(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023449
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】発現強化座位の使用に基づいた抗体を作製するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20240214BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240214BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240214BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240214BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240214BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12P21/02 C
C12P21/08
C12N5/10
C12N15/13
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023201924
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2021114374の分割
【原出願日】2017-04-20
(31)【優先権主張番号】62/325,400
(32)【優先日】2016-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ロバート バブ
(72)【発明者】
【氏名】ダリャ ブラコフ
(72)【発明者】
【氏名】ガン チェン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ピー. ファンデル
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジャオ
(57)【要約】
【課題】発現強化座位の使用に基づいた抗体を作製するための組成物および方法の提供。
【解決手段】本発明は、真核細胞における組み換えタンパク質の部位特異的な統合および発現に関する。特に本発明は、複数の発現強化部位を利用することによる、真核細胞、特にチャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の細胞株における、一特異性抗体および二特異性抗体を含む抗原結合タンパク質の発現改善のための組成物および方法を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の発現強化座位内に統合された第一の外因性核酸であって、前記第一の外因性核酸が、第一の重鎖断片(HCF)をコードするヌクレオチド配列を備える、第一の外因性核酸;および
第二の発現強化座位内に統合された第二の外因性核酸であって、前記第二の外因性核酸は、第一の軽鎖断片(LCF)をコードするヌクレオチド配列および第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、第一の選択マーカー遺伝子は、前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列との間に存在し、前記選択マーカー遺伝子は、第一の組換え認識部位(RRS)を備えるイントロンを備える、第二の外因性核酸
を備えた哺乳類細胞であって、
前記第一および第二の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードする、哺乳類細胞。
【請求項2】
前記第一の外因性核酸が、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
第二の選択マーカー遺伝子が、前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列との間に存在し、前記第二の選択マーカー遺伝子は、前記第一の選択マーカー遺伝子とは異なり、第二のRRSを備えるイントロンを備える、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
前記第一および第二のHCFはそれぞれ重鎖可変領域を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
前記第一および第二のHCFは、配列が異なる、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
前記第一および第二のHCFは、配列が同じである、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項7】
前記第一のLCFが軽鎖可変領域を備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
前記第一および第二のLCFは、配列が同じである、請求項2~7のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項9】
前記第一および第二のLCFは、配列が異なる、請求項2~7のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項10】
前記抗原結合タンパク質が全長抗体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項11】
前記抗体が二特異性抗体である、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
前記選択マーカー遺伝子が抗生物質に対する耐性を与える、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項13】
前記抗生物質がハイグロマイシン、ネオマイシンまたはカナマイシンである、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
前記細胞が、CHO細胞である、請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項15】
2つの前記発現強化座位のうちの一方は、配列番号1に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を備え、他方は、配列番号2または配列番号3に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を備える、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
哺乳類細胞において二特異性抗原結合タンパク質を発現させるためのベクターのセットであって、前記セットは、
5’から3’の方向に、第一のRRS、第一の核酸、第一のイントロンの5’部分を備える第一の選択マーカー遺伝子の5’部分および第二のRRSを備えた第一ベクターであって、前記第二のRRSは、前記第一の選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端でもある、前記第一のイントロンの5’部分の3’末端に配置される、第一ベクター;
5’から3’の方向に、第三のRRS、第二のHCをコードするヌクレオチド配列を備えた第二の核酸、第四のRRSを備えた第二ベクター;および
5’から3’の方向に、5’RRS、前記第一のイントロンの残りの3’部分を備える前記第一の選択マーカー遺伝子の残りの3’部分、第3の核酸、および3’RRSを備える第三ベクターであって、前記5’RRSは、前記第一の選択マーカー遺伝子の3’部分の5’末端でもある、前記第一のイントロンの残りの3’部分の5’末端に配置され、前記5’RRSは前記第二のRRSと同じであり、前記3’RRSは前記第一および第二のRRSとは異なる、第三ベクター
を備え、
前記第一、第二、第三、および第四のRRSは異なり;
前記第一および第三の核酸のうちの一方は第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、他方は第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を備え;
前記二特異性抗原結合タンパク質は、前記第一のHCF、前記第二のHCFおよび前記第一のLCFを備え、前記第一および第二のHCFは異なる、セット。
【請求項17】
第四ベクターをさらに備える、請求項16に記載のセットであって、
前記第二ベクターは、5’から3’の方向に、前記第三のRRS、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を備える第二の核酸、第二のイントロンの5’部分を備える第二の選択マーカー遺伝子の5’部分、および前記第四のRRSを備え、前記第四のRRSは、前記第二の選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端でもある、前記第2のイントロンの5’部分の3’末端に配置され;そして
前記第四ベクターは、5’から3’の方向に、5’RRS、前記第二のイントロンの残りの3’部分を備える第二の選択マーカー遺伝子の残りの3’部分、第二のLCFをコードする前記ヌクレオチド配列、および3’RRSを備え、前記5’RRSは、前記第二の選択マーカー遺伝子の3’部分の5’末端でもある、前記第二のイントロンの残りの3’部分の5’末端に配置され、前記5’RRSは、前記第四のRRSと同じであり、前記第四ベクターの3’RRSは前記第三および第四のRRSと異なる、セット。
【請求項18】
第四ベクターをさらに備える、請求項16に記載のセットであって、
前記第二ベクターは、5’から3’の方向に、前記第三のRRS、第二のイントロンの3’部分を備える第2の選択マーカー遺伝子の3’部分、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を備える前記第二の核酸、および前記第四のRRSを備え、前記第三のRRSは、前記第二の選択マーカー遺伝子の3’部分の5’末端でもある、前記第2のイントロンの3’部分の5’末端に配置され;そして
前記第四ベクターは、5’から3’の方向に、5’RRS、前記第二のイントロンの残りの5’部分を備える前記第二の選択マーカー遺伝子の残りの5’部分、および3’RRSを備え、前記3’RRSは、前記第二の選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端でもある、前記第二のイントロンの5’部分の3’末端に配置され、前記3’RRSは、前記第三のRRSと同じである、セット。
【請求項19】
前記第一および第二のLCFは、配列が同じである、請求項17または18に記載のセット。
【請求項20】
前記二特異性抗原結合タンパク質が全長二特異性抗体である、請求項16~19のいずれか一項に記載のセット。
【請求項21】
前記選択マーカー遺伝子が抗生物質に対する耐性を与える、請求項16~20のいずれか一項に記載のセット。
【請求項22】
前記抗生物質がハイグロマイシン、ネオマイシンまたはカナマイシンである、請求項21に記載のセット。
【請求項23】
哺乳類細胞において一特異性抗原結合タンパク質を発現させるためのベクターのセットであって、前記セットは、
5’から3’の方向に、第一のRRS、第一の核酸、イントロンの5’部分を備える選択マーカー遺伝子の5’部分および第二のRRSを備えた第一ベクターであって、第二のRRSは、前記選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端でもある、第一のイントロンの5’部分の3’末端に配置される、第一ベクター;および
5’から3’の方向に、前記第二のRRS、前記イントロンの残りの3’部分を備える前記選択マーカー遺伝子の残りの3’部分、第二の核酸、および第三のRRSを備えた第二ベクターであって、前記第二のRRSは、前記選択マーカー遺伝子の3’部分の5’末端でもある、前記イントロンの3’部分の5’末端に配置される、第二ベクター;
を備え、
前記第一、第二、および第三のRRSは異なり;
前記第一および第二の核酸のうちの一方はHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、他方はLCFをコードするヌクレオチド配列を備え;
前記一特異性抗原結合タンパク質は、前記HCFおよび前記LCFを備える、セット。
【請求項24】
前記選択マーカー遺伝子が抗生物質に対する耐性を与える、請求項23に記載のベクターのセット。
【請求項25】
前記抗生物質がハイグロマイシン、ネオマイシンまたはカナマイシンである、請求項24に記載のベクターのセット。
【請求項26】
一特異性抗原結合タンパク質を発現させるための哺乳類細胞であって、前記哺乳類細胞は、
第一の発現強化座位内に統合され、第二の発現強化座位内に統合された外因性核酸であって、前記外因性核酸が、第一のRRS、第一の核酸、第二のRRSを備えるイントロンを備える選択マーカー遺伝子、第二の核酸、および第三のRRSを備える、外因性核酸
を備え、
前記第一、第二、および第三のRRSは異なり;
前記第一および第二の核酸のうちの一方はHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、他方はLCFをコードするヌクレオチド配列を備え;
前記一特異性抗原結合タンパク質は、前記HCFおよび前記LCFを備える、哺乳類細胞。
【請求項27】
前記選択マーカー遺伝子が抗生物質に対する耐性を与える、請求項26に記載の細胞。
【請求項28】
前記抗生物質がハイグロマイシン、ネオマイシンまたはカナマイシンである、請求項27に記載の細胞。
【請求項29】
前記細胞が、CHO細胞である、請求項26~28のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項30】
2つの前記発現強化座位のうちの一方は、配列番号1に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を備え、他方は、配列番号2または配列番号3に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を備える、請求項29に記載の細胞。
【請求項31】
抗原結合タンパク質を産生する方法であって、
請求項1~15または26~30のいずれか一項に記載の哺乳類細胞を培養すること;および
前記細胞から前記抗原結合タンパク質を産生することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月20日に出願された米国仮特許出願第62/325,400号の優先権の利益を主張するものであり、当該仮特許出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、真核細胞における組み換えタンパク質の部位特異的統合および発現に関するものである。特に本開示は、発現強化部位を利用することによる、真核細胞、特にチャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の細胞株における、抗原結合タンパク質(一特異性抗体および二特異性抗体を含む)の発現改善のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞発現システムは、研究用途および治療用途を問わず、所与のタンパク質製造のための信頼できる、効率的な供給源を提供することを目的としている。例えば、哺乳類の発現系は組み換え型タンパク質を翻訳後に適切に修飾できる能力があり、それゆえに、治療用タンパク質製造の目的に対し、哺乳類細胞中で組み換え型タンパク質を発現させることは、好ましい方法である。
【0004】
様々な発現系が利用可能な状態であるにもかかわらず、組換え型タンパク質発現のための効率的な遺伝子移入および統合遺伝子の安定性といった課題が未だ存在する。標的導入遺伝子を長期的に発現させるにあたっての懸念事項の1つは、その細胞株の表現型が変化しないよう、細胞遺伝子の破壊を最小限とすることである。
【0005】
安定細胞株を操作して、たとえば多特異性抗体にあるような複合的な抗体鎖などの複合的な遺伝子の発現に適合させることは特に困難である。統合遺伝子の発現レベルに幅広いバリエーションが発生する可能性がある。追加遺伝子の統合は、局所的な遺伝子環境(すなわち位置効果(position effects))が原因でさらに大きな発現バリエーションと不安定性を生じさせる可能性がある。多特異性抗原結合タンパク質作製のための発現システムは多くの場合、特有の多量体形式としてのペア形成が意図された2個以上の異なるイムノグロブリン鎖の発現が必要であり、そしてしばしば、所望されるヘテロ二量体や多量体の組み合わせよりも、ホモ二量体の産生が優勢となってしまう場合がある。したがって、当技術分野には、哺乳類発現システムの改善に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様において、本開示は、2個の発現強化座位に部位特異的に統合された複数の外因性核酸を含有する細胞を提供するものであり、当該複数の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードしている。当該抗原結合タンパク質は二特異性抗原結合タンパク質、または従来的な一特異性抗原結合タンパク質であってもよい。
【0007】
一部の実施形態では、第一の発現強化座位内に統合された第一の外因性核酸と、第二の発現強化座位内に統合された第二の外因性核酸を含有する細胞が提供され、当該第一および第二の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードしている。
【0008】
一部の実施形態では、第一の外因性核酸は、第一の重鎖断片(HCF:heavy chain fragment)をコードするヌクレオチド配列を含有し、第二の外因性核酸は、第一の軽鎖断片(LCF:light chain fragment)をコードするヌクレオチド配列を含有する。
【0009】
一部の実施形態では、第二の外因性核酸は、第二のHCF(またはHCF*)をコードするヌクレオチド配列をさらに含有する。第一および第二のHCFは同じであってもよく、または二特異性抗原結合タンパク質にあるように異なっていてもよい。各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、定常領域由来のアミノ酸をコードしていてもよい。一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、第二のHCF(HCF*)をコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードする。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインは、たとえば異なるプロテインA結合特性を生じさせる位置など、少なくとも1か所のアミノ酸位置で異なっていてもよい。他の実施形態では、第一および第二のCHドメインをコードするヌクレオチド配列は、そのヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で、互いに異なっている。
【0010】
一部の実施形態では、第一の外因性核酸(第一のHCFコードヌクレオチド配列を含有する)は、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備えている。第二のLCFは、第二の外因性核酸中の第一のLCFと同じであってもよく、または異なっていてもよい。
【0011】
本明細書に提供される細胞の実施形態の多くの場合において、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチドの各々は、独立してプロモーターに動作可能に連結されており、それによりHCFコード配列またはLCFコード配列の各々の転写が、別個に制御される。
【0012】
一部の実施形態では、第一のRRSと第二のRRSはそれぞれ、第一の外因性核酸に対して5’と3’に位置し、第三のRRSと第四のRRSはそれぞれ、第二の外因性核酸に対して5’と3’に位置しており、この場合において第一と第二のRRSは異なっており、そして第三と第四のRRSは異なっている。概して、外因性核酸に隣接するRRSのペアの中のRRSは異なっており、それによって意図されない外因性核酸の組み換えと除去が回避される。一部の実施形態では、第一、第二、第三、および第四のRRSはすべて互いに異なっている。
【0013】
第一の座位中の第一の外因性核酸は、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を含み、第二の座位中の第二の外因性核酸は、第一のLCFをコードする配列と第二のHCFをコードする配列の両方を含み、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に第一の追加RRSが存在していてもよい。追加RRSは、第一、第二、第三および第四の各RRSとは異なっていてもよい。一部の実施形態では、第一の追加RRSは、選択マーカー遺伝子が動作可能に連結されたプロモーターと当該選択マーカー遺伝子の間に含まれるか、または追加RRSは、第一のLCFコード配列とHCFコード配列の間に存在する、もしくは第一のHCFコード配列と第二のHCFコード配列の間に存在する選択マーカー遺伝子の中、または選択マーカー遺伝子のイントロン内に含まれる場合がある。
【0014】
第一の座位中の第一の外因性核酸は、第一のHCFコードヌクレオチド配列と第二のHCFコードヌクレオチド配列を含み、第二の座位の第二の外因性核酸は、第一のLCFコード配列と第二のHCFコード配列の両方を含み、第一のRRSと第二のRRSはそれぞれ、第一の外因性核酸に対して5’と3’に存在してもよく、第三のRRSと第四のRRSはそれぞれ第二の外因性核酸に対して5’と3’に存在してもよく、この場合において第一と第二のRRSは異なっており、第三と第四のRRSは異なっている。一部の実施形態では、第一と第二のHCFは同じであり、第一と第二のLCFは同じであり、その場合において、当該RRSは、第一と第三のRRSが同じであり、第二と第四のRRSが同じであるように操作されてもよい。一部の実施形態では、第一と第二のHCFは異なっており、第一と第二のLCFは同じであり、その場合において、当該RRSは、第一、第二、第三および第四のすべてのRRSが互いに異なるように操作されてもよい。2つのHCFが同じであるか異なっているかに関わらず、追加RRSは、第一のLCFコード配列と第二のHCFコード配列の間に存在してもよく、および/または第二のLCFコード配列と第一のHCFコード配列の間に存在してもよい。追加(中間)RRSは、第一、第二、第三および第四の各RRSとは異なっている。追加RRSは、2つのHCF/LCFコード配列の間に位置する、選択マーカー遺伝子内に含まれてもよく、または選択マーカー遺伝子のイントロン内に含まれてもよい。
【0015】
別の態様では、RRSペアを含有する細胞が提供され、そのRRSペアは2個の発現強化座位内に統合されており、その座位は、抗原結合タンパク質をコードする核酸のRMCEを介した統合に使用され得る。
【0016】
ある実施形態では、RRSペアを含有する細胞が提供され、そのRRSペアは2個の発現強化座位内に統合されており、その座位はリコンビナーゼの存在下でRMCEを介した抗原結合タンパク質をコードする核酸の同時統合に使用され得る。
【0017】
一部の実施形態では、第一の発現強化座位内に統合された、5’から3’に向かって、第一のRRS、第一の外因性核酸および第二のRRSを含有し、ならびに第二の発現強化座位内に統合された、5’から3’に向かって、第三のRRS、第二の外因性核酸および第四のRRSを含有する細胞が提供され、この場合において第一と第二のRRSは異なっており、第三と第四のRRSは異なっている。
【0018】
一部の実施形態では、第一の外因性核酸は、第一の選択マーカーを含み、第二の外因性核酸は、第二の選択マーカーを含み、この場合において第一と第二の選択マーカー遺伝子は異なっている。
【0019】
一部の実施形態では、第一と第二の外因性核酸のうちの1つ、または両方は、追加RRS、すなわち第一の座位中の第一と第二のRRSの間の追加RRS、および/または第三と第四のRRSの間の追加RRSを含んでもよい。追加的な中間RRSは、5’および3’でRRSとは異なっている。追加RRSが5’RRSと3’RRSの間(たとえば第一のRRSと第二のRRSの間)に含まれる場合、1つの選択マーカー遺伝子は、5’RRSと追加(中間)RRSの間に含まれてもよく、別の異なる選択マーカー遺伝子は、追加RRSと3’RRSの間に含まれてもよい。
【0020】
別の実施形態では、細胞は、第三のRRS、すなわち第一の座位中の第一のRRSと第二のRRSの間の追加RRSを含む第一の外因性核酸を提供し、この場合において当該第一のRRSと第二のRRSは、発現カセットの5’末端と3’末端で2つの選択マーカーに隣接する。他の実施形態では、第二の外因性核酸は、同一の第三のRRS、すなわち第二の座位中の第一のRRSと第二のRRSの間の追加RRSを含んでもよく、この場合において当該第一のRRSと第二のRRSは、発現カセットの5’末端と3’末端で2つの選択マーカーに隣接する。4つの選択マーカー遺伝子は、第一、第三、および第二のRRSの間に含まれ、互いに異なっている。
【0021】
別の実施形態では、細胞は、第三のRRS、すなわち第一の座位中の第一のRRSと第二のRRSの間の追加RRSを含む第一の外因性核酸を提供し、この場合において当該第一のRRSと第二のRRSは、発現カセットの5’末端と3’末端で2つの選択マーカーに隣接する。他の実施形態では、第二の外因性核酸は、第六のRRS、すなわち第二の座位中の第四のRRSと第五のRRSの間の追加RRSを含んでもよく、この場合において当該第四のRRSと第五のRRSは、発現カセットの5’末端と3’末端で2つの選択マーカーに隣接する。4つの選択マーカー遺伝子は、RRSの間に含まれ、互いに異なっている。
