(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023255
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】放熱組成物、放熱部材、及び放熱部材用フィラー集合体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240214BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240214BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240214BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240214BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L101/00
H01L23/36 M
H01L23/36 D
C08K3/04
C01B32/28
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190887
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2020522641の分割
【原出願日】2019-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018104563
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 匡隆
(72)【発明者】
【氏名】スキャリア アビソン
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓
(72)【発明者】
【氏名】西澤 英人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】水野 貴瑛
(72)【発明者】
【氏名】小沢 元樹
(72)【発明者】
【氏名】石垣 司
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明では、絶縁性と放熱性を両立した放熱組成物を提供する。
【解決手段】本発明の放熱組成物は、高分子マトリクスと、ダイヤモンド粒子とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスと、ダイヤモンド粒子とを含有する放熱組成物。
【請求項2】
厚み変化に対する熱抵抗値変化の傾きが、1.8以下である請求項1に記載の放熱組成物。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒子が、平均粒子径の異なる2種類以上のダイヤモンドを含む請求項1又は2に記載の放熱組成物。
【請求項4】
前記ダイヤモンド粒子は、平均粒子径が0.1μm以上200μm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項5】
前記ダイヤモンド粒子は、平均粒子径が10μm以上200μm以下の大粒径ダイヤモンドと、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満の小粒径ダイヤモンドとを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項6】
前記ダイヤモンド粒子が、シラン化合物により表面処理されている請求項1~5のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項7】
前記ダイヤモンド粒子の球形度が、0.5以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項8】
前記ダイヤモンド粒子の充填率が、15体積%以上である請求項1~7の放熱組成物。
【請求項9】
ダイヤモンド粒子以外のその他の熱伝導性フィラーを含む請求項1~8のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項10】
前記その他の熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.1μm以上200μm以下である請求項9に記載の放熱組成物。
【請求項11】
前記放熱組成物にダイヤモンド粒子が含有され、又は、ダイヤモンド粒子及びダイヤモンド粒子以外のその他の熱伝導性フィラーの両方が含有され、
前記ダイヤモンド粒子と前記その他の熱伝導性フィラーの合計充填率が、40体積%以上92%体積以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項12】
前記放熱組成物に熱伝導性フィラーとして、ダイヤモンド粒子が含有され、又は、ダイヤモンド粒子及びダイヤモンド粒子以外のその他の熱伝導性フィラーの両方が含有され、
前記熱伝導性フィラーにおける、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満の小粒径フィラーに対する、平均粒子径が10μm以上200μm以下の大粒径フィラーの体積比が、0.2以上5以下である請求項1~11のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項13】
ボイド率が3%以下である請求項1~12のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項14】
前記ダイヤモンド粒子を含有する熱伝導性フィラーに対する、前記高分子マトリクスの接触角が70°以下である請求項1~13に記載の放熱組成物。
【請求項15】
前記ダイヤモンド粒子の表面酸素量が5%以上である請求項1~14のいずれか1項に記載の放熱組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記の放熱組成物により形成された放熱部材。
【請求項17】
ダイヤモンド粒子を含む、放熱部材用フィラー集合体。
【請求項18】
互いに平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンド粒子を含む、請求項17に記載の放熱部材用フィラー集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などで使用される放熱部材、放熱部材を形成するための放熱組成物、及び放熱部材に配合される放熱部材用フィラー集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器においては、集積された電子部品が熱を発生し、故障の原因となるため、電子部品から発生する熱を機器外部に放熱するための放熱部材を設けることがある。放熱部材は、例えば、電子部品と、筐体やヒートシンクなどの間に配置される。また、放熱部材は、樹脂やエラストマーに、熱伝導性フィラーを配合したものが一般的である。例えば、特許文献1には、シリコーン樹脂に、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーが配合された熱伝導性シリコーンゴム組成物が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電気機器の小型化および高性能化に伴い、駆動に伴い発生する熱を効率よく放散させる技術が求められている。また、電子部品の形状が複雑化してきており、それに伴い、ペースト状のものを正確に塗布することが困難となっている。そのため、導電性があるものが意図しないところに塗布されると、異常動作や発火などの原因となる。したがって、放熱部材には、絶縁性と放熱性の両立が求められるようになっている。
【0005】
しかし、従来のアルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素などの一般的な絶縁性熱伝導性フィラーや酸化亜鉛やアルミニウムなどの一般的な非絶縁性熱伝導性フィラーでは、放熱性と絶縁性の両立ができなかった。
そこで、本発明は、絶縁性と放熱性の両立を兼ね備えた放熱組成物、放熱部材、及び放熱部材用フィラー集合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、放熱組成物、放熱部材、及び放熱部材用フィラー集合体の熱伝導性フィラーとしてダイヤモンドを使用することで上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の(1)~(18)を提供する。
(1)高分子マトリクスと、ダイヤモンド粒子とを含有する放熱組成物。
(2)厚み変化に対する熱抵抗値変化の傾きが、1.8以下である上記(1)に記載の放熱組成物。
(3)前記ダイヤモンド粒子が、平均粒子径の異なる2種類以上のダイヤモンドを含む上記(1)又は(2)に記載の放熱組成物。
(4)前記ダイヤモンド粒子は、平均粒子径が0.1μm以上200μm以下である上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(5)前記ダイヤモンド粒子は、平均粒子径が10μm以上200μm以下の大粒径ダイヤモンドと、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満の小粒径ダイヤモンドとを含む上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(6)前記ダイヤモンド粒子が、シラン化合物により表面処理されている上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(7)前記ダイヤモンド粒子の球形度が、0.5以上である上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(8)前記ダイヤモンド粒子の充填率が、15体積%以上である上記(1)~(7)の放熱組成物。
(9)ダイヤモンド粒子以外のその他の熱伝導性フィラーを含む上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(10)前記その他の熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.1μm以上200μm以下である上記(9)に記載の放熱組成物。
(11)前記放熱組成物にダイヤモンド粒子が含有され、又は、ダイヤモンド粒子及びダイヤモンド粒子以外のその他の熱伝導性フィラーの両方が含有され、
