(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023128
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】車両用内装材、車両用内装材の製造装置、及び車両用内装材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20240214BHJP
B29C 65/70 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B60R13/02 B
B29C65/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055099
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】63/395960
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 健吾
【テーマコード(参考)】
3D023
4F211
【Fターム(参考)】
3D023BA01
3D023BB01
3D023BD03
3D023BE06
3D023BE17
3D023BE31
4F211AF01
4F211AG03
4F211AG05
4F211AH18
4F211AR07
4F211TA03
4F211TD11
4F211TQ01
(57)【要約】
【課題】車両用内装材の製造装置及び車両用内装材の製造方法において、意匠性をより高めた車両用内装材を提供する。
【解決手段】車両用内装材(1)は、基材12と、基材に接合され、ステッチ6を含む表皮材7とを有する。表皮材が接合される基材の表面には、ステッチが設けられた表皮材の部分を受容する溝部14が設けられる。この車両用内装材を形成するための製造装置20は、表皮材と基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型21と第2型22とを有する。第1型及び第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部23が設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用内装材であって、
基材と、
前記基材に接合され、ステッチを含む表皮材とを有し、
前記表皮材が接合される前記基材の表面には、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を受容する溝部が設けられる、車両用内装材。
【請求項2】
前記溝部の深さは、前記ステッチの厚さよりも大きい請求項1に記載の車両用内装材。
【請求項3】
前記基材には、前記基材の前記表面から前記基材の裏面に貫通する複数の貫通孔が形成される請求項2に記載の車両用内装材。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記溝部が設けられた前記基材の前記表面から前記基材の裏面に貫通するように形成される請求項3に記載の車両用内装材。
【請求項5】
前記溝部の縁部には、前記基材の前記表面から前記溝部の底部に向かって傾斜する面取部が設けられる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用内装材。
【請求項6】
前記ステッチの一部は、前記面取部の前記溝部の深さ方向の成分と整合する請求項5に記載の車両用内装材。
【請求項7】
前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分には、テープ材が設けられる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用内装材。
【請求項8】
ステッチを有する表皮材と、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を受容する溝部を有する基材とを接合して車両用内装材を形成するための車両用内装材の製造方法であって、
前記表皮材と前記基材とを接合するための製造装置は、
前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型と第2型とを有し、
前記第1型及び前記第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部が設けられ、
前記ステッチと前記溝部と前記凸部とが整合するように、前記基材及び前記表皮材を前記第1型と前記第2型との間に配置する配置ステップと、
前記第1型と前記第2型とを互いに近接移動させ、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧ステップとを有する、車両用内装材の製造方法。
【請求項9】
前記凸部は、前記押圧方向に移動可能に構成され、
前記押圧ステップは、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分以外の部分を前記基材に押圧する第1押圧ステップと、
