(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023293
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】宿主細胞におけるフレーバー化合物の生成
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240214BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20240214BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/60
C12N15/52 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023193259
(22)【出願日】2023-11-13
(62)【分割の表示】P 2020545451の分割
【原出願日】2018-11-19
(31)【優先権主張番号】17202546.2
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521436038
【氏名又は名称】アクセンス アロマティック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ツァンカル, カタリナ
(72)【発明者】
【氏名】ビークウィルダー, マルティヌス ユリウス
(72)【発明者】
【氏名】ボシュ, ヘンドリック ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル シャフト, ペーテル ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーマン, ヴィルヘルミナ マリア ヨハンナ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フレーバー化合物(ラズベリーケトン)を産生することができる細胞を提供する。
【解決手段】チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現することができ、好ましくは発現し、かつ、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をさらに発現することができ、好ましくは発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現することができ、好ましくは発現する、原核微生物細胞を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現することができ、好ましくは発現し、かつ、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をさらに発現することができ、好ましくは発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現することができ、好ましくは発現する、原核微生物細胞。
【請求項2】
TAL活性を有する前記機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータ、サッカロスリクス・エスパナエンシス、又はフラボバクテリウム・ジョンソニアエに由来し、
4CL及びBASからなる群から選択される前記少なくとも1種の機能的酵素が、ニコチアナ・タバカム、アラビドプシス・タリアナ、フィスコミトレラ・パテンス、若しくはストレプトマイセス・セリカラーに由来する4CLであるか、又はルブス・イダエウス若しくはレウム・パルマツムに由来するBASであり、
前記任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、
請求項1に記載の原核微生物細胞。
【請求項3】
TAL活性を有する前記機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータに由来し、
4CL及びBASからなる群から選択される前記少なくとも1種の機能的酵素が、フィスコミトレラ・パテンスに由来する4CL及びレウム・パルマツムに由来するBASからなる群から選択され、
前記任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、
請求項1又は2に記載の原核微生物細胞。
【請求項4】
TAL活性を有する前記機能的異種酵素が、配列番号1、配列番号3、若しくは配列番号5と、好ましくは配列番号1と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号2、配列番号4、若しくは配列番号6と、好ましくは配列番号2と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされており、
前記4CLが、配列番号7、配列番号9、配列番号11、若しくは配列番号13と、好ましくは配列番号11と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号8、配列番号10、配列番号12、若しくは配列番号14と、好ましくは配列番号12と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされており、
前記BALが、配列番号15若しくは配列番号17と、好ましくは配列番号17と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号16若しくは配列番号18と、好ましくは配列番号18と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされており、
前記BARが、配列番号19と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号20と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項5】
前記酵素のうちの少なくとも1種をコードするポリヌクレオチド配列がコドン最適化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項6】
前記細胞が、グラム陽性原核微生物細胞、好ましくはコリネバクテリウム、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム、さらにより好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032、さらにより好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032と比較して少なくとも2倍多くのL-チロシンを産生することができるコリネバクテリウムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項7】
前記酵素のうちの少なくとも2種が、単一の組換えポリヌクレオチド構築物によってコードされている、請求項1~6のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項8】
少なくとも5mg/Lのラズベリーケトンを産生することができる、請求項1~7のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項9】
前記細胞が、コリネバクテリウム・グルタミクムである、請求項1~8のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項10】
前記細胞が、コリネバクテリウム・グルタミクムであり、少なくとも5mg/Lのラズベリーケトンを産生することができる、請求項1~9のいずれか一項に記載の原核微生物細胞。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞を生成する方法であって、
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、原核細胞を接触させるステップと、
4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をコードする発現構築物と、前記原核細胞を接触させるステップと、
任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、前記原核細胞を接触させるステップと
を含む、方法。
【請求項12】
ラズベリーケトンを生成する方法であって、
ラズベリーケトンの生成を促す条件下で、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞を培養するステップと、
任意選択で、前記ラズベリーケトンを前記細胞及び/又は培養培地から単離及び/又は精製するステップと
を含む、方法。
【請求項13】
原核宿主細胞、好ましくはグラム陽性原核宿主細胞においてラズベリーケトンを生成するための、請求項1~4のいずれか一項に記載のチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素の使用。
【請求項14】
配列番号22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、若しくは70と、より好ましくは配列番号52と、若しくは配列番号70と、最も好ましくは配列番号70と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性を有する第1のポリヌクレオチドを含むか、又は、配列番号21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、若しくは69と、より好ましくは配列番号51と、若しくは配列番号69と、最も好ましくは配列番号69と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる、発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の発現ベクターから発現される、ポリペプチド生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、詳細には宿主細胞におけるフレーバー化合物(ラズベリーケトン)の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
ラズベリーケトンは、典型的なラズベリーの特徴及び低い臭気閾値を有する重要なフレーバー化合物のうちの1つである。ラズベリーケトンは、食品産業において広く使用されている高価なフレーバー化合物である。ラズベリーケトンは、当然ながらラズベリー(ルブス・イダエウス)(Rubus idaeus)中に天然に見出されるが、他の果実、例えば、モモ、ブドウ、リンゴ、ベリーのいくつかの種において、ルバーブなどの野菜において、並びにいくつかの樹木、例えば、イチイ、カエデ、及びマツの樹皮においても見出される。
【0003】
ラズベリーケトンは、様々な目的で、例えば、イチゴの芳香、キーウィの芳香、及びサクランボの芳香などの複数の芳香の配合において、並びに化粧品において、及び抗肥満剤として、使用される。
【0004】
ラズベリーケトンの天然源から商業的に適切な方法でラズベリーケトンを得るのは単純なことではないが、その理由は、ラズベリーケトンを含有する果実及び他の源における含有量が低いため、抽出及び精製のプロセスに収益性がないからである(ラズベリー1kg当たりに得ることができるラズベリーケトンは4mg未満である)。これまで、ラズベリーケトンは、環境に優しくないプロセスであるp-ヒドロキシベンズアルデヒドとアセトンの縮合によって化学的に生成されてきた。加えて、フレーバー化合物の化学合成は、望ましくないラセミバリアント及びラセミ混合物をもたらすことが多い(Vandamme及びSoetaert 2002年、J Chem Techno Biotechnol 77巻:1323~1332頁)。
【0005】
ラズベリーにおいて、ラズベリーケトンの合成は、フェニルプロパノイド経路の二酵素部分である。この経路は、Borejsza-Wysocki及びHrazdina(1994年)によって説明されている。第1のステップにおいて、クマロイル-CoA(多くの植物組織中に存在する)が、1つのマロニルCoAと縮合して、ベンザルアセトン(p-ヒドロキシフェニルブタ-3-エン-2-オン)になる。このステップを触媒する酵素は、ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)と呼ばれる。第2のステップにおいて、ベンザルアセトン中の二重結合が還元され、ラズベリーケトン(p-ヒドロキシフェニル-2-ブタノン)がもたらされる。このステップを触媒する酵素は、ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)と呼ばれ、この酵素は、NADPHの存在を必要とする。
【0006】
ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)、EC 2.3.1.-は、ポリケタイドシンターゼファミリーのメンバーである。ベンザルアセトンシンターゼは、マロニル-CoAの1つのアセトン単位を1つのp-クマル酸と縮合して、ベンザルアセトンを生じる。ポリケタイドシンターゼファミリーについては、Schroder(1999年)に詳細に記載されている。Abeら(2001年)は、ルバーブからのBAS遺伝子のクローニングを教示している。Koedukaら(2011年)は、ラズベリーBASの特徴付けについて教示している。
【0007】
NADPHを使用した二重結合の還元を触媒する可溶性酵素、例えばベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)は、国際生化学分子生物学連合により、酵素クラスEC 1.3.1.Xに属するものとして分類されている。例えば、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)由来のEC 1.3.1.11とアノテートされる酵素は、クマレートから二重結合を除去すると報告されたが(Levi及びWeinstein、1964年)、この酵素活性に関連して識別されている遺伝子はない。酵素クラスEC 1.3.1.Xにおける他の酵素は、オロト酸レダクターゼ、2-ヘキサデセナールレダクターゼ、コレステノン5アルファ-レダクターゼなどであり、これらの遺伝子は公知である。しかしながら、これらの酵素のうち、ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)活性を有すると報告されたものはない。4-ヒドロキシベンザルアセトンが、ピキア(Pichia)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、ビューベリア(Beauveria)、クロエケラ(Kloeckera)、アウレオバシジウム(Aureobasidium)、クラドスポリウム(Cladosporium)、ゲオトリクム(Geotrichum)、ムコール(Mucor)、及びカンジダ属(Candida spp.)などの真菌又は酵母によってラズベリーケトンに変換され得ることは、文献から公知である(Fuganti及びZucchi、1998年)。Beekwilderら(2007年)は、大腸菌(E.coli)においてBAR活性が存在すると報告している。しかしながら、この酵素活性に関連して識別されている遺伝子はない。
【0008】
ラズベリーケトンを生合成する試みについては記載されている。Huguenyら(1995年、Bioflavour 95巻、269~273頁)は、ラズベリーケトンを生成するためのバイオテクノロジー方法を教示している。この方法は、第2級アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を有する微生物、例えば、カンジダ・ボイジニ(Candida boidinii)を培養することと、培養培地に前駆体ベツロシドを添加することとを含む。この細胞環境において、第2級ADHは、ベツリゲノールを脱水素してラズベリーケトンにする。Abeら(2001年)は、ルバーブBASのクローニング、大腸菌における遺伝子の発現、組換えBASタンパク質の精製、及びベンザルアセトンのインビトロ合成について教示している。しかしながら、この研究は、ベンザルアセトン又はラズベリーケトンのインビボ合成については教示していない。
【0009】
EP1226265は、ラズベリーケトンの前駆体として使用され得るパラヒドロキシケイ皮酸、別称p-クマル酸の生物学的生成について教示している。EP1226265は、フェニルアンモニアリアーゼ酵素(PAL)(EC4.3.1.5)について記載しているが、ラズベリーケトンのインビボ合成については教示していない。GB2416769及びGB2416770は、大腸菌における、発酵に添加される前駆体p-クマル酸からのラズベリーケトンの生物学的生成について記載している。同様に、Beekwilderら(2007年)では、大腸菌において、発酵に添加される前駆体p-クマル酸からラズベリーケトンが生成されている。2016年において、Leeらは、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)における、発酵に添加される前駆体p-クマル酸からのラズベリーケトンの生成の結果を発表した。加えて、Leeらは、嫌気的発酵を使用し、サッカロマイセス・セレビシエにより微量のラズベリーケトン(0.49mg/L)を生成した。微生物宿主細胞においてラズベリーケトンを生成できるようにするための前駆体の添加は、効率的ではない。加えて、嫌気的発酵における真核細胞の使用は、工業的規模においては確実に困難かつ非効率的である。よって、単純な発酵条件を使用した、原核微生物宿主細胞におけるラズベリーケトンのデノボの生物学的生成に対する必要性が存在する。これまで、かかる単純な好気性発酵を使用した、かかる原核宿主細胞によるラズベリーケトンのデノボの生物学的生成は提示されていない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、ラズベリーケトンを産生することができる細胞、及びこのような細胞が使用される方法に関する。第1の態様において、本発明は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現することができ、好ましくは発現し、かつ、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をさらに発現することができ、好ましくは発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現することができ、好ましくは発現する、原核微生物細胞を提供する。この態様の実施形態では、TAL活性を有する機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus)、サッカロスリクス・エスパナエンシス(Saccharothrix espanaensis)、又はフラボバクテリウム・ジョンソニアエ(Flavobacterium johnsoniae)に由来し、4CLが、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)、アラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)、又はストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)に由来し、BASが、ルブス・イダエウス又はレウム・パルマツム(Rheum palmatum)に由来し、任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、細胞が提供される。特定の実施形態において、この態様は、当該酵素のうちの少なくとも1種のポリヌクレオチド配列がコドン最適化されている、細胞を提供する。さらなる実施形態において、この態様は、細胞が、グラム陽性原核微生物細胞、好ましくはコリネバクテリウム(Corynebacterium)、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、さらにより好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032、さらにより好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032と比較して少なくとも2倍多くのL-チロシンを産生することができるコリネバクテリウムである、細胞を提供する。この態様の好ましい実施形態では、酵素のうちの少なくとも2種が、単一の組換えポリヌクレオチド構築物によってコードされている、細胞が提供される。この態様のさらに好ましい実施形態では、少なくとも5mg/lのラズベリーケトンを産生することができる、細胞が提供される。
【0011】
第2の態様において、本発明は、第1の態様による細胞を生成する方法であって、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、原核細胞を接触させるステップと、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップとを含む、方法を提供する。
【0012】
第3の態様において、本発明は、ラズベリーケトンを生成する方法であって、ラズベリーケトンの生成を促す条件下で、本発明の第1の態様による細胞を培養するステップと、任意選択で、ラズベリーケトンを細胞及び/又は培養培地から単離及び/又は精製するステップとを含む、方法を提供する。
【0013】
第4の態様において、本発明は、原核宿主細胞、好ましくはグラム陽性原核宿主細胞においてラズベリーケトンを生成するための、本発明の第1の態様に記載のチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素の使用を提供する。
【0014】
第5の態様において、本発明は、特定のオペロン配列を含む発現ベクターを提供する。第6の態様において、本発明は、第5の態様による発現ベクターから発現されるポリペプチド生成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】L-チロシンからラズベリーケトンを生成するための生合成経路;TAL=チロシンアンモニアリアーゼ;4CL=4-クマレート-CoAリガーゼ;BAS=ベンザルアセトンシンターゼ;BAR=ベンザルアセトンレダクターゼ。
【
図2】プラスミドpECXK_Pのプラスミドマップ;RpBAS=レウム・パルマツムベンザルアセトンシンターゼ、Pp4CL=フィスコミトレラ・パテンス4-クマレート-CoAリガーゼ、RcTAL=ロドバクター・カプスラータチロシンアンモニアリアーゼ、Laclq=リプレッサー遺伝子、Ptrc=IPTG誘導性Ptrcプロモーター;T1及びT2=rrnB転写ターミネーターT1及びT2;KanR=カナマイシン抵抗性;repA=複製起点pGA1;per=プラスミド複製の正のエフェクター。
【
図3】プラスミドpECXK_PBのプラスミドマップ;RpBAS=レウム・パルマツムベンザルアセトンシンターゼ;Pp4CL=フィスコミトレラ・パテンス4-クマレート-CoAリガーゼ;RcTAL=ロドバクター・カプスラータチロシンアンモニアリアーゼ;RiBAR=ルブス・イダエウスベンザルアセトンレダクターゼ;Laclq=リプレッサー遺伝子;Ptrc=IPTG誘導性Ptrcプロモーター;T1及びT2=rrnB転写ターミネーターT1及びT2;KanR=カナマイシン抵抗性;repA=複製起点pGA1;per=プラスミド複製の正のエフェクター。
【
図4A】大腸菌における4-クマル酸のデノボ生成。
図4A)Ec_RK_EV、
図4B)Ec_RK_P、及び
図4C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図4D)4-クマル酸標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。4-クマル酸のピークは、17.9分の保持時間において観察される。
【
図4B】大腸菌における4-クマル酸のデノボ生成。
図4A)Ec_RK_EV、
図4B)Ec_RK_P、及び
図4C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図4D)4-クマル酸標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。4-クマル酸のピークは、17.9分の保持時間において観察される。
【
図4C】大腸菌における4-クマル酸のデノボ生成。
図4A)Ec_RK_EV、
図4B)Ec_RK_P、及び
図4C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図4D)4-クマル酸標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。4-クマル酸のピークは、17.9分の保持時間において観察される。
【
図4D】大腸菌における4-クマル酸のデノボ生成。
図4A)Ec_RK_EV、
図4B)Ec_RK_P、及び
図4C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図4D)4-クマル酸標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。4-クマル酸のピークは、17.9分の保持時間において観察される。
【
図5A】大腸菌におけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成。
図5A)Ec_RK_EV、
図5B)Ec_RK_P、及び
図5C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図5D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図5B】大腸菌におけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成。
図5A)Ec_RK_EV、
図5B)Ec_RK_P、及び
