(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022904
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20240214BHJP
H02K 17/26 20060101ALI20240214BHJP
H02K 19/14 20060101ALI20240214BHJP
H02K 17/16 20060101ALI20240214BHJP
H02K 1/276 20220101ALI20240214BHJP
【FI】
H02K15/02 J
H02K17/26
H02K19/14 Z
H02K17/16 A
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126350
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】森林 諒伍
【テーマコード(参考)】
5H013
5H615
5H619
5H622
【Fターム(参考)】
5H013MM01
5H013PP01
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB06
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP03
5H615SS12
5H619AA05
5H619BB01
5H619BB06
5H619PP02
5H622AA04
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA12
5H622PP10
(57)【要約】
【課題】回転子鉄心に、自己始動用のかご型導体と永久磁石との双方を設けるようにしたものにあって、ダイキャスト工程における熱により永久磁石が減磁してしまうことを防止し、永久磁石の十分な着磁を可能とする。
【解決手段】実施形態の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法は、回転子鉄心に、自己始動用のかご型導体と永久磁石との双方を設けるようにした回転子を製造する方法にあって、前記回転子鉄心の内周スロットに金属進入防止用のダミー部材を配置するダミー挿入工程と、前記回転子鉄心を金型内に収容しダイキャストにより前記かご型導体を設けるダイキャスト工程と、前記内周スロットから前記ダミー部材を取出すダミー取出工程と、予め着磁された永久磁石を該内周スロットに挿入する磁石装着工程とを含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心と、前記回転子鉄心の複数の外周スロットに設けられたバー及び該回転子鉄心の両端面でそれらバーの端部を接続するエンドリングからなる非磁性金属製のかご型導体と、前記回転子鉄心の前記外周スロットよりも内周側の内周スロットに設けられた永久磁石とを備えてなる自己始動型永久磁石同期電動機の回転子を製造する方法であって、
前記回転子鉄心の内周スロットに金属進入防止用のダミー部材を配置するダミー挿入工程と、
前記回転子鉄心を金型内に収容し、ダイキャストにより前記かご型導体を設けるダイキャスト工程と、
前記内周スロットから前記ダミー部材を取出すダミー取出工程と、
予め着磁された永久磁石を前記内周スロットに挿入する磁石装着工程とを含む自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【請求項2】
前記ダミー部材は、耐熱性材料から、前記内周スロットのうち、少なくとも、軸方向の両端面部及び前記外周スロットに連続する又は隣り合う側面部を塞ぐフレーム状をなすように構成されている請求項1記載の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【請求項3】
前記ダミー部材は、耐熱性材料から、前記永久磁石と同等の大きさ、或いは前記永久磁石よりも大きいブロック状に構成されている請求項1記載の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【請求項4】
