(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023299
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】SUV39H1を欠損する免疫細胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20240214BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240214BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240214BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240214BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240214BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
A61K35/17
C12N5/0783
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
A61K45/00
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P43/00 121
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/705
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023193959
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2019570024の分割
【原出願日】2018-06-20
(31)【優先権主張番号】17305757.1
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506413937
【氏名又は名称】アンスティテュート キュリー
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アミゴレナ, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ピアッジョ, エリアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】グード, クリステル
(72)【発明者】
【氏名】パーチェ, ルイージャ
(72)【発明者】
【氏名】アルムーズニ, ジュヌヴィエーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ニボルスキ, レティシア
(57)【要約】 (修正有)
【課題】がんの養子細胞療法で使用するための組成物および操作された免疫細胞、並びに前記免疫細胞を産生する方法を提供する。
【解決手段】Suv39h1を欠損するように操作された免疫細胞を含む組成物を提供する。前記操作された免疫細胞は、標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体をさらに含むことが好ましい。本発明はまた、免疫細胞におけるSuv39h1の発現及び/又は活性を阻害することからなるステップを含み;任意選択で、標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を前記免疫細胞に導入することからなるステップをさらに含む、遺伝子操作された免疫細胞を得る方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Suv39h1を欠損する、操作された免疫細胞。
【請求項2】
標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体をさらに含む、請求項1に記載の操作された免疫細胞。
【請求項3】
T細胞又はNK細胞である、請求項1又は2に記載の操作された免疫細胞。
【請求項4】
CD4+又はCD8+T細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項5】
対象から単離された、請求項1~4のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項6】
前記対象ががんに罹患しているか、又はがんに罹患するリスクがある、請求項5に記載の操作された免疫細胞。
【請求項7】
前記操作された免疫細胞におけるSuv39h1の活性及び/又は発現が選択的に阻害又は遮断される、請求項1~6のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項8】
前記操作された免疫細胞が、非機能性Suv39h1タンパク質をコードするSuv39h1核酸を発現する、請求項1~7のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項9】
前記標的抗原ががん細胞で発現され、及び/又は普遍的腫瘍抗原である、請求項2~8のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項10】
前記遺伝子操作された抗原受容体が、前記標的抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項2~9のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞。
【請求項11】
前記遺伝子操作された抗原受容体がT細胞受容体(TCR)である、請求項2~10のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項12】
免疫細胞におけるSuv39h1の発現及び/又は活性を阻害することからなるステップを含み;任意選択で、標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を前記免疫細胞に導入することからなるステップをさらに含む、遺伝子操作された免疫細胞を産生する方法。
【請求項13】
Suv39h1の発現及び/又は活性の阻害が、Suv39h1の発現及び/又は活性を阻害する、及び/又はSuv39h1遺伝子を破壊する少なくとも1種の薬剤と前記細胞を接触させるステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が小分子阻害剤:抗体誘導体、アプタマー、転写若しくは翻訳を遮断する核酸分子、又は遺伝子編集剤から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
がんの養子細胞療法で使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の操作された免疫細胞、又は請求項12~14のいずれか一項に記載の方法により得られる操作された免疫細胞、又は前記操作された免疫細胞を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養子療法の分野に関する。本発明は、養子移入後の生存、再構成の可能性、及びセントラルメモリー表現型が増強されたSuv39h1を欠損する免疫細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
組換えT細胞受容体(TCR)及びキメラ抗原受容体(CAR)技術を伴ったT細胞を使用する養子T細胞療法(ATCT)は、いくつかの悪性腫瘍に対する初期臨床試験での活性が非常に有望であることを多くの研究機関が示している(Kershaw MH、Westwood JA、Darcy PK.Nat Rev Cancer.2013;13:525~541)。
【0003】
新たに話題になりつつあるテーマは、治療用T細胞の効果的な移植と長期持続性がプラスの治療効果と相関することである。いくつかの前臨床試験から、ナイーブT細胞及び初期分化T細胞は、増大した長期持続能力を保有すること(Berger Cら、J Clin Invest.2008;118:294~305;Hinrichs CSら、Proc Natl Acad Sci 2009;106:17469~17474;Tanel Aら、Expert Rev Vaccines.2009;8(3):299~312)と、強力な抗腫瘍応答を誘発することができること(Gattinoni Lら、J Clin Investig.2005;115:1616~1626;Lugli Eら、J Clin Invest.2013;123:594~599)が明らかになっている。さらに、養子移入された細胞の持続性の増加は、セントラルメモリーT細胞(TCM)集団の獲得に依存しているようである(Powell DJら、Blood.2005;105(1):241~50;Huang J, Khong HTら、J Immunother.2005;28:258~267)。
【0004】
安定した遺伝子導入は、特にポリクローナルT細胞にCAR(例えば、Guest RDら、Cancer Immunol Immunother. 2014;63:133~145を参照)及びこれらの操作された細胞を有するTCR(特にJohnson LAら、Blood. 2009;114(3):535~46を参照)を導入するためのガンマレトロウイルスベクターの使用によって、臨床状況で日常的に達成されているが、明らかに有害な安全上の兆候は、CAR T細胞を移植した患者において、10年を超える期間、示されていない(Scholler Jら、Sci Transl Med.2012;4:132ra153)。
【0005】
レトロウイルスベクター又はレンチウイルスで効果的に形質導入するためには、初代T細胞は活発に増殖している必要があり(Stacchini Aら、Leuk Res.1999;23:127~136)、これは一般的には、休止初代T細胞をマイトジェン刺激することによって達成される。
【0006】
しかし、活性化の際、T細胞はエフェクター(TE)表現型に向けて不可逆的な直線的様式で進行する(Mahnke YDら、Eur J Immunol.2013;43:2797~2809;Farber DL.Semin Immunol.2009;21:84~91)。従って、レトロウイルス又はレンチウイルス形質導入のためのマイトジェン活性化は、T細胞の分化をナイーブからTE表現型に向けて駆動する。形質導入されたT細胞数を臨床での適用に必要とされる数(約109~1011)まで拡大するex-vivo培養プロトコルと組み合わせた場合、T細胞はより分化した表現型に向けて駆動されるが、これは全身持続性(systemic persistence)にとっては最適とはいえない。
【0007】
従って、CAR T細胞ベースの治療法を含む養子T細胞療法は、特に特定の血液がんの処置における著しい治療上の成功が過去数年で知られてきているが、有効性はわずかな血液がんのタイプ及び少数の固形腫瘍のタイプでしか示されていない。処置の有効性が低いのは、養子移入後のT細胞の生存が制限されていることによる可能性があると仮説が立てられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、当技術分野では、養子移入後のセントラルメモリー表現型の増強及び生存の増強を示す改変又は操作されたT細胞が依然として必要とされている。特に、有効性があり広範囲のスケールのがん処置をサポートする、養子療法に使用可能な免疫細胞、特にT細胞の提供が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚いたことに、Suv39h1を欠損するT細胞が養子移入後にセントラルメモリー表現型の増強及び生存の増強をもたらすことを発見した。特に、本発明者らは、Suv39h1を欠損するT細胞が蓄積し、CD44及びCD62Lの両方を発現する長期生存のセントラルメモリーT細胞へと高効率で再プログラムされることを明らかにした。従って、本発明は、Suv39h1が不活性化されている、改変又は操作された免疫細胞、特に改変されたT細胞に関する。
【0010】
従って、前記の改変又は操作された免疫細胞は、養子療法における使用にとって非常に興味がもたれる。従って、本発明は、より詳しくは、標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を好ましくはさらに含む、Suv39h1を欠損する操作又は改変された免疫細胞に関する。
【0011】
典型的には、請求項1に記載の操作された免疫細胞はT細胞又はNK細胞であり、特にCD4+又はCD8+T細胞である。好ましい細胞は、TN細胞、TSCM、TCM又はTEM細胞及びそれらの組合せから選択され得る。
【0012】
また典型的には、操作された免疫細胞は対象から単離される。前記対象は、がんに罹患しているか、又はがんに罹患するリスクがあることが好ましい。
【0013】
遺伝子操作された抗原受容体が特異的に結合する標的抗原は、好ましくはがん細胞で発現され、及び/又は普遍的腫瘍抗原である。
【0014】
遺伝子操作された抗原受容体は、標的抗原に特異的に結合する細胞外抗原認識ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。遺伝子操作された抗原受容体はまた、T細胞受容体(TCR)であり得る。
【0015】
前記の操作された免疫細胞におけるSuv39h1の活性及び/又は発現は、選択的に阻害又は遮断されることが好ましい。一実施形態において、前記の操作された免疫細胞は、非機能性Suv39h1タンパク質をコードするSuv39h1核酸を発現する。
【0016】
本発明はまた、免疫細胞におけるSuv39h1の発現及び/又は活性を阻害することからなるステップを含み;任意選択で、標的細胞に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を免疫細胞に導入することからなるステップを含む、遺伝子操作された免疫細胞を産生する方法に関する。
【0017】
Suv39h1活性及び/又は発現の阻害は、Suv39h1の発現及び/又は活性を阻害する、並びに/或いはSuv39h1遺伝子を破壊する少なくとも1種の薬剤と細胞を接触すること、又は接触させることを含むことが好ましい。前記薬剤は、小分子阻害剤;抗体誘導体、アプタマー、転写若しくは翻訳を遮断する核酸分子、又は遺伝子編集剤から選択することができる。
【0018】
本発明はまた、養子細胞療法、特にがんの養子療法において使用するための、本明細書に記載の操作された免疫細胞、又は前記操作された免疫細胞を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】セントラルメモリーCD8+T細胞の数は、Suv39h1欠損マウスにおいて増加される。A.ゲートをかけた脾臓CD8+T細胞の代表的なFACSドットプロット。B.セントラルメモリーCD8+T細胞のパーセンテージを異なる造血区画で測定した(黒丸はSuv39h1 KO;白丸:WT同腹仔)。
【
図2】内因性抗原特異的Suv39h1 KO CD8+T細胞における幹細胞性及びメモリーの特性。Suv39h1欠損Kb-OVA+CD8+T細胞は、幹細胞様及びメモリー遺伝子の発現特性を有する。遺伝子セット濃縮解析(GSEA)を示す。
【
図3】Suv39h1欠損CD8T細胞の生存及び自己再生の増加。A.WT及びSuv39h1 KO LM-OVA感染マウスから単離したコンジェニックCD45.2 Kb-OVAペンタマー+CD8+T細胞の、ナイーブレシピエントCD45.1マウスへの移入を示す実験のセットアップ(1:CD8+Tサブセットのソート及び移入(D0);2:自己再生及び分化の解析(D40~44))。養子移入の40日後に、ナイーブレシピエントマウスにLM-OVAでチャレンジし、4日後にKb-OVAペンタマー+CD8+T細胞をFACSによって解析した。B.ドナーCD8+T細胞及びレシピエントCD8+T細胞の代表的なFACSプロットを示す。C.回収したCD8+T細胞の総数を測定した。結果は、2つの独立した実験の結合データである。
【
図4】Suv39h1欠損CD8+OT-1細胞は腫瘍成長を制御する。(A)処理したIL-2/OVA Suv39h1-KO CD45.2 OT-1及び同腹子WT細胞を、接種の7日後に腫瘍担持レシピエントマウスに静脈注射し、抗PD-1抗体(Bio X Cell、RMP-14)を腹腔内注射した。腫瘍担持レシピエントマウスに養子移入された、処理したIL-2/OVA同腹仔WT(B)及びSuv39h1-KO OT-1細胞(C)の腫瘍成長曲線。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、インタクトな抗体、並びに、抗原結合性断片(Fab)断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fv断片、組換えIgG(rIgG)断片を含む機能性(抗原結合性)抗体断片、抗原に特異的に結合可能な可変重鎖(VH)領域、単鎖可変断片(scFv)を含む単鎖抗体断片、及び単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片を含む、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を含む。この用語は、遺伝子操作及び/又は他の改変された形態の免疫グロブリン、例えば、イントラボディ、ペプチボディ、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、及びヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性、例えば二重特異性の抗体、ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディ、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFvを包含する。特に指示のない限り、用語「抗体」とは、その機能性抗体断片を包含すると理解されたい。この用語はまた、IgG及びそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、及びIgDを含む、任意のクラス又はサブクラスの抗体を含む、インタクトな抗体又は全長の抗体を包含する。
【0021】
「抗体断片」とは、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を意味する。抗体断片の例としては、限定するものではないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;直鎖抗体;可変重鎖(VH)領域、単鎖抗体分子、例えば、scFv及び単一ドメインVH単一抗体;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。特定の実施態様では、抗体は、可変重鎖領域及び/又は可変軽鎖領域を含む単鎖抗体断片、例えば、scFvである。
【0022】
「単一ドメイン抗体」は、抗体の重鎖可変ドメインのすべて若しくは一部、又は軽鎖可変ドメインのすべて若しくは一部を含む抗体断片である。特定の実施形態では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である。
【0023】
