IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日医工株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023047
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ビルダグリプチン含有医薬品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20240214BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240214BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K31/40
A61P3/10
A61P43/00 111
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/14
A61K47/12
A61K9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126595
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】592073695
【氏名又は名称】日医工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】井川 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】天野 祐一
(72)【発明者】
【氏名】西村 優理子
(72)【発明者】
【氏名】石黒 絵梨子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD21
4C076DD23
4C076DD28
4C076DD29
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD47
4C076DD67
4C076EE06
4C076EE16
4C076EE32
4C076EE38
4C076EE45
4C076FF04
4C076FF05
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF51
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086NA03
4C086ZC35
4C086ZC42
(57)【要約】
【課題】ビルダグリプチンを安定に含有する医薬品を提供すること。
【解決手段】ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体にビルダグリプチン含有固形製剤を収容してなる医薬品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体にビルダグリプチン含有固形製剤を収容してなる医薬品。
【請求項2】
前記ビルダグリプチン含有固形製剤がPTP包装されており、前記気密包装体がピロー包装体であり、当該PTP包装とピロー包装体の間にゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入されてなる、請求項1記載の医薬品。
【請求項3】
気密包装体に脱酸素剤が封入されている請求項1又は2記載の医薬品。
【請求項4】
前記ビルダグリプチン含有固形製剤が、ビルダグリプチン、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤を含有する固形製剤である請求項1~3のいずれか1項記載の医薬品。
【請求項5】
賦形剤が、D-マンニトール、乳糖水和物及び無水乳糖から選ばれる1種以上である請求項4記載の医薬品。
【請求項6】
結合剤が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール部分けん化物から選ばれる1種以上である請求項4又は5記載の医薬品。
【請求項7】
崩壊剤が、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びデンプングリコール酸ナトリウムから選ばれる1種以上である請求項4~6のいずれか1項記載の医薬品。
【請求項8】
滑沢剤が、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びタルクから選ばれる1種以上である請求項4~7のいずれか1項記載の医薬品。
【請求項9】
ビルダグリプチン、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム及びフマル酸ステアリルナトリウムを含有するビルダグリプチン含有固形製剤。
【請求項10】
ビルダグリプチン、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム及びフマル酸ステアリルナトリウムを含有するビルダグリプチン含有錠。
【請求項11】
ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体に、請求項9記載のビルダグリプチン含有固形製剤又は請求項10記載のビルダグリプチン含有錠を収容してなる医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルダグリプチン含有医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルダグリプチンは、選択的DPP-IV阻害作用を有し、2型糖尿病治療薬として用いられている。ビルダグリプチンは、不安定な化合物であり、直接圧縮により錠剤とするのが好ましいことが知られている(特許文献1)。