前記ダイヤモンド粒子と前記その他の熱伝導性フィラーの合計充填率が、40体積%以上92体積%以下である上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(12)前記放熱組成物に熱伝導性フィラーとして、ダイヤモンド粒子が含有され、又は、ダイヤモンド粒子及びダイヤモンド粒子以外のその他の熱伝導性フィラーの両方が含有され、
前記熱伝導性フィラーにおける、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満の小粒径フィラーに対する、平均粒子径が10μm以上200μm以下の大粒径フィラーの体積比が、0.2以上5以下である上記(1)~(11)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(13)ボイド率が3%以下である上記(1)~(12)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(14)前記ダイヤモンド粒子を含有する熱伝導性フィラーに対する、前記高分子マトリクスの接触角が70°以下である上記(1)~(13)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(15)前記ダイヤモンド粒子の表面酸素量が5%以上である上記(1)~(14)のいずれか1項に記載の放熱組成物。
(16)上記(1)~(15)のいずれか1項に記載の放熱組成物により形成された放熱部材。
(17)ダイヤモンド粒子を含む、放熱部材用フィラー集合体。
(18)互いに平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンド粒子を含む、上記(17)に記載の放熱部材用フィラー集合体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、絶縁性と放熱性を両立した放熱組成物、放熱部材、及び放熱部材用フィラー集合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態を用いて説明する。
[放熱組成物]
本発明の放熱組成物は、高分子マトリクスと、ダイヤモンド粒子とを含有する。放熱組成物は、熱伝導性フィラーとして熱伝導率が高いダイヤモンド粒子を含有することで、体積抵抗率を高く維持しつつ熱抵抗値が低くなり、絶縁性と放熱性を兼ね備える。
【0009】
本発明の放熱組成物は、厚み変化に対する熱抵抗値変化の傾き(ΔW/ΔD)が、好ましくは1.8以下となるものである。ここで、ΔW/ΔD(単位:K・cm2/W・mm)とは、後述する実施例で説明するとおり、放熱組成物を異なる厚さ(D1、D2)としたときの厚さ方向の熱抵抗値(W1、W2)をそれぞれ測定して、ΔW(単位:K・cm2/W)/ΔD(単位:mm)=(W2-W1)/(D2-D1)の式により算出される値である。本発明では、傾き(ΔW/ΔD)を1.8以下とすることで、放熱性が良好となり、例えば、厚みムラによって発生するヒートスポットを十分に抑制できるようになる。
【0010】
また、放熱性をより良好にする観点から、傾き(ΔW/ΔD)は、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.4以下、より更に好ましくは1.1以下である。
また、傾き(ΔW/ΔD)は、放熱性の観点からは低ければ低いほどよいが、実用的には例えば、0.1以上、好ましくは0.3以上である。
傾き(ΔW/ΔD)は、例えば、ダイヤモンドの形状、大きさ、配合量、表面処理方法などを適宜変更し、また、後述するようにダイヤモンド以外の熱伝導性フィラーを配合し、その熱伝導性フィラーの形状、大きさ、配合量、表面処理方法などを適宜変更することで、上記した所望の範囲内に調整できる。
【0011】
また、本発明の放熱組成物は、体積抵抗値が1.0×1013(Ω・m)以上であり、かつ絶縁破壊電圧強度が10kV/mm以上であることが好ましく、絶縁破壊電圧強度は20kV/mm以上がより好ましい。本発明の放熱組成物は、このように体積抵抗値及び絶縁破壊電圧強度の両方が所定値以上であることで、絶縁性が良好となり、異常動作などの原因となることが防止される。
【0012】
さらに、本発明の放熱組成物は、ボイド率が3%以下であることが好ましい。ボイド率を3%以下にすると、ダイヤモンド粒子を含有する場合、放熱組成物の熱伝導率を高めて、放熱性を優れたものにできる。ダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラーは、参考例1及び2に示されるように、ボイド率が放熱性の低下に与える影響は大きくない。それは、ダイヤモンド粒子以外の場合、フィラーの熱伝導率が低く放熱組成物の熱伝導率も低いため、ボイドの影響が大きくないためと推定される。一方で、ダイヤモンド粒子は、熱伝導率が高く、放熱組成物の熱伝導率も向上するため、ボイド率が放熱性に与える影響が大きい。特にダイヤモンド粒子を使用する場合、ボイド率が3%より高いと、ボイド率が3%以下のものと比較して、熱伝導率が低くなる。すなわち、本発明者らは、ダイヤモンド粒子を使用する場合においてボイド率を3%以下にすることによって、放熱性を更に高めることができるという効果を見出した。なお、このような効果が発揮できたのは、ダイヤモンド粒子の場合、熱伝導率が高いことから、熱伝導率に対するボイドの影響が大きいためと推定される。
【0013】
また、ボイド率を3%以下にして組成物中のボイドを少なくすると、電圧をかけてもボイドが起点となって、放熱組成物の破壊が進むのを抑制できる。そのため、放熱組成物が絶縁破壊しにくくなり、絶縁破壊電圧強度を高くしやすくなる。
さらに、高い放熱性及び高い絶縁破壊電圧強度を得る観点から、放熱組成物のボイド率は2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.9%以下であることがよりさらに好ましく、0.7%以下であることが最も好ましい。放熱組成物のボイド率は、低ければ低いほどよく、0%以上であればよい。
【0014】
ボイド率は、例えばダイヤモンド粒子などの熱伝導性フィラーと高分子マトリクスとの濡れ性により調整することができる。熱伝導性フィラーと高分子マトリクスとの濡れ性の調整は、例えば、後述するように、ダイヤモンド粒子の表面酸素量、及び熱伝導性フィラーの表面処理の有無などによって調整できる。熱伝導性フィラーと高分子マトリクスとの好ましい濡れ性は、具体的には、例えば、熱伝導性フィラーと高分子マトリクスとの接触角を65°以下の範囲が好ましい。
また、ボイド率は、放熱組成物の製造プロセスにおいてボイドを少なくする方法を採用することでも低くできる。例えば、放熱組成物を加熱混練する際に減圧する加熱真空混練を採用するとよい。また、放熱組成物をシリンジに充填するときには、真空引きしながらシリンジに充填することでボイド率を低くしてもよい。さらには、シリンジ充填後に加圧し、気体を樹脂中に溶解させることによってボイド率を低減することも可能である。
【0015】
なお、ボイド率は、放熱組成物の実際の密度をDr、各成分の密度と混合比率から計算した、ボイドがないと仮定したときの放熱組成物の理想的な密度をDiとすると、(1-Dr/Di)×100によって算出できる。
密度Diは、後述する実施例に示すとおり、放熱組成物から測定できるが、その際、放熱組成物に含まれる高分子マトリクスと各種の熱伝導性フィラーとを分離して、各成分の重量と各成分の密度を測定することで算出できる。ただし、高分子マトリクスと熱伝導性フィラーの分離方法は、後述する実施例に記載の方法に限定されず、高分子マトリクスの種類や熱伝導性フィラーの種類によって適宜変更できる。
【0016】
(高分子マトリクス)
本発明における高分子マトリクスは、樹脂、液状高分子成分などが挙げられる。
樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の硬化性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂は、湿気硬化型、熱硬化型、光硬化型のいずれでもよいが、熱硬化型が好ましい。
また、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等の熱可塑性樹脂などでもよい。
【0017】
また、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム等のエラストマー樹脂などが挙げられる。これらエラストマー樹脂は、室温(23℃)、常圧(1気圧)で液状となる液状エラストマーであってもよいし、固体状のものであってもよいし、これらの混合物であってもよい。
また、エラストマー樹脂としては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも使用できる。
【0018】
高分子マトリクスは、液状高分子成分として、シリコーンオイルなどを使用してもよい。これら液状高分子成分は、単独で使用してもよいが、樹脂と併用してもよい。
液状高分子成分は、配合時に室温かつ常圧下に液状であり、かつ使用時においても液状ないしゲル状の成分である。すなわち、液状高分子成分は、硬化剤などにより硬化されず、また、硬化されても硬化後も液状ないしゲル状となるものである。したがって、液状高分子成分を単独で、又は比較的高い配合割合で使用すると、放熱組成物から形成される放熱部材をペースト状にできる。
【0019】
高分子マトリクスとしては、上記した中では、シリコーン樹脂、シリコーンオイルなどのシリコーン、エポキシ樹脂が好ましく、シリコーン樹脂がより好ましい。シリコーン樹脂は、縮合硬化型シリコーン樹脂、付加反応硬化型シリコーン樹脂のいずれでもよいが、付加反応硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
【0020】
付加反応硬化型シリコーン樹脂は、主剤となるシリコーン化合物と、主剤を硬化させる硬化剤とからなることが好ましい。主剤として使用されるシリコーン化合物は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、具体的には、ビニル両末端ポリジメチルシロキサン、ビニル両末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル両末端オルガノポリシロキサンが挙げられる。