前記ダイキャスト工程においては、前記金型内で、前記回転子鉄心のうち両端面の前記内周スロットの開口部部分が、押え治具により押え付けられた状態とされる請求項1から3のいずれか一項に記載の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【請求項5】
前記ダイキャスト工程は、前記回転子鉄心のうち両端面及び前記内周スロットの内面に、潤滑剤が塗布された状態で行われる請求項1から3のいずれか一項に記載の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【請求項6】
前記ダミー挿入工程後に、前記回転子鉄心のうち軸方向両端部には、前記内周スロットの開口部を塞ぐ端板が設けられ、前記ダイキャスト工程の後に、前記端板の一部の磁石挿入部位が開口された状態で、前記ダミー取出工程が実行される請求項1から3のいずれか一項に記載の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【請求項7】
前記磁石装着工程の後、前記回転子鉄心のうち両端面の前記内周スロットの開口部部分を押さえる押え板が取付けられる請求項1から3のいずれか一項に記載の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、自己始動を可能とした自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ装置例えば油圧ポンプ装置に一体的に組込まれてその駆動源となるモータとして、商用電源により駆動される永久磁石式の同期モータが知られている。この種の永久磁石式同期モータとしては、例えば、特許文献1に示される構成のものが知られている。即ち、この同期モータの固定子には、三相巻線が巻装される。固定子の内周に配置された円筒状の回転子鉄心は、ケイ素鋼板を積層して構成され、その内部に直径方向に対し直交する方向に延びる内周スロットが設けられ、その内周スロット内に永久磁石が埋め込まれるように設けられる。
【0003】
更に、前記回転子鉄心には、外周部に位置して多数個の外周スロットが設けられ、それらスロット内に、アルミニウムや銅などの非磁性金属をダイキャスト法により充填することにより、自己始動用のいわゆるかご型導体が設けられている。この場合、一般的な永久磁石式の同期モータにあっては、始動のために別途のインバータ装置が必要となり、コスト高となる問題点があったが、上記のようにかご型導体を設けた構成によれば、そのかご型導体によって誘導トルクを発生させることに伴い、自己始動機能を持たせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した回転子を製造する場合、上記かご型導体は、一般にダイキャスト法により設けられるが、内周スロット内に永久磁石を挿入した後にダイキャスト工程を実行すると、ダイキャストにおける高温によって、永久磁石が減磁してしまう問題があった。そうかといって、ダイキャスト工程の後に、未着磁状態の磁石材料を内周スロット内に挿入し着磁作業を行う方法では、回転子の外周側に配置される着磁用のコイルから、内周スロット内の磁石材料までの距離が長くなってしまい、着磁作業の効率が非常に悪く、着磁が不十分となる虞もある。
【0006】
そこで、回転子鉄心に、自己始動用のかご型導体と永久磁石との双方を設けるようにしたものにあって、ダイキャスト工程における熱により永久磁石が減磁してしまうことを防止し、永久磁石の十分な着磁が可能な自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の製造方法は、回転子鉄心と、前記回転子鉄心の複数の外周スロットに設けられたバー及び該回転子鉄心の両端面でそれらバーの端部を接続するエンドリングからなる非磁性金属製のかご型導体と、前記回転子鉄心の前記外周スロットよりも内周側の内周スロットに設けられた永久磁石とを備えてなる自己始動型永久磁石同期電動機の回転子を製造する方法であって、前記回転子鉄心の内周スロットに金属進入防止用のダミー部材を配置するダミー挿入工程と、前記回転子鉄心を金型内に収容し、ダイキャストにより前記かご型導体を設けるダイキャスト工程と、前記内周スロットから前記ダミー部材を取出すダミー取出工程と、予め着磁された永久磁石を該内周スロットに挿入する磁石装着工程とを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態を示すもので、自己始動型永久磁石同期電動機の内部構成を概略的に示す断面図
