(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023054
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】情報処理装置、制御システム、探索方法、および探索プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20240214BHJP
F23G 5/50 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G05B13/02 B
F23G5/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126606
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野原 俊平
(72)【発明者】
【氏名】白石 裕司
【テーマコード(参考)】
3K062
5H004
【Fターム(参考)】
3K062AA02
3K062AA04
3K062AB01
3K062AC01
3K062BA02
3K062CA01
3K062DA01
3K062DA11
3K062DB03
3K062DB05
5H004GB01
5H004GB20
5H004KC24
5H004KC48
(57)【要約】
【課題】人の主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行う。
【解決手段】フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出部(102)と、前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索部(103)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出部と、
前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索部と、を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記フィードバック制御は、廃棄物焼却施設で適用されるフィードバック制御である、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記探索部が検出した前記候補を適用したフィードバック制御の結果を示す結果データを取得するデータ取得部を備え、
前記予測分布算出部は、前記候補と前記結果データとを用いて前記予測分布を更新する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記候補の探索において、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺と、フィードバック制御の結果が未知の範囲と、の何れを重視して探索を行うかの選択を受け付ける受付部を備え、
前記探索部は、前記受付部が受け付けた選択に従って前記候補を探索する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記フィードバック制御の結果を示す情報として、当該フィードバック制御が行われた期間に計測された計測値のうち所定の許容範囲内である計測値の割合を示す評価値を用いる、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記所定の許容範囲は、前記フィードバック制御が行われた前記期間に計測された計測値の平均値から当該期間に計測された前記計測値の標準偏差を引いた値から、前記平均値に前記標準偏差を加えた値までの範囲である、請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記探索部が検出した前記候補を適用したフィードバック制御の結果を取得し、取得した当該結果に基づいて前記予測分布を更新するか否かを判定する処理を、所定期間毎に繰り返し行う更新要否判定部を備える、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記予測分布の平均と分散から算出された、前記探索部が検出した前記候補を適用したフィードバック制御の結果の予測値を提示する予測値提示部を備える、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記予測分布の平均と分散に基づき、前記探索部が検出した前記候補が妥当である理由を提示する理由提示部を備える、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記制御パラメータは、PID(Proportional Integral Differential)制御における、設定値と計測値との偏差に乗じる係数、当該偏差の積分に乗じる係数、および当該偏差の微分に乗じる係数の少なくとも何れかを含み、
前記フィードバック制御は、前記偏差と前記係数から制御対象の機器に対する操作量を算出するものであり、
比較対象とする前記係数の値と前記候補との差異に基づき、前記探索部が更新後の当該予測分布に基づいて検出した前記候補を適用したときに前記操作量がどのように変化するかを示す情報を提示する変化態様提示部を備える、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項11】
制御対象の機器に対してフィードバック制御を行う制御装置と、
前記フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する情報処理装置と、を含み、
前記制御装置は、前記候補を適用して制御対象の前記機器に対するフィードバック制御を行う、制御システム。
【請求項12】
1または複数の情報処理装置が実行する探索方法であって、
フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出ステップと、
前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索ステップと、を含む探索方法。
