(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023142
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 3/00 20060101AFI20240214BHJP
B43K 21/02 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B43K3/00 F
B43K21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122418
(22)【出願日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022126288
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 広幸
(72)【発明者】
【氏名】若井 俊
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353FA04
2C353FC13
2C353FE01
(57)【要約】
【課題】グリップの経年劣化に起因した軸筒からの先部材の着脱の阻害を抑制可能な筆記具を提供する。
【解決手段】筆記具1は、軸筒10と、軸筒10の先端に結合される先部材30と、軸筒10と先部材30との結合部を少なくとも覆うように軸筒10及び先部材30の外周側に設けられ、軟質弾性体からなるグリップ40と、を備える。グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に径方向の第1隙間G1が形成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
前記軸筒の前端部に結合される先部材と、
前記軸筒と前記先部材との結合部を少なくとも覆うように前記軸筒及び前記先部材の外周側に設けられ、軟質弾性体からなるグリップと、
を備え、
前記グリップの内周面と前記先部材の外周面との間に径方向の第1隙間が形成された
筆記具。
【請求項2】
前記グリップは、前記グリップの外周面に凸部または凹凸を有する
請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
複数の貫通孔を有するとともに、前記グリップの外周側に設けられる外筒を備え、
前記グリップは、前記外筒の前記複数の貫通孔に対応した位置にて前記グリップの外周面にそれぞれ設けられる複数の凸部を有し、
各々の前記凸部の先端は、前記貫通孔を介して前記外筒の径方向外側に突出する
請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記外筒の外周面からの前記凸部の突出長さは、前記第1隙間よりも大きい
請求項3に記載の筆記具。
【請求項5】
前記外筒は、前記グリップの内周面と前記先部材の外周面との間に前記第1隙間が形成されるように前記グリップを外周側から抱きかかえて保持する
請求項3に記載の筆記具。
【請求項6】
前記外筒は、前記グリップの内周面と前記軸筒の外周面との間に径方向の第2隙間が形成されるように前記グリップを外周側から抱きかかえて保持する
請求項5に記載の筆記具。
【請求項7】
前記第2隙間が、前記第1隙間と異なる大きさに設定された
請求項6に記載の筆記具。
【請求項8】
前記外筒の前方部には前記先部材が挿着し、前記外筒の後方部には前記軸筒が挿着する
請求項3に記載の筆記具。
【請求項9】
前記外筒は、
前記先部材の第1段差部に当接する前記前方部と、
前記軸筒の第2段差部に当接する前記後方部と、
を有し、
前記先部材は前記軸筒に対して螺着され、
前記外筒の前記前方部および前記後方部がそれぞれ前記第1段差部および前記第2段差部に当接した状態で、前記先部材の前記軸筒に対する締め代が残っている
請求項8に記載の筆記具。
【請求項10】
少なくとも部分的に前記軸筒の内部に挿入されるチャック外筒と、
前記チャック外筒の内部に収容された状態で前記チャック外筒に対して前後に相対移動可能に設けられるチャックと、を備え、
前記チャックは、
前記チャックの閉状態において筆記芯と当接して前記筆記芯を把持する把持部と、
前記把持部の後端に設けられ、径方向に沿った面によって規定される段差と、
前記段差を介して前記把持部に接続される非把持部と、
を有し、
前記非把持部は、前記把持部へ前記筆記芯を案内するための凸部を有する
請求項1又は2に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸筒の外周側に軟質弾性体からなるグリップを設けた筆記具が知られている。
例えば、特許文献1には、低温熱可塑性樹脂層により形成されるグリップ部をペン軸の外周側に設けた筆記具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筆記具は、使用者による分解を許容する構造に設計されることがある。
例えば、筆記具の中には、軸筒の先端に装着された先部材の着脱が可能なものがある。この種の筆記具は、先部材を軸筒から取り外した状態で、インキリフィルを交換したり、折れた筆記芯を取り除いたりした後、軸筒に先部材を装着することで、再び筆記具が使用可能な状態となる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるようにグリップを有する筆記具の場合、グリップの経年劣化によりべたつき(タック)が発生すると、先部材の外周面とグリップの内周面との間の摩擦力が増加し、軸筒からの先部材の着脱を円滑に行うことが難しい。
なお、グリップの劣化要因としては、例えば、熱による溶融、高温多湿な環境下での加水分解、紫外線の照射による劣化等がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも幾つかの実施形態は、グリップの経年劣化に起因した軸筒からの先部材の着脱の阻害を抑制可能な筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る筆記具は、
軸筒と、
前記軸筒の前端部に結合される先部材と、
前記軸筒と前記先部材との結合部を少なくとも覆うように前記軸筒及び前記先部材の外周側に設けられ、軟質弾性体からなるグリップと、
を備え、
前記グリップの内周面と前記先部材の外周面との間に径方向の第1隙間が形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態によれば、非筆記時、グリップの内周面と先部材の外周面とが非接触であることから、経年劣化によりグリップのべたつき(タック)が発生しても、軸筒に対する先部材の着脱作業に与える影響は限定的である。
