(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002314
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】金型
(51)【国際特許分類】
B22F 3/035 20060101AFI20231228BHJP
B30B 11/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B22F3/035 D
B30B11/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101426
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】狹間 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 直人
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018CA15
(57)【要約】
【課題】断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形した後、バリの除去を不要とする金型を提供する。
【解決手段】断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形するための金型であって、環状のダイと下パンチとを備え、前記下パンチは、第一下パンチと、2つの第二下パンチとを備え、前記第一下パンチは、前記摺動面の底面を成形する第一上端面と、前記摺動面の内側面を成形する第一右側面及び第一左側面と、前記ダイに摺接される第一前面及び第一背面と、を有し、前記第二下パンチの各々は、前記第一上端面よりも下方に配置された第二上端面と、前記第一右側面に摺接される第二左側面、又は前記第一左側面に摺接される第二右側面と、前記ダイに摺接される第二前面及び第二背面と、を有し、前記第一上端面の左右方向に沿った第一縁部は、第一の突条を有し、前記第一右側面及び前記第一左側面の上下方向に沿った第二縁部は、第二の突条を有する、金型。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形するための金型であって、
前記圧粉体が成形される空間を有する環状のダイと、
前記空間の下部に嵌められる下パンチと、を備え、
前記下パンチは、
第一下パンチと、
前記第一下パンチを左右から挟むように配置された2つの第二下パンチとを備え、
前記第一下パンチは、
前記摺動面の底面を成形する第一上端面と、
前記摺動面の内側面を成形する第一右側面及び第一左側面と、
前記ダイに摺接される第一前面及び第一背面と、を有し、
前記第二下パンチの各々は、
前記第一上端面よりも下方に配置された第二上端面と、
前記第一右側面に摺接される第二左側面、又は前記第一左側面に摺接される第二右側面と、
前記ダイに摺接される第二前面及び第二背面と、を有し、
前記第一上端面の左右方向に沿った第一縁部は、第一の突条を有し、
前記第一右側面及び前記第一左側面の上下方向に沿った第二縁部は、第二の突条を有する、
金型。
【請求項2】
前記第一上端面は、主端面と、前記第一の突条の第一の頂面と、前記主端面と前記第一の頂面とをつなぐ第一連結面とを有し、
前記第一右側面及び前記第一左側面の各々は、主側面と、前記第二の突条の第二の頂面と、前記主側面と前記第二の頂面とをつなぐ第二連結面とを有する、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記第一連結面、及び前記第二連結面は傾斜面である、請求項2に記載の金型。
【請求項4】
前記第一連結面の前記主端面に対する角度、及び前記第二連結面の前記主側面に対する角度が60°以下である、請求項3に記載の金型。
【請求項5】
前記第一の頂面の幅、及び前記第二の頂面の幅が0.1mm以上である、請求項2に記載の金型。
【請求項6】
前記第一の突条の高さ、及び前記第二の突条の高さが0.1mm以上である、請求項1又は請求項2に記載の金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金型に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品、電気機器部品などの各種部品に、圧粉体又は焼結体が利用されている。圧粉体は、例えば特許文献1、2に記載されるように、金属の粉末を金型により圧縮成形することによって製造される。焼結体は、圧粉体を焼結することにより製造される。圧粉体を成形する金型は、代表的には、筒状のダイと、ダイに嵌合される上パンチと下パンチとを備える。圧粉体の成形は、ダイの内部空間に金属の粉末を充填した後、上パンチと下パンチとによって粉末を圧縮することで行われる。ダイは圧粉体の外周面を成形する。下パンチは圧粉体の下面を成形する。上パンチは圧粉体の上面を成形する。
【0003】
金型によって成形された圧粉体には、バリが生じることがある。特許文献1には、圧粉体に生じたバリをサイジング用金型によって除去することが記載されている。特許文献2には、圧粉体に生じたバリをバリ取りブラシを用いて除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-153357号公報
【特許文献2】特開2016-18864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧粉体の生産性を向上することが望まれている。
【0006】
上記金型によって成形された圧粉体は、角部にバリが生じ易い。バリが発生する理由は次のとおりである。ダイとパンチとの嵌め合い部分には、ダイに対してパンチが摺動するため、クリアランスが設けられている。このクリアランスに粉末が入り込むことで、バリが形成される。
【0007】
断面がU字状の摺動面からなる溝部を有する圧粉体を成形する場合、溝部に対応した上端部を有する下パンチが用いられる。このような下パンチによって溝部を成形すると、溝部の開口縁から突出するバリが生じる。圧粉体に生じたバリは、圧粉体を焼結した後も残存する。
【0008】
溝部の開口縁から突出するバリは、圧粉体又は焼結体の溝部内で他の部材が摺動される場合、他の部材を傷つけたり、他の部材の摺動を妨げたりするおそれがある。一方で、バリの除去には手間と時間がかかる。
【0009】
