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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022927
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240214BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20240214BHJP
【FI】
H02M7/48 M
G01K1/14 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126381
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】東 拓矢
【テーマコード(参考)】
2F056
5H770
【Fターム(参考)】
2F056CL07
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA19
5H770HA02Y
5H770HA06X
5H770HA12X
5H770LA04X
5H770LB07
5H770PA21
5H770PA42
5H770QA08
5H770QA28
(57)【要約】
【課題】半導体装置を構成する素子の温度を精度良く算出し、素子の過熱保護を行う。
【解決手段】インバータ1の制御部Cntは、所定時間に取得されるカウンタ値をスイッチング素子Q1~Q6の発熱に影響するパラメータから算出し、温度センサTs1、TS2の結果から求められたカウンタ値に加算することで、推定素子温度が所定温度を超過しないように制限電流を算出する。パラメータとして、スイッチング素子Q1~Q6自体の温度に対応する素子温度変数X(n)と、素子の温度上昇に対するスイッチング素子Q1~Q6と伝熱接続され、熱容量が大きい部位の温度上昇を模擬する模擬温度変数ΔY(n)と、を備える。制御部Cntは、電流検出部Si1、Si2によって検出される電流値から、素子温度変数X(n)及び模擬温度変数ΔY(n)と、に基づきカウンタ上限値Z_limit(n)を算出する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置を構成する素子と、
前記素子により発熱された温度を測定する温度測定手段と、
前記素子に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記素子を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、
所定時間に取得されるカウンタ値を前記素子の発熱に影響するパラメータから算出し、前記温度測定手段の結果から求められたカウンタ値に加算することで、推定素子温度が所定温度を超過しないように制限電流を算出するものであって、
前記パラメータとして、
前記素子自体の温度に対応する素子温度変数と、
前記素子の温度上昇に対する素子と伝熱接続され、熱容量が大きい部位の温度上昇を模擬する模擬温度変数と、を備え、
前記制御部は、前記電流検出部によって検出される前記電流値から、前記素子温度変数及び前記模擬温度変数と、に基づき制限電流を算出するカウンタ増加量抽出手段を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記素子の配列方向と前記素子を冷却するヒートシンクの板の延在方向が同一方向で、
前記温度測定手段は前記ヒートシンクの上下流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記制御部は、
制限電流を算出するために利用する、カウンタ上限値を有し、
前記制限電流の算出に用いる、温度上昇のマージンに対応するマージン係数が設定可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を構成する素子は、温度の影響を受けやすい。例えば、フォークリフトといった産業車両の駆動用モータの回転制御に用いられる半導体装置においては、高い出力が要求される。加えて、荷役中は駆動用モータを概ね停止させる一方で、走行中は駆動用モータを比較的高速に回転させるため、出力の時間変化が大きい。そのため、半導体装置を構成する素子の発熱量が頻繁に上下動している。
【0003】
そこで、半導体装置を構成する素子の温度を温度センサなどにより測定し、その測定した温度により素子の過熱保護が行われている。
【0004】
例えば、温度推定計算部が推定したPWMキャリヤ周期毎の電力用半導体素子のジャンクション温度が所定値を超えた場合、所定の保護動作を実行するインバータ装置の技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-46647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体装置を構成する素子の過熱保護を行うために、半導体装置を構成する素子の温度を測定する温度センサを複数配置したり、温度センサを測定したい素子の近くの場所など理想の場所に置いたりすることにより過熱保護対象である素子の温度を精度よく測定することができる。