また、ビルダグリプチンの不安定性を添加物の選択により解決しようとする試みもされており、D-マンニトール、乳糖、トレハロース、トウモロコシデンプン、結晶セルロースなどを特定量配合する技術(特許文献2)、賦形剤としてトレハロース、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、リン酸塩などを配合する技術(特許文献3)、ビルダグリプチンの安定性に影響のある結晶セルロースを、ビルダグリプチン含有顆粒外に配合して錠剤化する技術(特許文献4)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5122144号公報
【特許文献2】特開2021-88541号公報
【特許文献3】特開2019-182756号公報
【特許文献4】特開2021-165266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ビルダグリプチンを安定に含有する医薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、ビルダグリプチンの既知の類縁物質だけでなく、その他の類縁物質の生成を考慮に入れて種々検討した結果、ビルダグリプチン含有固形製剤を、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体に収容すれば、ビルダグリプチンの既知の類縁物質だけでなく、その他の類縁物質の生成も抑制できることを見出した。さらに、ビルダグリプチンを安定に維持するための固形製剤に配合する医薬品添加物の良好な組み合わせも見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[11]を提供するものである。
[1]ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体にビルダグリプチン含有固形製剤を収容してなる医薬品。
[2]前記ビルダグリプチン含有固形製剤がPTP包装されており、前記気密包装体がピロー包装体であり、当該PTP包装とピロー包装体の間にゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入されてなる、[1]記載の医薬品。
[3]気密包装体に脱酸素剤が封入されている[1]又は[2]記載の医薬品。
[4]前記ビルダグリプチン含有固形製剤が、ビルダグリプチン、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤を含有する固形製剤である[1]~[3]のいずれかに記載の医薬品。
[5]賦形剤が、D-マンニトール、乳糖水和物及び無水乳糖から選ばれる1種以上である[4]記載の医薬品。
[6]結合剤が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール部分けん化物から選ばれる1種以上である[4]又は[5]記載の医薬品。
[7]崩壊剤が、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びデンプングリコール酸ナトリウムから選ばれる1種以上である[4]~[6]のいずれかに記載の医薬品。
[8]滑沢剤が、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びタルクから選ばれる1種以上である[4]~[7]のいずれかに記載の医薬品。
[9]ビルダグリプチン、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム及びフマル酸ステアリルナトリウムを含有するビルダグリプチン含有固形製剤。
[10]ビルダグリプチン、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム及びフマル酸ステアリルナトリウムを含有するビルダグリプチン含有錠。
[11]ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体に、[9]記載のビルダグリプチン含有固形製剤又は[10]記載のビルダグリプチン含有錠を収容してなる医薬品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医薬品は、ビルダグリプチンの既知の類縁物質だけでなく、ビルダグリプチンの未知の類縁物質の生成も抑制できる。さらに溶出遅延も抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の医薬品の一態様は、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体にビルダグリプチン含有固形製剤を収容してなることを特徴とする。
本発明の医薬品の有効成分は、ビルダグリプチンである。ビルダグリプチンは、化学名(S)-1-[(3-ヒドロキシ-1-アダマンチル)アミノ]アセチル-2-シアノピロリジンであり、前述のように選択的DPP-IV阻害作用を有し、2型糖尿病治療薬の有効成分として知られている。従って、本発明の医薬品は、2型糖尿病治療薬として使用される。
ビルダグリプチン含有固形製剤は、通常、成人に、ビルダグリプチンとして50mgを1日2回朝、夕に経口投与され、患者の状態に応じて50mgを1日1回朝に投与できる、とされている。従って、ビルダグリプチンは、ビルダグリプチン含有固形製剤中に、25mg~50mg含有するのが好ましい。また、ビルダグリプチン含有固形製剤中のビルダグリプチン含有率は、10~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0009】