【0022】
多くの実施形態において、本明細書に提供される細胞は、CHO細胞株の細胞である。
【0023】
様々な実施形態では、使用される2つの発現強化座位は、配列番号1に少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を含有する座位、配列番号2に少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を含有する座位、および配列番号3に少なくとも90%同一なヌクレオチド配列を含有する座位からなる群から選択される。
【0024】
さらなる態様では、細胞において二特異性抗原結合タンパク質を統合及び発現するためのベクターセットが提供される。
【0025】
一部の実施形態では、ベクターセットは、5’から3’に向かって、第一のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第一の核酸、および第二のRRSを含有する第一ベクター;5’から3’に向かって、第三のRRS、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する第二の核酸、および第四のRRSを含有する第二ベクター;ならびに第一ベクター中の第一の核酸内、または第一と第二ベクターとは異なる第三ベクター中のいずれかにある第一のLCFをコードするヌクレオチド配列を含み、この場合において第一、第二、第三、および第四のRRSは異なっており、この場合において、二特異性抗原結合タンパク質は、第一のHCF、第二のHCF、および第一のLCFを含有し、この場合において第一のHCFと第二のHCFは異なっている。
【0026】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一ベクター中の第一の核酸内にある。一部の実施形態では、第一の核酸は第一の選択マーカー遺伝子をさらに含む。
【0027】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第三ベクター中に提供され、および5’RRSと3’RRSに隣接されており、この場合において(i)3’RRSは第一のRRSと同じであり、5’RRSは第一のRRSおよび第二のRRSとは異なっており、または(ii)5’RRSは第二のRRSと同じであり、3’RRSは第一のRRSおよび第二のRRSとは異なっている。一部の実施形態では、ベクターは、第一ベクターと第三ベクターに共有される共通RRSが、分割(split)選択マーカー遺伝子形式(または分割‐イントロン形式)で提供されるように、たとえば第一および第三ベクターのうちの1つの選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、そして他方のベクターの選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置されるように設計されてもよい。
【0028】
一部の実施形態では、ベクターセットは、第二ベクター中の第二の核酸内、または第一、第二、および第三ベクターとは別の第四ベクター中のいずれかで提供される第二のLCFをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。
【0029】
一部の実施形態では、第一のLCFと第二のLCFは同一である。
【0030】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一ベクター中の第一の核酸内に含まれ、第二のVLをコードするヌクレオチド配列は第四ベクター上に提供される。一部の実施形態では、第四ベクター上の第二のLCFをコードするヌクレオチド配列は、5’RRSと3’RRSに隣接され、この場合において(i)3’RRSは、第三のRRSと同一であり、5’RRSは第三のRRSおよび第四のRRSとは異なっているか、または(ii)5’RRSは第四のRRSと同一であり、3’RRSは第三のRRSおよび第四のRRSとは異なっている。ある実施形態では、ベクターは、第二および第四ベクターにより共有される共通RRSが、(たとえばイントロンを介した)分割マーカー形式で、たとえば第二および第四ベクターのうちの1つのベクター上の選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、および他のベクター上の選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置されるように設計される。
【0031】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一ベクター中の第一の核酸内にあり、第二のVLをコードするヌクレオチド配列は、第二ベクター上の第二の核酸内にある。
【0032】
一部の実施形態では、第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、第三ベクター上にあり、第二のVLをコードするヌクレオチド配列は第四ベクター上にある。一部の実施形態では、第三ベクター上の第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、5’RRSおよび3’RRSに隣接され、この場合において(i)第三ベクター上の3’RRSは、第一のRRSと同一であり、第三ベクター上の5’RRSは、第一および第二のRRSとは異なっているか、または(ii)第三ベクター上の5’RRSは、第二のRRSと同一であり、第三ベクター上の3’RRSは、第一および第二のRRSとは異なっており;およびこの場合において第四ベクター上の第二のLCFをコードするヌクレオチド配列は、5’RRSおよび3’RRSに隣接され、この場合において(iii)第四ベクター上の3’RRSは、第三のRRSと同一であり、第四ベクター上の5’RRSは、第三および第四のRRSとは異なっているか、または(iv)第四ベクター上の5’RRSは、第四のRRSと同一であり、第四ベクター上の3’RRSは、第三および第四のRRSとは異なっている。
【0033】
本明細書に提供されるベクターセットの多くの実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードしてもよく、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードしてもよい。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸が異なっている。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列は、そのヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で、異なっている。
【0034】
本明細書に提供されるベクターセットの多くの実施形態において、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチドの各々は、独立してプロモーターに連結されている。
【0035】
一部の実施形態では、ベクターセットは、RRSのうちの1つ以上を認識するリコンビナーゼを1つ以上コードするヌクレオチド配列をさらに含んでもよく、それらはLCFコードベクターもしくはHCFコードベクターの内の1つに含まれてもよく、または別個のベクターで提供されてもよい。
【0036】
さらに他の実施形態では、細胞の第一発現強化座位への統合用の5’相同アームおよび3’相同アームに隣接される、第一の核酸を含有する第一ベクター;および細胞の第二発現強化座位への統合用の5’相同アームおよび3’相同アームに隣接される、第二の核酸を含有する第二ベクター、を含有するベクターセットが提供され;この場合において第一および第二の核酸はともに抗原結合タンパク質をコードする。
【0037】
さらなる態様において、本開示は、1つ以上のベクターと細胞(たとえばCHO細胞)の組み合わせを含み、および2つの発現強化座位内に外因性核酸が統合された細胞の作製に利用可能なシステムを提供するものであり、当該外因性核酸はともに一特異性タンパク質または二特異性タンパク質いずれかの抗原結合タンパク質をコードする。当該システムは、たとえばキットの形態で提供されてもよい。
【0038】
ある実施形態では、細胞とベクターセットを含むシステムが提供され、この場合において当該細胞は、そのゲノムの2つの別個の発現強化座位内に統合されたRRSセットを含有し、当該RRSは互いに異なっており、およびベクターセット中の対象遺伝子との組み換え交換のための1つ以上の外因性核酸、たとえば選択マーカーなどの間に配置されており;ならびにこの場合において当該ベクターセット中のRRSは、細胞中のRRSと同じ配置を備えている。
【0039】
一部の実施形態では、細胞とベクターセットを含むシステムが提供され、この場合において当該細胞は、第一発現強化座位内に統合された、5’から3’に向かって、第一のRRS、第一の外因性核酸および第二のRRSを含有し、ならびに第二発現強化座位内に統合された、5’から3’に向かって、第三のRRS、第二の外因性核酸および第四のRRSを含有し;この場合において当該第一および第二のRRSは異なっており、当該第三および第四のRRSは異なっており;ならびにこの場合において当該第一および第二の発現強化座位は異なっており;この場合において当該ベクターセットは、(i)5’から3’に向かって、第一ベクターの5’RRS、第一核酸および第一ベクターの3’RRSを含有する第一ベクターであって、当該第一ベクターの5’RRSと3’RRSは異なっている;(ii)5’から3’に向かって、第二ベクターの5’RRS、第二核酸および第二ベクターの3’RRSを含有する第二ベクターであって、当該第二ベクターの5’RRSと3’RRSは異なっている;および(iii)第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と、第一LCFをコードするヌクレオチド配列であって、当該2つの重鎖コードヌクレオチド配列のうちの1つが第一核酸であり、他方のヌクレオチド配列が第二核酸である、を含有している;この場合において当該第一のHCFと第一LCFは、抗原結合タンパク質の領域であり;およびベクターが細胞に導入されると、当該ベクター中の当該第一および第二核酸がそれぞれ、RRSに介在される組み換えを介して第一発現強化座位および第二発現強化座位に統合される。
【0040】
一部の実施形態では、抗原結合タンパク質は、一特異性抗原結合タンパク質である。
【0041】
一部の実施形態では、第一および第三のRRSは同一であり、第二および第四のRRSは同一である。ある実施形態では、第一の追加RRSは、第一座位中の第一のRRSおよび第二のRRSの間に存在する。一部の実施形態では、第一ベクターの5’RRSは、第一のRRSおよび第三のRRSと同一である;第一ベクターの3’RRS、第二ベクターの5’RRS、および第一の追加RRSは、同一である;ならびに第二ベクターの3’RRSは、第二のRRSおよび第四のRRSと同一である。一部の実施形態では、LCFコードヌクレオチド配列は、第一ベクター中にあり、HCFコードヌクレオチド配列は、第二ベクター中にある。一部の実施形態では、第一ベクターの3’RRSは、選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、第二ベクターの5’RRSは、選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置される。他の実施形態では、第一ベクターの5’RRSは、第一のRRSと同一であり、第一ベクターの3’RRSは、第二のRRSと同一である;およびこの場合において第二ベクターの5’RRSは、第三のRRSと同一であり、第二ベクターの3’RRSは、第四のRRSと同一である。
【0042】
様々な実施形態では、抗原結合タンパク質は、二特異性抗原結合タンパク質である。
【0043】
一部の実施形態では、システムのベクターセットは、第一のHCFとは異なる第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。
【0044】
一部の実施形態では、第一LCFをコードするヌクレオチド配列と第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は両方とも、第一ベクター中の第一核酸内に含まれ、および第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二ベクター中にある。一部の実施形態では、第一ベクターの5’RRSは、第一のRRSと同一であり、第一ベクターの3’RRSは、第二のRRSと同一であり、第二ベクターの5’RRSは、第三のRRSと同一であり、および第二ベクターの3’RRSは、第四のRRSと同一である。
【0045】
一部の実施形態では、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、別個の第三ベクター上にあり、第三ベクターの5’RRSと第三ベクターの3’RRSに隣接されている。一部の実施形態では、第一LCをコードするヌクレオチド配列は、第一ベクター中にあり、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二ベクター中にあり、第一ベクターの5’RRSは、第一のRRSと同一であり、第一ベクターの3’RRSは、第二ベクターの5’RRS、および第一追加RRSと同一であり、第二ベクターの3’RRSは、第二のRRSと同一であり、第三ベクターの5’RRSは、第三のRRSと同一であり、第三ベクターの3’RRSは、第四のRRSと同一であり、この場合において第一追加RRSは、第一のRRSと第二のRRSの間の第一座位中に含まれる。一部の実施形態では、ベクターは、分割マーカー形式で共通RRSを提供するように設計され、たとえば第一ベクターの3’RRSが、第一ベクター中に含まれる選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、第二ベクターの5’RRSは、第二ベクター中に含まれる残りの選択マーカー遺伝子の5’末端に配置されるように設計される。
【0046】
一部の実施形態では、システムのベクターセットは、第二LCFをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、当該第二LCFは、第一LCFと同一であっても、異なっていてもよい。
【0047】
一部の実施形態では、第二LCFをコードするヌクレオチド配列は、第二ベクターの第二核酸中にあり、この場合において当該第一ベクターの5’RRSは、第一のRRSと同一であり、第一ベクターの3’RRSは、第二のRRSと同一であり、第二ベクターの5’RRSは、第三のRRSと同一であり、および第二ベクターの3’RRSは、第四のRRSと同一である。
【0048】
一部の実施形態では、第二LCFをコードするヌクレオチド配列は、別個の第三ベクター中にあり、第三ベクターの5’RRSと第三ベクターの3’RRSに隣接されている。一部の実施形態では、第一ベクターの5’RRSと3’RRSはそれぞれ、第一座位中の第一のRRSと第二のRRSと同一である;第三ベクターの5’RRSは、第三のRRSと同一であり、第三ベクターの3’RRSは第二ベクターの5’RRS、および第二座位中の第三のRRSと第四のRRSの間に存在する追加RRSと同一であり、第二ベクターの3’RRSは第四のRRSと同一である。一部の実施形態では、共通RRSは、分割マーカー形式で設計され、たとえば第三ベクターの3’RRSは、第三ベクター中に含まれる選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、第二ベクターの5’RRSは、第二ベクター中に含まれる選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置される。
【0049】
本明細書に提供されるシステムの多くの実施形態において、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、定常領域由来のアミノ酸をコードしていてもよい。一部の実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードしてもよく、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードしてもよい。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸が異なっている。一部の実施形態では、第一および第二のCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列は、そのヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で、異なっている。
【0050】
本明細書に提供されるシステムの多くの実施形態において、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチドの各々は、独立してプロモーターに連結されている。
【0051】
一部の実施形態では、システムのベクターセットは、RRSのうちの1つ以上を認識するリコンビナーゼを1つ以上コードするヌクレオチド配列をさらに含んでもよく、それらはLCFコードベクターもしくはHCFコードベクターの内の1つに含まれてもよく、または別個のベクターで提供されてもよい。
【0052】
様々な実施形態では、本明細書に提供されるシステム中の細胞は、CHO細胞である。
【0053】
様々な実施形態では、2つの発現強化座位は、配列番号1のヌクレオチド配列を備える座位、配列番号2のヌクレオチド配列を備える座位、および配列番号3のヌクレオチド配列を備える座位からなる群から選択される。
【0054】
別の態様において、本開示は、二特異性抗原結合タンパク質の作製方法も提供する。1つの実施形態では、当該方法は、本明細書に開示されるシステムを利用し、トランスフェクションによって当該システムのベクターを当該システムの細胞内に導入する。RMCEを介して細胞の2つの発現強化座位内に外因性核酸が適切に統合されたトランスフェクト細胞がスクリーニングされ、特定されてもよい。HCF含有ポリペプチドおよびLCF含有ポリペプチドは、統合核酸から発現されることができ、対象の抗原結合タンパク質は、特定されたトランスフェクト細胞から取得され、公知の方法を使用して精製されることができる。
【0055】
別の実施形態では、当該方法は、本明細書において上述される細胞を単純に利用するものであり、当該細胞は、2つの発現強化座位で統合された外因性核酸を含有し、それら外因性核酸は抗原結合タンパク質をコードし、当該細胞から当該抗原結合タンパク質を発現させる。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
第一の発現強化座位内に統合された第一の外因性核酸と、第二の発現強化座位内に統合された第二の外因性核酸を備えた細胞であって、前記第一および第二の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードする、細胞。
(項目2)
前記第一の外因性核酸が、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備え、前記第二の外因性核酸が、LCFをコードするヌクレオチド配列を備える、項目1に記載の細胞。
(項目3)
前記第二の外因性核酸が、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、項目2に記載の細胞。
(項目4)
前記第一および第二のHCFが異なっている、項目3に記載の細胞。
(項目5)
前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードする、項目3に記載の細胞。
(項目6)
前記第一および第二のCH3ドメインが、少なくとも1つのアミノ酸位置で異なっている、項目5に記載の細胞。
(項目7)
前記第一および第二のCHドメインをコードするヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で互いに異なっている、項目5に記載の細胞。
(項目8)
前記第一の外因性核酸が、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、項目3に記載の細胞。
(項目9)
前記第一および第二のLCFが同一である、項目8に記載の細胞。
(項目10)
HCFまたはLCFをコードする前記ヌクレオチド配列の各々が、プロモーターに動作可能に連結されている、項目2、3、8のいずれかに記載の細胞。
(項目11)
第一のRRSと第二のRRSはそれぞれ、前記第一の外因性核酸に対して5’と3’に位置し、第三のRRSと第四のRRSはそれぞれ、前記第二の外因性核酸に対して5’と3’に位置しており、前記第一と第二のRRSは異なっており、前記第三と第四のRRSは異なっている、項目2に記載の細胞。
(項目12)
前記第一、第二、第三、および第四のRRSが、互いに異なっている、項目11に記載の細胞。
(項目13)
第一の追加RRSが、前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に存在し、前記追加RRSが、前記第一、第二、第三、および第四のRRSの各々と異なっている、項目3に記載の細胞。
(項目14)
前記第一の追加RRSが、前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第二のHCFをコードする隣接ヌクレオチド配列の間に存在する選択マーカー遺伝子のイントロン内に含有される、項目13に記載の細胞。
(項目15)
第一のRRSと第二のRRSはそれぞれ、前記第一の外因性核酸に対して5’と3’に位置し、第三のRRSと第四のRRSはそれぞれ、前記第二の外因性核酸に対して5’と3’に位置しており、前記第一と第二のRRSは異なっており、前記第三と第四のRRSは異なっている、項目8に記載の細胞。
(項目16)
前記第一と第二のHCFは同一であり、前記第一と第二のLCFは同一であり、前記第一と第三のRRSが同一であり、前記第二と第四のRRSが同一である、項目15に記載の細胞。
(項目17)
前記第一と第二のHCFは異なっており、前記第一と第二のLCFは同一であり、前記第一、第二、第三および第四のRRSが互いに異なる、項目15に記載の細胞。
(項目18)
第一の追加RRSが、前記第二の外因性核酸中の前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に存在し、前記第一の追加RRSは、前記第一、第二、第三、および第四のRRSと異なっている、項目16または17に記載の細胞。
(項目19)
前記第一の追加RRSが、前記第二の外因性核酸中の前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に存在する第一の選択マーカー遺伝子のイントロン内に含有される、項目18に記載の細胞。
(項目20)
第二の追加RRSが、前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に存在し、この場合において前記第一および第二のRRSが、同一または異なっており、各々、前記第一、第二、第三および第四のRRSと異なっている、項目18に記載の細胞。
(項目21)
前記第一の追加RRSが、前記第二の外因性核酸中の前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に存在する第一の選択マーカー遺伝子のイントロン内に含有され、前記第二の追加RRSが、前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列の間に存在する第二の選択マーカー遺伝子のイントロン内に含有され、前記第一および第二の選択マーカー遺伝子が異なっている、項目20に記載の細胞。
(項目22)
前記抗原結合タンパク質が、一特異性である、項目2に記載の細胞。
(項目23)
前記抗原結合タンパク質が、二特異性である、項目4に記載の細胞。
(項目24)
第一の発現強化座位内に統合される、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一の外因性核酸、および第二のRRS、
第二の発現強化座位内に統合される、5’から3’の方向に、第三のRRS、第二の外因性核酸、および第四のRRS、を備える細胞であって、
前記第一および第二のRRSが異なっており、前記第三および第四のRRSが異なっている、細胞。
(項目25)
前記第一の外因性核酸が、第一の選択マーカー遺伝子を備え、前記第二の外因性核酸が、第二の選択マーカー遺伝子を備え、前記第一と第二の選択マーカー遺伝子が異なっている、項目24に記載の細胞。
(項目26)
前記第一の外因性核酸が、第一の追加RRSをさらに備え、前記第一の追加RRSが、第一および第二のRRSとは異なっている、項目25に記載の細胞。
(項目27)
前記第二の外因性核酸が、第二の追加RRSをさらに備え、前記第二の追加RRSが、前記第三および第四のRRSとは異なっている、項目26に記載の細胞。
(項目28)
前記第一の外因性核酸が、第一の選択マーカー遺伝子、第一の追加RRS、および第一の追加選択マーカー遺伝子を備え、前記第一の選択マーカー遺伝子および第一の追加選択マーカー遺伝子が異なっており、前記第一の追加RRSが、前記第一のRRSおよび第二のRRSとは異なっている、項目24に記載の細胞。
(項目29)
