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特開2024-23130抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置
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  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図1
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図2
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図3
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図4A
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図4B
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図5
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図6
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図7
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図8
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図9
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図10
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図11
  • 特開-抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023130
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
B23K11/24 338
B23K11/24 315
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066392
(22)【出願日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2022126146
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大河
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】古迫 誠司
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(57)【要約】
【課題】溶接部の接合強度を評価可能な抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る抵抗溶接継手の製造方法は、複数の金属材料を組み合わせて構成された被溶接材の溶接継手部の近傍に配された、一対の電極に本通電し、これにより被溶接材の溶接継手部の内部を溶融させる工程と、一対の電極を用いて溶接継手部を冷却し、これより溶接継手部の内部を凝固させて溶接部を形成する工程と、溶接部に後通電し、これにより溶接部を溶融させることなく加熱する工程とを備え、溶接部を冷却する際に、一対の電極の間に通電し、且つ、一対の電極の間の電圧値及び電流値に基づいて、一対の電極の間の抵抗値を取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属材料を組み合わせて構成された被溶接材の溶接継手部の近傍に配された、一対の電極に本通電し、これにより前記被溶接材の前記溶接継手部の内部を溶融させる工程と、
一対の前記電極を用いて前記溶接継手部を冷却し、これより前記溶接継手部の前記内部を凝固させて溶接部を形成する工程と、
前記溶接部に後通電し、これにより前記溶接部を溶融させることなく加熱する工程と
を備え、
前記溶接部を冷却する際に、一対の前記電極の間に通電し、且つ、一対の前記電極の間の電圧値及び電流値に基づいて、一対の前記電極の間の抵抗値を取得する
抵抗溶接継手の製造方法。
【請求項2】
一対の前記電極の間の前記抵抗値と、所定値との関係に基づいて、前記抵抗値の適否を判定し、
前記抵抗値が適正であると判定されたら前記後通電を開始する
ことを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接継手の製造方法。
【請求項3】
一対の前記電極の間の前記抵抗値と、前記所定値との大小関係に基づいて、前記抵抗値の適否を判定し、
前記抵抗値が前記所定値より小さい場合に、前記抵抗値が適正であると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の抵抗溶接継手の製造方法。
【請求項4】
前記溶接部を冷却する際に、前記溶接部の抵抗値を取得する前に、前記溶接部への通電を停止する時間を設けることを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接継手の製造方法。
【請求項5】
一対の前記電極の間の抵抗値を取得する際に、前記抵抗値の増大速度を13mΩ/msec以下とするように、一対の前記電極の間の前記電流値を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の抵抗溶接継手の製造方法。
【請求項6】
前記金属材料が鋼であり、
前記所定値を、下記式1及び式2によって算出される値RMs-50とすることを特徴とする請求項2に記載の抵抗溶接継手の製造方法。
ρMs-50=0.1×(Ms-50)+25×(C)+5.04×(Mn)+13.3×(Si) (式1)
Ms-50=ρMs-50×(l/S) (式2)
ここで、前記式1及び式2において、
Ms:単位℃での、前記被溶接材のMs点
C、Mn、及びSi:単位質量%での、前記被溶接材のC、Mn、及びSi含有量
l:単位cmでの、前記被溶接材の厚さの合計値
S:単位cmでの、前記溶接部のナゲットの面積
であり、RMs-50は単位μΩでの値である。
【請求項7】
一対の前記電極の間の前記抵抗値と、前記所定値との大小関係に基づいて、前記抵抗値の適否を判定し、
前記抵抗値が前記所定値より小さい場合に、前記抵抗値が適正であると判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の抵抗溶接継手の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抵抗溶接継手の製造方法を実行するための抵抗溶接装置であって、
一対の前記電極と、
一対の前記電極の間に通電する電源と、
前記電源を作動させて、一対の前記電極の間の電圧値及び電流値の一方又は両方を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置が、
一対の前記電極の間に、前記被溶接材の前記溶接継手部の前記内部を溶融させる本通電をするように前記電源を作動させる本通電部と、
一対の前記電極の間に、前記溶接部を溶融させることなく加熱する後通電をするように前記電源を作動させる後通電部と、
一対の前記電極の間に、一対の前記電極の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように前記電源を作動させて、前記測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の前記電極の間の前記抵抗値を取得する抵抗値取得部と、
を有する抵抗溶接装置。
【請求項9】
前記制御装置が、
