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特開2024-22915磁気エンコーダ、及び磁気エンコーダの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022915
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】磁気エンコーダ、及び磁気エンコーダの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20240214BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20240214BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
F16C41/00
F16C19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126365
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎啓
【テーマコード(参考)】
2F077
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F077AA42
2F077NN04
2F077NN24
2F077VV02
2F077VV03
2F077VV33
3J217JA02
3J217JA13
3J217JA24
3J217JA34
3J217JB02
3J217JB25
3J217JB34
3J217JB55
3J217JB64
3J217JB85
3J701AA02
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA80
3J701DA09
3J701DA14
3J701DA16
3J701EA06
3J701EA31
3J701EA36
3J701EA74
3J701FA08
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】円環状支持部材の円筒部と前記内輪との嵌合部への水分の浸入を防止する性能を確実に保持できる磁気エンコーダを提供する。
【解決手段】円環状支持部材2の円筒部4は、軸受の内輪に圧入嵌合する小径部6と、小径部6よりもインボードIB側の部分を拡径して形成された大径部7とを有する。円環状磁石部材3は、そのインボードIB側の面3Aの径方向Rの内方部分3BがアウトボードOB側へ窪んだ内径側窪み部8を有するとともに、円環状支持部材2に沿うように、円筒部4の小径部6と大径部7との間の段部SまでアウトボードOB側へ回り込んだ回り込み部9を有する。回り込み部9の、前記内輪に圧入嵌合する内周面9Aは、小径部6の内周面6Aよりも径方向Rの内方へ突出している。内径側窪み部8の内周面に、内径側ディスクゲートのゲート痕GMがある。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダであって、
金属製の円環状支持部材及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材からなり、
前記円環状支持部材は、
前記ホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌する円筒部と、
前記円筒部のインボード側の端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部と、
からなり、
前記円筒部は、前記軸受の内輪に圧入嵌合する小径部と、前記小径部よりもインボード側の部分を拡径して形成された大径部とを有し、
前記円環状磁石部材は、前記外向きフランジ部のインボード側の面に取り付けられ、
前記円環状磁石部材は、そのインボード側の面の径方向の内方部分がアウトボード側へ窪んだ内径側窪み部を有するとともに、前記円環状支持部材に沿うように、前記円筒部の前記小径部と前記大径部との間の段部までアウトボード側へ回り込んだ回り込み部を有し、
前記回り込み部の、前記内輪に圧入嵌合する内周面は、前記小径部の内周面よりも径方向の内方へ突出しており、
前記内径側窪み部の内周面に、内径側ディスクゲートのゲート痕がある、
磁気エンコーダ。
【請求項2】
