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特開2024-23395光学デバイスを製造する方法、および結果として得られる光学デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023395
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】光学デバイスを製造する方法、および結果として得られる光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20240214BHJP
   G02F 1/1347 20060101ALI20240214BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G02F1/13 101
G02F1/1347
G02F1/1333
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023199216
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2020552118の分割
【原出願日】2018-12-12
(31)【優先権主張番号】17206753.0
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520211454
【氏名又は名称】モロー・エン・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パウル・マルシャル
(72)【発明者】
【氏名】イェレ・デ・スメット
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルベルト・エデュアルト・マリー・リプス
(57)【要約】
【課題】高信頼に大量に製造することのできる、電気的に調整可能な位相プロファイル、例えば焦点距離の変化を有する湾曲した光学デバイス。
【解決手段】- 第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)と、- 第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)と、両熱可塑性層(2、3)の間にある、・第1の熱可塑性層(2)に隣接する回折光学素子(4)、・回折光学素子(4)と第2の熱可塑性層(3)との間にあるスペーサ(5)、および・回折光学素子(4)を取り囲む境界部(6)とを備え、それによりシールされた空洞(7)を形成する、光学デバイス(1)であって、空洞(7)に隣接する境界部(6)の少なくとも上側部分が接着剤(15)から形成される、光学デバイス(1)が提供される。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶材料で充填された空洞(7)の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え、前記空洞(7)が、境界部(6)によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な熱可塑性層(2、3)上に存在し、その第1の光学的に透明な電極(8)が、前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)と回折光学素子(4)との間に位置付けられ、少なくとも1つのスペーサ(5)が、前記回折光学素子(4)と前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)との間に存在する、光学デバイス(1)を製造する方法であって、
- 前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)を設けるステップと、
- 前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)上に、ナノインプリントによって、前記回折光学素子(4)、前記少なくとも1つのスペーサ(5)、およびオプションで、前記境界部(6)の下側部分を形成するステップであって、その回折光学素子(4)が、前記境界部(6)の内側に配置される、ステップと、
- 前記境界部(6)の少なくとも一部を構成するように、接着剤(15)を施与するステップであって、前記接着剤(15)の内縁が前記空洞(7)と直接接触する、ステップと、
- 前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)が前記空洞(7)を閉じるように、前記第2の光学的に透明な熱可塑性層を設けるステップであって、前記第2の光学的に透明な電極層がその上に形成された前記第2の光学的に透明な熱可塑性層が、前記接着剤(15)に取り付けられる、ステップと、
- 前記空洞(7)を前記液晶材料(10)で充填するステップと、
- 前記空洞(7)をシールするステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記光学デバイス(1)を熱成形プロセスによって湾曲させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノインプリントによって形成する前記ステップが、前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)上に材料組成の層(18)を施与するステップと、前記層(18)内に、前記少なくとも1つのスペーサ(5)、前記回折光学素子(4)、および前記境界部(6)の前記下側部分をナノインプリントするステップとを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノインプリントするステップの間、前記回折光学素子(4)の表面内に、サブミクロンの溝が形成され、そのサブミクロンの溝が、前記液晶材料(10)の配向層として構成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
共形の配向層が、前記溝の少なくとも一部を覆うように堆積される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記境界部の前記下側部分が、追加のスペーサ(21)を備える、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのスペーサ(5)および前記追加のスペーサ(21)がそれぞれ、高さを有し、その高さが、前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)に対して同一の上部位置を有するように調整される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)上に前記第1の光学的に透明な電極(8)を形成するステップをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記液晶材料(10)が前記空洞(7)に、前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)が前記空洞を閉じる前に設けられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
- 前記空洞(7)内に、ある量の前記液晶材料(10)を分注するステップであって、前記分注される量が前記空洞(7)の容積と一致する、ステップと、
- 前記接着剤(15)を分注するステップと、
- 前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)を、真空貼合せプロセスによって設けるステップと
を含む、液晶滴下プロセスが使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記境界部(6)の少なくとも上側部分内に前記境界部(6)を通って前記空洞(7)まで延在してチャネル(19)が形成され、前記液晶材料(10)が、前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)で前記空洞(7)が閉じられた後に設けられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記チャネルが、前記境界部(6)をナノインプリントする際に形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
任意の熱成形の前に、第1の光学デバイスと第2の光学デバイスとを積み重ねるステップをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
液晶材料で充填されたシールされた空洞(7)の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層(8、9)を備え、前記空洞(7)が、境界部(6)によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極(8、9)がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な熱可塑性層(2、3)上に存在し、その第1の光学的に透明な電極(8)が、前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)と回折光学素子(4)との間に位置付けられ、少なくとも1つのスペーサ(5)が、前記回折光学素子(4)と前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)との間に存在する、光学デバイスであって、
- 前記回折光学素子(4)、前記少なくとも1つのスペーサ(5)、および前記境界部(6)の下側部分が、ナノインプリントによってパターニングされる、前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)上に存在する層(18)内に、存在し、
