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特開2024-23260ドラッガブルターゲットとしてのリゾGb1の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023260
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ドラッガブルターゲットとしてのリゾGb1の使用
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20240101AFI20240214BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240214BHJP
   C07K 16/44 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A01K67/027
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/48 N
A61K45/00
A61K48/00
A61K39/395 D
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P25/16
A61K38/46
C12N15/115 Z
C07K16/44
C12N9/14
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191206
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2018568707の分割
【原出願日】2017-07-03
(31)【優先権主張番号】16001474.2
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】513307461
【氏名又は名称】セントジーン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】コズマ クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】バウアー ピーター
(57)【要約】      (修正有)
【課題】薬物の開発におけるドラッガブルターゲットとしてのリゾGb1のインビトロ使用と、疾患の処置および/または予防における使用のためのリゾGb1のアンタゴニストを提供する。
【解決手段】疾患の動物モデルを作製するための方法であって、(a)ある期間にわたってリゾGb1を動物に投与する工程、(b)該動物が該疾患の少なくとも1つの症状を示すかどうかを判定する工程を含み、該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の開発におけるドラッガブルターゲットとしてのリゾGb1のインビトロでの使用。
【請求項2】
疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、請求項1に記載のリゾGb1の使用。
【請求項3】
疾患のマウス動物モデルの作製におけるリゾGb1の使用であって、該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、使用。
【請求項4】
疾患の処置および/または予防における使用のためのリゾGb1のアンタゴニストであって、該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、アンタゴニスト。
【請求項5】
リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素からなる群より選択される、請求項4に記載の使用のためのアンタゴニスト。
【請求項6】
疾患の動物モデルを作製するための方法であって、
(a)ある期間にわたってリゾGb1を動物に投与する工程、
(b)該動物が該疾患の少なくとも1つの症状を示すかどうかを判定する工程
を含み、
該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
【請求項7】
前記動物モデルが哺乳動物、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記動物が前記疾患の少なくとも1つの症状を示すまで、リゾGb1が投与される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
リゾGb1が皮下投与される、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
リゾGb1が、2週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間の期間にわたって投与される、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの症状が、脾臓の肥大、軽度貧血、炎症性組織反応、および肝臓の肥大を含む群より選択される末梢症状である、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる動物モデルであって、疾患の動物モデルであり、前記疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、動物モデル。
【請求項13】
疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法であって、
候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストであるかどうかを試験する工程を含み、
該候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストである場合、該候補化合物は、該疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または該疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤であり、
該疾患はゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
【請求項14】
前記候補化合物が、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法であって、
請求項12に記載の動物モデルにおいてまたは請求項12に記載の動物モデルを使用して、該剤の効果を試験する工程
を含み、
該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾGb1の使用、リゾGb1のアンタゴニスト、リゾGb1のアンタゴニストの使用、疾患の動物モデルを作製するための方法、疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法、ならびに疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の薬物開発は、多少なりとも発見的なアプローチにはもはや頼らず、典型的には、疾患または状態の基礎をなす分子機序の解明、候補標的分子の同定、および該標的分子の評価を含んでいる。本明細書中で標的とも呼ばれる、そのようなバリデートされた標的分子が入手可能となった後は、それに対する薬物候補を試験することができる。多くの場合、そのような薬物候補は、合成または天然の化合物からなっていてよい化合物ライブラリーのメンバーである。コンビナトリアルライブラリーの使用も一般的である。そのような化合物ライブラリーは、本明細書中で候補化合物ライブラリーとも呼ばれる。このアプローチは成功することが過去に判明しているが、それは未だに多くの時間およびコストを要する。標的同定および標的バリデーションのため、種々のテクノロジーが現在適用されている。
【0003】
薬物開発のためのさらなる必要条件は、問題となっている疾患または状態の動物モデルの利用可能性である。薬物候補のスクリーニング、特徴決定、および評価において使用される細胞アッセイと、そのような薬物候補の人体における試験との間には相当のギャップが存在し、細胞アッセイにおいて入手された結果は、典型的には、人体における薬物候補の挙動に関して包括的な事実に基づく予測を可能にしないため、適切な動物モデルの欠如は、薬物開発の失敗のリスクを増加させる。しかしながら、問題となっているそれぞれの疾患および状態の動物モデルの質も、重要である。動物モデルが、問題となっているそれぞれの疾患および障害のヒトにおける特性をよく反映するほど、薬物候補の試験から入手される結果は、信頼性が高いものとなり、従って、薬物候補がヒト患者の処置において最終的に失敗するリスクが有意に低下する。
【0004】
多数のヒト疾患のうち、本明細書中でリソソーム蓄積障害またはLSDとも呼ばれるリソソーム蓄積症は、リソソーム機能の欠陥から生じる稀な遺伝性代謝障害の群である。LSDは、身体の細胞内の特定の細胞小器官、リソソームが、正常に機能しない時に生じる。より顕著なリソソーム蓄積症には、ゴーシェ病およびファブリー病が含まれる。
【0005】
LSDは、通常、脂質、糖タンパク質、またはいわゆるムコ多糖の代謝に必要とされる1種類の酵素の欠損の結果として、リソソーム機能不全によって引き起こされる。個々には、LSDは、約1:10,000~1:250,000の頻度で発生するが、群としての発生率は、約1:5,000である。これらの障害の大部分は、常染色体劣性遺伝性であるが、ファブリー病およびハンター症候群のような少数のものは、X連鎖遺伝性である。
【0006】
他の遺伝病と同様に、個体は、典型的には、親からリソソーム蓄積症を受け継ぐ。各障害は、酵素活性の欠損に至る異なる遺伝子変異から生じるが、それらは全て共通の生化学的特徴を共有しており、ほぼ全てのリソソーム障害がリソソーム内の異常な物質貯留に起因する。
【0007】
リソソーム蓄積症は、主として子供に影響を与え、彼らは、しばしば、若い予測不能な年齢で、多くは、生後数ヶ月または数年以内に死亡する。特定の障害の様々な症状に何年も苦しんだ後に、この疾患で死亡する子供も多い。
【0008】
リソソーム蓄積症の症状は、特定の障害および発症年齢のようなその他の変量に依って変動し、軽症~重症であり得る。それらには、発育遅延、運動障害、発作、認知症、聴覚消失、および/または失明が含まれ得る。リソソーム蓄積症を有する人々の一部は、肝臓腫大(肝腫大)および脾臓腫大(脾腫大)、肺および心臓の問題、ならびに異常に発達した骨を有する。
【0009】
現在のところ、リソソーム蓄積症の根本的な治療法はなく、処置は主として対症的であるが、いくつかの適応症には骨髄移植および酵素補充療法(略してERT)が使用され、良好に成功している。さらに、臍帯血移植が、多数のこれらの疾患のため、専門施設において実施されている。さらに、蓄積材料の貯留を減少させるために使用される方法である基質合成抑制療法(substrate reduction therapy)(略してSRT)が、これらの疾患のうちのいくつかのため、現在評価されている。さらに、患者によって産生される欠陥酵素を安定化するために使用される技術であるシャペロン療法が、これらの障害のうちのいくつかのため、調査されている。遺伝子治療は、これらの疾患の処置のためのさらなる選択肢を構成する。
【0010】
リソソーム蓄積症の群のうち、一つの顕著な疾患は、ゴーシェ病である。ゴーシェ病は、対応するリソソーム酵素グルコセレブロシダーゼ(略してGCase)の欠損をもたらす、グルコセレブロシダーゼ遺伝子(略してGBA遺伝子)の遺伝子欠陥によって引き起こされる。細胞の小胞体におけるグルコシルセラミド(略してGlcCer)の増大およびリソソームにおける分解の発展的な矛盾が、組織マクロファージにおけるGlcCerの顕著な貯留をもたらす。ゴーシェ病の主要な臨床症状には、肝臓および脾臓の腫大、赤血球および血小板の減少、ならびに骨折および骨壊死のリスクの増加を引き起こす骨格異常が含まれる。グルコシルセラミドの脱アシル型であるグルコシルスフィンゴシン(略してリゾGb1)が、ゴーシェ病のための高感度かつ特異的なバイオマーカーとして最近同定された(例えば、国際特許出願WO 2012/167925を参照すること)。
【0011】
幼児期および青年期のGD患者における大脳および小脳におけるリゾGbの貯留は、1982年に最初に立証された(Nilsson et al.,1982、J Neurochem 39:709-718(非特許文献1))。リゾGb1は、細胞の主なスフィンゴ糖脂質蓄積生成物グルコシルセラミドに対するリソソーム酸性セラミダーゼの酵素作用に起因することが報告されている両親媒性化合物である(Flanagan et al.,2013,Mol Genet Metab 108:S40-41(非特許文献2);Ferraz et al.,2016,FEBS Lett 590:716-725(非特許文献3))。リゾGb1は、神経細胞障害性GDを有する患者の脳組織に高度に大量に存在するが、非神経細胞障害性GD患者においてはそうでない(Orvisky et al,2002,Mol Genet Metab 76:262-70(非特許文献4))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nilsson et al.,1982、J Neurochem 39:709-718
【非特許文献2】Flanagan et al.,2013,Mol Genet Metab 108:S40-41
【非特許文献3】Ferraz et al.,2016,FEBS Lett 590:716-725
【非特許文献4】Orvisky et al,2002,Mol Genet Metab 76:262-70
【発明の概要】
【0013】
本発明の基礎をなす問題は、リソソーム蓄積障害、具体的には、ゴーシェ病の処置における治療アプローチに適した標的の提供であった。
【0014】
本発明の基礎をなす問題は、パーキンソン病の処置における治療アプローチに適した標的の提供であった。
【0015】
本発明の基礎をなすもう一つの問題は、動物モデル、より具体的には、リソソーム蓄積障害、具体的には、ゴーシェ病の動物モデル、およびそのような動物モデルを作製するための手段の提供であった。
【0016】
本発明の基礎をなすもう一つの問題は、動物モデル、より具体的には、パーキンソン病の動物モデル、およびそのような動物モデルを作製するための手段の提供であった。
【0017】
本発明の基礎をなすさらなる問題は、疾患、好ましくは、リソソーム蓄積障害、より好ましくは、ゴーシェ病の処置および/または予防のための手段の提供であった。
【0018】
本発明の基礎をなすさらなる問題は、疾患、好ましくは、パーキンソン病の処置および/または予防のための手段の提供であった。
【0019】
本発明の基礎をなすまたさらなる問題は、疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法の提供であり、ここで、疾患は、好ましくは、リソソーム蓄積障害、より好ましくは、ゴーシェ病であった。
【0020】
本発明の基礎をなすまたさらなる問題は、疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法の提供であり、ここで、疾患はパーキンソン病であった。
【0021】
最後に、本発明の基礎をなす問題は、疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法の提供であり、ここで、疾患は、好ましくは、リソソーム蓄積障害、より好ましくは、ゴーシェ病であった。
【0022】
同様に、本発明の基礎をなす問題は、疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法の提供であり、ここで、疾患はパーキンソン病であった。
【0023】
本発明の基礎をなすこれらおよびその他の問題は、添付の特許請求の範囲の主題によって解決される。さらに、本発明の基礎をなすこれらおよびその他の問題は、以下の態様の主題によって解決される。
[本発明1001]
薬物の開発におけるドラッガブルターゲットとしてのリゾGb1のインビトロでの使用。
[本発明1002]
疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、本発明1001のリゾGb1の使用。
[本発明1003]
疾患のマウス動物モデルの作製におけるリゾGb1の使用であって、該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、使用。
[本発明1004]
疾患の処置および/または予防における使用のためのリゾGb1のアンタゴニストであって、該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、アンタゴニスト。
[本発明1005]
リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素からなる群より選択される、本発明1004の使用のためのアンタゴニスト。
[本発明1006]
疾患の動物モデルを作製するための方法であって、
(a)ある期間にわたってリゾGb1を動物に投与する工程、
(b)該動物が該疾患の少なくとも1つの症状を示すかどうかを判定する工程
を含み、
該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
[本発明1007]
前記動物モデルが哺乳動物、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスである、本発明1006の方法。
[本発明1008]