【請求項13】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための探索プログラムであって、前記予測分布算出部および前記探索部としてコンピュータを機能させるための探索プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御における制御パラメータを調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フィードバック制御は、出力値と目標値とを一致させるように入力値を制御するという制御手法であり、各種機器の自動制御に古くから用いられている。適切なフィードバック制御を行うためには、制御パラメータを適切に設定する必要があり、制御パラメータを適切に設定するための技術も従来から知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、燃焼炉から排出される燃焼排ガスから窒素酸化物を除去するための除去物の吹込み量を算出する吹込み量フィードバック制御手段と、燃焼炉の炉口温度に基づいてフィードバック制御の制御パラメータを調整するパラメータ調整手段とを備えた排ガス脱硝制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術は、炉口温度と脱硝率、および炉口温度とプロセス遅れのそれぞれに相関があることを前提として、炉口温度から吹込み量のフィードバック制御における適切な制御パラメータを求めるものであり、吹き込み量のフィードバック制御以外に適用することはできない。このように、制御パラメータの調整手法として、様々なフィードバック制御に共通して適用可能な手法は従来知られておらず、このため、フィードバック制御の制御パラメータは、オペレータの経験と勘を頼りに決定されることも多かった。
【0006】
しかし、経験と勘を頼りに制御パラメータを決定する手法では、誰が制御パラメータを決定するかによって調整結果にばらつきが生じてしまい、安定したフィードバック制御を実現することは難しい。
【0007】
本発明の一態様は、人の主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行うことを可能にする情報処理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出部と、前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索部と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係る制御システムは、上記の課題を解決するために、制御対象の機器に対してフィードバック制御を行う制御装置と、前記フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する情報処理装置と、を含み、前記制御装置は、前記候補を適用して制御対象の前記機器に対するフィードバック制御を行う。
【0010】
また、本発明の一態様に係る探索方法は、上記の課題を解決するために、1または複数の情報処理装置が実行する探索方法であって、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出ステップと、前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、人の主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】上記情報処理装置を含む制御システムの概要を示す図である。
【
図3】結果データの入力を受け付ける表示画面の例を示す図である。
【
図5】フィードバック制御が行われた期間に計測された計測値(PV)のヒストグラムを示す図である。
【
図6】上記情報処理装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔システム構成〕
本発明の一実施形態に係る制御システム9の概要を
図2に基づいて説明する。
図2は、制御システム9の概要を示す図である。図示のように、制御システム9には、情報処理装置1、データベース2、制御装置3、機器4、および計測装置5が含まれる。なお、情報処理装置1は、制御装置3や機器4から離れた遠隔地に設置されていてもよい。
【0014】
制御システム9では、制御装置3による機器4のフィードバック制御が行われる。情報処理装置1は、当該フィードバック制御における制御パラメータを調整するための装置である。詳細は後述するが、情報処理装置1は、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索する。
【0015】
制御システム9のユーザは、情報処理装置1が検出した候補を、制御システム9におけるフィードバック制御に適用することにより、当該ユーザの主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行うことが可能になる。
【0016】
制御装置3は、上述のように、制御対象の機器4に対してフィードバック制御を行う装置である。具体的には、制御装置3は、PID(Proportional Integral Differential)制御によるフィードバックを行う。PID制御では、設定値(SV:Set Value)と計測値(PV:Process Value)との偏差(DV:deviation)、DVの積分、およびDVの微分の3つの要素により操作量(MV:Manipulated Variable)を決定する。PID制御における操作量(MV)の算出式は下記のように表される。
【0017】
MV=P×DV+(60/I)×(DVの積分)+(D/60)×(DVの微分)
上記の算出式において、P、I、Dは、それぞれ比例制御、積分制御、および微分制御をどの程度重視するかを決定する制御パラメータである。適切なフィードバック制御を実現するためには、P、I、Dの値を適切に設定することが必要であり、情報処理装置1はこれらの制御パラメータの最適値を探索する。なお、情報処理装置1は、必ずしもP、I、Dの制御パラメータの全てについて最適値を探索する必要はなく、そのうち少なくとも1つを探索してもよい。
【0018】
制御システム9において、上記の算出式で算出される操作量(MV)が適用される操作端は、機器4またはその構成要素である。例えば、機器4がバルブを備えている場合には当該バルブを操作端とし、バルブの開度を操作量(MV)としてもよい。また、例えば、機器4がインバータを備えている場合、当該インバータを操作端としてもよい。
【0019】
なお、1つの機器4が複数の操作端を有している場合、制御装置3は各操作端の操作量(MV)を決定するが、この場合、情報処理装置1は各操作端について制御パラメータの最適値の候補を検出してもよい。例えば、機器4の温度制御を行う場合には、上述の算出式を用いて、冷却と加熱の2つの操作端のそれぞれについて操作量(MV)が算出される。この場合、情報処理装置1は、冷却の制御に用いられる制御パラメータの最適値の候補と、加熱の制御に用いられる制御パラメータの最適値の候補とのそれぞれを一度に検出することができる。無論、情報処理装置1は、冷却の制御に用いられる制御パラメータの最適値の候補を検出した後で、加熱の制御に用いられる制御パラメータの最適値の候補を検出することもできる。同様に、情報処理装置1は、加熱の制御に用いられる制御パラメータの最適値の候補を検出した後で、冷却の制御に用いられる制御パラメータの最適値の候補を検出することもできる。
【0020】
