(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023064
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 50/591 20210101AFI20240214BHJP
H01M 50/526 20210101ALI20240214BHJP
H01M 50/522 20210101ALI20240214BHJP
H01M 50/505 20210101ALI20240214BHJP
H01M 50/588 20210101ALI20240214BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240214BHJP
【FI】
H01M50/591 101
H01M50/526
H01M50/522
H01M50/505
H01M50/588
H01M50/204 401Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126621
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
【テーマコード(参考)】
5H040
5H043
【Fターム(参考)】
5H040AA37
5H043AA01
5H043AA04
5H043FA04
5H043GA23
5H043GA25
5H043HA22F
5H043KA11F
5H043KA15F
5H043KA45F
5H043LA12F
(57)【要約】
【課題】電池の異常時における電池セルからの高温や火炎、更には破損物の衝突から保護できるバスバーを提供する。また、このようなバスバーにより複数の電池セル同士や電池モジュール同士などを接続し、電池の異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供する。
【解決手段】電池セル110を含む蓄電装置に用いられるバスバー1は、導電性材料を含むバスバー本体5が、ケイ酸塩化合物と、ガラス系材料と、を含む絶縁被膜10により被覆されてなる。また、蓄電装置100は、複数の電池セル110又は電池モジュールを、上記バスバー1で接続している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体が、ケイ酸塩化合物と、ガラス系材料と、を含む絶縁被膜により被覆されてなることを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記ケイ酸塩化合物が、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記ガラス系材料が、ガラスフレーク、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のバスバー。
【請求項4】
前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のバスバー。
【請求項5】
前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、30~80体積%であることを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項6】
前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、40~60体積%であることを特徴とする、請求項5に記載のバスバー。
【請求項7】
前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、請求項3に記載のバスバー。
【請求項8】
前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、30~80体積%であることを特徴とする、請求項7に記載のバスバー。
【請求項9】
前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、40~60体積%であることを特徴とする、請求項8に記載のバスバー。
【請求項10】
前記ケイ酸塩化合物がマイカであり、前記ガラス系材料がガラスフレークであることを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項11】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体に、ケイ酸塩化合物と、ガラス系材料と、を含む塗布液を塗布した後、乾燥させることを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項12】
前記ケイ酸塩化合物が、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項11に記載のバスバーの製造方法。
【請求項13】
前記ガラス系材料が、ガラスフレーク、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項11又は12に記載のバスバーの製造方法。
【請求項14】
前記塗布液中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、請求項11又は12に記載のバスバーの製造方法。
【請求項15】
前記塗布液中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、請求項13に記載のバスバーの製造方法。
【請求項16】
前記ケイ酸塩化合物がマイカであり、前記ガラス系材料がガラスフレークであることを特徴とする、請求項11に記載のバスバーの製造方法。
