(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023036
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】飛翔軌跡図作成装置、飛翔軌跡図作成方法及び飛翔軌跡図作成用のプログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20240214BHJP
G06T 17/05 20110101ALI20240214BHJP
G09B 29/10 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
G06T17/05
G09B29/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126574
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】591091087
【氏名又は名称】株式会社建設技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】澤樹 征司
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕和
(72)【発明者】
【氏名】吉井 千晶
【テーマコード(参考)】
2C032
5B050
【Fターム(参考)】
2C032HB15
2C032HC09
2C032HC17
2C032HD01
2C032HD26
5B050BA09
5B050BA17
5B050CA07
5B050EA19
5B050FA05
(57)【要約】
【課題】飛翔体の飛翔軌跡を三次元位置情報として容易に取得することの可能な、飛翔軌跡図作成装置を提供する。
【解決手段】飛翔体の飛翔軌跡を表す二次元位置情報と対地高度とを、飛翔体の飛翔情報として入力し(ステップS1、S2)、入力した飛翔情報と、二次元位置情報で特定される飛翔軌跡上の地点の既知の標高とから、飛翔軌跡上の地点における仮標高を演算し(ステップS3~S5)、飛翔軌跡の三次元位置情報を取得する(ステップS6)。そして、取得した三次元位置情報を用いて、飛翔軌跡を三次元地図に重畳して表示部に表示する(ステップS7)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体の飛翔軌跡を表す二次元位置情報と対地高度とを、前記飛翔体の飛翔情報として入力する入力部と、
当該入力部で入力した前記飛翔情報と、前記二次元位置情報で特定される前記飛翔軌跡上の地点の既知の標高とから、前記飛翔軌跡上の地点における仮標高を演算し、前記飛翔軌跡の三次元位置情報を取得するデータ処理部と、
当該データ処理部で取得した前記三次元位置情報を用いて、前記飛翔軌跡を三次元地図に重畳して表示部に表示する表示処理部と、
を備えることを特徴とする飛翔軌跡図作成装置。
【請求項2】
前記対地高度は、予め設定された複数の高度区分を表す情報であって、前記飛翔情報では、前記対地高度を、前記飛翔軌跡の前記高度区分が同一となる区間単位で設定しており、
前記データ処理部は、
前記飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、前記飛翔情報から取得する軌跡形成点情報取得部と、
前記軌跡形成点毎に、当該軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と当該軌跡形成点の前記高度区分とから前記仮標高を演算する仮標高演算部と、
前記仮標高に対して、前記複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、前記軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するスムージング処理部と、
を備え、
前記複数の軌跡形成点それぞれの前記二次元位置情報及び前記標高推定値を、前記飛翔軌跡の三次元位置情報として取得することを特徴とする請求項1に記載の飛翔軌跡図作成装置。
【請求項3】
前記飛翔体は、昼行性猛禽類であって、前記高度区分は低高度、中高度、高高度の3つを有し、当該高度それぞれに対応する対地高度は前記昼行性猛禽類の種類に応じて設定されていることを特徴とする請求項2に記載の飛翔軌跡図作成装置。
【請求項4】
前記入力部は、1又は複数の前記飛翔軌跡に対応する前記飛翔情報を入力し、
前記表示処理部は、前記三次元位置情報に基づき形成される前記飛翔軌跡と、前記三次元地図とを重畳して表示することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の飛翔軌跡図作成装置。
【請求項5】
前記入力部は、複数の前記飛翔軌跡に対応する前記飛翔情報を入力し、
前記表示処理部は、前記飛翔軌跡を含む大空間を複数の直方体の空間に区分した小空間を想定し、前記三次元位置情報に基づき前記飛翔軌跡が前記直方体の小空間それぞれを通る回数をカウントし、
当該カウント数に応じて表示形態が異なるシンボルを、対応する前記直方体の小空間内に相当する前記三次元地図上の位置に表示することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の飛翔軌跡図作成装置。
【請求項6】
飛翔体を観察し、前記飛翔体の飛翔軌跡を二次元地図上に記録すると共に、予め設定された複数の高度区分を対地高度として、前記飛翔軌跡のうちの前記高度区分が同一となる区間単位で前記高度区分を前記二次元地図上に記録するステップと、
前記二次元地図上に記録された前記飛翔軌跡の二次元位置情報と前記対地高度とを、前記飛翔体の飛翔情報として記録するステップと、
前記飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、前記飛翔情報から取得するステップと、
前記軌跡形成点毎に、当該軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と当該軌跡形成点の前記高度区分とから仮標高を演算するステップと、
