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  • 特開-抗酸化剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023073
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】抗酸化剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 15/14 20060101AFI20240214BHJP
   C09K 15/08 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C09K15/14
C09K15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126634
(22)【出願日】2022-08-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究(木質リグニン由来次世代マテリアルの製造・利用技術等の開発)委託事業、産業技術力強化第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501218566
【氏名又は名称】学校法人片柳学園
(71)【出願人】
【識別番号】521166319
【氏名又は名称】株式会社リグノマテリア
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見正 大祐
(72)【発明者】
【氏名】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊
(72)【発明者】
【氏名】加柴 美里
【テーマコード(参考)】
4H025
【Fターム(参考)】
4H025AA16
4H025AA29
4H025AA81
4H025AC01
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、かつ、抗酸化作用が高い抗酸化剤の提供。
【解決手段】グリコールリグニン及びサルファイトリグニンからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする抗酸化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールリグニン及びサルファイトリグニンからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項2】
前記グリコールリグニンの数平均分子量が500以上15000以下であり、前記サルファイトリグニンの数平均分子量が100以上9000以下である請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
前記グリコールリグニンがポリアルキレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種で誘導体化されたグリコールリグニンである請求項1又は請求項2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
前記ポリアルキレングリコールが分子量200以上2000以下のポリエチレングリコールである請求項3に記載の抗酸化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から抗酸化剤として用いられているジブチルヒドロキシトルエン(BHT)は、毒性が比較的高く皮膚炎等を引き起こす可能性がある。また、ビタミンEは、その製造において可食性の資源(例えば穀物)を用いることがある。穀物市場の高騰を防ぐ観点からは、非可食性の資源を用いることが好ましい。
そのため、近年、安全性が高く、非可食性の資源を原料として用いる抗酸化剤が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「リグニンを含む原材料をpH4.0-5.0、25-40℃の条件でセルラーゼ複合酵素により分解して得られたリグニンを主成分とすることを特徴とする抗酸化剤。」が提案されている。
特許文献2には、「植物繊維成分を含有する培地を用いて担子菌及び/又は子嚢菌の菌糸体を培養し、この培養物から抽出して得られた糖質、蛋白質、水溶性リグニンを主成分とすることを特徴とする生体の抗酸化機能増強剤。」が提案されている。
特許文献3には、「植物資源を主原料とした抗酸化性食物繊維であって、少なくとも糖類と、水溶性リグニンと、不溶性食物繊維と、を含むことを特徴とする抗酸化性食物繊維。」が提案されている。
特許文献4には、「水溶性リグニン、アラビノガラクタン、及び重合したタキシホリンを含有する化粧料。」が提案されている。