自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダの製造方法であって、
前記磁気エンコーダは、金属製の円環状支持部材及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材からなり、
前記円環状支持部材は、
前記ホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌する円筒部と、
前記円筒部のインボード側の端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部と、
からなり、
前記円筒部は、前記軸受の内輪に圧入嵌合する小径部と、前記小径部よりもインボード側の部分を拡径して形成された大径部とを有し、
前記円環状磁石部材は、前記外向きフランジ部のインボード側の面に取り付けられ、
前記円環状磁石部材は、そのインボード側の面の径方向の内方部分がアウトボード側へ窪んだ内径側窪み部を有するとともに、前記円環状支持部材に沿うように、前記円筒部の前記小径部と前記大径部との間の段部までアウトボード側へ回り込んだ回り込み部を有し、
前記回り込み部の、前記内輪に圧入嵌合する内周面は、前記小径部の内周面よりも径方向の内方へ突出しており、
前記形状である前記円環状支持部材をプレス加工、又はプレス加工及び切削加工により成形する工程と、
成形した前記円環状支持部材の前記円環状磁石部材との接合面の一部又は全部に熱硬化型接着剤を塗布する工程と、
射出成形用金型を開いて、前記熱硬化型接着剤を塗布した前記円環状支持部材をインサートワークとして前記金型内にセットする工程と、
前記金型を閉じて、前記円環状磁石部材の前記内径側窪み部の内周面に対応する位置に配置した前記金型の内径側ディスクゲートから前記金型のキャビティへ溶融樹脂を注入して前記形状である前記円環状磁石部材を成形する工程と、
を含む、
磁気エンコーダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
回転体の回転速度(回転数)を検出する際に用いられる磁気エンコーダ装置は、磁気エンコーダと、前記磁気エンコーダの回転を検知する磁気センサとからなる。前記磁気エンコーダは回転体に取り付けられ、前記磁気センサは非回転体に取り付けられる。
【0003】
自動車のホイール支持用軸受装置(ハブユニットベアリング)に用いる前記磁気エンコーダは、円環状支持部材(スリンガ)と円環状磁石部材とからなる。自動車のホイール支持用軸受装置に用いる前記磁気センサは、軸受の外輪に取り付けられており、前記円環状磁石部材に対して軸方向から対向する。
【0004】
前記円環状支持部材は、金属製であり、軸受の内輪に外嵌する円筒部、及び前記円筒部の一端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部からなる。前記円環状磁石部材は、N極とS極を一定間隔で周方向に多極に着磁したものであり、前記円環状支持部材の外向きフランジ部に取り付けられる。
【0005】
前記ホイール支持用軸受装置では、前記円環状支持部材の円筒部を前記内輪に嵌合させた状態で使用する。したがって、前記円筒部と前記内輪との嵌合部に水分が浸入すると、鉄製である前記内輪の外周面が腐食してしまう。
【0006】
前記嵌合部に水分が浸入しないようにするために、前記円環状支持部材の円筒部の内周面を段付き円筒面とするとともに、前記円環状磁石部材を径方向の内方へ延長して前記円筒部の段部(例えば、特許文献1の段差部27)に当接させ、前記円環状磁石部材の内周面を前記内輪の外周面に対して締め代を持たせるようにしたものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0007】
特許文献1の磁気エンコーダでは、前記円環状磁石部材の内周面(円筒面部28)の内径(φd2)は、前記円環状支持部材の円筒部の前記内輪に嵌合する部分(小径部26)の内径(φd1)よりも大きく、前記内輪の外径(φD)よりも小さい(φd1<φd2<φD、特許文献1の図2参照)。特許文献2の磁気エンコーダでは、前記円環状磁石部材の内周面(突出部22の内周面)の内径は、前記円環状支持部材の円筒部の前記内輪に嵌合する部分の内径(内周面20eの内径)よりも小さい(特許文献2の図2の突出長さt1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6241188号公報
