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特開2024-22945レーダシステム及びレーダ信号処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022945
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20240214BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20240214BHJP
   G01S 13/28 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01S7/292 202
G01S7/02 216
G01S13/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126405
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AC02
5J070AC06
5J070AD10
5J070AG01
5J070AG03
5J070AG07
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】 長時間積分時にも、少ない処理規模で、高データレートの観測を実現する。
【解決手段】 実施形態に係るレーダシステムは、サブアレイを含む1個のアンテナで観測できる範囲をFOVとし、M(M≧1)個のアンテナをサブアレイの単位としてFOVをM分割し、それぞれのFOV分割単位に、CPI単位のビームポジション毎に間引き率を設定して、ランダムにビームポジションを変えて送受信し、各々のビームポジション単位のCPIでslow-time軸で第1FFT処理を行い、既に処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、その結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のRDデータであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて目標検出を行い、CPI単位毎に目標情報を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、前記送受信されたslow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、CPI(Coherent Pulse Interval)としてパルス列または連続波を送受信するレーダシステムにおいて、
サブアレイを含む1個のアンテナで観測できる範囲FOVをM(M≧1)分割したM個のサブアレイの単位とし、それぞれのFOV分割単位に、CPI単位のビームポジション毎に間引き率を設定して、ランダムにビームポジションを変えて送受信する送受信手段と、
前記ビームポジションの単位のCPIでslow-time軸で第1FFT(Fast Fourier Transform)処理を行う第1FFT処理手段と、
前記第1FFT処理手段で処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行う第2FFT処理手段と、
前記第2FFT処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のレンジ-ドップラデータであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて目標検出を行い、CPI単位毎に目標情報を出力する検出手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項2】
前記検出手段は、前記RD(cpim:cpim≧1)のうち、連続するQ通りのRD(cpim-Q+1~cpim)の振幅乗算結果を用いて目標検出を行い、検出したRDデータのRD(cpim)のレンジ-ドップセルを用いて目標検出を行う請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、前記送受信されたslow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、CPI(Coherent Pulse Interval)としてパルス列または連続波を送受信するレーダシステムにおいて、
サブアレイを含む1個のアンテナで観測できる範囲FOVをM(M≧1)分割したM個のサブアレイの単位とし、それぞれのFOV分割単位に、CPI単位のビームポジション毎に間引き率を設定して、ランダムにビームポジションを変えて送受信する送受信手段と、
前記ビームポジションの単位のCPIでslow-time軸でFFT(Fast Fourier Transform)処理を行うFFT処理手段と、
前記FFT処理手段で処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントのCS(Compressed Sensing)処理を行うCS処理手段と、
前記CS処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のレンジ-ドップラデータであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて目標検出を行い、CPI単位毎に目標情報を出力する検出手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項4】
単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、前記送受信されたslow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、CPI(Coherent Pulse Interval)としてパルス列または連続波を送受信するレーダ信号処理方法において、
サブアレイを含む1個のアンテナで観測できる範囲FOVをM(M≧1)分割したM個のサブアレイの単位とし、それぞれのFOV分割単位に、CPI単位のビームポジション毎に間引き率を設定して、ランダムにビームポジションを変えて送受信し、
前記ビームポジションの単位のCPIでslow-time軸で第1FFT(Fast Fourier Transform)処理を行い、
