IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-複列アンギュラ玉軸受 図1
  • 特開-複列アンギュラ玉軸受 図2
  • 特開-複列アンギュラ玉軸受 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002324
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】複列アンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/18 20060101AFI20231228BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20231228BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20231228BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/32
F16C33/58
F04C29/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101441
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】西岡 虎太朗
【テーマコード(参考)】
3H129
3J701
【Fターム(参考)】
3H129AA06
3H129AA15
3H129AB05
3H129BB44
3H129CC17
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA69
3J701FA15
3J701FA41
3J701GA29
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB26
3J701XB35
(57)【要約】
【課題】アキシャル負荷能力、モーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置するための空間が十分確保可能、または、組付け性(玉の挿入性)良好な複列アンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】複列アンギュラ玉軸受1は、水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面2aを有する外輪2と、外周に内輪軌道面3aを有する内輪3と、外輪軌道面2aおよび内輪軌道面3aを複数備え、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aとの間に配置される複数の転動体4とを備え、転動体4は外輪軌道面2aおよび内輪軌道面3aと径方向に対して接触角を持って接触し、外輪2および内輪3は、転動体4の中心を基準とする軸方向における接触角を持って接触する接触部P側に肩部2b、3cを有し、内輪3の肩部3cの高さおよび外輪2の肩部2bの高さの少なくともいずれかが、転動体4の直径に対して0.13~0.24倍である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面を有する外輪と、外周に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面および前記内輪軌道面を複数備え、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置される複数の転動体とを備え、前記転動体は前記外輪軌道面および前記内輪軌道面と径方向に対して接触角を持って接触する複列アンギュラ玉軸受であって、
前記外輪および前記内輪は、前記転動体の中心を基準とする軸方向における前記接触角を持って接触する側に肩部を有し、前記内輪の前記肩部の高さおよび前記外輪の前記肩部の高さの少なくともいずれかが、前記転動体の直径に対して0.13~0.24倍であることを特徴とする複列アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記内輪の前記肩部の高さおよび前記外輪の前記肩部の高さのいずれも、前記転動体の直径に対して0.13~0.24倍であることを特徴とする請求項1記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記内輪の前記肩部の高さが、前記外輪の前記肩部の高さよりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項4】
前記内輪は、前記内輪軌道面の間に設けられる内輪内方肩部と、該内輪内方肩部よりも軸方向外側に設けられる内輪外方肩部とを有し、前記内輪の前記肩部が、前記内輪内方肩部および前記内輪外方肩部のいずれか一方であり、前記内輪内方肩部の高さが、前記内輪外方肩部の高さに対して0.99~1.01倍であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記複列アンギュラ玉軸受は、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面が対向する2列の軌道を有し、配列が背面組合せであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項6】
