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特開2024-2321燃料電池システム及び金属イオン除去装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002321
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】燃料電池システム及び金属イオン除去装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04858 20160101AFI20231228BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231228BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20231228BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20231228BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20231228BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20231228BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20231228BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20231228BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231228BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M4/90 X
H01M8/04313
H01M8/04225
H01M8/04228
H01M8/04302
H01M8/04303
H01M8/00 A
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101438
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】星川 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】津坂 恭子
(72)【発明者】
【氏名】北野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 数馬
(72)【発明者】
【氏名】進藤 孝介
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB16
5H018EE02
5H018EE11
5H018EE12
5H018HH06
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB29
5H127BA01
5H127BB02
5H127DA01
5H127DA08
5H127DA11
5H127DB41
5H127DC43
(57)【要約】
【課題】固体高分子形燃料電池に含まれる有害な金属イオンを無害化するための手段を備えた燃料電池システム、及び、金属イオン除去装置を提供すること。
【解決手段】燃料電池システムは、固体高分子形燃料電池と、燃料ガス供給装置と、酸化剤ガス供給装置と、制御装置とを備えている。固体高分子形燃料電池は、タングステン化合物の微粒子が添加された膜電極接合体を備えている。制御装置は、燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、膜電極接合体に混入した、フェントン活性を有する金属イオンをタングステン化合物に吸着させる電位制御手段を備えている。金属イオン除去装置は、このような電位制御手段を備えた制御装置を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池システム。
(1)前記燃料電池システムは、
固体高分子形燃料電池と、
前記固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池システムを制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記固体高分子形燃料電池は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加された膜電極接合体を備えている。
(3)前記制御装置は、
前記膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンの無害化処理を実行するか否かを判定する判定手段と、
前記無害化処理を実行すべきと判定された後、前記燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、これによって前記膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、前記金属イオンを前記タングステン化合物に吸着させる電位制御手段と
を備えている。
【請求項2】
前記電位制御手段は、前記燃料電池システムのアイドリング時、始動時、及び/又は、停止時に、前記セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において前記発電を行う手段を含む請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池システムは、余剰電力を貯蔵するための電力貯蔵装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記電位制御手段を実行したときに発生する電力を前記電力貯蔵装置に貯蔵する手段を含む
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記電力貯蔵装置は、二次電池及び/又はキャパシタである請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記タングステン化合物は、酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、酸化タングステン(+VI)n水和物(n=1~3、nは非整数を含む)、タングステンカーバイド、及び、タングステン酸塩からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記金属イオンは、Fe、Cu、Ni、Al、Co、及び、Tiからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素のイオンを含む請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
以下の構成を備えた金属イオン除去装置。
(1)前記金属イオン除去装置は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加されている膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池において、前記膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンを除去するために用いられる。
(2)前記金属イオン除去装置は、
前記固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記金属イオン除去装置を制御する制御装置と
とを備えている。
(3)前記制御装置は、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において前記固体高分子形燃料電池を発電させ、これによって前記膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、前記金属イオンを前記タングステン化合物に吸着させる電位制御手段を備えている。