【0007】
しかしながら、温度センサの数を増加した場合には、ある程度測定温度の精度の向上が見込めるもの、コストの増加を招くこととなる。また、半導体装置の構成などの製品レイアウトの制限によっては、理想の場所に温度センサを配置することができず、精度よく素子の温度を測定できない場合がある。温度センサの数やレイアウトの制約により、素子温度と温度センサの値が乖離し、素子温度の実際の状態が不明となる場合がある。その結果、温度測定の精度の低下を招き、素子の過熱保護を十分に行えない場合があった。
【0008】
本発明の一側面に係る目的は、半導体装置を構成する素子の温度を精度良く算出し、素子の過熱保護を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一つの形態である半導体装置は、半導体装置を構成する素子と、前記素子により発熱された温度を測定する温度測定手段と、前記素子に流れる電流を検出する電流検出部と、前記素子を制御する制御部と、を有する。前記制御部は、所定時間に取得されるカウンタ値を前記素子の発熱に影響するパラメータから算出し、前記温度測定手段の結果から求められたカウンタ値に加算することで、推定素子温度が所定温度を超過しないように制限電流を算出するものである。前記パラメータとして、前記素子自体の温度に対応する素子温度変数と、前記素子の温度上昇に対する素子と伝熱接続され、熱容量が大きい部位の温度上昇を模擬する模擬温度変数と、を備える。前記制御部は、前記電流検出部によって検出される電流値から、前記素子温度変数及び前記模擬温度変数と、に基づき制限電流を算出するカウンタ増加量抽出手段を有する。
【0010】
これにより、制御部は、電流検出部によって検出される電流値から、素子自体の温度に対応する温度変数と、素子の温度上昇に対する素子と伝熱接続され、熱容量が大きい部位の温度上昇を模擬する模擬温度変数と、に基づいて制限電流を算出することができる。このため、最小限の温度測定手段に基づき、素子自体の温度に加えて、温度測定手段と素子間の温度の乖離による応答遅れを考慮して制限電流を算出することができる。これにより、コストの増加を抑制しつつ、温度測定の精度の向上を図ることができる。その結果、半導体装置を構成する素子の温度を精度良く算出し、素子の過熱保護を行うことができる。
【0011】
また、前記素子の配列方向と前記素子を冷却するヒートシンクの板の延在方向が同一方向で、前記温度測定手段は前記ヒートシンクの上下流側に配置されていてもよい。
【0012】
これにより、素子を密度高く配置することができつつ、温度測定手段が測定した取得値の影響を抑制することができる。
【0013】
また、前記制御部は、制限電流を算出するために利用する、カウンタ上限値を有し、前記制限電流の算出に用いる、温度上昇のマージンに対応するマージン係数が設定可能であってもよい。
【0014】
これにより、多用途展開の際に、温度上昇のマージンに対応するマージン係数などのパラメータ調整において、容易に対応することが可能となる。その結果、設計工数の削減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体装置を構成する素子の温度を精度良く算出し、素子の過熱保護を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係わる半導体装置の一例を示す図である。
図2】温度センサと、スイッチング素子との関係を示す斜視図である。
図3】カウンタ値Z(n)と電流値との関係を示すグラフである。
図4】制限電流を算出する処理を示すフローチャートの一例である。
図5】変数と電流との関係を示すテーブルの一例である。
図6】変数と電流との関係を示すテーブルの一例である。
図7】カウンタ値Z(n)と電流値との関係を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係わる半導体装置の一例を示す図である。
【0019】
図1では、半導体装置としてインバータ1を示している。インバータ1は、制御部Cnt、スイッチング素子Q1~Q6、温度センサTs1、Ts2、電流検出部Si1、Si2、及び、コンデンサCを備える。
【0020】
スイッチング素子Q1~Q6は、半導体装置を構成する素子の一例である。スイッチング素子Q1~Q6として、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を用いている。但し、スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いてもよい。スイッチング素子Q1~Q6は、それぞれダイオードD1~D6を備える。6つのダイオードD1~D6はそれぞれ、6つのスイッチング素子(MOSFET)Q1~Q6の寄生ダイオードである。
【0021】