前記第二の外因性核酸が、第二の選択マーカー遺伝子、第二の追加RRS、および第二の追加選択マーカー遺伝子を備え、前記第二の選択マーカー遺伝子および第二の追加選択マーカー遺伝子が互いに異なっており、ならびに前記第一の選択マーカー遺伝子および第一の追加選択マーカー遺伝子とも異なっており、前記第二の追加RRSが、前記第三および第四のRRSとは異なっている、項目27に記載の細胞。
(項目30)
前記細胞が、CHO細胞である、項目1~29のいずれかに記載の細胞。
(項目31)
2つの発現強化座位のうちの1つは、配列番号1に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列、配列番号2に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列、および配列番号3に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列からなる群から選択される、項目30に記載の細胞。
(項目32)
細胞において二特異性抗原結合タンパク質を発現するベクターセットであって、
5’から3’の方向に、第一のRRS、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列を備えた第一の核酸、および第二のRRSを備えた第一ベクター、
5’から3’の方向に、第三のRRS、第二のHCをコードするヌクレオチド配列を備えた第二の核酸、および第四のRRSを備えた第二ベクター、
および前記第一ベクター中の前記第一の核酸内、または前記第一および第二ベクターとは異なる第三ベクター中のいずれかにある、第一のLCをコードするヌクレオチド配列を備え、
この場合において前記第一、第二、第三、および第四のRRSが異なっており、
ならびに前記二特異性抗原結合タンパク質が、前記第一のHCF、前記第二のHCF、および前記第一のLCFを備え、ならびに前記第一および第二のHCFが異なっている、ベクターセット。
(項目33)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列が、前記第一ベクター中の前記第一の核酸内にある、項目32に記載のベクターセット。
(項目34)
前記第一の核酸が、第一の選択マーカー遺伝子をさらに備える、項目34に記載のベクターセット。
(項目35)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第三ベクター中にあり、および5’RRSと3’RRSに隣接され、この場合において(i)前記3’RRSは前記第一のRRSと同じであり、前記5’RRSは前記第一のRRSおよび第二のRRSとは異なっているか、または(ii)前記5’RRSは前記第二のRRSと同じであり、前記3’RRSは前記第一のRRSおよび第二のRRSとは異なっている、項目32に記載のベクターセット。
(項目36)
前記第一および第三ベクターの間の共通RRSは、前記第一および第三ベクターの内の1つの選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、そして前記他方のベクターの選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置される、項目35に記載のベクターセット。
(項目37)
第二ベクター中の前記第二の核酸内、または前記第一、第二、および第三ベクターとは別の第四ベクター中のいずれかである、第二のLCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、項目32に記載のベクターセット。
(項目38)
前記第一および第二のLCFが同一である、項目37に記載のベクターセット。
(項目39)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列が、前記第一ベクター中の前記第一の核酸内であり、前記第二のVLをコードするヌクレオチド配列が、前記第四ベクター上にある、項目38に記載のベクターセット。
(項目40)
前記第四ベクター上の前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列は、5’RRSと3’RRSに隣接され、この場合において(i)前記3’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、前記5’RRSは、前記第三のRRSおよび第四のRRSとは異なっているか、または(ii)前記5’RRSは前記第四のRRSと同一であり、前記3’RRSは、前記第三のRRSおよび第四のRRSとは異なっている、項目39に記載のベクターセット。
(項目41)
前記第二および第四ベクターの間の前記共通RRSは、前記第二および第四ベクターの内の1つの選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、そして前記他方のベクターの選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置される、項目40に記載のベクターセット。
(項目42)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列が、前記第一ベクター中の前記第一の核酸内であり、前記第二のVLをコードするヌクレオチド配列が、前記第二ベクター上の前記第二の核酸内である、項目38に記載のベクターセット。
(項目43)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列が、前記第三ベクター上にあり、前記第二のVLをコードするヌクレオチド配列が、前記第四ベクター上にある、項目38に記載のベクターセット。
(項目44)
前記第三ベクター上の第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、5’RRSおよび3’RRSに隣接され、この場合において(i)前記第三ベクター上の前記3’RRSは、前記第一のRRSと同一であり、前記第三ベクター上の前記5’RRSは、前記第一および第二のRRSとは異なっているか、または(ii)前記第三ベクター上の前記5’RRSは、前記第二のRRSと同一であり、前記第三ベクター上の前記3’RRSは、前記第一および第二のRRSとは異なっており、およびこの場合において前記第四ベクター上の前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列は、5’RRSおよび3’RRSに隣接され、この場合において(i)前記第四ベクター上の前記3’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、前記第四ベクター上の前記5’RRSは、前記第三および第四のRRSとは異なっているか、または(ii)前記第四ベクター上の前記5’RRSは、前記第四のRRSと同一であり、前記第四ベクター上の前記3’RRSは、前記第三および前記第四のRRSとは異なっている、項目43に記載のベクターセット。
(項目45)
前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第二のCH3ドメインをコードする、項目32に記載のベクターセット。
(項目46)
前記第一および第二のCH3ドメインが、少なくとも1つのアミノ酸で異なっている、項目45に記載のベクターセット。
(項目47)
前記第一および第二のCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で異なっている、項目45に記載のベクターセット。
(項目48)
可変領域をコードするヌクレオチド配列の各々が、独立してプロモーターに連結されている、項目32に記載のベクターセット。
(項目49)
前記第一および第二のRRS、ならびに/または前記第三および第四のRRSを認識するリコンビナーゼをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、項目32に記載のベクターセット。
(項目50)
細胞の第一の発現強化座位内への統合のための5’相同アームと3’相同アームに隣接される、第一の核酸を備える第一ベクター、および
前記細胞の第二の発現強化座位内への統合のための5’相同アームと3’相同アームに隣接される、第二の核酸を備える第二ベクター、を備えるベクターセットであって、
前記第一および第二の核酸がともに抗原結合タンパク質をコードする、ベクターセット。
(項目51)
細胞およびベクターセットを備えるシステムであって、
前記細胞が、
第一の発現強化座位内に統合される、5’から3’の方向に、第一のRRS、第一の外因性核酸、および第二のRRS、
第二の発現強化座位内に統合される、5’から3’の方向に、第三のRRS、第二の外因性核酸、および第四のRRS、を備え、
この場合において前記第一および第二のRRSが異なっており、前記第三および第四のRRSが異なっており、ならびにこの場合において前記第一および第二の発現強化座位が異なっており、
前記ベクターセットが、
5’から3’の方向に、第一ベクターの5’RRS、第一の核酸、および第一ベクターの3’RRSを備えた第一ベクターであって、前記第一ベクターの5’RRSと3’RRSは異なっている、第一ベクター、
5’から3’の方向に、第二ベクターの5’RRS、第二の核酸、および第二ベクターの3’RRSを備えた第二ベクターであって、前記第二ベクターの5’RRSと3’RRSは異なっている、第二ベクター、
第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と第一のLCFをコードするヌクレオチド配列であって、前記ヌクレオチド配列の内の1つは、前記第一の核酸中にあり、他方のヌクレオチド配列は前記第二の核酸中にあり、この場合において前記第一のHCFと前記第一のLCFは、抗原結合タンパク質の領域である、ヌクレオチド配列、を備え、
この場合において前記ベクターが前記細胞内に導入されると、前記ベクター中の前記第一および第二の核酸がそれぞれ、前記RRSにより介在される組み換えを介して前記第一の発現強化座位内と前記第二の発現強化座位内に統合する、システム。
(項目52)
前記抗原結合タンパク質が、一特異性抗原結合タンパク質である、項目51に記載のシステム。
(項目53)
前記第一および第三のRRSは同一であり、前記第二および第四のRRSは同一である、項目52に記載のシステム。
(項目54)
第一の追加RRSは、前記第一座位中の前記第一のRRSおよび第二のRRSの間に存在する、項目53に記載のシステム。
(項目55)
前記第一ベクターの5’RRSは、前記第一のRRSおよび第三のRRSと同一であり、前記第一ベクターの3’RRS、前記第二ベクターの5’RRS、および前記第一の追加RRSは同一であり、ならびに前記第二ベクターの3’RRSは、前記第二および第四のRRSと同一である、項目54に記載のシステム。
(項目56)
前記VLをコードするヌクレオチド配列は、前記第一ベクター中にあり、前記HCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第二ベクター中にある、項目55に記載のシステム。
(項目57)
前記第一ベクターの3’RRSは、選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、前記第二ベクターの5’RRSは、前記選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端に配置される、項目55に記載のシステム。
(項目58)
前記第一ベクターの5’RRSは、前記第一のRRSと同一であり、前記第一ベクターの3’RRSは、前記第二のRRSと同一であり、およびこの場合において前記第二ベクターの5’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、前記第二ベクターの3’RRSは、前記第四のRRSと同一である、項目52に記載のシステム。
(項目59)
前記抗原結合タンパク質が、二特異性抗原結合タンパク質である、項目52に記載のシステム。
(項目60)
前記第一のHCFとは異なる第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、項目59に記載のシステム。
(項目61)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は両方とも、前記第一ベクター中の前記第一核酸内に含まれ、および前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第二ベクター中にある、項目60に記載のシステム。
(項目62)
前記第一ベクターの5’RRSは、前記第一のRRSと同一であり、前記第一ベクターの3’RRSは、前記第二のRRSと同一であり、およびこの場合において前記第二ベクターの5’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、前記第二ベクターの3’RRSは、前記第四のRRSと同一である、項目61に記載のシステム。
(項目63)
前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、別個の第三ベクター上にあり、第三ベクターの5’RRSと第三ベクターの3’RRSに隣接されている、項目60に記載のシステム。
(項目64)
前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第一ベクター中にあり、前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第二ベクター中にあり、前記第一ベクターの5’RRSは、前記第一のRRSと同一であり、前記第一ベクターの3’RRSは、前記第二ベクターの5’RRS、および第一の追加RRSと同一であり、前記第二ベクターの3’RRSは、前記第二のRRSと同一であり、前記第三ベクターの5’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、前記第三ベクターの3’RRSは、前記第四のRRSと同一であり、この場合において前記第一の追加RRSは、前記第一と第二のRRSの間の前記第一の座位中に含まれる、項目63に記載のシステム。
(項目65)
前記第一ベクターの3’RRSは、前記第一ベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、前記第二ベクターの5’RRSは、前記第二ベクターに含まれる前記残りの選択マーカー遺伝子の5’末端に配置される、項目64に記載のシステム。
(項目66)
第二のLCFをコードするヌクレオチド配列をさらに備える、項目61に記載のシステム。
(項目67)
前記第一および第二のLCFが同一である、項目66に記載のシステム。
(項目68)
前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列は、前記第二ベクターの前記第二の核酸中にあり、この場合において前記第一ベクターの5’RRSは、前記第一のRRSと同一であり、前記第一ベクターの3’RRSは、前記第二のRRSと同一であり、前記第二ベクターの5’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、および前記第二ベクターの3’RRSは、前記第四のRRSと同一である、項目67に記載のシステム。
(項目69)
前記第二のLCFをコードするヌクレオチド配列は、別個の第三ベクター中にあり、第三ベクターの5’RRSと第三ベクターの3’RRSに隣接されている、項目67に記載のシステム。
(項目70)
前記第一ベクターの5’RRSと3’RRSはそれぞれ、前記第一の座位中の前記第一のRRSと第二のRRSと同一であり、前記第三ベクターの5’RRSは、前記第三のRRSと同一であり、前記第三ベクターの3’RRSは、前記第二ベクターの5’RRS、および前記第二の座位中の前記第三のRRSと第四のRRSの間に存在する追加RRSと同一であり、前記第二ベクターの3’RRSは、前記第四のRRSと同一である、項目69に記載のシステム。
(項目71)
前記第三ベクターの3’RRSは、前記第三ベクター中に含まれる選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に配置され、前記第二ベクターの5’RRSは、前記第二ベクター中に含まれる選択マーカー遺伝子の前記残りの3’部分の5’末端に配置される、項目70に記載のシステム。
(項目72)
前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードし、前記第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードする、項目60に記載のシステム。
(項目73)
前記第一および第二のCH3ドメインが、少なくとも1つのアミノ酸で異なっている、項目72に記載のシステム。
(項目74)
前記第一および第二のCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列が、前記ヌクレオチド配列のうちの1つがコドン改変されているという点で異なっている、項目72に記載のシステム。
(項目75)
前記第一のHCFをコードするヌクレオチド配列と、前記第一のLCFをコードするヌクレオチド配列が各々プロモーターに動作可能に連結されている、項目51に記載のシステム。
(項目76)
前記細胞が、CHO細胞である、項目51に記載のシステム。
(項目77)
前記2つの発現強化座位が、配列番号1のヌクレオチド配列を備える座位と、配列番号2のヌクレオチド配列を備える座位を含む、項目76に記載のシステム。
(項目78)
(i)項目51~77のいずれか1項に記載のシステムを提供すること、
(ii)前記細胞内に、前記ベクターを、トランスフェクションにより導入すること、および、
(iii)前記ベクター中の前記核酸が、前記RRSにより介在される組み換えを介して前記第一および第二の発現強化座位内に統合されている、トランスフェクト細胞を選択すること、を含む方法。
(項目79)
(iv)前記選択されたトランスフェクト細胞から前記抗原結合タンパク質を発現および取得すること、をさらに含む、項目78に記載の方法。
(項目80)
抗原結合タンパク質を作製する方法であって、項目1~23のいずれか1項に記載の細胞を提供すること、ならびに前記細胞から前記抗原結合タンパク質を発現および取得すること、を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1 従来的な一特異性抗体に対し、複数の発現強化座位内への統合と1つの発現強化座位内への統合を比較した、抗体クローニング戦略の例である。2個のベクターを宿主細胞にトランスフェクトした。第一ベクターはたとえば軽鎖など抗体鎖1(AbC1)をコードする核酸、第二ベクターはたとえば重鎖など抗体鎖2(AbC2)をコードする核酸、および宿主細胞の標的座位内に統合されたマーカーとは異なる選択マーカーを担持している。5’から3’へ:ベクター構築物のRRS1、中間RRS3、およびRRS2の部位は、宿主細胞の座位内の選択マーカーに隣接するRRS部位と合致する。宿主細胞にトランスフェクトされる追加のベクターは、リコンビナーゼをコードする。第二ベクターの選択マーカーが抗生物質耐性遺伝子である場合、その2つのベクターは、連結し、マーカーを発現できるよう操作されているため、抗生物質中で増殖する陽性リコンビナントクローンが選択される。あるいは蛍光マーカーによって、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)解析を用いた陽性クローンの選択が可能となる。たとえばEESYR(登録商標)座位(座位1)などの単一座位での部位特異的統合用に、同じベクターを利用してもよい。
【0057】
【
図2】
図2 2つの発現強化座位内と、1つの発現強化座位内での統合を行うための2つのベクタークローニング戦略を使用したところ、
図1に示されるように、座位内に抗体Aと抗体Bがクローニングされた。抗体を発現する細胞を単離し、12日間の流加培養に供した。その後採取し、プロテインAセンサーを使用したOctet力価アッセイが行われた。また細胞は同質遺伝子的であり、安定であることも観察された。2部位統合法の利用から、0.5~0.9倍の全体的な力価の増加が観察された。
【0058】
【
図3】
図3 3つの抗体鎖にコードされる二特異性抗体に対する、2つの別個の発現強化部位内への統合と、1つの発現強化座位内への統合を比較した、抗体クローニング戦略の例。3つのベクターをこの二特異性戦略に利用した。第一ベクターは、EESYR(登録商標)(配列番号1;座位1)への統合のための、RRS1とRRS3に隣接した、たとえば共通軽鎖などの抗体鎖1(AbC1)をコードする核酸を担持する。第二ベクターは、配列番号2の座位への統合のための、RRS4とRRS6に隣接した、上流選択マーカーを有する、たとえば重鎖などの抗体鎖2(AbC2)を担持する。そしてさらに第三ベクターは、第二ベクター中の選択マーカーとは異なる選択マーカーに連結され、およびベクターカセット中で、RRS4により5’が、RRS5により3’が隣接した(5’および3’RRSは、配列番号2を備えた座位で宿主細胞中のRRS部位に合致した)、たとえば第二(異なる)重鎖など抗体鎖3(AbC3)に連結された第二のコピーAbC1をコードする核酸を担持する。たとえばEESYR(登録商標)座位(配列番号1を備えている;座位1)などの単一座位での部位特異的統合用に、示されている2つのベクターシステムを利用してもよい。各産生細胞株の力価が解析された。
図5を参照のこと。
【0059】
【
図4】
図4 3つまたは4つの抗体鎖にコードされる二特異性抗体に対し、2つの別個の発現強化部位内への統合と、1つの発現強化座位内への統合を比較した、抗体クローニング戦略の例。4つのベクターをこの二特異性戦略に利用する。第一ベクターは、EESYR(登録商標)(配列番号1;座位1)への統合のための、RRS1とRRS3に隣接した、たとえば第一軽鎖などの抗体鎖1(AbC1)をコードする核酸を担持する。第二ベクターは、RRS3により5’が、RRS2により3’が隣接した、上流選択マーカーを有する、たとえば重鎖などの抗体鎖2(AbC2)を担持し、これもまたEESYR(登録商標)座位(配列番号1を備える;座位1)へ統合される。そして第三ベクターは、第二ベクター中の選択マーカーとは異なる選択マーカーをコードし、ベクターカセット中で、RRS6により5’が、RRS5により3’が隣接した(5’および3’RRSは、配列番号2を備えた座位;座位2で、宿主細胞中のRRS部位に合致した)、たとえば第二(異なる)重鎖など抗体鎖3(AbC3)に連結された核酸を担持する。そしてさらに第四ベクターは、たとえば抗体鎖1(AbC1)(ただし、第一の軽鎖と同じであっても、異なっていてもよい)などの第二の軽鎖をコードする核酸を担持する。たとえばEESYR(登録商標)座位(配列番号1を備えている;座位1)と、配列番号2または配列番号3を備えた座位などの2つの座位での部位特異的統合用に、示されている4つのベクターシステムを利用してもよい。1つの座位(EESYR(登録商標)座位;座位1)で、この4ベクターシステムを、2ベクターシステム統合と比較する。
【0060】
【
図5】
図5 2つの発現強化座位内への統合と、1つの発現強化座位内への統合を比較するために、2ベクタークローニング戦略を使用したところ、二特異性抗体Cと二特異性抗体Dがクローニングされた。細胞を単離し、12日間の流加培養に供し、その後、採取して、固定抗Fcと第二抗Fc*(改変Fc検出抗体。US2014-0134719A1を参照のこと。2014年5月15日公開)を使用してOctet力価アッセイを行った。また細胞は同質遺伝子的であり、安定であることも観察された。総合的な二特異性力価(ヘテロ二量体形成)は、1統合部位での二特異性抗体(ヘテロ二量体)の発現と比較して、2部位統合法を利用した場合には1.75~2倍に増加したことが観察された。
【0061】
【
図6】
図6Aおよび
図6B 二特異性抗体E(Ab E)、二特異性抗体F(Ab F)、二特異性抗体G(Ab G)、および二特異性抗体H(Ab H)が、RSXまたはRSX
2BPにおいてクローニングされた。各二特異性抗体発現細胞は、1発現強化座位(RSX)または2発現強化座位(RSX
2BP)のいずれかにおいて、(共通)軽鎖ヌクレオチド、重鎖ヌクレオチド(野生型Fc)および改変重鎖ヌクレオチド(Fc*)を備えている。細胞を単離し、バイオリアクター中で13日間の流加培養に供し、その後採取して、HPLC溶出法を行い、全体的な抗体価と二特異性抗体価を決定した(
図6A)。総抗体価当たりの、二特異性抗体種の力価の比率(ホモ二量体種から精製分離)は、総Abの割合として決定された(
図6B)。
【0062】
【
図7】
図7 一特異性抗体のJおよびK(それぞれAb JおよびAb K)は、RSXまたはRSX
2において発現された。細胞を単離し、バイオリアクター中で13日間の流加培養に供し、その後採取して、HPLC溶出法を行い、全体的なIgG力価を決定した。
【発明を実施するための形態】
【0063】
用語の定義
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互結合した2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖から構成されるイムノグロブリン分子を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を備える場合がある。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインとヒンジを備える。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本発明においてLCVRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)を含む。VH領域およびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができ、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存的な領域に割り込まれている。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRによって構成され、アミノ末端からカルボキシ末端まで、以下の順序で配列される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3として省略されてもよく、軽鎖CDRは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3として省略されてもよい)。