【請求項8】
前記タングステン化合物は、酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、酸化タングステン(+VI)n水和物(n=1~3、nは非整数を含む)、タングステンカーバイド、及び、タングステン酸塩からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む請求項7に記載の金属イオン除去装置。
【請求項9】
前記金属イオンは、Fe、Cu、Ni、Al、Co、及び、Tiからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素のイオンを含む請求項7又は8に記載の金属イオン除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及び金属イオン除去装置に関し、さらに詳しくは、固体高分子形燃料電池に含まれる有害な金属イオンを無害化するための手段を備えた燃料電池システム、及び、金属イオン除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
MEAに含まれる電解質は、酸素と水素の直接反応若しくは電気化学反応によって直接的に生成するラジカル、又は、過酸化水素を経て生成するラジカルにより攻撃され、劣化すると言われている。固体高分子形燃料電池においては、ラジカル攻撃により電解質膜の抵抗増加、クロスリークの増加、薄膜化による短寿命化などが起こることが知られている。さらには、ラジカル攻撃により生成する劣化生成物により触媒被毒が起こり、電解性能や電池性能が低下するおそれがある。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、電池特性が低下した燃料電池スタックを解体してMEAを取り出し、MEAを希硫酸で洗浄する固体高分子形燃料電池の再生方法が開示されている。
同文献には、
(A)加湿に用いる水中に溶存する陽イオン、あるいは、配管等から溶出する陽イオンが反応ガスと共にMEAに送られると、電解質膜の酸基のプロトンが陽イオンに置換され、電池性能が低下する点、及び、
(B)性能が低下したMEAを希硫酸等の無機酸で洗浄すると、電解質膜に蓄積した陽イオンが再びプロトンに置換され、MEAが再生される点
が記載されている。
【0005】
特許文献2には、燃料電池に供給される酸化ガス又は燃料ガスに酸性ガス(NO2、HCl、又は、H22)を加えながら燃料電池を作動させる方法が開示されている。
同文献には、酸化ガス又は燃料ガスに酸性ガスを加えながら燃料電池を作動させると、反応生成水に酸性ガスが溶け込むことにより生成水が酸性となり、酸性の生成水によって燃料電池内に滞留する金属イオンを洗い流すことができる点が記載されている。
【0006】
特許文献3には、固体高分子形燃料電池の酸素極に、二酸化炭素を混入した酸化剤ガスを供給しながら発電を行う固体高分子形燃料電池の特性回復方法が開示されている。
同文献には、
(A)酸素極に二酸化炭素を混入させた酸化剤ガスを供給すると、酸素極を酸性雰囲気にすることができる点、及び、
(B)酸素極が酸性雰囲気になると、カソード電極近傍に集積した不純物イオンを再び水素イオンにイオン交換させ、不純物イオンを電池外部へと排出させることができる点
が記載されている。
【0007】
特許文献4には、固体高分子形燃料電池を停止させた後、固体高分子形燃料電池の燃料ガス流路、酸化剤ガス流路、又は、冷却材流路に、発泡成分(二酸化炭素)を有する洗浄液を供給する固体高分子形燃料電池スタックの洗浄方法が開示されている。
同文献には、
(A)燃料電池スタックにより発電を行うと、燃料ガス流路、酸化剤ガス流路、あるいは、冷却材流路に微細粒子状の不純物固形分が蓄積することがある点、及び、
(B)燃料ガス流路、酸化剤ガス流路、あるいは、冷却材流路に、発泡成分を有する洗浄液を供給すると、洗浄液により電極基材やセパレータの表面又は内部に付着した不純物固形物が剥離し、除去される点
が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、固体高分子形燃料電池を停止させた後、電解質膜に接するようにキレート剤(シュウ酸)の水溶液を供給し、次いで、電解質膜に接するように洗浄水を供給する燃料電池の劣化回復処理方法が開示されている。
同文献には、
(A)燃料電池内にキレート剤の水溶液を流通させると、キレート剤と、電解質膜中に存在している金属イオンとによりキレート錯体が形成され、さらに、形成されたキレート錯体が電解質膜外に抽出され、電解質膜から金属イオンが除去される点、及び、
(B)燃料電池内に洗浄水を流通させると、セル内に残留しているキレート剤及びキレート錯体が洗浄水によってセル外に洗い流される点
が記載されている。
【0009】
特許文献1、2には、MEAを無機酸で洗浄し、あるいは、MEAに酸性ガスを含む反応ガスを供給しながら発電を行うと、MEA内の金属イオンを除去することができる点が記載されている。しかし、無機酸であるHCl及びH2SO4は、触媒の白金を被毒する。また、同じく無機酸であるHNO3は、触媒担体である炭素を酸化させる。そのため、特許文献1、2に記載の方法では、十分な発電性能が得られないという問題がある。
また、酸性ガスは、配管を強く腐食させるおそれがあるだけでなく、安全に取り扱う必要があるため、特許文献2に記載の方法ではシステムが煩雑になるという問題がある。
【0010】
また、特許文献3には、MEAにCO2を含む酸化剤ガスを供給しながら発電を行うと、不純物イオンを燃料電池外に排出できる点が記載されている。しかしながら、CO2は弱酸であるため、特許文献3に記載の方法では十分な洗浄効果が得られない。
また、特許文献4には、発泡成分(二酸化炭素)を有する洗浄液を供給する固体高分子形燃料電池スタックを洗浄する方法が開示されている。しかしながら、同文献に記載の方法では、微粒子状の不純物を除去できたとしても、金属イオンの除去は困難である。
【0011】
また、特許文献5には、キレート剤を用いて金属イオンを除去する方法が記載されている。しかしながら、キレート剤による洗浄では、金属イオンを十分に捕集することができないだけでなく、キレート剤が白金を被毒し、十分な発電性能が得られないという問題がある。
さらに、発電性能を低下させることなく、固体高分子形燃料電池に含まれる有害な金属イオンを無害化するための手段を備えた燃料電池システム、あるいは、このような手段を備えた金属イオン除去装置が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001-332282号公報
【特許文献2】特許第5135784号公報
【特許文献3】特開2002-042849号公報
【特許文献4】特開2008-310970号公報
【特許文献5】特開2000-260455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、発電性能を低下させることなく、固体高分子形燃料電池に含まれる有害な金属イオンを無害化するための手段を備えた燃料電池システムを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、発電性能を低下させることなく、固体高分子形燃料電池に含まれる有害な金属イオンを無害化するための手段を備えた金属イオン除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池システムは、以下の構成を備えている。
(1)前記燃料電池システムは、
固体高分子形燃料電池と、