【請求項17】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1又は2に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【請求項18】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項3に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【請求項19】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項4に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。そのため、バスバーには隣接する電池セル間で絶縁を確保する必要があり、樹脂製の塗膜で被覆したバスバーが一般的に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、金属製のバスバー本体に、接触抵抗低減のためのSn又はAuメッキを施し、更にその上に絶縁のための電着塗装を行ったバスバーが記載されており、電着塗装には、ポリイミドやポリアミドイミド、ポリエステルイミド、エポキシ、ウレタン、アクリルなどの塗料を用いた技術が記載されている。また、特許文献2では、樹脂製塗膜の密着性を高めるために、バスバー本体の表面をブラスト処理して粗面化し、樹脂製塗膜を形成したバスバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-251673号公報
【特許文献2】特開平11-203944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電池セルに過電流が通電されると、接続に使用されているバスバーが発熱することがあり、場合によっては電池セルから火炎が発生したり、電池セルから金属片などの破損物が飛散することがある。このような電池の異常時に対して、従来のような樹脂製の塗膜で被覆したバスバーでは、十分に対応しきれないことが想定される。
【0006】
そこで本発明は、電池の異常時における電池セルからの高温や火炎、更には破損物の衝突から保護できるバスバーを提供することを目的とする。また、このようなバスバーにより複数の電池セル同士や電池モジュール同士などを接続し、電池の異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体が、ケイ酸塩化合物と、ガラス系材料と、を含む絶縁被膜により被覆されてなることを特徴とする、バスバー。
【0009】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[10]に関する。
【0010】
[2] 前記ケイ酸塩化合物が、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
[3] 前記ガラス系材料が、ガラスフレーク、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のバスバー。
[4] 前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のバスバー。
[5] 前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、30~80体積%であることを特徴とする、[4]に記載のバスバー。
[6] 前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、40~60体積%であることを特徴とする、[5]に記載のバスバー。
[7] 前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、[3]に記載のバスバー。
[8] 前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、30~80体積%であることを特徴とする、[7]に記載のバスバー。
[9] 前記絶縁被膜中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、40~60体積%であることを特徴とする、[8]に記載のバスバー。
[10] 前記ケイ酸塩化合物がマイカであり、前記ガラス系材料がガラスフレークであることを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
【0011】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[11]の構成により達成される。
【0012】
[11] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体に、ケイ酸塩化合物と、ガラス系材料と、を含む塗布液を塗布した後、乾燥させることを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0013】
また、バスバーの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[12]~[16]に関する。
[12] 前記ケイ酸塩化合物が、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[11]に記載のバスバーの製造方法。
[13] 前記ガラス系材料が、ガラスフレーク、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[11]又は[12]に記載のバスバーの製造方法。