また、同じ操作端を対象とする場合であっても、条件に応じて異なる制御パラメータを適用してもよい。この場合、情報処理装置1は、条件ごとに制御パラメータの最適値の候補を検出してもよい。例えば、制御装置3は、機器4が第1の運転条件で稼働しているときには、第1の制御パラメータを使用して算出された操作量(MV)で機器4を制御する一方、機器4が第2の運転条件で稼働しているときには、第2の制御パラメータを使用して算出された操作量(MV)で機器4を制御してもよい。この場合、情報処理装置1は、第1の制御パラメータの最適値の候補と、第2の制御パラメータの最適値の候補のそれぞれを一度に検出することができる。無論、情報処理装置1は、第1の制御パラメータの最適値の候補を検出した後で、第2の制御パラメータの最適値の候補を検出することもできる。同様に、情報処理装置1は、第2の制御パラメータの最適値の候補を検出した後で、第1の制御パラメータの最適値の候補を検出することもできる。
【0021】
制御システム9におけるプラントプロセスは、例えば燃焼や化学反応等である。なお、制御システム9は、プラントプロセスに限られず、任意の対象についての制御に適用することができる。
【0022】
制御システム9における計測端は、計測値(PV)を計測するためのものであり、例えば計測装置5により実現される。計測装置5は、計測対象に応じたものとすればよい。例えば計測値(PV)が圧力であれば計測装置5として圧力計を適用し、計測値(PV)が温度であれば計測装置5として温度計を適用すればよい。計測装置5で計測された計測値(PV)は、上述のように偏差(DV)の算出に用いられると共に、データベース2に記憶され、情報処理装置1による制御パラメータの探索に用いられる。なお、データベース2は、情報処理装置1または制御装置3が備えていてもよい。
【0023】
以上のように、制御システム9は、制御対象の機器4に対してフィードバック制御を行う制御装置3と、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索する情報処理装置1と、を含み、制御装置3は、情報処理装置1が検出する候補を適用して制御対象の機器4に対するフィードバック制御を行う。この制御システム9によれば、人の主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行うことが可能になる。また、制御パラメータの検討に要する時間も削減できるため、制御システム9の管理業務の効率化にも資する。
【0024】
情報処理装置1が制御パラメータの最適値の候補を検出する対象とするフィードバック制御は、例えば、廃棄物焼却施設におけるフィードバック制御であってもよい。一般に、廃棄物焼却施設では、多種多様な廃棄物を焼却し、また、それら廃棄物の性状(例えば水分含量)も一定しないため、運転状況は常に変化する。このため、運転状況に応じたフィードバック制御が求められるが、廃棄物の性状の不安定さ等の要因により高精度な制御を行うことが難しかった。この点、情報処理装置1によれば、予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索するため、安定したフィードバック制御を行うことが可能になる。
【0025】
なお、制御システム9が廃棄物焼却施設のフィードバック制御を行うものである場合、機器4は、廃棄物焼却施設に配置された機器となる。例えば、機器4は、焼却炉、焼却炉内で廃棄物を搬送する火格子、燃焼空気の供給装置、または排出ガスの処理装置等であってもよい。また、廃棄物焼却施設は、焼却炉の排熱を利用して発電を行う発電設備を備えたものであってもよく、この場合、機器4は、発電設備に関連する機器(例えばボイラ等)であってもよい。
【0026】
〔情報処理装置の構成〕
図1に基づいて情報処理装置1の構成を説明する。
図1は、情報処理装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10と、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、情報処理装置1は、情報処理装置1が他の装置と通信するための通信部12、情報処理装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および情報処理装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。また、制御部10には、データ取得部101、予測分布算出部102、探索部103、受付部104、予測値提示部105、理由提示部106、変化態様提示部107、および更新要否判定部108が含まれている。
【0027】
データ取得部101は、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果とを対応付けた結果データを取得する。また、探索部103が上記制御パラメータの最適値の候補を検出した後には、データ取得部101は、当該候補を適用したフィードバック制御の結果を示す結果データを取得する。
【0028】
予測分布算出部102は、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する。また、予測分布算出部102は、予測分布を算出した後に、データ取得部101が新たな結果データ(探索部103が検出した候補を適用したフィードバック制御の結果を示すもの)を取得した場合、当該新たな結果データを用いて予測分布を更新する。
【0029】
結果データの取得と予測分布の更新は必須の構成ではないが、当該構成により、更新後の予測分布に基づいた、より妥当性の高い制御パラメータの最適値の候補を検出することが可能になる。また、結果データの取得と予測分布の更新を繰り返すことができ、これにより、制御パラメータの候補を最適値または最適値により近い値として、高精度なフィードバック制御を実現することができる。
【0030】
探索部103は、予測分布算出部102が算出する予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索する。なお、予測分布の算出および更新の方法と、候補の探索方法の詳細については後述する。
【0031】
受付部104は、探索部103による候補の探索において、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺と、フィードバック制御の結果が未知の範囲と、の何れを重視して探索を行うかの選択を受け付ける。なお、当該選択のためのユーザの操作は例えば入力部13を介して受け付ければよい。そして、探索部103は、受付部104が上記の選択を受け付けた場合、当該選択に従って候補を探索する。
【0032】
受付部104は必須の構成ではないが、情報処理装置1が受付部104を備えている場合、情報処理装置1のユーザは、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺を重視して探索を行うことを選択することができる。この場合、局所最適解である可能性はあるが安定した制御結果が期待できる候補を検出することができる。また、情報処理装置1のユーザは、フィードバック制御の結果が未知の範囲を重視して探索を行うことを選択することもできる。この場合、制御結果に当り外れが出る可能性はあるが、大域最適解の検出に大きく寄与することが期待できる候補を検出することができる。
【0033】
