(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002346
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】積層造形物およびその原料粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20231228BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20231228BHJP
C22C 9/01 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F10/25
C22C9/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101475
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池畑 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】角田 貫一
(72)【発明者】
【氏名】宮下 広司
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018BA02
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
(57)【要約】
【課題】指向性エネルギー堆積法(DED)に適した銅基材からなる原料粉末を提供する。
【解決手段】本発明は、DEDに用いられる一種以上の金属粉末からなる原料粉末である。原料粉末は、その全体を100質量%(単に「%」という。)として、Alを1.4~5%含み、残部がCuからなる。この原料粉末を用いて、DEDの一種であるレーザメタルデポジション(LMD)等を行うと、例えば、表面域で酸化スケールの生成を抑制しつつ、薄い酸化アルミニウム膜で被覆された銅特有の光沢がある積層造形物が得られる。その原料粉末は、赤外線レーザ(波長域:1070nm付近)の吸収率にも優れるため、レーザ出力を過大にするまでもなく、走査速度を高めた効率的な積層造形が可能となる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種以上の金属粉末からなり、
粉末全体を100質量%(単に「%」という。)として、Alを1.4~5%含み、残部がCuからなる指向性エネルギー堆積法に用いられる原料粉末。
【請求項2】
合金粒子からなる請求項1に記載の原料粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の原料粉末を用いて指向性エネルギー堆積法により得られる積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザメタルデポジション(LMD: Laser Metal Deposition)等の指向性エネルギー堆積法(DED: Directed Energy Deposition)に用いられる原料粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の除去加工(切削、研削、切断等)や成形加工(鋳造、鍛造、プレス等)とは異なり、専用の型や大型の工作機械等を必要とせず、所望の造形物が得られる付加加工(AM:Additive Manufacturing)が注目されている。積層を繰り返す付加加工(「積層造形」という。)によれば、従来の加工方法では製作が困難であった造形物(「積層造形物」という。)も得られる。
【0003】
付加加工(積層造形)は、大別して7種類に分類される(ASTM規格)。具体的にいうと、指向性エネルギー堆積法(DED)、粉末床溶融結合法(PBF:powder bed fusion)、結合剤噴射法(binder jetting)、材料噴射法(material jetting)、材料押出法(material extrusion)、液槽光重合法(vat photopolymerization)およびシート積層法(sheet lamination)の各方式がある。
【0004】
このうち、DEDやPBFによれば、樹脂製の造形物に限らず、金属製やセラミック製の実用的な造形物が得られる。DEDとPBFはいずれも、高エネルギービーム(熱源)で原料粉末を溶融凝固(結合)させて造形物を得る点で共通する。DEDによれば、PBFよりも原料粉末の使用量を抑制した効率的な造形が可能となる。またDEDは、PBFよりも一般的に、積層対象(ベース)、造形雰囲気、原料粉末の選択・変更、装置構成等に係る自由度が大きい。
【0005】
ところで、鉄基材やアルミニウム基材等からなる積層造形物の他、導電性や熱伝導性等に優れる銅基材からなる積層造形物も求められている。これに関連する記載が下記の各文献にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Selective laser melting of pure Cu with a 1 kW single mode fiber laser, Procedia CIRP, 74(2018), pp.59-63.
【非特許文献2】金属3Dプリンティング用銅合金粉末の造形体に及ぼすZr添加量の影響,Sanyo Technical Report Vol.27 (2020) No.1, pp.40-46.