なお、筆記時には、軟質弾性体からなるグリップが変形し、グリップの内周面と先部材の外周面との間の隙間が埋まるため、この隙間の筆記感への実質的な影響はない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る筆記具の外観を示す図である。
【
図2】
図1に示す筆記具の軸方向に沿った断面図である。
【
図3】筆記具の前方部分を示す
図2の拡大図である。
【
図6】一実施形態に係るチャックセットの斜視図である。
【
図7】一実施形態に係るチャックセットの一部を断面で示した図である。
【
図8】一実施形態に係るチャックセットの部分断面斜視図である。
【
図9】ノック操作中の筆記具の先端部分を示す断面図である。
【
図10】ノック操作により筆記可能な状態となった筆記具の先端部分を示す断面図である。
【
図13】他の実施形態に係る筆記具の先部材と軸筒との結合部分周辺の構造を示す断面図である。
【
図14】さらに別の実施形態に係る筆記具の先部材と軸筒との結合部分周辺の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る筆記具の外観を示す図である。
図2は、
図1に示す筆記具の軸方向に沿った断面図である。
図3は、筆記具の前方部分を示す
図2の拡大図である。
図4は、
図3のX部分の拡大図である。
図5は、
図3のY部分の拡大図である。
本発明の幾つかの実施形態に係る筆記具1は、例えば、シャープペンシル、ボールペン、マーカーペン等であってもよい。
なお、
図1~
図5にはシャープペンシルとしての筆記具1を示すが、シャープペンシル固有の機構及び構造を除き、以下で説明する内容は任意の形式の筆記具1に当てはまる。
【0012】
幾つかの実施形態では、
図1及び
図2に示すように、筆記具1は、軸筒10と、軸筒10に結合される先部材30と、軟質弾性体からなるグリップ40とを備える。
なお、本明細書において、説明の便宜上、筆記具1における各部材の位置関係を筆記具1の「前」、「前方」(または「後」、「後方」)と表記する場合がある。筆記具1の「前」又は「前方」とは、筆記具1の中心軸Cに沿った筆記具1の前後方向における先部材30側を意味する。これに対し、筆記具1の「後」又は「後方」とは、筆記具1の中心軸Cに沿った筆記具1の前後方向における先部材30とは反対側を意味する。
【0013】
軸筒10は、筆記具1の中心軸Cに沿って延在する筒部材である。
軸筒10の外形の断面形状は特に限定されず、少なくとも一部の外形の断面形状が、円形、多角形、楕円、または、これらを組み合わせた形状であってもよい。
図1に示す例示的な実施形態では、軸筒10のうちグリップ40に覆われずに外部に露出した部分は、筆記具1の意匠性向上の観点から、多角形の断面形状を有する。
軸筒10は、後述の先部材30の後端部32と結合される前端部12を有する。軸筒10の前端部12と先部材30の後端部32との結合は、螺着、圧入、篏合等の任意の手段によって実現され得る。
図2に示す例示的な実施形態では、軸筒10の前端部12は、先部材30の後端部32に設けられた雌ねじと螺合する雄ねじを有する。
【0014】
幾つかの実施形態では、軸筒10の後端部13には、クリップ70が外周側に篏合したクリップホルダ72が取り付けられる。
図1及び
図2に示す例示的な実施形態では、軸筒10の後端部13にクリップホルダ72の係合突起73と係合する係合窓15を有する。
【0015】
先部材30は、筆記具1の最前方に位置し、軸筒10の前端部12に結合される後端部32を有する。
図1~
図3に示す例示的な実施形態では、先部材30は、筆記具1としてのシャープペンシルの先金である。
【0016】
グリップ40は、軸筒10の前端部12と先部材30の後端部32との結合部を少なくとも覆うように、軸筒10及び先部材30の外周側に設けられる。グリップ40は、軸筒10及び先部材30と略同芯である筒形状を有する。
【0017】
グリップ40を構成する軟質弾性体は、エラストマ製であってもよい。
ここで、本明細書における「エラストマ」は、弾性を有する高分子の総称であり、例えば、シリコーンゴム、NBR、合成ゴム、天然ゴム等が含まれる。
【0018】
グリップ40は、グリップ40の外周面に凸部42又は凹凸を有してもよい。
図1~
図3に示す例示的な実施形態では、グリップ40は、グリップ40の外周面に複数の凸部42を有する。具体的には、6個の凸部42が筆記具1の前後方向(軸方向)に沿って配列された凸部アレイ43が、グリップ40の外周面上の複数の周方向位置に配置される。
【0019】
幾つかの実施形態では、筆記具1は、グリップ40の外周側に設けられる外筒50を有する。
外筒50は、金属、樹脂、セラミックス、又は、これらの複合材料により形成される。外筒50の構成材料としての樹脂は、例えば、ポリカーボネート又はABS等の硬質樹脂であってもよい。
【0020】
図1~
図4に示す例示的な実施形態では、外筒50は、複数の貫通孔51を有する。
上述のグリップ40の複数の凸部42は、外筒50の複数の貫通孔51にそれぞれ対応した位置に設けられる。そして、各々の凸部42の先端は、対応する貫通孔51を介して外筒50の径方向外側に突出している。すなわち、
図4に示すように、外筒50の外周面からの凸部42の突出長さdはゼロより大きい(d>0)。
【0021】
図1~
図3に示す実施形態では、外筒50は、先部材30が挿着される前方部52と、軸筒10が挿着される後方部54とを含む。本実施形態は、外筒50を先部材30と軸筒10に容易に装着ができるようガタつかない程度の隙間を有した挿着状態としているが、多少きつめの篏合状態としてもよい。
具体的には、外筒50の前方部52は、先部材30のフランジ部分に設けられた第1段差部34と篏合する。外筒50の前方部52の内形は、先部材30のうち第1段差部34の後方に隣接した部分(第1段差部34の後方部分)の外形と相補的な形状を有する。外筒50の前方部52の内形、および、第1段差部34の後方部分における先部材30の外形は、互いに相補的な形状であれば特に限定されず、例えば、円形、楕円形、台形、多角形等であってもよい。
同様に、外筒50の後方部54は、軸筒10の外周面に設けられた第2段差部14と篏合する。外筒50の後方部54の内形は、軸筒10のうち第2段差部14の前方に隣接した部分(第2段差部14の前方部分)の外形と相補的な形状を有する。外筒50の後方部54の内形、および、第2段差部14の前方部分における軸筒10の外形は、互いに相補的な形状であれば特に限定されず、例えば、円形、楕円形、台形、多角形等であってもよい。
【0022】
図3及び
図4に示す例示的な実施形態では、外筒50の前方部52は、先部材30のフランジ部分に設けられた第1段差部34との間でインロー挿着部を形成する。外筒50の前方部52と第1段差部34とがインロー挿着した状態において、先部材30の後端部32は外筒50に挿入されている。