前記仮標高に対して、前記複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、前記軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するステップと、
前記複数の軌跡形成点それぞれの前記二次元位置情報及び前記標高推定値を、前記飛翔軌跡の三次元位置情報とし、当該三次元位置情報を用いて、前記飛翔軌跡を三次元地図に重畳表示するステップと、
を備えることを特徴とする飛翔軌跡図作成方法。
【請求項7】
二次元地図上に記録された飛翔体の飛翔軌跡の二次元位置情報と、予め設定された複数の高度区分を対地高度として、前記飛翔軌跡のうち前記高度区分が同一となる区間単位で記録された対地高度とを、前記飛翔体の飛翔情報として入力するステップと、
前記飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、前記飛翔情報から取得するステップと、
前記軌跡形成点毎に、当該軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と当該軌跡形成点の前記高度区分とから仮標高を演算するステップと、
前記仮標高に対して、前記複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、前記軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するステップと、
前記複数の軌跡形成点それぞれの前記二次元位置情報及び前記標高推定値を、前記飛翔軌跡の三次元位置情報とし、当該三次元位置情報を用いて、前記飛翔軌跡を三次元地図に重畳表示するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする飛翔軌跡図作成用のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔軌跡図作成装置、飛翔軌跡図作成方法及び飛翔軌跡図作成用のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
イヌワシ、クマタカ等絶滅の危機に瀕している猛禽類を希少猛禽類といい、いわゆる種の保存法、鳥獣保護法、文化財保護法等の多数の法令によって希少猛禽類の個体及び生息環境の保護が規定されている。希少猛禽類は、近年個体数が減少傾向にあることから、適切な保護を可能とするために、公共事業に伴う環境調査の一環として猛禽類にとって重要な場所を把握するための調査が行なわれている。
【0003】
従来、猛禽類を対象とした環境影響評価用のデータとして、定点観察にて得た飛翔軌跡を平面図上に描画して整理したものが知られている。従来の基本的な調査・解析手法では、例えば猛禽類への公共事業での影響評価を行う場合、紙面上に二次元で飛翔軌跡を図示し、巣の分布位置や飛翔頻度を平面的に整理し、工事予定箇所との位置関係を対比させ評価している。具体的には、猛禽類の平面的な出現回数を主たる材料として、出現の記録データが多く集まったエリアを重要な場所と判断している。
【0004】
しかしながら、猛禽類の飛翔は高度を伴うものであり、実際には平面二次元で飛翔頻度が高いエリアと工事予定箇所とが重なった場合でも、当該エリアにおいて猛禽類は高い高度で飛翔しており、工事との関係はそれほど大きくは無いこともある。従って、単純に平面二次元で出現回数が多いか否かだけで猛禽類にとって重要な場所かそうでないかを判断したのでは、判断の信頼性が低い。
【0005】
また、従来、調査員は観察対象の猛禽類の飛翔軌跡を平面二次元で記録している。工事箇所と飛翔行動との関係をより正確に把握するためには、平面的な位置関係だけではなく、鉛直方向の高度差も把握することが求められる。これを、実現する手法としては「セオドライト(測量機器)等を用いた3点挟角での計算」による手法が提案されている。
また、2台のカメラで撮影した画像データをもとに移動体の三次元位置座標の軌跡を演算するようにした方法(例えば、特許文献1参照)等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際の現地調査において、一つの飛翔行動を把握するためには、単一定点からでは視野範囲が限定されるため、複数以上の定点を配置した上で、各定点から視認範囲で視認される飛翔行動を同時観察し、その飛翔軌跡の全容を記録する必要がある。このため、各定点に測量測器を導入すると多大な機材コストが掛かるとともに、俊敏に飛翔移動する鳥類を測器にて追跡させることの現実的な困難さなどを考慮すると実用化には耐え得ないと考えられる。
また、複数のカメラで同時に撮影する必要があるため、複数のカメラを設置して自動で撮影するにしても、人がその場で撮影するにしても手間がかかる。
【0008】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の課題を着目してなされたものであり、飛翔体の飛翔軌跡を三次元位置情報として容易に取得することの可能な、飛翔軌跡図作成装置、飛翔軌跡図作成方法及び飛翔軌跡図作成用のプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、飛翔体の飛翔軌跡を表す二次元位置情報と対地高度とを、飛翔体の飛翔情報として入力する入力部と、入力部で入力した飛翔情報と、二次元位置情報で特定される飛翔軌跡上の地点の既知の標高とから、飛翔軌跡上の地点における仮標高を演算し、飛翔軌跡の三次元位置情報を取得するデータ処理部と、データ処理部で取得した三次元位置情報を用いて、飛翔軌跡を三次元地図に重畳して表示部に表示する表示処理部と、を備える飛翔軌跡図作成装置が提供される。
【0010】