前記第1FFT処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、
前記第2FFT処理の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のレンジ-ドップラデータであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて目標検出を行い、CPI単位毎に目標情報を出力する
レーダ信号処理方法。
【請求項5】
前記RD(cpim:cpim≧1)のうち、連続するQ通りのRD(cpim-Q+1~cpim)の振幅乗算結果を用いて目標検出を行い、検出したRDデータのRD(cpim)のレンジ-ドップセルを用いて目標検出を行う請求項4記載のレーダ信号処理方法。
【請求項6】
単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、前記送受信されたslow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、CPI(Coherent Pulse Interval)としてパルス列または連続波を送受信するレーダ信号処理方法において、
サブアレイを含む1個のアンテナで観測できる範囲FOVをM(M≧1)分割したM個のサブアレイの単位とし、それぞれのFOV分割単位に、CPI単位のビームポジション毎に間引き率を設定して、ランダムにビームポジションを変えて送受信し、
前記ビームポジションの単位のCPIでslow-time軸でFFT(Fast Fourier Transform)処理を行い、
前記FFT処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントのCS(Compressed Sensing)処理を行い、
前記CS処理の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のレンジ-ドップラデータであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて目標検出を行い、CPI単位毎に目標情報を出力する
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遠距離の小目標を検出するレーダシステムでは、積分ヒット数が多い場合や、PRI(Pulse Repetition Interval)が長くCPI(Coherent Pulse Interval)が長い長時間積分を行うと、1回のFFTポイント数が増えすぎて処理規模が増大し、実装できない場合があった。また、観測範囲FOV(Field Of View)が広い場合は、送受信ビームを時系列に送受信して観測する必要があるため、フレームタイムが長くなり、その逆数のデータレートが低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】レンジ圧縮:大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献3】FFT(Fast Fourier Transform):日野、‘スペクトル解析’、朝倉書店、pp.193-198(1977)
【非特許文献4】DBF(Digital Beam Forming):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.289-291(1996)
【非特許文献5】圧縮センシング:Toyoki Hoshikawa, ‘Performance Comparison of Compressed Sensing Algorithms for DOA Estimation of Multi-band Signals’, 2018 15TH WORKSHOP ON POSITIONING NAVIGATION AND COMMUNICATIONS(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のレーダシステムでは、長時間積分を行った場合の処理規模の増大、観測の低データレート化が問題となっている。
【0005】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で、高データレートの観測が可能なレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、実施形態によれば、以下のように構成される。
(1) 単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、前記送受信されたslow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、CPIとしてパルス列または連続波を送受信するレーダシステムにおいて、サブアレイを含む1個のアンテナで観測できる範囲をFOVとし、M(M≧1)個のアンテナをサブアレイの単位としてFOVをM分割し、それぞれのFOV分割単位に、CPI単位のビームポジション毎に間引き率を設定して、ランダムにビームポジションを変えて送受信し、各々のビームポジション単位のCPIでslow-time軸で第1FFT処理を行い、次に、既に処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、その結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のRD(レンジ-ドップラ)データであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて目標検出を行い、CPI単位毎に目標情報を出力する。
【0007】
すなわち、(1) の構成によるレーダシステムでは、観測範囲内にランダムにビ-ム走査し、ビームポジション毎に2段のFFT処理による少ないポイント数(データ長)のFFT処理を行うことで長時間FFTを実行するため、少ない処理規模で対応可能であり、CPI単位の高データレートで全観測範囲を観測することが可能となる。
【0008】
(2) (1) の構成によるレーダシステムにおいて、前記RD(cpim:cpim≧1)のうち、連続するQ通りのRD(cpim-Q+1~cpim)の振幅乗算結果を用いて目標検出を行い、検出したRDデータのRD(cpim)のレンジ-ドップセルを用いて測角等の処理を施して目標情報を出力する。