【
図5】回転子鉄心にダミー部材を挿入する様子を示す分解斜視図
【
図7】回転子鉄心を金型内にセットした様子を示す断面図
【
図8】第2の実施形態を示すもので、回転子鉄心にダミー部材を挿入する様子を示す分解斜視図
【
図9】第3の実施形態を示すもので、回転子鉄心にダミー部材を挿入する様子を示す分解斜視図
【
図10】第4の実施形態を示すもので、電動機の要部構成を概略的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)第1の実施形態
以下、第1の実施形態について
図1から
図7を参照して説明する。尚、以下に述べる複数の実施形態間で、同一部分には同一符号を付して新たな図示や説明を省略することとする。
図1は、本実施形態に係る自己始動型永久磁石同期電動機1(以下、電動機1と略称する)の内部構成を、模式的に示しており、
図2は、その電動機1に組込まれる本実施形態に係る回転子2の外観構成を示している。電動機1は、例えば油圧ポンプの駆動源として用いられ、商用電源により駆動される。
【0010】
図1に示すように、本実施形態に係る電動機1は、例えば円筒状をなすフレーム(図示せず)の内周面に、固定子4を装着すると共に、固定子4の内周部に僅かなエアギャップをおいて回転子2を配置して構成されている。前記固定子4は、複数個例えば24個のスロット5aを有する固定子鉄心5に、図示は省略するが、三相の巻線を装着して構成されている。尚、周知のように、前記固定子鉄心5は、多数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成されている。
【0011】
図2、
図3にも示すように、前記回転子2は、例えば2極の磁気的突極性を有した全体として円柱状の回転子鉄心6を備え、その回転子鉄心6の中心孔6aを貫通して回転軸7が固定され、その回転軸7が前記フレームの両端のブラケット(図示せず)に回転自在に支持されて設けられる。前記回転子鉄心6は、多数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、中心に、前記回転軸7が配置される中心孔6aを有している。図示は省略するが、中心孔6aの円周方向の1箇所にはキー溝が形成されている。以下、この回転子鉄心6の構成について、
図2、
図3も参照して詳述する。
【0012】
図1等に示すように、回転子鉄心6の外周部分には、導体バーを形成するための複数個例えば全部で28個の外周スロット8が、円周方向に並んで設けられている。外周スロット8は、例えば、断面が放射方向に長く、外周側の方が大きく膨らむようないわゆる涙形に形成され、この場合、同じ形状、大きさのものが等間隔に設けられている。
図3に示すように、各外周スロット8内には、例えばアルミダイキャストにより導体バー9aが設けられると共に、回転子鉄心6の軸方向両端部において、それら導体バー9aを接続するエンドリング9bが設けられ、以て、非磁性金属製であるアルミニウム製の周知のかご形導体9が設けられるようになっている。更に、前記エンドリング9bには、複数のフィン9c等も一体に設けられている。
【0013】
そして、
図1に示すように、前記回転子鉄心6の前記外周スロット8よりも内周側には、永久磁石挿入用の内周スロット10が軸方向全体に延びて設けられ、その内周スロット10内に、2極の回転子磁極を構成する永久磁石11が設けられている。
図1では、便宜上、永久磁石11にハッチングを付して示している。具体的には、
図1に示す回転子鉄心6の1極を構成する上側の半円部において、2本の内周スロット10が、軸方向に見て、半径方向つまり
図1で上下方向に延びる中心線L1に対し左右対称的に、図でハの字をなすように夫々直線的に延びて設けられている。
【0014】
これら2本の内周スロット10の内側端部は、中心線L1部分でわずかなブリッジ部19を介して互いに近接している。また、内周スロット10の外側端部は、前記外周スロット8のうちひとつの内周端部に連続している。この場合、
図1で左右方向に延びる中心線L2から数えて下から2番目の外周スロット8に連続している。内周スロット10が接続している2つの外周スロット8のなす開き角度αは、100°以上であり、且つ、150°以下、例えば141°とされている。回転子鉄心6の図で下側の半円部においても、2個の内周スロット10及び永久磁石11が中心線L2を挟んで上側の半円部と対称的に設けられている。