また、本発明の他の態様によれば、飛翔体を観察し、飛翔体の飛翔軌跡を二次元地図上に記録すると共に、予め設定された複数の高度区分を対地高度として、飛翔軌跡のうちの高度区分が同一となる区間単位で高度区分を二次元地図上に記録するステップと、二次元地図上に記録された飛翔軌跡の二次元位置情報と対地高度とを、飛翔体の飛翔情報として記録するステップと、飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、飛翔情報から取得するステップと、軌跡形成点毎に、軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と軌跡形成点の高度区分とから仮標高を演算するステップと、仮標高に対して、複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するステップと、複数の軌跡形成点それぞれの二次元位置情報及び標高推定値を、飛翔軌跡の三次元位置情報とし、三次元位置情報を用いて、飛翔軌跡を三次元地図に重畳表示するステップと、を備える飛翔軌跡図作成方法が提供される。
【0011】
さらに、本発明の他の態様によれば、二次元地図上に記録された飛翔体の飛翔軌跡の二次元位置情報と、予め設定された複数の高度区分を対地高度として、飛翔軌跡のうち高度区分が同一となる区間単位で記録された対地高度とを、飛翔体の飛翔情報として入力するステップと、飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、飛翔情報から取得するステップと、軌跡形成点毎に、軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と軌跡形成点の高度区分とから仮標高を演算するステップと、仮標高に対して、複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するステップと、複数の軌跡形成点それぞれの二次元位置情報及び標高推定値を、飛翔軌跡の三次元位置情報とし、三次元位置情報を用いて、飛翔軌跡を三次元地図に重畳表示するステップと、をコンピュータに実行させる飛翔軌跡図作成用のプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、飛翔体の三次元位置情報を容易に取得し、飛翔体にとって重要な場所を判断するのに十分な精度の三次元飛翔軌跡図を容易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】飛翔軌跡及び対地高度を記録した二次元地図の一例である。
【
図3】実際の飛翔高度と対地高度の高度区分との関係を示す模式図である。
【
図4】演算処理部での処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】演算処理部での演算処理の説明に供する説明図である。
【
図6】演算処理部での演算処理の説明に供する説明図である。
【
図7】演算処理部での演算処理の説明に供する説明図である。
【
図8】演算処理部での演算処理の説明に供する説明図である。
【
図11】三次元の飛翔軌跡と工事予定地との関係を示す説明図である。
【
図12】二次元の飛翔軌跡と工事予定地との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
<飛翔軌跡図作成装置の構成>
本発明の実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置10は、飛翔体の飛翔軌跡を二次元の飛翔軌跡を表す二次元位置情報として入力すると共に、飛翔体の対地高度を入力し、これらをもとに飛翔軌跡の三次元位置情報を生成し、三次元地図上に三次元の飛翔軌跡を重畳表示するようにしたものである。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置10の一例を示すブロック図である。飛翔軌跡図作成装置10は、マイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成され、入力部11と、演算処理部12と、記憶部13と、表示部14と、を備え、演算処理部12は、入力部11からの入力情報を処理するデータ処理部12aと、表示部14への表示データを生成する表示処理部12bと、公知の地理情報システム(Geographical Information System;GIS)12cと、を備える。
【0017】
入力部11は、マウスやキーボード等で構成される。演算処理部12のデータ処理部12a及び表示処理部12bは、GIS12cを利用して各種演算やデータ管理、表示処理等を行い、入力部11を操作することによって入力された飛翔軌跡を示す二次元位置情報及び飛翔体の対地高度をもとに、飛翔体の飛翔軌跡を示す三次元位置情報を生成し、三次元の飛翔軌跡を、三次元地図に重畳して表示部14に表示する。GIS12cは、指定された領域の二次元地図及び三次元地図を表示する処理、入力された飛翔軌跡をその二次元位置情報に対応した二次元地図上の位置に重畳表示する処理、飛翔軌跡のラインデータをポイントデータに変換する処理、飛翔軌跡に関して設定された各種情報を付帯データとして管理する処理等を行う機能を有する。
【0018】
次に、飛翔軌跡図作成装置10における演算処理の処理手順の一例を説明する。
<飛翔軌跡の取得方法>
まず、飛翔体の二次元データの取得方法を説明する。
ここでは、飛翔体として、クマタカ、イヌワシ等の昼行性猛禽類に適用し、調査対象領域での昼行性猛禽類の行動を観察する場合について説明するが、これに限るものではなく、任意の飛翔体に適用することができる。
【0019】
観察者は、観察を行う際には、
図2に示す調査対象領域の二次元地図と筆記具とを持参する。観察者は目視或いは双眼鏡等を用いて飛翔体の観察を行い、飛翔体が飛行していることを検知した時点から飛翔体が樹木或いは地表等に降り立ったことを検知した時点までを一回の飛翔として、飛翔毎にその飛翔軌跡を二次元地図上に書き込む。なお、観察者は、飛翔中の飛翔体が樹木等により隠れてしまった場合等、飛翔体を視認できなくなった場合には、視認できなくなった時点で飛翔終了と判断する。また、観察者は、