- 前記境界部の上側部分が、前記空洞(7)と直接接触する接着剤(15)を備え、前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)が、前記空洞(7)を閉じ、前記第2の光学的に透明な電極層(9)がその上に形成された前記第2の光学的に透明な熱可塑性層(3)が、前記接着剤(15)に取り付けられる、
光学デバイス。
【請求項15】
前記境界部(6)の前記下側部分が、追加のスペーサ(21)を備え、前記少なくとも1つのスペーサ(5)および前記追加のスペーサ(21)がそれぞれ、高さを有し、その高さが、前記第1の光学的に透明な熱可塑性層(2)に対して同一の上部位置を有するように調整される、請求項14に記載の光学デバイス。
【請求項16】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって得ることの可能な、請求項14または15に記載の光学デバイス。
【請求項17】
熱成形され、所定の曲率が設けられた、請求項14から16のいずれか一項に記載の光学デバイス。
【請求項18】
請求項14から16のいずれか一項に記載の第1の光学デバイスと第2の光学デバイスとのスタック。
【請求項19】
熱成形され、所定の曲率が設けられた、請求項18に記載のスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、湾曲した光学デバイスに関し、詳細には、液体を備える湾曲した光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
老眼は、眼が近距離で焦点を合わせるその能力を失う、よく知られた疾患であり、その影響は世界中で20億人を上回る患者に及んでいる。従来の解決策としては、老眼鏡、プログレッシブレンズ、または多焦点コンタクトレンズなどの受動レンズがある。しかし、これらの受動レンズでは、典型的には、視野が制限され、コントラストが低下し、または適応時間が長い。
【0003】
したがって、レンズの一部の焦点距離を変更することのできる再焦点合わせ可能レンズ(refocusable lens)が、知られている問題の多くを解消するので、この分野において多くの注目を集めている。一部の光学機械的解決策も存在するが、電気光学的解決策のほうが、再構成が容易であり、速い応答時間を有し、機械的に堅牢であるので、好ましい。大半の電気光学的解決策は、1種または複数種の液体で充填された空洞を必要とし、一般に、液晶ベースの実装を使用している。液晶ディスプレイ技術は非常に成熟しているが、再焦点合わせ可能液晶レンズを眼用レンズに統合する方法を見出すことは、主として眼用レンズが一般に有するメニスカス形状のため、困難であると分かっている。
【0004】
例として、既存の再焦点合わせ可能液晶レンズについて、米国特許第7,728,949号に記載されている。この特許は、回折/屈折光学構造を備えた第1の湾曲したレンズ半体と第2のレンズ半体の、2つのプラスチックレンズ半体からなるレンズを開示している。両レンズ半体上に、透明電極が堆積される。レンズ半体は、光学構造の領域を除き、UV硬化型接着剤で表面全体にわたって一緒に接着される。光学構造の位置において、液晶材料が両レンズ半体間の間隙を充填する。オフ状態では、液晶がレンズ半体のプラスチック基板と同一の屈折率を有する。その場合、液晶は回折/屈折構造を見えないようにし、したがってレンズ作用はない。レンズ半体間に電界を印加することによって、液晶材料の屈折率が変調されて、下にある回折/屈折光学構造とは異なるようになり、それによりレンズ作用がもたらされる。
【0005】
液晶レンズが2つの比較的厚い(>1mm)レンズ半体上に直接作製される上記の手法には、一連の欠点がある。上記の手法では、回折/屈折光学構造の湾曲した表面上に電極層を共形に堆積することは、実現が困難であり、信頼性の問題を引き起こすおそれがあるので、大量に製造することが非常に困難である。最新技術の液晶滴下(one-drop fill)プロセスを使用して、コスト効果が高く、見た目に澄んだシールを得ることは、極薄型レンズにおいては実現が困難であり、したがって、この手法の大量生産の妨げとなる。回折/屈折光学構造は、平らな表面を有することができるが、それにより、湾曲した背面と前面との間に平らなレンズを何らかの形で統合する必要のある典型的な薄型レンズ設計における最大直径が制限される。回折/屈折光学構造は、湾曲させることができるが、その場合、プロセスの間に液晶が溢出して、それらの表面が汚染し、グルーの接着が悪くなるおそれがある。接着後に空洞を充填することが別のオプションであるが、それにより、レンズがそれを通じて充填されるチャネルが見えたままとなるおそれがあり、レンズの美観が損なわれる。各レンズブランクを別々に製造しなければならず、それによって、スループットが制限される。偏光無依存の焦点距離の変化が一般に求められるので、ネマチック液晶を備えた多層レンズ構造、例えば両偏光用の直交する配向を有する2層を使用するか、またはコレステリック液晶と組み合わせた単一の層を使用する必要がある。この手法では、多層レンズ構造の作成が実に難しくなっており、そのため、コレステリック液晶を使用して、1層しかない偏光無依存型レンズを構築することが強いられる。しかし、コレステリック層のディスクリネーションラインおよび大きな内部エネルギーのため、コレステリック層、特に厚い層のヘイズ性(haziness)の制御が非常に困難であるということは、当業者にとって周知である。コレステリック液晶のヘイズ性を回避するには、液晶層の厚さを低減させなければならないが、これにより、ブレーズ高さが制限され、そのため、光学回折/屈折構造内でより短いピッチのブレーズを使用することが強いられ、それにより色収差が増大する。前述したように、ネマチック液晶を使用した多層レンズを用いて、ヘイズのより少ない偏光無依存型レンズをもたらすことができるが、提案された手法では、厚さが大きく、取扱い上の問題の多いレンズとなる。
【0006】
上記の課題に対処する別の手法は、最初に、平らな表面上に薄膜液晶層を形成し、次いで、この平らな表面を受動レンズに埋め込む、というものであり得る。これに対する試みが、液晶に基づくエレクトロクロミックレンズインサートを構築するための方法について記載したEP1,428,063B1に開示されている。記載された手法は、最初に、平らな基板上に液晶デバイスを製造するというものである。デバイスは、透明導体がその上に堆積され、従来のボールスペーサまたは球状ポリマー粒子を使用してもう一方から間隔を空けられた、対向して面する2つの基板からなる。この間隔が液晶層で充填され、その後シールされる。次いで、平らなデバイスは、レンズブランク内に統合できるように熱成形される。記載されたデバイスは、どんなレンズ作用も有しておらず、すなわちそれは、屈折力ではなくレンズの透明度を変更するのに使用することができる。
【0007】
さらなる従来技術の再焦点合わせ可能液晶レンズが、EP2530511A1から知られている。前記レンズは、(1)第1の基板上にフレネルレンズなどの回折素子を設けることと、(2)フレネルレンズ上に、バリア層、電極層、および配向層を施与することと、(3)感光性樹脂材料を分注することと、(3)回折素子の周りに横方向にスペーサを含めて、境界部を画定することと、(3)前記境界部の内側において、回折素子上に液晶材料を分注することと、(4)前記境界部の上に第2の基板を設け、それによって、こうして作成された空洞を液晶材料が充填するようにすることと、(5)第1の基板と第2の基板との間で空洞の周りに横方向に接着材料を施与することによって、空洞を保護することと、(6)UV放射を施して、接着剤および境界部の光硬化性樹脂を硬化させることによって、空洞をシールすることと、(7)結果として得られるブランクレンズを縁ずり加工して(edging)、湾曲したレンズを生成することとを含む、一連のステップにおいて製作される。基板上に回折素子を設けるために、モールドを使用したインプリントプロセスが利用され得る。
【0008】
示した製作方法には、さまざまな欠点のある傾向がある。第1の欠点は、スペーサが、予め定められた粒子サイズ(段落[0111]に述べられているように10.5ミクロン)を有する粒子に基づいている、ということである。しかし、粒子サイズには常に公差があり、そのような粒子が第1の基板から第2の基板まで延在することになるかは明らかではない。さらに、球状スペーサ粒子が、最終製品において見えるおそれのある境界面を作り出す。前記方法のさらなる欠点は、特に、縁ずり加工ステップにおいて所望のレンズ形状を研削および研磨することによる、その機械的な切断である。それに伴う問題は、必要となる作業だけでなく、特に、異なる層を貫通して切断することである。空洞の周りに接着材料を設けることに対する1つの理由付けは、安定性をもたらすというものである。しかし、この接着剤を設けることは、個々のレベルでしか、すなわち側方からしか、行うことができない。
【0009】
やはりさらなる再焦点合わせ可能液晶レンズについて、EP3255479A1に記載されており、これは、本出願の優先日後に公開されたものである。記載された方法では、機械的切断ではなく熱成形を使用している。しかし、この方法は気泡混入のリスクを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7,728,949号
【特許文献2】EP1,428,063B1
【特許文献3】EP2530511A1
【特許文献4】EP3255479A1
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Y.J. Liuら、「Nanoimprinted ultrafine line and space nano-gratings for liquid crystal alignment」
【非特許文献2】R. Linら、「Molecular-Scale Soft Imprint Lithography for Alignment」