正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、u相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、u相下アームを構成するスイッチング素子Q2が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、v相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、v相下アームを構成するスイッチング素子Q4が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、w相上アームを構成するスイッチング素子Q5と、w相下アームを構成するスイッチング素子Q6が直列接続されている。
【0022】
インバータ1をMOSFETと、MOSFETの寄生ダイオードで構成することにより、半導体装置の構成をメカニカルスイッチ等で構成するよりも簡単な構成で作成することができ、半導体装置の小型化を図ることができる。
【0023】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点がモータMのu相入力端子に接続され、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続点がモータMのv相入力端子に接続され、スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との接続点がモータMのw相入力端子に接続されている。
【0024】
上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴い、蓄電装置Bから供給される直流電力を互いに120度位相が異なる3相の交流電力に変換してモータMに供給できるようになっている。モータMは、例えば車両駆動用モータや荷役用モータである。
【0025】
各スイッチング素子Q1~Q6のゲート端子には、制御部Cntが接続されている。制御部Cntは、制御信号であるパルスパターンに基づいてインバータ1のスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング動作させる。
【0026】
電流検出部Si1は、モータMのv相入力端子に接続され、インバータ1からv相を通じてモータMへ供給される電流を検出する。電流検出部Si2は、モータMのw相入力端子に接続され、インバータ1からw相を通じてモータMへ供給される電流を検出する。制御部Cntは、電流検出部Si1で検出されたv相を通じてモータMへ供給される電流と、電流検出部Si2で検出されたw相を通じてモータMへ供給される電流と、に基づいて、インバータ1からu相を通じてモータMへ供給される電流を検出する。これにより、制御部Cntは、インバータ1からモータMへ供給される電流を検出することができる。
【0027】
温度センサTs1、温度センサTs2は、温度測定手段の一例である。温度センサTs1、温度センサTs2を特に区別して説明しない場合には、以下、「温度センサTs」とも呼ぶ。温度センサTsは、インバータ1を構成するMOSFETなどの素子の温度を測定する。
【0028】
温度センサTsは、インバータ1を構成するスイッチング素子Q1~Q6の近傍に配置して、インバータ1を構成するMOSFETなどのスイッチング素子Q1~Q6の部品温度を測定してもよい。また、温度センサTsは、MOSFETなどのスイッチング素子Q1~Q6の直接隣に配置してスイッチング素子Q1~Q6の温度を直接測定してもよい。温度センサTsと、スイッチング素子Q1~Q6と、は互いに伝熱接続されている。伝熱接続とは、物体又は空間を通じて素子の熱が伝達可能に接続されている状態をいい、スイッチング素子Q1~Q6の熱が熱伝導、対流、放射等により温度センサTsに移動しうる状態をいう。
【0029】
図2は、温度センサTs1、Ts2と、スイッチング素子Q1との関係を示す斜視図である。図2に示すように、インバータ1は、ヒートシンクHsに載置されている。ヒートシンクHsは、同一方向に延在する複数の板状体Pにより構成されている。本実施形態においては、板状体Pが延在する方向をヒートシンクHsの上下流側とする。ヒートシンクHsは、インバータ1を構成するスイッチング素子Q1~Q6を冷却する。
【0030】
温度センサTs1、温度センサTs2は、図2に示すように、ヒートシンクHsを構成する板状体Pの延在方向と同一方向で、かつ、ヒートシンクHsの上下流側(ヒートシンクHsの延在方向における、端部側)に配置されている。これにより、スイッチング素子Q1~Q6を密度高く配置することができ、かつ、温度センサTs1、温度センサTs2が取得した熱抵抗・熱容量の差分に基づく取得値の影響を最小限に抑制することができる。
【0031】
制御部Cntは、所定時間に取得されるカウンタ値Z(n)をスイッチング素子Q1~Q6の発熱に影響するパラメータから算出して、温度センサTs1、温度センサTs2から取得した温度から求められたカウンタ値に加算して算出する。制御部Cntは、出力した電流を元にスイッチング素子Q1~Q6の温度上昇の推定素子温度の値を示す。カウンタ値Z(n)とは、カウント周期毎のスイッチング素子Q1~Q6の温度上昇量である。カウンタ値Z(n)は、所定時間に取得される。例えば、スイッチング素子Q1の温度の推定値は、下記式1により決定する。