【0064】
「抗原結合タンパク質」という文言は、少なくとも1つのCDRを有するタンパク質を含み、抗原を選択的に認識することができる。すなわち、少なくともマイクロモル単位のKDで抗原に結合することができる。治療用抗原結合タンパク質(たとえば治療用抗体)はしばしば、ナノモルまたはピコモル単位のKDを必要とする。典型的には、抗原結合タンパク質は2個以上のCDR、たとえば2個、3個、4個、5個、または6個のCDRを含む。抗原結合タンパク質の例としては、抗体、たとえば抗体の重鎖と軽鎖の可変領域を含有するポリペプチドなどの抗体の抗原結合断片(たとえば、Fab断片(F(ab’)2断片)、抗体の重鎖と軽鎖の可変領域と、重鎖および/または軽鎖の定常領域由来の追加アミノ酸(たとえば1個以上の定常ドメイン、すなわち、CL、CH1、ヒンジ、CH2、およびCH3ドメインのうちの1つ以上)を含有するタンパク質が挙げられる。
【0065】
「二特異性抗原結合タンパク質」という文言は、2個の異なる分子(たとえば抗原)上、または同じ分子上(たとえば同じ抗原上)のいずれかの2個以上のエピトープに対して、選択的に結合することができる、または異なる特異性を有する抗原結合タンパク質を含む。かかるタンパク質の抗原結合部分、または抗原結合断片部分(Fab)は、特定の抗原に対する特異性をもたらし、典型的にはイムノグロブリンの重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成される。一部の環境下では、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、同系ペアではない場合があり、言い換えれば異なる結合特異性を有する場合がある。
【0066】
二特異性抗原結合タンパク質の例は、「二特異性抗体」であり、これには2個以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体が含まれる。二特異性抗体は、多くの場合、2個の異なる重鎖を備え、各重鎖は2個の異なる分子(例えば抗原)上、または同じ分子上(例えば同じ抗原上)のいずれかの異なるエピトープに特異的に結合する。二特異性抗原結合タンパク質が、2つの異なるエピトープ(第一のエピトープと第二のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第一のエピトープに対する第一重鎖の可変領域のアフィニティは概して、第二のエピトープに対する第一重鎖の可変領域のアフィニティよりも少なくとも1~2桁、または3桁もしくは4桁低く、その逆もまた然りである。二特異性抗原結合タンパク質、たとえば二特異性抗体は、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変領域を含んでもよい。典型的な二特異性抗体は、2つの重鎖を有しており、その重鎖は各々、3つの重鎖CDRを有し、それに続けて(N末端からC末端方向に)CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを有している。また典型的な二特異性抗体は、イムノグロブリン軽鎖を有しており、そのイムノグロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合可能であるか、または各重鎖と会合可能でありかつ重鎖抗原結合領域に結合するエピトープの1つ以上を結合させることができるか、または各重鎖と会合可能でありかつ重鎖の一方もしくは両方をエピトープの一方もしくは両方に結合させることができる。1つの実施形態では、Fcドメインは少なくともCH2とCH3を含む。Fcドメインは、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含んでもよい。
【0067】
ある具現化された二特異性形式は、第一重鎖(HC)、改変CH3(HC*)を有する第二重鎖、および共通軽鎖(LC)(2コピーの同一軽鎖)を含む。別の実施形態では、第一重鎖(HC)、共通LC、およびHC-ScFv融合ポリペプチドを含む(この場合、第二HCは、ScFvのN末端に融合されている)。別の実施形態では、第一重鎖(HC)、同系LC、HC-ScFv融合ポリペプチドを含む(この場合、第二HCは、ScFvのN末端に融合されている)。別の実施形態では、第一重鎖(HC)、LCおよびFcドメインを含む。別の実施形態では、第一HC、LC、ScFv-Fc融合ポリペプチドを含む(この場合、Fcは、ScFvのC末端に融合されている)。別の実施形態では、第一HC、共通LC、およびFc-ScFv融合ポリペプチドを含む(この場合、Fcは、ScFvのN末端に融合されている)。別の実施形態では、第一HC、LC、およびScFv-HCを含む(この場合、第二HCは、ScFvのC末端に融合されている)。
【0068】
ある実施形態では、1つの重鎖(HC)は、天然型または「野生型」の配列であってもよく、第二重鎖は、Fcドメインが改変されていてもよい。他の実施形態では、1つの重鎖(HC)は、天然型または「野生型」の配列であってもよく、第二重鎖は、コドン改変されていてもよい。
【0069】
「細胞」という用語は、組み換え型核酸配列の発現に適しており、外因性核酸の安定した統合および強化された発現を可能とする座位を有する任意の細胞を含む。細胞としては、たとえば非ヒト動物細胞、ヒト細胞、または細胞融合、例えば、ハイブリドーマまたはクアドローマなどの哺乳類細胞が挙げられる。一部の実施形態では、細胞はヒト、サル、類人猿、ハムスター、ラット、またはマウス細胞である。一部の実施形態では、細胞は、以下の細胞から選択される哺乳類細胞である:CHO(例えば、CHO K1、DXB-11 CHO、Veggie-CHO)、COS(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR 293、MDCK、HaK、BHK)、HeLa、HepG2、WI38、MRC 5、Colo205、HB 8065、HL-60、(例えば、BHK21)、Jurkat、Daudi、A431(表皮)、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT 060562、セルトリ細胞、BRL 3A細胞、HT1080細胞、骨髄腫細胞、腫瘍細胞、および前述細胞から派生する細胞株。一部の実施形態では、細胞は、一つ以上のウイルス遺伝子、例えば、ウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6TM細胞)を備えている。
【0070】
「細胞密度」とは、サンプル体積当たりの細胞数を指し、たとえば1mL当たりの細胞総数(生細胞および死細胞)である。細胞数は、手作業で、またはたとえばフローサイトメーターを用いて自動で計数されてもよい。自動細胞カウンターは、トリパンブルー取り込み標準法などを使用して、生細胞または死細胞または生/死細胞の両方を計数するよう適合されている。「生細胞密度」または「生細胞濃度」という文言は、サンプル体積当たりの生細胞数を指す(「生細胞数」とも呼称される)。多くの公知の手を用いた技術または自動化された技術を使用して細胞密度を決定してもよい。培養物のオンラインバイオマス測定が計測されてもよく、キャパシタンスまたは光学的密度が体積当たりの細胞数と相関している。たとえば製造培養などの細胞培養中の最終細胞密度は、開始細胞株に応じて、たとえば約1.0~10x106細胞/mLの範囲で変化する。一部の実施形態では、最終細胞密度は、製造細胞培養から対象タンパク質を採取する前に1.0~10x106細胞/mLに達する。他の実施形態では、最終細胞密度は、5.0x106細胞/mL超、6x106細胞/mL超、7x106細胞/mL超、8x106細胞/mL超、9x106細胞/mL超、または10x106細胞/mL超に達する。
【0071】
「コドン改変された」という用語は、タンパク質コードヌクレオチド配列が、1つ以上のヌクレオチド、すなわち1つ以上のコドンで、そのコドンにコードされるアミノ酸を変化させることなく改変され、当該ヌクレオチド配列のコドン改変型を生じさせることを意味する。ヌクレオチド配列のコドン改変は、核酸系アッセイ(たとえばとくにハイブリダイゼーション系アッセイ、PCRなど)において、そのコドン改変型からヌクレオチド配列を識別する簡便な基盤を提供することができる。一部の例では、当分野に公知のコドン最適化技術を使用することにより、コードされたタンパク質の宿主細胞中の発現が改善または最適化されるようにヌクレオチド配列のコドンが改変される(Gustafsson,C.,et al.,2004,Trends in Biotechnology,22:346-353;Chung,B.K.-S.,et al.,2013,Journal of Biotechnology,167:326-333;Gustafsson,C.,et al.,2012,Protein Expr Purif,83(1):37-46)。かかる技術を使用した配列設計ソフトウェアツールも当分野に公知であり、限定されないが、とくにCodon optimizer(Fuglsang A.2003,Protein Expr Purif,31:247-249)、Gene Designer(Villalobos A,et al.,2006,BMC Bioinforma,7:285)、およびOPTIMIZER(Puigbo P,et al.2007,Nucleic Acids Research,35:W126-W131)が挙げられる。
【0072】
「相補性決定領域」という文言または「CDR」という用語には、生物体のイムノグロブリン遺伝子の核酸配列にコードされるアミノ酸配列が含まれ、該アミノ酸配列は通常(すなわち、野生型動物では)、イムノグロブリン分子(例えば、抗体またはT細胞受容体)の軽鎖または重鎖の可変領域中の2つのフレームワーク領域の間に存在する。CDRは、例えば生殖細胞系の配列または再構成配列もしくは非再構成配列によってコードされ、例えば、ナイーヴB細胞もしくは成熟B細胞またはT細胞によってコードされ得る。一部の環境下(例えば、CDR3に関して)では、CDRは2つ以上の配列(例えば、生殖細胞系配列)によりコードすることができ、その2つ以上の配列は(例えば、非再構成核酸配列においては)連続していないが、配列のスプライシングまたは連結(例えば、重鎖CDR3を形成するためのV-D-J再構成)の結果として、B細胞核酸配列では連続している。
【0073】
「発現強化座位」という用語は、細胞ゲノム中の座位を指し、当該座位は、配列を含有し、当該配列中に、または当該配列の近くに適切な遺伝子または構築物が外生的に加えられた(すなわち統合された)場合に、または当該配列に「動作可能に連結された」場合に、ゲノム中の他の領域または配列と比較して高い発現レベルを示す。
【0074】
発現強化を記載するために使用される場合、「強化された」という用語は、ゲノム中に外因性配列が無作為に統合されたことにより、または別の座位に統合されたことにより通常観察される発現よりも、たとえば同じ発現構築物の単一コピーのさまざまな無作為統合物と比較して、少なくとも約1.5倍~少なくとも約3倍の発現強化を含む。本発明配列を使用して観察された倍数発現強化は、同じ遺伝子の発現レベルとの比較であり、本発明配列が非存在下で、実質的に同じ条件下で測定され、たとえば同種ゲノム内に別の座位で統合された場合と比較している。強化組み換え効率は、座位の組み換え能力(例えば、リコンビナーゼ認識部位(RRS)の利用)の強化を含む。強化とは、無作為組み換えを越える組み換え効率を指し、たとえばリコンビナーゼ認識部位または同種物を利用しない場合は通常、0.1%である。好ましい強化組み換え効率は、無作為の約10倍であり、または約1%である。特定されない限り、特許請求される発明は特定の組み換え効率に限定されない。発現強化座位は多くの場合、宿主細胞による対象タンパク質の高い生産性を支持する。ゆえに強化発現には、単純に培養中の細胞のコピー数が多いことによって高い力価を得ることよりも、細胞当たりの対象タンパク質の産生が高いことを含む(タンパク質1グラム当たりの力価が高い)。特異的生産性Qp(pg/細胞/日、すなわちpcd)は、持続可能な生産性の測定とみなされる。5pcdよりも高い、10pcdよりも高い、または15pcdよりも高い、または20pcdよりも高い、または25pcdよりも高い、またはさらに30pcdよりも高いQpを示す組み換え宿主細胞が望ましい。発現強化座位または「ホットスポット」に対象遺伝子が挿入された宿主細胞は、高い特異的生産性を示す。
【0075】
「外生的に加えられた遺伝子」、「外生的に加えられた核酸」、または単純に「外因性核酸」という文言が、対象座位に関連して使用された場合、当該文言は、当該座位が自然界に存在する場合には対象座位内に存在しない任意のDNA配列または遺伝子を指す。たとえば、CHO座位(たとえば、配列番号1または配列番号2の配列を備えた座位)内の「外因性核酸」は、自然界の特定のCHO座位内には存在しないハムスターの遺伝子(すなわち、ハムスターゲノムの別の座位に由来するハムスター遺伝子)、任意の他の種に由来する遺伝子(たとえば、ヒトの遺伝子)、キメラ遺伝子(たとえば、ヒト/マウス)、または自然界でCHO座位内に存在することが判明していない任意の他の遺伝子であってもよい。
【0076】
「重鎖」または「イムノグロブリン重鎖」という文言には、任意の生物体由来のイムノグロブリン重鎖定常領域配列が含まれ、特別の規定がない限り、重鎖可変ドメインが含まれる。特別の規定がない限り、重鎖可変ドメインには、3つの重鎖CDRと4つのFR領域とが含まれる。典型的な重鎖は、可変ドメインに続いて(N末端からC末端方向に)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを備える。「重鎖の断片」という用語は、重鎖の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上のアミノ酸のペプチドを含み、1つ以上のCDR、1つ以上のFR、CH1、ヒンジ、CH2もしくはCH3、可変領域、定常領域、定常領域の断片(たとえば、CH1、CH2、CH3)またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上と組み合わされた1つ以上のCDRを含んでもよい。HCFの例としては、VHs、およびFc領域のすべて、または一部が挙げられる。「HCFをコードするヌクレオチド配列」という文言は、HCFからなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、HCFを含有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、たとえば、特定のHCFに加えて追加アミノ酸を含有し得るポリペプチドを含む。たとえば、HCFをコードするヌクレオチド配列はとくに、VHからなるポリペプチド、CH3に連結されたVHからなるポリペプチド、全長重鎖からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0077】
核酸配列に関する文脈において「相同配列」とは、参照核酸配列に対し、実質的に相同な配列を指す。一部の実施形態では、二つの配列は、残基の関連する区間に渡って、その対応ヌクレオチドの少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上が同一の場合、実質的に相同であるとみなされる。一部の実施形態では、関連する区間は完全(すなわち、全長)配列である。
【0078】
「軽鎖」という文言には、任意の生物体由来のイムノグロブリン軽鎖定常領域配列が含まれ、別段の規定がない限り、ヒトカッパ軽鎖およびヒトラムダ軽鎖が含まれる。軽鎖可変(VL)ドメインには、特別の規定がない限り、3つの軽鎖CDRと4つのフレームワーク(FR)領域が含まれるのが典型的である。一般に、完全長軽鎖には、アミノ末端からカルボキシル末端の方向に、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVLドメインと、軽鎖定常ドメインとが含まれる。本発明で使用可能な軽鎖には、例えば、二特異性抗体に選択的に結合される第一エピトープまたは第二エピトープのいずれにも選択的に結合しない軽鎖が含まれる。また、適切な軽鎖として、抗体の抗原結合領域に結合される1つまたは両方のエピトープに結合することができる、または結合に寄与することができる軽鎖が挙げられる。「軽鎖の断片」または「軽鎖断片」(または「LCF」)という文言は、軽鎖の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100またはそれ以上のアミノ酸のペプチドを含み、1つ以上のCDR、1つ以上のFR、可変領域、定常領域、定常領域の断片またはそれらの組み合わせと組み合わされた1つ以上のCDRを含んでもよい。LCFの例としては、VLsおよび軽鎖定常領域(CLs)の全部または一部が挙げられる。「LCFをコードするヌクレオチド配列」という文言は、LCFからなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、LCFを含有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、たとえば、特定のLCFに加えて追加アミノ酸を含有し得るポリペプチドを含む。たとえば、LCFをコードするヌクレオチド配列はとくに、VLからなるポリペプチド、または全長軽鎖からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0079】
「動作可能に連結された」という文言は、連結された分子が意図されるように機能する様式での、核酸またはタンパク質の連結を指す。相互に機能的に関係しているとき、DNA領域は動作可能に連結される。例えば、プロモーターが配列の転写に参画する能力を有す場合、プロモーターはコード配列に動作可能に連結し;リボソーム結合部位は、翻訳を許容するように位置する場合、コード配列に動作可能に連結する。一般的に、動作可能に連結しているとは、連続性を含むことができるが、連続性を必要としない。分泌リーダーなどの配列の場合には、連続性およびリーディングフレーム内での適正な配置は典型的な特徴である。対象座位の発現強化配列は、対象遺伝子(GOI)と機能的に関連付けられている場合、例えば、その存在が結果としてGOIの発現の強化をもたらす場合、GOIに動作可能に連結されている。
【0080】
「同一性割合」とは、対象座位、たとえば配列番号1または配列番号2またはそれらの断片を記載する場合、連続相同領域に沿って同一性の列挙を示す相同性配列を含むことを意味するが、比較配列中の相同性が無いギャップ、欠失、または挿入は、同一性割合の算出に考慮されない。
【0081】
本明細書に使用される場合、たとえば配列番号1またはその断片と種ホモログの間の「同一性割合」の決定は、その種ホモログが、アライメントにおいて比較を行うための相同配列を有していない配列の比較は含まない(すなわち、配列番号1またはその断片が、その点で挿入を有しているか、または場合によっては種ホモログがギャップまたは欠失を有している配列の比較は含まない)。ゆえに「同一性割合」は、ギャップ、欠失および挿入のペナルティを含まない。
【0082】
「認識部位」または「認識配列」は、ヌクレアーゼに認識される特定のDNA配列、またはDNA骨格に結合し、部位特異的切断を指示する他の酵素により認識される特定のDNA配列である。エンドヌクレアーゼは、DNA分子内でDNAを切断する。認識部位は当分野において、認識標的部位とも呼称される。
【0083】
「リコンビナーゼ認識部位」(「RRS」)は、たとえばCreリコンビナーゼ(Cre)またはフリッパーゼ(flp)などのリコンビナーゼにより認識される特定のDNA配列である。部位特異的リコンビナーゼは、その標的認識配列のうちの1つ以上が生物ゲノム内に戦略的に配置された場合、欠失、転位、および転座を含むDNA再構成を実行することができる。1つの例では、Creは、そのDNA標的認識部位であり、8bpのスペーサーにより分離される2個の13bpの逆位リピートから構成されるloxPで、組み換え事象を特異的に介在する。2つ以上のリコンビナーゼ認識部位を使用して、たとえば組み換え介在性のDNA交換を促進することができる。リコンビナーゼ認識部位、たとえばlox部位などの多様体または変異体を使用してもよい(Araki,N.et al,2002,Nucleic Acids Research,30:19,e103)。
【0084】
「リコンビナーゼ介在性カセット交換」または「RMCE(Recombinase-mediated cassette exchange)」は、ゲノム標的カセットを、ドナーカセットと正確に置換させるプロセスに関する。このプロセスを実行するために通常提供される分子構成は、1)特定のリコンビナーゼに対し特異的な認識標的部位により、5’と3’の両方に隣接されたゲノム標的カセット、2)認識標的部位を合致させることにより隣接されたドナーカセット、および3)部位特異的リコンビナーゼ、を含む。リコンビナーゼタンパク質は当分野に公知であり(Turan,S.and Bode J.,2011,FASEB J.,25,pp.4088-4107)、ヌクレオチドを付加または欠失させることなく、特定の認識標的部位(DNA配列)内で、DNAを正確に切断することが可能である。普遍的なリコンビナーゼ/部位の組み合わせとしては、限定されないが、Cre/loxおよびFlp/frtが挙げられる。RMCE用の、R4-attP 部位を含有するベクターと、phiC31インテグラーゼをコードするベクターは、市販のキットでも提供される。(たとえば、米国特許出願公開第US20130004946号も参照のこと)
【0085】
「部位特異的統合」または「標的挿入」とは、ゲノム中の特定の位置への遺伝子もしくは核酸配列の挿入または統合を指示する、すなわち、連続ポリヌクレオチド鎖中の2つのヌクレオチド間の特定の部位へDNAを移動させるために使用される遺伝子標的化方法を指す。部位特異的な統合または標的挿入は、複数の発現単位またはカセット、たとえば各々自身の制御因子(たとえばプロモーター、エンハンサー、および/または転写終結配列など)を有する複数の遺伝子を含む特定の核酸に対し行われてもよい。「挿入」と「統合」は相互交換可能に使用される。遺伝子または核酸配列(たとえば発現カセットを備えた核酸配列)の挿入は、使用された遺伝子編集技術に応じて1つ以上の核酸の置換または欠失が生じ得る(またはそのように操作され得る)と理解されている。
【0086】
「安定した統合」とは、宿主細胞ゲノム中に統合された外因性核酸が、細胞培養において、たとえば少なくとも7日、少なくとも10日、少なくとも15日、少なくとも20日、少なくとも25日、少なくとも30日、少なくとも35日、少なくとも40日、少なくとも45日、少なくとも50日、少なくとも55日、少なくとも60日、またはそれ以上の長期間、統合状態を維持することを意味する。大規模な製造および精製を目的とした、二特異性抗原結合タンパク質の製造は難題であると理解されている。安定性およびクローン性は、任意の生物分子、とくに治療用に使用される生物分子の再現性にとって必須である。本開示方法により作製される、二特異性抗体を発現する安定クローンは、治療用生物分子生成のための一貫性と再現性のある手段を提供する。
【0087】
概要
本開示は、宿主細胞、とくにチャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)細胞株において、当該宿主細胞中で複数の(たとえば2つの)発現強化座位を使用することによる、複数のポリペプチド発現の改善のための組成物および方法を提供する。より具体的には、本開示は、抗原結合タンパク質をコードする複数の外因性核酸を、たとえばCHO細胞などの宿主細胞中の複数の発現強化座位内に、部位特異的な様式で統合するよう設計された組成物および方法を提供する。特に本開示は、複数の発現強化座位内に統合された複数の外因性核酸を含有する細胞を提供するものであり、当該複数の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードしている。本開示はさらに、複数の外因性核酸の、複数の発現強化座位内への部位特異的な統合を目的として設計された核酸ベクターを提供する。本開示は、複数の発現強化座位の各々で複数のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含有する宿主細胞、および合致RRSと複数の外因性核酸を含有するベクターセットを含む、当該ベクター由来の複数の外因性核酸を、当該複数の発現強化座位内に部位特異的に統合することを目的としたシステムをさらに提供する。さらに本開示は、本明細書に開示される細胞、ベクター、およびシステムを使用し抗原結合タンパク質を作製する方法を提供する。
【0088】
複数の発現強化座位内に部位特異的に統合された複数の外因性核酸を有する細胞
1つの態様において、本開示は、2個の発現強化座位に部位特異的に統合された複数の外因性核酸を含有する細胞を提供するものであり、当該複数の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードしている。当該抗原結合タンパク質は二特異性抗原結合タンパク質、または従来的な(すなわち一特異性)抗原結合タンパク質であってもよい。
