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特開2024-23267DHAが豊富な多価不飽和脂肪酸組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023267
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】DHAが豊富な多価不飽和脂肪酸組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20240214BHJP
   A61K 31/232 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 36/31 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20240214BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20240214BHJP
   C11B 3/12 20060101ALI20240214BHJP
   A23L 33/115 20160101ALN20240214BHJP
【FI】
A61K31/202
A61K31/232
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/12
A61P35/00
A61P37/02
A61K36/31
A61K31/23
A61K31/231
A23D9/013
C11B3/12
A23L33/115
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191793
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2020560368の分割
【原出願日】2018-12-20
(31)【優先権主張番号】18169368.0
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18179081.7
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521535227
【氏名又は名称】ヌシード ニュートリショナル ユーエス インク.
【氏名又は名称原語表記】NUSEED NUTRITIONAL US INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リトラー,スチュアート
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定性の改善されたDHA、ALA、およびオレイン酸を特定の比率で含む植物ベースの脂質組成物、ならびにその製造プロセスを提供する。
【解決手段】アブラナ属植物などの単一の供給源から入手し得る脂肪酸エステル混合物をエステル交換によりエチルエステルとし、145℃から160℃の温度範囲で分子蒸留するステップを含む、プロセスとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)組成物の総脂肪酸含有量の15重量%~35重量%の量のドコサヘキサエン酸(22:6n-3)と、
(ii)前記組成物の総脂肪酸含有量の最大5重量%の量のエイコサペンタエン酸(20:5n-3)と、
(iii)前記組成物の総脂肪酸含有量の10重量%~20重量%の量のα-リノレン酸(18:3n-3)と、
(iv)前記組成物の総脂肪酸含有量の20重量%~40重量%の量のオレイン酸(18:1n-9)と、
(v)前記組成物の総脂肪酸含有量の最大1.5重量%の量のパルミチン酸(16:0)と、を含み、
成分(i)~(v)が、各々独立して脂肪酸エステルの形態で提供される植物ベースの脂質組成物を生成するためのプロセスであって、
脂肪酸エチルエステルの混合物を提供することと、その混合物を第1の分子蒸留ステップに供し、第1の残留物を得ることと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記第1の分子蒸留ステップで使用される温度が145℃から160℃の範囲である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1の残留物が第2の分子蒸留ステップに供される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第2の分子蒸留ステップで使用される温度が145℃から160℃の範囲である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
それぞれの蒸留ステップが、少なくとも蒸留物の重量が前記残留物の重量と同じになるまで実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記蒸留物が、成分(i)~(v)が独立してトリグリセリドの一部又はジグリセリドの一部として提供されるように、さらにエステル変換される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記脂質組成物が、その組成物の総脂肪酸含有量の20重量%~35重量%の量のドコサヘキサエン酸を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記脂質組成物が、その組成物の総脂肪酸含有量の最大3重量%の量のエイコサペンタエン酸を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記脂質組成物が、その組成物の総脂肪酸含有量の12重量%~20重量%の量のα-リノレン酸を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記脂質組成物が、その組成物の総脂肪酸含有量の20重量%~35重量%の量のオレイン酸を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記脂質組成物が、その組成物の総脂肪酸含有量の最大1.0重量%の量のパルミチン酸を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記第1の分子蒸留ステップで使用される脂肪酸エチルエステルの混合物が単一の供給源に由来する、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第1の分子蒸留ステップで使用される脂肪酸エチルエステルの混合物が植物に由来する、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記植物が油糧種子である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記植物が、Brassica sp.、Gossypium hirsutum、Linum usitatissimum、Helianthus sp.、Carthamus tinctorius、Glycine max、Zea mays、Arabidopsis thaliana、Sorghum bicolor、Sorghum vulgare、Avena sativa、Trifolium sp.、Elaesis guineenis、Nicotiana benthamiana、Hordeum vulgare、Lupinus angustifolius、Oryza sativa、Oryza glaberrima、Camelina sativa、及びCrambe abyssinicaからなる群から選択される、請求項13又は14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記植物が、アブラナ属の植物又はBrassica napus又はBrassica junceaである、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記植物が、長鎖多価不飽和脂肪酸を生成する能力を向上させるために遺伝子改変されている、請求項13に記載のプロセス。
【請求項18】
抗酸化剤、安定剤、および界面活性剤からなる群から選択される1つ以上の追加成分を加えることをさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセスにより得られる脂質組成物を含む錠剤、カプセル、カプセル化ゲル、摂取可能な液体もしくは粉末、または局所軟膏もしくはクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される実施形態は、ドコサヘキサエン酸を強化した新規な脂質組成物に関する。本組成物は、多くの健康上の利点を有する多価不飽和脂肪酸の混合物を含む。本組成物は、栄養上の利益を提供し、単一の供給源から入手可能であり、拡張性と持続性の両方を兼ね備えている。また、酸化に対する安定性も向上している。
【背景技術】
【0002】
オメガ-3長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFAs)は、人間と動物の健康にとって重要な化合物として広く認識されている。これらの脂肪酸は、食事供給源から、または程度はより低いが、リノール酸(LA、18:2ω-6)またはα-リノレン酸(ALA、18:3ω-3)の脂肪酸の変換によって得られる可能性があり、これらは全て人間の食事の必須脂肪酸と見なされている。
【0003】
栄養学的観点から、最も重要なオメガ-3脂肪酸は、おそらくα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(「EPA」、20:5n-3)、およびドコサヘキサエン酸(「DHA」、22:6n-3)である。DHAはLC-PUFAであり、脳と眼の発達に重要である。オメガ-3PUFAの摂取は、冠動脈疾患の予防にも役立つ可能性がある。医学的研究は、これらの脂肪酸が心血管機能および免疫機能の改善、または癌、糖尿病、および高血圧の減少などの有益な健康面を有することを明確に示している。臨床結果は、週に5.5gのオメガ-3PUFAの食事摂取が、一次心停止のリスクの50%減少に関連している可能性があることを証明した。その結果、オメガ-3PUFAを含有する油は、製薬および栄養の目的で高い需要がある。
【0004】
一般に、脂肪酸の酸化安定性は、炭素-炭素二重結合の数、または不飽和度が増加するにつれて著しく低下する。残念ながら、ALA、EPA、およびDHAは全て多価不飽和脂肪であり、容易に酸化する傾向がある。EPA(5つの炭素-炭素二重結合を持つ)は、ALAよりも有意に酸化されやすく、DHA(6つの炭素-炭素二重結合を持つ)は、EPAよりもさらに酸化されやすい。結果として、オメガ-3含有量を増やすと、多くの製品の貯蔵寿命が短くなる傾向がある。これらの問題は、有意な量のEPAまたはDHAを含む油で特に深刻になる。
【0005】
US2015/223483は、酸化安定性が改善されたキャノーラ油ベースのブレンドを開示している。安定性は、1つ以上の添加剤の添加によって達成される。
【0006】
