(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023051
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240214BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B60T7/12 B
B60T8/1755 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126601
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 亮
(72)【発明者】
【氏名】細野 友裕
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246GB05
3D246GC16
3D246HA02A
3D246HA08A
3D246HA13A
3D246HA25A
3D246HA64A
3D246HA86A
3D246HB12A
3D246HB13A
3D246HC01
3D246JA12
3D246JB05
3D246JB06
3D246JB08
3D246JB29
3D246JB33
3D246JB34
3D246JB53
3D246KA19
3D246LA52Z
3D246LA63Z
(57)【要約】
【課題】操舵の切り返し操作が行われた場合であっても、唐突な車両の動き出しを抑制して快適な運転環境を醸成する。
【解決手段】車両制御装置11は、少なくとも、操舵角SA、車速VSを含む車両10の運転状態に係る情報を取得する情報取得部51と、車両10の運転状態に基づいて、当該車両10に備わる複数の各車輪毎の制動力を設定する制動力設定部55と、制動力設定部55により設定された制動力を用いて複数の各車輪毎の制動制御を行う制動制御部57と、を備える。制動力設定部55は、一側操舵位置から中立位置を経て他側操舵位置に至るまでの切り返し操作がなされた場合に、当該切り返し操作がなされている間、第1特定車輪に係る第1制動力BF1が残るようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、操舵輪に係る操舵角、車速を含む車両の運転状態に係る情報を取得する情報取得部と、
前記車両の運転状態に基づいて、当該車両に備わる複数の各車輪毎の制動力を設定する制動力設定部と、
前記制動力設定部により設定された制動力を用いて前記複数の各車輪毎の制動制御を行う制動制御部と、を備え、
前記制動力設定部は、前記操舵輪が一側操舵位置にある際に、少なくとも当該操舵位置に基づき選択された第1特定車輪に対して第1制動力が設定されている場合において、前記一側操舵位置から中立位置を経て他側操舵位置に至るまでの切り返し操作がなされた場合に、当該切り返し操作がなされている間、前記第1特定車輪に係る第1制動力が残るようにする
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記制動力設定部は、前記切り返し操作がなされている間において、当該操舵輪が前記一側操舵位置から中立位置を経て前記他側操舵位置にある際に、当該操舵輪が前記中立位置に到達した時点を起点として所定の待機時間が経過するまでの間、前記第1特定車輪に係る前記第1制動力が残るようにする
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両制御装置であって、
前記制動力設定部は、前記切り返し操作がなされている間において、当該切り返し操作が継続している間、前記第1特定車輪に係る前記第1制動力を、前記操舵角の変化態様に応じて漸減させる
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の車両制御装置であって、
前記制動力設定部は、前記切り返し操作がなされた場合において、前記操舵輪が他側の操舵位置にある際に、少なくとも当該操舵位置に基づき選択された第2特定車輪に対して第2制動力を設定すると共に、当該切り返し操作がなされている間に、前記第1特定車輪に係る前記第1制動力を、前記操舵角の変化態様に応じて漸減させる一方、前記第2特定車輪に係る前記第2制動力を、前記操舵角の変化態様に応じて漸増させる
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両制御装置であって、
前記制動力設定部は、前記切り返し操作がなされている間において、前記操舵輪が前記中立位置に到達した時点を起点として所定時間が経過した後、前記第1特定車輪に係る前記第1制動力及び前記第2特定車輪に係る前記第2制動力が交差するようにする
ことを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備わる複数の各車輪毎の制動制御を行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に備わる複数の各車輪毎の制動制御を行う車両制御装置の発明が開示されている。
【0003】
特許文献1に係る車両制御装置は、操舵輪の操舵方向を検出するステアリングセンサと、複数の各車輪に対し独立して制動動作を行う制動装置と、車速センサにより検出される車両進行方向とステアリングセンサにより検出される操舵方向とに基づいて、進行方向に対する後側旋回内輪(特定車輪)に制動力を発生させる制動力制御手段と、を備えて構成される。