[14] 前記塗布液中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、[11]又は[12]に記載のバスバーの製造方法。
[15] 前記塗布液中における、前記ケイ酸塩化合物及び前記ガラス系材料の合計含有量に対する前記ケイ酸塩化合物の含有量が、20~99体積%であることを特徴とする、[13]に記載のバスバーの製造方法。
[16] 前記ケイ酸塩化合物がマイカであり、前記ガラス系材料がガラスフレークであることを特徴とする、[11]に記載のバスバーの製造方法。
【0014】
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[17]~[19]の構成により達成される。
【0015】
[17] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]又は[2]に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
[18] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[3]に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
[19] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[4]に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のバスバーは、導電性材料を含むバスバー本体が、ケイ酸塩化合物と、ガラス系材料と、を含む絶縁被膜により被覆されてなるものであり、ケイ酸塩化合物及びガラス系材料が、共に絶縁材料であることから、優れた絶縁性を示す。
【0017】
また、ケイ酸塩化合物同士は結合力が比較的弱く、電池の異常時においてケイ酸塩化合物が飛散して、十分な耐衝撃性が十分に得られないおそれがあるが、ケイ酸塩化合物と共存するガラス系材料が、電池の異常時における高温により溶融し、絶縁被膜中において膜状に広がり、ケイ酸塩化合物の飛散を抑える。
【0018】
また、好ましくはガラス系材料がガラスフレークである場合に、ガラスフレークが絶縁被膜中で面状に配向しており、バスバーの耐衝撃性を高める作用があるため、電池の異常時に、異常を起こした電池セルからの破損物に対して、他の電池セルに接続しているバスバーを保護することもできる。
【0019】
さらに、本発明の蓄電装置は、このようなバスバーにより複数の電池セルや電池モジュールを接続しているため、電池の異常時においても高い安全性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明のバスバーの一例を電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、バスバーの実施形態を、
図1のA-A矢視に沿って示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1及び2並びに比較例1~3に関し、マイカ及びガラスフレークの合計量に対するマイカの量(体積%)を横軸とし、単位膜厚あたりの貫通時間(sec/min)を縦軸とした場合のグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の蓄電装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0022】
[バスバー]
図1は、本実施形態に係るバスバー1を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。
図1に示されるように、導電性材料からなるバスバー本体5は、例えば、全体がZ字状の金属製の板部材であり、一方の先端の接続孔6aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体5の他方の先端の接続孔6bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6bを除く部分(表面)を、後述される絶縁被膜10で覆い、バスバー1が構成される。
【0023】
なお、図示は省略するが、バスバー本体5は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セルの設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0024】
バスバー本体5が、
図1に示されるZ字状のような屈曲部5aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのように雲母シートを巻き付ける方式では、屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、後述するように、本実施形態では、所定の塗布液を用いた塗布により絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。
【0025】
続いて、
図2は、
図1のA-A矢視に沿って示すバスバー1の断面図である。なお、図示は省略するが
図2中の下側に電池セル110が存在しており、電池の異常時には、電池セル110からの熱の伝達に夜高温や火炎が発生し、更には破損物が飛散して衝突する場合がある。このため、バスバー本体5を所定の絶縁被膜10で被覆している。なお、絶縁被膜10は、図示のように、バスバー本体5の全面を覆うように、側面(板厚部分)及び上下面に形成することもできるが、少なくとも電池セル110と対向する面(ここでは下面)のみに形成してもよい。