前記動物が前記疾患の少なくとも1つの症状を示すまで、リゾGb1が投与される、本発明1006または1007の方法。
[本発明1009]
リゾGb1が皮下投与される、本発明1006~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
リゾGb1が、2週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間の期間にわたって投与される、本発明1006~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記少なくとも1つの症状が、脾臓の肥大、軽度貧血、炎症性組織反応、および肝臓の肥大を含む群より選択される末梢症状である、本発明1006~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
本発明1006~1011のいずれかの方法によって得ることができる動物モデルであって、疾患の動物モデルであり、前記疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、動物モデル。
[本発明1013]
疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法であって、
候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストであるかどうかを試験する工程を含み、
該候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストである場合、該候補化合物は、該疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または該疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤であり、
該疾患はゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
[本発明1014]
前記候補化合物が、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素からなる群より選択される、本発明1013の方法。
[本発明1015]
疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法であって、
本発明1012の動物モデルにおいてまたは本発明1012の動物モデルを使用して、該剤の効果を試験する工程
を含み、
該疾患がゴーシェ病またはパーキンソン病である、方法。
【0024】
態様1:疾患の処置における標的としてのリゾGb1の使用。
【0025】
態様2:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様1によるリゾGb1の使用。
【0026】
態様3:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様1~2のいずれか一つによる使用。
【0027】
態様4:疾患がゴーシェ病である、態様1~3のいずれか一つによる使用。
【0028】
態様5:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様4による使用。
【0029】
態様6:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様4による使用。
【0030】
態様7:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様4による使用。
【0031】
態様8:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様1~4のいずれか一つによる使用。
【0032】
態様9:疾患が1型ゴーシェ病である、態様8による使用。
【0033】
態様10:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様1~8のいずれか一つによる使用。
【0034】
態様11:疾患がパーキンソン病である、態様1による使用。
【0035】
態様12:標的がドラッガブルターゲットである、態様1~11のいずれか一つによる使用。
【0036】
態様13:標的がインビトロ標的である、態様1~12のいずれか一つによる使用。
【0037】
態様14:インビトロ使用である、態様1~13のいずれか一つによる使用。
【0038】
態様15:標的がインビボ標的である、態様1~12のいずれか一つによる使用。
【0039】
態様16:インビボ使用である、態様1~12および15のいずれか一つによる使用。
【0040】
態様17:薬物の開発における標的としてのリゾGb1の使用であり、好ましくは、薬物は、疾患を処置および/もしくは予防する能力を有しかつ/または疾患を処置および/もしくは予防するのに適している。
【0041】
態様18:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様17によるリゾGb1の使用。
【0042】
態様19:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様17~18のいずれか一つによる使用。
【0043】
態様20:疾患がゴーシェ病である、態様17~19のいずれか一つによる使用。
【0044】
態様21:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様20による使用。
【0045】
態様22:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様20~21のいずれか一つによる使用。
【0046】
態様23:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様20による使用。
【0047】
態様24:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様17~21のいずれか一つによる使用。
【0048】
態様25:疾患が1型ゴーシェ病である、態様24による使用。
【0049】
態様26:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様17~24のいずれか一つによる使用。
【0050】
態様27:疾患がパーキンソン病である、態様17による使用。
【0051】
態様28:標的がドラッガブルターゲットである、態様17~27のいずれか一つによる使用。
【0052】
態様29:薬物がリゾGb1のアンタゴニストである、態様17~28のいずれか一つによる使用。
【0053】
態様30:アンタゴニストが疾患の少なくとも一つの症状を低下させるかまたは寛解させる能力を有する、態様29による使用。
【0054】
態様31:アンタゴニストが、好ましくは、ヒトにおいて、疾患を処置する能力を有する、態様29による使用。
【0055】
態様32:アンタゴニストが疾患の動物モデルにおいて疾患の少なくとも一つの症状を低下させるかまたは寛解させる能力を有する、態様29による使用。
【0056】
態様33:アンタゴニストが疾患の動物モデルにおいて疾患を処置する能力を有する、態様29による使用。
【0057】
態様34:疾患が態様18~27のいずれか一つにおいて定義される疾患である、態様29~33のいずれか一つによる使用。
【0058】
態様35:動物モデルがリゾGb1によって誘導された動物モデルである、態様32~34のいずれか一つによる使用。
【0059】
態様36:動物モデルが疾患の動物モデルである、態様32~35のいずれか一つによる使用。
【0060】
態様37:疾患の動物モデルが、態様18~27のいずれか一つにおいて定義される疾患の動物モデルである、態様36による使用。
【0061】
態様38:動物モデルが哺乳類である、態様32~37のいずれか一つによる使用。
【0062】
態様39:哺乳類が齧歯類である、態様38による使用。
【0063】
態様40:齧歯類がマウスおよびラットを含む群から選択される、態様39による使用。
【0064】
態様41:哺乳類が霊長類、イヌ、ブタ、およびヒツジを含む群から選択される、態様38による使用。
【0065】
態様42:アンタゴニストが疾患の少なくとも一つの末梢症状を低下させる能力を有する、態様29~41のいずれか一つによる使用。
【0066】
態様43:疾患の少なくとも一つの末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、より好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される、態様42による使用。
【0067】
態様44:動物モデルがマウス動物モデルである、態様43による使用。
【0068】
態様45:マウス動物モデルがリゾGb1によって誘導された動物マウスモデルである、態様44による使用。
【0069】
態様46:リゾGb1によって誘導された動物マウスモデルがゴーシェ病のリゾGb1によって誘導されたモデルであり、好ましくは、マウスがC57BL/6JRjマウス、C57BL/6マウス、およびC57/BL/10マウスを含む群から選択される、態様45による使用。
【0070】
態様47:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病、1型ゴーシェ病、および非神経細胞障害性ゴーシェ病を含む群から選択される、態様46による使用。
【0071】
態様48:薬物が低分子、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン(anticalin)、アプタマー、スピーゲルマー(spiegelmer)、およびリゾGb1分解酵素を含む群から選択される、態様17~47のいずれか一つによる使用。
【0072】
態様49:抗体が抗リゾGb1抗体であり、抗体断片が抗体のリゾGb1結合断片である、態様48による使用。
【0073】
態様50:アプタマー、スピーゲルマー、およびアンチカリンが各々リゾGb1に結合するかまたは結合する能力を有する、態様48による使用。
【0074】
態様51:疾患の動物モデルの作製におけるリゾGb1の使用。
【0075】
態様52:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様51によるリゾGb1の使用。
【0076】
態様53:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様51~52のいずれか一つによる使用。
【0077】
態様54:疾患がゴーシェ病である、態様51~53のいずれか一つによる使用。
【0078】
態様55:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様54による使用。
【0079】
態様56:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様55による使用。
【0080】
態様57:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様54による使用。
【0081】
態様58:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様51~55のいずれか一つによる使用。
【0082】
態様59:疾患が1型ゴーシェ病である、態様58による使用。
【0083】
態様60:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様51~58のいずれか一つによる使用。
【0084】
態様61:疾患が3型ゴーシェ病である、態様51~58のいずれか一つによる使用。
【0085】
態様62:疾患がパーキンソン病である、態様51による使用。
【0086】
態様63:動物モデルがリゾGb1によって誘導された動物モデルである、態様51~62のいずれか一つによる使用。
【0087】
態様64:動物モデルが哺乳類である、態様51~63のいずれか一つによる使用。
【0088】
態様65:哺乳類が齧歯類である、態様64による使用。
【0089】
態様66:齧歯類がマウスおよびラットを含む群から選択される、態様65による使用
【0090】
態様67:哺乳類が霊長類、イヌ、ブタ、およびヒツジを含む群から選択される、態様64による使用。
【0091】
態様68:動物モデルがマウス動物モデルである、態様66による使用。
【0092】
態様69:マウス動物モデルがリゾGb1によって誘導されたマウス動物モデルである、態様68による使用。
【0093】
態様70:リゾGb1によって誘導されたマウスモデルがゴーシェ病のリゾGb1によって誘導されたモデルであり、好ましくは、マウスがC57BL/6JRjマウス、C57BL/6マウス、およびC57/BL/10マウスを含む群から選択される、態様69による使用。
【0094】
態様71:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病、1型ゴーシェ病、および非神経細胞障害性ゴーシェ病を含む群から選択される、態様70による使用。
【0095】
態様72:疾患の処置および/または予防において使用するためのリゾGb1のアンタゴニスト。
【0096】
態様73:低分子、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素を含む群から選択される、態様72による使用のためのアンタゴニスト。
【0097】
態様74:抗体が抗リゾGb1抗体であり、抗体断片が抗体のリゾGb1結合断片である、態様73による使用のためのアンタゴニスト。
【0098】
態様75:アプタマーおよびスピーゲルマーが各々リゾGb1に結合するかまたは結合する能力を有する、態様73による使用のためのアンタゴニスト。
【0099】
態様76:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様72~75のいずれか一つによる使用のためのアンタゴニスト。
【0100】
態様77:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様76による使用のためのアンタゴニスト。
【0101】
態様78:疾患がゴーシェ病であり、好ましくは、アンタゴニストがゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を低下させる能力を有し、より好ましくは、疾患の少なくとも一つの末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、より好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される、態様72~77のいずれか一つによる使用のためのアンタゴニスト。
【0102】
態様79:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様78による使用のためのアンタゴニスト。
【0103】
態様80:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様78による使用のためのアンタゴニスト。
【0104】
態様81:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様78による使用のためのアンタゴニスト。
【0105】
態様82:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様72~78のいずれか一つによる使用のためのアンタゴニスト。
【0106】
態様83:疾患が1型ゴーシェ病である、態様82による使用のためのアンタゴニスト。
【0107】
態様84:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様72~82のいずれか一つによる使用のためのアンタゴニスト。
【0108】
態様85:疾患がパーキンソン病である、態様72による使用のためのアンタゴニスト。
【0109】
態様86:医薬の製造におけるリゾGb1のアンタゴニストの使用。
【0110】
態様87:アンタゴニストが低分子、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素を含む群から選択される、態様86による使用。
【0111】
態様88:抗体が抗リゾGb1抗体であり、抗体断片が抗体のリゾGb1結合断片である、態様87による使用。
【0112】
態様89:アプタマー、スピーゲルマー、およびアンチカリンが各々リゾGb1に結合するかまたは結合する能力を有する、態様87による使用。
【0113】
態様90:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様86~89のいずれか一つによる使用。
【0114】
態様91:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様90による使用。
【0115】
態様92:疾患がゴーシェ病であり、好ましくは、医薬がゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を低下させる能力を有し、より好ましくは、疾患の少なくとも一つの末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、より好ましくは、1型ゴーシェ病、2型、および/または3型ゴーシェ病、最も好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される、態様86~91のいずれか一つによる使用。
