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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023238
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】神経芽腫の治療のための抗GD2抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20240214BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 31/203 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 N
A61P35/00
A61K31/203
A61K38/22
G01N33/53 D
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023189702
(22)【出願日】2023-11-06
(62)【分割の表示】P 2020538517の分割
【原出願日】2018-09-21
(31)【優先権主張番号】17192476.4
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523087814
【氏名又は名称】ティガ ティーエックス インク
【氏名又は名称原語表記】Tiga TX, Inc.
【住所又は居所原語表記】27 Pasadena Avenue, Westerly, RI 02891, USA
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】ルーセン,ヤネット ヘンリカ ウィルヘルミナ
(72)【発明者】
【氏名】エーヴァス, ヨハネス ヘラルデス マリア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】改善された有効性を示す抗GD2抗体及び治療方法を提供する。
【解決手段】可変ドメインが、抗体ch14.18の重鎖可変領域の少なくともCDR3と、抗体ch14.18の軽鎖可変領域の少なくともCDR3とをそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域並びに、IgAヒンジドメイン及びC2ドメインを含む抗ガングリオシドGD2抗体に関し、また、GD2陽性腫瘍、好適には神経芽腫を有する対象をこれらの抗体で治療する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体可変ドメインと抗体定常ドメインとを含む抗ガングリオシドGD2抗体であって、前記可変ドメインが、抗体ch14.18の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の少なくともCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域並びに、IgAヒンジドメイン及びC2ドメインを含む、抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項2】
前記可変ドメインが、抗体ch14.18の前記重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項3】
前記可変ドメインが、抗体ch14.18の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1又は請求項2に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項4】
IgA C1ドメイン、IgA C3ドメイン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項5】
前記IgAドメイン又はヒンジ領域が、ヒトIgAドメイン又はヒトIgAヒンジ領域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項6】
前記ヒトIgAドメイン又はヒトIgAヒンジ領域が、ヒトIgA1ドメイン又はヒトIgA1ヒンジ領域である、請求項5に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項7】
好適なインビトロADCCアッセイで測定した場合に、前記抗体ジヌツキシマブよりも高い抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)を示す、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項8】
好適なインビトロCDCアッセイで測定した場合に、前記抗体ジヌツキシマブよりも低い補体依存性細胞傷害性(CDC)を示す、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項9】
好適なインビトロCDCアッセイで測定した場合に、前記抗体ジヌツキシマブの20%以下の補体依存性細胞傷害性(CDC)を示す、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項10】
前記抗体の重鎖又は軽鎖に付着したアルブミン結合ドメイン(ABD)又はZFcRNペプチドを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗ガングリオシドGD2抗体。
【請求項11】
GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療方法であって、治療上有効量の請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体を、それを必要とする前記対象に投与することを含む方法。
【請求項12】
前記対象におけるGD2陽性腫瘍細胞中のガングリオシドGD2を上方調節するのに有効な量のレチノイン酸を投与することを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象における顆粒球数を増加させるのに有効な量の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、又はこれらの組み合わせを投与することを更に含む、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、アミノ酸配列
EVQLLQSGPE LEKPGASVMI SCKASGSSFT GYNMNWVRQN IGKSLEWIGA IDPYYGGTSY NQKFKGRATL TVDKSSSTAY MHLKSLTSED SAVYYCVSGM EYWGQGTSVT VSS
を有する重鎖可変領域及びアミノ酸配列
EIVMTQSPAT LSVSPGERAT LSCRSSQSLV HRNGNTYLHW YLQKPGQSPK LLIHKVSNRF SGVPDRFSGS GSGTDFTLKI SRVEAEDLGV YFCSQSTHVP PLTFGAGTKL ELK
を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体又は請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
対象における免疫グロブリンG(IgG)関連副作用の低減に使用するための改変抗体又はその断片であって、前記改変抗体又はその断片は、
a)免疫グロブリンG(IgG)のCDR1、CDR2及びCDR3と、
b)免疫グロブリンA(IgA)の定常領域又はその一部分と、
を含み、
前記改変抗体又はその断片は、同等量の対応するIgG抗体の投与と比較して、前記対象への投与時に少なくとも1つの副作用を低減させる、
改変抗体又はその断片。
【請求項16】
IgGの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を更に含む、請求項15に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項17】
前記IgAの定常領域の一部分を含み、前記部分がヒンジ領域又は定常領域を含む、請求項15に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項18】
前記IgAのヒンジ領域及び定常領域を含む、請求項17に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項19】
前記定常領域が、前記IgAの定常重鎖及び定常軽鎖を含む、請求項17~18のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項20】
前記IgAの定常領域又はその一部分が、ヒンジドメイン及び定常重ドメインを含む、請求項17に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項21】
前記抗体又はその断片が、キメラ化、ヒト化、ヒト、又は非ヒト抗体又はその断片である、請求項15~20のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項22】
前記定常領域又はその一部分がヒト定常領域又はその一部分である、請求項15~21のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項23】
前記副作用が自然免疫応答を含む、請求項15~22のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項24】
前記自然免疫応答が補体応答を含む、請求項23に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項25】
前記補体応答がFcγR又はC1qへの抗体結合を含む、請求項24に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項26】
前記少なくとも1つの副作用の低減が、フローサイトメトリ、インビトロアッセイ、又はこれらの組み合わせを実行することによって測定される、請求項15~25のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項27】
前記フローサイトメトリが、細胞の溶解、結合、細胞死、受容体発現、又はこれらの組み合わせを測定することを含む、請求項26に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項28】
前記フローサイトメトリが、生細胞/死細胞染色を測定することを含む、請求項26~27のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項29】
前記インビトロアッセイが、ELISAアッセイ、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)アッセイ、補体依存性細胞傷害性(CDC)アッセイ、溶血アッセイ、又はこれらの組み合わせを含む、請求項26~28のいずれか一項に記載の改変抗体又は断片。
【請求項30】
前記抗体又はその断片が、対象に投与された場合に、前記対応するIgG抗体と比較して、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の増加及び補体依存性細胞傷害性(CDC)の減少をもたらす、請求項15~29のいずれか一項に記載の改変抗体又は断片。
【請求項31】
前記少なくとも1つの副作用の低減が、前記同等量の対応するIgG抗体の投与と比較して、前記少なくとも1つの副作用の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%の低減を含む、請求項15~30のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項32】
前記抗体又はその断片が、抗原性細胞又は癌細胞上に存在する標的に結合する、請求項15~31のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項33】
前記抗体又はその断片が、脳転移癌からの標的に結合する、請求項15~32のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項34】
前記抗体又はその断片が、GD2陽性癌又はCD20陽性癌に結合する、請求項15~33のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項35】
前記GD2陽性癌が、神経芽腫、網膜芽腫、黒色腫、小細胞肺癌、神経膠腫、骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫又は平滑筋肉腫である、請求項34に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項36】
前記抗体又はその断片が神経芽腫細胞に結合する、請求項15~35のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片。
【請求項37】
請求項15~36のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片及び薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物。
【請求項38】
請求項15~36のいずれか一項に記載の改変抗体又はその断片及びその使用説明書を含むキット。
【請求項39】
a)免疫グロブリンG(IgG)のCDR1、CDR2及びCDR3と、
b)免疫グロブリンA(IgA)の定常領域又はその一部分と、
を含む改変抗体又はその断片を含む薬学的組成物を対象に投与することを含む方法であって、
同等量の対応するIgG抗体を投与することと比較して、前記対象への投与時に副作用が低減される、方法。
【請求項40】
IgGの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を更に含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記IgAの定常領域又はその一部分が、前記IgAのヒンジ領域又は定常領域を含む、請求項39~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記定常領域又はその一部分が、前記IgAのヒンジ領域及び定常領域を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記定常領域が、前記IgAの定常重鎖及び定常軽鎖を含む、請求項41~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記IgAの定常領域又はその一部分が、前記IgAのヒンジドメイン及び定常重ドメインを含む、請求項39~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記抗体又はその断片が、キメラ化、ヒト化、ヒト、又は非ヒト抗体又はその断片である、請求項39~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記定常領域又はその一部分がヒト定常領域又はその一部分である、請求項39~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記副作用が自然免疫応答を含む、請求項39~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記自然免疫応答が補体応答を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記補体応答が、前記対象における疼痛、異痛、痛覚過敏又は感受性の増強をもたらす、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
前記補体応答がFcγR又はC1qへの抗体結合を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記改変抗体又はその断片を投与することが、同等量の前記対応するIgG抗体の投与と比較して、補体依存性細胞傷害性(CDC)を減少させることを含む、請求項39~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