US2011/0027443は、改善されたフレーバープロファイルを有するオレイン酸、リノール酸、アルファリノレン酸およびLC-PUFAの特定のブレンドを含有する油脂組成物を開示している。US2004/209953は、LC-PUFAの主にモノグリセリドおよびジグリセリドを含有する栄養製品を開示している。US5,130,061は、原油からDHAを抽出するためのエステル交換および蒸留プロセスの使用を記載している。US9,040,730は、組成物中の望ましくないステロールの量を減らすために、PUFAを含有する脂質混合物の純化を記載している。これらのいずれの場合も、特定のブレンドが得られる原料として魚油または微生物油が使用される。
【0007】
国際特許出願第WO2013/185184号は、多価不飽和脂肪酸のエチルエステルを生成するためのプロセスを開示している。
【0008】
国際特許出願第WO2015/089587号および米国特許出願第US2015/0166928号は、オメガ-3およびオメガ-6脂肪酸の混合物を含む植物脂質組成物を開示している。遺伝子組み換えキャノーラは、WO2017/218969およびWO2017/219006に記載されている。
【0009】
本明細書で明らかに先に公表された文献のリストまたは議論は、その文献が最新技術の一部であるか、または共通の一般知識であることを認めるものと必ずしも解釈されるべきではない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、
(i)組成物の総脂肪酸含有量の約15重量%~約35重量%の量のドコサヘキサエン酸(22:6n-3)と、
(ii)組成物の総脂肪酸含有量の最大約5重量%の量のエイコサペンタエン酸(20:5n-3)と、
(iii)組成物の総脂肪酸含有量の約10重量%~約20重量%の量のα-リノレン酸(18:3n-3)と、
(iv)組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約40重量%の量のオレイン酸(18:1n-9)と、
(v)組成物の総脂肪酸含有量の最大約1.5重量%の量のパルミチン酸と、を含む、植物ベースの脂質組成物が提供され、
成分(i)~(v)は、各々独立して、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、または脂肪酸エステルの塩の形態で提供される。
【0011】
該脂質組成物は、本明細書では「本発明の組成物」と呼ばれる。
【0012】
本発明は、遊離脂肪酸、塩、エステルまたはエステルの塩のいずれかの形態で、高レベルのドコサヘキサエン酸(DHA)およびα-リノレン酸(ALA)を同時に含有する脂質組成物に関する。これらの組成物は、植物源などの持続可能な供給源から入手可能であることが見出されている。それらはまた、貯蔵中の酸化による分解の減少によって証明される改善された貯蔵安定性プロファイルを有することも見出された。特に、DHAは、人間と動物の健康にとって重要な化合物として認識されている。これらの組成物は、飼料、栄養補助食品、化粧品、および他の化学組成物に使用することができる。それらはまた、中間体および医薬品有効成分として有用である可能性もある。
【0013】
本発明の組成物中の脂肪酸レベルは、当業者に知られている常法を使用して決定することができる。そのような方法は、例えば、実施例に開示される方法に従って、参照標準と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC)を含む。特定の方法では、GC分析の前に脂肪酸がメチルエステルまたはエチルエステルに変換される。このような技術は、実施例で説明される。クロマトグラムのピーク位置を使用して各特定の脂肪酸を同定し、各ピーク下の面積を積分して量を決定することができる。本明細書で使用される場合、反対に述べられない限り、試料中の特定の脂肪酸のパーセンテージは、その脂肪酸のクロマトグラムの曲線下面積を、クロマトグラムの脂肪酸の総面積のパーセンテージとして計算することによって決定される。これは本質的に重量パーセント(w/w)に対応する。脂肪酸の同一性はGC-MSにより確認できる。
【0014】
この文脈でのドコサヘキサエン酸および「DHA」への言及は、特に明記しない限り、ドコサヘキサエン酸のω3型、すなわち脂肪酸のメチル末端から3番目の炭素-炭素結合に不飽和(炭素-炭素二重結合)を有するドコサヘキサエン酸についての言及である。同義で使用できる省略形には、「22:6n-3」および「22:6ω-3」が含まれる。
【0015】
より一般的には、「多価不飽和脂肪酸」および「PUFA」という用語は、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸を指す。「長鎖多価不飽和脂肪酸」および「LC-PUFA」という用語は、その炭素鎖に少なくとも20個の炭素原子および少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸を指し、従って、VLC-PUFAを含む。本明細書で使用される場合、「非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸」および「VLC-PUFA」という用語は、その炭素鎖に少なくとも22個の炭素原子および少なくとも3個の炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸を指す。通常、脂肪酸の炭素鎖の炭素原子数は、分岐していない炭素鎖を指す。炭素鎖が分岐している場合、炭素原子の数は側基の炭素原子を除外する。
【0016】
長鎖ポリ不飽和脂肪酸は、ω3(「オメガ-3」)脂肪酸、すなわち、脂肪酸のメチル末端から3番目の炭素-炭素結合に不飽和(炭素-炭素二重結合)を有する脂肪酸であり得る。あるいは、それらは、ω6(「オメガ-6」)脂肪酸、すなわち、脂肪酸のメチル末端から6番目の炭素-炭素結合に不飽和(炭素-炭素二重結合)を有する脂肪酸であり得る。他の不飽和パターンが存在する可能性がある一方で、ω6および特にω3の型は、本発明の文脈において特に関連性がある。
【0017】
本発明の組成物は、DHAおよびα-リノレン酸(ALA、18:3n-3)を含む少なくとも2つの異なる多価不飽和脂肪酸を含む。一実施形態では、DHAまたはALAのいずれかが、組成物中に存在する最も豊富な脂肪酸である(組成物の総脂肪酸含有量に対する重量で)。別の実施形態では、DHAおよびALAは、組成物中に存在する2つの最も豊富な脂肪酸である。
【0018】
本発明の組成物中の成分(i)~(v)は各々、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルまたは脂肪酸エステルの塩の形態で存在し得る。
【0019】
本明細書で使用される場合、「脂肪酸」という用語は、多くの場合、飽和または不飽和のいずれかの長い脂肪族テールを有するカルボン酸(または有機酸)を指す。典型的には、脂肪酸は、少なくとも8個の炭素原子の長さ、より具体的には少なくとも12個の炭素の長さの炭素-炭素結合鎖を有する。ほとんどの天然脂肪酸は、生合成に2つの炭素原子を持つアセテートが含まれるため、偶数の炭素原子を有する。脂肪酸は、本明細書で「遊離脂肪酸」と呼ばれる遊離状態(非エステル化)、またはアルキルエステル、トリグリセリドの一部、ジアシルグリセリドの一部、モノアシルグリセリドの一部、アシル-CoA(チオエステル)結合もしくは他の結合形態、またはそれらの混合物などのエステル化形態であり得る。脂肪酸は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールまたはジホスファチジルグリセロールの形態などのリン脂質としてエステル化することができるが、好ましくは、アルキルエステルとして、特に、エチルエステルとしてエステル化する。誤解を避けるために、特に明記しない限り、「脂肪酸」という用語は、遊離脂肪酸、脂肪酸エステル、およびこれらのいずれかの塩を包含する。特に明記しない限り、特定の脂肪酸に関連する定量値は、それが存在する形態(例えば、遊離酸またはエステル)に関係なく、存在するその脂肪酸の量(重量に基づいて計算される)を指す。
【0020】
組成物中の各脂肪酸はまた、脂肪酸の塩、例えばアルカリ塩またはアルカリ土類塩の形態でも提供され得る。言及され得る特定の塩には、リチウム塩およびカルシウム塩が含まれる。そのような塩は、潜在的な追加の薬効を有する、または加工性の改善を提供する。同様に、脂肪酸エステルは、脂肪酸エステルの塩の形態で提供され得る。遊離脂肪酸、塩、エステル、またはエステルの塩の形態の脂肪酸の任意の組み合わせが、本発明の組成物中に存在し得る。これは、例として、DHAが主にエチルエステルとして存在し、ALAが主にメチルエステルのカルシウム塩として存在し、オレイン酸が主に遊離脂肪酸として存在する可能性があることを意味する。
【0021】
「飽和脂肪酸」には、鎖に沿って任意の二重結合または他の官能基は含まれない。「飽和」という用語は、全ての炭素(カルボン酸[-COOH]基を除く)ができるだけ多くの水素を含有するという点で、水素を指す。言い換えると、オメガ(ω)末端は3つの水素原子(CH3-)に結合し、鎖内の各炭素は2つの水素原子(-CH2-)に結合している。「総脂肪酸」という用語は、全ての形態の脂肪酸を含み、飽和または不飽和、遊離酸、エステルおよび/または塩である。
【0022】
化合物の量、重量、時間、温度などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される「約」という用語は、明記された量の20%、10%、5%、1%、0.5%、またはさらに0.1%の変動を指す。
【0023】
言及され得る本発明の組成物は、高濃度のオメガ-3脂肪酸を含有するものを含み、それらの多くは、人間の健康にとって特に重要であると考えられているいわゆる「必須脂肪」である。オメガ-3脂肪酸は、HDLコレステロールレベルに有益な効果を有し得、若者の脳の発達をサポートし、メンタルヘルスに役立つことが示されている。これらの脂肪酸は一般に、抗炎症性を有するエイコサノイドの前駆体であると考えられている。言及され得る本発明の特定の組成物は、脂質組成物中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の総量が、組成物の総脂肪酸含有量の少なくとも約30重量%、例えば少なくとも約35重量%であるものを含む。特定の実施形態において、脂質組成物中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の総量は、組成物の総脂肪酸含有量の少なくとも約40重量%である。
【0024】
オメガ-6脂肪酸も人間の健康にとって重要であると考えられている。特に、特定のオメガ6脂肪酸は健康に必要な「必須脂肪」であるが、身体はそれらを合成することができない。ただし、オメガ-6脂肪は、より炎症誘発性のあるエイコサノイドの前駆体であることが示されたため、これらのエイコサノイドが過剰に生成されると、炎症および炎症性疾患を増加させる可能性がある。したがって、脂質組成物中のそのような脂肪酸の量を最小限に抑えることが望ましい場合がある。食事中のオメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸の比率は4:1以下であるべきだと一般的に認められている。しかしながら、通常の洋風の食事では、典型的に、オメガ-6脂肪酸の割合が高くなる。本発明の脂質組成物は、有利には、比較的少量のオメガ-6脂肪酸を含有し、同時に、比較的大量のより有益なオメガ-3脂肪酸を含有する。一実施形態では、組成物中のオメガ-6多価不飽和脂肪酸の総量は、組成物の総脂肪酸含有量のせいぜい約8重量%である。別の実施形態において、組成物中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の総重量とオメガ-6多価不飽和脂肪酸の総重量との比は、少なくとも約6:1である。さらなる実施形態において、組成物中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の総重量とオメガ-6多価不飽和脂肪酸の総重量との比は、少なくとも約8:1である。