前記第1押圧ステップの後、前記凸部を移動させ、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を前記溝部に押圧する第2押圧ステップとを有する請求項8に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項10】
前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分には、テープ材が設けられ、
前記配置ステップでは、前記テープ材と前記溝部とを整合させる請求項8又は請求項9に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項11】
ステッチを有する表皮材と基材とを接合するための車両用内装材の製造装置であって、
前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型と第2型とを有し、
前記第1型及び前記第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部が設けられる、車両用内装材の製造装置。
【請求項12】
前記凸部は、前記押圧方向に移動可能に構成される請求項11に記載の車両用内装材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装材、車両用内装材の製造装置及び車両用内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、基材及び基材に接着された表皮材を有する車両用内装材が開示されている。特許文献1に記載の表皮材には、意匠性を付与するための飾りステッチが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の飾りステッチは、表皮材の表面から外方に浮き出る状態で表皮材に配置される。そのため意匠性に改善の余地がある。また飾りステッチが乗員等に引っ掛かることにより、飾りステッチが損傷する虞がある。
【0005】
そこで、本発明は以上の背景に鑑み、車両用内装材の製造装置及び車両用内装材の製造方法において、意匠性及び耐久性をより高めた車両用内装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、車両用内装材(1)であって、基材(12)と、前記基材に接合され、ステッチ(6)を含む表皮材(7)とを有し、前記表皮材が接合される前記基材の表面には、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を受容する溝部(14)が設けられる。
【0007】
この態様によれば、ステッチは、表皮材の面から表皮材の内部に凹んだ部分に配置される。これにより車両用内装材には複数の凹凸が設けられ、立体的な模様が形成される。即ち意匠性がより高められる。ステッチが表皮材の内部に凹んだ部分に配置されるため、乗員等による引っ掛かりが抑制される。したがって、ステッチの損傷が抑制される。即ち耐久性がより高められる。
【0008】
上記の態様において、前記溝部の深さは、前記ステッチの厚さよりも大きくてもよい。
【0009】
この態様によれば、ステッチは表皮材の表面から裏面に凹んだ状態で配置される。
【0010】
上記の態様において、前記基材には、前記基材の前記表面から前記基材の裏面に貫通する複数の貫通孔(18)が形成されてもよい。
【0011】
この態様によれば、ステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧されるとき、溝部に含まれる空気が貫通孔を介して車両用内装材の外方に押し出される。したがって表皮材と基材との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0012】
上記の態様において、前記貫通孔は、前記溝部が設けられた前記基材の前記表面から前記基材の裏面に貫通するように形成されてもよい。
【0013】
この態様によれば、ステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧されるとき、溝部に含まれる空気が貫通孔を介して車両用内装材の外方に押し出される。したがってステッチが設けられた表皮材の部分と溝部との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0014】
上記の態様において、前記溝部の縁部には、前記基材の前記表面から前記溝部の底部に向かって傾斜する面取部(16)が設けられてもよい。
【0015】
この態様によれば、表皮材と基材とが接合するとき、溝部の縁部による表皮材の損傷が抑制される。
【0016】
上記の態様において、前記ステッチの一部は、前記面取部の前記溝部の深さ方向の成分と整合してもよい。
【0017】
この態様によれば、ステッチは表皮材の表面から裏面に凹んだ状態で配置される。
【0018】
上記の態様において、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分には、テープ材(17)が設けられてもよい。