対象におけるIgG投与に関連する疼痛又は異痛を低減する方法であって、対象における免疫グロブリンG(IgG)関連副作用の低減に使用するための改変抗体又はその断片を前記対象に投与することを含み、前記改変抗体又はその断片は、
免疫グロブリンG(IgG)のCDR1、CDR2及びCDR3と、
前記改変抗体又はその断片が、同等量の対応するIgG抗体の投与と比較して、前記対象への投与時に疼痛又は異痛を低減させる、免疫グロブリンA(IgA)の定常領域又はその一部分と、
を含む、方法。
【請求項53】
対象におけるIgG投与に起因する補体活性化を低減する方法であって、対象における免疫グロブリンG(IgG)関連副作用の低減に使用するための改変抗体又はその断片を前記対象に投与することを含み、前記改変抗体又はその断片は、
免疫グロブリンG(IgG)のCDR1、CDR2及びCDR3と、
前記改変抗体又はその断片が、同等量の対応するIgG抗体の投与と比較して、前記対象への投与時に補体活性化を低減させる、免疫グロブリンA(IgA)の定常領域又はその一部分と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の分野に関する。具体的には、本発明は、ガングリオシドGD2に結合する抗体に関する。本発明は更に、医療方法及び検出方法におけるGD2抗体の使用に関する。本発明は更に、抗体の生産のための細胞、核酸分子及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全ての小児癌患者の約12%が、最も一般的な小児期の頭蓋外固形腫瘍である神経芽腫に罹患している。患者の大部分は、死亡率50%の高リスク神経芽腫と診断される。神経芽腫の治療法は、重度の毒性を伴う集中的なマルチモダリティ治療からなる。高リスクの神経芽腫の治療法は、重度の短期及び長期の毒性を伴う集中的なマルチモダリティ治療からなる。再発率は高く、更なる治療選択肢は限られている。残存疾患は、集中化学療法、放射線療法、高用量化学療法に続く自家造血幹細胞のレスキュー及びイソトレチノインで治療される。腫瘍は、完全には根絶されない場合が多い(Matthay et al.,1999;New Engl.J.of Med Vol 341:pp1165-73)。従来の治療法を集中的に行っても、結果の改善が見られず、却って毒性が増大してしまう。
【0003】
2015年に、神経芽腫及び神経組織においてに均一に発現される糖鎖抗原である、ガングリオシドGD2向けの抗体ジヌツキシマブ(商品名Unituxin)が、神経芽腫治療に関してFDAの承認を受けた。サイトカイン及び分化因子と組み合わされたこの抗体の適用は、患者の予後を改善し、神経芽腫が免疫療法に対して感受性があることを実証した(Yu et al.,2010;New Engl.J.Med,Vol363:pp1324-34;及びSuzuki and Cheung.,2015;Expert Opin Ther Targets Vol 19:p.349-62)。ジヌツキシマブは、標準的な治療と比較して、イベントフリー生存率を有意に改善した。
【0004】
ジヌツキシマブは、マウス抗GD2抗体14.18の可変重鎖領域及び軽鎖領域、並びにヒトIgG1重鎖定常領域及びκ軽鎖定常領域からなるキメラモノクローナル抗体である(Gillies et al.,1989;J Immunol Methods,125:p.191-202)。ジヌツキシマブは、中枢神経系及び末梢神経の組織上、並びに神経芽腫を含む神経外胚葉性の多くの腫瘍上で細胞外発現されるジシアロガングリオシドであるGD2の末端ペンタオリゴ糖を対象とする(Suzuki and Cheung,2015;Expert Opin Ther Targets Vol 19:p.349-62)。SP2/0マウス骨髄腫細胞内で産生される抗体は、天然ヒト抗体に対する異常なグリコシル化をもたらし得る。欧州では、この抗体は現在、CHO細胞で産生されている。GD2が神経芽腫上では均一に発現され、他の組織上では低発現であることが、この腫瘍関連抗原を抗体療法の有望な標的としている。誘導療法後に応答が示された患者の高リスク神経芽腫に対する第一選択治療として、ジヌツキシマブをイソトレチノイン並びにIL-2及びGM-CSFの交互投与と組み合わせて使用する(Suzuki and Cheung,2015;Expert Opin Ther Targets Vol 19:p.349-62)。
【0005】
臨床研究は、ジヌツキシマブが、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)及び補体媒介性細胞傷害性(CDC)を介してその抗腫瘍効果を媒介することを示している(Barker et al.,1991;Cancer Res,Vol 51:p.144-9)。ADCC活性については、殆どの治療用抗体は、NK細胞及び、恐らくはマクロファージにその作用を依存している。驚くべきことに、神経芽腫に対するジヌツキシマブのADCC活性は、何らかの理由で顆粒球活性化にも依存している。このことは、患者の転帰が顆粒球活性化に部分的に依存することを示すことによって、インビトロ及びインビボで示されている(Barker et al.,1991;Cancer Res,Vol 51:p.144-9;Cheung et al.,2012;J Clin Oncol,Vol 30:p.426-32;及びBatova et al.,1999;Clin Cancer Res Vol 5:p.4259-63)。これらの観察結果は、顆粒球を更に刺激して神経芽腫に対する抗腫瘍応答を強化するために、現在の治療レジメンにGM-CSF又はG-CSFを含めることの根拠をなしている(Cheung et al.,2012;J Clin Oncol,Vol 30:p.426-32;及びBatova et al.,1999;Clin Cancer Res Vol 5:p.4259-63)。
【0006】
ジヌツキシマブは、良好な臨床効果を奏効する一方で、多くの毒性も伴う。最も一般的な毒性としては、頻脈、高血圧、低血圧、治療困難な疼痛、発熱、及び潰瘍が挙げられる。これらの毒性の多くは用量依存性であり、低用量では稀にしか認められない。他の毒性としては、低血糖症、低カリウム血症、悪心、嘔吐及び下痢が挙げられる(Mora J,2016,Expert review of clinical pharmacology,pp1-7;(http://dx.doi.org/10.1586/17512433.2016.1160775)。
【0007】
本発明の抗GD2抗体及び治療方法は、改善された有効性を示す。加えて、ジヌツキシマブ治療に伴う毒性が低減され、特に、臨床前モデルで示されるように、疼痛関連の毒性が抑制される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、抗体可変ドメインと抗体定常ドメインとを含む抗ガングリオシドGD2抗体であって、可変ドメインが、抗体ch14.18の重鎖可変領域の少なくともCDR3と、抗体ch14.18の軽鎖可変領域の少なくともCDR3とをそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域並びに、IgAヒンジドメイン及びC2ドメインを含む抗体を提供する。可変ドメインは、好ましくは、抗体ch14.18の重鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3並びに、抗体ch14.18の軽鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。好ましい一実施形態では、可変ドメインは、抗体ch14.18の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0009】
本発明は更に、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療方法を提供し、この方法は、治療上有効量の本発明の抗体を、それを必要とする対象に投与することを含む。本方法は、好ましくは、当該対象のGD2陽性腫瘍、好ましくは神経芽腫中のガングリオシドGD2を上方調節するのに有効な量のレチノイン酸を投与することを更に含む。本方法は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又はこれらの組み合わせを当該対象に投与することを更に含んでもよい。GM-CSF、G-CSF又はこれらの組み合わせは、対象における顆粒球数を増加させることができるが、殺細胞の誘導を改善する目的でも投与される。
【0010】
本発明は更に、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療に使用するための本発明の抗体を提供する。本発明は更に、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療に使用するための、レチノイン酸と組み合わせた本発明の抗体を更に提供する。本発明は更に、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療に使用するための、GM-CSF、G-CSF又はこれらの組み合わせと組み合わせた本発明の抗体を更に提供する。本発明は更に、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療に使用するための、GM-CSF、G-CSF又はこれらの組み合わせ及びレチノイン酸と組み合わせた本発明の抗体を更に提供する。
【0011】
GD2陽性腫瘍は、好ましくは、神経外胚葉由来の腫瘍又は肉腫などのGD2陽性神経芽腫である。好ましい一実施形態では、GD2陽性腫瘍は、GD2陽性神経芽腫、網膜芽腫、黒色腫、小細胞肺癌、神経膠腫などの脳腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、小児及び成人におけるユーイング肉腫、或いは成人における脂肪肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫又は別の軟組織肉腫である。好ましい一実施形態では、GD2陽性腫瘍は神経芽腫である。本発明の方法又は使用で治療される神経芽腫は、好ましくは、高リスクの神経芽腫である。
【0012】
好ましい一実施形態では、本発明の抗体は、アミノ酸配列
EVQLLQSGPE LEKPGASVMI SCKASGSSFT GYNMNWVRQN IGKSLEWIGA IDPYYGGTSY NQKFKGRATL TVDKSSSTAY MHLKSLTSED SAVYYCVSGM EYWGQGTSVT VSS;
を有する重鎖可変領域及び、アミノ酸配列
EIVMTQSPAT LSVSPGERAT LSCRSSQSLV HRNGNTYLHW YLQKPGQSPK LLIHKVSNRF SGVPDRFSGS GSGTDFTLKI SRVEAEDLGV YFCSQSTHVP PLTFGAGTKL ELK;
を有する軽鎖可変領域並びに、IgAヒンジドメイン及びC2ドメインを含む重鎖を含む。
【0013】
本明細書では、患者コンプライアンスの改善及び/又は免疫グロブリンG(IgG)抗体療法に伴う副作用の低減に使用するための改変抗体(engineered antibody)又はその断片を提供し、改変抗体又はその断片は、(a)免疫グロブリンG(IgG)のCDR1、CDR2及びCDR3と、(b)免疫グロブリンA(IgA)の定常領域又はその一部分とを含み、改変抗体又はその断片は、同等量の対応するIgG抗体の投与と比較して、対象への投与時に少なくとも1つの副作用を減少させる。
【0014】
一態様では、改変抗体又はその断片は、IgGの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を更に含む。一態様では、IgAの定常領域又はその一部分は、ヒンジ領域、C2定常領域、又はこれらの組み合わせを含む。一態様では、定常領域又はその一部分は、IgAのヒンジ領域及びC2定常領域を含む。一態様では、定常領域は、IgAの定常重鎖及び定常軽鎖を含む。一態様では、IgAの定常領域又はその一部分は、ヒンジドメイン及び定常重鎖ドメインを含む。一態様では、抗体又はその断片は、キメラ化、ヒト化、ヒト又は非ヒト抗体又はその断片である。一態様では、定常領域又はその一部分はヒト定常領域又はその一部分である。
【0015】
一態様では、副作用は、自然免疫応答を含む。場合によっては、自然免疫応答は、補体応答を含む。場合によっては、補体応答は、FcγR又はC1qに対するIgG結合を含む。幾つかの実施形態では、副作用は、疼痛、内臓過敏症、異痛、痛覚過敏、アレルギー性反応、及び感冒様症状のうちの1つ以上を含む。場合によっては、疼痛は、急性疼痛、片頭痛又は激しい内臓痛である。
【0016】
場合によっては、副作用の低減は、フローサイトメトリ、インビトロアッセイ、又はこれらの組み合わせを実行することによって測定される。場合によっては、フローサイトメトリは、細胞の溶解、結合、細胞死、受容体発現、又はこれらの組み合わせを測定することを含む。場合によっては、フローサイトメトリは、生細胞/死細胞染色を測定することを含む。場合によっては、インビトロアッセイは、ELISAアッセイ、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)アッセイ、補体依存性細胞傷害性(CDC)アッセイ、溶血アッセイ、又はこれらの組み合わせを含む。
【0017】
場合によっては、改変抗体又はその断片は、投与された場合に、同じCDR1、CDR2及びCDR3を含む対応するIgG抗体と比較して、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の増加及び/又は補体依存性細胞傷害性(CDC)の減少をもたらす。一態様では、減少は、同じCDR1、CDR2及びCDR3を含む同等のIgG抗体の投与と比較して、副作用が5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%から100%であることを含む。
【0018】
場合によっては、抗体又はその断片は、非癌性細胞、癌細胞、又はこれらの組み合わせ上に存在する標的に結合する。場合によっては、抗体又はその断片は、脳転移癌からの標的に結合する。場合によっては、抗体又はその断片は、GD2、ALK、hNET、GD3及びCD20のうちの1つ以上に結合する。場合によっては、GD2陽性腫瘍は、神経芽腫、網膜芽腫、黒色腫、小細胞肺癌、神経膠腫、骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫、及びこれらの任意の組み合わせである。一態様では、抗体又はその断片は、神経芽腫細胞に結合する。場合によっては、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)陽性腫瘍は、未分化大細胞リンパ腫、肺腺癌、神経芽腫、炎症性筋線維芽細胞性腫瘍、腎細胞癌、食道扁平上皮癌、乳癌、結腸腺癌、多形性膠芽腫又は甲状腺未分化癌である。場合によっては、hNET(ヒトノルエピネフリン輸送体)陽性腫瘍は、膀胱腫瘍、乳房腫瘍、前立腺腫瘍、癌、白血病、肝癌、肺癌、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、黒色腫、神経芽腫、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、又は網膜芽腫である。場合によっては、GD3陽性腫瘍は、中枢神経系の神経外胚葉性腫瘍、神経膠腫、神経芽腫、網膜芽腫、上衣腫、肉腫、黒色腫、乳癌、卵巣癌、神経膠腫、ユーイング肉腫、又は小細胞肺癌である。場合によっては、CD20陽性腫瘍は、白血病、リンパ腫又は神経芽腫である。
【0019】
本明細書では、改変抗体又はその断片及び薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物が提供される。
【0020】
本明細書では、改変抗体又はその断片及びその使用説明書を含むキットが提供される。
【0021】