【0116】
態様93:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様91による使用。
【0117】
態様94:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様92による使用。
【0118】
態様95:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様92による使用。
【0119】
態様96:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様86~92のいずれか一つによる使用。
【0120】
態様97:疾患が1型ゴーシェ病である、態様96による使用。
【0121】
態様98:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様86~96のいずれか一つによる使用。
【0122】
態様99:疾患がパーキンソン病である、態様86による使用。
【0123】
態様100:疾患の動物モデルを作製するための方法であって、
(a)ある期間にわたりリゾGb1を動物へ投与する工程、
(b)動物が疾患の少なくとも一つの症状を示すかどうかを判定する工程
を含む方法。
【0124】
態様101:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様100による方法。
【0125】
態様102:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様101による方法。
【0126】
態様103:疾患がゴーシェ病である、態様100~102のいずれか一つによる方法。
【0127】
態様104:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様102による方法。
【0128】
態様105:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様103による方法。
【0129】
態様106:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様103による方法。
【0130】
態様107:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様100~103のいずれか一つによる方法。
【0131】
態様108:疾患が1型ゴーシェ病である、態様107による使用のための方法。
【0132】
態様109:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様100~107のいずれか一つによる方法。
【0133】
態様110:疾患がパーキンソン病である、態様100による方法。
【0134】
態様111:動物モデルがリゾGb1によって誘導された動物モデルである、態様100~110のいずれか一つによる方法。
【0135】
態様112:動物モデルが哺乳類である、態様100~111のいずれか一つによる方法。
【0136】
態様113:哺乳類が齧歯類である、態様112による方法。
【0137】
態様114:齧歯類がマウスおよびラットを含む群から選択される、態様113による方法。
【0138】
態様115:哺乳類が霊長類、イヌ、ブタ、およびヒツジを含む群から選択される、態様113による方法。
【0139】
態様116:動物モデルがマウス動物モデルである、態様112による方法。
【0140】
態様117:マウス動物モデルがリゾGb1によって誘導されたマウス動物モデルである、態様116による方法。
【0141】
態様118:リゾGb1によって誘導されたマウスモデルがゴーシェ病のリゾGb1によって誘導された動物マウスモデルである、態様117による方法。
【0142】
態様119:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病、1型ゴーシェ病、および非神経細胞障害性ゴーシェ病を含む群から選択される、態様118による方法。
【0143】
態様120:動物が疾患の少なくとも一つの症状を示すまで、リゾGb1が投与される、態様100~119のいずれか一つによる方法。
【0144】
態様121:リゾGb1が皮下投与される、態様100~120のいずれか一つによる方法。
【0145】
態様122:リゾGb1が少なくとも2週、少なくとも4週、少なくとも6週、少なくとも8週、少なくとも10週、または少なくとも12週の期間にわたり投与される、態様100~121のいずれか一つ、好ましくは、態様121の方法。
【0146】
態様123:リゾGb1が2週、4週、6週、8週、10週、または12週の期間にわたり投与される、態様100~121のいずれか一つ、好ましくは、態様121~122のいずれか一つの方法。
【0147】
態様124:動物がマウスである、態様100~123のいずれか一つ、好ましくは、態様121~123のいずれか一つの方法。
【0148】
態様125:マウスがC57BL/6JRjマウス、C57BL/6マウス、およびC57/BL/10マウスを含む群から選択される、態様124の方法。
【0149】
態様126:少なくとも一つの症状が末梢症状である、態様100~125のいずれか一つ、好ましくは、態様121~125のいずれか一つの方法。
【0150】
態様127:末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、炎症性組織反応、および肝臓の内臓腫大を含む群から選択される、態様100~126のいずれか一つ、好ましくは、態様126の方法。
【0151】
態様128:動物の末梢血中のリゾGb1濃度が約500ng/ml末梢血以上になるまで、リゾGb1が投与される、態様100~127のいずれか一つ、好ましくは、態様121~127のいずれか一つの方法。
【0152】
態様129:疾患が軽症型ゴーシェ病、1型ゴーシェ病、および非神経細胞障害性ゴーシェ病を含む群から選択される、態様100~128のいずれか一つ、好ましくは、態様121~128のいずれか一つの方法。
【0153】
態様130:リゾGb1がくも膜下腔内投与される、態様100~120のいずれか一つによる方法。
【0154】
態様131:リゾGb1が少なくとも2週、少なくとも4週、少なくとも6週、少なくとも8週、少なくとも10週、または少なくとも12週の期間にわたり投与される、態様100~120および130のいずれか一つ、好ましくは、態様130の方法。
【0155】
態様132:リゾGb1が2週、4週、6週、8週、10週、または12週の期間にわたり投与される、態様100~120および130~131のいずれか一つ、好ましくは、態様130~131のいずれか一つの方法。
【0156】
態様133:動物がマウスである、態様100~120および130~132のいずれか一つ、好ましくは、態様130~1323のいずれか一つの方法。
【0157】
態様134:マウスがC57BL/6JRjマウス、C57BL/6マウス、およびC57/BL/10マウスである、態様133の方法。
【0158】
態様135:少なくとも一つの症状が中枢神経症状である、態様100~120および130~134のいずれか一つ、好ましくは、態様130~134のいずれか一つの方法。
【0159】
態様136:中枢症状が運動失調、認知症、眼球運動失行、およびパーキンソニズムを含む群から選択される、態様100~120および130~135のいずれか一つ、好ましくは、態様135の方法。
【0160】
態様137:動物の末梢血中のリゾGb1濃度が約10~30ng/ml脳脊髄液になるまで、リゾGb1が投与される、態様100~120および130~136のいずれか一つ、好ましくは、態様130~136のいずれか一つの方法。
【0161】
態様138:疾患が2型ゴーシェ病、3型ゴーシェ病、および神経細胞障害性ゴーシェ病を含む群から選択されるゴーシェ病である、態様100~120および130~137のいずれか一つ、好ましくは、態様130~137のいずれか一つの方法。
【0162】
態様139:動物モデルが疾患の動物モデルであり、好ましくは、疾患がリソソーム蓄積障害である、態様100~138のいずれか一つによる方法によって入手可能な動物モデル。
【0163】
態様140:疾患のリゾGb1によって誘導された動物モデルであり、好ましくは、疾患がリソソーム蓄積障害である、動物モデル。
【0164】
態様141:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様139~140のいずれか一つによる動物モデル。
【0165】
態様142:疾患がゴーシェ病であり、好ましくは、疾患がゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状であり、好ましくは、ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、より好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、最も好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される、態様139~141のいずれか一つによる動物モデル。
【0166】
態様143:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様142による動物モデル。
【0167】
態様144:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様142による動物モデル。
【0168】
態様145:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様142による動物モデル。
【0169】
態様146:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様139~142のいずれか一つによる動物モデル。
【0170】
態様147:疾患が1型ゴーシェ病である、態様146による動物モデル。
【0171】
態様148:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様139~146のいずれか一つによる動物モデル。
【0172】
態様149:疾患がパーキンソン病である、態様139および140のいずれか一つによる動物モデル。
【0173】
態様150:リゾGb1によって誘導された動物モデルである、態様139~149のいずれか一つによる動物モデル。
【0174】
態様151:哺乳類である、態様139~150のいずれか一つによる動物モデル。
【0175】
態様152:哺乳類が齧歯類である、態様151による動物モデル。
【0176】
態様153:齧歯類がマウスおよびラットを含む群から選択される、態様151による動物モデル。
【0177】
態様154:哺乳類が霊長類、イヌ、ブタ、およびヒツジを含む群から選択される、態様151による動物モデル。
【0178】
態様155:マウス動物モデルである、態様151による動物モデル。
【0179】
態様156:マウス動物モデルがリゾGb1によって誘導されたマウス動物モデルである、態様155による動物モデル。
【0180】
態様157:リゾGb1によって誘導されたマウス動物モデルがゴーシェ病のリゾGb1によって誘導されたマウス動物モデルである、態様156による動物モデル。
【0181】
態様158:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病、1型ゴーシェ病、および非神経細胞障害性ゴーシェ病を含む群から選択される、態様157による動物モデル。
【0182】
態様159:疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法であって、候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストであるかどうかを試験する工程を含み、候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストである場合、候補化合物は、疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する、方法。
【0183】
態様160:リゾGb1のアンタゴニストが態様72~85のいずれか一つにおいて定義されるアンタゴニストである、態様159による方法。
【0184】
態様161:候補化合物が低分子、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素から選択される、態様159~160のいずれか一つによる方法。
【0185】
態様162:候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストであるかどうかを試験する工程が、態様139~158のいずれか一つによる動物モデルにおいて行われるかまたは態様139~158のいずれか一つによる動物モデルを使用して行われる、態様159~161のいずれか一つによる方法。
【0186】
態様163:候補を動物モデルへ投与する工程、および候補化合物が疾患の少なくとも一つの症状を寛解させるかどうかを判定する工程を含む、態様162による方法であって、好ましくは、少なくとも一つの症状がゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状であり、さらに好ましくは、ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、最も好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、最も好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される、方法。
【0187】
態様164:候補化合物が化合物のライブラリーに含有されているかまたは化合物のライブラリーから得られる、態様159~163のいずれか一つによる方法。
【0188】
態様165:態様139~158のいずれか一つによる動物モデルにおいてまたは態様139~158のいずれか一つによる動物モデルを使用して剤の効果を試験する工程を含む、疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法。
【0189】
態様166:剤が態様72~85のいずれか一つにおいて定義されるアンタゴニストである、態様165による方法。
【0190】
態様167:剤が低分子、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素から選択される、態様165~166のいずれか一つによる方法。
【0191】
態様168:剤を動物モデルへ投与する工程および剤が疾患の少なくとも一つの症状を寛解させるかどうかを判定する工程を含む、態様165~167のいずれか一つによる方法であって、好ましくは、少なくとも一つの症状がゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状であり、さらに好ましくは、ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状が脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、最も好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、最も好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される、方法。
【0192】
態様169:疾患がリソソーム蓄積障害(LSD)である、態様159~168のいずれか一つによる方法。
【0193】
態様170:リソソーム蓄積障害がグルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害である、態様159~169のいずれか一つによる方法。
【0194】
態様171:疾患がゴーシェ病である、態様159~170のいずれか一つによる方法。
【0195】
態様172:ゴーシェ病が軽症型ゴーシェ病である、態様171による方法。
【0196】
態様173:ゴーシェ病が非神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様171による方法。
【0197】
態様174:ゴーシェ病が神経細胞障害性ゴーシェ病である、態様171による方法。
【0198】
態様175:疾患が1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病を含む群から選択される、態様159~171のいずれか一つによる方法。
【0199】
態様176:疾患が1型ゴーシェ病である、態様175による方法。
【0200】
態様177:疾患が2型ゴーシェ病または3型ゴーシェ病である、態様159~171のいずれか一つによる方法。
【0201】
態様178:疾患がパーキンソン病である、態様139~168のいずれか一つによる方法。
【発明を実施するための形態】
【0202】
本発明は、リゾGb1が、リソソーム蓄積障害、好ましくは、ゴーシェ病、およびパーキンソン病のための標的、より具体的には、ドラッガブルターゲットであるという驚くべき発見に基づく。本発明の基礎をなすもう一つの驚くべき発見は、リゾGb1を使用することによって、より具体的には、ある期間にわたりリゾGb1を動物へ投与することによって、動物モデルを作製できるというものであり、それによって、該動物は、疾患に特徴的な症状のうちの少なくとも一つを発症し、ここで、疾患は、好ましくは、リソソーム蓄積障害、好ましくは、ゴーシェ病、またはパーキンソン病である。
