(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022905
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】油入電気機器のタンクのハンドホールカバー、油入電気機器のガス測定装置及びガス測定方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/02 20060101AFI20240214BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240214BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20240214BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01F27/02 Z
H01F27/00 B
H01F27/00 H
H01F41/00 D
G01N1/22 H
G01N1/22 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126351
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】西坂 涼子
(72)【発明者】
【氏名】大森 茂生
【テーマコード(参考)】
2G052
5E059
【Fターム(参考)】
2G052AA08
2G052AB03
2G052AC21
2G052AD02
2G052AD06
2G052AD42
2G052ED15
5E059BB08
5E059BB15
(57)【要約】
【課題】タンクからの絶縁油の採取を容易とし、油中ガス分析を適切に行うことを可能とする。
【解決手段】実施形態の油入電気機器のタンクのハンドホールカバーは、タンク内に電気機器本体を絶縁油と共に収容して構成される油入電気機器における、前記タンクの上壁部に設けられたハンドホールを開閉可能に塞ぐものであって、前記タンクに着脱可能に取付けられて前記ハンドホールを塞ぐカバー本体と、前記カバー本体を上下に貫通して設けられ、前記タンク内に絶縁気体を導入するための第1の管と、前記カバー本体を上下に貫通して設けられ、下端部が絶縁油中に浸る第2の管と、前記タンクの前記ハンドホールの周囲部と前記カバー本体との間を密閉するためのパッキンとを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に電気機器本体を絶縁油と共に収容して構成される油入電気機器における、前記タンクの上壁部に設けられたハンドホールを開閉可能に塞ぐハンドホールカバーであって、
前記タンクに着脱可能に取付けられて前記ハンドホールを塞ぐカバー本体と、
前記カバー本体を上下に貫通して設けられ、前記タンク内に絶縁気体を導入するための第1の管と、
前記カバー本体を上下に貫通して設けられ、下端部が絶縁油中に浸る第2の管と、
前記タンクの前記ハンドホールの周囲部と前記カバー本体との間を密閉するためのパッキンとを備える油入電気機器のタンクのハンドホールカバー。
【請求項2】
前記カバー本体並びに第1の管及び第2の管は、金属製であり、該第1及び第2の管は、該カバー本体に対し、隙間なく溶接されている請求項1記載の油入電気機器のタンクのハンドホールカバー。
【請求項3】
請求項1又は2記載の油入電気機器のタンクのハンドホールカバーに着脱可能に接続されて使用され、前記タンク内の絶縁油中のガスを検出するガス測定装置であって、
前記タンク内から採取した絶縁油を収容するための容器と、
前記容器内のガスを検出するガスセンサと、
前記ハンドホールカバーの第1の管の上端に着脱可能に接続され、該第1の管を通して前記タンク内に絶縁気体を供給する気体供給装置と、
前記ハンドホールカバーの第2の管の上端に着脱可能に接続され、前記タンク内から絶縁油を採取して前記容器に送る油採取管と、
前記容器内に採取された絶縁油中にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部とを備える油入電気機器のガス測定装置。
【請求項4】
前記油採取管には、コックが設けられている請求項3記載の油入電気機器のガス測定装置。
【請求項5】
前記絶縁気体及びキャリアガスは、窒素又は空気であり、