特許文献5には、「熱可塑性ポリマーおよびバイオマスを含む組成物であって、前記バイオマスはリグニンを含み、前記組成物は前記バイオマスの重量に対して20%以下の量のセルロースおよび/またはヘミセルロースを含む、組成物。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-169690号公報
【特許文献2】特開平11-228441号公報
【特許文献3】特開2002-204674号公報
【特許文献4】特開2006-52197号公報
【特許文献5】特表2020-533436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、安全性が高く、かつ、抗酸化作用が高い抗酸化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち
<1> グリコールリグニン及びサルファイトリグニンからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする抗酸化剤。
<2> 前記グリコールリグニンの数平均分子量が500以上15000以下であり、前記サルファイトリグニンの数平均分子量が100以上9000以下である前記<1>に記載の抗酸化剤。
<3> 前記グリコールリグニンがポリアルキレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種で誘導体化されたグリコールリグニンである前記<1>又は<2>に記載の抗酸化剤。
<4> 前記ポリアルキレングリコールが分子量200以上2000以下のポリエチレングリコールである前記<3>に記載の抗酸化剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安全性が高く、かつ、抗酸化作用が高い抗酸化剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】抗酸化効果の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0011】
<抗酸化剤>
本実施形態に係る抗酸化剤は、グリコールリグニン及びサルファイトリグニンからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする。
ここで、グリコールリグニン及びサルファイトリグニンからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とするとは、抗酸化剤のうちグリコールリグニン及びサルファイトリグニンからなる群から選択される少なくとも1種が抗酸化作用を示すことを意味する。
【0012】
本実施形態に係る抗酸化剤は、上記構成により、非可食性の資源を原料として用い、安全性が高く、かつ、抗酸化作用が高い抗酸化剤となる。その理由は、次の通り推測される。
【0013】
グリコールリグニン及びサルファイトリグニンは、いずれも自然界に存在する天然のリグニン(以下、単にリグニンと称する)に対して、化学修飾を施して構造を変化させた化合物である。リグニンはスギ、モミ、ヒノキ、マツ等の針葉樹、ユーカリ、アカシア、シラカバ、ブナ、ナラ等の広葉樹、稲藁、バガス、竹、ケナフ、葦等の草本植物等を原料として得られる化合物である。そのため、グリコールリグニン及びサルファイトリグニンは非可食性の資源を原料として用いている。また、グリコールリグニン及びサルファイトリグニンは自然界に存在するリグニンを主な骨格としているため、安全性が高い。
更にグリコールリグニン及びサルファイトリグニンは、多数のフェノール性水酸基を有する。フェノール性水酸基は抗酸化作用を有するため、当該化合物は抗酸化作用が高い。そして、理由は明らかではないが、グリコールリグニン及びサルファイトリグニンが含有するフェノール性水酸基は特に高い抗酸化作用を示す。
【0014】
そのため、本実施形態に係る抗酸化剤は、上記構成により、非可食性の資源を原料として用い、安全性が高く、かつ、抗酸化作用が高い抗酸化剤となると推測される。
【0015】
(グリコールリグニン)
グリコールリグニンとは、リグニンの少なくとも一部が、後述するグリコール化合物から少なくとも1つのヒドロキシ基を除いた残基で置換されている化合物をいう。
つまり、グリコールリグニンは、後述のグリコール化合物で誘導体化された化合物である。
【0016】
グリコールリグニンの誘導体化に用いられるグリコール化合物としては、グリコールのみに限定されず、1分子内にヒドロキシ基を1個以上有するアルコールを含む。
グリコール化合物としては、例えば、1分子内にヒドロキシ基を1個以上有するアルコールが挙げられる。