予測値提示部105は、探索部103が検出した候補を適用したフィードバック制御の結果の予測値を提示する。詳細は後述するが、予測値提示部105は、予測分布の平均と分散から上記予測値を算出する。
【0034】
予測値提示部105は必須の構成ではないが、情報処理装置1が予測値提示部105を備えている場合、検出された候補を適用したフィードバック制御の結果の予測値という当該候補を適用するか否かの判断材料として有用な情報をユーザに提示することができる。
【0035】
理由提示部106は、探索部103が検出した候補が妥当である理由を提示する。詳細は後述するが、理由提示部106は、予測分布の平均と分散に基づいて上記理由を特定する。
【0036】
理由提示部106も必須の構成ではないが、情報処理装置1が理由提示部106を備えている場合、検出された候補が妥当である理由という当該候補を適用するか否かの判断材料として有用な情報をユーザに提示することができる。
【0037】
変化態様提示部107は、探索部103が検出した候補を適用したときに、制御対象の機器に対する操作量(MV)がどのように変化するかを示す情報を提示する。詳細は後述するが、変化態様提示部107は、比較対象とする制御パラメータ(上述の算出式における係数P、I、D)の値と候補との差異に基づいて、操作量(MV)がどのように変化するかを特定する。
【0038】
変化態様提示部107も必須の構成ではないが、情報処理装置1が変化態様提示部107を備えている場合、検出された候補を適用したときの操作量がどのように変化するかを示す情報という当該候補を適用するか否かの判断材料として有用な情報をユーザに提示することができる。
【0039】
更新要否判定部108は、探索部103が検出した候補を適用したフィードバック制御の結果を取得し、取得した当該結果に基づいて予測分布を更新するか否かを判定する処理を、所定期間毎に繰り返し行う。
【0040】
更新要否判定部108は必須の構成ではないが、情報処理装置1が更新要否判定部108を備えている場合、フィードバック制御の結果が所望のものとなるまで、予測分布の更新と候補の検出を自動で継続することができると共に、フィードバック制御の結果が所望のものとなったときに予測分布の更新と候補の検出を自動で終了することができる。また、情報処理装置1が更新要否判定部108を備えている場合、フィードバック制御の結果が所望のものとなった後、当該結果が所望のものではなくなったときに予測分布の更新と候補の検出を自動で再開することができる。
【0041】
また、更新要否判定部108は、探索部103が検出した候補が適用された後の機器4の動作に問題がないか判定し、問題があると判定した場合には制御パラメータを変更させる処理についても行ってもよい。これにより、検出された候補が妥当でなかった場合に、その影響を最小限に留めることができる。なお、これらの処理は、更新要否判定部108とは別の処理ブロックを設けて当該処理ブロックに行わせてもよい。
【0042】
ここで、フィードバック制御において、制御パラメータと該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数を求めることができれば、所望の結果が得られる制御パラメータを決定することは容易である。しかし、一般にはそのような関数を求めることは難しい。
【0043】
そこで、情報処理装置1は、以上のように、制御パラメータと制御結果との関係を示す関数を求める代わりに、当該関数の予測分布を算出し、算出した予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索する、という構成を採用している。
【0044】
これにより、制御パラメータと制御結果との関係を示す関数を求めることが難しい場合であっても、予測分布から妥当と考えられる制御パラメータを自動で決定することができる。そして、決定された制御パラメータを適用することにより、人の主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行うことが可能になる。
【0045】
〔予測分布の算出方法と最適値の候補の探索方法の詳細〕
予測分布算出部102による予測分布の算出方法(更新も含む)の詳細と、探索部103による最適値の候補の探索方法の詳細を以下説明する。なお、以下の説明は、ベイズ最適化における予測分布の算出方法と探索方法に関するものである。ただし、予測分布を用いて最適値の候補を探索するものであれば、以下の説明に係る方法以外の方法を適用することも可能である。
【0046】
フィードバック制御において最適化したい制御パラメータがN個ある場合、それらの制御パラメータは、
【0047】
【0048】
と表され、
それに対する評価値は、
【0049】
【0050】
と表される。
【0051】
予測分布算出部102は、データ取得部101が取得する結果データを用いて、制御パラメータと制御結果との関係を示す関数の予測分布を算出する。なお、この関数を以下では評価関数f(θ)と呼ぶ。また、新たな結果データ(例えば、探索部103が検出した候補を適用したフィードバック制御の結果を示す結果データ)が取得されたときには、予測分布算出部102は、その結果データが反映されるように予測分布を更新する。
【0052】
制御変数と制御結果との関係を、ガウスノイズεn~Ν(0,β)を用いて
【0053】
【0054】
と仮定すると、ガウス過程による評価関数の予測分布として以下の分布が得られる。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
ここで、k*=k(θ,θ)であり、KΘは[KΘ]i,j=k(θi,θj)で得られるグラム行列である。また、
【0059】
【0060】
である。kΘ,*は、[kΘ,*]i=k(θi,θ)の縦ベクトルであり、k(・,・)は、カーネル関数である。ここではカーネル関数のパラメータをαkとする。
【0061】
平均関数μ(θ)は、結果データから予測される評価関数の平均値を示す。また、分散関数σ(θ)は、結果データから予測される評価関数の分散である。σ(θ)は、予測の不確実性を示し、結果データが不足している領域ではその値が大きくなる傾向がある。σが大きいと、予測が不確実であるといえ、予測の確実性を上げるために必要な結果データが不足しているといえる。数式(3)から明らかなように、分散関数σ(θ)に含まれるカーネル関数およびカーネル関数のパラメータαkは、予測分布の算出に影響を与える。予測分布の算出の際には、パラメータαkの最適化が行われる。最適化の方法は特に限定されず、例えば一般的なベイズ最適化で適用されている各種の最適化手法を適用することもできる。
【0062】
探索部103は、最適な制御パラメータを求めるために、最適な制御パラメータの候補を探索する。具体的には、探索部103は、後記数式(4)、(5)に示されるように、平均関数μ(θ)と分散関数σ(θ)を用いて獲得関数a(θ)を最大にする制御パラメータを探索する。この探索で検出された制御パラメータが、最適な制御パラメータの候補となる。この探索は、UCB(Upper Confidence Bound)戦略に基づいている。
【0063】