本開示は、断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形した後、バリの除去を不要とする金型を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の金型は、
断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形するための金型であって、
前記圧粉体が成形される空間を有する環状のダイと、
前記空間の下部に嵌められる下パンチと、を備え、
前記下パンチは、
第一下パンチと、
前記第一下パンチを左右から挟むように配置された2つの第二下パンチとを備え、
前記第一下パンチは、
前記摺動面の底面を成形する第一上端面と、
前記摺動面の内側面を成形する第一右側面及び第一左側面と、
前記ダイに摺接される第一前面及び第一背面と、を有し、
前記第二下パンチの各々は、
前記第一上端面よりも下方に配置された第二上端面と、
前記第一右側面に摺接される第二左側面、又は前記第一左側面に摺接される第二右側面と、
前記ダイに摺接される第二前面及び第二背面と、を有し、
前記第一上端面の左右方向に沿った第一縁部は、第一の突条を有し、
前記第一右側面及び前記第一左側面の上下方向に沿った第二縁部は、第二の突条を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の金型は、断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形した後、バリの除去を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係る金型の構成を模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る金型を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る金型の第一パンチを模式的に示す上面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る金型の第一パンチの形状を誇張して示す概略図である。
【
図5】
図5は、
図4のV-V断面を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図4のVI-VI断面を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、圧粉体を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、圧粉体を模式的に示す別の斜視図である。
【
図9】
図9は、圧粉体を模式的に示す平面図である。
【
図10】
図10は、圧粉体の形状を誇張して示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の実施態様に係る金型は、
断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形するための金型であって、
前記圧粉体が成形される空間を有する環状のダイと、
前記空間の下部に嵌められる下パンチと、を備え、
前記下パンチは、
第一下パンチと、
前記第一下パンチを左右から挟むように配置された2つの第二下パンチとを備え、
前記第一下パンチは、
前記摺動面の底面を成形する第一上端面と、
前記摺動面の内側面を成形する第一右側面及び第一左側面と、
前記ダイに摺接される第一前面及び第一背面と、を有し、
前記第二下パンチの各々は、
前記第一上端面よりも下方に配置された第二上端面と、
前記第一右側面に摺接される第二左側面、又は前記第一左側面に摺接される第二右側面と、
前記ダイに摺接される第二前面及び第二背面と、を有し、
前記第一上端面の左右方向に沿った第一縁部は、第一の突条を有し、
前記第一右側面及び前記第一左側面の上下方向に沿った第二縁部は、第二の突条を有する。
【0015】
本開示の金型は、下パンチによって、断面がU字状の摺動面を有する圧粉体に成形する。U字状の摺動面を有する形状は、例えば溝部である。下パンチは、第一下パンチと、2つの第二下パンチとを備える。第一下パンチは、溝部を構成するU字状の摺動面のうち、底面を成形する第一上端面と、内側面を成形する第一右側面及び第一左側面を有する。本開示の金型は、第一下パンチにおいて、第一上端面の左右方向に沿った第一縁部に第一の突条を有すると共に、第一右側面及び第一左側面の上下方向に沿った第二縁部に第二の突条とを有する。このような構成により、圧粉体の溝部の開口縁に面取り部を成形することができる。溝部の開口縁に面取り部が設けられていることで、溝部の開口縁にバリが発生しても、バリが面取り部から突出することを抑制できる。バリが面取り部から突出しないことで、溝部に他の部材が組み付けられたときに、バリが他の部材と干渉することを抑制できる。その結果、バリによって、他の部材が傷つけられたり、他の部材の摺動が妨げられたりすることを抑制できる。したがって、本開示の金型によれば、断面がU字状の摺動面を有する圧粉体を成形した後、バリの除去を不要とすることができる
【0016】
(2)上記(1)の金型において、
前記第一上端面は、主端面と、前記第一の突条の第一の頂面と、前記主端面と前記第一の頂面とをつなぐ第一連結面とを有し、
前記第一右側面及び前記第一左側面の各々は、主側面と、前記第二の突条の第二の頂面と、前記主側面と前記第二の頂面とをつなぐ第二連結面とを有してもよい。
【0017】
上記(2)の構成によれば、第一の突条及び第二の突条によって圧粉体の溝部の開口縁に所定の面取り部を成形し易い。
【0018】
(3)上記(2)の金型において、
前記第一連結面、及び前記第二連結面は傾斜面であってもよい。
【0019】
上記(3)の構成によれば、上記粉末を圧縮する際の反力によって第一の突条及び第二の突条が破損することを抑制できる。
【0020】
(4)上記(3)の金型において、
前記第一連結面の前記主端面に対する角度、及び前記第二連結面の前記主側面に対する角度が60°以下であってもよい。
【0021】
上記(4)の構成によれば、第一の突条及び第二の突条が破損することを効果的に抑制できる。
【0022】
(5)上記(2)から(4)のいずれかの金型において、
前記第一の頂面の幅、及び前記第二の頂面の幅が0.1mm以上であってもよい。
【0023】