図2に示すように、二次元の飛翔軌跡(平面軌跡)(以下、二次元軌跡ともいう。)と共に、飛翔体の対地高度も取得する。
【0020】
対地高度は、地表から飛翔体までの距離であって、例えば、H(高高度)(500m以上)、M(中高度)(100m以上500m未満)、L(低高度)(0m以上100m未満)というように、飛翔体が飛翔する空間を3段階の高度区分に分けて記録する。対地高度は、目測によりいずれかの高度区分に分類される。
【0021】
ここで、飛翔体が飛翔する空間には、樹木が生育している。そのため、例えば、これら樹木の高さを基準とすることで、対地高度を容易に推測することができ、このとき、対地高度を3段階等、大まかな高度に区分して取得するようにしている。つまり高い精度を必要としていないため、飛翔体の対地高度を容易に取得することができる。対地高度は、飛翔軌跡において高度区分が同一となる区間(以後、高度同一区間ともいう。)の単位で記録される。対地高度は、二次元地図上の飛翔軌跡の、対応する高度同一区間の近傍に記録すること等により、飛翔軌跡の高度同一区間と対応付けて記録される。なお、飛翔体の対地高度は3段階の高度区分に限るものではなく、任意数に設定することができる。対地高度は、目視であってもある程度の精度で測定できる区分とすることが好ましく、調査対象領域の地形特性を踏まえたうえで各高度区分の代表的な対地高度に基づき、H、M、Lそれぞれの高度範囲を設定することで、より的確な三次元位置情報を取得することができる。なお、ここでは、樹木の高さを基準として高度区分を設定しているが、樹木に限るものではなく、例えば鉄塔等であってもよく、既知の高さを有する物体であれば基準として用いることができる。
【0022】
また、高度区分は、観察対象の飛翔体の種類に応じて設定してよい。つまり、昼行性猛禽類の種類によって、飛翔特性は異なり、例えば、クマタカはイヌワシ等に比較して、高空域を飛翔する頻度が相対的に低いことが一般的に知られている。そのため、例えばイヌワシを観察するときの高度区分が、高高度Hは500m以上、中高度Mは100m以上500m未満、低高度Lは0m以上100m未満であるとすると、例えばクマタカを観察するときには高度区分を低めに設定し、高高度は200mm以上、中高度Mは50mm以上200mm以下、低高度Lは0mm以上50mm以下として区分する。
観察者は、飛翔体の飛翔を検出する毎に飛翔軌跡の記録と高度区分の記録とを行う。
【0023】
ここで、従来、現地調査時には、二次元地図上に飛翔軌跡を記録することで二次元軌跡を得ているが、本実施形態では、二次元軌跡を記録すると共に、対地高度も記録する必要がある。つまり、観察時における観察者の記録作業量が増加することになる。しかしながら、対地高度は、3段階の高度区分として記録しており、さらに、二次元軌跡上の全ての点について対地高度を設定するのではなく、二次元軌跡の、対地高度に応じた高度同一区間毎に設定するようにしている。そのため、二次元軌跡の記録と共に対地高度の記録も行うようにしても、観察者の負荷の増加を抑制することができる。
【0024】
図3は、飛翔体として昼行性猛禽類を適用した場合の、実際の飛翔高度(飛翔体が実際に飛翔した地点の標高)と高度区分との関係を示す模式図である。
図3は、例えばイヌワシが麓の樹の上に止まっている状態から、尾根を越えて尾根向こうの隣接する山の斜面の樹に降り立つ場合を示している。
図3に示すように、イヌワシは、飛び立った時点から尾根近傍までは山肌と略一定の距離を保って飛翔し、つまり山の傾斜に沿って高度を上げ、尾根を越えると、隣接する山の斜面の樹に向かって緩やかに高度を下げている。
【0025】
ここで、
図3に示すように、希少猛禽類が止まったり巣を架けたりするような大径木の樹高は概ね20m以上25m以下となる。また、イヌワシの場合、止まりは樹の樹冠付近であり、樹高から大凡の対地高度が得られる。そのため、尾根越えに向かう際の地表からの高さ(対地高度)は、樹高との相対関係から推測することができ、比較的正確な対地高度を取得することができる。イヌワシが尾根を越える付近では、樹高から対地高度を推測することができるが、イヌワシは樹高よりも高い位置を飛んでいるため、推測した対地高度は多少精度が低い。さらにイヌワシは尾根を越えた後も比較的高い空域を飛翔するが、地表では下り斜面となるため、地表とイヌワシとの距離がさらに広くなり、目測により得た対地高度の精度は比較的低くなる。
【0026】
つまり、対地高度は目測での判断によるため、対地高度が高くなるほど基準となる樹木等との差が大きくなり、すなわち対地高度の誤差も大きくなると想定される。しかし、止まりやハンティングなどの重要な行動はいずれも比較的低い対地高度でみられるため、目測であっても、狩り場などの重要な環境の位置や対地高度は一定の精度で取得することができる。また、飛翔軌跡の3次元化により、従来の2次元表示では不可能であった「高高度を飛翔している状況」も表現が可能となる。このように、絶対的な対地高度には誤差が含まれるものの、主たる目的となる事業影響を評価するためには有益な情報として扱うことに問題はないと判断される。
【0027】
<飛翔軌跡図作成装置10への飛翔軌跡の入力>
観察者は、観察終了後、二次元地図に記録した二次元の飛翔軌跡及び対地高度を、飛翔軌跡図作成装置10に入力し、飛翔軌跡図作成装置10が有する調査対象領域の二次元地図と、二次元地図に記録された飛翔軌跡及び対地高度とを対応付ける。
例えば、飛翔軌跡及び対地高度を記録した二次元地図をスキャナーで読み込み、表示部14に表示した調査対象領域の二次元地図に、スキャナーで読み込んだ飛翔軌跡を重畳表示し、飛翔軌跡をなぞるようにマウスで飛翔軌跡上の地点をクリックすることで、飛翔軌跡と二次元地図とを対応付ける。また、例えば、高度区分が同一となる高度同一区間に対して、飛翔軌跡上の地点をマウスでクリックして二次元地図との対応付ける操作が終了した時点で、飛翔軌跡上のこの高度同一区間に対して対地高度を設定する。すなわち、高度区分H、M、Lのいずれかを設定する。