【0089】
本明細書に提供される細胞は、高い力価および/または高い特異的生産性(pg/細胞/日)で所望される抗原結合タンパク質を産生することができる。一部の実施形態では、細胞は、少なくとも1g/L、1.5g/L、2.0g/L.2.5g/L、3.0g/L、3.5g/L、4.0g/L、4.5g/L、5.0g/L、10g/Lまたはそれ以上の力価で、抗原結合タンパク質を産生する。一部の実施形態では、抗原結合タンパク質を産生する細胞は、1日当たり、1細胞当たりで産生される総抗原結合タンパク質(pg)に基づき決定される特異的生産性が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ピコグラム/細胞/日またはそれ以上である。
【0090】
抗原結合タンパク質をコードし、2つの発現強化座位に統合された外因性核酸を備えた宿主細胞は、製造培養において、高い細胞密度、たとえば1~10x106細胞/mLを示す。他の実施形態では、抗原結合タンパク質をコードする宿主細胞は、最終細胞密度が、(製造培養において)少なくとも5x106細胞/mL、6x106細胞/mL、7x106細胞/mL、8x106細胞/mL、9x106細胞/mL、または10x106細胞/mLに到達する。
【0091】
一部の実施形態では、総抗原結合タンパク質力価に対する二特異性抗原結合タンパク質力価の比率が、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%またはそれ以上で、二特異性抗原結合タンパク質を産生することができる細胞が提供される。一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質を産生することができる細胞が提供され、この場合において当該二特異性抗原結合タンパク質の比率は、細胞により産生される総抗原結合タンパク質力価の少なくとも50%である。
【0092】
他の実施形態では、抗原結合タンパク質を産生することができる細胞が提供され、この場合において2つの座位における発現により産生される総抗原結合タンパク質力価は、1つの座位における発現により産生される総抗原結合タンパク質力価と比較し、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%またはそれ以上高い。ある実施形態では、抗原結合タンパク質を産生することができる細胞が提供され、この場合において2つの座位における発現により産生される総抗原結合タンパク質力価は、1つの座位における発現により産生される総抗原結合タンパク質力価と比較し、少なくとも0.5倍、0.75倍、1倍、1.5倍、1.75倍、2倍またはそれ以上高い。
【0093】
一部の実施形態では、細胞は、第一の発現強化座位内の特定部位で統合された第一の外因性核酸と、第二の発現強化座位内の特定部位で統合された第二の外因性核酸を含有し、当該第一および第二の外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードしている。第一および第二の外因性核酸はともに、抗原結合タンパク質のHCFまたはLCF(たとえば可変領域)をコードする複数のヌクレオチド配列を含有する。たとえば一特異性抗体に関しては、一特異性抗原結合タンパク質に対するHCF(たとえばVH)をコードする1つのヌクレオチド配列と、LCF(たとえばVL)をコードする1つのヌクレオチド配列であってもよく、またはそれぞれの複数コピー(たとえば2コピー)であってもよい。二特異性抗体に関しては、各々HCFをコードする2つのヌクレオチド配列(典型的には、その2つのHCFは互いに異なっている)、1コピーもしくは2コピーのLCFコードヌクレオチド配列、または2つの異なるLCFをコードする2つのヌクレオチド配列であってもよい。抗原結合タンパク質が一特異性か二特異性かに応じて、HCFまたはLCF(たとえば可変領域)をコードするヌクレオチド配列は、2つの発現強化座位で異なる多様性または組み合わせで統合されてもよい。たとえば一特異性抗原結合タンパク質に関しては、1つの例で、HCFをコードするヌクレオチド配列と、LCFをコードするヌクレオチド配列は、2つの座位に、各座位で1つずつ別々に統合されてもよい。一方で、別の例では、HCFとLCFをコードする核酸が1つの座位に統合され、同じHCFと同じLCFをコードする別個の核酸は、別の座位に統合される。二特異性抗原結合タンパク質に関しては、1つの例で、第一のHCFとLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の座位に統合され、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は第二の座位に統合されてもよい。この場合において、当該2つのHCFは異なっており、LCFは、二特異性抗原結合タンパク質の共通LCFである。そして別の例では、第一のHCFとLCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の座位に統合され、第二のHCFと同一LCFをコードするヌクレオチド配列は、第二の座位に統合される。
【0094】
一部の実施形態において、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、定常領域由来のアミノ酸をコードしてもよい。たとえばHCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、CL、CH1、CH2、CH3、またはCH1、CH2、もしくはCH3の組み合わせのうちの1つ以上をコードしてもよく、または定常領域全体をコードしてもよい。一部の実施形態では、HCFをコードするヌクレオチド配列は、CH3ドメインをコードする。特定の実施形態では、HHCFをコードするヌクレオチド配列は、重鎖をコードする。一部の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、軽鎖をコードする。
【0095】
2つのHCFが関与する実施形態では、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一の定常領域由来のアミノ酸をコードしてもよく、および第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二の定常領域由来のアミノ酸をコードしてもよく、この場合において当該2つの定常領域由来のアミノ酸は、少なくとも1つの位置(たとえば異なるプロテインA結合特性を生じさせる位置、または様々な二特異性抗原結合タンパク質に関し本明細書で以下に記載される他の位置)で、同じであっても、異なっていてもよい。アミノ酸における差異にかかわらず、2つの定常領域由来のアミノ酸をコードする2つのヌクレオチド配列は、1つのヌクレオチド配列の1つ以上のコドンを改変することにより識別されることができ、それにより、核酸系アッセイにおいて当該2つのヌクレオチド配列を識別するための簡便な基盤が提供される。
【0096】
一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、プロモーターを含有する転写制御配列に動作可能に連結される。「独立して」とは、各コード配列が、たとえばプロモーターなどの別個の転写制御配列に動作可能に連結され、それにより、当該コード配列の転写が別個の制御および管理下になることを意味する。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターは同じである。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーター、ならびにVL含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターはすべて同じであり、たとえばCMVプロモーターなどである。一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターに動作可能に連結される。誘導性プロモーターおよび抑制性プロモーターによって、生産期(流加培養)でのみ産生が発生し、増殖期(シードトレイン(seed train)培養)の間は産生しないことが可能となる。または異なる座位の抗体構成要素(HCFおよびLCF)の発現を特異的に正確に管理することが可能となる。各遺伝子産物の産生(発現)の良好な管理は、異なるプロモーターによって達成され得る。
【0097】
そのような1つの例では、細胞は最初にテトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)を発現するよう改変され、各HCFコードヌクレオチド配列とLCFコードヌクレオチド配列は、その活性がTetRにより制御されるプロモーターの転写管理下に置かれる。2つのタンデムTetRオペレーター(tetO)は、CMVプロモーターのすぐ下流に配置される。一部の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、少なくとも1つのTetRオペレーター(TetO)またはArcオペレーター(ArcO)の上流のプロモーターに動作可能に連結される。他の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、CMV/TetOまたはCMV/ArcOハイブリッドプロモーターに動作可能に連結される。追加の適切なプロモーターを、本明細書において以下に記載する。
【0098】
一部の実施形態では、2つの座位で統合された複数の外因性核酸は、RRSに隣接される。たとえば、第一のRRSと第二のRRSはそれぞれ、第一の座位で統合された第一の外因性核酸に対し、5’と3’に配置され、第三のRRSと第四のRRSはそれぞれ、第二の座位で統合された第二の外因性核酸に対し、5’と3’に配置され、この場合において第一のRRSと第二のRRSは異なっており、第三のRRSと第四のRRSは異なっている。一部の実施形態では、第一、第二、第三、および第四のRRSはすべて互いに異なっている。他の実施形態では、第一のRRSと第三のRRSは同一であり、第二のRRSと第四のRRRSは同一であり、この場合において第一の外因性核酸はHCFとLCFをコードし、第二の外因性核酸は同じHCFとLCFをコードする。
【0099】
座位で統合された外因性核酸が、2つのHCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列を含む一部の実施形態では、追加のRRSは、この2つのヌクレオチド配列の間に含有されてもよい。かかる追加のRRSは、当該外因性核酸に隣接する2つのRRSとは異なっていなければならない。一部の実施形態では、追加のRRSは、統合外因性核酸内に含有される選択マーカー遺伝子のイントロン内に挿入され、2つのHCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列の間に配置される。転写および転写後プロセシングの後、イントロンは切除され、選択マーカーをコードするmRNAが生じる。第一の座位で統合された外因性核酸と第二の座位で統合された外因性核酸の両方が、2つのHCFまたはLCFをコードする配列(たとえば、LCF-HCF1およびLCF-HCF2)を含む実施形態では、追加RRSは、各座位で、2つのHCFまたはLCFをコードする配列の間で、第一および第二の外因性核酸のうちの1つのみ、または両方に含有されてもよい。第一座位の追加RRSは、第二座位の追加RRSと同一であっても、異なってもよい。各追加RRSは、その座位で統合された外因性核酸に隣接する2つのRRSとは異なっていなければならない。各追加RRSは任意で、選択マーカー遺伝子のイントロン内に挿入されてもよく、および2つの座位においてイントロンを有する当該選択マーカー遺伝子は異なっていてもよい。
【0100】
複数のHCFまたはLCFをコードする配列が、座位に統合された外因性核酸内に含有される場合、当該座位内の複数のコード配列の相対的な位置は、変化し得る。たとえば、統合された外因性核酸が、LCFをコードするヌクレオチド配列とHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、HCFをコードするヌクレオチド配列に対し、上流または下流に位置付けられてもよい。特定の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、HCFをコードするヌクレオチド配列に対して上流に位置付けられる。両方の座位が、LCFをコードするヌクレオチド配列とHCFをコードするヌクレオチド配列を含有する特定の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、両方の座位において、HCFをコードするヌクレオチド配列に対し、上流または下流に位置付けられる。
【0101】
さらなる実施形態において、第一の発現強化座位内に統合されたRRSの第一ペアと、第二の発現強化座位内に統合されたRRSの第二ペアを含有する細胞が提供され、この場合において各ペア内の2つのRRSは、異なっている。かかる細胞は、共に抗原結合タンパク質をコードする、統合される複数の外因性核酸の受容に有用である。
【0102】
一部の実施形態では、第一の外因性核酸は、第一の座位の2つのRRSの間に存在し、第二の外因性核酸は、第二の座位の2つのRRSの間に存在する。第一および第二の外因性核酸は各々、1つ以上の選択マーカー遺伝子をコードしてもよい。選択マーカー遺伝子は、互いに異なってもよい。
【0103】
一部の実施形態では、追加RRSは、座位のペア内の2つのRRS(すなわち、5’RRSと3’RRS)の間に存在し、この場合において当該追加RRSは、当該座位の5’RRSと3’RRSの両方と異なっている。一部の実施形態では、追加RRSは、2つの座位のうちの1つで、5’RRSと3’RRSの間に存在する。他の実施形態では、追加RRSは、2つの座位のうちの各々で、5’RRSと3’RRSの間に存在する。追加RRSが、5’RRSと3’RRSの間に存在する場合、選択マーカー遺伝子は、5’RRSと追加RRSの間に含まれてもよく、別の選択マーカー遺伝子は、追加RRSと3’RRSの間に含まれてもよく、その2つの選択マーカーは異なっている。
【0104】
記載される実施形態に多くにおいて、細胞はCHO細胞であり、この場合において、2つの発現強化座位のうちの1つは、配列番号1に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列、配列番号2に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列、および配列番号3に対し少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列からなる群から選択される。
【0105】
二特異性抗原結合タンパク質
本開示に記載される細胞、ベクターおよびシステムにおけるクローニングと産生に適した、たとえば二特異性抗体などの二特異性抗原結合タンパク質は、二特異性抗原結合タンパク質の任意の特性の形式に限定されない。
【0106】
様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、2つのポリペプチドを含み、各ポリペプチドは、抗原結合部分(たとえばHC)とCH3ドメインを含有し、この場合において当該2つのポリペプチドの抗原結合部分は、異なる抗原特異性を有し、およびこの場合において当該2つのCH3ドメインは、CH3ドメインのうちの1つが少なくとも1つのアミノ酸位置で改変され、当該2つのポリペプチド間で異なるプロテインA結合特性を生じさせているという点で、互いに関しヘテロ二量体性である。たとえば、米国特許第8,586,713号に記載される二特異性抗体を参照のこと。この方法において、異なるプロテインA単離スキームを使用して、ホモ二量体からヘテロ二量体性二特異性抗原結合タンパク質を容易に単離することができる。
【0107】
一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、異なる抗原特異性を有し、およびCH3ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸位置が異なり、それにより2つの重鎖の間で異なるプロテインA結合特性が生じる、2つの重鎖を含む。
【0108】
一部の実施形態では、2つのポリペプチドは、ヒトIgGのCH3ドメインを含有し、この場合において当該2つのポリペプチドの内の1つは、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGのCH3ドメインを含有し、当該2つのポリペプチドのうちの他の1つは、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGの改変CH3ドメインを含有し、この場合において当該改変は、プロテインAに対する改変CH3領域の結合を減少させ、または消滅させる。特定の実施形態では、当該2つのポリペプチドのうちの1つは、ヒトIgG1のCH3ドメインを含有し、当該2つのポリペプチドのうちの他の1つは、ヒトIgG1の改変CH3ドメインを含有し、この場合において当該改変は、IMGTエクソンナンバリングシステムにおける(i)95Rならびに(ii)95Rおよび96Fからなる群から選択される。他の特定の実施形態では、改変CH3ドメインは、IMGTエクソンナンバリングシステムにおける、16E、18M、44S、52N、57M、および82Iからなる群から選択される1~5個の追加改変を備えている。
【0109】
他の様々な実施形態では、当該2つのポリペプチドは、マウスIgGのCH3ドメインを含有し、この場合において当該2つのポリペプチドのうちの1つは、未改変マウスIgGのCH3ドメインを含有し、当該2つのポリペプチドのうちの他の1つは、マウスIgGの改変CH3ドメインを含有し、この場合において、当該改変は、プロテインAに対する改変CH3領域の結合を減少させ、または消滅させる。様々な実施形態では、マウスIgG CH3ドメインは、以下からなる群から選択される特定の位置(EUナンバリング)で、特定のアミノ酸を備えるよう改変される:252T、254T、および256T;252T、254T、256T、および258K;247P、252T、254T、256T、および258K;435Rおよび436F;252T、254T、256T、435R、および436F;252T、254T、256T、258K、435R、および436F;24tP、252T、254T、256T、258K、435R、および436F;ならびに435R。特定の実施形態では、以下からなる群から選択される改変の特定群が作製される:M252T、S254T、S256T;M252T、S254T、S256T、I258K;I247P、M252T、S254T、S256T、I258K;H435R、H436F;M252T、S254T、S256T、H435R、H436F;M252T、S254T、S256T、I258K、H435R、H436F;I247P、M252T、S254T、S256T、I258K、H435R、H436F;およびH435R。
【0110】
様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、マウスとラットのモノクローナル抗体または抗原結合タンパク質のハイブリッドであり、たとえばマウスIgG2aとラットIgG2bのハイブリッドである。これら実施形態に従い、二特異性抗体は、2つの抗体のヘテロ二量体から構成され、当該抗体は各々の1つの重鎖/軽鎖のペアを備え、それらは自身のFc部分を介して結合している。記載されるヘテロ二量体は、2つの元の抗体ホモ二量体と二特異性ヘテロ二量体の混合物から容易に精製されることができる。その理由は、プロテインAに対する二特異性抗体の結合特性は、元の抗体の結合特性とは異なっているためである。ラットのIgG2bは、プロテインAには結合せず、一方でマウスIgG2aは結合する。結論として、マウス-ラットのヘテロ二量体は、プロテインAに結合するが、マウスIgG2aホモ二量体よりも高いpHで溶出する。これが二特異性ヘテロ二量体の選択的精製を可能にする。
【0111】
他の様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、当分野において「knobs-into-holes」と呼称される形式のものである(たとえば米国特許第7,183,076号を参照のこと)。これらの実施形態では、2つの抗体のFc部分を操作して、1つに「こぶ(knob)」を突き出させ、他方に相補的な「穴(hole)」が作られる。同じ細胞において産生される場合、操作された「こぶ」と操作された「穴」の結合により、重鎖は、ホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成すると言われている。
【0112】
他の実施形態では、第一の重鎖と第二の重鎖は、CH3ドメインにおいて1つ以上のアミノ酸改変を備え、それにより、2つの重鎖の相互作用が可能となる。CH3-CH3の接触面のアミノ酸残基が荷電アミノ酸と置換され、それによりホモ二量体の形成が静電的に不利となる。(たとえば、PCT国際出願公開WO2009089004および欧州公開EP1870459を参照のこと)
【0113】
他の実施形態では、第一の重鎖は、アイソタイプIgAのCH3ドメインを備え、第二の重鎖はIgGのCH3ドメインを備え(逆もまた然り)、ヘテロ二量体の優先的な形成を促進する。(たとえば、PCT国際特許出願公開WO2007110205を参照のこと)
【0114】
他の実施形態では、たとえばFab-arm交換(PCT国際特許出願公開WO2008119353;PCT国際特許出願公開WO2011131746)、コイル化コイルドメイン相互作用(PCT国際特許出願公開WO2011034605)、またはロイシンジッパーペプチド(Kostelny,et al.J.Immunol.1992,148(5):1547-1553)などの、ヘテロ二量体の形成を促す操作方法により、様々な形式がイムノグロブリン鎖と組み込まれ得る。
【0115】
二特異性抗原結合タンパク質を作製するために使用され得るイムノグロブリン重鎖断片(たとえば可変領域)は、当分野に公知の任意の方法を使用して作製することができる。たとえば、第一の重鎖は、核酸によりコードされる可変領域を備え、当該核酸は第一動物の成熟B細胞のゲノムに由来し、当該第一動物は第一抗原で免疫化されており、そして第一の重鎖は第一の抗原を特異的認識する。第二重鎖は核酸によりコードされる可変領域を備え、当該核酸は第二動物の成熟B細胞のゲノムに由来し、当該第二動物は第二抗原で免疫化されており、そして第二の重鎖は第二の抗原を特異的に認識する。免疫グロブリン重鎖可変領域配列はたとえばファージディスプレイ法など当分野に公知の任意の他の方法により取得することもできる。他の例では、重鎖可変領域をコードする核酸は、当分野に報告されている、または別の手段により入手可能な抗体のものを含む。一部の実施形態では、2つの重鎖コード配列のうちの1つはコドン改変され、それにより核酸系アッセイにおいて当該2つのコード配列を識別するための簡便な基盤が提供される。
【0116】
2つの異なるエピトープ(または2つの異なる抗原)を認識する2つの重鎖を備えた二特異性抗体は、それらが同じ軽鎖(すなわち、軽鎖が同一の可変ドメインと定常ドメインを有している))とペア形成できる場合に、より簡易に単離される。たとえば米国特許第8,586,713号に記載され、およびその中に開示される技術のように、重鎖可変ドメインと、その標的抗原との選択性および/またはアフィニティに干渉することなく、または実質的に干渉することなく、異なる特異性の2つの重鎖とペア形成できる軽鎖を作製するための様々な方法が当分野において公知である。
【0117】
二特異性抗原結合タンパク質は様々な二面的な抗原特異性と、関連した有用なアプリケーションを有し得る。
【0118】
一部の例では、腫瘍抗原とT細胞抗原に対する結合特異性を備え、細胞上の抗原、たとえばCD20を標的とし、およびT細胞上の抗原、たとえばCD3などのT細胞受容体も標的とする二特異性抗原結合タンパク質が作製され得る。この場合では、二特異性抗原結合タンパク質は、患者中の対象細胞(たとえばCD20結合を介してリンパ腫患者のB細胞)ならびに患者のT細胞の両方を標的とする。様々な実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、CD3の結合でT細胞を活性化するように設計され、それにより特定の選択腫瘍細胞と、T細胞活性化が結び付けられる。
【0119】