【非特許文献3】Nanoscale Research Letters 2014に掲載のKooyらによる「A review of roll-to-roll nanoimprint lithography」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、高信頼に大量に製造することのできる、電気的に調整可能な位相プロファイル、例えば焦点距離の変化を有する湾曲した光学デバイスが、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様では、液晶材料で充填された空洞の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層を備える光学デバイスを製造するための方法が開示される。空洞は、境界部によって横方向に取り囲まれる。第1および第2の光学的に透明な電極はそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な熱可塑性層上に存在する。第1の光学的に透明な電極は、第1の光学的に透明な熱可塑性層と回折光学素子との間に位置付けられる。少なくとも1つのスペーサが、回折光学素子と第2の光学的に透明な熱可塑性層との間に存在する。
【0014】
この光学デバイスを製造するそのような方法は、第1の光学的透明熱可塑性層を設けることと、第1の光学的透明熱可塑性層上に、ナノインプリントによって、スペーサ、光回折素子、ならびにオプションで、光回折素子およびスペーサを取り囲む境界部の一部、のうちの少なくとも1つを形成することと、境界部の一部を構成するように、かつ空洞と直接接触して、接着剤を施与することと、空洞を閉じるように、第2の光学的透明熱可塑性層を設けることであって、第2の光学的に透明な電極層がその上に形成された第2の光学的に透明な熱可塑性層が、接着剤(15)に取り付けられる、設けることと、空洞を液晶材料で充填することと、空洞をシールすることとを含む。
【0015】
本発明によれば、回折素子と第2の熱可塑性層との間に配置され、したがって空洞内に配置された1つまたは複数の局在スペーサが、空洞を安定化させる。そのような安定化が、光学デバイスの表面領域(すなわち光学的機能を備えた領域)にわたって2つの熱可塑性層間の距離がばらつくことなく、境界部の少なくとも上側部分を接着剤から作り出すことを可能にするというのが、本発明者らの見識である。安定化は少なくとも、接着剤を硬化させるのと、それに加えてデバイスをシールするまでの時間にとって、十分である。
【0016】
スペーサ、光回折素子、および光回折素子を取り囲む境界部の一部をナノインプリントするとき、スペーサは、柱、壁、円錐台の形に作製することができる。その寸法は、ナノインプリントにおいて使用されるモールド内に画定されており、したがって固定でありかつ再現可能である。さらに、このどちらかといえばブロック形状の構造が、球状スペーサ境界面による光学的誤差のリスクを低減させる。
【0017】
このプロセスでは、ノッチを、境界部内の、空洞から離れたところに形をなして、形成することができる。このノッチは、第2の熱可塑性層と接触する接着剤を収容するように構成され、その接着剤は、第2の光学的透明熱可塑性層が施与される前に、ノッチ内にのみ設けられる。しかし、そのようなノッチが不可欠であるとは考えていない。
【0018】
液晶材料は、光回折素子の上に設けることができ、その量は、第2の光学的透明熱可塑性層が設けられたときに、シールされた空洞のみを充填するように選択される。この液晶材料を空洞に、第2の光学的透明熱可塑性層が空洞を閉じる前に設けることができる。あるいは、この液晶材料を、閉じられた空洞に、境界部の少なくとも上側部分内に境界部を通って空洞まで延在して形成されたチャネルを介して設けることもできる。このチャネルは、好ましくは、境界部をナノインプリントする際に形成される。
【0019】
一実施形態では、スペーサ、光回折素子、および光回折素子を取り囲む境界部が、同一の材料スタックから形成される。それについて、第1の光学的透明層上に材料組成の層が形成され、この層内に、スペーサ、光回折素子、および光回折素子を取り囲む境界部がナノインプリントされ、それによりスペーサと光回折素子とが互いに積み重ねられ、それにより両熱可塑性層の間の制御された距離が維持される。このナノインプリントステップの間、光回折素子の、第2の熱可塑性層に面する表面内に、サブミクロンの溝を形成することができ、このサブミクロンの溝は、液晶材料の配向層として構成される。オプションで、共形の配向層(図中に図示せず)を、溝の少なくとも一部を覆って堆積させることもできる。
【0020】
別の実施形態では、ナノインプリントするステップが、材料組成の層を施与することと、モールドを用いてその中にパターンをナノインプリントすることとをそれぞれが含む、2つの連続する段階を含む。第1の段階では、回折光学素子、および回折光学素子に隣接する境界部の一部が、画定される。第2の段階では、回折素子の上面上のスペーサや、境界部の下側部分の上面上の任意の追加のスペーサなど、さらなる特徴部が画定される。
【0021】
好ましくは、第2のステップは、平坦化材料の層を設け、それにより回折光学素子、および回折光学素子に隣接する境界部の少なくとも一部を覆うことを含む。この平坦化層内に、スペーサ、および境界部の一部がナノインプリントされ、それによりスペーサと平坦化層と回折素子とが互いに積み重ねられ、それにより両熱可塑性層の間の制御された距離が維持される。このナノインプリントの間、平坦化層の、第2の熱可塑性層に面する表面内に、サブミクロンの溝を形成することができ、このサブミクロンの溝は、液晶材料の配向層として構成される。加えて、共形の配向層を、溝の少なくとも一部を覆って形成することもできる。
【0022】
好ましくは、平坦化層は、回折光学素子の上に空洞の平坦な底面を生み出すようにナノインプリントされる。この点において、平坦化層の誘電率は、回折光学素子の誘電率とは異なる。しかし、前記素子と前記層の屈折率は同一であり、それによって、光学デバイスのオフ状態における透明性が確実なものになる。誘電率の差は、空洞にわたる不均一な電界をもたらし、それは、液晶材料の分子の方向がそれらの位置(すなわち横方向での)によって決まることを確実にするのに望ましい。
【0023】
接着材料を、スクリーン印刷などの印刷プロセスを用いて施与することが、有利であると考えられる。代替方法は除外されない。接着材料を、ナノインプリントステップにおいて設けられた境界部の下側部分の上面上に施与することが、有益であると考えられる。このようにして、接着剤の印刷プロセスの滴径が、第1の基板と第2の基板との間の距離とは関係のないものと見なされる。さらに、(境界部などの)ポリマー基板上に接着剤を印刷することは、良好なぬれをもたらすことが分かっている。
【0024】
さらなる一実施形態では、境界部内に追加のスペーサが存在し、それはナノインプリントステップにおいて作成される。これらの追加のスペーサは、第1の熱可塑性層と第2の熱可塑性層との間の予め定められた距離の維持を容易にする。そのような追加のスペーサはさらに、製造プロセスの間、接着剤を安定化させることができる。
【0025】
方法は、第1の光学的透明熱可塑性層上に第1の光学的透明電極を形成することと、第2の光学的透明熱可塑性層に隣接して第2の光学的透明電極を形成することとを、さらに含むことができる。電極を形成するのではなく、熱可塑性層に、その上に前もって施与された前記電極層が備わっていてよい。
【0026】
有利な一実施形態では、方法は、ナノインプリントによって、どちらも境界部によって取り囲まれたスペーサおよび光回折素子のアレイをする形成することを含む。その後、アレイ内の全ての空洞を閉じるように、第2の熱可塑性層を施与することができる。形成された光学デバイスのアレイの、個々の光学デバイスへの個片化は、後になって初めて、デバイスのオプションでの積み重ねおよび熱成形の前または後に行われる。次いで、光学デバイスを熱成形し、それにより各光学的透明熱可塑性層に所定の曲率を与えることができる。
【0027】
2つのそのような光学デバイスのスタックは、本発明の本態様において論じる方法を利用して形成することができる。一実装形態では、スタックは、光学デバイスのアレイを製造し、個片化された2つの光学デバイスを積み重ねることによって得られる。オプションで、2つの光学デバイスのこのスタックを熱成形し、それにより各光学的透明熱可塑性層に所定の曲率を与える。一代替実装形態では、このプロセスシーケンスを、スタック内に含まれる光学デバイスの数だけ何度でも反復することができる。その場合、製造する方法は、第1の光学デバイスを製造することと、次いで、第1の光学デバイスの上に、第2の光学デバイスを製造することとを含み、それにより第1の光学デバイスの第2の光学的透明熱可塑性層が、第2の光学デバイスの第1の光学的透明熱可塑性層としての働きをする。アレイが形成される場合、このアレイを個片化して、2つの光学デバイスのスタックをもたらす。次いで、2つの光学デバイスのこのスタックを熱成形し、それにより各光学的透明熱可塑性層に所定の曲率を与えることができる。
【0028】
第2の態様では、液晶材料で充填されたシールされた空洞の両側に1対の第1および第2の光学的に透明な電極層を備え、前記空洞が、境界部によって横方向に取り囲まれ、前記第1および第2の光学的に透明な電極がそれぞれ、第1および第2の光学的に透明な熱可塑性層上に存在し、その第1の光学的に透明な電極が、第1の光学的に透明な熱可塑性層と回折光学素子との間に位置付けられ、少なくとも1つのスペーサが、回折光学素子と第2の光学的に透明な熱可塑性層との間に存在する、光学デバイスが開示される。ここにおいて、前記回折素子、少なくとも1つのスペーサ、および前記境界部の下側部分は、ナノインプリントによってパターニングされる、第1の光学的に透明な熱可塑性層上に存在する層内に、存在する。前記境界部の上側部分が、空洞と直接接触する接着剤を備え、第2の光学的に透明な熱可塑性層が、空洞を閉じ、第2の光学的に透明な電極層がその上に形成された第2の光学的に透明な熱可塑性層が、接着剤に取り付けられる。
