IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三徳の特許一覧

<>
  • 特開-水素吸蔵材の製造方法 図1
  • 特開-水素吸蔵材の製造方法 図2
  • 特開-水素吸蔵材の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023286
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】水素吸蔵材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20240214BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240214BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240214BHJP
   B22F 1/142 20220101ALI20240214BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240214BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20240214BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240214BHJP
   C22C 1/00 20230101ALI20240214BHJP
【FI】
C22C19/00 F
H01M4/38 A
B22F1/14 500
B22F1/142
B22F1/052
B22F9/04 C
C22C1/04 B
C22C1/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192992
(22)【出願日】2023-11-13
(62)【分割の表示】P 2020559710の分割
【原出願日】2019-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2018238862
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000176660
【氏名又は名称】株式会社三徳
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大月 孝之
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ニッケル水素二次電池の低温での放電特性を改善できる水素吸蔵材の製造方法を提供する。
【解決手段】水素吸蔵材は水素吸蔵合金粒子と該粒子の表面に付着した表面修飾物質とを含み、特定の組成を有する。この水素吸蔵材のX線回折パターンにおいて、2θ=42.00°~44.00°の範囲に現れる回折ピークのうち最大ピークPmaxの相対強度を100.00%としたとき、2θ=30.35°~30.65°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が4.00%以上70.00%以下であり、2θ=32.85°~33.15°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が60.00%未満であり、且つ2θ=51.65°~51.95°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が6.00%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金粒子と該粒子の表面に付着した表面修飾物質とを含む水素吸蔵材の製造方法であって、
前記表面修飾物質がNiを含有し、
前記水素吸蔵材が下記式(1):
1-aMgNiAl・・・(1)
(式(1)中、Rは希土類元素、Zr、Hf、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、MはTi、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、B、Ga、Sn、Sb、In、C、Si、及びPからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、aは0.005≦a≦0.40、bは3.00≦b≦4.50、cは0≦c≦0.50、dは0≦d≦1.00、b+c+dは3.00≦b+c+d≦4.50であり、Rの元素が2種以上選択された場合は、2種以上のRの元素のそれぞれの含有割合を合計した値が、0.005≦a≦0.40を満たす含有割合となり、Mの元素が2種以上選択された場合は、2種以上のMの元素のそれぞれの含有割合を合計した値が、0≦d≦1.00を満たす含有割合となる。)で表される組成を有し、
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定によって得られる前記水素吸蔵材のX線回折パターンにおいて、2θ=42.00°~44.00°の範囲に現れる回折ピークのうち最大ピークPmaxの相対強度を100.00%としたとき、2θ=30.35°~30.65°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が4.00%以上70.00%以下であり、2θ=32.85°~33.15°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が60.00%未満であり、且つ2θ=51.65°~51.95°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が6.00%未満である、
水素吸蔵材の製造方法において、
前記水素吸蔵合金粒子と前記表面修飾物質の前駆体とを混合して混合物を得る工程(1)と、
前記混合物を熱処理して熱処理物を得る工程(2)と、
前記熱処理物を解砕若しくは粉砕する工程(3)と、を含む、
水素吸蔵材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、前記前駆体としてNi粉末を用いる場合、前記Ni粉末の平均粒径(D50)は、0.05μm以上5.00μm以下である、請求項1に記載の水素吸蔵材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、前記前駆体としてNi粉末を用いる場合、100質量部の前記水素吸蔵合金粒子に対して、0.6質量部以上6.0質量部以下の前記Ni粉末を使用する、請求項1又は2に記載の水素吸蔵材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)において、前記熱処理の温度は550℃以上950℃以下であり、前記熱処理の時間は1時間以上24時間以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の水素吸蔵材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)において、前記解砕若しくは前記粉砕は、前記水素吸蔵材の平均粒径(D50)が20~100μmとなるように行われる、請求項1~4の何れか一項に記載の水素吸蔵材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素吸蔵材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は可逆的に水素を吸蔵・放出できる合金であり、近年はエネルギー源として注目されており、様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