本明細書で使用される場合、遺伝子発現の「抑制」とは、細胞内の対象遺伝子によってコードされている1つ又は複数の遺伝子産物の発現が、抑制の非存在下での遺伝子産物の発現レベルと比べて、消失又は低減することを意味する。例示的な遺伝子産物としては、その遺伝子によってコードされているmRNA及びタンパク質産物が挙げられる。抑制は、一部の場合では一過性又は可逆的であり、他の場合では恒久的である。抑制は、切断型又は非機能性の産物が生成され得るという事実にもかかわらず、一部の場合では、機能性の若しくは全長のタンパク質又はmRNAの抑制である。本明細書における一部の実施形態では、発現に対立するものとして、遺伝子の活性又は機能が抑制される。遺伝子抑制は、一般的には、人為的方法によって、即ち、化合物、分子、複合体、若しくは組成物の添加若しくは導入によって、及び/又は遺伝子の核酸若しくは遺伝子に関連する核酸の、例えばDNAレベルでの破壊によって誘導される。遺伝子抑制に関する例示的な方法としては、遺伝子サイレンシング、ノックダウン、ノックアウト、及び/又は遺伝子破壊技術、例えば遺伝子編集が挙げられる。例としては、一般的に発現の一時的低減をもたらすアンチセンス技術、例えば、RNAi、siRNA、shRNA、及び/又はリボザイム、並びに、標的化遺伝子の不活化又は破壊を、例えば切断及び/又は相同組換えを誘導することによりもたらす遺伝子編集技術が挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される場合、遺伝子の「破壊」とは、DNAレベルでの遺伝子配列の変化を意味する。例としては、挿入、変異、及び欠失が挙げられる。破壊は、典型的には、遺伝子によってコードされている正常産物又は「野生型」産物の発現の抑制及び/又は消失をもたらす。そのような遺伝子破壊の例は、遺伝子全体の欠失を含む、遺伝子又は遺伝子の一部の挿入、フレームシフト変異及びミスセンス変異、欠失、ノックイン、並びにノックアウトである。そのような破壊は、コード領域において、例えば、1つ又は複数のエクソンにおいて生じ、その結果、例えば、停止コドンの挿入により、全長産物、機能性産物、又は任意の産物が産生できなくなる。そのような破壊はまた、遺伝子の転写を阻止するように、プロモーター又はエンハンサー又は転写の活性化に影響する他の領域の破壊により生じ得る。遺伝子破壊は、相同組換えによる標的遺伝子不活化を含む遺伝子ターゲティングを含む。
【0025】
本発明の細胞
本発明による細胞は、典型的には、哺乳動物細胞(本発明では動物細胞ともいう)などの真核細胞、例えばヒト細胞である。
【0026】
より詳しくは、本発明の細胞は、血液、骨髄、リンパ、又はリンパ器官(特に胸腺)に由来し、免疫系の細胞(即ち、免疫細胞)、例えば自然免疫又は適応免疫の細胞、即ち、リンパ球、典型的にはT細胞及び/又はNK細胞を含む、骨髄細胞又はリンパ系細胞である。
【0027】
本発明によれば、細胞は、特に、T細胞、B細胞及びNK細胞を含むリンパ球であることが好ましい。
【0028】
本発明による細胞は、免疫細胞前駆細胞、例えば、リンパ球前駆細胞、より好ましくはT細胞前駆細胞であってもよい。
【0029】
T細胞前駆細胞は、典型的には、CD44、CD117、CD135、及びSca-1を含むコンセンサスマーカーのセットを発現するが、さらにPetrie HT、Kincade PW.Many roads、one destination for T cell progenitors.The Journal of Experimental Medicine.2005;202(1):11~13も参照されたい。
【0030】
細胞は、典型的には、初代細胞、例えば、対象から直接単離された細胞、及び/又は対象から単離され凍結された細胞である。
【0031】
処置しようとする対象に関して、本発明の細胞は、同種異系及び/又は自己由来であり得る。
【0032】
一部の実施形態では、細胞は、T細胞又は他の細胞タイプの1つ又は複数のサブセット、例えば、全T細胞集団、CD4+細胞、CD8+細胞、及びその部分母集団、例えば、機能、活性化状態、成熟度、分化可能性、増大化、再循環、局在化、及び/又は持続能力、抗原特異性、抗原受容体のタイプ、特定の臓器若しくは区画における存在、マーカー若しくはサイトカイン分泌プロファイル、及び/又は分化の程度によって規定されるものを含む。
【0033】
T細胞及び/又はCD4+T細胞及び/又はCD8+T細胞のサブタイプ及び部分母集団のうち、T細胞は、ナイーブT(TN)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞及びそのサブタイプ、例えば、幹細胞メモリーT(TSCM)、セントラルメモリーT(TCM)、エフェクターメモリーT(TEM)、又は最終分化したエフェクターメモリーT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、未熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、天然及び適応性の調節性T(Treg)細胞、ヘルパーT細胞、例えば、TH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞性ヘルパーT細胞、アルファ/ベータT細胞、並びにデルタ/ガンマT細胞である。本発明による細胞は、Suv39h1の阻害により幹/メモリー特性及びより高い再構成能力を有するTEFF細胞、及びTN細胞、TSCM、TCM、TEM細胞、並びにそれらの組合せであることが好ましい。
【0034】
一部の実施形態では、T細胞集団の1つ又は複数は、1つ又は複数の特定のマーカー、例えば表面マーカーが陽性であるか又はそれらを高レベルで発現する細胞、或いは1つ又は複数のマーカーが陰性であるか又はそれらを比較的低レベルで発現する細胞が濃縮又は枯渇されている。一部の場合では、このようなマーカーは、ある特定のT細胞の集団(例えば非メモリー細胞)では存在しないか又は比較的低レベルで発現しているが、ある特定の他のT細胞集団(例えばメモリー細胞)では存在するか又は比較的高いレベルで発現しているものである。一実施形態では、細胞(例えば、CD8+細胞又はT細胞、例えば、CD3+細胞)は、CD117、CD135、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127及び/又はCD62Lが陽性であるか又はそれらを高表面レベルで発現する細胞が濃縮(即ち、正に選択)されている、並びに/或いはCD45RAが陽性であるか又はそれらを高表面レベルのCD45RAで発現する細胞が枯渇(例えば、負に選択)されている。一部の実施形態では、細胞は、CD122、CD95、CD25、CD27、及び/又はIL7-Ra(CD127)が陽性であるか又はそれらを高表面レベルで発現する細胞が濃縮されているか又は枯渇されている。いくつかの例では、CD8+T細胞は、CD45RO陽性(又はCD45RA陰性)及びCD62L陽性の細胞が濃縮されている。
【0035】
例えば、本発明によれば、細胞は、CD4+T細胞集団及び/又はCD8+T細胞部分母集団、例えば、セントラルメモリー(TCM)細胞が濃縮された部分母集団を含み得る。或いは、細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞、MAIT細胞、自然リンパ球系細胞(ILC)及びB細胞を含む他のタイプのリンパ球であり得る。
【0036】
細胞及び本発明により操作するための細胞を含有する組成物は、試料、特に生体試料、例えば対象から得たか又は対象に由来する生体試料から単離される。典型的には、対象は、細胞療法(養子細胞療法)を必要としている、及び/又は細胞療法を受けるものである。対象は、哺乳動物、特にヒトであることが好ましい。本発明の一実施形態では、対象はがんを有する。
【0037】
試料は、対象から直接採取された組織、液体、及び他の試料、並びに1つ又は複数の処理ステップ、例えば、分離、遠心分離、遺伝子操作(例えば、ウイルスベクターによる形質導入)、洗浄、及び/又はインキュベーションから得られた試料を含む。生体試料は、生物源から直接得られた試料であってもよく、処理された試料であってもよい。生体試料は、限定するものではないが、体液、例えば、血液、血漿、血清、脳脊髄液、関節液、尿及び汗、組織及び臓器試料を、これらに由来する処理された試料を含めて含む。細胞が由来する試料又は単離される試料は、血液若しくは血液由来試料であるか、或いはアフェレーシス生成物若しくは白血球除去法生成物であるか、又はこれらに由来することが好ましい。例示的な試料としては、全血、末梢血単核球(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織生検材料、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、消化管関連リンパ系組織、粘膜関連リンパ系組織、脾臓、他のリンパ系組織、及び/又はこれらに由来する細胞が挙げられる。試料は、細胞療法(典型的に養子細胞療法)の状況において、自己由来及び同種異系の供給源に由来する試料を含む。
【0038】
一部の実施形態では、細胞は細胞株、例えばT細胞株に由来する。細胞はまた、異種供給源、例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、又はブタから得ることができる。細胞は、ヒト細胞であることが好ましい。
【0039】
Suv39h1を欠損する細胞
本明細書において、用語「Suv39h1」又は「H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSuv39h1」は、当技術分野におけるその一般の意義を有し、基質としてモノメチル化H3-Lys-9を使用してヒストンH3のLys-9残基を特異的にトリメチル化する、ヒストンメチルトランスフェラーゼ「多様化サプレッサー(suppressor of variegation)3-9ホモログ1(ショウジョウバエ(Drosophila))」を指す(Aagaard L、Laible G、Selenko P、Schmid M、Dorn R、Schotta G、Kuhfittig S、Wolf A、Lebersorger A、Singh PB、Reuter G、Jenuwein T(1999年6月)「Functional mammalian homologues of the Drosophila PEV-modifier Su(var)3-9 encode centromere-associated proteins which complex with the heterochromatin component M3 1」EMBO J 1 8(7):1923~38も参照されたい)。前記ヒストンメチルトランスフェラーゼは、MG44、KMT1A、SUV39H、SUV39H1、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼSUV39H1、H3-K9-HMTase 1、OTTHUMP00000024298、Su(var)3-9ホモログ1、リシンN-メチルトランスフェラーゼ1A、ヒストンH3-K9メチルトランスフェラーゼ1、位置効果(position-effect variegation)3-9ホモログ、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ又はH3リシン-9特異的1としても知られている。ヒトSuv39h1メチルトランスフェラーゼはUNIPROTでO43463と呼ばれ、染色体xに位置する遺伝子Suv39h1(NCBIでの遺伝子ID:6839)によってコードされている。本発明による用語Suv39h1はまた、SUV39H1のすべてのオルソログ、例えばSU(VAR)3-9も包含する。
【0040】
本明細書で使用される場合、本発明による表現「Suv39h1を欠損する」とは、本発明による細胞におけるSuv39h1活性(即ち、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼによるヒストンH3のLys-9のメチル化)の阻害又は遮断を意味する。
【0041】
本発明による「Suv39h1活性の阻害」とは、阻害されていないSuv39h1タンパク質の活性又はレベルと比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%以上のSuv39h1活性の低下を意味する。Suv39h1活性の阻害によりSuv39h1の実質的に検出可能な活性が細胞内に存在しなくなることが好ましい。
【0042】
Suv39h1活性の阻害はまた、Suv39h1遺伝子発現の抑制によって、又はSuv39h1遺伝子の破壊によって達成することもできる。本発明によれば、前記抑制は、細胞、特に本発明の免疫細胞におけるSuv39h1の発現を、抑制の非存在下での方法によって産生される同一細胞に対して少なくとも50、60、70、80、90、又は95%低下させる。遺伝子破壊はまた、Suv39h1タンパク質の発現低下、又は非機能性Suv39h1タンパク質の発現をもたらし得る。
【0043】
「非機能性」Suv39h1タンパク質とは、本明細書では、上記のように活性が低下したか、又は検出可能な活性が欠如したタンパク質を意味する。
【0044】
従って、本発明による細胞におけるSuv39h1活性の阻害剤は、天然の、又はH3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼによるヒストンH3のLys-9のメチル化を阻害する能力若しくはH3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現を阻害する能力を有さない任意の化合物又は薬剤の中から選択することができる。
【0045】
本発明による免疫細胞におけるSuv39h1の阻害は、永続的であり、不可逆的又は一時的又は可逆的であり得る。しかし、Suv39h1阻害は、永続的で不可逆であることが好ましい。細胞におけるSuv39h1の阻害は、以下に記載のように、標的患者への細胞の注射の前又は後に達成され得る。
【0046】
本発明による遺伝子操作された細胞
一部の実施形態では、細胞は、1つ又は複数の抗原受容体をコードする遺伝子操作を介して導入された1つ又は複数の核酸を含む。
【0047】
典型的には、核酸は異種である(即ち、例えば、操作される細胞及び/又はそのような細胞が由来する生物では通常見られない核酸)。一部の実施形態では、複数の異なる細胞型からの様々なドメインをコードする核酸のキメラ的組合せを含めて、核酸は、天然には存在しない。
【0048】
本発明による抗原受容体の中には、遺伝子操作されたT細胞受容体(TCR)及びそれらの成分、並びに機能性非TCR抗原受容体、例えばキメラ抗原受容体(CAR)がある。
【0049】
キメラ抗原受容体(CAR)
一部の実施形態では、操作された抗原受容体は、活性化CAR若しくは刺激性CAR、共刺激性CAR(国際公開第2014/055668号を参照)、及び/又は阻害性CAR(iCAR、Fedorovら、Sci.Transl.Medicine、5(215) 2013年12月を参照)を含めた、キメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0050】
キメラ抗原受容体(CAR)(キメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体としても知られる)は、免疫エフェクター細胞(T細胞)に任意の特異性を移植する操作された受容体である。典型的には、これらの受容体を使用してモノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植し、それらのコード配列の転写がレトロウイルスベクターによって促進される。
【0051】
CARは、一般的に、一部の態様では、リンカー及び/又は膜貫通ドメイン(複数可)を介して、1つ又は複数の細胞内シグナル伝達成分に連結されている細胞外抗原(又はリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は、典型的には、天然抗原受容体を介したシグナル、共刺激受容体と組み合わせたそのような受容体を介したシグナル、及び/又は共刺激受容体のみを介したシグナルを模倣するか、又は似せる。
【0052】
一部の実施形態では、CARは、特定の抗原(又はマーカー若しくはリガンド)、例えば、がんマーカーなどの養子療法により標的化される特定の細胞型で発現される抗原に対する特異性を備えて構築される。従って、CARは、典型的には、その細胞外部分に、1つ又は複数の抗原結合分子、例えば、1つ若しくは複数の抗原結合性断片、ドメイン、若しくは部分、又は1つ若しくは複数の抗体可変ドメイン、及び/又は抗体分子を含む。
【0053】
抗原に結合させるために使用される部分は、3つの一般的なカテゴリー、抗体由来の単鎖抗体断片(scFv)、ライブラリーから選択されたFab’、又は(第一世代CARに対する)それらの同族受容体に関与する天然リガンドのいずれかに分類される。これらの各カテゴリーでの成功例は、特に、Sadelain M、 Brentjens R、Riviere I.The basic principles of chimeric antigen receptor(CAR)design.Cancer discovery.2013;3(4):388~398(特に表1を参照)で報告されており、本願に含まれる。マウス免疫グロブリン由来のscFv’は、十分に特徴付けられたモノクローナル抗体から容易に誘導されるので、一般的に使用されている。
【0054】
典型的には、CARは、抗体分子の1つ又は複数の抗原結合部分、例えば、モノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)に由来する単鎖抗体断片(scFv)を含む。
【0055】
一部の態様では、CARは、標的としようとする細胞若しくは疾患、例えば、腫瘍細胞若しくはがん細胞のがんマーカー若しくは細胞表面抗原などの抗原、例えば本明細書に記載の若しくは当技術分野において周知のいずれかの標的抗原に特異的に結合する抗体重鎖ドメインを含む。
【0056】
一部の実施形態では、CARは、細胞の表面で発現される抗原、例えばインタクトな抗原を特異的に認識する抗体又は抗原結合性断片(例えばscFv)を含む。
【0057】
一部の実施形態では、CARは、MHC-ペプチド複合体として細胞表面に提示される細胞内抗原、例えば腫瘍関連抗原を特異的に認識するTCR様抗体、例えば抗体又は抗原結合性断片(例えばscFv)を含む。一部の態様では、MHC-ペプチド複合体を認識する抗体又はその抗原結合部分は、組換え受容体、例えば抗原受容体の一部として細胞で発現させることができる。抗原受容体の中には、機能性非TCR抗原受容体、例えばキメラ抗原受容体(CAR)がある。一般的に、ペプチド-MHC複合体に対するTCR様特異性を示す抗体又は抗原結合性断片を含むCARは、TCR様CARとも呼ばれ得る。
【0058】
一部の態様では、抗原特異的結合又は認識成分は、1つ又は複数の膜貫通及び細胞内シグナル伝達ドメインに連結される。一部の実施形態では、CARは、CARの細胞外ドメインに融合した膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、CAR内のドメインの1つと自然的に関連する膜貫通ドメインが使用される。一部の場合では、膜貫通ドメインは、アミノ酸置換により選択又は修飾され、同一の又は異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合が回避され、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限にする。