【0203】
本発明は、リゾGb1がゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を引き起こすという驚くべき発見にさらに基づき、ここで、ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状は、脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、より好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、最も好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択される。多くの他の病態生理学的役割が、スフィンゴ脂質(Rotstein et al.,2010,J Lipid Res 51:1247-1262)、リゾスフィンゴ脂質(Ballabio et al.,2009,Biochem Biophys Act 1793:684-96)、具体的には、リゾGb1(Schueler et al.,2003 Neurobiol Dis 14:595-601)にあるとされているため、この発見は驚くべきものである。
【0204】
リゾGb1は、本明細書中でグルコシルスフィンゴシンまたはリゾグルコセレブロシドとも呼ばれ、式(I):
を有する。
【0205】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、標的および標的分子という用語は、交換可能に本明細書中で使用される。
【0206】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、標的分子とは、もう一つの化合物、好ましくは、標的のアンタゴニストによって標的とされる分子であり、ここで、好ましくは、化合物は標的分子と直接相互作用する。それに関して、直接相互作用は、好ましくは、化合物と標的分子との間の物理的相互作用、好ましくは、標的分子の原子、イオン、および/または化学基もしくはモエティと、化合物の原子、イオン、および/または化学基もしくはモエティとの間の相互作用である。
【0207】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、ドラッガブルターゲットとは、疾患に罹患しているかまたはそのような疾患を発症するリスクを有する対象において、化合物と直接相互作用した時に、疾患の処置および/または疾患の予防をもたらす標的分子であり;好ましくは、そのような化合物は、標的分子のアンタゴニストであり、かつ/またはそのような直接相互作用は、好ましくは、化合物と標的分子との間の物理的相互作用、好ましくは、標的分子の原子、イオン、および/または化学基もしくはモエティと、化合物の原子、イオン、および/または化学基もしくはモエティとの間の相互作用である。
【0208】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、候補化合物ライブラリーとは、候補化合物のライブラリーである。好ましくは、ライブラリーは、少なくとも2種以上の要素、即ち、少なくとも2種以上の化合物を含む。好ましくは、候補化合物は、標的分子と直接相互作用する化合物である。それに関して、直接相互作用は、好ましくは、候補化合物と標的分子との間の物理的相互作用、好ましくは、標的分子の原子、イオン、および/または化学基もしくはモエティと、候補化合物の原子、イオン、および/または化学基もしくはモエティとの間の相互作用である。
【0209】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、リソソーム蓄積症(LSD)とは、リソソーム機能の欠陥から生じる稀な遺伝性代謝障害である。LSDは、身体の細胞内の特定の細胞小器官、リソソームが、正常に機能しない時に生じる。
【0210】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、グルコセレブロシダーゼとは、該酵素の遺伝性の欠損のために健常対象と比較して活性が減少しているグルコセレブロシダーゼである。欠損は、1番染色体(1q21)に位置する(β-グルコシダーゼ、EC 3.2.1.45、PDB 1OGSとしても公知の)特異的なリソソーム加水分解酵素グルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子の劣性変異から生じ、男女両方に影響を与える。β-グルコシダーゼの異なる変異は、酵素の残存活性を決定し、表現型を大いに決定する。グルコセレブロシダーゼは、本明細書中でβ-グルコセレブロシダーゼ、β-グルコシダーゼ、酸性β-グルコシダーゼ、グルコシルセラミダーゼ、またはD-グルコシル-N-アシルスフィンゴシングルコヒドロラーゼとも呼ばれる。この酵素は、グルコシルセラミダーゼ活性を有する55.6KD、497アミノ酸長のタンパク質であり、即ち、この酵素は、糖脂質代謝の中間体であるグルコセレブロシドのβ-グルコシド結合の切断、即ち、加水分解による、グルコセレブロシドと呼ばれる脂肪物質の分解を触媒する。本明細書中でグルコシルセラミドまたはGb1とも呼ばれるグルコセレブロシドは、赤血球および白血球の細胞膜構成要素である。この酵素が欠損している時には、特に、単核細胞系列の細胞において、物質が貯留する。これは、これらの細胞を除去するマクロファージが、原線維に貯留する老廃物を排除することができず、いわゆるゴーシェ細胞に転化するためである。ゴーシェ細胞は、光学顕微鏡上で、しわのよった紙(crumpled-up paper)に似て見える。脂肪材料は、脾臓、肝臓、腎臓、肺、脳、および骨髄に貯留し得る。
【0211】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、ゴーシェ病には、発症年齢および中枢神経系関与の徴候に基づく三種のサブタイプが包含される。非神経細胞障害性の型である1型は、最も一般的であり(患者の>90%)、主な症状には、脾臓および肝臓の腫大(肝脾腫)、血小板減少、貧血、ならびに骨格疾患が含まれる(Mistry and Zimran,Dis.Model.Mech.2011,Nov;4(6):746-752)。さらに、肺のようなその他の臓器における顕著な内臓炎症が報告されており、それは、大きい特徴的なマクロファージ(「ゴーシェ細胞」)の組織への浸潤、ならびにTNF-a、IL-1b、IL-6、およびChT1のような炎症性サイトカインの共存に関連している。神経細胞障害性の型、即ち、いずれもニューロンGD(nGD)(GDはゴーシェ病を表す)とも呼ばれ、1型よりはるかに稀である2型および3型においては、内臓症状に加えて神経学的異常も観察される。
【0212】
それによると、本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、ゴーシェ病には、疾患の最も一般的な型であり、出生児50,000人中およそ1人に発生する、本明細書中で1型とも呼ばれる非神経細胞障害性I型が包含される。それは、アシュケナージ系ユダヤ人(Ashkenazi Jewish)遺伝形質の者において最もしばしば起こる。症状は、幼児期に始まる場合もあるしまたは成人期に始まる場合もあり、肝臓腫大および肉眼的な脾臓腫大(合わせて肝脾腫)を含み;脾臓は破裂し、付加的な合併症を引き起こす場合がある。骨格の弱さおよび骨疾患が広範囲に及び得る。脾臓腫大および骨髄置換が、貧血、血小板減少、および白血球減少を引き起こす。脳は病理学的に影響を受けないが、肺機能障害、稀に腎臓機能障害が起こり得る。この群の疾患を有する対象は、通常、(血小板レベルが低いために)容易に挫傷を負い、赤血球数が少ないために疲労を経験する。疾患の発症および重症度に依って、I型患者は成人期まで順調に生存する場合がある。疾患を有する多くの対象は、軽症型の疾患を有し、または症状を示さない場合もある。
【0213】
本明細書中で2型とも呼ばれる慢性神経細胞障害性2型は、小児期の任意の時期に始まり得るし、または成人期に始まる場合すらあり、出生児100,000人中およそ1人において発生する。それは、徐々に進行するが、急性または3型のバージョンと比較するとより軽度の神経学的症状を特徴とする。主な症状には、脾臓および/または肝臓の腫大、発作、協調不全、骨格異常、眼球運動障害、貧血を含む血液障害、ならびに呼吸問題が含まれる。患者は、しばしば、十代前半および成人期まで生存する。
【0214】
本明細書中で3型とも呼ばれる急性神経細胞障害性3型は、典型的には、生後6ヶ月以内に始まり、出生児100,000人中およそ1人という発生率を有する。症状には、肝臓および脾臓の腫大、広範囲かつ進行性の脳損傷、眼球運動障害、痙縮、発作、四肢硬直、ならびに哺乳嚥下能力の不良が含まれる。影響を受けた子供は、通常、2歳までに死亡する。
【0215】
好ましくは、ゴーシェ病の症状には、脾臓および肝臓の腫大、肝機能不全、痛みを伴い得る骨格障害および骨病変、重篤な神経学的合併症、リンパ節および(時に)隣接する関節の腫脹、腹部膨満、茶色がかった皮膚色、貧血、低い血中血小板、ならびに白眼(強膜)上の黄色脂肪沈着物が含まれ得る。最も重篤に影響を受けた者は、感染に対する感受性も高くなり得る。
【0216】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、対象はヒトである。
【0217】
本発明の任意の各局面の任意の各態様に関して本明細書中で好ましくは使用されるように、マウス動物モデルおよびマウスモデルとは、交換可能に本明細書中で使用される。
【0218】
本発明の任意の各局面に関して、他に明示されない限り、疾患または障害への言及がなされる場合、そのような疾患および障害は、それぞれ、リソソーム蓄積障害またはパーキンソン病のいずれかである。リソソーム蓄積障害が、典型的には、グルコセレブロシダーゼ活性の欠陥によって引き起こされたリソソーム蓄積障害であることは、本発明の範囲内である。好ましくは、グルコセレブロシダーゼ活性の欠陥とは、グルコセレブロシダーゼの酵素活性が、健常個体のグルコセレブロシダーゼの酵素活性の活性と比較して低下していることを意味し、ここで、好ましくは、そのような個体はヒトである。より好ましくは、グルコセレブロシダーゼ活性のそのような欠陥は、1個または数個の変異、好ましくは、アミノ酸変異によって引き起こされる。その限りにおいて、グルコセレブロシダーゼ活性の欠陥とは、健常個体の酵素と比較して酵素に欠陥がある態様を意味しかつ/または包含し、ここで、好ましくは、そのような個体はヒトである。
【0219】
本発明の任意の各局面の態様において、リソソーム蓄積障害はゴーシェ病である。様々な型のゴーシェ病が存在することが、当業者によって認められ、ここで、様々な型が実際には連続体を構成することが、当技術分野において理解されている。にも関わらず、現在でも、ゴーシェ病は、1型ゴーシェ病、2型ゴーシェ病、および3型ゴーシェ病として区別または分類されている。1型ゴーシェは、好ましくは、軽症型ゴーシェ病または非神経細胞障害性ゴーシェ病とも呼ばれる。それとは対照的に、2型ゴーシェ病および3型ゴーシェ病は、神経細胞障害性ゴーシェ病とも呼ばれる。ゴーシェ病が重症型ゴーシェ病であることも、本発明の範囲内である。
【0220】
本発明の任意の各局面に関して、他に明示されない限り、動物モデルへの言及がなされる場合、そのような動物モデルは、好ましくは、疾患、好ましくは、本明細書中に開示される疾患、より好ましくは、本明細書中で定義されるリソソーム蓄積症(その様々な態様を含む)またはパーキンソン病の動物モデルである。
【0221】
本発明の任意の各局面の態様において、動物モデルは哺乳類である。好ましい態様において、哺乳類は齧歯類であり、ここで、より好ましくは、齧歯類は、マウス、ラット、ウサギ、およびモルモットを含む群から選択される。もう一つの態様において、動物は、イヌ、ヒツジ、ブタ、および霊長類であり;好ましくは、霊長類はヒトとは異なる。本発明によれば、リゾGb1が毒性であり、かつ/またはリソソーム蓄積症に感受性であり、かつ/またはグルコセレブロシダーゼ活性を示す任意の動物、具体的には、任意の哺乳類に基づき、動物モデルを作製できることが、当業者によって認められるであろう。
【0222】
本発明に関して、本発明による処置の方法および/または予防の方法を受ける対象は、好ましくは、ヒトである。また、生物への言及がなされ、生物がそれ以上特定されない時にも、そのような生物は、好ましくは、ヒトである;あるいは、そのような生物は、ヒトとは異なる。
【0223】
本発明の任意の局面の好ましい態様において、ゴーシェ病の処置および/または予防は、ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状の処置および/または予防であり、ここで、好ましくは、ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状は、脾臓の内臓腫大、軽度貧血、および炎症性組織反応、より好ましくは、1型、2型、および/または3型ゴーシェ病、最も好ましくは、1型ゴーシェ病の少なくとも一つの末梢症状を含む群から選択されることが理解されるであろう。
【0224】
本発明の任意の局面の好ましい態様において、本発明によって処置されるかまたは処置可能である対象は、ゴーシェ病に罹患していると診断された対象であることが理解されるであろう。診断のための方法は、当業者に公知であり、例えば、国際特許出願WO 2012/167925およびRolfs Aら(Rolfs A et al., PLOS ONE, November 2013, vol.8, issue 11, e79732)に記載されており、それらの開示は参照によって本明細書中に組み入れられる。より具体的には、遊離リゾGb1の濃度がカットオフ値を超えている場合に、対象はゴーシェ病に罹患していると診断され、ここで、試料が対象由来の血清試料または血漿試料である場合、カットオフ値は5ng/mlまたは12ng/mlであり、そのような血清試料または血漿試料は、乾燥血液フィルタカードのものであってよく、試料が対象由来の血液、より好ましくは、全血である場合、カットオフ値は20ng/mlであり、そのような血液試料または全血試料は乾燥血液フィルタカードのものであってよい。本明細書中で好ましくは使用されるように、遊離リゾGb1とは、血液のような対象由来の試料にそれ自体存在し、好ましくは、該対象の試料の操作の結果ではないリゾGb1をさす。試料のそのような操作は、Groenerら(Groener et al.1型ゴーシェ病患者の血漿中のグルコシルセラミドおよびセラミド:疾患重症度および治療的介入に対する応答との相関(Plasma glucosylceramide and ceramide in type 1 Gaucher disease patients:Correlations with disease severity and response to therapeutic intervention)Biochimica et Biophysica Acta 1781(2908)72~78,2007)によって記載されたものであり得る。それによると、試料が採取される対象の血液にそれ自体存在する遊離リゾGb1は、より具体的には、血液中に含有されている試料およびそれぞれ好ましくは患者の体外にある試料の化学的、生化学的、または物理的な処理によって作製されたリゾGb1ではない。本明細書中で使用されるように、遊離リゾGb1は、好ましくは、Gb1に加えて存在し、対象の代謝活性によって生成される化合物であることも、当業者によって理解されるであろう。従って、対象由来の試料に存在する、ゴーシェ病に関して貯留する分子であるGb1は、対象の血液中に存在する遊離リゾ型分子、即ち、遊離リゾGb1と比較して、リゾGb1のスフィンゴシンモエティの一級アミノ基に結合した少なくとも1個の脂肪酸モエティを有する。
【0225】
本発明の任意の各局面に関して、他に明示されない限り、リゾGb1のアンタゴニストへの言及がなされる場合、そのようなアンタゴニストは、一つの態様において、疾患の少なくとも一つの症状を低下させるかまたは寛解させる能力を有する。さらなる態様において、疾患を処置する能力を有するかまたはそれに適している。一態様において、アンタゴニストは、疾患の動物モデルにおいて、疾患の少なくとも一つの症状を低下させるかまたは寛解させる能力を有し、好ましくは、動物モデルは本発明の動物モデルである。一態様において、アンタゴニストは、疾患の動物モデルにおいて、疾患を処置する能力を有するかまたはそれに適しており、好ましくは、動物モデルは、様々な態様における本発明の動物モデルである。リゾGb1のアンタゴニストの一態様において、疾患は、本明細書中に開示される疾患、より好ましくは、本明細書中で定義されるリソソーム蓄積症(その様々な態様を含む)またはパーキンソン病である。
【0226】
一態様において、アンタゴニストは、低分子、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素を含む群から選択される化合物である。
【0227】
一態様において、低分子は、当業者に公知のリピンスキーのルールオブファイブ(rules of five)に適合する化合物である。より具体的には、リピンスキーのルールによると、低分子として適格である化学的化合物は、以下の基準のうちの2個以上に当てはまる:(a)5個以下の水素結合供与体(窒素-水素結合および酸素-水素結合の総数);(b)10個以下の水素結合受容体(窒素原子または酸素原子の総数)、(c)500ドルトン未満の分子量;および(d)5以下のオクタノール-水分配係数logP。