一対の前記電極の間の前記抵抗値が所定値を下回るか否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定に基づいて前記後通電部を作動させる後通電開始部と
をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の抵抗溶接装置。
【請求項10】
前記電源が、第一電源及び第二電源を有し、
前記本通電部及び前記後通電部は、前記第一電源を作動させ、
前記抵抗値取得部は、前記第二電源を作動させる
ことを特徴とする請求項8に記載の抵抗溶接装置。
【請求項11】
前記電源が、第一電源及び第二電源を有し、
前記本通電部及び前記後通電部は、前記第一電源を作動させ、
前記抵抗値取得部は、前記第二電源を作動させる
ことを特徴とする請求項9に記載の抵抗溶接装置。
【請求項12】
抵抗溶接装置を、請求項8に記載の抵抗溶接装置として機能させるための、抵抗溶接装置の制御プログラム。
【請求項13】
抵抗溶接装置を、請求項9に記載の抵抗溶接装置として機能させるための、抵抗溶接装置の制御プログラム。
【請求項14】
抵抗溶接装置を、請求項10に記載の抵抗溶接装置として機能させるための、抵抗溶接装置の制御プログラム。
【請求項15】
抵抗溶接装置を、請求項11に記載の抵抗溶接装置として機能させるための、抵抗溶接装置の制御プログラム。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抵抗溶接継手の製造方法を実行するための、一対の前記電極と、一対の前記電極の間に通電する電源とを備える抵抗溶接装置の制御装置であって、
一対の前記電極の間に、前記被溶接材の前記溶接継手部の前記内部を溶融させる本通電をするように前記電源を作動させる本通電部と、
一対の前記電極の間に、前記溶接部を溶融させることなく加熱する後通電をするように前記電源を作動させる後通電部と、
一対の前記電極の間に、一対の前記電極の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように前記電源を作動させて、前記測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の前記電極の間の前記抵抗値を取得する抵抗値取得部と、
を備える抵抗溶接装置の制御装置。
【請求項17】
前記制御装置が、
一対の前記電極の間の前記抵抗値が所定値を下回るか否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定に基づいて前記後通電部を作動させる後通電開始部と
をさらに有することを特徴とする請求項16に記載の抵抗溶接装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接は、溶接継手部に大電流を流し、ここに発生する抵抗熱によって加熱し、圧力を加えて行う溶接である。抵抗溶接は短時間で実行可能であるので、様々な機械部品の製造のために用いられている。抵抗溶接によって形成された溶接部には、後熱電流が流される場合もある。後熱電流とは、抵抗溶接において、溶接を行った後、溶接部に対して焼戻し、焼なまし、及び偏析緩和等の熱処理を行う目的で流す電流のことである。後熱電流の通電は、後通電とも称される。
【0003】
後通電が利用される材料の例として、高強度鋼板が挙げられる。高強度鋼板は、機械部品の軽量化及び安全性を高めるために、様々な技術分野に適用されている。しかしながら高強度鋼板には、抵抗溶接部が脆化しやすいという課題がある。通常の鋼板から構成される溶接継手においては、鋼板の強度が高い程、十字引張強さ(CTS)が高くなる。しかし、高強度鋼板から構成される溶接継手においては、鋼板の強度が高いほど、CTSが低くなる現象が見られる。
【0004】
抵抗溶接によって形成された溶接部の特性を向上させるために、これまで種々の技術が検討されている。
【0005】
特許文献1には、2以上の鋼板と、鋼板間に形成されたスポット溶接部と、を備え、鋼板の少なくとも1つの鋼板の引張強度が980MPa以上であり、鋼板において、X=[C]+[Si]/40+[Mn]/200で表される係数Xが最も大きくなる鋼板のXをXmaxとし、Y=[P]+3×[S]で表される係数Yが最も小さくなる鋼板のYをYminとした場合に、スポット溶接部のナゲット端部のビッカース硬さHn(Hv)がHob=(800×Xmax+300)/(0.7+20×Ymin)で表されるHob(Hv)以下であり、スポット溶接部の溶接熱影響部の最軟化部のビッカース硬さHmin(Hv)が0.4×Hn≦Hmin≦0.9×Hnを満足する抵抗スポット溶接部材が開示されている。
【0006】
特許文献2には、溶接電流通電の終了直後に前記通電時の電極加圧状態でモニタ通電を行なうことにより前記電極間の電圧及び電流を検出し、その検出値が許容範囲内にあるか否かを判断するスポット溶接による溶接部のモニタ方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、被溶接物に外接する電極へ加熱用電流を供給して該被溶接物の溶接部をジュール加熱する加熱工程と、該加熱工程の終了前に加熱状態にある該被溶接物の第1電気抵抗値(R1)を測定する第1抵抗測定工程と、該加熱工程の終了後に該加熱用電流の供給を所定時間休止する休止工程と、該休止工程後に余熱状態にある該被溶接物の第2電気抵抗値(R2)を測定する第2抵抗測定工程と、該第1電気抵抗値と該第2電気抵抗値との比である抵抗比(R2/R1またはR1/R2)を算出する算出工程と、該算出された抵抗比または該抵抗比から求まる該溶接部の溶接状況を指標する指標値が所定範囲内か否かを判定する判定工程と、該抵抗比または該指標値が所定範囲内であるときに前記ジュール加熱を再度行う再加熱工程とを備え、該溶接部のすくなくとも一部が溶融凝固したナゲットを形成させることを特徴とする抵抗溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/036198号
【特許文献2】特開昭61-71189号公報
【特許文献3】特開2011-31277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、後通電後の溶接部の接合強度がばらつきやすいことに着目した。抵抗溶接は、外乱の影響を受けやすい。外乱とは、溶接部の特性に影響を与える要素であって、抵抗溶接の際に管理することが困難なものをいう。外乱の例として、被溶接物間の隙間、及び電極の損耗等々が挙げられる。従って、電流値、加圧力等の抵抗溶接条件を一定にした場合であっても、後通電後の溶接部の接合強度は一定とはなりにくい。また、溶接部の接合強度を正確に測定するためには十字引張試験等の破壊試験を行う必要があるので、機械部品に含まれる溶接部の接合強度が許容範囲内であるか否かを評価することは難しい。
【0010】
特許文献1に記載の技術においては、後通電によって、抵抗スポット溶接部材の接合強度の改善が図られている。しかし、本発明者らの検討によれば、後通電後のナゲットの接合強度はばらつきやすい。即ち、後通電による焼戻しの効果を一定水準に保つことは難しい。特許文献1では、後通電によって焼戻されたナゲットにおいて生じる接合強度のばらつきについて検討されておらず、接合強度のばらつきの評価及び抑制のための具体的手段も開示されていない。
【0011】
特許文献2に記載のモニタ方法は、被溶接材を挟む電極間に通電し、電極間の抵抗に対応した電圧及び電流を検出し、これらの検出値から溶接部所謂ナゲット生成の良否を判断している。しかしながら、特許文献2に記載の技術は、後通電を行わない。加えて、特許文献2に記載の技術は、ナゲットのサイズの良否、及び被溶接材間の溶け込みの良否を判定するものである。特許文献2の技術は、溶接部の脆化を考慮していない。
【0012】
