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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023078
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】有機フッ素化合物の不溶化方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/06 20060101AFI20240214BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20240214BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20240214BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20240214BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 22/02 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C09K17/06 P
C09K17/10 P
C09K17/02 P
B09C1/08 ZAB
C09K3/00 S
C04B28/02
C04B22/02
C04B22/14 B
C04B22/06 Z
C04B22/12
C04B22/10
C04B22/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126650
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 良太
(72)【発明者】
【氏名】西川 直仁
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB08
4D004CA08
4D004CA14
4D004CA34
4D004CA45
4D004CC03
4D004CC11
4D004CC13
4D004DA03
4D004DA20
4G112MA00
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB23
4G112MB41
4G112PB02
4G112PB03
4G112PB08
4G112PB09
4G112PB11
4G112PB13
4H026CA01
4H026CA02
4H026CA04
4H026CA06
4H026CB03
4H026CC01
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】新規な有機フッ素化合物の不溶化方法を提供すること。
【解決手段】有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、を添加することにより、有機フッ素化合物を不溶化する方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、を添加することを特徴とする、有機フッ素化合物の不溶化方法。
【請求項2】
前記(A)カルシウム化合物が、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、過リン酸石灰、及び、カルシウムヒドロキシアパタイトからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
【請求項3】
前記(B)セメントが、高炉セメントA種、高炉セメントB種、及び、高炉セメントC種からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
【請求項4】
前記(B)石膏が、半水石膏、無水石膏、及び、二水石膏からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
【請求項5】
有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、(C)活性炭と、を添加することを特徴とする、有機フッ素化合物の不溶化方法。
【請求項6】
前記(C)活性炭が、粉末活性炭である、請求項5に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
【請求項7】
請求項1又は5に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法であって、
有機フッ素化合物を含有する土壌に前記フッ素化合物の不溶化方法を使用して得られる処理土壌において、前記処理土壌を7日間養生したときの一軸圧縮強度が154kN/m以上であることを特徴とする、
前記有機フッ素化合物の不溶化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機フッ素化合物の不溶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機フッ素化合物であるPFAS(ペルフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物及びこれらの塩類の略称)等は、化学的に安定で耐熱性、耐薬品性等に優れている。このため、PFASは、消火剤やフライパンのテフロン(登録商標)加工等を含め工業分野で広く使用されている。
