(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002322
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1051 20160101AFI20231228BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20231228BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20231228BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/10 101
C25B13/04 301
C25B13/02 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101439
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】津坂 恭子
(72)【発明者】
【氏名】星川 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】北野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 数馬
(72)【発明者】
【氏名】進藤 孝介
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H126FF05
5H126GG11
5H126GG18
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】固体高分子電解質の劣化を抑制する作用がある劣化抑制剤を含む新規な電解質膜を提供すること。
【解決手段】電解質膜は、固体高分子電解質と、前記固体高分子電解質内に分散させた炭化タングステン粒子とを備えている。前記炭化タングステン粒子の含有量(=前記電解質膜の総質量に対する、前記炭化タングステン粒子の質量の割合)は、0.001mass%以上2.0mass%以下である。前記炭化タングステン粒子の平均粒径は、3nm以上1000nm以下が好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散させた炭化タングステン粒子と
を備え、
前記炭化タングステン粒子の含有量は、0.001mass%以上2.0mass%以下である
電解質膜。
【請求項2】
前記炭化タングステン粒子の平均粒径は、3nm以上1000nm以下である請求項1に記載の電解質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜に関し、さらに詳しくは、固体高分子電解質の劣化を抑制する作用がある添加物を含む電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーダ電解装置、水電解装置、燃料電池などにおいて、電気化学反応を生じさせる部位に膜電極接合体(MEA)が用いられている。MEAは、酸素と水素の直接反応若しくは電気化学反応によって直接的に生成するラジカル、又は、過酸化水素を経て生成するラジカルにより、電解質が攻撃され劣化すると言われている。
例えば、燃料電池においては、ラジカル攻撃により電解質膜の抵抗増加、クロスリークの増加、薄膜化による短寿命化などが起こることが知られている。さらには、ラジカル攻撃により生成する劣化生成物により触媒被毒が起こり、電解性能や電池性能が低下するおそれがある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)ナフィオン(登録商標)中のスルホン酸基のモル数に対して0.25倍モルのH2WO4、及び、0.05倍モルのCe(NO3)3を添加した触媒インク、又は、
(b)ナフィオン(登録商標)中のスルホン酸基のモル数に対して0.25倍モルのH2WO4、及び、0.05倍モルのMn(NO3)3を添加した触媒インク
を用いて作製されたMEAが開示されている。
【0004】
同文献には、
(A)W化合物と遷移金属化合物とを適当な溶媒に分散又は溶解させると、W化合物と遷移金属化合物の混合物、又は、W化合物と遷移金属化合物との反応生成物である複合化合物が得られるが、これらは固体高分子電解質の劣化抑制剤として機能する点、
(B)劣化抑制剤(H2WO4、Ce(NO3)3、Mn(NO3)3)を含む触媒インクを用いて作製されたMEAは、劣化抑制剤を含まない触媒インクを用いて作製されたMEAに比べて、固体高分子電解質の分子量維持率が高い点、及び、
(C)劣化抑制剤が難溶性であると、MEAからの溶出が抑制されるので、電解質の劣化抑制効果を長期間持続することができる点
が記載されている。
【0005】