【0228】
一態様において、リゾGb1結合タンパク質は、本明細書中に開示された多様な態様において、各々、疾患の少なくとも一つの症状の低下または寛解、およびそれぞれの疾患の処置に関して、前記の基準のうちの少なくとも一つが満たされる程度に、リゾGb1に結合するタンパク質である。一態様において、タンパク質は、ペプチド結合を通して共有結合しているアミノ酸の鎖を含むポリマーであり、ここで、ポリマーは約100個以上のアミノ酸残基を含む。リゾGb1結合タンパク質の一態様は、リゾGb1結合抗体またはそのリゾGb1結合断片である。さらなるリゾGb1結合タンパク質は、リゾGb1結合アンチカリンである。
【0229】
別個の標的に結合する抗体を作製するための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、Harlow, E., and Lane, D.,"Antibodies:A Laboratory Manual," Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。好ましくは、モノクローナル抗体は、CesarおよびMilsteinのプロトコル、ならびにそれに基づきさらに開発されたプロトコルによって製造され得る。抗体には、本明細書中で使用されるように、リゾGb1に結合するのに適しておりかつその能力を有する限り、完全抗体、Fab断片、Fc断片、および一本鎖抗体のような抗体断片または誘導体が含まれるが、これらに限定されるわけではない。ポリクローナル抗体の作製も、当業者に公知であり、例えば、Harlow, E., and Lane, D., "Antibodies:A Laboratory Manual," Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、治療目的のために使用される抗体は、前記定義のヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0230】
本発明の抗体および本発明によって使用され得る抗体は、1種または数種のマーカーまたは標識を有していてよい。そのようなマーカーまたは標識は、診断的適用または治療的適用のいずれかにおいて抗体を検出するために有用であり得る。好ましくは、マーカーおよび標識は、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金、およびフルオレセインを含む群から選択され、例えば、ELISA方法において使用される。これらおよびさらなるマーカーおよび方法は、例えば、Harlow, E., and Lane, D., "Antibodies:A Laboratory Manual," Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。
【0231】
標識またはマーカーが、他の分子との相互作用のような、検出とは別の付加的な機能を示すことも、本発明の範囲内である。そのような相互作用は、例えば、1種または数種の他の化合物との特異的相互作用であり得る。これらの他の化合物は、ヒトもしくは動物の身体のような、抗体が使用される系、またはそれぞれの抗体を使用することによって分析される試料に固有のものであり得る。適切なマーカーは、例えば、ビオチンまたはフルオレセインであって、そのようにマークまたは標識された抗体と相互作用するため、アビジンおよびストレプトアビジン等のようなそれらの特異的相互作用パートナーが、それぞれの化合物または構造に存在していてよい。
【0232】
一態様において、リゾGb1結合ペプチドは、本明細書中に開示された多様な態様において、各々、疾患の少なくとも一つの症状の低下または寛解、およびそれぞれの疾患の処置に関して、前記の基準のうちの少なくとも一つが満たされる程度に、リゾGb1に結合するタンパク質である。一態様において、ペプチドは、ペプチド結合を通して共有結合しているアミノ酸の鎖を含むポリマーであり、ここで、ポリマーは100個未満のアミノ酸残基を含む。本明細書中で使用されるように、ペプチドという用語には、典型的には、約10~約100個のアミノ酸残基を含むポリペプチド、および、典型的には、2~約10個のアミノ酸残基を含むより狭義のペプチドも含まれる。一態様において、リゾGb1結合ペプチドはリゾGb1結合アンチカリンである。
【0233】
アンチカリンは、とりわけ、ドイツの特許出願DE 197 42 706に記載されている標的結合ポリペプチドである。
【0234】
アプタマーとは、一本鎖または二本鎖のいずれかであって、標的分子と特異的に相互作用するD-核酸である。アプタマーの製造または選択は、例えば、欧州特許EP 0 533 838に記載されている。基本的には、以下の工程が実施される。最初に、核酸、即ち、可能性のあるアプタマーの混合物が準備され、ここで、各核酸は、典型的には、数個、好ましくは、少なくとも8個の後続のランダムなヌクレオチドのセグメントを含む。その後、この混合物が標的分子と接触させられ、それによって、例えば、候補混合物と比較して増加した標的に対する親和性に基づき、またはより大きい力で、核酸が標的分子に結合する。その後、結合核酸を混合物の残りから分離する。任意で、このように入手された核酸を、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して増幅する。これらの工程が数回繰り返され、最終的に、標的に特異的に結合する核酸の増加した比率を有する混合物が得られ、次いで、任意で、最終的な結合核酸がその中から選択される。これらの特異的に結合する核酸は、アプタマーと呼ばれる。アプタマーを作製または同定するための方法の任意の段階で、標準的な技術を使用して、その配列を決定するため、個々の核酸の混合物の試料を採取してもよいことは明白である。例えば、アプタマー作製の分野の当業者に公知である、明確な化学基の導入によって、アプタマーを安定化することができることは、本発明の範囲内である。そのような修飾は、例えば、ヌクレオチドの糖モエティの2'位へのアミノ基の導入であろう。アプタマーは、治療剤として現在使用されている。しかしながら、このように選択されたまたは作製されたアプタマーを、標的バリデーションのため、かつ/または医薬、好ましくは、低分子に基づく医薬の開発のためのリード物質として使用することができることも、本発明の範囲内である。これは、標的分子とアプタマーとの間の特異的な相互作用が候補薬物によって阻害される競合アッセイによって実際に行われ、ここで、標的とアプタマーとの複合体からのアプタマーの置換によって、それぞれの薬物候補が、標的とアプタマーとの間の相互作用の特異的な阻害を可能にすると仮定され得、相互作用が特異的である場合、該候補薬物は、少なくとも原理的には、標的を阻止し、それによって、そのような標的を含むそれぞれの系におけるその生物学的利用可能性または活性を減少させるために適当であろう。そのように入手された低分子は、次いで、毒性、特異性、生分解性、および生物学的利用能のような物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴、および/または医学的特徴を最適化するため、さらなる誘導体化および修飾に供されてもよい。好ましい態様において、アプタマーは、リゾGb1に結合する能力を有するアプタマーである。
【0235】
本発明によって使用または作製され得るスピーゲルマーの作製または製造は、類似の原理に基づく。スピーゲルマーの製造は、国際特許出願WO 98/08856に記載されている。スピーゲルマーは、L-核酸であり、即ち、D-ヌクレオチドから構成されるアプタマーとは異なり、L-ヌクレオチドから構成される。スピーゲルマーは、生物学的系において極めて高い安定性を有し、アプタマーと比較可能に、それらが向けられる標的分子と特異的に相互作用するという事実を特徴とする。スピーゲルマーを作製するためには、D-核酸の不均一集団を作出し、この集団を、リゾGb1である標的分子の鏡像異性体と接触させる。その後、標的分子の鏡像異性体と相互作用しないD-核酸を分離する。しかしながら、標的分子の鏡像異性体と相互作用するD-核酸を分離し、任意で、決定し、かつ/または配列決定し、その後、対応するL-核酸を、D-核酸から得られた核酸配列情報に基づき合成する。標的分子の鏡像異性体と相互作用する前記のD-核酸と配列に関して同一のL-核酸は、鏡像異性体とではなく天然に存在する標的分子と特異的に相互作用するであろう。アプタマーを作製するための方法と同様に、様々な工程を数回繰り返し、それによって、標的分子の鏡像異性体と特異的に相互作用する核酸を濃縮することも可能である。
【0236】
本発明の様々な局面に関して、疾患は、リソソーム蓄積症、好ましくは、ゴーシェ病であることが示される。本願は、リゾGb1が、標的、好ましくは、ドラッガブルターゲットであり、そのような疾患の動物モデルを誘導する能力および作製する能力をそれぞれ有することに関する実験的証拠を提供する。実験的証拠およびパーキンソン病に罹患している患者において観察されるリゾGb1の力価に基づき、リソソーム蓄積障害、具体的には、ゴーシェ病に関してリゾGb1にアノテートされ、リゾGb1によって実行される同一の機能が、パーキンソン病においても同様にリゾGb1によって示され、実行されると考えられることが、当業者によって認められ、理解される。一態様において、パーキンソン病は、変異体グルコセレブロシダーゼ、好ましくは、ゴーシェ病に罹患している対象において観察される変異体グルコセレブロシダーゼを有する対象のパーキンソン病であり、ここで、より好ましくは、パーキンソン病に罹患している対象は、ゴーシェ病の臨床兆候を示さない。
【0237】
リゾGb1分解酵素は、一態様において、リゾGb1代謝酵素である。そのような種類の酵素は、リゾGb1のアンタゴニストとして使用するのに適しているが、但し、酵素がリゾGb1に作用することによって得られたリゾGb1誘導体は、もはや、本発明に関して定義されるリゾGb1のアンタゴニストではない。
【0238】
第1の局面において、本発明の基礎をなす問題は、疾患の処置における標的としてのリゾGb1の使用によって解決される。そのような使用は、本明細書中で、本発明による使用、本発明によるリゾGb1の治療的使用、または本発明による第1の使用とも呼ばれる。そのような第1の局面は、ゴーシェ病の診断マーカーとして最近同定されたリゾGb1(Dekker N et al., Blood. 118(16):e118-27;Rolfs A et al., PLoS One. 8(11):e79732)が、疾患、好ましくは、本明細書中に開示されたその様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病における標的であるという驚くべき発見に基づく。より重要なことには、リゾGb1は、ドラッガブルターゲットでもある。本明細書中で好ましくは使用されるように、ドラッガブルターゲットは、薬物に高い親和性で結合することが公知であるかまたは予測される。
【0239】
さらに、定義によって、薬物のドラッガブルターゲットとの結合は、治療的利益を患者に与えながら、標的の機能を改変しなければならない。
【0240】
本発明の第1の局面による使用には、インビトロ使用およびインビボ使用の両方が包含される。使用がインビトロ使用である態様において、リゾGb1は、化学的アッセイ、生化学的アッセイ、物理的アッセイ、または細胞アッセイにおいて使用される。そのようなアッセイは、例えば、薬物候補が、リゾGb1との結合および/または疾患の症状のうちの一つもしくはいくつかをもたらす作用への干渉において有効であるかどうかを判定する。一態様において、標的は、細胞、組織、臓器、または生物の外部に存在し;別の態様において、標的は、細胞、組織、臓器、または生物の内部に存在し;そのような細胞、組織、臓器、または生物は、生存していてもよいしまたは死んでいてもよい。さらなる態様において、使用は、インビボ使用であり、即ち、標的としてのリゾGb1は、疾患の処置および/または予防のために標的とされ;好ましくは、そのような態様において、リゾGb1は、生物、臓器、組織、または細胞に存在し、より好ましくは、それらは生存している。別の態様において、標的としてのリゾGb1のインビボ使用は、疾患の処置および/または予防のためではなく;好ましくは、そのようなインビボ使用は、細胞、組織、臓器、または生物におけるリゾGb1の関与に関して医学的かつ/または科学的な洞察を得るためのものである。
【0241】
第2の局面において、本発明の基礎をなす問題は、薬物の開発における標的としてのリゾGb1の使用によって解決され、ここで、好ましくは、薬物は、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病を処置および/もしくは予防する能力を有しかつ/またはそれに適している。第1の局面と同様に、この第2の局面は、リゾGb1が、診断マーカーであるのみならず、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病における標的でもあるという驚くべき発見に基づく。そのような第2の局面は、本明細書中で、本発明による使用、より具体的には、本発明による第2の使用とも呼ばれる。
【0242】
本発明の第1の局面の任意の態様が、本発明の第2の局面の態様でもあり、逆もまたそうであることが理解されるであろう。
【0243】
本明細書中で好ましくは使用されるように、好ましくは、「薬物の開発」という用語は、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病を処置する能力を有しかつ/またはそれに適している薬物を提供する任意の過程を意味する。そのような過程には、薬物のスクリーニング、品質管理を含む別個の目的のための有用性または適格性に関する薬物候補の試験、好ましくは、品質管理が包含される。薬物のそのような開発は、医薬の調製とは異なり、ここで、好ましくは、医薬の調製とは、患者または医療従事者がすぐに使用することができるよう、薬物を製剤化しかつ/または梱包することを意味する。本発明のそのような第2の局面に関して、薬物は、一態様において、本発明によるアンタゴニストである。
【0244】
第3の局面において、本発明の基礎をなす問題は、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病の動物モデルの作製におけるリゾGb1の使用によって解決される。この第3の局面は、リゾGb1を使用することによって、この種類の疾患の動物モデルを作製することができるという驚くべき発見に基づく。そのような第3の局面は、本明細書中で、本発明による使用、より具体的には、本発明による第3の使用とも呼ばれる。
【0245】
作製において使用される動物は、本明細書中に開示された任意の動物である。本発明の第3の局面によってリゾGb1を使用することによって入手された動物モデルは、リゾGb1によって誘導された動物モデルとも呼ばれる。動物モデルがモデルである疾患は、本明細書中に開示されるリソソーム蓄積症、またはパーキンソン病である。
【0246】
第4の局面において、本発明の基礎をなす問題は、疾患、好ましくは、本明細書中に開示される様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病の処置および/または予防において使用するためのリゾGb1のアンタゴニストによって解決される。この第4の局面は、リゾGb1が、診断マーカーであるのみならず、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病におけるドラッガブルターゲットでもあるという驚くべき発見に基づく。そのような第4の局面は、本明細書中で、本発明によるアンタゴニストとも呼ばれる。
【0247】
本明細書中に開示されるように、本発明のアンタゴニストは、本発明の基礎をなす前記の驚くべき発見を考慮すれば、ルーチンの方式を使用して、過度の負担なしに調製され得る。一態様において、リゾGb1のアンタゴニストは、本発明の動物モデルによって示された少なくとも一つの疾患関連症状を予防するかまたは寛解させるアンタゴニストである。
【0248】
第5の局面において、本発明の基礎をなす問題は、医薬の製造におけるリゾGb1のアンタゴニストの使用によって解決され、ここで、医薬は、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病の処置および/または予防のためのものである。本発明の第4の局面と同様に、この第5の局面は、リゾGb1が診断マーカーであるのみならず、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病におけるドラッガブルターゲットでもあるという驚くべき発見に基づく。そのような第5の局面は、本明細書中で、本発明による使用、より具体的には、本発明による第5の使用とも呼ばれる。
【0249】
第6の局面において、本発明の基礎をなす問題は、
(a)ある期間にわたりリゾGb1を動物へ投与する工程、
(b)動物が疾患の少なくとも一つの症状を示すかどうかを判定する工程
を含む、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病の動物モデルを作製するための方法によって解決される。この第6の局面は、リゾGb1を使用することによって、この種類の疾患の動物モデルを作製することができるという驚くべき発見に基づき、ここで、動物モデルは、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病の動物モデルである。そのような第6の局面は、本明細書中で、本発明による動物モデルを作製するための方法とも呼ばれる。リゾGb1の使用によって動物モデルが作製されるため、本発明のそのような方法から入手されたまたは入手可能な動物モデルは、リゾGb1によって誘導された動物モデルとも呼ばれる。