1つの部分がたとえばCD3に結合するなど、T細胞受容体に結合し、他方の部分が標的抗原に結合する場合に二特異性抗原結合タンパク質の文脈において、標的抗原は腫瘍関連抗原である。特定の腫瘍関連抗原の非限定的な例としては、たとえば、AFP、ALK、BAGEタンパク質、BIRC5(サバイビン)、BIRC7、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BCMA、BORIS、CA9、炭酸脱水酵素IX、カスパーゼ-8、CALR、CCR5、CD19、CD20(MS4A1)、CD22、CD30、CD40、CDK4、CEA、CLEC-12、CTLA4、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EpCAM、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(たとえば、GAGE-1、-2)、GD2、GD3、GloboH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGEタンパク質(たとえば、MAGE-1、-2、-3、-4、-6、および-12)、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Muc1、Muc2、Muc3、Muc4、Muc5、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、Steap-1、Steap-2、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Thompson-nouvelle抗原(Tn)、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、およびウロプラキン-3が挙げられる。一部の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、CD3に結合する1つの部分を備えている。抗CD3抗体部分の例は、米国特許出願公開US2014/0088295A1およびUS20150266966A1、ならびに国際特許出願公開WO2017/053856に記載されており、2017年3月30日に公開され、それらすべて本明細書に参照により援用される)。他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、CD3に結合する1つの部分、およびBCMA、CD19、CD20、CD28、CLEC-12、Her2、HLAタンパク質、MAGEタンパク質、Muc16、PSMA、またはSteap-2に結合する1つの部分を備えている。さらに他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質は、抗CD3x抗CD20二特異性抗体(米国特許出願公開US2014/0088295A1およびUS20150266966A1に記載され、参照により本明細書に援用される)、抗CD3x抗Mucin16二特異性抗体(たとえば抗CD3x抗Muc16二特異性抗体)、および抗CD3x抗前立腺特異的膜抗原二特異性抗体(たとえば抗CD3x抗PSMA二特異性抗体)からなる群から選択される。
【0120】
1つの部分がたとえばCD3に結合するなど、T細胞受容体に結合し、他方の部分が標的抗原に結合する場合に二特異性抗原結合タンパク質の文脈において、標的抗原は感染性疾患関連抗原であってもよい。感染性疾患関連抗原の非限定的な例としては、たとえば、ウイルス粒子の表面上に発現される抗原、または優先的にウイルスに感染した細胞上に発現される抗原が挙げられ、この場合において当該ウイルスは、HIV、肝炎ウイルス(A、BまたはC)、ヘルペスウイルス(たとえば、HSV-1、HSV-2、CMV、HAV-6、VZVまたはエプスタインバールウイルス)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLV、デングウイルス、パピローマウイルス、軟属腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルス、およびアルボウイルス脳炎ウイルスからなる群から選択される。あるいは標的抗原は、細菌表面上に発現される抗原であってもよく、または優先的に細菌に感染した細胞上に発現される抗原であってもよく、この場合において当該細菌は、クラミジア属、リケッチア属、マイコバクテリウム属、ブドウ球菌属、連鎖球菌属、肺炎球菌、髄膜炎菌、淋菌、クレブシエラ属、プロテウス属、セラチア属、シュードモナス属、レジオネラ属、ジフテリア菌、サルモネラ属、バチルス属、コレラ菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、炭そ菌、ペスト菌、レプトスピラ属、およびライム病の細菌からなる群から選択される。ある実施形態では、標的抗原は、真菌の表面上に発現される抗原であり、または優先的に真菌に感染した細胞上に発現される抗原であり、この場合において当該真菌は、カンジダ属(アルビカンズ(albicans)、クルーセイ(krusei)、グラブラータ(glabrata)、トロピカリス(tropicalis)など)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Crytococcus neoformans)、アスペルギルス属(フミガーツス(fumigatus)など)、ケカビ目(ムコール属(mucor)、アブシジア属(absidia)、リゾプス属(rhizopus))、スポロスリックス・シエンキー(Sporothrix schenkii)、ブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis)、南アメリカ分芽菌(Paracoccidioides brasiliensis)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、およびヒストプラズマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)からなる群から選択される。ある実施形態では、標的抗原は寄生虫の表面上に発現される抗原であり、または優先的に寄生虫に感染した細胞上に発現される抗原であり、この場合において当該寄生虫は、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、大腸バランチジウム(Balantidium coli)、ネグレリア・フォーレリ(Naegleriafowleri)、アカントアメーバ種(Acanthamoeba sp.)、ランブル鞭毛虫(Giardia lambia)、クリプトスポリジウム種(Cryptosporidium sp.)、カリニ肺炎菌(Pneumocystis carinii)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、ネズミバベシア(Babesia
microti)、トリパノソーマ・ブルーセイ(Trypanosoma brucei)、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)、ドノバンリーシュマニア(,Leishmania donovani)、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)、ブラジル鉤虫(Nippostrongylus brasiliensis)、タエニア・クラシセプス(Taenia crassiceps)、およびマレー糸条虫(Brugia malayi)からなる群から選択される。特定の寄生虫関連抗原の非限定的な例としては、たとえばHIV gp120、HIV CD4、B型肝炎ウイルス糖タンパク質L、B型肝炎ウイルス糖タンパク質M、B型肝炎ウイルス糖タンパク質S、C型肝炎ウイルス E1、C型肝炎ウイルス E2,、肝細胞特異的タンパク質、単純ヘルペスウイルスgB、サイトメガロウイルスgB、およびHTLVエンベロープタンパク質が挙げられる。
【0121】
各々が、同一細胞表面上の結合パートナーに指向する(すなわち、各々が異なる標的に指向する)2つの結合部分を備えた二特異性結合タンパク質が作製されてもよい。この設計は特に、同一細胞表面上に両方の標的を発現する特定の細胞または細胞型を標的化する場合に適している。標的は、他の細胞上にも個々に現れ得るが、これら結合タンパク質の結合部分は、各結合部分が比較的低いアフィニティ(たとえば低マイクロモルまたは高ナノモル、たとえば百ナノモルkD超、たとえば500、600、700、800ナノモル)でその標的に結合するよう選択される。この場合では、長期の標的結合は、2つの標的が同じ細胞上で近接している状況下でのみ好ましい。
【0122】
同一標的に、同一標的の異なるエピトープで結合する2つの結合部分を備えた二特異性結合タンパク質が作製されてもよい。この設計は、結合タンパク質を用いて標的をブロッキングする成功率を最大化したい場合に特に適している。たとえば膜貫通チャンネルまたは細胞表面受容体の複数の細胞外ループを、同一の二特異性結合分子により標的化してもよい。
【0123】
免疫抑制をもたらす免疫シグナル伝達の負の制御因子をクラスター化し、活性化する2つの結合分子を備えた二特異性結合タンパク質を作製してもよい。in cisでの抑制は、標的が同一細胞上にある場合に実施することができる。in transでの抑制は、標的が異なる細胞上にある場合に実施することができる。in cisでの抑制は、たとえば抗IgGRIIb結合部分と抗FelD1結合部分を有する二特異性結合タンパク質を用いて実施することができ、それによって、IgGRIIbはFelD1の存在下でのみクラスター化され、FelD1への免疫応答が下方制御される。in transでの抑制は、たとえば抗BTLA結合部分と、対象の組織特異的抗原に特異的に結合する結合部分を有する二特異性結合タンパク質を用いて行うことができ、それによって阻害性BTLA分子のクラスター化が選択標的組織中でのみ発生し、自己免疫疾患への対処法となる可能性がある。
【0124】
多成分性受容体を活性化する二特異性結合タンパク質を作製してもよい。この設計では、受容体の2成分に指向する2つの結合部分が、当該受容体に結合、架橋し、受容体からのシグナル伝達を活性化する。これは、IFNAR1に結合する結合部分と、IFNAR2に結合する結合部分を有する二特異性結合タンパク質を使用することで行うことができ、この場合、結合が受容体を架橋する。かかる二特異性結合タンパク質は、インターフェロン治療の代替法を提供し得る。
【0125】
半透過性バリア、たとえば血液脳関門を交差し、結合部分を輸送する二特異性結合タンパク質を作製してもよい。この設計では、1つの結合部分が、特定の選択バリアを通過することができる標的に結合し、他方の結合部分が、治療活性を有する分子を標的とし、この場合において治療活性を有する標的分子は通常、当該バリアを越えることができない。この種の二特異性結合タンパク質は、別の手段では治療剤が到達しない組織への治療剤の送達に有用である。一部の例としては、消化管または肺へ治療剤を輸送するpIGR受容体の標的化、または脳血液関門を交差し、治療剤を輸送するトランスフェリン受容体の標的化が挙げられる。
【0126】
結合部分を特定の細胞または細胞型へと輸送する二特異性結合タンパク質が作製されてもよい。この設計では、1つの結合部分は、容易に細胞内に内在化される細胞表面タンパク質(たとえば受容体)を標的とする。他方の結合部分は、細胞内タンパク質を標的化し、当該細胞内タンパク質の結合が治療効果を生じさせる。
【0127】
貪食免疫細胞の表面受容体と、感染性病原体(たとえば酵母又は細菌)の表面分子に結合する二特異性結合タンパク質は、貪食免疫細胞の周辺に感染性病原体を送達させ、病原体の貪食を促進する。かかる設計の例は、CD64分子またはCD89分子と、さらに病原体も標的とする二特異性抗体である。
【0128】
1つの結合部分として抗体可変領域を有し、第二の結合部分として非Ig部分を有する二特異性結合タンパク質。抗体可変領域は標的化を行い、一方で非Ig部分はFcに連結されたエフェクターまたは毒素である。この場合では、リガンド(たとえばエフェクターまたは毒素)は、抗体可変領域に結合された標的に送達される。
【0129】
各々Ig領域(たとえばCH2領域とCH3領域を含有するIg配列)に結合される2つの部分を有する二特異性結合タンパク質は、Fc環境下で互いの周辺に任意の2つのタンパク質部分を運ばせることができる。この設計の例としては、たとえば、ホモ二量体またはヘテロ二量体のトラップ分子などのトラップが挙げられる。
【0130】
発現強化座位
本発明の使用に適した発現強化座位としては、たとえば、米国特許第8,389,239号に記載される配列番号1に対し、実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位(本明細書において、「EESYR(登録商標)座位」または「座位1」とも呼称される)、米国特許出願14/919,300に記載される配列番号2または配列番号3に対し、実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位(本明細書において、「YARS座位」または「座位2」とも呼称される)、およびその他の発現強化座位ならびに当分野に報告される配列(たとえば、US20150167020A1および米国特許第6,800,457号)が挙げられる。
【0131】
一部の実施形態では、本発明で使用される2つの発現強化座位は、配列番号1に対し実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位、配列番号2に対し実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位、および配列番号3に対し実質的な相同性を有するヌクレオチド配列を備えた座位からなる群から選択される。これらの座位は配列を含有し、当該配列は、配列に対し動作可能に連結されて、(すなわち配列内に、または配列の近傍内に)統合された遺伝子の発現強化をもたらすだけではなく、ゲノム中の他の配列と比較し、高い組み換え効率と統合安定性の改善を示す。
【0132】
配列番号1、配列番号2、および配列番号3は、CHO細胞から同定された。他の哺乳類種(たとえばヒトまたはマウス)は、同定された発現強化領域に対し、限定的な相同性を有していることが判明している。しかしながら、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の他の組織型から誘導された細胞株、または他の同系種において、配列が発見される可能性があり、当分野に公知の技術により単離することができる。たとえば、異種間ハイブリダイゼーションまたはPCR系技術により、他の相同配列が特定される可能性がある。さらに、当分野に公知の部位特異的突然変異誘導技術または無作為突然変異誘導技術により、配列番号1、配列番号2、または配列番号3に記載されるヌクレオチド配列に、変化を発生させることができる。次いで得られた配列変異体を、発現強化活性に関し検証してもよい。発現強化活性を有する配列番号1、配列番号2、または配列番号3に対する核酸同一性において少なくとも約90%同一であるDNAは、日常的な実験で単離され、そして発現強化活性を示すことが予期される。
【0133】
1つ以上の外因性核酸の挿入物の統合部位、部位、またはヌクレオチド位置は、発現強化配列(たとえば配列番号1、配列番号2、配列番号3)のいずれかの内、または隣接している任意の位置であってもよい。対象座位の内、または隣接する特定の染色体位置が、統合される外因性遺伝子の安定した統合および効率的な転写を支持するかどうかは、当分野に公知の標準的な方法、たとえば米国特許第8,389,239号および米国特許出願14,919,300に記載される方法に従い決定することができる。
【0134】
本明細書において検討される統合部位は、発現強化配列内に位置し、または染色体DNA上の発現強化配列の位置に対し、たとえば約1kb未満、500塩基対(bp)、250bp、100bp、50bp、25bp、10bpまたは約5bp未満で上流(5’)または下流(3’)など、配列の近傍内に位置している。さらに一部の他の実施形態では、使用される統合部位は、染色体DNA上の発現強化配列の位置に対し、約1000塩基対、2500塩基対、5000塩基対またはそれ以上、上流(5’)または下流(3’)に位置している。
【0135】
当分野において、たとえばスキャホールド/マトリクス付着領域などの大きなゲノム領域が、染色体DNAの効率的な複製と転写に使用されると理解されている。スキャホールド/マトリクス付着領域(S/MAR:scaffold/matrix attachment region)は、スキャホールド-付着領域(SAR:scaffold-attachment region)またはマトリクス関連領域もしくはマトリクス付着領域(MAR:matrix-associatedまたはmatrix attachment region)とも呼称されることが知られており、真核細胞のゲノムDNA領域であり、ここに核マトリクスが付着する。いずれか1つの学説に拘束されないが、S/MARsは多くの場合、非コード領域にマッピングされ、その近辺から所与の転写領域(たとえばクロマチンドメイン)を隔て、また、転写を実行可能とする因子の構造および/または結合のためのプラットフォーム、たとえばデオキシリボヌクレアーゼまたはポリメラーゼに対する認識部位などを提供する。一部のS/MARsは、約14~20kbの長さで特徴解析されている(Klar,et al.2005,Gene 364:79-89)。したがって、発現強化座位(たとえば、配列番号1もしくは配列番号2もしくは配列番号3の内または近傍)での遺伝子の統合は、発現強化をもたらすことが予測される。一部の実施形態では、発現強化座位内の特定の部位に統合された、二特異性抗原結合タンパク質をコードする外因性核酸配列を備えた宿主細胞は、高い特異的生産性を示す。他の実施形態では、二特異性抗原結合タンパク質をコードする宿主細胞は、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、または30ピコグラム/細胞/日(pcd)の特異的生産性を有する。
【0136】
一部の実施形態では、外因性核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列を備えた座位内の部位に統合される。特定の実施形態では、統合部位は、配列番号1のヌクレオチド配列の内、または近傍内である。特定の実施形態では、統合部位は、10~13,515;20~12,020;1,020~11,020;2,020~10,020;3,020~9,020;4,020~8,020;5,020~7,020;6,020~6,920;6,120~6,820;6,220~6,720;6,320~6,620;6,420~6,520;6,460~6,500;6,470~6,490;および6,475~6,485と番号づけられた位置に及ぶヌクレオチドから選択される、配列番号1内の位置である。他の実施形態では、統合部位は、配列番号1のヌクレオチド5,000~7,400、5,000~6,500、6,400~7,400、および配列番号1のヌクレオチド6,400~6,500からなる群から選択される配列中である。特定の実施形態では、統合部位は、配列番号1の「作動する」3つ組ヌクレオチド6471~6473の前、後、またはその中である。
【0137】
一部の実施形態では、外因性核酸は、配列番号2または配列番号3のヌクレオチド配列を備えた座位内の部位に統合される。特定の実施形態では、統合部位は、配列番号2のヌクレオチド配列の内、または近傍内である。特有の実施形態では、統合部位は、配列番号3のヌクレオチド配列の内、または近傍内である。一部の実施形態では、統合部位は、配列番号3のヌクレオチド1990~1991、1991~1992、1992~1993、1993~1994、1995~1996、1996~1997、1997~1998、1999~2000、2001~2002、2002~2003、2003~2004、2004~2005、2005~2006、2006~2007、2007~2008、2008~2009、2009~2010、2010~2011、2011~2012、2012~2013、2013~2014、2014~2015、2015~2016、2016~2017、2017~2018、2018~2019、2019~2020、2020~2021または2021~2022の内である。特定の実施形態では、統合は、配列番号3のヌクレオチド2001~2022で、またはその内である。一部の実施形態では、外因性核酸は、配列番号3のヌクレオチド2001~2002またはヌクレオチド2021~2022で、またはその内に挿入され、挿入の結果として、配列番号3のヌクレオチド2002~2021は削除される。
【0138】
発現強化座位内への部位特異的統合
部位特異的な様式で発現強化座位内への、すなわち、本明細書に開示される発現強化座位内の1つの特定の部位内への、1つ以上の外因性核酸の統合は、いくつかの方法で実施することができ、たとえば、当分野に報告される相同組み換え、およびリコンビナーゼ介在性カセット交換などが挙げられる(例えば米国特許第8,389,239号およびその中に開示される技術を参照のこと)。
【0139】
一部の実施形態では、対象の1つ以上の外因性核酸または遺伝子を含有する核酸の統合に便利な発現強化座位内に、少なくとも2つ、すなわち2個以上の異なるリコンビナーゼ認識配列(RRS)を含有する細胞が提供される。かかる細胞は、たとえば米国特許第8,389,239号およびその中に開示される技術など、本明細書において以下に解説され、および当分野において解説されるように相同組み換えを含む様々な手段を用いて2つ以上のRRSを含有する外因性核酸配列を、所望される座位内に導入することにより取得することができる。
【0140】
特定の実施形態では、複数の外因性核酸の統合に便利な発現強化座位内に、3つ以上の異なるリコンビナーゼ認識配列(RRS)を含有する細胞が提供される。特定の実施形態では、2つの別個の外因性核酸の統合を介在することができる発現強化座位内に3つの異なるリコンビナーゼ認識配列(RRS)を含有する細胞が提供され、たとえば、この場合においてゲノム中の5’RRSおよび中間RRSは、統合される第一の外因性核酸に隣接する5’RRSと3’RRSに合致し、そしてゲノム中の中間RRSと3’RRSは、統合される第二の外因性核酸に隣接する5’RRSと3’RRSに合致する。
【0141】
適切なRRSは、LoxP、Lox511、Lox5171、Lox2272、Lox2372、Loxm2、Lox-FAS、Lox71、Lox66、およびそれらの変異体を含有する群から選択されてもよく、この場合において部位特異的リコンビナーゼはCreリコンビナーゼまたはその誘導体であり、これを使用して、リコンビナーゼ介在性カセット交換(RMCE)が実施される。他の例において、適切なRRSは、FRT、F3、F5、FRT変異体-10、FRT変異体+10、およびそれらの変異体を含有する群から選択されてもよく、この場合において、部位特異的リコンビナーゼのFlpリコンビナーゼまたはその誘導体が使用され、RMCEが実施される。さらに別の例では、RRSは、attB、attP、およびそれらの変異体を含有する群から選択されてもよく、部位特異的リコンビナーゼがphiC31インテグラーゼまたはその誘導体である場合、これを使用してRMCEが実施される。
【0142】
他の実施形態では、天然細胞は、相同組み換え技術により改変され、それにより1つ以上の外因性核酸を含有する核酸配列が発現強化座位内の特定部位に統合される。
【0143】
相同組み換えに関しては、相同なポリヌクレオチド分子(すなわち、相同アーム)が並び、その配列区間を交換する。導入遺伝子が相同ゲノム配列に隣接されている場合、この交換の間に導入遺伝子が導入され得る。1つの例において、リコンビナーゼ認識部位は、相同組み換えを介し、統合部位で宿主細胞ゲノム内に導入されてもよい。他の例では、対象の1つ以上の外因性核酸、たとえばHCFまたはLCF(たとえば可変領域)を各々コードする1つ以上の核酸を含有する核酸配列は、この場合において当該核酸配列は標的座位の配列に対し相同な配列(相同アーム)により隣接されており、宿主ゲノム内に挿入される。
【0144】
染色体のDNA内の統合部位に切断を導入することによって真核細胞内での相同的組み換えを容易にすることができる。これは、ある一定の核を特定の統合部位へと標的化することによって遂行されてもよい。標的の遺伝子座においてDNA配列を識別するDNA結合したタンパク質は当該技術分野で既知である。遺伝子標的化ベクターは、相同的組み換えを容易にするためにも採用される。
【0145】
相同組み換えを実施するための遺伝子標的化ベクター構築およびヌクレアーゼ選択は、本発明が関連する当該技術分野の当業者の技能の範疇内である。一部の例では、モジュラー構造を有し、かつ個別のジンクフィンガードメインを含有するジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、標的配列内の特定の3-ヌクレオチド配列を識別する(例えば、標的とされる組み込みの部位)。一部の実施形態は、多重標的配列を標的化する個別のジンクフィンガードメインの組み合せを用いてZFNを利用することができる。転写活性化物質様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、部位特異的なゲノム編集にも採用されてもよい。TALエフェクタータンパク質DNA結合ドメインは、典型的にはFokIなどの制限ヌクレアーゼの非特定的な開裂ドメインと組み合せて利用される。一部の実施形態では、TALエフェクタータンパク質DNA結合したドメインおよび制限ヌクレアーゼ開裂ドメインを含む融合タンパク質は、本発明の遺伝子座内の標的配列においてDNAを識別および分割するために採用される(Boch J et al.,2009 Science 326:1509-1512)。RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(RGEN)は、細菌性適応性免疫機構から開発されたプログラム可能なゲノムエンジニアリングツールである。このシステム、すなわちクラスター化された規則的な配置の短い回文の繰返し(CRISPR)/CRISPRに関連付けられた(Cas)免疫応答では、2つのRNAで複合化されたときタンパク質Cas9は、配列特異的なエンドヌクレアーゼを形成し、そのうちの1つは標的選択を誘導する。RGENは構成要素(Cas9およびtracrRNA)および標的に特異的なCRISPRRNA(crRNA)から成る。DNA標的開裂の効率と開裂部位の場所との両方とも、標的認識のための追加要件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の位置に基づいて変化する(Chen,H.et al.,J.Biol.Chem.2014年3月14日にオンラインで出版、マニュスクリプトとしてはM113.539726)。座位(たとえば配列番号1、配列番号2、または配列番号3)の特異的な標的化に対して特有な配列は、これら配列の多くを、CHOゲノムに並行に並べることにより特定することができ、16~17塩基対の合致で、潜在的なオフターゲット部位を明らかにすることができる。