【特許文献2】特開2016-23755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の磁気エンコーダの構造では、前記円環状支持部材及び前記内輪の寸法精度のばらつきにより、前記円環状支持部材の円筒部を前記内輪に圧入嵌合した状態で、前記円筒部の前記内輪に嵌合する部分(小径部26)と前記内輪との嵌合部の締め代が変動する。そのため、前記円環状磁石部材の内周面(円筒面部28)と前記内輪の外周面との接触状態が変動するとともに、前記接触状態を所定範囲にするように管理することは困難である。したがって、特許文献1の磁気エンコーダの構造では、前記接触状態によっては、前記嵌合部への水分の浸入を防止する性能が低下して前記嵌合部に水分が浸入する恐れがある。
【0010】
それに対して特許文献2の磁気エンコーダの構造では、前記円環状支持部材の円筒部を前記内輪に圧入嵌合した状態で、前記円環状支持部材の円筒部の前記内輪に嵌合する部分の内径(内周面20eの内径)よりも、前記円環状磁石部材の内周面(突出部22の内周面)の内径が小さい。そのため、前記円環状磁石部材の内周面は、前記内輪に確実に圧入嵌合する。したがって、特許文献2の磁気エンコーダの構造では、前記円環状支持部材の円筒部と前記内輪との嵌合部への水分の浸入を防止する性能が安定すると思われる。
【0011】
前記円環状磁石部材は射出成形により製作され、前記円環状磁石部材の内周面(突出部22の内周面)が前記内輪の外周面に接触することで前記嵌合部への水分の浸入を防止する。したがって、前記円環状磁石部材の内周面を形成する樹脂にショートショット等の欠損が生じないようにする必要がある。
【0012】
しかしながら、特許文献2の磁気エンコーダの構造では、前記円環状磁石部材である磁石部21を射出成形する際に、前記円環状支持部材であるスリンガ20の円筒部20aの前記段部(境界線Dの位置)まで臨む薄肉の突出部22に溶融樹脂が流れにくいので前記欠損が生じやすい。軸受の内輪の外周面に接触する円環状磁石部材の内周面に前記欠損が生じた場合、円環状支持部材の円筒部と前記内輪との嵌合部への水分の浸入を防止する性能を保持できなくなる恐れがある。
【0013】
本発明は、軸受の内輪の外周面に接触する円環状磁石部材の内周面にショートショット等の欠損が生じることなく、円環状支持部材の円筒部と前記内輪との嵌合部への水分の浸入を防止する性能を確実に保持できる磁気エンコーダ、及び磁気エンコーダの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る磁気エンコーダは、自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダであり、金属製の円環状支持部材及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材からなる。前記円環状支持部材は、前記ホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌する円筒部と、前記円筒部のインボード側の端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部とからなる。前記円筒部は、前記軸受の内輪に圧入嵌合する小径部と、前記小径部よりもインボード側の部分を拡径して形成された大径部とを有する。前記円環状磁石部材は、前記外向きフランジ部のインボード側の面に取り付けられる。前記円環状磁石部材は、そのインボード側の面の径方向の内方部分がアウトボード側へ窪んだ内径側窪み部を有するとともに、前記円環状支持部材に沿うように、前記円筒部の前記小径部と前記大径部との間の段部までアウトボード側へ回り込んだ回り込み部を有する。前記回り込み部の、前記内輪に圧入嵌合する内周面は、前記小径部の内周面よりも径方向の内方へ突出している。前記内径側窪み部の内周面に、内径側ディスクゲートのゲート痕がある。
【0015】
