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特開2024-22995樹脂の分解処理方法および分解処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022995
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】樹脂の分解処理方法および分解処理装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126497
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井田 至世
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 大吾
(72)【発明者】
【氏名】畝田 廣志
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA23
4F401AA24
4F401AA28
4F401CA07
4F401CA08
4F401CA58
4F401CA67
4F401CB11
4F401CB14
4F401CB18
4F401CB21
4F401CB26
4F401CB34
4F401CB35
4F401EA46
4F401FA01X
4F401FA01Y
4F401FA01Z
4F401FA02X
4F401FA02Y
(57)【要約】
【課題】安全で、効率的に樹脂の分解処理を実施できる樹脂の分解処理方法および分解処理装置を提供する。
【解決手段】シリンダ12、シリンダ12に熱可塑性樹脂を供給する樹脂供給部11、供給された熱可塑性樹脂および溶融可塑化した熱可塑性樹脂を搬送するスクリュ12a、溶融可塑化された熱可塑性樹脂を亜臨界状態または超臨界状態で分解処理するために、加熱および加圧状態の流体を、シリンダ内に供給する流体供給部13、シリンダ12の先端に設けられ、熱可塑性樹脂の分解物をシリンダの外部に排出する押出部14、スクリュ12aを回転駆動する回転駆動機構15、シリンダ12を冷却することができる冷却機構16、を有する樹脂の分解処理装置10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、樹脂の分解処理方法:
(a)シリンダ内で、熱可塑性樹脂を加熱および加圧して、溶融可塑化する工程;
(b)前記(a)工程の後、加熱および加圧された流体を、前記熱可塑性樹脂と混合する工程;
(c)前記(b)工程の後、前記流体により、前記熱可塑性樹脂を亜臨界状態または超臨界状態に晒すことで分解する工程;および
(d)前記(c)工程で得られた前記熱可塑性樹脂の分解物を、冷却水によって前記シリンダを冷却しながら、該シリンダの押出部から押出す工程。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂の分解処理方法において、
前記(b)工程において、前記加熱および加圧された流体は、亜臨界状態または超臨界状態として前記シリンダに供給される、樹脂の分解処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂の分解処理方法において、
前記冷却水による冷却は、前記(a)工程と同時または前記(a)工程よりも前に開始される、樹脂の分解処理方法。
【請求項4】
請求項1記載の樹脂の分解処理方法において、
前記冷却水による冷却は、前記(a)工程において、前記熱可塑性樹脂の温度、前記熱可塑性樹脂の圧力および前記シリンダの温度から選ばれる少なくとも1つを測定し、その測定値に応じて開始される、樹脂の分解処理方法。
【請求項5】
請求項1記載の樹脂の分解処理方法において、
前記冷却により、前記シリンダの温度を150℃以下とする、樹脂の分解処理方法。
【請求項6】
請求項1記載の樹脂の分解処理方法において、
前記冷却水の温度が、0.5~50℃である、樹脂の分解処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の樹脂の分解処理方法において、
前記冷却水は、前記シリンダの外周に循環して供給される冷却水である、樹脂の分解処理方法。
【請求項8】
請求項1記載の樹脂の分解処理方法において、
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂である、樹脂の分解処理方法。
【請求項9】
以下を含む、樹脂の分解処理装置:
シリンダ;
前記シリンダ内に配置され、熱可塑性樹脂を混練及び搬送可能なスクリュ;