【0146】
一部の実施形態では、対象核酸(たとえば、1つ以上の選択マーカー遺伝子に任意で隣接する1つ以上のRRSを含有する核酸、または各々HCFまたはLCF(たとえば可変領域)をコードする1つ以上の外因性核酸を含有する核酸であって、5’および3’の相同アームに隣接されている)を担持する標的化ベクターが、1つ以上の追加ベクターまたはmRNAとともに細胞内に導入される。1つの実施形態では、1つ以上の追化ベクターまたはmRNAは、限定されないが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、ZFN二量体、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、TALエフェクタードメイン融合タンパク質、およびRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをはじめとする部位特異的ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含有する。ある実施形態では、当該1つ以上のベクターまたはmRNAは、ガイドRNA、tracrRNA、およびCas酵素をコードするヌクレオチド配列を備えた第一ベクターと、ドナー(外因性)ヌクレオチド配列を備えた第二ベクターを含む。かかるドナー配列は、対象遺伝子をコードするヌクレオチド配列、または認識配列をコードするヌクレオチド配列、または標的挿入が意図されたこれら外因性要素の内のいずれか1つを備えた遺伝子カセットをコードするヌクレオチド配列を含有する。mRNAが使用される場合、mRNAは、当業者に公知の普遍的なトランスフェクション法を用いて細胞内にトランスフェクトされることができ、およびたとえばトランスポーゼーズまたはエンドヌクレアーゼなどの酵素をコードしてもよい。細胞内に導入されるmRNAは一過性であってもよく、ゲノム内に統合されないが、mRNAは、統合が発生するために必要な、または有益な外因性核酸を担持してもよい。一部の例では、mRNAは、付随ポリヌクレオチドの長期継続する副作用の任意のリスクを除外するために選択され、この場合、核酸の所望される統合を実施するためには短期発現のみが必要とされる。
【0147】
部位特異的統合のためのベクター
本明細書において、部位特異的統合を介して2つの発現強化座位内に外因性核酸を導入するための核酸ベクターが提供される。適切なベクターとしては、RMCEを介した統合のためのRRSに隣接された外因性核酸配列を含有するように設計されたベクターと、相同組み換えを書いた統合のための相同アームに隣接された対象外因性核酸配列を含有するよう設計されたベクターが挙げられる。
【0148】
様々な実施形態では、RMCEを介した部位特異的統合を実施するためのベクターが提供される。一部の実施形態では、ベクターは、2つの標的座位内への複数核酸の同時統合を実施するように設計される。連続統合とは対照的に、同時統合は、抗原結合タンパク質、または大規模生産(製造)に適した他の対象多量体タンパク質を産生する望ましいクローンの効率的で迅速な単離を可能とする。
【0149】
一部の実施形態では、細胞における二特異性抗原結合タンパク質の発現用のベクターセットが提供される。
【0150】
一部の実施形態では、ベクターセットは、2つの「HCFベクター」を含有してもよく、各ベクターは、5’RRSと3’RRSに隣接される核酸を含有し、その核酸は、HCFをコードするヌクレオチド配列を含有し、およびこの場合において当該HCFは異なっている。2つのHCFベクター上のRRSは互いに異なっており、HCFコードヌクレオチド配列を、2つの発現強化座位に統合するよう設計される。ベクターセットはまた、LCFをコードするヌクレオチド配列を含有し、LCFはHCFベクターの内の1つ、または両方のHCFベクターに含まれてもよく(それにより、2コピーの同一LCFが提供される)、またはあるいは、別個の「LCFベクター」中に提供され、5’RRSと3’RRSに隣接されてもよい。
【0151】
一部の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、HCFベクターの内の1つに含まれ、当該HCFベクター上の5’RRSと3’RRSの間に位置付けられる。LCFをコードする配列は、HCFをコードする配列の上流または下流に配置されてもよい。
【0152】
一部の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、両方のHCFベクターに含まれ、各HCFベクター上の5’RRSと3’RRSの間に位置付けられる。同様に、LCFをコードする配列は、各ベクター中のHCFをコードする配列の上流または下流に配置されてもよい。
【0153】
一部の実施形態では、LCFをコードするヌクレオチド配列は、別個のベクター中に提供され、「LCF」ベクターは、5’RRSと3’RRSに隣接され、当該2つのRRSは、互いに異なっている。ベクターセット中のRRSは、標的座位とのRMCEの間に共通RRSを介してHCFをコードする配列の内の1つと、LCFをコードする配列が「結合」され得るように設計されてもよく、標的座位もまた共通RRSを含有している。たとえば、LCFベクターの3’RRSは、HCFベクターの内の1つの5’RRSと同一であってもよく、それによりRMCEを介した標的座位での統合後、LCF-HCFの配列が発生する。別の例では、HCFベクターの3’RRSは、LCFベクターの5’RRSと同一であってもよく、それによりRMCEを介した標的座位での統合後、HCF-LCFの配列が発生する。一部の実施形態では、共通RRSは、分割選択マーカー形式で設計される。すなわち、1つのベクター中に含有される選択マーカー遺伝子の5’部分の3’末端に含有され、そしてまた、別のベクター中に含有される同じ選択マーカー遺伝子の残りの3’部分の5’末端にも含有され、それによって、「結合」と、標的座位への統合が起こることで、適切に統合された核酸は、選択マーカーの全遺伝子を含有し、トランスフェクタントの簡便な特定が可能となる。一部の実施形態では、共通RRSは、分割遺伝子形式で設計される。すなわち、共通RRSは、かかる分割遺伝子内の遺伝子またはイントロンの5’部分の3’末端で、1つのベクター上の当該遺伝子の5’部分の一部として含有され、そしてかかる分割遺伝子内の遺伝子またはイントロンの残りの部分の5’末端で、当該分割遺伝子の残りの3’部分の一部として含有される。さらに他の実施形態では、第一ベクター中の第三のRRSまたは中間RRSは、動作可能に連結される(が、他のベクター上では分離されている)プロモーターと選択マーカー遺伝子の間になるように設計される。第一ベクター中の第三の「RRSまたは中間RRSは、プロモーターの3’であるように設計される。そして第二ベクター中の第三のRRSまたは中間RRSは、選択マーカー遺伝子の5’であるように設計される。
【0154】
一部の実施形態では、ベクターセットは、LCFをコードする追加のヌクレオチド配列を含んでもよい。すなわち、ベクターセットは2つのHCFベクターと、2つのLCFコードヌクレオチド配列を含んでもよい。2つのLCFコード配列は、同じLCFをコードしても、または異なるLCFをコードしてもよい。一部の実施形態では、2つのLCFコード配列は各々、HCFベクター内に含有されてもよく、それにより、各々がHCFコード配列とLCFコード配列を含有する2つのベクターが得られる。2つのベクターは、当該2つのベクター配列を2つの座位内へ標的化することに適したRRSを有するよう設計されてもよい。他の実施形態では、2つのLCFコード配列の内の1つは、HCFベクター内に含まれ、当該HCFベクター上の5’RRSと3’RRSの間に位置付けられ、他方のLCFコード配列は別個のベクター上に提供される。すなわち、LCFとHCの両方を(LCF-HCFまたはHCF-LCFの配列で、または短く「LCF/HCFベクター」で)有する1つのベクター、1つのHCFベクター、そして1つのLCFベクターである。これらのその他の実施形態の一部では、ベクターのRRSは、HCFベクター上のHCFコード配列と、LCFベクター上のLCFコード配列が、RMCEを介して標的座位で結合することが可能となるよう設計されてもよい。たとえばLCFベクターの3’RRSは、HCFベクターの5’RRSと同一であってもよく、当該共通RRSは、分割選択マーカー形式で設計されてもよく、または分割イントロン形式で設計されてもよく、それによりトランスフェクタントの選択と特定が促進される。さらに他の実施形態では、2つのLCFが異なっている場合、当該2つのLCFをコードするヌクレオチド配列は各々、別個のベクター上で提供されてもよい。すなわち、ベクターセットは2つのHCFベクターと、2つのLCFベクターを含有する。RRSは、1つのLCFコード配列と1つのHCFコード配列を1つの標的座位で、および他方のLCFコード配列と他方のHCFコード配列を第二の標的座位で、適切に「結合する」ことが可能となるよう設計される。
図1、3および4は、異なる形式のベクターと、RRS/座位の組み合わせの図示であるが、限定であるとは意味されない。各所与のベクターシステムは、陽性統合体(所望されるクローン)の迅速および簡便な選択を目的とした、リコンビナーゼの存在下で各ヌクレオチド配列を同時に統合するための手段を提供する。
【0155】
HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、定常領域由来のアミノ酸またはドメインをコードしてもよく、または定常領域全体をコードしてもよい。特定の実施形態では、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、1つ以上の定常ドメイン、たとえばCL、CH1、ヒンジ、CH2、CH3またはそれらの組み合わせをコードしてもよい。ある実施形態では、HCFドメインをコードするヌクレオチド配列は、CH3ドメインをコードしてもよい。たとえば、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードしてもよく、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードしてもよい。第一および第二のCH3ドメインは同一であってもよく、または少なくとも1つのアミノ酸が異なっていてもよい。CH3ドメインにおける差異、または定常領域における差異は、本明細書に記載される二特異性抗原結合タンパク質に対する形式のいずれも取ることができ、たとえば異なるプロテインA結合特性を生じさせる差異、または「knob-and-hole」形式を生じさせる差異がある。いずれのアミノ酸配列の差異にも関係なく、2つのHCFコードヌクレオチド配列は、当該2つのヌクレオチド配列の内の1つがコドン改変されているという点で異なっていてもよい。
【0156】
一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、たとえばプロモーターをはじめとする転写制御配列に動作可能に連結される。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターは同じである。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーター、ならびにLCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターはすべて同じである(たとえばCMVプロモーター、または本明細書に記載される任意のその他の適切なプロモーターなど)。一部の実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターに動作可能に連結される。誘導性プロモーターおよび抑制性プロモーターによって、例えば、生産期(流加培養)でのみ産生が発生し、増殖期(シードトレイン(seed train)培養)の間は発生しないことが可能となる。誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターによって、1つ以上の対象遺伝子の特異的な発現も可能となる。一部の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、少なくとも1つのTetRオペレーター(TetO)またはArcオペレーター(ArcO)の上流のプロモーターに動作可能に連結される。さらに他の実施形態では、各HCFおよび/またはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、CMV/TetOまたはCMV/ArcOハイブリッドプロモーターに動作可能に連結される。ハイブリッドプロモーター(制御性融合タンパク質とも呼称される)の例は、2003年12月11日に公開された国際特許出願公開WO03101189A1(参照により本明細書に援用される)に見出される。
【0157】
一部の実施形態では、ベクターセットは、1つ以上のRRSを認識するリコンビナーゼをコードするヌクレオチド配列を含み、それらはHCFコードベクターもしくはLCFコードベクターの内の1つに含まれてもよく、または別個のベクター中で提供されてもよい。
【0158】
様々なその他の実施形態では、相同組み換えを介した部位特異的統合を実施するためのベクターが提供される。
【0159】
一部の実施形態では、2つのベクターを含むベクターセットが提供され、各ベクターは、細胞中の2つの発現強化座位への部位特異的な統合を行うための5’相同アームと3’相同アームに隣接される外因性核酸を含有し、この場合において当該2つのベクターの当該外因性核酸はともに抗原結合タンパク質をコードする。ゆえに1つのベクター上の相同アームは、2つの座位の内の1つへの統合用に設計され、他方のベクター上の相同アームは、他方の座位への統合用に設計される。これらの実施形態では、抗原結合タンパク質は、一特異性または二特異性であってもよい。
【0160】
発現強化座位内の配列に相同な配列を選択し、標的化ベクター中に相同アームとして当該選択された配列を含ませることは、当業者の技術範囲内にある。一部の実施形態では、ベクターまたは構築物は、第一の相同アームと第二の相同アームを備え、この場合において、組み合わされた第一および第二の相同アームは、座位内で、内因性配列を置き換える標的配列を備える。他の実施形態では、第一および第二の相同アームは、座位内の内因性配列内に統合される、または挿入される標的配列を備えている。一部の実施形態では、相同アームは、配列番号1、配列番号2、または配列番号3に存在するヌクレオチド配列に対し相同なヌクレオチド配列を含有する。特定の実施形態では、ベクターは、配列番号3のヌクレオチド1001~2001に相当するヌクレオチド配列を有する5’相同アームと、配列番号3のヌクレオチド2022~3022に相同するヌクレオチドを有する3’相同アームを含有する。相同アーム、たとえば第一の相同アーム(5’相同アームとも呼ばれる)と、第二の相同アーム(3’相同アームとも呼ばれる)は、座位内の標的配列に対し相同である。5’から3’の方向に相同アームは、少なくとも1kb、または少なくとも2kb、または少なくとも3kb、または少なくとも4kb、または少なくとも5kb、または少なくとも10kbを備える、座位内の領域または標的配列を伸長してもよい。他の実施形態では、第一および第二の相同アームに選択された標的配列のヌクレオチドの総数は、少なくとも1kb、または少なくとも2kb、または少なくとも3kb、または少なくとも4kb、または少なくとも5kb、または少なくとも10kbを含有する。一部の例では、5’相同アームと3’相同アームの間の距離(標的配列に対し相同)は、少なくとも5bp、10bp、20bp、30bp、40bp、50bp、60bp、70bp、80bp、90bp、100bp、200bp、300bp、400bp、500bp、600bp、700bp、800bp、900bp、または少なくとも1kb、または少なくとも約2kb、または少なくとも約3kb、または少なくとも約4kb、または少なくとも5kb、または少なくとも約10kbを含有する。配列番号3のヌクレオチド1001~2001と2022~3022が5’相同アームと3’相同アームに選択された場合の例では、その2つの相同アームの間の距離は、20ヌクレオチド(配列番号3のヌクレオチド2002~2021に相当する)であってもよい。かかる相同アームは、配列番号3を含有する座位内、たとえば配列番号3のヌクレオチド1990~2021または2002~2021内への外因性核酸配列の統合と、配列番号3のヌクレオチド2002~2021の同時削除を介在することができる。
【0161】
発現強化座位内へ部位特異的統合を行うための外因性核酸を導入するための本明細書に開示されるベクターは、追加の遺伝子と、対象の外因性核酸とコードされるポリペプチドの発現を指示するための配列、および対象の外因性核酸の統合が成功した細胞の選択と特定のための配列を含んでもよい。かかる追加配列としては、たとえば転写及び翻訳の制御配列、選択マーカー遺伝子、およびそれに類するものが挙げられ、本明細書において以下にも記載されている。
【0162】
制御配列
部位特異的な様式で発現強化座位内に外因性核酸を導入するための本明細書に開示されるベクター、および部位特異的統合の結果として得られた細胞は、対象の外因性核酸、およびコードされるポリペプチドの発現を指示するための制御配列を含んでもよい。制御配列としては、転写プロモーター、エンハンサー、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の停止を管理する配列が挙げられる。転写管理配列および翻訳管理配列は、ウイルス性の供給源によって提供されてもよい。たとえば、普遍的に使用されているプロモーターとエンハンサーは、たとえばポリオーマ、アデノウイルス2、シミアンウイルス40(SV40)、マウスまたはヒトのサイトメガロウイルス(CMV)、CMV前初期(CMV-IE)またはCMV主要IE(CMV-MIE)プロモーター、ならびにRSV、SV40後期プロモーター、SL3-3、MMTV、ユビキチン(Ubi)、ユビキチンC(UbC)、およびHIV LTRプロモーターに由来する。ウイルス性ゲノムプロモーター、制御配列、および/またはシグナル配列は、発現を駆動するために利用されてもよく、提供されたかかる制御配列は、選ばれた宿主細胞と両立する。対象タンパク質が発現される細胞型に応じて、非ウイルス性細胞プロモーター(例えば、β-グロビンおよびEF-1αプロモーター)を使用することもできる。外因性DNA配列の発現に有用なその他の遺伝子要素を提供するために、SV40ウイルス性ゲノムに由来するDNA配列、例えば、SV40起源の前期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライス、ならびにポリアデニル化部位を使用してもよい。前期プロモーターおよび後期プロモーターは特に有用である。その理由は、両プロモーターとも、断片としてSV40ウイルスから用意に取得され、これらも複製のSV40ウイルス起源を含むためである(Fiers et al.,Nature 273:113,1978)。より小さいSV40断片またはより大きいSV40断片も使用されてもよい。典型的には、Hind III部位から複製のSV40起源に位置付けられたBglI部位に向かって延在するほぼ250bpの配列が含まれる。誘導性(たとえば化合物、補因子、制御性タンパク質により誘導される)および/または抑制性(たとえば化合物、補因子、制御性タンパク質により抑制される)のプロモーターを使用することができ、それらは、生産期(流加培養)でのみ抗原結合タンパク質の産生を発生させ、増殖期(シードトレイン(seed train)培養)の間は発生させないこと、または異なる座位の抗体構成要素の発現を特異的に正確に管理することが可能であるため、特に有用である。誘導性プロモーターの例としては、アルコール脱水素酵素I遺伝子プロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター系、グルココルチコイド受容体プロモーター、エストロゲン受容体プロモーター、エクジソン受容体プロモーター、メタロチオネイン系プロモーター、およびT7ポリメラーゼ系プロモーターが挙げられる。抑制性プロモーターの例としては、少なくとも1つのTetRオペレーター(TetO)またはArcオペレーター(ArcO)に動作可能に連結されたCMVプロモーターまたはその他のプロモーターを含有するハイブリッドプロモーター(制御性融合タンパク質とも呼称される)が挙げられ、それらは2003年12月11日に公開された国際特許出願公開WO03101189A1に記載されている(参照により本明細書に援用される)。バイシストロニックベクターを介した複数の転写物の発現に適した配列は従前に報告されており(Kim S.K.and Wold B.J.,Cell 42:129,1985)、これを本発明に使用することができる。タンパク質のマルチシストロニック発現に好適な戦略例としては、2Aペプチド(Szymczak et al.,Expert Opin Biol Ther 5: 627-638(2005))の使用、および内部リボソーム進入部位(「IRES」)の使用が挙げられ、それらは両方とも当分野に公知である。その他のタイプの発現ベクターも有用であり、例えば、米国特許第4,634,665号(Axelら)および米国特許第4,656,134号(Ringoldら)に記述されるものがある。
選択マーカー
【0163】
部位特異的な様式で発現強化座位内に外因性核酸を導入するための本明細書に開示されるベクター、および部位特異的統合の結果として得られた細胞は、1つ以上の選択マーカー遺伝子を含んでもよい。
【0164】
一部の実施形態では、選択マーカー遺伝子はたとえばKaufman,R.J.(1988)Meth.Enzymology 185:537に記載されるものなど、薬剤耐性を寄与するものであり、DHFR-MTX抵抗性、P-糖たんぱく質および多剤耐性(MDR)-様々な脂溶性細胞毒性剤(たとえば、アドリアマイシン、コルヒチン、ビンクリスチン)、およびアデノシンデアミナーゼ(ADA)-Xyl-A、またはアデノシンおよび2’-デオキシコホルマイシンへの耐性が挙げられる。他の主要な選択マーカーとしては、たとえばネオマイシン抵抗性、カナマイシン抵抗性、またはハイグロマイシン抵抗性などの微生物由来抗生物質抵抗性遺伝子が挙げられる。いくつかの適切な選択システムが、哺乳類宿主用に存在している(Sambrook、上記、頁16.9-16.15)。2つの主要選択マーカーを用いた共トランスフェクションのプロトコールも報告されている(Okayama and Berg,Mol.Cell Biol 5:1136,1985)。
【0165】
他の実施形態では、選択マーカー遺伝子は、場合により挿入および/もしくは置換が成功した、または成功していない遺伝子カセットの認識用の検出シグナルを提供する、または検出シグナルを生成することができるポリペプチドをコードする。適切な例としては、とくに蛍光マーカーまたはタンパク質、検出シグナルを生成する化学反応を触媒する酵素が挙げられる。蛍光マーカーの例は当分野に公知であり、限定されないが、Discosomaサンゴ(DsRed)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)、藍色蛍光タンパク質(CFP)、高感度藍色蛍光タンパク質(eCFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、高感度黄色蛍光タンパク質(eYFP)、および近赤外蛍光タンパク質(たとえば、mKate、mKate2、mPlum、mRaspberryまたはE2-クリムゾン)が挙げられる。たとえば、Nagai,T.,et al.2002 Nature Biotechnology 20:87-90;Heim,R.et al.1995年2月23日 Nature 373:663-664;およびStrack,R.L.et al.2009 Biochemistry 48:8279-81を参照のこと。
【0166】
抗原結合タンパク質を作製するためのシステム
さらなる態様において、本開示は、1つ以上のベクターと細胞(たとえばCHO細胞)の組み合わせを含み、および2つの発現強化座位内に外因性核酸が統合された細胞の作製に利用可能なシステムを提供するものであり、当該外因性核酸はともに一特異性タンパク質または二特異性タンパク質いずれかの抗原結合タンパク質をコードする。当該システムは、たとえばキットの形態で提供されてもよい。
【0167】
一部の実施形態では、システムは、効率的なベクター構築、および2つの発現強化座位内の特定の部位へのRMCEを介した複数外因性核酸の同時統合を可能とするよう設計される。同時統合により、所望されるクローンの迅速な単離が可能となり、2つの発現強化座位の使用は、タンパク質産生に適した安定細胞株(たとえば市販が可能な細胞株)の生成にも重要である。
【0168】
本明細書に提供されるシステムは、細胞およびベクターセットを含む。細胞は、2つの発現強化座位の各々に統合された1ペアのRRS(5’RRSと3’RRS)を含有する。一部の実施形態では、外因性核酸は、各座位で5’RRSと3’RRSの間に存在し、そしてたとえば1つ以上の選択マーカー遺伝子を含有してもよい。ベクターセットは、少なくとも2つのベクターを含み、各ベクターは、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列に隣接する1ペアのRRS(5’RRSと3’RRS)を含有し、2つのベクターの内の1つのヌクレオチド配列は、HCFをコードし(HCFベクター)、2つのベクターの内の他方のヌクレオチド配列は、LCFをコードし(LCFベクター)、この場合においてHCFとLCFは、抗原結合タンパク質の領域である。RRSの各ペア内の5’RRSと3’RRSは異なっており、システムのRRSは、ベクターが細胞内に導入されることで、ベクター中のHCFコードヌクレオチド配列またはLCFコードヌクレオチド配列が、RRSにより介在されるRMCEによって2つの発現強化座位内に統合され、抗原結合タンパク質が発現されるように設計される。抗原結合タンパク質に応じて、ベクター数、HCFまたはLCFコード配列の配置、およびRRS間の関係性を別々に設計することができる。