同様に、
図3に示す例示的な実施形態では、外筒50の後方部54は、軸筒10の外周面に設けられた第2段差部14との間でインロー挿着部を形成する。外筒50の後方部54と第2段差部14とがインロー挿着した状態において、軸筒10の前端部12は外筒50に挿入されている。
【0023】
このように、外筒50の前方部52及び後方部54をそれぞれ先部材30及び軸筒10に挿着させることで、先部材30および軸筒10の結合部分を外筒50によって補強することができ、筆記具1の落下時の衝撃を各部材に分散させることができる。
また、外筒50の前方部52及び後方部54をそれぞれ先部材30及び軸筒10とインロー篏合させれば、外筒50が先部材30及び軸筒10と同芯となるように外筒50が径方向に位置決めされる。この場合、外筒50によってグリップ40が外周側から抱きかかえて保持される後述の構造において、外筒50を介してグリップ40を径方向に位置決めすることができ、グリップ40の中心を先部材30及び軸筒10と同芯に保持可能である。
【0024】
図3及び
図4に示すように、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に径方向の第1隙間G1が形成される。第1隙間G1は、略一定の大きさで周方向に連続して環状に形成される。
筆記具1の不使用時(非筆記時)、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間には第1隙間G1が形成され、グリップ40の内周面と先部材30の外周面とは互いに接触しない。筆記具1の使用時(筆記時)、使用者の指から受ける押圧力によってグリップ40が部分的に径方向内側へと変形すると、グリップ40の変形部分の内周面が先部材30の外周面に接触する。
【0025】
なお、グリップ40が凸部42を有し、且つ、グリップ40の外周側に外筒50が設けられる場合、
図4に示すように、第1隙間G1の大きさは、外筒50の外周面からの凸部42の突出長さdが第1隙間G1よりも大きくなるように設定されてもよい(d>G1)。
【0026】
グリップ40が凸部42を有し、且つ、グリップ40の外周側に外筒50が設けられる場合、外筒50は、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に上述の第1隙間G1が形成されるようにグリップ40を外周側から抱きかかえて保持してもよい。
具体的には、外筒50は、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に第1隙間G1が形成され、かつ、筆記具1の中心軸Cにグリップ40の中心が略一致するように、グリップ40を外周側から支持する。この場合、外筒50によるグリップ40の保持力は、グリップ40の径方向外側に膨らもうとする弾性力、または、凸部42の貫通孔51への係合に起因した摩擦力の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0027】
図3~
図5に示す例では、グリップ40の前端と先部材30との間には軸方向の第3隙間G3が形成される。
この場合、筆記具1の不使用時(非筆記時)、グリップ40の内周面およびグリップ40の前端面の両方が先部材30と非接触である。
【0028】
幾つかの実施形態では、
図3及び
図5に示すように、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面との間に径方向の第2隙間G2が形成される。第2隙間G2は、略一定の大きさで周方向に連続して環状に形成される。
図5に示す例では、第2隙間G2の大きさは、外筒50の外周面からの凸部42の突出長さdが第2隙間G2よりも大きくなるように設定される(d>G2)。
筆記具1の不使用時(非筆記時)、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面との間には第2隙間G2が形成され、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面とは互いに接触しない。
【0029】
幾つかの実施形態では、第1隙間G1と第2隙間G2の大きさは互いに異なる大きさに設定される。
図5に示す例示的な実施形態では、軸筒10からの先部材30の脱着時に先部材30とグリップ40との接触を極力避ける目的で、第1隙間G1は第2隙間G2よりも大きく設定される。
【0030】
グリップ40が凸部42を有し、且つ、グリップ40の外周側に外筒50が設けられる場合、外筒50は、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面との間に上述の第2隙間G2が形成されるようにグリップ40を外周側から抱きかかえて保持してもよい。
具体的には、外筒50は、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面との間に第2隙間G2が形成され、かつ、筆記具1の中心軸Cにグリップ40の中心が略一致するように、グリップ40を外周側から支持する。この場合、上述のとおり、外筒50によるグリップ40の保持力は、グリップ40の径方向外側に膨らもうとする弾性力、または、凸部42の貫通孔51への係合に起因した摩擦力の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0031】
図3及び
図5に示す例では、グリップ40の後端と軸筒10との間には軸方向の第4隙間G4が形成される。
この場合、筆記具1の不使用時(非筆記時)、グリップ40の内周面およびグリップ40の後端面の両方が軸筒10と非接触である。
【0032】
先部材30と軸筒10とが螺着により結合される場合、
図3及び
図5に示すように、外筒50の前方部52が先部材30の第1段差部34に当接し、外筒50の後方部54が軸筒10の第2段差部14に当接した状態で、先部材30の軸筒10に対する締め代(第5隙間G5)が残っていてもよい。
すなわち、先部材30に対して軸筒10をねじ込んでいくと、外筒50の前方部52及び後方部54のそれぞれと第1段差部34及び第2段差部14との間の軸方向隙間が減少し、最終的に、外筒50の前方部52が第1段差部34に当接し、且つ、外筒50の後方部54が第2段差部14に当接する。この状態では、先部材30と軸筒10との間には軸方向の第5隙間G5が締め代として残っているが、外筒50が先部材30と軸筒10との間で突っ張っているため、先部材30に対して軸筒10をそれ以上ねじ込むことはできない。
【0033】
こうして、締め代(第5隙間G5)を残した状態で、先部材30及び軸筒10に対して外筒50を確実に固定することができ、先部材30および軸筒10の結合部分の外筒50による補強効果を高めることができる。