【0003】
他方で、有機フッ素化合物は、化学的に安定であり難分解性であるため、環境中に長期間にわたって残留する。また有機フッ素化合物は、地下水等に溶解しやすいという性質を有する。これらのことから、有機フッ素化合物は環境中を移動して動植物に蓄積され、生態系にも悪影響を及ぼす可能性が示唆されている。このため、令和2年3月に水道法に基づいて定められている「水質管理目標設定項目」が改正され、その水質管理項目に、PFASの一種であるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が新たに追加された。そして水道水におけるPFOSとPFOAの合算値を50ng/L以下とする暫定目標値が設定された。
【0004】
有機フッ素化合物等の難分解性の化合物を経済的かつ高効率で無害化できる水処理装置として、特許文献1には、難分解性化合物含有水が導入される水槽と、上記水槽内の難分解性化合物含有水にナノバブルを吐出する気液混合気体せん断方式のナノバブル発生機と、上記水槽において上記ナノバブルが有するラジカルによる酸化力でもって分解されてガス化された上記難分解性化合物の分解物を除去するガス除去部とを備えることを特徴とする水処理装置が開示されている。
【0005】
また有機ハロゲン化合物を分解処理する方法として、特許文献2には、酸化銅からなる触媒及び過酸化水素の存在下に、有機ハロゲン化合物を100℃から200℃に加熱して、フェントン法を利用した水熱酸化反応を行わせることを特徴とする有機ハロゲン化合物の分解処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-022961号公報
【特許文献2】再表2014/080739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な有機フッ素化合物の不溶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、を添加することにより、有機フッ素化合物を不溶化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の各発明に関する。
[1]有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、を添加することを特徴とする、有機フッ素化合物の不溶化方法。
[2](A)カルシウム化合物が、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、及び、カルシウムヒドロキシアパタイトからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
[3](B)セメントが、高炉セメントA種、高炉セメントB種、及び、高炉セメントC種からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
[4](B)石膏が、半水石膏、無水石膏、及び、二水石膏からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
[5]有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、(C)活性炭と、を添加することを特徴とする、有機フッ素化合物の不溶化方法。
[6](C)活性炭が、粉末活性炭である、[5]に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法。
[7][1]又は[5]に記載の有機フッ素化合物の不溶化方法であって、有機フッ素化合物を含有する土壌に上記有機フッ素化合物の不溶化方法を使用して得られる処理土壌において、上記処理土壌を7日間養生したときの一軸圧縮強度が154kN/m以上であることを特徴とする、上記有機フッ素化合物の不溶化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な有機フッ素化合物の不溶化方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】模擬汚染土壌に(A)及び/又は(B)成分を添加することによるPFOA及びPFOSの溶出量(ng/L)に与える変化を示すグラフである。
図2】模擬汚染土壌に(A)及び/又は(B)成分を添加することによるPFOA及びPFOSの溶出を抑制する効果を示すグラフである。
図3】模擬汚染土壌に(C)成分、又は、(A)~(C)成分を添加することによるPFOA及びPFOSの溶出量(ng/L)に与える変化を示すグラフである。