本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダの製造方法である。前記磁気エンコーダは、金属製の円環状支持部材及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材からなる。前記円環状支持部材は、前記ホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌する円筒部と、前記円筒部のインボード側の端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部とからなる。前記円筒部は、前記軸受の内輪に圧入嵌合する小径部と、前記小径部よりもインボード側の部分を拡径して形成された大径部とを有する。前記円環状磁石部材は、前記外向きフランジ部のインボード側の面に取り付けられる。前記円環状磁石部材は、そのインボード側の面の径方向の内方部分がアウトボード側へ窪んだ内径側窪み部を有するとともに、前記円環状支持部材に沿うように、前記円筒部の前記小径部と前記大径部との間の段部までアウトボード側へ回り込んだ回り込み部を有する。前記回り込み部の、前記内輪に圧入嵌合する内周面は、前記小径部の内周面よりも径方向の内方へ突出している。
【0016】
前記磁気エンコーダの製造方法は、前記形状である前記円環状支持部材をプレス加工、又はプレス加工及び切削加工により成形する工程と、成形した前記円環状支持部材の前記円環状磁石部材との接合面の一部又は全部に熱硬化型接着剤を塗布する工程と、射出成形用金型を開いて、前記熱硬化型接着剤を塗布した前記円環状支持部材をインサートワークとして前記金型内にセットする工程と、前記金型を閉じて、前記円環状磁石部材の前記内径側窪み部の内周面に対応する位置に配置した前記金型の内径側ディスクゲートから前記金型のキャビティへ溶融樹脂を注入して前記形状である前記円環状磁石部材を成形する工程とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る磁気エンコーダによれば、円環状磁石部材のインボード側の面の径方向の内方部分に内径側窪み部があり、前記内径側窪み部の内周面に、内径側ディスクゲートのゲート痕がある。本発明に係る磁気エンコーダの製造方法によれば、円環状磁石部材を射出成形する際に射出成形用金型のキャビティへ溶融樹脂を注入する内径側ディスクゲートが、前記内径側窪み部の内周面に対応する位置に配置される。
【0018】
すなわち、円環状支持部材の円筒部の小径部と大径部との間の段部までアウトボード側へ回り込んだ、円環状磁石部材の回り込み部の近くに射出成形用金型の内径側ディスクゲートが位置する。それにより、前記内径側ディスクゲートから薄肉の前記回り込み部へ溶融樹脂が流れやすく、前記回り込み部における溶融樹脂の充填状態が安定するので、軸受の内輪の外周面に接触する前記回り込み部の内周面にショートショット等の欠損が生じない。
【0019】
本発明に係る磁気エンコーダ、及び本発明に係る磁気エンコーダの製造方法により製造された磁気エンコーダにおいて、円環状磁石部材の回り込み部の、軸受の内輪に圧入嵌合する内周面が、円環状支持部材の円筒部の小径部の内周面よりも径方向の内方へ突出している。そのため、円環状磁石部材の回り込み部が軸受の内輪に確実に圧入嵌合する。その上、前記回り込み部の前記内周面には、前記のとおりショートショット等の欠損が生じない。したがって、磁気エンコーダの円環状支持部材の円筒部の小径部と軸受の内輪との嵌合部への水分の浸入を防止する性能を確実に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダを備えた自動車のホイール支持用軸受装置を示す縦断面図である。
図2図1の磁気エンコーダまわりの要部拡大縦断面図である。
図3】磁気エンコーダの部分断面斜視図である。
図4】磁気エンコーダの縦断面図である。
図5】磁気エンコーダの要部拡大切断部端面図である。
図6図5における内径側窪み部まわりの拡大図である。
図7】円環状支持部材の斜視図である。
図8A】円環状支持部材の要部拡大切断部端面図であり、熱硬化型接着剤を円環状磁石部材との接合面の一部に塗布する場合の一例を示している。
図8B】円環状支持部材の要部拡大切断部端面図であり、熱硬化型接着剤を円環状磁石部材との接合面の全部に塗布する場合を示している。
図9】射出成形用金型の概略縦断面図であり、キャビティに溶融樹脂を注入する前の状態を示している。
図10】射出成形用金型の概略縦断面図であり、キャビティに溶融樹脂を注入した状態を示している。
図11図10の要部拡大図である。
図12】磁気エンコーダの変形例の縦断面図である。
図13】前記変形例の要部拡大切断部端面図である。
図14図13における内径側窪み部まわりの拡大図である。