前記固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池システムを制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記固体高分子形燃料電池は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加された膜電極接合体を備えている。
(3)前記制御装置は、
前記膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンの無害化処理を実行するか否かを判定する判定手段と、
前記無害化処理を実行すべきと判定された後、前記燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、これによって前記膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、前記金属イオンを前記タングステン化合物に吸着させる電位制御手段と
を備えている。
【0015】
本発明に係る金属イオン除去装置は、以下の構成を備えている。
(1)前記金属イオン除去装置は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加されている膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池において、前記膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンを除去するために用いられる。
(2)前記金属イオン除去装置は、
前記固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記金属イオン除去装置を制御する制御装置と
とを備えている。
(3)前記制御装置は、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において前記固体高分子形燃料電池を発電させ、これによって前記膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、前記金属イオンを前記タングステン化合物に吸着させる電位制御手段を備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る燃料電池システムにおいて、膜電極接合体のいずれかの部位にはタングステン化合物が添加されている。この状態で、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行うと、膜電極接合体内において過酸化水素が発生し、膜電極接合体が過酸化水素雰囲気に暴露される。
この時、生成した過酸化水素がタングスタン化合物と反応し、タングステン過酸化物が生成する。また、タングステン過酸化物は、さらにα-Keggin型ポリタングステン酸となる。続いて、膜電極接合体に含まれる金属イオンは、α-Keggin型ポリタングステン酸のKegginシェルの中にトラップされ、ヘテロタングステン酸となる。その結果、発電性能を低下させることなく、金属イオンを無害化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Feイオン添加無しの各サンプル溶液(実施例1~2、比較例1~2)のH22分解率とベンゼンスルホン酸(BS)残存率を示す図である。
図2】Feイオン添加有りの各サンプル溶液(実施例3~4、比較例3~4)のH22分解率とベンゼンスルホン酸(BS)残存率を示す図である。
図3】各サンプル溶液(実施例1~18、比較例4~6)のH22分解率に及ぼすH22濃度の影響を示す図である。
図4】電圧とH22発生率との関係を示す図である。
図5】電圧とH22濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池システム]
本発明に係る燃料電池システムは、以下の構成を備えている。
【0019】
[構成1]
以下の構成を備えた燃料電池システム。
(1)前記燃料電池システムは、
固体高分子形燃料電池と、
前記固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池システムを制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記固体高分子形燃料電池は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加された膜電極接合体を備えている。
(3)前記制御装置は、
前記膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンの無害化処理を実行するか否かを判定する判定手段と、
前記無害化処理を実行すべきと判定された後、前記燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、これによって前記膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、前記金属イオンを前記タングステン化合物に吸着させる電位制御手段と
を備えている。
【0020】
[構成2]
前記電位制御手段は、前記燃料電池システムのアイドリング時、始動時、及び/又は、停止時に、前記セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において前記発電を行う手段を含む構成1に記載の燃料電池システム。
【0021】
[構成3]
前記燃料電池システムは、余剰電力を貯蔵するための電力貯蔵装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記電位制御手段を実行したときに発生する電力を前記電力貯蔵装置に貯蔵する手段を含む
構成1又は2に記載の燃料電池システム。
【0022】
[構成4]
前記電力貯蔵装置は、二次電池及び/又はキャパシタである構成3に記載の燃料電池システム。
【0023】
[構成5]
前記タングステン化合物は、酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、酸化タングステン(+VI)n水和物(n=1~3、nは非整数を含む)、タングステンカーバイド、及び、タングステン酸塩からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む構成1から4までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【0024】
[構成6]
前記金属イオンは、Fe、Cu、Ni、Al、Co、及び、Tiからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素のイオンを含む構成1から5までのいずれか1つに記載のの燃料電池システム。
【0025】
[1.1. 固体高分子形燃料電池]
固体高分子形燃料電池は、一般に、
(a)電解質膜の一方の面にアノード触媒層が接合され、他方の面にカソード触媒層が接合された膜電極接合体(MEA)、
(b)アノード触媒層の外側に配置されたアノードガス拡散層、及び、カソード触媒層の外側に配置されたカソードガス拡散層、並びに、
(c)アノードガス拡散層の外側に配置されたアノードセパレータ、及び、カソードガス拡散層の外側に配置されたカソードセパレータ
を備えている。
固体高分子形燃料電池は、このようなMEA、ガス拡散層、及び、セパレータからなる単セルが複数個積層された構造(スタック構造)を備えている。
【0026】
[1.1.1. 膜電極接合体]
[A. 電解質膜]
電解質膜は、固体高分子電解質を含む。本発明において、電解質膜に含まれる固体高分子電解質の種類は、特に限定されない。
固体高分子電解質としては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などのフッ素系電解質、