【0029】
したがって、光学デバイスは、第1の熱可塑性層と、第2の熱可塑性層と、両熱可塑性層の間にある境界部とによって形成された、シールされた空洞を収容する。境界部によって取り囲まれた領域内に、回折光学素子およびスペーサが存在する。回折光学素子、スペーサ、および境界部が、同一の材料組成のものであるので、これらの構成要素は、同一の層スタック内にナノインプリントによって形成することができる。
【0030】
境界部は、少なくとも部分的には、接着剤から形成された上側部分である。境界部の少なくとも一部を形成するように接着剤を設けると、製造上の利点がもたらされる。そのような光学デバイスの空洞は、液晶材料で充填される。いくつかの実施形態では、境界部を通って空洞まで延在するチャネルが存在し、そのチャネルにより、空洞を液晶材料で充填することが可能である。そのようなチャネルは、例として、チャネルの接着剤での毛細管充填(capillary fill)とそれに続く硬化ステップとを用いて空洞を充填した後で、封鎖される。
【0031】
好ましくは、空洞に隣接する境界部の側面全体が、接着剤から形成される。あるいは、空洞に隣接する境界部の上側部分のみが、接着剤から形成される。本発明によれば、回折光学素子、スペーサ、および境界部の下側部分が、同一の材料組成を有する。さらに好ましくは、境界部の下側部分が、追加のスペーサを備える。これにより、境界部の下側部分、スペーサ、追加のスペーサ、および回折素子を、単一のプロセスステップにおいてかつ/または単一の材料から製造することが可能になる。このことが、製造上の複雑さを大幅に単純化し、それにより光学デバイスの信頼性が高まる。
【0032】
本発明によれば、スペーサと回折光学素子とが互いに積み重ねられ、それによって、このスタックが、両熱可塑性層の間の制御された距離を維持するようになる。液晶材料が存在するときのその配向を向上させるために、回折光学素子の、第2の熱可塑性層に面する表面が、好ましくは、液晶材料の配向層として構成されたサブミクロンの溝を含む。加えて、共形の配向層が、溝の少なくとも一部を覆って存在することもできる。
【0033】
別の実施形態では、平坦化材料の層が、回折光学素子を覆って存在することができ、それにより回折光学素子に隣接する境界部の少なくとも一部が、平坦化材料から作製される。このとき、スペーサと平坦化層と回折光学素子とが互いに積み重ねられ、それによりこのスタックが、両熱可塑性層の間の制御された距離を維持する。液晶材料が存在するときのその配向を向上させるために、平坦化層の、回折光学素子を覆う部分の、第2の熱可塑性層に面する表面が、液晶材料の配向層として構成されたサブミクロンの溝を含む。加えて、共形の配向層が、溝の少なくとも一部を覆って存在することもできる。境界部は、空洞から離れたところに、今回は平坦化材料内に形成されたノッチを備えることができ、それによりそのノッチが、第2の熱可塑性層と接触する接着剤を収容する。
【0034】
光学デバイスは、第1の光学的透明熱可塑性層に隣接する、すなわち第1の光学的透明熱可塑性層上の、第1の光学的透明電極と、第2の光学的透明熱可塑性層に隣接する、すなわち第2の光学的透明熱可塑性層上の、第2の光学的透明電極とをさらに備え、それにより少なくとも空洞が、両光学的透明電極の間にあり、それによって、使用の際に、液晶材料が空洞内に存在するときのその少なくとも上に電界が印加される。第1の透明電極は、回折光学素子と第1の光学的透明熱可塑性層との間に位置付けることができ、それにより回折光学素子および空洞が、両電極の間にある。あるいは、第1の透明電極は、回折光学素子の、他方の光学的透明熱可塑性層に面する表面上にある。
【0035】
さらに、光学デバイスを湾曲させることができ、すなわち、両光学的透明熱可塑性層が、所定の曲率を有する。
【0036】
第3の態様では、少なくとも第1の態様による光学デバイスを備える光学機器が開示される。光学デバイスは、使用の際に、眼に向かう光の位相プロファイルを調整するように構成される。そのような光学機器の一例がレンズである。光学機器は、2つ以上の第1の態様による光学デバイス、例えば2つのそのような光学デバイスのスタックを、収容することができる。
【0037】
本開示をより良好に理解できるように、いくつかの例示的実施形態について下で、添付の図および図の説明と関連付けて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A】一実施形態による、熱成形前の光学デバイスの一実施形態を示す図である。
図1B】一実施形態による、熱成形前の光学デバイスの一実施形態を示す図である。
図1C】一実施形態による、熱成形前の光学デバイスの一実施形態を示す図である。
図1D】一実施形態による、熱成形前の光学デバイスの一実施形態を示す図である。
図2】一実施形態による、熱成形後の図1Aの光学デバイスを示す図である。
図3】一実施形態による、溝付き表面を備えた回折光学素子を示す図であり、(a)断面図、(b)円形溝の場合の(a)の上面図、(c)平行溝の場合の(a)の上面図である。
図4】一実施形態による、熱成形前の、平坦化層を備えた光学デバイスを示す図である。
図5】一実施形態による、図2の光学デバイスのスタックを収容した光学機器を示す図である。
図6】一実施形態による、図4の光学デバイスのスタックが熱成形されたときのものを収容した光学機器を示す図である。
図7(a)】光学デバイスを製造する方法の一実施形態を示す図である。
図7(b)】光学デバイスを製造する方法の一実施形態を示す図である。
図7(c)】光学デバイスを製造する方法の一実施形態を示す図である。
図7(d)】光学デバイスを製造する方法の一実施形態を示す図である。
図8(a)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図8(b)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図8(c)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図8(d)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図8(e)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図9(a)】光学デバイスを製造する方法の一実施形態を示す図であり、(a)側面図である。
図9(b)】光学デバイスを製造する方法の一実施形態を示す図であり、(b)A-A水平断面図である。
図9C図9(a)に類似したさらなる一実施形態を示す図である。
図10】一実施形態による、熱成形前の、平坦化層を備えた光学デバイスを示す図である。
図11】一実施形態による、図2の光学デバイスのスタックを収容した光学機器を示す図である。
図12】一実施形態による、図4の光学デバイスのスタックが熱成形されたときのものを収容した光学機器を示す図である。
図13(a)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図13(b)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図13(c)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図13(d)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
図13(e)】光学デバイスを製造する方法の好ましい一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
【表1】

【0040】
本開示について、特定の実施形態に関して、またいくつかの図面を参照して説明するが、本開示はそれらに限定されない。説明する図面は概略にすぎず、限定するものではない。図面においては、いくつかの要素のサイズが、例示を目的として、誇張されており、原寸に比例して描かれていないことがある。寸法および相対寸法は、本開示を実施するための実際の縮小に必ずしも対応するとは限らない。異なる図中の等しい参照番号は、等しい部分または対応する部分を指す。
【0041】
さらに、説明および特許請求の範囲における、第1の、第2の、第3のなどという用語は、類似の要素間を区別するために使用されており、必ずしも連続した順序または時間的な順序について説明するためのものであるとは限らない。これらの用語は、適切な状況下で交換可能であり、本開示の実施形態は、本明細書において説明または例示するもの以外のシーケンスで動作することが可能である。
【0042】
さらに、説明および特許請求の範囲における上部(top)、下部(bottom)、~の上に(over)、~の下に(under)などという用語は、説明を目的として使用されており、必ずしも相対位置について説明するためのものであるとは限らない。そのように使用されるこれらの用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書において説明する本開示の実施形態は、本明細書において説明または例示するもの以外の方向において動作することが可能である。
【0043】
特許請求の範囲において使用される「備える」という用語は、それ以降に列挙される手段に限られるものと解釈すべきではなく、すなわちその用語は、他の要素またはステップを除外するものではない。その用語は、参照される述べられた特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を指定するものと解釈される必要があるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、もしくは構成要素、またはそれらの群の存在または追加を除外するものではない。したがって、「手段AおよびBを備えるデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなるデバイスに限定すべきではない。それは、本開示に関して、デバイスの関連のある構成要素だけがAおよびBである、ということを意味する。