水素吸蔵合金は既にニッケル水素二次電池の負極に用いられている。水素吸蔵合金を負極に用いたニッケル水素二次電池は、ニッケルカドミウム二次電池に比べ、高エネルギー密度であり、有害なカドミウム(Cd)を使用しないことから環境への負荷が小さい。このようなニッケル水素二次電池は、携帯電子機器、電動工具、電気自動車、ハイブリッド型自動車等に使用されており、用途に合わせて様々な電池特性が求められている。
【0004】
ニッケル水素二次電池の負極に用いられる水素吸蔵合金としては、LaNi系水素吸蔵合金(CaCu型結晶構造を主相とする希土類-Ni系金属間化合物)、Ti系水素吸蔵合金(TiFe、TiCo、TiMn等の二元系合金やその他元素を添加した多元系合金)、Zr系水素吸蔵合金、Mg系水素吸蔵合金等が知られている。
【0005】
近年、上記LaNi系水素吸蔵合金にMg等を含有させ、且つ組成比率を調整して得られる、CaCu型以外の結晶構造(例えばCeNi型構造やCeNi型構造等)を有する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金が実用化されている。このような合金を負極に用いたニッケル水素二次電池は高容量であることが知られている。
【0006】
上記のようにニッケル水素二次電池は様々な用途に使用されることから、使用環境も低温から高温と広範囲に及ぶ。しかしながら、上記水素吸蔵合金を負極に用いたニッケル水素二次電池は、ニッケルカドミウム二次電池に比べて高容量であるものの、低温での放電特性が十分でないという問題がある。
【0007】
水素吸蔵合金の内部よりも表面のNi量を多くすることで、低温での放電特性が改善されることが知られている。合金表面のNi量を多くすると、Niが充放電反応の活性点となり、電気化学的な触媒能に優れた負極材料が得られる。
【0008】
特許文献1は、水素吸蔵合金をpH2.0以下の強酸溶液で処理した後、該合金中に取り込まれたアニオンの残留量が5×10-6モル/g以下になるまで洗浄液で洗浄又は洗浄保存する方法を開示している。この方法では、合金表面に金属Niが過剰で希土類元素が少ない層が形成される。
【0009】
特許文献2は、水素吸蔵合金粉末を水酸化ナトリウム(NaOH)及び/又は水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ水溶液に浸漬し加熱しつつ撹拌してアルカリ処理を行い、該合金粉末を水洗してアルカリ成分を除去し、脱水する、表面活性化処理方法を開示している。この方法では、合金粉末の構成元素の一部が処理液に溶出し、合金表面に触媒活性の高い金属Niを豊富に含むNi凝集層が均一に形成される。
【0010】
特許文献1及び2の方法では、水素吸蔵合金としては、上記LaNi系水素吸蔵合金(CaCu型結晶構造を主相とする希土類-Ni系金属間化合物)を使用している。一方、特許文献3は、CaCu型以外の結晶構造(例えばCeNi型構造やCeNi型構造等)を有する希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金に対して、酸水溶液やアルカリ水溶液を用いた処理を施し、該合金の表面近傍のNi量を多くする方法を開示している。
【0011】
更に、特許文献4は、処理対象がV-Cr-Ti系合金であり上記特許文献1~3とは異なるものの、該合金にNiめっきを施すか、若しくはNi粉末を被着した後、不活性ガス又は減圧雰囲気中で500℃~1000℃の温度で加熱処理する方法を開示している。加えて、特許文献4は、該合金の粒子とNi粉末を混合し、メカニカルアロイング法やメカニカルグラインディング法を用いて物理的にNiを拡散させて、合金表面にNiの拡散層を形成する方法も開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-285915号公報
【特許文献2】特開2007-051366号公報
【特許文献3】特開2000-080429号公報
【特許文献4】特開平11-144728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1及び3に記載の酸処理方法では、水素吸蔵合金表面に存在する希土類元素の酸化物は除去できるものの、その他Ni以外の元素も溶出し、合金内部と表面でのNiの存在量に大きな差が生じるため、合金全体での電気的な触媒能が低下する。従って、更なる改善が求められている。
【0014】
特許文献2及び3に記載のアルカリ処理方法では、水素吸蔵合金表面に存在するAl、Mn、Co等が溶出し、金属Niを豊富に含むNi凝集層を形成できるものの、希土類元素は酸化物や水酸化物となり合金表面に残留する。更に、合金全体の酸素値が高くなる。そのため、合金全体での電気的な触媒能が低下する。
【0015】
特許文献4には水素吸蔵合金とNi粉末とを混合して熱処理する方法が記載されているものの、合金系が異なり、生じるNi拡散層は金属間化合物TiNiからなり、これによって得られる効果は70℃での容量やサイクル特性の向上である。また、当該水素吸蔵合金自体はNiを含まず、表面のNi拡散層を有するのみであることから、合金内部にもNiを含む上記LaNi系水素吸蔵合金や上記希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金と比べて、電気的な触媒能は向上せず、低温での放電特性は劣るおそれがある。
【0016】
本発明の目的は、ニッケル水素二次電池の低温放電特性を改善し得る水素吸蔵材の製造方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、上記水素吸蔵材を負極に用いることにより、優れた低温放電特性を示すニッケル水素二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、水素吸蔵合金粒子と該粒子の表面に付着したNiを含有する表面修飾物質とを含み、
下記式(1):
1-aMgNiAl・・・(1)
(式(1)中、Rは希土類元素、Zr、Hf、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、MはTi、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、B、Ga、Sn、Sb、In、C、Si、及びPからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、aは0.005≦a≦0.40、bは3.00≦b≦4.50、cは0≦c≦0.50、dは0≦d≦1.00、b+c+dは3.00≦b+c+d≦4.50であり、Rの元素が2種以上選択された場合は、2種以上のRの元素のそれぞれの含有割合を合計した値が、0.005≦a≦0.40を満たす含有割合となり、Mの元素が2種以上選択された場合は、2種以上のMの元素のそれぞれの含有割合を合計した値が、0≦d≦1.00を満たす含有割合となる。)で表される組成を有する水素吸蔵材の製造方法であって、