【0025】
オメガ-9脂肪酸は、体が生成できる一価不飽和脂肪である。他の種類の脂肪の代わりに、オメガ-9脂肪酸が豊富な食品を摂取すると、糖尿病患者に血漿トリグリセリドおよび「悪い」超低密度リポタンパク質(VLDL)コレステロールの減少を含む多くの有益な健康効果を及ぼす可能性があり、炎症を軽減し、インスリン感受性を改善する。一実施形態において、脂質組成物中のオメガ-3およびオメガ-9の多価不飽和脂肪酸の総量は、組成物の総脂肪酸含有量の少なくとも約50重量%であり、例えば少なくとも約60重量%または少なくとも約70重量%である。さらなる実施形態において、組成物中のオメガ-3およびオメガ-9の多価不飽和脂肪酸の総重量とオメガ-6多価不飽和脂肪酸の総重量との比は、少なくとも約5:1、例えば少なくとも約10:1である。
【0026】
長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する脂質組成物は、典型的には、海洋源(例えば、魚、甲殻類)、藻類源、または植物源(例えば、亜麻またはエキウム)から得られる。出発有機物は、そこに含有される油(一般に「原」油と呼ばれる)を抽出するために最初に加工される。例えば、植物種子の場合、種子は粉砕され、油を放出し、油は次に濾過および/またはデカンテーションによって固形物から分離される。原油は、有用性を発揮するには低過ぎるレベルの多価不飽和脂肪酸(例えば、栄養製品)を含有することが多いため、濃縮が必要である。原油に1つ以上の必須成分が不足している場合、複数の供給源から(例えば、魚および藻類から)、原油または濃縮油を共にブレンドし、所望の組成物を得ることが一般的に多い。あるいは、濃縮は、所望の脂肪酸成分のレベルを最大化しながら、原油を加工し、不要な成分(例えば、製品の色、臭いもしくは安定性に悪影響を及ぼす成分、または不要な脂肪酸)を除去することによって達成され得る。
【0027】
本発明の組成物は、単一の供給源から有利に入手可能である。単一の供給源の使用は、原油の効率的かつ経済的な加工および本発明の脂質組成物の製造を容易にする。「単一の供給源から入手可能である」(または「単一の供給源から得られる」)という句は、脂質組成が単一の分類学的クラスの1つ以上の生物から入手可能であることを意味する。特定の実施形態では、脂質組成物は、異なる分類学的クラスにわたる複数の生物に由来しない。例えば、脂質組成物は、魚と藻類の組み合わせ、または魚と植物の組み合わせから得られた油のブレンドであってはならない。代わりに、本発明の脂質組成物(またはエステル交換および蒸留などの濃縮技術によって組成物を得ることができる「原」油)は、単一の生物集団、例えば、単一の植物源または草木源から入手可能である。誤解を避けるために、「単一の供給源から入手可能である」という句は、脂質組成物または「原」油の供給源としての同じ種の複数の生物の使用、すなわち複数の魚、藻類資源、植物、または同じ種のものである植物種子の使用を除外するものではない。該複数の生物は、好ましくは、全て同じ種のものであるか、または同じ育種系統に由来するか、または同じ植物種のものであるか、または同じ生産資源またはバッチのものである。
【0028】
本発明の特定の脂質組成物において、DHAは、組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約35重量%(例えば、約22重量%~約33重量%)の量で存在する。
【0029】
本発明の脂質組成物は、存在するEPAの量と比較して高レベルのDHAを含有することが有利に見出された。したがって、一実施形態では、脂質組成物中のドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸との重量比は、少なくとも約20:1である。さらなる実施形態において、脂質組成物中のドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸との重量比は、約25:1超であり得、例えば、約30:1より大きく、最も具体的には、約35:1より大きくてもよい。
【0030】
好ましくは、組成物中のEPA量は比較的少ない可能性がある。本発明の組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の最大約5重量%のEPAを含有する。特定の実施形態では、組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の最大約3重量%、より具体的には最大約1重量%のEPAを含有する。
【0031】
本発明の組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の約10重量%~約20重量%の量のα-リノレン酸(ALA)を含有する。ALAは、人間または動物の適切な健康にとって重要な必須脂肪である。特定の実施形態では、組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の約12重量%~約20重量%、より具体的には約12重量%~約18重量%の量のALAを含有する。
【0032】
オレイン酸は、本発明の組成物の成分であり、組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約40重量%の量で存在する。オレイン酸は、人間の食事でよく見られる一価不飽和脂肪である。一価不飽和脂肪の消費は、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの減少、およびおそらく高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの増加と関連している。一実施形態では、オレイン酸は、組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約35重量%の量で存在する。さらなる実施形態において、オレイン酸は、組成物の総脂肪酸含有量の約22重量%~約33重量%の量で存在する。
【0033】
本発明の組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の最大約1.5重量%のパルミチン酸(16:0)を含有する。特定の実施形態では、組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の最大約1.0重量%、より具体的には最大約0.7重量%のパルミチン酸を含有する。
【0034】
本発明の組成物はまた、組成物の総脂肪酸含有量の少なくとも約0.5重量%のエイコサテトラエン酸(ETA、20:4n-3)も含有する。特定の実施形態では、組成物は、組成物の総脂肪酸含有量の少なくとも約1.0重量%、より具体的には少なくとも約1.5重量%のETAを含有する。
【0035】
本発明の所与の態様、特徴、または実施形態についての選好および選択肢は、特に文脈に示されない限り、本発明の全ての他の態様、特徴、および実施形態についての任意のおよび全ての選好および選択肢と組み合わせて開示されているとみなされるべきである。例えば、前の節で示された特定量のDHA、EPA、ALA、オレイン酸およびパルミチン酸は、全ての組み合わせで開示されている。
【0036】
したがって、言及され得る特定の脂質組成物は、
(i)組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約35重量%の量のドコサヘキサエン酸(22:6n-3)と、
(ii)組成物の総脂肪酸含有量の最大約3重量%の量のエイコサペンタエン酸(20:5n-3)と、
(iii)組成物の総脂肪酸含有量の約12重量%~約20重量%の量のα-リノレン酸(18:3n-3)と、
(iv)組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約35重量%の量のオレイン酸(18:1n-9)と、
(v)組成物の総脂肪酸含有量の最大約1.0重量%の量のパルミチン酸と、を含むものであり、
成分(i)~(v)は、各々独立して、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、または脂肪酸エステルの塩の形態で提供される。
【0037】
本発明の組成物において、成分(i)~(v)の各々は、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステルまたは脂肪酸エステルの塩の形態で独立して存在し得る脂肪酸である。特定の実施形態において、これらの成分は、各々同じ形態をとり、例えば、それらは全て脂肪酸の形態、全て脂肪酸塩の形態、全て脂肪酸エステルの形態、または全て脂肪酸エステルの塩の形態であり得る。成分が、脂肪酸塩、エステルまたはエステルの塩の形態である場合、成分は、同じ塩、エステルまたはエステルの塩の形態であり得る。例えば、成分(i)~(v)の各々は、脂肪酸のエチルエステルの形態で提供され得る。
【0038】
特定の実施形態において、成分(i)~(v)は、脂肪酸エステルの塩の形態で、または最も具体的には、脂肪酸エステルの形態で提供される。好適な脂肪酸エステルの形態は当業者に知られている。例えば、栄養学的に許容されるおよび/または薬学的に許容される脂肪酸エステルの形態には、脂肪酸のエチルエステル、メチルエステル、リン脂質、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドが含まれる。脂質組成物の目的の用途に応じて、異なるエステル形態が必要となる場合がある。例えば、トリグリセリドは、人間の消費、特に乳児の消費を目的とした食品での使用に特に適しており、一つには熱処理(そのような食品に必要な場合がある)に対するこれらのエステル形態の味および安定性によるものである。エチルエステルは、これらのエステル形態が効率的かつ容易に製造でき、トリグリセリド形態への変換が必要でないため、栄養補助食品での使用に特に適している。したがって、さらなる実施形態において、成分(i)~(v)は、各々独立して、脂肪酸エチルエステルの形態で、またはトリグリセリドの一部として提供される。
【0039】
トリグリセリドは、グリセロールおよび3つの脂肪酸に由来するエステルである。本発明は、脂肪酸のブレンドに関するため、そのようなトリグリセリド中の脂肪酸成分は、対応する比率で混合することができる。すなわち、異なるトリグリセリド分子の混合物が組成物中に存在し得るが、組成物中の全体的な脂肪酸プロファイルは、特許請求の範囲で定義される通りである。
【0040】