【0019】
この態様によれば、ステッチを溝部の上に配置するための位置決めが容易に行われる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、ステッチ(6)を有する表皮材(7)と、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を受容する溝部(14)を有する基材(12)とを接合して車両用内装材(1)を形成するための車両用内装材の製造方法であって、前記表皮材と前記基材とを接合するための製造装置(20)は、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型(21)と第2型(22)とを有し、前記第1型及び前記第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部(23)が設けられ、前記ステッチと前記溝部と前記凸部とが整合するように、前記基材及び前記表皮材を前記第1型と前記第2型との間に配置する配置ステップ(
図4(A))と、前記第1型と前記第2型とを互いに近接移動させ、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧ステップ(
図4(B))とを有する。
【0021】
この態様によれば、凸部よってステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧される。これにより車両用内装材には複数の凹凸が設けられ、立体的な模様が形成される。即意匠性をより高めた車両用内装材を提供することができる。
【0022】
上記の態様において、前記凸部は、前記押圧方向に移動可能に構成され、前記押圧ステップは、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分以外の部分を前記基材に押圧する第1押圧ステップ(
図5(B))と、前記第1押圧ステップの後、前記凸部を移動させ、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を前記溝部に押圧する第2押圧ステップ(
図5(C))とを有してもよい。
【0023】
この態様によれば、表皮材と基材とを押圧する押圧ステップが、第1押圧ステップと第2押圧ステップとに段階的に行わるため、表皮材と基材との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0024】
上記の態様において、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分には、テープ材が設けられ、前記配置ステップでは、前記テープ材と前記溝部とを整合させてもよい。
【0025】
この態様によれば、ステッチを溝部の上に配置するための位置決めが容易に行われる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明は、ステッチ(6)を有する表皮材(7)と基材(12)とを接合するための車両用内装材(1)の製造装置(20)であって、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型(21)と第2型(22)とを有し、前記第1型及び前記第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部(23)が設けられる。
【0027】
この態様によれば、凸部よってステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧される。これにより車両用内装材には複数の凹凸が設けられ、立体的な模様が形成される。即意匠性をより高めた車両用内装材を提供することができる。
【0028】
上記の態様において、前記凸部は、前記押圧方向に移動可能に構成されてもよい。
【0029】
この態様によれば、ステッチが設けられた表皮材の部分とそれ以外の部分とを段階的に基材に押圧できる。これにより、表皮材と基材との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【発明の効果】
【0030】
上記課題を解決するために、本発明は、車両用内装材であって、基材と、前記基材に接合され、ステッチを含む表皮材とを有し、前記表皮材が接合される前記基材の表面には、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を受容する溝部が設けられる。
【0031】
この態様によれば、ステッチは、表皮材の面から表皮材の内部に凹んだ部分に配置される。これにより車両用内装材には複数の凹凸が設けられ、立体的な模様が形成される。即ち意匠性がより高められる。ステッチが表皮材の内部に凹んだ部分に配置されるため、乗員等による引っ掛かりが抑制される。したがって、ステッチの損傷が抑制される。即ち耐久性がより高められる。
【0032】
上記の態様において、前記溝部の深さは、前記ステッチの厚さよりも大きくてもよい。
【0033】