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定によって得られる前記水素吸蔵材のX線回折パターンにおいて、2θ=42.00°~44.00°の範囲に現れる回折ピークのうち最大ピークPmaxの相対強度を100.00%としたとき、2θ=30.35°~30.65°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が4.00%以上70.00%以下であり、2θ=32.85°~33.15°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が60.00%未満であり、且つ2θ=51.65°~51.95°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度が6.00%未満であることを特徴とする水素吸蔵材の製造方法において、
前記水素吸蔵合金粒子と前記表面修飾物質の前駆体とを混合して混合物を得る工程(1)と、前記混合物を熱処理して熱処理物を得る工程(2)と、前記熱処理物を解砕若しくは粉砕する工程(3)と、を含む水素吸蔵材の製造方法が提供される。
【0019】
本発明によれば、更に、上記水素吸蔵材からなる負極活物質、該負極活物質を含む負極、及び該負極を有するニッケル水素二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水素吸蔵材は、特定の水素吸蔵合金粒子の表面に表面修飾物質を適切に付着させて得られるものであって、特定のX線回折パターンを示すことにより、ニッケル水素二次電池の負極に好適に使用できる。該水素吸蔵材を用いた本発明のニッケル水素二次電池は優れた低温放電特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1及び比較例1の水素吸蔵材のX線回折パターンを示すチャートである。
図2】実施例1の水素吸蔵材の電子顕微鏡による10,000倍のSEM像である。
図3】比較例1の水素吸蔵材の電子顕微鏡による10,000倍のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の水素吸蔵材は、水素吸蔵合金粒子と該粒子の表面に付着した表面修飾物質とを含む。通常、水素吸蔵材は水素吸蔵合金粒子と表面修飾物質のみからなる。表面修飾物質はNiを含有し、水素吸蔵材全体の組成は式(1):R1-aMgNiAlで表される。
【0023】
式(1)中、Rは希土類元素、Zr、Hf、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuが挙げられる。Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及び/又はZrを使用することによって、水素吸蔵材の水素吸蔵放出時の平衡圧を適当に調整することができるため、RはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及びZrの1種以上を含むことが好ましい。Laは平衡圧を低くする傾向にあり、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及びZrは高くする傾向にある。
【0024】
式(1)中、1-aはRの含有割合を表す。1-aは0.60≦1-a≦0.995であり、好ましくは0.70≦1-a≦0.99、更に好ましくは0.85≦1-a≦0.99である。
【0025】
式(1)中、aはMgの含有割合を表す。aは0.005≦a≦0.40であり、好ましくは0.01≦a≦0.30、更に好ましくは0.01≦a≦0.15である。Mg含有割合が上記範囲より低いと水素吸蔵材が十分な水素吸蔵量を示さず、二次電池に用いた場合に放電容量が低下するおそれがある。Mg含有割合が上記範囲より高いと水素吸蔵材が十分な耐食性を示さず、二次電池に用いた場合にサイクル特性が低下するおそれがある。Mgは水素吸蔵材の水素吸蔵量を増加させ、また水素吸蔵放出時の平衡圧を高くする傾向にある。
【0026】
式(1)中、bはNiの含有割合を表す。上述のとおり表面修飾物質はNiを含有するが、水素吸蔵合金粒子もNiを含有してよく、bは表面修飾物質と水素吸蔵合金粒子の両方に含まれるNiの総含有割合を表す。bは3.00≦b≦4.50、好ましくは3.00≦b≦4.00、更に好ましくは3.00≦b≦3.80である。水素吸蔵合金粒子内部のNi含有割合が高いと、水素吸蔵材の微粉化が進行しやすく、耐食性が低下し、二次電池に用いた場合にサイクル特性が低下するおそれがある。水素吸蔵合金粒子内部のNi含有割合が低いと、放電性能が低下し、二次電池に用いた場合に十分な放電容量が得られない。一方で、Niが水素吸蔵合金粒子の表面に存在することで水素吸蔵材全体での電気的な触媒能が向上し、低温での放電特性が向上する。なお、水素吸蔵合金粒子表面に付着した表面修飾物質に含まれるNiはある程度の含有割合は必要であるものの、含有割合の多い少ないだけが低温での放電特性に寄与しているのではない。特に、表面修飾物質に含まれるNiは、金属Niとして存在しているのではなく、後述するX線回折パターンを示すNi化合物として存在していることが重要である。
【0027】
式(1)中、cはAlの含有割合を表す。cは0≦c≦0.50、好ましくは0.05≦c≦0.50、更に好ましくは0.05≦c≦0.30である。Alは必ずしも必要ではないが、Alを含有することで水素吸蔵材の耐食性が向上し、二次電池に用いた場合にサイクル特性の向上に寄与する。またAlは水素吸蔵材の水素吸蔵放出時の平衡圧を低くする傾向にあり、二次電池とした場合に初期容量等の改善に寄与する。一方、Al量が多すぎると十分な水素吸蔵量が得られず、Alの偏析により十分な耐食性が得られないおそれがある。
【0028】
式(1)中、MはR、Mg、Ni、及びAl以外の1種以上の任意元素であり、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、B、Ga、Sn、Sb、In、C、Si、及びPからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。Mとしては電池の用途によりその特性の微調整に寄与する元素を任意に選択することができる。好ましくは、MはTi、Nb、Mo、W、Mn、Fe、Co、Cu、B、及びSnからなる群より選ばれる1種以上の元素である。Mとして、例えばTi、Nb、Mo、W、Fe、Cu、Sn、及びBからなる群より選ばれる元素を含有させることにより、水素吸蔵材の微粉化を抑制し、若しくは電解液へのAlの溶出を抑制することができる。
【0029】
式(1)中、dはMの含有割合を表す。dは0≦d≦1.00、好ましくは0≦d≦0.50である。Mは必ずしも必要ではないが、電池の用途により特性の微調整が必要な場合に含有させることができる。
【0030】
式(1)中のb+c+dは、RとMg以外の元素の含有割合の合計を表す。これらの元素は主に水素吸蔵材の微粉化に影響し、二次電池とした場合に特にサイクル特性等の向上に寄与する。b+c+dは、3.00≦b+c+d≦4.50であり、好ましくは3.00≦b+c+d≦4.00、更に好ましくは3.00≦b+c+d≦3.80ある。
【0031】
上述したように、通常、本発明の水素吸蔵材は水素吸蔵合金粒子とその表面に付着した表面修飾物質とからなる。即ち、上記式(1)は水素吸蔵合金粒子と表面修飾物質の合計の組成を表す。この組成は、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析装置で定量分析することにより確認することができる。
【0032】