上記(5)の構成によれば、第一の突条及び第二の突条の強度を高めることができ、上記粉末を圧縮する際の反力によって第一の突条及び第二の突条が破損することを抑制できる。
【0024】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの金型において、
前記第一の突条の高さ、及び前記第二の突条の高さが0.1mm以上であってもよい。
【0025】
上記(6)の構成によれば、第一の突条及び第二の突条によって成形される面取り部の深さを0.1mm以上とすることができる。面取り部の深さが0.1mm以上であることで、バリが面取り部から突出することを効果的に抑制できる。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る金型の具体例を説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
<金型>
図1、
図2、及び
図7から
図9を参照して、金型1の概要を説明する。金型1は、
図7、
図8に示す圧粉体6を成形するための金型である。圧粉体6は、第一の面61と、第二の面62と、外周面63とを有する。第一の面61と第二の面62のうち、一方は上面であり、他方は下面である。外周面63は、第一の面61と第二の面62とを接続する。本例では、第一の面61が下面であり、第二の面62が上面である。圧粉体6における上下は、圧粉体6が金型1内に配置された状態における上下である。圧粉体6は溝部7を有する。本例では、溝部7が第一の面61に1つ設けられている。溝部7は、断面がU字状の摺動面70を有する。摺動面70は、底面71と、互いに向かい合う2つの内側面72とを有する。本例の底面71の形状は矩形である。溝部7を構成する摺動面70は、第一の面61に含まない。
【0028】
本例の溝部7は第一の面61と外周面63とに開口する。溝部7は、
図9に示すように、外周面63の前面63aから背面63bまで貫通している。溝部7の形状は直方体状である。溝部7の形状とは、底面71と、内側面72と、第一の面61を延長した仮想面と、外周面63を延長した仮想面とで囲まれた空間の形状である。
【0029】
金型1は、
図1に示すように、環状のダイ10と、下パンチ21と、上パンチ22とを備える。ダイ10は、
図2に示すように、圧粉体6が成形される空間100(
図1を参照)を有する。下パンチ21は、空間100の下部に嵌められる。上パンチ22は、空間100の上部に嵌められる。下パンチ21と上パンチ22とは、上下方向に間隔をあけて設けられている。
図2は、金型1によって圧粉体6が成形された状態を示している。
図2は、金型1を前から見た縦断面図である。縦断面とは、金型1を上下方向に沿って切断した断面である。
【0030】
本実施形態の金型1は、下パンチ21によって、断面がU字状の摺動面70を圧粉体6に成形する。下パンチ21の上端部は、溝部7に対応した形状を有する。下パンチ21は、第一下パンチ21aと、2つの第二下パンチ21bとを備える。第一下パンチ21aは、
図2に示すように、後述する第一上端面31と、第一右側面33a及び第一左側面33bを有する。本実施形態の金型1の特徴の一つは、第一下パンチ21aが特定の形状を有する点にある。具体的には、
図4を参照して後述するように、第一上端面31の第一縁部40が第一の突条41を有すると共に、第一右側面33a及び第一左側面33bの第二縁部50が第二の突条51を有する。
図4では、説明の便宜上、第一の突条41及び第二の突条51が誇張して示されている。
図1、
図4では、第一左側面33bは隠れているため見えない。以下、
図1から
図6を参照して、金型1の構成を詳しく説明する。
【0031】
ここで、本実施形態において、金型1における上下、左右、前後の方向は次のように定義される。金型1の上下方向は、環状のダイ10において、空間100が貫通する方向である。即ち、上下方向とは、
図1に示すZ方向である。上下方向は、下パンチ21、及び上パンチ22の各々の軸方向に沿った方向でもある。金型1の左右方向は、2つの第二下パンチ21bが第一下パンチ21aを挟んで並ぶ方向である。即ち、左右方向とは、
図1に示すX方向である。金型1の前後方向は、上下方向及び左右方向のそれぞれと直交する方向である。即ち、前後方向とは、
図1に示すY方向である。
【0032】
(ダイ)
ダイ10は、
図1に示すように、上下方向に貫通する空間100を有する環状の部材である。ダイ10の内周面101は、
図2に示すように、圧粉体6の外周面63を成形する。本実施形態のダイ10の形状は、
図1に示すように矩形枠状であり、上下方向から見た空間100の形状が矩形である。矩形には、正方形が含まれる。本実施形態のダイ10は、前枠部10a、後枠部10b、左枠部10c、及び右枠部10dを有する。前枠部10aはダイ10の前部を構成する。後枠部10bはダイ10の後部を構成する。左枠部10cはダイ10の左部を構成する。右枠部10dはダイ10の右部を構成する。空間100の形状は、圧粉体6の形状に応じて適宜選択される。圧粉体6の形状とは、圧粉体6(
図7、
図8を参照)を上下方向から見た形状である。空間100の形状は、例えば、円形であってもよいし、矩形以外の多角形であってもよい。円形には、楕円形が含まれる。
【0033】
(下パンチ)
下パンチ21の上端部は、ダイ10に摺接しながら、ダイ10に対して上下方向に移動可能である。下パンチ21の上端部とは、ダイ10の空間100に嵌められる部分である。下パンチ21は、
図1、
図2に示すように、第一下パンチ21aと、2つの第二下パンチ21bとが組み合わされた分割パンチである。2つの第二下パンチ21bは、第一下パンチ21aを左右から挟むように配置されている。第一下パンチ21aと第二下パンチ21bとは、独立して上下方向に移動可能である。第一下パンチ21a及び第二下パンチ21bは、上下方向に延びる柱状の部材である。本実施形態の下パンチ21の形状は矩形である。下パンチ21の形状とは、下パンチ21を軸方向、即ち上下方向から見た輪郭の形状である。下パンチ21の形状は、ダイ10の形状に応じて適宜選択される。下パンチ21の形状は、例えば、円形であってもよいし、矩形以外の多角形であってもよい。
【0034】
〈第一下パンチ〉
第一下パンチ21aは、
図3に示すように、第一上端面31と、第一右側面33a及び第一左側面33bと、第一前面34a及び第一背面34bとを有する。
図1、
図4では、第一左側面33b及び第一背面34bは隠れているため見えない。第一上端面31は、