【0059】
一部の実施形態における膜貫通ドメインは、天然供給源又は合成供給源のいずれかに由来する。供給源が天然の場合、ドメインは膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来し得る。膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ、ベータ又はゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CDS、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来する(即ち、それらの少なくとも膜貫通領域(複数可)を含む)ものを含む。膜貫通ドメインはまた、合成であり得る。
【0060】
一部の実施形態では、短いオリゴペプチドリンカー又はポリペプチドリンカー、例えば、長さが2~10アミノ酸のリンカーが存在し、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインの間に連結を形成する。
【0061】
CARは、一般的に、少なくとも1つの細胞内シグナル伝達成分を含む。第一世代CARは、典型的には、内因性TCRからのシグナルの主要な伝達物質であるCD3ζ鎖からの細胞内ドメインを有していた。第二世代CARは、典型的には、様々な共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)からCARの細胞質側末端までの細胞内シグナル伝達ドメインをさらに含み、T細胞に追加のシグナルを提供する。前臨床試験では、第二世代がT細胞の抗腫瘍活性を改善することが示された。さらに最近、第三世代CARは、複数のシグナル伝達ドメインを組み合わせて、例えばCD3z-CD28-41BB又はCD3z-CD28-OX40のように、効力を増強させている。
【0062】
例えば、CARは、TCR複合体の細胞内成分、例えば、T細胞活性化及び細胞毒性を媒介するTCR CD3+鎖、例えばCD3ゼータ鎖を含むことができる。従って、一部の態様では、抗原結合分子は、1つ又は複数の細胞シグナル伝達モジュールに連結される。一部の実施形態では、細胞シグナル伝達モジュールは、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、及び/又は他のCD膜貫通ドメインを含む。CARはまた、1つ又は複数の追加分子、例えばFc受容体γ、CD8、CD4、CD25、又はCD16の一部をさらに含むことができる。
【0063】
一部の実施形態では、CARのライゲーションの際、CARの細胞質ドメイン又は細胞内シグナル伝達ドメインは、対応する非操作免疫細胞(典型的にはT細胞)の正常なエフェクター機能又は応答の少なくとも1つを活性化する。例えば、CARは、T細胞の機能、例えば、細胞溶解活性又はTヘルパー活性、サイトカイン又は他の因子の分泌を誘導することができる。
【0064】
一部の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメイン(複数可)は、T細胞受容体(TCR)の細胞質配列を含み、一部の態様ではまた、天然の状況において、そのような受容体と協調して作用し、抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始する共受容体の細胞質配列、及び/又はそのような分子の任意の誘導体若しくは変異体、及び/又は同じ機能性能力を有する任意の合成配列を含む。
【0065】
T細胞活性化は、一部の態様では、次の2つのクラスの細胞質シグナル伝達配列によって媒介されると説明される:TCRを介して抗原依存的一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)、及び抗原非依存的に作用して二次シグナル又は共刺激シグナルを提供するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)。一部の態様では、CARは、そのようなシグナル伝達成分の一方又は両方を含む。
【0066】
一部の態様では、CARは、TCR複合体の一次活性化を刺激的方法又は阻害的方法のいずれかで調節する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。刺激的方法で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ又はITAMとして知られているシグナル伝達モチーフを含み得る。ITAMを含む一次細胞質シグナル伝達配列の例としては、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CDS、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが挙げられる。一部の実施形態では、CARの細胞質シグナル伝達分子(複数可)は、CD3ゼータに由来する細胞質シグナル伝達ドメイン、その一部、又は配列を含む。
【0067】
CARはまた、共刺激受容体、例えばCD28、4-1BB、OX40、DAP10、及びICOSのシグナル伝達ドメイン及び/又は膜貫通部分も含むことができる。一部の態様では、同じCARが活性化成分と共刺激成分の両方を含む;或いは、活性化ドメインは1つがCARによって提供され、一方、共刺激成分が別の抗原を認識する別のCARによって提供される。
【0068】
CAR又は他の抗原受容体はまた、阻害性CAR(例えば、iCAR)であってもよく、応答、例えば免疫応答を弱化又は抑制する細胞内成分を含む。そのような細胞内シグナル伝達成分の例は、PD-1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、A2ARを含むEP2/4アデノシン受容体を含めた、免疫チェックポイント分子で確認されるものである。一部の態様では、操作された細胞は、そのような阻害分子のシグナル伝達ドメイン、又はそれに由来する阻害性CARを含み、その応答を弱化させるように働く。そのようなCARは、例えば、活性化受容体、例えばCARにより認識される抗原も正常細胞の表面で発現されるか、又は発現される場合があるオフターゲット効果の可能性を低減するために使用される。
【0069】
TCR
一部の実施形態では、遺伝子操作された抗原受容体は、組換えT細胞受容体(TCR)及び/又は天然T細胞からクローニングされたTCRを含む。
【0070】
「T細胞受容体」又は「TCR」とは、可変a鎖及びβ鎖(それぞれ、TCRa及びTCRpとしても知られている)又は可変γ鎖及びδ鎖(それぞれ、TCRγ及びTCR5としても知られている)を含み、MHC受容体に結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができる分子を意味する。一部の実施形態では、TCRはαβ型である。典型的には、αβ型及びγδ型で存在するTCRは一般に構造的に類似しているが、それらを発現するT細胞は異なる解剖学的位置又は機能を有する場合がある。TCRは、細胞の表面で、又は可溶性形態で確認することができる。一般的に、TCRはT細胞(又はTリンパ球)の表面で確認され、そこで一般的には主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原を認識する役割を担っている。一部の実施形態では、TCRはまた、定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び/又は短い細胞質側末端を含み得る(例えば、Janewayら、Immunobiology:The Immune System in Health and Disease、第3版、Current Biology Publications、p.4:33、1997を参照)。例えば、一部の態様では、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、及びC末端の短い細胞質側末端を保有することができる。一部の実施形態では、TCRは、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体のインバリアントタンパク質と関連している。特に明示のない限り、用語「TCR」とは、その機能性TCR断片を包含するものと理解されたい。この用語はまた、αβ型又はγδ型のTCRを含む、インタクトなTCR又は全長TCRも包含する。
【0071】
従って、本明細書における目的のために、TCRへの言及は、任意のTCR又は機能性断片、例えば、MHC分子に結合した特定の抗原ペプチド、即ち、MHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分を含む。TCRの「抗原結合部分」又は「抗原結合性断片」は、同義的に使用することができ、TCRの構造ドメインの一部を含有するが、完全TCRが結合する抗原(例えばMHC-ペプチド複合体)に結合する分子を意味する。一部の場合には、抗原結合部分は、特定のMHC-ペプチド複合体に結合するために結合部位を形成するのに十分な、TCRの可変ドメイン、例えばTCRの可変a鎖及び可変β鎖などを含み、例えば一般的には、各鎖は3つの相補性決定領域を含有する場所である可変ドメインを含有する。
【0072】
一部の実施形態では、TCR鎖の可変ドメインは会合してループ、又は免疫グロブリンに類似した相補性決定領域(CDR)を形成し、これらは抗原認識を付与し、TCR分子の結合部位を形成することによりペプチド特異性を決定し、ペプチド特異性を決定する。典型的には、免疫グロブリンと同様に、CDRはフレームワーク領域(FR)によって分離されている(例えば、Joresら、Pwc.Nat’lAcad.Sci.U.S.A.87:9138、1990;Chothiaら、EMBO J.7:3745、1988を参照;また、Lefrancら、Dev.Comp.Immunol.27:55、2003も参照)。一部の実施形態では、CDR3は、処理された抗原の認識に関与する主要なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1もまた抗原ペプチドのN末端部分と相互作用するのに対し、ベータ鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用することが明らかにされている。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられる。一部の実施形態では、β鎖の可変領域は、さらなる超可変性(HV4)領域を含むことができる。
【0073】
一部の実施形態では、TCR鎖は定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブリンと同様に、TCR鎖(例えば、a鎖、β鎖)の細胞外部分は、2つの免疫グロブリンドメイン、N末端の可変ドメイン(例えば、Va又はVp;典型的には、Kabatナンバリング、Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,Public Health Service National Institutes of Health、1991、第5版に基づいたアミノ酸1~116)と、細胞膜に隣接する1つの定常ドメイン(例えば、a鎖定常ドメイン又はCa、典型的には、Kabatに基づいたアミノ酸117~259、β鎖定常ドメイン又はCp、典型的には、Kabatに基づいたアミノ酸117~295)を含み得る。例えば、一部の場合には、2本の鎖によって形成されるTCRの細胞外部分は、2つの膜近位定常定常ドメイン、及びCDRを含有する2つの膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成し、2本の鎖を連結する短い接続配列を含む。一部の実施形態では、TCRが定常ドメイン内に2つのジスルフィド結合を含有するように、TCRはさらなるシステイン残基をa鎖及びβ鎖のそれぞれに有していてもよい。
【0074】
一部の実施形態では、TCR鎖は膜貫通ドメインを含むことができる。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは正に帯電している。一部の場合には、TCR鎖は細胞質側末端を含む。一部の場合には、この構造により、TCRはCD3のような他の分子と結合することが可能になる。例えば、定常ドメインと膜貫通領域を含むTCRは、タンパク質を細胞膜に固定し、CD3シグナル伝達体(signaling apparatus)又は複合体のインバリアントサブユニットと会合することができる。
【0075】
一般的に、CD3は、哺乳動物での3つの異なる鎖(γ、δ、及びε)並びにζ鎖を保有し得る多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物において、複合体は、CD3y鎖、CD35鎖、2つのCD3s鎖、及びCD3ζ鎖のホモ二量体を含むことができる。CD3y鎖、CD35鎖、及びCD3s鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーファミリーの非常に関連性のある細胞表面タンパク質である。CD3y鎖、CD35鎖、及びCD3s鎖の膜貫通領域は負に荷電しているが、これは、これらの鎖が正に荷電しているT細胞受容体鎖と会合するのを可能にすることの特徴である。CD3y鎖、CD35鎖、及びCD3s鎖の細胞内末端は、それぞれ免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ又はITAMとして知られている1つの保存モチーフを含有するのに対し、各CD3ζ鎖は3つの保存モチーフを含有する。一般的に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能力に関与する。これらのアクセサリー分子は、負に荷電した膜貫通領域を有しており、TCRから細胞へのシグナル伝播の役割を果たす。CD3-鎖及びζ-鎖は、TCRと一緒になって、T細胞受容体複合体として知られているものを形成する。
【0076】
一部の実施形態では、TCRは、2つの鎖a及びβ(又は任意選択でγ及びδ)のヘテロ二量体であってもよく、又は単鎖TCR構築物であってもよい。一部の実施形態では、TCRは、例えば、1つ又は複数のジスルフィド結合によって連結されている2つの個別の鎖(a鎖及びβ鎖又はγ鎖及びδ鎖)を含有するヘテロ二量体である。
【0077】
CAR及び組換えTCRを含む例示的な抗原受容体、並びに受容体を細胞に操作及び導入するための方法としては、例えば、国際特許出願公開の国際公開第200014257号、国際公開第2013126726号、国際公開第2012/129514号、国際公開第2014031687号、国際公開第2013/166321号、国際公開第2013/071154号、国際公開第2013/123061号、米国特許出願公開第2002131960号、同第2013287748号、同第20130149337号、米国特許第6,451,995号、同第7,446,190号、同第8,252,592号、同第8,339,645号、同第8,398,282号、同第7,446,179号、同第6,410,319号、同第7,070,995号、同第7,265,209号、同第7,354,762号、同第7,446,191号、同第8,324,353号、及び同第8,479,118号、並びに欧州特許出願公開第2537416号に記載のもの、並びに/或いはSadelainら、Cancer Discov.2013年4月;3(4):388~398;Davilaら、(2013) PLoS ONE 8(4):e61338;Turtleら、Curr. Opin.Immunol.2012年10月;24(5):633~39;Wuら、Cancer、2012年3月、18(2):160~75に記載のものが挙げられる。一部の態様では、遺伝子操作された抗原受容体としては、米国特許第7,446,190号に記載のCAR、及び国際特許出願公開の国際公開第2014055668A1号に記載のCARが挙げられる。
【0078】
抗原
遺伝子操作された抗原受容体によって標的化される抗原の中には、養子細胞療法を介して標的化しようとする疾患、状態、又は細胞型の状況で発現されるものがある。疾患及び状態の中には、増殖性、新生物性、及び悪性の疾患及び障害があり、特にがんがある。
【0079】
がんは、固形がん、又は、特に白血病及びリンパ腫を含む、造血及びリンパ組織の腫瘍としても知られている、「液性腫瘍」、例えば血液、骨髄、リンパ系に影響するがんであり得る。液性腫瘍としては、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、及び慢性リンパ性白血病(CLL)が挙げられる(マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、胆嚢及び胆管がん、網膜芽細胞腫などの網膜のがんなどの様々なリンパ腫を含む)。
【0080】
固形がんとしては、特に、結腸、直腸、皮膚、子宮内膜、肺(非小細胞肺がんを含む)、子宮、骨(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、巨細胞腫、エナメル上皮腫、及び脊索腫)、肝臓、腎臓、食道、胃、膀胱、膵臓、頸部、脳(例えば、髄膜腫、膠芽腫、低悪性度星状細胞腫、乏突起膠細胞腫、下垂体腫瘍、シュワン細胞腫、及び転移性脳腫瘍)、卵巣、乳房、頭頸部領域、精巣、前立腺、及び甲状腺からなる群から選択される臓器の1つに影響するがんが挙げられる。
【0081】
本発明によるがんは、上記の血液、骨髄及びリンパ系に影響するがんであることが好ましい。典型的には、がんは、多発性骨髄腫であるか、又は多発性骨髄腫に関連している。
【0082】
本発明による疾患はまた、感染症又は状態、例えば、限定するものではないが、ウイルス感染、レトロウイルス感染、細菌感染、及び原虫感染、免疫不全、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルスの感染又は状態;自己免疫性又は炎症性の疾患又は状態、例えば、関節炎、例えば慢性関節リウマチ(RA)、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、硬皮症、自己免疫性甲状腺疾患、グレーブス病、クローン病、多発性硬化症、喘息、及び/又は移植に随伴する疾患若しくは状態を包含する。
【0083】
一部の実施形態では、抗原はポリペプチドである。一部の実施形態では、抗原は炭水化物又は他の分子である。一部の実施形態では、抗原は、正常な又は非標的の細胞又は組織と比較して、疾患又は状態の細胞、例えば腫瘍細胞又は病原細胞で選択的に発現又は過剰発現される。他の実施形態では、抗原は正常細胞で発現され、及び/又は操作された細胞で発現される。いくつかのそのような実施形態では、本明細書で提供されるマルチターゲティング方法及び/又は遺伝子破壊方法を使用して、特異性及び/又は有効性を改善する。
【0084】