前記転動体の直径Dbと、前記複列アンギュラ玉軸受の軸方向幅Wbが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
1.1≦Wb/(Db×2)≦1.7・・・(1)
【請求項7】
前記複列アンギュラ玉軸受は、一端側に相手側ロータと嵌合されるロータが接続されるとともに、他端側に相手側ギヤと嵌合されるギヤが接続される回転軸を回転可能に支持する軸受であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列アンギュラ玉軸受に関し、特にポンプ(例えば水素循環ポンプ)に使用される複列アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機構を有する装置には、用途に応じて種々の軸受が使用されている。一般的な軸受である転がり軸受としては、例えば、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受などが知られている。アンギュラ玉軸受は、ラジアル荷重とともに一方向のアキシャル荷重を受けることができる。アンギュラ玉軸受において、玉(転動体)と内・外輪とは接触角を有し、接触角が大きいほどアキシャル荷重を受けることができる負荷能力が大きくなる。
【0003】
両方向のアキシャル荷重を受けることができ、さらにモーメント荷重への負荷能力も有する軸受として、複列アンギュラ玉軸受が知られている。複列アンギュラ玉軸受としては、例えば、単列アンギュラ玉軸受を背面組合せにして、内・外輪をそれぞれ一体にした構造が知られている。この複列アンギュラ玉軸受としては、例えば、軌道輪の荷重を受ける側肩部の肩高さを高くした構造が知られている(特許文献1)。
【0004】
従来、複列アンギュラ玉軸受は、例えば、ポンプやコンプレッサなどに用いられる転がり軸受として使用されている。例えば、特許文献2では、ルーツ式の燃料電池用の水素循環ポンプにおいて複列アンギュラ玉軸受が使用されることが開示されている。具体的には、上記ポンプにおいて、ギヤ室側からロータ室内に突出するように配置された2本の回転軸が、複列アンギュラ球軸受によってそれぞれ回転可能に支持されている。また、これらの回転軸の一方側には、駆動ロータまたは従動ロータが取り付けられ、他方側には、駆動ギヤまたは従動ギヤが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-270644号公報
【特許文献2】特開2021-127736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば特許文献2のように、モータと繋がる駆動ギヤおよび駆動ロータと、駆動ギヤと噛み合う従動ギヤと、駆動ロータと噛み合う従動ロータとが存在する流体機械(例えば、水素循環ポンプ)の場合、駆動ギヤと従動ギヤの間、駆動ロータと従動ロータの間でそれぞれ負荷がかかる。そのため、ここに使用されるような軸受は、特にアキシャル負荷能力やモーメント負荷能力(耐モーメント性)が要求されると考えられる。
【0007】
複列アンギュラ玉軸受では、過大なアキシャル荷重が負荷された場合、溝肩高さが低いと玉が乗り上げ、その部分から剥離などが発生するおそれがある。そのため、溝肩高さが高い方が乗り上げに対して有利である。しかし、溝肩高さが高すぎると保持器を配置するための空間を確保しにくくなる。また、軸受組立て時には、軌道輪の間に玉を挿入しにくくなると考えられる。さらに、コンパクトである事(省スペース)も求められる場合もある。例えば、特許文献1には、内輪の溝肩高さや外輪の溝肩高さを高くすることは記載されているものの、上記のような問題に対して、好適な設計はされていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アキシャル負荷能力やモーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置するための空間を十分確保可能、または、組付け性(玉の挿入性)が良好な複列アンギュラ玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面を有する外輪と、外周に内輪軌道面を有する内輪と、上記外輪軌道面および上記内輪軌道面を複数備え、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面との間に配置される複数の転動体とを備え、上記転動体は上記外輪軌道面および上記内輪軌道面と径方向に対して接触角を持って接触し、上記外輪および上記内輪は、上記転動体の中心を基準とする軸方向における上記接触角を持って接触する側に肩部を有し、上記内輪の上記肩部の高さおよび上記外輪の上記肩部の高さの少なくともいずれかが、上記転動体の直径に対して0.13~0.24倍であることを特徴とする。
【0010】
上記内輪の上記肩部の高さおよび上記外輪の上記肩部の高さのいずれも、上記転動体の直径に対して0.13~0.24倍であることを特徴とする。
【0011】
上記内輪の上記肩部の高さが、上記外輪の上記肩部の高さよりも大きいことを特徴とする。
【0012】
上記内輪は、上記内輪軌道面の間に設けられる内輪内方肩部と、該内輪内方肩部よりも軸方向外側に設けられる内輪外方肩部とを有し、上記内輪の上記肩部が、上記内輪内方肩部および上記内輪外方肩部のいずれか一方であり、上記内輪内方肩部の高さが、上記内輪外方肩部の高さに対して0.99~1.01倍であることを特徴とする。