特許文献1には、W化合物と遷移金属化合物の混合物又は複合化合物が固体高分子電解質の劣化抑制剤として機能する点が記載されている。しかしながら、劣化抑制剤として酸化タングステンを用いた場合、酸化タングステンは溶解度の比較的高い水和物になりやすい。そのため、劣化抑制剤の溶出による劣化抑制効果の低下や、溶出したカチオンによるプロトン伝導度の阻害などが起きる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、固体高分子電解質の劣化を抑制する作用がある劣化抑制剤を含む新規な電解質膜を提供することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、プロトン伝導度を低下させることなく、固体高分子電解質の劣化を抑制することが可能な電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る電解質膜は、
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散させた炭化タングステン粒子と
を備え、
前記炭化タングステン粒子の含有量は、0.001mass%以上2.0mass%以下である。
【発明の効果】
【0009】
炭化タングステンは、それ単独で、高い過酸化水素分解能を有し、過酸化水素を無害化させる作用がある。また、炭化タングステンは、電位により表面酸化及び酸化分解を起こすこともあるが、酸化タングステンもまた同様の過酸化水素分解能を持つ。そのため、炭化タングステンが表面酸化又は酸化分解した場合であっても、劣化抑制効果は持続される。さらに、タングステン化合物の中には、水に溶解しやすいものもある。しかしながら、タングステン化合物はカチオンの他にアニオン状態でも溶解するため、カチオン型の添加物と比較して、電解質膜中でのプロトン伝導阻害が小さいと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1~2及び比較例2で得られたセルの初期I-V特性である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電解質膜]
本発明に係る電解質膜は、
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散させた炭化タングステン粒子と
を備えている。
【0012】
[1.1. 固体高分子電解質]
本発明において、固体高分子電解質の材料は、特に限定されない。固体高分子電解質は、フッ素系電解質又は炭化水素系電解質のいずれであっても良い。電解質膜には、これらのいずれか1種の固体高分子電解質が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
また、固体高分子電解質の酸基の種類についても、特に限定されない。酸基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基等がある。固体高分子電解質には、これらの酸基のいずれか1種類のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0013】
フッ素系電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などがある。
フッ素系電解質は、高分子の構造内にC-H結合を含まない全フッ素系電解質の他に、高分子の構造内にC-H結合とC-F結合とを含む部分フッ素系電解質も含まれる。
【0014】
炭化水素系電解質としては、例えば、
(a)スルホン酸基などの酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、又は、これらの誘導体からなる全芳香族炭化水素系電解質、
(b)脂肪族炭化水素系電解質の高分子鎖の一部に芳香環を有する部分芳香族炭化水素系電解質、
などがある。
【0015】
[1.2. 炭化タングステン粒子]
[1.2.1. 材料]
本発明において、電解質膜に添加される劣化抑制剤は、炭化タングステン粒子からなる。炭化タングステンは、WとCの化合物であり、水に対して不溶な化合物である。また、炭化タングステンは、過酸化水素を分解する作用がある。
【0016】
[1.2.2. 平均粒径]
本発明において「平均粒径(d)」とは、BET換算粒子径(=6/(ρ・S)、ρは密度、Sは比表面積)をいう。BET換算粒子径は、一次粒径に相当する。
【0017】
本発明において、炭化タングステン粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、炭化タングステン粒子の平均粒径が小さくなるほど、少量の添加で、高い過酸化水素分解効果が得られる。しかしながら、炭化タングステン粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、固体高分子電解質内において炭化タングステン粒子が凝集し、過酸化水素を効率良く分解することができなくなる場合がある。従って、炭化タングステン粒子の平均粒径は、3nm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上である。
【0018】