【0009】
すなわち、(2) の構成によるレーダシステムでは、(1)の構成における作用に加えて、連続するRDデータの乗算により、間引きFFTによるドップラ軸のサイドローブを低減することができ、誤検出を抑圧して目標を検出することができる。
【0010】
(3) (1) の構成によるレーダシステムにおいて、前記第1FFT処理後、既に処理したMs(Ms≧2)個のCPI分割単位を用いて、ドップラセル毎に対応したMsポイントをCS(Compressed Sensing)処理し、その結果を、元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果のRD(レンジ-ドップラ)データであるRD(cpim:cpim≧1)を用いて、CPI単位毎に目標情報を出力する。
【0011】
すなわち、(3) の構成によるレーダシステムでは、(1) の構成のドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理に代わり、ビームポジション毎にslow-time軸で第1のFFTの少ないポイント数(データ長)のドップラセル毎に対応したMsポイントをCS処理した上で長時間処理するため、処理規模も少なくてすみ、ドップラ軸サドローブの影響を抑圧して、CPI単位の高データレートで全観測範囲を観測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施形態に係るレーダシステムに適用される2段FFT処理を説明するための図である。
図4図4は、図3に示す2段FFT処理で、第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列した様子を示す図である。
図5図5は、図4に示す2段FFT処理の具体的な処理例を示す図である。
図6図6は、第1の実施形態に係るレーダシステムの2段FFT処理により、CPI単位で連続して目標情報を出力する様子を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態に係るレーダシステムの観測範囲内のビーム形成手法として、観測範囲を一度に観測するためのマルチビームを形成する場合について説明するための図である。
図8図8は、第1の実施形態に係るレーダシステムの観測範囲内のビーム形成手法として、観測範囲をサブアレイでビーム形成できる単位で分割し、その分割単位毎にDBFでマルチビームを形成する場合について説明するための図である。
図9図9は、図8に示すサブアレイのビーム走査の際に、ランダムに選定したビームポジション毎に任意に間引き率を設定する様子を示す図である。
図10図10は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図11図11は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図12図12は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、サブアレイのビーム走査の際に、ランダムに選定したビームポジション毎に任意に間引き率を設定する様子を示す図である。
図13図13は、第3の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図14図14は、第3の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図15図15は、第3の実施形態に係るレーダシステムに適用される2段FFT処理を説明するための図である。
図16図16は、図15に示す2段FFT処理で、第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列した様子を示す図である。
図17図17は、第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、サブアレイのビーム走査の際に、ランダムに選定したビームポジション毎に任意に間引き率を設定する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
以下、図1図9を参照して、第1の実施形態に係るレーダシステムを説明する。
【0015】
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図である。図1において、送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換した後、パルス変調器14でパルス変調してN(N≧2)ヒットのパルスによるレーダ信号を生成し、送信アンテナ15から空間に送出する。
【0016】
一方、受信系統は、受信アンテナ16でレーダ反射信号を受信し、周波数変換器17で受信信号をベースバンドに周波数変換し、AD変換器18でディジタル信号に変換する。次に、チャープ信号の場合はレンジ圧縮器19でパルス圧縮(非特許文献1参照)する。続いて、第1FFT処理器20において、slow-time軸(NsヒットのPRI軸)を分割し、分割単位でFFT処理してその結果をメモリ21にいったん保存し、更に第2FFT処理器22でslow-time軸のFFT処理を行って、目標検出器23でCFAR(非特許文献2参照)等により目標を検出し、検出された目標の情報を出力する。
【0017】
なお、上記送信アンテナ15及び受信アンテナ16は、それぞれサブアレイ化されており、いずれもビーム走査制御器24によってフルアレイ、サブアレイによるビーム形成及び走査制御が行われる。
【0018】
図2は、第1の実施形態に係るレーダシステムにおける送受信処理の流れを示すフローチャートである。まず、ビーム走査制御(24、ステップS11)で指定された送受信ビームが形成され、その受信信号がベースバンドでディジタル信号に変換されてレンジ圧縮によるパルス圧縮を受ける(19、ステップS12)。続いて、slow-time軸(NsヒットのPRI軸)をCPIで分割してFFT処理し(20、ステップS13)、その分割CPI結果をいったん保存し(21、ステップS14)、分割CPI単位でCPI分割を順次変更する(ステップS15、S16)。全分割CPIについて第1FFT処理が完了した場合には、slow-time軸の第2FFT処理を行って(22、ステップS17)、ドップラセル結果の置き換え・変更処理(ステップS18~S20)、レンジセルの変更処理(ステップS21、S22)を行い、CFAR等により目標検出処理を行い(23、ステップS23)、次のビーム走査に移行して(ステップS24、S25)、検出された目標の情報を出力する。