図2に示される圧粉体6に摺動面70の底面71を成形する。第一右側面33a及び第一左側面33bは、摺動面70の内側面72を成形する。第一右側面33a及び第一左側面33bはダイ10に接していない。第一右側面33aは、ダイ10の右枠部10dと間隔をあけて設けられている。第一左側面33bは、ダイ10の左枠部10cと間隔をあけて設けられている。第一前面34a及び第一背面34bは、
図3に示すように、ダイ10に摺接される。第一前面34aはダイ10の前枠部10aに摺接される。第一背面34bはダイ10の後枠部10bに摺接される。第一上端面31、第一右側面33a及び第一左側面33bはそれぞれ、第一前面34aと第一背面34bとに接続される。
【0035】
本実施形態の第一上端面31の形状は矩形である。第一上端面31の形状とは、第一上端面31を上から見た形状である。第一上端面31の形状は、
図8に示される圧粉体6における摺動面70の底面71に対応した形状である。第一上端面31の形状は、底面71の形状に応じて適宜選択される。第一上端面31の形状は、例えば、矩形以外の多角形であってもよい。
【0036】
第一下パンチ21aの上端部は、摺動面70を有する溝部7を圧粉体6に成形する。本実施形態では、第一下パンチ21aの上端部の形状は、溝部7に対応した直方体状である。第一下パンチ21aの上端部の形状とは、第一上端面31と、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々の上部と、第一前面34a及び第一背面34bの各々の上部とで囲まれた部分の形状である。
【0037】
〈第二下パンチ〉
第二下パンチ21bの各々は、
図3に示すように、第二上端面32と、第二左側面35a及び第二右側面35bと、第二前面36a及び第二背面36bとを有する。
図1では、第二左側面35a及び第二右側面35bと、第二背面36bは、隠れているため見えない。
図4では、第二左側面35a及び第二背面36bは隠れているため見えない。第二上端面32は、
図2に示すように、第一下パンチ21aの第一上端面31よりも下方に配置されている。第二左側面35aは、第一下パンチ21aの第一右側面33aに摺接される。第二右側面35bは、第一下パンチ21aの第一左側面33bに摺接される。第二前面36a及び第二背面36bは、
図3に示すように、ダイ10に摺接される。第二前面36aはダイ10の前枠部10aに摺接される。第二背面36bはダイ10の後枠部10bに摺接される。第二上端面32、第二左側面35a及び第二右側面35bはそれぞれ、第二前面36aと第二背面36bとに接続される。
【0038】
本実施形態の第二上端面32の形状は矩形である。第二上端面32の形状とは、第二上端面32を上から見た形状である。第二上端面32の形状は、
図8に示される圧粉体6における第一の面61、即ち下面に対応した形状である。第二上端面32の形状は、第一の面61の形状に応じて適宜選択される。第二上端面32の形状は、例えば、矩形以外の多角形であってもよい。
【0039】
〈第一の突条〉
第一上端面31は、
図4に示すように、第一の突条41を有する。本実施形態では、第一上端面31は、4辺の外縁近傍のうち、左右方向に沿った外縁部である一対の第一縁部40を有する。その第一縁部40に第一の突条41が設けられている。第一の突条41は、第一縁部40の全長にわたって設けられている。第一縁部40は、第一上端面31における第一前面34a又は第一背面34bに接続される縁部である。第一縁部40は、第一上端面31の前端縁及び後端縁のそれぞれの近傍に位置する。つまり、1つの第一上端面31に2つの第一縁部40がある。
【0040】
第一上端面31は、主端面310と、第一の突条41の第一の頂面411と、第一連結面412とを有する。第一連結面412は、主端面310と第一の頂面411とをつなぐ。主端面310とは、第一上端面31を構成する最も大きな面である。主端面310の前後方向の長さは、例えば、第一上端面31の前後方向の長さの50%以上である。第一上端面31の前後方向の長さは、第一前面34aと第一背面34bとの間の前後方向に沿った距離と等しい。主端面310の上記長さは、更に、第一上端面31の上記長さの60%以上、70%以上、80%以上、90%以上でもよい。主端面310の上記長さの上限は、第一上端面31の上記長さよりも短ければ、特に限定されない。
【0041】
第一の突条41は、
図10を参照して後述するように、摺動面70の底面71における第一縁部80に第一の面取り81を成形する。第一の突条41は、
図4に示すように、主端面310よりも突出する。本実施形態では、第一の突条41の第一の頂面411は第一前面34a又は第一背面34bと直交する。第一の頂面411は主端面310と平行である。また、本実施形態では、第一連結面412は傾斜面である。第一連結面412は垂直面でもよい。この垂直面とは、上下方向及び左右方向の双方に沿った面である。
【0042】
図5を参照して、第一の突条41の形状及び寸法を説明する。
図5は、第一上端面31における第一縁部40の近傍を左右方向と直交する方向に切断した断面を示している。
図5に示す断面において、第一の突条41の形状は、平坦な第一の頂面411と、第一連結面412からなる傾斜面とを有する台形状である。第一連結面412の主端面310に対する角度α1は、例えば60°以下である。角度α1が小さいほど、第一連結面412が長くなるため、主端面310の長さが短くなる。角度α1の下限は、例えば10°である。角度α1は、例えば10°以上60°以下、15°以上45°以下、20°以上40°以下でもよい。本実施形態では、角度α1は30°である。
【0043】
第一の頂面411の幅y1は、例えば0.1mm以上である。幅y1の上限は、例えば1mmである。幅y1は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。幅y1とは、第一の突条41の長手方向、即ち左右方向に直交する方向に沿った第一の頂面411の長さである。
第一の突条41の高さz1は、例えば0.1mm以上である。高さz1の上限は、例えば1mmである。高さz1は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。高さz1は、主端面310と第一の頂面411との間の上下方向に沿った距離である。第一の突条41の高さz1は、
図11を参照して後述する第一の面取り81の副底面811に形成されるバリB1の高さよりも大きな寸法を選択する。