【0028】
この処理を繰り返し行うことで、一連の飛翔軌跡について、高度同一区間毎に対地高度を対応付ける。
複数の飛翔軌跡を記録したときには、他の飛翔軌跡についても同様の手順で操作を行う。
なお、飛翔軌跡及び対地高度の入力方法はこれに限るものではなく、二次元地図に記録した飛翔軌跡と対地高度とを、飛翔軌跡図作成装置10が有する二次元地図と対応付けて、表示することができればどのような方法であってもよい。
【0029】
<演算処理部12の処理>
次に、演算処理部12での処理手順を
図4に示すフローチャートを伴って説明する。
まず、演算処理部12では、調査対象領域の二次元地図を表示部14に表示する(ステップS1)。
この状態で、観察者が記録した飛翔軌跡及び対地高度を入力する操作が行われると、演算処理部12では、二次元地図に飛翔軌跡を重畳表示する(ステップS2)。また、演算処理部12は、高度同一区間毎に設定された対地高度やマウスによるクリック操作により入力された飛翔軌跡上の各地点の二次元位置情報等を管理する(ステップS3)。演算処理部12では、例えば、
図5に示すように、高度同一区間とこの高度同一区間に設定された高度区分とを、これらの対応を表す付帯データD1として管理する。高度同一区間は飛翔順序で管理し、飛翔軌跡はライン番号「Line_no」で管理する。なお、
図5及び後述の
図6~
図8において、実線で示す緩やかな線分は、
図3に示す、飛翔体が尾根を越えて尾根向こうの隣接する山の斜面の樹に降り立つ場合の、山の高さ方向の変化を示す。
【0030】
続いて、演算処理部12では、
図6に示すように、飛翔軌跡上に、複数の軌跡形成点を設定し、この軌跡形成点の二次元位置情報を取得する(ステップS4)。取得した軌跡形成点の二次元位置情報は、付帯データD1の高度同一区間と対応付けて付帯データD2として管理する(ステップS4)。
軌跡形成点は、例えばGIS12cを利用して飛翔軌跡上に等間隔(例えば10m間隔)または任意の間隔で設定される。軌跡形成点の間隔によっても、三次元の飛翔軌跡の高さ方向の変化状況が変化するため、軌跡形成点の間隔は、この高さ方向の変化状況を考慮して設定される。
軌跡形成点は、飛翔軌跡の始点から終点まで昇順に付与したポイント番号「P_no」で管理する。
【0031】
続いて、演算処理部12では、
図7に示すように、軌跡形成点毎に仮標高を求める(ステップS5)。
具体的には、DEM(数値標高モデル)データと、高度区分で特定される対地高度との和を仮標高として求める。すなわち、
図7に示すように、軌跡形成点毎に、その二次元位置情報で特定される二次元地図上の位置座標におけるDEMデータを取得し、高度区分で特定される対地高度とDEMデータとを加算しこれを仮標高とする。これにより、飛翔軌跡上の各軌跡形成点の仮標高は、
図7中に示すように、高度同一区間に対応付けられた対地高度を基準としてDEMデータによる地盤高の変化に応じて変化する値となり、高度同一区間の切り替わりで大きく変化する値となる。得られたDEMデータ(標高DEM)と仮標高は、付帯データD2の軌跡形成点と対応付けられて、
図7中に示す付帯データD3として管理される。
【0032】
続いて、演算処理部12では、
図8に示すように、ステップS5で求めた仮標高に対してスムージング処理を行い、仮標高の移動平均値を求め、求めた移動平均値を軌跡形成点の標高推定値とする(ステップS6)。
ここで、
図7に示すように、高度同一区間の切り替わりの地点で、仮標高が大きく変化する。そのため、
図8に示すように、高度同一区間の切り替わりの地点で仮標高が大きく変化することを抑制するようにスムージング処理における平均回数を調整する。得られた移動平均値を、軌跡形成点の標高推定値(Point_Z)とし、標高推定値は、付帯データD3の軌跡形成点と対応付けられて、
図8中に示す付帯データD4として管理される。
仮標高に対してスムージング処理を行うことにより、
図8に示すように、軌跡形成点の標高推定値を結ぶ線分は滑らかに変化する形状となり、
図3に示す飛翔体(昼行性猛禽類)の実際の飛翔軌跡により近い形状となる。
【0033】
以上の処理によって、軌跡形成点の三次元位置情報は、軌跡形成点の二次元位置情報(Point_XとPoint_Y)と、標高推定値(Point_Z)とにより表すことができる。
以上の処理を、飛翔軌跡毎に行うことで、飛翔軌跡上の複数の軌跡形成点の三次元位置情報が取得され、その結果、複数の軌跡形成点を含んで形成される飛翔軌跡の三次元位置情報を得ることができる。
なお、スムージング処理における平均回数は、任意に設定することができるが、目測で設定した高度区分の精度と平均回数とによっては、得られた標高推定値の変化状況が、実際の飛翔高度の変化状況と大きく異なる可能性がある。そのため、高度区分の精度や、調査対象領域の形状等に応じて平均回数を設定してよい。
【0034】
続いて、演算処理部12では、ステップS7に移行し、
図9に示すように、三次元の飛翔軌跡の表示処理を行う。具体的には、取得した三次元位置情報で表される飛翔軌跡と飛翔軌跡を含む領域の三次元地図とを重畳表示する。なお、
図9及び後述の
図10では判りやすくするために三次元地図は表示していない。また、
図9では、判りやすくするために
図9に破線で示すように、飛翔軌跡を含む大空間に複数の立方体からなる小空間を設定し、この小空間を三軸方向のマス目として飛翔軌跡と共に表示しているが、この破線で示される小空間は三次元地図上に表示してもよく表示しなくてもよい。
【0035】
続いて、ステップS8に移行し、
図10に破線で示すように、飛翔軌跡を含む大空間に複数の立方体からなる小空間を想定し、この小空間内を通過した飛翔軌跡の本数を計測する。1本の飛翔軌跡が、立方体の同一の小空間を複数回通過したとしても1回とカウントするものとする。つまり、例えば、飛翔体がほぼ同じ空間で旋回した場合等には、その飛翔軌跡が同一の小空間内を出たり入ったりを繰り返す可能性がある。そのため、一飛翔において、同一の小空間内を通過する回数を最大1回に制限することで、旋回時等に同一の小空間内を複数回通過した場合でも1回としてカウントすることができる。例えば、飛翔軌跡毎に付加しているライン番号「Line_no」を参照することによって、同一の飛翔軌跡であるか否かを判断することができる。