特許文献1に係る車両制御装置によれば、車両の小回り促進を狙って特定車輪に対して小回り促進制御を実行することにより、簡易な構成で小回り性能の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来の車両制御装置では、ステアリングホィールが中立位置にある場合には、小回り促進の要請は生じないため、小回り促進を狙った特定車輪への制動力制御は無効化される。また、一般に、自動変速機が備わる車両では、例えばシフト位置がドライブ位置にセットされている場合、クリープ現象に基づく推進力が車両に作用する。
【0006】
さて、例えば駐車場において車両の向きを切り返すシーンでは、ステアリングホィールを一側の操舵位置から中立位置を経て他側の操舵位置へと切り返す操作が行われる。この操作の際に、ステアリングホィールが中立位置を通過する付近において、小回り促進を狙った特定車輪に係る制動力制御は無効化される。
すると、ステアリングホィールが中立位置を通過する付近において特定車輪に係る制動力が解除されるため、唐突な車両の動き出しを生じる場合がある。こうした唐突な車両の動き出しが生じると、運転者に違和感を与えてしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、操舵の切り返し操作が行われた場合であっても、唐突な車両の動き出しを抑制して快適な運転環境を醸成し、これをもって持続可能な輸送システムの発展に寄与可能な車両制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解消するために、本発明に係る車両制御装置は、少なくとも、操舵輪に係る操舵角、車速を含む車両の運転状態に係る情報を取得する情報取得部と、前記車両の運転状態に基づいて、当該車両に備わる複数の各車輪毎の制動力を設定する制動力設定部と、前記制動力設定部により設定された制動力を用いて前記複数の各車輪毎の制動制御を行う制動制御部と、を備え、前記制動力設定部は、前記操舵輪が一側操舵位置にある際に、少なくとも当該操舵位置に基づき選択された第1特定車輪に対して第1制動力が設定されている場合において、前記一側操舵位置から中立位置を経て他側操舵位置に至るまでの切り返し操作がなされた場合に、当該切り返し操作がなされている間、前記第1特定車輪に係る第1制動力が残るようにすることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両制御装置によれば、操舵の切り返し操作が行われた場合であっても、唐突な車両の動き出しを抑制して快適な運転環境を醸成し、これをもって持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両制御装置及び周辺部の概要を表すブロック構成図である。
【
図2A】本発明の実施形態に係る車両制御装置の主要部を表すブロック構成図である。
【
図2B】本発明の実施形態に係る車両制御装置において操舵角に係る不感帯を設定する際に参照される操舵角に係る不感帯処理前後の操舵角を対比して表す特性線図である。
【
図2C】本発明の実施形態に係る車両制御装置において車速が低車速域に属する場合に、車速の変化に応じて操舵角に係る不感帯幅を変化させる際に参照される第1車速レシオの特性線図である。
【
図2D】本発明の実施形態に係る車両制御装置において車速が低車速域に属する場合に、車速の変化に応じて特定車輪に係る制動力を変化させる際に参照される第2車速レシオの特性線図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両制御装置の基本動作を表すフローチャート図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両制御装置の応用動作を表すタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る車両制御装置について、適宜図面を参照して詳細に説明する。
以下に示す図において、共通の機能を有する部材間、又は、相互に対応する機能を有する部材間には、原則として共通の参照符号を付するものとする。また、説明の便宜のため、特性線図のサイズ・形状は、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0012】
〔本発明の実施形態に係る車両制御装置11の概要〕
本発明の実施形態に係る車両制御装置11について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両制御装置11及び周辺部の概要を表すブロック構成図である。
【0013】
車両制御装置11は、
図1に示すように、統合ECU(Electronic Control Unit)13、入力系統15、及び出力系統17の各間を、CAN(Control Area Network)などの通信媒体19を介して相互に情報交換可能に接続して構成されている。
【0014】
統合ECU13は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムや情報を読み出して実行し、統合ECU13が有する車両10の小回り促進を狙った特定車輪制動制御を含む各種機能の実行制御を行うように動作する。
【0015】
