(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022933
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】原発性アルドステロン症のサブタイプの検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126388
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】522316607
【氏名又は名称】出村 昌史
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】出村 昌史
(72)【発明者】
【氏名】竹田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲男
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 悠也
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、簡便かつ安価であり、さらに被験対象にとって負担の軽いPAサブタイプの検査方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、測定された抗KCNJ5抗体の力価を、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比較する工程とを含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法などにより解決される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
測定された抗KCNJ5抗体の力価を、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比較する工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法。
【請求項2】
被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
測定された抗KCNJ5抗体の力価が、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比べて低いことにより、前記被験対象の血清を両側性原発性アルドステロン症の罹患対象又は罹患可能性対象の血清とする工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法。
【請求項3】
被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
測定された抗KCNJ5抗体の力価が、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比べて低いことにより、前記被験対象を両側性原発性アルドステロン症の罹患対象又は罹患可能性対象とする工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法。
【請求項4】
KCNJ5又はKCNJ5及びリポソームの複合体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法に使用する、両側性原発性アルドステロン症検査用試薬。
【請求項5】
請求項4に記載の試薬を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法に使用する、両側性原発性アルドステロン症検査用試薬キット。
【請求項6】
被験物質を投与された両側性原発性アルドステロン症の罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
両側性原発性アルドステロン症の罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を増加する物質を選択する工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の治療薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原発性アルドステロン症のサブタイプを検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は日本における代表的な生活習慣病であり、高血圧症の罹患者数は4,000万人にのぼるという報告もある。高血圧症の原因の一部は、基礎疾患が明確な2次性高血圧症である。例えば、副腎の腫瘍においてアルドステロンを過剰に産生する原発性アルドステロン症(Primary aldosteronism;PA)を基礎疾患として、高血圧症が誘起される。PAに基づく高血圧症は、全高血圧症の5%~10%を占めるといわれている。
【0003】
近年、日本高血圧学会及び日本内分泌学会から高血圧治療ガイドラインが発表され、高血圧症の罹患者に対してPAのスクリーニングが積極的に行われている。PAは、患者数が増加している内分泌性高血圧症の最も一般的な病態である。
【0004】
PAは、アルドステロン産生腺腫(Aldosterone-producing adenoma;APA)及び両側性副腎過形成(Bilateral adrenal hyperplasia;BAH)(特発性高アルドステロン症(Idiopathic hyperaldosteronism;IHA)ともよばれる)の2種類に大別できる。PAは、いずれの種類かによって治療ストラテジーが異なる。そこで、PAを治療するためには、PAの種類を同定することが臨床的に肝要である。
【0005】
PAの種類(PAサブタイプ)を判別するPAサブタイプ検査は、通常、コンピューター断層撮影(Computed Tomography;CT)スキャン及び副腎静脈サンプリング(Adrenal Venous Sampling;AVS)を含み、複雑であり、経済性が悪く、かつ長期間にわたる。特に、AVSは、外科的に治癒可能な片側性のAPAと化学療法に頼るBAHとを判別する唯一の信頼できる検査方法とされている。しかし、AVSを実施する専門施設は世界的に増加しているものの、検査に要する時間、労力及び経済性には依然として問題が残る。
【0006】
一般に、後天性内分泌過多症は、細胞膜タンパク質を刺激する自己抗体が産生されること、細胞膜タンパク質の体細胞活性化遺伝子の変異が生じることなどにより発症するとされている。PAもまたアルドステロンを過剰に分泌する病態であるところ、PAとの関連でAGTR1に対する自己抗体が報告されている(例えば、非特許文献1~3を参照)。また、イオンチャネル(KCNJ5、CACNA1D、CACNA1H、CLCN2)及びATPase(ATP1A1、ATP2B3)の体細胞変異がPAを誘導する報告がある(非特許文献4~9を参照)。
【0007】
さらに、単離した副腎組織におけるKCNJ5遺伝子のmRNAの発現量を測定することにより、アルドステロン産生腺腫を検査する方法が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Rossitto G et al., Hypertension 2013;61(2):526-533.
【非特許文献2】Kem DC et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 2014;99(5):1790-1797.
【非特許文献3】Williams TA et al., Hypertens. 2019;74(4):784-792.
【非特許文献4】Choi M et al., Science 2011;331(6018):768-772.