(b)スルホン酸基などの酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、又は、これらの誘導体からなる全芳香族炭化水素系電解質、
(c)脂肪族炭化水素系電解質の高分子鎖の一部に芳香環を有する部分芳香族炭化水素系電解質、
などがある。
【0027】
電解質膜は、固体高分子電解質のみを含むものでも良く、あるいは、固体高分子電解質と補強材との複合体であっても良い。
補強材としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂の多孔膜や不織布、
(b)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの炭化水素系樹脂の多孔膜や不織布、
などがある。
【0028】
[B. アノード触媒層]
電解質膜の一方の面には、アノード触媒層が接合されている。アノード触媒層は、水素酸化反応に対して活性を有する電極触媒(アノード触媒)と、触媒層アイオノマとを備えている。アノード触媒は、水素酸化反応に対する活性を有する触媒粒子(A)のみからなるものでも良く、あるいは、触媒粒子(A)が担体表面に担持されているものでも良い。
本発明において、触媒層アイオノマ、触媒粒子(A)、及び担体の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0029】
アノード側の触媒層アイオノマは、電解質膜を構成する固体高分子電解質と同一の材料からなるものでも良く、あるいは、異なる材料でも良い。
触媒粒子(A)としては、例えば、貴金属、2種以上の貴金属を含む合金、1種又は2種以上の貴金属と1種又は2種以上の卑金属との合金などがある。
担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0030】
[C. カソード触媒層]
電解質膜の他方の面には、カソード触媒層が接合されている。カソード触媒層は、酸素還元反応に対して活性を有する電極触媒(カソード触媒)と、触媒層アイオノマとを備えている。カソード触媒は、酸素還元反応に対する活性を有する触媒粒子(B)のみからなるものでも良く、あるいは、触媒粒子(B)が担体表面に担持されているものでも良い。
本発明において、触媒層アイオノマ、触媒粒子(B)、及び担体の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0031】
カソード側の触媒層アイオノマは、電解質膜を構成する固体高分子電解質と同一の材料からなるものでも良く、あるいは、異なる材料でも良い。
触媒粒子(B)としては、例えば、貴金属、2種以上の貴金属を含む合金、1種又は2種以上の貴金属と1種又は2種以上の卑金属とを含む合金などがある。
担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0032】
[1.1.2. アノードガス拡散層、カソードガス拡散層]
MEAの両面には、通常、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層が配置される。本発明において、ガス拡散層の構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。
ガス拡散層は、通常、カーボンペーパー等からなる基材と、基材の表面に形成されたマイクロポーラス層とを備えている。マイクロポーラス層は、通常、カーボン等の導電性粒子と、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂との複合体からなる。
【0033】
[1.1.3. アノードセパレータ、カソードセパレータ]
固体高分子形燃料電池において、アノードガス拡散層の外側にはアノードセパレータが配置され、カソードガス拡散層の外側にはカソードセパレータが配置される。各セパレータのMEA側の表面には、反応ガスを流すためのガス流路が形成されている。
本発明において、セパレータの材料及び構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料及び構造を選択することができる。
【0034】
[1.1.4. タングステン化合物]
本発明において、MEAのいずれかの部位にタングステン化合物の微粒子が添加されている。微粒子は、電解質膜、アノード触媒層、又は、カソード触媒層のいずれか1箇所に添加されていても良く、あるいは、2箇所以上に添加されていても良い。
【0035】
[A. 材料]
本発明において、「タングステン化合物」とは、Wを含む化合物であって、フェントン反応(過酸化水素からヒドロキシラジカル(・HO)を生成させる反応)に対して活性を持つ金属イオンを無害化させる作用がある化合物をいう。
このような作用を有するタングステン化合物としては、例えば、
(a)酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、
(b)酸化タングステン(+VI)n水和物(n=1~3、nは非整数を含む)、
(c)タングステンカーバイド、
(d)タングステン酸塩
などがある。MEAには、これらのいずれか1種が添加されていても良く、あるいは、2種以上が添加されていても良い。
【0036】
酸化タングステンは、無水物であっても良く、あるいは、水和物であっても良い。タングステン化合物は、特に、WO2、WO3、WO3・(1/3)H2O、WO3・H2O、又はWO3・2H2Oが好ましい。WO2若しくはWO3、又は、これらの水和物は、他のタングステン化合物に比べて過酸化水素分解能及び金属イオンをトラップする機能が格段に高いので、微粒子の材料として特に好適である。
タングステン酸塩としては、例えば、Al2(WO4)3、BaWO4、FeWO4、Ni2WO4、Cu2WO4、ZnWO4、Ce2(WO4)3などがある。
【0037】
[B. 含有量]
タングステン化合物が電解質膜に添加されている場合において、「タングステン化合物の含有量(mass%)」とは、電解質膜に含まれる電解質の質量(W1)とタングステン化合物の質量(W2)の和(=W1+W2)に対するタングステン化合物の質量(W2)の割合(=W2×100/(W1+W2))をいう。
一方、タングステン化合物がアノード触媒層又はカソード触媒層に添加されており、かつ、触媒粒子が担体に担持されている場合において、「タングステン化合物の含有量」とは、担体の質量(C)に対するタングステン化合物の質量(Ww)の比(=Ww/C)をいう。
本発明において、タングステン化合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
【0038】
例えば、タングステン化合物が電解質膜に添加されている場合において、一般に、タングステン化合物の含有量が多くなるほど、MEAの耐久性が向上する。このような効果を得るためには、タングステン化合物の含有量は、0.1mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、タングステン化合物の含有量が過剰になると、電解質膜の機械的強度が低下し、電解質膜が割れるおそれがある。あるいは、微粒子の凝集体が膜を貫通し、ガスリークの起点になる場合がある。従って、タングステン化合物の含有量は、10.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、5.0mass%以下である。
【0039】
また、例えば、タングステン化合物が触媒層に添加されており、かつ、触媒粒子が担体に担持されている場合において、一般に、タングステン化合物の含有量が多くなるほど、MEAの耐久性が向上する。このような効果を得るためには、タングステン化合物の含有量(=Ww/C)は、0.01以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.1以上である。