統合ECU(Electronic Control Unit)13は、主として車両10の小回り促進を狙った特定車輪制動制御を実行する機能を有する。統合ECU13の内部構成について、詳しくは後記する。
【0016】
通信媒体19には、
図1に示すように、入力系統15として、障害物センサ21、側方監視カメラ23、車速センサ25、車輪速センサ27、操舵角センサ29、ブレーキペダルセンサ31、アクセルペダルセンサ33、及び、シフトスイッチ35がそれぞれ接続されている。
【0017】
障害物センサ21は、車両10の周囲に存する物体(以下、「障害物」と呼ぶ。)の分布状況に係る情報を取得する機能を有する。障害物OB(例えば
図6A、
図6B等参照)とは、特に限定されないが、例えば、電柱・交通標識等の柱状体、ブロック塀・ガードレール等の構造体、他車両などが含まれる。障害物の分布状況に係る情報とは、車両10に対する障害物OBの相対的な位置関係、並びに、車両10及び障害物OBに係る離間距離Dvoの情報を含む。
障害物センサ21は、特に限定されないが、例えば、ソナーセンサによって構成され、車両10の四隅に配設される。
障害物センサ21により取得した車両10の周囲に存する障害物OBの分布状況に係る情報は、統合ECU13へ送られる。
【0018】
側方監視カメラ23は、例えば、サイドミラー(不図示)に配設され、車両10の左右側方の画像を撮像する機能を有する。
側方監視カメラ23により撮像した車両10の左右側方の画像に係る情報は、統合ECU13へ送られる。
【0019】
車速センサ25は、車両10の走行速度である車速(車体速)を検出する機能を有する。車速センサ25は、例えば、内燃機関エンジン45のクランク軸やトランスミッションに取り付けられて、駆動軸の回転速度に比例した車速信号を出力する。
車速センサ25により検出した車速に係る情報は、通信媒体19を介して統合ECU13、BRK-ECU37、ENG-ECU39へそれぞれ送られる。
【0020】
車輪速センサ27は、車両10に備わる複数の各車輪毎の回転速度である車輪速をそれぞれ検出する機能を有する。車輪速センサ27は、例えば、複数の各車輪に備わるロータ近傍に取り付けられて、ロータの回転速度に比例した車輪速信号を出力する。
車輪速センサ27により検出した車輪速に係る情報は、通信媒体19を介して統合ECU13、BRK-ECU37、ENG-ECU39へそれぞれ送られる。
【0021】
操舵角センサ29は、ステアリングホィール(不図示)の回転位置である操舵角に係る時系列情報を検出する機能を有する。操舵角に係る時系列情報は、例えば、ステアリングホィールの中立位置に数値〔0〕を割り当てると共に、右側操舵角に対してプラス符号の数値を、左側操舵角に対してマイナス符号の数値を割り当てることで表現される。
つまり、操舵角に係る時系列情報は、符号の種別(プラス/マイナス)によって表現される操舵方向の時系列情報と、数値の大きさによって表現される操舵の大きさの時系列情報と、を含んでいる。情報処理の過程では、操舵角に係る時系列情報は、操舵方向の時系列情報(符号の種別)と、操舵の大きさの時系列情報(操舵角の絶対値)と、が各個別に取り扱われる。
操舵角センサ29は、例えば、ステアリングコラムに取り付けられて、操舵軸の回転位置に応じた操舵角信号(操舵角に係る時系列情報)を出力する。
操舵角センサ29により検出した操舵角に係る時系列情報は、通信媒体19を介して統合ECU13、BRK-ECU37、ENG-ECU39へそれぞれ送られる。
【0022】
ブレーキペダルセンサ31は、車両10を制動する際に操作されるブレーキペダル(不図示)の初期位置(運転者による踏込み操作が解除された状態の操作位置)からの踏込み操作量・踏込み操作トルク(BP操作情報)を検出する機能を有する。
ブレーキペダルセンサ31で検出したBP操作情報は、通信媒体19を介して統合ECU13、BRK-ECU37、ENG-ECU39へそれぞれ送られる。
【0023】
アクセルペダルセンサ33は、車両10を加減速する際に操作されるアクセルペダル(不図示)の初期位置(運転者による踏込み操作が解除された状態の操作位置)からの踏込み操作量(AP開度情報)を検出する機能を有する。
アクセルペダルセンサ33で検出したAP開度情報は、通信媒体19を介して統合ECU13、BRK-ECU37、ENG-ECU39へそれぞれ送られる。
【0024】
シフトスイッチ35は、運転者による複数のシフトレンジ(例えば、Dレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Pレンジ等)の選択操作を受け付ける機能を有する。シフトスイッチ35は、車両10の運転席近傍に設けられている。
シフトスイッチ35で受け付けたシフトレンジ操作情報は、通信媒体19を介して統合ECU13、BRK-ECU37へそれぞれ送られる。
【0025】
一方、通信媒体19には、
図1に示すように、出力系統17として、BRK-ECU37、及び、ENG-ECU39がそれぞれ接続されている。
【0026】
BRK-ECU37は、運転者の制動操作によってマスタシリンダ(不図示)で発生した制動液圧(一次液圧)の高低に応じて、制動モータ41の駆動によってモータシリンダ装置(例えば、特開2015-110378号公報参照)を作動させることにより、車両10を制動するための制動液圧(二次液圧)を発生させる機能を有する。