特許文献3に記載の抵抗溶接方法は、スポット溶接する被溶接物のジュール加熱終了直前の電気抵抗値とその加熱終了後間もない余熱状態にある電気抵抗値との抵抗比が、被溶接物の溶接部が溶融凝固して形成されるナゲットの大きさ(ナゲット径)に相関するという知見に基づいて完成されたものである。特許文献3の技術によれば、溶接部の評価も可能であるとされている。しかしながら、特許文献3の技術において、抵抗比はナゲット径の指標値として用いられている。従って特許文献3に記載の技術は、ナゲットのサイズを判定するものであり、高強度鋼板に設けられた溶接部の接合強度を判定するものではない。
【0013】
なお、特許文献3の抵抗溶接方法は、抵抗比またはその抵抗比から派生した指標値に基づき、必要に応じて再加熱を行う。しかし、ナゲット径の指標値である抵抗比に基づいて行われる再加熱は、ナゲット径を拡大するために実施されていると推定される。特許文献3に記載の再加熱は、ナゲットを焼戻すための後通電ではない。特許文献3では、後通電によって焼戻されたナゲットにおいて生じる接合強度のばらつきの抑制について検討されておらず、これを抑制するための具体的手段も開示されていない。
【0014】
本発明は、溶接部の接合強度を評価可能な抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0016】
(1)本発明の一態様に係る抵抗溶接継手の製造方法は、複数の金属材料を組み合わせて構成された被溶接材の溶接継手部の近傍に配された、一対の電極に本通電し、これにより前記被溶接材の前記溶接継手部の内部を溶融させる工程と、一対の前記電極を用いて前記溶接継手部を冷却し、これより前記溶接継手部の前記内部を凝固させて溶接部を形成する工程と、前記溶接部に後通電し、これにより前記溶接部を溶融させることなく加熱する工程とを備え、前記溶接部を冷却する際に、一対の前記電極の間に通電し、且つ、一対の前記電極の間の電圧値及び電流値に基づいて、一対の前記電極の間の抵抗値を取得する。
(2)上記(1)に記載の抵抗溶接継手の製造方法では、好ましくは、一対の前記電極の間の前記抵抗値と、所定値との関係に基づいて、前記抵抗値の適否を判定し、前記抵抗値が適正であると判定されたら前記後通電を開始する。
(3)上記(2)に記載の抵抗溶接継手の製造方法では、好ましくは、一対の前記電極の間の前記抵抗値と、前記所定値との大小関係に基づいて、前記抵抗値の適否を判定し、前記抵抗値が前記所定値より小さい場合に、前記抵抗値が適正であると判定する。
(4)上記(1)に記載の抵抗溶接継手の製造方法では、好ましくは、前記溶接部を冷却する際に、前記溶接部の抵抗値を取得する前に、前記溶接部への通電を停止する時間を設ける。
(5)上記(1)に記載の抵抗溶接継手の製造方法では、好ましくは、一対の前記電極の間の抵抗値を取得する際に、前記抵抗値の増大速度を13mΩ/msec以下とするように、一対の前記電極の間の前記電流値を制御する。
(6)上記(2)に記載の抵抗溶接継手の製造方法では、好ましくは、前記金属材料が鋼であり、前記所定値を、下記式1及び式2によって算出される値RMs-50とする。
ρMs-50=0.1×(Ms-50)+25×(C)+5.04×(Mn)+13.3×(Si) (式1)
Ms-50=ρMs-50×(l/S) (式2)
ここで、前記式1及び式2において、
Ms:単位℃での、前記被溶接材のMs点
C、Mn、及びSi:単位質量%での、前記被溶接材のC、Mn、及びSi含有量
l:単位cmでの、前記被溶接材の厚さの合計値
S:単位cmでの、前記溶接部のナゲットの面積
であり、RMs-50は単位μΩでの値である。
(7)上記(6)に記載の抵抗溶接継手の製造方法では、好ましくは、一対の前記電極の間の前記抵抗値と、前記所定値との大小関係に基づいて、前記抵抗値の適否を判定し、前記抵抗値が前記所定値より小さい場合に、前記抵抗値が適正であると判定する。
【0017】
(8)本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置は、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の抵抗溶接継手の製造方法を実行するための抵抗溶接装置であって、一対の前記電極と、一対の前記電極の間に通電する電源と、前記電源を作動させて、一対の前記電極の間の電圧値及び電流値の一方又は両方を制御する制御装置とを備え、前記制御装置が、一対の前記電極の間に、前記被溶接材の前記溶接継手部の前記内部を溶融させる本通電をするように前記電源を作動させる本通電部と、一対の前記電極の間に、前記溶接部を溶融させることなく加熱する後通電をするように前記電源を作動させる後通電部と、一対の前記電極の間に、一対の前記電極の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように前記電源を作動させて、前記測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の前記電極の間の前記抵抗値を取得する抵抗値取得部と、を有する。
(9)上記(8)に記載の抵抗溶接装置は、好ましくは、前記制御装置が、一対の前記電極の間の前記抵抗値が所定値を下回るか否かを判定する判定部と、前記判定部による判定に基づいて前記後通電部を作動させる後通電開始部とをさらに有する。
(10)上記(8)に記載の抵抗溶接装置では、前記電源が、第一電源及び第二電源を有し、前記本通電部及び前記後通電部は、前記第一電源を作動させ、前記抵抗値取得部は、前記第二電源を作動させる。
(11)上記(9)に記載の抵抗溶接装置では、前記電源が、第一電源及び第二電源を有し、前記本通電部及び前記後通電部は、前記第一電源を作動させ、前記抵抗値取得部は、前記第二電源を作動させる。
【0018】
(12)本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御プログラムは、抵抗溶接装置を上記(8)に記載の抵抗溶接装置として機能させるためのものである。
(13)本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御プログラムは、抵抗溶接装置を上記(9)に記載の抵抗溶接装置として機能させるためのものである。
(14)本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御プログラムは、抵抗溶接装置を上記(10)に記載の抵抗溶接装置として機能させるためのものである。
(15)本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御プログラムは、抵抗溶接装置を上記(11)に記載の抵抗溶接装置として機能させるためのものである。
【0019】
(16)本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御装置は、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の抵抗溶接継手の製造方法を実行するための、一対の前記電極と、一対の前記電極の間に通電する電源とを備える抵抗溶接装置の制御装置であって、一対の前記電極の間に、前記被溶接材の前記溶接継手部の前記内部を溶融させる本通電をするように前記電源を作動させる本通電部と、一対の前記電極の間に、前記溶接部を溶融させることなく加熱する後通電をするように前記電源を作動させる後通電部と、一対の前記電極の間に、一対の前記電極の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように前記電源を作動させて、前記測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の前記電極の間の前記抵抗値を取得する抵抗値取得部と、を有する。