ビルダグリプチンは、前述のように不安定な化合物であり、既知の類縁物質が生じることが知られている。一方、本発明者の検討によれば、後記実施例に示すように、ビルダグリプチンは、加速条件、又は苛酷条件で保存することにより、既知の類縁物質以外にビルダグリプチンの未知の類縁物質が生じることが判明した。そこで、本発明者は、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の両者の生成を抑制すべく検討した結果、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤が封入された気密包装体にビルダグリプチン含有固形製剤を収容することにより、これらの両者の生成を良好に抑制できることを見出した。
【0010】
本発明に用いられる乾燥剤は、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤である。ゼオライト、塩化カルシウム、及びシリカアルミナは、シリカゲルなどの公知の他の乾燥剤に比べて、格別顕著にビルダグリプチンの既知の類縁物質の生成を抑制する。このうち、ゼオライトが特に好ましい。
ゼオライトは、ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩であり、その細孔径は0.3~1nmとされている。また、本発明には、天然ゼオライト及び合成ゼオライトのいずれも使用できる。シリカアルミナは、シリカアルミナゲルとも称され、市販品が使用できる。
ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤の使用量は、ビルダグリプチン含有固形製剤を収容する気密包装体の容積、材質などに依存するが、通常0.5g~10gを一気密包装体中に封入すればよい。
【0011】
脱酸素剤は、ビルダグリプチンの既知の類縁物質生成抑制効果に加えて、未知の類縁物質の生成も格別顕著に抑制する。
脱酸素剤としては、鉄粉などの金属粉末、第一鉄塩、亜二チオン酸塩、亜硫酸塩、ハロゲン化金属などの無機物を主体とする脱酸素剤;アスコルビン酸、エリソルビン酸、それらの塩、ヒドロキノンやカテコールなどのポリフェノールなどの有機化合物を主体とする脱酸素剤が知られている。また、脱酸素剤には自力反応型と水分依存型があり、本発明ではいずれも使用できるが、水分に依存しない自力反応型がより好ましい。
脱酸素剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の「エージレス」(商品名)のSタイプ、SSタイプ、Zタイプ、FXタイプ、ZMタイプ、SAタイプ、GLタイプ、「ファーマキープ」(商品名)などが知られているが、乾燥機能付き脱酸素剤である「ファーマキープ」がより好ましい。また、脱酸素剤の市販品としては、大江化学工業社製の「タモツ」(商品名)のVXタイプ、Dタイプ、「酸素カット」(商品名)のGDタイプなども使用できる。
脱酸素剤の使用量は、ビルダグリプチン含有固形製剤を収容する気密包装体の容積、材質などに依存するが、通常酸素吸収量が3ml~400mlの能力のものを、好ましくはさらに水分吸着量0.07g~3.0gの能力を有するものを一気密包装体中に封入すればよい。
【0012】
本発明においては、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに脱酸素剤のいずれか一方又は両者を使用できるが、脱酸素剤を使用するのがより好ましく、乾燥機能付き脱酸素剤を使用するのがさらに好ましい。
【0013】
本発明に用いられるビルダグリプチン含有固形製剤の形態としては、錠剤、顆粒剤、カプセル剤などが挙げられるが、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、錠剤が好ましい。
【0014】
ビルダグリプチン含有固形製剤は、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、ビルダグリプチン、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤を含有する固形製剤であるのが好ましく、ビルダグリプチン、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤を含有する錠剤であるのがより好ましい。
【0015】
賦形剤としては、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、D-マンニトール、乳糖水和物、無水乳糖及びコーンスターチから選ばれる1種以上が好ましく、D-マンニトール、乳糖水和物及び無水乳糖から選ばれる1種以上がより好ましく、D-マンニトールがさらに好ましい。
ビルダグリプチン含有固形製剤中の賦形剤の含有量は、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び異性体の生成を抑制する観点から、20~80質量%が好ましく、30~75質量%がより好ましい。
【0016】
結合剤としては、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール部分けん化物から選ばれる1種以上が好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロースから選ばれる1種以上がより好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースがさらに好ましい。
ビルダグリプチン含有固形製剤中の結合剤の含有量は、結合剤として機能させる観点、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、0.5~5質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい。
【0017】