一方、炭化タングステン粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、電解質膜の機械的強度の低下、割れの発生、ガスリークなどの原因となる場合がある。従って、炭化タングステン粒子の平均粒径は、1000nm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、500nm以下、さらに好ましくは、200nm以下である。平均粒径は、特に、100nm程度が好ましい。
【0019】
[1.2.3. 含有量]
「炭化タングステン粒子の含有量(mass%)」とは、電解質膜の総質量に対する、炭化タングステン粒子の質量の割合をいう。
【0020】
本発明において、炭化タングステン粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。一般に、炭化タングステン粒子の含有量が少なくなりすぎると、電解質膜の劣化が進行しやすくなる。従って、炭化タングステン粒子の含有量は、0.001mass%以上である必要がある。含有量は、さらに好ましくは、0.01mass%以上、0.1mass%以上、あるいは、1.0mass%以上である。
【0021】
一方、炭化タングステン粒子の含有量が過剰になると、電解質膜の機械的強度の低下、割れの発生、ガスリークなどの原因となる場合がある。また、炭化タングステン粒子の含有量が過剰になると、かえって化学劣化が進行する場合もある。従って、炭化タングステン粒子の含有量は、2.0mass%以下である必要がある。含有量は、さらに好ましくは、1.8mass%以下、さらに好ましくは、1.5mass%以下である。
【0022】
[1.3. 補強材]
本発明に係る電解質膜は、固体高分子電解質及び炭化タングステン粒子のみからなるものでも良く、あるいは、これらと補強材との複合体であっても良い。この場合、補強材の種類は、特に限定されない。
【0023】
補強材としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂の多孔膜や不織布、
(b)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの炭化水素系樹脂の多孔膜や不織布、
などがある。
【0024】
[2. 電解質膜の製造方法]
本発明に係る電解質膜は、
(a)固体高分子電解質及び炭化タングステン粒子が溶媒に溶解又は分散している分散液を調製し、
(b)分散液を適当な基材表面にキャストし、又は、分散液を補強材の細孔内に含浸させ、溶媒を除去する
ことにより製造することができる。
【0025】
[3. 作用]
炭化タングステンは、それ単独で、高い過酸化水素分解能を有し、過酸化水素を無害化させる作用がある。また、炭化タングステンは、電位により表面酸化及び酸化分解を起こすこともあるが、酸化タングステンもまた同様の過酸化水素分解能を持つ。そのため、炭化タングステンが表面酸化又は酸化分解した場合であっても、劣化抑制効果は持続される。さらに、タングステン化合物の中には、水に溶解しやすいものもある。しかしながら、タングステン化合物はカチオンの他にアニオン状態でも溶解するため、カチオン型の添加物と比較して、電解質膜中でのプロトン伝導阻害が小さいと推定される。
【実施例0026】
(実施例1~2、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
[1.1.1. 電解質膜の作製]
ナフィオン(登録商標)溶液に、炭化タングステン粉末(密度:15.63g/cm3、BET換算粒子径:0.13μm)を加え、さらにFe2+水溶液(加速試験のための劣化促進剤)を加えて混合し、分散液を得た。炭化タングステン粉末の添加量は、分散液を用いて電解質膜を作製した時に電解質膜中の炭化タングステン粉末の含有量が1.0mass%となる量とした。また、Fe2+水溶液の添加量は、スルホン酸基の1.0%がFe2+で置換される量とした。
【0027】
得られた分散液をフラットシャーレに採取し、常温で乾固させた。キャスト膜をアニール(140℃、15分)した後、キャスト膜を取り出し、キャスト膜を超純水に浸漬して加熱(80℃、20時間)した。その後、キャスト膜を自然乾燥させた。
【0028】
[1.1.2. 膜電極接合体(MEA)及びセルの作製]
キャスト膜から、2.5cm×2.5cmの電解質膜を切り出した。電解質膜の両面を1cm×1cmの触媒層で挟み、140℃でホットプレスし、MEAを得た。
さらに、MEAの両面をガス拡散層で挟み、これを直交流のカーボン流路を備えた角形セルに設置した。有効電極面積は、0.64cm2であった。
【0029】
[1.2. 実施例2]
BET換算粒子径が0.32μmである炭化タングステン粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、電解質膜、MEA及びセルを作製した。
【0030】
[1.3. 比較例1]
分散液への炭化タングステン粉末の添加量を、分散液を用いて電解質膜を作製した時に電解質膜中の炭化タングステン粉末の含有量が3.0mass%となる量とした以外は、実施例1と同様にして、電解質膜、MEA及びセルを作製した。