また、外筒50によって先部材30に対する軸筒10のねじ込み量を規制することで、グリップ40の前端と先部材30との間の第3隙間G3、および、グリップ40の後端と軸筒10との間の第4隙間G4を確保できる。よって、軸方向の圧縮力がグリップ40に作用することを防止し、グリップ40の塑性変形のリスクを低減できる。
【0034】
続けて、
図2~
図5を参照して、幾つかの実施形態に係る筆記具1の内部構造について述べる。
【0035】
筆記具1がシャープペンシルである場合、
図2に示すように、幾つかの実施形態に係る筆記具1は、筆記芯を収容するための芯タンク80と、芯タンク80の前端部に接続される中継部材90と、中継部材90の前方側に設けられるチャックセット100と、を含む。
【0036】
図2に示す例示的な実施形態では、芯タンク80は、軸筒10内を中心軸Cに沿って延在する筒状部材である。芯タンク80の後端部には、消しゴム82が篏合され、筆記芯の収容空間を閉じるようになっている。さらに、芯タンク80の後端部には、消しゴム82を覆うようにキャップ84が取り付けられる。
キャップ84は、筆記具1の使用者によるノック操作の対象であるノック操作部として機能する。
【0037】
幾つかの実施形態では、筆記具1は、芯タンク80を後方に付勢するためのスプリング88を有する。
図2に示す例では、スプリング88が、芯タンク80の外周に設けられたフランジ86を後方に付勢可能に軸筒10内に収容される。芯タンク80のフランジ86は、筆記具1の非ノック操作時、クリップホルダ72によって係止され、芯タンク80の後方への抜け出しが防止される。
【0038】
芯タンク80の前端部には、圧入、篏合、螺着等の任意の手段により、中継部材90が接続される。
図2、
図3及び
図5に示す実施形態では、中継部材90の後方部92が芯タンク80の前方開口に圧入される。中継部材90は、芯タンク80内に圧入される後方部92に加えて、後方部92の芯タンク80への圧入量を規制するためのフランジ94と、フランジ94を挟んで後方部92とは反対側に位置する前方部96とを含む。中継部材90の前方部96は、隆起部97が外周面に形成される。この隆起部97の働きによって、後述のチャックセット100のチャック外筒110に前方部96が篏合可能になっている。また、筆記具1のノック操作中において、中継部材90の前方部96のチャック外筒110内への最大侵入量は、中継部材90のフランジ94とチャック外筒110の後端との当接によって規制されてもよい。
【0039】
幾つかの実施形態では、中継部材90の前方部96は、後述のチャックセット100のチャック120の後端を受け入れるための凹部98と、ノック操作時にチャック120のフランジ123を前方へと押圧するための押圧部99とを含む。
押圧部99は、凹部98を取り囲むように、中継部材90の前方部96の先端面の外周縁に沿って軸方向に突出して設けられる。凹部98の深さ(すなわち、押圧部99の突出長さ)は、チャック120のうちフランジ123よりも後方部分の長さよりも大きく設定される。
なお、
図2、
図3及び
図5に示すように、中継部材90の隆起部97の径方向内側に空洞を設け、中継部材90の前方部96の変形を起こりやすくしてもよい。この場合、隆起部97が、後述するチャック外筒110のテーパ112を乗り越えやすくなり、スムーズなノック操作を実現できる。
【0040】
図6は、一実施形態に係るチャックセット100の斜視図である。
図7は、一実施形態に係るチャックセット100の一部を断面で示した図である。
図8は、一実施形態に係るチャックセット100の部分断面斜視図である。
【0041】
幾つかの実施形態では、
図2、
図3及び
図5に示すように、チャックセット100は、少なくとも部分的に軸筒10に挿入されるチャック外筒110と、チャック外筒110の内部に収容された状態でチャック外筒110に対して前後に相対移動可能なチャック120とを含む。
【0042】
図5、
図7及び
図8に示すように、チャック外筒110は、後端側の内周面にテーパ112を有してもよい。
チャック外筒110の内径は、テーパ112よりも後方側においてD(
図5参照)で一定である。チャック外筒110の内径は、テーパ112において前方に向かって縮小する。すなわち、チャック外筒110は、前方に向かうにつれて、テーパ112の後端における直径Dから内径が徐々に減少し、テーパ112の前方においてDよりも小さい内径を有する。
ノック操作に伴い、中継部材90の前方部96はテーパ112によって先細りとなるチャック外筒110の内部空間内を奥側(前方)へと摺動し、中継部材90の隆起部97とチャック外筒110の後端部との篏合がきつくなっていく。ノック操作量が最大になると、隆起部97はテーパ112を乗り越えてテーパ112よりも前方に位置する。このとき、中継部材90の隆起部97とチャック外筒110の後端部との篏合力は最大である。
こうして、チャック外筒110の後端側の内周面にテーパ112を形成することで、ノック操作量の増減に応じて、中継部材90の隆起部97とチャック外筒110の後端部との篏合力を段階的に切り替えることが可能である。
【0043】
チャック外筒110は、前端側の外周面にフランジ114を有する。筆記具1の非ノック操作時、スプリング88によって芯タンク80が後方に付勢される結果、芯タンク80に圧入された中継部材90、および、中継部材90に篏合するチャック外筒110も後退位置にある。但し、筆記具1の非ノック操作時、チャック外筒110のフランジ114が軸筒10の先端に当接して係止され、チャック外筒110はそれ以上後退できないようになっている。このように、チャック外筒110の最大後退距離は、軸筒10の先端によるフランジ114の係止によって規定される。
また、チャック外筒110は、最前端部に前端面116を有する。前端面116は、筆記具1のノック操作時、先部材30の内壁に当接して係止され、チャック外筒110がそれ以上前進できないようになっている。すなわち、チャック外筒110の最大前進距離は、先部材30の内壁による前端面116の係止によって規定される。
【0044】
チャック外筒110は内部が空洞になっており、チャック120を収容可能になっている。チャック外筒110内の空洞には、チャック120に加えて、チャック120を後方に向けて付勢するためのスプリング118が収容される。
【0045】
チャック120は、金属、樹脂、セラミックス、又は、これらの複合材料により形成される。チャック120の構成材料としての樹脂は、例えば、ポリカーボネート又はABS等の硬質樹脂であってもよい。
チャック120は、筆記芯を把持可能な構成であれば特に限定されず、例えば、ボールチャック機構を用いた構成であってもよいし、コレットチャック機構を用いた構成であってもよい。なお、
図4、
図5、