崩壊剤としては、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びデンプングリコール酸ナトリウムから選ばれる1種以上が好ましく、クロスポビドン及びデンプングリコール酸ナトリウムから選ばれる1種以上がより好ましく、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点、並びに保存後の溶出性維持の観点から、デンプングリコール酸ナトリウムがさらに好ましい。
ビルダグリプチン含有固形製剤中の崩壊剤の含有量は、製剤の崩壊性の観点、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、1~15質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましい。
【0018】
滑沢剤としては、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びタルクから選ばれる1種以上が好ましく、フマル酸ステアリルナトリウム及びステアリン酸マグネシウムから選ばれる1種以上がより好ましく、フマル酸ステアリルナトリウムがさらに好ましい。
ビルダグリプチン含有固形製剤中の滑沢剤の含有量は、製剤の製造性の観点、ビルダグリプチンの既知の類縁物質及び未知の類縁物質の生成を抑制する観点から、0.5~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましい。
【0019】
ビルダグリプチン含有固形製剤には、前記成分に加えて、香料、甘味剤、矯味剤、色素、安定化剤、抗酸化剤、溶解補助剤、界面活性剤、流動化剤、可塑剤などを配合してもよい。また、フィルムコーティング層を設けてもよい。
【0020】
前記ビルダグリプチン含有固形製剤は、固形製剤の常法に従って製造することができる。例えば、ビルダグリプチン含有錠は、湿式造粒法又は乾式造粒法によりビルダグリプチン含有造粒物を製造し、この造粒物に滑沢剤等を配合した混合物を、圧縮成型することにより製造することができる。
【0021】
本発明の医薬品は、例えば、気密包装体に、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤と、ビルダグリプチン含有固形製剤とを収容することにより製造することができる。
気密包装体は、通常の取り扱いにおいて、固体及び液体が包装体の外からの実質的な侵入を抑制し得る包装体であり、第十八改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」が含まれる。具体的には、ビン包装、SP包装、PTP包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。
本発明においては、気密包装体中に、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤と、ビルダグリプチン含有固形製剤とを収容することから、ビルダグリプチン含有固形製剤をPTP包装で包装し、このPTP包装体と、ゼオライト、塩化カルシウム及びシリカアルミナから選ばれる乾燥剤並びに/又は脱酸素剤とを、ピロー包装体に収容する形態が好ましい。
【0022】
SP包装、PTP包装、ピロー包装やスティック包装等に用いられる包装材料としては例えば、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリエステル(PET)、二軸延伸ナイロン(ONy、PA)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、無延伸ポリプロピレン(CPP、IPP)、二軸延伸ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、環状ポリオレフィン(COC)等の樹脂や、アルミニウム箔(AL)のような金属箔等が挙げられ、これらの2種以上を適宜組み合わせた多層構造としてもよい。SP包装、PTP包装、ピロー包装やスティック包装等に用いられる包装材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アルミニウム箔、アルミニウムラミネートフイルムが好ましい。
【実施例0023】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
試験例1
ビルダグリプチン原薬又はビルダグリプチン含有固形製剤中のビルダグリプチンの純度試験方法について、種々検討したところ、下記の純度試験法Aによれば主に既知の類縁物質が検出され、純度試験方法Bによれば、主に異性体や未知の類縁物質が検出されることが判明した。生じるビルダグリプチン類縁体と試験方法との関係を表1に示す。
・純度試験法A
逆相液体クロマトグラフィーにより測定波長210nmで類縁物質を測定する。
・純度試験法B
順相液体クロマトグラフィーにより測定波長210nmで類縁物質を測定する。
【0025】
【表1】
【0026】
試験例2
<接触安定性試験方法(試験法Aによる接触安定性試験)>
表2に示した割合で原薬と添加剤を秤量後、乳棒・乳鉢で混合した。得られた混合物をガラス瓶に入れ、加速条件の安定性試験機(40℃75%RH)に入槽し、1ヶ月保存した。