この態様によれば、ステッチは表皮材の表面から裏面に凹んだ状態で配置される。
【0034】
上記の態様において、前記基材には、前記基材の前記表面から前記基材の裏面に貫通する複数の貫通孔が形成されてもよい。
【0035】
この態様によれば、ステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧されるとき、溝部に含まれる空気が貫通孔を介して車両用内装材の外方に押し出される。したがって表皮材と基材との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0036】
上記の態様において、前記貫通孔は、前記溝部が設けられた前記基材の前記表面から前記基材の裏面に貫通するように形成されてもよい。
【0037】
この態様によれば、ステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧されるとき、溝部に含まれる空気が貫通孔を介して車両用内装材の外方に押し出される。したがってステッチが設けられた表皮材の部分と溝部との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0038】
上記の態様において、前記溝部の縁部には、前記基材の前記表面から前記溝部の底部に向かって傾斜する面取部が設けられてもよい。
【0039】
この態様によれば、表皮材と基材とが接合するとき、溝部の縁部による表皮材の損傷が抑制される。
【0040】
上記の態様において、前記ステッチの一部は、前記面取部の前記溝部の深さ方向の成分と整合してもよい。
【0041】
この態様によれば、ステッチは表皮材の表面から裏面に凹んだ状態で配置される。
【0042】
上記の態様において、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分には、テープ材が設けられてもよい。
【0043】
この態様によれば、ステッチを溝部の上に配置するための位置決めが容易に行われる。
【0044】
上記課題を解決するために、本発明は、ステッチを有する表皮材と、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を受容する溝部を有する基材とを接合して車両用内装材を形成するための車両用内装材の製造方法であって、前記表皮材と前記基材とを接合するための製造装置は、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型と第2型とを有し、前記第1型及び前記第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部が設けられ、前記ステッチと前記溝部と前記凸部とが整合するように、前記基材及び前記表皮材を前記第1型と前記第2型との間に配置する配置ステップと、前記第1型と前記第2型とを互いに近接移動させ、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧ステップとを有する。
【0045】
この態様によれば、凸部よってステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧される。これにより車両用内装材には複数の凹凸が設けられ、立体的な模様が形成される。即意匠性をより高めた車両用内装材を提供することができる。
【0046】
上記の態様において、前記凸部は、前記押圧方向に移動可能に構成され、前記押圧ステップは、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分以外の部分を前記基材に押圧する第1押圧ステップと、前記第1押圧ステップの後、前記凸部を移動させ、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分を前記溝部に押圧する第2押圧ステップとを有してもよい。
【0047】
この態様によれば、表皮材と基材とを押圧する押圧ステップが、第1押圧ステップと第2押圧ステップとに段階的に行わるため、表皮材と基材との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0048】
上記の態様において、前記ステッチが設けられた前記表皮材の部分には、テープ材が設けられ、前記配置ステップでは、前記テープ材と前記溝部とを整合させてもよい。
【0049】
この態様によれば、ステッチを溝部の上に配置するための位置決めが容易に行われる。
【0050】
上記課題を解決するために、本発明は、ステッチを有する表皮材と基材とを接合するための車両用内装材の製造装置であって、前記表皮材と前記基材とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型と第2型とを有し、前記第1型及び前記第2型の一方には、他方に向けて突出した凸部が設けられる。
【0051】
この態様によれば、凸部よってステッチが設けられた表皮材の部分が基材に設けられた溝部に押圧される。これにより車両用内装材には複数の凹凸が設けられ、立体的な模様が形成される。即意匠性をより高めた車両用内装材を提供することができる。