【非特許文献5】Beuschlein F et al., Nat. Genet. 2013;45(4):440-444.
【非特許文献6】Scholl UI et al., Nat. Genet. 2013;45(9):1050-1054.
【非特許文献7】Azizan EAB et al., Nat. Genet. 2013;45(9):1055-1060.
【非特許文献8】Fernandes-Rosa FL et al, Nat. Genet. 2018;50(3):355-361.
【非特許文献9】Nanba K et al., Hypertens. 2020;75(3):645-649.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
PAとの関連で抗AGTR1抗体の産生が報告されているが、抗AGTR1抗体とPAサブタイプとの関連性は明らかではない。同様に、イオンチャネル及びATPaseの体細胞変異とPAサブタイプとの関係性もほとんど知られていない。
【0011】
特許文献1に記載の方法は、被験者から副腎組織を採取する、いわゆる侵襲的方法である。このため、特許文献1に記載の方法では、施術者に対して高度な手技及び経済的負担を要求し、さらに被験者にとっては心身共に負担の大きい方法である。また、特許文献1に記載の方法は、被験者がPA罹患者であるか否かを確認することができるが、被験者のPAサブタイプを明らかにする方法とはいえない。
【0012】
そこで、PAサブタイプの検査方法として、簡便かつ経済的に有利であり、さらに被験対象にとって負担の軽い方法が求められているところ、そのような方法はこれまでにほとんど知られていない。
【0013】
そこで、本発明は、簡便かつ安価であり、さらに被験対象にとって負担の軽いPAサブタイプの検査方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討して、PAに関連するタンパク質として報告されているイオンチャネル及びATPaseに対する自己抗体に着目し、両側の副腎から自律的なアルドステロン産生を引き起こす可能性について検討した。そこで、PA罹患者の血清における自己抗体の上昇を確認することにより、PAのサブタイプを検査することを試みた。
【0015】
その結果、本発明者らは、PAサブタイプのうち、両側性PA患者の血清における抗KCNJ5抗体の力価は、他のPAサブタイプである片側性PA罹患者及び正常血圧者の血清における抗KCNJ5抗体の力価に対して統計的に有意な差があることを見出した。しかも、驚くべきことに、両側性PA罹患者の血清における抗KCNJ5抗体の力価は、片側性PA罹患者及び正常血圧者の血清における値よりも高いのではなく、低いということを見出した。このことは、特許文献1に記載の方法では、両側性PAと片側性PAとを判別することが非常に困難であることを意味する。
【0016】
そして、このような知見を基に、本発明者らは遂に、本発明の課題を解決し得るものとして、血清中の抗KCNJ5抗体の力価を指標とする両側性原発性アルドステロン症の検査方法などを創作することに成功した。本発明は、本発明者らによって初めて見出された知見及び成功例に基づいて完成されたものである。
【0017】
従って、本発明によれば、以下の各態様の方法が提供される。
[1]被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
測定された抗KCNJ5抗体の力価を、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比較する工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法。
[2]被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
測定された抗KCNJ5抗体の力価が、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比べて低いことにより、前記被験対象の血清を両側性原発性アルドステロン症の罹患対象又は罹患可能性対象の血清とする工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法。
[3]被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
測定された抗KCNJ5抗体の力価が、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比べて低いことにより、前記被験対象を両側性原発性アルドステロン症の罹患対象又は罹患可能性対象とする工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法。
[4]KCNJ5又はKCNJ5及びリポソームの複合体を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法に使用する、両側性原発性アルドステロン症検査用試薬。
[5][4]に記載の試薬を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法に使用する、両側性原発性アルドステロン症検査用試薬キット。
[6]被験物質を投与された両側性原発性アルドステロン症の罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、