図15】前記変形例の円環状磁石部材を成形する射出成形用金型の一例を示す要部拡大概略縦断面図であり、キャビティに溶融樹脂を注入した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
本明細書において、自動車のホイール支持用の軸受装置に磁気エンコーダを装着した状態で、前記軸受装置の回転軸(図1中の符号O参照)に平行な方向を「軸方向」、前記回転軸に直交する方向を「径方向」(図1の矢印R参照)という。「径方向」において、前記回転軸から離れる方向を「径方向の外方」、前記回転軸に近づく方向を「径方向の内方」という。前記回転軸の方向に対して「周方向」を定義する。
【0023】
また、自動車の車体から車輪側に向かう方向を「アウトボード」(図1中の矢印OB参照)、自動車の車輪から車体側へ向かう方向を「インボード」(図1中の矢印IB参照)という。
【0024】
<自動車のホイール支持用の軸受装置>
図1の縦断面図、及び図2の要部拡大縦断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダ1を備えた自動車のホイール支持用軸受装置Aは、車輪ハブとしての内輪11が外輪12に対して回転する軸受Bの他に、アキシャル型の磁気エンコーダ1、軸受BのインボードIB側及びアウトボードOB側に配置したシール部材10A,10B、並びに磁気センサMS等を備える。シール部材10A,10Bにより、軸受B内への泥水等の浸入を防止するとともに潤滑用グリスの漏出を防止する。
【0025】
軸受Bは、外周面に内輪軌道面11Aが形成された内輪11、及び内周面に外輪軌道面12Aが形成された外輪12、並びに、内輪軌道面11A及び外輪軌道面12A間を転動する、ボールである転動体13等を有する。内輪11、外輪12、及び転動体13は、鉄製である。
【0026】
自動車のホイール支持用軸受装置Aにおいて、磁気エンコーダ1は、シール部材10AのインボードIB側(軸受Bの密閉空間外)に配置されるので、外部雰囲気に曝される環境で使用される。
【0027】
<磁気エンコーダ>
図1の縦断面図、図2の要部拡大縦断面図、図3の部分断面斜視図、図4の縦断面図、及び図5の要部拡大切断部端面図に示す磁気エンコーダ1は、金属製の円環状支持部材2と、プラスチック磁石製の円環状磁石部材3とからなる。
【0028】
(円環状支持部材)
円環状支持部材2は、軸受Bの内輪11に外嵌する円筒部4と、円筒部4のインボードIB側の端部から径方向Rの外方へ延びる外向きフランジ部5とからなる。円筒部4は、アウトボードOB側の小径部6と、小径部6よりもインボードIB側の部分を拡径して形成された大径部7とを有する。小径部6は内輪11に圧入嵌合する(図2の嵌合部F参照)ので、小径部6の内周面6Aが内輪11の外周面11Bに接触する。小径部6の内周面6Aの直径は、例えば40mmないし100mmである。
【0029】
円環状支持部材2は、例えば、厚さ0.6mmのステンレス鋼製の板材からプレス加工により成形される。
【0030】
(円環状磁石部材)
円環状磁石部材3は、円環状支持部材2の外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aに取り付けられる。円環状磁石部材3は、N極とS極を一定間隔で周方向に多極に着磁したものであり、例えば、磁性体粉、バインダ、及び添加剤が含まれた磁石材料によって形成される。
【0031】
磁性体粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト系磁性粉末の他、ネオジム系やサマリウム系等の希土類磁性粉末が好適に使用できる。バインダとしては、ポリアミド(PA6、PA12、PA612等)やポリフェニレンサルファイド(PPS)等の熱可塑性樹脂材料が好適に使用できる。添加剤としては、カーボンファイバー等の有機系添加剤や、ガラスビーズ、ガラスファイバー、タルク、マイカ、窒化珪素(セラミック)、及び結晶性(非結晶性)シリカ等の無機系添加剤が好適に使用できる。
【0032】
円環状磁石部材3は、そのインボード側の面3Aの径方向Rの内方部分3BがアウトボードOB側へ窪んだ内径側窪み部8を有する。円環状磁石部材3は、円環状支持部材2に沿うように、円筒部4の小径部6と大径部7との間の段部SまでアウトボードOB側へ回り込んだ回り込み部9を有する。回り込み部9の、軸受Bの内輪11に圧入嵌合する内周面9Aは、円筒部4の小径部6の内周面6Aよりも径方向Rの内方へ突出している。
【0033】