主剤として使用されるシリコーン化合物は、25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは150mPa・s以上600mPa・s以下である。
なお、本明細書において粘度は、粘度計(BROOKFIELD回転粘度計DV-E)でスピンドルNo.14の回転子を用い、回転速度5rpm、測定温度25℃で測定するとよい。
【0021】
付加反応硬化型シリコーン樹脂に使用される硬化剤としては、上記した主剤であるシリコーン化合物を硬化できるものであれば、特に限定されないが、ヒドロシリル基(SiH)を2つ以上有するオルガノポリシロキサンである、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。シリコーン化合物のビニル基に対するヒドロシリル基の比(モル比)は、好ましくは0.3以上5以下、より好ましくは0.4以上4以下、さらに好ましくは0.6以上4以下である。ダイヤモンド粒子を使用した放熱組成物では、ダイヤモンド粒子に起因して主剤と硬化剤の反応が進行しないことがあるが、モル比が0.6以上であると、反応が十分に進行して、十分に硬化された放熱部材を得ることが可能になる。
【0022】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリエチルヒドロシロキサン、メチルヒドロシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。これらは、末端にヒドロシリル基を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。
硬化剤の25℃における粘度は、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは150mPa・s以上600mPa・s以下である。
上記した主剤や硬化剤の粘度範囲を上記範囲内とすると、放熱組成物を例えばペースト状で一定の形状に保つことができるため、電子部品などの上に容易に配置できるようになる。また、ダイヤモンドなどの絶縁性熱伝導性フィラーを適切に分散させたうえで多量に配合しやすくなる。
【0023】
高分子マトリクスとしてシリコーン樹脂が使用される場合、放熱組成物には通常、硬化触媒が配合される。硬化触媒としては、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられる。硬化触媒は、シリコーン樹脂の原料となるシリコーン化合物と硬化剤とを硬化させるための触媒である。硬化触媒の配合量は、シリコーン化合物及び硬化剤の合計質量に対して、通常0.1~200ppm、好ましくは0.5~100ppmである。
【0024】
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を少なくとも1つ、好ましくは2つ以上有するエポキシ化合物を使用するとよい。エポキシ化合物としては、例えばビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン型、トリフェノールアルカン型、ビフェニル型、環状脂肪族型、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂としては、エポキシ化合物単独で使用されてもよいが、一般的には、上記エポキシ化合物を主剤とし、さらに硬化剤が加えられたものが使用される。硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、ポリメルカプタン、ジシアンジアミド等が挙げられる。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。これは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
熱硬化性樹脂は、1液硬化型、2液硬化型のいずれでもよいが、好ましくは2液硬化型である。2液硬化型では、上記した主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合して、放熱組成物を調製するとよい。
なお、2液硬化型の場合、ダイヤモンド粒子は、1液及び2液の一方に配合されていてもよいし、両方に配合されていてもよい。後述するその他の熱伝導性フィラーも同様である。
【0026】
高分子マトリクスに使用されるシリコーンオイルとしては、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。シリコーンオイルは、例えば25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは150mPa・s以上600mPa・s以下である。
【0027】
高分子マトリクスの体積割合は、放熱組成物全量に対して、好ましくは10体積%以上50体積%以下、より好ましくは11体積%以上40体積%以下、さらに好ましくは12体積%以上35体積%以下である。高分子マトリクスの体積割合がこれら下限値以上であると、高分子マトリクスに分散されたダイヤモンド粒子などの熱伝導性フィラーを、高分子マトリクスにより保持でき、放熱組成物が一定の形状を維持できるようになる。また、これら上限値以下とすることで、ダイヤモンド粒子などの熱伝導性フィラーを一定量以上放熱組成物に配合できる。
【0028】
(ダイヤモンド粒子)
本発明の放熱組成物は、熱伝導性フィラーとしてダイヤモンド粒子を含有する。
ダイヤモンド粒子は、その球形度が例えば0.5以上、好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.6以上である。球形度は1に近いほど球形に近いことを示す指標となるものであり、球形度を高くすることで、ダイヤモンド粒子を高分子マトリクスに分散させやすくなり、さらに充填率も高めやすくなる。球形度の上限は、特に限定されず、1である。
なお、各フィラーの球形度は、各フィラーの電子顕微鏡写真を確認し、得られた像における粒子300個について、(粒子の投影面積に等しい円の直径/粒子の投影像に外接する最小円の直径)を算出し、その平均値により求めることができる。
【0029】
ダイヤモンド粒子の具体例な形状は、特に限定されず、例えば、球状であってもよいし、破砕形状であってもよいし、その他の形状でもよい。球状とは、球形又は球形に近似する形状を意味し、本明細書では、球形度が、0.8以上のものを球状とする。また、破砕形状とは、破砕によって微細化された形状をいい、一般的に角ばった形状を有する。破砕形状は、例えば0.5以上0.8未満の球形度を有し、好ましくは0.55以上0.8未満、より好ましくは0.6以上0.8未満の球形度を有する。ダイヤモンド粒子は、球状又は破砕形状とすることでダイヤモンド粒子の充填率を高めやすくなり、中でも球状とすることで充填率をより高めやすくなる。
【0030】
ダイヤモンド粒子の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上200μm以下である。0.1μm以上とすることで、放熱組成物の熱抵抗が低くなりやすく、上記した傾き(ΔW/ΔD)も低くしやすくなる。また、0.1μm以上とすることで比表面積が小さくなり、ダイヤモンド粒子近傍に空隙ができにくくなり、ボイド率を低くしやすくなる。また、ボイド率を下げつつ、熱伝導率も向上させることが可能になる。一方で、200μm以下とすることで、高分子マトリクスに適切に分散させつつ、高い充填率でダイヤモンド粒子を含有させることが可能になる。これら観点から、ダイヤモンド粒子の平均粒子径は、好ましくは、0.5μm以上150μm以下である。
なお、平均粒子径は、体積基準での粒子径を平均した平均粒子径であり、例えば、堀場製作所社製「レーザー回折式粒度分布測定装置」を用いて測定することができる。平均粒子径の算出方法については、累積体積が50%であるときの粒子径(d50)を平均粒子径とすればよい。
【0031】
本発明において、放熱組成物に含有されるダイヤモンド粒子は、互いに平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンドを含むことが好ましい。平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンドを使用すると、平均粒子径が小さいほうのダイヤモンド粒子が、平均粒子径が大きいほうのダイヤモンドの間に入り込み、高分子マトリクスにダイヤモンド粒子を適切に分散させつつ、ダイヤモンドの充填率を高めやすくなる。
なお、放熱組成物は、ダイヤモンド粒子の粒度分布において、ピークが2つ以上現れることで平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンドを有すると判断できる。
【0032】
平均粒子径が異なる2種以上のダイヤモンドを含む場合、ダイヤモンド粒子は、平均粒子径が10μm以上200μm以下のダイヤモンド(以下、「大粒径ダイヤモンド」ともいう)と、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満のダイヤモンド(以下、「小粒径ダイヤモンド」ともいう)の混合物であることが好ましい。
このように、大粒径ダイヤモンドと、小粒径ダイヤモンドの両方を使用することで、高分子マトリクスにダイヤモンド粒子を適切に分散させつつ、ダイヤモンドの充填率を高めて、熱抵抗値、及び傾き(ΔW/ΔD)を低くしやすくなる。
【0033】
ダイヤモンド粒子が小粒径ダイヤモンド及び大粒径ダイヤモンドの両方を含有する場合、小粒径ダイヤモンドに対する大粒径ダイヤモンドの体積比(大粒径/小粒径)は、例えば、0.1以上10以下、好ましくは0.2以上8以下、より好ましくは0.3より大きく6以下である。
大粒径ダイヤモンドは、その平均粒子径が15μm以上200μm以下であることより好ましく、18μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。
大粒径ダイヤモンドの形状は、いかなるものでもよいが、上記した破砕状又は球状が好ましく、球状がより好ましい。球状とすることで、ダイヤモンド粒子を適切に分散させつつ充填率を増やすことができる。
【0034】
大粒径ダイヤモンドは、互いに平均粒子径が異なる2種のダイヤモンドが併用されてもよい。例えば、平均粒子径が10μm以上40μm未満のダイヤモンド(以下、「第1の大粒径ダイヤモンド」ともいう)と、平均粒子径が40μm以上200μm以下のダイヤモンド((以下、「第2の大粒径ダイヤモンド」ともいう)が併用されてもよい。第1及び第2の大粒径ダイヤモンドを併用とすると、ダイヤモンド粒子の充填率をより高めやすくなる。