なお、ここでは、一飛翔において、同一の小空間内を通過する回数を最大1回に制限しているが、これに限るものではない。飛翔軌跡が小空間を通過する毎にカウントするようにしてもよく、飛翔軌跡のカウント方法は、調査目的に応じて設定すればよい。
【0036】
また、立方体からなる小空間の大きさは任意に設定することができる。例えば、飛翔体がどのあたりをどの程度の頻度で飛翔するのかを調査したい領域の大きさに応じて想定する。立方体が小さいほどより狭い空間単位でこの空間を通過した頻度を取得することができる。
小空間の形状は立方体に限るものではなく、例えば、一辺の長さが他の二辺の長さと異なる直方体又は三辺の長さが全て異なる直方体であってもよい。
【0037】
続いて、ステップS9に移行し、ステップS8でカウントした回数が多いときほど形状が大きくなるシンボルを、三次元地図上の、該当する立方体の小空間内に相当する位置に表示する。例えば、
図10に示すように、シンボルとして球体を表示し、カウント数が大きいほど直径が大きくなるように球体を表示する。そして、処理を終了する。なお、想定した小空間は、三次元地図上に表示してもよく表示しなくてもよい。
これにより、球体の大きさから、三次元地図上において、飛翔体がよく通る傾向にある空間を、容易に認識することができ、すなわち、調査対象領域において、どの領域を飛翔体がよく通る傾向にあるかを視覚的に容易に認識することができる。
【0038】
なお、ここでは、シンボルとして球体を表示し、カウント数が大きいほど直径が大きくなるようにしているが、これに限るものではない。カウント数に応じてシンボルの表示形態を異ならせることで、「カウント数が多い/少ない」を視覚的に認識することができればシンボルはどのような形状であってもよく、またどのような表示形態であってもよい。例えば、球体の濃淡をカウント数に応じて変化させ、カウント数が大きいほど高い濃度で表示するように構成してもよい。また、飛翔軌跡とシンボルとを表示するようにしてもよい。さらに入力部11の操作によって、飛翔軌跡のみ、或いはシンボル表示のみのいずれかを選択するように構成してもよい。
【0039】
ここで、対地高度を設定し、二次元の飛翔軌跡から、三次元の飛翔軌跡を取得(以下、三次元化処理ともいう。)する際には、次の2点を適切に選定する必要がある。
(a)二次元飛翔軌跡の細分化の程度(つまり、軌跡形成点の数)
(b)軌跡形成点の仮標高のスムージング処理の程度(つまり、平均回数)
【0040】
これら二つのパラメータの設定により、急激な高度変化を伴う三次元の飛翔軌跡になるか、滑らかな高度変化を持つ三次元の飛翔軌跡となるかが決定される。急激な高度変化を伴う三次元化処理を行うと、実際の飛翔軌跡と異なった角張った機械的な様相を呈する飛翔軌跡となる。一方で滑らかな高度変化を持つスムーズな三次元化処理を行うと、それが過度である場合には、急峻な地形変化に追従できずに三次元の飛翔軌跡が地中に突っ込むなど、実際の飛翔軌跡と乖離した結果となる。これらを改善するため、調査対象領域の地形の急峻さを考慮した最適なパラメータを設定する。これらパラメータは、予め最適となり得るパラメータを検出しておくこと等によって、予め取得しておくことが好ましい。また、これらパラメータ及び、高度区分は、飛翔体がイヌワシであるかタカであるかといった飛翔体の種類毎、また、イヌワシやタカ等のペア毎、調査対象領域の地形毎等によって、最適となるパラメータ値や高度区分値が異なってくることから、これらに応じて予め設定しておくことが好ましい。
【0041】
<効果>
(1)本実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置10は、飛翔体の飛翔軌跡を表す二次元位置情報と対地高度とを入力し、二次元位置情報で特定される地点の既知の標高と、対地高度とから、二次元の飛翔軌跡上の地点における仮標高を演算し、スムージング処理を行うことで、標高推定値を取得している。対地高度は例えば、樹木の高さを基準とすることで、容易に推測することができる。したがって、飛翔体の対地高度を取得することで、容易に三次元位置情報を取得することができる。
【0042】
このとき、飛翔体の対地高度は、目測であるため誤差を含むことになるが、樹木といった、高さが既知の物を基準として高さを推測しているため、ある程度の精度を確保することができる。そして、この飛翔軌跡図作成装置10では、対地高度を用いて飛翔体の三次元の飛翔軌跡を取得し、この三次元の飛翔軌跡を用いて、ダム等の工事予定地が、昼行性猛禽類の飛翔体の行動範囲に影響を与えることがあるかどうかの判断に用いている。つまり、昼行性猛禽類が工事予定地の上空を飛翔していても、工事予定地よりも遥かに高い空域を飛翔している場合には、工事が昼行性猛禽類の行動範囲に与える影響は小さいと予測することができる。そのため、本実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置10では、昼行性猛禽類の行動範囲に影響を与える可能性のある低空域が昼行性猛禽類の飛翔経路となっているか否かを判断している。したがって、飛翔軌跡のうち、比較的低空域に含まれる飛翔軌跡の高度情報は精度を要求されるが、比較的高空域に含まれる飛翔軌跡の高度情報はそれほど精度を要求されない。そのため、目測であり高い精度を持たない対地高度を用いて三次元の位置情報を得る場合であっても、昼行性猛禽類の行動に工事現場が影響を与えるか否かという主たる目的を評価するための飛翔軌跡として、信頼性の高い三次元の飛翔軌跡を得ることができる。
【0043】