一方、タングステン化合物の含有量が過剰になると、触媒層内の電子伝導を阻害したり、電解質膜の機械的な割れや裂けの起点となったりするおそれがある。従って、タングステン化合物の含有量(=Ww/C)は、0.24以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.16以下である。
【0040】
[C. 平均粒径]
「タングステン化合物の微粒子の平均粒径」とは、顕微鏡観察下において、無作為に選択した200個以上の微粒子の最大寸法の平均値をいう。
【0041】
微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、微粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、微粒子が凝集して表面積が小さくなり、過酸化水素を効率よく分解することができなくなる場合がある。従って、微粒子の平均粒径は、1nm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、8nm以上である。
一方、微粒子が電解質膜に添加される場合において、微粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、機械的強度が低下して電解質膜が割れるおそれがある。また、微粒子が電解質膜を貫通する形で配置されると、ガスリークが生じる場合がある。従って、微粒子の平均粒径は、50nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、40nm以下である。
【0042】
[1.1.5. 金属イオン]
膜電極接合体のいずれかの部位には、不可抗力により不純物としての金属イオンが混入している場合がある。
本発明において、「金属イオン」とは、不可抗力により膜電極接合体に混入した不純物イオンであって、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンをいう。
【0043】
製造直後の固体高分子形燃料電池には、製造プロセスに起因する不純物イオンが混入していることがある。また、経時劣化した固体高分子形燃料電池には、反応ガスや加湿水に含まれる不純物イオン、あるいは、配管等から溶出した不純物イオンが混入することがある。混入した不純物イオンは、通常、電解質膜や触媒層アイオノマの酸基のプロトンとイオン交換する。これらの不純物イオンは、電解質膜や触媒層アイオノマのプロトン伝導度を低下させるだけでなく、過酸化水素からヒドロキシラジカル(・OH)を生成させ、固体高分子電解質を劣化させる原因となる。
【0044】
本発明に係る燃料電池システムは、このような不純物イオンをタングステン化合物で無害化させる手段を備えている。この点が、従来とは異なる。
本発明に係る手段を用いて無害化させることが可能な金属イオンとしては、例えば、Fe、Cu、Ni、Al、Co、又は、Tiからなる金属元素のイオンなどがある。
MEAは、これらのいずれか1種のイオンが混入しているものでも良く、あるいは、2種以上のイオンが混入しているものでも良い。
【0045】
[1.2. 燃料ガス供給装置、酸化剤ガス供給装置]
「燃料ガス供給装置」とは、固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給するための装置をいう。
「酸化剤ガス供給装置」とは、固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給すための装置をいう。
本発明において、燃料ガス供給装置及び酸化剤ガス供給装置の構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。
【0046】
[1.3. 電力貯蔵装置]
本発明に係る燃料電池システムは、余剰電力を貯蔵するための電力貯蔵装置をさらに備えていても良い。本発明において、電力貯蔵装置は、燃料電池システムの通常運転時に発生した余剰電力を貯蔵するために用いられるだけでなく、金属イオンを無害化処理する際に発生する余剰電力を貯蔵するためにも用いられる。この点が、従来とは異なる。
本発明において、電力貯蔵装置の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。電力貯蔵装置としては、例えば、二次電池、キャパシタなどがある。電力貯蔵装置には、これらのいずれか1つを用いても良く、あるいは、2以上を組み合わせて用いても良い。
【0047】
[1.4. 制御装置]
「制御装置」とは、燃料電池システムを制御するための装置をいう。制御装置は、通常運転時において、燃料ガス供給装置、酸化剤ガス供給装置などの燃料電池システムを作動させるために必要な各種の装置の動作を制御するための手段を備えている。
【0048】
本発明において、制御装置は、各種の装置の動作を制御する手段に加えて、
(a)膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンの無害化処理を実行するか否かを判定する判定手段と、
(b)無害化処理を実行すべきと判定された後、燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、これによって膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、金属イオンをタングステン化合物に吸着させる電位制御手段と
をさらに備えている。
【0049】
[1.4.1. 判定手段]
「判定手段」とは、膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンの無害化処理を実行するか否かを判定するための手段をいう。
無害化処理を実行するか否かを判定するための手段は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
【0050】
例えば、判定手段は、固体高分子形燃料電池の累積作動時間Ttotalが第1臨界値ε1以上(又は、ε1超)か否かを判断する手段であっても良い。
一般に、固体高分子形燃料電池の作動時間が長くなるほど、外部から混入する不純物イオンの含有量が多くなる。そのため、現実に劣化が生じているか否かにかかわらず、Ttotalがε1以上又はε1超となったところで無害化処理を実行すると、ラジカル攻撃により固体高分子電解質が劣化する前に金属イオンを無害化することができる。
【0051】
あるいは、判定手段は、時々刻々と変化する固体高分子形燃料電池の電流と電圧を逐次取得し、電流値がある特定の値(基準電流値)であるときの電圧(基準電圧)が第2臨界値ε2以下(又は、ε2未満)であるか否かを判断する手段であっても良い。
電解質膜や触媒層アイオノマの酸基のプロトンが金属イオンで置換されると、電解質膜や触媒層アイオノマのプロトン伝導度が低下する。その結果、金属イオンによる置換量が多くなるほど、基準電圧が低下する。そのため、基準電圧がε2以下又はε2未満となったところで無害化処理を実行すると、ラジカル攻撃により固体高分子電解質が劣化する前に金属イオンを無害化することができる。
【0052】
[1.4.2. 電圧制御手段]
「電圧制御手段」とは、無害化処理を実行すべきと判定された後、燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、これによって膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、金属イオンをタングステン化合物に吸着させる手段をいう。
【0053】
[A. 電圧制御(無害化処理)の実行のタイミング]
判定手段において、無害化処理を実行すべきと判定された場合、燃料電池システムが稼働している期間中のいずれかのタイミングにおいて、無害化処理が実行される。無害化処理は、後述するように、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行うことにより行われる。無害化処理を実行するタイミングは、セル電圧を0.3V以下に維持することが可能なタイミングであれば良く、特に限定されない。