両側性原発性アルドステロン症の罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を増加する物質を選択する工程と
を含む、両側性原発性アルドステロン症の治療薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定することにより、PA罹患対象が両側性PA罹患対象若しくは罹患可能性対象であるか、又は両側性PA非罹患対象若しくは非罹患可能性対象(すなわち、片側性PA罹患対象若しくは罹患可能性対象)であるかを、簡便かつ安価に、さらに被験対象にとって負担を軽くして検査することができる。また、本発明によれば、迅速にPAサブタイプを判定することにより、被験対象の治療ストラテジーを迅速かつ有効に決定すること、もって被験対象のPAを効率的に治療することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、後述する実施例に記載があるとおりの、ATP1A1、ATP2B3、CACNA1D、CACNA1H、KCNJ5及びAGTR1に対する抗体の力価(抗体価)を測定した結果を示す。
【
図2】
図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、KCNJ5の抗体価のROC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各態様について詳細に説明するが、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0021】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、ライフサイエンス分野における当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0022】
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメータなどの制限事項などが挙げられる。
【0023】
本発明の第一態様の方法は、両側性原発性アルドステロン症の検査方法である。本発明の第一態様の方法は、被験対象から採取した生体試料である血清における、膜タンパク質の一種であるKCNJ5に対する自己抗体の量(力価)を指標とする。
【0024】
原発性アルドステロン症(Primary aldosteronism;PA)は、通常知られているとおりの意味のものであり、例えば、副腎に異常が生じた結果、副腎皮質球状層細胞からミネラルコルチコイドであるアルドステロンが大量に生産されることを特徴とし、高血圧、筋力低下、血中カリウム低下などの症状が出現する疾患ということができる。PAを誘発する副腎の異常には、右副腎及び左副腎のいずれか一方の腺腫及び過形成(片側性PAともよぶ)、両方の副腎の過形成及び微小腺腫(両側性PAともよぶ)が含まれる。
【0025】
本発明の第一態様の方法により、被験対象が両側性PAに罹患しているか、又は罹患している可能性があるか否かを検査できる。一方、本発明の第一態様の方法により、被験対象が両側性PAに罹患していない、又は罹患する可能性が低いと評価される場合であって、被験対象の血中アルドステロン量が多いときは、被験対象は片側性PAに罹患している、又は罹患している可能性があると評価できる。すなわち、本発明の第一態様の方法と血中アルドステロン量の測定とを組み合わせることにより、片側性PAの検査が可能である。
【0026】
本発明の第一態様の方法は、被験対象の血清を利用する。被験対象は、両側性PAを発症する可能性がある限り、ヒトであっても、非ヒト動物であってもいずれでもよいが、ヒトであることが好ましい。非ヒト動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、ラットなどが挙げられるが、これらに限定されない。被験対象は、PAの罹患対象であっても、高血圧症の罹患対象であっても、正常対象であってもいずれでもよい。例えば、PAの罹患者は、一般社団法人日本内分泌学会監修「原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021」によるスクリーニング若しくは機能確認検査により陽性又は境界域と判定された者などが挙げられる。
【0027】
被験対象の血清は、被験対象の血管から採血した血液の上澄みである血清であればよい。被験対象の血清を得る方法は特に限定されず、例えば、被験対象がヒトの場合は、病院などで通常行われているように、腕の静脈から採血して得た血液を固液分離処理に供することにより血清を得ることなどが挙げられる。
【0028】
KCNJ5は、細胞膜に存在するカリウムイオンチャネルタンパク質の一種として、G protein-activated inward rectifier potassium channel 4として知られている。KCNJ5は、被験対象の動物種に応じて、アミノ酸配列が変わり得る。例えば、ヒトのKCNJ5は、NCBIのデータベースではアクセッション番号がNP_000881.3であり、419アミノ酸残基からなる。KCNJ5は、これまでに知られている目的タンパク質の製造方法に従って得ることができる。例えば、KCNJ5は、KCNJ5をコードする遺伝子のcDNAをクローニングし、細胞内又は無細胞系でKCNJ5を発現させ、回収することにより得ることができる。KCNJ5は、血清中の抗KCNJ5抗体と特異的に結合し得る限り、KCNJ5の部分断片であってもよい。