前記シリンダに設けられた、前記熱可塑性樹脂の分解物を前記シリンダの外部に押出すための押出部;および
前記シリンダを冷却するための冷却機構。
【請求項10】
請求項9記載の樹脂の分解処理装置において、
前記冷却機構は、前記シリンダの外周に冷却水を循環させるように構成されている、樹脂の分解処理装置。
【請求項11】
請求項9記載の樹脂の分解処理装置において、
前記樹脂供給部と前記流体供給部との間に設けられた前記シリンダにおいて、前記熱可塑性樹脂の温度を測定する樹脂温度計、前記熱可塑性樹脂の圧力を測定する樹脂圧力計および前記シリンダの温度を測定するシリンダ温度計から選ばれる少なくとも1つを有し、その測定値の変化に応じて、前記冷却機構による冷却を開始する制御部を有する、樹脂の分解処理装置。
【請求項12】
以下を含む、樹脂の分解処理装置:
熱可塑性樹脂を供給するための樹脂供給部を有するシリンダ;
前記シリンダ内に配置され、前記熱可塑性樹脂を混練及び搬送可能なスクリュ;
前記シリンダに設けられた、前記熱可塑性樹脂の分解物を前記シリンダの外部に押出すための押出部;および
前記樹脂供給部の上方に配置されたホッパ、
ここで、前記ホッパは、
前記樹脂供給部を覆うように設けられた、開口部を有するカバーと、
前記カバーの上部に設けられた樹脂投入口を含み、
前記開口部と前記樹脂投入口は異なる方向に位置している。
【請求項13】
請求項12に記載の分解処理装置において、
前記ホッパの前記開口部と前記樹脂投入口は、開口方向が直交する方向に位置している、樹脂の分解処理装置。
【請求項14】
請求項12に記載の分解処理装置において、
前記ホッパの前記樹脂投入口は前記樹脂供給部の鉛直上方に位置している、樹脂の分解処理装置。
【請求項15】
請求項12記載の樹脂の分解処理装置において、
前記カバーは、前記樹脂投入口の下端開口部が設けられた水平面において、前記下端開口部の面積に対して、前記カバーの面積(前記下端開口部の面積は除く)が3倍以上である、樹脂の分解処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の分解処理方法および分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック製品は非常に幅広い分野で使用されており、その使用量は膨大なものとなっている。一方で、プラスチック製品の廃棄処理にはコストがかかり、また、自然環境下に放置される等により河川や海域等にその成分が流出したりすることにより環境への影響も問題となっている。
【0003】
そのため、各種樹脂は、それをリサイクルにより資源を有効利用することが種々検討されてきており、例えば、2軸押出機を用いてアクリル樹脂を熱分解することにより得られるモノマーを回収、再利用する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、樹脂の分解処理方法として、亜臨界状態または超臨界状態の流体に晒すことでモノマーを得る方法も研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-106427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、亜臨界状態や超臨界状態を利用する場合、用いる液体(流体)に応じて所定の温度および圧力とする必要があり、通常、高温および高圧条件となるため、その用途に用いられる分解処理装置は、密閉等されたものが検討される。
【0007】
一方で、そのような亜臨界状態や超臨界状態に耐えうる分解処理装置を用意するとなると、例えば、専用の装置を作製しなければならない等、初期コストが嵩み、トータルの処理コストも高くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、上記のような樹脂のリサイクルを促進するために効率的に樹脂の分解処理を実施できる樹脂の分解処理方法および分解処理装置を提供することである。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される一実施の形態によれば、樹脂の分解処理方法は、(a)熱可塑性樹脂を、樹脂供給部からシリンダに供給する工程、(b)シリンダ内で、供給された熱可塑性樹脂を加熱および加圧して、溶融可塑化する工程、(c)加熱および加圧された流体を、流体供給部から溶融可塑化された熱可塑性樹脂に供給し、混合する工程、(d)供給された流体により、溶融可塑化された熱可塑性樹脂を亜臨界状態または超臨界状態に晒すことで分解する工程、および(e)(d)工程で得られた熱可塑性樹脂の分解物を、シリンダの先端に設けられた押出部から押出す工程、を有する。