ここで、第1の大粒径ダイヤモンドは、平均粒子径が12μm以上35μm以下であることが好ましく、14μm以上30μm以下であることがより好ましい。一方で、第2の大粒径ダイヤモンドは、平均粒子径が40μm以上150μm以下であることがより好ましく、40μm以上125μm以下であることがより好ましい。
勿論、大粒径ダイヤモンドとして、第1及び第2の大粒径ダイヤモンドのいずれか一方のみが使用されてもよい。
【0035】
大粒径ダイヤモンドとしては、第2の大粒径ダイヤモンドの充填率が第1の大粒径ダイヤモンドの充填率より高いほうが好ましい。具体的には、第2の大粒径ダイヤモンドの充填率は、第1の大粒径ダイヤモンドの充填率の1.5倍以上5倍以下が好ましく、2倍以上4倍以下が好ましい。粒径の大きい第2の大粒径ダイヤモンドを多量に含有することで、傾き(ΔW/ΔD)をより小さくしやすくなる。
【0036】
小粒径ダイヤモンドは、その平均粒子径が0.2μm以上8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上7μm以下であることがさらに好ましい。小粒径ダイヤモンドの形状は、いかなるものでもよいが、破砕状が好ましい。破砕状の小粒径ダイヤモンドは、合成ダイヤモンドを破砕することで容易に製造できる。
【0037】
小粒径ダイヤモンドも、互いに平均粒子径が異なる2種のダイヤモンドが併用されてもよい。例えば、平均粒子径が0.1μm以上2.5μm未満のダイヤモンド(以下、「第1の小粒径ダイヤモンド」ともいう)と、平均粒子径が2.5μm以上10μm未満のダイヤモンド(以下、「第2の小粒径ダイヤモンド」ともいう)が併用されてもよい。
この場合、第1の小粒径ダイヤモンドは、平均粒子径が0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。一方で、第2の小粒径ダイヤモンドは、平均粒子径が3μm以上7μm以下であることが好ましい。
小粒径ダイヤモンドとして、第1及び第2の小粒径ダイヤモンドを併用とすると、ダイヤモンド粒子の充填率をより高めやすくなる。
勿論、小粒径ダイヤモンドとして、第1及び第2の小粒径ダイヤモンドのいずれか一方のみが使用されてもよい。
【0038】
また、平均粒子が異なる2種以上のダイヤモンドを含む場合、ダイヤモンド粒子は、小粒径ダイヤモンド及び大粒径ダイヤモンドの両方を含む必要はなく、例えば、小粒径ダイヤモンドのみであってもよい。この場合、小粒径ダイヤモンド粒子は、上記のように、第1及び第2の小粒径ダイヤモンド粒子を含有するとよい。
同様に、ダイヤモンド粒子は、大粒径ダイヤモンドのみであってもよく、その場合には、大粒径ダイヤモンド粒子は、上記のように、第1及び第2の大粒径ダイヤモンド粒子を含有するとよい。
【0039】
本発明において、ダイヤモンド粒子の充填率は、15体積%以上であることが好ましい。充填率を15体積%以上とすることで、熱抵抗値を低くでき、かつ傾き(ΔW/ΔD)を所望の範囲に調整しやすくなる。そのような観点から、ダイヤモンド粒子の充填率は、20体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましい。
また、ダイヤモンド粒子の充填率は、90体積%以下であることが好ましい。90体積%以下とすることで、高分子マトリクス中に、ダイヤモンド粒子を適切に分散させることができる。そのような観点から、ダイヤモンド粒子の充填率は、85体積%以下がより好ましく、80体積%以下がさらに好ましい。
【0040】
また、本発明は、ダイヤモンド粒子の充填率を高めながらも、上記ボイド率を低くできるものである。具体的には、本発明では、ダイヤモンド粒子の充填率を15体積%以上としつつ、ボイド率を3%以下とすることが好ましい。放熱性を高めるためにダイヤモンド粒子の充填率を15体積%以上にすると、ボイド率が高くなり絶縁性が低くなる傾向にあるが、本発明では、充填率を15体積%以上としても、上記の通りボイド率を3%以下にすることで、絶縁性と放熱性のいずれも優れたものにできる。
絶縁性と放熱性をより高める観点から、充填率を20体積%以上としつつボイド率を2%以下とすることが好ましく、充填率を30体積%以上としつつボイド率を1%以下とすることがより好ましい。
【0041】
ダイヤモンド粒子を熱伝導フィラーとして単独で使用する場合(すなわち、ダイヤモンド粒子以外の熱伝導フィラーを使用しない場合)、傾き(ΔW/ΔD)を所望の範囲に調整するためには、ダイヤモンド粒子の充填率を高くする必要がある。したがって、ダイヤモンド粒子を熱伝導フィラーとして単独で使用する場合、ダイヤモンド粒子の充填率は、50体積%以上90体積%以下が好ましく、60体積%以上85体積%以下がより好ましく、65体積%以上80体積%以下がさらに好ましい。
一方で、ダイヤモンド粒子を、後述するダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラーと併用する場合、ダイヤモンド粒子の充填率はそれほど高くする必要はない。したがって、そのような場合、ダイヤモンド粒子の充填率は、15体積%以上80体積%以下が好ましく、20体積%以上75体積%以下がより好ましい。
【0042】
なお、本明細書において「充填率」とは、放熱組成物の全体積に対する、体積%を意味し、例えば、ダイヤモンド粒子の充填率は、放熱組成物の全体積に対する、ダイヤモンド粒子が占める体積%を意味する。各成分の体積は、各成分の重量と、比重(密度)により算出可能である。
なお、放熱組成物から充填率を測定する場合において、充填率は、例えば、以下に示すように、各成分を分離して各成分の体積を算出することで測定できる。
【0043】
具体的には、まず、放熱組成物に適宜溶剤を加えて、高分子マトリクスを溶解して、遠心分離機などにより、高分子マトリクスを熱伝導性フィラーから分離する。その後、分離した高分子マトリクスの密度、及び重量を測定して、その測定値から高分子マトリクスの体積を求める。同様に、分離された熱伝導性フィラーも、密度、及び重量を測定して、その測定値からダイヤモンド粒子を含む熱伝導性フィラー全体の体積を求める。
その後、ダイヤモンド粒子が、他の熱伝導性フィラーよりも低温で分解する性質を利用し熱伝導性フィラー全体を焼成して、ダイヤモンド粒子のみを分解させる。そして、残ったダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラーについて、密度及び重量を測定して、その測定値からダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラーの体積を求め、ダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラーの体積と、熱伝導性フィラー全体の体積からダイヤモンド粒子の体積を求める。
以上のように算出された高分子マトリクス、熱伝導性フィラー全体、及びダイヤモンド粒子の体積よりダイヤモンド粒子の充填率を算出できる。また、後述するダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラー、及び熱伝導性フィラー全体の充填率も同様に算出できる。
また、分離した高分子マトリクスの密度、及び熱伝導性フィラーの密度は、23℃で密度計(例えば、測定装置「アキュピックII 1340」、島津製作所社製)を用いて測定するとよい。
【0044】
ダイヤモンド粒子は、通常、合成ダイヤモンドであり、黒鉛などの炭素原料を、鉄などの金属触媒存在下、高温高圧下で結晶化して合成できる。そのように合成されたダイヤモンドは、一般的に球状となる。また、高温高圧下で結晶化して合成されたダイヤモンドを、必要に応じて適宜破砕などすることで破砕形状のダイヤモンド粒子とするとよい。
合成されたダイヤモンド粒子は、必要に応じて、酸洗浄、または、水素ガスを使用した還元処理などが行われる。ダイヤモンド粒子は、酸洗浄し、その後未処理とすると、ダイヤモンド粒子表面に水酸基などの官能基が僅かに存在する。水酸基などの官能基が表面に存在するダイヤモンド粒子は、後述するシラン化合物などの表面処理剤により表面処理されると、その表面処理剤がダイヤモンド粒子に結合ないし付着しやすくなる。それにより、ダイヤモンド粒子は、高分子マトリクスになじみやすくなる。また、表面処理剤を使用しない場合も、ダイヤモンド粒子は、水酸基などの官能基が表面に存在することで、高分子マトリクスの種類によっては高分子マトリクスになじみやすくなる。
【0045】
また、ダイヤモンド粒子は、破砕したものを使用すると、相対的に水酸基などの官能基が表面に存在しにくくなるため、上記のように酸洗浄後に未処理のものを使用しても、後述する表面酸素量が比較的小さくなることがある。水酸基などの酸素原子が実質的に存在しないダイヤモンド粒子の内部が、破砕により表出するためである。
【0046】
上記のように、ダイヤモンド粒子は、その表面に水酸基を有することで表面酸素量が一定値以上となることが好ましい。具体的には、放熱組成物に含有されるダイヤモンド粒子の表面酸素量は、5%以上が好ましい。
ダイヤモンド粒子は、一般的に、表面処理剤がダイヤモンド粒子に結合ないし付着しにくく、また、高分子マトリクスになじみにくいため、ダイヤモンド粒子の周囲に空隙(ボイド)ができやすい。したがって、ダイヤモンド粒子の表面に水酸基を存在させて、表面酸素量を上記した一定値以上とすることで、表面処理剤をダイヤモンド粒子に結合ないし付着させ、また、ダイヤモンド粒子を高分子マトリクスになじませて、上記したようにボイド率を低くできる。これら観点から、ダイヤモンド粒子の表面酸素量は10%以上がより好ましい。なお、表面酸素量は、後述する実施例で示すように、XPS分析により測定でき、放熱組成物に含有されるダイヤモンド粒子全体に対する表面酸素量を求めればよい。例えば、表面酸素量が互いに異なる2種以上のダイヤモンド粒子を使用する場合には、各種のダイヤモンド粒子の表面酸素量を測定して加重平均などにより、ダイヤモンド粒子全体に対する表面酸素量を求めればよい。
【0047】
高分子マトリクスと熱伝導性フィラーとの界面でのボイドを低減させるためには、高分子マトリクスに対する熱伝導性フィラーの濡れ性を向上させることが好ましい。なお、濡れ性を向上させるためには、後述するように表面処理をすることが有用である。