図7及び
図8には、ボールチャック機構のチャック120を例示している。
【0046】
チャック120は、
図8に示されるように、半割り構造を有し、第1チャック片121及び第2チャック片122を含む。
チャック120は、第1チャック片121と第2チャック片122との間に大きさが可変の第6隙間G6を有し、第6隙間G6の大きさの増減によって、チャック120の開状態と閉状態とが切り替え可能になっている。
【0047】
図8には2個のチャック片121,122を有する2つ割り構造のチャック120を例示している。他の実施形態では、チャック120は、3個のチャック片を有する3つ割り構造、または、4個のチャック片を有する4つ割り構造を有する。
【0048】
図4、
図5、
図7及び
図8に示す実施形態では、チャック120(第1チャック片121及び第2チャック片122の各々)は、筆記芯を把持するための把持部124と、把持部124の後端に設けられる段差126と、段差126を介して把持部124に接続される非把持部128とを含む。
【0049】
幾つかの実施形態では、
図8に示すように、把持部124は、筆記芯の直径よりも小さな幅の溝を有する。把持部124の溝は、一対のテーパ面125を含み、各々のテーパ面125は溝の縁(溝縁)125aを有する。各々の溝縁125aは、対応するテーパ面125のエッジであり、一対の溝縁125a間の距離により溝幅が規定される。
チャック120の閉状態において、第1チャック片121の溝の一対のテーパ面125と、第2チャック片122の溝の一対のテーパ面125とが、4つの周方向位置において外周側から筆記芯に当接することで、筆記芯を把持可能になっている。なお、本実施形態においては、各チャック片121,122の溝の一対のテーパ面125で筆記芯を把持しているが、各チャック片121,122の溝の一対の溝縁125aで把持してもよい。
【0050】
段差126は、径方向に沿った平面によって規定される。
図8に示すように、把持部124を構成する一対のテーパ面125は、段差126において終端する。各チャック片121,122には、段差126よりも後方において別の溝が形成されており、この溝は一対の溝縁129を有する。一対の溝縁129間の距離は、段差126の存在によって、把持部124を構成する一対の溝縁125a間の距離よりも大きい。このように、段差126を挟んで把持部124とは反対側に位置する非把持部128において、一対の溝縁129は、それぞれ、把持部124を構成する一対の溝縁125aよりも径方向の外側に退避している。このため、一対の溝縁129を含む非把持部128は、チャック120の閉状態において把持部124(一対のテーパ面125)によって把持される筆記芯に接触しない構成になっている。
【0051】
幾つかの実施形態では、非把持部128は把持部124へ筆記芯を案内するための凸部130を有する。凸部130は、
図4及び
図8に示すように、前方に向かって突出量が徐々に増加して稜線131に至り、稜線131よりも前方では切り下がって非把持部128の内周面に接続される。すなわち、凸部130は、稜線131において径方向内側への突出量が極大となる。
【0052】
凸部130は、各チャック片121,122の周方向に連続して設けられてもよいし、各チャック片121,122に対して複数の凸部130が周方向に離散的に設けられてもよい。
例示的な実施形態では、各チャック片121,122に対して2個の凸部130が80度~120度(例えば約107度)の角度を有して設けられる(
図8には第2チャック片122に設けられた2個の凸部130を示している)。
この場合、合計4個の凸部130が中心軸C周りに配置されているが、等間隔に設けてもよく、また、5個あるいは6個配置してもよいが、偶数個配置するのが好ましい。
【0053】
凸部130の具体的形状は特に限定されないが、稜線131よりも後方部分は、筆記芯を円滑に把持部124に案内可能な凸曲面状であることが望ましい。
例えば、凸部130の稜線131よりも後方部分は、半球状、ティアドロップ形状、又は、これらに準ずる三次元湾曲形状を有していてもよい。
【0054】
図4、
図5、
図7及び
図8に示す実施形態では、非把持部128の一対の溝縁129を有する溝の内面に複数の凸部130が径方向内側に突出して設けられる。各々の凸部130の突出量は、チャック120の閉状態における把持部124の一対の溝縁125aの径方向位置を基準として、凸部130が把持部124の一対の溝縁125aよりも径方向外側に位置するという条件下で設定される。このため、チャック120の閉状態においても、筆記芯の外周面よりも径方向外側に凸部130の稜線131が位置し、凸部130が筆記芯に接触することはない。
【0055】
図4、
図5、
図7及び
図8に示す実施形態では、チャック120には、前端側の外周面に凹部132が設けられる。凹部132には、ボール134が篏合する。ボール134は、チャック120の前端部を覆うチャックリング136とチャック120との間に保持される。チャックリング136は、チャック外筒110に固定されており、前方に向かって拡径するテーパ部137を有する。ボール134は、径方向外側でチャックリング136のテーパ部137に当接し、径方向内側で凹部132の凹面に当接する。
チャック120の閉状態において、スプリング118によってチャック120は後方に付勢され、テーパ部137の楔効果によって各チャック片121,122は、ボール134から径方向内側への押圧力を受けてチャック120は閉じられる。他方、中継部材90を介してチャック120が、チャック外筒110に固定されたチャックリング136に対して相対的に前進すると、ボール134がテーパ部137上を前方に向かって転がり、一対のチャック片121,122間の第6隙間G6(
図8参照)が広がり、チャック120は開状態に移行する。
チャックリング136の前方の開口には、チャックストッパ138が篏合する。チャックリング136及びチャックストッパ138に対するチャック120の相対的な前後動を阻害しないように、チャックストッパ138の後端側に凹部が設けられる。チャックリング136及びチャック外筒110に対してチャック120が相対的に前進したとき、チャック120の前端部は、チャックストッパ138に設けられた凹部に侵入する。
【0056】
幾つかの実施形態では、筆記具1は、
図2~
図4に示すように、チャックセット100の前方に位置するように先部材30内に設けられるスライダ140を有する。
スライダ140の外周側には、先部材30に固定された環状の固定リング150が設けられる。スライダ140は、環状の固定リング150の貫通孔に挿通され、先部材30に固定された固定リング150に対して相対的に前後に移動可能に構成される。
【0057】
スライダ140は、後方に向かってスライダ140が縮径するテーパ142(