【0169】
一部の実施形態では、システムは、2つの発現強化座位内への統合、および一特異性抗原結合タンパク質の発現を目的に設計される。一部の実施形態では、2つのベクター(すなわちHCFベクターとLCFベクター)の内の1つの5’RRSと3’RRSはそれぞれ、当該2つの座位の内の1つの5’RRSと3’RRSと同一であり、他方のベクターの5’RRSと3’RRSは、他方の座位の5’RRSと3’RRSと同一であり、本質的に、HCF核酸およびLCF核酸を別個に2つの座位にそれぞれ1つずつ標的化する。他の実施形態では、HCFコード配列およびLCFコード配列は、別個のベクター上にありながら、2つの座位の各々に一緒に統合されるように設計される。これらの実施形態によると、第一の座位の5’RRSと3’RRSはそれぞれ、第二の座位の5’RRSと3’RRSと同一である。各座位は、5’RRSと3’RRSの間に追加のRRS(中間RRS)をさらに含有する。さらに、最初の2つのベクター中の5’RRSは、第一および第二の座位中の5’RRSと同一であり、その第一ベクター中の3’RRSは、第二ベクター中の5’RRSならびに第一および第二の座位中の中間RRSと同一であり、第二ベクター中の3’RRSは、両座位中の3’RRSと同一である。ベクターは、分割プロモーターと選択マーカーの形式を有するよう設計されてもよい(1つのベクター上のプロモーターと、当該プロモーターが別のベクター上で動作可能に連結される選択マーカー)。ベクターは、適切な統合がなされたトランスフェクタントの選択を促進するための分割選択マーカー形式または分割イントロン形式を有するよう設計されてもよい。さらにシステムは、統合後にLCFコード配列とHCFコード配列の相対的位置が異なるよう設計されてもよい。一部の実施形態では、システムは、HCFコード配列の上流に統合されたLCFコード配列を有するよう設計される。他の実施形態では、システムは、HCFコード配列の上流に統合されたLCFコード配列を有するよう設計される。
【0170】
一部の実施形態では、システムは、2つの発現強化座位内への統合、および二特異性抗原結合タンパク質の発現を目的に設計される。
【0171】
一部の実施形態では、HCFベクター(第一のHCFをコードする)と、LCFベクター(第一LCFをコードする)に加えて、システムは、第一のHCFとは異なる第二のHCFをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、たとえば、LCFベクター中、または別個のベクター、すなわち第二のHCFベクター中に含有されてもよい。一部の実施形態では、第二のHCFをコードする配列は、LCFベクター上の5’RRSと3’RRSの間で、LCFベクター中に含有され、その場合、当該システムは、HCFベクターと、LCF/HCFベクターを含有する。システム、特にRRSは、HCFコード配列を2つの座位の内の1つに統合し、HCFとLCFの両方をコードする配列を他の座位に統合するように設計されてもよい。他の実施形態では、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、別個のベクター上にあり、5’RRSと3’RRSに隣接され、この場合、システムは、2つのHCFベクターと1つのLCFベクターを含有する。これらのその他の実施形態では、システムのRRSは、LCFコード配列が、RMCEを介して共通RRSによりHCFコード配列の内の1つに「結合され得る」ように設計されてもよく、当該座位の5’RRSと3’RRSの間の共通RRSは2つの座位の内の1つにも存在し、他方のHCFコード配列は、当該2つの座位の内の他方に統合される。たとえば、LCFベクターの3’RRSは、1つのHCFベクターの5’RRSと同一であってもよく、また、2つの座位の内の1つの中間RRSとも同一であってもよい。この設計により、中間RRSを有する座位への統合後、LCF-HCFの配列が発生する。別の例では、HCFベクターの3’RRSは、LCFベクターの5’RRSと同一であってもよく、および2つの座位の内の1つの中間RRSと同一であってもよく、それにより中間RRSを有する座位での統合後、HCF-LCFの配列が発生する。一部の実施形態では、共通RRSは、本明細書において上述されるように分割選択マーカー形式、または分割イントロン形式で設計される。
【0172】
一部の実施形態では、HCFベクター(第一のHCFをコードする)とLCFベクター(第一LCFをコードする)、および第一のHCFとは異なる第二のHCFをコードするヌクレオチド配列に加えて、システムは、第二LCFをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。すなわち、システムは、4つの別個のコード配列を含み、2つはHCFを、2つはLCFをコードする。2つのLCFは同一であっても、異なっていてもよい。4つのコード配列は、異なる設計で、ベクター中に配置されてもよい。一部の実施形態では、4つの配列は、以下の2つのベクター中に配置される:LCF/HCFおよびLCF/HCF。LCFは、いずれかベクター中のHCFの上流または下流のいずれかにある。システム(RRS)は、1つのベクター配列が、1つの座位に統合され、他方のベクター配列が、他方の座位に統合されるように設計されてもよい。一部の実施形態では、4つの配列は、以下の3つのベクター中に配置される:LCF、HCF、およびLCF/HCF(LCFは、HCFの上流または下流のいずれかにある)。システムのRRSは、LCFベクター、HCFベクター、およびこの他方の座位に共有される共通RRSを利用することにより、LCF/HCFベクター中の配列が1つの座位に統合され、LCFベクター中のLCFコード配列とHCFベクター中のHCFコード配列が他方の座位に統合されるように設計されてもよい。、同様に、共通RRSは、分割マーカー形式または分割イントロン形式で設計されてもよい。一部の実施形態では、4つの配列は、以下の4つのベクター中に配置される:LCF、HCF、LCF、およびHCF。システムのRRSは、LCFベクターの内の1つのLCFコード配列と、HCFベクターの内の1つのHCFコード配列が、共通RRSを使用することにより1つの座位に一緒に統合され、そして他方のLCFベクターのLCFコード配列と、他方のHCFベクターのHCFコード配列が、共通RRSを使用することにより1つの座位に一緒に統合されるように、設計されてもよい。
【0173】
本明細書に提示されるシステムの様々な実施形態では、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、定常領域由来のアミノ酸、たとえばアミノ酸またはドメインをコードしてもよく、または定常領域全体をコードしてもよい。特定の実施形態では、HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、1つ以上の定常ドメイン、たとえばCL、CH1、CH2、CH3またはそれらの組み合わせをコードしてもよい。ある実施形態では、HCFドメインをコードするヌクレオチド配列は、CH3ドメインをコードしてもよい。たとえば、第一のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第一のCH3ドメインをコードしてもよく、第二のHCFをコードするヌクレオチド配列は、第二のCH3ドメインをコードしてもよい。第一および第二のCH3ドメインは同一であってもよく、または少なくとも1つのアミノ酸が異なっていてもよい。CH3ドメインにおける差異、または定常領域における差異は、本明細書に記載される二特異性抗原結合タンパク質に対する形式のいずれも取ることができ、たとえば異なるプロテインA結合特性を生じさせる差異、または「knob-and-hole」形式を生じさせる差異がある。いずれのアミノ酸配列の差異にも関係なく、2つのHCFコードヌクレオチド配列は、当該2つのヌクレオチド配列の内の1つがコドン改変されているという点で異なっていてもよい。
【0174】
本明細書に提供されるシステムの様々な実施形態では、各HCFまたはLCFをコードするヌクレオチド配列は、独立して、たとえばプロモーターをはじめとする転写制御配列に動作可能に連結される。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターは同じである。一部の実施形態では、2つのHCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーター、ならびにLCF含有ポリペプチドの転写の指示を行うプロモーターはすべて同じである(たとえばCMVプロモーター、誘導性プロモーター、抑制性プロモーター、または本明細書に記載される任意のその他の適切なプロモーターなど)。
【0175】
一部の実施形態では、本発明のシステムは、1つ以上のRRSを認識するリコンビナーゼをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、それらは可変領域をコードするベクターの内の1つに含まれてもよく、または別個のベクター中で提供されてもよい。
【0176】
本明細書に開示されるシステムは、ベクターの効率的な構築と、所望されるクローンの迅速な単離を可能とするように設計され、2つの発現強化座位の使用も、安定細胞株の生成に重要である。一部の実施形態では、システムは、意図された部位特異的統合を有する形質転換体を特定するためのネガティブ選択を使用するよう設計される(たとえば、RMCE後に除去される宿主ゲノム中の1つ以上の蛍光マーカー遺伝子から生じる蛍光の欠落など)。1ラウンドのネガティブ選択はたった2週間で済む場合があるが、意図される組み換えを伴うクローンの単離効率は限定的である(約1%)。統合される核酸によりもたらされる新たな選択マーカー(たとえば新たな蛍光マーカー、または薬剤もしくは抗生物質に対する抵抗性をたとえば分割形式で)に基づき、ネガティブ選択とポジティブ選択を組み合わせた場合、意図される組み換えを伴うクローンの単離効率を大幅に改善することができる(~約40%、最大で約80%)。システムは、追加の構成要素、試薬、または情報、たとえばトランスフェクションによる、システムの細胞内へのシステムのベクター導入に関するプロトコールなどを含んでもよい。非限定的なトランスフェクション方法としては、化学系のトランスフェクション法が挙げられ、リポソーム、ナノ粒子、リン酸カルシウム(Graham et al.(1973)Virology 52(2): 456-67,Bacchetti et al.(1977)Proc Natl Acad Sci USA 74(4): 1590-4 and,Kriegler,M(1991)Transfer and Expression: A Laboratory Manual.New York: W.H.Freeman and Company.pp.96-97)、デンドリマー、またはたとえばDEAEデキストランもしくはポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーの使用が挙げられる。非化学的な方法としては、エレクトロポレーション法、ソノ-ポレーション法、および光学的トランスフェクション法が挙げられる。粒子系のトランスフェクション法としては、遺伝子銃、磁性補助トランスフェクション法(Bertram,J.(2006)Current Pharmaceutical Biotechnology 7,277-28)の使用が挙げられる。ウイルス法もトランスフェクションに使用することができる。mRNA送達は、TransMessenger(商標)およびTransIT(登録商標)(Bire et al.BMC Biotechnology 2013,13:75)を使用する方法が挙げられる。普遍的に使用されている細胞内に異種DNAを導入する1つの方法は、リン酸カルシウム沈殿法であり、たとえば、Wigler et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:3567,1980)に記載されている。細菌プロトプラストと、哺乳類細胞のポリエチレン誘導性融合(Schaffner et al.,(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:2163)は、もう1つの有用な異種DNA導入方法である。エレクトロポレーション法は、宿主細胞の細胞質内に直接DNAを導入するために使用することもでき、たとえば、Potter et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:7161,1988)またはShigekawa et al.(BioTechniques 6:742,1988)に記載されている。哺乳類細胞内への異種DNAの導入に有用な他の試薬は、たとえばLipofectin(商標)試薬およびLipofectamine(商標)試薬(Gibco BRL、米国メリーランド州、ゲイザースバーグ)などが報告されている。これらの市販の試薬は両方とも脂質-核酸複合体(またはリポソーム)を形成するために使用され、培養細胞に適用される場合、細胞内への核酸取り込みを促進する。
【0177】
抗原結合タンパク質の作製方法
本開示は、二特異性抗原結合タンパク質の作製方法もさらに提供する。本明細書に開示される方法を使用することで、所望される抗原結合タンパク質が、高い力価および/または高い特異的生産性(pg/細胞/日)で産生され得る。一部の実施形態では、抗原結合タンパク質は、少なくとも1g/L、1.5g/L、2.0g/L.2.5g/L、3.0g/L、3.5g/L、4.0g/L、4.5g/L、5.0g/L、10g/Lまたはそれ以上の力価で産生される。一部の実施形態では、抗原結合タンパク質は、1日当たり、1細胞当たりで産生される総抗原結合タンパク質(pg)に基づき決定される特異的生産性が、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ピコグラム/細胞/日(pcd)またはそれ以上で、産生される。一部の実施形態では、総抗原結合タンパク質力価に対する二特異性抗原結合タンパク質力価の比率が、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%またはそれ以上で、二特異性抗原結合タンパク質が産生される。
【0178】
1つの実施形態では、当該方法は、本明細書に開示されるシステムを利用し、そしてトランスフェクションによって当該システムの細胞内に、当該システムのベクターを導入する。RMCEを介して細胞の2つの発現強化座位内に外因性核酸が適切に統合されたトランスフェクト細胞がスクリーニングされ、特定されてもよい。一部の実施形態では、トランスフェクトされた細胞の特定は、トランスフェクションの前に宿主細胞中に存在した1つ以上の選択マーカーに対するネガティブ選択により実施される。他の実施形態では、トランスフェクトされた細胞の特定は、トランスフェクションの前に宿主細胞中に存在した1つ以上の選択マーカーに対するネガティブ選択と、統合されるよう設計されたベクター中の核酸によりもたらされる1つ以上の選択マーカーに基づいたポジティブ選択を組み合わせて実施される。HCF含有ポリペプチドおよびLCF含有ポリペプチドは、統合核酸から発現されることができ、対象の抗原結合タンパク質は、特定されたトランスフェクト細胞から取得され、公知の方法を使用して精製されることができる。
【0179】
別の実施形態では、当該方法は、本明細書において上述される細胞を単純に利用するものであり、当該細胞は、2つの発現強化座位で統合された外因性核酸を含有し、それら外因性核酸は抗原結合タンパク質をコードし、当該細胞から当該抗原結合タンパク質を発現させる。各クローン化された発現カセットは、各特定の統合部位内で連続的である。
【0180】
本明細書は、限定するものとして解釈すべきではない以下の実施例により、さらに例示される。全ての引用参考文献(本出願全体で引用される文献参照、発行特許、及び公表された特許出願を含む)は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【実施例0181】
実施例1:2つの特定の発現強化座位における、一特異性抗体(Abs)の(部位特異的統合を介した)発現
Ab鎖(AbC1、AbC2)はベクター内にクローニングされ、
図1に図示されるように、ベクター中でRSS部位は、Ab発現カセットと、選択マーカー用の発現カセットに隣接していた。2つのAb鎖は別個のベクターにクローニングされてもよく、または1つのベクター内で組み合わされてもよく、その中で2つの発現カセットは、以下の可能性のある順序のいずれか1つで、タンデムに配置される:AbC1、AbC2、および選択マーカー。たとえばAbC1は、従来的なLCと同等であり、AbC2は、従来的な重鎖と同等である。
【0182】
簡潔に述べると、VHドメインとVLドメインをコードするDNAは、PCRにより、単一抗原陽性B細胞から直接単離されてもよい。重鎖と軽鎖のPCR産物をそれぞれ、IgG重鎖定常領域とカッパ軽鎖定常領域を含有するSap I-直線化抗体ベクター内にクローニングした。重鎖プラスミド(AbC2)は、重鎖発現カセットに隣接するRRS3とRRS2の部位を有している。さらに、重鎖プラスミド中のRRS3のすぐ下流に、分割選択マーカー遺伝子がある(たとえば、US7582298)。軽鎖プラスミドは、軽鎖発現カセットに隣接するRRS1とRRS3の部位を有している。さらに軽鎖プラスミドは、RRS3で、ATGのすぐ前に強力なプロモーターを有している。そのため、宿主細胞の座位内にRRS3-近接プロモーターが統合されると、軽鎖プラスミド由来の開始ATGが、適切なリーディングフレームで、重鎖プラスミド中の選択マーカー遺伝子に隣接して置かれ、選択遺伝子の転写と翻訳が可能となる。次いで重鎖可変領域配列を有する精製組み換えプラスミドと、同じB細胞由来の軽鎖可変領域配列を有する精製組み換えプラスミドを混合して、リコンビナーゼを発現するプラスミドとともに改変CHO宿主細胞株内にトランスフェクトする。当該改変CHO宿主細胞株は適切なRSSと選択マーカーを、配列番号1(EESYR(登録商標)、座位1)と配列番号2の座位で有している。改変CHO宿主細胞株は、2つの転写活性座位で、4つの異なる選択マーカーを含有する。結果として、選択マーカーが異なる蛍光マーカーである場合、所望される細胞組換え体を表すポジティブ-ネガティブの組み合わせに対し、フローサイトメトリー法により産生CHO細胞を単離することができる。重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子を発現する組み換え型プラスミドがともに、リコンビナーゼを発現するプラスミドとともにトランスフェクトされる場合、当該リコンビナーゼに介在される部位特異的組み換えは、RRSを含有する各染色体の座位での抗体プラスミドの統合と、置換を生じさせる。したがって、一特異性抗体を発現する組み換え型細胞が単離され、12日間の流加培養に供され、その後、採取され、固定プロテインAを使用したOctet力価アッセイが行われる。細胞は同質遺伝子的であり、安定であることが確認された。小さな振とうフラスコ中の全体的な力価は、2座位統合法を使用した場合、一特異性抗体の発現の増加が観察され、抗体Bは大幅な増加を生じさせ、ほぼ二倍の力価であった(
図2)。
【0183】
実施例2:2つの特定の発現強化座位における、二特異性抗体(BsAbs)の(部位特異的統合を介した)発現
二特異性抗体の発現に関し、3つの抗体鎖と、2つの選択マーカーを、実施例1のプラスミドに類似したプラスミド内にクローニングした。それによりAbC1、AbC2、および選択マーカー1が、第一の座位または統合座位(EESYR(登録商標)、配列番号1、座位1)と適合するRRS部位に隣接され、AbC1、AbC3、選択マーカー2は第二の座位または統合部位と適合するRRS部位に隣接される。我々の観察では、従来的なLCとしてのAbC1は、適切な発現に対し、2遺伝子コピーは必要としない。各部位に対し、1つまたは2つのプラスミドを作製した。3つの発現カセットのいずれかがタンデムに配置され、または2つのプラスミド内に配置される。2つの発現カセットが1つのベクター内にクローニングされ、残りの発現カセットは第二ベクター内にクローニングされる。
図3を参照のこと。
【0184】
重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子を発現する組み換え型プラスミドがともに、リコンビナーゼを発現するプラスミドとともにトランスフェクトされる場合、当該リコンビナーゼに介在される部位特異的組み換えは、RRSを含有する各染色体の座位で、抗体プラスミドの統合と置換を生じさせる。したがって、二特異性抗体を発現する組み換え細胞が単離され、12日間の流加培養に供され、その後、採取されて、固定抗Fcと第二抗Fc*(改変Fc検出抗体。US2014-0134719A1を参照のこと。2014年5月15日公開)を使用してOctet力価アッセイを行った。細胞は同質遺伝子的であり、安定であることも観察された。小さな振とうフラスコ中の全体的な力価は、2座位統合法を使用した場合から、1.75倍~2倍超と有意に上昇したことが観察された(
図5)。
【0185】
実施例3:部位特異的統合後の二特異性抗体および一特異性抗体の大規模製造
宿主細胞(CHO-K1)は、上述のように実施例1に類似して作製された(二特異性抗体に関しては
図3、一特異性抗体に関しては
図1も参照のこと)。EESYR(登録商標)(座位1)と配列番号2(座位2)における遺伝子カセットのRMCEが可能な宿主細胞を、たった1つの統合部位(座位1/EESYR(登録商標))への遺伝子カセットのRMCEが可能な宿主細胞と比較した。抗体の軽鎖と重鎖(AbC1、AbC2、AbC3)を担持するベクターと、必要なRRSと選択マーカー核酸(
図3を参照)を、産生細胞株(RSX
2BP)へと組み換え、Ab E、Ab F、Ab G、およびAb Hを発現する宿主細胞を作製した。ゆえに、各二特異性抗体宿主細胞は、1つの共通軽鎖と、異なる抗原に結合する2つの重鎖を発現し、当該重鎖の内の1つは、そのCH3ドメイン中で操作され、プロテインAに別個に結合する(参照により本明細書に援用される米国特許第8,586,713号に記載される)。
【0186】
一特異性抗体に関しては、抗体の軽鎖と重鎖(AbC1、AbC2)はベクター内にクローニングされ、
図1に図示されるように、その中でRSS部位は、Ab発現カセットに隣接している(および発現カセットは選択マーカー遺伝子も提供する)。組み換えが実施され、Ab JとAb Kを発現する宿主細胞(RSX
2)が作製された。
【0187】
2L、15L、または50Lのバイオリアクターに、CHO-K1由来の抗体産生細胞株RSX2の種培養物が接種された。接種細胞を13日間、36.5℃で増殖させ、必要に応じてグルコースと他の補助栄養素を与えた。細胞は、化学的に規定された(加水分解物が無く、無血清)基礎培地中で増殖された。総抗体が採取され、精製が行われた。
【0188】
総IgG抗体(力価)は、プロテインA/プロテインGクロマトグラフィーの後に決定された。二特異性抗体に関しては、総IgG抗体、ならびに二特異性(ヘテロ二量体Fc/Fc*)、野生型重鎖とのホモ二量体(Fc/Fc)および改変重鎖とのホモ二量体(Fc*/Fc*)を含む3種の抗体の各々が測定され、所望される二特異性抗体種の比率が決定された。総力価は、プロテインA/プロテインGカラムを使用したHPLC法により、米国特許第8,586,713号に記載される溶出法を用いて決定された。簡潔に述べると、3つのバイオリアクター種は、サンプルローディングの間にカラムに結合し、二特異性種(Fc/Fc*)は、イオン調節剤の存在下のpH段階勾配を用いることで、プロテインAから最初に溶出される。最初の溶出工程の間に二特異性種が集められ、その後、2つのホモ二量体種が溶出される。
【0189】
表1は、2つの統合座位を介して抗体を発現する宿主細胞を使用することで、試験的な大規模製造培養における全体的な(総)IgG力価と、二特異性抗体力価(
図6A)が大幅に改善されたことを示す。
【0190】
【0191】
二特異性力価は上述のように決定された。表2にみられるように、細胞により産生された総IgG力価の比率としての二特異性抗体の力価は、2つの統合部位構造を有する宿主細胞の製造培養において有意に高い。
図6Bを参照のこと。実際に50%以上の二特異性の比率が一貫して得られたことは予想外であった。
【0192】
【0193】
全体的なIgG力価における改善を決定するために、2統合部位法を使用して一特異性抗体が発現された。表3は、大規模バイオリアクターにおける全体的な力価が、0.6倍から1.3倍に有意に上昇したことが観察されたことを図示する。
図7も参照のこと。製造で使用される生産バイオリアクター、特に500Lから最大で10,000Lの培養量のもので、これら改善細胞株の使用により力価の上昇が観察され、バッチ当たりの生産量の有意な上昇と同等であった。
【0194】
【0195】
前述の本発明は、解説および例示を目的としていくらか詳細に記載されているが、当分野の当業者には、添付の請求項の主旨または範囲から逸脱することなく、本発明技術に対してある変更および修飾が為され得ることを用意に理解されるであろう。
配列
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【表4-7】
【表4-8】
【表4-9】
【表4-10】
【表4-11】
【表4-12】