【0052】
上記の態様において、前記凸部は、前記押圧方向に移動可能に構成されてもよい。
【0053】
この態様によれば、ステッチが設けられた表皮材の部分とそれ以外の部分とを段階的に基材に押圧できる。これにより、表皮材と基材との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図2】本実施形態に係るドアトリムに設けられたステッチを示す図
【
図3】本実施形態に係るドアトリムに設けられたステッチを示す側断面図
【
図4】第1実施形態に係る基材と表皮材との接合を説明する説明図
【
図5】第2実施形態に係る基材と表皮材との接合を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0055】
(第1実施形態)
以下、本発明の車両用内装材について、図面を参照して説明する。車両用内装材は、車体の車室側を向く部分に設けられた内装材である。車両用内装材は、例えば、ドアの内面に設けられたドアトリムや、グローブボックス、インストルメントパネル、センターコンソール、ルーフライニング等を含む。本実施形態では、車両用内装材は運転席側のドアトリム1に適用されている。
【0056】
以下、ドアトリム1が設けられる車両の進行方向を前後方向と規定して、車幅方向(左右方向)の内側を車内側と定め、車幅方向(左右方向)の外側を車外側と定めて説明する。
【0057】
図1に示すように、ドアトリム1は、金属製(例えば、鉄製)のドアパネルPの車内側に設けられている。ドアトリム1は、車幅方向の車内側を向く主面部3と、主面部3の周縁に対応する縁部4とを有している。縁部4は、主面部3の端部から車外側に向かって延びている。縁部4はドアパネルPに当接しており、例えば図示しないクリップなどの締結部材を介してドアパネルPに取り付けられている。
【0058】
ドアトリム1の中央部には、車内側に向けて膨出するアームレスト30が設けられている。アームレスト30は、車内側に向けて突出し、且つ主面が上下を向いた上壁30A、及び上壁30Aの車内側の縁部から主面部3に向かって下方且つ車外側に傾斜して延びる側壁30Bを有する。上壁30Aは主面部3から車内側に水平に延びている。乗員は腕を上壁30Aの上面に載置することができる。これによりにアームレスト30は肘掛として機能する。
【0059】
アームレスト30の上壁30Aの前部には、乗員が窓の開閉動作等を行うためのスイッチ部31が設けられている。アームレスト30の上壁30Aの後部には、アームレスト30の上壁30Aから下方に凹んだプルポケット空間32Aを画定するプルポケット体32が設けられている。プルポケット体32は、乗員がドアを開閉するときに把持するための把持部として機能している。
【0060】
表皮材7には加飾部材としてのステッチ6が設けられている。ステッチ6は表皮材7(後述する表皮層8及び発泡材層10)に複数の繊維が編み込まれた糸6Aが配置されることにより形成される。本実施形態ではステッチ6は、糸6Aが互いに間隔を空けつつ、表皮材7の面方向の所定の方向に延びていることにより形成される(
図3参照)。
図2に示すようにステッチ6は、表皮材7の面から車外側に凹んだ部分に配置されている。
【0061】
図3に示すようにドアトリム1は、表皮材7に接合された基材12を有する。基材12は剛性を有する硬質な樹脂製であって、ドアトリム1の骨格をなすように形成される。即ち基材12は、主面部3の骨格、アームレスト30の骨格及びプルポケット体32の骨格をなす。表皮材7は、基材12の車内側を覆うように設けられている。
【0062】
表皮材7は、表皮層8と、表皮層8の基材12の側の面に設けられた発泡材層10とを有する。表皮層8はドアトリム1の最も車内側、即ち乗員に視認される位置に配置されている。表皮層8は表皮材7の意匠性を確保するべく、可撓性を有する樹脂、天然皮革又は合成皮革皮等からなるシート状に形成される。
【0063】
表皮層8は、熱可塑性エラストマー(例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)等)やポリ塩化ビニル樹脂(PVC)で構成されてもよい。熱可塑性エラストマー(TPO、TPVC等)は、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)と比べて、ゴムのような弾性を有する。そのため、乗員が表皮材7に触れたときの感触が良好となる。
【0064】
発泡材層10は、合成樹脂を公知の方法により発泡成形した板状をなす。合成樹脂は例えば、ポリウレタン系樹脂(PUR)、ポリスチレン系樹脂(PS)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂)等であってよい。発泡材層10によって表皮材7が吸音性を有するため、車室内の音が車外に漏れ出すことが抑制される。また、発泡材層10によって表皮材7がクッション性を有するため、衝突時における乗員の保護(衝撃の緩和)の機能も兼ね備える。
【0065】