本明細書では、(a)免疫グロブリンG(IgG)のCDR1、CDR2及びCDR3と、(b)免疫グロブリンA(IgA)の定常領域又はその一部分と、を含む抗体又はその断片を含む薬学的組成物を対象に投与することを含む方法であって、同じCDR1、CDR2及びCDR3を含む同等のIgG抗体を投与することと比較して、対象への投与時に副作用が低減される方法が提供される。
【0022】
本明細書では、改変免疫グロブリンG(IgG)抗体断片が提供され、この改変IgG抗体断片は、ヒトIgA抗体の少なくともヒンジドメイン及びC2ドメインを含む。場合によっては、改変IgG抗体断片は、対象に投与された場合に、ヒトIgA抗体のヒンジドメイン及びC2ドメインが存在しない同等の抗体断片と比較して、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の増加及び/又は補体依存性細胞傷害性(CDC)の減少をもたらす。
【0023】
本明細書では、IgG投与に関連する疼痛又は異痛を治療する方法であって、IgA抗体の定常領域を含む改変IgG抗体又はその断片を対象に投与することを含む方法が提供される。本明細書では、IgA抗体の定常領域を含む改変IgG抗体又はその断片を対象に投与することを含む、IgG投与に起因する補体活性化を低減する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ガングリオシドは、シグナル伝達並びに細胞の付着及び認識に重要な役割を果たすシアル酸含有スフィンゴ糖脂質である。ガングリオシドGD2は、シアル酸単位をその前駆体GM2に加えるために酵素GD3シンターゼ及びGD2シンターゼを必要とするb系列ガングリオシドである。正常組織は一般に、a系列のガングリオシドを発現し、b系列のガングリオシドは、胎児発達中に発現され、健康な成人では主に神経系に制限され、末梢神経及び皮膚メラニン細胞においては低レベルに制限される。ガングリオシドGD2の構造を図10に示す。
【0025】
ガングリオシドGD2は、神経芽腫、網膜芽腫、黒色腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、小児及び成人におけるユーイング肉腫、並びに成人における脂肪肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫及びその他の軟組織肉腫を含む神経外胚葉由来の腫瘍及び肉腫で高度に発現される。健常者におけるGD2発現は、脳並びに特定の末梢神経及びメラニン細胞に限定されると考えられている。通常、脳は正常な循環抗体ではアクセスできないため、GD2は腫瘍特異的療法における効果的な標的であると考えられる(Mahiuddin et al.,2014;FEBS letters 588:288-297を参照されたい)。Mahiuddinらは、GD2特異性抗体が存在する様々なGD2標的化アプローチを記載している。幾つかの標的療法は臨床試験段階に到達しており、第I相、第II相及び第III相試験で有望であることが示されている。
【0026】
様々なGD2抗体が現在開発中である。抗体は、ADCC及びCDCを誘導すると考えられており、特に神経芽腫は比較的感受性が高いと考えられる。標的化アプローチの有効性を改善し、毒性を低減するために、様々な手段が追求されている。最も頻繁に使用される抗体は全て、マウスIgG3抗体に由来する。マウス抗体は、近年ヒト化されている。多数の変異体が作製されている。マウス抗体14.18は、ch14.18にキメラ化され、hu14.18にヒト化されており、両方ともヒトIgG1バックグラウンドを有する(Mahiuddin et al.,2014;FEBS letters 588:288-297)。マウスIgG3抗体3F8はヒトで使用されている。ヒトの抗マウス応答を低減し、抗体の有効性を向上させると同時に、毒性を低減するために、3F8のキメラ化(ch3F8)及び3F8のヒト化(hu3F8-IgG1及びhu3F8-IgG4)を行った。SPRによるGD2結合研究では、ch3F8及びhu3F8は、m3F8に匹敵するKDを維持した。他の抗GD2抗体とは異なり、m3F8、ch3F8及びhu3F8は、実質的により遅いkoffを有した。ch3F8及びhu3F8は双方とも、m3F8と同様にインビトロで腫瘍細胞の増殖を阻害したが、他のガングリオシドとの交差反応性はm3F8のものと同等であった。ch3F8及びhu3F8-IgG1の末梢血単核細胞(PBMC)-ADCC及び多形核白血球(PMN)-ADCCは双方とも、m3F8よりも強力であった。hu3F8-IgG4には、PBMC-ADCC及びCDCは殆ど存在しなかった。hu3F8及びm3F8の生体内分布研究では、腫瘍と非腫瘍との比率が類似していた。神経芽腫異種移植片に対する抗腫瘍効果は、m3F8よりもhu3F8-IgG1の方が良好であった(Cheung et al.,2012;Oncoimmunology 1.4:477-486を参照されたい)。
【0027】
免疫グロブリン(Ig)としても知られる抗体(Ab)は、大きなタンパク質である。抗体は、免疫系の様々な構成成分と相互作用する。相互作用の幾つかは、これらの相互作用に関与する部位を含むFc領域(基部に位置する)によって媒介される。
【0028】
抗体は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質である。これらは、典型的には2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する。抗原結合断片に結合され得る5つの異なる種類の結晶性断片(Fc)を画定する、幾つかの異なる種類の抗体重鎖が存在する。5つの異なる種類のFc領域は、抗体を5つのアイソタイプにグループ化することを可能にする。特定の抗体アイソタイプのFc領域は、その特定のFc受容体(FcR)に結合できるため、抗原-抗体複合体は、結合するFcRに応じて異なる役割を仲介することができる。IgG抗体が対応するFcRに結合する能力は、相互作用部位の有無と、Fc領域内の部位に存在するグリカン(存在する場合)の構造によって調節される。抗体がFcRに結合する能力は、遭遇する異なる種類の異物ごとに適切な免疫応答を導くのに役立つ。
【0029】
全ての抗体の大まかな構造は類似しているが、タンパク質の先端の領域は非常に多様であり、わずかに異なる先端構造又は抗原結合部位を有する数百万の抗体が存在することを可能にする。この領域は、超可変領域として知られている。抗体による抗原結合の膨大な多様性は、主に超可変領域と超可変領域を含む可変ドメインとによって定義されている。
【0030】
本発明の抗体は、典型的には「完全長」抗体である。「完全長抗体」という用語は、本質的に完全な免疫グロブリン分子を含むものとして定義されるが、必ずしも完全な免疫グロブリンの全ての機能を有するわけではない。誤解を避けるために、完全長抗体は、2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する。各鎖は、定常(C)領域及び可変(V)領域を含む。完全長抗体の重鎖は、典型的には、C1、C2、C3、VH領域、及びヒンジ領域を含む。完全長抗体の軽鎖は、典型的には、CL領域及びVL領域を含む。
【0031】
抗体は、Fab部分に含まれる可変領域ドメインを介して抗原に結合する。抗体可変ドメインは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。本発明による完全長抗体は、所望の特性を提供する突然変異が存在し得る重鎖及び軽鎖を包含する。完全長抗体は、領域のうちのいずれの実質的な部分の欠失も有するべきではない。しかしながら、得られる抗体の抗原結合特性を本質的に変化させることなく、1つ又は幾つかのアミノ酸残基が置換され、挿入され、欠失され、又はこれらの組み合わせが行われているIgG分子は、用語「完全長」抗体内に包含される。例えば、「完全長」抗体は、好ましくは非CDR領域に1~10個(両端を含む)のアミノ酸残基の置換、挿入、欠失又はそれらの組み合わせを有することができるが、欠失したアミノ酸は、抗体の結合特異性に必須ではない。
【0032】
4つのヒトIgGアイソタイプは、活性化Fcγ受容体(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa)、阻害性FcγRIIb受容体、及び補体の第1の成分(C1q)に異なる親和性で結合し、非常に異なるエフェクタ機能をもたらす。IgGのFcγR又はC1qへの結合は、ヒンジ領域及びC2ドメイン内に位置する残基に依存する。C2ドメインの2つの領域は、FcγR及びC1q結合にとって重要であり、IgG2及びIgG4に固有の配列を有する。233位~236位のIgG2残基のヒトIgG1への置換は、ADCC及びCDCを大幅に減少させることが示された。更に、Idusogieらは、K322Aを含む異なる位置でのアラニン置換が補体活性化を有意に低減させることを示した。同様に、マウスIgG2AのC2ドメインにおける突然変異は、FcγRI及びC1qへの結合を低減させることが示された。ヒトIgG1のC2ドメインに多数の変異が加えられ、インビトロでADCC及びCDCに対するそれらの効果が試験された。特に、333位におけるアラニン置換は、ADCC及びCDCの両方を増加させることが報告された。Fc受容体機能は、特にBruhns et al.,2009.Blood.113(16):3716-25;Armour et al.,1999.Eur J Immunol.29(8):2613-24;Shields et al.,2001.J Biol Chem.276(9):6591-604;Idusogie et al.,2000.J Immunol.164(8):4178-84;Steurer et al.,1995.J Immunol.155(3):1165-74;及びIdusogie et al.,2001.J Immunol.166(4):2571-5に概説されている。IgG1抗体にはC1q結合部位があり、これを介して古典的経路による補体活性化が達成される。IgA抗体も補体を活性化できる。これは、代替経路、補体レクチン経路及び古典的経路を介して行うことができる(Jarvis et al.,J Immunol.1989;143(5):1703-9;Hiemstra et al.,European journal of immunology.1987;17(3):321-6;Pfaffenbach et al.,The Journal of experimental medicine.1982;155(1):231-47;Roos et al.,J Immunol.2001;167(5):2861-8;Pascal et al.,Haematologica DOI:10.3324/haematol.2011.061408;及びLohse et al.,Britisch Journal of Haematology.2011doi:10.1111/bjh.14624)。
【0033】
本発明者らは、改変されていない定常領域を有するマウスIgG、マウスキメラ化IgG又はヒト化IgG或いはヒトIgMのGD2抗体のADCC活性を、少なくともこれらのヒンジドメイン及びC2ドメインを、ヒトIgA抗体、好ましくはヒトIgA1抗体のヒンジドメイン及びC2ドメインに置き換えることによって増加させることができることを見出した。好ましい一実施形態では、C3ドメインもヒトIgA抗体のものである。好ましい一実施形態では、抗体は、本質的に完全なIgA定常領域を含む。従って、本発明は、GD2に結合することができ、ADCC活性を含み、ヒトIgA抗体のヒンジドメイン及びC2ドメインを含む抗体を提供する。本発明のGD2抗体は、CDCを誘導する能力が低下している。本発明のGD2抗体は、マウスIgG、マウスキメラ化IgG又はヒト化IgG或いはヒトIgMの元のGD2抗体と比較した場合、疼痛を誘発する能力が低下している。
【0034】
IgA定常ドメイン又はヒンジ領域は、生殖細胞系IgAドメイン又はヒンジ領域に対して、1つ以上の位置に、1つ以上のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有し得る。好ましくは、IgAドメイン又はヒンジ領域は、最大で4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせ、好ましくは最大で3個、2個又は好ましくは最大で1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。このようなタンパク質は、依然としてIgA定常ドメイン又はヒンジ領域である。IgA定常ドメイン又はヒンジ領域は、生殖細胞系IgAに対して、1つ以上の位置に、1つ以上のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有し得る。IgA定常部分(3つのドメイン及びヒンジ領域を含む)は、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個又は15個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有することができる。
【0035】
一実施形態では、本発明は、抗体可変ドメインと抗体定常ドメインとを含む抗ガングリオシドGD2抗体であって、可変ドメインが、抗体ch14.18の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の少なくともCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域並びに、IgAヒンジドメイン及びC2ドメインを含む抗体を提供する。可変ドメインは、好ましくは、図1に示すように、抗体ch14.18の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。可変ドメインは、好ましくは、図1に示すように、抗体ch14.18の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0036】
抗ガングリオシドGD2抗体重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する、抗体ch14.18の重鎖可変領域である。1つ以上の位置は、好ましくは、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。従って、CDRの配列は、図1の抗体ch14.18の重鎖可変領域について示されている通りである。重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~3個、より好ましくは0~2個、更に好ましくは0~1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。好ましい一実施形態では、本発明の抗体における重鎖可変領域は、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。
【0037】
抗ガングリオシドGD2抗体軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する、抗体ch14.18の軽鎖可変領域である。1つ以上の位置は、好ましくは、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。従って、CDRの配列は、図1の抗体ch14.18の軽鎖可変領域について示されている通りである。軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~3個、より好ましくは0~2個、更に好ましくは0~1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。好ましい一実施形態では、本発明の抗体における軽鎖可変領域は、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。
【0038】