本実施形態では、幅y1及び高さz1はそれぞれ0.2mmである。
【0044】
〈第二の突条〉
第一右側面33a及び第一左側面33bの各々は、
図4に示すように、第二の突条51を有する。本実施形態では、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々は、4辺の外縁近傍のうち、上下方向に沿った外縁部である一対の第二縁部50を有する。その第二縁部50に第二の突条51が設けられている。第二の突条51は、第二縁部50の全長にわたって設けられている。第二縁部50は、第一右側面33a及び第一左側面33bにおける第一前面34a又は第一背面34bに接続される縁部である。第二縁部50は、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々の前端縁及び後端縁のそれぞれの近傍に位置する。つまり、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々に2つの第二縁部50がある。本実施形態では、第二縁部50の数が合計4つである。各第二の突条51の上端部は、第一の突条41の左端部又は右端部とつながっている。
【0045】
第一右側面33a及び第一左側面33bの各々は、主側面330と、第二の突条51の第二の頂面511と、第二連結面512とを有する。第二連結面512は、主側面330と第二の頂面511とをつなぐ。主側面330とは、第一右側面33a又は第一左側面33bを構成する最も大きな面である。主側面330の前後方向の長さは、例えば、第一右側面33a又は第一左側面33bの前後方向の長さの50%以上である。第一右側面33a又は第一左側面33bの前後方向の長さは、第一前面34aと第一背面34bとの間の距離と等しい。主側面330の上記長さは、更に、第一右側面33a又は第一左側面33bの上記長さの60%以上、70%以上、80%以上、90%以上でもよい。主側面330の上記長さの上限は、第一右側面33a又は第一左側面33bの上記長さよりも短ければ、特に限定されない。
【0046】
第二の突条51は、
図10を参照して後述するように、摺動面70の内側面72における第二縁部90に第二の面取り91を成形する。第二の突条51は、
図4に示すように、主側面330よりも突出する。本実施形態では、第二の突条51の第二の頂面511は第一前面34a又は第一背面34bと直交する。第二の頂面511は主側面330と平行である。また、本実施形態では、第二連結面512は傾斜面である。第二連結面512は垂直面でもよい。この垂直面とは、上下方向及び左右方向の双方に沿った面である。
【0047】
図6を参照して、第二の突条51の形状及び寸法を説明する。
図6は、第一左側面33bにおける第二縁部50の近傍を上下方向と直交する方向に切断した断面を示している。
図6に示す断面において、第二の突条51の形状は、平坦な第二の頂面511と、第二連結面512からなる傾斜面とを有する台形状である。第二連結面512の主側面330に対する角度α2は、例えば60°以下である。角度α2が小さいほど、第二連結面512が長くなるため、主側面330の長さが短くなる。角度α2の下限は、例えば10°である。角度α2は、例えば10°以上60°以下、15°以上45°以下、20°以上40°以下でもよい。本実施形態では、角度α2は30°である。
【0048】
第二の頂面511の幅y2は、例えば0.1mm以上である。幅y2の上限は、例えば1mmである。幅y2は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。幅y2とは、第二の突条51の長手方向、即ち上下方向に直交する方向に沿った第二の頂面511の長さである。
第二の突条51の高さx2は、例えば0.1mm以上である。高さx2の上限は、例えば1mmである。高さx2は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。高さx2は、主側面330と第二の頂面511との間の左右方向に沿った距離である。第二の突条51の高さx2は、
図12を参照して後述する第二の面取り91の副底面911に形成されるバリB2の高さよりも大きな寸法を選択する。
本実施形態では、幅y2及び高さx2はそれぞれ0.2mmである。
【0049】
第一上端面31が第一の突条41を有し、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々が第二の突条51を有することで、
図10に示されるように、圧粉体6の溝部7において、底面71の第一縁部80及び内側面72の第二縁部90に第一の面取り81及び第二の面取り91を成形することができる。
図11、
図12に示されるように、底面71の第一縁部80及び内側面72の第二縁部90にバリB1及びバリB2が発生しても、各バリが第一の面取り81及び第二の面取り91から突出することを抑制できる。第一の面取り81及び第二の面取り91からバリが突出しないことで、後述するように、バリを除去しなくても、バリによる不具合が生じ難い。したがって、金型1は、圧粉体6を成形した後、バリの除去を不要とすることができる
【0050】
また、圧粉体6又はこの圧粉体6を焼結した焼結体の外周面に、研磨加工などの加工を施すと、底面71の第一縁部80及び内側面72の第二縁部90にバリが生じることがある。上記加工によってバリが発生しても、第一の面取り81及び第二の面取り91からバリが突出することを抑制できる。
【0051】
加えて、第一下パンチ21aに第一の突条41及び第二の突条51が設けられていることで、圧粉体6の原料となる金属の粉末を圧縮する際の反力によって第一の突条41及び第二の突条51がダイ10の内周面101に近づく方向に弾性変形する。これにより、ダイ10と第一の突条41及び第二の突条51との間のクリアランスが小さくなる。その結果、圧粉体6において、底面71の第一縁部80及び内側面72の第二縁部90にバリB1及びバリB2が発生し難くなり、各バリの高さが小さくなる。
【0052】
第一上端面31の第一連結面412と、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々の第二連結面512が傾斜面であることで、上記粉末を圧縮する際の反力によって第一の突条41及び第二の突条51が破損することを抑制できる。第一連結面412の角度α1及び第二連結面512の角度α2が60°以下であることで、第一の突条41及び第二の突条51が破損することを効果的に抑制できる。角度α1及び角度α2が45°以下、更に40°以下であると、上記効果を得易い。