一部の実施形態では、抗原は普遍的腫瘍抗原である。用語「普遍的腫瘍抗原」とは、一般的に、腫瘍細胞で非腫瘍細胞よりも高レベルで発現され、また様々な起源の腫瘍で発現される免疫原性分子、例えばタンパク質を意味する。一部の実施形態では、普遍的腫瘍抗原は、ヒトがんの30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、又はそれより多くのヒトがんで発現される。一部の実施形態では、普遍的腫瘍抗原は、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ又はそれより多くの異なるタイプの腫瘍で発現される。一部の場合には、普遍的腫瘍抗原は、非腫瘍細胞、例えば正常細胞で発現され得るが、腫瘍細胞で発現されるレベルより低いレベルで発現される。一部の場合には、普遍的腫瘍抗原は、非腫瘍細胞では全く発現されず、例えば、正常細胞では発現されない。例示的な普遍的腫瘍抗原としては、例えば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウス二重微小染色体2ホモログ(MDM2)、シトクロムP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、Wilms腫瘍遺伝子1(WT1)、リビン、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、又はサイクリン(Dl)が挙げられる。普遍的腫瘍抗原を含む腫瘍抗原のペプチドエピトープは当技術分野において公知であり、一部の態様では、MHC拘束性抗原受容体、例えばTCR又はTCR様CARを調製するのに使用することができる(例えば、PCT出願の国際公開第2011009173号又は同2012135854号、及び米国特許出願公開第20140065708号を参照)。
【0085】
一部の態様では、抗原は多発性骨髄腫で発現され、例えば、CD38、CD138、及び/又はCS-1である。他の例示的な多発性骨髄腫抗原としては、CD56、TIM-3、CD33、CD123、及び/又はCD44が挙げられる。そのような抗原に対して示された抗体又は抗原結合性断片は公知であり、例えば、米国特許第8,153,765号、同第8,603477号、同第8,008,450号に記載されているもの;米国特許出願公開第20120189622号に記載されているもの、及びPCT出願の国際公開第2006099875号、同2009080829号、又は同2012092612号に記載されているものが挙げられる。一部の実施形態では、そのような抗体又はその抗原結合性断片(例えばscFv)を使用してCARを生成することができる。
【0086】
一部の実施形態では、抗原は、がん細胞又は腫瘍細胞の表面で発現又はアップレギュレートされるが、これはまた休止T細胞又は活性化T細胞などの免疫細胞で発現され得るものであってもよい。例えば、一部の場合には、hTERT、サバイビン、及び他の普遍的腫瘍抗原の発現は、活性化Tリンパ球を含むリンパ球に存在することが報告されている(例えば、Wengら、(1996)J Exp.Med.、183:2471~2479;Hathcockら、(1998)J Immunol、160:5702~5706;Liuら、(1999)Proc. Natl Acad Sci.96:5147~5152;Turksmaら、(2013)Journal of Translational Medicine、11:152を参照)。同様に、一部の場合には、CD38及び他の腫瘍抗原はまた、T細胞などの免疫細胞で発現され、例えば、活性化T細胞でアップレギュレートされ得る。例えば、一部の態様では、CD38は、公知のT細胞活性化マーカーである。
【0087】
本明細書で提供される一部の実施形態では、発現した遺伝子操作された抗原受容体が免疫細胞自体のその発現の状況において抗原に特異的に結合しないように、免疫細胞、例えばT細胞は、免疫細胞の抗原をコードする遺伝子を抑制又は破壊するように操作され得る。従って、一部の態様では、これによって、例えば、養子細胞療法に関連して、免疫細胞における操作されたものの効力を低下させ得る、オフターゲット作用、例えば、操作された免疫細胞同士の結合を回避することができる。
【0088】
一部の実施形態では、例えば阻害性CARの場合、標的はオフターゲットマーカーであり、例えば、疾患細胞又は標的化しようとする細胞では発現されないが、正常細胞又は非疾患細胞で発現される抗原であり、これは操作された同じ細胞において活性化受容体又は刺激受容体によって標的化される疾患特異的標的を発現する。例示的なそのような抗原は、MHC分子、例えばMHCクラスI分子であって、例えば、疾患又は状態の処置に関連してそのような分子はダウンレギュレートされるが、非標的細胞では発現され続けるものである。
【0089】
一部の実施形態では、操作された免疫細胞は、1種又は複数の他の抗原を標的化する抗原を含有することができる。一部の実施形態では、1種又は複数の他の抗原は、腫瘍抗原又はがんマーカーである。提供した免疫細胞上の抗原受容体によって標的化される他の抗原としては、一部の実施形態では、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、Ll-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、及びB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、3若しくは4、FBP、胎児アセチコリン(acethycholine)e受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、ルイスY、Ll-細胞接着分子、MAGE-A1、メソテリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、癌胎児性抗原、ROR1、TAG72、VEGF-R2、癌胎児抗原(CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、ephrinB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、及びMAGE A3、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリン、例えば、サイクリンAl(CCNA1)、並びに/或いはビオチン化分子、並びに/或いはHIV、HCV、HBV、又は他の病原体が発現する分子を挙げることができる。
【0090】
一部の実施形態では、CARは、病原体特異的抗原に結合する。一部の実施形態では、CARは、ウイルス抗原(例えば、HIV、HCV、HBVなど)、細菌抗原、及び/又は寄生虫抗原に特異的である。
【0091】
一部の実施形態では、本発明の細胞は、2種以上の遺伝子操作された受容体を細胞上に発現するように遺伝子操作され、それぞれの受容体は異なる抗原を認識し、典型的には、それぞれが異なる細胞内シグナル伝達成分を含む。そのようなマルチターゲティング手法は、例えば、国際特許出願の国際公開第2014055668A1号(例えば、オフターゲット細胞、例えば、正常細胞上に個別に存在するが、処置しようとする疾患又は状態の細胞上でしか一緒に存在しない2種の異なる抗原を標的化する、活性化CARと共刺激CARの組合せを説明)、及びFedorovら、Sci.Transl.Medicine、5(215)(2013年12月)(活性化CAR及び阻害性CARを発現する細胞、例えば、活性化CARが正常細胞又は非疾患細胞と、処置しようとする疾患又は状態の細胞の両方で発現される1つの抗原に結合し、阻害性CARが、正常細胞又は処置が望まれない細胞でしか発現しない別の抗原に結合するものについて説明)に記載されている。
【0092】
いくつかの状況では、刺激因子(例えば、リンホカイン又はサイトカイン)の過剰発現が対象にとって毒性である場合がある。従って、いくつかの状況では、操作された細胞は、例えば、養子免疫療法で投与される場合に、in vivoで細胞を負の選択に対して感受性にさせる遺伝子セグメントを含む。例えば、一部の態様では、細胞は、投与される患者のin vivo状態が変化した結果として排除され得るように操作される。負の選択可能な表現型は、投与される薬剤、例えば、化合物に対する感受性を付与する遺伝子の挿入により得ることができる。負の選択可能な遺伝子としては、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子(Wiglerら、Cell II:223、1977);細胞ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子、細胞アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子、細菌シトシンデアミナーゼ、(Mullenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:33(1992))が挙げられる。
【0093】
本発明の他の実施形態では、細胞、例えばT細胞は、組換え受容体を発現するように操作されず、むしろ所望の抗原に特異的な天然の抗原受容体、例えば、インキュベーションのステップ(複数可)の間に、in vitro又はex vivoで培養された腫瘍浸潤リンパ球及び/又はT細胞などを含み、特定の抗原特異性を有する細胞の増殖を促進する。例えば、一部の実施形態では、細胞は、腫瘍特異的T細胞、例えば自己由来の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を単離することによって養子細胞療法のために生成される。自己由来の腫瘍浸潤リンパ球を使用するヒト腫瘍の直接標的化は、一部の場合には、腫瘍退縮を媒介することができる(Rosenberg SAら、(1988)N Engl J Med.319:1676~1680を参照)。一部の実施形態では、リンパ球は、切除された腫瘍から抽出される。一部の実施形態では、そのようなリンパ球は、in vitroで増殖される。一部の実施形態では、そのようなリンパ球は、リンホカイン(例えばIL-2)と共に培養される。一部の実施形態では、そのようなリンパ球は、自己由来の腫瘍細胞の特異的溶解を媒介するが、同種異系の腫瘍細胞又は自己由来の正常細胞の特異的溶解は媒介しない。
【0094】
導入のためのさらなる核酸、例えば遺伝子の中には、例えば、移入された細胞の生存及び/又は機能を促進することにより療法の効力を改善するもの;細胞を選択及び/又は評価するための、例えば、in vivoでの生存又は局在化を評価するための遺伝子マーカーを提供する遺伝子;Lupton S. D.ら、Mol.and Cell Biol.、11:6(1991)、及びRiddellら、Human Gene Therapy 3:319~338(1992)に記載されているような、例えば、in vivoで細胞を負の選択に対して感受性にすることによって、安全性を改善する遺伝子がある;また、優性の正の選択マーカーを負の選択マーカーと融合することから誘導される二機能性の選択可能な融合遺伝子の使用について説明している、Luptonらによる国際出願PCT/US91/08442及び国際出願PCT/US94/05601の公報も参照されたい。例えば、Riddellら、米国特許第6,040,177号、第14~17欄を参照されたい。
【0095】
本発明による細胞を得るための方法
本発明はまた、免疫細胞におけるSuv39h1の発現及び/又は活性を阻害することからなるステップを含む、改変又は操作された免疫細胞を産生する方法に関する。
【0096】
本発明による細胞を得るための方法は、標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体を前記免疫細胞に導入することからなるステップをさらに含むことが好ましい。
【0097】
Suv39h1の発現及び/又は活性の阻害と、免疫細胞における標的抗原に特異的に結合する遺伝子操作された抗原受容体の導入は、同時に、又は任意の順序で連続して実施することができる。
【0098】
Suv39h1の阻害
本発明によれば、操作された免疫細胞は、Suv39h1の発現及び/又は活性を阻害又は遮断する少なくとも1種の薬剤と接触させることができる。
【0099】
前記薬剤は、次の小分子阻害剤から選択することができる:典型的には、Suv39h1の発現又は活性を遮断又は阻害する、イントラボディ、ナノボディ、アフィボディなどの抗体誘導体;典型的には、Suv39h1の発現又は活性を遮断又は阻害するアプタマー;Suv39h1に相補的なアンチセンス分子などの転写又は翻訳を遮断する核酸分子;RNA干渉剤(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、又はpiwiRNA(piRNA);リボザイム、それらの組合せ。
【0100】
また少なくとも1種の薬剤は、a)Suv39h1ゲノム核酸配列とハイブリダイズする操作された非天然のクリスパー(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)(CRISPR)ガイドRNA、及び/又はb)CRISPRタンパク質(典型的には、II型Cas9タンパク質)をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸であってもよく、任意選択で、細胞はCas9タンパク質を発現するためにトランスジェニックである。また薬剤は、亜鉛フィンガータンパク質(ZFN)又はTALタンパク質であり得る。
【0101】
用語「有機小分子」は、医薬品において一般に使用される有機分子に匹敵するサイズの分子を指す。この用語は、生物学的高分子(例えば、タンパク質、核酸等)を除外する。好まれる有機小分子は、サイズが、最大約5000Da、より好ましくは最大2000Da、最も好ましくは最大約1000Daに及ぶ。
【0102】
特定の実施形態では、H3K9ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1の阻害剤は、Greiner D、Bonaldi T、Eskeland R、Roemer E、Imhof A.「Identification of a specific inhibitor of the histone methyltransferase SU(VAR)3-9」、Nat Chem Biol.2005年8月;l(3):143~5.;Weber、H.P.ら「The molecular structure and absolute configuration of chaetocin」、Acta Cryst、B28、2945~2951(1972);Udagawa、S.ら「The production of chaetoglobosins,sterigmatocystin,O-methylsterigmatocystin,and chaetocin by Chaetomium spp. and related fungi」、Can.J.microbiol、25、170~177(1979);及びGardiner、D.M.ら「The epipolythiodioxopiperazine(ETP)class of fungal toxins:distribution,mode of action,functions and biosynthesis」、Microbiol、151、1021~1032(2005)に記載されている通り、ケトシン(chaetocin)(CAS 28097-03-2)である。例えば、ケトシンは、Sigma Aldrichから市販されている。
【0103】
SUV39H1の阻害剤は、ETP69(Rac-(3S,6S,7S,8aS)-6-(ベンゾ[d][1,3]ジオキソール-5-イル)-2,3,7-トリメチル-1,4-ジオキソヘキサヒドロ-6H-3,8a-エピジチオピロロ[1,2-a]ピラジン-7-カルボニトリル)、エピジチオジケトピペラジンアルカロイドケトシンAのラセミアナログ(国際公開第2014066435号を参照、また、Baumann M、Dieskau AP、Loertscher BMら、Tricyclic Analogues of Epidithiodioxopiperazine Alkaloids with Promising In Vitro and In Vivo Antitumor Activity.Chemical science(Royal Society of Chemistry:2010).2015;6:4451~4457及びSnigdha S、Prieto GA、Petrosyan Aら、H3K9me3 Inhibition Improves Memory, Promotes Spine Formation,and Increases BDNF Levels in the Aged Hippocampus.The Journal of Neuroscience.2016;36(12):3611~3622も参照されたい)となることもできる。
【0104】
化合物の阻害活性は、Greiner D.ら、Nat Chem Biol.2005年8月;l(3):143~5又はEskeland、R.ら、Biochemistry 43、3740~3749(2004)に記載されている様々な方法を使用して決定することができる。
【0105】
細胞内のSuv39h1の阻害は、標的患者への注射の前又は後に達成することができる。一部の実施形態では、先に定義した阻害は、対象に細胞を投与した後にin vivoで実施される。典型的には、本明細書で定義したSuv39h1阻害剤は、細胞を含有する組成物に含めることができる。またSuv39h1は、対象に細胞(複数可)を投与する前に、同時に、又は後に、別々に投与することができる。
【0106】
典型的には、本発明によるSuv39h1の阻害は、本発明による細胞を、前述の少なくとも1種の薬理学的阻害剤を含む組成物と共にインキュベートすることにより達成され得る。阻害剤は、in vitroでの抗腫瘍T細胞の増大化中に含め、これにより、養子移入後のそれらの再構成、生存及び治療効果を変化させる。
【0107】
本発明による細胞におけるSuv39h1の阻害は、イントラボディを用いて達成され得る。イントラボディは、同じ細胞において産生された後に、その抗原に細胞内で結合する抗体である(概説については、例えば、Marschall AL、Dubel S及びBoldicke T「Specific in vivo knockdown of protein function by intrabodies」、MAbs.2015;7(6):1010~35を参照、また、Van Impe K、Bethuyne J、Cool S、Impens F、Ruano-Gallego D、De Wever O、Vanloo B、Van Troys M、Lambein K、Boucherie Cら「A nanobody targeting the F-actin capping protein CapG restrains breast cancer metastasis」、Breast Cancer Res 2013;15:R116;Hyland S、Beerli RR、Barbas CF、Hynes NE、Wels W.「Generation and functional characterization of intracellular antibodies interacting with the kinase domain of human EGF receptor」、Oncogene 2003;22:1557~67;Lobato MN、Rabbitts TH.「Intracellular antibodies and challenges facing their use as therapeutic agents」、Trends Mol Med 2003;9:390~6、並びにDonini M、Morea V、Desiderio A、Pashkoulov D、Villani ME、Tramontano A、Benvenuto E.「Engineering stable cytoplasmic intrabodies with designed specificity」、J Mol Biol.2003年7月4日;330(2):323~32も参照されたい)。