円環状磁石部材3は、インサート成形により円環状支持部材2に取り付けた状態で成形される。すなわち、円環状磁石部材3との接合面Wに熱硬化型接着剤Q(図8A及び図8B参照)を塗布した円環状支持部材2をインサートワークとした射出成形により、円環状磁石部材3が成形される。
【0034】
図4の縦断面図、及び図5の要部拡大切断部端面図に示すように、円環状磁石部材3の内径側窪み部8の内周面8Aは、円筒面状である。図3ないし図5に示すように、内径側窪み部8の内周面8Aには、内径側ディスクゲートG(図9ないし図11参照)のゲート痕GMがある。
【0035】
(内径側窪み部まわりの寸法の範囲)
図6の要部拡大切断部端面図に示す内径側窪み部8の径方向Rの長さHは、0.05mm≦H≦2mmにするのが好ましい実施態様である。H<0.05mmである場合は、磁気エンコーダ1を軸受Bの内輪11に組み込む際にゲート痕GMが内輪11に接触し、コンタミネーションが発生する恐れがある。H>2mmである場合は、内径側窪み部8の内周面8Aに位置する内径側ディスクゲートGと回り込み部9とが遠くなるので、射出成形で円環状磁石部材3を成形する際に回り込み部9へ溶融樹脂が流れにくくなる。
【0036】
図6に示す内径側窪み部8の軸方向の長さIは、I≧0.2mmにするのが好ましい実施態様である。I<0.2mmである場合は、内径側ディスクゲートGの配置が困難になる。
【0037】
図6に示す内径側窪み部8の内周面8AのアウトボードOB側端8Bと円環状支持部材2の外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aとの軸方向の距離Uは、U≧0.1mmにするのが好ましい実施態様である。U<0.1mmである場合は、射出成形で円環状磁石部材3を成形する際における回り込み部9への流路が狭くなるので、回り込み部9へ溶融樹脂が流れにくくなる。
【0038】
図6に示す軸方向の長さIと軸方向の距離Uは、円環状磁石部材3の厚みをTとして、I+U=Tである。円環状磁石部材3の厚みTを定めれば、I≧0.2mm、U≧0.1mmの条件の下で、I及びUの一方を定めれば他方が定まる。
【0039】
(回り込み部まわりの寸法の範囲)
図6に示す回り込み部9の内周面9Aの軸方向の長さJは、0.2mm≦J≦1.5mmにするのが好ましい実施態様である。J<0.2mmである場合は、嵌合部F(図2)への水分の浸入を防止する性能が低下する恐れがある。J>1.5mmである場合は、薄肉である回り込み部9が長くなるので、射出成形で円環状磁石部材3を成形する際に回り込み部9へ溶融樹脂が流れにくくなる。
【0040】
図6に示す内周面6Aからの内周面9Aの突出量Kは、0<K≦0.1mmにするのが好ましい実施態様である。K≦0である場合(内周面9Aが内周面6Aから突出しない場合、すなわち、内周面9Aが内周面6Aと面一、又は内周面6Aよりも内周面9Aの内径が大きい場合)は、嵌合部F(図2)への水分の浸入を防止する性能が低下する恐れがある。K>0.1mmである場合は、磁気エンコーダ1を内輪11に組み込む際に円環状磁石部材3が破損する恐れがある。
【0041】
図6に示す回り込み部9の厚みLは、0.1mm≦L≦0.4mmにするのが好ましい実施態様である。L<0.1mmである場合は、射出成形で円環状磁石部材3を成形する際に回り込み部9へ溶融樹脂が流れにくくなる。L>0.4mmである場合は、円環状支持部材2の大径部7の肉厚が薄くなって強度及び剛性が低下し、磁気エンコーダ1を内輪11に組み込む際に円環状支持部材2が変形する恐れがある。
【0042】
<磁気エンコーダの製造方法>
(円環状支持部材成形工程)
図7の形状である円環状支持部材2をプレス加工、又はプレス加工及び切削加工により成形する。
【0043】
例えば、ステンレス鋼製の平板材に打抜き加工を行って円環状の板材を得る。次に、前記円環状の板材をバーリング加工することで、大径部7を有する円環状支持部材2を成形する。あるいは、バーリング加工を行った後に、切削加工で大径部7を設ける。
【0044】
(接着剤塗布工程)
次に、円環状支持部材2の所定範囲に、例えば、図8Aの要部拡大切断部端面図、又は図8Bの要部拡大切断部端面図の範囲に熱硬化型接着剤Qを塗布する。熱硬化型接着剤Qとしては、例えば、フェノール樹脂系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤等が挙げられる。図8A及び図8Bにおいて、接着剤Qの厚みを、実際の厚みよりも誇張して示している。