【0029】
KCNJ5に対する抗体、すなわち、抗KCNJ5抗体は、KCNJ5を特異的に認識する抗体であればよい。抗KCNJ5抗体は、KCNJ5を抗原として、抗原抗体反応を示し得る。
【0030】
本発明の第一態様の方法は、被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程(以下、抗体価測定工程ともよぶ)を含む。
【0031】
被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する方法は、KCNJ5と抗KCNJ5抗体との間の抗原抗体反応を検出する方法であれば特に限定されない。そのような抗原抗体反応を検出し得る方法としては、免疫学的手法であることが好ましい。
【0032】
免疫学的手法としては、例えば、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素などによる検出方法とを組み合わせた方法(ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA法)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(Latex Agglutination-Turbidimetric Immunoassay;LA法)、イムノクロマト法、AlphaScreen法などが挙げられる。
【0033】
ただし、KCNJ5は膜タンパク質であり、血清中に存在する自己抗体である抗KCNJ5抗体は、細胞膜に存在している状態の構造を保持するKCNJ5と特異的に結合する。そこで、免疫学的手法を利用する場合、細胞膜に存在している状態の構造を保持するKCNJ5を利用することが好ましい。例えば、後述する実施例に記載があるように、KCNJ5/リポソーム複合体とすることによりKCNJ5が細胞膜に存在している状態の構造を保持するようにすることが好ましい。
【0034】
AlphaScreen法を利用することにより、KCNJ5と抗KCNJ5抗体との間の抗原抗体反応を検出できる。AlphaScreen法では、KCNJ5/ビオチン化リポソーム複合体、血清(抗KCNJ5抗体を含む)、AlphaScreenストレプトアビジン被覆ドナービーズ及びAlphaScreenプロテインG結合アクセプタービーズを用いる。ドナービーズはストレプトアビジンが結合していることにより、ビオチン化したKCNJ5/ビオチン化リポソーム複合体と結合する。一方、アクセプタービーズにはあらかじめプロテインGがコートされていることから、血清中の自己抗体(IgG)と結合する。自己抗体のうち、抗KCNJ5抗体がKCNJ5/ビオチン化リポソーム複合体合に結合するときだけ2つのビーズが近接し、レーザーにて蛍光を発する。この蛍光を検出することにより、血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定できる。
【0035】
また、細胞膜に存在している状態の構造を保持できるのであれば、KCNJ5を固相化してもよい。例えば、KCNJ5/リポソーム複合体を固相に固定し、該固相に固定したKCNJ5/リポソーム複合体に血清を接触させ、KCNJ5と血清中に含まれる可能性のある抗KCNJ5抗体との免疫複合体、又は反応産物を検出することで、抗KCNJ5抗体を測定することができる。
【0036】
具体的には、ELISA法のうちサンドイッチ法を適用してもよい。サンドイッチ法では、KCNJ5/リポソーム複合体を固相化したマイクロタイタープレートに、血清試料を添加し、抗原抗体反応を誘起し、次いで酵素標識したプロテインGを添加し、抗原抗体反応を誘起し、次いで洗浄後に酵素基質を添加し、反応及び発色を誘起して、吸光度を測定することにより、血清中の抗KCNJ5抗体を検出するとともに、その測定値から血清中の抗KCNJ5抗体の力価を算出することができる。また、蛍光標識した抗KCNJ5抗体に対する抗体を用いて、抗原抗体反応を誘起した後に蛍光を測定してもよい。
【0037】
より簡便な免疫学的手法としては、妊娠検査薬などのようにイムノクロマト法を適用することが好ましい。例えば、紙などの担体上に遊離状態にある標識化KCNJ5/リポソーム複合体を含む採血部、抗KCNJ5抗体に対する抗体を固相化した判定部及び抗KCNJ5抗体を固相化したコントロール部をこの順番で含むイムノクロマト試薬を用いて、採血部に血清を滴下し、滴下した血清が採血部から判定部、コントロール部へと順番に流れ、判定部及びコントロール部において標識化KCNJ5/リポソーム複合体の標識を検出することにより、被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定することができる。
【0038】
血清における抗KCNJ5抗体の力価は、血清におけるKCNJ5と特異的に結合する抗KCNJ5抗体の量自体であってもよいが、血清中の抗KCNJ5抗体の量を、血清中に安定に存在する血清成分の量で補正したパラメータであってもよい。
【0039】
血清中の抗KCNJ5抗体の力価を測定することにより、両側性PAを検出又は検査することができる。すなわち、被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価を測定することにより、該被験対象が両側性PAに罹患しているか否かを検出し、又は罹患しているか否かを判断するデータを取得することができる。