前記気体供給装置及びキャリアガス供給部は、ガス供給源が共用されている請求項3又は4記載の油入電気機器のガス測定装置。
【請求項6】
前記ガスセンサは、水素ガスの濃度を検出するように構成されている請求項3又は4記載の油入電気機器のガス測定装置。
【請求項7】
請求項3記載のガス測定装置を用いて、油入電気機器のタンク内の絶縁油中のガスを測定する方法であって、
前記ガス測定装置を前記ハンドホールカバーに接続する接続工程と、
前記ハンドホールカバーの第1の管を通して前記タンク内に絶縁気体を供給して該タンク内を加圧することにより、絶縁油の一部を前記ハンドホールカバーの第2の管及び前記油採取管から前記容器内に採取する絶縁油採取工程と、
前記容器内に採取された絶縁油中にキャリアガスを供給し、バブリングにより絶縁油に含まれるガスを抽出させるガス抽出工程と、
抽出されたガスの濃度を前記ガスセンサにより測定するガス測定工程とを実行する油入電気機器のガス測定方法。
【請求項8】
前記油採取管には、コックが設けられており、前記ガス測定工程の終了後に、前記コックを開放させて前記容器内の絶縁油を前記タンクに戻す油戻し工程を実行する請求項7記載の油入電気機器のガス測定方法。
【請求項9】
前記絶縁油採取工程において供給する絶縁気体、及び、前記ガス抽出工程において供給するキャリアガスは、窒素又は空気であり、共用されたガス供給源から供給される請求項7又は8記載の油入電気機器のガス測定方法。
【請求項10】
前記ガス測定工程においては、前記ガスセンサにより、水素ガスの濃度を検出する請求項7又は8記載の油入電気機器のガス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タンク内に電気機器本体を絶縁油と共に収容して構成される油入電気機器のタンクのハンドホールカバー、油入電気機器のガス測定装置及びガス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油入電気機器、例えば高電圧受配電設備用の油入変圧器は、密閉型のタンク内に変圧器本体を絶縁油と共に収容して構成される。この種の油入変圧器においては、例えば変圧器本体に部分放電や局部過熱などの異常が発生した場合に、ガスが発生し絶縁油中に溶け込むことが起こる。そこで、例えば定期的に、油中ガス分析により油入変圧器の内部異常の有無を診断することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この油中ガス分析は、油入変圧器のタンク内の絶縁油を一部採取し、測定装置の容器に入れ、容器内の絶縁油中にキャリアエアーを吹き込んでバブリングにより溶存ガスを抽出する。そして、抽出したガスの濃度をガスセンサにより測定することにより行われる。尚、上記した油入変圧器のタンク内の絶縁油を採取する作業は、一般に、変圧器タンクの下部に設けられた排油弁或いは排油栓を開閉することによりなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した油中ガス分析を行うにあたって、変圧器タンクの下部に排油弁を備えているものでは、絶縁油を容易に採取することが可能であるが、排油弁を備えていない油入変圧器も多く存在する。そのような排油弁を備えていない油入変圧器の場合、タンクの上壁部のハンドホールから、絶縁油を採取する必要がある。その際、ハンドホールは、ハンドホールカバーにより密閉状態に塞がれているので、作業者は、ハンドホールカバーを取外し、ハンドホールから絶縁油を採取し、その後、ハンドホールカバーを取付ける作業を行う。
【0006】
しかしながら、そのようにハンドホールカバーを着脱して絶縁油を採取するものでは、作業者による、面倒な作業が必要になる。これと共に、ハンドホールカバーの開閉の回数が多くなり、その分異物混入のリスクが高まったり、パッキンの劣化が起こりやすくなってパッキンの交換の頻度が高くなったりする不具合が生ずる。
そこで、タンク内の絶縁油を採取して油中ガス分析を行うものにあって、絶縁油の採取を容易とし、油中ガス分析を適切に行うことを可能とした油入電気機器のタンクのハンドホールカバー、油入電気機器のガス測定装置及びガス測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る油入電気機器のタンクのハンドホールカバーは、タンク内に電気機器本体を絶縁油と共に収容して構成される油入電気機器における、前記タンクの上壁部に設けられたハンドホールを開閉可能に塞ぐものであって、前記タンクに着脱可能に取付けられて前記ハンドホールを塞ぐカバー本体と、前記カバー本体を上下に貫通して設けられ、前記タンク内に絶縁気体を導入するための第1の管と、前記カバー本体を上下に貫通して設けられ、下端部が絶縁油中に浸る第2の管と、前記タンクの前記ハンドホールの周囲部と前記カバー本体との間を密閉するためのパッキンとを備えている。