また、BRK-ECU37は、例えば、統合ECU13に属する制動制御部57から送られてきた減速制御指令を受けて、ポンプモータ43を用いて加圧ポンプ(不図示)を駆動することにより、複数の各車輪(四輪)に係る制動力を、各車輪毎の目標液圧に応じた制動力に制御する機能を有する。
【0027】
ENG-ECU39は、アクセルペダルセンサ33を介して取得した運転者の加速操作(アクセルペダルの踏込量)に係る情報に基づいて、内燃機関エンジン45の駆動制御を行う機能を有する。
詳しく述べると、ENG-ECU39は、内燃機関エンジン45の吸気量を調整するスロットルバルブ(不図示)、燃料ガスを噴射するインジェクタ(不図示)、燃料の着火を行う点火プラグ(不図示)等の動作制御を行うことによって、内燃機関エンジン45の駆動制御を行う。
【0028】
〔統合ECU13の内部構成〕
次に、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の主要部である統合ECU13の内部構成について、
図1を適宜参照して説明する。
【0029】
統合ECU13は、
図1に示すように、情報取得部51、対象車輪特定部53、制動力設定部55、及び、制動制御部57を備えて構成されている。
【0030】
情報取得部51は、障害物センサ21により取得した車両10の周囲に存する障害物の分布状況に係る情報、側方監視カメラ23により撮像した車両10の左右側方の画像に係る情報、車速センサ25により検出した車速に係る情報、車輪速センサ27により検出した車輪速に係る情報、操舵角センサ29により検出した操舵角に係る時系列情報、操舵角に係る時系列情報を時間微分することで算出される操舵角速度に係る時系列情報、ブレーキペダルセンサ31で検出したBP操作情報、アクセルペダルセンサ33で検出したAP開度情報、及び、シフトスイッチ35で受け付けたシフトレンジ操作情報、をそれぞれ取得する機能を有する。
【0031】
対象車輪特定部53は、情報取得部51により取得した車速に係る情報、車輪速に係る情報、操舵角に係る時系列情報等に基づいて、車両10の小回り促進を企図した小回り促進制御に係る対象車輪を特定する機能を有する。一般に、徐行車速(時速10km以下程度の、車両10が速やかに停止可能な車速)で前進旋回中の車両10では、旋回内側後輪が特定車輪として選択される。
【0032】
制動力設定部55は、情報取得部51により取得した車速VSに係る情報、車輪速WSに係る情報、操舵角SAに係る時系列情報、BP操作情報に基づく要求制動力BF等に基づいて、車両10の小回り促進を企図した小回り促進制御に係る統合制動力IBFを算出すると共に、当該算出した統合制動力IBFに関し、特定車輪を含む複数の車輪毎の制動力を設定する役割を果たす。
制動力設定部55が有する各種機能について、詳しくは後記する。
【0033】
制動制御部57は、制動力設定部55により設定された制動力に従って、特定車輪を含む複数の各車輪毎の制動制御を行う。なお、制動制御部57は、BP操作情報(要求制動力BFに係る情報)の入力がない場合であっても、小回り促進制御を実行する。
【0034】
〔本発明の実施形態に係る車両制御装置11の主要部を表すブロック構成〕
次に、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の主要部について、
図2A-
図2Dを適宜参照して説明する。
図2Aは、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の主要部を表すブロック構成図である。
図2Bは、本発明の実施形態に係る車両制御装置11において操舵角SAに係る不感帯を設定する際に参照される操舵角SAに係る不感帯処理前後の操舵角を対比して表す特性線図である。
図2Cは、本発明の実施形態に係る車両制御装置11において車速VSが低車速域に属する場合に、車速VSの変化に応じて操舵角SAに係る不感帯幅を変化させる際に参照される第1車速レシオRvs1の特性線図である。
図2Dは、本発明の実施形態に係る車両制御装置11において車速VSが低車速域に属する場合に、車速VSの変化に応じて特定車輪に係る制動力を変化させる際に参照される第2車速レシオRvs2の特性線図である。
【0035】
本発明の実施形態に係る車両制御装置11は、
図2Aに示すように、操舵方向判別部71、操舵角不感帯設定部73、操舵角指令値算出部74、第1車速レシオ設定部75、第2車速レシオ設定部77、第1乗算部80、対象車輪特定部81、及び、制動力設定部83を備えて構成されている。
【0036】
操舵方向判別部71は、操舵角SAに係る時系列情報のうち操舵方向の情報(符号の種別)に基づいて、操舵方向を判別する。
【0037】
操舵角不感帯設定部73は、
図2Bに示すように、操舵角SAに係る時系列情報に基づいて、操舵角SAに係る不感帯の幅を設定する。操舵角SAに係る不感帯の幅とは、ステアリングホィールの中立位置(操舵中点)を基準として、操舵がなかったものとみなす操作領域を意味する。
図2Bに示す例では、x軸に不感帯処理前の操舵角SA0を、y軸に不感帯処理後の操舵角SA1を、それぞれ示す。操舵角SAに係る不感帯の幅2SAthは、
図2Bに示すように、操舵中点を挟んで位置する左側操舵臨界値(-SAth)及び右側操舵臨界値(+SAth)〕によって画定されている。左側操舵臨界値(-SAth)及び右側操舵臨界値(+SAth)〕の絶対値である|SAth|は、第1操舵角閾値に相当する。
なお、