図5C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図5D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図5C】大腸菌におけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成。
図5A)Ec_RK_EV、
図5B)Ec_RK_P、及び
図5C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図5D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図5D】大腸菌におけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成。
図5A)Ec_RK_EV、
図5B)Ec_RK_P、及び
図5C)Ec_RK_PBの菌株、並びに
図5D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図6A】C.グルタミクムにおけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成のHPLC分析。
図6A)Cg_RK_EV、
図6B)Cg_RK_P、及び
図6C)Cg_RK_PBの菌株、並びに
図6D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図6B】C.グルタミクムにおけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成のHPLC分析。
図6A)Cg_RK_EV、
図6B)Cg_RK_P、及び
図6C)Cg_RK_PBの菌株、並びに
図6D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図6C】C.グルタミクムにおけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成のHPLC分析。
図6A)Cg_RK_EV、
図6B)Cg_RK_P、及び
図6C)Cg_RK_PBの菌株、並びに
図6D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図6D】C.グルタミクムにおけるヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成のHPLC分析。
図6A)Cg_RK_EV、
図6B)Cg_RK_P、及び
図6C)Cg_RK_PBの菌株、並びに
図6D)ヒドロキシフェニルブテノン標準物質についてのHPLCクロマトグラムが示されている。ヒドロキシフェニルブテノンのピークは、23.1分の保持時間において観察され、矢印によって示されている。
【
図7A】C.グルタミクムにおけるラズベリーケトン生成のGC-MS分析。Cg_RK_EV、Cg_RK_P、及びCg_RK_PBの菌株についてのGC-MSクロマトグラムが
図7Aに示されている。ラズベリーケトンのピークは、14.2分の保持時間において観察される。
図7Bには、菌株Cg_RK_PBによって生成されたラズベリーケトンの質量スペクトルが示されている。
図7Cには、真正のラズベリーケトン標準物質の質量スペクトルが示されている。
【
図7B】C.グルタミクムにおけるラズベリーケトン生成のGC-MS分析。Cg_RK_EV、Cg_RK_P、及びCg_RK_PBの菌株についてのGC-MSクロマトグラムが
図7Aに示されている。ラズベリーケトンのピークは、14.2分の保持時間において観察される。
図7Bには、菌株Cg_RK_PBによって生成されたラズベリーケトンの質量スペクトルが示されている。
図7Cには、真正のラズベリーケトン標準物質の質量スペクトルが示されている。
【
図7C】C.グルタミクムにおけるラズベリーケトン生成のGC-MS分析。Cg_RK_EV、Cg_RK_P、及びCg_RK_PBの菌株についてのGC-MSクロマトグラムが
図7Aに示されている。ラズベリーケトンのピークは、14.2分の保持時間において観察される。
図7Bには、菌株Cg_RK_PBによって生成されたラズベリーケトンの質量スペクトルが示されている。
図7Cには、真正のラズベリーケトン標準物質の質量スペクトルが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
驚くべきことに、ラズベリーケトンは、単純な好気性発酵条件を使用し、組換え原核微生物宿主細胞によってグルコースからデノボで合成され得ることが、本発明者らによって確証された。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現することができ、好ましくは発現し、かつ、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をさらに発現することができ、好ましくは発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現することができ、好ましくは発現する、原核微生物細胞を提供する。このような原核微生物細胞を、以下、本発明による細胞という。
【0018】
好ましい実施形態において、この態様は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現し、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をさらに発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現する、原核微生物細胞を提供する。
【0019】
特定の実施形態において、この態様は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現し、機能的4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)酵素をさらに発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現する、原核微生物細胞を提供する。
【0020】
特定の実施形態において、この態様は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現し、機能的ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)酵素をさらに発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現する、原核微生物細胞を提供する。
【0021】
特定の実施形態において、この態様は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現し、機能的4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)酵素及び機能的ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)酵素をさらに発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現する、原核微生物細胞を提供する。
【0022】
特定の実施形態において、この態様は、チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現し、機能的4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)酵素及び機能的ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)酵素をさらに発現し、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現する、原核微生物細胞を提供する。
【0023】
原核微生物細胞は、当技術分野において周知である。原核生物は、膜結合核、ミトコンドリア、及び他の膜結合オルガネラが欠如している単細胞生物である。原核生物の例は、細菌及び古細菌である。好ましい原核細胞は、培養が十分に確立されているため、大腸菌(Escherichia coli)などの細菌、又は好ましくはコリネバクテリウムなど、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムなどのグラム陽性細菌である。好ましい実施形態において、この態様は、細胞が、グラム陽性原核微生物細胞、好ましくはコリネバクテリウム、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム、さらにより好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032、さらにより好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032と比較して少なくとも2倍多くのL-チロシンを産生することができるコリネバクテリウムである、本発明による細胞を提供する。菌株ATCC13032は、当業者には公知であり、この菌株は、DSM 20300、JCM 1318、LMG 3730、及びNCIMB 10025としても知られている。
【0024】
本出願の随所において、発現は、酵素などの機能的ポリペプチドをもたらす、機能的mRNAへの遺伝子の転写であると考えられる。酵素は、反応を触媒することができるポリペプチドである。これに関連して、酵素の発現の増加は、当該酵素をコードするmRNAのレベルの上昇、酵素ポリペプチドのレベルの上昇、又は当該酵素の全活性の増加と考えることができる。好ましくは、酵素の発現の増加は、当該酵素の活性の増加をもたらし、これは、酵素ポリペプチドのレベルの上昇によって引き起こされ得る。関連する反応を触媒することにおいて活性を示す酵素は、機能的酵素である。TAL、4CL、BAS、及びBARに関連する反応は、本明細書の他の箇所に記載する。活性は、クロマトグラフィー技術、例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、又は質量分析方法と有利に合わせたGC若しくは液体クロマトグラフィー、例えば、LCMS若しくはGCMSを使用して、生成物濃度の増加をモニタリングすることによって判定することができる。中間体の検出のための好ましい方法は、GCMSである。ラズベリーケトンの検出のための好ましい方法は、GCMSである。
【0025】
本出願との関連で、酵素を発現することができる細胞は、当該酵素を発現するために必要とされる遺伝情報、好ましくは当該酵素をコードする核酸を含む、細胞である。これは、酵素が必ず発現されることを意味するものではない。非限定的な一例として、酵素をコードする核酸を含み、この核酸が、特定の誘導に応答するプロモーターの制御下にある細胞では、プロモーターは必ずしも誘導されるわけではなく、したがってこの酵素は、必ずしも発現されるわけではないが、細胞は実際、このような発現が可能である。本発明の好ましい実施形態において、機能的酵素を発現することができる好ましい細胞は、当該機能的酵素を発現する細胞である。
【0026】
異種酵素は、異なる生物に由来する酵素である。異種ポリヌクレオチドは、異なる生物に由来するポリヌクレオチドである。異種ポリヌクレオチドは、合成ポリヌクレオチドであってもよい。好ましい実施形態において、当該酵素のうちの少なくとも1種をコードするポリヌクレオチド配列がコドン最適化されている、本発明による細胞が提供される。コドン最適化されたポリヌクレオチド配列は、コードされるポリペプチドを変化させることなく、代替的なコドンの選択によって、コドン使用バイアスが軽減されている配列である。例えば、稀なコドンを、より一般的なコドンに置き換えてもよいし、又は、多くの同一のコドンを含む領域を、同義的なコドンの置換によって中断して、多くの同一のコドンに対する必要性を低減させてもよい。コドン最適化は当技術分野で公知であり、コドン最適化のためのバイオインフォマティクスツールが、インターネット上で様々な提供元から自由に利用可能である。
【0027】