【0015】
前記永久磁石11は、軸方向に長い薄型の矩形板状をなし、
図1に示す上側半円部においては、各内周スロット10内に、例えば外側(図で上側)がN極となり、内側(図で下側)がS極となるように設けられる。これに対し、回転子鉄心6の図で下側の半円部においては、夫々に、永久磁石11が、外側(図で下側)がS極となり、内側(図で上側)がN極となるように設けられる。このとき、内周スロット10内には、永久磁石11の両端側に位置して、夫々一部空洞が設けられる。また、
図3に示すように、回転子鉄心6軸方向両端面には、各内周スロット10の開口部を塞ぐように、リング状の押え板12が設けられている。
【0016】
以上のように構成された本実施形態の電動機1は、回転子2に、かご形導体9と永久磁石11とを組合わせることにより、商用電源による自己始動が可能で、同期速度での高効率運転が可能となることが確認された。即ち、回転子鉄心6が、かご形導体10を備えることによる誘導モータとしての機能、すなわち商用電源を用いて、その電源周波数に応じた同期速度で回転駆動が可能である特性を備える。これと共に、永久磁石11を設けたことによる磁石トルクによって、自己始動が可能となると共に、誘導電動機に比べて高効率での駆動が可能となる。特に、慣性モーメントの小さいポンプ装置等の駆動用モータに適合したものとなる。
【0017】
さて、上記構成の自己始動型永久磁石同期電動機1の回転子2の製造方法について述べる。
図4は、回転子2の製造の工程を示している。即ち、回転子2を製造するにあたっては、回転子鉄心作製工程P1、ダミー挿入工程P2、ダイキャスト工程P3、ダミー取出工程P4、磁石装着工程P5が順に実行される。以下、本実施形態に係る回転子2の製造方法の各工程について、
図5~
図7も参照して述べる。
【0018】
まず、回転子鉄心作製工程P1では、電磁鋼板を必要形状に打抜いて多数枚の鉄心片を作製し、打抜かれた同形状の鉄心片を、所要枚数だけかしめ積層することにより、円筒状の回転子鉄心6を作製する工程が行われる。この場合、上記したように、回転子鉄心6には、軸方向に貫通するようにして、中心孔6aが設けられていると共に、外周スロット8及び内周スロット10が設けられている。鉄心片の積層時の円周方向の位置合わせは中心孔6aのキー溝を基準として行われる。
【0019】
次のダミー挿入工程P2では、
図5に示すように、前記回転子鉄心6の各内周スロット10に、前記永久磁石11に対応した大きさの金属進入防止用のダミー部材20を夫々配置することが行われる。
図6は、本実施形態において用いられるダミー部材20の外観を示している。このダミー部材20は、耐熱性材料例えばステンレス等の金属から、細幅の板を、全体としてフレーム状、例えば軸方向に長いほぼコ字状に折曲げるようにして構成されている。
【0020】
より具体的には、ダミー部材20は、
図6で上下両端に位置する2つの端板部20a、20aと、それら端板部20aをつなぐように図で上下に延びる側板部20bとを一体に有したフレーム状つまり枠状をなしている。内周スロット10に対するダミー部材20の挿入状態では、両端板部20aは、前記内周スロット10のうち、回転子鉄心6の軸方向の両端面の開口部を塞ぐように配置され、側板部20bは、内周スロット10のうち外周スロット8に連続する側、つまり中心線L1から離れる側の側面部を塞ぐように配置される。尚、図示はしないが、本実施形態では、ダミー挿入工程P2を行うにあたり、予め、内周スロット10内に潤滑剤が塗布される。
【0021】
次いで、ダイキャスト工程P3では、上記ダミー部材20が挿入された回転子鉄心6を金型21内に収容し、アルミダイキャストにより前記かご型導体9を設けることが行われる。
図7は、金型21内に、回転子鉄心6をセットした様子を概略的に示している。ここで、ダイキャスト工程にて用いられる金型21は、例えば上型22と下型23とを備え、それらの型締め状態で、回転子鉄心6が収容される円筒状の空間及び前記エンドリング9b、フィン9cに対応する空間からなるキャビティ21aが形成される。また、金型21には、アルミ溶湯をキャビティ21a内に注入するためのランナー24が設けられている。尚、図示はしないが、金型21には、冷却機構や製品取出し機構等も設けられる。