図2Bに示す例では、操舵角SAに係る時系列情報は、操舵方向を表す符号及び操舵の大きさを表す数値の組み合わせによって表現されている。
【0038】
詳しく述べると、操舵角不感帯設定部73は、操舵角SAに係る時系列情報及び車速VSに係る情報(第1車速レシオRvs1)に基づいて、前記第1操舵角閾値(|SAth|)を設定する。具体的には、操舵角不感帯設定部73では、第1操舵角閾値(|SAth|)は、車速VSが低車速域(例えば、時速10km以下程度の徐行車速域)に属する場合、車速VSが小さいほど小さい値に可変設定される。換言すれば、操舵角SAに係る不感帯幅2SAthは、車速VSが小さいほど狭くなるように設定される。
これにより、車速VSが低車速域に属する場合には、前記小回り促進制御に係る制動力の算出に際し、僅かな操舵角SAの変化でもその算出結果に反映される。
【0039】
操舵角指令値算出部74は、操舵角不感帯設定部73によって設定された操舵角SAに係る不感帯の幅2SAthに基づいて操舵角指令値を算出する。
【0040】
第1車速レシオ設定部75は、車速VSの変化に応じて操舵角SAに係る不感帯幅2SAthを変化させる際に参照される第1車速レシオRvs1の値を設定する機能を有する。
前記機能を実現するために、第1車速レシオ設定部75は、特に、車速VSが低車速域に属する場合(VS<VSth12)に、
図2Cに示す特性線図に従って、車速VSに応じた第1車速レシオRvs1として1未満の値を適宜設定する。
【0041】
詳しく述べると、
図2Cに示す特性を有する第1車速レシオRvs1では、第11車速値VSth11以下の領域(VS=<VSth11)に属する車速VSに対して固定値(0)が割り当てられ、第11車速値VSth11を超え~第12車速値VSth12以下の領域(VSth11<VS=<VSth12)に属する車速VSに対して線形の可変値(0.5-1)が割り当てられ、第12車速値VSth12を超える領域(VS>VSth12)に属する車速VSに対して固定値(1)が割り当てられる。
【0042】
第1車速レシオ設定部75により設定された第1車速レシオRvs1の値は、操舵角不感帯設定部73において、操舵の大きさを表す操舵角SAの数値に乗算される。これにより、車速VSが低車速域に属する場合(VS<VSth12)において、車速VSの変化に応じて操舵角SAに係る不感帯幅2SAthを変化させることができる。
【0043】
第2車速レシオ設定部77は、車速VSの変化に応じて特定車輪に係る制動力を変化させる際に参照される第2車速レシオRvs2の値を設定する機能を有する。
前記機能を実現するために、第2車速レシオ設定部77は、車速VSが低車速域に属する場合(VS=<VSth22)に、
図2Dに示す特性線図に従って、車速VSに応じた第2車速レシオRvs2として1未満の値を適宜設定する。
【0044】
詳しく述べると、
図2Dに示す特性を有する第2車速レシオRvs2では、第21車速値VSth21以下の領域(VS=<VSth21)に属する車速VSに対して固定値(0)が割り当てられ、第21車速値VSth21を超え~第22車速値VSth22以下の領域(VSth21<VS=<VSth22)に属する車速VSに対して線形の漸増特性を有する可変値(0-1)が割り当てられる。
ただし、線形の漸増特性を有する可変値(0-1)に代えて、例えば、0からの立ち上がり部分を緩やかにした非線形の漸増特性を有する可変値(0-1)を採用しても構わない。
【0045】
また、第22車速値VSth22を超え~第23車速値VSth23以下の領域(VSth22<VS=<VSth23)に属する車速VSに対して固定値(1)が割り当てられる。
さらに、第23車速値VSth23を超え~第24車速値VSth24以下の領域(VSth23<VS=<VSth24)に属する車速VSに対して線形の漸減特性を有する可変値(1-0)が割り当てられ、第24車速値VSth24を超える領域(VS>VSth24)に属する車速VSに対して固定値(0)が割り当てられる。
【0046】
第2車速レシオ設定部77により設定された第2車速レシオRvs2の値は、第1乗算部80において、操舵角指令値算出部74により算出された操舵角指令値に乗算される。
これにより、車速VSが低車速域のうち不感帯領域(0=<VS=<VSth21)を超える値をとるケース(要するに、停止していた特定車輪が動き出すケース)において、特定車輪に係る制動力の大きさを即時に立ち上げる(第2車速レシオRvs2の値を0から1に急増させる)のに代えて、車速VSの変化に応じて、車速VSが高くなるにつれて特定車輪に係る制動力を漸増させる(車速VSが低くなるにつれて特定車輪に係る制動力を漸減させる)ことができる。
その結果、車両10の小回り促進を狙って特定車輪に対し小回り促進制御を実行中であっても、クリーピングノイズを可及的に抑制して快適な運転環境を醸成し、これをもって持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【0047】
ここで、第1車速レシオ設定部75に係る第11車速値VSth11(
図2C参照)と、第2車速レシオ設定部77に係る第21車速値VSth21(
図2D参照)とは、相互に共通の値であっても良いし、相互に異なる値であっても構わない。
同様に、第1車速レシオ設定部75に係る第12車速値VSth12(
図2C参照)と、第2車速レシオ設定部77に係る第22車速値VSth22(