【0045】
すなわち、図8Aの要部拡大切断部端面図に示すように、成形した円環状支持部材2の円環状磁石部材3との接合面Wの一部に熱硬化型接着剤Qを塗布する。あるいは、図8Bの要部拡大切断部端面図に示すように、成形した円環状支持部材2の円環状磁石部材3との接合面Wの全部に熱硬化型接着剤Qを塗布する。
【0046】
例えば図8Bのように大径部7の内周面から段部Sまでの範囲にも接着剤Qを塗布することにより、射出成形で円環状磁石部材3を成形した後の回り込み部9(図4参照)の樹脂の亀裂の進展を遅らせることができるので、磁気エンコーダ1の耐熱衝撃性能が向上する。
【0047】
(円環状支持部材セット工程)
次に、図9の概略縦断面図に示す射出成形用金型Dを開いて、熱硬化型接着剤Qを塗布した円環状支持部材2をインサートワークとして金型D内にセットする。
【0048】
すなわち、図9の概略縦断面図において、固定側コア14に対して可動側コア15を開き、センターコア16を取り出した状態で、円環状支持部材2を可動側コア15にセットし、センターコア16を装着する。
【0049】
(円環状磁石部材成形工程)
次に、射出成形により円環状磁石部材3を成形する。
【0050】
すなわち、図9の概略縦断面図のように、固定側コア14に対して可動側コア15を閉じて型締めする。次に、図10の概略縦断面図に示すように、溶融樹脂Pをスプルー17から注入する。溶融樹脂Pは、ランナー18を通り、図11の要部拡大図に示すように、円環状磁石部材3の内径側窪み部8の内周面8A(図5参照)に対応する位置に配置した金型Dの内径側ディスクゲートGから金型DのキャビティCへ注入される。それにより、キャビティCに溶融樹脂Pが充填される。
【0051】
(成形品取出し工程)
溶融樹脂Pを冷却・固化させた後、図10及び図11のパーティングラインPLから可動側コア15を開く。次に、ゲートカット前の成形品及びセンターコア16を、図示しないエジェクタピンにより突き出すことにより取り出す。次に、ゲートカット処理を行い、インサート成形品である磁気エンコーダ1をゲート部から切り離す。磁気エンコーダ1には、図3ないし図5のように、内径側窪み部8の内周面8Aに、内径側ディスクゲートGのゲート痕GMが存在する。
【0052】
(着磁工程)
円環状磁石部材3は、円周方向に多極に着磁されている。この着磁は、例えば、前記円環状磁石部材成形工程において、調整した磁場内で射出成形をすることで、磁性粉を磁場配向させる。あるいは、前記成形品取出し工程で得られた磁気エンコーダ1に対して脱磁を行った後、別途準備した着磁ヨーク等の着磁装置を用いて、円環状磁石部材3の周方向にN極とS極とが交互になるように多極に着磁する。
【0053】
<変形例>
以上の実施の形態における円環状磁石部材3の内径側窪み部8の内周面8Aは、例えば図5の要部拡大切断部端面図に示すように円筒面状である。内径側窪み部8の内周面8Aは、円筒面状であるものに限定されない。
【0054】
内径側窪み部8の内周面8Aは、図12の縦断面図、及び図13の要部拡大切断部端面図に示すような傾斜面Eを含んでいてもよい。傾斜面Eは、インボードIB側へ行くにしたがって径方向Rの外方へ近づく円錐台の側面状であり、傾斜面Eにゲート痕GMがある。
【0055】
(内径側窪み部まわりの寸法の範囲)
図14の要部拡大切断部端面図に示す回り込み部9の内周面9Aと傾斜面Eの径方向Rの内方側の端部N1との径方向Rの距離V1は、V1≧0.05mmにするのが好ましい実施態様である。V1<0.05mmである場合は、磁気エンコーダ1を軸受Bの内輪11に組み込む際にゲート痕GMが内輪11に接触し、コンタミネーションが発生する恐れがある。
【0056】
図14に示す回り込み部9の内周面9Aと傾斜面Eの径方向Rの外方側の端部N2との径方向Rの距離V2は、V2≦2mmにするのが好ましい実施態様である。V2>2mmである場合は、内径側窪み部8の内周面8Aの傾斜面Eに位置する内径側ディスクゲートGと回り込み部9とが遠くなるので、射出成形で円環状磁石部材3を成形する際に回り込み部9へ溶融樹脂が流れにくくなる。
【0057】
図14に示す内径側窪み部8の軸方向の長さI、及び内径側窪み部8の内周面8AのアウトボードOB側端8Bと円環状支持部材2の外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aとの軸方向の距離Uは、図6における軸方向の長さI、及び軸方向の距離Uと同様の観点から、I≧0.2mm、U≧0.1mmにするのが好ましい実施態様である。