1分子内にヒドロキシ基を1個以上3個以下有するアルコールであることが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個以上3個以下有するアルコールであることが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個有するアルコールであることがより好ましい。
【0017】
1分子内にヒドロキシ基を1個有するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等が挙げられる。
グリコール化合物としては、1分子内にヒドロキシ基を2個有するアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール;ポリアルキレングリコール;ポリグリセリン;等が挙げられる。
1分子内にヒドロキシ基を3個有するアルコールとしては、例えば、グリセリン;グリセリンにアルキレンオキサイドを付加重合した化合物等が挙げられる。
また、グリコール化合物としては、例えば、ポリグリセリンを用いてもよい。
【0018】
抗酸化作用を向上させる観点から、グリコール化合物としてはポリアルキレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
ここで、ポリアルキレングリコールとは、アルコールにアルキレンオキサイドを付加重合した化合物である。
つまり、グリコールリグニンとしてはポリアルキレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種で誘導体化されたグリコールリグニンであることが好ましい。
【0019】
グリコールリグニンとしてはポリアルキレングリコールで誘導体化されたグリコールリグニンであることがより好ましい。
ポリアルキレングリコールとしては、アルコールに炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを付加重合した化合物であることが好ましく、アルコールに炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを付加重合した化合物であることがより好ましく、アルコールに炭素数2のアルキレンオキサイドを付加重合した化合物であることが更に好ましい。
【0020】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等が挙げられ、得られるグリコールリグニンの特性およびグリコール化合物としての取り扱いの容易性の観点から、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0021】
ポリアルキレングリコールの分子量としては、200以上2000以下であることが好ましく、200以上1000以下であることが好ましく、200以上700以下であることがさらに好ましい。
【0022】
ポリアルキレングリコールの分子量はJIS K1557-1:2007による水酸基価の測定値と、官能基数と、を下記式に代入することで算出される値である。
式:分子量=(56100/水酸基価)×官能基数
なお、水酸基価はJIS K1557-1:2007に準拠して算出される値である。
【0023】
グリコールリグニンはアシル化されたグリコールリグニンであってもよい。
ここで、アシル化されたグリコールリグニンをアシル化グリコールリグニンと呼ぶ。
【0024】
アシル化グリコールリグニンが有するアシル基としては、炭素数1以上6以下のアシル基が挙げられ、抗酸化作用向上の観点から、炭素数1以上4以下のアシル基が好ましく、炭素数1以上2以下のアシル基がより好ましい。
アシル基としては、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。これらの中でもアシル基としては、抗酸化作用向上の観点から、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)及びプロペノイル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ホルミル基、及びアセチル基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0025】
抗酸化作用向上の観点から、アシル化グリコールリグニンのアシル化率は60%以上100%以下であることが好ましく、90%以上100%以下であることがより好ましく、95%以上100%以下であることが更に好ましい。
【0026】
アシル化率とは、アシル化グリコールリグニン1g中に存在する各アセチル基の物質量である。
【0027】
アシル化グリコールリグニンのアシル化率の算出方法は以下の通りである。