(17)上記(16)に記載の抵抗溶接装置の制御装置は、好ましくは、一対の前記電極の間の前記抵抗値が所定値を下回るか否かを判定する判定部と、前記判定部による判定に基づいて前記後通電部を作動させる後通電開始部とをさらに有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶接部の接合強度を評価可能な抵抗溶接継手の製造方法、抵抗溶接装置、抵抗溶接装置の制御プログラム、及び抵抗溶接装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一態様に係る抵抗溶接継手の製造方法の一例のフローチャートである。
図2】本通電工程S1の概略図である。
図3】冷却工程S2及び後通電工程S3の概略図である。
図4A】抵抗値の変化を測定する実験における、通電パターンの模式図である。
図4B】測定通電の際の抵抗値の変化の測定結果を示すグラフである。
図5】測定通電の開始からの経過時間と、抵抗値との関係を示すグラフである。
図6】測定通電の開始からの経過時間と、ナゲット端部の温度の推定値との関係を示すグラフである。
図7】抵抗値の適否判断を行う抵抗溶接継手の製造方法の一例のフローチャートである。
図8】ナゲット端部温度と抵抗値との関係を示すグラフの一例である。
図9】冷却工程に無通電時間を設ける抵抗溶接継手の製造方法の一例のフローチャートである。
図10】冷却工程に無通電時間を設け、且つ抵抗値の適否判断を行う抵抗溶接継手の製造方法の一例のフローチャートである。
図11】冷却工程に無通電時間を設け、且つ抵抗値の適否判断を行う抵抗溶接継手の製造方法の一例のフローチャートである。
図12】本発明の一態様に係る抵抗溶接機の一例の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1.抵抗溶接継手2の製造方法)
本発明の一態様に係る抵抗溶接継手2の製造方法は、図1のフローチャート、並びに図2及び図3の概要図に示されるように、
(本通電工程S1)複数の金属材料21を組み合わせて構成された被溶接材の溶接継手部22の近傍に配された、一対の電極11に本通電し、これにより被溶接材の溶接継手部22の内部を溶融させる工程と、
(冷却工程S2)一対の電極11を用いて溶接継手部22を冷却し、これより溶接継手部22の内部を凝固させて溶接部23を形成する工程と、
(後通電工程S3)溶接部23に後通電し、これにより溶接部23を溶融させることなく加熱する工程と
を備え、溶接部23を冷却する際に、一対の電極11の間に通電し、且つ、一対の電極11の間の電圧値及び電流値に基づいて、一対の電極11の間の抵抗値を取得する。以下、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法について詳細に説明する。
【0023】
(本通電工程S1)
本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法では、複数の金属材料21を組み合わせて構成された被溶接材を、抵抗溶接の母材として用いる。被溶接材において、複数の金属材料21が接触しており、抵抗溶接によって接合される箇所は、本実施形態において溶接継手部22と称される。
【0024】
本通電工程S1では、被溶接材の溶接継手部の近傍に一対の電極11を配した状態で、一対の電極11の間に通電する。これにより、被溶接材の溶接継手部22に抵抗発熱を生じさせる。抵抗発熱によって溶接継手部22の温度は上昇し、被溶接材の融点を超える。これにより、少なくとも溶接継手部22の内部が溶融する。本通電工程S1はいわゆる抵抗溶接である。
【0025】
抵抗溶接の一例は、スポット溶接等の重ね抵抗溶接である。この場合、複数の金属材料を、複数の金属板とする。複数の金属板を重ね合わせることにより、被溶接材を構成する。一対の電極は、溶接継手部を挟むように配される。一対の電極を用いて複数の金属板に加圧した状態で、一対の電極に本通電することにより、溶接継手部の内部を溶融させる。
【0026】
抵抗溶接の別の例は、プロジェクション溶接である。プロジェクション溶接とは、母材の溶接箇所に形作られた突起部を接触させて電流を通し、抵抗熱の発生を比較的小さい特定の部分に限定するようにして行う抵抗溶接である。
【0027】
抵抗溶接をプロジェクション溶接とする場合、複数の金属材料のうち少なくとも1つを、突起部を有する金属部材とする。以下、突起部を有する金属部材を第一の金属部材と称し、第一の金属部材と接合される金属部材を第二の金属部材と称する。また、第一の金属部材と接する電極を第一の電極と称し、第二の金属部材と接する電極を第二の電極と称する。
【0028】
抵抗溶接をプロジェクション溶接とする場合、第一の金属部材の突起部を第二の金属部材に接触させるように複数の金属材料を組み合わせることにより、被溶接材を構成する。この被溶接材においては、第一の金属部材の突起部と第二の金属部材との接触部、及びその周辺が、溶接継手部となる。第一の電極は、突起部の近傍に配されて、第一の金属部材を支持し、第二電極は、突起部と接触する部分の近傍に配されて、第二の金属部材を支持する。第一の電極及び第二の電極の一方又は両方を用いて、第一の電極の突起部を第二の電極に押し付ける。この状態で、第一の電極及び第二の電極に本通電することにより、突起部及びその周辺部を溶融させる。
【0029】
なお、通常の抵抗溶接用の電極11は、その内部に冷媒が流通可能に構成されている。そのため、電極11が溶接継手部22に接している間は、溶接継手部22から電極11への熱移動が常に生じている。そのため、溶接継手部22において、電極11と接触する部位及びその周辺は溶融しないことが多い。
【0030】
(冷却工程S2)
冷却工程S2では、一対の電極11を用いて溶接継手部22を冷却する。上述のように、通常の抵抗溶接用の電極11は、冷媒によって冷却されている。そのため、抵抗溶接用の一対の電極11を溶接継手部22に接触させたまま、一対の電極11の間の電流値を低下させたり0にしたりすることにより、溶接継手部22の冷却が可能である。
【0031】
溶接継手部22を冷却することにより、溶融金属を凝固させて、溶接部23を形成する。溶接部23とは、溶接金属及び熱影響部を含んだ部分の総称である。溶接金属とは、溶接中に溶融凝固した金属のことである。抵抗溶接によって得られた溶接金属はナゲット231と称される。
【0032】
(後通電工程S3)
後通電工程S3では、溶接部23に後通電を行う。後通電とは、溶接部23に対して焼戻し、焼なまし、及び偏析緩和等を目的として通電することをいう。後通電は、溶接部23を溶融凝固させない点で本通電とは異なる。後通電によって溶接部23が溶融凝固した場合、溶接部23の特性を改質するための熱処理が実施できない。
【0033】
(冷却工程S2における抵抗値取得)
本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法では、後通電工程S3を開始する前の冷却工程S2において、一対の電極11の間に通電する。以下、抵抗値取得のために行われる通電を測定通電と称し、本通電及び後通電と区別する。そして、一対の電極11の間の抵抗値を、一対の電極11の間の電流値及び電圧値に基づいて取得する。
【0034】
(本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法の作用効果)
上述のように、後通電は、溶接部23の焼戻し、焼なまし、及び偏析緩和等を目的として行われる。従って、後通電は金属の熱処理の一種である。また、冷却工程S2においては、金属材料21の溶融凝固によって形成されたナゲット231を急冷している。金属を凝固点近傍の高温から急冷することによって、金属には急冷組織が形成される。従って、冷却工程S2もまた、金属の熱処理の一種である。
【0035】