【0108】
イントラボディは、現存するハイブリドーマクローンからそれぞれのcDNAをクローニングすることにより作製することができる、又はより簡便には、新たなscFv/Fabを、始めから抗体をコードする必要な遺伝子をもたらすファージディスプレイ等、in vitroディスプレイ技法から選択し、抗体の精細な特異性をより詳細にあらかじめ設計すること(predesign)を可能にすることができる。加えて、細菌、酵母、哺乳動物細胞表面ディスプレイ及びリボソームディスプレイを用いることができる。しかし、特異的抗体の選択のための最も一般的に使用されるin vitroディスプレイ系は、ファージディスプレイである。パニング(親和性選択)と呼ばれる手順において、組換え抗体ファージが、抗原と抗体ファージレパートリーとのインキュベーションによって選択される。このプロセスは、数回反復され、ほぼすべての可能な標的に対する特異的抗原結合剤を含む濃縮された抗体レパートリーをもたらす。現在まで、in vitroアセンブルされた組換えヒト抗体ライブラリーは、既に、数千種の新規組換え抗体断片を生じた。細胞質のイントラボディによる特異的タンパク質ノックダウンのための必要条件は、抗原が、抗体結合により中和/不活性化されることであることに留意されたい。適した抗体を作製するための5種の異なるアプローチが出現した:1)酵母等の真核生物及び大腸菌等の原核生物における機能的イントラボディのIn vivo選択(抗原依存的及び非依存的);2)サイトゾル安定性を改善するための抗体融合タンパク質の作製;3)サイトゾル安定性を改善するための特殊フレームワークの使用(例えば、安定抗体フレームワークにおけるCDRのグラフト又は合成CDRの導入による);4)サイトゾル安定性改善のためのシングルドメイン抗体の使用;並びに5)ジスルフィド結合不含安定イントラボディの選択。これらのアプローチは、上述されているMarschall、A.Lら、mAbs 2015にとりわけ詳述されている。
【0109】
イントラボディに最も一般的に使用されるフォーマットは、完全IgG又はFab分子の2本の抗体鎖を別々に発現及びアセンブリする必要を回避するための、短い可動性リンカー配列(しばしば(Gly4Ser)3)によって一体に保持されるH及びL鎖可変抗体ドメイン(VH及びVL)からなるscFvである。或いは、重鎖のC1ドメイン及び軽鎖の定常領域をさらに含むFabフォーマットが使用されてきた。近年、イントラボディの新たな可能なフォーマットであるscFabについて記載された。scFabフォーマットは、細胞内発現ベクターへの利用できるFab遺伝子のより容易なサブクローニングの見込みがあるが、今後の課題としては、十分に確立されたscFvフォーマットを上回る何らかの利点をもたらすものであるかが挙げられる。scFv及びFabに加えて、イントラボディとして二特異性フォーマットが使用されてきた。ERに標的化された二特異性Tie-2×VEGFR-2抗体は、単一特異性抗体対応物と比較して延長された半減期を実証した。関連する単一特異性抗体の別個の特色、即ち、自己リン酸化及びリガンド結合の阻害を組み合わせる、上皮増殖因子の細胞内及び細胞外エピトープを同時に認識するための特殊フォーマットとして、二特異性膜貫通イントラボディが開発された。
【0110】
細胞質発現に特に適した別のイントラボディフォーマットは、ラクダに由来する、又は1個のヒトVHドメイン又はヒトVLドメインからなる、シングルドメイン抗体(ナノボディとも呼ばれる)である。このようなシングルドメイン抗体は多くの場合、有利な特性、例えば、高い安定性;優れた溶解性;ライブラリークローニング及び選択の容易さ;大腸菌及び酵母における高い発現収率を有する。
【0111】
イントラボディ遺伝子は、発現プラスミドによるトランスフェクション又は組換えウイルスによるウイルス形質導入後に、標的細胞の内側で発現され得る。典型的に、選択は、最適なイントラボディトランスフェクション及び産生レベルの達成を目標とする。トランスフェクション及びその後のイントラボディ産生の成功は、産生された抗体のイムノブロット検出によって解析することができるが、正確なイントラボディ/抗原相互作用の評価のため、対応する抗原及びイントラボディ発現プラスミドを一過的にコトランスフェクトされたHEK293細胞抽出物の共免疫沈降を使用することができる。
【0112】
本発明による細胞におけるSuv39h1の阻害はまた、Suv39h1の発現又は活性を阻害又は遮断するアプタマーを用いて達成され得る。アプタマーは、分子認識の観点から抗体の代替を表す分子のクラスである。アプタマーは、高い親和性及び特異性で、標的分子の実質的にいかなるクラスも認識する能力を有するオリゴヌクレオチド(DNA若しくはRNA)又はオリゴペプチド配列である。
【0113】
オリゴヌクレオチドアプタマーは、Tuerk C.及びGold L、1990に記載されている通り、ランダム配列ライブラリーの試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment(SELEX))によって単離することができる。ランダム配列ライブラリーは、DNAのコンビナトリアル化学合成によって得ることができる。このライブラリーにおいて、各メンバーは、最終的に化学修飾されている、特有の配列の直鎖状オリゴマーである。分子のこのクラスの可能な修飾、使用及び利点は、Jayasena S.D.1999に概説されている。
【0114】
ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド方法によってコンビナトリアルライブラリーから選択される大腸菌(E.coli)チオレドキシンA等、プラットフォームタンパク質によってディスプレイされる立体構造的に制約された抗体可変領域からなる(Colas P、Cohen B、Jessen T、Grishina I、McCoy J、Brent R.「Genetic selection of peptide aptamers that recognize and inhibit cyclin-dependent kinase 2」、Nature.1996年4月11日;380(6574):548~50)。
【0115】
本発明による細胞におけるSuv39h1の阻害はまた、アフィボディ分子を用いて達成され得る。アフィボディは、多数の標的タンパク質又はペプチドに高親和性で結合するように操作された低分子タンパク質であり、モノクローナル抗体を模倣しているため、抗体模倣物のファミリーのメンバーである(概説については、Lofblom J、Feldwisch J、Tolmachev V、Carlsson J、Stahl S、Frejd FY.Affibody molecules:engineered proteins for therapeutic,diagnostic and biotechnological applications.FEBS Lett.2010年6月 18;584(12):2670~80を参照)。アフィボディ分子は、ブドウ球菌プロテインAの免疫グロブリン結合領域内のBドメインの操作された変異体(Zドメイン)に基づいており、理論上、所定の標的に対して特異的に結合する。アフィボディ分子ライブラリーは、一般的には、Zドメインの元のFc結合表面を構成するヘリックス1及び2のアミノ酸13位のコンビナトリアルランダム化によって構築される。ライブラリーは、典型的には、ファージ上に提示され、続いて、所望の標的に対してバイオパニングが行われている。プライマリーの親和性を増加させる場合には、親和性成熟は、一般的には、バインダーの改善をもたらし、ヘリックスシャッフリング又は配列アラインメントのいずれかと指向性コンビナトリアル変異誘発とによって達成され得る。変化した結合表面を持つ新しく同定された分子は、興味深い特性を有する特異な例外も報告されているが、一般的には、元のらせん構造並びに高い安定性を維持する。アフィボディ分子は、サイズが小さく折り畳み特性が速やかであるため、化学ペプチド合成により生成することができる。
【0116】
本発明の他の実施形態では、Suv39h1活性の阻害は、RNA干渉(RNAi)、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)低分子ヘアピン型RNA(shRNA)又はリボザイムを使用する遺伝子ノックダウンによる遺伝子抑止(repression)/抑制(suppression)によって達成することができる。siRNA技術は、遺伝子から転写されるmRNAのヌクレオチド配列と相同な配列、及びヌクレオチド配列に相補的な配列を有する二本鎖RNA分子を利用するRNAiに基づくものを含む。siRNAは、一般的には、遺伝子から転写されるmRNAの1つの領域と相同/相補的であるか、又は異なる領域と相同/相補的である複数のRNA分子を含むsiRNAであり得る。
【0117】
アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSuv39h1の翻訳を直接的に遮断するように作用し、よって、タンパク質翻訳を防止し又はmRNA分解を増加させ、よって、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1のレベル、よって、細胞におけるその活性を減少させるであろう。例えば、少なくとも約15塩基の、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1をコードするmRNA転写物配列の特有の領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば、従来ホスホジエステル技法により合成し、例えば、静脈内注射又は注入により投与することができる。その配列が公知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技法を使用するための方法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第6,566,135号;同第6,566,131号;同第6,365,354号;同第6,410,323号;同第6,107,091号;同第6,046,321号;及び同第5,981,732号を参照)。
【0118】
本明細書で使用される場合の「RNA干渉剤」は、RNA干渉(RNAi)によって標的バイオマーカー遺伝子の発現を干渉又は阻害する任意の薬剤として定義される。そのようなRNA干渉剤としては、限定するものではないが、本発明の標的遺伝子(例えばSuv39h1)に相同であるRNA分子を含む核酸分子、又はその断片、低分子干渉RNA(siRNA)、及びRNA干渉(RNAi)によって標的核酸の発現を干渉又は阻害する小分子が挙げられる。
【0119】
低分子阻害性RNA(siRNA)も、本発明における使用のための発現の阻害剤として機能することができる。H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現が特異的に阻害されるように、低分子二本鎖RNA(dsRNA)又は低分子二本鎖RNAの産生を引き起こすベクター若しくは構築物と対象又は細胞を接触させることにより、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1遺伝子発現を低下させることができる(即ち、RNA干渉又はRNAi)。適切なdsRNA又はdsRNAコードベクターを選択するための方法は、その配列が公知である遺伝子に関して、当技術分野で周知である(例えば、Tuschl、T.ら(1999);Elbashir、S.M.ら(2001);Hannon、GJ.(2002);McManus、MT.ら(2002);Brummelkamp、TR.ら(2002);米国特許第6,573,099号及び同第6,506,559号;並びに国際特許公開番号、国際公開第01/36646号、国際公開第99/32619号及び国際公開第01/68836号を参照)。本発明のsiRNAのホスホジエステル結合の全体又は部分は、有利に保護される。この保護は一般に、当技術分野で公知の方法を使用した化学的経路により実行される。ホスホジエステル結合は、例えば、チオール若しくはアミン官能基により又はフェニル基により保護され得る。本発明のsiRNAの5’及び/又は3’端も、例えば、ホスホジエステル結合を保護するための上述の技法を使用して、有利に保護される。siRNA配列は、少なくとも12個の近接ジヌクレオチド又はその誘導体を有利に含む。
【0120】
本明細書において、本核酸配列に関する用語「siRNA誘導体」は、エリスロポエチン又はその断片と少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、例として、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも98%の同一性のパーセンテージを有する核酸を指す。
【0121】
本明細書において、2種の核酸配列の間の表現「同一性のパーセンテージ」は、前記配列の最良のアライメントにより得られる、比較されるべき2種の配列の間の同一核酸のパーセンテージを意味し、このパーセンテージは、純粋に統計的であり、これら2種の配列の間の差は、核酸配列にわたってランダムに拡散される。本明細書において、「最良のアライメント」又は「最適なアライメント」は、決定される同一性のパーセンテージ(後述を参照)が最高であるアライメントを意味する。2種の核酸配列の間の配列比較は通常、最良のアライメントに従って以前に整列されたこれらの配列を比較することにより実現される;この比較は、類似性の局所的領域を同定及び比較するために、比較のセグメントにおいて実現される。比較を行うための最良の配列アライメントは、手作業の他に、SMITH及びWATERMAN(Ad.App.Math.2巻、482頁、1981年)によって開発された全般的相同性アルゴリズムを使用することにより、NEDDLEMAN及びWUNSCH(J.Mol.Biol、48巻、443頁、1970年)によって開発された局所的相同性アルゴリズムを使用することにより、PEARSON及びLIPMAN(Proc.Natl.Acd.Sci.USA、85巻、2444頁、1988年)によって開発された類似性の方法を使用することにより、かかるアルゴリズム(Wisconsin Geneticsソフトウェアパッケージ、Genetics Computer Group、575 Science Dr.Madison、WI USAにおけるGAP、BESTFIT、BLAST P、BLAST N、FASTA、TFASTA)を使用したコンピュータソフトウェアを使用することにより、MUSCLE多重アライメントアルゴリズム(Edgar、Robert C、Nucleic Acids Research、32巻、1792頁、2004年)を使用することにより、実現することができる。最良の局所的アライメントを得るために、BLASTソフトウェアを使用し得ることが好ましい。核酸の2種の配列の間の同一性パーセンテージは、最適に整列されたこれら2種の配列を比較することにより決定され、これら2種の配列の間の最適なアライメントを得るために、核酸配列は、参照配列に対する付加又は欠失を含むことができる。同一性のパーセンテージは、これら2種の配列の間の同一位置の数を決定し、この数を比較される位置総数で割り、得られた結果に100を掛けて、これら2種の配列の間の同一性のパーセンテージを得ることにより計算される。
【0122】
shRNA(低分子ヘアピン型RNA)も、本発明における使用のための発現の阻害剤として機能することができる。shRNAは、典型的には、短い(例えば19~25ヌクレオチド)アンチセンス鎖、それに続く5~9ヌクレオチドループ、及び類似のセンス鎖から構成される。或いは、センス鎖はヌクレオチドループ構造に先行していてもよく、アンチセンス鎖は後続していてもよい。
【0123】
リボザイムも、本発明における使用のための発現の阻害剤として機能することができる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することができる酵素的RNA分子である。リボザイム作用の機構は、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、それに続くヌクレオチド鎖切断が関与する。H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1 mRNA配列のヌクレオチド鎖切断を特異的に且つ効率的に触媒する、操作されたヘアピン又はハンマーヘッド型モチーフリボザイム分子は、これにより、本発明の範囲内で有用である。いずれかの潜在的RNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、最初に、次の配列、GUA、GUU及びGUCを典型的に含むリボザイム切断部位に関して標的分子をスキャンすることにより同定される。同定されると、切断部位を含有する標的遺伝子の領域に対応する約15~20個のリボヌクレオチドの間の短いRNA配列は、オリゴヌクレオチド配列を不適なものとし得る二次構造等の予測される構造的特色に関して評価することができる。
【0124】
発現の阻害剤として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムの両方は、公知方法によって調製することができる。そのようなものは、例えば、固相ホスホラミダイト(phosphoramadite)化学合成による等、化学合成のための技法を含む。或いは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列のin vitro又はin vivo転写によって作製することができる。かかるDNA配列は、T7又はSP6ポリメラーゼプロモーター等の適したRNAポリメラーゼプロモーターを取り込む多種多様なベクターに取り込むことができる。本発明のオリゴヌクレオチドに対する様々な修飾は、細胞内安定性及び半減期を増加させる手段として導入することができる。可能な修飾として、分子の5’及び/又は3’端へのリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの隣接配列の付加、又はオリゴヌクレオチド骨格内のホスホジエステラーゼ連結ではなくホスホロチオエート又は2’-0-メチルの使用が挙げられるがこれらに限定されない。
【0125】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA及びリボザイムは、単独で、又はベクターと関連させてin vivoで送達することができる。その最も広い意味では、「ベクター」は、細胞、好ましくは、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1を発現する細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸の移入を容易にすることができるいずれかの媒体である。好ましくは、ベクターは、ベクターの非存在下で生じるであろう分解の程度と比べて低下した分解で、細胞に核酸を輸送する。一般に、本発明において有用なベクターとして、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸配列の挿入又は取り込みによって操作された、プラスミド、ファージミド、ウイルス、ウイルス又は細菌供給源に由来する他の媒体が挙げられるがこれらに限定されない。ウイルスベクターは、好まれる型のベクターであり、そのようなものとして、次のウイルス由来の核酸配列が挙げられるがこれらに限定されない:モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳房腫瘍ウイルス及びラウス肉腫ウイルス等のレトロウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン・バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;並びにレトロウイルス等のRAウイルス。名を挙げられていないが当技術分野で公知の他のベクターを容易に用いることができる。