【0044】
第1の態様では、第1の光学的透明熱可塑性層(2)と、第2の光学的透明熱可塑性層(3)と、両熱可塑性層(2、3)の間にある、第1の熱可塑性層(2)に隣接する回折光学素子(4)、回折光学素子(4)と第2の熱可塑性層(3)との間にあるスペーサ(5)、および回折光学素子(4)を取り囲む境界部(6)とを備え、それにより空洞(7)を形成する、光学デバイス(1)が開示される。したがって、光学デバイス(1)は、第1の熱可塑性層(2)と、第2の熱可塑性層(3)と、両熱可塑性層(2、3)の間に位置付けられた境界部(6)とによって形成された、シールされた空洞(7)を収容する。境界部によって取り巻かれた空洞領域の内側に、回折光学素子(4)およびスペーサ(5)が存在する。
【0045】
熱可塑性プラスチックまたは熱軟化性プラスチックは、特定の温度より上で曲げやすくなるかまたはモールド成形可能になり、冷却すると固化する、プラスチック材料すなわちポリマーである。好ましくは、これらの熱可塑性層は、光学的に透明な、すなわち、可視スペクトル、例えば400~700nmにおいて5から100%の間の光透過効率を有する、ポリマーから作製される。ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテート、透明なポリウレタンポリカーボネート、またはMitsui MR8などの眼鏡の作製に使用されるチオウレタン材料が、例である。これらの材料から作製されたフィルムは、5から1000μmの間の範囲の厚さを有するとともに、典型的には、3mmまでの曲げ半径に耐えることができる。
【0046】
回折光学素子は、ブレーズド格子、フレネルレンズ、フレネルアキシコン、または透過光内に所定の位相プロファイルをもたらす他の構造などの回折構造を備えることができる。好ましくは、回折光学素子はフレネルレンズである。
【0047】
そのような光学デバイス(1)の一実装形態の一例が、図1Aに示されている。下で実施形態において開示するように、図1Aに示すデバイスは、液晶材料(10)が空洞(7)内に存在するときのその上に電界を印加するように位置付けられた、空洞(7)の両側の1対の光学的透明電極(8、9)をさらに収容する。このデバイスは、接着剤(15)を収容する、境界部(6)内に形成されたノッチ(16)をさらに備える。したがって、第2の光学的透明電極(9)がその上に形成された第2の光学的透明熱可塑性層(3)を備えたデバイスの上側部分が、この接着剤(15)によって、境界部(6)に取り付けられる。
【0048】
液晶材料(10)が空洞(7)を充填し、かつ接着剤(15)がノッチ(16)を充填したとき、図1Aによって示すように、両材料は、回折光学素子(4)に隣接する境界部(6)の側壁によって間隔を空けられる。この間隔が、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を設けたときに空洞(7)をシールする際の、溢出および/または交差汚染を防ぐ。
【0049】
ノッチを備えた境界部の使用には、空洞の明確に画定されたシールを構成するとともに、接着剤と液晶材料との間の交差汚染を確かに回避する、という利点がある。しかし、接着剤を施与するとき、堆積方法のアライメント精度は、所望の効果を達成するのに十分なほど高くなければならない。精度が低いと、シール内に、より詳細にはノッチ内の接着剤と境界部との間に、気泡混入を招くおそれがある。そのような気泡は、入射光を散乱させ、デバイスの全体的な光学品質を低下させることになる。したがって、いくつかの実施形態では、境界部を第2の熱可塑性基板のほうに延在させるのではなく、ノッチを、それが空洞と接触するように延在させることが有用である。その場合、接着剤が施与されるとき、この接着剤の、空洞のほうを向く内縁の正確な位置は、それほど重要ではなくなり、接着剤が空洞と直接接触するので、気泡混入をより容易に回避することができる。そのような実施形態の例が、図1B図1C、および図1Dに示されている。これらの実施形態では、接着剤の内縁の位置を、境界部の始点よりもさらに離れたところにあるように設計することができるので、接着剤は、ノッチを部分的にしか充填しないことがある。このようにして、乏しい堆積精度による空洞内へのオーバーフローを回避することができる。延在するノッチ含む境界部、回折構造、およびスペーサは、ナノインプリントプロセスによって作製することができる。その場合、境界部、回折構造、およびスペーサは、同一の材料組成を有する。
【0050】
いくつかの実施形態では、境界部全体を接着剤15から作製することができる。そのような実施形態が図1Cに示されている。この図では、左側で、境界部が回折構造からいくらか間隔を空けられている。これは、不利となるおそれのある回折構造と接着剤との間の相互作用の回避にとって興味深いものである可能性がある。図の右側では、接着剤15が回折構造に直接隣接して示されている。接着剤を施与する技法が高信頼であるとき、そのような構成(setup)を実現することができる。スペーサおよび回折構造は、好ましくは、同一の材料組成を有する。
【0051】
図1Dは、境界部内に追加のスペーサ21が設けられる、さらなる実施形態を示す。境界部が大きな幅を有するように設計され、かつ接着剤が最初に液体状で施与されるとき、境界部内に追加のスペーサがある場合はそれも、接着剤が空洞内にオーバーフローするのを回避するのに有利となり得る。追加のスペーサの高さは、空洞内のスペーサの高さに等しい必要はない。両高さは、好ましくは、第2の光学的透明熱可塑性層3である上部基板をまっすぐに保つために、第1の層2に対して同一の上部位置を有するように調整される。追加のスペーサ21は、好ましくは、ナノインプリントプロセスによって形成される。この場合、スペーサ、回折素子、境界部、および追加のスペーサは、好ましくは、同一の材料組成を有する。
【0052】
第3の態様において論じるように、第2の光学的透明熱可塑性層(3)により空洞(7)を閉じた後でさえ空洞(7)への通り道となるチャネル(19)が、境界部(6)内に存在することができる。図9は、そのようなチャネル(19)を収容した光学デバイス(1)の側面図およびそのAA水平断面図を示す。一実施形態では、チャネル(19)は、境界部(6)の全幅にわたって延在する。
【0053】
上で説明したのと同様に、境界部内のノッチがチャネルまで延在し、チャネルを通過する液晶材料と接着剤が接触するのを可能にしてもよい。チャネルは、境界部の、例としてノッチの高さに等しい上側部分内にのみ存在することができる。その場合、チャネルは、接着剤で境界部全体を覆うわけではないことによって形成することができる。他の実施形態では、チャネルの高さがより大きくてよく、場合によっては境界部の全高にわたる。そのような実施形態が、図9Cに示されている。
【0054】
境界部が単一の接着剤から作製されるとき、そのようなチャネルはやはり、接着剤を施与する際に境界部領域全体を覆うわけではないことによって、存在することができる。
【0055】
空洞(7)を充填する流体材料は、液晶材料、可変屈折率ポリマー材料、可変性染料(variable dye)、エレクトロクロミック電解液(electro chromic electrolyte)、または樹脂とすることができる。好ましくは、液晶材料(10)の屈折率は、少なくとも液晶材料(10)の状態のうちの1つについて、回折光学素子(4)、境界部(6)、および接着剤(15)の屈折率と一致する。例として、よく知られている液晶E7の常光線屈折率は、UVグルーNOA74に等しい。
【0056】
好ましくは、第1の光学的透明熱可塑性層(2)および第1の光学的透明電極(8)を収容した下部基板、ならびに第2の光学的透明熱可塑性層(3)および第2の光学的透明電極(9)を収容した上側基板は、回折光学素子(4)の上面上にあるスペーサ(5)のスタックによって、またそれと同時に境界部(6)によって設定された、固定距離(d)にある。したがって、図1によって示すように、両構造(5-4、6)は両基板の間に位置付けられる。この高さは、10ナノメートル(nm)から100マイクロメートル(μm)の間、典型的には、50nmから50μmの間とすることができる。
【0057】
好ましい一実施形態では、境界部(6)、スペーサ(5)、および回折光学素子(4)は、同一の材料組成(12)を有する。例えば、スペーサ(5)、回折光学素子(4)、および境界部(6)は、ビスフェノールフッ素ジアクリレート(bisphenol fluorine diacrylate)などの高屈折率モノマー、またはNOA 1625やNOA 164などの高屈折率UVグルーから作製することができる。
【0058】
下で開示するように、境界部(6)、スペーサ(5)、および回折光学素子(4)は、下部基板上に存在する、この材料組成(12)を有する同一の層(18)から、ナノインプリント技術を使用して形成することができる。
【0059】
好ましくは、回折光学素子(4)の、第2の熱可塑性層(3)のほうを向く表面が、液晶材料(10)の配向層(11)として構成されたサブミクロンの溝(14)を含む。デバイス(1)の動作の間、これらの溝が、空洞(7)内に存在する液晶を方向付けするのを助ける。好ましくは、別の配向層(11)も、空洞(7)の、第2の光学的透明電極(9)に隣接する側に存在し、それによりその配向層(11)が、溝付き表面に面する。図3(a)は、回折光学素子(4)の3次元表面内にこれらの溝(14)がどのように存在するかを示す断面図である。図3(b)は、溝が円形パターンを有するときのこの表面の上面図を示し、一方、図3(c)は、溝が平行パターンを有するときのこの表面の上面図を示す。図3において、この実施形態では、上の段落において論じたように、回折光学素子(4)の上面上のスペーサ(5)と回折光学素子(4)とが同一の材料から形成される、ということにも留意されよう。