【0054】
しかしながら、通常運転時において、燃料電池に要求される電力は時々刻々と変化するために、セル電圧を0.3V以下に維持することは難しい。従って、電位制御手段は、燃料電池システムのアイドリング時、始動時、及び/又は、停止時に、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行う手段を含むものが好ましい。
【0055】
[B. セル電圧]
無害化処理を実行する場合、セル電圧は、0.3V以下である必要がある。これは、セル電圧を0.3V以下にすると、過酸化水素が発生しやすくなるためである。セル電圧は、好ましくは、0.16V以下、さらに好ましくは、0.07V以下である。
【0056】
フェントン活性を有する金属イオンが共存する環境下において過酸化水素を発生させると、過酸化水素からヒドロキシラジカルが発生し、ヒドロキシラジカルが電解質を攻撃する場合がある。
これに対し、フェントン活性を有する金属イオン及びタングステン化合物が共存する環境下において、セル電圧が0.3V以下となる条件下で発電を行うと、MEAが過酸化水素雰囲気に暴露される。その結果、金属イオンがタングステン化合物に吸着され、金属イオンが無害化される。
【0057】
[C. 処理時間]
セル電圧を0.3V以下に維持する時間(以下、「処理時間」ともいう)は、目的に応じて最適な時間を選択するのが好ましい。一般に、処理時間が短くなりすぎると、無害化処理が不十分となる。一方、処理時間を必要以上に長くしても、効果に差が無く、実益がない。従って、処理時間は、これらの点を考慮して最適な時間を選択するのが好ましい。
【0058】
なお、無害化処理は連続的に行っても良く、あるいは、断続的に行っても良い。無害化処理を断続的に行う場合であっても、総処理時間が金属イオンの無害化に必要な時間以上の時間であれば、十分な効果が得られる。
【0059】
[D. 余剰電力の処理]
燃料電池システムのアイドリング時、始動時、及び/又は、停止時に、セル電圧が0.3V以下となる条件下で発電を継続するためには、無害化処理時に発生した余剰電力を何らかの方法を用いて消費する必要がある。
【0060】
例えば、燃料電池システムが余剰電力を貯蔵するための電力貯蔵装置をさらに備えている場合、制御装置は、電位制御手段を実行したときに発生する電力を電力貯蔵装置に貯蔵する手段を含むものが好ましい。
なお、余剰電力を他の方法で処理することが可能である場合(例えば、燃料電池発電システムに含まれるエアコンプレッサー、加湿器などの補給器類を稼働させることにより余剰電力を処理できる場合)には、電力貯蔵装置を省略することができる。
【0061】
[2. 金属イオン除去装置]
本発明に係る金属イオン除去装置は、以下の構成を備えている。
【0062】
[構成7]
以下の構成を備えた金属イオン除去装置。
(1)前記金属イオン除去装置は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加されている膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池において、前記膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンを除去するために用いられる。
(2)前記金属イオン除去装置は、
前記固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記金属イオン除去装置を制御する制御装置と
とを備えている。
(3)前記制御装置は、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において前記固体高分子形燃料電池を発電させ、これによって前記膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、前記金属イオンを前記タングステン化合物に吸着させる電位制御手段を備えている。
【0063】
[構成8]
前記タングステン化合物は、酸化タングステン(+IV、+V、+VI)、酸化タングステン(+VI)n水和物(n=1~3、nは非整数を含む)、タングステンカーバイド、及び、タングステン酸塩からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む構成7に記載の金属イオン除去装置。
【0064】
[構成9]
前記金属イオンは、Fe、Cu、Ni、Al、Co、及び、Tiからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素のイオンを含む構成7又は8に記載の金属イオン除去装置。
【0065】
[2.1. 用途]
[2.1.1. 適用対象]
本発明に係る金属イオン除去装置は、電解質膜、アノード触媒層、及び/又は、カソード触媒層にタングステン化合物の微粒子が添加されている膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池において、膜電極接合体に混入した、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンを除去するために用いられる。
【0066】
すなわち、本発明に係る金属イオン除去装置は、製造直後の固体高分子形燃料電池の初期化、及び、経時劣化した固体高分子形燃料電池の再生のいずれにも用いることができる。この場合、固体高分子形燃料電池は、電位制御手段を実行可能な限りにおいて、燃料電池システムから取り外された状態のものでも良く、あるいは、燃料電池システムに組み込まれた状態のものであっても良い。
【0067】
[2.1.2. タングステン化合物]
本発明に係る金属イオン除去装置により金属イオンを無害化するためには、膜電極接合体のいずれかの部位にタングステン化合物の微粒子が添加されている必要がある。
ここで、「タングステン化合物」とは、Wを含む化合物であって、フェントン反応に対して活性を持つ金属イオンを無害化させる作用がある化合物をいう。タングステン化合物の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0068】
[2.1.3. 金属イオン]
「金属イオン」とは、不可抗力により膜電極接合体に混入した不純物イオンであって、フェントン反応に対して活性を有する金属イオンをいう。金属イオンの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0069】
[2.2. 燃料ガス供給装置、酸化剤ガス供給装置]
「燃料ガス供給装置」とは、固体高分子形燃料電池のアノードに燃料ガスを供給するための装置である。
「酸化剤ガス供給装置」とは、固体高分子形燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給すための装置をいう。
本発明において、燃料ガス供給装置及び酸化剤ガス供給装置の構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。
【0070】
[2.3. 制御装置]
「制御装置」とは、金属イオン除去装置を制御するための装置をいう。制御装置は、通常、燃料ガス供給装置、酸化剤ガス供給装置などの金属イオン除去装置を作動させるために必要な各種の装置の動作を制御するための手段を備えている。
【0071】
本発明において、制御装置は、各種の装置の動作を制御する手段に加えて、
セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行い、これによって膜電極接合体を過酸化水素雰囲気に暴露し、金属イオンをタングステン化合物に吸着させる電位制御手段
をさらに備えている。
電位制御手段の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0072】