【0040】
本発明の第一態様の方法は、抗体価測定工程により測定された抗KCNJ5抗体の力価を、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比較する工程(以下、抗体価比較工程ともよぶ)を含む。
【0041】
被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価に基づいて、該被験対象が両側性PAに罹患しているか否かを判断するために、該力価を、予め両側性PAに罹患していないことがわかっている対象(両側性PAの非罹患対象)の血清中の抗KCNJ5抗体の力価と比較する。
【0042】
両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価は、被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価と同時に測定しても、その前又は後に測定しても、いずれでもよいが、同時に測定することが好ましい。
【0043】
両側性PAの非罹患対象は、両側性PAの罹患対象でなければよく、正常血圧対象であっても、片側性PAの罹患対象であってもいずれでもよいが、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価は正常血圧対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価と明確な差異がみられる傾向にあることから、正常血圧対象であることが好ましい。なお、以下では、両側性PAの非罹患対象が、正常血圧対象である場合について、すなわち、PAの非罹患対象である場合について説明する。
【0044】
両側性PAの非罹患対象の数は、1以上であればよいが、2以上の複数であることが好ましい。両側性PAの非罹患対象の数が2以上の複数である場合、抗KCNJ5抗体の力価の値は、複数の両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価の平均値であってもよく、該力価の95%信頼区間の値であってもよい。例えば、複数の両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価の95%信頼区間は公知の手法により求めることができる。具体的には、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価が正規分布する場合は、以下の式によって求めることができる。
95%信頼区間=両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価の平均±t×該力価の標準偏差
【0045】
なお、上記式において、tは自由度であり、両側性PAの非罹患者の数によって変動するため、t分布表に基づき選択すればよい。一般に95%信頼区間の場合tは1.96である。
【0046】
一方、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価が正規分布しない場合は中央値を含んだ95%を占める範囲を95%信頼区間に代えて用いることができる。
【0047】
本発明の第一態様の方法では、抗体価測定工程及び抗体価比較工程を通じて、被験対象の両側性PAの罹患性又は罹患可能性を検査することができる。
【0048】
本発明の第二態様は、本発明の第一態様における抗体価比較工程の代わりに、抗体価測定工程により測定された抗KCNJ5抗体の力価が、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比べて低いことにより、被験対象の血清を両側性原発性アルドステロン症の罹患対象又は罹患可能性対象の血清とする工程(以下、血清検出工程ともよぶ)を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法である。
【0049】
血清検出工程では、被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価が、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価よりも低いことを確認する。例えば、被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価が、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価若しくはその平均値よりも低いこと、又は両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価の95%信頼区間の下限値よりも低いことを確認する。
【0050】
後述する実施例に記載のAlphaScreen法での実績値に基づけば、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を、1,800カウント、好ましくは1,600カウント、より好ましくは1,586カウントとみなし、これを基準値として用いてもよい。
【0051】
被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価が、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価よりも低かった場合、被験対象がPAの罹患対象であるときは、被験対象の血清を両側性PAの罹患対象の血清とし;又は、被験対象がPAの罹患対象であるか否かが不明であるときは、被験対象の血清を両側性PAに罹患している可能性がある血清と判定する。