【0026】
本実施形態に係る絶縁被膜10は、樹脂バインダーを主成分として含有し、樹脂バインダーから構成される樹脂マトリックス中に分散されたケイ酸塩化合物と、ガラス系材料とを更に含有する。なお、本実施形態における「主成分」とは、含有量(体積%)が最も多い成分を意味し、含有量が50体積%以上の成分であることが好ましく、含有量が60体積%以上の成分であることがより好ましく、含有量が70体積%以上の成分であることが更に好ましく、含有量が80体積%以上の成分であることがより更に好ましく、含有量が90体積%以上の成分であることが最も好ましい。
ここで、樹脂バインダーとして、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、塩化ビニル(PVC)、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂(ABS)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、フッ素樹脂(PTFE)、フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF)、ポリウレタン(PUR)、エポキシ樹脂(EP)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、シリコーン樹脂などを用いることができるが、粒子を混ぜるために樹脂バインダーは液体であることが好ましく、ある程度の耐熱性が必要な観点より、エポキシ樹脂(EP)、シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0027】
また、ケイ酸塩化合物及びガラス系材料は、共に絶縁材料であることから優れた絶縁性を示す。また、ケイ酸塩化合物は、耐熱材料として広く使用されているが、ケイ酸塩化合物同士は結合力が比較的弱く、電池の異常時においてケイ酸塩化合物が飛散して、耐衝撃性が十分に得られないおそれがある、そこで、ケイ酸塩化合物と共存するガラス系材料が、電池の異常時における高温により溶融し、絶縁被膜10中において膜状に広がり、ケイ酸塩化合物の飛散を抑える。
【0028】
このような効果をより効果的に得るためには、絶縁被膜10中における、ケイ酸塩化合物及びガラス系材料の合計含有量に対するケイ酸塩化合物の含有量は、20体積%(vol%)以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることが更に好ましく、また、99体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、60体積%以下であることが更に好ましい。
【0029】
なお、上記ケイ酸塩化合物の具体的構成としては、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、その中で、マイカ又はタルクであることが、耐熱性、耐摩耗性、耐靱性の観点から更に好ましく、特にマイカであることが最も好ましい。
【0030】
また、上記ガラス系材料の具体的構成としては、ガラスフレーク、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、その中で、ガラスフレークであることが、ガラスフレークが絶縁被膜10中で面状に配向しており、バスバー1の耐衝撃性を高める作用があり、電池の異常時において、異常を起こした電池セル110からの破損物に対して、他の電池セル110に接続しているバスバー1を保護することもできるという観点から、特に好ましい。
【0031】
そして、ケイ酸塩化合物とガラス系材料の組み合わせとしては、融点の高いケイ酸塩化合物を低融点のガラスを被覆する観点と、板状粒子同士であり接触面が多く存在でき、溶融した際の接着強度の増加させる観点から、マイカとガラスフレークの組み合わせであることが、特に好ましい。
【0032】
なお、ケイ酸塩化合物とガラス系材料の絶縁被膜10中における合計含有量としては、上記したケイ酸塩化合物及びガラス系材料を用いることの作用効果を効果的に得るための観点より、絶縁被膜10に含まれる全成分に対して5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることが更に好ましく、30体積%以上であることが最も好ましい。
【0033】
絶縁被膜10は、上記した樹脂バインダー、ケイ酸塩化合物、ガラス系材料の他にも、従来から耐熱性や難燃性の塗膜に含まれる各種の添加剤を含有してもよく、他の添加剤としては難燃剤や断熱剤、分散剤であることが特に好ましい。
【0034】
また、絶縁被膜10の膜厚は、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上が更に好ましい。上記膜厚が0.1mm未満では、電池の異常時の高温や火炎に対して十分な耐熱性が得られない。また、耐衝撃性も十分に得られない。なお、膜厚の上限には制限はないが、必要以上に厚くなっても耐熱性や耐衝撃性の更なる向上は見込めなくなり、むしろ絶縁被膜10に亀裂が生じるなど、膜質に不具合が見られるようになるため、膜厚の上限としては2.0mmが適当である。
【0035】
[バスバーの製造方法]
バスバー1を製造するには、まず、少なくとも、樹脂バインダー(例えば、エポキシ、シリコーン)、ケイ酸塩化合物及びガラス系材料、そして、必要に応じて他の添加剤を秤量し、それらを分散媒(例えば、シンナー)に加え、十分に混合して塗布液を調製する。そして、バスバー本体5における接続孔6a,6b(