【0053】
角度α1及び角度α2が小さいほど、第一連結面412及び第二連結面512が長くなるため、第一上端面31の主端面310と、第一右側面33a及び第一左側面33bの各々の主側面330の長さが短くなる。角度α1及び角度α2が10°以上、更に20°以上であれば、主端面310及び主側面330の長さを確保し易い。主端面310及び主側面330は、
図10に示される圧粉体6の摺動面70における底面71の主底面710及び内側面72の主内面720とを成形する。主端面310及び主側面330の長さを確保することで、溝部7における主底面710及び主内面720の長さを確保できる。
【0054】
第一の頂面411の幅y1及び第二の頂面511の幅y2が0.1mm以上であることで、第一の突条41及び第二の突条51の強度を高めることができ、上記粉末を圧縮する際の反力によって第一の突条41及び第二の突条51が破損することを抑制できる。幅y1及び幅y2が0.2mm以上であると、上記効果を得易い。第一の頂面411及び第二の頂面511は、圧粉体6の溝部7において、
図10に示される第一の面取り81の副底面811及び第二の面取り91の副底面911を成形する。幅y1及び幅y2が大きいほど、副底面811の幅a1及び副底面911の幅a2も大きくなるため、第一の面取り81及び第二の面取り91のサイズが大きくなる。幅y1及び幅y2が1mm以下、更に0.5mm以下であれば、第一の面取り81及び第二の面取り91をある程度小さくできる。
【0055】
第一の突条41の高さz1及び第二の突条51の高さx2が0.1mm以上であることで、圧粉体6の溝部7において、
図11、
図12に示される第一の面取り81の深さb1及び第二の面取り91の深さb2を0.1mm以上とすることができる。深さb1及び深さb2が0.1mm以上であることで、第一縁部80及び第二縁部90に発生したバリB1及びバリB2が第一の面取り81及び第二の面取り91から突出することを効果的に抑制できる。深さb1及び深さb2が0.2mm以上であると、各バリが第一の面取り81及び第二の面取り91から突出することを十分に抑制できる。高さz1及び高さx2が大きいほど、深さb1及び深さb2も大きくなるため、第一の面取り81及び第二の面取り91のサイズが大きくなる。高さz1及び高さx2が1mm以下、更に0.5mm以下であれば、第一の面取り81及び第二の面取り91をある程度小さくできる。
【0056】
第一下パンチ21aの第一右側面33a又は第一左側面33bに摺接される第二下パンチ21bの第二左側面35a及び第二右側面35bには、第二の突条51に対応した第二溝部39(
図4参照)が上下方向に沿って設けられている。
【0057】
(上パンチ)
上パンチ22は、
図1に示すように、上下方向に延びる柱状の部材である。上パンチ22の上端部は、ダイ10に摺接しながら、ダイ10に対して上下方向に移動可能である。上パンチ22の下端部とは、ダイ10の空間100に嵌められる部分である。上パンチ22は、下端面222と、外周面224とを有する。下端面222は、
図2に示すように、圧粉体6の第二の面62を成形する。外周面224は、ダイ10に摺接される。本実施形態の下端面222の形状は矩形である。下端面222の形状とは、下端面222を下から見た形状である。下端面222の形状は、
図8に示される圧粉体6における第二の面62に対応した形状である。下端面222の形状は、第二の面62の形状に応じて適宜選択される。下端面222の形状は、例えば、矩形以外の多角形であってもよい。
【0058】
本実施形態の上パンチ22の形状は矩形である。上パンチ22の形状とは、上パンチ22を軸方向、即ち上下方向から見た輪郭の形状である。上パンチ22の形状は、ダイ10の形状に応じて適宜選択される。上パンチ22の形状は、例えば、円形であってもよいし、矩形以外の多角形であってもよい。
【0059】
図2を参照して、上述した金型1の動作を説明する。下パンチ21をダイ10の空間100(
図1を参照)に嵌め込む。このとき、上パンチ22は、ダイ10よりも上に位置しており、ダイ10の空間100に嵌め込まれていない。ダイ10と下パンチ21とにより形成された空間に、圧粉体6の原料となる金属の粉末を充填する。金属の粉末が充填された後、上パンチ22が下降し、上パンチ22と下パンチ21とによって上記粉末を圧縮する。上記粉末を圧縮して圧粉体6を成形した後、圧粉体6をダイ10から抜き出す。
【0060】
本実施形態のように、下パンチ21が第一下パンチ21a及び第二下パンチ21bを備える分割パンチである場合は、第一下パンチ21a及び第二下パンチ21bを個別に制御できる。そのため、上記粉末を充填する際に、第一上端面31と第二上端面32の上下方向の位置をそれぞれ調整することができる。これにより、第一下パンチ21aと上パンチ22とで圧縮される上記粉末の圧縮率と、第二下パンチ21bと上パンチ22とで圧縮される上記粉末の圧縮率との差を小さくすることが可能である。圧縮率の差が小さいことで、圧粉体6において、溝部7のある部分と、溝部7のない部分とで密度差を小さくできる。その結果、圧粉体6の密度を均一化できる。
【0061】
<圧粉体>
図7から
図12を参照して、圧粉体6の詳細を説明する。圧粉体6は、上述した実施形態の金型1によって成形される。圧粉体6は、
図7、
図8に示すように、第一の面61と、第二の面62と、外周面63とを有する。本実施形態では、第一の面61が下面であり、第二の面62が上面である。本実施形態の圧粉体6を上下方向から見た形状は矩形状である。外周面63は、
図9に示すように、前面63aと背面63bとを含む。
図7は、圧粉体6の第二の面62、即ち上面を上にした斜視図である。
図8は、
図7に示す圧粉体6の第一の面61、即ち下面を上にした斜視図である。
図9は、圧粉体6を下から見た平面図である。
【0062】
(溝部)
圧粉体6は溝部7を有する。
図8に示すように、溝部7は第一の面61と外周面63とに開口する。溝部7は、前面63aから背面63bまで貫通している。つまり、溝部7は、前面63aと背面63bのそれぞれに開口する。溝部7は、断面がU字状の摺動面70を有する。摺動面70は、底面71と、互いに向かい合う2つの内側面72とを有する。内側面72は、第一の面61と底面71との間に設けられている。底面71、及び内側面72はそれぞれ、前面63aと背面63bとに接続される。本実施形態の圧粉体6を前後方向から見た形状はU字状である。本実施形態の底面71の形状は矩形である。