【0011】
ここで、この分解処理方法では、樹脂供給部から流体供給部の間において、シリンダを冷却水により冷却する。
【0012】
本願において開示される一実施の形態によれば、樹脂の分解処理装置は、シリンダ;シリンダに、分解処理の対象である熱可塑性樹脂を供給する樹脂供給部、シリンダにおいて、供給された熱可塑性樹脂および溶融可塑化した熱可塑性樹脂を搬送するスクリュ、溶融可塑化された熱可塑性樹脂を亜臨界状態または超臨界状態で分解処理するために、加熱および加圧状態の流体を、シリンダ内に供給する流体供給部、シリンダの先端に設けられ、熱可塑性樹脂の分解物をシリンダの外部に押出す押出部、および樹脂供給部と流体供給部との間に設けられ、シリンダを冷却することができる冷却機構を有する。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される一実施の形態によれば、効率的に実施できる樹脂の分解処理方法および分解処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1の樹脂の分解処理装置の概略構成を示す側面図である。
図2図1の分解処理装置のシリンダ内に配置されたスクリュを説明するための側面視したときの図である。
図3図1の分解処理装置における、逆流発生状態を説明するための図である。
図4図1の分解処理装置における、逆流発生状態を説明するための図である。
図5】実施の形態1の樹脂の分解処理装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図6】樹脂供給部に取り付けることができる、安全ホッパの概略構成を示した斜視図である。
図7】下端開口部の水平面での切断面における、下端開口部とカバーの大きさの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
<検討の経緯>
まずは、本願発明の検討の経緯について説明する。
【0017】
上記のように、亜臨界状態または超臨界状態の流体により樹脂を分解処理する場合には、通常は、その処理条件に耐えうる密閉された処理容器を用意して行うことが多い。しかしながら、本発明者らは、樹脂材料を形成する際に用いられる樹脂押出装置を、この樹脂の分解処理に用いることができないか検討した。
【0018】
すなわち、本発明者らは、このような樹脂の押出装置を利用することで、樹脂の分解処理に特殊な処理容器を用意することなく、既存の押出装置をそのまま、または、分解処理に適するようにわずかな改変で、樹脂の分解処理を連続的かつ効率的に行うことができるのではないかと考えた。
【0019】
押出装置は、通常、筒状のシリンダの一方から原料となる熱可塑性樹脂を供給し、これをシリンダ内で徐々に加熱、混練し、溶融可塑化した樹脂をスクリュで搬送する。そして、溶融可塑化した樹脂は、シリンダ内を搬送されるうちに十分に混練され、均一に混ざった樹脂材料としてシリンダの先端に設けられたダイスから押し出される。このシリンダ内は、加熱、加圧された条件となるため、上記樹脂の分解処理においても、装置をそのまま利用し、シリンダ内において亜臨界状態や超臨界状態の流体と樹脂とを混合することで分解処理が可能であることが想定された。
【0020】
実際に、本発明者らはそのような条件での樹脂の分解処理を試してみたところ、シリンダ内で亜臨界状態を維持することができ、また、樹脂の分解処理も行うことができることを確認した。
【0021】
ところが、この分解処理を継続したところ、押出装置の樹脂供給部から、溶融可塑化した樹脂および溶融前の樹脂が逆流して噴出することがあった。これは、押出装置の樹脂供給部側は、通常、密閉されておらず、大気に解放された状態であり、シリンダ内で溶融可塑化した溶融樹脂の圧力が、樹脂供給部側の溶融前樹脂の圧力よりも大きくなってしまうためと考えられる。
【0022】
そこで、押出装置を使用して亜臨界状態による樹脂の分解処理を行う際においても、溶融可塑化した樹脂が逆流することなく、樹脂の分解処理を継続、安心して実施できる分解処理装置を提供するため、各種検討を行い、逆流を抑制し得る樹脂の分解処理方法および分解処理装置を見出した。以下、本実施の形態における樹脂の分解処理装置および分解処理方法について、詳細に説明する。
【0023】
<実施の形態>
[樹脂の分解処理装置]
図1は、本実施の形態の樹脂の分解処理装置の構成例を示す図である。図2は、図1に示した樹脂の分解処理装置のシリンダ内に配置されたスクリュを説明するための図であり、側面視したときの図である。