図1参照)の周囲をマスキングし、上記塗布液を塗布した後、塗膜を乾燥させて、本実施形態に係る絶縁被膜10を形成する。なお、塗布方法には制限はなく、刷毛やロールコータ、スプレー等を用いて塗布したり、塗布液にバスバー本体5を浸漬するなど種々の方法が可能である。
【0036】
また、絶縁被膜10を形成する前において、バスバー本体5の表面に、防錆用途向けの下塗り材を所定の厚みになるように刷毛を用いて塗布した後、塗膜を乾燥させて、下塗り塗膜を形成し、その下塗り塗膜の上に、絶縁被膜10を形成するのであってもよい。
【0037】
膜厚としては、乾燥後の膜厚が0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上となるように調整する。
【0038】
ここで、上記でいう乾燥とは、加熱処理による塗膜の硬化処理のみならず、常温での自然乾燥による塗膜の硬化処理も含まれる。また、乾燥に際して、絶縁材料が発泡して膨張しない温度、例えば硬化処理を促進させるために100℃程度に加熱してもよい。
【0039】
なお、例えば絶縁材料から構成されるシートを巻き付ける方法では、巻き付け作業が必要であり、特に屈曲部5a(
図1参照)や湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするには、巻き付け作業に手間がかかる。また、振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、本実施形態では、塗布により絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらず、バスバー本体5に屈曲部5aや湾曲部があっても、絶縁被膜10を均一に形成することができる。
【0040】
バスバー1は、発熱すると導電率が低下するため、それが適用される電池セルや電池パック(電池モジュール)の性能を低下させるおそれがあるが、本実施形態に係るバスバー1の製造方法のような、上記塗布液を塗布することにより絶縁被膜10を形成する方法にあっては、絶縁被膜10を薄く形成することが可能であって、電池の通常使用時におけるバスバー1の効果的な放熱により、電池セルや電池モジュール全体の性能低下を軽減させることができる。
【0041】
また、絶縁被膜10が薄膜化できることにより、バスバー1全体が占める体積が大きくなりすぎず、電池パック内のバッテリースペースを有効に活用でき、電池パックの容量向上にも貢献し得る。
【0042】
[蓄電装置]
図4に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー1で接続している。
【0043】
バスバー1は、上記絶縁被膜10で被覆したものであり、ある電池セル110が熱暴走を起こしても、バスバー1を保護できるとともに、バスバー1を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができる。
よって、本実施形態の蓄電装置100は、このようなバスバー1により複数の電池セル110やモジュール(図示せず)を接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【実施例0044】
<絶縁被膜用材料の準備>
エポキシ樹脂であるエスケー化研(株)製 SKタイカコート下塗り材(防錆用途向け)を主材:4重量部、硬化剤:1重量部となるように混合し、樹脂バインダーとした。また、ケイ酸塩化合物として巴工業(株)製の「金マイカ60S」(マイカ)を、ガラス系材料として日本板硝子(株)製のガラスフレーク(登録商標)「REF-160」(ガラスフレーク)をそれぞれ用意した。
【0045】
<絶縁被膜サンプルの作成>
(実施例1)
上記樹脂バインダー100重量部に対し、上記マイカ7.3重量部、上記ガラスフレーク7.3重量部それぞれ添加し、撹拌を行い、実施例1の塗布液とした。
なお、それぞれの密度を、樹脂バインダー:1.33g/cm3、マイカ:2.75g/cm3、ガラスフレーク:2.5g/cm3とし、マイカとガラスフレークの合計の充填率を、(マイカ+ガラスフレーク)[cm3]/全体積(すなわち、樹脂バインダー+マイカ+ガラスフレーク)[cm3]で試算した結果、6.9体積%であった。
また、ケイ酸塩化合物とガラス系粒子の比は、マイカ粒子:ガラスフレーク=48:52(体積%比)であり、マイカ粒子:ガラスフレーク=50:50(質量%比)であった。
続いて、バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、実施例1の塗布液を塗布し、平均膜厚が134μmの絶縁被膜を塗工して、実施例1のサンプルを作製した。
【0046】
(実施例2)
上記樹脂バインダー100重量部に対し、上記マイカ12.2重量部、上記ガラスフレーク5.1重量部それぞれ添加し、撹拌を行い、実施例2の塗布液とした。
なお、実施例1と同様にして、マイカとガラスフレークの合計の充填率を、(マイカ+ガラスフレーク)[cm3]/全体積(すなわち、樹脂バインダー+マイカ+ガラスフレーク)[cm3]で試算した結果、8.0体積%であった。
また、ケイ酸塩化合物とガラス系粒子の比は、マイカ粒子:ガラスフレーク=68:32(体積%比)であり、マイカ粒子:ガラスフレーク=70:30(質量%比)であった。
続いて、バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、実施例2の塗布液を塗布し、平均膜厚が196μmの絶縁被膜を塗工して、実施例2のサンプルを作製した。
【0047】
(比較例1)
上記樹脂バインダー100重量部に対し、上記マイカを添加せず、上記ガラスフレーク27.9重量部のみを添加し、撹拌を行い、比較例1の塗布液とした。