別の一実施形態では、本発明は、抗体可変ドメインと抗体定常ドメインとを含む抗ガングリオシドGD2抗体であって、可変ドメインが、抗体3F8の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の少なくともCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域並びに、IgAヒンジドメイン及びC2ドメインを含む抗体を提供する。可変ドメインは、好ましくは、(図1に示すように)抗体3F8の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれ含む重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。可変ドメインは、好ましくは、図1に示すように、抗体3F8の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。抗ガングリオシドGD2抗体重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体3F8の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する、抗体3F8の重鎖可変領域である。1つ以上の位置は、好ましくは、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。従って、CDRの配列は、図1の抗体3F8の重鎖可変領域について示されている通りである。重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体3F8の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体3F8の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~3個、より好ましくは0~2個、更に好ましくは0~1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。好ましい一実施形態では、本発明の抗体における重鎖可変領域は、図1に示す抗体3F8の重鎖可変領域配列に対して、0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。
【0039】
抗ガングリオシドGD2抗体軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体3F8の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する、抗体3F8の軽鎖可変領域である。1つ以上の位置は、好ましくは、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。従って、CDRの配列は、図1の抗体3F8の軽鎖可変領域について示されている通りである。軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体3F8の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体3F8の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~3個、より好ましくは0~2個、更に好ましくは0~1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。好ましい一実施形態では、本発明の抗体における軽鎖可変領域は、図1に示す抗体3F8の軽鎖可変領域配列に対して、0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。
【0040】
IgAには2つのサブクラス(IgA1及びIgA2)があり、単量体及び二量体の形態として産生され得る。本発明における抗体は、好ましくは単量体抗体である。本発明の抗体におけるIgA要素は、好ましくはヒトIgA要素である。IgA要素は、IgA1要素又はIgA2要素であり得る。本発明の抗体中のIgA要素は、全てのIgA1要素、又は全てのIgA2要素、又はIgA1要素とIgA2要素との組み合わせであり得る。IgA要素は、好ましくはヒトIgA要素である。好ましくは、抗体中の全てのIgA要素はヒトIgA要素である。IgA要素は、IgA1要素、好ましくはヒトIgA1要素であり得る。IgA要素はまた、IgA2要素、好ましくはIgA2m(1)要素、好ましくはヒトIgA1要素であり得る。抗体のC1ドメイン及び/又はC3ドメインは、IgG C1ドメイン、IgG C3ドメイン、又はこれらの組み合わせであり得る。C1ドメイン、C3ドメイン、又はこれらの組み合わせは、IgA C1ドメイン、IgA C3ドメイン、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。IgA C1ドメイン及び/又はヒンジ領域は、ヒトIgA C1ドメイン及び/又はヒトIgAヒンジ領域であることが好ましい。当該ヒトIgA C1ドメイン及び/又はヒトIgAヒンジ領域は、ヒトIgA1 C1ドメイン又はヒトIgA1ヒンジ領域であることが好ましい。当該ヒトIgA C1ドメイン及び/又はヒトIgAヒンジ領域は、ヒトIgA2m(1)C1ドメイン又はヒトIgA2m(1)ヒンジ領域であることが好ましい。抗体の定常ドメイン及びヒンジ領域は、好ましくはヒト定常領域及びヒンジ領域であり、好ましくはヒトIgA抗体のものである。抗体の定常ドメイン及びヒンジ領域は、ヒトIgA1又はヒトIgA2m(1)定常ドメイン及びヒンジ領域であることが好ましい。
【0041】
ヒト定常領域は、自然界に見られるようなヒト対立遺伝子に対して0~15個のアミノ酸変化を有し得る。様々な理由でアミノ酸変化が導入される場合がある。非限定的な例としては、抗体の生産又は均質性の改善、循環における半減期の適応、HC/LCの組み合わせの安定性の改善、グリコシル化の最適化、二量化又は複合形成の調節、ADCC活性の調節が挙げられるが、これらに限定されない。ヒト定常領域は、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個及び15個のアミノ酸変化を、自然界に見られるようなヒト対立遺伝子に対して有し得る。変化したアミノ酸は、好ましくは、異なるアイソタイプの対応する位置におけるアミノ酸から選択されるものである。
【0042】
一実施形態では、重鎖の定常領域は、IgA2定常領域、好ましくはヒトIgA2定常領域、好ましくはヒトIgA2m(1)である。一態様では、ヒト定常領域は変異したIgA2m(1)配列である。
【0043】
一実施形態では、抗体は、IgA2m(1)配列の定常領域を含み、この配列は、好ましくは少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、3個、4個、5個で、好ましくは7個の以下の変異:N166G、P221R、N337T、I338L、T339S、C331Sを有し、ヒトIgA2m(1)抗体であるC末端アミノ酸配列の変異は、「...VDGTCY」から「...VDGT」である。図13は、ヒトIgA1、IgA2m(1)及び、好ましい変位されたIgA2m(1)(hIgA2.0)の配列を示す。図13Eも参照されたい。
【0044】
一実施形態では、GD2抗体は、図13Eの定常領域を有する重鎖を含み、この領域は、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個及び15個のアミノ酸変化を、166位、221位、337位、338位、339位及び331位のアミノ酸が、166G、221R、337T、338L、339S及び331Sである場合の図13Eの配列に対して有する。好ましくは、ヒトIgA2m(1)抗体であるC末端アミノ酸配列は、「...VDGTCY」が「...VDGT」となっている。
【0045】
あらゆるサブタイプのヒトIgA配列は、抗体の重鎖に関連している。重鎖はアイソタイプスイッチングを受ける。
【0046】
言及するIgA抗体は、好ましくは、ch14.18可変ドメイン又は3F8可変ドメイン、好ましくはch14.18可変ドメインを含む。
【0047】
以下を含む抗ガングリオシドGD2抗体:
図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する、抗体ch14.18の重鎖可変領域。1つ以上の位置は、好ましくは、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。従って、CDRの配列は、図1の抗体ch14.18の重鎖可変領域について示されている通りである。重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。重鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~3個、より好ましくは0~2個、更に好ましくは0~1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。好ましい一実施形態では、本発明の抗体における重鎖可変領域は、図1に示す抗体ch14.18の重鎖可変領域配列に対して、0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。
図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する、抗体ch14.18の軽鎖可変領域。1つ以上の位置は、好ましくは、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。従って、CDRの配列は、図1の抗体ch14.18の軽鎖可変領域について示されている通りである。軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~4個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。軽鎖可変領域は、好ましくは、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、1つ以上の位置に、0~3個、より好ましくは0~2個、更に好ましくは0~1個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。ここで、1つ以上の位置は、CDR1、CDR2及びCDR3領域内の位置ではない。好ましい一実施形態では、本発明の抗体における軽鎖可変領域は、図1に示す抗体ch14.18の軽鎖可変領域配列に対して、0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組み合わせを有する。
好ましくは図13Eに示すアミノ酸配列を含むIgA重鎖で、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個及び15個のアミノ酸変化を、166位、221位、337位、338位、339位及び331位のアミノ酸が、166G、221R、337T、338L、339S及び331Sである場合の図13Eの配列に対して有する。好ましくは、ヒトIgA2m(1)抗体であるC末端アミノ酸配列は、「...VDGTCY」が「...VDGT」となっている。及び
好ましくは抗体ch14.18の軽鎖定常ドメイン。
【0048】
本発明の抗ガングリオシドGD2抗体は、好ましくは、好適なインビトロADCCアッセイで測定した場合に、抗体ジヌツキシマブよりも高い抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)を示す。本発明の抗ガングリオシドGD2抗体は、好ましくは、適切なインビトロCDCアッセイで測定した場合に、抗体ジヌツキシマブよりも低い補体依存性細胞傷害性(CDC)を示す。様々なADCC及びCDCアッセイが、当業者に利用可能である。本発明の文脈において、実施例に記載のADCCアッセイ又はCDCアッセイを使用することが好ましい。請求項に記載の抗体のADCC機能は、好ましくは古典的なクロム放出アッセイで(例えば実施例に記載されているように)測定される。請求項に記載の抗体のCDC機能は、好ましくは、フローサイトメトリにおける7-AAD陽性に基づく方法で測定される(実施例を参照)。抗体は、好ましくは、適切なインビトロCDCアッセイで測定した場合に、抗体ジヌツキシマブの20%以下、より好ましくは10%以下の補体依存性細胞傷害性(CDC)を呈する。好ましい一実施形態では、抗体は、抗体の重鎖又は軽鎖に結合したアルブミン結合ドメイン(ABD)を含む。アルブミン結合ドメインの重鎖又は軽鎖への結合に関する詳細については、Meyer,et al.,2016;MAbs.Vol.8.No.1;を参照されたい。別の一実施形態では、抗体の半減期を延長するために、別のドメインが追加される。好ましい一実施形態では、ドメインヒトアルブミンのDIIIドメイン。そのようなドメインは、抗体のIgA部分の定常領域に物理的に結合していることが好ましい。
【0049】
一態様では、IgG抗体の可変領域及びIgA抗体の定常領域を含む、本明細書で提供される改変抗体又はその断片は、副作用を低減することができる。一態様では、本明細書で提供される改変抗体又はその断片は、IgG抗体療法に関連する副作用を低減することができる。一態様では、本明細書で提供される改変抗体又はその断片は、自然免疫応答に関連する副作用を低減することができる。このような自然免疫応答に関連する副作用は、炎症、補体系活性化、白血球(マスト細胞、食細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好塩基球、好酸球、ナチュラルキラー細胞及びガンマデルタ細胞活性であり得る。場合によっては、本明細書で提供される改変抗体又はその断片は、補体系活性化に関連する副作用を低減することができる。
【0050】
補体系活性化は、抗体又はその断片が病原体を除去するか、又は破壊のためにそれらを標識する能力を補完する免疫系の生化学的カスケードであり得る。補体カスケードは、肝臓で合成される様々な血漿タンパク質を含み、これらのタンパク質は、炎症性細胞の動員を誘発すること、破壊対象の病原体の標識(オプソニン化)、病原体の原形質膜の穿孔、中和された抗原-抗体複合体の排除、及びこれらの任意の組み合わせを含む様々な機能を有する。幾つかの態様では、副作用の低減は、補体系活性化の低減を含み得る。
【0051】
一態様では、IgG抗体又はその一部分は、標的と反応して、抗原結合IgGのFc部分へのC1qの結合をもたらし、その後、C1r及びC1sが結合して補体活性化に関連する酵素であるC1を形成することができる。C1は、次いでC4を酵素によってC4a及びC4bに切断することができる。C4bは、標的の表面上の隣接するタンパク質及び炭水化物に結合し、次いでC2に結合する。活性化されたC1は、C2を、C2a及びC2bに切断し、C3転換酵素であるC4b2aを形成することができる。C3転換酵素は、C3をC3a及びC3bに切断することができる。補体活性化経路の更なるステップでは、C3bは、C3転換酵素であるC4b2aに結合して、C5をC5a及びC5bに切断できるC5転換酵素であるC4b2a3bを形成することができる。C5bは、標的に結合し、また、C6、C7、c8及びC9に結合して、膜攻撃複合体(MAC)であるC5b6789nを形成することができる。MACは、溶菌を引き起こすことにより、グラム陰性菌や外来抗原を表出している細胞(ウイルス感染細胞、腫瘍細胞など)を破壊することができる。一態様では、補体応答の低減は、C1q、C1r、C1s、C1、C4、C4a、C4b、C2、C2a、C2b、C4b2a、C3、C3a、C3b、C4b2a3b、C5、C5a、C5b、C6、C7、C8、C9、C5b6789m、MAC及びこれらの任意の組み合わせのうちのいずれか1つの不在又は低下したレベルによって測定することができる。一態様では、補体応答の低減は、本明細書に記載のIgG可変領域及びIgA定常領域又はその一部分を含む改変抗体に対するC1q、C1r、C1s、C1、C4、C4a、C4b、C2、C2a、C2b、C4b2a、C3、C3a、C3b、C4b2a3b、C5、C5a、C5b、C6、C7、C8、C9、C5b6789m及びMACのいずれか1つから選択される補体因子の結合の、同等量のIgG抗体と比較した場合の約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、100%の低減を指すことができる。
【0052】