【0250】
一態様において、リゾGb1は、ある期間にわたり連続的に投与される。
【0251】
本発明による動物モデルを作製するための方法の一態様において、工程(a)において提供される動物は、典型的には、疾患の表現型、該疾患の少なくとも一つの症状を発症するよう処置される健常動物である。
【0252】
好ましい動物はマウスである。典型的には、10週齢のような若齢マウスが使用されることが、当業者によって認められるであろう。しかしながら、さらに若齢または高齢のマウスが使用されることも、本発明の範囲内である。
【0253】
本発明による一態様において、疾患の少なくとも一つの症状が動物によって示されるまで、リゾGb1が動物へ投与される。好ましくは、疾患の少なくとも一つの症状は、安定的に示される。本明細書中で好ましくは使用されるように、安定的に示される、とは、動物モデルが使用される試験および手法を実施するために十分な時間、疾患の少なくとも一つの症状が動物によって示されることを意味する。
【0254】
動物へ投与されるリゾGb1の濃度は、リゾGb1が投与される期間および投与されるべき期間ならびに疾患の所望の重症度および意図された重症度に依ることが、当業者によって認められるであろう。本開示を考慮すれば、ルーチンの実験によって濃度を決定することができる。好ましくは、リゾGb1は、中毒、好ましくは、慢性中毒が達成される程度に投与される。非神経細胞障害性ゴーシェ病の場合には、全身性の慢性中毒が達成されるべきであるが、神経細胞障害性ゴーシェ病の場合には、慢性CNS中毒が達成されるべきである。
【0255】
非神経細胞障害性ゴーシェ病のためには、皮下投与が好ましく、神経細胞障害性ゴーシェ病のためには、くも膜下腔内投与が好ましいことが、当業者によって認められるであろう。皮下投与の場合、可能な1日投薬量は、10mg リゾGb1/kg体重であり、ここで、リゾGb1は、2.64μl/日の流速でポンプによって連続的に皮下投与される。
【0256】
動物モデルを作製するための本発明の方法において使用される具体的な動物系統およびマウス系統に関して、原則として、任意の野生型実験室系統が使用され得ることが、当業者によって認められるであろう。そのような野生型実験室系統は、C57BL/6JRj系統、C57BL/6系統、およびC57/BL/10系統を含む群から選択されるものである。
【0257】
一態様において、好ましくは、疾患がゴーシェ病、より好ましくは、非神経細胞障害性ゴーシェ病である場合、疾患の少なくとも一つの症状は、末梢症状である。好ましくは、そのような末梢症状は、脾臓の内臓腫大、軽度貧血、炎症性組織反応、および肝臓の内臓腫大を含む群から選択されるものである。肝臓および脾臓の腫大に関して、そのような腫大は、陰性対照として有効に機能する、リゾGb1によって処置されていない動物と比べたものであることが、当業者によって認められるであろう。本明細書中で好ましくは使用されるように、貧血とは、「ベースライン値より2×SD低いHb値」として定義される(Raabe BM et al., J Am Assoc Lab Anim Sci. 50(5):680-5)。軽度型貧血とは、観察されるHb値がそれほど低くなく、即ち、ベースライン値に近いものである。本明細書中で好ましくは使用されるように、炎症性組織反応は、当技術分野において公知であるように、CD68およびF4/80に基づき決定される(例えば、Boven LA et al., Am J. Clin Pathol 2004 122(3):359-69を参照すること)。
【0258】
一態様において、好ましくは、疾患がゴーシェ病、より好ましくは、神経細胞障害性ゴーシェ病である場合、疾患の少なくとも一つの症状は、中枢神経症状である。好ましくは、そのような中枢神経症状は、運動失調、認知症、眼球運動失行、およびパーキンソニズムを含む群から選択されるものである。
【0259】
第7の局面において、本発明の基礎をなす問題は、第6の局面による方法によって入手可能な動物モデルによって解決され、ここで、動物モデルは、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病の動物モデルである。本発明の第6の局面と同様に、この第7の局面は、リゾGb1を使用することによって、この種類の疾患の動物モデルを作製することができるという驚くべき発見に基づく。そのような第7の局面は、本明細書中で、本発明による動物モデルとも呼ばれる。
【0260】
第8の局面において、本発明の基礎をなす問題は、動物モデルによって解決され、ここで、動物モデルは、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病のリゾGb1によって誘導された動物モデルである。本発明の第7の局面と同様に、この第8の局面は、リゾGb1を使用することによって、この種類の疾患の動物モデルを作製することができるという驚くべき発見に基づく。そのような第8の局面は、本明細書中で、本発明による動物モデルも呼ばれる。
【0261】
第9の局面において、本発明の基礎をなす問題は、候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストであるかどうかを試験する工程を含む、疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法によって解決され、ここで、候補化合物がリゾGb1のアンタゴニストである場合、候補化合物は、疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤である。好ましくは、疾患は、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病である。この第9の局面は、リゾGb1が診断マーカーであるのみならず、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病におけるドラッガブルターゲットでもあるという驚くべき発見に基づく。そのような第9の局面は、本明細書中で、本発明による疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法とも呼ばれる。
【0262】
本発明による疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法の一態様において、試験は、本発明の動物モデルの使用を含む。好ましくは、該試験は、候補化合物を動物モデルへ投与する工程、および動物モデルによって示された疾患の少なくとも一つの症状を候補化合物が低下または寛解させるかどうかを評価する工程を含む。
【0263】
本発明による疾患を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または疾患を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法の一態様において、リゾGb1のアンタゴニストは、本発明によるアンタゴニストである。もう一つの態様において、候補化合物は、低分子化合物、リゾGb1結合タンパク質、リゾGb1結合ペプチド、抗体またはその抗原結合断片、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、およびリゾGb1分解酵素である。
【0264】
第10の局面において、本発明の基礎をなす問題は、本発明による動物モデルにおいてまたは本発明による動物モデルを使用して剤の効果を試験する工程を含む、疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法によって解決される。
【0265】
好ましくは、疾患は、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病である。この第10の局面は、リゾGb1が、診断マーカーであるのみならず、疾患、好ましくは、本明細書中に開示された様々な態様におけるリソソーム蓄積症、およびパーキンソン病におけるドラッガブルターゲットでもあるという驚くべき発見に基づく。そのような第10の局面は、本明細書中で、本発明による疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法とも呼ばれる。
【0266】
本発明による疾患の処置および/または予防における剤の効果を評価するための方法は、一態様において、剤の以下の効果のうちの一つを評価するために使用される:副作用、相乗効果、毒性効果、様々な生理学的パラメータに対する効果、生化学的な因子およびパラメータに対する効果。そのような効果は、当業者に公知であり、そのような効果を決定するためのアッセイも、同様に、当業者に公知である。そのような方法において、少なくとも、陰性対照が該方法に供され、任意で、陽性対照が該方法に供されることも、当業者によって理解されるであろう。そのような陰性対照に基づき、試験された剤に関連した有利な効果を同定し、任意で、定量化することができる。本発明のこの方法は、一態様において、剤および薬物候補のプロファイリングにおいてそれぞれ使用される。剤を疾患の処置および/または予防において使用するため、販売許可を申請する時、そのようなプロファイリングは、保健機関への提出のための関係書類の準備の一部である。
【0267】
以下の図面および実施例によって、本発明が以下にさらに例示され、それらから、さらなる特色、態様、および利点を得ることができる。より具体的には、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0268】
図1A図1Aおよび1Bは、リゾGb1またはビヒクル単独のいずれかによって処置されたマウスの血中のリゾGb1のレベルを、時間の関数として示す図であり、図1Aは棒グラフとして結果を提示しており、図1Bは箱ひげ図として結果を提示している;マウスは、浸透圧ミニポンプを使用して、12週間、リゾGb1を皮下に受容した;リゾGb1値は、4週後の最初の試料採取時以降、処置期の間じゅう増加した;ビヒクルによって処置された(または投薬前の)動物は、より低いが、未だ検出可能な1.2~1.5ng/mL血液というリゾGb1値を有していた;試験された動物の数は、各データポイントについて図中に示されており、箱は、中央値ならびに25パーセンタイルおよび75パーセンタイルを示しており、グラフのひげは、最小値および最大値を示している。
図1B図1Aの説明を参照のこと。
図2A図2Aは、様々な組織、即ち、心臓、腎臓、肝臓、脾臓、および脳の中のリゾGb1濃度(ng/ml乾燥組織)を示す図である;リゾGb1によって処置された動物は黒の箱で示されており、ビヒクルによって処置された動物は白の箱で示されており、箱は、3匹の独立の動物の最小値および最大値を示しており、各臓器試料は2回反復で測定された;白線および黒線は平均値を示している;処置されたマウスの全ての末梢臓器が、対照動物と比較して大幅に上昇したリゾGb1のレベルを示した。
図2B図2Bは、処置開始後6週目に各ケージ4匹の1群(未処置)および3匹の2群(処置)から24時間収集された尿の中のリゾGb1濃度(ng/ml尿)を示す図である。得られたリゾGb1レベルは、それぞれのカラムの上に示されている。処置された動物におけるリゾGb1含量とは、0.6ng*分-1の計算された排泄速度をさす;リゾGb1によって処置された動物は、黒の箱として示されており、ビヒクルによって処置された動物は白の箱として示されており、箱は、3匹の動物の最小値および最大値を示しており、各臓器試料は2回反復で測定された。白線および黒線は平均値を示している。
図3図3は、リゾGb1によって処置されたC57/BL/6JRjマウスにおけるHb(ヘモグロビン;左図)およびHct(ヘマトクリット;右図)についての血中変化を示す2つの図のパネルである;値は、示された各時点(4週、8週、および12週)で、対照マウス4匹およびリゾGb1によって処置されたマウス6匹から得られた;黒色および白の箱は、中央値、25パーセンタイル、および75パーセンタイルを示しており、グラフのひげは最大値および最小値を示している;各時点における処置群間の差は、両側マン・ホイットニー検定を使用して分析された。左パネル:Hb値は各時点でベースライン値より2×SD低く、軽度貧血が示された。右パネル:Hct値は、処置開始後4週目および8週目に有意に異なった。
図4A図4Aは、8週後および12週後の脾臓および肝臓の臓器重量分析の結果を示す2つの図のパネルである(g/100g体重);値は、示された各時点で、対照マウス4匹およびリゾGb1によって処置されたマウス6匹から得られた;黒色および白の箱は、中央値、25パーセンタイル、および75パーセンタイルを示しており、グラフのひげは最大値および最小値を示している;各時点における処置群間の差は、両側マン・ホイットニー検定を使用して分析された;処置されたマウスの脾臓は、処置開始から8週後および12週後に対照と比べて腫大した。肝臓重量は、対照と比較して、統計的に有意に異なっていなかった。
図4B図4Bは、脾臓および肝臓における炎症組織マーカーF4/80およびCD68のウェスタンブロット分析の結果を例示する2つの図のパネルであり、F4/80およびCD68の脾臓レベルの顕著な増加が、リゾGb1によって処置されたマウスにおいて8週目に観察され、類似した増加が同一の動物の肝臓において認められた。
図4C図4Cは、対照動物およびリゾGb1によって処置された動物からの脾臓の半分を示す写真であり、臓器試料はサイズの変化および特有の色を例示している。
図5図5A~Bは、ビヒクルによって処置されたマウスおよびリゾGb1によって処置されたマウスに由来するH&E染色脾臓切片が、白色髄および赤色髄を含む類似の脾臓構成を示したことを示す顕微鏡写真である(図5A、B)。図5C~Jは、ビヒクルによって処置されたマウスおよびリゾGb1によって処置されたマウスの脾臓に由来するパラフィン切片が、抗CD68(図5C、D、および高倍率E、F)ならびに抗F4/80(図5G、H、および高倍率I、J)によって免疫組織化学的に分析され、リゾGb1によって処置されたマウスに由来する切片が、ビヒクル対照と比較して、CD68陽性細胞およびF4/80陽性細胞の数の著しい増加を示したことを示す顕微鏡写真である。
図6図6は、研究において試験された全てのパラメータを含む表1Aおよび1Bを示す。
図7図7は、処置開始から4週後、8週後、および12週後の脾臓および肝臓の溶解物の中のGCaseレベルを示す棒グラフを表す。
図8-1】図8は、4週後および8週後の、リゾGb1またはビヒクル単独のいずれかによって処置されたマウスの血中の異なる型のグルコシルセラミドのレベルを示す図である。
図8-2】図8-1の説明を参照のこと。
図8-3】図8-1の説明を参照のこと。
図8-4】図8-1の説明を参照のこと。
【0269】
前記のように、GDの動物モデルは、遺伝子欠陥の性質に基づき、神経学的表現型、血液学的表現型、および内臓表現型の広いスペクトルを示す。遺伝学的GDマウスモデルおよび非遺伝学的(化学的に誘導された)GDマウスモデルは、いずれも、しばしばヒト表現型に極めて類似している、疾患病理に関する有益な洞察を提供する(Farfel-Becker et al., 2011, Dis Mod Mech 4:746-52に概説されている)。しかしながら、これまでに開発された疾患モデルは、いずれも、単独のスフィンゴ脂質蓄積に起因し得る効果の隔離された分析を可能にしていない。
【0270】
実施例において示されるように、本発明者らは、GCase活性、GCase不活性、グルコシルセラミド、および/またはグルコシルセラミド貯留の可能性のある効果から独立して、リゾGb1の効果の隔離された分析を可能にする動物モデルを開発した。
【実施例0271】
実施例1:材料および方法
動物の飼育および処置
動物の実験手順を、Pharmacelsus GmbH, Saarbrucken, Germanyで行った。成熟雄性C57BL/6JRjマウス(10週齢、Janvier Labs, Franceから購入)を温度管理された室内(20~24℃)で飼育し、12時間明期/12時間暗期のサイクルを維持した。餌(ssniff(登録商標)R/M-H、10 mm)と水を自由に与えた。
【0272】
全ての実験手順は、地域の動物福祉局(Animal Welfare authority)によって承認され、その規則に従って行った。リゾGb1ストック溶液を、37℃のDMSOおよびプロピレングリコール中、10分間の超音波浴処理で調製した。マウスの後頸部に埋め込まれ、10 mg リゾGb1(Matreya LLC, USA)/kg体重の日用量を達成するように2.64μl/日の流量に設定されたALZETポンプを使用して、リゾGb1の皮下投与を行った。ポンプを、製造業者の指示に従って、埋め込む前にストック溶液で充填してプライミングした。
【0273】
外側尾静脈から得たLi-ヘパリン血液を用いて採血を行った。各採血時点で、20μlの2つのアリコートを、乾燥血液スポットフィルターカード(Centogene AG, Rostock, Germany)に移した。最後の採血時点が過ぎてから、過剰量のイソフルランの吸入によりマウスを屠殺し、後の検査のために臓器を取り出し、凍結し、収集した。必要に応じて臓器を分割した。臓器の半分を直ちに液体窒素中で凍結した。残りの半分は、ホルマリン固定し、組織学的分析のためにパラフィン包埋した(Histalim, Montpellier, France)。
【0274】
乾燥血液スポット(略語DBS)からの試料の調製およびリゾGb1測定