高分子マトリクスと熱伝導性フィラーの濡れ性は、熱伝導性フィラーの高分子マトリクスに対する接触角で評価できる。熱伝導性フィラーの高分子マトリクスに対する接触角は、好ましくは70°以下、より好ましくは65°以下、更に好ましくは60°以下である。
濡れ性は、後述する実施例に示すように、放熱組成物に含有される熱伝導性フィラーの集合体により基板(ペレット)を作成して、その基板に対する、放熱組成物に使用される高分子マトリクスの濡れ性を測定することにより評価できる。接触角の具体的な測定は、液適法にて行う。また、放熱組成物から接触角を測定する場合には、後述する実施例に示すとおり、放熱組成物に含まれる高分子マトリクスと各種の熱伝導性フィラーとを分離する必要があるが、高分子マトリクスと熱伝導性フィラーの分離方法は、実施例に記載の方法に限定されず、高分子マトリクスの種類や熱伝導性フィラーの種類によって適宜変更できる。なお、濡れ性の評価は、後述する実施例で示すように、熱伝導性フィラーに表面処理が施される場合、表面処理が施された熱伝導性フィラーの高分子マトリクスに対する濡れ性が評価される。
【0048】
熱伝導性フィラーの高分子マトリクスに対する濡れ性を向上させたり、熱伝導性フィラー表面に表面処理剤を付着又は結合させたりしやすくするために、上記のように表面酸素量を高くすることが好ましい。また、フィラー表面を活性化させてもよい。フィラー表面を活性化させる方法としては、プラズマ処理、酸処理、熱処理、アルミナコート処理などを実施することが挙げられる。
【0049】
(ダイヤモンド粒子の表面処理)
本発明で使用するダイヤモンド粒子は、表面処理がされることが好ましい。ダイヤモンド粒子は、表面処理がされることで、高分子マトリクスになじみやすくなり、高分子マトリクス中に大量のダイヤモンド粒子を均一に分散させやすくなる。また、放熱組成物にシラン化合物などのダイヤモンド粒子を分散させるための化合物を配合する必要がないので、放熱組成物の粘度、チキソ性、濡れ性、熱伝導率などの低下を抑えつつ、ダイヤモンド粒子を分散させることが可能になる。
ダイヤモンド粒子は、シラン化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、リン酸化合物などの表面処理剤などで表面処理され、好ましくはシラン化合物により表面処理される。
【0050】
表面処理剤のダイヤモンド粒子への付着量は、ダイヤモンド粒子に対して、例えば、0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.02質量%以上2.5質量%以下である。
【0051】
表面処理に用いられるシラン化合物としては特に制限はなく、例えば、アルコキシシラン類、クロロシラン類が挙げられ、アルコキシシラン類が好ましい。また、シラン化合物で表面処理されたダイヤモンド粒子は、高分子マトリクスに上記したシリコーン樹脂、シリコーンオイルを使用すると、高分子マトリクスに特になじみやすくなり、放熱組成物におけるダイヤモンド粒子の配合量を増加させやすくなる。また、シラン化合物、特に後述するように、高分子シラン化合物を使用することで、フィラー、樹脂間の水素結合によりチキソ指数が低下するなどの不具合も生じにくくなる。
【0052】
アルコキシシラン類としては、反応性基を有するアルコキシシラン、及び反応性基を有しないアルコキシシランが挙げられる。反応性基を有するアルコキシシランにおける反応性基は、例えば、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、ビニル基、ウレイド基、メルカプト基、及びイソシアネート基から選ばれる。
エポキシ基を有するアルコキシシランとしては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシランとしては、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
アミノ基を有するシラン化合物としては、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが挙げられる。
ビニル基を有するシラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
メルカプト基を有するアルコキシシランとしては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
ウレイド基を有するアルコキシシランとしては、3-ウレイドプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
イソシアネート基を有するアルコキシシランとしては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0053】
また反応性基を有しないアルコキシシランとしては、アリールトリアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシランなどのトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシランなどのジアルコキシシランが挙げられ、これらの中では、アルキルトリアルコキシシランなどのトリアルコキシシランが好ましい。
アルキルトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシランなど、アルキル基の炭素数が1~10程度のアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。また、アリールトリメトキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、トリルトリメトキシシランなどのアリール基の炭素数が6~10程度のアリールトリアルコキシシランが挙げられる。また、ジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0054】
また、シラン化合物の好ましい一態様としては、反応性基を有するアルコキシシランと、その反応性基と反応可能な官能基を有するポリオルガノシロキサンとの反応生成物である高分子シラン化合物が使用される。高分子シラン化合物を使用すると、ダイヤモンド粒子が、高分子マトリクス、特にシリコーン樹脂、シリコーンオイルとより一層なじみやすくなり、充填率を高めやすくなる。
高分子シラン化合物は、例えば、反応性基を有するアルコキシシランと、ポリオルガノシロキサンとを混合して、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの触媒存在下加熱などすることで反応させて得るとよい。
反応性基を有するアルコキシシランとしては、上記で列挙したものが使用できるが、上記したもののうち、トリアルコキシシランを使用することが好ましい。反応性基を有するアルコキシシランとしては、(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するシラン化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するトリアルコキシシランがより好ましい。(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するシラン化合物を使用すると、後述するヒドロシリル基(SiH)を有するオルガノポリシロキサンと容易に反応するので、簡単な方法で高分子シラン化合物を得ることができる。
【0055】
高分子シラン化合物に使用される、官能基を有するポリオルガノシロキサンは、官能基は1つであってもよいが、2つ以上であってもよい。2つ以上の官能基を有する場合、このポリオルガノシロキサン1分子に対して、反応性基を有するアルコキシシランが2分子以上結合されてもよい。
官能基を有するポリオルガノシロキサンは、ヒドロシリル基(SiH)を有するオルガノポリシロキサンが好ましい。ヒドロシリル基(SiH)を有するオルガノポリシロキサンとしては、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、メチルヒドロシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。これらは、末端にヒドロシリル基を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。
官能基を有するポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、好ましくは800~5000、より好ましくは1500~4000である。なお、重量平均分子量は、GPCにより測定してポリスチレン換算の値である。
【0056】
シラン化合物を用いて表面処理をする方法は、特に制限はなく、公知の方法で行えばよく、例えば、湿式処理法、乾式処理法、事前処理法を用いることができる。本発明では、これらの中では、湿式処理法が好ましい。
湿式処理法では、例えば、シラン化合物を分散又は溶解した溶液中に、ダイヤモンド粒子を加えて混合し、その後、加熱処理することで、ダイヤモンド粒子の表面にシラン化合物を結合ないし付着させるとよい。
乾式処理法は、溶液を使用せずに表面処理する方法であり、具体的には、ダイヤモンド粒子にシラン化合物を混合しミキサー等で攪拌し、その後、加熱処理することで、ダイヤモンド粒子の表面にシラン化合物を結合ないし付着させる方法である。
また、事前処理法は、シラン化合物を分散又は溶解した溶液に、ダイヤモンド粒子に加えて、水も添加して混合して、添加された水によりシラン化合物を反応させ、ダイヤモンド粒子の表面にシラン化合物を結合ないし付着させ、その後、洗浄、乾燥などして行う方法である。
【0057】
なお、全てのダイヤモンド粒子が表面処理されていてもよいし、一部のダイヤモンド粒子のみが表面処理されていてもよいが、全てのダイヤモンド粒子が表面処理されることが好ましい。また、例えば2種以上のダイヤモンド粒子が表面処理される場合、その2種以上のダイヤモンド粒子は、混合されて同時に表面処理されてもよいが、別々に表面処理されてもよい。
【0058】
(その他の熱伝導性フィラー)
本発明の放熱組成物は、熱伝導性フィラーとして、ダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラー(以下、「その他の熱伝導性フィラー」ともいう)をさらに含有することが好ましい。その他の熱伝導性フィラーを含有することで、熱伝導性フィラー全体の充填率を向上させて、傾き(ΔW/ΔD)を低くしやすくして、放熱性を向上させる。