図4参照)を外周面に有する。スライダ140は、テーパ142を挟んで前方側に大径部分と後方側に小径部分とを有する。
筆記具1の非ノック時、スライダ140のテーパ142の前方側の大径部分が固定リング150に篏合した状態になっており、固定リング150は摩擦力によってスライダ140に緩く固定される。
【0058】
スライダ140は、固定リング150とスライダ140との間に設けられるスプリング152(
図4参照)によって前方へと付勢される。
スプリング152の付勢力は、スライダ140の大径部分と固定リング150との篏合部における摩擦力よりも小さく設定される。このため、筆記具1の非ノック時、スプリング152による付勢力が作用しても、スライダ140の大径部分と固定リング150との篏合は外れない。
これに対し、筆記具1のノック操作時にチャックセット100の前進に伴いスライダ140が前方に押圧されると、スライダ140の大径部分と固定リング150との篏合が外れ、スライダ140はスプリング152の付勢力によって前方へと移動する。
【0059】
スライダ140は、前方から芯パイプ144が圧入されるとともに、後方から芯戻り止め部材146が圧入される。芯パイプ144及び芯戻り止め部材146は、スライダ140に固定されており、スライダ140の前後方向への移動時スライダ140とともに移動する。
芯パイプ144は、筆記具1の使用時に先部材30から突出して筆記芯を保護する。芯戻り止め部材146は、弾性力によって筆記芯を保持し、複数回のノック操作によって筆記芯を繰り出す際に筆記芯が後方に戻ることを防止する。
【0060】
上述した実施形態では、筆記具1は、3種のスプリング88,118,152を含む。
これら3種のスプリング88,118,152の荷重は、スプリング118、スプリング152、スプリング88の順に大きくなるように設定される。
【0061】
続いて、
図3~
図4および
図9~
図12を参照して、筆記具1のノック操作に伴う各部材の動きを説明する。
図9は、ノック操作中の筆記具1の先端部分を示す断面図である。
図10は、ノック操作により筆記可能な状態となった筆記具1の先端部分を示す断面図である。
図11は、
図10のXI-XI線に沿った断面図である。
図12は、
図10のXII-XII線に沿った断面図である。
【0062】
図3及び
図4に示すように、筆記具1の非筆記時、チャック外筒110は中継部材90によって押圧されておらず、チャック外筒110はフランジ114が軸筒10と当接する位置まで後退している。このとき、チャック外筒110によって囲まれるチャック120も、中継部材90によって押圧されていない。このため、チャック120は、スプリング118の付勢力により後方へと付勢され、チャック外筒110に対して相対的に後方へと後退している。したがって、チャックリング136のテーパ部137の楔効果によってボール134によって第1チャック片121および第2チャック片122が互いに接近するように押圧され、チャック120は閉状態にある。よって、芯タンク80からの筆記芯がチャック120の内部に侵入しても、チャック120の把持部124の手前で停止する。
【0063】
これに対し、ノック操作中の筆記具1では、ノック操作により、芯タンク80及び中継部材90が前進する。このとき、中継部材90の隆起部97がチャック外筒110の内周面のうちテーパ112よりも後方部分と篏合しているから、中継部材90とともにチャック外筒110も前方に移動する。チャック外筒110は、
図9に示すように、前端面116が先部材30の壁面に当接する位置まで前進すると、それ以上前進できないために停止する。
また、上述したチャック外筒110の前進に伴い、チャック外筒110に圧入されたチャックリング136に取り付けられたチャックストッパ138は前方へと移動する。その結果、チャックストッパ138を介してスライダ140が前方へと押圧され、スライダ140の大径部分と固定リング150との篏合が外れる。これにより、スライダ140はスプリング152の付勢力によって前方へと移動し、芯パイプ144が先部材30から突出する。
【0064】
チャック外筒110の停止後にノック操作量がさらに増加すると(さらに深くノックされると)、中継部材90の前方部96の押圧部99(
図5、
図7及び
図8参照)がチャック120のフランジ123(
図5、
図7及び
図8参照)を押圧し、チャック外筒110に対してチャック120が前方に相対移動し始める。
中継部材90の押圧部99(
図5、
図7及び
図8参照)の移動に伴って、チャック120がチャック外筒110に対して相対移動するのである。
ここで、チャック外筒110の内径は、テーパ112において、前方に向かって狭くなっている。このため、中継部材90の隆起部97がテーパ112を乗り越えて前方に移動すると、チャック外筒110と中継部材90との篏合はきつくなる。
【0065】
このとき、チャック120及びボール134を取り囲むチャックリング136は、先部材30の壁面によって係止されたチャック外筒110に圧入されて不動である。
チャックリング136に対するチャック120の前方への相対移動の結果、チャックリング136に対するボール134の当接位置が、チャックリング136のテーパ部137のより内径が大きい前方部分にずれてチャック120が開く。チャック120が開いてチャック120の把持部124における第1チャック片121及び第2チャック片122間の第6隙間G6が大きくなると、筆記芯は把持部124を通過可能となる。このため、チャック120の把持部124を通過した筆記芯は、自重により落下し、スライダ140に設けられた芯戻り止め部材146の手前で停止する。
【0066】
この後、筆記具1の使用者がキャップ84(ノック操作部)から指を離してノック操作が終了すると、スプリング88の付勢力によって芯タンク80及び中継部材90が後方に移動し始める。
このとき、上述のとおり、中継部材90の隆起部97はテーパ112よりも前方位置にてチャック外筒110の内周面ときつく篏合されているから、中継部材90とともにチャック外筒110も後退する。チャック外筒110の後退は、チャック外筒110のフランジ114が軸筒10の前端部12に接触した位置で停止し、それ以上チャック外筒110は後退できない。その後も中継部材90はノック操作前の原位置に向かって後退し続け、中継部材90の隆起部97がテーパ112を下り降りて、中継部材90とチャック外筒110との篏合は緩まる。
【0067】
また、ノック操作の終了に伴い、中継部材90及びチャック外筒110が後退を開始すると、スプリング118の付勢力によってチャック120も後方に移動し始める。ここで、チャック120は開状態であり、筆記芯は、チャック120の把持部124によって拘束されておらず、筆記芯は自重により芯戻り止め部材146の手前に落下したまま不動である。