金属の熱処理においては、温度履歴の管理が非常に重要である。加熱炉、及び冷媒などの熱処理装置を用いることより、加熱開始温度、加熱保持温度、冷却開始温度、冷却停止温度、及び冷却速度等の熱処理パラメータを精密に管理することができる。しかしながら、抵抗溶接における溶接部23の冷却及び後通電においては、熱処理パラメータの管理が極めて困難である。何故なら、溶接部23の温度を、冷却工程S2及び後通電工程S3の際に知ることができないからである。さらに抵抗溶接は、外乱の影響を受けやすい。同一の溶接パラメータに基づいて抵抗溶接及び後通電を実施して得られた複数の溶接部23において、接合強度が異なる場合は少なくない。これは、外乱が溶接部23の熱履歴に影響を及ぼすからであると推定される。
【0036】
本発明者らは、溶接部23の電気抵抗に着目した。金属の温度が高いほど、金属の電気抵抗は大きくなる。そのため本発明者らは、溶接部23の温度の指標として、溶接部23の電気抵抗を利用可能ではないかと考えた。一方、溶接部23の電気抵抗を得るためには、溶接部23に通電する必要がある。この測定通電が、溶接部23に抵抗発熱を生じさせ、溶接部23の冷却を妨げるおそれが懸念された。通常の抵抗溶接においては、溶接部23を速やかに凝固させるために、本通電と後通電との間の電流値を0にすることが通常である。
【0037】
そこで本発明者らは、以下に示す条件で本通電及び冷却を行った後で、パルス状の測定通電を行い、測定通電中の抵抗値の変化を記録した。
・複数枚の金属材料21の形状及び材質:1.5GPa級ホットスタンプ鋼板
・ホットスタンプ鋼板の厚さ:2.0mm
・抵抗溶接の種類:スポット溶接
・スポット溶接装置の電源12:単相交流(50Hz)
・スポット溶接装置の電極11:CrCu製DR型 先端径φ6-R40
・本通電工程S1及び冷却工程S2の間の加圧力:3.92kN
・スクイズ時間(一対の電極11を加圧してから、本通電のための電流を流し始めるまでの時間):0.6秒
・本通電の時間:0.36秒
・本通電の電流値:6.5kA
・本通電終了後のナゲット231の径:4√t(tはホットスタンプ鋼板の平均板厚)
・クール時間(冷却工程S2における無通電時間):0.06秒~1.98秒の範囲内
・測定電流:3サイクル(0.06秒)の通電(電流値:2.8kA)と、3サイクルの通電停止とを繰り返すパルス通電
・保持時間(測定電流の通電終了後に、一対の電極11が溶接部23を挟持する時間):0.13秒
参考のために、通電パターンの模式図を図4Aに示す。図4Aのクール時間の後に設けられたパルス通電が、温度予測のための微弱電流パルスである。
【0038】
まず、クール時間を40サイクル(0.80秒)とした際の抵抗測定結果を図4Bに示す。1パルスの通電を行う間に抵抗値は変動したが、その変動幅はわずかであった。また、パルス毎の抵抗値を比較すると、一対の電極11の間の抵抗値は時間経過とともに減少する傾向を示した。測定通電を実行する間に、溶接部23の温度は低下していた蓋然性が高い。従って、測定通電は、後通電の前に行われる冷却を妨げないと考えられた。
【0039】
また、測定通電の開始からの経過時間と、抵抗値との関係を図5に示す。さらに、測定通電の開始からの経過時間と、ナゲット231の端部の温度推定値との関係を図6に示す。ナゲット231の端部の温度は、スワンテックソフトウェア アンド エンジニアリングス製の抵抗溶接シミュレーションソフトウェア「SORPAS」を用いて推定した。図5のグラフの作成の際には、各パルス通電の開始の時点での抵抗値を用いた。
【0040】
図5及び図6のグラフによれば、一対の電極11の間の抵抗値と、溶接部23のナゲット231の端部温度との間には良好な相関があると推定される。従って、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法においては、冷却工程S2における溶接部23の温度履歴を、一対の電極11の間の抵抗値に基づいて推定可能である。
【0041】
冷却工程S2において測定された一対の電極11の間の抵抗値、及び当該抵抗値から推定される溶接部23の温度は、様々な態様で利用可能である。例えば、冷却工程S2において測定された抵抗値に基づいて、後通電の開始の際の温度を推定できる。また、溶融金属221の凝固から後通電の開始までの期間における溶接部23の冷却速度を推定することもできる。
【0042】
一方、抵抗値に基づいて温度を推定することは必須ではない。例えば、溶接部23の接合強度を確保するために適切な抵抗値を、抵抗溶接継手2の製造の開始前に求めておき、この抵抗値を、抵抗溶接継手2の製造の際に後通電が適切に行われたか否かの指標値として用いてもよい。溶接部23の硬さ、靭性、及び接合強度等の機械特性を測定するためには、破壊検査が必要となる。しかし、溶接部23を製造する際の抵抗値を利用して、破壊検査をすることなく溶接部23の機械特性の合否判断をすることができる。不合格と判断された溶接部23の機械特性は、再度の後通電によって改善可能である。
【0043】
(抵抗値の適否に基づいた後通電工程S3の開始)
また、冷却工程S2における抵抗値に基づいて、冷却工程S2及び/又は後通電工程S3の条件を制御してもよい。例えば本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法においては、図7に示されるように、一対の電極11の間の抵抗値と、所定値との関係に基づいて、抵抗値の適否を判定し、抵抗値が適正であると判断されたら後通電を開始してもよい。抵抗値が適切であると判定されたら後通電を開始し、抵抗値が適切ではないと判定されたら再度の測定を行う。このループを繰り返すことにより、抵抗値を常に適切な範囲内として後通電を実施し、溶接部23の接合強度を安定的に高めることができる。
【0044】
抵抗値と所定値との関係とは、例えば大小関係である。一対の電極11の間の抵抗値と、所定値との大小関係に基づいて、抵抗値の適否を判定し、抵抗値が所定値より小さい場合に、抵抗値が適正であると判定すればよい。
【0045】
所定値の例として、抵抗溶接継手2の製造を開始する前にテスト溶接をすることによって求められた、適切な溶接部23を製造可能な抵抗値の実績値が挙げられる。テスト溶接においては、後通電の直前の抵抗値を様々に異ならせて後通電を行う。次いで、これにより得られた種々の抵抗溶接継手2の機械特性、例えばCTSを測定する。そして、抵抗値とCTSとの関係を解析する。これにより、望ましいCTSを具備する溶接部23を製造可能な抵抗値の範囲を特定することができる。
【0046】
また、適切な溶接部23を製造可能なナゲット端部温度が既知であれば、シミュレーションによって予想されるナゲット端部温度と抵抗値との関係に基づいて、所定値の範囲を定めることができる。図8は、ナゲット端部温度と抵抗値との関係を示すグラフの一例である。図8のグラフにおいて、被溶接材のマルテンサイト変態完了温度(Mf点)は240℃である。このような被溶接材のナゲット231に焼戻しを目的とした通電(テンパー通電)をする場合、後通電開始時のナゲット端部温度が240℃以下であることが好ましい。そして、図8のグラフによれば、一対の電極11の間の抵抗値が60μΩである場合に、ナゲット端部温度が240℃であると推定される。このシミュレーションが適用される被溶接材においては、ナゲット端部温度が240℃を下回った段階で後通電を開始すると、望ましいCTSを具備する溶接部23が製造可能である。従って、このシミュレーションが適用される被溶接材においては、所定値を60μΩと定めればよい。この場合、一対の電極11の間の抵抗値と、所定値との大小関係に基づいて、抵抗値の適否を判定し、抵抗値が所定値より小さい場合に、抵抗値が適正であると判定すればよい。
【0047】
後通電を開始するために適切なナゲット端部温度は、後通電の目的、及び被溶接材の材質等に応じて決定することができる。例えば被溶接材が鋼板であり、後通電の目的が焼戻しである場合は、ナゲット231のマルテンサイト変態が完了するまで冷却工程S2を行う必要がある。従って、後通電を開始するために適切なナゲット端部温度は、ナゲット231のMf点以下の温度範囲である。例えば被溶接材が鋼板であり、後通電の目的が偏析緩和通電である場合は、溶融金属221の凝固が完了するまで冷却工程S2を行う必要がある。従って、後通電を開始するために適切なナゲット端部温度は、ナゲット231の凝固点以下の温度範囲である。