【0013】
上記複列アンギュラ玉軸受は、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面が対向する2列の軌道を有し、配列が背面組合せであることを特徴とする。
【0014】
上記転動体の直径Dbと、上記複列アンギュラ玉軸受の軸方向幅(軸受幅)Wbが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
1.1≦Wb/(Db×2)≦1.7・・・(1)
【0015】
上記複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに使用されることを特徴とする。
【0016】
上記複列アンギュラ玉軸受は、一端側に相手側ロータと嵌合されるロータが接続されるとともに、他端側に相手側ギヤと嵌合されるギヤが接続される回転軸を回転可能に支持する軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、ポンプに使用され、外輪と、内輪と、複数の転動体とを備え、外輪軌道面は軸方向に複数隣接し、内輪軌道面は軸方向に複数隣接し、外輪および内輪はそれぞれ、転動体との接触部側に肩部を有し、内輪の肩部の高さおよび外輪の肩部の高さの少なくともいずれか(好ましくはその両方)が、転動体の直径に対して0.13~0.24倍であるので、転動体の肩乗り上げが発生しにくく、アキシャル負荷能力、モーメント負荷能力に優れるとともに、組付け性に優れる。
【0018】
内輪の肩部の高さが、外輪の肩部の高さよりも大きいので、例えば、ロータからのモーメント荷重が発生した場合でも、内輪において転動体が肩乗り上げを起こしにくい。
【0019】
内輪は、内輪軌道面の間に設けられる内輪内方肩部と、該内輪内方肩部よりも軸方向外側に設けられる内輪外方肩部とを有し、内輪の肩部が、内輪内方肩部および内輪外方肩部のいずれか一方であり、内輪内方肩部の高さが、内輪外方肩部の高さに対して0.99~1.01倍であるので、内輪における加工が容易であり、低コスト化が図れる。
【0020】
複列アンギュラ玉軸受において、2列の軌道の配列が背面組合せであるので、正面組合せ(DF)と比較して、作用点間距離が大きく、モーメント負荷能力をより向上できる。
【0021】
転動体の直径Dbと、複列アンギュラ玉軸受の軸方向幅Wbが、上記式(1)の関係を満たすので、転動体の直径Dbを維持でき、肩部の強度と定格荷重を確保できる。また、軸方向幅Wbが抑えられ、コンパクト化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の複列アンギュラ玉軸受の一例の縦断面図である。
図2図1に示した複列アンギュラ玉軸受の部分断面図である。
図3】本発明の複列アンギュラ玉軸受を用いた水素循環ポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、外輪軌道面と内輪軌道面が対向する複数列の軌道を有する。以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
本発明の複列アンギュラ玉軸受の一例について、図1に基づいて説明する。図1は、該複列アンギュラ玉軸受の縦断面図である。図1に示すように、複列アンギュラ玉軸受1は、内周に外輪軌道面2aを有する外輪2と、外周に内輪軌道面3aを有する内輪3と、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aとの間に配置される複数の転動体4とを備えている。ここで、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aは、それぞれ周方向に延在する凹状の溝である。外輪2は、軸方向に隣接する複数(図1では2列)の外輪軌道面2aを有し、内輪3は、軸方向に隣接する複数(図1では2列)の内輪軌道面3aを有している。外輪2と内輪3はそれぞれ環状であり、内輪3は外輪2と同心で相対回転可能に配置される。
【0025】
この形態は、いわゆる複列アンギュラ玉軸受であり、外輪2および内輪3は、いずれも一体型の軌道輪で、各軌道輪はそれぞれ2列ずつ軌道面を有している。複列アンギュラ玉軸受1は、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aが対向して形成された軌道を2列有している。転動体4は、各軌道にそれぞれ複数個配置され、転動体4は、保持器5によって回転可能に保持される。保持器5の案内方式は、転動体4によって案内される転動体案内が基本的であるが、保持器5の内周面と内輪3の外周面とを摺接させて保持器5を半径方向で案内する内輪案内や、保持器5の外周面と外輪2の内周面とを摺接させて保持器5を半径方向で案内する、外輪案内でもよい。各軌道面2a、3aの曲率半径は、転動体4の曲率半径より若干大きく寸法付けされている。
【0026】
複列アンギュラ玉軸受1の各軌道において、内輪3および外輪2と、転動体4とは径方向中心線に対して所定の角度α(接触角)を有して接触しており、ラジアル荷重と一方向のアキシャル荷重を負荷できる。図1では、各軌道における転動体4の接触角αの向きが互いに異なっていることから、双方向のアキシャル荷重を受けることができる。本発明において、接触角の角度α(接触部P、Pを繋いだ直線と径方向中心線とがなす角)は、特に限定されないが、20~40°が好ましく、25~35°がより好ましい。なお、本発明の複列アンギュラ玉軸受において、各軌道における転動体4の接触角αの向きは同じであってもよい。