【0060】
先の段落において論じたように、これらの溝は、回折光学素子(4)をナノインプリントによって形成するときに作成することができる。ナノインプリントプロセスにおいて使用されるモールドは、境界部(6)、スペーサ(5)、および回折光学素子(4)のネガティブ形状を含むだけでなく、その内面が、少なくとも回折光学素子(4)の形状の位置に、例えば円形パターンまたは矩形パターンの溝を含む。この手法を使うと、これらの4つの特徴部(4、5、6、14)を一体的に形成することが可能である。Y.J. Liuらは「Nanoimprinted ultrafine line and space nano-gratings for liquid crystal alignment」の中で、そのような配向パターンのナノインプリント技術を使用した形成について開示しており、R. Linらも「Molecular-Scale Soft Imprint Lithography for Alignment」の中で、同様である。
【0061】
液晶材料(10)の配向特性は、溝(14)自体の幾何形状によって決まるだけでなく、溝がその中に形成される回折光学素子(4)を構成する材料によっても決まる。溝の形状が同一でも別の材料が使用される場合、異なる材料配向特性を得るために、これらの溝(14)の上に追加の共形の配向層(20)(図示せず)を形成することができる。例として、回折光学素子の材料が液晶分子を平面的に配向する場合、溝の少なくとも一部の上にホメオトロピック配向層を被覆することができる。この共形の配向層は、回折光学素子(4)の溝付き表面全部を覆うことができる。あるいは、この溝付き表面の一部のみをこの追加の共形の配向層で覆い、追加の共形の配向層(20)(図示せず)と回折光学素子(4)との間の材料配向特性の差の利用を可能にすることもできる。
【0062】
図4および図10によって示すように、平坦化材料の層(17)が、空洞(7)の内側の回折光学素子(4)の上面上に存在することができる。図4は、EP3255479A1によるデバイスを本明細書において示す。図10は、接着剤(15)が空洞(7)と直接接触する、本発明によるデバイスを示す。
【0063】
図3によって示す実装形態と同様に、配向層は空洞(7)の底面に、例として、平坦化層(17)の、第2の熱可塑性層(3)のほうを向く表面内に形成された溝(14)として具現化されて、存在することもできる。デバイス(1)の動作の間、これらの溝が、空洞(7)内に存在する液晶を方向付けするのを助ける。好ましくは、別の配向層(図示せず)も、空洞(7)の、第2の光学的透明電極(9)に隣接する側に存在し、それによりその配向層が、溝付き表面に面する。
【0064】
液晶材料(10)の配向特性は、溝(14)自体の幾何形状によって決まるだけでなく、溝がその中に形成される平坦化層(17)を構成する材料によっても決まる。溝の形状が同一でも別の材料が使用される場合、異なる材料配向特性を得るために、これらの溝(14)の上に追加の共形の配向層(図示せず)を形成することができる。例として、回折光学素子の材料が液晶分子を平面的に配向する場合、溝の少なくとも一部の上にホメオトロピック配向層を被覆することができる。この共形の配向層は、平坦化層(17)の溝付き表面全部を覆うことができる。あるいは、この溝付き表面の一部のみをこの追加の共形の配向層で覆い、追加の共形の配向層(図示せず)と平坦化層(17)との間の材料配向特性の差の利用を可能にすることもできる。
【0065】
回折光学素子(4)の材料と平坦化層(17)の材料は、少なくともそれらの境界面において、同一の屈折率を有することができる。さらに、これらの材料(12、17)の低周波電界(例えば1Hz~10kHz)における誘電率は、異なっていてよい。
【0066】
この平坦化材料(17)は、上面が境界部(6)の高さを画定した状態で、スペーサ(5)および(図1Dに示すような)任意の追加のスペーサを形成するために使用することもできる。この平坦化材料(17)はさらに、境界部の一部であってもよい。ノッチが存在する場合、それは、図4に示すように、この平坦化材料(17)内に形成される。境界部(6、17)の上面上に接着剤(15)が施与される。境界部(6)およびその上の平坦化層(17)の高さは、標準化されたプロセスで市販の装置を使用して接着剤(15)を施与することができ、それでもなお合計の高さが仕様を満たすように、合わされ得る。接着剤(15)は、境界部(6)、およびやはり結果として得られる光学デバイス内にある任意の追加のスペーサとは、それらの異なる製造プロセスのため区別することができる。
【0067】
図4および図10によって示す実装形態では、第1の光学的透明熱可塑性層(2)および第1の光学的透明電極(8)を収容した下部基板、ならびに第2の光学的透明熱可塑性層(3)および第2の光学的透明電極(9)を収容した上部基板が、回折光学素子(4)を覆う平坦化層(17)の上面上にあるスペーサ(5)のスタックによって、またそれと同時に、接着剤(15)を備える境界部(6)、および境界部(6)の、存在することのある任意の追加のスペーサまたは上側部分によって設定された、固定距離(d)にある。図4および図10によって示すように、両基板の間に位置付けられているこれらの構造(4-5-17、6、17、15)。この高さは、10ナノメートル(nm)から100マイクロメートル(μm)の間、典型的には、50nmから50μmの間とすることができる。
【0068】
第1および第2の電極(8、9)間に、回折光学素子(4)と、液晶材料で充填された空洞(7)がどちらも存在することが、有益であると考えられる。これにより、電極(8、9)は平坦形状を有し、それによって、さまざまな表面方向を備えたフレネルレンズなどの回折光学素子(4)上の電極層が亀裂するというどんなリスクも回避される。さらに、電極(8、9)間の距離は、ナノインプリントプロセスにおけるどんな公差にも依存しない。さらに、必ずしも、従来技術のEP2530511A1において電極層を支持するために必要とされるようにフレネルレンズ上にSiOなどの別途のバリア層を施与する必要はない。
【0069】
下で開示するように、スペーサ(5)、および存在する場合はノッチ(16)を、下部基板の上にある平坦化層(17)内に、ナノインプリント技術を使用して形成することができる。スペーサ(5)をナノインプリントすると、空洞(7)が形成される。この場合も、液晶材料(10)が空洞(7)を充填し、かつ接着剤(15)がノッチ(16)を充填したとき、図4によって示すように、両材料は、回折光学素子(4)に隣接する境界部(6)の側壁によって間隔を空けられる。この間隔が、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を設けたときに空洞(7)をシールする際の、溢出および/または交差汚染を防ぐ。
【0070】
図1または図3に示す光学デバイス(1)は、平坦なデバイスである。必要に応じて、本開示の第3の態様において論じるように、その湾曲版を、光学デバイス(1)を熱成形プロセスにかけることによって得ることができる。好ましくは、光学デバイス(1)は、球面状に湾曲している。その場合、図2によって示すように、熱可塑性層(2、3)の、したがって光学デバイス(1)の所定の曲率を得ることができる。そのような湾曲した光学デバイス(1)は、本開示の第2の態様において論じるように、とりわけレンズインサートとして使用することができる。
【0071】
図1A図1D図2、および図4、および図10においてすでに示したように、光学デバイス(1)は、空洞(7)の両側に1対の光学的透明電極(8、9)をさらに収容することができる。本発明によれば、第1の光学的透明電極(8)は、第1の光学的透明熱可塑性層(2)に隣接して(すなわち第1の光学的透明熱可塑性層(2)上に)存在し、一方、第2の光学的透明電極(9)は、第2の光学的透明熱可塑性層(3)に隣接して(すなわち第2の光学的透明熱可塑性層(3)上に)存在し、それにより回折光学素子(4)が、両光学的透明電極(8、9)の間にある。
【0072】
図1A図1D図2、および図4によって示すように、第2の光学的透明電極(9)は、典型的には、第2の光学的透明熱可塑性層(3)の、空洞(7)の側上にある。図1A図1D図2、および図4、および図10に示すように、第1の光学的透明電極(8)は、回折光学素子(4)と第1の光学的透明熱可塑性層(2)との間に存在することができる。
【0073】
図1A図2、および図4に示すように、第1の光学的透明電極(8)が回折光学素子(4)と第1の光学的透明熱可塑性層(2)との間にある場合、平坦化層(17)が使用され、もしあれば、回折光学素子(4)の誘電率とは異なる誘電率を有する。
【0074】
光学的透明電極は、インジウムスズ酸化物(ITO)、ClearOhm(登録商標)銀ナノワイヤ、またはAGFA Orgaconインクなどの材料から作製することができる。ITOの脆性のため、PEDOT:PSS、グラフェン、カーボンナノチューブ、または銀ナノワイヤなど、剛性がより低く、より可撓性の材料を使用することができる。光学的透明電極(8、9)は、回折光学素子(4)の異なるゾーンに個々にアドレスするようにパターニングすることができる。これらの電極は、例えば回折光学素子(4)の領域内にのみ電極を有することによって全体的な静電容量を低減させるように、またはこの領域内の電極を境界部(6)の領域内の電極とは分離するように、パターニングすることもできる。
【0075】
本開示の第3の態様では、先の態様において開示した光学デバイス(1)が、光学機器において使用される。光学デバイス(1)は、光学機器に挿入されると、眼に向かう光の位相プロファイルを調整するように構成される。
【0076】