その他の熱伝導性フィラーとしては、絶縁性の観点から電気伝導率の低い材料が使用され、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、ダイヤモンド以外の炭素系材料などが挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、ベーマイトなどの酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。また、ケイ酸塩鉱物であるタルクなども使用できる。
これらその他の熱伝導性フィラーは、単独で使用してもよいが、2種類以上併用してもよい。
その他の熱伝導性フィラーの熱伝導率は、熱伝導性を向上させる観点から、好ましくは8W/m・K以上であり、より好ましくは20W/m・K以上である。
【0059】
その他の熱伝導性フィラーは、熱伝導性及び絶縁性の観点から、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルク、窒化アルミニウム、グラフェンから選択される1種以上が好ましく、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び窒化アルミニウムから選択される1種以上がより好ましく、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムから選択される1種以上がさらに好ましい。酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムは、耐水性が高く、例えば後述するインテグラルブレンド法を用いた場合でも、表面が傷つきそこから分解が生じたりすることを防止する。
【0060】
その他の熱伝導性フィラーは、表面処理されてもよい。その他の熱伝導性フィラーは、表面処理がされることで、高分子マトリクスになじみやすくなり、高分子マトリクス中の大量のダイヤモンド粒子とともに、均一に分散されやすくなる。
その他の熱伝導性フィラーは、シラン化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、リン酸化合物などの表面処理剤で表面処理され、好ましくはシラン化合物により表面処理される。なお、表面処理の詳細及び処理方法は、ダイヤモンド粒子に対して行われる表面処理と同様であるからその説明は省略する。
なお、その他の熱伝導性フィラーは、全てのフィラーが表面処理されていてもよいし、一部のみが表面処理されていてもよい。
その他の熱伝導性フィラーは、表面処理がされる場合、ダイヤモンド粒子と混合されて、ダイヤモンド粒子と同時に表面処理されることが好ましいが、ダイヤモンド粒子とは別に表面処理されてもよい。
【0061】
その他の熱伝導性フィラーは、その球形度が例えば0.5以上、好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.6以上である。球形度は1に近いほど球形に近くなるものであり、球形度を高くすることで、その他の熱伝導性フィラーの充填率を高めやすくなる。また、球形度の上限は、特に限定されず、1である。
また、本発明では、その他の熱伝導性フィラーに加えて、上記したようにダイヤモンド粒子の球形度も高くすることで、ダイヤモンド粒子及びその他の熱伝導性フィラーの合計充填量を高めやすくなる。
【0062】
その他の熱伝導性フィラーの形状は特に限定されず、板状、鱗片状、針状、繊維状、チューブ状、球状、破砕形状などのいずれでもよいが、球状、破砕形状のいずれかが好ましい。なお、球状とは、上記したように球形又は球形に近似する形状を意味し、球形度が、0.8以上である。また、破砕形状は、例えば、0.5以上0.8未満の球形度を有し、好ましくは0.55以上0.8未満、より好ましくは0.6以上0.8未満の球形度を有する。
【0063】
その他の熱伝導性フィラーの平均粒子径は、例えば、0.1μm以上200μm以下である。0.1μm以上であると、ダイヤモンド粒子と併用することで、厚さ方向の熱抵抗を低くしやすくなり、また、傾き(ΔW/ΔD)も低くしやすくなり、上記した所望の範囲内に調整しやすくなる。また、200μm以下とすることで、ダイヤモンド粒子に加えて、その他の熱伝導性フィラーを高充填としても、フィラーが均一に分散しないなどの不具合が生じにくくなる。これら観点から、その他の熱伝導製フィラーの平均粒子径は、好ましくは、0.2μm以上150μm以下、より好ましくは0.4μm以上125μm以下である。
【0064】
その他の熱伝導性フィラーの充填率は、フィラー合計充填率が後述する範囲となるように適宜調整すればよいが、好ましくは75体積%以下、より好ましくは70体積%以下である。これら上限値以下とすることで、放熱組成物に一定量以上のダイヤモンド粒子を配合できるので、傾き(ΔW/ΔD)を所望の範囲内に調整しやすくなる。また、その他の熱伝導性フィラーの充填率は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上である。これら下限値以上とすると、その他の熱伝導性フィラーを配合した効果を発揮させやすくなる。
また、その他の熱伝導性フィラーの充填率は、絶縁性及び放熱性の観点から、ダイヤモンド粒子の充填率に対して、0.1以上5以下が好ましく、0.2以上4以下がより好ましく、絶縁性をさらに高める観点から0.3以上2以下がさらに好ましい。
【0065】
その他の熱伝導性フィラーは、例えば、平均粒子径が10μm以上200μm以下の熱伝導性フィラー(以下、「大粒径熱伝導性フィラー」ともいう)であってもよいし、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満の熱伝導性フィラー((以下、「小粒径熱伝導性フィラー」ともいう)であってもよい。また、その他の熱伝導性フィラーは、大粒径熱伝導性フィラー及び小粒径熱伝導性フィラーの両方が使用されてもよい。
【0066】
大粒径熱伝導性フィラーは、平均粒子径が15μm以上150μm以下であることが好ましく、18μm以上135μm以下であることがより好ましく、20μm以上125μm以下であることが好ましい。大粒径熱伝導性フィラーは、1種を単独で使用してもよいが、互いに平均粒子径が異なる2種以上を併用してもよい。
【0067】
小粒径熱伝導性フィラーは、その平均粒子径が0.2μm以上8m以下であることより好ましく、0.3μm以上7μm以下であることがさらに好ましい。
小粒径熱伝導性フィラーは、1種を単独で使用してもよいが、互いに平均粒子径が異なる2種以上を併用してもよい。例えば、平均粒子径が0.1μm以上2μm未満の小粒径熱伝導性フィラー(以下、「第1の小粒径熱伝導性フィラー」ともいう)と、平均粒子径が2μm以上10μm未満の小粒径熱伝導性フィラー(以下、「第2の小粒径熱伝導性フィラー」ともいう)が併用されてもよい。
この場合、第1の小粒径熱伝導性フィラーは、平均粒子径が0.3μm以上2μm未満であることが好ましい。一方で、第2の小粒径熱伝導性フィラーは、平均粒子径が3μm以上7μm以下であることが好ましい。
小粒径熱伝導性フィラーとして、第1及び第2の小粒径熱伝導性フィラーを併用とすると、小粒径熱伝導性フィラーの充填率をより高めやすくなる。
勿論、小粒径熱伝導性フィラーとして、第1及び第2の小粒径熱伝導性フィラーのいずれか一方のみが使用されてもよい。
【0068】
本発明において、その他の熱伝導性フィラーは、ダイヤモンド粒子に対して、補完的に組み合わされて含有されることが好ましい。具体的には、熱伝導性フィラー(ダイヤモンド粒子、及びその他の熱伝導性フィラー)は、傾き(ΔW/ΔD)を低くするためには、大粒径のフィラーと、小粒径のフィラーを組み合わせて、大粒径及び小粒径のフィラーをいずれも所定量以上に配合することが好ましい。
したがって、ダイヤモンド粒子が大粒径ダイヤモンドを含有しない場合や、含有しても少ない場合には、その他の熱伝導性フィラーとして少なくとも大粒径熱伝導性フィラーを配合すればよい。
同様に、ダイヤモンド粒子が小粒径ダイヤモンドを含有しない場合や、含有しても少ない場合には、熱伝導性フィラーとして少なくとも小粒径のその他の熱伝導性フィラーを配合すればよい。
また、ダイヤモンド粒子が、大粒径ダイヤモンドと、小粒径ダイヤモンドの両方をそれぞれ適度な量含有する場合には、熱伝導性フィラーも、小粒径熱伝導性フィラー及び大粒径熱伝導性フィラーの両方をそれぞれ適度に配合するとよい。
【0069】
熱伝導性フィラー全体(すなわち、ダイヤモンド粒子とその他の熱伝導性フィラーの合計)における、小粒径フィラーに対する、大粒径フィラーの体積比(大粒径/小粒径)は、例えば、0.2以上5以下である。この体積比は、好ましくは0.5以上2以下、より好ましくは1.0以上1.8以下である。なお、大粒径フィラーとは、平均粒子径が10μm以上200μm以下の熱伝導性フィラーを意味し、その体積は、上記大粒径ダイヤモンド粒子と大粒径熱伝導性フィラーの合計体積である。また、小粒径フィラーとは、平均粒子径が0.1μm以上10μm未満の熱伝導性フィラーを意味し、その体積は、上記小粒径ダイヤモンド粒子と小粒径熱伝導性フィラーの合計体積である。
熱伝導性フィラー全体における体積比(大粒径/小粒径)を上記範囲内にすると、熱伝導性フィラーの含有量を大量にしても熱伝導性フィラーを高分子マトリクスに均一に分散させることが可能である。また、放熱組成物の熱抵抗値を低くし、さらには、傾き(ΔW/ΔD)も低くできる。
【0070】
また、熱伝導性フィラーの合計充填率(すなわち、ダイヤモンド粒子の充填率とその他の熱伝導性フィラーの充填率の合計)は、好ましくは40体積%以上92体積%以下、より好ましくは50体積%以上90体積%以下、さらに好ましくは65体積%以上85体積%以下である。これら下限値以上とすることで、熱抵抗値を低くでき、さらには、傾き(ΔW/ΔD)を低くできる。また、上限値以下とすることで、熱伝導性フィラーを適切に高分子マトリクス中に分散させることが可能になる。
【0071】
(分散剤)
本発明の放熱組成物は、分散剤を含有することが好ましい。分散剤を含有することで、ダイヤモンド粒子などの熱導電性フィラーを放熱組成物に分散させやすくなり、ダイヤモンド粒子などを大量に放熱組成物に配合できる。