[3. 作用]
例えば、Fe2+は、フェントン反応に対して活性を有することが知られている。次の式(1)に示されるように、フェントン反応によってFe2+と過酸化水素とが反応すると、ヒドロキシラジカル(・OH)が生成する。このラジカルが電解質膜を攻撃することで、電解質膜が化学劣化することが知られている。
Fe2+ + H22 → Fe3+ + OH- + OH・ …(1)
【0073】
一方、例えば、WO3は、タングステン化合物の一種であり、フェントン反応に対して活性を持つ金属イオンを無害化させる作用がある。次の式(2)に示されるように、WO3が過酸化水素と反応すると、タングステン過酸化物が生成する(参考文献1)。
2WO3 + 4H22 → [W211]2- + 2H+ + 3H2O …(2)
[参考文献1]Materials and Design 116(2017)160-170
【0074】
さらに、生成したタングステン過酸化物は、次の式(3)に示されるように、[W1239]6-を経て(参考文献2)、式(4)に示されるように、α-Keggin型ポリタングステン酸となる。
6[W211]2- + 6H+ → [W1239]6- + 12O2 + 3H2O …(3)
[W1239]6- + H2O → [W1240]8- + 2H+ …(4)
[参考文献2]Polyhedron 29(2010)2595
【0075】
続いて、式(5)及び式(6)に示されるように、FeイオンがKegginシェル中にトラップされ、ヘテロタングステン酸となる。
Fe2+ + [W1240]8- → [FeW1240]6- …(5)
Fe3+ + [W1240]8- → [FeW1240]5- …(6)
【0076】
本発明に係る燃料電池システムは、このような原理に基づいて、金属イオンを無害化することを特徴とする。すなわち、本発明に係る燃料電池システムにおいて、膜電極接合体のいずれかの部位にはタングステン化合物が添加されている。この状態で、セル電圧が0.3V以下に維持される条件下において発電を行うと、膜電極接合体内において過酸化水素が発生し、膜電極接合体が過酸化水素雰囲気に暴露される。
【0077】
この時、生成した過酸化水素がタングスタン化合物と反応し、タングステン過酸化物が生成する。また、タングステン過酸化物は、さらにα-Keggin型ポリタングステン酸となる。続いて、膜電極接合体に含まれる金属イオンは、α-Keggin型ポリタングステン酸のKegginシェルの中にトラップされ、ヘテロタングステン酸となる。その結果、発電性能を低下させることなく、金属イオンを無害化することができる。
【実施例0078】
(実施例1~4、比較例1~4)
[1. 試験方法]
10mLの0.1M過塩素酸水溶液中に、所定量のタングステン化合物、Ceイオン源、Feイオン源、H22、及び、ベンゼンスルホン酸(以下、「BS」ともいう)を添加し、サンプル溶液を得た。各サンプル溶液中のH22濃度は、1mass%とした。タングステン化合物には、WO2又はWO3を用いた。Ceイオン源には、Ce(NO3)3・6H2Oを用いた。Feイオン源には、FeSO4・7H2Oを用いた。BSは、・OHによる攻撃に弱いため、・OHラジカルの生成の有無を確認するために添加した。表1及び表2に、各試薬の添加量を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
サンプル溶液を80℃で1時間加熱した。その後、サンプル溶液中のBSとH22の量を、それぞれ、1H-NMR(重水中)及びパックテスト((株)共立理化学研究所製)を用いて定量した。
【0082】
[2. 結果]
[2.1. Feイオン添加無しのサンプル溶液]
図1に、Feイオン添加無しの各サンプル溶液(実施例1~2、比較例1~2)のH22分解率とベンゼンスルホン酸(BS)残存率を示す。図1より、以下のことが分かる。
【0083】
(1)比較例2の結果から、80℃で1時間の加熱でH22は自己分解しないことが分かった。また、比較例2においてBS残存率がほぼ100%であったことから、Feイオンを添加しなかった場合、・OHラジカルが生成しないことを確認できた。
(2)実施例2のWO3は、H22をほとんど分解しなかった。一方、実施例1のWO2は、H22を15%分解した。さらに、実施例1ではBSがほぼ100%残存していることから、WO2は、H22を分解する際に・OHラジカルを生成しないと考えられる。
(3)比較例1のCe3+は、H22を分解しないことが分かった。
【0084】
[2.2. Feイオン添加有りのサンプル溶液の結果]
図2に、Feイオン添加有りの各サンプル溶液(実施例3~4、比較例3~4)のH22分解率とベンゼンスルホン酸(BS)残存率を示す。図2より、以下のことが分かる。
【0085】
(1)比較例4の結果から、サンプル溶液中にFeイオンを添加すると、H22が25%程度分解し、かつ、BS残存率が65%程度まで低下することが分かった。これは、フェントン反応によりFeイオンとH22とが反応して・OHが生成し、生成した・OHがBSを分解するためである。
(2)Ceイオンを添加した比較例3の場合、H22分解率とBS残存率は、比較例4とほぼ同等であった。Ceイオンは・OHを不活性化することでフッ素系電解質膜の化学劣化を抑制することが知られている。しかし、BSはフッ素系電解質に比べて化学的耐久性が低いため、Ceイオンが・OHを不活性化するよりも先にBSの劣化が進行しているものと考えられる。
【0086】
(3)実施例3(WO2)と実施例4(WO3)は、比較例4よりH22の分解率が高くなった。実施例1と実施例2の結果も踏まえ、WOxはFeイオン存在下でH22分解を促進していると考えられる。加えて、実施例3(WO2)と実施例4(WO3)では、Feイオン存在下でもほとんどBSが分解されなかった。
(4)以上の結果から、WOxは、・OHを生成することなくH22を分解できることが分かった。これは、WOxがFeイオンをトラップするためと考えられる。また、WOは・OHの生成を抑制する作用があるので、これを電解質膜に添加すれば、電解質膜の化学劣化を抑制することができると考えられる。
【0087】
(実施例5~16、比較例5~6)
[1. 試験方法]
以下の手順に従い各種のサンプル溶液を作製した。
[1.1. Feイオン添加無しのサンプル溶液]
(1)実施例5: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は実施例1と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(2)実施例6: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は実施例2と同様にして、サンプル溶液を作製した。
【0088】
(3)実施例7: WO2に代えてWO3・H2O(WO3で同mol数)を添加した以外は実施例1と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(4)実施例8: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は実施例7と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(5)実施例9: WO2に代えてWO3・2H2O(WO3で同mol数)を添加した以外は実施例1と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(6)実施例10: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は実施例9と同様にして、サンプル溶液を作製した。
【0089】
[1.2. Feイオン添加有りのサンプル溶液]