【0024】
図1に示した樹脂の分解処理装置10は、分解対象の樹脂を亜臨界状態または超臨界状態の流体に晒して分解処理するために使用される装置である。
【0025】
この樹脂の分解処理装置10は、樹脂供給部11と、スクリュを有するシリンダ12と、シリンダ12に流体を供給する流体供給部13と、押出部14と、シリンダ12のスクリュを駆動する回転駆動機構15と、冷却機構16と、を有する。
【0026】
樹脂供給部11は、分解対象の樹脂を、シリンダ12へ供給するものである。本実施の形態では、分解対象の樹脂として、熱可塑性樹脂が供給される。供給される熱可塑性樹脂としては、ペレット、粉末、フレーク等の種々の形態のものが用いられ、例えば、フィーダー等によりホッパを有する樹脂供給部11に上部から投入され、シリンダ12内へ供給される。以下、供給される熱可塑性樹脂がペレットの場合を例に説明する。
【0027】
シリンダ12は、内部にスクリュ12aを有する。図2には、図1の樹脂の分解処理装置10のシリンダ12の内部構造がわかるように、シリンダ12を断面視した図を示している。なお、図2のシリンダ12には、流体供給部13が配置される流体供給孔12bも示している。
【0028】
このスクリュ12aを回転させることにより、供給された樹脂が、シリンダ12の内部を押出部14側(下流側)に徐々に搬送される。このスクリュ12aとしては2本のスクリュを設けた二軸スクリュを用いると、二軸押出装置を構成できる。二軸押出装置は、スクリュの回転速度やバレル設定温度などの運転条件が自由に変更できる柔軟性があり、また、高い搬送性、連続処理性などの種々の利点を有する。
【0029】
シリンダ12は、例えば、複数のシリンダブロックが連結されて構成され、各シリンダブロックには、内部に熱可塑性樹脂を搬送可能な空間が設けられている。この空間には、スクリュ12aが設けられており、スクリュ12aは、回転駆動機構15に接続されている。この回転駆動機構15によりスクリュ12aを回転させて、シリンダ12において分解対象の樹脂を搬送できる。
【0030】
また、シリンダ12は、その温度を調節できるようにヒータが設けられている。分解対象である熱可塑性樹脂は、樹脂供給部11から押出部14側に向かって搬送されるが、その際、上記ヒータにより徐々に加熱されて、溶融可塑化された熱可塑性樹脂が容易に得られる。また、このように得られた溶融可塑化された熱可塑性樹脂はシリンダ12内を容易に搬送可能となり、さらに下流側に搬送される。
【0031】
また、シリンダ12内の溶融樹脂及び流体供給部13から供給された流体はスクリュ12aにより昇圧され、亜臨界状態または超臨界状態に達する。
【0032】
途中、後述する流体供給部13により流体が供給されると、溶融可塑化された熱可塑性樹脂と流体とが混合され、このとき上記したようにシリンダ12に設けられているヒータおよびスクリュによってシリンダ12内が所定の温度および圧力に調節され、亜臨界状態または超臨界状態となる。そして、この亜臨界状態または超臨界状態のまま、さらにシリンダ12内を搬送しながら、熱可塑性樹脂の分解処理を進行させるようにする。
【0033】
流体供給部13は、シリンダ12内に加熱および加圧された流体を供給するものである。この流体供給部13は、熱可塑性樹脂がシリンダ12内で溶融可塑化された後に、シリンダ12内に供給されるように配置される。
【0034】
この流体供給部13から供給される流体により、その下流側において、溶融可塑化された熱可塑性樹脂が亜臨界状態または超臨界状態の流体に晒されて、分解される。なお、流体供給部13から供給する流体は、シリンダ12内で亜臨界状態または超臨界状態となるようにすればよく、シリンダ12への供給の直前においては、亜臨界状態または超臨界状態とまでなっていなくてもよい。なお、この供給される流体は、シリンダ12への供給前に亜臨界状態または超臨界状態としておき、その状態を維持したままシリンダ12内へ供給すると、流体の供給直後から溶融可塑化された熱可塑性樹脂の分解が開始されるため、好ましい。
【0035】
上記のように溶融可塑化された熱可塑性樹脂に添加されるが、このときシリンダ12内は加熱および加圧されているため、ここで供給される流体は、その圧力に抗してシリンダ12内へ供給される。すなわち、この流体は、流体供給部13が設けられたシリンダ12内の圧力よりも大きな圧力を有するように加圧され、流体供給部13からシリンダ12内へ供給される。
【0036】
また、上記したように流体が供給された後、亜臨界状態または超臨界状態とするため、供給される流体は、流体供給部13における溶融可塑化された熱可塑性樹脂の温度と同等またはそれよりも高い温度であることが好ましい。