【0031】
[1.4. 比較例2]
炭化タングステン粉末を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、電解質膜、MEA及びセルを作製した。
【0032】
[2. 試験方法]
[2.1. OCV耐圧試験]
セル温度を95℃、湿度をアノード側及びカソード側のいずれも30%RHとし、アノード側には水素ガスを0.5nLmで流し、カソード側には空気を2.0nLmで流した。背圧は、アノード側及びカソード側のいずれも133kPaとなるようにした。以上の条件で90時間の耐久試験を行った。耐久試験開始後、24、48、72、及び、90時間後に排水を回収した。回収した水に溶出したF-をイオンクロマトグラフィで定量し、F-溶出量を積算した。
【0033】
[2.2. 電流-電圧(I-V)特性評価]
セル温度を95℃、湿度をアノード側及びカソード側のいずれも30%RHとし、アノード側には水素ガスを0.5nLmで流し、カソード側には空気を2.0nLmで流した。背圧は、アノード側及びカソード側のいずれも50kPaとなるようにした。0、0.02、0.03、0.05、0.1、0.2、0.3、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、及び、2.0A/cm2の順に各電流密度で2分間保持して電圧を測定した。
【0034】
[3. 結果]
[3.1. OCV耐圧試験]
表1に、規格化されたF-溶出量の比較を示す。なお、「規格化されたF-溶出量」とは、各試料のF-溶出量を比較例2のそれで除した値をいう。実施例1、実施例2、及び、比較例1の規格化されたF-溶出量は、それぞれ、0.58、0.91、及び、1.23であった。F-は、Feイオン等により発生したOHラジカルが固体高分子電解質の分子鎖を切った際に発生するため、実施例1及び2は、比較例2に対して電解質膜の劣化抑制効果があることを示している。
【0035】
また、実施例1及び実施例2は、同量の添加でも劣化抑制効果が異なった。これは、粒径の違いによる比表面積の違いに起因すると推定される。そのため、電解質膜の化学劣化抑制剤として炭化タングステンを添加する場合、粒径が小さい方が優位である。
具体的には、電解質膜の機械特性を損なわずに、かつ、水素ガス及び酸素ガスのクロスオーバーを防ぐためには、成膜時の電解質膜の膜厚以下の二次粒径が必要である。二次粒径は、望ましくは、1μm以下である。また、一次粒径及び二次粒径の下限は特に設けないが、分散性及び耐溶解性等を考慮すると、一次粒径は100nm程度が好ましく、二次粒径は500nm程度が好ましい。
【0036】
実施例1と同種の粉末の添加であっても、添加量を増やした比較例1では、実施例1に対してF-が増加した。これは、炭化タングステン粉末に最適な添加量があることを示している。比較例2よりも電解質膜の化学劣化抑制効果を向上させるには、炭化タングステン粉末の添加量は、0.001mass%以上2.0mass%以下が好ましい。化学劣化抑制効果のみを考慮すると、添加量が多く、高分散であるほど、ラジカル及び過酸化水素との衝突確率が高くなり、高い劣化抑制効果を発揮すると推定される。
【0037】
WCの化学劣化抑制能力は電位によって異なり、アノードに近い電位では化学劣化抑制剤として機能するが、カソードに近い電位では過酸化水素生成能が優位となる。そのため、凝集を伴わないままアノード側にWCが偏在すると、化学劣化抑制が優位となる。WCを少量添加した実施例1では、成膜過程での沈降などによりアノード側に多く偏在したため、化学劣化抑制が優位に働いたと考えられる。しかし、WCを多量に添加した比較例1では、カソード側にもWCが分散している状況となり、無添加と比較してF-溶出量が増大したと考えられる。
【0038】
【0039】
[3.2. 電流-電圧(I-V)特性評価]
図1に、実施例1~2及び比較例2で得られたセルの初期I-V特性を示す。測定した全電流密度領域で、実施例1~2のI-V特性は、比較例2のそれと同等であった。電解質膜の劣化抑制効果のある添加剤としてセリウムが既知であるが、セリウムはプロトン伝導を阻害する。そのため、同じ電流密度で比較した時に、セリウムを含むセルの電圧は、セリウムを含まないセルの電圧より低下することが知られている。
【0040】
これに対し、実施例1~2の結果は、劣化抑制剤として炭化タングステンを用いると、電解質膜のプロトン伝導を阻害しないまま、電解質膜の化学劣化を抑制できることを示している。これは、セリウムは電解質膜中でカチオンとして存在するのに対し、炭化タングステンは電解質膜中でカチオンとして存在しないためと推定される。すなわち、セリウムカチオンは、プロトンの伝導経路となるスルホン酸基にトラップされ、プロトンの伝導経路を阻害しうるのに対し、炭化タングステンは、電解質膜中の状態がカチオンとは限らないため、プロトン伝導の阻害効果が小さいと考えられる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。