【0022】
アルミダイキャストを行うにあたっては、
図7に示すように、金型21内に回転子鉄心6がセットされる。このとき、前記内周スロット10の内面に加えて、回転子鉄心6のうちの両端面にも、潤滑剤が塗布される。回転子鉄心6がセットされた状態では、金型21内に、前記回転子鉄心6の中心孔6aを貫通するように円柱状の中子25が配置されると共に、回転子鉄心6の両端面に密着して押え付けるように押え治具26、26が配置される。押え治具26は、耐熱性の金属から、エンドリング9bの内周側で、中子25の外周側に位置するリング板状に構成され、回転子鉄心6の内周スロット10の開口部部分を塞ぐように設けられる。尚、押え治具26は、金型21に予め固定的に設けられていても良いし、別体のものがダイキャスト工程において配置されるようにしても良い。
【0023】
ダイキャスト工程P3では、アルミニウムの溶湯を前記ランナー24から注入し、外周スロット8内を含めキャビティ21a内に充填させるようにし、その後アルミニウムを冷却硬化させることにより行われる。これにより、
図2、
図3に示すように、回転子鉄心6に、外周スロット8内の導体バー9aと、両端面のエンドリング9b及びフィン9cとを一体に有したアルミニウム製のカゴ型導体9が設けられる。この後、カゴ型導体9が設けられた回転子鉄心6は、金型21から取出される。
【0024】
このとき、内周スロット10の両開口端部にはダミー部材20の端板部20aにより塞がれていると共に、回転子鉄心6の両端面が押え治具26により押え付けられているので、端面から内周スロット10内にアルミ溶湯が侵入することも防止される。また、外周スロット8と内周スロット10とが繋がる部分は、ダミー部材20の側板部20bにより塞がれているので、外周スロット8から内周スロット10内にアルミ溶湯が侵入することも防止される。
【0025】
ダイキャスト工程P3が終了すると、ダミー取出工程P4では、カゴ型導体9が設けられた回転子鉄心6の各内周スロット10からダミー部材20を取出すことが行われる。このとき、内周スロット10の内壁面に予め潤滑剤が塗布されているので、内周スロット10に対するダミー部材20の挿入及び取出しを容易に行うことができる。尚、潤滑剤は、回転子鉄心6の両端面にも塗布されているので、上記金型21からの取出し時における回転子鉄心6と金型21又は押え治具26との離型性も良好となる。
【0026】
磁石装着工程P5では、ダミー部材20が取出された各内周スロット10に対し、予め着磁された永久磁石11を挿入することが行われる。このとき、図示はしないが、内周スロット10に形成された凸部と、永久磁石11に設けられた凹部とが係合して位置決めがなされ、永久磁石11は例えば接着により固定される。しかる後、回転子鉄心6の軸方向両端面の前記エンドリング9bの内側部分に、押え板12が設けられて回転子2とされる。そして、回転子鉄心6の中心孔6aを貫通するように回転軸7が取付けられ、電動機1に組込まれる。
【0027】
このような本実施形態の自己始動型永久磁石同期電動機1の回転子2の製造方法によれば、次のような作用、効果を得ることができる。即ち、ダミー挿入工程P2において、回転子鉄心6の内周スロット10に金属進入防止用のダミー部材20が配置されることにより、内周スロット10の開口部分をダミー部材で塞いだ状態とすることができる。ダイキャスト工程P3において、溶融した非磁性金属材料が、外周スロット8内及びエンドリング形成用のキャビティ21a等に進入するようになるが、内周スロット10への金属材料即ちアルミ溶湯の侵入が、ダミー部材20により阻止されるようになる。
【0028】
そして、ダミー取出工程P4において、内周スロット10からダミー部材20が取出されて、内周スロット10が開放され、磁石装着工程P5においては、予め着磁された永久磁石11が該内周スロット10に挿入される。この場合、永久磁石11は、予め着磁されるので、効率の良い着磁作業を行っておくことにより、熱的な悪影響を及ぼすことなく、十分な強さで着磁された永久磁石11を回転子鉄心6に組込むことができる。従って、本実施形態によれば、回転子鉄心6に、自己始動用のかご型導体9と永久磁石11との双方を設けるようにした回転子2の製造方法にあって、ダイキャスト工程P3における熱により永久磁石11が減磁してしまうことを未然に防止し、永久磁石11の十分な着磁が可能となるという優れた効果を得ることができる。