【0032】
温度センサTs1により測定された測定温度T1+カウンタ値Z(n)=スイッチング素子Q1の温度の推定値・・・式1
【0033】
パラメータとは、電流I(n)=t(n-1)からt(n)までの区間の、電流センサで検出した電流の実効値を示す。上述の式1では、温度センサTs1により測定された測定温度T1を推定しているがこれに限られない。例えば、式1において、温度センサTs1により測定された測定温度T1の代わりに、温度センサTs2により測定された測定温度T2を代入することにより、同様に、温度センサTs2により測定された測定温度T2を用いて、スイッチング素子の温度の推定値を算出することができる。
【0034】
図3は、カウンタ値Z(n)と電流値との関係を示すグラフである。縦軸のカウンタ値は、温度と比例関係がある値である。電流値は、インバータ1に流れる電流である。電流値は、スイッチング素子Q1~Q6を介してインバータ1に流れる電流であってもよい。
【0035】
カウンタ値Z(n)は、今回(n)のカウント周期、すなわちn回目でのカウンタ値を示す。カウンタ値Z(n-1)は、前回(n-1)のカウント周期、すなわちn-1回目でのカウンタ値を示す。カウンタ上限値Z_limit(n)は、カウンタ周期n回目でのカウンタ閾値を示す。カウンタ上限値Z_limit(n)は、図4において説明する制限電流を算出する処理を示すフローチャートにおいて算出することができる電流を決定するために使用される値である。
【0036】
図4は、制限電流を算出する処理を示すフローチャートの一例である。制限電流を算出する場合、制御部Cntは、カウンタ増加量抽出手段として機能する。この場合、制御部Cntは、電流検出部Si1、Si2によって検出される電流値から、温度変数X(n)及び模擬温度変数Y(n)と、に基づき、制限電流を算出する。具体的には、制御部Cntは、例えば、図4のフローチャートに従い、以下のステップで電流制限を実施する。はじめに、制御部Cntは、前回(n-1回目)から今回(n回目)に流れた電流を元にカウントアップ値を算出する(ステップS1)。そして、制御部Cntは、今回(n回目)から次回(n+1回目)で温度が超過しないように、制限電流を算出する(ステップS2)。
【0037】
制御部Cntは、ステップS1及びステップS2の処理を繰り返し実行することにより、制限電流を算出し続けることができる。制御部Cntは、算出した制限電流に基づいて電流を制限することにより、スイッチング素子Q1~Q6の過熱保護を行うことができる。
【0038】
具体的には、制御部Cntは、推定したカウンタ値を用いて、下記式2により今回のカウンタ値Z(n)を算出する。
カウンタ値Z(n)=X(n)+Y(n-1)+ΔY(n)・・・式2
【0039】
X(n)は、熱容量が小さい部分(素子内部など)の温度上昇を模擬する変数(素子温度変数)である。X(n)は、素子自体の温度に対応する変数である。
ΔY(n)は、素子の温度上昇に対応する素子と伝熱接続され、熱容量が大きい部分(素子から温度センサなど)の温度上昇を模擬する変数(模擬温度変数)である。X(n)は、図5(1)に示すテーブルから算出する。ΔY(n)は、図5(2)に示すテーブルから算出する。
【0040】
図5は、変数と電流との関係を示すテーブルの一例である。電流I(n)=t(n-1回目)からt(n回目)までの区間における電流検出部Si1、Si2で検出した電流の実効値を示す。Y(n-1)は、前回(n-1回目)のカウンタ値を示す。ΔY(n)は、前回(n-1回目)から今回(n回目)のカウンタ値の増加量を示す。
【0041】
図5(1)は、電流I(n)と変数X(n)との関係を示すテーブルである。例えば、制御部Cntは、電流I(n)=400Aのときは、図5(1)のテーブルを参照して、変数X(n)=「15」を決定する。
【0042】
図5(2)は、Y(n-1)と電流I(n)と変数ΔY(n)との関係を示すテーブルである。例えば、制御部Cntは、Y(n-1)=5、電流I(n)=400Aのときは、図5(2)のテーブルを参照して、ΔY(n)=「10」を決定する。
【0043】
制御部Cntは、今回の変数Y(n)を下記式3により決定する。
【0044】
Y(n)=Y(n-1)+ΔY(n)・・・式3
【0045】
変数Y(n)は、素子から温度センサなど、熱容量が大きい部分の温度上昇分の応答遅れを模擬的に再現する値である。そのため、変数Y(n)は素子の温度上昇に対する温度センサTs1、温度センサTs2の応答遅れに対応する。制御部Cntは、式3を参照して、Y(n-1)=「5」、ΔY(n)=「10」を入力して、変数Y(n)=「15」を算出する。
【0046】
式2に式3を代入することにより式2を書き換えて、カウンタ値Z(n)を下記式2’により算出することができる。
【0047】
カウンタ値Z(n)=X(n)+Y(n)・・・式2’
【0048】
制御部Cntは、算出した変数X(n)=「15」、算出した変数Y(n)=「15」を上記式2’に入力してカウンタ値Z(n)を算出する。制御部Cntは、カウンタ値Z(n)=15+15=「30」を算出する。