数式(5)におけるκは探索と利用を調節するためのパラメータである。受付部104が、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺と、フィードバック制御の結果が未知の範囲と、の何れを重視して探索を行うかの選択を受け付けた場合、探索部103は、κを受け付けた選択に応じた値に設定し、候補の探索を行う。
【0064】
無論、他の方法で新たな制御パラメータを探索することも可能である。例えば、PI(Probability of Improvement)戦略や、EI(Expected Improvement)戦略で最適な制御パラメータの候補を探索してもよい。
【0065】
なお、評価関数の値を最小化する制御パラメータを最適な制御パラメータとして求める場合(例えば短時間で完了させることが好ましいタスクについて、タスク完了までの所要時間を評価値とする場合等)には、獲得関数a(θ)を最小にする制御パラメータを探索すればよい。
【0066】
【0067】
【0068】
探索部103が検出した制御パラメータの最適値の候補は、ユーザに提示される。そして、その候補を適用したフィードバック制御が開始され、当該制御が行われた期間に計測された計測値(PV)がデータベース2に蓄積される。
【0069】
更新要否判定部108は、探索部103が検出した候補を適用したフィードバック制御の結果を示す計測値(PV)をデータベース2から取得し、取得した計測値(PV)に基づいて予測分布を更新するか否かを判定する。例えば、更新要否判定部108は、取得した計測値(PV)を用いて、適用された候補の妥当性を示す評価値を算出し、算出した評価値が所定の閾値未満であった場合に、予測分布を更新すると判定してもよい。
【0070】
また、更新要否判定部108は、予測分布を更新すると判定した場合、算出した評価値と取得した計測値とを対応付けて結果データを生成してもよい。データ取得部101は、生成された結果データを取得し、それ以前に取得されていた結果データと共に予測分布算出部102に出力する。そして、予測分布算出部102は、新たに取得された結果データと、それ以前に取得されていた結果データとを用いて予測分布を更新する。なお、評価値の算出は更新要否判定部108またはデータ取得部101が行ってもよいし、他の装置またはユーザが行ってもよい。また、評価値の算出方法については後述する。
【0071】
そして、探索部103は、予測分布算出部102による更新後の予測分布に基づいて構成される評価関数に基づき、制御パラメータの最適値を探索する。このように、予測分布の更新と最適値の探索とを繰り返すことにより、最適な制御パラメータを検出することが可能になる。
【0072】
〔表示画面例(入力・設定)〕
データ取得部101は、
図3のような表示画面を表示させて、フィードバック制御の結果データをユーザに入力させてもよい。
図3は、結果データの入力を受け付ける表示画面の例を示す図である。以下説明するように、このような表示画面を表示させることにより、ユーザは、最適化に必要な結果データの入力や、各種設定を容易に行うことができる。
【0073】
図3に示す表示画面A1には、アドレス入力ボックスA11、参照ボタンA12、決定ボタンA13、および結果データ表示領域A14が含まれている。アドレス入力ボックスA11は結果データが入ったファイルを指定するアドレスを入力するためのものである。また、参照ボタンA12は、結果データが入ったファイルを参照するためのものである。ユーザは、結果データが入ったファイルのアドレスをアドレス入力ボックスA11に入力するか、または参照ボタンA12を操作した上で参照先を指定することにより、使用するファイルを指定することができる。例えば、CSV(Comma Separated Variables)形式のファイルを指定できるようにしてもよく、この場合、データ取得部101は、指定されたCSV形式のファイルから結果データを読み込めばよい。
【0074】
そして、ユーザは、ファイルを指定した後、決定ボタンA13を操作して使用するファイルを確定させることができる。これにより、結果データ表示領域A14には、確定されたファイルから読み込まれた結果データが表示される。つまり、データ取得部101は、指定されたファイルから結果データ(制御パラメータの値とその評価値)を読み込み、それらの値を結果データ表示領域A14に表示させる。
図3の例では、制御パラメータであるP、I、Dの各値と、その値を適用したフィードバック制御が適用されていた期間に計測された計測値(PV)から算出された評価値とが対応付けて表示されている。
【0075】
なお、表示画面A1の表示先は特に限定されない。例えば、データ取得部101は、出力部14が表示装置であれば出力部14に表示画面A1を表示させてもよいし、情報処理装置1と有線または無線通信可能な他の表示装置に表示画面A1を表示させてもよい。また、表示画面A1を表示させる処理は受付部104が行ってもよいし、表示画面を表示させる処理を行う処理ブロックを別途設け、当該処理ブロックに行わせてもよい。
【0076】
また、表示画面A1には、最適化の設定を受け付けるための各種情報も含まれている。具体的には、表示画面A1には、メーカ指定ボックスA15、計算パラメータ指定ボックスA16、肯定ボタンA17、および否定ボタンA18が含まれている。
【0077】
メーカ指定ボックスA15は、制御システム9のメーカ(より詳細には制御システム9で使用されるDCS:Distributed Control Systemのメーカ)を指定するためのものである。メーカによってPID制御の制御パラメータの表現の仕方が異なる場合があるが、メーカの指定を受け付けることにより、そのメーカに応じた方式で表現された制御パラメータを最適化することができる。
【0078】
計算パラメータ指定ボックスA16は、制御パラメータの最適値の候補の探索において、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺と、フィードバック制御の結果が未知の範囲と、の何れを重視して探索を行うかの選択を受け付けるためのものである。
【0079】
具体的には、計算パラメータ指定ボックスA16には、1から3の何れかの値を入力できるようになっている。「1」の値は、活用を重視すること、つまりフィードバック制御の結果が既知の値の周辺の探索を重視することを指定する値である。また、「3」の値は、フィードバック制御の結果が未知の範囲の探索を重視することを指定する値である。そして、「2」の値は、活用と探索のどちらにも偏らない標準的な探索を行うことを指定する値である。これにより、ユーザは、所望の態様で探索を行わせることができる。無論、探索の態様を指定する方法はこの例に限られず、例えば、上述の数式(5)におけるκの値をユーザに指定させてもよい。
【0080】
ユーザは、表示画面A1において、結果データ表示領域A14に表示される結果データが妥当であるか確認する。また、ユーザは、「設定」の欄におけるメーカ指定ボックスA15および計算パラメータ指定ボックスA16への入力内容が妥当であるか確認する。そして、ユーザは、何れも妥当と判断した場合には肯定ボタンA17を操作する。これにより、予測分布算出部102による予測分布の算出が開始され、それに続いて探索部103による制御パラメータの最適値の候補の探索が行われる。また、ユーザは、最適化を中止する場合には、否定ボタンA18を操作すればよい。