あるいは、脂肪酸成分は、「遊離」脂肪酸の形態、すなわち、脂肪酸の-COOH形態で存在し得る。しかしながら、本発明の特定の組成物では、組成物は、不快な(しばしば「石鹸のような」)味を伴い、エステル化形態の脂肪酸よりも安定性が低いため、この形態の脂肪酸を比較的低レベルで含有する。遊離脂肪酸は、典型的には、アルカリまたは物理的精製によって、例えば本明細書の他の場所で論じられているプロセスに従って、油および脂質組成物から除去される。したがって、一実施形態において、脂質組成物中の総遊離脂肪酸含有量は、組成物の総脂肪酸含有量の5重量%未満(例えば、3重量%未満、特に、2重量%未満)である。
【0041】
本発明の脂質組成物中の脂肪酸は、典型的には、線状(すなわち、分岐していない)鎖脂肪酸(DHA、ALAなど)である。言及され得る本発明の組成物は、組成物が分岐鎖脂肪酸および分岐鎖脂肪酸エステルを本質的に含まないように、非常に低レベルの分岐鎖脂肪酸およびそれらのエステルを含有するものを含む。「低レベル」という用語は、組成物が、組成物の全脂肪酸の最大約0.1重量%の量で分岐鎖脂肪酸および脂肪酸エステルを含有することを意味する。
【0042】
本発明の脂質組成物はまた、原料に由来し、抽出および濃縮プロセス中に完全に除去されない他の成分(例えば、脂肪酸以外)も含有し得る。これらの他の成分の正確な同一性は、原料によって大きく異なる。そのような他の成分の例には、遊離ステロールとして、またはステロールエステル(β-シトステロール、β-シトスタノール、Δ5-アベナステロール、カンペステロール、Δ5-スチグマステロール、Δ7-スチグマステロールおよびΔ7-アベナステロール、コレステロール、ブラシカステロール、カリナステロール、カンペステロール、カンペスタノールおよびエブリコールなど)としてのいずれかで存在する植物ステロール(すなわち、植物ステロールおよび植物スタノール)が含まれる。他の例には、トコフェロールおよびトコトリエノールなどの抗酸化剤が含まれる。したがって、言及され得る本発明の特定の脂質組成物は、検出可能な量の1つ以上のフィトステロール(例えば、β-シトステロール)を含有するものを含む。そのようなステロールは、脂質組成物の少なくとも約0.01重量%、しかし典型的には約1重量%以下で存在し得る。
【0043】
本発明の組成物は、植物源(「野菜」源)から有利に入手可能である。「野菜ベース」という用語は、本発明の組成物中に存在する脂質の少なくとも70重量%が野菜源から得られることを意味する。野菜源には、植物源、特に、穀物などの作物が含まれる。少なくとも1つの実施形態において、脂質は、アブラナ属、例えばBrassica napusまたはBrassica junceaなどの種子油作物から得られる。しかしながら、誤解を避けるため、組成物がそのような供給源からのみ得られることは必須ではなく、すなわち、本発明の組成物中の脂質の割合(例えば最大30重量%)が他の供給源から得られ、海洋(例えば、魚または甲殻類)油、藻類油およびそれらの組み合わせを含む。一例では、存在する脂質の少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%が植物源から得られる。本発明の特定の組成物において、本質的に全て(すなわち、少なくとも95%、少なくとも99%、または約100%)の脂質が植物源から得られる。
【0044】
一実施形態では、本発明の組成物(および以下の本明細書に定義される飼料および医薬組成物)は、動物(例えば、海洋動物)起源のものではない。すなわち、そのような実施形態では、脂質組成物は、魚および甲殻類などの動物に由来するいかなる成分も含有しない。動物から成分が得られない脂質組成物は、脂質含有量、および標準的な精製および/または濃縮手順に従って達成できる安定性プロファイルの点で有利であると考えられている。
【0045】
脂質または脂肪酸源として植物を使用することには、多くの利点がある。例えば、海洋の油源には、植物材料には見られない比較的高レベルの汚染物質(水銀、PCBおよび魚のアレルゲン(例えば、パルブアルブミン)など)が含有されていることが知られている。歴史的な乱獲は、魚および甲殻類(オキアミなど)の資源も枯渇させ、もはや持続可能ではない。したがって、本発明は、比較的低レベルの望ましくない汚染物質を含有する、持続可能な供給源の多価不飽和脂肪酸油組成物を提供する。
【0046】
特定の実施形態では、本発明の組成物は植物に由来する。油が得られる植物は、典型的には、コプラ、綿実、亜麻、パーム核、ピーナッツ、菜種、大豆、およびヒマワリの種などの油糧種子作物である。したがって、植物からのみ得られる組成物は、「植物性」油または「植物性脂質組成物」と呼ばれることがある。本発明の脂質組成物を得ることができる好適な植物は、当業者に知られており、Brassica sp.、Gossypium hirsutum、Linum usitatissimum、Helianthus sp.、Carthamus tinctorius、Glycine max、Zea mays、Arabidopsis thaliana、Sorghum bicolor、Sorghum vulgare、Avena sativa、Trifolium sp.、Elaesis guineenis、Nicotiana benthamiana、Hordeum vulgare、Lupinus angustifolius、Oryza sativa、Oryza glaberrima、Camelina sativa、またはCrambe abyssinicaを含む。この点で言及され得る特定の植物源は、Brassica sp.である。
【0047】
好適な供給源(海洋、藻類、および植物の供給源を含む)は、天然に存在し得るか、または長鎖多価不飽和脂肪酸を生成する能力を向上させるために遺伝子改変され得る。この目的のために遺伝子改変された、すなわち組換え植物細胞に由来する植物源の例は、当業者に知られており、国際特許出願第PCT/AU2013/000639号(WO2013/185184として公開)、同第PCT/AU2014/050433号(WO2015/089587として公開)、および同第PCT/AU2015/050340号(WO2015/196250として公開)に開示されている。遺伝子改変キャノーラは、WO2017/218969およびWO2017/219006に記載されている。本明細書に記載の全ての刊行物における開示は、その全体が参照により組み込まれる。
【0048】
本発明の脂質組成物は、天然に存在する供給源(例えば、動物、藻類、および/または植物)から直接得ることができる。しかしながら、典型的には、天然に存在する供給源から得られた油を濃縮するためにそれらを加工する必要がある。好適な濃縮プロセスは、実施例に例示されている。
【0049】
本発明の脂質組成物の好適な供給源、またはそれらの組成物を生成するためにブレンドまたは濃縮され得る「原」油には、海洋種、藻類および植物が含まれる。海洋供給源から油を得るためのプロセスは、当技術分野で周知である。
【0050】
上で論じたように、特定の汚染物質のレベルが低く、持続可能性が優れているため、植物源(油糧種子源など)が特に適している。Brassica sp.などの植物(例えば、キャノーラ)は、油を得るために加工され得る種子を生成する。
【0051】
油/脂質の抽出
当技術分野で日常的に実施されている技術を使用して、植物および種子によって生成された油を抽出、加工、および分析することができる。典型的には、植物の種子は調理され、圧搾され、油が抽出され、原油を生成する。その油は、次に、脱ガム、精製、漂白、および/または脱臭することができる。脱ガム、精製、漂白、および脱臭の組み合わせは、DHAが豊富な脂質混合物を調製するために特に効果的であることが見出されている。したがって、一実施形態では、脂質組成物は、脱ガム、精製、漂白、および/または脱臭された種子油から得られる。しかしながら、このように油を加工する必要はなく、これらの方法を用いずに、適切な純化および濃縮が達成され得る。
【0052】
一般に、種子を粉砕するための技術は当技術分野で知られている。例えば、油糧種子は、それらに水を噴霧し、含水率を例えば8.5%に上げることによってテンパリングされ、0.23mm~0.27mmのギャップ設定を有する滑らかなローラーを使用してフレーク化することができる。種子の種類に応じて、粉砕前に水を加えない場合がある。抽出は、押し出しプロセスを使用して達成することもできる。押し出しプロセスは、フレーキングの代わりに使用される場合と使用されない場合があり、スクリュープレスの前または後のいずれかでアドオンプロセスとして使用される場合がある。
【0053】
一実施形態では、種子油の大部分は、スクリュープレスを使用して粉砕することによって放出される。次に、スクリュープレスから排出された固形物を、ヒート・トレース・カラムを使用して、溶媒、例えばヘキサンで抽出し、その後、抽出した油から溶媒を除去する。あるいは、プレス操作によって生成された原油を、スロット付きワイヤー排液トップを備えた沈殿タンクに通過させ、プレス操作中に該油で発現した固形物を除去することができる。この清澄油は、プレートおよびフレームフィルターを通過し、任意の残存する微細な固体粒子を取り除くことができる。必要に応じて、抽出プロセスで回収された油を清澄油と組み合わせて、混合原油を生成することができる。原油から溶剤が一度除去されると、圧搾部分と抽出部分とが組み合わされ、通常の石油加工手順に供された。
【0054】
精製および純化
本明細書で使用される場合、本発明の脂質または油に関連して使用される場合の「純化された」という用語は、典型的には、抽出された脂質または油が脂質/油成分の純度を高めるために1つ以上の加工ステップに供されたことを意味する。例えば、純化ステップは、抽出された油の脱ガム、脱臭、脱色または乾燥のうちの1つ以上を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される場合、「純化された」という用語は、総脂肪酸含有量のパーセンテージとしてDHA含有量を増加させるために、エステル交換プロセス、または本発明の脂質または油の脂肪酸組成を変更する別のプロセスを含まない。言い換えると、純化された脂質または油の脂肪酸組成は、未純化の脂質または油の脂肪酸組成と本質的に同じである。
【0055】
植物油は、以下のプロセスの1つ以上を使用して、特に、脱ガム、アルカリ精製、漂白および脱臭の組み合わせを使用して、植物源から一度抽出されると、精製(純化)され得る。好適な方法は、当業者に知られている(例えば、WO2013/185184に開示されているもの)。
【0056】
脱ガムは油の精製の初期段階であり、その主な目的は油からほとんどのリン脂質を除去することである。典型的には、リン酸を含有する約2%の水を原油に70~80℃で添加すると、微量の金属および色素を伴うほとんどのリン脂質が分離する。除去される不溶性物質は、主にリン脂質とトリアシルグリセロールの混合物である。脱ガムは、粗種子油に濃リン酸を添加し、水和不可能なリン脂質を水和可能な形態に変換し、存在する希少金属をキレート化することによって実施できる。ガムは遠心分離によって種子油から分離される。
【0057】
アルカリ精製は、原油を処理するための精製プロセスの1つであり、中和とも呼ばれる場合がある。通常、脱ガムに続き、漂白に先行する。脱ガムに続いて、種子油は、全ての遊離脂肪酸およびリン酸を滴定するのに十分な量のアルカリ溶液を添加し、こうして形成された石鹸を除去することによって処理することができる。好適なアルカリ性材料には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、および水酸化アンモニウムが含まれる。アルカリ精製は典型的に、室温で行われ、遊離脂肪酸画分を除去する。石鹸は、遠心分離または石鹸の溶媒への抽出によって除去され、中和された油は水で洗浄される。必要に応じて、油中の任意の過剰なアルカリを塩酸または硫酸などの好適な酸で中和することができる。