図2D参照)とは、相互に共通の値であっても良いし、相互に異なる値であっても構わない。
【0048】
第1乗算部80は、操舵角指令値算出部74により算出された操舵角指令値に、第2車速レシオ設定部77により設定された第2車速レシオRvs2の値を乗算する。これにより、第1乗算部80は、操舵角SA及び車速VSの両者を考慮した小回り促進制御用の制動力である統合制動力IBFを算出する。第1乗算部80の乗算結果である統合制動力IBFは、対象車輪特定部81及び制動力設定部83へとそれぞれ送られる。
【0049】
対象車輪特定部81は、対象車輪特定部53と同様に、情報取得部51により取得した車速VSに係る情報、車輪速WSに係る情報、操舵角SAに係る時系列情報等に基づいて、車両10の小回り促進を企図した小回り促進制御に係る対象車輪を特定する。なお、本明細書において、こうして特定された対象車輪を、「特定車輪」と呼ぶ場合がある。
【0050】
制動力設定部83は、情報取得部51により取得した車速VSに係る情報、車輪速WSに係る情報、操舵角SAに係る時系列情報、要求制動力に係る情報等に基づいて、小回り促進制御用の統合制動力IBFを、特定車輪を含む複数の車輪毎に適宜分配する設定を行うと共に、こうして設定した制動力を制動力指令値としてそれぞれ出力する。
【0051】
また、制動力設定部83は、操舵角SAに係る時系列情報、操舵角速度SSに係る情報等に基づいて、操舵輪が一側の操舵位置にある際に、少なくとも当該操舵位置に基づき選択された第1特定車輪に対して第1制動力BF1sが設定されている場合において、一側の操舵位置から中立位置を経て他側の操舵位置に至るまでの切り返し操作がなされた場合に、当該切り返し操作がなされている間、第1特定車輪に係る第1制動力BF1sが残るようにする。ここで、第1特定車輪に係る第1制動力BF1sが残るようにするとは、第1特定車輪に係る第1制動力BF1sがゼロを超える値を保持することを意味する。
なお、切り返し操作がなされたときの第1制動力は切り返し操作がされていないときの第1制動力から低減してもよく、切り返し操作がなされたときの第1制動力はゼロを超える値に設定されていればよい。
【0052】
〔本発明の実施形態に係る車両制御装置11の基本動作〕
次に、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の基本動作について、
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の基本動作を表すフローチャート図である。
【0053】
図3に示すステップS11において、統合ECU13に備わる情報取得部51は、車速VSに係る情報、車輪速WSに係る情報、操舵角SAに係る時系列情報、操舵角速度SSに係る時系列情報、BP操作情報、AP開度情報、シフトレンジ操作情報、障害物分布ODに係る情報、車両10の左右側方の画像に係る情報、を含む各種情報をそれぞれ取得する。
【0054】
ステップS12において、第1車速レシオ設定部75は、車速VSの変化に応じて操舵角SAに係る不感帯幅2SAthを変化させる際に参照される第1車速レシオRvs1の値を設定する。
【0055】
ステップS13において、操舵角不感帯設定部73は、操舵角SAに係る時系列情報及び車速VSに係る情報(第1車速レシオRvs1)に基づいて、第1操舵角閾値(|SAth|)を設定する。これにより、操舵角SAに係る不感帯幅2SAthが設定される。
【0056】
ステップS14において、操舵角指令値算出部74は、操舵角不感帯設定部73によって設定された操舵角SAに係る不感帯の幅2SAthに基づいて操舵角指令値を算出する。
【0057】
ステップS15において、第2車速レシオ設定部77は、車速VSが低車速域に属する場合(VS=<VSth22)に、車速VSの変化に応じて特定車輪に係る制動力を変化させる際に参照される第2車速レシオRvs2の値を設定する。なお、車速VSが低車速域に属する場合、車速VSに応じて可変設定される第2車速レシオRvs2としては、1未満の値が設定される。
【0058】
ステップS16において、第1乗算部80は、操舵角指令値算出部74により算出された操舵角指令値に、第2車速レシオ設定部77により設定された第2車速レシオRvs2の値を乗算することにより、操舵角SA及び車速VSの両者を考慮した小回り促進制御用の統合制動力IBFを算出する。
【0059】
ステップS17において、対象車輪特定部81は、対象車輪特定部53と同様に、情報取得部51により取得した車速VSに係る情報、車輪速WSに係る情報、操舵角SAに係る時系列情報等に基づいて、車両10の小回り促進を企図した小回り促進制御に係る対象車輪を特定する。
【0060】
ステップS18において、制動力設定部83は、情報取得部51により取得した車速VSに係る情報、車輪速WSに係る情報、操舵角SAに係る時系列情報、要求制動力に係る情報等に基づいて、小回り促進制御用の統合制動力IBFを、特定車輪を含む複数の車輪毎に適宜分配する設定を行うと共に、こうして設定した制動力を制動力指令値としてそれぞれ出力する。
【0061】
〔本発明の実施形態に係る車両制御装置11の応用動作〕
次に、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の応用動作について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る車両制御装置11の応用動作を表すタイムチャート図である。