【0019】
ここで、2段FFT(第1FFTと第2FFT)について説明する。slow-time軸FFT処理を行う場合、長時間FFT処理を行うと、FFTポイント数(データ長)が増えるため、処理規模が増え(非特許文献3参照)、実装できなくなる場合がある。この対策として、slow-time軸を分割することを考える。例えば、データがCPI単位で入力される場合は、分割単位をCPIとすれば実装しやすい。
【0020】
図3乃至図6を参照して、slow-time軸の分割による2段FFT処理について説明する。図3は、第1の実施形態に係るレーダシステムに適用される2段FFT処理を説明するための図、図4は、図3に示す2段FFT処理で、第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列した様子を示す図、図5は、図4に示す2段FFT処理の具体的な処理例を示す図、図6は、2段FFT処理によりCPI単位で連続して目標情報を出力する様子を示す図である。
【0021】
図3を参照して、2段FFT処理について定式化する。図3において、(a)はslow-time軸のCPI分割、(b)は1段ドップラ軸での第1FFT処理結果、(c)は1段ドップラ軸での並べ替え結果、(d)は2段ドップラ軸での第2FFT処理結果を示している。入力信号は(1)式で表され、第1FFT処理結果は(2)式で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
次に、図3(c)に示すように、slow-time軸で分割単位の第2FFT処理を実施する。
【0025】
【数3】
【0026】
このFFT処理結果は、図4(a)に示すようになり、図4(b)に示すように、第1FFTのバンク毎に分割して配列すると、slow-time軸全体のFFTと同一の結果が得られる。この様子を図5に示す。すなわち、ドップラ-レンジ(Nfセル)軸における第1FFT処理結果(データ長Ls)#1~#Msについて、Msポイントの第2FFT処理を行うと、Ns=Ls×Msバンクの処理結果が得られる。
【0027】
この2段FFTを用いれば、図6に示すように、Ds番目の観測フレームの際に、Ds番目のCPI信号を入力し、Ds-Ms番目のCPIを削除して、Ms個のCPIの第2FFT処理結果を出力すれば、CPI単位で連続して目標情報を出力することができる。
【0028】
次に、図7乃至図9により、観測範囲内のビーム形成手法を考える。図7は、第1の実施形態に係るレーダシステムの観測範囲内のビーム形成手法として、観測範囲を一度に観測するためのマルチビームを形成する場合について説明するための図、図8は、第1の実施形態に係るレーダシステムの観測範囲内のビーム形成手法として、観測範囲をサブアレイでビーム形成できる単位で分割し、その分割単位毎にDBFでマルチビームを形成する場合について説明するための図、図9は、図8に示すサブアレイのビーム走査の際に、ランダムに選定したビームポジション毎に任意に間引き率を設定する様子を示す図である。
【0029】
一般に観測範囲を観測するには、送信及び受信のペンシルビームを観測範囲内に時系列に走査して観測する。この際、観測範囲が広く、長時間積分すると、データレートが低下する。この対策として、図7(a)に示すように、送信は観測範囲を覆うファンビームとし、受信は受信素子単位でディジタル信号に変換してビーム形成すれば、図7(b)に示すように、観測範囲を一度に観測するためのペンシルビームによるマルチビームを形成できる。この受信ビームは常時全観測範囲を観測しているため、CPI単位で連続して観測範囲内の全ビームポジションの結果を出力できる。ただし、各アンテナ素子に周波数変換及びAD変換を備えるフルDBFの構成であり、HWの規模が増大する問題がる。これに対して、図8(a)に示すように、サブアレイ単位で、周波数変換及びAD変換を備えるサブアレイDBFの構成がある。このサブアレイ内では、送信用と受信用の移相器を備え、サブアレイ単位でビーム走査できる。観測範囲をサブアレイでビーム形成できる単位で分割し、その分割単位毎にDBFでマルチビームを形成すれば、図8(b)に示すように、送信はサブアレイで決まるビ-ム幅のペンシルビーム、受信はサブアレイで決まるビーム幅内に更に細いビーム幅のマルチビームを形成できる。このサブアレイビームを順次走査すれば、図7(b)と同様の全観測範囲を覆うペンシルビームによるマルチビームを形成できることになる。
【0030】
このサブアレイのビーム走査の際には、図9(a)に示すように、各ビームポジションをランダムに選定し、ビームポジション毎に、任意に間引き率を設定して間引きしたCPI列を形成する。間引き率は、ビームポジション毎にデータレートを高くしたい領域は小さくし、データレートを遅くしてよいポジションは間引き率を大きくする。ビームポジション毎に、前述した2段FFT処理を用いて長時間積分すると、図9(b)、(c)に示すようにレンジセル毎にドップラ軸の信号が得られる。間引きによりデータが無い部分は、0埋めまたは熱雑音レベルの信号とする。このレンジ-ドップラ信号を用いて、CFAR等により検出して、レンジセルより測距できる。また、PRFで決まる速度(V=PRF×波長/2)以下であれば、検出したドップラセルより測速できる。Σビーム以外に、アンテナ全開口を開口4分割してΔAZビームとΔELビームを形成すれば、検出セルを用いて、モノパルス測角もできる。これにより、観測範囲全体の目標信号をCPI単位の適切なデータレートで出力できる。ビームポジション毎の間引き率を均等に設定すれば、観測範囲全体を高データレートに観測することができる。
【0031】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、サブアレイを用いて、観測範囲にサブアレイビ-ムを時系列にランダムに送受信して、高データレートに目標情報を出力する方式について述べた。この方式では、slow-time軸で間引いた信号のFFTとなるため、ドップラ軸のサイドローブが上昇し、誤検出が発生する場合がある。本実施形態では、図10乃至図12を参照してその対策について述べる。
【0032】