図4】模擬汚染土壌に(C)成分、又は、(A)~(C)成分を添加することによるPFOA及びPFOSの溶出を抑制する効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本明細書において「不溶化」とは、土壌中の有機フッ素化合物を、水に溶けにくい状態、又は、水に溶けない状態にすることをいう。有機フッ素化合物を不溶化することにより、土壌中から水に溶出する有機フッ素化合物の量を低減することができる。
【0014】
[有機フッ素化合物の不溶化方法]
本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化方法は、有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)カルシウム化合物と、(B)セメント及び/又は石膏と、を添加することを特徴とする。
【0015】
<有機フッ素化合物>
本実施形態の不溶化の対象である有機フッ素化合物は、特に限定されず、炭化水素中の水素の一部又は全部がフッ素で置換された化合物であればよい。上記有機フッ素化合物には、PFASが含まれ、例えば、ペルフルオロアルキルカルボン酸、ポリフルオロアルキルカルボン酸、ペルフルオロアルキルスルホン酸、ポリフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。
【0016】
ここでペルフルオロアルキルカルボン酸には、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロノナン酸、ペルフルオロデカン酸、ペルフルオロウンデカン酸、ペルフルオロドデカン酸等が含まれる。
ポリフルオロアルキルカルボン酸には、ポリフルオロブタン酸、ポリフルオロペンタン酸、ポリフルオロヘキサン酸、ポリフルオロヘプタン酸、ポリフルオロオクタン酸、ポリフルオロノナン酸、ポリフルオロデカン酸、ポリフルオロウンデカン酸、ポリフルオロドデカン酸等が含まれる。
【0017】
またペルフルオロアルキルスルホン酸には、ペルフルオロブタンスルホン酸、ペルフルオロペンタンスルホン酸、ペルフルオロヘキサンスルホン酸、ペルフルオロヘプタンスルホン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロノナンスルホン酸、ペルフルオロデカンスルホン酸、ペルフルオロウンデカンスルホン酸、ペルフルオロドデカンスルホン酸等が含まれる。
ポリフルオロアルキルスルホン酸には、ポリフルオロブタンスルホン酸、ポリフルオロペンタンスルホン酸、ポリフルオロヘキサンスルホン酸、ポリフルオロヘプタンスルホン酸、ポリフルオロオクタンスルホン酸、ポリフルオロノナンスルホン酸、ポリフルオロデカンスルホン酸、ポリフルオロウンデカンスルホン酸、ポリフルオロドデカンスルホン酸等が含まれる。
【0018】
有機フッ素化合物の中でも、とりわけPFOA及びPFOSは、界面活性剤、撥水剤、泡消火剤、防汚剤等の原料として広く用いられており、これらを不溶化することがより好ましい。
【0019】
<(A)カルシウム化合物>
本実施形態に係るカルシウム化合物としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いることができる。カルシウム化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、カルシウムヒドロキシアパタイト等が挙げられる。これらのカルシウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カルシウム化合物としては、有機フッ素化合物を土壌から溶出し難い状態にするという観点から、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、又は、炭酸カルシウムを用いることが好ましく、水酸化カルシウムを用いることがより好ましい。
【0020】
本実施形態で使用する(A)カルシウム化合物の添加量は、特に限定されず、(A)成分の種類、(B)成分の種類及び添加量、土壌における有機フッ素化合物の含有量等に応じて適宜設定される。カルシウム化合物の添加量としては、有機フッ素化合物を土壌から溶出し難い状態にするという観点から、例えば、有機フッ素化合物を含有する土壌1kgに対して、5~250g添加することが好ましく、10~200g添加することがより好ましく、30~120g添加することがさらに好ましい。
【0021】
<(B)セメント及び/又は石膏>
(セメント)
本実施形態に係るセメントとしては、特に限定されず、公知慣用のものを用いることができる。セメントとしては、例えば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等)、混合セメント(高炉セメントA~C種、シリカセメント、フライアッシュセメント等を混ぜ合わせたセメント等)、エコセメント、特殊セメント(白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、グラウト用セメント、油井セメント等)等が挙げられる。これらのセメントは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セメントとしては、土壌の強度を維持するという観点から、高炉セメントA~C種、シリカセメント、又は、フライアッシュセメントを用いることが好ましく、高炉セメントB種を用いることがより好ましい。