そのような光学機器は、レンズとすることができ、その場合、光学デバイスはレンズインサートとして使用される。眼科用途を考えると、レンズは、眼鏡のレンズ、コンタクトレンズ、または眼内レンズであり得る。眼鏡のレンズとコンタクトレンズはどちらも一般にメニスカス形状を有するので、光学デバイス(1)もそれが埋め込まれる必要のあるレンズの曲率と実質的に同一の曲率で湾曲しているとき、光学デバイスはより容易にレンズに統合することができる。典型的には、光学デバイスはその場合、2つの直交する方向に湾曲する。眼内レンズでは、平坦な光学デバイスまたは湾曲した光学デバイスを埋め込むことができる。
【0077】
そのような光学機器は、2つ以上の光学デバイス(1)を収容することができる。これらの光学デバイス(1、1’)は、積み重ねることができる。複数の光学デバイス(1、1’)を積み重ねることによって、単一の光学デバイス同士の電気光学特性を組み合わせることができる。例として、ネマチック液晶で充填されているが直交配向を有する2つのデバイスは、偏光無依存型調整可能レンズをもたらすことができる。
【0078】
図5図11によって示す実装形態、および図6図12によって示す実装形態ではそれぞれ、平坦化層(13、13’)のない光学デバイス(1、1’)、および平坦化層(13、13’)のある光学デバイス(1、1’)が積み重ねられている。図5および図6は、EP3255479によるデバイスを積み重ねた様子を本明細書において示す。図11および図12は、本発明によるデバイスを積み重ねた様子を示す。図11は、図5における実施形態と同一の実施形態を示し、同一の参照番号が同一の要素を指す。分かりやすいように、接着剤(15)は、本発明に従って空洞(7)と直接接触しているものとして示されている。図12は、図6における実施形態と同一の実施形態を示し、同一の参照番号が同一の要素を指す。分かりやすいように、接着剤(15)は、本発明に従って空洞(7)と直接接触しているものとして示されている。
【0079】
本発明は、図中に示すタイプの光学デバイスを製造するための方法にも関する。光学デバイス(1)を製造するそのような方法(100)は、第1の光学的透明熱可塑性層(2)を設けること(30)と、第1の光学的透明熱可塑性層(2)上に、ナノインプリントによって、スペーサ(5)、光回折素子(4)、および光回折素子(4)を取り囲む境界部(6)を形成すること(40)と、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を設け、それによりスペーサ(5)および光回折素子(4)を収容した空洞(7)を形成し、それによりスペーサ(5)が、光回折素子(4)と第2の光学的透明熱可塑性層(3)との間にある、こと(50)とを含む。この方法は、図7(a)によって示されている。
【0080】
ナノインプリント技術は、半導体およびフラットパネルの製造技術において使用されるリソグラフィパターニングに比べて単純、低コスト、高スループットのパターニング技術である。とりわけ、参照によりここに組み込まれる、Nanoscale Research Letters 2014に掲載のKooyらによる「A review of roll-to-roll nanoimprint lithography」の中で開示されているように、ナノインプリントリソグラフィでは、所望のパターンのインバース(inverse)を含む製作済みのモールドを使用する必要がある。このモールドが、ポリマー被覆基板に押し込まれ、それによりポリマー内にその機械的変形によりパターンが複製される。変形後、パターンは、変形されたポリマーに対して熱プロセスを使用して、または変形されたポリマーをUV光に晒すことによって固定され、その結果、ナノインプリントされたパターンが硬化する。その後、モールドが除去される。インバースパターンは、形成される単一の構造に対応することができる。その場合、ポリマー内に構造のアレイを形成するには、ナノインプリントプロセスを、必要となる構造の数だけ何度でも反復する必要がある。モールドがインバースパターンのアレイを含み、それにより一度のナノプリントの間に、同一のポリマー内に所望の数の構造が同時に形成される場合、スループットを上げることができる。
【0081】
この方法(100)の実装形態が、図7(b)から図7(d)にさらに示されている。図7(b)は、スペーサ(5)、光回折素子(4)、および光回折素子(4)を取り囲む境界部(6)が、ナノインプリント技術によって形成される(40)、実装形態を示す。図7(c)によって示すように、そのような実装形態では、第1の光学的透明層(2)上に、または存在する場合は第1の光学的透明電極(8)上に、材料組成(12)の層(18)を設けることができる(41)。この層(18)内に、スペーサ(5)、光回折素子(4)、および光回折素子(4)を取り囲む境界部(6)がナノインプリントされ(42)、それによりこれらの要素はいずれも、同一の材料組成を有する。スペーサ(5)と光回折素子(4)とが互いに積み重ねられ、それにより両熱可塑性層(2、3)の間の制御された距離(d)が維持される。図7(d)は、第1および第2のナノインプリント段階(42、72)のある実装形態を示す。第1の段階(42)では、スペーサ(5)、光回折素子(4)、および境界部(6)が、ナノインプリントによって設けられる。第2の段階では、平坦化層(17)が設けられる。この平坦化層(17)内に、スペーサ(5)、したがって空洞(7)が、別のナノインプリントプロセス(72)によって形成される。
【0082】
上で論じたように、空洞(7)の底面に、それが回折光学素子(4)の表面であろうと、この光学素子(4)を覆う平坦化層(13)の表面であろうと、それぞれのナノインプリントプロセス(42、72)の間に溝を形成し、それにより、液晶材料(10)の配向層(11)を形成することができる。
【0083】
先の段落において論じた方法(100)は、第1の光学的透明熱可塑性層(2)に隣接して第1の光学的透明電極(8)を形成することと、第2の光学的透明熱可塑性層(3)に隣接して第2の光学的透明電極(9)を形成することとをさらに含むことができ、それにより少なくとも空洞(7)が、両光学的透明電極(8)の間にある。
【0084】
第1の光学的透明熱可塑性層(2)上にスペーサ(5)、光回折素子(4)、および境界部(6)、オプションで境界部(6)内のノッチ(16)を備える下部基板は、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を備える上部基板に、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を設ける前に接着剤(15)を設けることによって、取り付けられる。
【0085】
上で論じた方法では、単一の光学デバイス(1)の製造について開示したが、複数の光学デバイス(1、1’)を、半導体またはフラットパネルディスプレイの製造技法を使用して製造することができる。境界部(6)によって取り囲まれたスペーサ(5)および光回折素子(4)からなる単一の構造を、例えば層(12)内にナノインプリントすることによって形成するのではなく、そのような組合せのアレイを、同時にまたは順次形成し、その結果、境界部(6)によって取り囲まれたスペーサ(5)および光回折素子(4)のアレイを得ることができる。このアレイから、例えばパンチングまたはレーザ切断によって、1つまたは複数のデバイスを得ることができる。
【0086】
図7(b)によって示すように、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を設けた後で、図1Aまたは図4または図10によって示す平坦な光学デバイス(1)が得られる。次いで、この平坦な光学デバイス(1)を熱成形プロセスにかけ、その結果、図2によって示す湾曲した光学デバイス(1)を得ることができ、それにより各光学的透明熱可塑性層(2、3)が、所定の曲率を有する。熱成形プロセスの間、光学デバイス(1)はモールド内に配置され、少なくとも光学的透明熱可塑性層(2、3)のガラス転移温度Tgに到達するまで加熱され、それにより、加えられた機械的な力が熱可塑性層にモールドの形状を帯びさせる。次いで、モールドが閉じられ、このガラス転移温度Tgより下に冷却されると、変形された熱可塑性層の形状が固定する。次いで、このとき湾曲した光学デバイス(1)が、モールドから取り外される。あるいは、加熱の間に、光学デバイスをその側部で片面モールド上にクランプすることもできる。熱成形プロセスの間、光学デバイス(1)にわたって圧力差を作り出すことによって、光学デバイスを次いで、所望の形状に至らせることができる。そのような圧力差は、光学デバイスとモールドとの間に真空を作り出すことによって、またはデバイスの上方に、デバイスとモールドとの間よりも高圧力の雰囲気を作り出すことによって、得ることができる。
【0087】
光学デバイス(1、1’)を互いに積み重ねることもできる。一実装形態では、この第3の態様についての先の段落において論じたように、2つの光学デバイス(1、1’)が製造される。両光学デバイス(1、1’)は積み重ねられる。次いで、光学デバイス(1、1’)のこのスタックが熱成形プロセスにかけられ、その結果、図5または図6によって示す湾曲した光学デバイス(1)が得られ、それにより各光学的透明熱可塑性層(2、3)が、所定の曲率を有する。別の実装形態では、光学デバイス(1、1’)のそのようなスタックは、ある光学デバイス(1’)を別の光学デバイス(1)の上面上に製造することによって形成される。この実装形態では、第1の光学デバイス(1)が、第3の態様についての先の段落において論じたように製造される。この光学デバイス(1)の上面上に、第2の光学デバイス(1’)が、この第3の態様についての先の段落において論じたように製造される。この第2の光学デバイス(1’)のための第1の光学的透明熱可塑性層(2’)を設けるのではなく、第1の光学デバイス(1)の第2の光学的透明熱可塑性層(3)を、第2の光学デバイス(1’)の第1の光学的透明熱可塑性層(2’)として使用することができる。第2の光学デバイス(1’)が製造されると、それが、第1の光学デバイス(1)上に積み重ねられる。次いで、2つの光学デバイス(1、1’)のスタックが熱成形され、それにより各光学的透明熱可塑性層(2、3、2’、3’)に所定の曲率が与えられる。
【0088】