【0027】
複列アンギュラ玉軸受1において、外輪が内周に有する外輪軌道面は、複数あればよく、3列以上であってもよい。また、内輪の内輪軌道面も3列以上であってもよい。なお、外輪軌道面と内輪軌道面の数は、同数である。
【0028】
外輪2の内周および内輪3の外周には、各軌道面2a、3aを挟んだ軸方向両側にそれぞれ肩部が形成されている。より具体的には、外輪2は肩部として、外輪軌道面2aの間に設けられる外輪内方肩部2bと、外輪内方肩部2bよりも軸方向外側に設けられる外輪外方肩部2cとを有している。背面組合せの場合、外輪内方肩部2bは、転動体4との接触部Pがある負荷側に位置している。また、内輪3は、肩部として、内輪軌道面3aの間に設けられる内輪内方肩部3bと、内輪内方肩部3bよりも軸方向外側に設けられる内輪外方肩部3cとを有している。背面組合せの場合、内輪外方肩部3cは、転動体4との接触部Pがある負荷側に位置している。肩部は転動体の中心を基準とする軸方向における接触角を持って接触する側(接触部側)に有していることが好ましい。背面組合せの場合、接触部Pがある負荷側となる外輪内方肩部2bと内輪外方肩部3cを少なくとも有している形態が好ましい。
【0029】
次に、図2を参照して、複列アンギュラ玉軸受における各部材の寸法関係を説明する。図2は、図1に示した複列アンギュラ玉軸受の部分断面図である。
【0030】
複列アンギュラ玉軸受1において、内輪3の接触部側の肩部の高さ(肩高さ)および外輪2の接触部側の肩部の高さ(肩高さ)の少なくともいずれかが、転動体4の直径Dbに対して0.13~0.24倍である。好ましくは、内輪3の接触部側の肩高さが上記範囲にあり、より好ましくは、内輪3の接触部側の肩高さおよび外輪2の接触部側の肩高さの両方が上記範囲にある。
【0031】
本発明において、軌道輪の接触部側の肩高さは、軌道輪の接触部がある負荷側の肩部と当該軌道輪の軌道面の最深部との高低差を意味する。例えば、図2で言えば、内輪3では、内輪外方肩部3cの肩高さhd2を意味し、外輪2では、外輪内方肩部2bの肩高さhD1を意味する。
【0032】
図2において、内輪3の肩高さhd2や外輪2の肩高さhD1が、転動体4の直径Dbに対して0.13倍より大きい場合、転動体4の肩乗り上げが発生しにくくなり、アキシャル荷重やモーメント荷重を安定して受けやすくなる。また、0.24倍より小さい場合、組立時において転動体4の挿入性に優れる。なお、内輪3の肩高さhd2は、転動体4の直径Dbに対して0.16~0.21倍が好ましい。また、外輪2の肩高さhD1は、転動体4の直径Dbに対して0.16~0.21倍が好ましい。
【0033】
また、内輪3の肩高さhd2は、外輪2の肩高さhD1に対して、同じ寸法でもよく、異なる寸法でもよい。通常、回転軸に近い側となる内輪3は、肩乗り上げが発生しやすいことから、内輪3の肩高さhd2が、外輪2の肩高さhD1よりも大きいことが好ましい。例えば、ロータなどの回転部が接続された回転軸を支持する軸受の場合、当該回転部に起因してモーメント荷重が発生し、内輪3において肩乗り上げが懸念される。しかし、少なくとも内輪3の肩高さhd2が、転動体4の直径Dbに対して0.13~0.24倍を満たした上で、外輪2の肩高さhD1よりも大きくすることで、肩乗り上げを好適に抑制できる。
【0034】
また、複列アンギュラ玉軸受1において、内輪3は、内輪内方肩部3bと内輪外方肩部3cにおいて、内周面の径差が小さいことが好ましい。具体的には、内輪内方肩部3bの肩高さhd1が、内輪外方肩部3cの肩高さhd2に対して例えば0.95~1.05倍であり、好ましくは0.98~1.02倍であり、より好ましくは0.99~1.01倍である。また、これらを略同一とすることで、内輪内方肩部3bと内輪外方肩部3cの加工をより少ない工程で行うことができるため、内輪軌道面3aの加工が容易になり、低コスト化にも繋がる。
【0035】
また、複列アンギュラ玉軸受1において、転動体4の直径Dbと、軸受幅(軸受の軸方向幅)Wbは、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
1.1≦Wb/(Db×2)≦1.7・・・(1)
【0036】
ここで、転動体4の直径Dbは、転動体の直径の呼び寸法を意味する。軸受幅Wbは、軌道輪(内輪3と外輪2で異なる場合はより長い方)の軸方向長さを意味する。
【0037】
Wb/(Db×2)が1.1以上の場合、転動体4の直径Dbを小さくする必要がなく、肩部の強度と定格荷重を確保しやすくなる。また、Wb/(Db×2)が1.7以下の場合、コンパクト性に優れる。なお、Wb/(Db×2)は、1.4以上、1.7以下がより好ましい。
【0038】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、ポンプに使用される。ポンプとして水素循環ポンプに適用した構成の一例として、図3に、水素循環ポンプの断面図を示す。水素循環ポンプ11は、モータハウジング12と、ポンプハウジング13と、回転軸14、15と、モータステータ16と、モータロータ17と、ギヤ18、19と、ロータ20、21と、転がり軸受22、23、24、25、26、27とを有している。ここで、転がり軸受25、27が本発明の複列アンギュラ玉軸受であり、転がり軸受22、23、24、26は深溝玉軸受である。