ドアトリム1の形成では、まず表皮層8と発泡材層10とを接合して表皮材7が形成される。表皮層8と発泡材層10との接合は、熱融着法等の公知の方法により行われてよい。例えば上下方向に移動可能に設けられ、互いに開閉可能な第1上型及び第1下型を有する第1成型装置を用いて押圧して融着されるとよい。表皮層8と発泡材層10とは、互いに重ね合わせた状態で第1上型及び第1下型の間に配置される。その後、第1上型及び第1下型を閉じることにより、表皮層8と発泡材層10とが上下方向に押圧される。このとき表皮層8と発泡材層10とは加熱されている。これにより、発泡材層10の表皮層8と当接する面が溶融した後硬化することにより、表皮層8と発泡材層10とが融着する。
【0066】
表皮層8と発泡材層10とを接合して表皮材7が形成された後、ステッチ6が、ミシン等によって形成される。具体的にはステッチ6は、糸6Aが表皮材7の乗員に視認される表面から裏面及び裏面から表面を交互に貫通して表皮層8と発泡材層10とを縫い合わせるように、且つ表皮材7の面方向の所定の方向、即ち前後方向及び左右方向に延びるように設けられている。これによりステッチ6は、糸6A、表皮層8及び発泡材層10のうち、表皮材7の最も表側に位置する点から表皮材7の最も裏側に位置する点に至る厚さTを有する。
【0067】
ステッチ6は加飾部材であって、糸6Aが表皮層8と発泡材層10とを縫い合わせるように形成されなくてもよい。例えばステッチ6は、糸6Aが適切な接着剤等により表皮材7の表面に接着されてよい。即ちステッチ6は、表皮材7の表面よりも車内側に浮き出るように設けられる。
【0068】
ステッチ6が設けられた表皮材7の部分には、テープ材17が設けられている。テープ材17は、例えばポリ塩化ビニル製のシート状をなし、一方の面に粘着剤が塗布されたビニルテープであってよい。テープ材17は、側面視でステッチ6の端部と整合する発泡材層10の側縁に貼着されている。テープ材17の配置する位置は特に限定されないが、糸6Aの各側方の外側、且つ後述する溝部14の内側に配置されるとよい。また各テープ材17の幅は特に限定されないが、後述する溝部14の幅に収まるように設定されるとよい。テープ材17はステッチ6の延びる方向に沿って設けられてもよい。
【0069】
基材12の表皮材7が接合される表面には、ステッチ6が設けられた表皮材7の部分を受容する溝部14が設けられている。溝部14は基材12が成形されるときに設けられてもよく、基材12が成形された後、適切な工具によって設けられてもよい。溝部14は基材12の表面から基材12の内部に向かって凹んだ断面視で半円状をなし、基材12の表面から底に至る深さDを有する。また溝部14はステッチ6の延びる方向に沿って設けられている。溝部14の深さDは、ステッチ6の厚さTよりも大きい。
【0070】
溝部14の縁部は、面取り加工されている。即ち溝部14の縁部には、基材12の表面から溝部14の底部に向かって傾斜する面取部16が設けられている。ステッチ6が溝部14に受容されたとき、ステッチ6の表側は面取部16の溝部14の深さ方向の成分と整合している。
【0071】
基材12には、溝部14が設けられた基材12の表面から基材12の裏面に貫通する複数の貫通孔18が形成されている。複数の貫通孔18のそれぞれは、断面視で溝部14の底部中央部の各側方に設けられている。また複数の貫通孔18のそれぞれは、互いに間隔を空けて溝部14の延びる方向に沿って配置されてよい。
【0072】
なお他の実施形態では、基材12には、溝部14が設けられた基材12の表面から基材12の裏面に貫通し、溝部14の延びる方向に沿って延びるスリットであってよい。スリットは、断面視で溝部14の底部中央部の各側方に設けられるとよい。
【0073】
ドアトリム1は、表皮層8と発泡材層10とが接合され表皮材7が形成された後、表皮材7と基材12とが接合されることにより形成される。
【0074】
図4に示すように表皮材7と基材12とを接合するための製造装置20は、表皮材7と基材12とを押圧する押圧方向に互いに移動可能な第1型21と第2型22とを有する。本実施形態では、押圧方向が紙面上下方向、即ち乗員に視認される表側及び裏側の方向をなす表裏方向に対応している。第1型21は紙面上側に配置され、第2型22が紙面下側に配置されている。第1型21は図示しないシリンダによって第2型22に対して表裏方向に移動する。第1型21及び第2型22にはドアトリム1の製品形状をなすように一対の凹凸が設けられている。本実施形態では図を簡略化するべく、ドアトリム1の製品形状をなす凹凸を省略した。
【0075】
第1型21には、第2型22の側に向けて突出した凸部23が設けられている。凸部23は断面視で第2型22の側に向けて突出するにつれ幅が狭くなるテーパ状をなし、基材12の溝部14の延びる方向に沿って設けられている。凸部23の高さは溝部14の深さDと等しく、凸部23の先端の幅は、ステッチ6をなす糸6Aの幅と等しい。凸部23の側面は、凸部23の内部に向けて湾曲するように設けられている。
【0076】
なお他の実施形態では、凸部23の先端は溝部14に受容される断面視で半円状に形成されてもよい。
【0077】