アシル化率は、H-NMRの測定により算出される。具体的には、アシル化グリコールリグニン及び内部標準としてのペンタフルオロベンズアルデヒドを溶媒としてのDMSO-d6に溶解し、得られた溶液をH-NMR測定を行う。得られたNMRチャートの内、ペンタフルオロベンズアルデヒドのホルミル基に由来するピークの積分値、及びアシル化グリコールリグニンが含有するアシル基に由来するピークの積分値に基づいてされる。
【0028】
以下、アシル化率の算出方法について、アセチル化率(グリコールリグニンが有するヒドロキシル基がアセチル基により置換されている程度を示す指標)の算出方法を例に挙げて具体的に説明する。
測定物質であるアシル化グリコールリグニン(アシル基はアセチル基)の核磁気共鳴(H-NMR)スペクトル測定を行う。溶媒はDMSO-d6 1mlを用い、これに測定物質14.3mgおよび内部標準としてのペンタフルオロベンズアルデヒド11.5mgを溶解させる。
H-NMRスペクトルにおいて、10.14ppmに内部標準であるペンタフルオロベンズアルデヒドのホルミル基の吸収が観測され、その積分値は0.959である。一方測定物質のアセチル基の共鳴吸収ピークは、2.23ppmにフェノール性水酸基由来のアセチル基のピーク(積分値1.749)、2.00ppmに脂肪族性水酸基由来のアセチル基のピーク(積分値2.434)が観測される。
以上の結果をもとに、内部標準のペンタフルオロベンズアルデヒド(0.059mmol)の積分比0.959から、プロトン1mmolあたりの積分値は、0.959H÷0.059mol=16.25H/mmolであると決定する。一方、アセチル基には、3つのプロトンがあることを考慮し、測定物質1g中に存在する各アセチル基の物質量を計算する。
測定物質1g中に存在するフェノール性水酸基由来のアセチル基は、下記式1の通り算出する。
式1:1.749÷0.0143g÷3÷(0.959÷0.059mol)≒2.49mmol/g
測定物質1g中に存在する脂肪族性水酸基由来のアセチル基は、下記式1の通り算出する。
式2:2.434÷0.0143g÷3÷(0.959÷0.059mol)≒3.50mmol/g
以上の結果から、測定物質のアセチル化率は5.99mmol/gであると決定する。
【0029】
グリコールリグニンの数平均分子量は、抗酸化作用向上の観点から、300以上50000以下であることが好ましく、500以上15000以下であることがより好ましく、1000以上9000以下であることが更に好ましい。
【0030】
グリコールリグニンの数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される値である。
・カラム:TSKgel SuperAWM-H x2 (6.0mm I.D. x 15cm x 2)
・カラム温度:40℃
・溶離液:50mM LiBr + 100mM リン酸 DMF
・流速:0.6mL/min
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0031】
グリコールリグニンは耐熱性を有していることが好ましい。
ここで、耐熱性を有しているとは、TG-DTAなどの重量熱分析装置で10℃/minの昇温速度で加熱していき、10%質量減少を示した温度が200℃以上であることを指す。
【0032】
グリコールリグニンは、例えば、グリコール化合物を溶媒として用い、リグノセルロースを触媒の存在下で加溶媒分解した後、得られた反応溶液からグリコールリグニンを分離することで得られる。
【0033】
加溶媒分解時の反応条件としては特に限定されないが、例えば、110℃~180℃の反応温度で、60分間~240分間撹拌することが好ましい。
ここで、リグノセルロースとは、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンを含有する有機物である。
触媒としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの酸が挙げられる。
【0034】
グリコールリグニンを分離する方法としては、例えば、加溶媒分解後の反応溶液をアルカリ性とすることで、固形分を析出させ、グリコールリグニンを含む溶液である上澄みを回収した後、回収した上澄みを酸性とすることでグリコールリグニンを沈殿させ、グリコールリグニンが沈殿した溶液をろ過することでグリコールリグニンを得る方法が挙げられる。
【0035】
グリコールリグニンの製造方法としては、例えば、特開2017-197517号公報に記載された方法が挙げられる。
【0036】
グリコールリグニンをアシル化する場合、グリコールリグニンをアシル化する方法としては、上記方法にて製造されたグリコールリグニンとアシル化剤とを反応させる方法が挙げられる。
アシル化剤としては、例えば、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物などが挙げられる。