【0048】
所定値の別の例として、本通電工程S1の際の一対の電極11の間の抵抗値が挙げられる。本通電工程において加えられた電流の電流値及び電圧値を測定することによって、本通電工程S1の際の一対の電極11の間の抵抗値を測定可能である。本通電の際の抵抗値を所定値として採用し、この所定値に対して所定の演算を加え、この演算値と冷却工程S2の際の抵抗値とを比較することによって、抵抗値の適否を判定してもよい。その他、後通電を開始するために適切な抵抗値を判定するための種々の基準を、被溶接材の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0049】
被溶接材を構成する金属材料21が鋼である場合、所定値のさらに別の例として、被溶接材である鋼のMs点に基づいて求められる抵抗値が挙げられる。Ms点とは、鋼を冷却する際に、オーステナイトがマルテンサイトに変態し始める温度である。「鉄鋼材料」(日本金属学会、1997年)には、Ms点の算出式が以下の通り記載されている。
Ms=550-361×(mass%C)-39×(mass%Mn)-35×(mass%V)-20×(mass%Cr)-17×(mass%Ni)-10×(mass%Cu)-5×(mass%Mo+W)+15(mass%Cr)+30×(mass%Al)
例えば、上述のMs点算出式に、被溶接材の化学成分を代入することにより、被溶接材のMs点を推定することができる。被溶接材を構成する複数の金属材料の成分が異なる場合、Ms点算出式に含まれる元素記号には、被溶接材を構成する複数の金属材料それぞれの化学成分の、板厚を重みとした加重平均値を代入すればよい。例えば、被溶接材を構成するn枚の金属材料それぞれにおける任意の元素Xの含有量を単位mass%でX(k=1~n)と表記し、n枚の金属材料それぞれの厚さを単位mmでt(k=1~n)と表記した場合、被溶接材における元素Xの含有量の加重平均値Xaveは下記式によって算出される。
【数1】
【0050】
被溶接材のMs点を用いて所定値を定める場合、例えば、溶接部23の温度がMs点-50℃まで低下した時点における溶接部23の電気抵抗の推定値RMs-50を、一対の電極11の間の抵抗値の適否を判定するための所定値として用いることができる。溶接部23の温度がMs点-50℃まで低下した時点において、溶接部23の金属組織は全てマルテンサイトになっており、したがって、溶接部23は後通電を開始するために適した状態になっていると考えられる。
【0051】
Ms-50の算出方法は以下の通りである。まず、被溶接材のMs点、並びに被溶接材の化学成分におけるC、Mn、及びSi含有量を下記式1に代入する。
ρMs-50=0.1×(Ms-50)+25×(C)+5.04×(Mn)+13.3×(Si) (式1)
ここで、式1において、
Ms:単位℃での、被溶接材のMs点
C、Mn、及びSi:単位質量%での、被溶接材のC、Mn、及びSi含有量
である。これにより、本通電の後で溶接部23の温度がMs点-50℃に低下した時点における、溶接部23の電気抵抗率の推定値ρMs-50を算出する。被溶接材を構成する複数の金属材料の成分が異なる場合、式1のC、Mn、及びSiには、被溶接材におけるC含有量、Mn含有量、及びSi含有量の加重平均値を代入すればよい。加重平均値は、被溶接材を構成する複数の金属材料の板厚を重みとして算出する。具体的な算出式は、Ms点の算出方法の説明において示された算出式と同一である。
なお、式1は、マティーセンの法則に従って得られたものである。マティーセンの法則によれば、金属材料の電気抵抗率ρは下記式によって得られるとされる。
ρ=ρ+ρ
ρ:金属材料の格子振動に由来する値であり、金属材料の温度に応じて変化する
ρ:金属材料の母相に含まれる合金元素に由来する値であり、金属材料の温度に影響されない
【0052】
次いで、溶接部23の温度がMs点-50℃になった時点の被溶接材の電気抵抗率ρMs-50、並びに被溶接材の厚さの合計値及び溶接部23のナゲット231の面積を下記式2に代入する。
Ms-50=ρMs-50×(l/S) (式2)
ここで、式2において、
l:単位cmでの、被溶接材の厚さの合計値
S:単位cmでの、溶接部23のナゲット231の面積
である。これにより、本通電の後で溶接部23の温度がMs点-50℃に低下した時点における、溶接部23の電気抵抗の推定値RMs-50を算出する。なお、式2におけるナゲット231の面積Sとは、ナゲット231の径dを以下の式に代入することによって算出される値である。
S=π×(d/2)
ナゲット231の径dとは、ナゲット231の中心を通り且つ被溶接材に垂直な切断面において、被溶接材が有する金属材料の合わせ面に沿って測定されるナゲット231の幅(直径)のことである。被溶接材が有する金属材料の枚数が3枚以上であり、被溶接材における金属材料の合わせ面が2以上である場合、ナゲット231の面積Sとは、2以上の合わせ面それぞれにおけるナゲット231の面積の平均値のことである。当業者であれば、ナゲット231の面積は、被溶接材の構成、及び本通電における溶接条件に基づいて推定することができる。なお、式2に含まれるlに、被溶接材の厚さの合計値を代入することに代えて、被溶接材を挟持する一対の電極の先端間距離(単位cm)を代入してもよい。この場合、一対の電極の先端間距離を検出する手段を抵抗溶接装置が備えることが好ましい。
【0053】
Ms-50に基づいて、一対の電極の間の抵抗値の適否を判定するための所定値を算出する場合、上述したテスト溶接、及びシミュレーションが不要である。従って、RMs-50を所定値とすることにより、抵抗溶接継手の製造効率が一層向上する。なお、図8を挙げて説明したシミュレーション結果と、RMs-50との間には、良好な相関がみられた。従って、RMs-50を所定値として用いた場合も、良好な結果が得られる。
【0054】
図8を挙げて説明したシミュレーション結果とRMs-50との対比を詳細に説明すると以下の通りである。当該シミュレーションでは、被溶接材を構成する金属材料を、いずれも1.5GHS鋼と設定した。当該1.5GHS鋼の詳細、並びに当該シミュレーションにおけるS及びlは以下の通りである。
・Ms点:290℃
・C含有量:0.17質量%
・Si含有量:0.21質量%
・Mn含有量:1.23質量%
・l:0.4cm
・S:0.25cm
これらの数値を上述の式に代入した結果は以下の通りである。
ρMs-50=0.1×(290-50)+25×(0.17)+5.04×(1.23)+13.3×(0.21)=37.2μΩcm
Ms-50=37.2×(0.4/0.25)=59.5μΩ
当該シミュレーションによって得られた値「60μΩ」は、上述の計算によって得られたRMs-50に非常に近い値であった。
【0055】
なお、Ms点-50℃以外の温度に対応する電気抵抗の推定値を、所定値としてもよい。即ち、溶接部23の温度がMs点-X℃になった時点の被溶接材のRMs-Xを、所定値として用いてもよい。Xは、50℃以上の任意の値とすることができる。例えばXを150℃としてもよい。RMs-Xは、以下の式1’及び式2’によって算出可能である。
ρMs-X=0.1×(Ms-X)+25×(C)+5.04×(Mn)+13.3×(Si) (式1’)
Ms-X=ρMs-X×(l/S) (式2’)
ここで、式1’及び式2’に含まれる符号の意味は、式1及び式2と同じく
Ms:単位℃での、被溶接材のMs点
C、Mn、及びSi:単位質量%での、被溶接材のC、Mn、及びSi含有量
l:単位cmでの、被溶接材の厚さの合計値
S:単位cmでの、溶接部のナゲットの面積
である。また、Ms点-X℃に代えてMf点を、所定値の算出のために用いてもよい。