【0008】
実施形態に係る油入電気機器のガス測定装置は、上記構成の油入電気機器のタンクのハンドホールカバーに着脱可能に接続されて使用され、前記タンク内の絶縁油中のガスを検出するものであって、前記タンク内から採取した絶縁油を収容するための容器と、前記容器内のガスを検出するガスセンサと、前記ハンドホールカバーの第1の管の上端に着脱可能に接続され、該第1の管を通して前記タンク内に絶縁気体を供給する気体供給装置と、前記ハンドホールカバーの第2の管の上端に着脱可能に接続され、前記タンク内から絶縁油を採取して前記容器に送る油採取管と、前記容器内に採取された絶縁油中にキャリアガスを供給するキャリアガス供給部とを備えている。
【0009】
実施形態に係る油入電気機器のガス測定方法は、上記構成のガス測定装置を用いて、油入電気機器のタンク内の絶縁油中のガスを測定する方法であって、前記ガス測定装置を前記ハンドホールカバーに接続する接続工程と、前記ハンドホールカバーの第1の管を通して前記タンク内に絶縁気体を供給して該タンク内を加圧することにより、絶縁油の一部を前記ハンドホールカバーの第2の管及び前記油採取管から前記容器内に採取する絶縁油採取工程と、前記容器内に採取された絶縁油中にキャリアガスを供給し、バブリングにより絶縁油に含まれるガスを抽出させるガス抽出工程と、抽出されたガスの濃度を前記ガスセンサにより測定するガス測定工程とを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態を示すもので、油中ガス分析時の様子を模式的に示す図
【
図4】タンクの上壁部のハンドホールカバー部分の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、油入電気機器として高電圧受配電設備用の油入変圧器に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、
図3を参照して、油入電気機器としての油入変圧器1の全体構成について簡単に述べる。油入変圧器1は、金属製の密閉型のタンク2内に、電気機器本体としての変圧器本体3を収容して構成される。詳しい説明は省略するが、前記変圧器本体3は、鉄心及びその鉄心に装着された三相のコイル等からなる周知構成を備える。前記タンク2の上面部には変圧器本体3の各コイルと外部との接続用の複数個のブッシング4が設けられている。尚、タンク2は排油弁或いは排油栓を有さないものとされている。
【0012】
前記タンク2は、図で左右方向にやや長い矩形箱状をなし、内部には、絶縁及び冷却用の例えば鉱油からなる絶縁油Mが充填されている。タンク2内における前記絶縁油Mの液位は、前記変圧器本体3全体が十分に浸されるものとされ、タンク2内の上部には、絶縁油Mの上方に上部空間Sが設けられる。本実施形態では、この上部空間Sに、絶縁気体としての例えば空気が満たされる。絶縁気体としては、空気以外にも、不活性ガス例えば窒素を採用しても良く、安全性や、絶縁油Mの酸化防止効果を高めることができる。
【0013】
前記タンク2の上壁部には、
図2、
図4にも示すように、ハンドホール5が設けられている。このハンドホール5は、メンテナンスやタップ電圧の切替操作等を行うために設けられるもので、例えば作業者の手が入る程度の比較的小さい楕円形に形成されている。このハンドホール5の開口面積は、例えば144cm2 程度とされている。そして、このハンドホール5部分には、次に述べるように、該ハンドホール5を開閉可能に塞ぐハンドホールカバー6が設けられる。
【0014】
尚、前記タンク2の上面部には、ハンドホール5の周囲部には、四角形例えば正方形をなす4箇所に位置して、ハンドホールカバー6の取付用のボルト7が、上方に立上がるように設けられている。また、図示はしないが、タンク2の側壁部の外面部には、内部を冷却するための例えば複数のリブ状の放熱フィンを有した放熱器が設けられている。この場合、放熱器としては、タンク2の外部に配置され、タンク2と油輸送管により接続されるユニット状の放熱器であっても良い。この場合、タンク2内と放熱器との間を、絶縁油Mを循環させながら効果的に冷却することができる。