前提として、車両10は徐行車速(例えば時速5-10km程度)で前進旋回中であって、小回り促進制御が実行中であるものとする。
【0062】
図4に示す時刻t0-t1直前において、操舵角SAは一側操舵位置(例えば、左側終端操舵位置)に切られている。同時刻t0-t1直前において、対象車輪特定部53により選択された第1特定車輪に係る第1制動力BF1としては(車速VS・操舵角SA等に基づき適宜設定される)所定値BF1sが作用している。
【0063】
時刻t1において、ステアリングホィールの切り戻し操作(切り返し操作)を開始した。ここで、ステアリングホィールの切り戻し操作とは、一側操舵位置(又は他側操舵位置)に切られているステアリングホィールを中立位置に向けて切り戻す操作である。一方、ステアリングホィールの切り返し操作とは、一側操舵位置(又は他側操舵位置)に切られているステアリングホィールを中立位置を経て逆側の他側操舵位置(又は一側操舵位置)に向けて切り返す操作である。
【0064】
時刻t1-t4において、ステアリングホィールの切り返し操作が継続してなされている。すなわち、時刻t1-t4の区間は、切り返し操作がなされている間に相当する。
【0065】
時刻t1-t4のうち、時刻t1-t2において、操舵角SAが一側操舵位置から中立位置に至るまで切り戻し操作がなされている。同時刻t1-t2において、第1特定車輪に係る第1制動力BF1は、操舵角SAの変化態様(所定の操舵角速度SSをもって変化)に応じて、所定値BF1sからその半分の値BF1s/2へと線形に漸減している。
【0066】
時刻t1-t4のうち、時刻t2-t3において、操舵角SAが中立位置から他側操舵位置に向かうように切り返し操作がなされている。同時刻t2-t3において、第1特定車輪に係る第1制動力BF1は、操舵角SAの変化態様に応じて、引き続き線形に漸減している。
【0067】
同時刻t2において注目すべきは、対象車輪特定部53により選択された第2特定車輪に係る第2制動力BF2が立ち上がりを開始している点である。同時刻t2-t3において、第2特定車輪に係る第2制動力BF2は、第1特定車輪に係る第1制動力BF1とは逆に、操舵角SAの変化態様(所定の操舵角速度SSをもって変化)に応じて、線形に漸増している。
【0068】
時刻t1-t4のうち、時刻t3において、第1特定車輪に係る第1制動力BF1と、第2特定車輪に係る第2制動力BF2とは、共通の値になっている。
要するに、制動力設定部55は、切り返し操作がなされている間(時刻t1-t4の区間参照)において、操舵輪が中立位置に到達した時点(時刻t2)を起点として所定時間が経過した後(時刻t3)、第1特定車輪に係る第1制動力BF1及び第2特定車輪に係る第2制動力BF2が交差するようにしている。
なお、前記所定時間については、必ずしも第2特定車輪に係る第2制動力BF2が所定値BF1sからその半分の値BF1s/2へと変位するための時間長でなくともよく、第2制動力BF2がゼロを超える状態となる時間長に設定されていればよい。
【0069】
時刻t1-t4のうち、時刻t3-t4において、操舵角SAが中立位置から他側操舵位置に至るまで切り返し操作がなされている。同時刻t3-t4において、第1特定車輪に係る第1制動力BF1は、操舵角SAの変化態様に応じて、引き続き線形に漸減している。また、同時刻t3-t4において、第2特定車輪に係る第2制動力BF2は、第1特定車輪に係る第1制動力BF1とは逆に、操舵角SAの変化態様に応じて、線形に漸増している。
【0070】
時刻t4において、ステアリングホィールの切り返し操作が終了した。同時刻t4以降において、操舵角SAは他側操舵位置(例えば、右側終端操舵位置)を保持している。同時刻t4以降において、第1特定車輪に係る第1制動力BF1は値ゼロに収束している。また、同時刻t4以降において、第2特定車輪に係る第2制動力BF2は、第1特定車輪に係る第1制動力BF1とは逆に、(車速VS・操舵角SA等に基づき適宜設定される)所定値BF2sを保持している。
【0071】
〔本発明の実施形態に係る車両制御装置11の作用効果〕
本発明の実施形態に係る第1の観点に基づく車両制御装置11では、制動力設定部55は、操舵輪が一側操舵位置にある際に、少なくとも当該操舵位置に基づき選択された第1特定車輪に対して第1制動力が設定されている場合において、一側操舵位置から中立位置を経て他側操舵位置に至るまでの切り返し操作がなされた場合に、当該切り返し操作がなされている間(
図4に示す時刻t1-t4の区間参照)、第1特定車輪に係る第1制動力BF1が残るようにする。ここで、第1特定車輪に係る第1制動力BF1が残るようにするとは、第1制動力BF1の値が少なくともゼロを超えていることを意味する。
【0072】
第1の観点に基づく車両制御装置11によれば、操舵の切り返し操作が行われた場合であっても、唐突な車両の動き出しを抑制(車両の挙動安定性を担保)して快適な運転環境を醸成し、これをもって持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【0073】
また、本発明の実施形態に係る第2の観点に基づく車両制御装置11では、制動力設定部55は、切り返し操作がなされている間(
図4に示す時刻t1-t4の区間参照)において、操舵輪が一側操舵位置から中立位置を経て他側操舵位置にある際に、操舵輪が中立位置に到達した時点(時刻t2)を起点として所定の待機時間(