補体応答の低減は、ELISA、フローサイトメトリ、血液分析又はインビトロアッセイを実施して、C1q、C1r、C1s、C1、C4、C4a、C4b、C2、C2a、C2b、C4b2a、C3、C3a、C3b、C4b2a3b、C5、C5a、C5b、C6、C7、C8、C9、C5b6789m、MAC及びこれらの任意の組み合わせのうちのいずれか1つから選択される補体因子の量を定量化することによって判定できる。幾つかの態様では、本明細書で提供される抗体又はその断片は、提供されるCDR1、CDR2及びCDR3領域を含む同等の抗体又はその断片と比較して、より低いレベルの補体因子をもたらし得る。幾つかの態様では、本明細書で提供される改変IgG-IgA抗体又はその断片は、同じCDR1、CDR2及びCDR3を含む同等のIgG抗体又はその断片と比較して、より低いレベルの補体因子をもたらし得る。補体応答の低減は、実施例に記載するのと同様に、標的細胞の補体依存性溶解のフローサイトメトリによる定量化によっても測定することができる。
【0053】
本明細書に記載の改変抗体又はその断片の投与によって、IgGの投与と比較して軽減又は低減され得る更なる副作用は、IgG抗体療法に関連する任意の副作用を指すことができる。IgG抗体療法に関連する副作用には、炎症、血栓塞栓事象、溶血事象、補体系関連事象、及びこれらの組み合わせが含まれ得る。場合によっては、IgG抗体療法は、炎症、高血圧、低血圧、疼痛、発熱、蕁麻疹、アレルギー、悪寒、脱力感、下痢、悪心、嘔吐、かぶれ、掻痒、咳、便秘、浮腫、頭痛、発熱、息切れ、筋肉痛、疼痛、食欲低下、不眠症、めまい、アナフィラキシー、血栓症、心不全、出血、肝炎、腸炎、粘膜炎、サイトカイン症候群、甲状腺機能低下症、低ナトリウム血症、低カリウム血症、毛細管漏出症候群及び異痛などの副作用をもたらし得る。
【0054】
一態様では、補体応答、補体関連の副作用又は毒性を低減することにより、それを必要とする対象の治療コンプライアンスを改善することができる。場合によっては、改変抗体などの本明細書で提供される抗体又はその断片は、同じCDR1、CDR2及びCDR3領域を含む同等のIgG抗体と比較して、より高い用量、より長い治療期間、又はより多くの頻度で投与することができる。場合によっては、改変抗体などの、本明細書で提供される抗体又はその断片は、同じCDR1、CDR2及びCDR3領域を含む同等のIgG抗体の用量よりも、約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍高い用量で投与することができる。場合によっては、改変抗体などの、本明細書で提供される抗体又はその断片は、同じCDR1、CDR2及びCDR3領域を含む同等のIgG抗体の期間よりも、約1時間、5時間、10時間、1日、2日、3日、4日、5日、7日、14日、24日、30日、毎月、隔月、隔年、毎年及び毎日、より長い期間投与することができる。場合によっては、改変抗体などの本明細書で提供される抗体又はその断片は、同じCDR1、CDR2及びCDR3領域を含む同等のIgG抗体と比較して、毎時、毎日、毎週、毎月、毎年などのより多くの頻度で投与することができる。
【0055】
特定の位置でアミノ酸を変化させる理由が、免疫原性であってもよい。他の理由には、抗体の生産又は均質性の改善が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の抗体は、マウスバックグラウンドに由来する可変重鎖領域及び可変軽鎖領域を有する。このような可変ドメインを有する抗体をヒトに使用することができる。現在、このような可変ドメインを非免疫化することが好ましい。非免疫化は通常、マウス配列を可能な限りよりヒト配列に近い配列に改変することを伴う。典型的には、このような改変は、可変ドメインから1つ以上のT細胞エピトープ又は1つ以上のB細胞エピトープを除去することを目的とする。好ましい一実施形態では、1つ以上の(ヒト)T細胞エピトープが、このエピトープの少なくとも1つのアミノ酸を異なるアミノ酸で置換することによって除去されている。多くの場合、いわゆる「アンカー」アミノ酸を置換すれば十分である。適切な置換アミノ酸は、特定のVH又はVLの体細胞過剰変異体から得ることができる。ヒト抗体のその位置に天然に存在するアミノ酸による置換が好ましい。また、ヒトB細胞エピトープは、エピトープの少なくとも1つのアミノ酸を異なるアミノ酸で置換することによって除去することができる。多くの場合、エピトープの1つのアミノ酸のみを置換すれば十分である。適切な置換アミノ酸は、特定のVH又はVLの体細胞過剰変異体から得ることができる。ヒト抗体のその位置に天然に存在するアミノ酸による置換が好ましい。好ましくは、本発明の可変ドメインは、1つ以上の外部残基に関して修飾されている。そのような残基は、免疫系に容易に遭遇し、好適にはヒト残基と選択的に置き換えられて、弱免疫原性の表面又は実質的に非免疫原性の表面のいずれかを含むハイブリッド分子を提供する。適切な置換アミノ酸は、特定のVH又はVLの体細胞過剰変異体から得ることができる。ヒト抗体のその位置に天然に存在するアミノ酸による置換が好ましい。従って、本発明は、ヒト化重鎖可変領域、ヒト化軽鎖可変領域、又はこれらの組み合わせを含む本発明の抗体を更に提供する。本明細書で定義される抗体の軽鎖は、軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、対応する抗体の軽鎖定常領域であることが好ましい。ch14.18軽鎖可変領域を含む軽鎖は、好ましくは、ch14.18抗体の軽鎖定常領域も含む。3F8軽鎖可変領域を含む軽鎖は、好ましくは、3F8抗体の軽鎖定常領域も含む。
【0056】
本発明は更に、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療方法を提供し、この方法は、治療上有効量の本発明の抗体を、それを必要とする対象に投与することを含む。また、GD2陽性腫瘍を有するか又はGD2陽性腫瘍を有するリスクのある対象の治療に使用するための本発明の抗体も提供される。治療は、好ましくは、当該対象の神経芽腫細胞中のガングリオシドGD2を上方調節するのに有効な量のレチノイン酸を投与することを更に含む。治療は、好ましくは、対象における顆粒球数を増加させる、及び/又はADCCを増加させるのに有効な量の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、G-CSF、又はこれらの組み合わせを投与することを更に含む。GM-CSF、G-CSF又はこれらの組み合わせは、好ましくは、治療対象の種のものである。好ましくは、ヒトGM-CSF、ヒトG-CSF、又はこれらの組み合わせである。
【0057】
GD2陽性腫瘍は、好ましくは、神経外胚葉由来の腫瘍又は肉腫などのGD2陽性神経芽腫である。好ましい一実施形態では、GD2陽性腫瘍は、GD2陽性神経芽腫、網膜芽腫、黒色腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、小児及び成人におけるユーイング肉腫、或いは成人における脂肪肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫又は別の軟組織肉腫である。好ましい一実施形態では、GD2陽性腫瘍は神経芽腫である。本発明の方法又は使用で治療される神経芽腫は、好ましくは、高リスクの神経芽腫である。
【0058】
レチノイン酸は、好ましくは13-シス-レチノイン酸(イソトレチノイン)である。
【0059】
本発明は更に、本発明の抗体又は本発明の使用のための方法又は抗体を提供し、抗体は、アミノ酸配列
EVQLLQSGPE LEKPGASVMI SCKASGSSFT GYNMNWVRQN IGKSLEWIGA IDPYYGGTSY NQKFKGRATL TVDKSSSTAY MHLKSLTSED SAVYYCVSGM EYWGQGTSVT VSS
を有する重鎖可変領域及び、アミノ酸配列
EIVMTQSPAT LSVSPGERAT LSCRSSQSLV HRNGNTYLHW YLQKPGQSPK LLIHKVSNRF SGVPDRFSGS GSGTDFTLKI SRVEAEDLGV YFCSQSTHVP PLTFGAGTKL ELK
有する軽鎖可変領域を含む。
【0060】
本発明はまた、本明細書に記載の抗体の重鎖、軽鎖、又は好ましくは両方をコードする核酸分子又は複数の核酸分子からなる組み合わせを提供する。核酸分子又は組み合わせは、好ましくは、記載の抗体の発現のための1つ以上の配列を更に含む。これらのような発現配列の非限定的な例は、プロモータ、転写終結配列、エンハンサ、イントロンなどである。これらのような配列は、例えば細胞の染色体内の核酸の組み込み部位、又は当該核酸を含むベクターによってin cisで提供できるため、必ずしも核酸分子上に存在しなくてもよい。細胞染色体内の適切な組み込み部位は、例えば相同組換えにより容易に決定及び標的化することができる。
【0061】
本明細書に記載の核酸分子又は組み合わせを含む細胞が更に提供される。
【0062】
本発明の核酸分子又は組み合わせ、或いは本発明の核酸分子又は複数の核酸分子からなる組み合わせを含む細胞を使用して、本明細書に記載の抗体を生産するための手段及び方法が更に提供される。
【0063】
本発明による核酸分子又は組み合わせは、例えば、細胞内に含まれる。この核酸がこの細胞内で発現されるとき、核酸分子の翻訳産物は、本発明の抗体であり得るか、又はその中に組み込まれ得る。従って、本発明はまた、本発明による核酸分子又は組み合わせを含む細胞も提供する。本発明は更に、本発明の核酸分子又は組み合わせを含み、本発明の抗体を産生することができる細胞を提供する。本発明の抗体をコードする1つ以上の核酸分子を発現すること及び、培地、細胞又はこれらの組み合わせから抗体を回収することを含む細胞の培養を含む、本発明の抗体の生産方法が更に提供される。当該細胞は、好ましくは動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞である。細胞は、好ましくは、ヒトで使用するための抗体の生産に通常使用される細胞である。このような細胞の非限定的な例は、CHO細胞、NSO細胞、HEK細胞、好ましくはHEK293F細胞及びPER.C6細胞である。細胞を、特定の目的に合わせて特別に設計してもよく、例えば抗体の生産に使用される殆どの細胞株は、懸濁液中での増殖、高密度での増殖及び他の属性に適合されている。本発明の目的のために、好適な細胞は、本発明による抗体を含むことができ、好ましくは産生することができる任意の細胞である。
【0064】
明確さ及び簡潔な説明のために、特徴は本明細書では同じ又は別個の実施形態の一部として記載されているが、本発明の範囲は、記載される特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を含んでもよいことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】抗体ch14.18の可変重鎖アミノ酸及び可変軽鎖アミノ酸(それぞれパネルA及びB、下線部はCDR領域)。抗体ch14.18の可変重鎖及び可変軽鎖をコードするDNA配列(それぞれパネルC及びD)。3F8については、キメラガンマ1重鎖(配列番号1)及びキメラカッパ軽鎖(配列番号2)が示されている。それぞれのCDRには下線が引かれている。
図2】重鎖(HC)と軽鎖(LC)との幾つかの比をトランスフェクション後のIgA ch14.18の定量化。IgG1及びIgA1生産に5つの異なる比を使用した。最適比を大規模生産に使用した。
図3】A:IgA ch14.18のカッパ軽鎖特異的親和性クロマトグラフィ。B:タンパク質濃度を表すIgA ch14.18のUV吸収のサイズ排除クロマトグラフィを、トレースによって示す。
図4】社内で生産及び精製されたIgG1及びIgA ch14.18のフローサイトメトリでのGD2発現神経芽腫細胞株IMR32及びSK-N-FIへの結合。
図5】IMR32細胞株とのインキュベーションの1時間後及び4時間後のIgG1及びIgAのCDCアッセイ。補体活性化による細胞溶解を、フローサイトメトリ分析によって分析した。15%プールしたヒト血清を添加し、細胞を37℃で60分間及び4時間インキュベートした。細胞溶解の量を、7-AAD染色によって測定した。
図6】IgG1及びIgAをIMR32(パネルA及びB)及びSK-N-FI(パネルC及びD)細胞株と4時間インキュベーションした後の白血球(パネルA及びC)及びPMN(パネルB及びD)のADCCアッセイ。赤血球を溶解し、残りのエフェクタ細胞をウェルに添加した。37℃で4時間インキュベートした後、51Cr放出を、ベータガンマカウンタによって毎分計数(cpm)で測定した。特異的溶解の割合を、トリトンの存在下で最大溶解を求め、抗体及びエフェクタ細胞の不在下で基礎溶解を求めることにより計算した。
図7】IMR32及びSK-N-FI細胞株とのインキュベーションの4時間後の社内で生産及び精製されたIgG1及びIgAの白血球ADCCアッセイ。赤血球を溶解し、残りのエフェクタ細胞をサイトカインと共にウェルに添加した。37℃で4時間インキュベートした後、51Cr放出を、ベータガンマカウンタによって毎分計数(cpm)で測定した。特異的溶解の割合を、トリトンの存在下で最大溶解を求め、抗体及びエフェクタ細胞の不在下で基礎溶解を求めることにより計算した。
図8】IMR32又はSK-N-FI細胞株とのインキュベーションの4時間後のIgG1及びIgA ch14.18のPMN ADCCアッセイ。PMNを、Ficoll/Histopaque分離によって単離した。続いて、様々な濃度のエフェクタ細胞、サイトカイン及び抗体を、標的細胞を含むマイクロタイタプレートに添加した。E:T比は、40:1(PMN)であった。37℃で4時間インキュベートした後、51Cr放出を、ベータガンマカウンタによって毎分計数(cpm)で測定した。特異的溶解の割合を、トリトンの存在下で最大溶解を求め、抗体及びエフェクタ細胞の不在下で基礎溶解を求めることにより計算した。
図9】異なる濃度のイソトレチノインに4日間連続して曝露した後のIMR32細胞でのGD2(パネルA)及びMHC-I(パネルB)の発現。細胞をIgA ch14.18で染色し、二次抗IgA PE又は抗MHC-I-PEで検出した。
図10】ガングリオシドGD2の概略図である。
図11】インビボでの機械的閾値の定量化。雌(8~12週齢)C57BL/6マウス(Harlan Laboratories)を使用して実験を行った。マウスに100マイクログラムの抗体を静脈内注射した。機械的閾値を、Eijkelkamp et al.,2010;J.Neurosci.30:2138-2149及びChaplan et al.,1994;J.Neurosci.Methods 53:55-63に記載されているように、上下方向の方法でフォンフレイ試験(Stoelting)を使用して求めた。全ての実験を、治療を盲検化した実験によって実施した。
図12】IgA1/IgA2.0ハイブリッド抗体の一次配列及びモデリング。A、hIgA1、IgA2m(1)及びIgA1/IgA2M(1)ハイブリッド(hIgA2.0)の定常領域の一次配列のアライメント。骨髄腫IgA1タンパク質(Bur)スキームに従って、残基に番号が付けられている。ドメイン境界は、配列上に縦線によって示されている。以下の特徴が強調されている:明るい灰色の下線を付した残基はIgA1に固有であり、暗い灰色の下線付きのアスパラギンは保存されたN-グリコシル化コンセンサス配列であり、黒い下線を付した残基はIgA2.0に固有である。B、225-IgA2.0の重鎖がモデル化され、正面図と側面図に示されており、変異がマークされている。C、野生型及び変異体IgA2の重鎖がモデル化されている。得られたアライメントは、恐らくP221R変異のために、IgA2.0と比較してIgA2-wtの重鎖におけるC241の方向が異なることを示している。D、225-IgA2-wtの尾部を拡大したものである(緑色、C471;)赤色、Y472)及びIgA2.0(赤色)。モデルの予測及びアライメントは、I-TASSERを使用して実施した。モデルを3D-Mol Viewerで修正した。E、IgA2.0の重鎖の定常領域の核酸配列及びタンパク質配列。
図13】IgA1及びIgG1 ch14.18のHP-SEC分析。精製した抗体のHP-SEC分析を実施した。IgA1 ch14.18(A)及びIgG1 ch14.18(B)は、双方とも高度に単量体性であることが示された。トレースは、280nmでのUV吸光度を示す。