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定によって得られる本発明の水素吸蔵材のX線回折パターンにおいて、2θ=42.00°~44.00°の範囲に現れる回折ピークのうち最大ピークPmaxの相対強度を100.00%としたとき、2θ=30.35°~30.65°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度は4.00%以上70.00%以下であり、且つ2θ=32.85°~33.15°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度は60.00%未満である。最大ピークPの相対強度は、好ましくは5.00%以上であり、より好ましくは10.00%以上である。また、最大ピークPの相対強度は、好ましくは60.00%以下であり、より好ましくは40.00%以下である。最大ピークPの相対強度は、好ましくは50.00%未満であり、より好ましくは47.00%未満である。最大ピークPの相対強度は0.00%であってもよいが、通常は10.00%以上であり、好ましくは14.00%以上である。本発明の水素吸蔵材は、最大ピークP及びPともに上記範囲の相対強度を有することで、水素吸蔵材全体での電気的な触媒能が向上し、低温での放電特性が向上する。
【0033】
最大ピークPがどの相に由来する回折ピークかを特定することは難しく、定かではないが、水素吸蔵合金粒子の表面に付着している表面修飾物質に関係する回折ピークと推測され、後述する1-5相及び/又は5-19相に由来するピークと推測される。最大ピークPの相対強度が4.00%未満である場合、水素吸蔵合金粒子表面に電気的な触媒能を有する表面修飾物質が十分に形成されず、低温での放電特性が向上しないおそれがある。最大ピークPの相対強度が70.00%を超える場合、Niを多く含み、電気的な触媒能向上には寄与しない表面修飾物質が形成されるため、耐食性が低下し、低温でのサイクル特性が低下するおそれがある。なお、上記X線回折パターンにおいて、2θ=30.35°~30.65°の範囲に回折ピークが1つのみ現れる場合があるが、この場合は当該回折ピークを最大ピークPとみなす。この範囲に複数の回折ピークが現れる場合は、これら回折ピークのうち最も高い相対強度を有するものを最大ピークPとみなす。
【0034】
最大ピークPもどの相に由来する回折ピークかを特定することは難しく、定かではないが、後述する2-7相に由来するピークと推測される。最大ピークPの相対強度が60.00%以上である場合、水素吸蔵合金粒子表面に電気的な触媒能を有する表面修飾物質が十分に形成されず、元の水素吸蔵合金粒子に近い状態であり、低温での放電特性が向上しないおそれがある。なお、上記X線回折パターンにおいて、2θ=32.85°~33.15°の範囲に回折ピークが存在しない場合、最大ピークPの相対強度は0.00%である。この範囲に回折ピークが1つのみ現れる場合は、当該回折ピークを最大ピークPとみなす。この範囲に複数の回折ピークが現れる場合は、これら回折ピークのうち最も高い相対強度を有するものを最大ピークPとみなす。
【0035】
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定によって得られる本発明の水素吸蔵材のX線回折パターンにおいて、2θ=42.00°~44.00°の範囲に現れる回折ピークのうち最大ピークPmaxの相対強度を100.00%としたとき、2θ=51.65°~51.95°の範囲(以下、2θ=51.80°付近の範囲と称することがある)に現れる最大ピークPの相対強度は6.00%未満であり、5.00%未満であることが好ましい。最大ピークPは金属Niに由来するピークと推測される。最大ピークPの相対強度が6.00%以上である場合、表面修飾物質がNi化合物にならずに金属Niのまま水素吸蔵合金粒子表面に残っている状態であり、電気化学的な触媒能を有する表面修飾物質になっていないため、低温での放電特性が向上しないおそれがある。なお、2θ=51.65°~51.95°の範囲に回折ピークが存在しない場合、最大ピークPの相対強度は0.00%である。この範囲に回折ピークが1つのみ現れる場合は、当該回折ピークを最大ピークPとみなす。この範囲に複数の回折ピークが現れる場合は、これら回折ピークのうち最も高い相対強度を有するものを最大ピークPとみなす。
【0036】
上述のX線回折測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、UltimaIV)を用い、ターゲットは銅、管電圧40kV、管電流40mA、発散スリット2/3°、散乱スリット8mm、受光スリット0.15mm、操作モードは連続、スキャンスピード2.5°/分の条件で行った。
【0037】
表面修飾物質はNiを含有し、好ましくはNi化合物を含有する。表面修飾物質は実質的に1種以上のNi化合物のみからなるものであってもよい。表面修飾物質は、MgZn型結晶構造及びMgCu型結晶構造(以下、2つの構造を区別なく1-2相と略すことがある)、CeNi型結晶構造及びPuNi型結晶構造(以下、2つの構造を区別なく1-3相と略すことがある)、CeNi型結晶構造及びGdCo型結晶構造(以下、2つの結晶構造を区別なく2-7相と略すことがある)、CeNi19型結晶構造及びPrCo19型結晶構造(以下、2つの構造を区別なく5-19相と略すことがある)、CaCu型結晶構造(以下、1-5相と略すことがある)、並びにこれらに類似する結晶構造のいずれかを主体とする相と推測される。水素吸蔵合金粒子単体若しくは本発明の特定の表面修飾物質を含まない水素吸蔵材は、2θ=30.50°付近の範囲にピークを示さないか、或いは所定の相対強度の範囲から外れる微小ピークしか有していない。一方、本発明の水素吸蔵材はこの範囲内に所定の相対強度を有するピークを示す。このことから、2θ=30.50°付近の範囲のピークは、表面修飾物質に関係するピークと推測される。なお、2θ=30.50°付近の範囲では1-5相及び/又は5-19相に由来すると推測されるピークが発現することから、表面修飾物質は上記の主体とする相のなかでも1-5相及び/又は5-19相が多いと推測される。
【0038】
表面修飾物質は水素吸蔵合金粒子の表面全体若しくは一部に存在する。表面修飾物質が水素吸蔵合金粒子表面の少なくとも一部に存在することにより、水素吸蔵材全体での電気化学的な触媒能が向上し、それにより表面修飾物質と水素吸蔵合金粒子内部の水素の移動がスムーズに行われ、低温での放電特性が向上する。これは水素吸蔵合金粒子中にある程度のNi量を含有していること、表面修飾物質のNiの状態が上述する所定の条件を満たしていることが、より水素の移動をスムーズにして、低温での放電特性が向上する要因の一つと推測される。なお、本発明において「表面修飾物質が水素吸蔵合金粒子の表面に付着している」とは、表面修飾物質が該表面に接触して保持されていることを意味する。表面修飾物質が該表面に吸着又は接着されていてもよく、また表面修飾物質が該表面に化学的に結合していてもよい。該表面において、水素吸蔵合金粒子と表面修飾物質とが合金化していてもよい。
【0039】