【0029】
特に本実施形態では、前記ダミー部材20を、内周スロット10のうち、少なくとも、軸方向の両端面部及び外周スロット8に連続する側面部を塞ぐフレーム状に構成した。これにより、ダイキャスト工程P3において、溶融金属材料が侵入する虞のある、内周スロット10の軸方向の両開口端部、及び、外周スロット8に連続する又は隣り合う側面部を、ダミー部材20により塞ぐことができる。この結果、ダミー部材20による溶融金属材料の侵入の防止機能を十分に得ることができながら、ダミー部材20自体は簡単な構成のもので済むので、ダミー部材20を、軽量で安価に作製することができる。ダミー部材20の挿入作業も容易となる。
【0030】
また、本実施形態では、ダイキャスト工程P3において、金型21内で、回転子鉄心6のうち両端面の内周スロット10の開口部部分が、押え治具26により押え付けられた状態となるように構成した。これにより、ダイキャスト工程P3において、押え治具26によりダミー部材20が動いたりすることを防止できると共に、内周スロット10の開口を塞ぐことができ、内周スロット10への溶融金属材料の侵入防止をより確実に行うことができる。ダミー取出工程P4においては、回転子鉄心6の端面から押え治具26は既に外されているので、ダミー部材20を容易に取出すことができる。
【0031】
本実施形態では、ダイキャスト工程P3は、回転子鉄心6のうち両端面及び内周スロット10の内面に、予め、潤滑剤が塗布された状態で行われるようにした。これにより、内周スロット10に対するダミー部材20の挿入及び取出しを容易に行うことができ、また、回転子鉄心6と金型21又は押え治具26との離型性も高めることができる。更に本実施形態では、磁石装着工程P5の後、回転子鉄心6のうち両端面の内周スロット10の開口部部分を押さえる押え板12を取付ける構成としたので、押え板12によって、内周スロット10内の永久磁石11の固定をより確実に行うことができる。
【0032】
(2)第2の実施形態
図8は、第2の実施形態を示している。この第2の実施形態が上記第1の実施形態と異なる点は、ダミー部材31の構成にある。即ち、前記ダミー部材31は、フレーム状としたものに代えて、耐熱性材料例えばステンレス等の金属材料から、永久磁石11と同等の大きさのブロック状つまり矩形板状に構成されている。この第2の実施形態においても、回転子2を製造するにあたっては、回転子鉄心作製工程P1、ダミー挿入工程P2、ダイキャスト工程P3、ダミー取出工程P4、磁石装着工程P5が順に実行される。
【0033】
前記ダミー挿入工程P2では、図示のように、回転子鉄心6の各内周スロット10に、永久磁石11に対応した大きさの金属進入防止用のダミー部材31を夫々配置することが行われる。これにより、内周スロット10への溶融金属材料の侵入が、ダミー部材31により阻止されるようになり、その後のダミー取出工程P4において、内周スロット10からダミー部材31が取出されて、永久磁石11の大きさに応じた空洞部が形成される。磁石装着工程P5においては、予め着磁された永久磁石11を、該内周スロット10に容易かつ確実に挿入することができる。
【0034】
このような第2の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、ダイキャスト工程P3において、内周スロット10内の容積部分をダミー部材31により塞ぎ、溶融金属材料の侵入を防止する機能を得ることができる。従って、回転子鉄心6に、自己始動用のかご型導体9と永久磁石11との双方を設けるようにした回転子2の製造方法にあって、ダイキャスト工程P3における熱により永久磁石11が減磁してしまうことを未然に防止し、永久磁石11の十分な着磁が可能となるという優れた効果を得ることができる。尚、ダミー部材を、内周スロット10の幅方向に関して永久磁石11よりも若干量だけ大きいブロック状に構成するようにしても良い。
【0035】
(3)第3の実施形態
図9は、第3の実施形態を示すものである。この第3の実施形態が、上記第2の実施形態と異なる点は、ダミー挿入工程P2後に、回転子鉄心6のうち軸方向両端部に、内周スロット10の開口部を塞ぐ端板41、41が設けられ、ダイキャスト工程P3の後に、一方の端板41の一部の磁石挿入部位を開口した状態で、ダミー取出工程P4及び磁石装着工程P5を実行するようにしたところにある。
