で運転して基準データとして取得している。したがって、電動機14の型番や諸元などの情報を用いることなく、任意の時期に任意の運転状態で電動機14を診断するためのデータを収集することができる。そして、操作者は、任意の時期に任意の運転状態で取得した診断データを、予め取得した基準データや更新データと比較することにより、電動機14の型番や諸元などの情報を用いることなく、電動機14を診断することができる。
【0051】
また、一実施形態では、基準データを取得し、データベースとして記憶する。これにより、電動機14およびこれを構成する軸受部材18の仕様、または電動機14の運転状態に関わらず、電動機14の診断の基準となる基準データおよび更新データが取得される。つまり、電動機14は、診断データを収集するとき、停止や回転数の変更といった運転条件の変更、または分解などが不要である。したがって、電動機14がいかなる運転状態にあるときでも、電動機14の診断を行なうためのデータを容易に収集することができる。
【0052】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
図面中、10はデータ収集装置、11は携帯端末、14は電動機、21は音取得部、26は記憶部、41は特性取得部、42はデータ作成部、43はデータ更新部、44は診断判定部を示す。