チロシンアンモニウムリアーゼ(以下、TALという)は、チロシンアンモニアリアーゼ、L-チロシンアンモニアリアーゼ、及びチラーゼとしても知られている。TALは、L-チロシンをp-クマル酸に変換し、アンモニウムを放出する、天然フェノール生合成経路における酵素(EC 4.3.1.23)である。P-クマル酸は、パラクマル酸、4-クマル酸、4-ヒドロキシケイ皮酸、及び(E)-3-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロペノン酸としても知られている。好ましいTAL又はTAL活性を有する好ましい酵素は、本発明による細胞とは異なる生物に由来するTAL又はTAL活性を有する酵素である、異種TAL又はTAL活性を有する異種酵素である。TAL又はTAL活性を有する酵素の源となり得る好ましい生物は、ロドバクター・カプスラータ(例えば、配列番号1によって表され、配列番号2によってコードされるRcTAL。Kyndtら、2002年FEBS Lett.512巻:240~244頁を参照されたい)、サッカロスリクス・エスパナエンシス(例えば、配列番号3によって表され、配列番号4によってコードされるSeSam8。Bernerら、2006年J Bacteriol 188巻:2666~2673頁を参照されたい)、及びフラボバクテリウム・ジョンソニアエ(例えば、配列番号5によって表され、配列番号6によってコードされるFjTAL。Jendersenら、2015年Appl Environ Microbiol 81巻:4458~4476頁を参照されたい)である。好ましいTAL又はTAL活性を有する酵素は、配列番号1、配列番号3、若しくは配列番号5と、好ましくは配列番号1と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号2、配列番号4、若しくは配列番号6と、好ましくは配列番号2と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされている。TALをコードする好ましいポリヌクレオチド、又はTAL活性を有する酵素をコードする好ましいポリヌクレオチドは、コドン最適化されている。酵素のTAL活性は、TAL活性について試験しようとする酵素を好適な緩衝液中でL-チロシンと接触させたときの、p-クマル酸の生成又はアンモニア放出をクロマトグラフ的にモニタリングすることにより、検定することができる。
【0028】
4-クマレート-CoAリガーゼ(以下、4CLという)は、4CL、4-クマロイル-CoAシンテターゼ、p-クマロイルCoAリガーゼ、p-クマリル補酵素Aシンテターゼ、p-クマリル-CoAシンテターゼ、p-クマリル-CoAリガーゼ、フェルロイルCoAリガーゼ、ヒドロキシシンナモイルCoAシンテターゼ、及び様々な他の名称としても知られている。4CLは、ATPの消費下で4-クマロイル-CoAを生じる、補酵素A(CoA)と4-クマレートのコンジュゲーションを触媒する酵素(EC 6.2.1.12)である。4-クマロイル-CoAは、クマロイル-CoAとしても知られている。好ましい4CLは、本発明による細胞とは異なる生物に由来する4CLである、異種4CLである。4CLの源となり得る好ましい生物は、ニコチアナ・タバカム(例えば、配列番号7によって表され、配列番号8によってコードされるNt4CL。Lee及びDouglas、1996年Plant Physiol.112巻:193~205頁を参照されたい)、アラビドプシス・タリアナ(例えば、配列番号9によって表され、配列番号10によってコードされるAt4CL。Ehltingら、1999年Plant.J.19巻:9~20頁)、フィスコミトレラ・パテンス(例えば、配列番号11によって表され、配列番号12によってコードされるPp4CL。Silberら、2008年Phytochem.69巻:2449~2456頁)、及びストレプトマイセス・セリカラー(例えば、配列番号13によって表され、配列番号14によってコードされるSc4CL)である。好ましい4CLは、配列番号7、配列番号9、配列番号11と、若しくは配列番号13、好ましくは配列番号11と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号8、配列番号10、配列番号12、若しくは配列番号14と、好ましくは配列番号12と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされている。4CLをコードする好ましいポリヌクレオチドは、コドン最適化されている。
【0029】
ベンザルアセトンシンターゼ(以下、BASという)は、植物特異的なIII型ポリケタイドシンターゼ(PKS)である。BASは、4-クマロイル-CoAの4-ヒドロキシベンザルアセトンへの変換を触媒する酵素(EC 2.3.1.212)である。4-ヒドロキシベンザルアセトンは、ヒドロキシフェニルブテノン、p-ヒドロキシベンザルアセトン、1-(4-ヒドロキシベンジリデン)アセトン、及び(3E)-4-(4-ヒドロキシフェニル)-3-ブテン-2-オンとしても知られている。好ましいBASは、本発明による細胞とは異なる生物に由来するBASである、異種BASである。BASの源となり得る好ましい生物は、ルブス・イダエウス(例えば、配列番号15によって表され、配列番号16によってコードされるRiPKS。Zheng及びHrazdina 2008年Arch Biochem Biophys 470巻:139~145頁を参照されたい)、及びレウム・パルマツム(例えば、配列番号17によって表され、配列番号18によってコードされるRpBAS。Abeら、2001年Eur J Biochem 268巻:3354~3359頁を参照されたい)である。好ましいBASは、配列番号15若しくは配列番号17と、好ましくは配列番号17と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号16若しくは配列番号18と、好ましくは配列番号18と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされている。BASをコードする好ましいポリヌクレオチドは、コドン最適化されている。
【0030】
ベンザルアセトンレダクターゼを、以下、BARという。BARは、4-ヒドロキシベンザルアセトンのラズベリーケトンへの変換を触媒する酵素(EC 1.3.1.-)である。ラズベリーケトンは、4-(4-ヒドロキシフェニル)ブタン-2-オン、p-ヒドロキシベンジルアセトン、4-(p-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノン、フランビノン、オキシフェニロン、レオスミン、及びラズケトンとしても知られている。好ましいBARは、本発明による細胞とは異なる生物に由来するBARである、異種BARである。BARの源となり得る好ましい生物は、ルブス・イダエウス(例えば、配列番号19によって表され、配列番号20によってコードされるRiBAR。Koedukaら、2011年Biochem Biophys Res Commun 412巻:104~108頁を参照されたい)。好ましいBARは、配列番号19と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号20と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされている。BARをコードする好ましいポリヌクレオチドは、コドン最適化されている。
【0031】
この態様において、
TAL活性を有する機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータ、サッカロスリクス・エスパナエンシス、又はフラボバクテリウム・ジョンソニアエに由来し、好ましくは、ロドバクター・カプスラータに由来し、
4CL及びBASからなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素が、ニコチアナ・タバカム、アラビドプシス・タリアナ、フィスコミトレラ・パテンス、若しくはストレプトマイセス・セリカラーに由来する4CLであるか、又はルブス・イダエウス若しくはレウム・パルマツムに由来するBASであり、好ましくは、BASが、レウム・パルマツムに由来し、好ましくは、4CLが、フィスコミトレラ・パテンスに由来し、
任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、
本発明による好ましい細胞が提供される。
【0032】
より好ましい実施形態では、
TAL活性を有する機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータ、サッカロスリクス・エスパナエンシス、又はフラボバクテリウム・ジョンソニアエに由来し、好ましくは、ロドバクター・カプスラータに由来し、
4CL及びBASからなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素が、ニコチアナ・タバカム、アラビドプシス・タリアナ、フィスコミトレラ・パテンス、若しくはストレプトマイセス・セリカラーに由来する4CLであるか、又はルブス・イダエウス若しくはレウム・パルマツムに由来するBASであり、好ましくは、BASが、レウム・パルマツムに由来し、好ましくは、4CLが、フィスコミトレラ・パテンスに由来し、
BARが、ルブス・イダエウスに由来する、
本発明による細胞が提供される。
【0033】
さらにより好ましい実施形態では、
TAL活性を有する機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータに由来し、
4CL及びBASからなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素が、フィスコミトレラ・パテンスに由来する4CL及びレウム・パルマツムに由来するBASからなる群から選択され、
任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、
本発明による細胞が提供される。
【0034】
特定の実施形態において、BAS及び4CLの両方が、本発明による細胞において発現される。このような実施形態では、
TAL活性を有する機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータ、サッカロスリクス・エスパナエンシス、又はフラボバクテリウム・ジョンソニアエに由来し、
4CLが、ニコチアナ・タバカム、アラビドプシス・タリアナ、フィスコミトレラ・パテンス、又はストレプトマイセス・セリカラーに由来し、
BASが、ルブス・イダエウス又はレウム・パルマツムに由来し、
任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、
本発明による細胞が提供される。
【0035】
より好ましいかかる実施形態では、
TAL活性を有する機能的異種酵素が、ロドバクター・カプスラータに由来し、
4CLが、フィスコミトレラ・パテンスに由来し、
BASが、レウム・パルマツムに由来し、
任意選択のBARが、ルブス・イダエウスに由来する、
本発明による細胞が提供される。
【0036】
この態様における好ましい実施形態では、本発明は、
TAL活性を有する機能的異種酵素が、配列番号1、配列番号3、若しくは配列番号5と、好ましくは配列番号1と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号2、配列番号4、若しくは配列番号6と、好ましくは配列番号2と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされており、
4CLが、配列番号7、配列番号9、配列番号11、若しくは配列番号13と、好ましくは配列番号11と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号8、配列番号10、配列番号12、若しくは配列番号14と、好ましくは配列番号12と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされており、
BASが、配列番号15若しくは配列番号17と、好ましくは配列番号17と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号16若しくは配列番号18と、好ましくは配列番号18と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされており、
BARが、配列番号19と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するか、又は、配列番号20と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによってコードされている、
本発明による細胞を提供する。
【0037】
この態様では、1種より多くの酵素をコードするポリヌクレオチド構築物を使用することが有利であり得る。例えば、ポリシストロニック構築物、又は1種より多くの酵素が単一のプロモーターの制御下にあるオペロンを使用してもよい。このような構築物は、当技術分野で周知の組換えDNA技術を使用して作出することができる。
【0038】
したがって、好ましい実施形態において、この態様は、酵素のうちの少なくとも2種が、単一の組換えポリヌクレオチド構築物によってコードされている、本発明による細胞を提供する。このような構築物は、プラスミドであってもよい発現ベクターに含まれていてもよい。2種の酵素は、単一の融合ポリペプチドであってもよい。
【0039】