【0058】
漂白は、漂白土(0.2~2.0%)の存在下かつ酸素の非存在下で、窒素または蒸気または真空中で操作することにより、油を90~120℃で10~30分間加熱する精製プロセスである。漂白は、不要な色素(カロテノイド、クロロフィルなど)を除去するように設計されており、このプロセスでは、酸化生成物、微量金属、硫黄化合物、および微量の石鹸も除去される。
【0059】
脱臭は、高温(例えば、約180℃)および低圧(0.1~1mmのHg)での油脂の処理である。これは典型的に、約0.1ml/分/100mlの種子油の速度で種子油に蒸気を導入することによって達成される。散布の約30分後、種子油を真空下で冷却させる。この処理により、種子油の色が改善され、任意の残留する遊離脂肪酸、モノアシルグリセロール、および酸化生成物を含む揮発性物質または臭気化合物の大部分が除去される。
【0060】
脱蝋は、周囲温度以下での結晶化によって油脂を固体(ステアリン)と液体(オレイン)の画分に分離するために、油の商業生成で時々使用されるプロセスである。もともと綿実油に適用され、固形物を含まない製品を生成していた。これは典型的に、油の飽和脂肪酸含有量を減らすために使用される。
【0061】
エステル交換
原油は通常、トリアシルグリセロール(TAG)の形態で目的の脂肪酸を含有する。エステル交換とは、TAG内およびTAG間で脂肪酸を交換するために、または脂肪酸を別のアルコールに転移しエステル(エチルエステルやメチルエステルなど)を形成するために使用できるプロセスである。本発明の実施形態において、エステル交換は、典型的には触媒として強酸または強塩基を含む化学的手段を使用して達成される。ナトリウムエトキシド(エタノール中)は、エステル交換によって脂肪酸エチルエステルを形成するために使用される強塩基の例である。このプロセスは、周囲温度または高温(例えば、約80℃まで)で実施することができる。
【0062】
蒸留
分子蒸留は、飽和脂肪酸などの揮発性の高い成分を原油から大量に除去するための効果的な方法である。蒸留は、典型的には、減圧下、例えば約1mbar未満で実施される。次に、温度および時間は、数時間(例えば、1~10)の蒸留時間の後に、蒸留物と残留物との間で約50:50の分割を達成するように選択され得る。本発明の脂質組成物の生成に使用される典型的な蒸留温度は、120℃~180℃の範囲、特に、145℃~160℃である。
【0063】
複数の蒸留を実施することができ、各蒸留は、蒸留物と残留物との間で約50:50の分割が達成された場合に完了したと見なされる。連続蒸留を使用すると、全体の収率が低下するが、2回の蒸留で最適な結果が得られる場合がある。
【0064】
したがって、本発明の第2の態様に従って、本発明の脂質組成物を生成するためのプロセスが提供され、このプロセスは、脂肪酸エチルエステルの混合物を提供することと、その混合物を第1の分子蒸留ステップに供して第1の残留物を得ることと、第1の残留物を第2の分子蒸留ステップに供することと、を含む。本発明はまた、そのような蒸留プロセスによって得られる脂質組成物に関する。好適な蒸留条件には、本明細書に記載されているものが含まれる。例えば、第1および第2の分子蒸留ステップで使用できる特定の蒸留温度は、145℃~160℃など、120℃~180℃の範囲である。温度および時間は、典型的には約1時間~約10時間の蒸留時間の後に、蒸留物と残留物との間で約50:50の分割を達成するように選択される。驚くべきことに、植物ベースのエステル交換油の蒸留は、分離プロセスの効率を損なうことなく、他の起源のエステル交換油(特に、有意な量(例えば、30重量%超)の海洋起源の油を含むもの)と同じまたはわずかに低い(例えば、3℃低い)温度で達成できることが見出された。すなわち、蒸留時間を増やす必要はないが、合理的な時間枠で同じ程度の分離(例えば、重量による50:50の分離)を維持しながら、実際には減らすことができる。
【0065】
一実施形態では、原油は、第1の蒸留ステップで4時間~8時間、例えば4時間~6時間加熱される。同じまたは別の実施形態において、原油は、第2の蒸留ステップにおいて、0.5~4時間、例えば、1~2時間加熱される。
【0066】
本発明の第2の態様の実施形態において、脂肪酸エチルエステルの混合物は、例えば、前述のプロセスのいずれか1つに従って、植物性ベースの脂質油のエステル交換によって得られる。植物ベースの脂質油は、本明細書に開示される、または当技術分野で知られている、任意の植物、特に、油糧種子から得ることができる。
【0067】
その他の濃縮方法
本発明の脂質組成物は、医薬品有効成分(API)として、またはさらなる濃縮によってそこから得ることができるAPIの前駆体(または「中間体」)として、有用である。このような組成物は、DHAおよび/またはALAなどの有益なPUFAのレベルでさらに濃縮される。
【0068】
油中の多価不飽和脂肪酸の濃度は、例えば、凍結結晶化、尿素を使用した錯体形成、超臨界流体抽出および銀イオン錯体形成など、当技術分野で知られている様々な方法によって増加させることができる。尿素との錯体形成は、油中の飽和および一価不飽和脂肪酸のレベルを下げるための簡単で効率的な方法である。最初に、油のTAGは、多くの場合脂肪酸エステルの形態で、それらの構成脂肪酸に分割される。次に、これらの遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、通常、処理によって脂肪酸組成が変化しないため、錯体形成のために尿素のエタノール溶液と混合することができる。飽和および一価不飽和脂肪酸は、尿素と容易に錯体形成し、冷却すると結晶化し、その後、ろ過によって除去することができる。これにより、非尿素錯化画分は長鎖多価不飽和脂肪酸で強化される。
【0069】
製品
本発明の脂質組成物は、バルク油である。すなわち、脂質組成物は、脂質の一部または全部が得られた原料(例えば、植物の種子)から分離されている。
【0070】
本発明の脂質組成物は、飼料として使用することができる。すなわち、本発明の組成物は、経口的に利用可能な形態で提供され得る。本発明の目的のために、「飼料」は、体内に取り込まれた場合に、組織に栄養を与える、または組織を構築する、またはエネルギーを供給するのに役立ち、ならびに/または適切な栄養状態または代謝機能を維持、回復、またはサポートする、ヒトまたは動物が消費するための任意の食品または調製物を含む。飼料には、例えば、乳児用調製粉乳などの乳児および/または幼児向けの栄養組成物が含まれる。飼料の場合、さらに不快な味を最小限に抑え、安定性を最大にするために、脂肪酸をトリグリセリドの形態で提供することができる。
【0071】
飼料は、任意選択で好適な担体と共に本発明の脂質組成物を含む。「担体」という用語は、その最も広い意味で使用され、栄養価を有する場合も有しない場合もある任意の成分を包含する。当業者が理解するように、担体は、飼料を消費する生物に有害な影響を及ぼさないように、飼料での使用に好適である(または十分に低濃度で使用されている)必要がある。
【0072】
飼料組成物は、固体または液体の形態であり得る。追加的に、該組成物は、当技術分野で周知であるように、特定の用途に望ましい量の食用主要栄養素、タンパク質、炭水化物、ビタミン、および/またはミネラルを含み得る。これらの成分の量は、組成物が正常な個体での使用を意図するか、または代謝障害などに苦しむ個体などの特別なニーズを有する個体での使用を意図するかによって異なる。
【0073】
栄養価のある好適な担体の例には、食用脂肪(例えば、ココナッツ油、ボラージ油、真菌油、黒潮油、大豆油、およびモノグリセリドおよびジグリセリド)、炭水化物(例えば、ブドウ糖、食用乳糖、および加水分解デンプン)およびタンパク質(例えば、大豆タンパク質、電気透析ホエイ、電気透析スキムミルク、ミルクホエイ、またはこれらのタンパク質の加水分解物)などの主要栄養素が含まれる。
【0074】
本明細書に開示される飼料に添加され得るビタミンおよびミネラルには、例えば、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩化物、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、セレン、ヨウ素、ならびにビタミンA、E、D、CおよびB複合体が含まれる。
【0075】
本発明の脂質組成物は、医薬組成物に使用することができる。そのような医薬組成物は、任意選択で、当業者に知られている1つ以上の医薬的に許容される賦形剤、希釈剤または担体と共に、本発明の脂質組成物を含む。好適な賦形剤、希釈剤または担体には、リン酸緩衝生理食塩水、水、エタノール、ポリオール、湿潤剤、または水/油乳濁液などの乳濁液が含まれる。組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、油または粉末を含む、液体または固体のいずれかの形態であり得る。例えば、組成物は、錠剤、カプセル、カプセル化ゲル、摂取可能な液体(油または溶液を含む)もしくは粉末、または局所軟膏もしくはクリームの形態であり得る。医薬組成物はまた、静脈内製剤としても提供され得る。
【0076】
飼料および医薬組成物に好適な特定の形態には、液体含有カプセルおよびカプセル化ゲルが含まれる。
【0077】
本発明の脂質組成物は、使用前に他の脂質または脂質混合物(特に、植物ベースの脂肪酸エステルおよび脂肪酸エステル混合物)と混合することができる。本発明の脂質組成物は、抗酸化剤(例えば、トコフェロール(アルファ-トコフェロールまたはガンマ-トコフェロールなど)またはトコトリエノール)、安定剤、および界面活性剤からなる群から選択される1つ以上の追加成分と共に提供され得る。アルファ-トコフェロールおよびガンマ-トコフェロールはいずれも、キャノーラ油を含む様々な植物種子油に天然に存在する成分である。
【0078】
例えば、糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことも望ましい場合がある。そのような不活性希釈剤に加えて、組成物はまた、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、香味剤および芳香剤などのアジュバントを含むこともできる。本発明の脂質組成物に加えて、懸濁液は、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタヒドロキシアルミニウム、ベントナイト、寒天、およびトラガカントまたはこれらの物質の混合物などの懸濁剤を含み得る。
【0079】
錠剤およびカプセルなどの固形剤形は、当技術分野で周知の技術を使用して調製することができる。例えば、本明細書に開示される方法に従って生成された脂肪酸は、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤、ジャガイモデンプンまたはアルギン酸などの崩壊剤、およびステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤と組み合わせて、ラクトース、スクロース、およびコーンスターチなどの従来の錠剤ベースで錠剤化することができる。カプセルは、これらの賦形剤を、関連する脂質組成物および任意選択で1つ以上の抗酸化剤とともにゼラチンカプセルに組み込むことによって調製することができる。