【0037】
したがって、流体供給部13は、供給する流体を所定の加熱状態とできる加熱手段が設けられていることが好ましい。例えば、図1には、流体供給部13が加熱水製造装置13aに接続されている図を示している。このように加熱水製造装置13aにより、所定の加熱状態とした流体を製造し、得られた流体を、プランジャポンプ等のポンプにより配管を通して流体供給部13からシリンダ12内へ供給できるようにすればよい。
【0038】
押出部14は、シリンダ12内を搬送されてきた熱可塑性樹脂の分解物を分解処理装置10の外部に排出する部材であり、押出用の孔または押出口の絞りを有する。押出部14は装置内の圧力を保持しつつ、分解物を外部に排出できるような構成とできるものであればよい。
【0039】
なお、この押出部14には、原料回収用の容器と接続されていてもよいし、押出された熱可塑性樹脂の分解物をさらに所定の処理に付すように、異なる処理装置と接続されていてもよい。
【0040】
回転駆動機構15は、シリンダ12内に設けられるスクリュ12aを回転させるための装置である。回転駆動機構15により回転されたスクリュにより、分解対象物の熱可塑性樹脂がシリンダ12内を搬送される。
【0041】
なお、シリンダ12内にスクリュが2本設けられた二軸押出装置でも、1本のスクリュが設けられた単軸押出装置でもよい。二軸押出装置の場合、2本のスクリュは、互いに平行に配置されて回転する。2本の軸は互いに噛み合うように配置されてもよいし、噛み合っていないように配置されていてもよい。スクリュの数を2本とした場合には、原料の搬送効率が高い事、また混練性能が高い事、などから、スクリュ口径が同一の場合、スクリュが1本の単軸よりもスクリュが2本の二軸の方が押出量を高くでき好ましい。また、シリンダ12の延在方向と、シリンダ12内のスクリュの延在方向とは同じである。
【0042】
本実施の形態において、冷却機構16は、上記シリンダ12の所定の領域を冷却するものである。この冷却機構16は、樹脂供給部11と流体供給部13との間を冷却するように、シリンダ12の外周に設けられる。
【0043】
この冷却機構16としては、シリンダ12の外周面を冷却することができるものであれば公知の冷却機構を適用することでき、例えば、シリンダ12の外周に冷却ジャケットを設ける場合が挙げられる。この冷却ジャケットには、チラー(冷却水循環装置)と接続し、所定の温度の冷却水を、常時該冷却ジャケットに循環・供給して、シリンダ12を所定の温度に冷却できるものが挙げられる。
【0044】
この冷却機構16を設けることにより、樹脂供給部11側のシリンダ12外周を冷却できるため、供給する熱可塑性樹脂や溶融可塑化された熱可塑性樹脂が樹脂供給部11側で冷却され、シリンダ12内部の圧力を低減することができる。そのため、シリンダ12において、溶融可塑化された熱可塑性樹脂が樹脂供給部11から噴出するような逆流を抑制することができる。
【0045】
[樹脂の分解処理方法]
次に、本実施の形態の樹脂の分解処理方法について、上記説明した図1の樹脂の分解処理装置10を用いる場合を例に、各工程を説明する。
【0046】
まず、熱可塑性樹脂を、樹脂供給部11からシリンダ12に供給する((a)工程;樹脂供給工程)。この工程は、分解対象の熱可塑性樹脂を、分解処理装置の本体であるシリンダ12の内部へ供給するものである。
【0047】
なお、ここで供給する分解対象の樹脂製品は、熱可塑性樹脂製のものであれば特に限定されず、その樹脂の種類としては、例えば、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等が挙げられる。特に、ナイロン樹脂が好ましい。
【0048】
次いで、シリンダ12内で、供給された熱可塑性樹脂を加熱および加圧して、溶融可塑化する((b)工程;溶融可塑化工程)。ここで、上記樹脂供給工程で供給された熱可塑性樹脂は、スクリュ12aにより、シリンダ12内を押出部15へ向かって搬送されながら、加熱および加圧される。
【0049】
ここで、シリンダ12の外周に設けられたヒータにより搬送されながら徐々に高温となるように、また、シリンダ12の内部を加圧できる加圧ポンプにより搬送されながら徐々に加圧されるようになっている。このように加熱および加圧されて、熱可塑性樹脂は溶融可塑化された状態で、スクリュ12aにより容易に搬送できる。
【0050】