【0037】
カルボン酸無水物としては、炭素数2以上12以下のカルボン酸無水物が挙げられる。
カルボン酸無水物としては、具体的には、ギ酸無水物、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、ヘキサン酸無水物などが挙げられる。
【0038】
カルボン酸ハロゲン化物としては、炭素数1以上6以下のカルボン酸ハロゲン化物が挙げられる。
カルボン酸ハロゲン化物が含有するハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
カルボン酸ハロゲン化物としては、具体的には、ギ酸クロリド、ギ酸ブロマイド、ギ酸ヨージド、酢酸クロリド、酢酸ブロマイド、酢酸ヨージド、プロピオン酸クロリド、プロピオン酸ブロマイド、プロピオン酸ヨージド、酪酸クロリド、酪酸ブロマイド、酪酸ヨージド、ヘキサン酸クロリド、ヘキサン酸ブロマイド、ヘキサン酸ヨージドなどが挙げられる。
【0039】
アシル化グリコールリグニンは、例えば、グリコールリグニンのアシル化、及びそれに続くアシル化グリコールリグニンの単離によって製造される。
アシル化反応の条件としては、特に限定されないが、例えば、グリコールリグニン及びアシル化剤を溶剤中に添加した後、加熱して撹拌することで行うことが好ましい。
【0040】
アシル化反応は塩基存在下で行うことが好ましい。
塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基;ピリジン、N,N-ジメチルアニリン等の有機塩基等が挙げられる。
塩基としては、アシル化反応の効率化の観点から、ピリジンが特に好ましい。
【0041】
そして、アシル化反応後のアシル化グリコールリグニンの単離は、常法に従って行うことができ、再沈殿、再結晶、クロマトグラフィー等により容易に単離することができる。
【0042】
アシル化反応後のアシル化グリコールリグニンの単離は、単離の容易さの観点から、沈殿によって行うことが好ましい。
具体的には、アシル化グリコールリグニンを含む反応溶液を、水中に滴下することで、アシル化グリコールリグニンを析出し、析出したグリコールリグニンを減圧条件下で乾燥することでアシル化グリコールリグニンを得ることができる。
【0043】
(サルファイトリグニン)
サルファイトリグニンとは、リグニン及び多糖類を含む原料(例えば、リグノセルロース)を亜硫酸塩水溶液中で高温煮沸して得られるリグニンである。
サルファイトリグニンとしては、例えば、サルファイト法による製紙工程において木材中のリグニンを溶解し、紙の原料となるパルプを抽出した残滓(黒液)から精製して抽出されるサルファイトリグニンが挙げられる。
【0044】
サルファイトリグニンは、塩を形成していることが好ましい。
具体的には、サルファイトリグニンは、スルホニルアニオン(-SO )と、陽イオンと、が塩を形成していることが好ましい。
サルファイトリグニンが形成する塩が含有する対イオンとしては、アルカリ金属元素の陽イオン、アルカリ土類金属元素の陽イオン、アンモニウムイオン(NH )などが挙げられる。
サルファイトリグニンが形成する塩が含有する対イオンとしては、具体的には、Na、Ca2+、及びアンモニウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0045】
サルファイトリグニンの数平均分子量は50以上100,000以下であることが好ましく、100以上9000以下であることがより好ましく、300以上1000以下であることが更に好ましい。
【0046】
サルファイトリグニンの数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される値である。
・カラム:TSKgel SuperAWM-H x2 (6.0mm I.D. x 15cm x 2)
・カラム温度:40℃
・溶離液:50mM LiBr + 100mM リン酸 DMF
・流速:0.6mL/min
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0047】
サルファイトリグニンは、リグニン及び多糖類を含む原料(例えば、リグノセルロース)を亜硫酸塩水溶液中で高温煮沸した後、得られた反応溶液からサルファイトリグニンを分離することで製造される。
サルファイトリグニンの製造方法としては、具体的には、従来公知のサルファイト法による製紙工程において木材中のリグニンを溶解し、紙の原料となるパルプを抽出した残滓(黒液)から精製して抽出する方法が挙げられる。
【0048】
(用途)
本開示に係る抗酸化剤は、樹脂、ゴム、潤滑材、化粧品、食品等の用途における抗酸化剤として使用することができる。