ラズベリーケトンは、4-(4-ヒドロキシフェニル)ブタン-2-オンであり、p-ヒドロキシベンジルアセトン、4-(p-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノン、フランビノン、オキシフェニロン、レオスミン、及びラズケトンとしても知られている。ラズベリーケトンは、レッドラズベリーの主な芳香化合物である、天然のフェノール化合物である。ラズベリーケトンは、クランベリー及びブラックベリーも含む種々の果実において生じる。本発明による細胞は、ラズベリーケトンを産生することができ、培養するとラズベリーケトンを産生する。本発明による好ましい細胞は、少なくとも3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、又は50mg/L、好ましくは少なくとも5mg/Lのラズベリーケトンを産生することができ、好ましくは産生する。より好ましくは、本発明による細胞は、少なくとも100mg/L、200mg/L、300mg/L、400mg/L、500mg/L、600mg/L、700mg/L、800mg/L、900mg/L、1g/L、2g/L、3g/L、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、8g/L、9g/L、10g/L、11g/L、12g/L、13g/L、14g/L、15g/L、16g/L、17g/L,18g/L、19g/L、20g/L、21g/L、22g/L、23g/L、24g/L、又は25g/Lのラズベリーケトンを産生することができ、好ましくは産生する。好ましくは、ラズベリーケトンは、本発明による細胞及び/又は本発明による細胞の培養ブロス若しくは前記細胞が培養されるヘッドスペースにおいて検出される。
【0040】
したがって、この態様は、少なくとも5mg/Lのラズベリーケトンを産生することができる、本発明による細胞を提供する。好ましい実施形態は、少なくとも1g/Lのラズベリーケトンを産生することができる、本発明による細胞を提供する。より好ましい実施形態は、少なくとも5g/Lのラズベリーケトンを産生することができる、本発明による細胞を提供する。さらにより好ましい実施形態は、少なくとも10g/Lのラズベリーケトン、最も好ましくは少なくとも20g/Lのラズベリーケトンを産生することができる、本発明による細胞を提供する。ラズベリーケトンの産生は、産生培地から得られた試料にクロマトグラフィー技術を使用してモニタリングすることができる。このような量は、好ましくは、培養の最大2週間以内、1週間以内、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、1日以内、15時間以内、10時間、5時間、4時間、3時間、2時間以内、又は1時間以内、好ましくは培養の24時間後に得られる。
【0041】
細胞の生成
第2の態様において、本発明は、本発明による細胞を生成する方法を提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本発明の第1の態様の特徴である。この態様の実施形態では、本発明による細胞を生成する方法であって、
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、原核細胞を接触させるステップと、
4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと、
任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと
を含む、方法が提供される。
【0042】
この態様の好ましい実施形態では、本発明は、本発明による細胞を生成する方法であって、
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、原核細胞を接触させるステップと、
機能的4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及び機能的ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと、
任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと
を含む、方法が提供される。
【0043】
この態様の好ましい実施形態では、本発明は、本発明による細胞を生成する方法であって、
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、原核細胞を接触させるステップと、
機能的4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと、
任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと
を含む、方法が提供される。
【0044】
この態様の好ましい実施形態では、本発明は、本発明による細胞を生成する方法であって、
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、原核細胞を接触させるステップと、
機能的ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと、
任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、当該原核細胞を接触させるステップと
を含む、方法が提供される。
【0045】
コリネバクテリウム、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム
好適な細胞型については、本明細書の上記において定義した。好ましい原核細胞は、グラム陽性細胞、より好ましくはコリネバクテリウム、さらにより好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムである。
【0046】
したがって、この態様の好ましい実施形態では、本発明は、本発明による細胞を生成する方法であって、
チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素をコードする発現構築物と、コリネバクテリウム細胞、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム細胞を接触させるステップと、
4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をコードする発現構築物と、当該コリネバクテリウム細胞を接触させるステップと、
任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をコードする発現構築物と、当該コリネバクテリウム細胞を接触させるステップと
を含む、方法を提供する。
【0047】
本発明による原核細胞における酵素の発現、並びに本発明による原核細胞のさらなる遺伝子改変のために、本発明による原核細胞は、当業者に公知の任意の方法により、本明細書に記載の核酸又は核酸構築物で形質転換され得る。このような方法は、例えば、標準的ハンドブック、例えば、Sambrook及びRussel(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、又はF.Ausubelら編、「Current protocols in molecular biology」、Green Publishing and Wiley Interscience、New York(1987年)から公知である。細菌細胞の形質転換及び遺伝子改変の方法は、例えば、米国特許第6,699,696号又は米国特許第4,778,759号から公知である。コリネバクテリウムについては、Eggeling及びReyes 2005年Experiments.In:Eggeling,L.、Bott,M.(編)、Handbook of Corynebacterium glutamicum.CRC Press、Boca Raton、FL、3535~3566頁が参照される。例は、コンピテント細胞若しくはスーパーコンピテント細胞を使用した形質転換、電気穿孔、トランスフェクション脂質の使用、トランスフェクションポリマーの使用、又はジムノティック(gymnotic)形質転換である。好ましい方法は、電気穿孔である。
【0048】
本発明による原核細胞における酵素の発現のために核酸構築物を使用する場合、酵素をコードするポリヌクレオチドを含む核酸構築物中に、選択可能なマーカーが存在してもよい。「マーカー」という用語は、本明細書では、マーカーを含有する細胞の選択又はスクリーニングを可能にする形質又は表現型をコードする遺伝子を指す。マーカー遺伝子は、適切な抗生物質を使用して、形質転換されていない細胞から形質転換細胞を選択することができるように、抗生物質抵抗性遺伝子であってもよい。好ましい選択マーカーは、カナマイシン及び対応するカナマイシン抵抗性遺伝子である。しかしながら、好ましくは、栄養要求性マーカー(URA3、TRP1、LEU2)などの非抗生物質抵抗性マーカーが使用される。本発明による好ましい細胞、例えば、核酸構築物で形質転換された細胞は、マーカー遺伝子を含まない。組換えのマーカー遺伝子を含まない微生物宿主細胞を構築する方法は、(Cheahら、2013年)に記載されており、双方向性マーカーの使用に基づく。或いは、スクリーニング可能なマーカー、例えば、緑色蛍光タンパク質、lacZ、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ベータ-グルクロニダーゼを、本発明による核酸構築物に組み込み、形質転換細胞をスクリーニングできるようにしてもよい。
【0049】
ラズベリーケトンを生成する方法
本発明による原核細胞は、単純な好気性発酵方法を使用した、ラズベリーケトンのデノボの生物学的生成のために有用である。したがって、第3の態様において、本発明は、ラズベリーケトンを生成する方法であって、
ラズベリーケトンの生成を促す条件下で、本発明による細胞を培養するステップと、
任意選択で、ラズベリーケトンを細胞及び/又は培養培地から単離及び/又は精製するステップと
を含む、方法を提供する。
【0050】
好ましい実施形態において、この態様は、ラズベリーケトンを生成する方法であって、
ラズベリーケトンの生成を促す条件下で、本発明による細胞を培養するステップと、
任意選択で、ラズベリーケトンを細胞及び/又は培養培地から単離及び/又は精製するステップと
を含む、方法を提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本発明の第1の態様及び第2の態様の特徴である。
【0051】
この方法を、以下、本発明による方法という。好ましくは、ラズベリーケトンを生成する本発明による方法は、本発明による細胞、好ましくは本発明の第1の態様において定義したグラム陽性細胞、より好ましくは第1の態様において定義したコリネバクテリウム細胞を培養するステップを含み、ここで、培養条件は、LB培地又はYT培地又はCgXII培地において、好ましくはCgXII培地において、約30℃で細胞を培養することを含み、この培地は、好ましくは、約20g/LのD-グルコースを追加したものであり、任意選択で、カナマイシン(好ましくは約50μg/mL)を追加したものである。培養物は、好ましくは、約250rpmで振盪又は撹拌される。培養は、当業者には明らかであるように、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)若しくはアラビノース、又は別の好適な誘導剤を使用した誘導を伴い得る。培養は、出発培養物の使用を要し得る。促進性条件のさらなる例は、実施例において提示する。
【0052】
通常、50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加した5mLのLB培地に、単一コロニーを播種する。この出発培養物を、一晩にわたり、37℃で230rpmにて増殖させることができる。約200μlの出発培養物を使用して、100mLのエルレンマイヤーフラスコ内の、約50μg/mlのカナマイシンを追加した約20mlの2×YT培地(16g/Lのトリプトン、10g/Lの酵母抽出物、10g/LのNaCl)に播種し、600nmにおける光学密度(OD600又はA600)が0.4~0.6になるまで、37℃、230rpmでインキュベートすることができる。その後、1mMのIPTGを培地に添加することができ、培養物を30℃で250rpmにてインキュベートすることができる。任意選択で、培養物に、4-クマル酸、好ましくは約3mMの4-クマル酸を追加してもよい。全細菌培養物は、IPTGによる誘導の24時間後に収集するのが好ましく、これは、-20℃で保管することができる。この方法は、大腸菌に特に好適である。
【0053】
或いは、出発培養物を、50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加した25mLのLB培地において、250rpm及び30℃で、48時間にわたって増殖させてもよい。次いで、出発培養物を約10分間にわたって約5000rpmで遠心分離してもよく、細菌ペレットを約1.5mlのCgXII最少培地中に再懸濁してもよい。その後、約50μg/mlのカナマイシン及び約20g/LのD-グルコースを追加した約25mLのCgXII最少培地を含む約100mLのエルレンマイヤーフラスコに培養物を移してもよく、次いで、約1mMのIPTGで直接的に誘導してもよい。細菌培養物を、約30℃及び約250rpmで、約30時間から最長約4日間にわたって培養してもよい。任意選択で、培養物に、4-クマル酸、好ましくは約3mMの4-クマル酸を追加してもよい。発酵後、全細菌培養物を収集し、-20℃で保管してもよい。この方法は、C.グルタミクムに特に好適である。
【0054】