【0056】
(クール時間)
図4に示されるように、抵抗値を取得するための測定通電は溶接部23の冷却を妨げない。そのため、図1に示されるように、冷却工程S2の全体にわたって測定通電を行ってもよい。一方、図9に示されるように、溶接部23を冷却する際に、溶接部23の抵抗値を取得する前に、溶接部23への通電を停止する時間を設けてもよい。この無通電時間は、クール時間と称される場合がある。クール時間には、溶接部23から電極11への熱移動が生じる一方で、抵抗発熱は生じない。従って、冷却工程S2においてクール時間を設けることにより、溶接部23を一層速やかに冷却することができる。
【0057】
上述した、抵抗値の適否判断に基づいて後通電を開始する態様と、冷却工程S2にクール時間を設ける態様とを組み合わせてもよい。これら態様の組み合わせの例を、図10及び図11を参照しながら以下に説明する。
【0058】
例えば図10に示される態様によれば、冷却工程S2はクール時間を有し、クール時間の終了後に測定電流を通電する。そして、一対の電極11の間の抵抗値と所定値との関係に基づいて抵抗値の適否を判定する。抵抗値が適正であると判定されたら後通電を開始する。抵抗値が適正ではないと判断された場合は、測定電流通電及び抵抗値測定を継続し、抵抗値の適否を判断する。
【0059】
例えば図11に示される態様によれば、冷却工程S2はクール時間を有し、クール時間の終了後に測定電流を通電する。そして、一対の電極11の間の抵抗値と所定値との関係に基づいて抵抗値の適否を判定する。抵抗値が適正であると判定されたら後通電を開始する。抵抗値が適正ではないと判断された場合は、測定電流通電を中止する。2回目のクール時間が終了してから、測定通電及び抵抗値測定を再開し、抵抗値の適否を判断する。
【0060】
図10に例示される態様、及び図11に例示される態様のいずれによっても、溶接部23の冷却速度を高め、且つ、抵抗値を常に適切な範囲内として後通電を実施することができる。
【0061】
(抵抗値の増大速度の好ましい上限値)
溶接部23を冷却する際に、抵抗値の増大速度を13mΩ/msec以下とするように、一対の電極11の間の電流値を制御してもよい。これにより、抵抗値を取得するための測定通電が、冷却工程S2の実行を妨げる事態を、一層効率的に回避することができる。
【0062】
なお、図4に示されるように、測定通電によって取得される抵抗値には若干のノイズが含まれている。測定通電が溶接部23の温度を上昇させていなかったとしても、見かけ上、抵抗値が増大する場合がある。本発明者らの実験結果によればノイズによる見かけの抵抗値の増大速度は、最大で約13mΩ/msecであると推定された。従って、冷却工程における抵抗値の増大速度の好ましい上限値を13mΩ/msec以下と定めた。
【0063】
本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法には、これまで説明された構成以外の様々な構成を適宜採用することができる。以下に、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法の変形例について説明する。
【0064】
被溶接材を構成する金属材料21の材質、形状、大きさ、及び個数は特に限定されない。抵抗溶接をスポット溶接とし、抵抗溶接継手2をスポット溶接継手とする場合、上述の通り金属材料21を金属板とする。金属板は、例えば高強度鋼板とすることができる。高強度鋼板の引張強さは、例えば980MPa以上、1500MPa以上、又は2000MPa以上である。高強度鋼板の抵抗溶接においては、抵抗溶接部の過度な焼入れ硬化、及び抵抗溶接部におけるP等の脆化元素の偏析が問題となりやすい。本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法によれば、高強度鋼板から構成された抵抗溶接継手2の溶接部23の後通電が適正であったか否かを評価し、好ましくは、溶接部23の後通電を常に適正に行うことができる。また、溶接熱によって硬化しやすい金属、例えばアルミニウム合金に対しても、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法は良好な効果を発揮することができる。
【0065】
抵抗溶接をプロジェクション溶接とし、抵抗溶接継手2をプロジェクション溶接継手とする場合、上述の通り複数の金属材料のうち少なくとも1つを、突起部を有する第一の金属部材とする。第一の金属部材は、例えばボルト、及びナット等である。第二の金属材料は、例えば金属板である。第一の金属部材及び第二の金属部材のいずれも、例えば980MPa以上、1500MPa以上、又は2000MPa以上の高強度鋼材から構成されていてもよい。
【0066】
本通電及び後通電の条件も特に限定されない。本通電及び後通電における電流値、入熱量、及び加圧力等の種々の条件は、金属材料21の材質、大きさ、形状及び個数等に応じた公知の値とすればよい。抵抗溶接がスポット溶接である場合、例えば本通電における電流値と後通電における電流値の比率である電流比を0.55~0.90としてもよい。後通電の目的が焼戻しである場合、電流比を0.55~0.70とすることが好ましい。
【0067】
(2.抵抗溶接装置)
本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置1は、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法を実行するための抵抗溶接装置1であって、一対の電極11と、一対の電極11の間に通電する電源12と、電源12を作動させて、一対の電極11の間の電圧値及び電流値の一方又は両方を制御する制御装置13とを備え、制御装置13が、一対の電極11の間に、被溶接材の溶接継手部22の内部を溶融させる本通電をするように電源12を作動させる本通電部131と、一対の電極11の間に、溶接部23を溶融させることなく加熱する後通電をするように電源12を作動させる後通電部134と、一対の電極11の間に、一対の電極11の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように電源12を作動させて、測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の電極11の間の抵抗値を取得する抵抗値取得部132と、を有する。以下に、図12を示しながら本実施形態に係る抵抗溶接装置1について説明する。なお、図12はスポット溶接装置の概略図であるが、本実施形態に係る抵抗溶接装置1はスポット溶接装置以外の抵抗溶接装置1であってもよい。
【0068】
(一対の電極11)
一対の電極11は、被溶接材を挟持し、且つ、被溶接材に通電する。また、一対の電極11は、溶接部23を冷却する機能も有する。そのため、一対の電極11が、冷媒を流通させるための流路を有していてもよい。一対の電極11の構成は特に限定されない。抵抗溶接のための通常の電極11を、本実施形態に係る抵抗溶接装置1の電極11として用いることができる。例えば抵抗溶接装置1がスポット溶接装置である場合、JIS C 9304:1999に規定された種々のスポット溶接用電極11を用いることができる。
【0069】
(電源12)
電源12は、一対の電極11の間に通電する。電源12とは、単に電力の供給源であり、その構成は特に限定されない。電源12は抵抗溶接装置1に内蔵されていてもよいし、抵抗溶接装置1の外部に設けられていてもよい。本実施形態に係る抵抗溶接装置1は、複数の装置が構成要件となり連携して動作する抵抗溶接システムであるとみなすことができる。従って、電源12が抵抗溶接装置1の外部に設けられている場合であっても、これらの装置全体が抵抗溶接装置1であるとみなされる。抵抗溶接システムに組み込まれており、外部からの電力供給を受けて動作して、一対の電極11の間に電力を供給するものを電源12とみなしてもよい。例えば、商用電源と接続されて用いられるトランスを、電源12とみなしてもよい。一方、抵抗溶接装置1と接続して用いられる商用電源を電源12とみなしてもよい。