用いる樹脂種によって異なるが、次に説明する流体供給工程の前に、例えば、樹脂温度が250~400℃、樹脂圧力が15~22MPaの条件となるように、加熱および加圧することが好ましい。なお、流体供給工程の直前までに150~250℃、15~20MPaとすることが好ましい。より具体的には、分解対象の樹脂としてナイロン樹脂を含んでいる場合、例えば、樹脂温度が300~350℃、樹脂圧力が15~18MPaとなるようにすることが好ましい。
【0051】
次いで、加熱および加圧された流体を、流体供給部13からシリンダ12内の溶融可塑化された熱可塑性樹脂に供給する((c)工程:流体供給工程)。ここで供給された流体は溶融可塑化された熱可塑性樹脂と混合される。
【0052】
このとき供給される流体は、溶融可塑化された樹脂を分解するために、亜臨界状態または超臨界状態とすることが可能な流体、例えば、水、メタノール等のアルコールが挙げられ、水が好ましい。超臨界状態は、その液体の臨界点を超えた領域において、液体と気体の中間状態のようになった活性を有する状態を指し、亜臨界状態は、超臨界状態よりもやや低い領域における活性を有する液相状態を指す。
【0053】
用いる流体によって、亜臨界状態、超臨界状態の条件は異なるが、水の場合、亜臨界状態は、例えば、150~350℃で飽和圧力以上となる圧力(例えば、300℃のときの飽和圧力は8.59MPa、350℃のときの飽和圧力は16.54MPa)とすればよく、超臨界状態は、例えば、374℃以上、かつ、22MPa以上とすればよい。
【0054】
ここで、亜臨界状態または超臨界状態とするのは、溶融可塑化された熱可塑性樹脂に供給する前でも後でもよく、この流体供給工程においては、供給する流体が所望の条件となるように、加熱および加圧状態を調整する。なお、供給前に亜臨界状態または超臨界状態としておき、この流体をシリンダ12内へ供給することが好ましい。このようにすることで、シリンダ12内へ流体を供給すると、溶融可塑化された熱可塑性樹脂は流体と混合されるが、混合と同時に分解処理を開始できる。
【0055】
そして、上記流体が供給された後、シリンダ12内で溶融可塑化された熱可塑性樹脂は、亜臨界状態または超臨界状態の流体と混合され、これによって分解される((d)工程;分解工程)。この分解工程は、熱可塑性樹脂が十分に分解し得る時間行うことが好ましく、これは亜臨界状態または超臨界状態の流体との混合時間をシリンダ12の長さとスクリュ12aの回転による搬送速度等により調整できる。
【0056】
上記分解処理の時間としては、例えば、2~5分が好ましく、5~10分がより好ましく、10~15分がさらに好ましい。
【0057】
このように亜臨界状態または超臨界状態に晒された熱可塑性樹脂は、その結合が切断されて、原料であるモノマーにまで分解(解重合)された樹脂の分解物となる。
【0058】
そして、この分解工程で得られた熱可塑性樹脂の分解物を、シリンダ12の先端に設けられた押出部14から押出す((e)工程;押出工程)。押し出された樹脂の分解物は回収される。この分解物は、再度、樹脂製造の際に、原料として再利用することができる。
【0059】
なお、再利用にあたっては、分解物中に含まれる不純物を除去することが好ましく、回収にあたって、不純物除去工程を行ってもよい。
【0060】
次に、本実施の形態に特徴的である冷却工程について説明する。
上記(a)工程~(e)工程を行ったとき、シリンダ12に投入される熱可塑性樹脂は、例えば、ハンドリングしやすいように粒状のペレットになっており、投入後、上記したように加熱および加圧されて溶融可塑化される。このとき、図3に示したように、樹脂供給部11から供給された固形状のペレット50が下流側に搬送されながら半溶融状態となり、次いで完全に溶融された溶融樹脂51となる。
【0061】
このとき、このペレット50側の圧力と溶融樹脂51側の圧力とのバランスが取れている場合は、継続した運転が可能で、分解処理を効率よく行うことができる。しかし、このバランスが崩れ、溶融樹脂51側の圧力がペレット50側の圧力よりも高くなった場合、溶融樹脂51が、ペレット50を樹脂供給部11側へ押し戻しつつ逆流し、ついには、溶融樹脂51とペレット50が混合された状態で樹脂供給部11から外部に噴出する場合がある。
【0062】
本実施の形態においては、このような逆流を抑制するために、図1に示したように、シリンダ12の外周に冷却機構16を有する。この冷却機構16は、樹脂供給部11と流体供給部13との間のシリンダ12の外周に設けられており、これによりシリンダ12の内部が過度に高温にならないようにできる。
このとき、冷却機構16により、シリンダ12を3~130℃またはシリンダ12内の樹脂温度を20~200℃とするように冷却できることが好ましい。このような温度にすることで、効果的に逆流を抑制できる。
【0063】