好ましい方法では、ラズベリーケトンを培養ブロスから分離する。この分離は、生成方法と連続して実行してもよいし、又は生成方法の後に実行してもよい。分離は、当業者に公知のいずれの分離方法に基づいてもよい。クロマトグラフィー又は液体/液体抽出は魅了的な技術である。
【0055】
本発明による細胞及び本発明による方法によって生成されるラズベリーケトンは、化学合成後に残る微量の不純物を含まないなど、特異的な特性を有する。したがって、本発明による方法によって得ることができるラズベリーケトンが提供される。
【0056】
本発明による方法を使用して得られたラズベリーケトンは、生成物中で好都合に使用され得る。したがって、本発明による方法によって得ることができるラズベリーケトンを含む、医薬組成物、フレーバー組成物、フレグランス組成物、化粧品組成物、又は食物組成物が提供される。
【0057】
本発明による方法は、好ましくは、デノボプロセス、すなわち、ラズベリーケトンのデノボ生成の方法である。デノボプロセスでは、後に発酵を介して変換される特化した前駆体を培養物に添加しない。換言すると、デノボプロセスにおいて、意図される生成物は、培養ブロス中に従来存在する代謝物から生じる。非限定的な一例として、ラズベリーケトンを得るための方法において培養ブロスに4-クマル酸を添加する場合、これはデノボプロセスではないと考えることができるが、その理由は、ラズベリーケトンが、少なくとも部分的に、外から添加された4-クマル酸から生じ、4-クマル酸は、培養ブロスの従来の成分ではないためである。非限定的な一例として、L-チロシンからのラズベリーケトンの形成は、L-チロシンが培養ブロス中にルーチン的に存在するため、デノボ生成と考えることができる。
【0058】
TALの使用
TALの機能性は、本発明の重要な特徴である。したがって、第4の態様において、本発明は、原核宿主細胞、好ましくはグラム陽性原核宿主細胞においてラズベリーケトンを生成するための、本明細書の上記において定義したチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的酵素の使用を提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本発明の第1の態様、第2の態様、及び第3の態様の特徴である。この態様の好ましい実施形態において、本発明は、原核宿主細胞、好ましくはグラム陽性原核宿主細胞においてラズベリーケトンを生成するための、本明細書の上記において定義したチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素の使用を提供する。この態様のより好ましい実施形態において、本発明は、グラム陽性原核宿主細胞、好ましくはコリネバクテリウム宿主細胞、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクム宿主細胞においてラズベリーケトンを生成するための、本明細書の上記において定義したチロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素の使用を提供する。特徴及び定義は、本明細書の他の箇所に提示する。
【0059】
発現ベクター
本発明の第5の態様では、本明細書の上記において定義したオペロン及び発現ベクターが提供される。この態様の特徴は、好ましくは、本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様、及び第4の態様の特徴である。このような発現ベクターを、本明細書では、本発明による発現ベクターという。このようなオペロンを、本明細書では、本発明によるオペロンという。したがって、この第5の態様の好ましい実施形態は、配列番号22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、若しくは70と、より好ましくは配列番号52と、若しくは配列番号70と、最も好ましくは配列番号70と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性を有する第1のポリヌクレオチドを含むか、又は、配列番号21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、若しくは69と、より好ましくは配列番号51と、若しくは配列番号69と、最も好ましくは配列番号69と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる、発現ベクターを提供する。
【0060】
この第5の態様のより好ましい実施形態は、配列番号52と、若しくは配列番号70と、最も好ましくは配列番号70と、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する第1のポリヌクレオチドを含むか、又は、配列番号51と、若しくは配列番号69と、最も好ましくは配列番号69と、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる、発現ベクターを提供する。
【0061】
この第5の態様のさらに好ましい実施形態は、配列番号46、48、52、54、若しくは70と、最も好ましくは配列番号46、48、52、若しくは54と、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する第1のポリヌクレオチドを含むか、又は、配列番号45、47、51、53、若しくは69と、最も好ましくは配列番号45、47、51、若しくは53と、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドからなる、発現ベクターを提供する。
【0062】
ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド配列によって表される。ポリペプチドは、アミノ酸配列によって表される。核酸構築物は、天然に存在する遺伝子から単離されたポリヌクレオチド、又は、さもなければ天然に存在しない様式で組み合わされるか若しくは並べられたポリヌクレオチドのセグメントを含有するように改変されているポリヌクレオチドと定義される。任意選択で、核酸構築物中に存在するポリヌクレオチドは、細胞又は対象における当該ペプチド又はポリペプチドの産生又は発現を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結されている。
【0063】
本明細書に記載のポリヌクレオチドは、天然であってもよいし、又はコドン最適化されていてもよい。コドン最適化は、コードされるポリペプチドのためのコドン使用を、このポリペプチドを生成しようとする生物のコドンバイアスに向かって適応させる。コドン最適化は、一般に、宿主細胞、例えば、本明細書において好ましい宿主:コリネバクテリウムにおいて、コードされるポリペプチドの生成レベルを上昇させるのに役立つ。当業者には、コドン最適化のための多くのアルゴリズムが利用可能である。好ましい方法は、インターネット上でgenomes.urv.es/OPTIMIZER/において利用可能なモンテカルロアルゴリズムに基づいた「ガイド下ランダム法(guided random method)」である(P.Puigbo、E.Guzman、A.Romeu、及びS.Garcia-Vallve.Nucleic Acids Res.2007年7月;35巻(ウェブサーバー号):W126~W131頁)。
【0064】
本明細書において使用される場合、「異種配列」又は「異種核酸」という用語は、当該第1のヌクレオチド配列の近傍の配列と作動可能に連結されている状態で天然に見出されることがない配列又は核酸である。本明細書において使用される場合、「異種」という用語は、「組換え」を意味する場合がある。「組換え」とは、一般に天然に見出される遺伝的実体とは明確に異なる遺伝的実体を指す。ヌクレオチド配列又は核酸分子に適用される場合、これが意味するのは、当該ヌクレオチド配列又は核酸分子が、クローニングステップ、制限ステップ、及び/又はライゲーションステップ、並びに天然に見出される配列又は分子とは明確に異なる構築物の生成をもたらす他の手順の様々な組み合わせの生成物であるということである。組換えオリゴヌクレオチドは、1つよりも多くの源に由来する配列を含むオリゴヌクレオチドであり得る。
【0065】
本明細書において、「作動可能に連結されている」は、制御配列が、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に対して、制御配列が細胞及び/又は対象における本発明のペプチド又はポリペプチドの産生/発現を指示するような位置に適切に配置されている構成として定義される。
【0066】
「作動可能に連結されている」は、ある配列が、機能的ドメインをコードする別の配列に対して、細胞及び/又は対象においてキメラポリペプチドがコードされるような位置に適切に配置されている構成を定義するために使用される場合もある。本出願の随所において、酵素をコードする任意の核酸配列は、好ましくは、別のかかる配列又はプロモーターに作動可能に連結されている。
【0067】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語は、1つ又は複数の核酸分子の転写を制御するように機能し、核酸分子の転写開始部位の転写の方向に関して上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、並びに、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質結合部位、及びプロモーターからの転写の量を調節するように直接的又は間接的に作用することが当業者に公知であるヌクレオチドの任意の他の配列を含むがこれらに限定されない、任意の他のDNA配列の存在によって構造的に識別される、核酸断片を指す。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境条件及び発生条件下で活性であるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、環境的制御又は発生的制御下で活性であるプロモーターである。
【0068】
本発明による核酸構築物中に存在し得る任意選択のさらなるエレメントとしては、1つ又は複数のリーダー配列、エンハンサー、組込み因子、及び/又はレポーター遺伝子、イントロン配列、セントロメア、テロメア、及び/又はマトリックス結合(MAR)配列が挙げられるが、これらに限定されない。本発明による核酸構築物は、一般に核酸/核酸配列の制限及び連結などの技術を含む本質的に公知である様式において用意することができ、この技術に関しては、Sambrook及びRussel(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Pressなどの標準的ハンドブックが参照される。
【0069】
ポリペプチド
第6の態様において、本発明は、本発明による発現ベクターから発現されるポリペプチド生成物を提供する。特徴及び定義は、本発明の他の箇所に提示してあり、好ましくは、本発明の第1の態様、第2の態様、第3の態様、第4の態様、及び第5の態様の特徴及び定義である。
【0070】
定義
アミノ酸配列又は核酸配列との関連での「配列同一性」又は「同一性」は、本明細書では、2つ以上のアミノ酸(ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質)配列、又は2つ以上の核酸(ヌクレオチド、ポリヌクレオチド)配列を比較することによって判定される、これらの配列同士の関係として定義される。当技術分野において、「同一性」はまた、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列(該当する場合)のストリング間のマッチによって判定される、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列同士の配列関連性の度合いを意味する。本発明において、特定の配列との配列同一性は、好ましくは、当該特定のポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列の全長にわたる配列同一性を意味する。本明細書において提示する配列情報は、誤って識別された塩基の包含を必要とするものと狭義に解釈されてはならない。当業者は、このような誤って識別された塩基を識別することができ、このようなエラーを補正する方法を知っている。
【0071】
同一性を判定する好ましい方法は、試験される配列間の最も大きなマッチを与えるように設計される。同一性及び類似性を判定する方法は、公的に利用可能なコンピュータプログラムにおいて体系化されている。2つの配列間の同一性及び類似性を判定する好ましいコンピュータプログラム方法は、例えば、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.ら、Nucleic Acids Research 12巻(1号):387頁(1984年))、BestFit、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.215巻:403~410頁(1990年)を含む。BLAST Xプログラムは、NCBI及び他のソースから公的に利用可能である(BLAST Manual、Altschul,S.ら、NCBI NLM NIH Bethesda、MD 20894;Altschul,S.ら、J.Mol.Biol.215巻:403~410頁(1990年)。周知のSmith Watermanアルゴリズムを使用して、同一性を判定することもできる。