【0080】
本発明の医薬組成物の可能な投与経路には、例えば、経腸(例えば、経口および直腸)および非経口が含まれる。例えば、液体調製物は、経口または経直腸で投与され得る。追加的に、均質な混合物を水に完全に分散させ、無菌条件下で生理学的に許容される希釈剤、防腐剤、緩衝剤、または噴射剤と混合し、スプレーまたは吸入剤を形成することができる。
【0081】
本発明の脂質組成物は医薬品として示される。本発明のさらなる態様によれば、医薬品として使用するための、上記の医薬組成物のいずれかを含む本発明の組成物が提供される。
【0082】
本発明の脂質組成物は、典型的には長鎖多価不飽和脂肪酸に関連する多くの利点を提供し得る。例えば、本発明の脂質組成物、および上記の医薬組成物は、当業者に周知の試験を用いて決定され得るように、心血管疾患の治療もしくは予防、心血管疾患患者の死に対する防御、全体的な血清コレステロールレベルの低下、高血圧の低下、HDL:LDL比の増加、トリグリセリドの低下、またはアポリポタンパク質Bレベルの低下において使用され得る。したがって、本発明の脂質組成物を使用して、上記に列挙される疾患および状態を治療(または予防)する方法も開示される。
【0083】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」、「治療する(treat)」、および「治療する(treating)」という用語は、講じる方策がない場合に発生するであろうものと比較して、本明細書に記載の疾患もしくは障害の進行を逆転、緩和、阻害すること、または本明細書に記載されるような障害もしくは疾患の発生率もしくは発症を遅延、排除もしくは低減することを指す。本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」、「予防(prevention)」および「予防する(preventing)」という用語は、所与の状態を獲得もしくは発症するリスクの低減、または病気ではない対象における再発もしくは該状態の低減もしくは阻害を指す。
【0084】
特定の脂肪酸の典型的な投与量は、0.1mg~20gであり、1日1回~5回(1日最大100g)摂取され、特に、1日約10mg~約1、2、5、または10g(1回または複数回の用量で摂取)の範囲である。当技術分野で知られているように、最低約300mg/日の脂肪酸、特に、LC-PUFAが望ましい。しかしながら、任意の量の脂肪酸が対象にとって有益であることが理解されよう。
【0085】
医薬組成物として使用される場合、患者に投与される脂質組成物の投与量は、当技術分野の通常の技術の1つによって決定され、例えば、患者の体重、患者の年齢、患者の全体的な健康、患者の過去の病歴、患者の免疫状態などの様々な要因に依存する。
【0086】
本発明の組成物は、容易に入手可能な組成物であり、該組成物は、改善された安定性プロファイルを有し、オメガ-3、オメガ-6および/またはオメガ-9脂肪酸の相対的比率が人間の健康に特に有益である脂肪酸の混合物を含み得る。安定性は、当業者に知られている様々な方法を使用して評価することができる。このような方法には、ランシマット法、プロパナール形成の評価(特に、オメガ-3脂肪酸に適している)、ヘキサナール形成の評価(特に、オメガ-6脂肪酸に適している)、「過酸化物価」法(例えば、AOCS公式法Cd8-53を使用)および「p-アニシジン値」法(例えば、AOCS公式法Cd18-90を使用)が含まれる。本発明の組成物は、参照ブレンド(主要なLC-PUFAに関して同様の組成を有するが、有意な量の動物(魚)由来の脂質を含む参照ブレンド)と比較して向上された安定性プロファイルを示さない出発混合物から得られることが実施例に示される。
【0087】
本発明の組成物は、先行技術で知られている脂質組成物よりも、より効果的であり、より毒性が低く、より長く作用し、より効力があり、より副作用が少なく、より吸収されやすく、および/またはより優れた薬物動態プロフィール(例えば、より高い経口バイオアベイラビリティおよび/またはより低いクリアランス)を有し、および/または他の有用な薬理学的、物理的、または化学的特性を有し得るという利点も有し得る。
【0088】
本発明を以下の実施例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】キャノーラ油および参照油(エステル交換および蒸留後)のプロパナール放出データを示し、本明細書に記載のキャノーラ油の安定性が改善されていることを証明する。
図2】キャノーラ油および参照油(RBD精製、エステル交換、および蒸留後)のプロパナール放出データを示し、本明細書に記載のキャノーラ油の安定性が改善していることを証明する。
【0090】
一般的な方法
GC試料調製およびGCパラメータ
ニート脂肪酸エチルエステルを50:50クロロホルム:メタノールおよび0.01%BHTで0.25%(v/v)に希釈した。エチルエステル溶液をクロロホルム:メタノールで2.5mg/mLに希釈した。
【0091】
管理チェックは、キャノーラ油、マグロ油、および3xキャノーラ-DHA油の脂肪酸メチルエステルとして調製した。これらを試料のバッチごとに分析し、GCのパフォーマンスをチェックし、GCシステムのアクティビティによるDHAの劣化を監視した。
【0092】
メチルエステルは以下のように調製した。
ニートオイルを50:50クロロホルム:メタノールと0.01%BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)で0.33%(v/v)に希釈した。50μLの0.05N Meth-Prep II溶液(0.2N m-トリフルオロメチルフェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシドのメタノール溶液)を添加し、溶液をボルテックスし、40℃で30分間インキュベートした。最終溶液は、0.25%(v/v)の油に相当した。
【0093】
エチルエステル(試料)およびメチルエステル(チェック)は、水素炎イオン化検出器(FID)および下記パラメータを使用した分割噴射を用いて、Shimadzu GC-2010 Plusで調べた。
カラム:30mのBPX-70、内径0.32mm、膜厚0.25pm。注入量:0.5μL
【0094】
結果は、正規化された面積として計算した(すなわち、脂肪酸のピーク後の面積%が同定され、非脂肪酸のピークが全てのピークの面積の合計から除外される)。
【0095】
エチルエステルピークの同一性は、脂肪酸エチルエステルのクロマトグラムを脂肪酸メチルエステルのクロマトグラムと比較することによって決定された。相対的な溶出順序はほぼ同一であったが、エチルエステルは、脂肪酸メチルエステルと比較して、グループとして後で溶出した。脂肪酸メチルエステルの溶出順序は、参照標準およびGC-MSを使用して以前に同定された。
【実施例0096】
実施例1-種子からのDHAキャノーラ油の抽出
米国特許公開第US2018/0016590A1号に開示されている品種のキャノーラは夏作物として栽培された。種子を収穫した後、粉砕前は室温で保存した。
【0097】
Kern Kraft KK80スクリュープレスを使用して、272kgの種子を粉砕してDHA油を生成した。エクスペラー・カラー・ヒーターの温度は、サーモスタットの最大設定温度に設定された。初期周囲温度およびチョーク温度は20℃であり、チョーク距離は73.92mmに設定した。全ての種子が粉砕されるまで、エクスペラーを停止することなく、油および粗挽き粉を継続的に収集しながら種子を供給した。
【0098】
オーガーの回転速度、粗挽き粉および排出油の温度は、プレスの間中、監視された。67.5kg/時間のスループット率である破砕の時間は、270kgで4時間であった。87.2kgの原油の収率(32%)が得られた。微粉を除去するために濾過した後、収率は77.2kg(28%)であった。
【0099】
実施例2-参照ブレンド油
純粋な魚油には、低レベルのALA脂肪酸、ならびに有意に高レベルのEPAおよびDHAが含有される。参照油ブレンド(本明細書では「粗トリグリセリド参照ブレンド油」または同様のものと呼ぶ)は、実施例1で得られた濾過されたDHAキャノーラ油と組成が可能な限り類似するように設計された。これは、(a)DHAの総レベルをDHAキャノーラ油のレベルと一致させ、(b)DHA/(ALA+EPA)の比率を一致させることによって行われた。これは、DHA(マグロ)が豊富な魚油、ALA(亜麻仁油)が豊富な油、および標準的なキャノーラ油をブレンドすることによって達成された。得られた参照ブレンド油も、DHAキャノーラ油と同様の総オメガ-3含有量を有する。
【0100】
実施例3-粗DHAキャノーラ油および参照ブレンドの脂肪酸組成
ろ過した原油および参照ブレンド油の脂肪酸組成を分析した。結果を以下に示す。
【表1】
【0101】
実施例4-油の安定性評価
ランシマット安定性研究は、それぞれ実施例1および実施例2に記載されている粗DHAキャノーラ油および参照ブレンドを使用して実施された。この方法では、Metrohm743 Rancimatの標準手順を90℃で使用して、約2.5gの試験材料を試験することを伴った。
【0102】
以下の表に、90℃でこれらの油から得られた結果をまとめる。実験は2回実施した。
【表2】
【0103】
DHAキャノーラ油は、参照油よりも一貫して劣った安定性を示した。
【0104】
実施例5-粗キャノーラ-DHA油の化学的エステル交換
機械的攪拌機を備えた乾燥した窒素フラッシュBuchi CR101化学反応器に、無水エタノール(12.5L)および実施例1で得られた粗トリグリセリドキャノーラ油(「DHAキャノーラ油」)(5.00kg)を加え、混合物を撹拌した。
【0105】
上記の混合物にナトリウムエトキシド(150g)を加え、これをさらに無水エタノール(2.5L)で反応器にすすぎ、撹拌を周囲温度で16時間続けた。混合物から採取された試料の記録されたH NMRスペクトルは、反応が完了したことを示した。
【0106】
エステル交換手順は、5.22kgの粗キャノーラ-DHA油で実施された。得られた粗反応混合物に、40~60℃の沸点の石油スピリット(ペットスピリット、10L)および水(10L)を加え、完全に混合しながら、混合物を10%塩酸(合計870mLが必要、Merck Universal Indicator strips、pH 0-14)でpH7に慎重に酸性化した。
【0107】
得られた混合物を反応器内に放置した後、2つの相が形成された。石油スピリット層を除去し、水層をさらに石油スピリットで抽出した(3x5L)。組み合わせた石油スピリット層を反応器に戻し、真空中で少量(約10L)まで蒸発させた。得られた濃縮溶液を反応器から排出し、無水硫酸マグネシウム(約1kg)で乾燥させ、濾過し、真空で濃縮し、黄色の油(5.13kg)を得た。
【0108】
実施例6-参照原油ブレンド油の化学的エステル交換
機械的攪拌機を備えた乾燥した窒素フラッシュBuchi CR101化学反応器に、無水エタノール(12.5L)および実施例2に従って得られた粗トリグリセリド参照ブレンド油(5.00kg)を加え、混合物を撹拌した。