チャック外筒110の後退が停止すると、スプリング118の付勢力によって、チャック外筒110に対して相対的にチャック120が後方へと移動し始める。このとき、ボール134はチャックリング136のテーパ部137上を後方へと転がり、楔効果によって、チャック120は閉じられる(第6隙間G6が減少する)。チャック120の把持部124には筆記芯が挿通された状態であるから、チャック片121,122間の第6隙間G6の減少は、把持部124によって筆記芯が把持されるまで継続する。チャック120の把持部124によって筆記芯が把持されると、チャック片121,122間の第6隙間G6の減少は停止し、チャック120の後退は終了する。
【0068】
この後再びノック操作が行われると、上述したのと同様な原理で、芯タンク80、中継部材90、チャック外筒110及びチャック120が前進する。その結果、チャック120に把持された筆記芯がチャック120の前進に伴い前方へと移動し、芯戻り止め部材146に圧入される。
さらにノック操作を繰り返すことで、筆記芯が前方へと繰り出され、芯パイプ144の先端に到達して筆記可能な状態となる。
図9は、筆記具1が筆記可能な状態になる直前のノック操作中の状態を示している。この状態において、ノック操作が終了すると、芯タンク80、中継部材90、チャック外筒110及びチャック120が後退し、筆記芯がチャック120によって把持されて、
図10に示す状態となる。
【0069】
以上、本発明の幾つかの実施形態について述べたが、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に反しない限り、他の実施形態をも包含し得る。
【0070】
図13は、他の実施形態に係る筆記具の先部材30と軸筒10との結合部分周辺の構造を示す断面図である。
図14は、さらに別の実施形態に係る筆記具の先部材30と軸筒10との結合部分周辺の構造を示す断面図である。
なお、
図13及び
図14では、重複した説明を省略する目的で、上述の実施形態に係る筆記具1と同じ要素には共通の符号を付す。
【0071】
図13に示す例示的な実施形態では、グリップ40の内周面と軸筒10の内周面との間に隙間が形成されず、グリップ40は外筒50と軸筒10との間に挟み込まれるように設けられる。
この場合、グリップ40の前方部では内周側に第1隙間G1が形成される一方、グリップ40の後方部では内周側に隙間が存在しないため、グリップ40の前方部又は後方部の何れを把持するかによって筆記具1のフィット感に有意な差を出すことができる。また、グリップ40と先部材30との間に第1隙間G1を設けているため、グリップ40のべたつき(タック)が発生した場合であっても、軸筒10に対する先部材30の着脱作業に与える影響は限定的である。
図13に示す実施形態に係る筆記具は、第2隙間G2を有しない点を除けば、
図1~
図5に示した筆記具1と共通の構成を有する。
【0072】
図14に示す例示的な実施形態では、グリップ40の前端は先部材30に接触しており、グリップ40の前端と先部材30との間に第3隙間G3が形成されない。また、
図14には不図示であるが、グリップ40の後端は軸筒10に接触しており、グリップ40の後端と軸筒10との間に軸方向の第4隙間G4が形成されない。
グリップ40の凸部42に対して外筒50の貫通孔51が十分に大きく、外筒50に対してグリップ40の前後方向の位置が、凸部42の貫通孔51への篏合によって規定できない場合であっても、グリップ40の前端及び後端をそれぞれ先部材30及び軸筒10に接触させることで、グリップ40の位置決めが可能になる。
なお、
図14を参照して上述した実施形態に係る筆記具は、第3隙間G3及び第4隙間G4を有しない点を除けば、
図1~
図5に示した筆記具1と共通の構成を有する。
【0073】
以下、幾つかの実施形態における筆記具1の構成と作用について述べる。
【0074】
[1]幾つかの実施形態に係る筆記具1は、
軸筒10と、
軸筒10の先端に結合される先部材30と、
軸筒10と先部材30との結合部を少なくとも覆うように軸筒10及び先部材30の外周側に設けられ、軟質弾性体からなるグリップ40と、
を備え、
グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に径方向の第1隙間G1が形成される。
【0075】
上記[1]の構成によれば、非筆記時、グリップ40の内周面と先部材30の外周面とが非接触であることから、経年劣化等によりグリップ40のべたつき(タック)が発生しても、軸筒10に対する先部材30の着脱作業に与える影響は限定的である。なお、筆記時には、グリップ40が変形し、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間の第1隙間G1が埋まるため、第1隙間G1の筆記感への実質的な影響はない。
【0076】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]の構成において、
グリップ40は、グリップ40の外周面に凸部42または凹凸を有する。
【0077】
上記[2]の構成によれば、グリップ40の外周面に凸部42又は凹凸を形成することで、フィット感が向上し、良好な筆記感が得られる。また、軟質弾性体からなるグリップ40の一部として設けられる凸部42又は凹凸は柔軟性を有するから、筆記時における指への負担を軽減できる。
【0078】
[3]幾つかの実施形態では、上記[1]又は[2]の構成において、筆記具1は、
複数の貫通孔51を有するとともに、グリップ40の外周側に設けられる外筒50を備え、
グリップ40は、外筒50の複数の貫通孔51に対応した位置にてグリップ40の外周面にそれぞれ設けられる複数の凸部42を有し、
各々の凸部42の先端は、貫通孔51を介して外筒50の径方向外側に突出する。
【0079】
上記[3]の構成によれば、柔軟性を有するグリップ40の凸部42を外筒50の貫通孔51から突出させることで、筆記時に、外筒50を確実に把持しつつ、凸部42によるフィット感が得られる。
【0080】
[4]幾つかの実施形態では、上記[3]の構成において、
外筒50の外周面からの凸部42の突出長さは、第1隙間G1よりも大きい。
【0081】
上記[4]の構成によれば、筆記時の指からの押圧力によってグリップ40が変形しても、先部材30によって径方向内側からグリップ40を支えることで、貫通孔51の内部への凸部42の没入を抑制できる。よって、筆記時において、外筒50の外周面から僅かに凸部42が突出した状態を維持することができ、優れたフィット感が得られる。
【0082】
[5]幾つかの実施形態では、上記[3]の構成において、
外筒50は、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に第1隙間G1が形成されるようにグリップ40を外周側から抱きかかえて保持する。