図14】IgG1及びIgA1 ch14:18抗体の神経芽腫細胞株への結合。(A)IgA1-FITC及びIgG1-FITC ch14.18のGD2発現神経芽腫細胞株IMR32及びGD2陰性細胞株GI-ME-Nへの抗体結合(B)IMR32細胞での神経芽腫抗体のリアルタイム細胞ベースの親和性測定。IMR32細胞株を10nMの抗体で1時間処理した後、抗体の濃度を20nMに1時間増加させた)。抗体含有培地を抗体なしの培地と交換することにより、130~250分で解離を追跡した。細胞ベースの親和性測定から計算された親和性をBに示す。
図15】神経芽腫細胞株パネルに対するIgA1及びIgG1 ch14.18によるADCCの特性評価。(A)エフェクタ細胞として末梢血由来の白血球を用いた3つの異なる神経芽腫細胞株に対するIgA1及びIgG1 ch14.18を用いたADCCアッセイ。(B)単離されたPBMCを含むIMR-32細胞株に対する、エフェクタ細胞としてIgG1 ch14.18(E:T比100:1)又はh単離好中球(E:T比40:1)を使用したADCCアッセイ。(C)単離されたPBMCを有するIMR32細胞株に対する、エフェクタ細胞としてIgG1 ch14.18(E:T比100:1)又は単離された好中球(E:T比40:1)を用いたADCCアッセイ。10ng/mLのGM-CSF、6545U/mLのIL-2、及び10μMの11-cisレチノイン酸との24時間のプレインキュベーションによる共処理を行った。(D)エフェクタ細胞としての末梢血からの白血球を、15%プールされたヒト補体活性血清と組み合わせたADCCアッセイ。
図16】IgG1及びIgA1 ch14.18抗体による神経芽腫細胞株パネルに対する補体アッセイ。(A)4つの異なる神経芽腫細胞株でのIgG1 ch14.18抗体による溶解。細胞を4種類の異なる濃度の抗体及び15%血清と共に15分間及び4時間インキュベートした。(B)4つの異なる神経芽腫細胞株でのIgA1 ch14.18抗体による溶解。細胞を4種類の異なる濃度の抗体及び15%血清と共に15分間及び4時間インキュベートした。(C)神経芽腫細胞株での補体調節タンパク質CD46、CD55及びCD59の発現。
図17】IgG1及びIgA1 ch14.18抗体のインビボ有効性。(A)IgA1又はIgG1 ch14.18で24時間処理した後の神経芽腫細胞の生物発光シグナルの定量化。(B))腫瘍細胞の静脈内注入後の処理3日目の生物発光シグナルの定量化。
図18】IgA1への神経細胞曝露は、機械的離脱閾値の低下をもたらさない。(A)静脈内注射の3時間後のIgA1及びIgG1 ch14.18の血漿濃度。(B)フォンフレイ離脱閾値(Von-Frey withdrawal thresholds)。(C)蛍光標識IgA1 ch14.18又はIgG1 ch14.18の静脈内注入後のフォンフレイ離脱閾値。(D)左の列:坐骨神経に静脈内注射したAlexa-488標識抗体の可視化。右の列:Alexa-549標識IgG1 ch14.18とのニューロンのインキュベーションによるGD2のエックスビボ染色の可視化。
【実施例0066】
実施例1
抗GD2抗体産生ベクターの生成:
ch14.18からの可変領域のアミノ酸配列は、ジヌツキシマブのFDA登録申請書に見出された(申請125516;図1に示されている)。これらのアミノ酸配列を、最も可能性の高い非縮重コーディング配列を表すcDNA配列に翻訳した。cDNAを合成し(Baseclear)、IgA1又はIgG1バックボーンのいずれかを含有するpEE14.4発現ベクターにサブクローニングした(Beyer,T.,et al.「Serum-free production and purification of chimeric IgA antibodies.」Journal of immunological methods 346.1(2009):26-37に記載)。トランスフェクションのための重鎖DNAの軽鎖DNAに対する最適比が、HEK293F細胞での小規模試験トランスフェクションによって最初に決定された。次に、抗ヒトIgG(図2A)又はIgA ELISA(図2B)によって抗体産生を定量した。
【0067】
抗体の特性評価及び機能アッセイを可能にするために、産生をスケールアップした。再び、HEK293F細胞に、最適な重鎖と軽鎖とのトランスフェクション比でpEE14.4 IgA ch14.18重鎖とch14.18カッパ軽鎖とをトランスフェクトした。産生されたIgA抗体を、一連の2つの液体クロマトグラフィステップによって精製した。最初に、ヒトκ軽鎖特異的親和性クロマトグラフィを使用して、IgA ch14.18を無血清上清から単離した(図3A)。次に、分取プレパックSuperdex200 26x600カラムを使用したサイズ排除クロマトグラフィにより、無傷のIgAを遊離軽鎖から分離した(図3B)。最後に、IgG抗体をタンパク質親和性クロマトグラフィにより精製し、続いてPBSで透析した。この多段階手順により、組換え単量体IgAの高純度調製物が得られる。
【0068】
抗GD2抗体の特性評価
GD2発現細胞株IMR32及びSK-N-FIへの抗GD2抗体の結合を、複数の濃度の抗GD2抗体で45分間、氷上で細胞を染色することにより分析した。細胞を洗浄し、二次ヤギ抗ヒトIgA-PE又はIgG-PEを、暗所で氷上で45分間細胞に添加した。その後、フローサイトメトリ分析によって抗体結合を定量化した。
【0069】
産生された抗体の補体活性化を、IMR32及びSK-N-FI細胞と15%プールされたヒト血清及び抗体(10~0.01μg/ml)を37℃で1時間及び4時間インキュベートすることで評価した。その後、生細胞/死細胞染色(7-AAD)を実施し、フローサイトメトリ分析により細胞の溶解を定量化した。
【0070】
神経芽腫細胞に対してエフェクタ細胞を動員するためのIgA及びIgG1 ch14.18の有効性を評価するために、ADCCアッセイを実施した。最初に白血球ADCCを実施した。これに関して、健康なドナーからの末梢血をRBC溶解バッファで処理して赤血球を除去した。残りの白血球を洗浄し、IL-2及びGM-CSF(両方とも10ng/ml)を含むか又は含まない放射線標識された神経芽腫細胞に添加した。37℃で4時間インキュベートした後、液体シンチレーションで測定した51Cr放出によって細胞死を定量化した。特異的溶解の割合を、2.5%のトリトンX-100の存在下で最大溶解を求め、抗体及びエフェクタ細胞の不在下で基礎細胞溶解を求めることにより計算した。
【0071】
PMNがIgAを介した殺滅の重要なエフェクタ細胞集団であるかどうかを評価するために、PMNをficoll-histopaqueによって健康なドナーの末梢血から分離し、40:1のE:T比で、IL-2及びGM-CSF(両方とも10ng/ml)を含むか又は含まない放射線標識された神経芽腫細胞に添加した。
【0072】
結果及び考察
抗体の機能的特性評価を、GD2への結合能力、補体活性化及びエフェクタ細胞動員を測定することによって行った。GD2陽性細胞株IMR32及びSK-N-FIへの結合のフローサイトメトリ分析は、IgG1及びIgAの両方について同様の結合パターンを示した(図4)。15%プールしたヒト血清及び複数の濃度の抗体とのインキュベーション後の生/死染色(7-AAD)によって、産生された抗体の補体活性化を評価した。IgA抗GD2抗体は補体の活性化を示さなかった一方で、同じ可変領域を有するIgG1変異体は、1時間のインキュベーション後に補体系を活性化した(図5A)。インキュベーション時間が4時間に増加した場合、IgGの溶解は更に増加したが、IgAの補体活性化は観察されなかった(図5B)。
【0073】
神経芽腫細胞に対してエフェクタ細胞を動員するためのIgA及びIgG1 ch14.18の有効性を評価するために、ADCCアッセイを実施した。最初に白血球ADCCを実施した。ここで、IgA抗GD2抗体は、IMR32及びSK-N-FI細胞株の両方で優れていることが示された(図6)。PMNがIgAを介した殺滅の重要なエフェクタ細胞集団であるかどうかを評価するために、PMNを健康なドナーの末梢血から分離した。IgA抗GD2抗体は、IgG1よりも良好にPMNを刺激して、IMR32及びSK-N-FI細胞を殺滅することが示された(図6)。
【0074】
細胞を臨床的に使用されているサイトカインGM-CSFと共にインキュベートすると、IgA抗GD2抗体によって誘導される最大溶解が大幅に増加したが、IgG1変異体では最小限の効果しか見られなかった(図7)。更に、IL-2を添加しても、観察された溶解は増加しなかった(図7)。PMN媒介ADCCについても同様の効果が観察された(図8)。
【0075】
本発明者らは、イソトレチノインによる神経芽腫細胞株の処理がGD2発現に影響を与え得ることも示す。イソトレチノインとの4日間のインキュベーション後、IgA ch14.18の結合が増加する一方で、MHC-I発現は安定したままであることが示された(図9)。
【0076】
実施例は、ジヌツキシマブのIgAアイソタイプ変異体は、神経芽腫の殺滅のためのADCC能力が高く、補体活性化がないことを示している。IgA抗GD2抗体は、神経芽腫細胞の破壊を促進するが、神経障害性疼痛などの副作用は軽減される。
【0077】
本発明では、ジヌツキシマブのIgAへのアイソタイプ変換は、ジヌツキシマブ抗体の毒性問題の1つ以上に対する解決策を提供することが示されている。本発明の抗体は、強力なADCC活性を提供する一方で、少なくともジヌツキシマブ投与に伴う疼痛の問題を軽減する。本発明の抗体は、恐らくFcαR(CD89)を介して好中球を効率的に活性化する。これにより、強力な抗腫瘍反応が生じる。本発明の抗体に対する神経芽腫細胞の感受性は、同じ可変ドメインを有するIgGアイソタイプ変異体と比較した場合に、IgA抗GD2が神経芽腫に対する改善された有効性を示し、同時に治療毒性を低減することを示す。これにより、抗神経芽腫の免疫療法が大幅に改善される。
【0078】
抗体機能は、多数の要因によって支配される。標的と認識されるエピトープとは、標的が存在する細胞と同様に重要な役割を果たす。抗体のエフェクタ機能は、多くの場合、抗体のアイソタイプと相関している。これは一般的な規則として有用であるが、実際には多くの例外が存在する。このことは、例えば、ADCC活性についてはRajasekaran et al(Rajasekaran et al.,2015;ImmunoTargets and Therapy Vol 4:91)に、CDC活性についてはLohse et al.,2017;Br J Haematol.doi:10.1111/bjh14624dgf;及びPascal,et al.,(2012)Haematologica 97.11:1686-1694)に例示されている。
【0079】
IgGをIgAに変換すると、抗体と相互作用する受容体が変化する可能性がある。IgGの場合、ITAMモチーフを有する活性化Fcガンマ受容体(FcγR)は、白血球の抗体媒介活性化の主要なメディエータである。抑制性FcγR及びFcγRの多型性は、これらの効果を妨げる。これにより、IgG治療が患者集団の一部に適さなくなる可能性がある。本発明者及びその他の研究者らは、IgAが好中球、単球及びマクロファージ上で発現されるFc受容体FcαRを介して抗腫瘍効果を発揮することを示した。FcαRIの抑制性受容体及び多型性は報告されていない。しかしながら、FcαRIはマウスでは発現されないため、IgA治療抗体を使用した必要な前臨床インビボ研究を長期間行うことができない。しかし、本発明者らの研究室では、ヒトFcαRIトランスジェニックマウスが生成された。このマウスは、ヒトと同様のヒトFcαRIの発現パターンを有する。これらのマウスを、ヒト腫瘍の成長のために、関連するバックグラウンド内で、即ちbalb/c、C57B/L6及びSCIDで戻し交配させた。
【0080】
治療用抗体としてのIgA
IgAは粘膜抗体として知られているが、その単量体形態では、ヒト血清中に存在する第2のクラスの抗体である。本発明者らは、以前の研究において、抗腫瘍抗体IgAがインビトロで有効であり得ることを示している。抗腫瘍機序は異なり、主に白血球の最も多い種類である好中球の動員を介して行われる。また、インビボIgAは、治療用抗体として有効であり得る。IgA分子の欠点は、新生児Fc受容体FcRnへのグリコシル化の相違と結合の欠如とにより、半減期が平均して比較的短いことである。本発明は、間接的にIgAのFcRnへの適応グリコシル化及び標的化を提供することにより、GD2特異的IgA抗体に関するこの問題を解決する(Meyer et al.,2016 MAbs Vol8:pp87-98)。
【0081】
本発明では、抗GD2 IgAアイソタイプ抗体が、インビトロ、インビボ及び患者由来モデルにおいて神経芽腫を標的とすることを示す。
【0082】
実施例2
ADCCを誘発する抗GD2抗体の有効性を、GD2発現神経芽腫細胞株(例えば、ATCCからの)IMR-32、SH-SY5Y、SK-N-FI、LAN-5)の更なるパネルに対して、エクスビボの神経芽腫細胞を標的としてアッセイする。加えて、パネルには、原発性神経芽腫サンプルから生成され、従来の化学療法に対する耐性に関与する化学療法耐性細胞集団を表す幹細胞様細胞を含む腫瘍開始細胞が含まれる(Bate-Eya,et al.,2014;European journal of cancer 50.3:628-637)。健康なボランティア及び患者からの全血及び単離されたエフェクタ集団の両方をエフェクタ細胞として使用する。実際には、標的細胞を51Crで2時間標識する。PMN及びPBMCを、Ficoll/Histopaque分離によって単離する。続いて、様々な濃度のエフェクタ細胞及び培地を、標的細胞を含むマイクロタイタプレートに添加する。E:T比は、40:1(PMN)及び50:1(PBMC)である。37℃で4時間インキュベートした後、51Cr放出を毎分計数(cpm)で測定する。特異的溶解の割合を、トリトンの存在下で最大溶解を求め、抗体及びエフェクタ細胞の不在下で基礎溶解を求めることにより計算する。
【0083】
神経芽腫患者由来のオルガノイドの試験
原発性神経芽腫サンプルから腫瘍由来のオルガノイドを生成した。腫瘍由来のオルガノイドは腫瘍の不均一性を反映しており、原発腫瘍組織を表している組織でこれらの機能性試験を実施することを可能にする。これらのオルガノイドにIgAジヌツキシマブを使用する。結合及びADCCを、C1q及びiC3b検出抗体を使用した死標識及び補体沈着によって顕微鏡下で評価する。
【0084】
FcαRトランスジェニックマウスにおけるインビボ実験
インビボ実験では、同系モデル、異種移植モデル及び患者由来の異種移植(PDX)モデルを使用する。
【0085】
同系モデルの場合、同所成長又は皮下成長させたTH-MYCN 9464Dベースの同系神経芽腫マウスモデルを使用する。
【0086】
異種移植モデルの場合、Bogenmann 1996 Int.J.Cancer Vol 67:379;及びRaffaghello et al.,2003 Cancer Lett,Vol 197(1-2):p.205-9に記載されているように、SCIDマウスに移植されたHTLA-230 NB細胞を使用する。以前、抗GD2抗体14G2aがこのモデルでテストされ、非常に効率的に機能することが示されたが、NK細胞及びマクロファージは存在しないままであった(Raffaghello et al.、2003上記)。これは、好中球がジヌツキシマブの重要なエフェクタ細胞であるという概念と符合する。これらのマウスでIgAをテストする場合、マウスにはFcaRがないため、研究室で入手可能なSCID/FcαRトランスジェニックマウスを使用する。これらのトランスジェニックSCIDマウスにおけるIgG及びIgAの有効性を比較する。
【0087】
PDXモデルの場合、NSGマウス(NOD/SCID/ガンマnullマウス)を使用する。これらのモデルにより、患者の腫瘍、増殖及びその後の治療の同所性ポジショニングが可能となる(Braekeveldt et al.,2016 Cancer Lett.Vol 1;375(2):384-9.doi:10.1016/j.canlet.2016.02.046)。
【0088】
実施例3