【0058】
(回り込み部まわりの寸法の範囲)
図14に示す回り込み部9の内周面9Aの軸方向の長さJは、図6における軸方向の長さJと同様の観点から、0.2mm≦J≦1.5mmにするのが好ましい実施態様である。図14に示す内周面6Aからの内周面9Aの突出量Kは、図6における突出量Kと同様の観点から、0<K≦0.1mmにするのが好ましい実施態様である。図14に示す回り込み部9の厚みLは、図6における厚みLと同様の観点から、0.1mm≦L≦0.4mmにするのが好ましい実施態様である。
【0059】
(射出成形用金型の例)
図12の縦断面図に示す磁気エンコーダ1の円環状磁石部材3を成形する射出成形用金型Dの一例を、図15の要部拡大概略縦断面図に示す。前記円環状磁石部材成形工程において、射出成形により円環状磁石部材3を成形する射出成形用金型Dの内径側ディスクゲートGは、図15に示すように、円環状磁石部材3の内径側窪み部8の内周面8Aの傾斜面E(図13参照)に対応する位置に配置される。
【0060】
<作用効果>
本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダ1によれば、円環状磁石部材3のインボードIB側の面3Aの径方向Rの内方部分3Bに内径側窪み部8があり、内径側窪み部8の内周面8Aに、内径側ディスクゲートGのゲート痕GMがある。本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダ1の製造方法によれば、円環状磁石部材3を射出成形する際に射出成形用金型DのキャビティCへ溶融樹脂Pを注入する内径側ディスクゲートGが、内径側窪み部8の内周面8Aに対応する位置に配置される。
【0061】
すなわち、円環状支持部材2の円筒部4の小径部6と大径部7との間の段部SまでアウトボードOB側へ回り込んだ、円環状磁石部材3の回り込み部9の近くに射出成形用金型Dの内径側ディスクゲートGが位置する。それにより、内径側ディスクゲートGから薄肉の回り込み部9へ溶融樹脂Pが流れやすく、回り込み部9における溶融樹脂Pの充填状態が安定するので、軸受Bの内輪11の外周面11Bに接触する回り込み部9の内周面9Aにショートショット等の欠損が生じない。
【0062】
本発明に係る磁気エンコーダ1、及び本発明に係る磁気エンコーダの製造方法により製造された磁気エンコーダ1において、円環状磁石部材3の回り込み部9の、軸受Bの内輪11に圧入嵌合する内周面9Aが、円環状支持部材2の円筒部4の小径部6の内周面6Aよりも径方向Rの内方へ突出している。そのため、円環状磁石部材3の回り込み部9が軸受Bの内輪11に確実に圧入嵌合する。その上、回り込み部9の内周面9Aには、前記のとおりショートショット等の欠損が生じない。したがって、磁気エンコーダ1の円環状支持部材2の円筒部4の小径部6と軸受Bの内輪11との嵌合部Fへの水分の浸入を防止する性能を確実に保持できる。
【0063】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0064】
1 磁気エンコーダ 2 円環状支持部材
3 円環状磁石部材 3A インボード側の面
3B 径方向の内方部分 4 円筒部
5 外向きフランジ部 5A インボード側の面
6 小径部 6A 内周面
7 大径部 8 内径側窪み部
8A 内周面 8B アウトボード側端
9 回り込み部 9A 内周面
10A,10B シール部材 11 内輪
11A 内輪軌道面 11B 外周面
12 外輪 12A 外輪軌道面
13 転動体 14 固定側コア
15 可動側コア 16 センターコア
17 スプルー 18 ランナー
A 自動車のホイール支持用軸受装置 B 軸受
C キャビティ D 射出成形用金型
E 傾斜面 F 嵌合部
G 内径側ディスクゲート GM ゲート痕
H 径方向の長さ I 軸方向の長さ
IB インボード J 軸方向の長さ
K 突出量 L 厚み
M 射出成形用金型 MS 磁気センサ
N1 径方向の内方側の端部 N2 径方向の外方側の端部
O 回転軸 OB アウトボード
P 溶融樹脂 PL ハーティングライン
Q 熱硬化型接着剤 R 径方向
S 段部 T 厚み
U 軸方向の距離 V1,V2 径方向の距離
W 接合面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15