【非特許文献3】TruPrint 1000 Green Edition,https://www.trumpf.com/filestorage/TRUMPF_Master/Products/Machines_and_Systems/ 02_Brochures/TRUMPF-TruPrint-1000-Green-Edition-flyer-EN.pdf
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-197389
【特許文献2】特開2019-35134
【特許文献3】特開2017-115220
【特許文献4】特開2019-151872
【特許文献5】特開2020-59870
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1からわかるように、純銅は一般的な加熱源である赤外線レーザ(「IRレーザ」という。)の吸収率が低い。このため、純銅からなる原料粉末を用いた積層造形は、高出力なIRレーザを低速度で走査させる特定条件下でのみ可能になる。
【0009】
そこで、IRレーザの吸収率を高めた銅合金からなる原料粉末を積層造形に用いることが提案されている。例えば、非特許文献2はCu-Zr系合金粉末を、特許文献1、2はCu-Cr系合金粉末を、特許文献3はCu-Al系合金粉末(Al:0.2~1.3質量%)を、特許文献4はCu-S-B系合金粉末を、特許文献5はCu-Mo系合金粉末をそれぞれ提案している。
【0010】
これらの銅合金粉末(原料粉末)はいずれも、非酸化雰囲気中でなされるPBF(特にSLM:Selective Laser Melting)に用いられることを前提に、積層造形物の強度、導電性、熱伝導性等とレーザの吸収率とを両立させるように合金設計されている。
【0011】
しかし、そのような原料粉末をそのまま用いてDEDを行なうと、表面が酸化スケール(Cu系酸化物)で覆われた積層造形物が得られる。その積層造形物の外観は、銅特有な赤橙色系ではなく黒色系となる。また酸化スケールの生成も多く、積層造形物の寸法精度の確保が難しい。さらに積層造形物の金属組織は、多くの酸化物を内包した状態(「内部酸化」という。)となり易い。
【0012】
なお、非特許文献3は、銅に対する吸収率がIRレーザよりも高いグリーンレーザを用いた積層造形を提案している。しかし、グリーンレーザ装置は高価であり、一般的に普及しているIRレーザを用いた積層造形が望まれている。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、DEDに適した銅基材からなる原料粉末等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意研究した結果、所定組成のCu-Al系合金からなる原料粉末を用いてDED(LMD等)することにより所望の積層造形物が得られることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0015】
《原料粉末》
本発明は、一種以上の金属粉末からなり、粉末全体を100質量%(単に「%」という。)として、Alを1.4~5%含み、残部がCuからなる指向性エネルギー堆積法に用いられる原料粉末である。
【0016】
本発明の原料粉末を用いれば、大気雰囲気や準大気雰囲気などの酸化雰囲気(例えば酸素濃度が1体積%(モル%)以上)中でDED(LMD等)を行なったときでも、外観、精度、金属組織等が良好な銅基材からなる積層造形物を効率的に得ることが可能となる。
【0017】
この理由は次のように推察される。先ず、本発明の原料粉末は高エネルギービーム(レーザや電子ビーム等)の吸収性に優れる。このため、例えば、汎用的なIRレーザ(波長域:1070nm付近)を加熱源としつつも、比較的大きい走査速度で積層造形が可能になる。次に、その原料粉末をDEDにより溶融させたとき、所定量のAlがCu等よりも安定的に酸化され、積層造形物の表面に薄い酸化アルミニウム(Al2O3)膜が形成され得る。この酸化アルミニウム膜が保護膜として作用して、酸化の進行や酸化スケールの生成等が抑制され、所望の外観、精度、金属組織等を有する積層造形物が得られるようになる。
【0018】
《積層造形物・積層造形方法》
本発明は、積層造形物としても把握される。例えば、本発明は、上述した原料粉末を用いて指向性エネルギー堆積法により得られる積層造形物でもよい。積層造形物は、例えば、その全体を100%として、Alを1.4~5%含み、残部がCuであるCu基合金からなる。このような積層造形物は、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)を含む表面層(例えば厚さ3μm以下、1μm以下さらには0.5μm以下)を有する。
【0019】
本発明は、上述した原料粉末を用いて指向性エネルギー堆積法により積層造形物を得る積層造形方法として把握されてもよい。
【0020】
《その他》
(1)本発明の原料粉末は、酸化雰囲気で使用される他、非酸化雰囲気さらには不活性雰囲気で使用されてもよい。また本発明の原料粉末は、指向性エネルギー堆積法(DED)の他、粉末床溶融結合法(PBF)等に用いられてもよい。本明細書でいうDEDには、いわゆる三次元積層造形法の他、レーザクラッドやレーザ肉盛(溶接)等が含まれる。