【0109】
上記の混合物にナトリウムエトキシド(150g)を加え、これをさらに無水エタノール(2.5L)で反応器にすすぎ、撹拌を周囲温度で16時間続けた。試料の記録されたH NMRスペクトルは、ほとんどまたは全く反応が起きたことを示さなかった。さらにナトリウムエトキシド(57g)を混合物に加え、撹拌を続けた。
【0110】
さらに5時間後、試料のH NMRスペクトルは、反応が75%完了したことを示した。さらにナトリウムエトキシド(60mLの21%エタノール溶液)を混合物に加え、撹拌を3日間続け、その後、反応が完了した。
【0111】
参照の粗ブレンドの化学的エステル交換からの実施例生成物の分離
エステル交換手順は、5.17kgの参照の粗ブレンド油で実施した。得られた粗反応混合物に、石油スピリット(15L)および水(3.3L)を加え、完全に混合しながら、混合物を10%塩酸(合計910mLが必要)でpH7に慎重に酸性化した。
【0112】
得られた混合物を反応器内に放置した後、2つの相が形成された。石油スピリット層を除去し、水層をさらに石油スピリット(2x7.5L)で抽出した。組み合わせた石油スピリット層を反応器に戻し、真空中で少量(約10L)まで蒸発させた。得られた濃縮溶液を反応器から排出し、無水硫酸マグネシウム(約1kg)で乾燥させ、濾過し、真空で濃縮し、黄色の油(5.39kg)を得た。
【0113】
実施例7-エステル交換油の脂肪酸組成分析
実施例5および実施例6で得られたエステル交換生成物の脂肪酸組成を分析した。結果を以下に示す。
【表3】
【0114】
実施例8-エステル交換されたキャノーラ油の蒸留
真空蒸留により脂肪酸エチルエステル(FAEE)混合物のより揮発性の高い成分を除去するための標準的手順
粗キャノーラ-DHA(実施例5で得られた)からの粗脂肪酸エチルエステル(FAEE)を、以下の条件下で蒸留に供した。蒸留による分離は、蒸留物および残留物を収集する2x1000mlの収集フラスコを備え、真空下にあるPope2インチ(50mm)薄膜蒸留器にトランスエステル化原油を通過させることによって達成された。それぞれの脂肪酸組成を分析した。
【0115】
真空はEdwards3ロータリーポンプによって供給され、真空はebro真空計VM2000によって測定された。
【0116】
油は、Cole-Palmer Instrument Companyのeasy-load II蠕動ポンプによって4mL/分で蒸留器に供給され、蒸留器モーターは325rpmに設定され、水凝縮器を使用して蒸留物を凝縮した。いずれかのレシーバーフラスコが一杯になるまで供給を続けた。
【0117】
粗キャノーラDHA FAEEは、ヒーターバンドが147℃に初期設定されたこれらの条件下で蒸留した。目的は、蒸留物:残留物の50:50分割を得ることであった。実験の最初の30~45分間に、ヒーターバンドの温度を154℃に上げ、蒸留された油の割合を増やした後、蒸留器を平衡化した。30分後、ヒーターバンドの温度を30分かけて149℃まで調整した。残りの蒸留は149℃で行った。蒸留の合計時間は350分であった。ヒーターバンドの温度を149℃に設定した標準条件下での蒸留により、上記の蒸留からの残留物の一部を、より揮発性の高い成分の除去に再び供した。蒸留の合計時間は95分であった。
【表4】
【0118】
実施例9-エステル交換された参照の粗ブレンド由来のFAEEの蒸留
参照の粗ブレンド(実施例6で得られた)からの粗脂肪酸エチルエステル(FAEE)を、前の実施例に示したのと同じ条件下で蒸留に供した。
【0119】
参照の粗ブレンドFAEEは、ヒーターバンドが152℃に初期設定されたこれらの標準条件下で蒸留した。目的は、蒸留物:残留物の50:50分割を得ることであった。20分後、ヒーターバンドの温度を154℃に設定し、蒸留物の流れを増加させた。さらに1時間後、ヒーターバンドの温度を153℃に調整し、次の1時間で152℃に調整した。蒸留の最後の1時間、ヒーターバンドの温度を153℃に設定した。蒸留の合計時間は380分であった。上記の蒸留からの残留物を、標準的な条件下での蒸留により、より揮発性の高い成分の除去に再び供した。目的は、蒸留物:残留物の50:50分割を得ることであった。蒸留は主にヒーターバンドを150~151℃に設定して実施した。蒸留の合計時間は195分であった。
【表5】
【0120】
実施例10-蒸留油の脂肪酸組成分析
実施例8および実施例9で得られた2回蒸留生成物の脂肪酸組成を分析した。結果を以下に示す。
【表6】
【0121】
実施例11-油の安定性評価
ヘッドスペースGC-MS安定性試験
特定の条件下で放出されるプロパナールの量を評価するために、上記の濃縮製品に対してヘッドスペース分析を実行した。プロパナール放出のレベルの増加は、試験材料の安定性の低下を示している。
【0122】
SPME(固相マイクロ抽出)法
65μm PDMS/DVB StableFlexファイバー(Supelcoファイバーキット57284-u)を選択した。
Triplus RSHコンディショニングステーションで250℃で使用する前に、ファイバーを10分間コンディショニングした。
抽出前に試料を40℃で1分間インキュベートした。
Headspaceバイアルから1分間抽出した。
広範囲の揮発性成分を捕捉できる優れた一般的な方法であることが期待される。
【0123】
GC法
Thermo Scientific TRACE1310 GC
Thermo Scientific TR-DIOXIN 5MSカラム、内径0.25mm、30mフィルム0.1μm
分割噴射250℃分割83、1.2ml He/分
GCランプ:40℃1分から5℃/分で100、次に50℃/分で300℃
【0124】
ヘッドスペース分析に優れた相乗効果を示す一般的なMS固有のカラムを使用した。カラムの性能を維持するために最大に上昇する前に、揮発性物質の分離を最大化するために、遅い初期温度の上昇が採用された。注入口の極低温冷却の必要性を回避し、カラムの分離能を向上させるために、分割噴射を採用した。
【0125】
標準の分離は、ピークのオーバーラップによって妨げられたが、それでも定量に対応できた。3つの標準の較正結果(0.1、0.01、および0.01%)、分子イオンm/z56をプロパナールの検出に使用した。m/z58のベースピークは、ヘキサナールの検出に使用される。
【0126】
MS法
Thermo ScientificDFS高分解能GC-MS
低分解能(1000)、フルスキャン35-350Da、0.5秒/スキャン
標準:-プロパナールおよびヘキサナールの標準希釈液は、供給されたDHAキャノーラエチルエステルに作製された。次に、これらの標準混合物を540μlの容量で20mlのヘッドスペースバイアルに添加した。
【0127】
フルスキャンが採用され、特定分子ではなく、全ての開発製品のモニタリングが可能になった。
【0128】
ヘッドスペースの安定性の結果:
以下の表に、実施例8で得られた2回蒸留されたキャノーラ油および実施例9で得られた2回蒸留された参照油からT=0~4日で得られた結果をまとめる。試験試料は、この期間中、ライトボックス上および蛍光管照明下で周囲温度で保持された。m/z58分子イオンを分析し、質量クロマトグラムは室温で1.37分でプロパナールの出現を明確に示す。下の表でプロパナールの展開を定量化し、データを図1に示す。DHAキャノーラ油は実質的に少量のプロパナールを放出し、参照と比較してキャノーラ油の安定性が改善されていることを証明する。
【表7】
【0129】
DHAキャノーラ油は、参照油と比較して酸化に対して優れた安定性を示す。
【0130】
実施例12-DHAキャノーラ油の精製
実施例1で得られたキャノーラ油の一部は、さらなる濃縮を受ける前に精製された。精製プロセスには、脱ガム、アルカリ精製、漂白、および脱臭が含まれた。
【0131】
酸脱ガム
脱ガムとは、油から非水和性および水和性のリン脂質を除去することである。実施例1で得られた乾燥原油を53±2℃に加熱し、0.2%の50%クエン酸溶液を加えた。約30分間混合した後、2.0%の加熱(53±2℃)軟水を加え、約30分間混合した。保持中に油を67±3℃に加熱し、次に遠心分離した。
【0132】
酸前処理/精製
精製とは、腐食剤で鹸化して水溶性にした後の遊離脂肪酸の除去、およびそれに続く遠心分離による除去である。ホスファチドの水和を継続するために、酸前処理ステップが使用された。脱ガム油を65±5℃に加熱し、0.1%の85%リン酸を添加し、合計30分間混合した。酸の添加および保持時間の後、20 Be’(Baume;14.4%、w/w)水酸化ナトリウムを添加し、遊離脂肪酸と0.05%(w/w)過剰を中和した。次に、腐食剤および油をさらに15分間混合した。15分間保持しながら油を62±2℃に加熱した後、油を遠心分離した。
【0133】
Trisylシリカ処理
石鹸をさらに除去するために、漂白に適合するレベルまでTrisylシリカ処理を実施した。Trisyl前処理は、漂白ステップと組み合わされた。精製油を68±5℃に加熱し、0.3%のTrisyl300で処理した。油/Trisylを約15分間混合した後、漂白を続けた。
【0134】
漂白
精製油は、過酸化物、リン脂質、カラーボディー、および微量の石鹸を除去するために吸着粘土で処理された。ホスファチドの水和を継続するために、酸前処理ステップが使用された。Trisyl前処理油を0.2%(w/w)の50%クエン酸溶液と混合した。15分間混合した後、2%(w/w)のTonsil Supreme126FF漂白粘土を添加した。次に、混合物を真空下で90±2℃に加熱し、約30分間保持した。油を60±2℃に冷却し、窒素で真空破壊し、1.0kgの濾過助剤を加えて濾過した。圧力容器:500LのCherry-Burrell圧力容器、蒸気または冷却水ジャケット、混合用のインペラーおよびバッフルを備えた全て316ステンレス構造、製造シリアル番号E-227-94。フィルタープレス:24´´Polypropylene Sperry Filter Press、容量4.8cuのftフィルター、紙および布の支持材を使用した。
【0135】
脱臭
漂白された油は、高温および低圧で蒸気を用いて散布され、臭気成分、フレーバー成分、および追加の遊離脂肪酸が除去された。高温での熱漂白によっても色が落ちる。漂白油の半分を180±2℃で60分間、1%スパージ蒸気で脱臭し、脂肪酸組成(FAC)を監視した。脱臭容器(OD4):400L Coppersmithing真空定格容器、蒸気または冷却水ジャケット、全て316ステンレス構造。180℃で60分間保持すると、DHAレベルのわずかな低下が観察された。次に、180℃で30分間保持して別の試験を実行した。製品は窒素下で20LのプラスチックHDPEペール缶に梱包され、4℃のクーラーに保管された。
【0136】
実施例13-オリジナルの参照ブレンド油の精製
実施例2に記載されている参照ブレンドの一部は、さらに濃縮される前に精製された。精製プロセスでは、前の実施例に示したのと同じ条件下で、参照ブレンドを精製した。
【0137】
実施例14-RBD DHAキャノーラ油およびRBD参照ブレンドの脂肪酸組成
(実施例12の)RBD DHAキャノーラ油および(実施例13の)RBD参照ブレンド油の脂肪酸組成を分析した。結果を以下に示す。
【表8】
【0138】