【0081】
〔表示画面例(結果表示)〕
探索部103は、
図4のような表示画面を表示させて、探索の結果をユーザに提示してもよい。
図4は、探索結果の表示画面の例を示す図である。
図4に示す表示画面A2には、探索部103が検出した、制御パラメータの最適値の候補を表示する候補表示領域A21が含まれている。
図4の例では、P、I、Dという3つの制御パラメータの値が候補表示領域A21に表示されている。
【0082】
また、表示画面A2には「参考情報」の欄が含まれている。当該欄には、予想評価値、提案理由、および操作量の変化態様の3つの項目(A22~A24)が含まれている。「参考情報」の表示は必須ではないが、候補表示領域A21に示される候補を適用するか否かの判断材料となるため表示することが好ましい。
【0083】
予想評価値の項目A22には、予測値提示部105が算出する、候補表示領域A21に示される制御パラメータを適用した場合の評価値の予測値が提示されている。具体的には、予測値提示部105は、予測分布算出部102が算出した最新の予測分布から、候補として検出された制御パラメータを適用した場合の評価値の平均と分散を特定し、「平均±標準偏差(分散の平方根)」の値を評価値の予測値として算出する。例えば、平均が83、標準偏差が12である場合には、図示のように予想評価値は「83±12」となる。なお、標準偏差を用いて表される予測値は参考情報の一例にすぎず、参考情報としては様々な情報が適用可能である。例えば、算出された分散の値を参考情報として表示させてもよい。
【0084】
提案理由の項目A23には、理由提示部106が特定する、候補表示領域A21に示される制御パラメータを適用することが好ましい理由が提示されている。具体的には、項目A23には「確実性は低いが、高得点が期待できる」とのメッセージが表示されている。メッセージの内容は、上述の平均および分散に基づいて決定すればよい。例えば、理由提示部106は、平均が所定の閾値以上であれば高得点が期待できる旨のメッセージを提示し、分散が所定の閾値以上であれば確実性が低い旨、閾値未満であれば確実性が高い旨のメッセージを提示する、というルールに従って提示するメッセージを決定してもよい。この場合、平均と分散が何れも閾値以上である場合に
図4に示すようなメッセージが提示される。一方、平均は閾値以上であるが、分散は閾値未満である場合には、理由提示部106は、確実性が高く、高得点が期待できる旨のメッセージを提示してもよい。また、平均と分散の何れもが閾値未満である場合には、理由提示部106は、高得点は期待できないが、確実性が高い旨のメッセージを提示してもよい。なお、平均が閾値未満で分散が閾値以上である場合には、理由提示部106は、提案理由がない旨、あるいは結果データを追加することが望ましい旨を表示してもよい。
【0085】
操作量の変化態様の項目A24には、変化態様提示部107が特定する、候補表示領域A21に示される制御パラメータを適用する前後における操作量(
図2のMV)の変化の態様が提示されている。具体的には、偏差(DV)に対する操作量(MV)が大きくなること、偏差(DV)をゼロにするための操作量(MV)の補正量が大きくなること、そして、操作量(MV)の変化速度が遅くなることを示すメッセージが表示されている。
【0086】
なお、ここでは、制御パラメータが、上述した操作量(MV)の算出式における係数P、I、Dの値を含むことを想定している。また、フィードバック制御が、当該算出式に示されるように、設定値(SV)と計測値(PV)との偏差(DV)と上記係数から制御対象の機器に対する操作量(MV)を算出するものであることを想定している。
【0087】
例えば、上記の3つの係数P、I、Dの最適化を行った場合、変化態様提示部107は、候補表示領域A21に示される制御パラメータを適用する前後でPが増加した場合、
図4のように操作量(MV)が大きくなる旨のメッセージを提示してもよい。一方、Pが減少した場合には、変化態様提示部107は、操作量(MV)が小さくなる旨のメッセージを提示してもよい。
【0088】
また、変化態様提示部107は、候補表示領域A21に示される制御パラメータを適用する前後でIが減少した場合、
図4のように、偏差(DV)をゼロにするための操作量(MV)の補正量が大きくなる旨のメッセージを提示してもよい。一方、Iが増加した場合には、変化態様提示部107は、当該補正量が小さくなる旨のメッセージを提示してもよい。
【0089】
また、変化態様提示部107は、候補表示領域A21に示される制御パラメータを適用する前後でDが減少した場合、
図4のように操作量(MV)の変化速度が遅くなる旨のメッセージを提示してもよい。一方、Dが増加した場合には、変化態様提示部107は、当該変化速度が速くなる旨のメッセージを提示してもよい。
【0090】
以上のような内容を確認した後、ユーザは、終了ボタンA25を操作し、最適化を一旦終了させればよい。この後、候補表示領域A21に示される制御パラメータが制御装置3に伝達され、当該制御パラメータを適用したフィードバック制御が行われる。
【0091】
〔評価値について〕
フィードバック制御の結果の評価値は、フィードバック制御の対象や目的等に応じたものを適宜用いればよい。例えば、計測値(PV)を安定させることが好ましい場合には、フィードバック制御の結果を示す情報として、当該フィードバック制御が行われた期間に計測された計測値(PV)のうち所定の許容範囲内である計測値(PV)の割合を示す評価値を用いてもよい。これにより、許容範囲内の計測値の割合が高くなる制御パラメータの候補を検出し、これをフィードバック制御に適用することにより計測値(PV)を安定させることが可能になる。
【0092】
なお、評価値の算出は、データ取得部101または更新要否判定部108が行ってもよい。また、これらとは別に評価値を算出する処理ブロックを設けてもよいし、他の装置またはユーザが算出した評価値(あるいは評価値を含む結果データ)を情報処理装置1に入力してもよい。
【0093】
また、所定の許容範囲は、フィードバック制御が行われた期間に計測された計測値(PV)の平均値から当該期間に計測された計測値(PV)の標準偏差を引いた値から、上記平均値に上記標準偏差を加えた値までの範囲としてもよい。つまり、「平均値±標準偏差」の範囲を所定の許容範囲としてもよい。これにより、例えば当該期間に計測された計測値(PV)の分散を評価値とする場合と比べてより安定した評価を行うことができる。
【0094】
これについて、
図5に基づいて説明する。
図5は、フィードバック制御が行われた期間に計測された計測値(PV)のヒストグラムを示す図である。
図5に示されるヒストグラムHは、計測値(PV)をその値により10の階級に分けて、各階級の度数を示したものである。ヒストグラムHにおいては、中央付近の階級の度数が大きく、中央から離れた階級ほど度数が小さくなっている。