【0015】
ここで、本実施形態に係るハンドホールカバー6の構成について説明する。
図4等に示すように、ハンドホールカバー6は、全体として矩形蓋状をなし、タンク2の上壁部に着脱可能に装着され、通常時において、ハンドホール5の上面部分を密閉状態に塞ぐように構成されている。具体的には、
図2に示すように、ハンドホールカバー6は、前記ハンドホール5を塞ぐカバー本体8と、このカバー本体8を上下に貫通する空気導入用の第1の管9と、カバー本体8を上下に貫通する油採取用の第2の管10と、ハンドホール5の周囲部とカバー本体8との間を密閉するためのパッキン11とを備えて構成される。
【0016】
そのうち、カバー本体8は、金属例えば鋼材から、全体としてほぼ矩形板状に構成されている。
図4に示すように、このカバー本体8の上面中央部分は、前記ハンドホール5に対応して楕円形状に上方にやや膨らんだ形態とされ、従ってカバー本体8の下面側においては楕円形状に凹んだ形態とされている。前記パッキン11は、ハンドホール5の外周形状に対応した楕円リング形状に構成され、カバー本体8の下面の凹み部に沿って配置されている。また、
図4に示すように、このカバー本体8の四隅部分には、前記ボルト7に対応してボルト挿通用の穴8aが形成されている。
【0017】
前記第1の管9は、金属例えば鋼材から直径が例えば12.7mmφの直管状に構成されている。この第1の管9は、カバー本体8の
図2で右側に形成された貫通穴を上下に貫通した形態で、隙間なく気密状に溶接されて取付けられている。同様に、前記第2の管10は、金属例えば鋼材から、同等の直管状をなすと共に、前記第1の管9よりも下方に長く構成されている。この第2の管10は、カバー本体8の
図2で左側に形成された貫通穴を上下に貫通した形態で、隙間なく気密状に溶接されて取付けられている。
【0018】
このハンドホールカバー6は、タンク2に対し次のようにして取付けられる。即ち、
図2に示すように、ハンドホールカバー6を、カバー本体8の4箇所の穴8aを、タンク2上面の4個のボルト7に夫々挿通させるように、上方から載置する。そして、各ボルト7に対し、座金12を通してナット13を締め込む。これにて、ハンドホールカバー6がハンドホール5を閉塞するように装着され、このとき、パッキン11が、ハンドホール5の外周縁部とハンドホールカバー6の下面との間を気密にシールするようになっている。
【0019】
このようなハンドホールカバー6をタンク2に装着した状態、即ちハンドホール5を閉塞した状態では、前記第1の管9は、ハンドホール5から下方に延び、タンク2内の上部空間S部分に配置されている。そして、前記第2の管10は、ハンドホール5から更に下方に長く延び、下端部が絶縁油M中に浸るように構成されている。また、通常時即ち後述する油中ガス分析を行うとき以外は、第1の管9の上端部及び第2の管10の上端部は、夫々キャップ14により閉塞されるようになっている。尚、ハンドホールカバー6をタンク2から取外す場合には、上記とは逆に、ナット13をボルト7から外してハンドホールカバー6を上方に持上げれば良い。
【0020】
さて、上記構成の油入変圧器1にあっては、変圧器本体3に部分放電や局部過熱などの異常が発生した場合に、ガスが発生し絶縁油M中に溶け込むことが起こる。そこで、例えば定期的に、タンク2内の絶縁油M中に含まれるガスを測定して、内部異常の有無を診断する油中ガス分析が行われる。この油中ガス分析つまり絶縁油M中に溶存するガスの検出は、上記した本実施形態に係るハンドホールカバー6に着脱可能に接続されるガス測定装置21により行われるようになっている。以下、
図1を参照して、本実施形態に係る油入変圧器1のガス測定装置21及びガス測定方法について述べる。
【0021】
図1に示すように、ガス測定装置21は、密閉状の容器22と、ガスセンサ23と、気体供給装置24と、油採取管25と、キャリアガス供給部26とを備えている。前記容器22は、タンク2内から採取した絶縁油Mを収容するためのもので、例えば100ミリリットルの絶縁油Mを収容するに十分な容積を有している。前記ガスセンサ23は、この場合接触燃焼式のガスセンサからなり、前記容器22内の天井部に設けられ、例えば水素ガスの濃度を検出するように構成されている。このガスセンサ23は、測定感度の最低値が、例えば100ppmとされている。尚、容器22の上壁部には、ガス排出口22aが設けられている。