なお、本開示に係る抗酸化剤は、単独で用いてもよいし、抗酸化剤とその他の成分(例えば、溶剤、添加剤等)と混合した抗酸化剤組成物として用いてもよい。
【実施例0049】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0050】
<抗酸化剤の準備>
抗酸化剤として下記化合物を用意した。
・ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)
・ビタミンE
・グリコールリグニン(分子量400のポリエチレングリコールで誘導体化されたリグニン、数平均分子量:1903。以下の手順によって合成。)
【0051】
-グリコールリグニンの製造-
リグノセルロースをポリエチレングリコールなどのグリコール化合物で、酸触媒の存在下、常圧下で加溶媒分解し、グリコールリグニンを含む溶液画分と固形分とを分離し、更に硫酸で酸性化することにより、グリコールリグニンを沈殿物として得た。そののちグリコールリグニンの沈殿物を分離し、グリコールリグニンの沈殿物を分離した後の上清液を集積し、その集積溶液に水酸化ナトリウムを添加して、集積溶液を中和することによってグリコールリグニンを得た。
具体的には、特開2017-197517号公報の実施例1に記載された方法と同一の方法により製造した。
【0052】
・サルファイトリグニンA(スルホニルアニオン(-SO )と、Naと、が塩を形成しているサルファイトリグニン、数平均分子量:555、品名:Borresperse NA)
・サルファイトリグニンB(スルホニルアニオン(-SO )と、Ca2+と、が塩を形成しているサルファイトリグニン、数平均分子量:716、品名:Borresperse CA45)
・サルファイトリグニンC(スルホニルアニオン(-SO )と、アンモニウムイオンと、が塩を形成しているサルファイトリグニン、数平均分子量:376、品名:Borresperse AM870P)
・アセチル化グリコールリグニン(分子量400のポリエチレングリコールで誘導体化されたリグニンのアセチル化物、数平均分子量:2500、アシル化率:95%。以下の手順によって合成。)
【0053】
-アセチル化グリコールリグニンの製造-
グリコールリグニン(分子量200のポリエチレングリコールで誘導体化されたリグニン)1.0030g、アシル化剤として無水酢酸10mL、及び塩基としてピリジン10mLを2口フラスコに添加し、60℃で加熱攪拌を行った。3.5時間後に反応溶液を水1000mL中に再沈殿させ、析出物をろ過したのち減圧乾燥することで、アセチル化グリコールリグニンを得た。収量は0.890gであった。
【0054】
<ラジカル消失活性の測定>
アセトニトリル10mL及び抗酸化剤10mgを、容量15mLの遠沈管に加えた。また、アセトニトリル10mL及び抗酸化剤100mgを、容量15mLの別の遠沈管に加えた。各遠沈管の内容物をボルテックスミキサーによって1時間攪拌を行い、抗酸化剤の濃度が1mg/mLの抗酸化剤溶液、及び抗酸化剤の濃度が10mg/mLの抗酸化剤溶液を調製した。2,2-Diphenyl-1-picryhydrazyl(以下、DPPHとも称する。)をアセトニトリルに溶解し、200μmol/Lの濃度のDPPH溶液を調製した。DPPH溶液1.5mLを分光光度計(日本分光社製、品名:V-550)の測定用セル中に加えた後、測定用セル中に抗酸化剤の濃度が1mg/mLの抗酸化剤溶液、又は抗酸化剤の濃度が10mg/mLの抗酸化剤溶液1.5mlを添加し、反応を開始した。この時、測定用セル中における抗酸化剤の濃度はそれぞれ0.5mg/mL又は5mg/mLとした。反応開始から1800秒までの間において、分光光度計を使用して517nmにおける吸光度を1秒間毎に測定した。
そして反応開始直後の吸光度ODと、反応開始から1800秒後の吸光度OD1800と、の差(OD-OD1800)を算出し、その値から抗酸化剤及びDPPHの反応における反応率([(OD-OD1800)÷吸光度OD]×100)を算出した。
【0055】
また、当該反応における擬一次反応速度定数は以下の方法により算出した。
リグニンによるDPPHの還元反応の素反応は2分子反応であり下式のように表される。
式1:R=(d[D])/dt=k[D][Q]
ここでRは反応速度、[D]はDPPHラジカル濃度、[Q]はBHT、または改質リグニン(具体的には、グリコールリグニン、サルファイトリグニン、又はアセチル化グリコールリグニン)などのラジカル消去剤の濃度を表し、kは速度定数である。改質リグニンの活性点の濃度は間接的な測定による推測値となることからラジカル消去剤の濃度も含めて反応を擬一次とみなした。続いて、式1を式2の通りとする。
式2:R=d[D]/dt=k’[D](ただしk’=k[Q])