図4に示す時間長(t3―t2)参照)が経過するまでの間、第1特定車輪に係る第1制動力BF1が残るようにする。ここで、第1特定車輪に係る第1制動力BF1が残るようにするとは、第1制動力BF1の値が少なくともゼロを超えていることを意味する。
ただし、所定の待機時間は、当該待機時間の経過後に、操舵輪が一側操舵位置から中立位置を超えて他側操舵位置にある(十分な切り返し状態にある)ことを考慮して、適宜の時間長を設定すればよい。
【0074】
本発明の実施形態に係る第2の観点に基づく車両制御装置11によれば、第1の観点に基づく車両制御装置11と比べて、操舵輪が一側操舵位置から中立位置を経て他側操舵位置に遷移する際の時間的な速さ(操舵角速度SS)の如何にかかわらず、少なくとも操舵輪が中立位置に到達した時点を起点として所定の待機時間が経過するまでの間、第1特定車輪に係る第1制動力BF1が残るようにすることができる。
その結果、操舵の切り返し操作が行われた場合であっても、唐突な車両の動き出しを抑制して快適な運転環境を醸成する作用効果を、より一層的確に得ることができる。
【0075】
また、本発明の実施形態に係る第3の観点に基づく車両制御装置11では、制動力設定部55は、切り返し操作がなされている間において、当該切り返し操作が継続している間、つまり、当該切り返し操作に従う方向に操舵角SAが変化し続けている間、第1特定車輪に係る第1制動力BF1を、操舵角SAの変化態様に応じて漸減させる。ここで、操舵角SAの変化態様とは、主として操舵角速度SSの時間的な変化の態様を想定している。
【0076】
すなわち、本発明の実施形態では、操舵角SAの変化態様として、
図4に示すように、操舵角速度SSの時間的な変化が一定となる線形特性の態様を例示したが、実際には、操舵角速度SSの時間的な変化が不定となる非線形特性の態様が想定される。こうしたケースでは、操舵角速度SSの非線形特性に応じて、第1特定車輪に係る第1制動力BF1の漸減特性も非線形な特性を示すものとなる。
【0077】
第3の観点に基づく車両制御装置11によれば、切り返し操作がなされている間において、当該切り返し操作が継続している間(当該切り返し操作に従う方向に操舵角SAが変化し続けている間)、第1特定車輪に係る第1制動力BF1を、操舵角SAの変化態様に応じて漸減させるため、第2の観点に基づく車両制御装置11と同様に、操舵の切り返し操作が行われた場合であっても、唐突な車両の動き出しを抑制して快適な運転環境を醸成する作用効果を、より一層的確に得ることができる。
【0078】
また、本発明の実施形態に係る第4の観点に基づく車両制御装置11では、制動力設定部55は、前記切り返し操作がなされた場合において、前記操舵輪が他側の操舵位置にある際に、少なくとも当該操舵位置に基づき選択された第2特定車輪に対して第2制動力BF2を設定すると共に、当該切り返し操作がなされている間に、前記第1特定車輪に係る前記第1制動力BF1を、前記操舵角SAの変化態様に応じて漸減させる一方、前記第2特定車輪に係る前記第2制動力BF2を、前記操舵角SAの変化態様に応じて漸増させる。
【0079】
第4の観点に基づく車両制御装置11によれば、切り返し操作がなされている間に、第1特定車輪に係る第1制動力BF1を、操舵角SAの変化態様に応じて漸減させる一方、第2特定車輪に係る第2制動力BF2を、操舵角SAの変化態様に応じて漸増させるため、第1又は第2の観点に基づく車両制御装置11と比べて、切り返し操作に伴う特定車輪に係る制動力の切り替えを円滑に遂行して、車両の乗り心地を高めることができる。
【0080】
また、本発明の実施形態に係る第5の観点に基づく車両制御装置11では、制動力設定部55は、前記切り返し操作がなされている間において、前記操舵輪が前記中立位置に到達した時点を起点として所定時間が経過した後、前記第1特定車輪に係る前記第1制動力BF1及び前記第2特定車輪に係る前記第2制動力BF2が交差するようにする。
【0081】
本発明の実施形態に係る第5の観点に基づく車両制御装置11によれば、切り返し操作がなされている間において、操舵輪が中立位置に到達した時点を起点として所定時間が経過した後、第1特定車輪に係る第1制動力BF1及び第2特定車輪に係る第2制動力BF2が交差するようにするため、第4の観点に基づく車両制御装置11と同様に、切り返し操作に伴う特定車輪に係る制動力の切り替えを円滑に遂行して、車両の乗り心地を高めることができる。
【0082】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0083】
例えば、本発明に係る実施形態において、動力源として内燃機関エンジンを搭載した車両に対して、本発明の実施形態に係る車両制御装置11を適用する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。動力源としてモータジェネレータを搭載した電動車両、動力源として内燃機関エンジン及びモータジェネレータを搭載したハイブリッド車両等に対して、本発明を適用しても構わない。
【符号の説明】
【0084】
10 車両
11 車両制御装置
13 統合ECU
51 情報取得部
53 対象車輪特定部
55 制動力設定部
57 制動制御部
VS 車速
WS 車輪速
SA 操舵角
BF 要求制動力
Rvs1 第1車速レシオ
Rvs2 第2車速レシオ
BF1 第1制動力
BF2 第2制動力