なお、このとき、図3で示したシリンダ12において、樹脂供給部11から流体供給部13までのシリンダブロックに、樹脂温度計、樹脂圧力計およびシリンダ温度計から選ばれる少なくとも1つの測定センサを設けるようにしてもよい。この場合、分解処理装置の運転当初は冷却機構16を稼働させずに、逆流が発生する予兆を検知したときに、冷却機構16を稼働させることとしても、逆流を効果的に抑制できる。
【0064】
なお、この測定センサを設けるシリンダブロックは、大部分がペレットとなっている樹脂供給部11側のシリンダブロックに設けることが好ましい。このように樹脂供給部11側のシリンダブロックにおいて測定センサで測定された数値の変動があった場合、逆流が発生していることを正確に検知し、冷却による抑制動作を開始できる。
【0065】
例えば、図3に示した状態で分解処理を継続していたが、溶融樹脂51側の圧力が高くなり、図4に示したように樹脂供給部11側に溶融樹脂が逆流を開始した場合、測定センサの測定値の変動を検知する。この変動の検知により逆流が生じていると判断した場合、この測定センサに接続された制御部が、冷却機構16を稼働させ、シリンダ12を冷却する。これにより、シリンダ12内の溶融樹脂の圧力が低下し、溶融樹脂51がペレット50と共に樹脂供給部11側に逆流し、噴出するような事態を抑制できる。
【0066】
なお、測定センサでの測定値としては、その制御部により冷却機構16の動作を制御するために、その測定値による閾値を設定しておいてもよいし、その経時変化をモニターして、その変動値による閾値を設定しておいてもよい。この閾値は、使用する樹脂や流体、分解処理の条件等により適宜設定すればよい。
【0067】
分解対象の熱可塑性樹脂としてポリアミドを用い、供給する流体として水を使用する分解処理の場合、測定値による閾値として、例えば、樹脂温度が50~225℃、樹脂圧力が1~8MPa、シリンダ温度が25~250℃と設定する場合が例示できる。また、変動値による閾値として、例えば、樹脂温度は5~30%、樹脂圧力は5~30%、シリンダ圧力は5~30%と設定する場合が例示できる。
【0068】
[分解処理装置の動作]
本実施の形態の樹脂の分解処理装置および分解処理方法について、上記説明したが、この樹脂の分解処理装置10の一連の動作について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0069】
まず、樹脂の分解処理装置10を立ち上げ、運転を開始する(S1)。運転開始によりシリンダ12は所定の温度に加熱され、スクリュ12aの駆動も開始される。次いで、冷却機構16によりシリンダ12の冷却を開始する(S2)。
【0070】
分解対象の樹脂として、ペレット50を樹脂供給部11に供給を開始し(S3)、樹脂が十分に溶融可塑化し、シリンダ12中を搬送されていることを確認して、流体供給部13から加熱および加圧された流体の供給を開始する(S4)。
【0071】
さらに、シリンダ12内の圧力を所定の圧力とするために昇圧を開始する(S5)。その後、圧力が規定圧力に到達したことを確認し(S6)、樹脂の分解処理を開始する。分解処理の運転開始後、逆流の予兆がないか確認し(S7)、予兆がなければ運転を継続する(S8)。ここで、逆流の予兆があった場合、冷却機構16によるシリンダ12の冷却温度を下げて予兆が無くなるまで繰り返す(S9)。
【0072】
冷却機構16により、シリンダ12が常時冷却されているため、樹脂供給部11側の圧力を過度に低下させることがないため、逆流を抑制(防止)できる。そのまま、樹脂の分解処理が全て終了するまで運転を継続し、全て終了したところで、分解処理装置を停止する。
【0073】
[安全ホッパ]
なお、上記説明した樹脂の分解処理装置10には、仮に逆流が発生した際にも、周囲の作業員等への影響を抑制するために、安全ホッパを設けることもできる。この安全ホッパとしては、例えば、図6に示したような安全ホッパ21が例示できる。
【0074】
この安全ホッパ21は、樹脂投入口22と、樹脂供給部11と接続するための接続構造23と、樹脂投入口22の下端開口部22aをその内部に配置し、接続構造23から樹脂投入口22の下端開口部22aの周囲を覆いつつ、さらに、樹脂投入口22の上端開口部22bとは異なる位置に開口を有するカバー24と、を有して構成されている。
【0075】
樹脂投入口22は、樹脂を投入したとき、樹脂供給部11まで投入された樹脂を導く部材である。例えば、樹脂投入口22の上端開口部22bからペレット等の樹脂が投入されると、重力の作用により、下方に移動し、下端開口部22aを通過して、さらに落下等により下方に移動して樹脂供給部11に樹脂が供給される。このとき、下端開口部22aが樹脂供給部11の樹脂が供給される開口の鉛直方向上方に位置するように配置することが好ましい。