水素吸蔵合金粒子は、好ましくは式(2):R1-wMgNiAlで表される組成を有する。水素吸蔵合金粒子の組成は、水素吸蔵材と同様の方法で定量分析することにより確認することができる。なお、後述するように、本発明の水素吸蔵材は、水素吸蔵合金粒子の表面に表面修飾物質を付着させることによって製造できる。この付着過程において、水素吸蔵合金粒子の表面に表面修飾物質が化学結合したり、水素吸蔵合金粒子の表面と表面修飾物質とが合金化する場合がある。このような場合、水素吸蔵材中の水素吸蔵合金粒子のみの組成を厳密に特定することは非常に困難であり、実質的に不可能である。ただし、上記付着過程における水素吸蔵合金粒子の組成の変化は無視できる程度に小さいと考えられる。よって、本発明では、水素吸蔵材中の水素吸蔵合金粒子の組成は、表面修飾物質を付着させる前の段階での水素吸蔵合金粒子の組成と同じであるとみなす。即ち、上記付着過程の前後において、水素吸蔵合金粒子の組成は変化しないものとして扱うこととする。従って、表面修飾物質を付着させる前の段階での水素吸蔵合金粒子も、上記式(2)で表される組成を有することが好ましい。
【0040】
式(2)中、Rは希土類元素、Zr、Hf、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuが挙げられる。Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及び/又はZrを使用することによって、水素吸蔵材の水素吸蔵放出時の平衡圧を適当に調整することができるため、RはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及びZrの1種以上を含むことが好ましい。Laは平衡圧を低くする傾向にあり、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及びZrは高くする傾向にある。
【0041】
式(2)中、1-wはRの含有割合を表す。1-wは0.60≦1-w≦0.995であり、好ましくは0.70≦1-w≦0.99、更に好ましくは0.85≦1-w≦0.99である。
【0042】
式(2)中、wはMgの含有割合を表す。wは0.005≦w≦0.40であり、好ましくは0.01≦w≦0.30、更に好ましくは0.01≦w≦0.15である。Mg含有割合が上記範囲より低いと水素吸蔵材が十分な水素吸蔵量を示さず、二次電池に用いた場合に放電容量が低下するおそれがある。Mg含有割合が上記範囲より高いと水素吸蔵材が十分な耐食性を示さず、二次電池に用いた場合にサイクル特性が低下するおそれがある。Mgは水素吸蔵材の水素吸蔵量を増加させ、また水素吸蔵放出時の平衡圧を高くする傾向にある。
【0043】
式(2)中、xはNiの含有割合を表す。xは2.70≦x≦4.20、好ましくは2.70≦x≦3.80、更に好ましくは2.70≦x≦3.60である。水素吸蔵合金粒子内部のNi含有割合が高いと、水素吸蔵材の微粉化が進行しやすく、耐食性が低下し、二次電池に用いた場合にサイクル特性が低下するおそれがある。水素吸蔵合金粒子内部のNi含有割合が低いと、放電性能が低下し、二次電池に用いた場合に十分な放電容量が得られない。一方で、Niが水素吸蔵合金粒子の表面に存在することで水素吸蔵材全体での電気的な触媒能が向上し、低温での放電特性が向上する。
【0044】
式(2)中、yはAlの含有割合を表す。yは0≦y≦0.50、好ましくは0.05≦y≦0.50、更に好ましくは0.05≦y≦0.30である。Alは必ずしも必要ではないが、Alを含有することで水素吸蔵材の耐食性が向上し、二次電池に用いた場合にサイクル特性の向上に寄与する。またAlは水素吸蔵材の水素吸蔵放出時の平衡圧を低くする傾向にあり、二次電池とした場合に初期容量等の改善に寄与する。一方、Al量が多すぎると十分な水素吸蔵量が得られず、Alの偏析により十分な耐食性が得られないおそれがある。
【0045】
式(2)中、MはR、Mg、Ni、及びAl以外の1種以上の任意元素であり、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、B、Ga、Sn、Sb、In、C、Si、及びPからなる群より選ばれる1種以上の元素を示す。Mとしては電池の用途によりその特性の微調整に寄与する元素を任意に選択することができる。好ましくは、MはTi、Nb、Mo、W、Mn、Fe、Co、Cu、B、及びSnからなる群より選ばれる1種以上の元素である。Mとして、例えばTi、Nb、Mo、W、Fe、Cu、Sn、及びBからなる群より選ばれる元素を含有させることにより、水素吸蔵材の微粉化を抑制し、若しくは電解液へのAlの溶出を抑制することができる。
【0046】
式(2)中、zはMの含有割合を表す。zは0≦z≦1.00、好ましくは0≦z≦0.50である。Mは必ずしも必要ではないが、電池の用途により特性の微調整が必要な場合に含有させることができる。
【0047】
式(2)中のx+y+zは、RとMg以外の元素の含有割合の合計を表す。これらの元素は主に水素吸蔵材の微粉化に影響し、二次電池とした場合に特にサイクル特性等の向上に寄与する。x+y+zは、2.70≦x+y+z≦4.20であり、好ましくは2.70≦x+y+z≦3.80、更に好ましくは2.70≦x+y+z≦3.60ある。
【0048】
次に、水素吸蔵合金粒子を調製する方法及び該粒子の表面に表面修飾物質を付着させる方法、即ち本発明の水素吸蔵材を製造する方法について説明する。
【0049】
水素吸蔵合金粒子を調製する方法は特に限定されず、公知の方法から選択してよい。例えば、単ロール法、双ロール法、ディスク法等のストリップキャスト法や、金型鋳造法が挙げられる。また、水素吸蔵合金粒子に含まれるMgの濃度が、該合金粒子の外表面から中心部に向かって、段階的に減少する濃度勾配を有する水素吸蔵合金粒子の製造方法である特許第5856056号記載の方法も用いることができ、より本発明の効果が得られ易い点から当該特許の方法を用いるのが好ましい。
【0050】
ストリップキャスト法では、所定の合金組成となるように配合した原料を準備する。次いで不活性ガス雰囲気下、配合した原料を加熱溶解して合金溶融物とした後、該合金溶融物を銅製水冷ロールに注湯し、急冷却・凝固して合金鋳片を得る。一方、金型鋳造法では、前述の方法で得られた合金溶融物を水冷銅鋳型に注湯し、冷却・凝固して鋳塊を得る。ストリップキャスト法と金型鋳造法では冷却速度が異なり、偏析が少なく組成分布が均一な合金を得る場合にはストリップキャスト法が好ましい。また、偏析が少なく組成分布が均一な合金とするため、熱処理することができる。
【0051】
特許第5856056号記載の方法では、少なくともMgを含有しない合金粉末を調製する工程(A)と、前記Mgを含有しない合金粉末の製造方法とは別に、金属Mg又はMg含有合金の粉末を調製する工程(B)と、工程(A)及び(B)で調製した粉末を混合する工程(C)と、得られた混合物を熱処理する工程(D)と、熱処理して得られた合金粉末を解砕若しくは粉砕する工程(E)とを行い、水素吸蔵合金粒子を得る。
【0052】
工程(A)は、公知の方法により行われる。例えば前記ストリップキャスト法や金型鋳造法が挙げられ、偏析が少なく組成分布が均一な合金が得られるストリップキャスト法が好ましい。次に、鋳造して得られた合金を粉砕して合金粉末を得る。粉砕は公知の粉砕機を用いて行うことができる。このMgを含有しない合金粉末に対し、後述する熱処理の工程(D)においてMgの拡散・反応をスムーズに行うには、該合金粉末の平均粒径(D50)は20~100μmであるのが好ましい。このときの粉末の平均粒径(D50)は、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(製品名「マイクロトラック MT3300EXII、日機装製(現マイクロトラックベル)社製)によって測定することができる。
【0053】