なお、実施例1と同様にして、マイカとガラスフレークの合計の充填率を、(マイカ+ガラスフレーク)[cm3]/全体積(すなわち、樹脂バインダー+マイカ+ガラスフレーク)[cm3]で試算した結果、12.9体積%であった。
また、ケイ酸塩化合物とガラス系粒子の比は、マイカ粒子:ガラスフレーク=0:100(体積%比)であり、マイカ粒子:ガラスフレーク=0:100(質量%比)であった。
続いて、バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、比較例1の塗布液を塗布し、平均膜厚が440μmの絶縁被膜を塗工して、比較例1のサンプルを作製した。
【0048】
(比較例2)
上記樹脂バインダー100重量部に対し、上記ガラスフレークを添加せず、上記マイカ19.7重量部のみを添加し、撹拌を行い、比較例2の塗布液とした。
なお、実施例1と同様にして、マイカとガラスフレークの合計の充填率を、(マイカ+ガラスフレーク)[cm3]/全体積(すなわち、樹脂バインダー+マイカ+ガラスフレーク)[cm3]で試算した結果、8.7体積%であった。
また、ケイ酸塩化合物とガラス系粒子の比は、マイカ粒子:ガラスフレーク=100:0(体積%比)であり、マイカ粒子:ガラスフレーク=100:0(質量%比)であった。
続いて、バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、比較例1の塗布液を塗布し、平均膜厚が376μmの絶縁被膜を塗工して、比較例2のサンプルを作製した。
【0049】
(比較例3)
上記樹脂バインダー100重量部に対し、上記ガラスフレークを添加せず、上記マイカ19.7重量部のみを添加し、撹拌を行い、比較例3の塗布液とした。
なお、実施例1と同様にして、マイカとガラスフレークの合計の充填率を、(マイカ+ガラスフレーク)[cm3]/全体積(すなわち、樹脂バインダー+マイカ+ガラスフレーク)[cm3]で試算した結果、8.7体積%であった。
また、ケイ酸塩化合物とガラス系粒子の比は、マイカ粒子:ガラスフレーク=100:0(体積%比)であり、マイカ粒子:ガラスフレーク=100:0(質量%比)であった。
続いて、バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、比較例1の塗布液を塗布し、平均膜厚が298μmの絶縁被膜を塗工して、比較例3のサンプルを作製した。
【0050】
(比較例4)
バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、上記樹脂バインダー(エポキシ樹脂)を塗布し、平均膜厚が400μmの絶縁被膜を塗工して、比較例4のサンプルを作製した。
【0051】
(比較例5)
バスバー本体に見立てた一辺が100mmのアルミニウム板の片面に、上記樹脂バインダー(エポキシ樹脂)とは異なる樹脂バインダー(PVC樹脂)を塗布し、平均膜厚が400μmの絶縁被膜を塗工して、比較例5のサンプルを作製した。
【0052】
<耐熱性試験>
溶射装置を用いて、上記で作成した各サンプルの絶縁被膜の穴が空くまでの時間を計測した。
【0053】
具体的な試験条件は、以下のとおりである。
(1)二本の柱に、作成したサンプルを金具等で固定した。
(2)溶射にはアセチレンガスを使用し、サンプルとバーナーは、23mmの位置に設置した。
(3)溶射条件として、サンプル中心部から、溶射装置側5mm前方に設置された熱電対が1000℃になるように調整した。
(4)炎が照射され、サンプル前方の熱電対が1000℃に達した時点から、アルミナ粒子を30g/minで投入し、金属板が露出した時点で照射を止めた。
(5)アルミナ粒子は、Surprex AW24(株式会社フジミインコーポレーテッド社製)を用いた。
【0054】
表1に、実施例及び比較例の絶縁被膜の材料構成、含有比率(体積%比)、平均膜厚(μm)と、耐熱性試験における貫通時間(sec)と、貫通時間を絶縁被膜の平均膜厚で割った値、すなわち、単位膜厚あたりの貫通時間(sec/min)をまとめて示す。なお、表1において、「単位膜厚あたりの貫通時間(sec/min)」の値が大きいほど、絶縁被膜の耐熱性が高いことを示す。また、表1中の「-」は、該当する材料が含まれていないことを示す。
【0055】
また、
図3に、実施例1及び2並びに比較例1~3に関し、マイカ及びガラスフレークの合計量に対するマイカの量(体積%)を横軸とし、貫通時間(sec/min)を縦軸とした場合のグラフを示す。
【0056】
【0057】
実施例1及び2は、マイカ粒子及びガラスフレークの両方を含有する絶縁被膜の例である。また、比較例1~3は、マイカ粒子及びガラスフレークのうちいずれか一方のみを含有する絶縁被膜の例である。さらに、比較例4及び5は、マイカ粒子及びガラスフレークともに含まず、エポキシ樹脂のみ又はPVC樹脂のみからなる絶縁被膜の例である。
【0058】
表1の結果から明らかなように、マイカ粒子及びガラスフレークの両方を含有する実施例1及び2は、マイカ粒子及びガラスフレークのうちいずれか一方のみを含有する比較例1~3や、エポキシ樹脂又はPVC樹脂のみからなる比較例4及び5に比べて、「単位膜厚あたりの貫通時間(sec/min)」の値が極めて大きく、絶縁被膜の耐熱性が非常に高いことが示された。
【0059】
また、
図3のグラフから分かるように、マイカ及びガラスフレークの合計量に対するマイカの量(体積%)が20~99体積%の範囲で、絶縁被膜の耐熱性が優れており、より好ましくは30~80体積%、更に好ましくは40~60体積%の範囲で、絶縁被膜の耐熱性がより優れているといえる。