【0076】
そのまま鉛直方向下方に落下し、接続構造23は、樹脂供給部11と安全ホッパ21とを接続、固定する部分であり、樹脂供給部11の樹脂が供給される開口の周囲に配置され、固定される。この接続構造23はその樹脂供給部11の開口部に併せて孔が開いており、樹脂投入口22から投入された樹脂が、樹脂供給部11に確実に供給できるようになっている。
【0077】
カバー24は、上記のように、接続構造23から樹脂投入口22の下端開口部22aの周囲を覆いつつ、さらに、樹脂投入口22の上端開口部22bとは異なる位置に開口24aを有する部材である。
【0078】
このカバー24の内部に、樹脂投入口22の下端開口部22aが配置されるが、上端開口部22bは配置されない。すなわち、安全ホッパにおいて、上端開口部22bは外部に露出しているが、下端開口部22aは外部に露出していない。このようにすることで、樹脂の投入は上端開口部22bから容易に行うことができ、投入された樹脂は、カバー24の内部を経由して、樹脂供給部11に確実に供給できる。
【0079】
カバー24により、投入された樹脂は、外部にこぼれることなどがなく、全て樹脂供給部11に供給され、処理対象の樹脂のロス等を抑制できる。
【0080】
また、この安全ホッパ21は、仮に樹脂の分解処理装置10から溶融樹脂51が逆流した場合にも、その逆流による作業員等への影響、被害等を生じさせることがないようにすることを目的に設置される。
【0081】
樹脂の分解処理装置10から、溶融樹脂51が逆流して噴出するような事態が生じた場合、溶融樹脂51は、ペレット50を樹脂供給部11側に押し戻しながら、樹脂供給部11の開口部から勢いよく噴出する。このとき、安全ホッパ21を設けていないと、樹脂供給部11の開口部から上方に向かって溶融樹脂51等が噴出してしまう。このように噴出すると、通常、その上方には樹脂供給のためのフィーダー等が配置されているため、樹脂供給作業に影響を与える。また、周囲に作業員がいた場合、上方に噴出した溶融樹脂は樹脂供給部11の周囲にまき散らされ、火傷等の被害を受ける場合も考えられる。
【0082】
一方、安全ホッパ21を設けていると、溶融樹脂51が噴出した場合でも、カバー24により、その開口24aの開口方向に溶融樹脂51が噴出するようにすることができる。すなわち、溶融樹脂51の噴出方向を任意の方向に制御できる。
【0083】
そして、このカバー24の開口24aは、その開口方向を樹脂投入口22とは異なる方向、例えば、水平方向や下方、へ向かうように設けることが好ましい。このようにすることで、その開口方向を作業員が立ち入らない空間に向けるようにしたり、また、開口方向に飛散防止の板や囲いを設けたりして、溶融樹脂51の噴出による外部への影響を抑えることができる。このとき、樹脂投入口22と開口24aはそれら開口方向が直交する方向に位置するように配置することが好ましい。
【0084】
なお、溶融樹脂51の噴出による影響をより抑制するために、樹脂投入口22の下端開口部22aの水平面において、下端開口部22aの面積に対して、カバー24の面積(下端開口部22aの面積を除く)が大きくなるように設けることが好ましい。
【0085】
図7には、下端開口部22aの水平面での切断面における、下端開口部22aとカバー24の大きさの関係を説明する図である。ここで、カバー24の面積(下端開口部22aの面積を除く)は、下端開口部22aの面積の3倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましく、8倍以上であることがさらに好ましく、16倍以上であることが特に好ましい。
【0086】
上記のように下端開口部22aの面積とカバー24の面積とを所定の関係とすることにより、溶融樹脂51が逆流して噴出するような場合でも、溶融樹脂51が樹脂投入口22よりもカバー24により導かれて噴出するようにでき好ましい。
【0087】
以上、本発明について、実施の形態および実施例により具体的に説明したが、本発明はこれら実施の形態および実施例に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
10 樹脂の分解処理装置
11 樹脂供給部
12 シリンダ
12a スクリュ
12b 流体供給孔
13 流体供給部
14 押出部
15 回転駆動機構
16 冷却機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7