実施例(および添付の図)に関連する「RBD」への言及は、問題の製品が、実施例12(キャノーラ油の場合)および実施例13(参照ブレンドの場合)のいずれかの「精製」製品から直接的または間接的に得られたことを意味する。
【0139】
実施例15-RBDキャノーラ-DHA油の化学的エステル交換
機械的攪拌機を備えた乾燥した窒素フラッシュBuchi CR101化学反応器に、無水エタノール(12.5L)および実施例12で得られた精製(「RBD」)トリグリセリドキャノーラ-DHA油(5.00kg)を加え、混合物を撹拌した。
【0140】
上記の混合物にナトリウムエトキシド(150g)を加え、これをさらに無水エタノール(2.5L)で反応器にすすぎ、撹拌を周囲温度で16時間続けた。混合物から採取された試料の記録されたH NMRスペクトルは、反応が完了したことを示した。
【0141】
エステル交換手順は、約5kgのRBDキャノーラ-DHA油で実施された。得られた粗反応混合物に、40~60℃の沸点の石油スピリット(ペットスピリット、10L)および水(10L)を加え、完全に混合しながら、混合物を10%塩酸(合計870mLが必要、Merck Universal Indicator strips、pH0~14)でpH7に慎重に酸性化した。
【0142】
得られた混合物を反応器内に放置した後、2つの相が形成された。石油スピリット層を除去し、水層をさらに石油スピリットで抽出した(3x5L)。組み合わせた石油スピリット層を反応器に戻し、真空中で少量(約10L)まで蒸発させた。得られた濃縮溶液を反応器から排出し、無水硫酸マグネシウム(約1kg)で乾燥させ、濾過し、真空で濃縮し、薄い淡黄色の油(収率:99%)を得た。
【0143】
実施例16-RBD参照ブレンド油の化学的エステル交換
機械的攪拌機を備えた乾燥した窒素フラッシュBuchi CR101化学反応器に、無水エタノール(12.5L)および実施例13に従って得られたRBDトリグリセリド参照ブレンド油(約5kg)を加え、混合物を撹拌した。
【0144】
上記の混合物にナトリウムエトキシド(150g)を加え、これをさらに無水エタノール(2.5L)で反応器にすすぎ、撹拌を周囲温度で16時間続けた。試料の記録されたH NMRスペクトルは、ほとんどまたは全く反応が起きたことを示さなかった。さらにナトリウムエトキシド(57g)を混合物に加え、撹拌を続けた。
【0145】
さらに5時間後、試料のH NMRスペクトルは、反応が75%完了したことを示した。さらにナトリウムエトキシド(60mLの21%エタノール溶液)を混合物に加え、撹拌を3日間続け、その後、反応が完了した。
【0146】
RBD参照ブレンドの化学的エステル交換からの実施例生成物の分離
エステル交換手順は、約5kgのRBD参照ブレンド油で実施された。得られた粗反応混合物に、石油スピリット(15L)および水(3.3L)を加え、完全に混合しながら、混合物を10%塩酸(合計910mLが必要)でpH7に慎重に酸性化した。
【0147】
得られた混合物を反応器内に放置した後、2つの相が形成された。石油スピリット層を除去し、水層をさらに石油スピリット(2x7.5L)で抽出した。組み合わせた石油スピリット層を反応器に戻し、真空中で少量(約10L)まで蒸発させた。得られた濃縮溶液を反応器から排出し、無水硫酸マグネシウム(約1kg)で乾燥させ、濾過し、真空で濃縮し、薄い淡黄色の油(収率:99%)を得た。
【0148】
実施例17-エステル交換されたRBDキャノーラ油の蒸留
真空蒸留により脂肪酸エチルエステル(FAEE)混合物のより揮発性の高い成分を除去するための標準的手順
RBDキャノーラ-DHA(実施例15で得られた)からの脂肪酸エチルエステル(FAEE)を、以下の条件下で蒸留に供した。蒸留による分離は、蒸留物および残留物を収集する2x1000mlの収集フラスコを備え、真空下にあるPope2インチ(50mm)薄膜蒸留器にトランスエステル化油を通過させることによって達成された。各々の脂肪酸組成を分析した。
【0149】
真空はEdwards3ロータリーポンプによって供給され、真空はebro真空計VM2000によって測定された。
【0150】
油は、Cole-Palmer Instrument Companyのeasy-load II蠕動ポンプによって4mL/分で蒸留器に供給され、蒸留器モーターは325rpmに設定され、水凝縮器を使用して蒸留物を凝縮した。いずれかのレシーバーフラスコが一杯になるまで供給を続けた。
【0151】
RBDキャノーラ-DHA FAEEは、ヒーターバンドが152℃に初期設定されたこれらの条件下で蒸留され、蒸留物:残留物の50:50分割を得た。ヒーターバンドの温度を152℃に設定した標準条件下での蒸留により、この蒸留からの残留物の一部を、より揮発性の高い成分の除去に再び供した。蒸留の合計時間は約90分であった。
【表9】
【0152】
実施例18-エステル交換されたRBD参照ブレンド由来のFAEEの蒸留
RBD参照ブレンド(実施例16で得られた)からの脂肪酸エチルエステル(FAEE)を、前の実施例に示したのと同じ条件下で蒸留に供した。
【0153】
RBD参照ブレンドFAEEは、ヒーターバンドが152℃に初期設定されたこれらの標準条件下で蒸留され、蒸留物:残留物の50:50分割を得た。この蒸留からの残留物を、標準的な条件下での蒸留により、より揮発性の高い成分の除去に再び供した。目的は、蒸留物:残留物の50:50分割を得ることであった。蒸留は主にヒーターバンドを152℃に設定して実施した。蒸留の合計時間は約200分であった。
【表10】
【0154】
実施例19-濃縮RBD油の脂肪酸組成分析
実施例17および実施例18で得られた生成物の脂肪酸組成を分析した。結果を以下に示す。
【表11】
【0155】
実施例20-油の安定性評価
ヘッドスペース分析は、実施例11に記載された方法に従って、実施例17および実施例18に記載された濃縮生成物について実行された。
【0156】
以下の表に、実施例17で得られたRBDキャノーラ油および実施例18で得られたRBD参照油からT=0~3日で得られた結果をまとめる。試験試料は、この期間中、ライトボックス上および蛍光管照明下で周囲温度で保持された。m/z58分子イオンを分析し、質量クロマトグラムは室温で1.37分でプロパナールの出現を明確に示す。下の表でプロパナールの展開を定量化し、データを図2に示す。DHAキャノーラ油は実質的に少量のプロパナールを放出し、参照と比較してキャノーラ油の安定性が改善されていることを証明する。
【表12】
【0157】
DHAキャノーラ油は、参照油と比較して酸化に対して優れた安定性を示した。
【0158】
[項目1]
植物ベースの脂質組成物であって、
(i)前記組成物の総脂肪酸含有量の約15重量%~約35重量%の量のドコサヘキサエン酸(22:6n-3)と、
(ii)前記組成物の総脂肪酸含有量の最大約5重量%の量のエイコサペンタエン酸(20:5n-3)と、
(iii)前記組成物の総脂肪酸含有量の約10重量%~約20重量%の量のα-リノレン酸(18:3n-3)と、
(iv)前記組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約40重量%の量のオレイン酸(18:1n-9)と、
(v)前記組成物の総脂肪酸含有量の最大約1.5重量%の量のパルミチン酸と、を含み、
成分(i)~(v)が、各々独立して、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、または脂肪酸エステルの塩の形態で提供される、脂質組成物。
[項目2]
ドコサヘキサエン酸(22:6n-3)が、前記組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約35重量%(特に、約22重量%~約33重量%)の量で存在する、請求項1に記載の脂質組成物。
[項目3]
前記エイコサペンタエン酸が、前記組成物の総脂肪酸含有量の最大約3重量%(特に、最大約1重量%)の量で存在する、請求項1または請求項2に記載の脂質組成物。
[項目4]
前記α-リノレン酸が、前記組成物の総脂肪酸含有量の約12重量%~約20重量%(特に、約12重量%~約18重量%)の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目5]
前記オレイン酸が、前記組成物の総脂肪酸含有量の約20重量%~約35重量%(特に、約22重量%~約33重量%)の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目6]
前記パルミチン酸(16:0)が、前記組成物の総脂肪酸含有量の最大約1.0重量%(特に、最大約0.7重量%)の量で存在する、請求項5に記載の脂質組成物。
[項目7]
成分(i)~(v)が、各々独立して、脂肪酸エステルまたは脂肪酸エステルの塩の形態で提供される、請求項1~6のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目8]
成分(i)~(v)が、各々独立して、脂肪酸エチルエステルまたはトリグリセリドの一部の形態で提供される、請求項7に記載の脂質組成物。
[項目9]
前記脂質組成物が、単一の供給源に由来する、請求項1~8のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目10]
前記脂質組成物が、植物に由来する、請求項1~9のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目11]
前記植物が、油糧種子、特に、Brassica sp.、Gossypium hirsutum、Linum usitatissimum、Helianthus sp.、Carthamus tinctorius、Glycine max、Zea mays、Arabidopsis thaliana、Sorghum bicolor、Sorghum vulgare、Avena sativa、Trifolium sp.、Elaesis guineenis、Nicotiana benthamiana、Hordeum vulgare、Lupinus angustifolius、Oryza sativa、Oryza glaberrima、Camelina sativa、またはCrambe abyssinicaである、請求項10に記載の脂質組成物。
[項目12]
前記組成物が、錠剤、カプセル、カプセル化ゲル、摂取可能な液体もしくは粉末、または局所軟膏もしくはクリームの形態で提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目13]
抗酸化剤、安定剤、および界面活性剤からなる群から選択される1つ以上の追加成分をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目14]
心血管疾患の治療もしくは予防、心血管疾患患者の死亡に対する防御、全体的な血清コレステロールレベルの低下、高血圧の低下、HDL:LDL比の増加、トリグリセリドの低下、またはアポリポタンパク質Bレベルの低下に使用するための、請求項1~13のいずれか一項に記載の脂質組成物。
[項目15]
請求項1~11のいずれか一項に記載の脂質組成物を生成するためのプロセスであって、脂肪酸エチルエステルの混合物を提供することと、その混合物を第1の分子蒸留ステップに供して第1の残留物を得ることと、前記第1の残留物を第2の分子蒸留ステップに供することと、を含む、プロセス。
図1
図2