【0022】
前記油採取管25は、タンク2内から採取した絶縁油Mを前記容器22に送るためのもので、その基端部即ち図で上端部が前記容器22に接続されており、先端部即ち図で下端部が、前記ハンドホールカバー6の第2の管10の上端に着脱可能に接続される。油採取管25の接続時には、第2の管10の上端のキャップ14が取外されることは勿論である。また本実施形態では、前記油採取管25の途中部には、コック27が設けられており、後述するように、ガス測定工程の終了後に、コック27を開放させて容器22内の絶縁油Mを前記タンク2内に戻す油戻し工程の実行が可能とされている。
【0023】
前記気体供給装置24は、前記タンク2内に絶縁気体を供給するためのもので、先端部即ち図で下端部が前記第1の管9の上端部に接続される気体供給管28と、この気体供給管28の基端部に接続されるガス供給源29とを備えて構成されている。本実施形態では、前記絶縁気体として空気が採用されており、前記ガス供給源29としてコンプレッサ等が採用される。気体供給管28の接続時には、第1の管9の上端のキャップ14が取外されることは勿論である。これにて、ガス供給源29からの空気を、気体供給管28及び第1の管9を介してタンク2内に供給することが可能とされている。
【0024】
前記キャリアガス供給部26は、容器22内の絶縁油M中にキャリアガスを供給するためのもので、本実施形態では、キャリアガスとして、前記絶縁気体と同じ空気が採用されており、ガス供給源29が前記気体供給装置24と共用されている。このキャリアガス供給部26は、前記気体供給管28の途中から分岐して設けられたキャリアガス供給管30と、その分岐部分に設けられた切替弁31とを備えている。キャリアガス供給管30の先端部は、前記容器22内の内底部に開口している。これにて、切替弁31の切替えによって、ガス供給源29からの空気を、キャリアガス供給管30を通して容器22内の絶縁油M中に供給し、後述するバブリングを行わせることが可能とされている。
【0025】
次に、上記のように構成されたガス測定装置21を用いて、油入変圧器1のタンク2内の絶縁油M中のガスこの場合水素ガスを測定する油中ガス分析即ちガス測定方法について述べる。実施形態に係るガス測定方法においては、前記ガス測定装置21を前記ハンドホールカバー6に接続する接続工程と、タンク2内の絶縁油Mの一部を前記容器22内に採取する絶縁油採取工程と、バブリングにより絶縁油Mに溶存するガスを気相に抽出させるガス抽出工程と、抽出されたガスの濃度を前記ガスセンサ23により測定するガス測定工程とが順に実行される。また本実施形態では、ガス測定工程後に、容器22内の絶縁油Mをタンク2内に戻す油戻し工程が実行される。
【0026】
まず、接続工程においては、上述のように、ガス測定装置21の気体供給管28が、前記ハンドホールカバー6の第1の管9の上端部に接続されると共に、油採取管25の先端部が、ハンドホールカバー6の第2の管10の上端に接続される。次に、絶縁油採取工程が実行される。
図1に示すように、この絶縁油採取工程では、切替弁31が気体供給管28側つまり第1の管9側に切替えられると共に、前記コック27が開放状態とされる。そして、この状態から前記ガス供給源29が駆動され、絶縁ガスとしての空気が、気体供給管28及び第1の管9からタンク2内の上部空間Sに供給される。
【0027】
すると、タンク2内の上部空間Sが加圧状態となり、第2の管10から絶縁油Mの一部が押し出され、油採取管25を通して容器22内に送られる。容器22内への所要量例えば1~100ミリリットル程度の絶縁油Mの採取が終了すると、ガス供給源29が停止されて気体供給装置24からの空気の供給が停止されると共に、油採取管25のコック27が閉じられる。
【0028】
次のガス抽出工程では、切替弁31がキャリアガス供給管30側に切替えられると共に、ガス供給源29が駆動される。これにて、キャリアガス供給部26によって、容器22内に収容されたた絶縁油M中にキャリアガスとしての空気が供給され、バブリングにより絶縁油Mに含まれるガスが気相に抽出されるようになる。このときの空気の供給量は、例えば10~50ミリリットル/min程度とされる。そして、ガス測定工程では、容器22内に抽出されたガスこの場合水素ガスの濃度が、ガスセンサ23により測定される。これにて、油中ガス分析による油入変圧器1の異常の有無の診断が行われ、水素ガスの測定、診断後は、ガス排出口22aが開放されて容器22内からガスが排出される。