神経芽腫患者の生存率の改善は2015年に始まり、神経芽腫細胞だけでなく末梢神経組織及び中枢神経組織にも発現するガングリオシドGD2に対するIgG1アイソタイプのキメラ抗体であるch14.18のFDA承認を受けた。Ch14.18は、造血幹細胞移植後の高リスク神経芽腫の治療のために、IL-2、GM-CSF及び11-cisレチノイン酸と組み合わせた二次治療として投与される。大規模な第III相臨床試験(n=226)では、治療後2年で、ch14.18併用療法により、標準治療よりもイベントフリー生存率が20%、全生存率が10%増加することが示された(Yu et al.2010,N Engl J Med 363(14):1324-1334)。免疫療法を含めることで神経芽腫患者の生存率は向上したが、ch14.18の投与によって引き起こされる重い副作用がある。これらのうち、重度の神経障害性疼痛が最も頻繁に起こる(Yu et al.2010,N Engl J Med 363(14):1324-1334)。これは、Aδ及びC疼痛線維上のGD2へのch14.18の結合によって引き起こされ、補体系を局所的に活性化し、これが観察された疼痛の原因であると考えられている(Xiao et al 1997、Pain 69(1-2):145-151)。この疼痛は鎮痛剤への反応が良好でなく、用量を制限する可能性がある(Gilman et al 2009,J Clin Oncol 27(1):85-91)。
【0089】
ch14.18抗体オプソニン化腫瘍細胞は、白血球のFc受容体への抗体結合に応じて、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)を介して白血球によって殺滅される可能性がある。ch14.18は、腫瘍細胞表面の補体系を活性化することもでき、補体依存性細胞傷害性(CDC)を介して細胞の溶解を引き起こす。IgG1抗体療法によって媒介されるADCCの場合、ナチュラルキラー(NK)細胞は、ADCCを媒介するための重要な細胞とみなされる。神経芽腫に関しては、抗GD2 IgG1抗体で治療すると、顆粒球もADCCを媒介する役割を果たすという証拠が存在する(Bruchelt et al 1989,Immunol Lett 22(3):217-220;Gilman et al 2009,J Clin Oncol 27(1):85-91;Cheung et al 2012,J Clin Oncol 30(4):426-432)。
【0090】
結果
IgG1及びIgA1 ch14.18の生産及び精製
IgA1及びIgG1抗体をch14.18 IgA1可変領域と比較するために、両方の抗体を社内で生産及び精製した。全ての抗体をHP-SECにより分析して、その純度を確認した。IgA1 ch14.18(図13A)及びIgG1 ch14.18(図13B)の両方が、95%を超える純度の単量体であることが示された。
【0091】
IgA1及びIgG1 ch14.18は同様の親和性でGD2に特異的に結合する
次に、本発明者らは、神経芽腫細胞株パネルに対するIgA1及びIgG1 ch14.18の結合を測定した。両方の抗体は、GD2を発現している神経芽腫細胞株IMR-32を同様に認識したが、GD2発現のないGI-ME-N細胞株は結合していなかった(図14A)。アイソタイプをIgA1に変更した後に抗体の親和性が変化しないかどうかを確認するために、Ligand Tracerを使用してIMR-32細胞に対するリアルタイムの細胞ベースの親和性測定を実施した。抗体は、2つの異なる濃度(それぞれ10nM及び20nM)で同一の会合パターンを厳密にたどり、解離相でも重複する)。アッセイは、IMR32細胞への計算された親和性がIgA1とIgG1との間で有意な差がなかったことを示している(3.8nM対4.8nM)(図14B)。
【0092】
IgA1抗体及びIgG1 ch14.18抗体の作用機序
続いて、本発明者らは、これらの抗体の作用のインビトロ機序を比較した。ADCC及びCDCは両方ともインビボで神経芽腫に対してch14.18によって誘導されることが知られている。エフェクタ細胞の混合による殺滅を比較するために、エフェクタ細胞として白血球を含むIMR-32、SK-N-FI及びLAN-1神経芽腫細胞株でADCCアッセイを実施した。IgA抗体及びIgG抗体は両方とも同様の程度までIMR-32細胞を溶解したが、SK-N-FI及びLAN-1細胞は、IgA1 ch14.18でより良好に殺滅された(図15A)。FACS上に検出可能なGD2発現を有さないGI-ME-N細胞株は、いずれの抗体によっても溶解できず、GD2発現がADCCの前提条件であることを示している(データは図示せず)。ADCCの媒介における特定の白血球サブセットの相対的重要性を評価するために、好中球と末梢血単核細胞(PBMC)とをエフェクタ細胞として別々に使用して、これらの抗体を用いた神経芽腫細胞株に対するそれぞれの細胞傷害能を測定した。
【0093】
PBMCをエフェクタ細胞として使用すると、IgG1 ch14.18はIMR32細胞を効果的に溶解したが、IgA抗体による溶解はこのようには機能しなかった(図15B)。他の2つの神経芽腫細胞株でも同様であった(データは図示せず)。これに対し、好中球をエフェクタ細胞として使用した場合、IgA ch14.18は、IgG1と比較して、全ての試験細胞株で優れたADCCを媒介した(図15B)。
【0094】
臨床では、ch14.18は、GM-CSF、IL-2及びレチノイン酸との併用療法として投与される。次に、ADCCに対するこれらの化合物の影響を、両方の抗体について評価した。PBMCをエフェクタ細胞として使用した場合、GM-CSFを添加してもIgG1によるADCCの増加は起こらなかった。GM-CSFとIL-2の組み合わせにより、抗体が存在しなくても細胞死がわずかに増加し、PBMCを介した殺滅が抗体に関係なく増加することを示した。最後に、11-cisレチノイン酸の前処理を以前の組み合わせに24時間追加すると、IMR32細胞株及びSK-N-FI細胞株の殺滅が更に増加することが示された(図15C)。IgAでは、PBMCによる抗体依存性の殺滅は誘導されなかったが、細胞はIL-2とcis-レチノイン酸との組み合わせで溶解し、PBMCによる神経芽腫細胞の抗体に依存しない認識を示した(データは図示せず)。
【0095】
IgG1とは異なり、GM-CSFとIgA1 ch14.18との組み合わせは、エフェクタ細胞として好中球を含むADCCをブーストした(図15C)。IL-2の存在は、好中球を介した殺滅をそれ以上増加させなかったが、11-cis-レチノイン酸への前曝露で最大の溶解は増加した。IgG1抗体の場合、GM-CSFは好中球による殺滅をわずかに改善したが、IL-2又はレチノイン酸の添加は殺滅をそれ以上促進しなかった(データは図示せず)。
【0096】
最後に、ADCCアッセイにヒトプール血清を添加して、CDCが神経芽腫細胞の溶解を促進し得るかどうかを調査した。IgG1とIgA1 ch14.18との両方について、血清添加後に溶解の有意な差は観察されなかった(図15D)。
【0097】
IgA1 ch14.18は補体を活性化しない
IgA1 ch14.18によって媒介される第2の効果は、補体系の活性化である。ch14.18は、インビトロでCDCを介して神経芽腫標的細胞を溶解することが知られている。ADCCアッセイで使用したものと同じ神経芽腫細胞株パネルで、これらの抗体によるインビトロの補体活性化を評価した。IgG1 ch14.18は、15分後にCDCを介してSK-N-FIを除く全ての試験対象の神経芽腫細胞株を溶解した(図16A)。これとは対照的に、IgA1 ch14.18では溶解は観察されなかった(図16B)。更に1時間長いインキュベーションでは、IgG1の溶解量は更に増加したが、IgA1を含む7-AADの細胞は陰性のままであった(図16A図16B)。SK-N-FIの補体調節タンパク質CD55及びCD59の量は、他の試験対象の神経芽腫細胞株よりも有意に高いため、この細胞株は、補体媒介溶解の傾向が低いと思われる(図16C)。
【0098】
IgA1は、IgG1 ch14.18と比較してインビボでの腫瘍細胞の枯渇に優れている
最後に、2つの同系マウスモデルにおいてインビボでGD2発現細胞を殺滅する抗体の能力を分析した。限局性腫瘍のモデルとして、動物にGD2を自然発現しているEL4細胞を腹腔内注射した。24時間の増殖後、動物をIgA1又はIgG1で処理した。抗体の注射から24時間後に腫瘍細胞の増殖を評価した。両方の抗体は、2つのエフェクタ機序のうちの1つのみを有するIgAで平均腫瘍量の治療を低減させたが、より効果的であった(図17A)。
【0099】
第2の全身性マウスモデルでは、腫瘍細胞の殺滅をより長期間にわたって評価した。EL4細胞を静脈内注射した。)細胞の注射後まもなく、生物発光イメージングで観察されるように、腫瘍細胞は肺に局在化した(データは図示せず)。3日間の処理後、IgA1及びIgG1は両方とも腫瘍細胞を排除したが、PBSで処理したマウスには細胞が依然として存在していた(図17B)。生物発光イメージングによって、マウスの腹部における増殖が観察された(データは示さず)。
【0100】
抗GD2-IgA1は疼痛を誘発しない
GD2に対するIgG1抗体の主な制限は、治療後の軽い接触に対する感度の増加である。IgAによる補体活性化の欠如がこの問題を軽減するかどうかを試験するために、マウスでインビボでの疼痛実験を行った。フォンフレイフィラメントによる刺激後の足収縮閾値を異痛の尺度として測定した。
【0101】
IgA1とIgG1との半減期の差を補正するために、マウスに24時間で100μgのIgAの投与量に対応する低用量のIgG1(20μg)又は高用量のIgG1(100μg)のいずれかを腹腔内注射した(図18A)。24時間後に血清中に戻った抗体濃度は、ch14.18治療後の臨床表現型と一致している。20μgのIgG1 ch14.18による治療は、離脱閾値の有意な低下を示し、48時間後にベースラインに戻った。治療量以下のIgG1(4μg)は、離脱閾値の有意な低下をもたらさなかった。IgG1とは異なり、IgA1の全ての試験用量は足収縮閾値を低下させず、IgA1はIgGと同等のレベルで異痛を誘発しないことを示している(図18B)。蛍光標識されたIgA1及びIgG1 ch14.18抗体を静脈内に注射した場合にも、同様の結果が得られた。ここでは、IgG1 ch14.18も離脱閾値を低下させたが、IgA1 ch14.18は低下させなかった(図18C。その後、坐骨神経での抗体の結合を評価した。20μgのIgG1と100μgのIgA1 ch14.18とで抗体曝露が同程度に観察され、血清中に存在する抗体の量に対応した(図18D)。抗CD20抗体リツキシマブは、坐骨神経では検出されなかった。GD2のエクスビボ染色は、直接標識された抗体からのシグナルと重なった。
【0102】
キット
本明細書では、改変抗体又はその断片の組成物を含むキットを提供する。本明細書では、補体活性化の低減など、補体応答の低減のためのキットも開示することができる。本明細書では、癌、病原体感染、免疫障害又は同種移植の治療用キットも開示する。一実施形態では、キットは、有効量の改変抗体を単位剤形で含有する治療用又は予防用組成物を含むことができる。幾つかの実施形態では、キットは、改変抗体又はその断片の治療用組成物を収容することができる無菌容器を含む。このような容器は、箱、アンプル、瓶、バイアル、チューブ、袋、パウチ、ブリスターパック、又は当該技術分野において既知の他の好適な容器形態であり得る。このような容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、又は薬剤を保持するのに好適な他の材料で作製することができる。場合によっては、改変抗体及びその断片は、毒性、補体関連毒性、癌、病原体感染、免疫障害、又は同種移植を有するか又は発症するリスクを有する対象に、抗体又はその断片を投与するために説明書と共に提供され得る。説明書は、一般に、毒性、副作用、癌、病原体感染、免疫障害、又は同種移植を治療するために組成物を使用する投与方法に関する情報を含むことができる。
【0103】
議論
高リスクの神経芽腫に対するch14.18の承認により、神経芽腫患者の生存率が改善された。それでもなお、神経芽腫に対するIgG1抗体療法は、神経障害性疼痛や異痛などの重度の副作用を伴う。本発明者らは、ch14.18のアイソタイプをIgG1からIgA1に変更すると、この抗体誘発性異痛がなくなるかどうかを調査した。
【0104】
本発明は、IgA1 ch14.18が、好中球媒介ADCCを通じて驚くほど強力な抗腫瘍効果を発揮し、インビボで異痛を誘発しないことを示している。C5a受容体を拮抗薬で遮断すると、異痛が完全に停止した(Sorkin et al 2010,Pain 149(1):135-142)。これまで、ch14.18によって引き起こされる副作用を緩和するために、幾つかのアプローチが実施された。最初のアプローチは、ch14.18(K322A)のC1q結合部位を変異させることであった。この変異は、ch14.18の補体活性化を抑制すると考えられている(Sorkin et al 2010,Pain 149(1):135-142)。このアプローチでは補体の活性化が低下しただけであり、その結果、疼痛が残った。また、この抗体を使用した第I相臨床試験では、疼痛の形でグレード3~4の毒性が患者の68%で発生した(Navid et al 2014,J Clin Oncol 32(14):1445-1452)。
【0105】
ch14.18誘発異痛を回避する別のアプローチは、神経芽腫細胞上にのみ存在し、末梢神経組織上に存在しないGD2(O-アセチル-GD2)の差次的なグリコシル化変異体を抗体c.8B6によって標的化することによって実施された(Terme et al 2014,PLoS One 9(2):e87210)。抗体c.8B6は、疼痛線維の周囲の補体活性化を誘発しないが、この抗体は、有効性が低い可能性が高い。
【0106】
ch14.18の由来である親マウス抗体である14.18の最初の報告では、顆粒球が神経芽腫に対する効果を媒介したことが注目された(Bruchelt et al(1989);Immunol Lett 22(3):217-220)。後に、GM-CSFの添加により、それらの殺滅能力を高めることができることが示された。臨床研究では、顆粒球の活性化は、神経芽腫に対する抗体療法の良好な結果の指標であることが見出された(Cheung et al(2012);J Clin Oncol 30(4):426-432)。GM-CSFとの共治療に加えて、治療目的でこの標的細胞集団を更に関与させるアプローチが不足している。
【0107】
好中球を介した殺滅に対する神経芽腫細胞の固有の脆弱性に次いで、現在の治療プロトコルのタイミングもアプローチに有利であり、好中球がエフェクタ細胞として使用される。現在、患者には骨髄破壊的レジメンが処方されており、その後に自家幹細胞移植が行われる(Yu et al.(2010).N Engl J Med 363(14):1324-1334)。その後まもなく、免疫療法プロトコルが開始される。好中球は、多くの場合、生理学的レベルに回復される最初の白血球集団であり、従って、そのような免疫不全状態で活動する魅力的な白血球サブセットである。免疫療法の時点でNK細胞の適切な免疫再構成に達した患者は25%未満であった(Nassin et al 2018,Biol Blood Marrow Transplant 24(3):452-459)。NK細胞の代わりに好中球を対象とするアプローチでは、治療的のばらつきが低減される。
【0108】
本発明において、IgAを介した殺滅は、GM-CSFの添加によって改善されることが見出された。
【0109】
IL-2は、IgA又はIgGを介した殺滅を改善するとは考えられない。IL-2を、ch14.18で治療されたGD2発現黒色腫及び肉腫患者で効果が見られた後に、臨床レジメンに追加した。しかしながら、神経芽腫療法に対するIL-2の効果は、依然として不明である。このことは、IL-2を使用した場合と使用しない場合の免疫療法を比較した臨床試験で更に強調されている(Ladenstein et al 2013 MAbs 5(5):801-809)。著者らは、IL-2の添加はEFS又はOSに有意な影響を及ぼさず、毒性による早期終了はIL-2群で有意に高かったことを示している。
【0110】
IgA1にはC1q結合部位が存在しないが、IgAの補体活性化が報告されている。MBL経路は高分子IgAによって活性化されることが示されたが、古典的な補体経路はCD20に向けられた単量体IgAに対してトリガされた(Roos et al;2001;J Immunol 167(5):2861-2868及びLohse,Loew et al;2018;Br J Haematol 181(3):413-417)。それにもかかわらず、IgA1 ch14.18は、神経芽腫細胞株のCDCを誘発せず、マウスの補体依存性異痛を誘発しなかった。