【0039】
モータハウジング12は、ポンプハウジング13に取り付けられている。回転軸14の一方端側はモータハウジング12内に配置されており、回転軸14の他方端側はポンプハウジング13内に配置されている。回転軸14の一方端および他方端は、それぞれ、モータハウジング12内に配置されている転がり軸受22およびポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受23によって回転可能に軸支されている。また、回転軸14は、一方端と他方端との間において、ポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受24および転がり軸受25によって回転可能に軸支されている。
【0040】
回転軸15は、ポンプハウジング13内に配置されている。回転軸15の一方端は、ポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受26によって回転可能に軸支されている。回転軸15は、一方端から離れた位置において、ポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受27によって回転可能に軸支されている。
【0041】
モータステータ16は、モータハウジング12内に配置されている。モータロータ17は、モータステータ16と対向するように回転軸14に取り付けられている。モータステータ16およびモータロータ17により、回転軸14は回転される。回転軸14および回転軸15には、それぞれ、ギヤ18およびギヤ19が取り付けられている。ギヤ18およびギヤ19により、回転軸14の回転が、回転軸15に伝達される。なお、ギヤ18は転がり軸受24と転がり軸受25の間にあり、ギヤ19は転がり軸受26と転がり軸受27の間にある。
【0042】
ポンプハウジング13内には、ポンプ室13aが形成されている。ポンプ室13a内には、ロータ20およびロータ21が配置されている。ロータ20およびロータ21は、それぞれ、回転軸14および回転軸15に取り付けられている。回転軸14の回転に伴ってロータ20が回転するとともに、回転軸15の回転に伴ってロータ21が回転することにより、ポンプ室13a内に水素が吸入され、ポンプ室13a内から水素が吐出される。
【0043】
本発明に係る転がり軸受25、27は、一端側に相手側ロータと嵌合されるロータ20、21が接続されるとともに、他端側に相手側ギヤと嵌合されるギヤ18、19が接続される回転軸14、15を回転可能に支持するものであり、アキシャル荷重やモーメント荷重が掛かりやすい。図3の構成では、特に、従動ギヤであるギヤ19と、従動ロータであるロータ21に繋がる回転軸15を支持する転がり軸受27は、回転軸15のロータ21側が自由端となっており、片持ち支持構造のため、より負荷が掛かりやすいと考えられる。この構成において、本発明の複列アンギュラ玉軸受を採用することで、水素循環ポンプの回転軸が軸ブレなく安定して回転できると考えられる。
【0044】
なお、本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに限らず、他のポンプにも用いることができる。
【実施例0045】
本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
鋼球径Db、ピッチ径、内輪溝底径、および外輪溝底径は同じで、内輪外径および外輪内径が異なる、内・外輪ともに非分離型の複列アンギュラ玉軸受5種(実施例)を用いて、以下の検討を行った。
【0047】
<肩高さhd、hDの検討>
鋼球径Dbに対する肩高さhd、hDの割合(hd/Db、hD/Db)が0.13~0.24(具体的には、0.13、0.16、0.19、0.21、0.24)であった実施例は、軌道面に乗り上げにくく、軌道への鋼球の挿入が可能であることから、アキシャル負荷能力やモーメント負荷能力に優れるとともに、組付け性に優れることがわかった。
【0048】
<Wb/(Db×2)の検討>
上述した肩高さhd、hDの検討に用いた軸受とは異なる非分離型の複列アンギュラ玉軸受5種(参考例)を用いて、Wb/(Db×2)を算出した。その結果、参考例のWb/(Db×2)はそれぞれ、1.150、1.210、1.298、1.431、1.501であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、アキシャル負荷能力、モーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置するための空間が十分確保可能、または、組付け性良好であるので、ポンプに使用でき、特に水素循環ポンプに好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 複列アンギュラ玉軸受
2 外輪
2a 外輪軌道面
2b 外輪内方肩部
2c 外輪外方肩部
3 内輪
3a 内輪軌道面
3b 内輪内方肩部
3c 内輪外方肩部
4 転動体
5 保持器
11 水素循環ポンプ
12 モータハウジング
13 ポンプハウジング
14、15 回転軸
16 モータステータ
17 モータロータ
18、19 ギヤ
20、21 ロータ
22、23、24、25、26、27 転がり軸受
図1
図2
図3