分散剤としては、例えば高分子系分散剤が使用できる。使用される高分子系分散剤としては、官能基を有する高分子化合物が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、エポキシ系、ポリスチレン系、アミノ系等が挙げられる。また、官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸エステル基、スルホン酸エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、四級アンモニウム塩基、アミド基等が挙げられ、リン酸エステル基が好ましい。分散剤は、高分子マトリクスが例えばエポキシ樹脂を含むときに使用されることが好ましい。
分散剤の含有量は、放熱組成物全量基準で、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.4質量%以上2.5質量%以上がより好ましい。含有量をこれら下限値以上とすると、ダイヤモンド粒子などの熱伝導性フィラーを放熱組成物に適切に分散させやすくなる。また、上限値以下とすることで、含有量に見合った分散性を付与できる。
【0072】
(その他の添加剤)
本発明の放熱組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤等の放熱部材に一般的に使用する添加剤を含有してもよい。また、放熱組成物に、熱硬化性樹脂を使用する場合には、反応遅延剤を含有させてもよい。
【0073】
(放熱組成物の調製)
本発明の放熱組成物は、高分子マトリクス及びダイヤモンド粒子、さらには、必要に応じて配合されるその他の熱伝導性フィラー、分散剤などの添加剤などを混合して調製するとよい。これら成分を混合する方法は、特に限定されないが、例えば、高分子マトリクスに、ダイヤモンド粒子、さらには、必要に応じて配合されるその他の熱伝導性フィラー、添加剤など添加し、その後攪拌ないし混練などすることで調整するとよい。また、2液硬化型の熱硬化性樹脂の場合には、上記したように、予め用意した1液と、2液とを混合することで調製するとよい。1液、2液それぞれを用意する際も同様に各種成分を混合して調製するとよい。
ここで、各成分を混合するときの温度は、特に限定されないが、ダイヤモンド粒子や熱伝導性フィラーが分散剤により分散され、かつ高分子マトリクスがエポキシ樹脂である場合には、例えば、20℃以上140℃以下であればよい。混練温度が140℃以下であると、分散剤により分散された各種フィラーの分散性が維持される。また、同様の理由で、ダイヤモンド粒子や熱伝導性フィラーが分散剤により分散され、かつ高分子マトリクスがエポキシ樹脂である場合には、後述するように放熱組成物を所定の形状にし、その後硬化するときの温度も140℃以下にするとよい。
【0074】
また、熱伝導性フィラー、ダイヤモンドは、上記のようにシラン化合物によって表面処理された上で、高分子マトリクスに配合するとよいが、インテグラルブレンド法を用いてもよい。すなわち、熱伝導性フィラー、ダイヤモンドは、上記した表面処理をせずに、高分子マトリクスに上記したシラン化合物などを加えて混合してもよい。
【0075】
[放熱部材]
本発明の放熱部材は、上記した放熱組成物により形成されるものである。放熱部材は、高分子マトリクスが硬化性樹脂を含む場合には、放熱組成物の硬化物である。放熱部材は、例えば、高分子マトリクスが硬化性樹脂を含む場合には、上記放熱組成物を所定の形状にした後、適宜加熱などして硬化させることで所定の形状に成形された放熱部材を得ることが可能になる。また、高分子マトリクスが硬化性樹脂を含む場合以外でも、放熱組成物を所定の形状にして、放熱部材とすればよい。放熱組成物を所定の形状にする方法としては、特に限定されず、塗布、キャスティング、ポッティング、押出成形などにより、薄膜状、シート状、ブロック状、不定形状などの形状とすればよい。
【0076】
本発明の放熱部材は、例えば電気機器内部において使用される。本発明の放熱部材は、絶縁性及び放熱性に優れることから、電気機器内部で使用しても異常動作などが生じることなく、高い放熱性を確保できる。
より具体的には、放熱部材は、電子部品の上に配置されて、電子部品で発生した熱を放熱するために使用され、好ましくは表面に凹凸を有する電子部品の凹凸面上に配置されて使用される。凹凸面上に配置されることで、放熱部材は、一部の厚さが他の部分と異なる厚みムラが生じることがあるが、本発明の放熱部材は、ダイヤモンド粒子を使用し、上記傾き(ΔW/ΔD)が小さく、放熱性に優れることから、厚みムラによって生じるヒートスポットを抑制できる。
【0077】
また、本発明の放熱部材は、2つの対向する部材の間の隙間を埋めるように配置されて使用されることが好ましい。2つ対向する部材は、例えば、一方が電子部品で、他方が電子部品から熱を逃がすためのヒートシンク、電子機器の筐体、基板などのいずれかであるとよい。2つの対向する部材は、その互いに対向する面のいずれか一方が、凹凸を有することが好ましい。互いに対向する面のいずれかが凹凸を有すると、その凹凸に合わせて、放熱部材に厚みむらが生じることがあるが、本発明の放熱部材は、ダイヤモンド粒子を使用し、上記した傾き(ΔW/ΔD)が小さく、放熱性に優れることから、厚みムラによって生じるヒートスポットを抑制できる。
【0078】
[放熱部材用フィラー集合体]
本発明の別の側面は、熱伝導性フィラーとしてダイヤモンド粒子を含有する放熱部材用フィラー集合体を提供する。放熱部材用フィラー集合体に使用するダイヤモンド粒子は、例えば、少なくとも2種以上のダイヤモンド粒子を含有するものであり、具体的には、平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンドを含む。なお、放熱部材用フィラー集合体は、ダイヤモンド粒子の粒度分布においてピークが2つ以上現れることで、平均粒子径が異なる2種類以上のダイヤモンドを有すると判断できる。
また、放熱部材用フィラー集合体は、さらにダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラー(その他の熱伝導性フィラー)を含有してもよい。放熱部材用フィラー集合体に含有されるダイヤモンド粒子は、上記したとおり、シラン化合物などにより表面処理がされていてもよい。同様に、熱伝導性フィラーもシラン化合物などにより表面処理がされていてもよい。ダイヤモンド粒子及びその他の熱伝導性フィラーの特徴は、上記した通りであり、その説明は省略する。
本発明の放熱用フィラー集合体は、上記した高分子マトリクスに配合することで、放熱組成物が得られる。したがって、本発明の放熱用フィラー集合体を例えば使用前に高分子マトリクスに混合して、放熱組成物として使用するとよい。
【実施例0079】
以下に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
実施例、比較例で実施した評価方法及び測定方法は以下の通りである。
[傾き(ΔW/ΔD)]
各実施例、比較例、及び参考例で得られた放熱組成物を直ちに測定装置の測定部分上に厚み500μm(D2)となるように塗布して、そのときの放熱組成物の熱抵抗値(W2)を、メンターグラフィックス社製の装置「DynTIM」を用いてASTM D5470に準拠して測定した。その後、放熱組成物の厚みを調整して厚み300μm(D1)のときの熱抵抗値(W2)を同様に測定した。得られた熱抵抗値を用いて、式:ΔW(単位:K・cm2/W)/ΔD(単位:mm)=(W2-W1)/(D2-D1)より傾き(ΔW/ΔD、単位:K・cm2/W・mm)を算出した。
【0081】
[ボイド率]
放熱組成物を溶媒(トルエン50質量%、キシレン50質量%の混合溶液)でポリマーを溶解させ(希釈倍率10倍(質量比))、遠心分離機を用いて熱伝導性フィラーとポリマー(高分子マトリクス)を分離した。ポリマーを含有している溶解液から溶媒を真空乾燥により除去し、密度を密度計(測定装置「アキュピックII 1340」、島津製作所社製、測定条件:温度23℃)を用いて測定し、重量も測定した。測定した重量をWp、密度をDpとした。分離した熱伝導性フィラーの密度も同様に密度計を用いて測定し、重量も同時に測定した。測定した重量をWf,密度をDfとした。
分離した熱伝導性フィラーを卓上小型電気炉(「NHK-170」、日陶科学社製)により、900℃、48時間で焼成し、ダイヤモンド粒子を分解した。焼成後のフィラーの密度と重量を測定した。測定した重量をWa、測定した密度をDaとした。測定した重量Wa及び密度Daは、ダイヤモンド粒子以外の熱伝導性フィラーの重量及び密度である。Wf,Df,Wa,Daを用いてダイヤモンド粒子の重量(Wd)及び密度(Dd)を以下の式により求めた。
Wd=Wf-Wa
Dd=Wd/((Wf/Df)-(Wa/Da))
これらの値を用いて、以下の式によりボイドがない場合の放熱組成物の理想的な密度Diが求められる。
Di=(Wp+Wa+Wd)/((Wa×Da)+(Wp×Dp)+(Wd+Dd))
さらに、実際の放熱組成物の密度Drを密度計(測定装置「アキュピックII 1340」、島津製作所社製、測定条件:温度23℃)を用いて測定し、(1-Dr/Di)×100により、ボイド率を算出した。
ボイド率により以下の評価基準により評価した。
A:ボイド率が1.0%以下
B:ボイド率が1.0%超2.0%以下
C:ボイド率が2.0%超3.0%以下
D:ボイド率が3.0%超
【0082】
[表面酸素量]
使用したダイヤモンド粒子をXPS分析(測定装置:アルバックファイ社製「Versa probeII」)で測定し、表面元素比を求め、その際の酸素の強度比を表面酸素量と規定した。表面酸素量により以下の評価基準により評価した。なお、各実施例で使用した2種類以上のダイヤモンド粒子は、各種のダイヤモンド粒子の表面酸素量を測定して、各種のダイヤモンド粒子の質量を重みとして加重平均により算出した。
A:表面酸素量が10%以上
B:表面酸素量が5%以上10%未満
C:表面酸素量が5%未満
【0083】
[接触角]
使用した放熱組成物より、高分子マトリクスと、熱伝導性フィラーを分離した。
具体的には、作製された放熱組成物を溶媒(トルエン50質量%、キシレン50質量%)でポリマーを溶解し(希釈倍率10倍(質量比))、遠心分離機を用いて熱伝導性フィラーとポリマーを分離した。得られたポリマー溶解液から真空加熱で溶媒を除去し、実質的に高分子マトリクスのみにした。分離した熱伝導性フィラーは金型(5cm×5cm、厚み0.8mm)にいれ、卓上プレス機で10MPaの条件でペレットを作製した。
ただし、2液型の場合には、1液、2液それぞれに対して、上記と同様の操作で分離を行い、1液で分離した熱伝導性フィラー及び2液で分離した熱伝導性フィラーを混合して、上記ペレットを作成した。同様に、1液で分離した高分子マトリクス及び2液で分離した高分子マトリクスを混合して、その混合直後の高分子マトリクスを使用して後述する接触角を測定した。