【0022】
本実施形態で使用する(B)セメントの添加量は、特に限定されず、(B)セメントの種類、(A)成分の種類及び添加量、土壌中の有機フッ素化合物の含有量等に応じて適宜設定される。セメントの添加量としては、土壌の強度を維持するという観点から、例えば、有機フッ素化合物を含有する土壌1kgに対して、10~400g添加することが好ましく、30~350g添加することがより好ましく、70~280g添加することがさらに好ましい。
【0023】
(石膏)
本実施形態に係る石膏としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いることができる。石膏としては、例えば、半水石膏、無水石膏、二水石膏等が挙げられる。これらの石膏は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
石膏としては、有機フッ素化合物の不溶化を促進し、また土壌の強度を維持するという観点から、半水石膏を用いることが好ましい。
【0024】
本実施形態で使用する(B)石膏の添加量は、特に限定されず、(B)石膏の種類、(A)成分の種類及び添加量、土壌中の有機フッ素化合物の含有量等に応じて適宜設定される。石膏の添加量としては、有機フッ素化合物の不溶化を促進し、また土壌の強度を維持するという観点から、例えば、有機フッ素化合物を含有する土壌1kgに対して、10~400g添加することが好ましく、30~350g添加することがより好ましく、70~280g添加することがさらに好ましい。
【0025】
なお、(B)成分として、セメントと石膏とを併せて用いてもよい。通常、セメントはアルカリ性(おおよそpH11以上)を呈するのに対し、石膏は中性(おおよそpH6~8)を呈する。このため、(B)成分としてセメント及び/又は石膏を用いることで、アルカリ性及び中性のいずれにおいても不溶化効果を発揮することができ、有機フッ素化合物を含有する土壌の性質に応じて適宜セメント及び/又は石膏の添加量比を調整することができる。
【0026】
<(A)成分と(B)成分の添加量比>
本実施形態で使用する(A)成分と(B)成分の添加量比は、特に限定されず、(A)成分及び(B)成分の種類、土壌中の有機フッ素化合物の含有量等に応じて適宜設定される。(A)成分と(B)成分の添加量比としては、例えば、1~15:1~30であることが好ましく、1~3:1~10であることがより好ましい。
【0027】
<任意成分>
(活性炭)
別の実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化方法としては、有機フッ素化合物を含有する土壌に、(A)及び(B)成分に加えて、(C)活性炭を添加することができる。
【0028】
本実施形態に係る活性炭としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いることができる。活性炭の原料としては、特に限定されず、例えば、木材(廃材、間伐材、おが粉)、ヤシ殻、石炭、サトウキビの搾りかす、コーヒー豆の搾りかす、籾殻、樹皮、泥炭、果物の果実等が挙げられる。
【0029】
活性炭の形状としては、特に限定されず、例えば、粒状活性炭、粉末活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。活性炭の形状としては、吸着速度が大きく、接触効率が高いという観点から、粉末活性炭を用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態で使用する(C)活性炭の添加量は、特に限定されず、(C)活性炭の種類、(A)及び(B)成分の種類及び添加量、土壌中の有機フッ素化合物の含有量等に応じて適宜設定される。活性炭の添加量としては、有機フッ素化合物の不溶化を促進するという観点から、例えば、有機フッ素化合物を含有する土壌1kgに対して、0.1~30g添加することが好ましく、0.3~20g添加することがより好ましく、0.5~10g添加することがさらに好ましい。
【0031】
[有機フッ素化合物の不溶化方法を使用した処理]
<オンサイト処理及び原位置処理>
本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化方法を使用した処理(以下「不溶化処理」ともいう。)は、オンサイト処理としても原位置処理としても使用できる。
【0032】
オンサイト処理としては、例えば、有機フッ素化合物の汚染された土壌を掘削して、掘削した土砂に(A)及び(B)成分、又は、(A)~(C)成分を添加混合し、不溶化処理を施した土壌(以下「処理土壌」ともいう。)を元の場所もしくは敷地内の他の場所に埋め戻す方法が挙げられる。
処理土壌を敷地内に埋め戻すにあたっては、場内でのダンプトラック等での運搬や地盤の不良化や陥没等を避けるために、処理土壌が一定程度の強度を有することが求められる。本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化処理では、(B)成分のセメント及び/又は石膏が固化材としての役割を果たす。このため、上記不溶化処理を施した処理土壌は、埋戻土として十分の強度を有し、埋戻土として好適に用いることができる。