工程(B)において、金属Mgの粉末は、Mg地金を公知の粉砕機を用いて粉砕して作製することができる。Mg含有合金の粉末は、前記Mgを含有しない合金と同様の方法で作製することができる。後述する熱処理の工程(D)においてMgの蒸発を防止するため、Mg含有合金の融点は金属Mgの沸点以下のなるべく低い温度であることが好ましい。例えば、金属Mgと組み合わせる元素としては、Al、Cu、Zn、Ga、Sn及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。特に好ましいのは、合金融点が金属Mgの融点以下となるMg-Al合金、Mg-In合金、Mg-Zn合金等が挙げられる。また金属Mgと組み合わせるRは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、それらを含むMm(ミッシュメタル)、Y、Eu、Yb等が挙げられる。前記Mgを含有しない合金粉末に対し、後述する熱処理の工程(D)においてMgの拡散・反応をスムーズに行うには、金属Mg又はMg含有合金の粉末の粒径は、平均粒径(D50)が20~2000μmであるのが好ましく、更に好ましくは20~1500μmである。このときの粉末の平均粒径(D50)は、Mgを含有しない合金粉末と同様の方法で測定することができる。
【0054】
工程(C)において、工程(A)及び(B)で調製した、Mgを含有しない合金粉末と、金属Mg又はMg含有合金の粉末とを所望する水素吸蔵合金粒子の組成となるように配合し、混合する。後述する熱処理の工程(D)においてMgの拡散・反応を効率よく行うため、なるべく均一な混合状態とすることが好ましい。混合は公知の混合機を用いて行うことができる。例えば、ダブルコーン、V型等の回転型混合機、羽根型、スクリュー型等の撹拌型混合機等を使用して行うことができる。また、ボールミル、アトライターミル等の粉砕機を使用し、Mgを含有しない合金粉末と、金属Mg又はMg含有合金の粉末とを粉砕しながら混合することも可能である。後述する工程(D)におけるMgの拡散・反応は、通常400~1090℃と比較的低い温度で行うことができる。このため、Mg等の成分の蒸発は多くはないが、厳密には各成分の歩留りを考慮して、所望する組成の合金が得られるように、Mgを含有しない合金粉末と、金属Mg又はMg含有合金の粉末とを配合する。
【0055】
工程(D)において、得られた混合物を、好ましくは400~1090℃で、0.5~240時間熱処理する。この熱処理工程は、雰囲気制御が可能な公知の熱処理炉で行うことができる。その際、混合物を混合しながら熱処理を行うことができる。例えば、ロータリーキルン炉のような回転炉を用いてもよい。このとき金属Mg又はMg含有合金の粉末からMgが、Mgを含有しない合金粉末の内部へ拡散・反応し、水素吸蔵合金粒子を得ることができる。このときの熱処理温度はMgの蒸発が抑制され、かつ拡散・反応が進行しやすい温度、時間で行うことが好ましい。熱処理温度は500~1080℃が特に好ましい。また熱処理時間は1~24時間が特に好ましい。Mgは酸化しやすいため、熱処理を行う雰囲気は真空又は不活性ガス雰囲気が好ましい。更に好ましくは不活性ガス雰囲気で、かつ加圧した雰囲気で行うことである。この場合、Mgの酸化を防ぐと同時に蒸発も抑止できる。
【0056】
前記工程(D)の熱処理は、400~1090℃の範囲で2段階以上に分けて行うことができる。例えば、金属Mg又はMg含有合金の粉末の融点を少し超えた温度域で保持した後、昇温して、より高温域で保持して行うことができる。このように行うことで、より均一に上述の拡散・反応を行うことができ、得られる水素吸蔵合金粒子の外表面から中心部に向かって、少なくともMgの濃度が段階的に減少する濃度勾配を有する水素吸蔵合金粒子を得ることができる。前記2段階の熱処理は、例えば、660~750℃で、0.1~2.0時間保持した後、900~1090℃で、4~24時間保持して行うことができる。
【0057】
工程(E)において、熱処理して得られた合金粉末を解砕若しくは粉砕することによって、水素吸蔵合金粒子を得ることができる。解砕若しくは粉砕は、得られる水素吸蔵合金粒子の平均粒径(D50)が20~100μmとなるように行うことが好ましい。解砕若しくは粉砕する方法は、フェザーミル、ハンマーミル、ボールミル、アトライターミル等の公知の粉砕機を用い、粉砕条件を適宜変更することで行うことができる。
【0058】
本発明では、水素吸蔵合金粒子と表面修飾物質前駆体とを混合して混合物を得る工程(1)と、混合物を熱処理して熱処理物を得る工程(2)と、熱処理物を解砕若しくは粉砕する工程(3)とを含む方法によって、水素吸蔵合金粒子の表面に表面修飾物質を付着させ、水素吸蔵材を得ることができる。表面修飾物質前駆体としてはNi粉末が使用できる。本発明では、特定の条件下で水素吸蔵合金粒子に表面修飾物質を付着させることによって、特定の組成分布及び付着状態を有する水素吸蔵材を得る。本発明の特定の組成分布及び付着状態をX線回折ピーク強度以外の数値範囲で規定することは困難であるが、特定の条件下で特定の組成分布及び付着状態を形成することによって二次電池の放電特性を改善する効果が得られることは、後述する実施例より明らかである。
【0059】
工程(1)において、水素吸蔵合金粒子と表面修飾物質前駆体とを所定の割合で混合して混合物を調製する。低温での放電特性を向上させるため、なるべく均一な混合状態とすることが好ましい。混合は公知の方法で行うことができる。例えば、乳鉢上で混合することもできるし、ダブルコーン、V型等の回転型混合機、羽根型、スクリュー型等の撹拌型混合機等を使用して行うこともできる。また、ボールミル、アトライターミル等の粉砕機を使用し、水素吸蔵合金粒子と表面修飾物質前駆体とを粉砕しながら混合することも可能である。
【0060】
表面修飾物質前駆体としてNi粉末を用いる場合、Ni粉末の平均粒径(D50)は、好ましくは0.05μm以上5.00μm以下、より好ましくは0.05μm以上3.00μm以下、更に好ましくは0.10μm以上2.50μm以下、特に好ましくは0.50μm以上2.50μm以下である。この平均粒径(D50)は、Mgを含有しない合金粉末と同様の方法で測定することができる。
【0061】
工程(1)において、表面修飾物質前駆体としてNi粉末を用いる場合、100質量部の水素吸蔵合金粒子に対して、0.6質量部以上6.0質量部以下のNi粉末を使用することが好ましい。このNi粉末の混合量は、より好ましくは0.6質量部以上5.0質量部以下、特に好ましくは0.8質量部以上5.0質量部以下である。この混合量が0.6質量部未満の場合、水素吸蔵合金粒子表面に付着する表面修飾物質が少なくなり、十分に電気的な触媒能が得られず、低温での放電特性が向上しないおそれがある。また混合量が6.0質量部を超える場合、合金全体の容量が低下し、また耐食性も低下して、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0062】
工程(2)において、工程(1)で得られた混合物を熱処理して熱処理物を得る。熱処理の温度は好ましくは550℃以上950℃以下であり、更に好ましくは600℃以上850℃以下である。熱処理の時間は好ましくは1時間以上24時間以下であり、より好ましくは1時間以上10時間以下であり、更に好ましくは2時間以上6時間以下であり、特に好ましくは2時間以上5時間以下である。熱処理温度が550℃未満の場合、水素吸蔵合金粒子表面に電気的な触媒能を有する表面修飾物質を形成することができず、低温での放電特性が向上しないおそれがある。また熱処理温度が950℃を超える温度で熱処理を行うと、所望の相とは別の相が成長し、全体の相比率が崩れ、且つ電気的な触媒能を有する表面修飾物質を形成することができず、Niが水素吸蔵合金粒子表面に残らず、該粒子内部にまで拡散してしまい、水素吸蔵材全体の耐食性が低下し、サイクル特性が低下するおそれがある。熱処理は、雰囲気制御が可能な方法や設備で行うことができ、熱処理を行う雰囲気は真空又は不活性ガス雰囲気が好ましい。更に好ましくは不活性ガス雰囲気で、かつ加圧した雰囲気で行う方法であるが、所望の水素吸蔵材を得ることができれば、特に熱処理方法は限定されない。