【0095】
図示のように、ヒストグラムHにおいて、計測値(PV)の平均値から当該計測値(PV)の標準偏差を引いた値から、当該平均値に当該標準偏差を加えた値までの範囲、すなわち「平均値±標準偏差」の範囲の計測値(PV)は、その中央部分の4つの階級に含まれている。全計測値(PV)のうちこれらの階級に含まれる計測値(PV)の割合が高いほど、計測値(PV)が安定しているといえるから、下記の式で算出される評価値は、安定性を評価するものとして妥当であるといえる。
【0096】
(評価値)={平均値±標準偏差の範囲に含まれる計測値(PV)の数/計測値(PV)の総数}×100
また、上記の式で算出される評価値は、平均値を基準としているため、例えば操作量(MV)が大きすぎる、あるいは小さすぎる等の要因により、平均値が上がったり下がったりした場合でも、その影響を受けることなく妥当な評価結果を示すものとなる。よって上述のように、当該評価値を適用することにより、安定した評価を行うことができる。
【0097】
無論、評価値は、フィードバック制御の対象や目的等に応じたものであればよく、上述の例に限られない。例えば、計測値(PV)の分散を評価値としてもよい。
【0098】
〔処理の流れ〕
情報処理装置1が実行する処理(探索方法)の流れを
図6に基づいて説明する。
図6は、情報処理装置1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0099】
S1では、データ取得部101が、フィードバック制御の結果データを取得する。例えば、データ取得部101は、
図3に示したような表示画面を表示させ、フィードバック制御の結果データをユーザに入力させてもよい。また、この際に、受付部104は、最適化の設定を受け付けてもよい。具体的な設定内容は、例えば
図3に示したような、制御システムのメーカの指定や、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺とフィードバック制御の結果が未知の範囲との何れを重視して探索を行うかの選択等であってもよい。
【0100】
S2(予測分布算出ステップ)では、予測分布算出部102が、S1で取得された結果データを用いて、最適化の対象となる制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する。予測分布は上述の数式(1)~(3)で表される。なお、2回目以降のS2の処理では先に算出された予測分布の更新が行われる。
【0101】
S3(探索ステップ)では、探索部103が、S2で算出された予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索する。より詳細には、探索部103は、獲得関数が最大となる制御パラメータの値を探索する。この処理は上述の数式(4)(5)で表される。なお、S1で受付部104が最適化の設定を受け付けていた場合、探索部103は、S3において、当該設定に従って探索を行う。
【0102】
S4では、探索部103は、S3で行った探索の結果を出力する。例えば、探索部103は、
図4に示したような表示画面を表示させることにより検出した候補をユーザに提示してもよい。
【0103】
また、S4では、
図4に示したような参考情報についても提示してもよい。この場合、予測値提示部105は、S3で検出された候補を適用したときの評価値の平均と分散を用いて算出した予測値を提示する。また、理由提示部106は、上記の平均と分散を用いて提案理由を決定し、決定した提案理由を提示する。そして、変化態様提示部107は、比較対象の値(典型的にはS1で取得された結果データに示される制御パラメータのうち最新のもの)と、S3で検出された候補との差に基づき、操作量(
図2のMV)の変化態様を特定し、特定した変化態様を示す情報を提示する。
【0104】
S5では、更新要否判定部108が、制御装置3が適用する制御パラメータが変更されたか否かを判定する。例えば、更新要否判定部108は、制御装置3と通信することにより制御パラメータの変更の有無を確認してもよいし、ユーザが情報処理装置1に制御パラメータを変更した旨の入力操作を行った場合に制御パラメータが変更されたと判定してもよい。S5でYESと判定された場合にはS6の処理に進み、S5でNOと判定された場合には
図6の処理は終了する。
【0105】
また、例えば、情報処理装置1と制御装置3とが離れた位置に配置されており、異なるユーザがそれらを操作する場合、探索部103は、S3で検出した候補を制御装置3のユーザが使用する端末装置に通知し、当該ユーザに制御パラメータの変更を促してもよい。この場合、当該通知を確認した制御装置3のユーザが、制御装置3に対して制御パラメータを変更する操作を行えばよい。この場合、更新要否判定部108は、上記の通知が送信されたことをもって、制御パラメータが変更されたと判定してもよい。
【0106】
S6では、更新要否判定部108は、制御パラメータの変更後の機器4の動作に問題がないか判定する。例えば、更新要否判定部108は、制御パラメータの変更後の計測値(
図2のPV)をデータベース2から読み出し、当該計測値が所定の正常範囲内であるか否かによりS6の判定を行ってもよい。
【0107】
S6でYESと判定された場合にはS8の処理に進み、S6でNOと判定された場合にはS7の処理に進む。S7では、更新要否判定部108は、制御パラメータを変更させる。例えば、更新要否判定部108は、制御パラメータの変更を促すメッセージをユーザに提示することにより制御パラメータを変更させてもよい。また、例えば、更新要否判定部108は、制御装置3と通信して制御パラメータを変更させてもよい。この場合、更新要否判定部108は、例えば、制御パラメータを変更前の値に戻すように制御装置3に指示してもよい。
【0108】
なお、S6の処理は、制御パラメータの変更後、所定期間(例えば1時間)の間に、繰り返し行うようにしてもよい。これにより、S3で検出された候補が妥当でなく、機器4の動作に異常が発生したような場合に、その影響を最小限に留めることができる。
【0109】
S8の処理は、制御パラメータの変更が確認された後、つまりS5でYESと判定された後、所定期間が経過した後で行われる。当該所定期間は機器4の使用態様等に応じて適宜設定すればよく、例えば24時間等としてもよい。S8では、更新要否判定部108は、当該所定期間に計測された計測値(SV)をデータベース2から取得する。
【0110】
S9では、更新要否判定部108は、S8で取得した計測値(SV)を用いて結果データを生成する。例えば、更新要否判定部108は、S8で取得した計測値(SV)から評価値を算出し、算出した評価値に変更後の制御パラメータを対応付けて結果データを生成してもよい。
【0111】
S10では、更新要否判定部108は、S9で生成した結果データに含まれる評価値に基づいて、予測分布の更新の要否を判定する。例えば、更新要否判定部108は、評価値が所定の閾値満であった場合に、予測分布の更新が必要と判定してもよい。S10でNOと判定された場合にはS8の処理に戻り、S10でYESと判定された場合にはS1の処理に戻る。この後、S1では、S9で生成された結果データをデータ取得部101が取得し、続くS2では、S1で取得された結果データとS9で生成された結果データとを用いて予測分布算出部102が予測分布を更新する。