【0033】
原位置処理としては、例えば、有機フッ素化合物に汚染された土壌が、地表面から浅い部分にある場合にはバックホウや高速回転ローター等を用いて、また地表面から深い部分にある場合にはロータリーブレンダー等を用いて、原位置にて(A)及び(B)成分、又は、(A)~(C)成分を添加混合して、有機フッ素化合物の不溶化処理を行う方法が挙げられる。
原位置処理においても、バックホウやロータリーブレンダー等の重機を用いて作業を継続するために、処理土壌が一定程度の強度を有しており、重機が作業するための地耐力を確保できることが求められる。本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化処理では、(B)成分のセメント及び/又は石膏が固化材としての役割を果たす。このため、上記不溶化処理を施した処理土壌は、重機による作業を継続するために必要な強度を有する。したがって、本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化方法は、原位置処理としても好適に使用することができる。
【0034】
<処理土壌の一軸圧縮強度>
処理土壌の強度は、地耐力と関わる指標である一軸圧縮強度を測定することで評価することができる。処理土壌の一軸圧縮強度は、JIS A 1216(土の一軸圧縮強度試験方法)に準拠して測定することができる。
処理土壌の一軸圧縮強度としては、埋戻土として十分な強度を有する、又は、重機による作業が可能な程度の地耐力を確保するという観点から、154kN/m以上であることが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化方法によれば、有機フッ素化合物を含有する土壌中の有機フッ素化合物を不溶化し、その溶出を抑制することができ、かつ、処理土壌の一軸圧縮強度を154kN/m以上にすることができる。このため、本実施形態に係る有機フッ素化合物の不溶化方法は、オンサイト処理及び原位置処理のいずれにおいても好適に使用することができる。
【実施例0036】
[試験1:(A)及び/又は(B)成分による有機フッ素化合物の不溶化効果]
まずPFOA及びPFOSによって汚染された土壌(以下「模擬汚染土壌」ともいう。)を作製した。次いで、作製した模擬汚染土壌に、(A)消石灰及び/又は(B)高炉セメントB種を表1に記載の所定の量添加混合し、これを模擬処理土壌とした。模擬処理土壌を7日間養生した後、所定の方法で模擬処理土壌から溶出するPFOA及びPFOSの溶出量を測定した。上記溶出量に基づき、(A)及び/又は(B)成分による有機フッ素化合物の不溶化効果を評価した。
【0037】
<模擬汚染土壌の作製>
模擬汚染土壌は、所定量の土壌とPFOA・PFOS水溶液を用いて作製した。土壌としては、市販の真砂土(香川県産(有限会社カネア))を2mm未満に篩分けしたものを用いた。またPFOA及びPFOSとしては、いずれもWAKO製の純度95%のものを用いた。PFOA及びPFOSの濃度がいずれも100000ng/Lとなるように水に添加し、これをPFOA・PFOS水溶液とした。
上記土壌1kgに上記PFOA・PFOS水溶液10kgを混合し、環境省庁告示第18号(平成15年3月6日)(以下「環告18号」ともいう。)の条件で24時間振とうした。その後、遠心分離(1000G、5分間)を行い、固体と液体を分離し、分離された固体を模擬汚染土壌とした。
【0038】
<模擬処理土壌の作製>
模擬汚染土壌に、(A)消石灰(宇部マテリアルズ株式会社製)、(B)高炉セメントB種(太平洋セメント株式会社製)、及び、イオン交換水を、表1に記載の所定の量添加混合し、これを模擬処理土壌とした。なお、表1のイオン交換水の添加量は、(A)及び/又は(B)成分のスラリー状態を維持できる量として設定した。
【0039】
【表1】
【0040】
<PFOA及びPFOSの溶出量の測定>
作製した模擬汚染土壌及び模擬処理土壌(比較例1-1~1-6及び実施例1-1~1-6)を7日間養生し、その後、PFOA及びPFOSの溶出量を環水大水発第2005281号・環水大土発第2005282号の「付表1 ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)の測定方法」に則りLC/MS/MS法にて測定した。その結果を図1に示す。
また図2は、模擬処理土壌(比較例1-1~1-6及び実施例1-1~1-6)のPFOA及びPFOSの溶出量が、模擬汚染土壌のPFOA及びPFOSの溶出量に比べて、どの程度抑制されたか、下記式に示す抑制率を用いて示したものである。
抑制率={(模擬汚染土壌のPFOA及びPFOSの溶出量)-(模擬処理土壌のPFOA及びPFOSの溶出量)}/(模擬汚染土壌のPFOA及びPFOSの溶出量)
【0041】
<(A)及び/又は(B)成分による有機フッ素化合物の不溶化効果>
図1及び2の実施例1-1~1-6の結果から、(A)消石灰及び(B)高炉セメントB種の両方を添加することにより、(A)消石灰、又は、(B)高炉セメントB種のいずれかを単独で添加した場合に比べて、PFOA及びPFOSの溶出をより抑制することが分かる。