DBSパンチャー(Perkin Elmer LAS, Germany)を用いて直径3.2mmのパンチを3つ切り出し、2.2mlの丸底チューブ(Eppendorf, Germany)に入れた。50μlの抽出溶液(DMSO:水、1:1)とエタノールに溶解させた標準物質を含む100μlの内部標準溶液とをペーパーパンチの上に添加した。試料を30秒間混合し、700 rpmで攪拌しながら37℃で30分間インキュベーター(Heidolph, Schwabach, Germany)内に置いた。インキュベーション後、チューブを最大出力で1分間超音波処理し、次いで液体を、96ウェルV底プレート(VWR, Germany)上に配置されたPTFE膜を備えるAcroPrepフィルタープレート(PALL, Germany)に移した。試料を、Hermle Z300プレート遠心分離機(Hermle Labortechnik, Germany)において3,500 rpmで5分間の遠心分離によって濾過して、溶液から全ての固体粒子を除去した。
【0275】
LC/MRM-MS分析のための尿試料の調製
25μLの尿アリコートを100μLの内部標準および250μLのエタノールに加えた。試料を4℃まで1時間冷却して尿タンパク質を沈殿させ、その後、それらをベンチトップ遠心分離機において14,500 rpmで3分間回転させた。各試料の前記体積を定量的に96ウェルプレートに移し、上記のようにさらに処理した。
【0276】
リゾGb1定量のための臓器試料の調製
動物から摘出した後、臓器を直ちに液体窒素中で急速冷凍した。試料を凍結乾燥させ(Alpha 2-4 LSC, Christ, Osterode am Harz, GER)、乳鉢と乳棒で粉末化した。2~5 mgの粉末画分を丸底チューブ内で落ち着かせた。粉末の上に、50μl/mgの粉末抽出溶液を加え、そして攪拌しながら試料を37℃で5分間インキュベートした。続いて、試料を液体窒素中で30秒間凍結させ、ブースト機能を用いて5分間超音波処理した。インキュベーション、凍結、および超音波処理の工程を6回繰り返した。最後に混合物をボルテックスし、25μlの懸濁液アリコートをリゾGb1定量に使用した。各試料に、100μlの内部標準(リゾGb2、200 ng/ml)および250μlのエタノールを添加した。試料を1時間4℃で冷却して膜タンパク質を沈殿させ、ベンチトップ遠心分離機において14.5 krpmで3分間回転させた。各試料の前記体積を定量的に96ウェルフィルタープレートに移し、上記のようにさらに処理した。
【0277】
LC/MRM-MS測定
DBSおよび臓器抽出物の両方についてのリゾGb1のLC-MRM-MS分析を、ABSciex 5500 TripleQuad質量分析計(ABSciex, Darmstadt, Germany)と共にWaters Acquity UPLC(Waters, UK)を使用して行った。60℃で予熱した0.9 ml/分の流量を使用して、孔径3 mMのC8カラム(ACE columns, Germany)でクロマトグラフィーのランを実行した。10μlの抽出物をカラムに注入し、40%A(水中50 mMギ酸)から100%B(アセトン中50 mMギ酸:アセトニトリル 体積1:1)の直線勾配を用いて化合物を溶出させた。UPLCの上流に、3:1フロースプリッターを追加した。以下のMRMトランジションをモニタリングした:内部標準について624.3→282.2(DPが30V、CEが38V、かつCXPが10V)、およびリゾGb1について462.3→282.2(DPが28V、CEが30V、およびCXPが10V)。MRM-MS分析を、以下のパラメータを用いて陽イオンモードで行った:CURガス40 psi、IS電圧5.5kV、CAD 8 psi、コーン温度500℃、GS 1 45 psi、GS2 60 psi、EP 10V。分析した全てのバッチについて、標準曲線を、エタノールで希釈した7種のリゾGb1(濃度(ng/ml):0;5;10; 50;100;200;1000)を用いて測定した。
【0278】
血球数
過剰吸入による屠殺の前に、イソフルラン麻酔下で眼球後静脈叢を介してマウスを放血させた。200μLの全血EDTA試料を各動物から採取し、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST/GOT)、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット値(PCV=血中血球容積、Hct)、平均細胞体積(MCV)、平均細胞Hb(MCH)、平均細胞Hb濃度(MCHC)、および血小板数(PLT)を分析した(IDEXX Bioresearch、Ludwigsburg、Germany)。
【0279】
サイトカイン分析
ProcartaPlex(登録商標)マルチプレックスイムノアッセイ(ebioscience, San Diego, CA)を供給業者の指示に従って行った。品質管理基準を含む自動MAGPIX(登録商標)分析装置ソフトウェア(Luminex, Austin, TX)を用いて動物群間の差異を得た。
【0280】
ウェスタンブロット
肝臓および脾臓を、プロテイナーゼおよびホスファターゼ阻害剤(Roche, Mannheim, GER)を含有するRIPA緩衝液中でホモジナイズした。溶解物を15,000 g、4℃で15分間遠心分離して不溶性ペレットを除去し、上清を回収した。タンパク質濃度を、Pierce BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて測定した。典型的には、100μgのタンパク質を、4%~15%のプレキャストTris-グリシングラジエントゲル(BioRad, Mannheim, GER)上での電気泳動のために添加した。続いて、このタンパク質を、免疫検出分析のためのセミドライ転写装置(BioRad, Munich, GER)によってニトロセルロース膜に転写した。標的タンパク質を、それぞれ5%スキムミルク粉末が添加されたTBST(Sigma Aldrich, Munich, GER)中、ラット抗F4/80(1:500, Biolegend, San Diego, CA)、ラット抗CD68 [FA-11](1:200 abcam, Cambridge, UK)、マウス抗GAPDH(1:10,000, abcam, Cambridge, UK)によって検出した。蛍光共役二次抗体を、Li-Cor Odysseyイメージングシステム(Bad Homburg, GER)を用いる検出に適用した。
【0281】
病理組織学的評価
切除後、臓器をホルマリン中で24時間固定し、70%エタノールの中に移した。偏りのない比較を確実にするために、臓器の同じ部分をHISTALIM(Montpellier, France)によって分析した。マウスの臓器に有効な4時間のプログラムに従って、試料をPelorisオートマトン(Leica, Wetzlar, Germany)で処置した。試料をHISTALIM手順に従ってパラフィンワックスに包埋した。肝臓、脾臓、および大腿の試料について、切片(厚さ3~5μm)を調製し、(組織を確実に接着するために)Superfrost+スライド上に選択的に付着させて、有効なヘマトキシリン/エオシン(H&E)プロトコルに従って染色した。全てのスライドを、Zスタックを用いずに、20倍の対物レンズを用いて明視野条件下、Nanozoomerスキャナー((Hamamatsu Photonics, Hamamatsu, Japan)でデジタル化した。これらのスライドを上級病理組織学者が調べて、試験したマウスに対するリゾGb1の毒性効果を評価した。
【0282】
免疫組織化学
免疫組織化学のために、8週間処置したマウスの脾臓の5μmパラフィン切片を、ラット抗CD68クローンFA-11(1:100, Bio-Rad Laboratories, Raleigh, NC, USA)およびラット抗マウスF4/80 Cl:A3-1(1:100, BioLegend, San Diego, CA, USA)に供した。次いで、切片を脱パラフィン処理し、再水和し、そして、0.1 Mクエン酸緩衝液中、マイクロ波で前処理し(5分間850wおよび5分間340w)、続いて、内因性ペルオキシダーゼをブロックするためにPBS中で3%H2O2と共に30分間、次いで非特異的エピトープをブロックするためにPBS中で1.5%正常ヤギ血清(NGS)を含む3%ウシ血清アルブミンと共に1時間、連続的にインキュベートした。続いて、切片を、3%NGS/PBS中、一次抗体に4℃で一晩曝露した。一次抗体によっては、PBS中で洗浄した後に、切片を、二次抗ラットIgGまたは抗マウスIgG(1:200; Vector, Burlingame, CA, USA)と共に1時間、そしてストレプトアビジン-ビオチン複合体(ABC)試薬(Vectastain-Elite; Vector, Burlingame, CA, USA)と共に1時間、連続的にインキュベートし、最後に、H2O2で活性化された3,-3,-ジアミノベンジジン(DAB, Sigma, Munich, Germany)で最終的に可視化した。切片をヘマトキシリンで対比染色し、脱水し、DePeXを用いてマウントし、そしてカバーガラスをかけた。
【0283】
データ分析
可視化および統計データ評価を、GraphPad Prism 5を使用して行った。結果は中央値および範囲として表す。ノンパラメトリック両側マン・ホイットニー検定を使用して、各表示時点での処置群間の差異を同定した:対照 対 リゾGb1処置マウスのヘモグロビン、Hct、および肝臓/脾臓の重量。結果は、P値<0.05*、<0.01 **、<0.005***で統計的に有意であるとみなされた。
【0284】
グルコセレブロシダーゼ酵素活性の測定
肝臓および脾臓の新鮮凍結試料を、0.15%Triton X-100および0.125%タウロコール酸ナトリウムを添加したpH 4.5に調整した氷冷リン酸カリウム緩衝液(100μL/mg組織)中でホモジナイズした。組織懸濁液を、2mLシリンジを備えた22ゲージの針に強制的に10回通して、細胞結合を解離した。その後、懸濁液を凍結/融解サイクルに5回供し、続いて4℃、15,000×gで15分間遠心分離して清澄な溶解物を得た。GCase含有抽出物のタンパク質濃度を測定し、9μgの全タンパク質を、最終濃度2 mMの4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルコピラノシド(4-MUG)を基質として使用する酵素反応に使用した。0.2 mLの1.0 Mグリシン緩衝液(pH 10.5)を添加することによって反応を停止させた。遊離フルオロフォア4-MUをマイクロプレートリーダー(Tecan, Mannedorf, Switzerland)で定量した。
【0285】
実施例2:マウスへのリゾGb1の連続皮下投与時のリゾGb1濃度
雄性C57BL/6JRjマウスの後頸部に皮下浸透圧ミニポンプを装着して、リゾGb1の長期投与(12週間)を実現した。マウスの臓器系におけるリゾGb1濃度の動向を調べるために、DBSサンプリングを繰り返し行った。
【0286】
処置マウスにおける血中リゾGb1濃度のモニタリングの結果を図1Aおよび図1Bに示す。
【0287】
図1Aおよび図1Bから読み取れるように、リゾGb1濃度は、処置開始の24時間後には既に大幅に上昇していた(データは示さず)。24時間後に観察されたリゾGb1値は、全処置段階を通して現れた。4週間後、8週間後、および12週間後に、リゾGb1濃度は700~900 ng/mlの範囲にわたり、これは、ビヒクル処置マウスと比較して500倍を超える増加を示した。ビヒクル処置(または投薬前)動物は、1.2~1.5 ng/ml血液前後の、低いが検出可能なリゾGb1値を有していた(図1Aおよび図1B)。
【0288】
処置開始の4週間後に、マウスの臓器をリゾGb1分析に供した。結果を図2Aに示す。
【0289】
図2Aから読み取れるように、処置(10 mg/kg/日)開始の4週間後に、心臓、腎臓、肝臓、脾臓、および脳をリゾGb1蓄積について分析した。処置マウスの全ての末梢臓器は、対照動物と比較してリゾGb1濃度の大幅な上昇を示した。リゾGb1の最大濃度は腎臓で検出され、これは、水溶性リゾGb1の除去が主に尿によることを示している。これは、リゾGb1の尿中濃度によって検証された(図2B)。リゾGb1の劇的な増加は他の全ての末梢臓器でも観察されたが、倍率変化は肝臓でより顕著であり、脾臓ではそれほどはっきりしなかった。脳リゾGb1のわずか2倍の増加は、分析前に灌流によって除去されていなかった組織毛細血管中の血液のキャリーオーバーによるものであった。
【0290】
実施例3:リゾGb1処置マウスの全身性損傷の分析
3.1 高いリゾGb1濃度が動物に全身性損傷を引き起こすかどうかを試験した。そのような全身性損傷は、血球数の分析によって評価された。結果を図3に示す。
【0291】
図3の左図から明らかなように、Hb値はわずかに減少し、各時点でベースライン値よりも2×SD低く、このことは、Raabeらによって定義された軽度貧血を示している(Raabe et al., 2011、上記)。すべての時点での対照群を比較し、これらの間に統計的差異は見られなかった。
【0292】
より具体的には、動物におけるHctの低下がずれ、Hct値は、処置開始の4週間後と8週間後で異なった(図3の右図)。12週目の対照値の低下が著しく、該低下はビヒクル(50%DMSO/50%プロピレングリコール)処置の結果であり得た。何故なら、プロピレングリコール(ADDENDUM for PROPYLENE GLYCOL Supplement to the 1997 Toxicological Profile for Propylene Glycol; https://www.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/propylene_glycol_addendum.pdf)は血液学的に有効な化合物であることが実証されているからである。低い注入量、および、著しく高い用量でのこの化合物の認容性についての報告から、この可能性は低くなっている(Thackaberry et al., 2010, Toxicol Sci, 117: 485-492)。しかしながら、より重要なことは、リゾGb1処置動物におけるHctの減少がそれ以上進行しないという事実である。
【0293】
血小板減少症も白血球(WBC)における異常も観察されなかったことに留意するべきである。表S1Aおよび表S1B(図6)は、この研究でまとめられた全ての関連パラメータを要約している。
【0294】
3.2 貧血は、ゴーシェ病のもう1つの特徴である脾臓肥大の結果であることが多いため、臓器重量の分析、ウェスタンブロット分析、および脾臓の大きさと色の分析を行った。結果を、図4A図4B、および図4Cに示す。
【0295】
図4Aは、リゾGb1処置C57/BL/6JRjマウスの臓器重量の分析から得られた結果を要約している。図4Aから明らかなように、処置マウスの脾臓は、対照の臓器と比較すると処置開始の8週間後および12週間後に肥大していた。肝臓重量は、対照動物と統計的に差異がなく、従って動物は肝腫大を呈していなかった。
【0296】
組織炎症に関する脾臓と肝臓の両方の分子変化を調べるために、マクロファージマーカータンパク質F4/80およびCD68を分析した。図4Bは、前記炎症組織マーカーF4/80およびCD68のウェスタンブロット分析の結果を示している。臓器重量と一致して、両タンパク質の濃度は脾臓では上昇したが、肝臓では穏やかな変化しか観察されなかった。
【0297】
最後に、対照およびリゾGb1処置動物由来の脾臓の半分の目視検査を行った。臓器試料は、大きさの変化および異なる色の外観を示す(図4Cを参照)。
【0298】
全ての動物についてのH&Eを用いた脾臓(同じく肝臓および大腿も)の一般的な組織学的染色は、ビヒクル処置臓器とリゾGb1処置臓器との間の有意な異常を明らかにしなかったが(データは示さず)、特異抗体を用いた免疫組織化学分析はウェスタンブロットの結果を裏付けた。詳細には、脾臓のH&E染色切片は、ビヒクル処置マウスおよびリゾGb1処置マウスの両方における白脾髄および赤脾髄で同様の形態を示した(図5A図5B)。免疫組織化学データは、ビヒクル対照と比較した場合にリゾGb1処置マウスにおけるCD68免疫反応性の大幅な増加を明らかにした(図5C図5D)。特に、CD68陽性細胞の蓄積が被膜の近くに見られた(図5E図5F)。また、F4/80免疫反応性は、ビヒクル対照と比較してリゾGb1処置マウスで増加した(図5G図5H)。より高い倍率により、F4/80陽性細胞の定性的染色強度は、リゾGb1処置マウスの脾臓におけるCD68陽性細胞のそれと比較して弱~中程度であることが示された(図5E図5F図5I図5K)。
【0299】
リゾGb1はGCaseの潜在的な基質であり、このことは、以前に評価されたような(Vacaro et al., 1985, Eur J Biochem 14: 351-21)、前記処置が動物における適切な酵素機能に影響を及ぼし得るかどうかの問題を提起する。脾臓および肝臓溶解物での酵素測定は、正常なエクスビボ活性を示し(図7)、リゾGb1がマウスにおいて野生型GCaseに有意に影響を及ぼさないことを立証した。この発見は、グルコシルセラミド濃度がそれほど影響を受けないという事実によってさらに裏付けられる(図8)。
【0300】
実施例4:実施例2および3の結果の解釈
10週齢のC57BL/6JRjマウスを、最大84日間(12週間)の期間にわたって高用量(10 mg/kg/日)のリゾGb1で皮下的に処置した。
【0301】
マウスは、軽症型ゴーシェ病に匹敵する表現型を血液および脾臓に現し、ここで表現型は、1型ゴーシェ病の遺伝的マウスモデルで観察された表現型に類似している。
【0302】