【0029】
次いで、油戻し工程では、油採取管25のコック27が開放されることにより、容器22内の絶縁油Mが、油採取管25及び第2の管10を通してタンク2内に戻されるようになる。この後、気体供給管28と第1の管9との接続、及び、油採取管25と第2の管10との接続が切離され、ガス測定装置21がハンドホールカバー6から取外される。取外し後、前記第1の管9及び第2の管10の上端開口部は、夫々キャップ14で塞がれることは勿論である。
【0030】
このような本実施形態の油入変圧器1のタンク2のハンドホールカバー6、油入変圧器1のガス測定装置21及びガス測定方法によれば、次のような作用、効果を得ることができる。即ち、本実施形態のハンドホールカバー6によれば、ハンドホールカバー6を取外さずにタンク2に装着したままの状態、つまりハンドホール5を開放させない状態で、タンク2内から油中ガス分析用の絶縁油Mを採取することが可能となる。
【0031】
即ち、ハンドホールカバー6のタンク2への取付け状態、つまりハンドホール5の閉塞状態で、第2の管10の下端部は、絶縁油M内の上部に浸されている。タンク2内から絶縁油Mを採取するにあたっては、第1の管9に対し、その上端部に外側から絶縁気体をタンク2内に供給して、タンク2内の油面より上の上部空間Sを加圧状態とする。すると、その加圧によって絶縁油Mが第2の管9の下端部から上方に押し出されるので、第2の管9の上端部から、容易に絶縁油Mを採取することができる。
【0032】
この場合、タンク2に排油弁や排油栓のないものであっても、絶縁油Mの採取を容易に行うことができ、その際、ハンドホールカバー6を外さなくても済むので、作業者の作業が容易となる。これに加え、ハンドホールカバー6の開閉の回数を少なく済ませ、異物混入のリスクが低下し、パッキン11の劣化も起こりにくくパッキン11の交換の頻度を小さくすることができる。そして、既存の油入変圧器1のタンク2に対し、ハンドホール5や取付け用のボルト7等の構造を変更することなく、ハンドホールカバー6だけを交換することにより絶縁油Mを容易に採取できる構造とすることができ、また、ハンドホール5が共通する複数種類のタンク2に対しても、1種類のハンドホールカバー6で対応することができる。
【0033】
特に本実施形態では、カバー本体8並びに第1の管9及び第2の管10は、金属製であり、それら第1の管9及び第2の管10を、該カバー本体8に対し、隙間なく溶接することにより取付けるように構成した。これにより、カバー本体8に対し、第1の管9及び第2の管10を強固に接合でき、接合部分の隙間において、タンク2内からの外部への気体の漏れや、タンク2内への外気や異物の侵入も防止できる。
【0034】
本実施形態のガス測定装置21及びガス測定方法によれば、ガス測定装置21を、上記したハンドホールカバー6に着脱可能に接続して使用することができる(接続工程)。タンク2内から絶縁油Mを採取するにあたっては、気体供給装置24により、第1の管9を通してタンク2内に絶縁気体を供給して該タンク2内を加圧することにより、絶縁油Mの一部を、第2の管10及び油採取管25を通して容器22内に送り、採取することができる(絶縁油採取工程)。容器22への絶縁油Mの採取後に、キャリアガス供給部26によって、採取された絶縁油M中にキャリアガスを供給し、バブリングにより絶縁油Mに含まれるガスを抽出させることができる(ガス抽出工程)。そして、容器22内で抽出されたガスの濃度を、ガスセンサ23により測定することができる(ガス測定工程)。
【0035】
この場合、タンク2に排油弁や排油栓のないものであっても、ハンドホールカバー6を着脱する作業は必要なく、絶縁油Mの採取を容易に行うことができる。その際、ハンドホールカバー6を外さなくても済むので、簡単な作業で油中ガス分析を適切に行うことができる。作業者の作業が容易となることに加え、ハンドホールカバー6の開閉の回数を少なく済ませ、異物混入のリスクが低下し、パッキン11の劣化も起こりにくくパッキン11の交換の頻度を小さくすることができる。
【0036】