【0042】
[試験2:(A)~(C)成分による有機フッ素化合物の不溶化効果]
試験1と同様の方法で模擬汚染土壌を作製した。次いで、作製した模擬汚染土壌に(A)消石灰、(B)高炉セメントB種又は半水石膏、及び、(C)粉末活性炭を表2に記載の所定の量添加混合し、これを模擬処理土壌とした。試験1と同様の方法で、模擬処理土壌から溶出するPFOA及びPFOSの溶出量を測定し、上記溶出量に基づき、(A)~(C)成分による有機フッ素化合物の不溶化効果を評価した。
【0043】
<模擬汚染土壌の作製>
試験1と同様の方法で模擬汚染土壌を作製した。
【0044】
<模擬処理土壌の作製>
模擬汚染土壌に、(A)消石灰(宇部マテリアルズ株式会社製)、(B)高炉セメントB種(太平洋セメント株式会社製)又は半水石膏(吉野石膏株式会社製)、(C)粉末活性炭(GB(フタムラ化学株式会社製))、及び、イオン交換水を表2に記載の所定の量添加混合し、これを模擬処理土壌とした。なお、表2のイオン交換水の添加量は、(A)~(C)成分のスラリー状態を維持できる量として設定した。
【0045】
【表2】
【0046】
<PFOA及びPFOSの溶出量の測定>
作製した模擬汚染土壌及び模擬処理土壌(比較例2-1~2-4及び実施例2-1~2-6)を7日間養生し、その後、PFOA及びPFOSの溶出量を試験1と同様の方法で測定した。その結果を図3に示す。
また図4は、模擬処理土壌(比較例2-1~2-4及び実施例2-1~2-6)のPFOA及びPFOSの溶出量が、模擬汚染土壌のPFOA及びPFOSの溶出量に比べて、どの程度抑制されたか、下記式に示す抑制率を用いて示したものである。
抑制率={(模擬汚染土壌のPFOA及びPFOSの溶出量)-(模擬処理土壌のPFOA及びPFOSの溶出量)}/(模擬汚染土壌のPFOA及びPFOSの溶出量)
【0047】
図3及び4の実施例2-1~2-4の結果から、(A)消石灰、(B)高炉セメントB種、及び(C)粉末活性炭を添加した場合に、PFOS及びPFOAの溶出を強く抑制することが分かる。さらに図3及び4の実施例2-5及び2-6の結果から、(A)消石灰、(B)半水石膏、及び(C)粉末活性炭を添加した場合にも、PFOS及びPFOAの溶出を強く抑制することが分かる。
【0048】
また図3及び4から、(B)成分として、アルカリ性の高炉セメントB種に代えて、中性の半水石膏を用いた場合にもPFOS及びPFOAの溶出を強く抑制されることが分かる。このことから、(A)~(C)成分によるPFOS及びPFOAの溶出を抑制する効果は、アルカリ性であっても中性であっても発揮されるといえる。
このため、(A)~(C)成分を用いたPFOS及びPFOAの不溶化方法は、土壌のpH等の性質によらず適用することができ、さらに土壌のpH等の性質に応じて、アルカリ性の高炉セメントB種及び/又は中性の半水石膏を、単独で又は適宜組み合わせて用いることができることが分かる。
【0049】
[試験3:一軸圧縮強度試験]
試験1と同様の方法で模擬汚染土壌を作製した。次いで、作製した模擬汚染土壌に表3に記載の所定の成分を所定の量添加混合し、これを模擬処理土壌とした。
模擬処理土壌を、以下の二通りの養生条件で7日間養生した。
・養生条件(飽和):模擬処理土壌を水槽内で養生する
・養生条件(不飽和):模擬処理土壌を室内で養生する
なお、地価水面より深い場所では帯水層と呼ばれる地層に水が満たされて飽和した状態にあり、これを再現するために養生条件(飽和)を設定した。また、養生条件(不飽和)は、地下水面より浅い部分を再現するために設定した。
【0050】
養生後の模擬処理土壌の一軸圧縮強度を、JIS A 1216に準拠して測定した。また模擬処理土壌の一軸圧縮強度については、目標とする154kN/m以上を基準に、それぞれ評価した。
【0051】
【表3】
【0052】
表3の実施例3-1~3-4の結果から、(B)成分として高炉セメントB種を用いることで、模擬処理土壌の強度が大きく向上することが分かる。また実施例3-1及び3-2と、実施例3-3及び3-4の結果を比較することで、(A)消石灰を添加することで、模擬処理土壌の強度が向上することが分かる。
【0053】
また表3の実施例3-5及び3-6から、(B)成分として半水石膏を用いた場合も、飽和・不飽和の養生条件を問わず、模擬処理土壌の一軸圧縮強度が目標値である154kN/mよりも上回ることが分かる。また実施例3-5及び3-6と、比較例3-1及び3-2を対比することで、(B)成分の半水石膏を添加することで、模擬処理土壌の強度が向上することが分かる。
【0054】
他方で、表3の比較例3-1及び3-2の結果から、(C)成分である粉末活性炭のみを添加した場合には、模擬処理土壌が自立せず一軸圧縮強度を測定できないことが分かる。
【0055】
以上より、表1~3及び図1~4から有機フッ素化合物の不溶化効果を発揮させながら、かつ、模擬処理土壌の一軸圧縮強度を目標値である154kN/m以上とするためには、(C)成分である粉末活性炭に加えて、(B)成分である高炉セメントB種、又は、半水石膏を加える必要があることが分かる。
図1
図2
図3
図4