(1)実施例11: WO2に代えてWO3・H2O(WO3で同mol数)を添加した以外は実施例3と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(2)実施例12: WO2に代えてWO3・2H2O(WO3で同mol数)を添加した以外は実施例3と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(3)実施例13: H22のmol量を1/10(0.1mass%)とした以外は実施例3と同様にして、サンプル溶液を作製した。
【0090】
(4)実施例14: H22のmol量を1/10(0.1mass%)とした以外は実施例11と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(5)実施例15: H22のmol量を1/10(0.1mass%)とした以外は実施例12と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(6)実施例16: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は実施例4と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(7)実施例17: H22のmol量を1/10倍(0.1mass%)とした以外は実施例4と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(8)実施例18: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は実施例12と同様にして、サンプル溶液を作製した。
【0091】
[1.3. Feイオンのみを含むサンプル溶液]
(1)比較例5: H22のmol量を10倍(10mass%)とした以外は比較例4と同様にして、サンプル溶液を作製した。
(2)比較例6: H22のmol量を1/10(0.1mass%)とした以外は比較例4と同様にして、サンプル溶液を作製した。
【0092】
[2. 結果]
実施例1と同様にして、各サンプル溶液のH22分解率を測定した。図3に、各サンプル溶液(実施例1~18、比較例4~6)のH22分解率に及ぼすH22濃度の影響を示す。図3より、以下のことが分かる。
【0093】
(1)比較例4~6の場合(サンプル溶液中にFeイオンのみが含まれる場合)、H22濃度によらず、ほぼ同等のH22分解率であった。一方、実施例1~18の場合、H22濃度が高くなるほど、H22分解率が高くなった。さらに、いずれのH22濃度においても、Feイオン存在下でH22分解率が高くなった。
(2)H22濃度が1mass%である場合、水和水がないWO3(実施例4)のH22分解率は約70%であるのに対し、水和水を有するWO3・H2O(実施例11)及びWO3・2H2O(実施例12)のH22分解率は、ほぼ100%であった。
【0094】
(3)H22濃度が0.1mass%である場合、水和水を有するWO3・H2O(実施例14)及びWO3・2H2O(実施例15)、並びに、水和水がないWO2(実施例13)のいずれも、H22分解率は80%前後と高くなった。
(4)図3において、実施例13~15の結果を外挿すると、H22濃度が0.01mass%である時のH22分解率は60%程度になることが推定される。
【0095】
(実施例19)
[1. 試験方法]
回転リング-ディスク電極(RRDE)法を用いて、H22発生率を測定した。電解液には0.1M過塩素酸水溶液を用いた。参照電極(RE)には可逆水素電極(RHE)を用い、対極(CE)にはPtメッシュ電極を用いた。ディスク電極には多結晶Pt(PINE製、ACE6DC050PT)を用いた。リング電極(H22検出極)には多結晶Pt(PINE製、AFE6R1PT)を用いた。ポテンショスタットには北斗電工(株)製、HA-151B/HB-305を用いた。
【0096】
リング電極及びディスク電極のクリーニングのため、Ar雰囲気下でサイクリックボルタンメトリー(CV)を実施した。CV条件は、電位範囲:0.05~1.4V、掃引速度:0.5V/s、サイクル数:100、回転数:1600rpmとした。
次に、ディスク電極及びリング電極を所定の条件に設定し、Ar雰囲気下でバックグランド電流を測定した。ディスク電極の条件は、電位範囲:0.05~1.0V、掃引速度:0.02V/s、サイクル数:3、回転数1600:rpmとした。また、リング電極の条件は、電位:1.3Vに固定、とした。
さらに、測定時の雰囲気をO2雰囲気下とした以外はバックグラウンド電流の測定条件と同一条件下において、ディスク電流(Id)及びリング電流(Ir)を測定した。
【0097】
[2. H22発生率の算出]
ディスク電極上では、次の式(7)で表されるO2の4電子還元反応と、次の式(8)で表されるO2の2電子還元反応が進行する。O2の4電子還元反応により水が生成し、O2の2電子還元反応によりH22が生成する。
主反応(4電子):O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O …(7)
副反応(2電子):O2 + 2H+ + 2e- → H22 …(8)
一方、リング電極上では、次の式(9)で表されるH22の酸化反応が進行する。
22 → O2 + 2H+ + 2e- …(9)
【0098】
2の4電子還元反応の反応速度をv4e、O2の2電子還元反応の反応速度をv2eとすると、H22発生率XH2O2は、次の式(10)で表される。
H2O2=v2e/(v4e+v2e) …(10)
一方、O2の4電子還元反応電流をI4e、O2の2電子還元反応電流をI2eとすると、I4e及びI2eは、それぞれ、次の式(11)及び式(12)で表される。但し、Fは、ファラデー定数である。
4e=4Fv4e …(11)
2e=2Fv2e …(12)
【0099】
さらに、Id及びIrは、それぞれ、次の式(13)及び式(14)で表される。但し、Nは、補足率であり、ディスク電極で生成したH22の内、リング電極上で検出されるH22の割合を表す。ここでは、N=0.256である。
d=I4e+I2e …(13)
r=I2e×N …(14)
式(11)~式(14)を式(10)に代入すると、次の式(15)が得られる。
【0100】
【数1】
【0101】
[3. 結果]
図4に、電圧とH22発生率との関係を示す。図4より、電圧が0.3V以下になると、H22発生率が上昇し始めることが分かる。
図5に、電圧と、H22発生率から換算したH22濃度との関係を示す。電圧が0.3V(H22発生率=0.48%)である場合、H22濃度は0.9mass%であった。また、電圧が0.069V(H22発生率=5.6%)である場合、H22濃度は10mass%であった。
【0102】
実際の燃料電池において、Ptの表面の一部は、触媒層アイオノマに被覆され、担体カーボンに埋没し、あるいは、被毒物質に被毒されているために、Ptの表面の全部が電気化学反応に使用できない。そのため、実際の燃料電池内にあるPtの表面状態は、本実験の溶液中におけるPtの表面状態と異なっており、実際の燃料電池では図5に示した電圧とH22濃度との関係が成立しないことが予想される。
しかし、膜厚、触媒の状態、発電条件によって最適化が必要であるが、確実にH22が生成する0.3V以下に電圧を制御してH22濃度を高め、WOxがH22を・OHの発生なしに分解し、Feイオンをトラップすることで、電解質膜の化学劣化を抑制することができると推測される。
【0103】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る燃料電池システムは、車載動力源、定置型小型発電器などに用いることができる。また、本発明に係る金属イオン除去装置は、製造直後の固体高分子形燃料電池の初期化、あるいは、経時劣化した固体高分子形燃料電池の再生に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5