第2型22には、図示しない通気路が形成されている。通気路は第2型22の表面からは第2型22の内部に向かって凹み、第2型22の各縁に至るように第2型22の表面の面方向の所定の方向に沿って設けられてよい。
【0078】
このように構成された製造装置20を用いて表皮材7と基材12とを接合するための手順を説明する。以下の作業は作業者によって行われる。
【0079】
図4(A)に示すように、表皮材7及び基材12を製造装置20に配置する(配置ステップ)。具体的には第1型21及び第2型22を互いに離間させた状態で、表皮材7を第1型21の側に配置し、基材12を第2型22の側に配置する。
【0080】
基材12が配置されたとき、基材12に設けられた複数の貫通孔18のそれぞれは、第2型22に設けられた図示しない通気路と連通する。表皮材7と接合する基材12の表面には予め接着剤が塗布されるとよい。
【0081】
なお、他の実施形態では基材12に接着剤を塗布する代わりに、発泡材層10の基材12に接合する面には、接着フィルムがラミネート処理されてもよい。接着フィルムは、ポリオレフィン樹脂又はエチレン酢酸ビニル樹脂等の樹脂であって、熱により溶融する所謂ホットメルト接着剤である。接着フィルムの厚み及び目付は、発泡材層10と基材12との接合強度が確保されるよう適宜選択されてよい。
【0082】
表皮材7は、発泡材層10の裏面が基材12の表面に当接するように配置される。作業者は発泡材層10の側縁に設けられた各テープ材17が溝部14と整合するように表皮材7を基材12に配置するとよい。このとき、表皮材7のステッチ6は、第1型21の凸部23と整合するように配置される。また表皮材7は加熱されて軟化した状態である。
【0083】
表皮材7及び基材12を製造装置20に配置した後、
図4(B)に示すように第1型21と第2型22とを互いに近接移動させ、表皮材7と基材12とを押圧する(押圧ステップ)。具体的には図示しないシリンダを稼働させ、第1型21を第2型22に向かって移動させる。これにより表皮材7は、ドアトリム1の製品形状をなして基材12に押圧される。このとき凸部23の先端はステッチ6をなす糸6Aに当接した後、ステッチ6を溝部14の底部中央部に向かって押圧すると共に、凸部23の側面はステッチ6が設けられた表皮材7の部分を溝部14に押圧する。表皮材7と基材12とが押圧されたとき、ステッチ6の厚さTは、押圧される前に比べて小さくてもよい。表皮材7と基材12とが押圧され、接着剤が硬化することにより、表皮材7と基材12とが接合される。したがってステッチ6が表皮材7の面から表皮材7の内部(車外側)に凹んだ部分に配置されたドアトリム1が形成される(
図2参照)。
【0084】
基材12には、ステッチ6が設けられた表皮材7の部分を受容するための溝部14が設けられている。また、製造装置20は、表皮材7と基材12とを押圧する押圧ステップにおいて、ステッチ6が設けられた表皮材7の部分を押圧するための凸部23を有する。これらにより、ステッチ6は、表皮材7の面から表皮材7の内部(車外側)に凹んだ部分に配置される(
図2参照)。これにより乗員に視認される主面部3の表面に複数の凹凸が設けられるため、主面部3に立体的な模様が形成される。即ち意匠性がより高められる。また乗員等による引っ掛かりが抑制される。したがって、ステッチ6の損傷が抑制される。即ち耐久性がより高められる。溝部14の深さDはステッチ6の厚さTよりも大きく設けられているため、ステッチ6は表皮材7の表面から裏面に凹んだ状態で配置される。
【0085】
基材12には、溝部14が設けられた基材12の表面から基材12の裏面に貫通する複数の貫通孔18が形成されている。これによりステッチ6が設けられた表皮材7の部分が基材12に設けられた溝部14に押圧されるとき、溝部14に含まれる空気が貫通孔18を介してドアトリム1の外方に押し出される。したがってステッチ6が設けられた表皮材7の部分と溝部14との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0086】
基材12が配置されたとき、基材12に設けられた複数の貫通孔18のそれぞれが、第2型22の図示しない通気路と連通する。これにより表皮材7と基材12とを押圧する押圧ステップにおいて、溝部14に含まれる空気は通気路を通過してドアトリム1の外方に押し出される。したがってステッチ6が設けられた表皮材7の部分と溝部14との間に形成されるエア溜まりがより効果的に抑制される。
【0087】
溝部14の縁部には、基材12の表面から溝部14の底部に向かって傾斜する面取部16が設けられる。これにより、表皮材7と基材12とが接合するとき、溝部14の縁部による表皮材7の損傷が抑制される。また、ステッチ6の表側は面取部16の溝部14の深さ方向の成分と整合している。これにより、ステッチ6は表皮材7の表面から裏面に凹んだ状態で配置される。
【0088】
表皮材7には、ステッチ6の左右のそれぞれの外側に配置されたテープ材17が設けられている。表皮材7及び基材12を製造装置20に配置する配置ステップにおいて、テープ材17は溝部14と整合するように配置される。即ち作業者は、テープ材17を目印としてステッチ6を溝部14の上に配置するための位置決めを容易に行うことができる。