【0052】
本発明の第二態様の方法では、抗体価測定工程及び血清検出工程を通じて、被験対象の両側性PAの罹患性又は罹患可能性を検査することができる。
【0053】
本発明の第三態様は、本発明の第二態様における血清検出工程の代わりに、抗体価測定工程により測定された測定された抗KCNJ5抗体の力価が、両側性原発性アルドステロン症の非罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価と比べて低いことにより、被験対象を両側性原発性アルドステロン症の罹患対象又は罹患可能性対象とする工程(以下、対象検出工程ともよぶ)を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法である。
【0054】
被験対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価が、両側性PAの非罹患対象の血清中の抗KCNJ5抗体の力価よりも低かった場合、被験対象がPAの罹患対象であるときは、被験対象を両側性PAの罹患対象とし;又は、被験対象がPAの罹患対象か否かが不明であるときは、被験対象を両側性PAに罹患している可能性がある対象と判定する。
【0055】
本発明の第三態様の方法では、抗体価測定工程及び対象検出工程を通じて、被験対象の両側性PAの罹患性又は罹患可能性を検査することができる。
【0056】
本発明の第二態様の方法及び第三態様の方法により、被験対象又はその血清が両側性PAの罹患対象又はその血清といえない場合、被験対象がPAの罹患対象であるときは、被験対象を片側性PAの罹患対象と判定することができる。ただし、この場合、被験対象がPAの罹患対象でないときは、被験対象は正常血圧対象、片側性PAの罹患対象などであることができ、判定できない。
【0057】
本発明の第一態様、第二態様及び第三態様の方法は、被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価に基づいて、本来、限られた施設でしか行うことができず、施術者に対して高度な手技及び経済的負担を要求し、さらに被験者にとっては心身共に負担の大きかった両側性PAか片側性PAかを、診断に依らずとも、簡便かつ経済的に有利であり、さらに被験対象にとって負担を軽くして、比較的早期に検査することが可能になる。
【0058】
被験対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定するために用いられるKCNJ5又はKCNJ5及びリポソームの複合体は、両側性PAの検査を行うための検査用試薬として用いることができる。また、該検査用試薬と、検体採取器具、検体処理液、発色基質などの試薬、検査に用いる器具などを含むキットは、両側性PAの検査を行うための検査用試薬キットとして利用可能である。したがって、本発明の別の態様は、KCNJ5又はKCNJ5及びリポシームの複合体を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法に使用する、両側性原発性アルドステロン症検査用試薬;及び、KCNJ5又はKCNJ5及びリポソームの複合体を用いて抗KCNJ5抗体を検出するための試薬を含む、両側性原発性アルドステロン症の検査方法に使用する、両側性原発性アルドステロン症検査用試薬キットである。
【0059】
さらに、被験物質の投与前後の両側性PAの罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価から、両側性PAの罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を増加する物質は、両側性PAを改善、緩和又は治療するために有効な物質であると期待される。そこで、本発明の別の態様は、被験物質を投与された両側性原発性アルドステロン症の罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を測定する工程と、両側性原発性アルドステロン症の罹患対象の血清における抗KCNJ5抗体の力価を増加する物質を選択する工程とを含む、両側性原発性アルドステロン症の治療薬のスクリーニング方法である。
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0061】
[1.試験方法及び結果の概要]
原発性アルドステロン症(Primary aldosteronism;PA)は、片側性アルドステロン産生腺腫又は両側性副腎過形成(特発性高アルドステロン症ともよばれる)に主に起因する内分泌性高血圧症の一般的な形態である。副腎静脈サンプリング(Adrenal venous sampling;AVS)は、手術の適応を判断するためにPAの片側性疾患と両側性疾患とを識別する現在唯一の信頼できるストラテジーである。
【0062】
AVSは困難であり、侵襲的かつ高価であるため、代わりの診断方法が望まれている。PAの自己免疫のメカニズムには、イオンチャネル及びATPaseが標的自己抗原として関与している可能性がある。このことについて、自己抗体の上昇により、片側性PA(n=78)、両側性PA(n=78)及び正常血圧者(Normotensives;NT;n=34)の識別を試みた。