図10は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図、図11は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャート、図12は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、サブアレイのビーム走査の際に、ランダムに選定したビームポジション毎に任意に間引き率を設定する様子を示す図である。図10図11図12において、図1図2図9と同一部分には同一符号を付して示し、重複する説明は省略する。
【0033】
本実施形態では、図10に示す乗算器25、図11のステップS26において、slow-time軸第2FFT処理結果の連続RDデータをドップラ軸で乗算した上で、CFAR等による目標検出を行う。
【0034】
すなわち、第1の実施形態では、CPI毎に、図9(b)、(c)に示すドップラ軸のデータを用いて、検出していた。このドップラ軸のデータは、メインローブの位置は同じであるが、長時間積分した間引きの位置によりサイドローブの位置が異なる。したがって、連続したCPI毎のサイドローブの位置は異なっていることになる。これを利用して、連続したCPI毎のドップラ軸のデータを振幅乗算すれば、図12(d)に示すように、メインローブはそのままで、サイドローブを抑圧できることになる。
【0035】
なお、上記の説明では、連続したCPIとしたが、必ずしも連続したCPIデータである必要はなく、また、3CPI以上の乗算でもよい。レンジセル毎に乗算すれば、ドップラ軸サイドローブを抑圧したレンジ-ドップラデータを得ることができるため、CFAR等により検出セルを抽出でき、測距、測速できる。検出セルがわかれば、乗算前のΣ、ΔAZ及びΔELビームのレンジ-ドップラデータの検出セルを用いて、測角することができ、目標情報を出力することができる。
【0036】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、CPI毎に第1FFT処理を行った後、CPI間では、第2FFT処理を行って、長時間積分結果を得る方式について述べた。この場合、CPI単位の間引きにより、ドップラ軸サイドローブが上昇する場合がある。その対策として、本実施形態では、図13乃至図17を参照してCS(非特許文献5)処理を用いる方式について述べる。
【0037】
図13は、第3の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図、図14は、第3の実施形態に係るレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャート、図15は、第3の実施形態に係るレーダシステムに適用される2段FFT処理を説明するための図、図16は、図15に示す2段FFT処理で、第1のFFT処理出力のバンク毎に第2のFFT処理結果を配列した様子を示す図、図17は、第3の実施形態に係るレーダシステムにおいて、サブアレイのビーム走査の際に、ランダムに選定したビームポジション毎に任意に間引き率を設定する様子を示す図である。図13図14図15図16図17において、それぞれ図1図2図3図4図9と同一部分には同一符号を付して示し、重複する説明は省略する。
【0038】
本実施形態では、図13に示すCS処理器26、図14に示すステップS27において、第1の実施形態の第2FFT処理に代わってslow-time軸CS処理を行う。
【0039】
図15は、第1の実施形態と同様にCPI単位でslow-time軸FFT処理し、並べ替えた結果を示しており、図15において、(a)はslow-time軸のCPI分割、(b)は1段ドップラ軸での第1FFT処理結果、(c)は1段ドップラ軸での並べ替え結果、(d)は2段ドップラ軸でのCS処理結果を示している。第1の実施形態では、並べ替えた結果に対して、第2FFTを適用したが、本実施形態では、CS処理を適用する。この処理について定式化する。
【0040】
まず、観測ベクトルをY、波源ベクトルをX,観測行列(辞書行列)をAとすると、次式で表現できる。ここで、観測ベクトルは、並べ替えたバンク毎のM個の入力に対応する。波源ベクトルは、各バンクを更にM分割した信号を表す。ここで、第2FFTに対応するためには、入力と出力をいずれもNにするが、CS処理の場合は、出力をN(N≧M)にして、高分解能化することも可能である。
【0041】
【数4】
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】

観測行列は、次式で与えられる。
【0044】
【数7】
【0045】
【数8】
【0046】
【数9】

ここで、nは波源の番号、mは各バンクの分割番号である。観測行列のn番目の列は、目標がxnに存在する場合に、受信する信号ベクトルに対応する。波源Xがスパース(離散的に波源が存在する)とすると、少ない次元数Mの観測ベクトルにより、多い次元数Nの波源を算出することができる。
【0047】
以上の処理により、図16に示すように、第1FFTのバンク毎にM分割した出力を得ることができる。この出力は、波源Xがスパースであることより、CS処理の解として算出できるため、図17に示すように、第2FFTに比べてドップラ軸サイドローブを抑圧した結果が得られる。
【0048】
以上の第1、第2、第3の実施形態では、簡単のために、1次元のサブアレイについて述べたが、2次元のサブアレイをN2分割する場合にも、同様の方式を拡張できるのは言うまでもない。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0050】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、16…受信アンテナ、17…周波数変換器、18…AD変換器、19…レンジ圧縮器、20…slow-time軸第1FFT処理器、21…第1FFT処理結果保存メモリ、22…slow-time軸第2FFT処理器、23…CFAR検出器、24…ビーム走査制御器、25…連続RDデータドップラ軸乗算器、26…slow-time軸CS処理器。
図1
図2
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図4
図5
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図17