【0072】
ポリペプチド配列比較のための好ましいパラメーターは、次のものを含む:アルゴリズム:Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.48巻:443~453頁(1970年);比較行列:Hentikoff及びHentikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89巻:10915~10919頁(1992年)のBLOSUM62;ギャップペナルティ:12;及びギャップ長ペナルティ:4。これらのパラメーターで有用なプログラムは、「Ogap」プログラムとして、Madison、WI所在のGenetics Computer Groupから公的に利用可能である。前述のパラメーターは、アミノ酸比較のためのデフォルトパラメーターである(エンドキャップに対するペナルティはない)。
【0073】
核酸比較のための好ましいパラメーターは、次のものを含む:アルゴリズム:Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.48巻:443~453頁(1970年);比較行列:マッチ=+10、ミスマッチ=0;ギャップペナルティ:50;ギャップ長ペナルティ:3。Madison、Wis所在のGenetics Computer GroupからGapプログラムとして利用可能。上記に示したのは、核酸比較のためのデフォルトパラメーターである。
【0074】
本明細書において、中等度条件は、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは約200ヌクレオチド以上の核酸配列が、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC溶液又は比較可能なイオン強度を有する任意の他の溶液中で、約45℃の温度においてハイブリダイズすることを可能にする条件、及び、約1Mの塩を含む溶液、好ましくは6×SSC溶液又は比較可能なイオン強度を有する任意の他の溶液中で、室温における洗浄と定義される。好ましくは、ハイブリダイゼーションは、一晩、すなわち少なくとも10時間にわたって行われ、好ましくは、洗浄は、洗浄液を少なくとも2回交換して、少なくとも1時間にわたって行われる。これらの条件は、通常、最大50%の配列同一性を有する配列の特異的なハイブリダイゼーションを可能にする。当業者は、同一性が50%~90%で異なる配列を特異的に識別するために、これらのハイブリダイゼーション条件を改変することができる。
【0075】
発現は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、及び分泌を含むがこれらに限定されない、ペプチド又はポリペプチドの生成に関与する任意のステップを含むように理解されるものとする。
【0076】
本文書及びその特許請求の範囲において、「を含む(to comprise)」という動詞、及びその活用形は、該当する単語に続く項目が含まれるが、具体的に言及されていない項目が除外されないことを意味するように、その非限定的な意味において使用される。加えて、「a」又は「an」という不定冠詞による要素の参照は、要素のうちの1つが1つだけ存在することが文脈上明らかに必要な場合を除き、その要素が1つよりも多く存在する可能性を除外するものではない。したがって、「a」又は「an」という不定冠詞は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0077】
「約」又は「およそ」という単語は、数値に関連して使用される場合(例えば、約10)、好ましくは、その値が、所与の値(10)から10%多いか又は少ない値であり得ることを意味する。
【0078】
本明細書において提示する配列情報は、誤って識別された塩基の包含を必要とするものと狭義に解釈されてはならない。当業者は、このような誤って識別された塩基を識別することができ、このようなエラーを補正する方法を知っている。配列エラーがある場合、酵素をコードするポリヌクレオチド配列を含む、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、及び19によって表される遺伝子の発現によって得ることができる酵素の配列が優先するものとする。
【0079】
本明細書において引用されるすべての特許及び文献の参照は、ここに参照することによって全体が組み込まれる。
【実施例0080】
実施例1-ラズベリーケトンを生成するための酵素及び合成オペロン
本発明者らは、特異的な4酵素経路を大腸菌及びコリネバクテリウム・グルタミクムに導入して、ラズベリーケトンを生成した。4つのステップにおいてL-チロシンからラズベリーケトン(4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノン)を生成するための生合成経路を設計した(
図1)。ラズベリーケトンの生合成のための特化した第1のステップは、チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)によるL-チロシンの4-クマル酸(4-ヒドロキシケイ皮酸)への変換である。第2のステップでは、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)が、4-クマル酸の活性化を触媒して、そのCoAエステルである4-クマロイル-CoAにする。第3のステップでは、ベンザルアセトンシンターゼ(BAS)が、4-クマロイル-CoA及びマロニル-CoAの1ステップ脱炭酸性縮合を触媒して、ヒドロキシフェニルブテノン((E)-4-(4-ヒドロキシフェニル)-3-ブテン-2-オン)を生成する。ラズベリーケトン生合成の最終ステップでは、ベンザルアセトンレダクターゼ酵素(BAR)活性を有する酵素が、ヒドロキシフェニルブテノンからラズベリーケトンを生成する。
【0081】
大腸菌又はC.グルタミクムにおいて4-クマル酸を生成するために、次の3種のTAL酵素を使用した:ロドバクター・カプスラータに由来するTAL(RcTAL、配列番号1、2)、サッカロスリクス・エスパナエンシスに由来するTAL(SeSam8、配列番号3、4)、又はフラボバクテリウム・ジョンソニアエに由来するTAL(FjTAL、配列番号5、6)。大腸菌又はC.グルタミクムにおいて4-クマロイル-CoAを生成するためには、次の4CL酵素を使用した:N.タバカムに由来する4CL(Nt4CL、配列番号7、8)、アラビドプシス・タリアナに由来する4CL(At4CL、配列番号9、10)、フィスコミトレラ・パテンスに由来する4CL(Pp4CL、配列番号11、12)、又はストレプトマイセス・セリカラーに由来する4CL(Sc4CL、配列番号13、14)。大腸菌又はC.グルタミクムにおいてヒドロキシフェニルブテノンを生成するためには、2種のベンザルアセトンシンターゼを使用した:ルブス・イダエウスに由来するBAS(RiPKS、配列番号15、16)又はレウム・パルマツムに由来するBAS(RpBAS、配列番号17、18)。ルブス・イダエウスに由来するベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)酵素を使用した(RiBAR、配列番号19、20)。Nt4CLを除くすべての遺伝子を、C.グルタミクムにおける発現のためにコドン最適化し、化学合成によって得た。Nt4CL遺伝子は、プラスミドpAC-4CL-STS(Beekwilderら、2006年Appl Environ Microbiol 72巻:5670~5672頁を参照されたい)において得て、コドン最適化しなかった。
【0082】
その後、Gibsonアセンブリ方法を使用して、生合成遺伝子をアセンブルして、BAS遺伝子、4CL遺伝子、及びTAL遺伝子をそれぞれこの順序で含む3遺伝子オペロンにした。2つのBAS遺伝子、4つの4CL遺伝子、及び3つのTAL遺伝子を、合計24個の可能性のある組み合わせで組み合わせた、コンビナトリアルスキームに従った(表1)。
【0083】
生合成遺伝子のそれぞれを、PCRによって増幅した。ベクターとインサートとの間の接合領域にまたがるように、又は2つの隣接する遺伝子の間の接合部にまたがるように、増幅プライマーを設計した。この設計により、PCR生成物において、プラスミドアセンブリが進行できるようにする、重複する領域が作出された。さらに、リボソーム結合部位AGGAGGを含有する20ヌクレオチドの遺伝子間スペーサーを付加した。遺伝子の増幅のためのプライマーを、配列表に列挙する(RiPKS:配列番号71、72、73、74、75;RpBAS:配列番号76、77、78、79、80;At4CL:配列番号81、82、83、84、85;Pp4CL:配列番号86、87、88、89、90;Sc4CL:配列番号91、92、93、94、95;Nt4CL:配列番号96、97、98、99、100;RcTAL:配列番号101、102、103、104、105;FjTAL:配列番号106、107、108、109、110;SeSam8:配列番号111、112、113、114、115)。この結果、各BAS遺伝子につき4つの異なるPCR生成物、各4CL遺伝子につき6つの異なるPCR生成物、及び各TAL遺伝子につき4つの異なるPCR生成物が作製された。
【0084】
プルーフリーディングQ5ハイフィデリティDNAポリメラーゼ(New England Biolabs(NEB)から得た)を用いて遺伝子を増幅した。PCR条件は次のとおりであった:98℃で30秒の初期変性の後、98℃で10秒、52℃で20秒、及び72℃で1分のPCRサイクル35回、並びに72℃で2分の最終伸長を行った。PCR試薬の最終濃度は、50μLの全反応体積において、1×Q5反応緩衝液(NEB)、400μMのdNTP、400nMのプライマー、及び0.5μLのQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)であった。得られたPCR断片を電気泳動し、その後、アガロースゲルから精製した。
【0085】
pGA1複製起点及びカナマイシン抵抗性マーカー(GenBank受入番号:AY219683.1)を搭載した大腸菌-コリネバクテリウム・グルタミクムシャトルベクターpEC-XK99E(Kirchner及びTauch 2003年J Biotechnol 104巻:287~299頁を参照されたい)を、SacI制限酵素及びBamHI制限酵素(NEB)を用いた制限によって直線化した。直線化されたベクターを電気泳動し、その後、アガロースゲルから精製した。BAS-4CL-TALオペロンを含有する環状プラスミドを作出するため、直線化されたベクター100ngを、24個の可能性のある組み合わせにおいて、BAS合成遺伝子、4CL合成遺伝子、及びTAL合成遺伝子の精製されたPCR生成物を含有する反応ミックスに、ベクター-インサート比を1:3に維持して添加した。次に、1×Gibsonアセンブリミックス(NEB)を反応物に添加し、全反応体積を20μlに維持した。反応物を4時間にわたって50℃でインキュベートし、その後、化学的にコンピテントな大腸菌DH5α細胞に形質転換した。50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加したLBプレートにおいて、組換え細菌を選択した。正しいサイズのBAS-4CL-TALオペロンアセンブリを含有する組換え細胞を、コロニーPCRによって識別した。50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加した5mlの液体LB培地に、単一の細菌コロニーを播種し、37℃で250rpmにて一晩増殖させた。プラスミドDNAを単離し、オペロンとベクターとの間の接合部位、及びオペロン内の遺伝子間の接合部位を、ベクター及び遺伝子特異的プライマーの選択を使用したSangerシーケンシングによってシーケンシングした。この手順によって得られた大腸菌DH5αの菌株(表1)を、グリセロールストックとして維持し、-80℃で保管した。さらに、空のプラスミドpEC-XK99Eを含有する大腸菌DH5αの菌株を作製した。この菌株を、Ec_RK_EVと名付けた。
【0086】
その後、R.イデアウス(R.ideaus)に由来するベンザルアセトンレダクターゼ(RiBAR)をオペロンに添加した。この目的のために、SalI制限酵素(NEB)を使用して、プラスミドpECXK_P(RpBAS-Pp4CL-RcTALオペロンを含有する、