【0063】
工程(1)で混合する表面修飾物質前駆体の量と工程(2)における熱処理条件との組み合わせを、水素吸蔵合金粒子の組成に応じて適宜選択することによって、上述した最大ピークP、P、及びPの相対強度を所定の上記範囲内に調整することができる。
【0064】
工程(3)において、工程(2)で得られた熱処理物を解砕若しくは粉砕して、水素吸蔵材を得ることができる。解砕若しくは粉砕は、水素吸蔵材の平均粒径(D50)が20~100μmとなるように行うことが好ましい。解砕若しくは粉砕は、フェザーミル、ハンマーミル、ボールミル、アトライターミル等の粉砕機を用い、粉砕条件を適宜変更して行うことができる。
【0065】
本発明の水素吸蔵材はニッケル水素二次電池用の負極活物質に使用することができる。本発明の負極はこの水素吸蔵材からなる負極活物質を含む。この負極において、負極活物質である水素吸蔵材の含有割合は、導電剤、結着剤等の集電体以外の材料の合計量に対し、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
【0066】
導電剤としては既知のものが使用でき、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック等カーボンブラック、黒鉛等の炭素質材料や、銅、ニッケル、コバルト等が挙げられる。
【0067】
結着剤としては既知のものが使用でき、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4-フッ化エチレン-6-フッ化プロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
【0068】
集電体としては、例えば、パンチングメタル、発泡メタル等を用いることができる。通常、ニッケル水素二次電池用負極は、いわゆるペースト式で作製されるため、パンチングメタルを用いる。ペースト式負極は、本発明の水素吸蔵材と上述した結着剤に、必要に応じて導電剤、酸化防止剤、界面活性剤、増粘剤等を添加し、水を溶媒として混合してペースト状とし、このペーストを集電体に塗布、充填、乾燥した後、ローラープレス等を施すことにより作製される。
【0069】
必要に応じ、本発明の負極の表面には撥水層や導電層等を形成することができる。これらは公知の方法で形成できる。例えば、撥水層はフッ素樹脂ディスパーション等を塗布、乾燥して形成でき、導電層はメッキ等により形成できる。
【0070】
本発明のニッケル水素二次電池は上記本発明の負極を備える。それ以外の構成は、公知のものを用いることができる。
【0071】
ニッケル水素二次電池の形状は、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状とすることができる。いずれの形状であっても、ニッケル水素二次電池は負極とセパレータと正極を積層した電極群をステンレス等からなる缶体に収納して得られる。円筒形状の場合、通常、缶体を負極端子とするため、負極を外側にして電極群を渦巻き状に巻いて缶体に挿入することにより、負極と負極端子を接続する。正極は通常リードにより正極端子に接続する。
【0072】
セパレータとしては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン製等の高分子繊維不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質高分子膜等を用いることができる。
【0073】
正極は、通常、ニッケル酸化物を含み、例えば、非焼結式ニッケル電極等が用いられる。非焼結式ニッケル電極は、水酸化ニッケルと、必要に応じて添加される水酸化コバルト、一酸化コバルト、金属コバルト等を、結着剤とともに水を溶媒として混合してペースト状とし、このペーストを発泡メタル等の集電体に充填、乾燥した後、ローラープレス等を施すことにより作製できる。
【0074】
電極群を収納した容器内に、アルカリ電解液として6~8規定の水酸化カリウム溶液を注入する。アルカリ電解液には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等を添加してもよい。通常、容器内には、電池を密閉するためのガスケットや電池内の圧力が上昇した際に作動する安全弁を設ける。
【実施例0075】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されない。
【0076】
実施例1
表1に示す組成を有する水素吸蔵合金粒子を調製するために、まずMg以外の成分原料を秤量し、高周波溶解炉にてアルゴンガス雰囲気中で溶解し、合金溶融物とした。続いて、この合金溶融物の注湯温度を1400℃として、銅製水冷ロールを用いた単ロール鋳造装置によるストリップキャスト法にて急冷・凝固し、平均の厚みが0.35mmである合金鋳片を得た。ボールミルを用いて得られた合金鋳片を粉砕し、平均粒径(D50)が75μmの粒度の合金粉末を得た。得られた合金粉末の組成をICPで分析したところ、La0.14Sm0.80Zr0.02Ni3.26Al0.24であった。
【0077】
上記合金粉末と平均粒径(D50)が110μmの金属Mg粉末を乳鉢でよく混合し、アルゴンガス雰囲気中、700℃で30分間保持した後、970℃に昇温して12時間保持した。得られた合金粉末の組成をICPで分析したところ、La0.14Sm0.80Zr0.02Mg0.04Ni3.26Al0.24であった。熱処理後の合金粉末を粉砕し、平均粒径(D50)が37μmの水素吸蔵合金粒子を得た。
【0078】
上記で得られた水素吸蔵合金粒子と、平均粒径(D50)が0.6μmのNi粉末とを乳鉢でよく混合し、アルゴンガス雰囲気中、650℃で3時間保持して熱処理物を得た。水素吸蔵合金粒子100質量部に対するNi粉末の量は1.5質量部とした。得られた熱処理物を解砕し、平均粒径(D50)が37μmの水素吸蔵材を得た。得られた水素吸蔵材の組成をICPで分析したところ、La0.14Sm0.80Zr0.02Mg0.04Ni3.35Al0.24であった。
【0079】
Cu-Kα線をX線源とするX線回折測定を行い、上記水素吸蔵材のX線回折パターンを得た。このX線回折パターンにおいて、2θ=42.00°~44.00°の範囲の最大ピークPmaxの相対強度を100.00%としたときの、2θ=30.35°~30.65°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度、2θ=32.85°~33.15°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度、及び2θ=51.65°~51.95°の範囲に現れる最大ピークPの相対強度を算出した。水素吸蔵材の組成、水素吸蔵合金粒子の組成、Ni粉末の量、及び熱処理条件を表1に示す。また、最大ピークP、P、及びPの相対強度を表3に示す。更に、実施例1の水素吸蔵材のX線回折パターンを図1に示し、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JXA8800)による10,000倍のSEM像を図2に示す。