【0111】
異痛はIgAで解決できるが、エフェクタ機序としての補体も失われる。本発明では、驚くべきことに、予想される治療効果の損失が生じないことが示された。インビボ腫瘍モデルでは、IgAが腫瘍細胞の殺滅においてIgGと少なくとも同程度に効率的であることが実際に分かる。抗GD2抗体によるインビボ補体消費が実証されており、補体活性化が起こることを示している(Cheung at al 2014,Int J Cancer 135(9):2199-2205)。
【0112】
本発明者らの研究では、マウスの2つの抗体の半減期の差を調節するために、IgG1と比較して5倍の量のIgAをマウスに投与した。2つの抗体を使用しても、同様のニューロンへの曝露と血清濃度を達成できる。より長いモデルでは、これを説明するためにIgA1の複数の用量が注入された。IgAのインビボでの半減期はヒトでは約1週間であるが、マウスのIgAの半減期を改善して将来の比較を改善するために、幾つかのアプローチを採用することが可能である(Morell et al,1973,Clin Exp Immunol 13(4):521-528)。アシアロ糖タンパク質受容体への結合によってIgAのグリコシル化を抑制し、クリアランスを減少させることができる。複数のIgAグリコシル化部位のサイレンシングは既に以前に達成されており、薬物動態の改善をもたらした(Lohse et al,2016,Cancer Res 76(2):403-417)。IgGとは異なり、IgAは新生児のFc受容体(FcRn)と相互作用しない。従って、内皮細胞による飲作用を受けた抗体は、リソソーム経路を介して分解される。アルブミン及びIgG1の両方の抗体は、この受容体に結合することによって分解を免れる。IgAは、薬物動態プロファイルと抗腫瘍効果とを改善したC末端アルブミン結合部位の導入により、FcRn結合を促進するために以前に修正された(Meyer et al,2016 MAbs 8(1):87-98)。
【0113】
本発明は、ch14.18 IgAが異痛を克服する利点と単一分子内の好中球活性化の改善との両方を提供することを示している。本発明者らの前臨床データは、IgAが副作用を伴わずにIgGよりも高用量で投与され得ることを示している。
【0114】
材料及び方法
抗体の生産、単離及び品質管理
ch14.18の可変重鎖配列及び可変軽鎖配列を、Biologic License Application 125516から得た。可変重鎖配列はIgA1又はIgG1重鎖をコードするLonza発現ベクター(pEE14.4)にクローニングし、可変軽鎖配列はカッパ軽鎖をコードするLonza発現ベクター(pEE14.4)にクローニングした。重鎖、軽鎖及びpAdvantage(受託番号U47294;promega)をコードするベクターを用いたHEK293F細胞の一過性トランスフェクションによって、単量体抗体を産生した。製造元の指示書に従って、293Fectinトランスフェクション試薬を使用した。IgG1抗体を、AKTAprimeplusクロマトグラフィシステム(GE lifesciences)に接続されたプロテインAカラム(Hi-trapプロテインA)を使用して精製した。結合した抗体を、0.1Mの酢酸ナトリウムpH2.5で溶出し、1MのTRIS-HCl pH8.8で中和した。溶出液をPBSに対して透析した。カッパ軽鎖親和性クロマトグラフィカラム(Hi-trap kappaSelect)を使用してIgA1抗体を精製し、0.1Mのグリシン緩衝液pH2.5で溶出した。溶出液を、移動相としてPBSを使用したSECカラムに装填した。単量体IgAを含む画分を回収し、100KDaスピンカラムで濃縮した。全ての抗体を0.22μmフィルタで濾過した。抗体の純度及び安定性を、280nmで検出される移動相として100mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl pH6.8を使用したHP-SEC(Yarra 3u SEC-2000カラム)で分析した。
【0115】
抗体の蛍光標識
精製した抗体を、撹拌しながらN-ヒドロキシ-スクシミジル-FITCと共に室温で2時間インキュベートすることによってフルオレセイン標識した。製造元の指示に従って、セファデックスカラム(NAP-5、GE-healthcare)を使用して、未結合のNHS-フルオレセインを除去した。製造業者の指示に従って、Alexa fluor-488抗体標識キット(ThermoFisher)で抗体を標識した。
【0116】
細胞株
全ての神経芽腫細胞株を、5%のCOを含む加湿インキュベータで、HEPES、グルタマックス、10%のウシ胎児血清、1xペニシリン及びストレプトマイシンを補充したDMEM培地で37℃で培養した。HEK293F細胞を、8%のCOを含有するオービタルシェーカープラットフォームを備えた加湿インキュベータ内で、FreeStyle 293発現培地中で37℃で培養した。
【0117】
結合アッセイ
100.000個の神経芽腫細胞を96ウェルプレートに播種し、1500RPMで2分間遠心分離した。細胞を洗浄し、蛍光標識された抗体と共に45分間、幾つかの濃度でインキュベートした。次に、細胞を1500RPMで2分間遠心分離し、洗浄してPBS中に再懸濁させた。細胞に結合した抗体の量を、フローサイトメトリ(BD FacsCanto II、BD)によって定量化した。
【0118】
細胞ベースの親和性測定
1×106個のIMR32神経芽腫細胞を10cm培養皿の側面に楕円形にプレーティングし、プレートに付着させるために一晩インキュベートした。その後、プレートを培地で洗浄し、LigandTracer装置(Ridgeview instrument)に移した。10nMのフルオレセイン標識抗体を細胞に添加し、結合を1時間にわたって測定した。その後、抗体濃度を20nMに増加させて、1時間にわたり、より高い抗体濃度での結合を評価した。最後に、抗体を含まない培地の抗体含有溶液と交換することにより、解離を2時間にわたって測定した。抗体の親和性を、TraceDrawerソフトウェア(Ridgeview instruments)によって計算した。
【0119】
ADCCアッセイ
ADCCを前述のように定量化した(Brandsmaet al;2015;Cancer Immunol Res 3(12):1316-1324)。略言すると、10μMの11-cis-レチノイン酸の24時間前処理を行ったか又は行っていない標的細胞を、3.7MBqの51Crで2時間標識した。その後、細胞を3回洗浄して、過剰なクロムを除去した。ADCCの血液は、UMC Utrechtの健康なドナーから得た。白血球を分離するために、血液をデミウォーターと30秒間インキュベートして赤血球を溶解した。その後、生理的浸透圧を回復するために10xPBSを追加した。細胞を培地で洗浄し、元の血液量に対応する培地に再懸濁させた。ウェルごと使用される白血球の数は、溶解前の血液50μl中に存在する白血球の数に対応する。PMN及びPBMCの分離のために、血液をFicoll/Histopaque 1119層の上に加え、制動なしに1500RPMで25分間遠心分離した。その後、PBMC及びPMNを、血清とFicoll層との間から、又はHistopaque層内でそれぞれ回収した。エフェクタ-標的比(E:T)は、PBMCについては80:1であり、PMNについては40:1であった。エフェクタ細胞、様々な濃度の抗体、GM-CSF及びIL-2並びに放射線標識された腫瘍細胞を、丸底マイクロタイタプレート(Corning Incorporated)に加え、5%のCOを含有する加湿インキュベータで37℃でインキュベートした。プレートを1500RPMで2分間遠心分離し、上清50μlをルマプレートに移した。放射性シグナル(cpm)をベータガンマカウンタで定量した。式((実験cpm-基礎cpm)/(最大cpm-基礎cpm))x100を使用して特定の溶解を計算し、2.5%のトリトンで標識した細胞をインキュベートし、基礎放出を抗体及びエフェクタ細胞の非存在下で測定した。
【0120】
CDCアッセイ
10個の神経芽腫細胞をマイクロタイタプレートに加え、室温で様々な濃度の抗体と共に30分間インキュベートした。その後、プールしたヒト血清(8人の異なる健康ドナーから)を15%の濃度まで添加し、1時間又は4時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、7-AADで15分間染色した。細胞溶解を表す7-AAD取り込みをフローサイトメトリにより定量した。
【0121】
マウス血清中の抗体濃度測定
MaxiSorp 96ウェルELISAプレートを、PBSで希釈した0.5μg/mlのヤギIgG抗ヒトカッパで一晩コーティングした。次に、TWEEN 20を0.05%含有するPBS(PBST)でプレートを3回洗浄し、BSAを1%含有するPBSTでインキュベートすることで1時間ブロックした。BSAを1%含有するPBSTで血清サンプルを1:2000に希釈し、ウェルに加え、室温で1.5時間インキュベートした。次に、PBSTでプレートを3回洗浄した。HRP標識した抗ヒトIgA又は抗ヒトIgGを使用して、ヒトIgA又はヒトIgGにそれぞれ結合させた。プレートを、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)を用いて10分間現像し、分光光度計で415nmで読み取った。
【0122】
動物及び動物実験
マウスはユトレヒト大学の動物施設で飼育された。実験を、雄と雌の両方のC57BL/6マウス(Janvier)を使用して行った。マウスは12:12明暗サイクルでグループ化されて収容され、食物と水は自由に摂取できた。マウスは実験開始の少なくとも1週間前から順応させた。サンプルのサイズは、実験の設計時に検出力解析で計算された。
【0123】
機械的閾値を、IgG1 ch14.18、IgA1 ch14.18、又はその蛍光標識変異体を静脈内注射した後のマウスでフォンフレイテストを使用して測定した(Stoelting,Wood Dale,IL,US)。上述の上下法を使用した(Eijkelkamp et al;2016;J Neurosci36(28):7353-7363)。略言すると、較正済みのフォンフレイヘアモノフィラメント(Stoelting)を用いて機械的侵害受容をテストした。最初に、マウスを金属メッシュの床のある透明な箱に15~20分間順応させた。フォンフレイヘアモノフィラメントを、メッシュ床を介して後足の足底の皮膚に押し付けた。機械的侵害受容を、無処理動物では応答を誘発しない0.02mgのフォンフレイヘアの一連の6回の押し付けに応答した足の引き込みの総数として測定した(Alessandri-Haber et al.,2006;J Neurosci.2006 Apr 5;26(14):3864-74)。実験では、左足と右足との平均を独立した尺度とみなした。偏りを最小限に抑えるため、実験の開始前に動物を異なるグループにランダムに割り当て、全ての実験は治療を知らない実験者によって行われた。実験の終わりに、頸椎脱臼によってマウスを安楽死させた。機械的閾値を48時間評価した。
【0124】
抗体のインビボ効力を評価するために、GD2を発現している5×10個のEL4細胞(ATCC)をマウスに腹腔内注射した。1日後、マウスに100μgのIgG1 ch14.18又は100μgのIgA1 ch14.18を腹腔内注射した。2日後、血液を採取し、マウスにルシフェリンを注入し、生物発光分析を行った。その後、マウスを頸椎脱臼により安楽死させた。
【0125】
ニューロンへのGD2抗体の結合を、20μg又は100μgのalexa-488で標識されたIgG1 ch14.18或いは20μgのIgA1 ch14.18のi.v.注入によって可視化した。坐骨神経を分離し、クライオスタットクライオトームで厚さ10μmのスライスを作成し、スライドに配置した。スライドを4%PFA中で10分間固定し、洗浄した。最後に、スライドをDAPIで対比染色し、洗浄し、fluorsaveで処理した。スライドを4℃で一晩乾燥させ、画像を蛍光顕微鏡で撮影した。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2023-12-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二量体の人工抗体と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって、該人工抗体が、以下を含む医薬組成物:
(a)抗原結合ドメイン;および
(b)IgA CH1重鎖定常領域、IgA2m(1)ヒンジ、IgA CH2重鎖定常領域、IgA CH3重鎖定常領域、および配列番号11のアミノ酸残基P325からY342に対応するBurスキームによるアミノ酸残基P455からY472に対応するアミノ酸残基からなるIgA CH3重鎖定常領域尾部領域からなる免疫グロブリンAサブクラス2(IgA2)重鎖定常領域であって、
前記IgA CH3重鎖定常領域尾部領域が、配列番号11のN329に対応するBurスキームによるアミノ酸残基N459におけるアミノ酸置換を含むか、または
前記IgA CH2重鎖定数ドメインが、N147または配列番号11に対応する、Burスキームに従うアミノ酸残基N263でのアミノ酸置換を含んでなり、
前記Burスキームに従うN459または前記Burスキームに従うN263における前記アミノ酸置換が、野生型IgA2抗体のグリコシル化に対して、前記改変I抗体のグリコシル化を減少させ、そして前記IgA2重鎖定数領域が、さらに以下を含む:
(i)Burスキームに従うN337におけるN337Tアミノ酸置換であって、前記N337は配列番号11のN207に対応する;
(ii)Burスキームに従うI338におけるI338Lアミノ酸置換であって、前記I338は、配列番号11のI208に対応する;
(iii)Burスキームに従うT339におけるT339Sアミノ酸置換であって、前記T339は、配列番号11のT209に対応する;
(iv)Burスキームに従うN166におけるN166Gアミノ酸置換であって、前記N166は、配列番号11のN49に対応する;
(v)Burスキームに従うP221におけるP221Rアミノ酸置換であって、前記P221は、配列番号11のP104に対応する;
(vi)Burスキームに従うC311におけるC311Sアミノ酸置換であって、前記C311は、配列番号11のC181に対応する;または
(vii)それらの組み合わせ。
【請求項2】
治療有効量の改変された単量体抗体;および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物であって、前記改変された単量体抗体が以下を含む、医薬組成物:
(a)抗原結合ドメイン;および
(b)IgACH1重鎖定常領域、IgA2m(1)ヒンジ、IgA CH2重鎖定常領域、およびIgA CH3重鎖定常領域からなる免疫グロブリンAサブクラス2(IgA2)重鎖定数領域であって
前記IgA CH3重鎖定常領域が、配列番号11のアミノ酸残基P325からY342に対応する、Burスキームに従うアミノ酸残基P455からY472の欠失からなる尾部領域の欠失を有し
前記尾部領域の前記欠失は、野生型IgA2抗体のグリコシル化に対して、前記改変された抗体のグリコシル化を減少させ、そして前記IgA重鎖定数領域は、さらに以下を含む:
(i)Burスキームに従うN337TにおけるN337Tでのアミノ酸置換であって、
前記N337はSEQ ID No:11のN207に対応する;
(ii)Burスキームに従うI338におけるI338Lでのアミノ酸置換であって、前記I338は配列番号11のI208に対応する;
(iii)Burスキームに従うT339におけるT339Sのアミノ酸置換であって、前記T339は配列番号11のT209に対応する;
(iv)Burスキームに従うN166におけるN166Gでのアミノ酸置換であって、前記N166は配列番号11のN49に対応する;
(v)Burスキームに従うP221におけるP221Rでのアミノ酸置換であって、前記P221は配列番号11のP104に対応する;
(vi)Burスキームに従うC311におけるC311Sでのアミノ酸置換であって、前記C311は配列番号11のC181に対応する;または
(vii)それらの組み合わせ。
【外国語明細書】