正常なGCaseが存在するにもかかわらず、前記処置は、処置開始の4週間後に全ての主要組織におけるリゾGb1の蓄積および500 ng/ml血液を超える強い血中濃度をもたらした。これについての1つの説明は、グルコシルセラミドと比較して、GCaseがリゾGb1を加水分解する能力が低いことであり得る(Vacaro et al、上記)。典型的には、ゴーシェ患者の血漿リゾGb1濃度は、酵素補充療法(略語ERT)の前には50~250 ng/mlの範囲にわたっており(Rolfs et al., PLoS One. 8(11): e79732)、少なくともヒトではリゾGb1の血中濃度が血漿値の2倍超を超えているため(未発表データ)、このことは、マウスの循環中で得られる濃度が同等であることを示唆している。リゾGb1濃度が疾患の重症度に関連していることが見いだされたため(Dekker et al., 2011、上記;Rolfs et al., 2013、上記)、したがって、観察されたリゾGb1濃度は、最初にGD症状発現の原因となる場合、マウスにおいて患者と同様の表現型、最も典型的には肝脾腫、貧血、および骨疾患を生じさせるほど高いと予期することができる。
【0303】
グルコシルセラミドおよびグルコシルスフィンゴシンは、マクロファージの臓器浸潤およびその結果としての臓器肥大症の発症の原因になると考えられている。従って、処置動物の臓器重量の分析を行った。脾臓重量の増加は、この臓器におけるリゾGb1の劇的な増加、ならびにウェスタンブロットおよび免疫組織化学によって確認されたCD68およびF4/80抗原の観察された上昇に一致していた。これは、CD68およびF4/80について陽性染色された細胞集団におけるばらつきにもかかわらず、免疫細胞、恐らくマクロファージ数の増加によるこの組織内での初期段階の炎症または慢性炎症のいずれかを示唆し得る(Boven et al., 2004, Am J Clin Pathol 122: 359-369; Kinoshita et al., 2010, J Hepatol, 53: 903-910)。対照的に、心臓、肺、および腎臓は正常な大きさであるように見えた。肝臓重量は、統計的に有意ではないが8週間の処置の時点でわずかに上昇し、肝臓切片の組織学的検査は、病態生理学的状態を示唆しなかった。しかしながら、対応する肝臓のCD68およびF4/80濃度は穏やかに上昇したように見え、本発明者らは、リゾGb1処置がより早く開始された後続の実験(P20)(データは示さず)で肝臓の肥大が観察されたことに注目した。この実験はまた、遺伝的非神経細胞障害性GDマウスで最初に報告された、脾臓の肥大ならびにHbおよびHctの減少も裏付けた(Enquist et al., 2006, Proc Natl Acad Sci USA, 103: 13819-13824)。
【0304】
臓器重量および血液パラメータに関する表現型の重症度のさらなる進行は、8週間の処置の後には観察されなかった;このことは、マウスによる生理的適応、または恐らく、重要な標的位置における臨界リゾGb1濃度の欠如を示唆している。
【0305】
さらに、マウスは、明らかな健康上の問題および機能的制約を示すことなく、全実験段階を通して体重が減少しなかった。この知見は、50日齢の健康なマウスと比較して15%の体重減少を示したがさらなる進行性の衰弱が見られなかった、見かけ上のCNS関与がない遺伝学的マウスモデルにおける状況(Mizukami et al., 2002, J Clin Invest. 109(9):1215-21.)に反している。Mizukamiらによって紹介されたマウスは、最小限のグルコシルセラミド貯蔵および古典的なゴーシェ組織浸潤の非存在を示した。しかしながら、これらのマウスは、肝臓のTNF-αおよびIL-1β発現の上昇を示す多系統炎症を呈しており、これはむしろ、必ずしもゴーシェ細胞の存在によって特徴づけられるわけではないGDの重要な特徴が、炎症であることを強調している。本発明者らのリゾGb1処置マウスは、ProcartaPlex(登録商標)マルチプレックスイムノアッセイによって観察されたように血中のTNF-αおよびIL-1βのわずかな上昇を示し、このことは恐らくB細胞の増殖を示している。しかしながら、本発明者らは、ほとんどの調べたサイトカインで有意なアップレギュレーションを見出せなかった(図6)。
【0306】
末梢組織で観察された生理学的変化がなぜ疾患の症状スペクトル(symptom spectrum)全体を示していないのかについての考えられる説明とは、マウス(10週齢の動物)の処置開始の遅さである。以前の報告は、胚の段階でのマウス体内におけるリゾGb1の上昇を立証した(Orvisky et al., 2000, Pediatr Res. 48(2):233-7)。しかしながら、この知見は、神経細胞障害性ゴーシェマウスモデルに関するものであった。今日まで、非神経細胞障害性マウスモデルにおけるリゾGb1についての出生前試験は存在しないが、非常に若い個人の組織でリゾGb1が上昇することが分かっているため(Orvisky et al., 2002, Mol Genet Metab. 76(4):262-70)、初期発生段階中でもリゾGb1が上昇すると仮定するのは妥当である。
【0307】
GD患者とは対照的に、かつまた、最大リゾGb1濃度が脾臓で観察された、Orviskyおよび同僚によって試験されたGDの遺伝的マウスモデル(Orvisky et al., 2000、上記)とも対照的に、本発明者らは異なる分布を観察し、最大リゾGb1濃度は腎臓および肝臓で測定された。Orviskyおよび同僚によって報告された知見は、GDにおけるリゾGb1が脾臓内マクロファージ供給源に由来することを示したが、本発明者らのモデルでは、当然ながら腎臓および肝臓が、皮下投与されたリゾGb1をより多く取り込んだようであった。動物の脳内のリゾGb1濃度のごくわずかな増加は、リゾGb1が血液脳関門を通過できないことを示している。動物が行動異常を示さなかったため、CNS測定は行われず、そして、脳内の基底リゾGb1濃度は、末梢臓器の濃度よりも高かった。これは、CNSにおけるリゾGb1に対するより良好な耐性を示唆している。
【0308】
最も知られているGDモデルには急激な衰弱という短所があり、これは、疾患進行の綿密な検査を妨げる。ほとんどのGD患者は、N370S対立遺伝子を保有しており、これは、遅い疾患発症、軽い症状、および遅い疾患進行に関与している。ある種の、主にホモ接合体の患者は、生涯を通して無症候性のままであることが示された(Balwani et al., 2010, Arch Intern Med, 170: 1463-1469)。GDの病態生理学とリゾGb1処置動物の表現型との間の関係の調査を用いて、一般的でより軽度のGD対立遺伝子のより良い理解を得ることができる。しかしながら、N370S突然変異は、早期疾患発症の患者にも見られる(Balwani et al、上記)。最近の発見は、GD動物モデルおよび患者の表現型の重症度における遺伝的背景の重要な役割を強く示唆している(Klein et al., 2016, Cell Rep, 16: 2546-53)。また、動物の代謝経路における差異が疾患の発症に寄与していると推測することもできる。従って、単一近交系マウスのリゾGb1処置は、ヒトGDにおいて現れる表現型の複雑なスペクトルを十分に反映していない。
【0309】
本マウスモデルを使用して、GDのための潜在的な薬物療法としてのリゾGb1中和剤(例えば、抗体およびアプタマー)の有効性を調べることができる。特定の癌などの血液疾患を標的とするモノクローナル抗体の遺伝子的操作は、標準的な治療法になってきている。抗体およびアプタマーによって生物活性脂質を不活性化する戦略はすでに採用されている(Sabbadini RA.; British Journal of Pharmacology. 2011; 162(6): 1225-1238; WO 2011/15341; Purschke et al., Biochem J. 2014 Aug 15;462(l):153-62; international patent application WO 2011/131371)。GDの内臓での徴候に対する抗炎症薬効果の分析は、観察された炎症性組織反応がマウスを新たな疾患徴候から保護するのに十分であるかどうかを明らかにする助けとなり得、これは、その変化しない全身健康状態を説明する。
【0310】
実施例5:パーキンソン病におけるリゾGb1
GBA(グルコセレブロシダーゼ)に突然変異を有するパーキンソン病患者は、GBA突然変異を有さないパーキンソン病患者と比較して上昇したリゾGb1濃度を示す。リゾGb1濃度は、常に、ゴーシェ病患者の臨界閾値である12 ng/ml未満ではあるが、それでも上昇している(7.9 ng/ml対2.8 ng/ml)。これらのパーキンソン病患者のリゾGb1濃度はまた、ゴーシェ病のキャリアであるがパーキンソン病のキャリアではない患者と比較しても上昇している。
【0311】
これらのデータは、リゾGb1がGBAの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の病態生理学に関与していることを裏付けている。
【0312】
本明細書、添付の特許請求の範囲、配列表、および/または添付の図面に開示された本発明の特徴は、別々でも、それらの任意の組み合わせでも、本発明をその様々な形態で実現するための材料であり得る。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
【手続補正書】
【提出日】2023-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾGb1に結合し、かつゴーシェ病の少なくとも1つの症状を低下させることができる、ゴーシェ病の処置および/または予防のための薬物の開発におけるドラッガブルターゲットとしてリゾGb1インビトロで使用する方法であって、
薬物候補がリゾGb1に結合するかどうかをインビトロで決定する工程、および
該薬物候補が、(a)グルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼすかどうか、かつ/または(b)ゴーシェ病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかをインビトロで決定する工程
を含む、方法
【請求項2】
ゴーシェ病を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/またはゴーシェ病を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法であって、
候補化合物がリゾGb1に結合するかどうかを試験する工程、および
該候補化合物が、(a)グルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼすかどうか、かつ/または(b)ゴーシェ病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかを試験する工程を含み、
該候補化合物がリゾGbに結合し、かつ(a)グルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼす、かつ/または(b)ゴーシェ病の少なくとも1つの症状を低下させる場合、該候補化合物は、ゴーシェ病を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/またはゴーシェ病を処置および/もしくは予防する能力を有する剤である、方法。
【請求項3】
前記薬剤候補がグルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼすかどうかの決定に使用されるグルコセレブロシダーゼが、突然変異グルコセレブロシダーゼである、請求項1および2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
突然変異グルコセレブロシダーゼが、ゴーシェ病に存在する突然変異グルコセレブロシダーゼである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記薬物候補がゴーシェ病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかを決定する工程が、インビトロアッセイにおいて該薬物候補がゴーシェ病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかを決定することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ゴーシェ病の少なくとも1つの症状が炎症性組織反応である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの症状が炎症性サイトカインの増加である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症性サイトカインが、TNF-a、IL-1b、IL-6、およびChT1からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記薬物候補が、リゾGb1結合抗体またはそのリゾGb1結合断片、リゾGb1結合アプタマー、リゾGb1結合スピーゲルマー、およびリゾGb1結合アンチカリンからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
リゾGb1に結合し、かつグルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状を低下させることができる、グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の処置および/または予防のための薬物の開発におけるドラッガブルターゲットとしてリゾGb1インビトロで使用する方法であって、
薬物候補がリゾGb1に結合するかどうかをインビトロで決定する工程、および
該薬物候補が、(a)グルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼすかどうか、かつ/または(b)グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかをインビトロで決定する工程
を含む、方法
【請求項11】
グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または該パーキンソン病を処置および/もしくは予防する能力を有する剤をスクリーニングするための方法であって、
候補化合物がリゾGb1に結合するかどうかを試験する工程、および
該候補化合物が、(a)グルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼすかどうか、かつ/または(b)グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかを試験する工程を含み、
該候補化合物がリゾGbに結合し、かつ(a)グルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼす、かつ/または(b)グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状を低下させる場合、該候補化合物は、グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病を処置および/もしくは予防するのに適したかつ/または該パーキンソン病を処置および/もしくは予防する能力を有する剤である、方法。
【請求項12】
前記薬剤候補がグルコセレブロシダーゼによるグルコシルセラミドの分解に影響を及ぼすかどうかの決定に使用されるグルコセレブロシダーゼが、突然変異グルコセレブロシダーゼである、請求項10および11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
突然変異グルコセレブロシダーゼが、グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病に存在する突然変異グルコセレブロシダーゼである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬物候補がグルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかを決定する工程が、インビトロアッセイにおいて該薬物候補がグルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状を低下させるかどうかを決定することを含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
グルコセレブロシダーゼの突然変異によって引き起こされるパーキンソン病の少なくとも1つの症状が炎症性組織反応である、請求項10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの症状が、炎症性サイトカインの増加である、請求項10~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記炎症性サイトカインが、TNF-a、IL-1b、IL-6、およびChT1からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記薬物候補が、リゾGb1結合抗体またはそのリゾGb1結合断片、リゾGb1結合アプタマー、リゾGb1結合スピーゲルマー、およびリゾGb1結合アンチカリンからなる群より選択される、請求項10~17のいずれか一項に記載の方法。