【0070】
(制御装置13)
制御装置13は、電源12を作動させ、一対の電極11の間の電圧値及び電流値の一方又は両方を制御する。電源12と同様に制御装置13も、抵抗溶接装置1に内蔵されていてもよいし、抵抗溶接装置1の外部に設けられていてもよい。制御装置13が抵抗溶接装置1の外部に設けられている場合であっても、これらの装置全体が抵抗溶接装置1であるとみなされる。
【0071】
(本通電部131及び後通電部134)
制御装置13は、本通電部131及び後通電部134を有する。本通電部131は、一対の電極11の間に、被溶接材の溶接継手部22の内部を溶融させる本通電をするように電源12を作動させる。即ち、本通電部131は本通電によって行われる抵抗溶接を制御する。後通電部134は、一対の電極11の間に、溶接部23を溶融させることなく加熱する後通電をするように電源12を作動させる。即ち、後通電部134は抵抗溶接によって得られた溶接部23に後熱処理をする後通電を制御する。
【0072】
(抵抗値測定部)
制御装置13は、さらに、抵抗値取得部132を有する。抵抗値取得部132は、一対の電極11の間に、一対の電極11の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように電源12を作動させる。さらに抵抗値取得部132は、測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の電極11の間の抵抗値を取得する。
【0073】
(本実施形態に係る抵抗溶接装置1の作用効果)
本実施形態に係る抵抗溶接装置1によれば、本通電と後通電との間に測定通電を行って、一対の電極11の間の抵抗値を取得することができる。即ち、本実施形態に係る抵抗溶接装置1によれば、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法を好適に実行可能である。一対の電極11の間の抵抗値は、溶接部23の温度の指標として用いることができる。当該抵抗値は様々な態様で利用可能である。例えば後通電の開始前の抵抗値を用いて、後通電後の溶接部23の合否判断をすることができる。
【0074】
(判定部135及び後通電開始部133)
本実施形態に係る抵抗溶接装置1においては、制御装置13が、判定部135及び後通電開始部133をさらに有してもよい。判定部135は、一対の電極11の間の抵抗値が所定値を下回るか否かを判定する。後通電開始部133は、判定部135による判定に基づいて後通電部134を作動させる。
【0075】
制御装置13が判定部135及び後通電開始部133を有する抵抗溶接装置1によれば、例えば図7図10、及び図11に例示されるように、一対の電極11の間の抵抗値と、所定値との関係に基づいて、抵抗値の適否を判定し、抵抗値が適正であると判定されたら後通電を開始することができる。これにより、抵抗値を常に適切な範囲内として後通電を実施し、溶接部23の接合強度を安定的に高めることができる。
【0076】
(第一電源及び第二電源)
本通電及び後通電用の電源と、抵抗値の測定用の電源とが異なっていてもよい。即ち、本実施形態に係る抵抗溶接装置1において、電源12が第一電源及び第二電源を有し、本通電部131及び後通電部134は、第一電源を作動させ、抵抗値取得部132は、第二電源を作動させてもよい。制御装置13は、通電の目的に応じて、電源系統を切り替えることができる。
【0077】
本通電及び後通電のために必要な電流は、抵抗値の測定のために必要な電流よりもはるかに大きい。抵抗値の測定の際に、溶接部23の昇温を抑制するためには、抵抗値を測定するための電流を可能な限り小さくすることが好ましい。ここで、本通電及び後通電用の電源と、抵抗値の測定用の電源とが異なっている場合、本通電及び後通電用の第一電源として通常のスポット溶接装置用の電源を採用し、且つ、抵抗値の測定用の第二電源として微弱電流を通電可能な電源を採用することができる。これにより、抵抗値の測定の際の溶接部の昇温を一層抑制することができる。例えば、抵抗溶接装置1が、溶接電流を通電させるための第一のトランスに加えて、微弱電流を通電させるための第二のトランスを有していてもよい。この場合、第一のトランスを第一電源とみなし、第二のトランスを第二電源とみなしてもよい。
【0078】
本実施形態に係る抵抗溶接装置1には、これまで説明された構成以外の様々な構成を適宜採用することができる。例えば抵抗溶接装置1が、一対の電極11に任意の加圧力を印加可能な加圧装置を備えてもよい。これにより、一対の電極11が被溶接材を強固に挟持して、通電を安定させることができる。制御装置13が、加圧装置を作動させて一対の電極11の間の加圧力を制御する加圧力制御部を備えてもよい。また、抵抗溶接装置1が、電極11に冷媒を供給するための冷媒供給手段を備えてもよい。これにより、電極11の先端の消耗を抑制し、さらに、溶接部23の冷却を促進することができる。
【0079】
(3.抵抗溶接装置の制御プログラム)
本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御プログラムは、抵抗溶接装置1を、本実施形態に係る抵抗溶接装置1として機能させるためのプログラムである。本実施形態に係る制御プログラムによれば、本実施形態に係る抵抗溶接装置1を機能させて、本実施形態に係る抵抗溶接継手の製造方法を好適に実行することができる。
【0080】
(4.抵抗溶接装置1の制御装置13)
本発明の別の態様に係る抵抗溶接装置の制御装置は、本実施形態に係る抵抗溶接継手の製造方法を実行するための抵抗溶接装置1の制御装置13である。抵抗溶接装置1は、一対の電極11と、一対の電極11の間に通電する電源12とを備える。そして制御装置13は、一対の電極11の間に、被溶接材の溶接継手部22の内部を溶融させる本通電をするように電源12を作動させる本通電部131と、一対の電極11の間に、溶接部23を溶融させることなく加熱する後通電をするように電源12を作動させる後通電部134と一対の電極11の間に、一対の電極11の間の抵抗値を測定するための測定通電をするように電源12を作動させて、測定通電の電圧値及び電流値に基づいて、一対の電極11の間の抵抗値を取得する抵抗値取得部132と、を備える。
【0081】
本実施形態に係る制御装置13によれば、本通電と後通電との間に測定通電を行って、一対の電極11の間の抵抗値を取得することができる。即ち、本実施形態に係る制御装置13によれば、本実施形態に係る抵抗溶接継手2の製造方法を好適に実行するように、抵抗溶接装置1を制御することができる。
【0082】
制御装置13が、一対の電極11の間の抵抗値が所定値を下回るか否かを判定する判定部135と、判定部135による判定に基づいて後通電部134を作動させる後通電開始部133とをさらに有してもよい。判定部135及び後通電開始部133を有する制御装置13によれば、例えば図7図10、及び図11に例示されるように、一対の電極11の間の抵抗値と、所定値との関係に基づいて、抵抗値 の適否を判定し、抵抗値が適正であると判定されたら後通電を開始することができる。これにより、抵抗値を常に適切な範囲内として後通電を実施し、溶接部23の接合強度を安定的に高めることができる。
【符号の説明】
【0083】
S1 本通電工程
S2 冷却工程
S3 後通電工程
1 抵抗溶接装置
11 電極
12 電源
13 制御装置
131 本通電部
132 抵抗値取得部
133 後通電開始部
134 後通電部
135 判定部
2 抵抗溶接継手
21 金属材料
22 溶接継手部
221 溶融金属
23 溶接部
231 ナゲット
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12