【0049】
次に、制御部Cntは、カウンタ上限値Z_limit(n)(制限電流)を下記式4により決定する。
【0050】
カウンタ上限値Z_limit(n)=素子定格温度ET-センサ温度T-α・・・式4
【0051】
素子定格温度ETは、スイッチング素子Q1~Q6の定格温度である。例えば、175℃が設定される。センサ温度Tは、温度センサTsにより測定されたその時の基板温度である。マージンに対応する係数(マージン係数)αは、温度上昇のマージンに対応する値である。マージンに対応する係数(マージン係数)αは、制限電流の算出に用いる際に設定可能な値である。マージンに対応する係数αには、次回までの温度センサTsの温度上昇分などの見込み量が含まれる。マージンに対応する係数αとして例えば「10℃」が設定される。
【0052】
制御部Cntは、マージンに対応する係数αのパラメータ調整において、容易に対応することが可能となる。その結果、設計工数の削減を図ることが可能となる。
【0053】
制御部Cntは、次回(n+1回目)のカウンタ値が閾値以下となるような下記式5を満たす電流上限値I_limit(n+1)を選定する。選定された電流上限値I_limit(n+1)に基づいて、出力可能な電流の上限値を設定することができる。
【0054】
X(n+1)+Y(n)+ΔY(n+1)<Z_limit(n)・・・式5
【0055】
電流上限値I_limit(n+1)は、図6に示すテーブルから算出する。
【0056】
図6は、変数と電流との関係を示すテーブルの一例である。電流I=X’(n+1回目)の電流の実効値を示す。変数Y(n)は、今回(n回目)のカウンタ値を示す。変数ΔY’(n+1)は、次回(n+1回目)のカウンタ値の増加量を示す。
【0057】
図6(1)は、電流Iと変数X’(n+1)との関係を示すテーブルである。図6(2)は、電流I(n)と変数ΔY(n)と変数ΔY’(n+1)との関係を示すテーブルである。制御部Cntは、図6(1)、図6(2)を参照して、下記式6を満たす電流上限値I_limit(n+1)を選定する。
【0058】
Z’(n+1)=X’(n+1)+Y(n)+ΔY’(n+1)・・・式6
【0059】
上記式6に当てはめると、電流I=500Aのときに、Z’(n+1)=20+15+7=「42」、電流I=400Aのときに、Z’(n+1)=15+15+5=「35」、電流I=300Aのときに、Z’(n+1)=10+15+2=「27」、電流I=200Aのときに、Z’(n+1)=5+15+0=「20」がそれぞれ算出される。
【0060】
したがって、例えば、Z(n)=「30」でZ_limit(n)=「38」の場合、制御部Cntは、Z_limit(n)=「38」以下となっている電流I=「400A」を電流上限値I_limit(n+1)として選定する。
【0061】
図7は、カウンタ値Z(n)と電流値との関係を示すグラフの一例である。Z_limit以下となるように、カウンタ上限値Z_limit(n)を設定した場合には、電流Iを設定した場合には、図7に示すように、温度センサTsにより取得されたスイッチング素子Q1~Q6の温度が上昇した場合には、電流上限値I_limit(n+1)による電流制限が下降する。
【0062】
電流制限が下降した場合には、制御部Cntは、スイッチング素子Q1~Q6のduty比を制御することにより、電流上限値I_limit(n+1)以下となるように制御することができる。
【0063】
上述の実施形態により、制御部Cntは、電流I(n)から、スイッチング素子Q1~Q6自体の温度に対応する変数X(n)と、スイッチング素子Q1~Q6の温度上昇に対する温度センサTs1、Ts2の応答遅れに対応する変数Y(n)と、に基づいて算出することができる。このため、最小限の温度センサTs1、Ts2に基づき、温度センサTs1、Ts2の応答遅れを考慮して電流I(n)を算出することができる。これにより、製品コストの増加を抑制しつつ、温度測定の精度の向上を図ることができる。その結果、インバータ1を構成するスイッチング素子Q1~Q6の温度を精度良く算出し、スイッチング素子Q1~Q6の過熱保護を行うことができる。
【0064】
また、制御部Cntは、マージンに対応する係数αなどのパラメータ調整において、容易に対応することが可能となる。その結果、半導体装置を多用途展開するような場合に、設計工数の削減を図ることが可能となる。
【0065】
<変形例1>
温度センサTsは、インバータ1を構成する部品の温度(以下、「部品温度」とも呼ぶ)を測定してもよい。例えば、温度センサTsは、インバータ1、制御部Cntなど、車両を構成する構成部品の部品温度を測定してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 インバータ
M モータ
Si1、Si2 電流検出部
C コンデンサ
Ts、Ts1、Ts2 温度センサ
B 蓄電装置
Cnt 制御部
Q1~Q6 スイッチング素子
D1~D6 ダイオード
Hs ヒートシンク
P 板状体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7