【0063】
具体的には、これらの被験者から採取した血清におけるタンパク質ATP1A1、ATP2B3、CACNA1D、CACNA1H、KCNJ5及びAGTR1に対する抗体の力価(抗体価)を測定し、3群間で比較検討した。結果として、これらのうち、KCNJ5の抗体価は、受信者動作特性曲線(ROC曲線)の下面積が0.842となり、最も高い値を示した(感度/特異度:0.756/0.893)。しかし、予想に反して、両側性PAにおけるKCNJ5の抗体価は、片側性PA及び正常血圧の被験者よりも有意に低かった。この結果から、末梢血中のKCNJ5の抗体価は、PAサブタイプの同定に有用であることがわかった。
【0064】
[2.試験方法]
(2-1)被験者
被験者として、片側性PA患者は78人であり、両側性PA患者は78人であり、正常血圧者は34人であった。試験には、被験者の腕の静脈から採取した血液を遠心分離して得た上清である血清試料を使用した。血漿アルドステロン濃度(pg/mL)及び血漿レニン活性(ng/mL/h)の比が200を超えるものをPAのスクリーニングに使用した。PAの診断は、日本高血圧学会(JSH)により発行されたガイドライン2014年に従って、カプトプリル試験、フロセミド立位試験及び/又は生理食塩水注入試験により確認した。
【0065】
PA患者について、コンピューター断層撮影スキャンを実施し、AVSを行った。カテーテル挿入の成功を判断するカットオフ選択性指数は、ACTH刺激の前及び後で、それぞれ2以上及び5以上であった。ACTH刺激の前及び後の両方のAVSの基準を満たした場合に、片側性アルドステロン過剰産生と診断した。片側性PAは、ACTH刺激前のAVSでは側性指標(Lateralization index:LI)≧2、かつ対側性指数(Contralateral index:CI)<1であり、及びACTH刺激後のAVSではLI≧4、かつCI<1と定義した。
【0066】
可能な限り、患者は無治療又は降圧療法開始前であった。必要に応じて、カルシウムチャネル遮断薬又はα-アドレナリン遮断薬を単独又は組み合わせて使用して血圧を制御した。参加者全員が文書によるインフォームドコンセントを行い、このプロトコルは金沢大学附属病院、横浜労災病院及び木村病院の地方倫理委員会により承認された。
【0067】
(2-2)コムギ無細胞タンパク質合成及び膜タンパク質の精製
ヒト膜タンパク質(ATP1A1、ATP2B3、CACNA1D、CACNA1H、KCNJ5及びAGTR1)遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)を、哺乳類遺伝子コレクション(文献10)の完全長cDNAクローン又は「Flexi ORFクローン」(プロメガ社製;文献11)をテンプレートとして使用したPCRによって増幅した。
【0068】
増幅したPCR産物を、「In-Fusionシステム」(タカラ社製)を使用して、pEU-E01ベクターにサブクローニングした。SP6ポリメラーゼを用いて、in vitro転写を行った。アゾレクチンの前処理を、文献13の記載に準じて実施した。
【0069】
文献12及び文献13に従い、二層法を以下のとおりに実施した。
反応混合物 500μL(WEPRO7240小麦胚芽抽出物 125μL、mRNA 125μL、クレアチンキナーゼ 40μg/mL、アゾレクチンリポソーム 10mg/mL)を、「10K MWCO Slide-A-Lyzer透析デバイス」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)において、「SUB-AMIX SGC溶液」(セルフリーサイエンス社製)2mLと重層し、次いでカップを3.5mLの透析液(SUB-AMIX SGC溶液)に浸した。この反応を、15℃にて48時間行った。この透析液は24時間後に交換した。
【0070】
無細胞合成膜タンパク質の精製は、以下のとおりに行った。
膜タンパク質/リポソーム複合体を、20,000×g、4℃にて10分間遠心分離して回収し、得られたペレットを滅菌済みPBSで3回洗浄した。生化学的アッセイ及び免疫付与のために、最終的に、ペレットを少量の滅菌済みPBSに再懸濁した。さらに精製するために、膜タンパク質を可溶化し、SECによって精製した(文献14及び文献15を参照)。
【0071】
部分精製した膜タンパク質/リポソーム複合体を上記と同じ条件の遠心分離処理に供して回収し、ペレットを300μLの可溶化液(150mM重炭酸ナトリウム、750mM NaCl、4%(w/v)DDM、10%グリセロール、1mMジチオスレイトール)に懸濁した。次いで、得られた懸濁液を、「SONIFIER model 450 Advanced」(ブランソン社製)を用いて20℃にて15分間超音波処理した後、14,000×g、4℃にて15分間の遠心分離処理に供した。
【0072】
可溶化した膜タンパク質を含有する上清を回収し、「Superdex 200 10/300 24mL SECカラム」(GEヘルスケア社製)に充填し、20mM Hepes-NaOH(pH 7.0)、250mM NaCl、10%グリセロール、1mM DTT及び0.014%(w/v)3×CMC fos-choline-14(アフィメトリクス社製)を含有するSECバッファーを用いて溶出した。ゲルろ過マーカー(12,000Da~200,000Da;シグマ社製)を分子量マーカーとして使用した。各フラクションのA280を分光光度計「DU640」(ベックマン・コールター社製)により測定した。