【0083】
上記[5]の構成によれば、グリップ40の内周面と先部材30の外周面との間に第1隙間G1が形成されるようにグリップ40を外筒50に支持させることで、非筆記時にグリップ40の内周面と先部材30の外周面とが非接触の状態を維持できる。よって、経年劣化等によりグリップ40のべたつき(タック)が発生しても、軸筒10に対する先部材30の着脱作業を円滑に行うことができる。
【0084】
[6]幾つかの実施形態では、上記[5]の構成において、
外筒50は、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面との間に径方向の第2隙間G2が形成されるようにグリップ40を外周側から抱きかかえて保持する。
【0085】
上記[6]の構成によれば、非筆記時、グリップ40の内周面と軸筒10の外周面とが非接触であることから、経年劣化等によりグリップ40のべたつき(タック)が発生しても、軸筒10に対する外筒50及びグリップ40の着脱作業を阻害しにくい。
【0086】
[7]幾つかの実施形態では、上記[6]の構成において、
第2隙間G2が、第1隙間G1と異なる大きさに設定される。
【0087】
上記[7]の構成によれば、グリップ40の内周側に形成される隙間(第1隙間G1及び第2隙間G2)の大きさが場所によって異なることから、グリップ40及び外筒50の把持位置を変えることで、筆記具1の使用者の好みに応じたフィット感を得ることができる。
【0088】
[8]幾つかの実施形態では、上記[3]~[7]の何れかの構成において、
外筒50の前方部52には先部材30が挿着し、外筒50の後方部54には軸筒10が挿着する。
【0089】
上記[8]の構成によれば、外筒50の両端部をそれぞれ先部材30及び軸筒10と挿着させることで、先部材30および軸筒10の結合部分を外筒50によって補強することができ、筆記具1の落下時の衝撃を各部材に分散させることができる。
【0090】
[9]幾つかの実施形態では、上記[8]の構成において、
外筒50は、
先部材30の第1段差部34に当接する前方部52と、
軸筒10の第2段差部14に当接する後方部54と、
を有し、
先部材30は軸筒10に対して螺着され、
外筒50の前方部52および後方部54がそれぞれ第1段差部34および第2段差部14に当接した状態で、先部材30の軸筒10に対する締め代(第5隙間G5)が残っている。
【0091】
上記[9]の構成によれば、先部材30の軸筒10に対する締め代(第5隙間G5)を残すことで、先部材30及び軸筒10に対して外筒50を確実に固定することができ、先部材30および軸筒10の結合部分の外筒50による補強効果を高めることができる。
【0092】
[10]幾つかの実施形態では、上記[1]~[9]の何れかの構成において、筆記具1は、
少なくとも部分的に軸筒10の内部に挿入されるチャック外筒110と、
チャック外筒110の内部に収容された状態でチャック外筒110に対して前後に相対移動可能に設けられるチャック120と、を備え、
チャック120は、
チャック120の閉状態において筆記芯と当接して筆記芯を把持する把持部124と、
把持部124の後端に設けられ、径方向に沿った面によって規定される段差126と、
段差126を介して把持部124に接続される非把持部128と、
を有し、
非把持部128は、把持部124へ筆記芯を案内するための凸部130を有する。
【0093】
上記[10]の構成によれば、径方向に沿った面によって規定される段差126を把持部124の後端に設けることで、エッジ効果により把持部124による筆記芯の把持の確実性が高まる。このため、筆記具1の使用に伴い把持部124に筆記芯の摩耗粉が蓄積しても、把持部124により筆記芯を確実に把持することができる。また、径方向に沿った面によって規定される段差126により、非把持部128側から把持部124へと侵入しようとする筆記芯の摩耗粉を捕捉可能であり、把持部124への筆記芯の摩耗粉の蓄積を抑制できる。
他方、径方向に沿った面によって規定される段差126を把持部124の後端に設けることの弊害として、ノック操作時に筆記芯が円滑に芯戻り止め部材146の手前まで自重落下する際、筆記芯が段差126に引っかかってしまうおそれがある。この点、上記[10]の構成によれば、把持部124へ筆記芯を案内するための凸部130を非把持部128に設けたので、段差126への筆記芯の引っかかりを防止し、筆記芯を把持部124側に円滑に導くことができる。
【0094】
以上、本発明の幾つかの実施形態について述べたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上述の実施形態に対して変更を加えてもよい。
【0095】
例えば、上述の幾つかの実施形態では、ボール134、ボール134に接する部材及びチャックセット100(チャック外筒110及びチャック120)に対する表面処理は特に行っていないが、他の幾つかの実施形態では、ボール134、ボール134に接する部材及びチャックセット100の表面の少なくとも一部に対して潤滑被膜を形成してもよい。潤滑被膜は、例えばステアリン酸を含む潤滑剤をボール134、ボール134に接する部材又はチャックセット100の表面に塗布することで形成可能である。
潤滑被膜の施工対象範囲は、筆記具1の仕様に応じて任意に設定可能である。潤滑被膜の施工対象範囲として、例えば、ボール134、ボール134に接するチャック120、ボール134に接するチャックリング136、チャック120及びチャック外筒110を含むチャックセット100、または、これらのうち2以上を組み合わせが挙げられる。
【0096】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0097】
1 :筆記具
10 :軸筒
12 :前端部
13 :後端部
14 :第2段差部
30 :先部材
32 :後端部
34 :第1段差部
40 :グリップ
42 :凸部
50 :外筒
51 :貫通孔
52 :前方部
54 :後方部
80 :芯タンク
88 :スプリング
90 :中継部材
92 :後方部
94 :フランジ
96 :前方部
97 :隆起部
98 :凹部
99 :押圧部
100 :チャックセット
110 :チャック外筒
112 :テーパ
114 :フランジ
116 :前端面
118 :スプリング
120 :チャック
121 :第1チャック片
121 :チャック片
122 :第2チャック片
122 :チャック片
123 :フランジ
124 :把持部
126 :段差
128 :非把持部
130 :凸部
140 :スライダ
144 :芯パイプ
146 :芯戻り止め部材
150 :固定リング
152 :スプリング
G1 :第1隙間
G2 :第2隙間