【0112】
以上のように、情報処理装置1が実行する探索方法は、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出ステップ(S2)と、S2で算出された予測分布に基づいて制御パラメータの最適値の候補を探索する探索ステップ(S3)と、を含む。よって、人の主観に左右されずに安定したフィードバック制御を行うことが可能になる。
【0113】
〔変形例〕
上述の実施形態では、PID制御の制御パラメータの最適値の候補を探索する例を説明したが、情報処理装置1は、PID制御以外の任意のフィードバック制御における任意の制御パラメータの最適値の候補を探索することが可能である。
【0114】
また、上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、上述の実施形態で説明した各処理を実行可能であれば、制御システム9を構成する装置は適宜変更することができる。例えば、
図6に記載の各処理の実行主体は、必ずしも1つの装置である必要はなく、それらの処理を複数の任意の情報処理装置(コンピュータ)に分担させて実行することができる。
【0115】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(探索プログラム)により実現することができる。
【0116】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0117】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0118】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0119】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0120】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る情報処理装置は、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出部と、前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索部と、を備える構成である。
【0121】
本発明の態様2に係る情報処理装置は、上記の態様1において、前記フィードバック制御は、廃棄物焼却施設で適用されるフィードバック制御である構成としてもよい。
【0122】
本発明の態様3に係る情報処理装置は、上記の態様1または2において、前記探索部が検出した前記候補を適用したフィードバック制御の結果を示す結果データを取得するデータ取得部を備え、前記予測分布算出部は、前記候補と前記結果データとを用いて前記予測分布を更新する構成としてもよい。
【0123】
本発明の態様4に係る情報処理装置は、上記の態様1から3の何れかにおいて、前記候補の探索において、フィードバック制御の結果が既知の値の周辺と、フィードバック制御の結果が未知の範囲と、の何れを重視して探索を行うかの選択を受け付ける受付部を備え、前記探索部は、前記受付部が受け付けた選択に従って前記候補を探索する構成としてもよい。
【0124】
本発明の態様5に係る情報処理装置は、上記の態様1から4の何れかにおいて、前記フィードバック制御の結果を示す情報として、当該フィードバック制御が行われた期間に計測された計測値のうち所定の許容範囲内である計測値の割合を示す評価値を用いる構成としてもよい。
【0125】
本発明の態様6に係る情報処理装置は、上記の態様5において、前記所定の許容範囲は、前記フィードバック制御が行われた前記期間に計測された計測値の平均値から、当該期間に計測された前記計測値の標準偏差を引いた値から、前記平均値に前記標準偏差を加えた値までの範囲である構成としてもよい。
【0126】
本発明の態様7に係る情報処理装置は、上記の態様1から6の何れかにおいて、前記探索部が検出した前記候補を適用したフィードバック制御の結果を取得し、取得した当該結果に基づいて前記予測分布を更新するか否かを判定する処理を、所定期間毎に繰り返し行う更新要否判定部を備える構成としてもよい。
【0127】
本発明の態様8に係る情報処理装置は、上記の態様1から7の何れかにおいて、前記予測分布の平均と分散から算出された、前記探索部が検出した前記候補を適用したフィードバック制御の結果の予測値を提示する予測値提示部を備える構成としてもよい。
【0128】
本発明の態様9に係る情報処理装置は、上記の態様1から8の何れかにおいて、前記予測分布の平均と分散に基づき、前記探索部が検出した前記候補が妥当である理由を提示する理由提示部を備える構成としてもよい。
【0129】
本発明の態様10に係る情報処理装置は、上記の態様1から9の何れかにおいて、前記制御パラメータは、PID(Proportional Integral Differential)制御における、設定値と計測値との偏差に乗じる係数、当該偏差の積分に乗じる係数、および当該偏差の微分に乗じる係数の少なくとも何れかを含み、前記フィードバック制御は、前記偏差と前記係数から制御対象の機器に対する操作量を算出するものであり、比較対象とする前記係数の値と前記候補との差異に基づき、前記探索部が更新後の当該予測分布に基づいて検出した前記候補を適用したときに前記操作量がどのように変化するかを示す情報を提示する変化態様提示部を備える構成としてもよい。
【0130】
本発明の態様11に係る制御システムは、制御対象の機器に対してフィードバック制御を行う制御装置と、前記フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する情報処理装置と、を含み、前記制御装置は、前記候補を適用して制御対象の前記機器に対するフィードバック制御を行う構成である。
【0131】
本発明の態様12に係る探索方法は、1または複数の情報処理装置が実行する探索方法であって、フィードバック制御における制御パラメータと、該制御パラメータを適用したフィードバック制御の結果との関係を示す関数の予測分布を算出する予測分布算出ステップと、前記予測分布に基づいて前記制御パラメータの最適値の候補を探索する探索ステップと、を含む方法である。
【0132】
本発明の態様13に係る探索プログラムは、上記の態様1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための探索プログラムであって、前記予測分布算出部および前記探索部としてコンピュータを機能させるための探索プログラムである。
【符号の説明】
【0133】
1 情報処理装置
101 データ取得部
102 予測分布算出部
103 探索部
104 受付部
105 予測値提示部
106 理由提示部
107 変化態様提示部
108 更新要否判定部
3 制御装置
9 制御システム