図8(a)から図8(d)には、図1Aによって示す光学デバイス(1)をもたらすこの方法の一実装形態が示されている。光学デバイスが半導体またはフラットパネルディスプレイの工場において製造され、それによって、半導体回路またはフラットディスプレイの製造に匹敵する光学デバイス(1)の大規模生産を可能にする製造プロセスが利用できるようになることが、好ましい。図13(a)~図13(e)は、図8における方法と同一の方法であるが、図1Bおよび(追加のスペーサ21のある)図1Dのデバイスについて示す。本発明を曖昧にしないために、そのステップは図8(a)から図8(d)を参照して提示される。分かりやすいように、接着剤(15)は、本発明に従って空洞(7)と直接接触しているものとして示されている。
【0089】
図8(a)によって示す第1のステップとして、第1の光学的透明熱可塑性層(2)が、一時的なキャリア(図示せず)上に形成される。大半の半導体またはフラットパネルのプロセス装置は、10cm以上の直径を有する剛性のパネルまたはウェーハを取り扱うように構成されている。光学デバイス(1)のさまざまな要素がその上に形成される、そのような一時的な機械的キャリアを使用すると、このタイプの装置を使用することが可能になり、その場合、コスト効率が良く高信頼の製造プロセスが得られるという結果になる。それにより、光学デバイス(1)の処理の間、光学的透明熱可塑性層または光学的透明熱可塑性フィルム(2)が平らなままであり、それにより、製造された光学デバイス(1)のアレイにわたる全体の厚さばらつきが低減することも、確実になる。厚さばらつきの低減は、例えばリソグラフィや、空洞(7)を充填する際に液晶材料(10)を溢出なく設けるための液晶滴下プロセスなど、後続のプロセスステップにとって重要である。接着剤(15)もやはり、厚さのばらつきを生み出さない高さに設けられるべきである。スペーサ(5)を使用し、好ましくは追加のスペーサ(21、図1Dに示す)も使用することが、製造中に平坦な上部側を有する空洞を生み出すために有益であると考えられる。
【0090】
一時的な機械的キャリアのサイズのおかげで、単一のキャリア上に複数の光学デバイス(1)を製造し、それによって、大きなスループット、したがって光学デバイス(1)当たりのより低いコストを可能にすることができる。
【0091】
第1の光学的透明熱可塑性フィルム(2)は、キャリア上に、貼合せによって形成することができる。典型的には、貼合せフィルム(2)は、5μmから1000μmの間の厚さである。あるいは、キャリア上に液体状の熱可塑性材料を堆積させてもよい。次いで、この液体材料をUV硬化または熱硬化させ、それにより第1の光学的透明熱可塑性フィルム(2)を形成することができる。いずれにせよ、処理の完了後に一時的なキャリアから光学デバイス(1)を取り外せるようにしながらも、キャリアに第1の光学的透明熱可塑性フィルム(2)を取り付けるために、一時的な接着剤が必要となり得る。一時的なキャリアの解決策は、TOK、Brewer Science、3M、Nittoなどの企業から入手可能である。場合によっては、フィルム(2)は、フィルムとキャリアとの間に真空を施すことによって固定される。
【0092】
図8(b)に示すように、第1の光学的透明電極(8)を製造するために、第1の光学的透明熱可塑性層(2)上に透明導電性フィルムが形成される。
【0093】
第1の光学的透明電極(8)上に、境界部(6)、回折光学素子(4)、およびスペーサ(5)が形成される。図8(b)によって示すように、第1の光学的透明電極(8)上に、材料組成(12)の層(18)が形成される。ナノインプリント技術を使用して、図8(c)に示すように、この層(18)内に境界部(6)、回折光学素子(4)、およびスペーサ(5)が形成され、それにより回折光学素子(4)の位置に空洞(7)が作り出される。この層(18)は、単一の層とすることもでき、あるいは層のスタックとすることもでき、それにより各層が異なる材料組成を有することができる。
【0094】
液晶材料(10)が空洞(7)内に存在するときのその方向を制御するために、空洞(7)の底面に配向層(図示せず)が形成される。この配向層は、ナノインプリントプロセスの間に回折光学構造(4)の表面内にサブミクロンの溝を形成することによって、作り出すことができる。図3は、回折光学構造(4)の上面内の溝の円形パターンおよび矩形パターンを示す。
【0095】
空洞(7)は、液晶滴下プロセスによって充填し、完成させてよく、液晶滴下プロセスは、液晶材料(10)を空洞(7)の容積と一致する微小分注量で分注することから開始する。その後、図8(d)によって示すように、境界部(6)上に接着剤(15)が、好ましくは分注プロセスまたはスクリーン印刷プロセスを使用することによって分注される。典型的には、接着剤(15)は、透明UVグルー、透明サーマルグルー、または両方の組合せとすることができる。境界部は、接着剤部、すなわちノッチと、電気活性部、すなわち空洞(7)との間の交差汚染を、両部間の明確な境界線を作り出して、最小限に抑える。接着剤(15)は、空洞(7)を液晶材料(10)で充填する前に分注することもできる。
【0096】
上記のステップが光学デバイス(1)の下側部分または下部基板の形成について説明しているのに対し、光学デバイス(1)の上側部分または上側基板は、別の一時的なキャリア(図示せず)上に第2の光学的透明熱可塑性層(3)を形成することによって形成される。第2の光学的透明熱可塑性フィルム(3)は、このキャリア上に、貼合せによって形成することができる。典型的には、貼合せフィルム(3)は、5μmから1000μmの間の厚さである。あるいは、キャリア上に液体状の熱可塑性材料を堆積させてもよい。次いで、この液体材料をUV硬化または熱硬化させ、それにより第2の光学的透明熱可塑性フィルム(3)を形成することができる。いずれにせよ、処理の完了後に一時的なキャリアから光学デバイス(1)を取り外せるようにしながらも、キャリアに第2の光学的透明熱可塑性フィルム(3)を取り付けるために、一時的な接着剤が必要となり得る。一時的なキャリアの解決策は、TOK、Brewer Science、3M、Nittoなどの企業から入手可能である。場合によっては、フィルム(3)は、フィルムとキャリアとの間に真空を施すことによって固定される。
【0097】
第2の光学的透明電極(9)を製造するために、第2の光学的透明熱可塑性層(3)上に透明導電性フィルムが形成される。この導電性フィルムは、ITOとすることができる。ITOの脆性のため、PEDOT:PSS、グラフェン、カーボンナノチューブ、または銀ナノワイヤなど、剛性がより低く、より可撓性の材料を使用することができる。液晶材料(10)が空洞(7)内に存在するときのその方向を制御するために、この第2の光学的透明電極(9)上に別の配向層(11)が形成される。
【0098】
上で説明した液晶滴下プロセスを完了させるために、図8(e)によって示すように、真空貼合せステップを使用してこの上側基板が下部基板に対して貼り合わされる。グルー層(15)が、例えばUVステップおよび/または熱ステップを通じて硬化される。この方法により、確実に、シールを妨げることなく完全に閉じられた空洞(7)が得られるようになる。
【0099】
両基板を貼り合わせた後、一時的なキャリアを剥離によって除去することができる。こうして形成された光学デバイス(1)のアレイは、ダイシングされて、図1に示す個々の平坦な光学デバイス(1)になる。次いで、この平坦な光学デバイス(1)を、上で論じたように、熱成形によって湾曲させることができる。
【0100】
空洞(7)を液晶材料(10)で充填するための一代替方法は、ナノインプリントの間に、少なくとも境界部(6)の上側部分内にチャネル(19)を作成する、というものである。図9は、上側部分内にあるだけでなく、境界部の全高hにわたって延在するチャネル(19)を有する、光学デバイス(1)を示す。液晶材料(10)は、第2の光学的透明熱可塑性層(3)を施与することによって空洞(7)が閉じられた後に設けられる。次いで、個々の光学デバイス(1)の閉じられた空洞(7)を、液晶材料(10)で充填することができる。
【0101】
さらに、光学デバイス(1)のアレイを、上述した技法のいずれかによって、適切なモールドを用いて同時に熱成形することもできる。熱成形後、アレイはダイシングされて、個々の光学デバイス(1、1’)をもたらす。
【符号の説明】
【0102】
1 第1の光学デバイス
1’ 第2の光学デバイス
2 第1の光学的透明熱可塑性層、第1の熱可塑性層、第1の層、第1の光学的透明層、第1の光学的透明熱可塑性フィルム、貼合せフィルム、第1の光学的に透明な熱可塑性層、第1の光学的に透明な層
2’ 第1の光学的透明熱可塑性層
3 第2の光学的透明熱可塑性層、第2の熱可塑性層、第2の光学的透明熱可塑性フィルム、貼合せフィルム、第2の光学的に透明な熱可塑性層、第2の光学的に透明な層
3’ 光学的透明熱可塑性層
4 回折光学素子、特徴部、光回折素子、回折光学構造
5 スペーサ、構造、特徴部
6 境界部、構造、特徴部
7 空洞
8 第1の光学的透明電極、第1の電極、第1の光学的に透明な電極層、第1の光学的に透明な電極
9 第2の光学的透明電極、第2の電極、第2の光学的に透明な電極層、第2の光学的に透明な電極
10 液晶材料
11 配向層
12 材料組成、材料、層
13 平坦化層
13’ 平坦化層
14 サブミクロンの溝、特徴部
15 接着剤、構造、グルー層
16 ノッチ
17 平坦化層、平坦化材料、境界部、構造
18 層
19 チャネル
20 追加の共形の配向層
21 追加のスペーサ
100 方法
d 固定距離
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図7(d)】
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図8(e)】
図9(a)】
図9(b)】
図9C
図10
図11
図12
図13(a)】
図13(b)】
図13(c)】
図13(d)】
図13(e)】
【外国語明細書】