また、昼行性猛禽類の飛翔行動と地形との関係に着目すると、例えば、昼行性猛禽類の一般的なハンティング行動は、営巣地や休息場等の「止まり」から飛翔開始し、斜面上昇風に乗り高度を稼ぎ、上空より餌動物等の探索を行いつつ狩り場まで移動し、狩り場では対地高度を下げハンティングを行うこととなる。昼行性猛禽類の行動と事業影響とを勘案すると、高空域を飛翔移動するエリアは大きな問題とはならず、営巣地や飛翔移動を開始する前の「止まり」並びに飛翔降下した「狩り場」等の地上部がどのエリアに集中しているか、その集中エリアと工事予定箇所との離隔がどの程度あるかが重要な判断要素となる。したがって、昼行性猛禽類が飛翔移動する際、行動開始から終了までの全ての瞬間の正確な高度情報は必要ではなく、事業影響に直接関わる地上部に近い低空での行動エリアとそれより上空での行動エリアを明確に区分けすればよいことになる。上述のように、本実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置10では、得られる高度情報は、低空域は精度がよいが、高空域では精度がそれほど高くはない高度情報となる。しかしながら、昼行性猛禽類の行動観察に必要な低空域は比較的精度の高い高度情報を得ることができるため、計測機器を用いなくとも目視観察で高度を含めた三次元位置情報を取得することができる。また、高度情報として、精度が必要とされる低空域は比較的精度が高く、精度が必要とされない高空域では精度がそれほど高くはないため、高空域での精度を不必要に高めることを回避し、その分、コスト増加を抑制することができる。
【0044】
また、これまで二次元平面上で検討されていた、昼行性猛禽類の飛翔集中エリアと工事予定箇所との関係考察において、さらに高度差による判定も可能となるため、より的確に判断することができ、判断結果の信頼性をより向上させることができる。
特に、先に
図3を伴って説明したように、昼行性猛禽類が、山の麓から、尾根を越えて尾根向こうの隣接する山の斜面の樹に移動するような場合には、昼行性猛禽類は、山の麓の樹の樹冠から高度を増加させつつ山の傾斜に沿って飛翔して尾根を越え、尾根を通過した後緩やかに高度を下げて隣接する山の斜面の樹に止まる。つまり
図3に示すように、昼行性猛禽類と山の地表との間の距離は、頂上に向かうにつれて増加するが、山が下りに入った後、昼行性猛禽類は緩やかに下降するため、地表からの距離はさらに広がり、その後、隣接する山の上りに入ると、昼行性猛禽類と山の地表との間の距離は減少する。
つまり、例えば
図11の三次元地図上に示す工事予定地Aでは、昼行性猛禽類は、地表から高高度となる空域を飛翔している。そのため、仮に工事予定地Aで工事を行ったとしても、昼行性猛禽類は地表から高高度となる空域を飛翔しているため、昼行性猛禽類の行動に影響を及ぼす可能性は低い。
【0045】
従来のように、二次元の飛翔軌跡で昼行性猛禽類に与える影響を判断した場合、高さの情報がないため、
図12に示すように、工事現場となる工事予定地Aと飛翔軌跡とは重畳して表示されることになるため、視覚的に工事現場が昼行性猛禽類の行動に影響を及ぼすと判断される傾向にある。つまり、実際には利用する空域が異なるため、昼行性猛禽類の行動に影響を与える可能性が小さくても、昼行性猛禽類に与える影響が大きいと誤判断される可能性がある。
本実施形態に係る飛翔軌跡図作成装置10では、三次元の飛翔軌跡を取得し、飛翔高度についても考慮した上で、昼行性猛禽類の行動に影響を与えるか否かを判断することができるため、より高精度に判断を行うことができる。
【0046】
(2)飛翔軌跡図作成装置10では、対地高度を、高度区分が同一となる高度同一区間毎に設定し、飛翔軌跡上の複数の地点を軌跡形成点としてその二次元位置情報を取得し、この二次元位置情報から、軌跡形成点の既知の標高を取得し、取得した標高と軌跡形成点の高度区分とから仮標高を演算し、仮標高に対して、複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行うことで軌跡形成点の標高推定値を求めている。そのため、対地高度として例えば3段階の高度区分で測定した場合であっても、滑らかな飛翔軌跡となる三次元位置情報を取得することができる。
【0047】
(3)飛翔軌跡図作成装置10では、取得した三次元位置情報からなる飛翔軌跡を、
図9に示すように、三次元地図と飛翔軌跡とを重畳表示している。そのため、飛翔軌跡の混み具合から、飛翔体がどの空間をより多く飛翔しているかを視覚的に容易に認識することができる。
【0048】
(4)飛翔軌跡図作成装置10では、三次元地図と共に、
図10に示すように、飛翔軌跡が、この飛翔軌跡を含む大空間内に想定した複数の小空間内それぞれを通る回数に応じて表示形態が異なるシンボル(例えば球体)を、三次元地図上の、対応する小空間内に相当する位置に表示している。そのため、シンボルの表示形態から、飛翔体が三次元地図上のどの空間をより多く飛翔しているかを視覚的に容易に認識することができる。
ここで、工事が昼行性猛禽類に与える影響を評価する方法として、「工事をしていない時と工事実施時とで、飛翔状況が異なるかどうか」という影響評価の考え方がある。三次元化処理をした飛翔軌跡を用いて工事をしていない時と工事実施時とで比較した場合、定性的には変化を把握することが可能であるものの、その定量的な程度については言及が困難なケースもある。
【0049】
本発明に係る飛翔軌跡図作成装置10では、飛翔軌跡を含む大空間内に想定した複数の小空間内を通過する飛翔軌跡のカウント数をシンボル表示することで、飛翔軌跡を含む大空間内における小空間の利用頻度を判定している。そのため、工事をしていない時と工事実施時とで、各小空間の利用頻度を比較することで、工事が昼行性猛禽類の飛翔状況に与える影響の有無や程度を、三次元で定量評価することができ、昼行性猛禽類に与える工事による影響の評価を効率よく行うことができ、信頼性の高い結果を得ることができる。
また、昼行性猛禽類による空間の利用頻度を検出することができるため、例えば、昼行性猛禽類による利用頻度が低い空間を検出することによって、猛禽類等に与える影響の少ない地域を工事予定地として容易に選定することができる。
【0050】