【0126】
好まれるウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子に置き換えられた、非細胞壊死性真核生物ウイルスに基づく。非細胞壊死性ウイルスは、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)を含み、その生活環は、ゲノムウイルスRNAからDNAへの逆転写と、宿主細胞DNAへのその後のプロウイルス組み込みが関与する。レトロウイルスは、ヒト遺伝子療法治験に承認されている。複製欠損(即ち、所望のタンパク質の合成を方向付けることができるが、感染粒子を製造することができない)であるレトロウイルスが最も有用である。かかる遺伝的に変更されたレトロウイルス発現ベクターは、in vivoでの遺伝子の高効率形質導入のための一般用途を有する。複製欠損レトロウイルスを産生するための標準プロトコル(プラスミドへの外因的遺伝的材料の取り込み、プラスミドによるパッケージング細胞株のトランスフェクション、パッケージング細胞株による組換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の収集、及びウイルス粒子による標的細胞の感染のステップを含む)は、Kriegler、1990及びMurry、1991)に提供されている。
【0127】
ある特定の適用に好まれるウイルスは、遺伝子療法におけるヒト使用に既に承認された二本鎖DNAウイルスである、アデノウイルス及びアデノ随伴(AAV)ウイルスである。実際、それぞれ異なる組織指向性を有する、12種の異なるAAV血清型(AAV1~12)が公知である(Wu、Z Mol Ther 2006;14:316~27)。組換えAAVは、依存性パルボウイルスAAV2に由来する(Choi、VW J Virol 2005;79:6801~07)。アデノ随伴ウイルス1~12型は、複製欠損となるように操作することができ、広範囲の細胞型及び種に感染することができる(Wu、Z Mol Ther 2006;14:316~27)。これは、熱及び脂質溶媒安定性;造血細胞を含む多様な系列の細胞における高い形質導入頻度;並びに重感染阻害の欠如、よって、複数系列の形質導入を可能にすること等の利点をさらに有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは、部位特異的方法でヒト細胞DNAに組み込み、これにより、レトロウイルス感染に特徴的な挿入突然変異誘発の可能性及び挿入遺伝子発現の可変性を最小化することができる。加えて、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、選択圧の非存在下で100を超える継代の間、組織培養において追跡され、アデノ随伴ウイルスゲノム組み込みが、相対的に安定な事象であることを暗示する。アデノ随伴ウイルスは、染色体外方法で機能することもできる。
【0128】
他のベクターは、プラスミドベクターを含む。プラスミドベクターは、当技術分野で広範に記載されており、当業者にとって周知である。例えば、Sambrookら、1989を参照されたい。ここ数年間、プラスミドベクターは、in vivoで細胞に抗原コード遺伝子を送達するためのDNAワクチンとして使用されてきた。プラスミドベクターは、ウイルスベクターの多くの場合と同じ安全性懸念がないため、この用途に特に有利である。しかし、宿主細胞と適合性のプロモーターを有するこのようなプラスミドは、プラスミド内に作動可能にコードされる遺伝子からペプチドを発現することができる。一部の一般的に使用されるプラスミドは、pBR322、pUC18、pUC19、pRC/CMV、SV40及びpBlueScriptを含む。他のプラスミドは、当業者にとって周知である。その上、プラスミドは、DNAの特異的断片を除去及び付加するための制限酵素及びライゲーション反応を使用して注文設計することができる。プラスミドは、種々の非経口的、粘膜及び外用経路によって送達することができる。例えば、DNAプラスミドは、筋肉内、皮内、皮下又は他の経路によって注射することができる。これは、鼻腔内スプレー又は液滴、直腸坐薬及び経口によって投与することもできる。これは、遺伝子銃を使用して上皮又は粘膜表面に投与することもできる。プラスミドは、水溶液中で、乾燥させて金粒子表面に、又はリポソーム、デンドリマー、渦巻形(cochleate)送達媒体及びマイクロカプセル化が挙げられるがこれらに限定されない、別のDNA送達系と関連させて与えることができる。
【0129】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸配列は一般に、異種調節性領域、例えば、異種プロモーターの制御下に置かれる。プロモーターは、ミュラーグリア細胞、マイクログリア細胞、内皮細胞、ペリサイト細胞及びアストロサイトに特異的であり得る。例えば、ミュラーグリア細胞における特異的発現は、適したグルタミンシンテターゼ遺伝子のプロモーターにより得ることができる。プロモーターは、例として、CMVプロモーター等のウイルスプロモーター、又はいずれかの合成プロモーターとなることもできる。
【0130】
Suv39h1の遺伝子抑制又は破壊
本発明による細胞におけるSuv39h1の阻害はまた、例えば欠失、例えば遺伝子全体、エクソン若しくは領域の欠失、及び/又は外因性配列との置換え、及び/又は変異、例えば遺伝子内、典型的には遺伝子のエクソン内のフレームシフト変異若しくはミスセンス変異によって、Suv39h1遺伝子を抑制又は破壊することにより達成され得る。一部の実施形態では、Suv39h1タンパク質が発現されないように、又は非機能性であるように、破壊により未成熟終止コドンが遺伝子に組み込まれる。破壊は、一般的には、DNAレベルで実施される。破壊は、一般的には、永続的、不可逆的であるか、又は一時的ではない。
【0131】
一部の実施形態では、遺伝子破壊又は抑制は、遺伝子編集剤、例えば、遺伝子に特異的に結合又はハイブリダイズするDNAターゲティング分子、例えば、DNA結合タンパク質又はDNA結合核酸、又はそれを含む複合体、化合物、又は組成物を使用して達成される。一部の実施形態では、DNAターゲティング分子は、DNA結合ドメイン、例えば、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)DNA結合ドメイン、転写活性化因子様タンパク質(TAL)又はTALエフェクター(TALE)DNA結合ドメイン、CRISPR DNA結合ドメイン、又はメガヌクレアーゼからのDNA結合ドメインを含む。
【0132】
ジンクフィンガー、TALE、及びCRISPRシステムの結合ドメインは、あらかじめ決定したヌクレオチド配列に結合するように「操作」することができる。
【0133】
一部の実施形態では、DNAターゲティング分子、複合体、又は組合せは、DNA結合分子と、1種又は複数の追加ドメイン、例えば、遺伝子の抑制又は破壊を促進するエフェクタードメインを含む。例えば、一部の実施形態では、遺伝子破壊は、DNA結合タンパク質及び異種調節ドメイン又はその機能性断片を含む融合タンパク質によって実施される。
【0134】
典型的には、追加ドメインはヌクレアーゼドメインである。従って、一部の実施形態では、遺伝子破壊は、操作されたタンパク質、例えば、ヌクレアーゼ及びヌクレアーゼ含有複合体、又はヌクレアーゼなどの非特異的DNA切断分子と融合又は複合体化した配列特異的DNA結合ドメインで構成される融合タンパク質を使用する、遺伝子編集又はゲノム編集によって促進される。
【0135】
これらの標的キメラヌクレアーゼ又はヌクレアーゼ含有複合体は、標的二本鎖切断又は一本鎖切断を誘導し、エラーを起こしやすい非相同末端結合(NHEJ)及び相同組換え修復(HDR)を含む細胞DNA修復メカニズムを刺激することによって、正確な遺伝的改変を実施する。一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼ、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、RNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)、例えば、CRISPR関連(Cas)タンパク質、又はメガヌクレアーゼである。そのようなシステムは当技術分野において周知である(例えば、米国特許第8,697,359号;Sander及びJoung(2014)Nat.Biotech.32:347~355;Haleら、(2009)Cell 139:945~956;Karginov及びHannon(2010)Mol.Cell 37:7;米国特許出願公開第2014/0087426号及び同2012/0178169号;Bochら、(2011)Nat.Biotech.29:135~136;Bochら、(2009)Science 326:1509~1512;Moscou及びBogdanove(2009)Science 326:1501;Weberら、(2011)PLoS One 6:el9722;Liら、(2011)Nucl.Acids Res.39:6315~6325;Zhangら、(2011)Nat.Biotech.29:149~153;Millerら、(2011)Nat.Biotech.29:143~148;Linら、(2014)Nucl.Acids Res.42:e47を参照)。そのような遺伝子学的戦略は、当技術分野で周知の方法に従って、構成的発現系又は誘導性発現系を使用することができる。
【0136】
ZFP及びZFN;TAL、TALE、TALEN
一部の実施形態では、DNAターゲティング分子は、エフェクタータンパク質、例えばエンドヌクレアーゼに融合されたDNA結合タンパク質、例えば、1種又は複数のジンクフィンガータンパク質(ZFP)又は転写アクチベーター様タンパク質(TAL)を含む。例としては、ZFN、TALE及びTALENが挙げられる。Lloydら、Frontiers in Immunology、4(221)、1~7(2013)を参照されたい。
【0137】
一部の実施形態では、DNAターゲティング分子は、配列特異的方法でDNAに結合する1種又は複数のジンクフィンガータンパク質(ZFP)又はそのドメインを含む。ZFP又はそのドメインは、亜鉛イオンの配位によって構造が安定化される結合ドメイン内のアミノ酸配列の1種又は複数のジンクフィンガー領域を介して配列特異的方法でDNAに結合する、タンパク質又はより大きなタンパク質内ドメインである。一般的に、ZFPの配列特異性は、ジンクフィンガー認識ヘリックス上の4つのヘリックス位置(-1、2、3、及び6)でアミノ酸置換を行うことにより改変され得る。従って、一部の実施形態では、ZFP又はZFP含有分子は非天然であり、例えば、選択の標的部位に結合するように操作される。例えば、Beerliら、(2002)Nature Biotechnol.20:135~141;Paboら、(2001)Ann.Rev.Biochem.70:313~340;Isalanら、(2001)Nature Biotechnol.19:656~660;Segalら、(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12:632~637;Chooら、(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411~416を参照されたい。
【0138】
一部の実施形態では、DNAターゲティング分子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を形成するようにDNA切断ドメインに融合されたジンクフィンガーDNA結合ドメインであるか、又はそれを含む。一部の実施形態において、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素由来の切断ドメイン(又は切断ハーフドメイン)と1つ又は複数のジンクフィンガー結合ドメインを含み、これらは操作されていても、操作されていなくてもよい。一部の実施形態では、切断ドメインは、IIS型制限エンドヌクレアーゼFok Iに由来する。例えば、米国特許第5,356,802号;同第5,436,150号及び同第5,487,994号;並びにLiら、(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4275~4279;Liら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2764~2768;Kimら、(1994a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:883~887;Kimら、(1994b)J.Biol.Chem.269:31,978~31,982を参照されたい。
【0139】
一部の態様では、ZFNは、例えば、標的遺伝子(即ちSuv39h1)のコード領域の所定の部位で、二本鎖切断(DSB)を効率的に生成する。典型的な標的遺伝子領域は、エクソン、N末端領域をコードする領域、第1のエクソン、第2のエクソン、及びプロモーター又はエンハンサー領域を含む。一部の実施形態では、ZFNの一過性発現は、操作された細胞における標的遺伝子の高効率的で永続的な破壊を促進する。特に、一部の実施形態では、ZFNの送達により、50%を超える効率で遺伝子が永続的に破壊される。多くの遺伝子特異的な操作されたジンクフィンガーが市販されている。例えば、Sangamo Biosciences(Richmond、CA、USA)は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)との共同で、研究者がジンクフィンガーの構築と検証をすべて回避することができるジンクフィンガー構築用プラットフォーム(CompoZr)を開発しており、何千ものタンパク質に対して特異的に標的化されたジンクフィンガーを提供する。Gajら、Trends in Biotechnology、2013、31(7)、397~405。一部の実施形態では、市販のジンクフィンガーが使用されるか、又はカスタム設計される。(例えば、Sigma-Aldrichのカタログ番号CSTZFND、CSTZFN、CTI1-1KT、及びPZD0020を参照)。
【0140】
一部の実施形態では、DNAターゲティング分子は、天然の又は操作された(非天然の)転写活性化因子様タンパク質(TAL)DNA結合ドメイン、例えば、転写活性化因子様タンパク質エフェクター(TALE)タンパク質を含む。例えば、米国特許出願第20110301073号を参照されたい。一部の実施形態では、分子はDNA結合エンドヌクレアーゼであり、例えばTALE-ヌクレアーゼ(TALEN)である。一部の態様では、TALENは、TALEに由来するDNA結合ドメイン及び核酸標的配列を切断するヌクレアーゼ触媒ドメインを含む融合タンパク質である。一部の実施形態では、TALE DNA結合ドメインは、標的抗原及び/又は免疫抑制分子をコードする遺伝子内の標的配列に結合するように操作されている。例えば、一部の態様では、TALE DNA結合ドメインは、CD38及び/又はアデノシン受容体、例えばA2ARを標的とすることができる。
【0141】
一部の実施形態では、TALENは、遺伝子内の標的配列を認識し切断する。一部の態様では、DNAの切断により二本鎖の切断が生じる。一部の態様では、切断は、相同組換え又は非相同末端結合(NHEJ)の率を刺激する。一般的に、NHEJは、切断部位のDNA配列に変化が生じることが多い不完全な修復プロセスである。一部の態様では、修復メカニズムは、直接的な再ライゲーションを介して(Critchlow及びJackson、Trends Biochem Sci.1998 Oct;23(10):394~8)、又はいわゆるマイクロホモロジー媒介型末端結合を介して、2つのDNA末端に残っているものが再連結することを含む。一部の実施形態では、NHEJを介した修復により小さな挿入又は欠失が生じ、それを使用して遺伝子を破壊し、それにより抑制することができる。一部の実施形態では、改変は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失、又は付加であり得る。一部の態様では、切断誘発性突然変異生成事象、即ちNHEJ事象に連続する突然変異生成事象が生じた細胞は、当技術分野で周知の方法によって同定及び/又は選択することができる。
【0142】
TALEリピートは、Suv39h1遺伝子を特異的に標的とするように構築することができる(Gajら、Trends in Biotechnology、2013、31(7)、397~405)。18,740個のヒトタンパク質コード遺伝子を標的とするTALENのライブラリーが構築されている(Kimら、Nature Biotechnology.31、251~258(2013))。カスタム設計されたTALEアレイがCellectis Bioresearch(Paris、France)、Transposagen Biopharmaceuticals(Lexington、KY、USA)、及びLife Technologies(Grand Island、NY、USA)から市販されている。特に、CD38を標的とするTALENが市販されている(ワールドワイドウェブ上のwww.genecopoeia.com/product/search/detail.php?prt=26&cid=&key=HTN222870から入手可能なGencopoeia、カタログ番号HTN222870-1、HTN222870-2、及びHTN222870-3を参照)。例示的な分子は、例えば、米国特許出願第2014/0120622号及び同第2013/0315884号に記載されている。
【0143】
一部の実施形態では、TALENは、1種又は複数のプラスミドベクターによってコードされている導入遺伝子として導入される。一部の態様では、プラスミドベクターは、前記ベクターを受け取った細胞の同定及び/又は選択を提供する選択マーカーを含むことができる。
【0144】
RGEN(CRISPR/Casシステム)
遺伝子抑制は、1種又は複数のDNA結合核酸を使用して、例えば、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGEN)を介した破壊、又は別のRNAガイドエフェクター分子による他の形態の抑制により実施することができる。例えば、一部の実施形態では、遺伝子抑制は、クリスパー(CRISPR)及びCRISPR関連タンパク質を使用して実施することができる。Sander and Joung、Nature Biotechnology、32(4):347~355を参照されたい。
【0145】