【0036】
前記端板41は、例えば5mmの厚みの電磁鋼板を円板状に打抜いて構成されるのであるが、回転子鉄心6を構成する鉄心片に対し、同等の外形を有すると共に、中心孔6a及び外周スロット8に対応する穴41a及び41bを有して構成されている。本実施形態では、ダミー挿入工程P2にて、回転子鉄心6の各内周スロット10に、永久磁石11に対応した大きさのダミー部材31を夫々挿入することが行われる。そして、ダミー部材31の挿入後に回転子鉄心6の両端面に端板41、41が装着される。
【0037】
この端板41の装着状態では、内周スロット10の開口が塞がれるようになり、ダミー部材31が固定状態とされる。回転子鉄心6の全体を軸方向に貫通する外周スロット8や、中心孔6aは確保される。その後のダイキャスト工程P3では、かご型導体9が形成され、この場合、端板41に外面にエンドリング9bが設けられる。そして、ダイキャスト工程P3後のダミー取出工程P4では、一方の端板41のうち、内周スロット10の開口に対応した部分が削られて開口され、ダミー部材31が取出される。磁石装着工程P5において、予め着磁された永久磁石11が装着される。
【0038】
この第3の実施形態においても、上記第1の実施形態等と同様に、ダイキャスト工程P3において、内周スロット10内の容積部分をダミー部材31により塞ぎ、溶融金属材料の侵入を防止する機能を得ることができる。従って、回転子鉄心6に、自己始動用のかご型導体9と永久磁石11との双方を設けるようにした回転子2の製造方法にあって、ダイキャスト工程P3における熱により永久磁石11が減磁してしまうことを未然に防止し、永久磁石11の十分な着磁が可能となるという優れた効果を得ることができる。
【0039】
(4)第4の実施形態、その他の実施形態
図10は、第4の実施形態を示すものであり、回転子鉄心51の内周スロット52部分の構成を示している。この第4の実施形態では、内周スロット52の外側の端部において、近接する外周スロット8との間に、ブリッジ53が形成されている。前記ブリッジ53は、回転子鉄心51を構成する電磁鋼板の打抜き型の変更によって容易に形成できる。回転子2を製造するにあたっては、やはり、回転子鉄心作製工程P1、ダミー挿入工程P2、ダイキャスト工程P3、ダミー取出工程P4、磁石装着工程P5が順に実行される。
【0040】
このような第4の実施形態によれば、やはり、回転子鉄心51に、自己始動用のかご型導体9と永久磁石11との双方を設けるようにした回転子2の製造方法にあって、ダイキャスト工程P3における熱により永久磁石11が減磁してしまうことを未然に防止し、永久磁石11の十分な着磁が可能となるという優れた効果を得ることができる。このとき、ブリッジ53が設けられているので、ダイキャスト工程P3において、外周スロット8内に侵入したアルミ溶湯が内周スロット52側に侵入することを、より一層確実に防止することができる。尚、ブリッジ53を設けたことによる電動機としての特性への悪影響は、ほとんどないことも明らかになっている。
【0041】
尚、上記した各実施形態では、ダミー部材20、31の材質として、ステンレスを採用したが、耐熱性材料であれば、他の金属やセラミック等を採用することも可能である。また、上記各実施形態では、かご型導体を、アルミニウムから構成したが、銅などの他の金属を採用することもできる。更には、固定子や回転子のスロット数や、外周スロットの形状、内周スロットの形状や配置、永久磁石の数、回転子の磁極数などの具体的構成等についても、適宜変更できることは勿論である。
【0042】
その他、自己始動型永久磁石同期電動機は、油圧ポンプに限らず、各種ポンプ装置に適用することができ、更には、ポンプ装置以外に用いることも可能である。以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
図面中、1は自己始動型永久磁石同期電動機、2は回転子、4は固定子、5は固定子鉄心、6、51は回転子鉄心、8は外周スロット、9はかご型導体、9aは導体バー、9bはエンドリング、10、52は内周スロット、11は永久磁石、12は押え板、20、31はダミー部材、21は金型、21aはキャビティ、26は押え治具、41は端板、53はブリッジを示す。