【0063】
本実施形態では、
図8に示すように、第一の面61が溝部7によって左右に分断されている。第一の面61の形状は矩形である。
図7に示すように、第二の面62の形状は矩形である。
【0064】
圧粉体6は、
図10に示すように、外周面63における溝部7の開口縁に第一の面取り81と、第二の面取り91とを有する。溝部7の開口縁は、摺動面70における外周面63に接続される縁部である。
図10では、説明の便宜上、第一の面取り81及び第二の面取り91が誇張して示されている。
【0065】
〈第一の面取り〉
第一の面取り81は、底面71の第一縁部80に設けられている。第一縁部80は、底面71を構成する4辺の外縁近傍のうち、左右方向に沿った一対の外縁部である。左右方向とは、上下方向及び前後方向のそれぞれと直交する方向である。第一の面取り81は、第一縁部80の全長にわたって設けられている。第一縁部80は、底面71における前面63a又は背面63bに接続される縁部である。第一縁部80は、底面71の前端縁及び後端縁のそれぞれの近傍に位置する。つまり、1つの底面71に2つの第一縁部80がある。
【0066】
底面71は、主底面710と、第一の面取り81の副底面811と、第一連結面812とを有する。第一連結面812は、主底面710と副底面811とをつなぐ。主底面710とは、底面71を構成する最も大きな面である。主底面710の前後方向の長さは、例えば、底面71の前後方向の長さの50%以上である。底面71の前後方向の長さは、外周面63の前面63aと背面63bとの間の前後方向に沿った距離と等しい。主底面710の上記長さは、更に、底面71の上記長さの60%以上、70%以上、80%以上、90%以上でもよい。主底面710の上記長さの上限は、底面71の上記長さよりも短ければ、特に限定されない。
【0067】
第一の面取り81は、主底面710よりも凹んでいる。本実施形態では、第一の面取り81の副底面811は外周面63と直交する。第一の面取り81の副底面811は主底面710と平行である。また、第一連結面812は傾斜面である。第一連結面812は主底面710に対して垂直な面でもよい。
【0068】
図11を参照して、第一の面取り81の形状及び寸法を説明する。
図11は、底面71における第一縁部80の近傍を第一縁部80に直交する方向に切断した断面を示している。
図11に示す断面において、第一の面取り81の形状は、平坦な副底面811と、第一連結面812からなる傾斜面とを有する台形状である。第一連結面812の主底面710に対する角度β1は、例えば60°以下である。角度β1が小さいほど、第一連結面812が長くなるため、主底面710の長さが短くなる。角度β1の下限は、例えば10°である。角度β1は、例えば10°以上60°以下、15°以上45°以下、20°以上40°以下でもよい。
【0069】
副底面811の幅a1は、例えば0.1mm以上である。幅a1の上限は、例えば1mmである。幅a1は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。幅a1とは、第一縁部80の長手方向に直交する方向に沿った副底面811の長さである。
第一の面取り81の深さb1は、例えば0.1mm以上である。深さb1の上限は、例えば1mmである。深さb1は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。深さb1は、主底面710と副底面811との間の上下方向に沿った距離である。第一の面取り81の深さb1は、第一の面取り81の副底面811に形成されるバリB1の高さよりも大きい。
【0070】
第一の面取り81は、上述した
図4、
図5に示す第一下パンチ21aにおける第一上端面31の第一縁部40に設けられた第一の突条41によって成形される。主底面710は、第一上端面31の主端面310によって成形される。副底面811は、第一の突条41の第一の頂面411によって成形される。第一連結面812は、主端面310と第一の頂面411とをつなぐ第一連結面412によって成形される。第一の面取り81の形状は、第一の突条41の形状と実質的に同じである。第一連結面812の角度β1は、上述した
図11に示す第一連結面412の角度α1と実質的に等しい、副底面811の幅a1は、上述した
図11に示す第一の頂面411の幅y1と実質的に等しい。第一の面取り81の深さb1は、上述した
図11に示す第一の突条41の高さz1と実質的に等しい。本実施形態では、角度β1は30°である。幅a1及び深さb1はそれぞれ0.2mmである。
【0071】
〈第二の面取り〉
第二の面取り91は、内側面72の第二縁部90に設けられている。第二縁部90は、内側面72を構成する4辺の外縁近傍のうち、上下方向に沿った一対の外縁部である。第二の面取り91は、第二縁部90の全長にわたって設けられている。第二縁部90は、内側面72における前面63a又は背面63bに接続される縁部である。第二縁部90は、内側面72の前端縁及び後端縁のそれぞれの近傍に位置する。つまり、1つの内側面72に2つの第二縁部90がある。本実施形態では、第二縁部90の数が合計4つである。各第二の面取り91の上端部は、第一の面取り81の左端部又は右端部とつながっている。
【0072】
内側面72は、主内面720と、第二の面取り91の副底面911と、第二連結面912とを有する。第二連結面912は、主内面720と副底面911とをつなぐ。主内面720とは、内側面72を構成する最も大きな面である。主内面720の前後方向の長さは、例えば、内側面72の前後方向の長さの50%以上である。内側面72の前後方向の長さは、外周面63の前面63aと背面63bとの間の前後方向に沿った距離と等しい。主内面720の上記長さは、更に、内側面72の上記長さの60%以上、70%以上、80%以上、90%以上でもよい。主内面720の上記長さの上限は、内側面72の上記長さよりも短ければ、特に限定されない。
【0073】
第二の面取り91は、主内面720よりも凹んでいる。本実施形態では、第二の面取り91の副底面911は外周面63と直交する。第二の面取り91の副底面911は主内面720と平行である。また、第二連結面912は傾斜面である。第二連結面912は主内面720に対して垂直な面でもよい。