保存前後において、純度試験法Aで類縁物質量を測定した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2より、ビルダグリプチンの既知の類縁物質生成抑制に寄与する成分としては、賦形剤では、D-マンニトール、乳糖水和物及び無水乳糖から選ばれる1種以上が好ましく、D-マンニトールが特に好ましいことが判明した。結合剤では、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール部分けん化物から選ばれる1種以上が好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましいことが判明した。崩壊剤では、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びデンプングリコール酸ナトリウムから選ばれる1種以上が好ましく、クロスポビドンが特に好ましいことが判明した。滑沢剤では、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びタルクから選ばれる1種以上が好ましく、フマル酸ステアリルナトリウムが特に好ましいことが判明した。
【0029】
試験例3
<接触安定性試験方法(純度試験法Bによる接触安定性試験)>
純度試験法Aにおいて、それぞれの添加剤(賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤)の中で最も良好な接触安定性を示した添加剤について、原薬と添加剤を1:1で秤量後、乳棒・乳鉢で混合した。得られた混合物をガラス瓶に入れ、苛酷条件の安定性試験機(60℃)に入槽し、1ヶ月保存した。
保存前後において、純度試験法Bで類縁物質量を測定した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
表3より、純度試験法Aでビルダグリプチンの既知の類縁物質の生成を抑制した添加剤は、純度試験法Bでも類縁物質の生成を抑制した(N/A:0.05%未満)。
【0032】
試験例4
<錠剤の安定性試験>
表4に示す処方で錠剤を製造し、錠剤をPTP包装し、さらにピロー包装して、加速条件(40℃75%RH)で保存して、純度試験法A及び純度試験法Bにより安定性を試験した。なお、保存方法としては、PTP包装とピロー包装の間には、ゼオライトを封入した場合と、ゼオライトを封入しない場合を比較した(表5)。結果を、表6及び表7に示す。
【0033】
<処方1の製造方法>
ビルダグリプチン、D-マンニトール、クロスポビドンを流動層造粒機に投入した。ヒドロキシプロピルセルロース水溶液(5%水溶液)をスプレーし、流動層造粒した。造粒末にエチルマルトール、フマル酸ステアリルナトリウムを添加し、混合した。混合末を打錠した。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
【表7】
【0038】
表6及び表7より、表4の処方により、参考例の錠剤に比べて、ビルダグリプチンの既知の類縁物質の増加を顕著に抑制できることがわかる。また、気密包装体中にゼオライトを添加することにより、ビルダグリプチンの既知の類縁物質の増加を顕著に抑制できることがわかる。一方で、純度試験法Bにおいて、ゼオライトを添加することにより総類縁物質量の増加は抑制できたが、個々の類縁物質の一つである未知の類縁物質の増加傾向は大きくなることがわかった。本発明の目標とする0.2%以下を達成しているものの、ゼオライトを添加する場合は未知の類縁物質の注意や管理を要すること、又はさらなる改善が望ましいことがわかった。
また、気密包装体に添加する乾燥剤をゼオライトに代えて、塩化カルシウムとしたところ、ビルダグリプチンの既知の類縁物質の生成は、純度試験法Aにおける加速3ヶ月後で0.11%であり、強く抑制できることがわかった。
また、気密包装体に添加する乾燥剤をゼオライトに代えて、シリカゲルとしたところ、ビルダグリプチンの既知の類縁物質の生成は抑制できなかった。
【0039】
試験例5
実施例1に比べて、ビルダグリプチンの未知の類縁物質の生成が抑制できる処方を検討した。表8の処方の錠剤を製造し、表9のようにPTP包装し、さらにピロー包装体に封入して、苛酷条件(60℃)で保存した。その結果を、表10及び表11に示す。
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
【表10】
【0043】
【表11】
【0044】
崩壊剤をクロスポビドンからデンプングリコール酸ナトリウムに変更することで、純度試験法Aにおいて既知の類縁物質及び総類縁物質の増加を抑えることができることが判明した(表10)。また、崩壊剤をクロスポビドンからデンプングリコール酸ナトリウムにすることで、乾燥剤(ゼオライト)を添付しても、純度試験法Bにおいてビルダグリプチンの未知の類縁物質及び総類縁物質の増加を抑えることができることが判明した(表11)。
【0045】
試験例6
<気密包装体への添加剤の検討>
ゼオライト以外の気密包装体への添加剤を検討した。
処方2及び処方3の錠剤(表8)をPTP包装し、それをさらにピロー包装体に封入して(表12)、苛酷条件(60℃)で保存した。その結果を、表13及び表14に示す。
【0046】
【表12】
【0047】
【表13】
【0048】
【表14】
【0049】
脱酸素剤を添付することで、純度試験法A(表13)において、ゼオライトと同等程度に既知の類縁物質及び総類縁物質の増加を抑えることができる。
脱酸素剤を添付することで、純度試験法B(表14)において、ゼオライトと比べてビルダグリプチンの未知の類縁物質の増加を抑えることができる(実施例2vs実施例4、実施例3vs実施例5)
【0050】
試験例7
前記実施例3の本発明医薬品を、苛酷条件(60℃)に4週間保存後、ビルダグリプチンの溶出率を測定した。その結果を表15に示す。
<溶出試験条件>
試験液:pH1.2(日局第1液),900mL
試験法:第18改正日本薬局方溶出試験法(パドル法)
パドル回転速度:50rpm
ベッセル数(n数):3
【0051】
【表15】
【0052】
表15より、参考例1(先発製剤 エクアTM錠50mg)は、苛酷4週間保存後に、15分時点において85%前後にまで溶出遅延したのに対して、実施例3(処方3:デンプングリコール酸ナトリウム)は溶出遅延せず、約100%の溶出率を示した。