【0073】
(2-3)ビオチン化リポソームを用いた相互作用アッセイ(Biotinylated liposome-based interaction assay:BiLIA)
抗体価を測定するために、ビオチン化リポソームの表面の抗体及び膜の間の相互作用をAlphaScreen法によってアッセイした。
「Biotin-cap DPPE」(アバンティ社製)及びアゾレクチン(シグマ社製)をそれぞれクロロホルムに可溶化して、バイアル中で混合した(1:99(w/w))。クロロホルムを窒素気流で蒸発し、脂質薄膜を1時間以上真空下で完全に乾燥した。次いで、SUB-AMIX SGC溶液(100mg脂質/mL)を加えて脂質薄膜を水和し、ビオチン化リポソームを超音波処理によりホモジナイズした。アゾレクチンリポソームの代わりにビオチン化リポソームを用いて、タンパク質/ビオチン化リポソーム複合体を二層法で合成した。
【0074】
タンパク質/ビオチン化リポソーム複合体 1μLを、100mM Tris-HCl(pH 8.0)、100mM NaCl及び1mg/mL BSA中の血清 2μLと、「AlphaScreenストレプトアビジン被覆ドナービーズ」0.1μL、及び「AlphaScreenタンパク質G結合アクセプタービーズ」(ともにパーキンエルマー社製)0.1μLとを、25μLの反応混合物中で混合した。25℃にて、暗室で1時間インキュベーションした後、AlphaScreen化学発光シグナルを「Nivoリーダー」(パーキンエルマー社製)で検出した。
【0075】
(2-4)統計解析
群間の変数は、クラスカル・ウォリス(Kruskal-Wallis)検定及びスティール・ドゥワス(Steel.Dwass)多重比較検定による事後検定で解析した。診断能力を評価するために、受信者動作特性(Receiver operating characteristic:ROC)分析を実施した。ROC曲線は、曲線下面積(area under the curve:AUC)で比較した。統計的有意差はP≦0.05とした。
【0076】
[3.実験結果]
(3-1)PA患者及び正常血圧(NT)者の臨床指標
PA患者を片側性PA患者及び両側性PA患者に分けたデータを表1に示す。以下、表中において、AUCは曲線下面積を示し、CIは信頼区間を示す。
【0077】
【0078】
(3-2)膜タンパク質のBiLIAによる定量化
片側性PA患者、両側性PA患者及びNT者について、血清中の完全長ヒト組換え膜タンパク質のエピトープを認識する自己抗体を、BiLIAを用いて測定した。片側性PA患者、両側性PA患者及びNT者を試験群とする、ATP1A1、ATP2B3、CACNA1D、CACNA1H、KCNJ5及びAGTR1の抗体価を測定した結果を
図1に示す。
【0079】
図1に示すとおり、試験した抗体のうち、KCNJ5に対する抗体のみが、両側性PA患者と片側性PA患者又はNT者との間に有意な差が認められた。しかし、片側性PA患者及びNT者の間では、有意な差が認められなかった。
【0080】
ATP1A1、ATP2B3、CACNA1D、CACNA1H、KCNJ5及びAGTR1に対する抗体の抗体価について、両側性PA患者の抗体価(Sensitivity)と片側性PA患者及びNT者の抗体価(Specificity)との関係性を、ROC曲線により感度・特異度曲線の交点(感度=特異度)を求め、その点をカットオフ値とした。結果を表2に示す。また、KCNJ5の抗体価のROC曲線を
図2に示す。
【0081】
【0082】
表2及び
図2に示すとおり、KCNJ5の抗体価は、他のタンパク質の抗体価に比べて、ROC曲線によるAUC及び95%CIが大きかった。これらの結果を総合すると、被験者の血清を用いてKCNJ5の抗体価を測定することにより、被験者のKCNJ5の抗体価がNT者のKCNJ5の抗体価より低い場合は、被験者が両側性PAに罹患している可能性が高いと判定することが可能であることがわかった。
【0083】
引用した文献10~15は以下のとおりである。
文献10:Strausberg RL et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2002;99(26):16899-16903.
文献11:Nagase T et al., DNA Res. 2008;15(3):137-149.
文献12:Takai K et al., Nat. Protoc. 2010;5(2):227-238.
文献13:Nozawa A et al., BMC Biotechnol. 2011;11. doi:10.1186/1472-6750-11-35.
文献14:Hino T et al., Nature 2012;482(7384):237-240.
文献15:Kaiser L et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2008;105(41):15726-15731.
本発明の一態様の方法を利用することにより、簡便かつ安価に、さらに被験対象にとって負担を軽くして、被験対象のPAサブタイプを検査することができることから、被験対象の治療ストラテジーを迅速かつ有効に決定して、これにより被験対象のPAを効率的に治療することが可能であり、PA罹患対象の健康及び福祉に資することが可能である。