(5)飛翔軌跡図作成装置10では、高度区分として低高度、中高度、高高度の3つを有し、これら各高度の対地高度は、昼行性猛禽類の種類に応じて設定している。そのため、昼行性猛禽類の種類毎に異なる飛翔体の飛翔特性に応じた飛翔軌跡を得ることができる。
【0051】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
飛翔体の飛翔軌跡を表す二次元位置情報と対地高度とを、前記飛翔体の飛翔情報として入力する入力部と、
当該入力部で入力した前記飛翔情報と、前記二次元位置情報で特定される前記飛翔軌跡上の地点の既知の標高とから、前記飛翔軌跡上の地点における仮標高を演算し、前記飛翔軌跡の三次元位置情報を取得するデータ処理部と、
当該データ処理部で取得した前記三次元位置情報を用いて、前記飛翔軌跡を三次元地図に重畳して表示部に表示する表示処理部と、
を備えることを特徴とする飛翔軌跡図作成装置。
(2)
前記対地高度は、予め設定された複数の高度区分を表す情報であって、前記飛翔情報では、前記対地高度を、前記飛翔軌跡の前記高度区分が同一となる区間単位で設定しており、
前記データ処理部は、
前記飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、前記飛翔情報から取得する軌跡形成点情報取得部と、
前記軌跡形成点毎に、当該軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と当該軌跡形成点の前記高度区分とから前記仮標高を演算する仮標高演算部と、
前記仮標高に対して、前記複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、前記軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するスムージング処理部と、
を備え、
前記複数の軌跡形成点それぞれの前記二次元位置情報及び前記標高推定値を、前記飛翔軌跡の三次元位置情報として取得することを特徴とする上記(1)に記載の飛翔軌跡図作成装置。
(3)
前記飛翔体は、昼行性猛禽類であって、前記高度区分は低高度、中高度、高高度の3つを有し、当該高度それぞれに対応する対地高度は前記昼行性猛禽類の種類に応じて設定されていることを特徴とする上記(2)に記載の飛翔軌跡図作成装置。
(4)
前記入力部は、1又は複数の前記飛翔軌跡に対応する前記飛翔情報を入力し、
前記表示処理部は、前記三次元位置情報に基づき形成される前記飛翔軌跡と、前記三次元地図とを重畳して表示することを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の飛翔軌跡図作成装置。
(5)
前記入力部は、複数の前記飛翔軌跡に対応する前記飛翔情報を入力し、
前記表示処理部は、前記飛翔軌跡を含む大空間を複数の直方体の空間に区分した小空間を想定し、前記三次元位置情報に基づき前記飛翔軌跡が前記直方体の小空間それぞれを通る回数をカウントし、
当該カウント数に応じて表示形態が異なるシンボルを、対応する前記直方体の小空間内に相当する前記三次元地図上の位置に表示することを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の飛翔軌跡図作成装置。
(6)
飛翔体を観察し、前記飛翔体の飛翔軌跡を二次元地図上に記録すると共に、予め設定された複数の高度区分を対地高度として、前記飛翔軌跡のうちの前記高度区分が同一となる区間単位で前記高度区分を前記二次元地図上に記録するステップと、
前記二次元地図上に記録された前記飛翔軌跡の二次元位置情報と前記対地高度とを、前記飛翔体の飛翔情報として記録するステップと、
前記飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、前記飛翔情報から取得するステップと、
前記軌跡形成点毎に、当該軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と当該軌跡形成点の前記高度区分とから仮標高を演算するステップと、
前記仮標高に対して、前記複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、前記軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するステップと、
前記複数の軌跡形成点それぞれの前記二次元位置情報及び前記標高推定値を、前記飛翔軌跡の三次元位置情報とし、当該三次元位置情報を用いて、前記飛翔軌跡を三次元地図に重畳表示するステップと、
を備えることを特徴とする飛翔軌跡図作成方法。
(7)
二次元地図上に記録された飛翔体の飛翔軌跡の二次元位置情報と、予め設定された複数の高度区分を対地高度として、前記飛翔軌跡のうち前記高度区分が同一となる区間単位で記録された対地高度とを、前記飛翔体の飛翔情報として入力するステップと、
前記飛翔軌跡上の複数の地点からなる複数の軌跡形成点の二次元位置情報を、前記飛翔情報から取得するステップと、
前記軌跡形成点毎に、当該軌跡形成点の二次元位置情報から特定される既知の標高を取得し、取得した標高と当該軌跡形成点の前記高度区分とから仮標高を演算するステップと、
前記仮標高に対して、前記複数の軌跡形成点にわたってスムージング処理を行い、前記軌跡形成点それぞれにおける標高推定値を演算するステップと、
前記複数の軌跡形成点それぞれの前記二次元位置情報及び前記標高推定値を、前記飛翔軌跡の三次元位置情報とし、当該三次元位置情報を用いて、前記飛翔軌跡を三次元地図に重畳表示するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする飛翔軌跡図作成用のプログラム。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 飛翔軌跡図作成装置
11 入力部
12 演算処理部
12a データ処理部
12b 表示処理部
12c 地理情報システム(GIS:Geographical Information System)
13 記憶部
14 表示部