このとき、本実施形態では、前記油採取管25にコック27を設け、ガス測定工程の終了後に、前記コック27を開放させて容器22内の絶縁油Mをタンク2に戻す油戻し工程を実行するように構成した。これにより、油中ガス分析用に採取した絶縁油Mを、容器22内から前記タンク2に簡単に戻すことができ、ひいては、タンク内の絶縁油の量が無駄に減少することを抑制することができる。
【0037】
特に本実施形態では、絶縁気体及びキャリアガスとして、空気を採用し、気体供給装置24及びキャリアガス供給部26について、ガス供給源29を共用する構成とした。これにより、絶縁気体とキャリアガスとを共通のガスとして、一つのガス供給源29を設ければ済むようになり、構成の簡単化を図ることができる。尚、絶縁気体及びキャリアガスに、空気を用いたことにより、他の不活性ガス等を用いる場合と比較し、比較的安価に済ませることができる。
【0038】
更に、本実施形態では、ガスセンサ23により、絶縁油M中に溶存する水素ガスの濃度を検出するように構成した。ここで、油入変圧器1の内部異常等により発生する水素ガスは、比較的軽量であるため、絶縁油M中の上部に多く溶け込むようになる。従って、ハンドホールカバー6を用いて、タンク2内の上の方の絶縁油Mを採取できることは、排油弁等によりタンク2内の下部から絶縁油Mを採取する場合と比べて、ガスが溶存している部分を確実に採取でき、測定精度面で有利となるといった利点を得ることができる。
【0039】
この結果、本実施形態の油入変圧器1のタンク2のハンドホールカバー6、油入変圧器1のガス測定装置21及びガス測定方法によれば、タンク2内の絶縁油Mを採取して油中ガス分析を行うものにあって、絶縁油Mの採取を容易とし、油中ガス分析を適切に行うことを可能とすることができるという優れた効果を得ることができる。
【0040】
尚、上記実施形態では、絶縁油Mの採取時にタンク2内に供給する絶縁気体、及び、絶縁油Mのバブリングのためのキャリアガスとして、共に空気を採用するようにした。油入電気機器においては、タンク内の上部空間に、酸化防止用のガスとして、例えば窒素ガス等の不活性ガスを充填するようにしたものもあり、そのような場合には、絶縁気体及びキャリアガスとして、窒素ガスを採用することができる。絶縁気体及びキャリアガスに、窒素ガスを採用すれば、安全性を高めることができ、また絶縁油Mの酸化防止などに有効となる。窒素以外の他の不活性ガス等を用いることもできる。絶縁気体とキャリアガスとで、別々の気体を用いることもできる。
【0041】
また、上記した実施形態では、ガスセンサ23として、水素ガスを検出するものを採用したが、ガスセンサとしては、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等の炭化水素ガスを検出するものを採用しても良く、同様に油中ガス分析を行うことができる。更に、ハンドホールカバー6のカバー本体の形状や、取付け構造などについても、様々な変更が可能であることは勿論である。上記実施形態で述べた、ハンドホール5の開口面積、管9、10の径寸法、絶縁油Mの採取量、ガスセンサ23の測定感度等の具体的数値としても、一例を挙げたものに過ぎず、適宜変更して実施することが可能である。
【0042】
更には上記実施形態では、絶縁油Mとして、鉱油を例にあげたが、鉱油以外の絶縁油全般や液体シリコーンなどであっても良い。変圧器の全体的な構成としても、例えば絶縁油Mを別体の放熱器ユニットに対し強制循環させるための循環用ポンプや、強制冷却用のファン装置等を有するものであっても良い等、様々な変更が可能である。その他、油入変圧器を例としたが、油入電気機器としては、変圧器に限らず、リアクトル等の他の静止誘導機器、更には開閉器、遮断機、継電器等にも適用することもできる。
【0043】
以上のように、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
図面中、1は油入変圧器(油入電気機器)、2はタンク、3は変圧器本体(電気機器本体)、5はハンドホール、6はハンドホールカバー、7はボルト、8はカバー本体、9は第1の管、10は第2の管、14はキャップ、21はガス測定装置、22は容器、23はガスセンサ、24は気体供給装置、25は油採取管、26はキャリアガス供給部、27はコック、28は気体供給管、29はガス供給源、30はキャリアガス供給管、31は切替弁、Mは絶縁油、Sは上部空間を示す。