一般的に、「CRISPRシステム」とは、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA若しくは活性の部分的なtracrRNA)、tracr-mate配列(内因性CRISPRシステムの状況において「ダイレクトリピート」及びtracrRNAで処理した部分的ダイレクトリピート)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムの状況においては「スペーサー」とも呼ばれる)、並びに/或いはCRISPR遺伝子座に由来する他の配列及び転写物を含む、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関与するか、又はその活性を誘導する転写物及び他のエレメントを包括的に意味する。
【0146】
典型的には、CRISPR/Casヌクレアーゼ又はCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、DNAに配列特異的に結合する非コーディングRNA分子(ガイド)RNA、及びヌクレアーゼ機能(例えば、2種のヌクレアーゼドメイン)を有するCRISPRタンパク質を含む。CRISPRシステムの1種又は複数のエレメントは、I型、II型、又はIII型のCRISPRシステム、例えばCasヌクレアーゼに由来し得る。CRISPRタンパク質は、cas酵素、例えば9であることが好ましい。Cas酵素は、この分野では周知である。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースにおいてアクセッション番号Q99ZW2で確認することができる。一部の実施形態では、Casヌクレアーゼ及びgRNAは細胞に導入される。一部の実施形態では、CRISPRシステムは、本明細書で論じているように、標的部位でのDSBと、その後の破壊を誘導する。他の実施形態では、「ニッカーゼ」と考えられるCas9変異体を使用して、標的部位で一本鎖にニックを入れることができる。ペアのニッカーゼもまた、例えば、特異性を改善するために使用され、それぞれ、一対の異なるgRNA標的配列により指示される。さらに別の実施形態では、触媒的に不活性なCas9を異種エフェクタードメイン、例えば転写リプレッサーに融合させて遺伝子発現に影響を及ぼすことができる。
【0147】
一般的に、CRISPRシステムは、標的配列の部位でCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを特徴とする。典型的には、CRISPR複合体の形成の状況において、「標的配列」は、一般的には、ガイド配列が相補性を有するように設計される配列を意味し、そこでは、標的配列とガイド配列の間のハイブリダイゼーションによりCRISPR複合体の形成が促進される。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、必ずしも完全な相補性は必要とされない。標的配列は、任意のポリヌクレオチド、例えばDNA又はRNAポリヌクレオチドなどを含んでいてもよい。一般的に、標的配列を含む標的遺伝子座への組換えに使用することができる配列又はテンプレートは、「編集テンプレート」又は「編集ポリヌクレオチド」又は「編集配列」と呼ばれる。一部の態様では、外因性テンプレートポリヌクレオチドは、編集テンプレートと呼ぶことができる。一部の態様では、組換えは相同組換えである。
【0148】
一部の実施形態では、CRISPRシステムの要素の発現が1つ又は複数の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指示するように、CRISPRシステムの1種又は複数のエレメントの発現を駆動する1種又は複数のベクターが細胞に導入される。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列、及びtracr配列は、それぞれ、別々のベクター上の別々の調節エレメントに作動可能に連結させることができる。或いは、同一の又は異なる調節エレメントから発現される2種以上のエレメントを単一のベクター内で組み合わせ、1種又は複数の追加のベクターが第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の成分を提供することができる。一部の実施形態では、単一のベクター内で組み合わされるCRISPRシステムエレメントは、任意の適切な配向で配置され得る。一部の実施形態では、CRISPR酵素、ガイド配列、tracr mate配列、及びtracr配列は、同一のプロモーターに作動可能に連結され、発現される。一部の実施形態では、ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された調節エレメントを含む。
【0149】
一部の実施形態では、ガイド配列と組み合わせた(任意選択で複合体化した)CRISPR酵素が細胞に送達される。典型的には、CRISPR/Cas9技術を使用して、操作された細胞におけるSuv39h1の遺伝子発現をノックダウンすることができる。例えば、Cas9ヌクレアーゼ及びSuv39h1遺伝子に特異的なガイドRNAは、例えば、レンチウイルス送達ベクター又は細胞に導入するための多くの公知の送達方法若しくはビヒクルのいずれか、例えば、Cas9分子及びガイドRNAを送達するための多くの公知の方法又はビヒクルのいずれかを使用して、細胞に導入することができる(以下も参照されたい)。
【0150】
遺伝子破壊分子及び複合体をコードする核酸の送達
一部の実施形態では、DNA標的化分子、複合体、又は組合せをコードする核酸が細胞に投与又は導入される。典型的には、ウイルス及び非ウイルス系遺伝子導入方法を使用して、CRISPR、ZFP、ZFN、TALE、及び/又はTALENシステムの成分をコードする核酸を培養中の細胞に導入することができる。
【0151】
一部の実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞への導入の結果として、細胞においてin situで合成される。一部の態様では、ポリペプチドは細胞外で産生され、次いでそこに導入され得る。
【0152】
ポリヌクレオチド構築物を動物細胞に導入する方法は公知であり、非限定的な例としては、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノムに組み込まれる安定形質転換法、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノムに組み込まれない一過性形質転換法、及びウイルス媒介法が挙げられる。
【0153】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス)、リポソームなどにより細胞に導入され得る。一過性形質転換法としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、又は微粒子銃が挙げられる。核酸は、発現ベクターの形態で投与される。発現ベクターは、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、DNAプラスミド発現ベクター、又はAAV発現ベクターであることが好ましい。
【0154】
核酸の非ウイルス送達方法としては、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン又は脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、及び薬剤により増強されたDNAの取り込みが挙げられる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号、同第4,946,787号、及び同第4,897,355号に記載されており、またリポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効果的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質及び中性脂質は、Felgner、国際公開第91/17424号;国際公開第91/16024号のものが挙げられる。送達は、細胞への送達(例えばin vitro若しくはex vivo投与)又は標的組織への送達(例えばin vivo投与)であり得る。
【0155】
RNA又はDNAウイルス系システムは、遺伝子導入用のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴及び単純ヘルペスウイルスベクターを含む。
【0156】
遺伝子療法手順の総説については、Anderson、Science 256:808~813(1992);Nabel & Felgner、TIBTECH 11:211~217(1993);Mitani & Caskey、TIBTECH 11:162~166(1993);Dillon.TIBTECH 11:167~175(1993);Miller、Nature 357:455~460(1992);Van Brunt、Biotechnology 6(10):1149~1154(1988);Vigne、Restorative Neurology and Neuroscience 8:35~36(1995);Kremer & Perricaudet、British Medical Bulletin 51(1):31~44(1995);Haddadaら、Microbiology and ImmunologyのCurrent Topics、Doerfler及びBohm(編)(1995);並びにYuら、Gene Therapy 1:13~26(1994)を参照されたい。
【0157】
グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、及び青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自家蛍光タンパク質を含むが、これらに限定されないレポーター遺伝子を細胞に導入し、遺伝子産物の発現の変化又は改変を測定するためのマーカーとして機能する遺伝子産物をコードすることができる。
【0158】
細胞調製
細胞の単離は、当技術分野で周知の技術による1種又は複数の調製及び/又は非親和性系の細胞分離ステップを含む。一部の例では、1種又は複数の試薬の存在下で細胞を洗浄、遠心分離、及び/又はインキュベートして、例えば、望ましくない成分を除去し、所望の成分を濃縮し、特定の試薬に対して感受性のある細胞を溶解又は除去する。一部の例では、細胞は、1つ又は複数の特性、例えば、密度、付着特性、サイズ、感受性、及び/又は特定の成分に対する耐性に基づいて分離される。
【0159】
一部の実施形態では、細胞調製は、単離、インキュベーション、及び/又は操作の前又は後のいずれかに、細胞を凍結するための、例えば凍結保存するためのステップを含む。一部の態様では、様々な公知の凍結溶液及びパラメーターのうちのいずれかを使用することができる。
【0160】
典型的には、細胞は、遺伝子操作及び/又はSuv39h1阻害の前に、又はそれに関連してインキュベートされる。
【0161】
インキュベーションステップは、培養、インキュベーション、刺激、活性化、増大化及び/又は増殖を含み得る。
【0162】
本発明によるSuv39h1の阻害はまた、標的患者への細胞の注射の後にin vivoで達成することができる。典型的には、suv39h1の阻害は、前述のような薬理学的阻害剤を使用して実施される。
【0163】
前述の方法によるSuv39h1の阻害はまた、刺激、活性化、及び/又は増大化のステップ中に実施することもできる。例えば、PBMC、又は精製T細胞、又は精製NK細胞、又は精製リンパ前駆細胞は、患者への養子移入の前に、Suv39h1の薬理学的阻害剤の存在下で、in vitroで増大化させる。一部の実施形態では、組成物又は細胞は、刺激条件又は刺激剤の存在下でインキュベートされる。そのような条件としては、集団内の細胞の増殖、増大化、活性化、及び/又は生存を誘発するように、抗原曝露を模倣するように、並びに/或いは遺伝子操作のために、例えば遺伝子操作された抗原受容体の導入のために細胞を刺激するように設計された条件が挙げられる。
【0164】
インキュベーション条件は、特定の培地、温度、酸素含有量、二酸化炭素含有量、時間、薬剤、例えば栄養素、アミノ酸、抗生物質、イオン、及び/又は刺激因子、例えばサイトカイン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組換え可溶性受容体、並びに細胞を活性化するように設計された他の薬剤のうちの1種又は複数を含むことができる。
【0165】
一部の実施形態では、刺激条件又は薬剤は、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化することが可能な1種又は複数の薬剤、例えばリガンドを含む。一部の態様では、薬剤は、T細胞においてTCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードをオンにするか又は開始する。そのような薬剤は、抗体、例えばTCR成分及び/又は共刺激受容体に特異的な抗体、例えばビーズなどの固相担体に結合された抗CD3、抗CD28、及び/又は1種若しくは複数のサイトカインを含むことができる。任意選択で、増大化方法は、抗CD3及び/又は抗CD28抗体を培地に(例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)添加するステップをさらに含むことができる。一部の実施形態では、刺激剤は、IL-2及び/又はIL-15、例えば、少なくとも約10単位/mLのIL-2濃度を含む。
【0166】
一部の態様では、インキュベーションは、Riddellらへの米国特許第6,040,177号、Klebanoffら、J Immunother.2012;35(9):651~660、Terakuraら、Blood.2012;1:72~82、及び/又はWangら、J Immunother.2012、35(9):689~701に記載されているような技術に従って実施される。
【0167】
一部の態様では、T細胞は、培養開始組成物にフィーダー細胞、例えば非分裂末梢血単核球(PBMC)を(例えば、得られた細胞集団が、増大させようとする初期集団内でそれぞれのTリンパ球につき少なくとも約5個、10個、20個、若しくは40個又はそれより多くのPBMCフィーダー細胞を含有するように)添加し;培養物を(例えば、T細胞の数を増大させるのに十分な時間)インキュベートすることによって増大される。一部の態様では、非分裂フィーダー細胞は、ガンマ線照射PBMCフィーダー細胞を含むことができる。一部の実施形態では、PBMCは約3000~3600radの範囲のガンマ線が照射され、細胞分裂が遮断される。一部の態様では、フィーダー細胞は、T細胞の集団を添加する前に培地に添加される。
【0168】
一部の実施形態では、刺激条件は、ヒトTリンパ球の成長に適した温度、例えば、少なくとも約25℃、一般に少なくとも約30℃、一般に37℃又は約37℃を含む。任意選択で、インキュベーションは、非分裂EBV形質転換リンパ芽球細胞(LCL)をフィーダー細胞として添加することをさらに含んでいてもよい。LCLは、約6000~10,000radの範囲のガンマ線が照射され得る。一部の態様におけるLCLフィーダー細胞は、任意の適切な量で、例えば、少なくとも約10:1の、LCLフィーダー細胞の初期Tリンパ球に対する比で提供される。
【0169】
実施形態では、抗原特異的T細胞、例えば、抗原特異的CD4+及び/又はCD8+T細胞は、ナイーブ又は抗原特異的Tリンパ球を抗原で刺激することにより得られる。例えば、サイトメガロウイルス抗原に対する抗原特異的T細胞株又はクローンは、感染した対象からT細胞を分離し、細胞を同一抗原でin vitroで刺激することにより産生され得る。
【0170】
一部の態様では、方法は、操作された細胞又は操作されている細胞の表面での1種又は複数のマーカーの発現を評価することを含む。一実施形態では、方法は、養子細胞療法により標的化されることが求められる1種又は複数の標的抗原(例えば、遺伝子操作された抗原受容体によって認識される抗原)の表面発現を、例えば、親和性に基づく検出方法により、例えばフローサイトメトリーにより評価することを含む。
【0171】
細胞遺伝子操作のためのベクター及び方法
一部の態様では、遺伝子操作は、遺伝子操作された成分又は細胞に導入するための他の成分をコードする核酸、例えば、遺伝子破壊タンパク質又は核酸をコードする成分の導入を包含する。
【0172】
一般的に、CARの免疫細胞(例えばT細胞)への操作は、形質導入及び増大化が可能なように細胞を培養することが必要である。形質導入は各種方法を利用することができるが、クローン化により増大し、生存し続ける操作された細胞でCARの発現を持続させるためには安定した遺伝子導入が必要とされる。
【0173】
一部の実施形態では、遺伝子導入は、細胞成長、例えばT細胞の成長、増殖、及び/又は活性化を最初に刺激し、続いて活性化された細胞の形質導入、並びに臨床での適用に十分な数への培養の増大化によって達成される。
【0174】
遺伝子操作された成分、例えば抗原受容体、例えばCARを導入するための各種方法は周知であり、提供した方法及び組成物を用いて使用することができる。例示的な方法としては、ウイルス、例えばレトロウイルス又はレンチウイルス、形質導入、トランスポゾン、及びエレクトロポレーションを介したものを含む、受容体をコードする核酸の移入のための方法が挙げられる。
【0175】
一部の実施形態では、組換え核酸は、組換え感染性ウイルス粒子、例えば、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターを使用して細胞に移入される。一部の実施形態では、組換え核酸は、組換えレンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクター、例えばガンマレトロウイルスベクターを使用してT細胞に移入される(例えば、Kosteら(2014)Gene Therapy 2014年4月 3.;Carlensら(2000)Exp Hematol 28(10):1137~46;Alonso-Caminoら(2013)Mol Ther Nucl Acids 2、e93;Parkら、Trends Biotechnol.2011年11月;29(11):550~557を参照)。
【0176】
一部の実施形態では、レトロウイルスベクター、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)、マウス胚性幹細胞ウイルス(MESV)、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するレトロウイルスベクターは、長い末端リピート配列(LTR)を有する。ほとんどのレトロウイルスベクターは、マウスレトロウイルスに由来する。一部の態様では、レトロウイルスは、任意の鳥類又は哺乳動物の細胞供給源に由来するものを含む。レトロウイルスは、典型的には両種指向性であり、両種指向性とは、レトロウイルスが、ヒトを含めたいくつかの種の宿主細胞に感染することができることを意味する。一実施形態では、発現させようとする遺伝子は、レトロウイルスgag配列、pol配列、及び/又はenv配列に置き換わる。多数の例示的なレトロウイルス系が記載されている(例えば、米国特許第5,219,740号;同第6,207,453号;同第5,219,740号;Miller及びRosman、(1989)BioTechniques 7:980~990;Miller,A.D.、(1990)Human Gene Therapy 1:5~14;Scarpaら、(1991)Virology 180:849~852;Burnsら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033~8037;及びBoris-Lawrie及びTemin(1993)Cur.Opin.Genet.Develop.3:102~109)。