【0074】
図12を参照して、第二の面取り91の形状及び寸法を説明する。
図12は、内側面72における第二縁部90の近傍を第二縁部90に直交する方向に切断した断面を示している。
図12に示す断面において、第二の面取り91の形状は、平坦な副底面911と、第二連結面912からなる傾斜面とを有する台形状である。第二連結面912の主内面720に対する角度β2は、例えば60°以下である。角度β2が小さいほど、第二連結面912が長くなるため、主内面720の長さが短くなる。角度β2の下限は、例えば10°である。角度β2は、例えば10°以上60°以下、15°以上45°以下、20°以上40°以下でもよい。
【0075】
副底面911の幅a2は、例えば0.1mm以上である。幅a2の上限は、例えば1mmである。幅a2は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。幅a2とは、第二縁部90の長手方向に直交する方向に沿った副底面911の長さである。
第二の面取り91の深さb2は、例えば0.1mm以上である。深さb2の上限は、例えば1mmである。深さb2は、例えば0.1mm以上1mm以下、0.2mm以上0.5mm以下でもよい。深さb2は、主内面320と副底面911との間の主内面320に直交する方向に沿った距離である。第二の面取り91の深さb2は、第二の面取り91の副底面911に形成されるバリB2の高さよりも大きい。
【0076】
第二の面取り91は、上述した
図4、
図6に示す第一下パンチ21aにおける第一右側面33a又は第一左側面33bの第二縁部50に設けられた第二の突条51によって成形される。主内面720は、第一右側面33a又は第一左側面33bの主側面330によって成形される。副底面911は、第二の突条51の第二の頂面511によって成形される。第二連結面912は、主側面330と第二の頂面511とをつなぐ第二連結面512によって成形される。第二の面取り91の形状は、第二の突条51の形状と実質的に同じである。第二連結面912の角度β2は、上述した
図12に示す第二連結面512の角度α2と実質的に等しい、副底面911の幅a2は、上述した
図12に示す第二の頂面511の幅y2と実質的に等しい。第二の面取り91の深さb2は、上述した
図12に示す第二の突条51の高さx2と実質的に等しい。本実施形態では、角度β2は30°である。幅a2及び深さb2はそれぞれ0.2mmである。
【0077】
上述した溝部7を有する圧粉体6又はこの圧粉体6を焼結した焼結体は、例えば、摺動部品に利用される。図示は省略するが、摺動部品は、溝部7に挿入される可動部材を備える。可動部材は、摺動面70における底面71の主底面710及び内側面72の主内面720と接触しながら、溝部7内を摺動する。摺動部品の具体例は、自動車のパーキングロック機構に備える電動アクチュエータなどである。
【0078】
(バリ)
上述した実施形態の金型1によって成形された圧粉体6には、バリが生じることがある。バリは、例えば、
図10に示される外周面63における溝部7の開口縁に生じる。具体的には、
図11に示すように、底面71の第一縁部80にバリB1が発生する。バリB1は、第一の面取り81の副底面811から外周面63に沿って突出する。また、
図12に示すように、内側面72の第二縁部90にバリB2が発生する。バリB2は、第二の面取り91の副底面911から外周面63に沿って突出する。バリB1及びB2が発生する理由は、金型1によって圧粉体6を成形する際に、ダイ10と第一下パンチ21aとの嵌め合い部分に圧粉体6の原料となる金属の粉末が入り込むからである。ダイ10と第一下パンチ21aとの嵌め合い部分とは、具体的には、ダイ10と第一下パンチ21aの第一前面34a及び第一背面34bとが摺接する部分である。バリの高さは、例えば、0.05mm以上0.2mm以下である。
【0079】
圧粉体6は、
図10に示すように、摺動面70における底面71の第一縁部80及び内側面72の第二縁部90に、第一の面取り81及び第二の面取り91が設けられている。そのため、
図11に示すように、底面71の第一縁部80において、バリB1が第一の面取り81から突出することを抑制できる。つまり、バリB1が、第一の面取り81の副底面811から突出しても、主底面710の延長面より外側に突出しないようにすることができる。また、
図12に示すように、内側面72の第二縁部90において、バリB2が第二の面取り91から突出しないようにすることができる。つまり、バリB2が、第二の面取り91の副底面911から突出しても、主内面720の延長面より外側に突出しないようにすることができる。
【0080】
バリB1及びバリB2が第一の面取り81及び第二の面取り91から突出しないことで、溝部7に上述した可動部材を組み付けたときに、バリB1及びバリB2が可動部材と干渉することを抑制できる。そのため、バリB1及びバリB2が可動部材に接触し難く、可動部材を傷つけたり、可動部材の摺動を妨げたりすることを抑制できる。よって、バリが残存しても、バリによる性能への影響を低減することができ、バリによる摺動部品の信頼性の低下を抑制できる。つまり、圧粉体6はバリを除去しなくてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 金型
10 ダイ
100 空間、101 内周面
10a 前枠部、10b 後枠部、10c 左枠部、10d 右枠部
21 下パンチ、22 上パンチ
21a 第一下パンチ、21b 第二下パンチ
222 下端面、224 外周面
31 第一上端面、310 主端面
32 第二上端面
33a 第一右側面、33b 第一左側面、330 主側面
34a 第一前面、34b 第一背面
35a 第二左側面、35b 第二右側面
36a 第二前面、36b 第二背面
39 第二溝部
40 第一縁部、41 第一の突条
411 第一の頂面、412 第一連結面
50 第二縁部、51 第二の突条
511 第二の頂面、512 第二連結面
6 圧粉体
61 第一の面、62 第二の面、63 外周面
63a 前面、63b 背面
7 溝部
70 摺動面
71 底面、710 主底面
72 内側面、720 主内面
80 第一縁部、81 第一の面取り
811 副底面、812 第一連結面
90 第二縁部、91 第二の面取り
911 副底面、912 第二連結面
B1、B2 バリ
α1、α2、β1、β2 角度
y1、y2、a1、a2 幅
z1、x2 高さ
b1、b2 深さ