【0089】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る製造装置20は、第1実施形態に係る製造装置20と比較して、第1型21の構成のみが異なり、他の構成は同一である。以下の説明において、第1実施形態に係る車両用内装材と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0090】
第1型21に設けられた凸部23は、表裏方向に移動可能に設けられている。具体的には凸部23は断面視で幅が一様な板状をなし、第1型21に設けられた受容孔23Aに受容されている。受容孔23Aは、表皮材7を押圧する第1型21の表面から第1型21の裏面を貫通している。
【0091】
凸部23の幅はステッチ6をなす糸6Aの幅と等しい。凸部23及び受容孔23Aは、ステッチ6の延びる方向に沿って設けられている。凸部23は、図示しないシリンダに接続されて表裏方向に移動可能に設けられている。即ち第1型21は、凸部23の先端が受容孔23Aに受容された状態と、凸部23の先端が受容孔23Aから第2型22の側に突出した状態との間で変位可能である。
【0092】
なお他の実施形態では凸部23は、先端に向かうにつれて幅が狭くなるテーパ状をなしてもよい。この場合、凸部23を受容する受容孔23Aは凸部23の基端側の幅と等しく設けられるとよい。
【0093】
図5(A)に示すように、表皮材7及び基材12は製造装置20に配置されている(配置ステップ)。具体的には第1型21及び第2型22を互いに離間させた状態で、表皮材7は第1型21の側に配置され、基材12は第2型22の側に配置されている。
【0094】
図5(B)に示すように、表皮材7と基材12とを押圧する押圧ステップでは、まずステッチ6が設けられた表皮材7の部分以外の部分を基材12に押圧する第1押圧ステップを行う。このとき第1型21は、凸部23の先端が受容孔23Aに受容された状態をとる。これにより凸部23はステッチ6をなす糸6Aに当接するが、ステッチ6を押圧しない。
【0095】
図5(C)に示すように、第1押圧ステップの後、凸部23を移動させ、ステッチ6が設けられた表皮材7の部分を溝部14に押圧する第2押圧ステップを行う。即ち第1型21は、凸部23を図示しないシリンダによって凸部23の先端が受容孔23Aから第2型22側に突出した状態をとる。これにより凸部23はステッチ6をなす糸6Aを溝部14に向けて押圧し、これに協働してステッチ6が設けられた表皮材7の部分も溝部14に向けて移動する。
【0096】
接着剤が硬化することにより、表皮材7と基材12とが接合される。したがってステッチ6が表皮材7の面から表皮材7の内部(車外側)に凹んだ部分に配置されたドアトリム1が形成される(
図2参照)。
【0097】
表皮材7と基材12とを押圧する押圧ステップが、第1押圧ステップと第2押圧ステップとに段階的に行わるため、表皮材7と基材12との間に形成されるエア溜まりが抑制される。具体的には、ステッチ6が設けられた表皮材7の部分以外の部分を基材12に押圧する第1押圧ステップにおいて、表皮材7と基材12との間にある空気は、基材12に設けられた溝部14を介して貫通孔18を通過してドアトリム1の外方に押し出される。第1押圧ステップでは、溝部14は対応する表皮材7に閉じられた状態ではないため、第1実施形態と比較してより大きな空気の流路として機能する。第1押圧ステップの後、第2押圧ステップが行われることにより、ステッチ6が設けられた表皮材7の部分が溝部14を閉じるように押圧されると共に、表皮材7と溝部14との間にある空気が貫通孔18を介してドアトリム1の外方に押し出される。これらにより、表皮材7と基材12との間に形成されるエア溜まりが抑制される。
【0098】
表皮材7と基材12との間に形成されるエア溜まりは、基材12に対する表皮材7の浮きを誘引する。表皮材7が基材12に対して浮くことにより、ステッチ6は溝部14からオフセットする(位置ずれする)虞がある。表皮材7と基材12とを押圧する押圧ステップが、第1押圧ステップと第2押圧ステップとに段階的に行わることにより、表皮材7と基材12との間に形成されるエア溜まりが抑制され、延いてはステッチ6の溝部14からの位置ずれも抑制される。第1押圧ステップにおいて表皮材7と基材12との間にエア溜まりが形成されたとき、このエア溜まりを解消することにより、ステッチ6の溝部14からの位置ずれも解消された状態で第2押圧ステップが行われる。
【0099】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、本実施形態では複数の貫通孔18のそれぞれは、基材12の溝部14に設けられているが、基材12の溝部14以外の部分にも設けられてもよい。これにより表皮材7と基材12とが接合するとき、表皮材7と基材12との間に発生するエア溜まりがより効果的に抑制される。
【符号の説明】
【0100】
1 :ドアトリム(車両用内装材)
6 :ステッチ
7 :表皮材
12 :基材
14 :溝部
16 :面取部
17 :テープ材
18 :貫通孔
20 :製造装置
21 :第1型
22 :第2型
23 :凸部