式2は[D]=[D]exp(-k’t)(ただし[D]はDPPHの初期濃度)と書けるので、その初期過程の傾きから擬一次反応速度定数(k’)を求めた。
【0056】
評価結果を表1に示す。ここで、同一の抗酸化剤濃度の条件下において、擬一次反応速度定数の値が、BHTを抗酸化剤として用いて測定した場合の反応速度定数の値と同等又はそれ以上となる場合、抗酸化作用を有することを示す。
また、同一の抗酸化剤濃度の条件下において、反応率(%)の値が高いほど、抗酸化作用を示す活性点が多いことを示す。
なお、表1中の「溶解/不溶」の欄は、測定用セル中にDPPH溶液及び抗酸化剤溶液を添加して得られる反応溶液中に抗酸化剤由来の不溶物が存在するか否かを目視にて確認した結果を示す。
表1中の「抗酸化剤溶液中濃度(mg/mL)」は、測定用セル中における抗酸化剤の濃度を意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
上記、ラジカル消失活性の測定において、擬一次反応速度定数がグリコールリグニン、及びサルファイトリグニンともに、BHTと比較して大きい数値となった。これはBHTと比較して、グリコールリグニン及びサルファイトリグニンの方が、ラジカル捕捉能力が高いことを示す。ラジカル捕捉能力が高いことは、抗酸化作用の高さを示すため、当該結果からグリコールリグニン、及びサルファイトリグニンは抗酸化作用がBHTと比較して高いことが分かる。また、測定用セル中における抗酸化剤の濃度0.5mg/mlの場合はグリコールリグニンの反応率はBHTよりも高いため多くの活性点を含有していることを示している。
また、アセチル化グリコールリグニンは同一の測定用セル中における抗酸化剤の濃度の条件において、擬一次反応速度定数がBHTと比較して大きい値を示した。この結果から、アセチル化グリコールリグニンについてもBHTと同等又はそれ以上の抗酸化作用を示すことが分かる。
【0059】
<抗酸化効果の評価>
リグニン系化合物の抗酸化剤の用途の1つとして飲食品用途が考えられる。飲食品(例えば飲料用途)の抗酸化剤としての有効性を評価するためにリノール酸メチルを使用した抗酸化作用の評価を行った。
リノール酸メチルはアリル水素を有し、当該水素原子はラジカル連鎖反応において引き抜かれやすい。そのためラジカル開始剤存在下において、リノール酸メチルはアリル水素の引き抜きを受けやすくなり、酸化反応が促進される。本評価は、リノール酸メチルの当該性質を利用した評価であり、リノール酸メチル、ラジカル開始剤、及び抗酸化剤の混合溶液を作製し、その混合溶液を用いてリノール酸メチルの酸化反応の抑制度合いを評価している。リノール酸メチルが酸化された場合、リノール酸メチルは酸素原子を取り込むため、混合溶液の質量が増加する。本評価において、混合溶液の質量増加が少ないほど、抗酸化作用が高いことを示している。以下に評価手順について具体的に説明する。
【0060】
(抗酸化効果の評価手順)
リノール酸メチル3mLを褐色スクリュー管に添加した。続いて、褐色スクリュー管に抗酸化剤を100mg/mL(抗酸化剤としてビタミンEを添加するときは1mmol/L)、及び2,2′-Azobis[2,4-dimethylvaleronitrile](以下、AMVNと称する。)を250mmol/Lの濃度となるように添加した。褐色スクリュー管を37℃の恒温槽中でシェイクし、60分間ごとに褐色スクリュー管の質量を精密天秤によって測定し、初期の質量との差分を算出した。
抗酸化剤の抗酸化効果を評価するために、褐色スクリュー管にリノール酸メチル3mL及びAMVNを250mmol/Lの濃度となるように添加したサンプルも用意し、同様の評価を行った。
さらに、対照実験用に、褐色スクリュー管にリノール酸メチル3mLのみを添加したサンプルも用意し、同様の評価を行った。
測定結果をグラフにプロットした結果を図1に示す。なお、図1において、抗酸化剤を含有する測定サンプルの評価結果は、抗酸化剤の名称にて示す。また、リノール酸メチル及びAMVNを含有する測定サンプルの評価結果はAMVNと記載する。
【0061】
上記抗酸化効果の評価より、ビタミンE及びグリコールリグニンを抗酸化剤として使用した測定サンプルは、リノール酸メチル及びAMVNのみを含んだ測定サンプルと比較して、質量の増加が抑制されている。よって、ビタミンE及びグリコールリグニンは、リノール酸メチルの抗酸化作用を示していることが分かる。さらに、グリコールリグニンは、ビタミンEよりも質量の増加が少なく、特にリノール酸メチルの抗酸化作用が高いことが分かる。この結果から、飲食品(例えば飲料用途)の抗酸化剤としてグリコールリグニンが特に有効であることが分かる。
【0062】
上記結果から、非可食性であって人体に悪影響の少ない資源を原料として用いるグリコールリグニン及びサルファイトリグニンは、高い抗酸化作用を有することがわかる。
図1