【0080】
-電池特性評価試験-
得られた水素吸蔵材の電池特性を下記の通り測定した。電池特性評価試験の結果を表3に示す。
【0081】
(常温放電容量)
0.15gの水素吸蔵材と0.45gのカルボニルニッケル粉末を乳鉢でよく混合し、得られた混合物を2000kgf/cmで加圧プレスすることで、直径10mmのペレットを作製した。次いで、ペレットをニッケル製金網の間に挟み込み、周辺をスポット溶接して圧接し、更にニッケル製リードを金網にスポット溶接することで、負極を作製した。得られた負極を対極の焼結式ニッケル電極と共に8N-KOH水溶液に浸漬し、常温(25℃)の温度下にて充放電サイクル試験を行った。充放電は、充放電装置(計測器センター製、商品名BS2500-05R1)を使用し、水素吸蔵材1g当たり150mAの電流で170分間充電し、10分間休止した後、水素吸蔵材1g当たり150mAの電流で酸化水銀電極に対して-0.7Vになるまで放電を行うサイクルを15回繰り返し、このときの最大の放電容量を水素吸蔵材の常温放電容量とした。
【0082】
(低温放電容量)
上記常温放電容量の測定に続いて低温放電容量の測定を行った。常温(25℃)の温度下で水素吸蔵材1g当たり150mAの電流で170分間充電し、10分間休止した後、低温(-30℃)まで冷却し、5時間放置した。その後、水素吸蔵材1g当たり150mAの電流で酸化水銀電極に対して―0.7Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を水素吸蔵材の低温放電容量とした。
【0083】
(サイクル特性)
上記低温放電容量の測定に続いてサイクル特性の測定を行った。この測定は、上記低温放電容量の測定において一度低温(-30℃)状態となった水素吸蔵材を、引き続き常温(25℃)へ戻して放電容量を測定することで、環境変化に対する適応能力、言い換えれば耐久性を見極めるためのものである。本発明では、上記低温放電容量及びこのサイクル特性の両方を含めて低温放電特性の評価とする。常温(25℃)の温度下で水素吸蔵材1gあたり300mAの電流で90分間充電し、10分間休止した後、水素吸蔵材1gあたり300mAの電流で酸化水銀電極に対して-0.7Vになるまで放電を行うサイクルを100サイクルまで行った。このときのサイクル(上記常温放電容量測定及び低温放電容量測定と合わせて17~116サイクル目)中における最大放電容量、及び116サイクル時の放電容量を基に、下記式のとおりサイクル特性を定義した。サイクル特性(%)=(116サイクル時の放電容量/サイクル中の最大放電容量)×100
【0084】
なお、上記のように計算した、一度低温状態とした後の常温でのサイクル特性が85%未満であると、水素吸蔵材は低温放電特性(耐久性)に劣っており、低温での使用には適していない。このサイクル特性は、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上である。サイクル特性が90%以上であると、低温放電特性(耐久性)が非常に優れていると言える。なお、低温(-30℃)のほうが常温(25℃)よりも過酷な環境であり、水素吸蔵材への負荷が大きい。そのため、低温放電容量が常温放電容量よりも劣ることから、低温でのサイクル特性も常温サイクル特性よりも劣ると推測される。
【0085】
比較例1
実施例1で調製した水素吸蔵合金粒子にNi粉末を付着させず、そのまま比較例1の水素吸蔵材として使用した。水素吸蔵材の組成(水素吸蔵合金粒子の組成と同様)を表2に示す。また、実施例1と同様にX線回折測定及び電池特性評価試験を行った結果を表3に示す。更に、比較例1の水素吸蔵材のX線回折パターンを図1に示し、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JXA8800)による10,000倍のSEM像を図3に示す。
【0086】
比較例2
実施例1で調製した水素吸蔵合金粒子にNi粉末を混合せず、熱処理を600℃で3時間行ったこと以外は実施例1と同様に、比較例2の水素吸蔵材を調製した。水素吸蔵材の組成(水素吸蔵合金粒子の組成と同様)及び熱処理条件を表2に示す。また、実施例1と同様にX線回折測定及び電池特性評価試験を行った結果を表3に示す。
【0087】
実施例2~28、比較例3~5及び7~9
水素吸蔵材の組成、水素吸蔵合金粒子の組成、Ni粉末の量、及び熱処理条件を表1及び2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に、実施例2~28と比較例3~5及び7~9の水素吸蔵材をそれぞれ調製した。ただし、上記平均粒径(D50)0.6μmのNi粉末に替えて、実施例19ではD50が2.4μmのNi粉末を使用し、実施例20ではD50が2.0μmのNi粉末を使用し、実施例21ではD50が3.5μmのNi粉末を使用した。実施例1と同様にX線回折測定及び電池特性評価試験を行った結果を表3に示す。
【0088】
比較例6
工程(2)の熱処理を行わなかったこと以外は実施例5と同様に、比較例6の水素吸蔵材を調製した。水素吸蔵材の組成、水素吸蔵合金粒子の組成、及びNi粉末の量を表2に示す。また、実施例1と同様にX線回折測定及び電池特性評価試験を行った結果を表3に示す。
【0089】
比較例10
Ni粉末と混合せずに、実施例1で調製した水素吸蔵合金粒子1000gをpH=1.0の塩酸溶液1000gに浸漬し、30℃で10分間撹拌した。次いで、0.3重量%のリン酸水素二ナトリウム水溶液で塩素イオン濃度が5×10-6モル/g以下になるまで洗浄し、60℃で6時間真空乾燥を行って、比較例10の水素吸蔵材を得た。水素吸蔵材の組成及び水素吸蔵合金粒子の組成を表2に示す。また、実施例1と同様にX線回折測定及び電池特性評価試験を行った結果を表3に示す。
【0090】
比較例11
Ni粉末と混合せずに、実施例1で調製した水素吸蔵合金粒子1000gを48%の水酸化ナトリウム水溶液2000mLに浸漬し、90℃で40分間撹拌した。次いで、このアルカリ処理後の合金粉末を、ろ過、洗浄し、60℃で6時間真空乾燥を行って、比較例11の水素吸蔵材を得た。水素吸蔵材の組成(水素吸蔵合金粒子の組成と同様)を表2に示す。また、実施例1と同様にX線回折測定及び電池特性評価試験を行った結果を表3に示す。なお、当該アルカリ処理によって、水素吸蔵合金粒子の表面のAlが溶出したり、希土類成分が水酸化物等を形成することが考えられるが、表面の組成が僅かに変化するだけであり、粒子全体の組成には実質的に影響しない。
【0091】
図2及び図3に示すように、比較例1の水素吸蔵材の表面は滑らかな状態であったが、実施例1の水素吸蔵材の表面の一部には表面修飾物質が付着して微小な凹凸が形成されていた。また、図1及び表3から明らかなように、本発明の水素吸蔵材は特定のX線回折パターンを示し、その結果、ニッケル水素二次電池において低温放電特性を改善する顕著な効果を示した。特に、比較例4や比較例9では、最大ピークPの相対強度が4.00%以上という範囲を僅かに外れているだけであるにもかかわらず、低温放電特性が大幅に劣っていた。このことから、本発明の最大ピークP相対強度の数値範囲が臨界的意義を有することは明らかである。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
図1
図2
図3