図2参照)を直線化した。直線化されたベクターを電気泳動し、その後、アガロースゲルから精製した。RiBAR合成遺伝子を、プルーフリーディングQ5ハイフィデリティDNAポリメラーゼ(NEB)で増幅した。PCR条件は次のとおりであった:98℃で30秒の初期変性の後、98℃で10秒、52℃で20秒、及び72℃で1分のPCRサイクル35回、並びに72℃で2分の最終伸長を行った。PCR試薬の最終濃度は、50μLの全反応体積において、1×Q5反応緩衝液(NEB)、400μMのdNTP、400nMのプライマー、及び0.5μLのQ5 DNAポリメラーゼ(NEB)であった。得られたPCR断片を電気泳動し、その後、アガロースゲルから精製した。増幅プライマーは、隣接するRcTAL遺伝子及びpEC-XK99Eプラスミドと重複するように設計した(RiBAR:配列番号116、配列番号117)。さらに、リボソーム結合部位AGGAGGを含む20bpの遺伝子間領域をフォワードプライマーに付加した(配列番号116)。環状プラスミドを作出するために、精製されたRiBAR PCR生成物を含有する反応物に、100ngの直線化されたプラスミドpECXK_Pを添加した。次に、1×Gibsonアセンブリミックス(NEB)を反応物に添加し、全反応体積を20μlに設定した。反応物を4時間にわたって50℃でインキュベートし、その後、化学的にコンピテントな大腸菌DH5α細胞に形質転換した。50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加したLBプレートにおいて、組換え細菌を選択した。正しいサイズのRpBAS-Pp4CL-RcTAL-RiBARオペロンアセンブリを含むプラスミドを含有する組換え細胞を、コロニーPCRによって識別した。50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを含有する5mlの液体LB培地に、形質転換した細菌の単一コロニーを播種し、37℃で250rpmにて一晩増殖させ、プラスミドを単離した。RiBAR遺伝子と、RcTAL遺伝子と、RiBAR遺伝子と、pEC-XK99Eベクターとの間の接合部位を、ベクター及び遺伝子特異的プライマーを使用したSangerシーケンシングによって確認した。この手順によって得られた構築物を、プラスミドpECXK_PBと名付けた(RpBAS-Pp4CL-RcTAL-RiBAR-pECXK;配列番号69、70)。
図3参照。この手順によって得られた大腸菌DH5αの菌株を、Ec_RK_PBと名付け、グリセロールストックとして維持し、-80℃で保管した。
【表1】
【0087】
実施例2-大腸菌におけるヒドロキシフェニルブテノン及びラズベリーケトンの生成
50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加した5mLのLB培地に、菌株Ec_RK_P及びEc_RK_PBの単一コロニーを播種した。この出発培養物を、一晩にわたり、37℃で230rpmにて増殖させた。200μlの出発培養物を使用して、100mLのエルレンマイヤーフラスコ内の、50μg/mlのカナマイシンを追加した20mlの2×YT培地(16g/Lのトリプトン、10g/Lの酵母抽出物、10g/LのNaCl)に播種し、600nmにおける光学密度(OD600又はA600)が0.4~0.6に達するまで、37℃及び230rpmでインキュベートした。その後、1mMのIPTGを培地に添加し、培養物を30℃で250rpmにてインキュベートした。各細菌菌株のために4つの発酵フラスコを並行してセットアップし、そのうち2つには3mMの4-クマル酸を追加し、したがって2つには4-クマル酸を添加しなかった。対照菌株Ec_RK_EVを用いた発酵実験を同じ様式でセットアップした。誘導の24時間後に全細菌培養物を収集し(IPTG)、-20℃で保管した。
【0088】
HPLC分析のために、500μlの100%メタノールを500μlの細菌培養物に添加した。この混合物を20秒間ボルテックスすることによって混合し、その後、10分間にわたって超音波処理した。次に、抽出物を卓上遠心分離機において15分間13.000rpmで遠心分離し、Minisart SRP4シリンジフィルター(Sartorius)を使用して上清を濾過した。5μlの抽出物をHLPC分析のために使用した。
【0089】
HPLCシステムは、Waters e2695 HPLC、Waters 2996フォトダイオードアレイ(PDA)検出器、及び40℃のカラムインキュベーターを備えた。使用したHPLCカラムは、Luna 3u C18(2)100A 150×2mm(Phenomenex、CA)であった。使用した溶出液は、0.1%のギ酸を含むMQ水、及び0.1%のギ酸を含むアセトニトリルであった。抽出物中の化合物の分離を40分のランにおいて行い、この間、0.19mL/分の流量で5~35%の直線的なアセトニトリル勾配を適用した。カラムから溶出した化合物を、PDA検出器(240~600nmの吸光度範囲に設定した)に通した。発酵試料中のピークの保持時間及び最大吸光波長を、4-クマル酸(Sigma)、ヒドロキシフェニルブテノン(Pfaltz及びBauer)、及びラズベリーケトン(Apin Chemical Limited)の真正標準物質と比較した。21.9分の保持時間におけるラズベリーケトンの検出について、溶出した化合物のピーク強度を、280nmの波長で分析した。また、23.1分の保持時間におけるヒドロキシフェニルブテノン、及び17.9分の保持時間における4-クマル酸の検出について、溶出した化合物のピーク強度を、312nmの波長で分析した。
【0090】
4-クマル酸を培地に添加しなかった菌株Ec_RK_Pの培養物において、4-クマル酸のデノボ生成が観察された(
図4A~4D)。4-クマル酸は、54±3mg/培養物1Lで蓄積した。さらに、ヒドロキシフェニルブテノンの生成が、0.2±0.0mg/細菌培養物1Lの濃度で観察された(
図5A~5D)。Ec_RK_P菌株のHPLCクロマトグラムにおいて、ラズベリーケトンは観察されなかった。菌株Ec_RK_PBでは、49±1mg/培養物1Lにおける4-クマル酸、及び0.1±0.0mg/Lにおけるヒドロキシフェニルブテノンの蓄積が観察された。菌株Ec_RK_PBに関するHPLCでは、ラズベリーケトンは検出されなかった。空のpEC-XK99Eプラスミドで形質転換した菌株Ec_RK_EVでは、予想されたとおり、4-クマル酸、ヒドロキシフェニルブテノン、又はラズベリーケトンの蓄積は観察されなかった。
【0091】
3mMの4-クマル酸を追加した大腸菌培養物では、Ec_RK_P、Ec_RK_PB、及びEc_RK_EVの培養物で、それぞれ、328±16mg/細菌培養物1L、345±26mg/細菌培養物1L、及び303±3mg/細菌培養物1Lにおける4-クマル酸の蓄積が観察された。3mMの4-クマル酸を追加したEc_RK_P及びEc_RK_PBの細菌菌株に関して、それぞれ、4.0±0.1mg/L及び3.9±0.1mg/Lのヒドロキシフェニルブテノンの生成が観察された。菌株Ec_RK_P及びEc_RK_PBでは、ラズベリーケトンの生成は観察されなかった。4-クマル酸を追加した場合の菌株Ec_RK_EVについては、予想されたとおり、ヒドロキシフェニルブテノン又はラズベリーケトンの生成は観察されなかった。
【0092】
この実験から、大腸菌の発酵において4-クマル酸が蓄積すると結論付けられた。大腸菌におけるヒドロキシフェニルブテノンの生成は成功した。ラズベリーケトンの生成についてさらに調査するため、より感度の高いGC-MS分析を用いた。
【0093】
GC-MS分析のために、Ec_RK_P、Ec_RK_PB、及びEc_RK_EVの菌株の(4-クマル酸を追加していない)16mlの細菌培養物を、4mlの酢酸エチルで抽出した。これらの培養物及び抽出物を20秒間ボルテックスすることによって混合し、その後、10分間にわたって超音波処理した。培養物を1200rpmで10分間にわたって遠心分離し、EtAcを新しいガラスバイアルに収集した。Na2SO4カラムを使用して試料を乾燥させた。30m×0.25mm、0.25mmフィルム厚のカラム(ZB-5、Phenomenex)を備えたガスクロマトグラフ(5890シリーズII、Hewlett-Packard)を使用し、担体ガスとしてヘリウムを1ml/分の流速で使用して、1μLの試料から分析物を分離した。入り口温度を250℃に設定して、スプリットレスモードでインジェクターを使用した。45℃の初期オーブン温度を、1分後に10℃/分の速度で300℃まで上昇させ、5分間300℃に保った。GCをマスセレクティブディテクター(モデル5972A、Hewlett-Packard)に連結した。質量スペクトル及び保持時間(rt)をラズベリーケトンの真正標準物質(Apin Chemical Limited)のものと比較することにより、ラズベリーケトンを識別した。菌株Ec_RK_P及びEc_RK_PBの抽出物中に微量のラズベリーケトンが観察された。菌株Ec_RK_EVでは、ラズベリーケトンの生成は観察されなかった。
【0094】
実施例3-ラズベリーケトンを生成するためのC.グルタミクム菌株
次に、ラズベリーケトン生成のためのプラスミドを、野生型C.グルタミクム菌株ATCC13032のエレクトロコンピテント細胞に形質転換した。この手順により、25種の細菌菌株を作出し、表1に列挙した。30℃で2日間にわたるインキュベーションの後、50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加したLBプレートにおいて、組換え細菌を選択した。さらに、空のpEC-XK99EベクターをC.グルタミクムATCC13032に形質転換し、得られた菌株をCg_RK_EVと名付けた。この手順によって得られた菌株のグリセロールストックを、-80℃に維持した。
【0095】
実施例4-C.グルタミクムにおけるラズベリーケトンの生成
C.グルタミクム菌株Cg_RK_P、Cg_RK_PB、及びCg_RK_EVの出発培養物を、50μg/mlのカナマイシン及び1%のグルコースを追加した25mLのLB培地において、250rpm及び30℃で、48時間にわたって増殖させた。出発培養物を10分間にわたって5000rpmで遠心分離し、細菌ペレットを1.5mlのCgXII最少培地中に再懸濁した(Eggeling及びReyes 2005年を参照されたい)。その後、50μg/mlのカナマイシン及び20g/LのD-グルコースを追加した25mLのCgXII最少培地を含む100mLのエルレンマイヤーフラスコに培養物を移し、1mMのIPTGで直接的に誘導した。各細菌菌株のために4つの発酵フラスコを並行してセットアップし、そのうち2つには3mMの4-クマル酸を追加し、2つには4-クマル酸を添加しなかった。細菌培養物を30℃及び250rpmで30時間にわたって培養した。発酵後、全細菌培養物を収集し、分析まで-20℃で保管した。
【0096】
代謝物の抽出及びHPLC分析を、実施例2に記載したように行った。3mMの4-クマル酸を追加した培養物と、4-クマル酸を添加しなかった培養物とのいずれにおいても、Cg_RK_P、Cg_RK_PB、及びCg_RK_EVの菌株のC.グルタミクム抽出物に関して、4-クマル酸の蓄積は観察されなかった。これは、4-クマル酸がC.グルタミクムによって代謝されたことを示す。菌株Cg_RK_Pでは、4-クマル酸を発酵に加えなかった場合、ヒドロキシフェニルブテノンのデノボ生成が、13.2±0.0mg/Lで観察された(
図6A~6D)。3mMの4-クマル酸を追加したCg_RK_P培養物では、3.7±0.3mg/Lにおけるヒドロキシフェニルブテノンの生成が観察された。菌株Cg_RK_EVのC.グルタミクム培養物では、ヒドロキシフェニルブテノンは観察されなかった。Cg_RK_P及びCg_RK_EVの細菌菌株に関するHPLCでは、3mMの4-クマル酸を追加した培養物についても、基質を追加しなかった培養物についても、ラズベリーケトンの生成は検出されなかった。
【0097】
菌株Cg_RK_PBでは、ヒドロキシフェニルブテノンの生成は、基質を追加しなかった培養物と、4-クマル酸を追加した培養物とで、それぞれ、7.1±0.3及び2.5±0.2mg/Lであった。これは、菌株Cg_RK_Pと比較した46%及び33%のヒドロキシフェニルブテノン生成の低減に対応する。加えて、菌株Cg_RK_PBについてのHPLCにおいて、ラズベリーケトンの明らかなピークが観察された。これは、BAR遺伝子の添加が、C.グルタミクムにおけるヒドロキシフェニルブテノンのラズベリーケトンへの変換を著しく増加させたことを示す。実施例2に記載したプロトコールを使用して、ラズベリーケトンの生成をGC-MSによってさらに分析した。
【0098】
GC-MS分析では、Cg_RK_PB菌株の抽出物において、ラズベリーケトンの主なピークが観察された(
図7A~7C)。生成は、19mg/Lで定量化された。菌株Cg_RK_P及び菌株Cg_RK_EVのGC-MS分析において、ラズベリーケトンは観察されなかった。
【0099】
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チロシンアンモニウムリアーゼ(TAL)活性を有する機能的異種酵素を発現することができ、好ましくは発現し、かつ、4-クマレート-CoAリガーゼ(4CL)及びベンザルアセトンシンターゼ(BAS)からなる群から選択される少なくとも1種の機能的酵素をさらに発現することができ、好ましくは発現し、任意選択で、異種ベンザルアセトンレダクターゼ(BAR)をさらに発現することができ、好ましくは発現する、原核微生物細胞。