【0177】
レンチウイルス形質導入法もまた公知である。例示的な方法は、Wangら、(2012)J.Immunother.35(9):689~701;Cooperら、(2003)Blood.101:1637~1644;Verhoeyenら、(2009)Methods Mol Biol.506:97~114;及びCavalieriら、(2003)Blood.102(2):497~505に記載されている。
【0178】
一部の実施形態では、組換え核酸は、エレクトロポレーションを介してT細胞に移入される(例えば、Chicaybamら、(2013)PLoS ONE 8(3):e60298、及びVan Tedelooら、(2000)Gene Therapy 7(16):1431~1437を参照)。一部の実施形態では、組換え核酸は、転位を介してT細胞に移入される(例えば、Manuriら、(2010)Hum Gene Ther 21(4):427~437;Sharmaら、(2013)Molec Ther Nucl Acids 2、e74、及びHuangら、(2009)Methods Mol Biol 506:115~126を参照)。免疫細胞において遺伝物質を導入及び発現する他の方法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、New York.N.Y.に記載)、プロトプラスト融合、カチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション;タングステン粒子促進性微粒子銃(Johnston、Nature、346:776~777(1990));及びリン酸ストロンチウムDNA共沈殿(Brashら、Mol.Cell Biol.7:2031~2034(1987))が挙げられる。
【0179】
遺伝子操作された産物をコードする遺伝子操作された核酸を移入するための他のアプローチ及びベクターは、例えば、国際特許出願の国際公開第2014055668号及び米国特許第7,446,190号に記載されているものである。
【0180】
本発明の組成物
本発明はまた、本明細書に記載された細胞及び/又は提供した方法により産生された細胞を含有する組成物を含む。典型的には、前記組成物は、養子細胞療法などの投与のための医薬組成物及び製剤である。
【0181】
本発明の医薬組成物は、一般的に、本発明の少なくとも1つの操作された免疫細胞及び薬学的に許容される担体を含む。
【0182】
本明細書において、言葉「薬学的に許容できる担体」は、医薬品投与と適合性の、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤その他を含む。
【0183】
補充活性化合物を組成物にさらに組み込むことができる。一部の態様では、医薬組成物の担体の選択は、特定の遺伝子操作されたCAR若しくはTCR、ベクター、又はCAR若しくはTCRを発現する細胞によって、並びにCARを発現するベクター又は宿主細胞を投与するために使用される特定の方法によって部分的に決定される。従って、様々な適切な製剤がある。例えば、医薬組成物は防腐剤を含むことができる。適切な防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、及び塩化ベンザルコニウムを挙げることができる。一部の態様では、2種以上の防腐剤の混合物が使用される。防腐剤又はその混合物は、典型的には、全組成物の約0.0001~約2重量%の量で存在する。
【0184】
医薬組成物は、その意図される投与経路と適合性となるように製剤化される。
【0185】
治療方法
本発明はまた、養子療法(特に養子T細胞療法)、典型的には、それを必要とする対象におけるがんの処置におけるそれらの使用について前に定義した細胞に関する。
【0186】
本明細書で使用される場合の「処置」又は「処置すること」は、がんなどの疾患、又は疾患(例えばがん)のいずれかの症状を治癒する、治す、軽減する、緩和する、変更する、是正する、寛解する、改善する、又は影響を与える目的での、それを必要とする患者への本発明による細胞又はその細胞を含む組成物の適用又は投与として定義される。特に、用語「処置する」又は「処置」とは、がんなどの疾患に関連する少なくとも1種の有害臨床症状、例えば、疼痛、腫大、低血球数等を低下又は軽減することを意味する。
【0187】
がん処置に関して、用語「処置する」又は「処置」はまた、新生物的な制御されない細胞の増殖の進行を遅くする又は反転することを意味し、即ち、現存する腫瘍を縮小する及び/又は腫瘍成長を停止すること意味する。用語「処置する」又は「処置」はまた、対象におけるがん又は腫瘍細胞におけるアポトーシスを誘導することを意味する。
【0188】
本発明の対象(即ち患者)は、哺乳動物、典型的に霊長類、例えばヒトである。一部の実施形態では、霊長類はサル又は類人猿である。対象は男性であっても女性であってもよく、乳児、年少者、青年、成人、及び老人の対象を含む、任意の適切な年齢であり得る。一部の実施形態では、対象は非霊長類哺乳動物、例えばげっ歯類である。一部の例では、患者又は対象は、疾患、養子細胞療法のための、及び/又はサイトカイン放出症候群(CRS)などの毒性結果を評価するための検証済み動物モデルである。本発明の一部の実施形態では、前記対象は、がんを有するか、がんを有するリスクがあるか、又はがんの寛解にある。
【0189】
がんは、固形がん、又は「液性腫瘍」、例えば、血液、骨髄、リンパ系に影響を及ぼすがんであり、特に白血病及びリンパ腫を含む、造血組織及びリンパ組織の腫瘍としても知られている。液性腫瘍としては、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、及び慢性リンパ性白血病(CLL)が挙げられる(マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、胆嚢及び胆管がん、網膜芽細胞腫などの網膜のがんなどの様々なリンパ腫を含む)。
【0190】
固形がんは、結腸、直腸、皮膚、子宮内膜、肺(非小細胞肺癌を含む)、子宮、骨(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、巨細胞腫瘍、アダマンチノーマ及び脊索腫等)、肝臓、腎臓、食道、胃、膀胱、膵、子宮頸部、脳(髄膜腫、グリオブラストーマ、低悪性度アストロサイトーマ、オリゴデンドロサイトサイトーマ(Oligodendrocytoma)、下垂体腫瘍、シュワン腫及び転移性脳がん等)、卵巣、乳房、頭頸部領域、精巣、前立腺及び甲状腺からなる群から選択される臓器のうちの1種に罹患するがんをとりわけ含む。
【0191】
本発明によるがんは、上記のように血液、骨髄及びリンパ系に影響を及ぼすがんであることが好ましい。典型的に、がんは多発性骨髄腫であるか、又は多発性骨髄腫に関連している。
【0192】
一部の実施形態では、対象は、感染症又は感染状態、例えば、限定するものではないが、ウイルス感染、レトロウイルス感染、細菌感染、及び原虫感染、免疫不全、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルスに罹患しているか、又はそれらのリスクがある。一部の実施形態では、疾患若しくは状態は、自己免疫性又は炎症性の疾患又は状態、例えば、関節炎、例えば、慢性関節リウマチ(RA)、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、硬皮症、自己免疫性甲状腺疾患、グレーブス病、クローン病、多発性硬化症、喘息、及び/又は移植に随伴する疾患若しくは状態である。
【0193】
本発明はまた、それを必要とする対象に前述の組成物を投与することを含む、処置の方法、特に養子細胞療法、好ましくは養子T細胞療法である。
【0194】
一部の実施形態では、細胞又は組成物は、対象、例えば、上記のがん又は疾患のいずれかを有するか、又はそのリスクがある対象に投与される。一部の態様では、方法は、操作された細胞によって認識される抗原を発現するがんの腫瘍負荷を軽減することにより、例えばがんに関する疾患又は状態の1つ又は複数の症状をそれにより処置する、例えば回復させる。
【0195】
養子細胞療法のために細胞を投与する方法は公知であり、提供した方法及び組成物に関連して使用することができる。例えば、養子T細胞療法は、例えば、Gruenbergらへの米国特許出願第2003/0170238号;Rosenbergへの米国特許第4,690,915号;Rosenberg (2011)Nat Rev Clin Oncol.8(10):577~85に記載されている。例えば、Themeliら、(2013)Nat Biotechnol.31(10):928~933;Tsukaharaら、(2013)Biochem Biophys Res Commun 438(1):84~9;Davilaら、(2013)PLoS ONE 8(4):e61338を参照されたい。
【0196】
一部の実施形態では、細胞療法、例えば養子細胞療法、例えば養子T細胞療法は、自己移植により実施され、その場合、細胞は、細胞移植を受ける対象から、又はそのような対象に由来する試料から単離及び/又は調製される。従って、一部の態様では、細胞は、処置を必要とする対象、例えば患者に由来し、細胞は単離及び処理後に同じ対象に投与される。
【0197】
一部の実施形態では、細胞療法、例えば養子細胞療法、例えば養子T細胞療法は、同種異系移植によって実施され、その場合、細胞は、細胞療法を受ける対象以外の対象から、又は最終的に細胞療法を受ける対象、例えば第1の対象から単離及び/又は調製される。そのような実施形態では、次いで、細胞は、同一種の異なる対象、例えば第2の対象に投与される。一部の実施形態では、第1の対象と第2の対象は遺伝的に同一である。一部の実施形態では、第1の対象と第2の対象は遺伝的に類似している。一部の実施形態では、第2の対象は、第1の対象と同じHLAクラス又はスーパータイプを発現する。
【0198】
それを必要とする対象への本発明による少なくとも1つの細胞の投与は、同時又は任意の順序で連続して、1種又は複数のさらなる治療薬と組み合わせるか又は別の治療的介入を伴うように組み合わせることができる。一部の状況において、細胞は、細胞集団が1種又は複数の追加の治療薬の効果を増強するように、又はその逆であるように、別の療法と時間的に十分に近接して同時投与される。一部の実施形態では、細胞集団は、1種又は複数の追加の治療薬の前に投与される。一部の実施形態では、細胞集団は、1種又は複数の追加の治療薬の後に投与される。
【0199】
がん処置に関して、組み合わせたがん処置としては、限定するものではないが、化学療法剤、ホルモン剤、抗血管新生剤、放射性標識化合物、免疫療法、手術、凍結療法、及び/又は放射線療法が挙げられる。
【0200】
免疫療法としては、限定するものではないが、免疫チェックポイントモジュレーター(即ち、阻害剤及び/又はアゴニスト)、モノクローナル抗体、がんワクチンが挙げられる。
【0201】
本発明による養子T細胞療法における細胞の投与は、免疫チェックポイントモジュレーターの投与と組み合わせることが好ましい。免疫チェックポイントモジュレーターは、抗PD-1及び/又は抗PDL-1阻害剤を含むのが最も好ましい。
【0202】
本発明はまた、対象におけるがん、感染症若しくは状態、自己免疫疾患若しくは状態、又は炎症性疾患若しくは状態を処置するための医薬を製造するための本明細書に記載されている操作された免疫細胞を含む組成物の使用に関する。
【実施例0203】
〔結果〕
材料及び方法:
同腹子及びSuv39h1-KOマウスを5×103CFUで静脈感染させ、OVAを発現する2×106CFUの組換えリステリア・モノサイトゲネ(Listeria monocytogenes)(LM-OVA、野生型140403s株に由来する)で40日後にチャレンジした。細菌を対数期初期までTSB培地(BD Bioscience)で増殖させ、それらの増殖をOD600の光度計で評価した。ナイーブ、dump- CD44high Kb-OVA+CD8+T細胞及び関連のサブセットをFACSソートした。解析したサブセットごとに、本発明者らは3又は4個の生物学的複製を回収した。RNAは、Rneasy Micro Kit(QUIGEN)を使用して、製造元のプロトコルに従って抽出した。カラムDNAse処理が含まれていた(QUIGEN)。各条件について、RNAを使用して、標準のAffymetrixプロトコルに従ってcDNAを合成した。標識したDNAをAffymetrixマウスGene 2.1 STでハイブリダイズさせ、Affymetrix GeneTitanデバイスで処理した。
【0204】
マイクロアレイデータ解析:
マイクロアレイデータは、Bioconductor製のパッケージを使用して、R(バージョン3.0.0)に処理した。生データCELファイルを使用し、品質管理解析はArrayQualityMetricsパッケージを使用して実施した。生データは、oligoパッケージで利用可能なRMA法を使用して前処理した。アノテーションなしのプローブは、解析から除いた。モデレートしたt検定はlimmaパッケージを使用して実施し、Benjamini Hochberg法を用いる複数の検定を使用してp値を調整した。最終的に、本発明者らは、調整したp値が5%未満の場合には統計的に有意であると考えた。
【0205】
遺伝子セットエンリッチメント解析。
遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)は、Molecular Signatures DataBase(MSigDBデータベースv5.1、http://software.broadinstitute.org/qsea/msiqdb/index.isp)の免疫学的特性(C7)を有する遺伝子及びC2(精選)遺伝子セットを用いて実施した。GMTファイルは、遺伝子記号情報と共にダウンロードした。GCTファイルは合計41345のプローブで構成されており、GSEAにインポートした。GSEAは、順列の数(n=10000)を除き、デフォルトパラメーターで実行した。BubbleGUM解析は、前述のように実施した。
【0206】
Suv39h1欠損CD8+OT-1細胞における腫瘍成長の解析は以下のように実施した:
オスSuv39h1-KO CD45.2 OT-1(H2-Kb MHCクラスIコンテキストのOVA257-264ペプチドSIINFEKLに特異的)及び同腹仔WTマウス由来の総脾臓及びリンパ節を完全培地(10%FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン、及びL-グルタミンを補充したRPMI 1640)で3日間培養し、次いで、100UI/ml IL-2及び1ug/ml OVA257-264ペプチドでさらに3日間活性化した。
【0207】
腫瘍接種のため、1×106個のEL4-OVAリンパ腫細胞をCD45.1/C57BL/6オスマウスの右脇腹に皮下注射し、7日後、マウスに2×106個のIL-2/OVAで処理したSuv39h1-KO CD45.2 OT-1又は同腹子WT細胞を静脈注射した。
【0208】
マウスに、2週間、週2回の用量あたり7.5mg/Kg体重の用量で投与される抗PD1(Bio X Cell、RMP-14)を腹腔内注射した。腫瘍成長は、手作業でノギスを使用して測定した。
【0209】
結果:
1)本発明者らの結果は、Suv39h1-KOマウスから得た細胞集団において、「幹細胞様」表現型の初期前駆細胞が蓄積し、野生型マウスから得た細胞集団と比較して、CD44及びCD62Lの両方を発現する長期生存のセントラルメモリーT細胞へと高効率で再プログラムされることを示している。
図1に示すように、セントラルメモリーT細胞(CD44及びCD62Lの両方を発現)の割合及び数は、両方とも、Suv39h1欠損マウスで増加している。
【0210】
2)トランスクリプトーム解析を使用して、この特有の表現型のメカニズムを推察した:
野生型及びSuv39h1欠損マウスを、OVAを発現するリステリア・モノサイトゲネで免疫し、OVA特異的T細胞を免疫後7日目にソーティングフローサイトメトリーを使用して単離した。
【0211】
細胞をAffymetrix解析した後、本発明者らは、Suv39h1からのエフェクターT細胞が高レベルの幹細胞細胞関連タンパク質をコードするmRNAを発現することを確認した(CD8+T幹細胞様メモリー特性(86遺伝子):Abcb1a Irf8 Rest Abcb1b Jarid2 Rif1 Alpl Kat6a Rnf138 Antxr2 Klf4 Rras Arl4c Ldha Sall4 Atr Ldhb Satb1 Baalc Ldhc Setbp1 Basp1 Ldhd Setdb1 Bcl6 Lect1 Skil Bub1 Lpin1 Smarcad1 Ccr7 Ly6a Sox2 Ccr9 Ly6e Spon1 Cd27 Map3k8 Stat3 Cxcr6 Mapk12 Tbx3 Dock9 Mcm3ap Tcf3 Dusp9 Mcoln2 Tcl1 Eomes Myc Tdgf1 Esrrb Nanog Tert Evl Ncor2 Tigit Fas Nr0b1 Tnfaip2 Fgf2 Nr1d2 Tnfrsf1b Fut4 P2ry14 Traf1 Gzmk Pax6 Traf4 Hand1 Pcgf2 Trib2 Hesx1 Plekha5 Txnip Ier3 Podxl Zfp42 Il2rb Pou5f1 Zfx Il7r Pou6f1 Zic3 Irf4 Prkce)。
【0212】
本発明者らは、リステリア・モノサイトゲネ感染後に刺激されたSuv39h1欠損マウスからのOVA特異的T細胞が「幹細胞」様mRNAシグネチャーを発現すると結論付けた。
【0213】
3)Suv39h1欠損CD8+T細胞は、in vivoで生存及び自己再生の増加を示す。
【0214】
WT及びSuv39h1 KO LM-OVA感染マウスから単離した、コンジェニックCD45.2 Kb-OVAペンタマー+CD8+T細胞を、ナイーブレシピエントCD45.1マウスに移入した。養子移入の40日後、ナイーブレシピエントマウスをLM-OVAでチャレンジし、4日後にKb-OVAペンタマー+CD8+T細胞をFACSにより解析した。
【0215】
図3に示すように、結果は、Suv39h1欠損細胞が「幹細胞様」特性のレベルを増加させて発現することを示している。Suv39h1欠損細胞はまた、良好に生存し、養子移入後の野生型マウスに効果的に再配置される。
【0216】
4)Suv39h1欠損CD8+OT-1細胞はin vivoで腫瘍成長を制御する
図4B及び
図4Cは、Suv39h1-KO OT-1細胞を養子移入し、抗PD1モノクローナル抗体で処理したマウスが、WT OT-1細胞を用いること以外は同様の処理を受けたマウスよりも腫瘍成長をより良好に制御したことを示している。注目すべきことに、腫瘍注射後30日までに、5匹のうち4匹のWT OT-1移植マウスが腫瘍成長を示したのに対し、Suv39h1-KO OT-1細胞を注射した5匹のうち腫瘍成長を示したのは1匹のマウスのみであった。
【0217】
結論
CD8+T細胞のSuv39h1活性の欠如は、養子T細胞移入に基づく治療アプローチにおける良好な抗腫瘍効果と関係している。