濡れ性試験機(製品名「Dropmaster DMo-701」、協和界面化学社製)を用いて、接触角を液適法にて、23℃、50RH%の条件で測定した。液適法における基板にはペレット化した熱伝導性フィラーの集合体を、液には分離した高分子マトリクスを用いて測定を実施した。500ms後の液滴からθ/2法を用いて得られた接触角を以下の基準にて評価した。
A:55°以下
B:55°超60°以下
C:60°超65°以下
D:65°超70°以下
E:70°超
【0084】
[絶縁性評価]
(体積抵抗値)
各実施例、比較例の放熱組成物を平板試料用電極 SME-8310(日置電機社製)により体積抵抗値を測定して、以下の基準により評価した。
A:1.0×1013(Ω・cm)以上
D:1.0×1013(Ω・cm)未満
(絶縁破壊電圧強度)
各実施例、比較例の放熱組成物を耐電圧試験機(ETECH Electronics社製「MODEL7473」)を用いて、テストサンプル間に0.33kV/秒の速度で電圧が上昇するように、温度25℃にて交流電圧を印加した。テストサンプルに10mAの電流が流れた電圧を絶縁破壊電圧とした。絶縁破壊電圧をテストサンプルの厚みで除算することで規格化し、絶縁破壊強度を算出した。絶縁破壊強度を以下の基準で評価した。
A:20kV/mm以上
B:10kV/mm以上20kV/mm未満
C:5kV/mm以上10kV/mm未満
D:5kV/mm未満
(総合評価)
体積抵抗値がAであり、絶縁破壊電圧強度がA及びBのいずれかであるとき、絶縁性が優れるとして、Aと評価した。また、体積抵抗値がAであるが、絶縁破壊電圧強度がCであるとき、絶縁性が実用的に使用できるとしてBと評価した。また、体積抵抗値又は絶縁破壊電圧強度のいずれか又は両方がDであるときに、絶縁性が不十分としてDと評価した。
【0085】
実施例、比較例、及び参考例で使用したダイヤモンド粒子、その他の熱伝導性フィラーは、以下の通りである。
<ダイヤモンド粒子>
ダイヤ1:第2の大粒径ダイヤモンド、未処理、トーメイダイヤ社製、商品名TMS 325-400、平均粒子径50μm、球形度0.9、球状品
ダイヤ2:第1の大粒径ダイヤモンド、未処理、トーメイダイヤ社製、商品名AGD400/500、平均粒子径25μm、球形度0.9、球状品
ダイヤ3:第2の小粒径ダイヤモンド、未処理、トーメイダイヤ社製、商品名CMM4-8、平均粒子径4μm、球形度0.6、破砕品
ダイヤ4:第1の小粒径ダイヤモンド、未処理、トーメイダイヤ社製、商品名MD-1000、平均粒子径1μm、球形度0.6、破砕品
ダイヤ5:第2の大粒径ダイヤモンド、未処理、平均粒子径50μm、サンゴバン社製MBグレード 球形度0.6、破砕品
ダイヤ6:第1の大粒径ダイヤモンド、未処理、トーメイダイヤ社製、商品名CMM20-40、平均粒子径20μm、球形度0.6、破砕品
ダイヤ7:第2の大粒径ダイヤモンド、末端水素化処理、トーメイダイヤ社製、商品名TMS―OB 325-400、平均粒子径50μm、球形度0.9、球状品
ダイヤ8:第1の大粒径ダイヤモンド、末端水素化処理、トーメイダイヤ社製、商品名AGD―OB400/500、平均粒子径25μm、球形度0.9、球状品
ダイヤ9::第2の小粒径ダイヤモンド、末端水素化処理、トーメイダイヤ社製、商品名CMM4-8、平均粒子径4μm、球形度0.6、破砕品
ダイヤ10:第1の小粒径ダイヤモンド、末端水素化処理、トーメイダイヤ社製、商品名MD-1000、平均粒子径1μm、球形度0.6、破砕品
※なお、以上の記載において未処理とは、酸洗浄後、末端水素化処理などの追加的な処理をしないことを示す。
【0086】
<その他の熱伝導性フィラー>
(アルミナ)
アルミナ1:第2の小粒径熱伝導性フィラー、マイクロン社製、商品名「AL3」、平均粒子径4μm、球形度1、球形フィラー
アルミナ2:第1の小粒径熱伝導性フィラー、株式会社アドマテックス製、商品名「AO502」、平均粒子径0.5μm、球形度1、球形フィラー
アルミナ3:大粒径熱伝導性フィラー、マイクロン社製、商品名「AL35」、平均粒子径35μm、球形度1、球形フィラー
(窒化アルミニウム)
AlN(1):第2の小粒径熱伝導性フィラー、東洋アルミ社製、商品名「TFZ-N05P」、平均粒子径5μm、球形度0.6、粉砕品
AlN(2):第1の小粒径熱伝導性フィラー、東洋アルミ社、商品名「TFZ-N01P」、平均粒子径1μm、球形度0.6、粉砕品
AlN(3):大粒径熱伝導性フィラー、Thrutek社製、商品名「ALN300AF」、平均粒子径30μm、球形度1、球形フィラー
(酸化マグネシウム)
MgO(1):第2の小粒径熱伝導性フィラー、協和化学工業株式会社製、商品名「パイロキスマ5301」、平均粒子径2μm、球形度0.6、粉砕品
MgO(2):第1の小粒径熱伝導性フィラー、タテホ化学工業株式会社製、商品名「PUREMAG(R) FNM-G」、平均粒子径0.5μm、球形度0.6、粉砕品
MgO(3):大粒径熱伝導性フィラー、宇部マテリアルズ株式会社製、商品名RF-98、平均粒子径50μm、球形度:0.6、粉砕品
(酸化亜鉛)
ZnO:酸化亜鉛粒子、商品名「WZ-0501」、パナソニック社製、平均粒子径10μm、球形度0.1
(アルミニウム)
アルミ:アルミニウム粒子、商品名「TFS-A05P」、東洋アルミニウム株式会社製、平均粒子径5μm、球形度0.9
【0087】
<表面処理剤>
(表面処理剤1)
3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM5103」)1gと、両末端トリメチルシリル基封鎖メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー(商品名「HMS031」、Gelest社製、重量平均分子量:1900~2000)8gと白金触媒0.01gとを混合した。その混合物を150℃のオーブンで2時間加熱して表面処理剤1を得た。
(表面処理剤2)
n-ヘキシルトリメトキシシラン
(分散剤)
リン酸エステル基含有高分子分散剤(商品名「DISPERBYK-145」、ビックケミー社製)
【0088】
[実施例1]
(表面処理)
まず、表面処理剤1を溶媒としてのエタノールで濃度1質量%に希釈した表面処理液を作製した。次に、その表面処理液に、ダイヤモンド1を7.5質量部、ダイヤモンド2を2.5質量部、ダイヤモンド3を4.2質量部、ダイヤモンド4を3.5質量部となるように混合したフィラー混合物を加えた。その後、フィラーが配合された表面処理液を30分間、30℃で攪拌した後、70℃で、12時間加熱して、溶媒を除去して、表面処理剤1により表面処理されたダイヤモンド1~4の混合物を得た。ダイヤモンド1~4の混合物に対する、表面処理剤の付着量は、表1に示すとおりであった。
【0089】
(放熱組成物の調製)
高分子マトリクスとして、付加反応型シリコーン樹脂の主剤を構成するビニル両末端オルガノポリシロキサン(25℃での粘度が300mPa・s)1.5質量部に対して、表面処理されたダイヤモンド1~4を表1に示す配合部数で加え、さらに反応遅延剤0.015質量部、白金触媒を触媒量添加して、放熱組成物の1液を調製した。
また、付加反応型シリコーン樹脂の硬化剤を構成するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(25℃での粘度が400mPa・s)1.5質量部に対して、表面処理されたダイヤモンド1~4を表1に示す配合部数で加え、放熱組成物の2液を調製した。
1液と、2液を質量比(1液/2液)1:1で混合して、放熱組成物を作製し、評価した。その結果を表1に示す。
【0090】
[実施例2~8、15~23、比較例1、2、参考例1]
表面処理液で処理する熱伝導性フィラーを表1、3、7、8の通りに変更し、表面処理された熱伝導性フィラーを表1、3、7に示すとおりに調整して、放熱組成物の1液及び2液を作製した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0091】
[実施例9~14]
表面処理液の作製において、表面処理剤1の代わりに表面処理剤2を使用した。また、表面処理液で処理する熱伝導性フィラーを表2の通りに変更し、表面処理された熱伝導性フィラーを、表2に示すとおりに調整して、放熱組成物の1液及び2液を作製した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0092】
[実施例24]
(放熱組成物の調製)
高分子マトリクスとして、エポキシ樹脂(商品名「エピコート828US」、三菱化学社製)100質量部に対して、熱硬化剤としてジシアンジアミド(東京化成工業社製)10質量部、及びイミダゾール硬化剤(商品名「2MZA-PW」、四国化成工業社製)1重量部を加えて、樹脂混合物を調製した。この樹脂混合物1.4質量部に対して、表4で示されている配合で、分散剤、及びダイヤモンド1~4を加え、遊星式攪拌機を用いて25℃で500rpmで25分間攪拌することにより、放熱組成物を得た。
【0093】
[実施例25~40]
熱伝導性フィラーを表4,5の通りに変更し、かつ配合を表4、5に示すとおりに調整して、放熱組成物を作製した以外は、実施例24と同様に実施した。
【0094】
[実施例41~42]
高分子マトリクスとして、ジメチルポリシロキサン(シリコーンオイル、商品名「SH200CV」、三菱化学社製、粘度:100mPa・s)1.4質量部に対して、表6で示されている配合で、表面処理されたダイヤモンド1~4を加え、遊星式攪拌機を用いて25℃で500rpmで25分間攪拌することにより、放熱組成物を得た。
【0095】
[実施例43]
表面処理液で処理する熱伝導性フィラーを表6の通りに変更して、放熱組成物の1液及び2液を作製した以外は、実施例1と同様に実施した。
[参考例2]
熱伝導性フィラーに表面処理せず、配合部数を表8に示す通り変更した点を除いて参考例1と同様に実施した。
【0096】
【表1】
※なお、各表における樹脂充填割合には、表面処理剤及び分散剤も含まれる。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
表1~7の結果から明らかなように、各実施例によれば、熱伝導性フィラーとしてダイヤモンド粒子を使用することで、絶縁性と放熱性を両立することができた。それに対して、比較例1、2では、フィラーを複数種類使用したものの、ダイヤモンド粒子を使用しなかったため、絶縁性と放熱性を両立することが難しかった。