【0021】
原料粉末を溶融させる(溶融池を形成させる)熱源(高エネルギービーム/指向性ビーム)として、IRレーザの他、グリーンレーザ、電子ビーム、プラズマアーク等が用いられてもよい。本明細書では、便宜上、DEDの代表例として、IRレーザ(ビーム)を熱源としたLMDを取り上げて説明する。
【0022】
(2)特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】LMDにより製作した積層造形物(Cu-3%Al)の外観写真である。
【
図1B】LMDにより製作した積層造形物(Cu-1.3%Cr)の外観写真である。
【
図2】積層造形物(Cu-3%Al)のSEM像とEPMA像である。
【
図3】銅基材に関するレーザ波長と吸収率の関係を示すグラフである。
【
図4A】銅合金(Cu-3%Al)について、酸化物(Al
2O
3)が形成される領域を示す。
【
図4B】銅合金(Cu-5%Cr)について、酸化物(Cr
2O
3)が形成される領域を示す。
【
図5A】浮遊造形法により製作した積層造形物(Cu-3%Al)の外観写真である。
【
図5B】浮遊造形法により製作した積層造形物(Cu-1.3%Cr)の外観写真である。
【
図6A】積層造形物(Cu-3%Al)の金属組織写真である。
【
図6B】積層造形物(純Cu)の金属組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、原料粉末としてのみならず、その原料粉末を用いた積層造形方法や積層造形物等にも適宜該当する。
【0025】
《原料粉末》
(1)原料粉末は、一種以上の金属粉末からなる。原料粉末は、所望組成に調製された一種の銅合金粉末だけで構成されてもよいし、合金粉末(金属間化合物粉末を含む。)や純金属粉末(Cu粉、Al粉等)を配合した複数種の金属粉末で構成されてもよい。
【0026】
複数種の金属粉末は、予め混合されていてもよいし、溶融時に混合されてもよい。例えば、後者の場合なら、複数種の金属粉末を区画して収容したフィーダ(粉箱)から、選択された金属粉末が所望の配合割合でノズルへ搬送されてもよい。これにより、複数種の金属粉末は、指向性エネルギービームや溶融池と接触して溶融混合され、均一な所望組成の液相となる。なお、各粉末の搬送は、例えば、キャリアガス(通常、窒素やアルゴン等の不活性ガス)によりなされる。
【0027】
予め所望組成に調整された合金粒子からなる原料粉末を用いると、その取扱が容易となる。原料粉末は、例えば、水アトマイズ、ガスアトマイズ、ガス・水アトマイズ等により得られる。
【0028】
(2)原料粉末全体は、その全体を100%として、例えば、Alを1.4~5%、1.5~4.5%、2~4%または2.5~3.5%含む。なお、本明細書でいう成分組成(%)は、特に断らない限り、対象物全体に対する質量割合(質量%)である。Alが過少では、積層造形物の表面における酸化アルミニウム膜(保護膜)の形成が不十分となる。Alが多くなるほど酸化アルミニウム膜は形成され易くなるが、Alが多くなると積層造形物の電気伝導率等が低下し易くなる。
【0029】
Al以外の主たる残部はCuである。原料粉末中には、技術的または経済的に除去し難い(不可避)不純物が含まれ得る。積層造形物の特性改善を図れる不純物以外の改質元素(例えば、Su(スズ)等)が原料粉末中に含まれてもよい。不純物や改質元素は、例えば、原料粉末全体に対して、0.5%以下(未満)、0.3%以下(未満)さらには0.1%以下(未満)であるとよい。
【0030】
(3)原料粉末はノズルへの搬送が可能で、溶融池で略均一的な液相となる限り、その粒子形態(形状、サイズ)は問わない。敢えていうなら、例えば、原料粉末の粒度を5~150μmさらには20~105μmとしてもよい。粒度は、例えば、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分け法で規定される。粒度「x~y」の粉末は、篩目開きx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。「y未満」は、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。
【0031】
《積層造形物》
(1)原料粉末をDED(LMD等)して得られる積層造形物(単に「造形物」という。)は、積層数、形態(形状、大きさ)等を問わないが、用途に応じた金属組織を有するとよい。例えば、その結晶粒の平均粒径は0.1~1000μmである。より具体的にいうと、高強度が必要な部材なら結晶粒の平均粒径は0.1~10μm、耐熱強度(耐クリープ性)が必要な部材なら500~1000μm以上であるとよい。
【0032】
平均粒径は、例えば、造形物から切り出した試験片を、電子顕微鏡(SEM等)や結晶方位解析装置で観察・解析して得られた特定視野(500μm×1000μm)内における結晶粒サイズの算術平均値として求まる。結晶粒サイズは、各結晶粒の面積(s)と同じ面積を有する円の直径(d =2√(s/π))として求まる円相当径(d)とする。このような値の算出は、例えば、顕微鏡の観察像等を画像処理して求められる。
【0033】
本発明の原料粉末を用いたDEDにより得られる積層造形物の金属組織は、例えば、面心立方格子構造(fcc)の結晶粒と、Al系酸化物(Al酸化物の他、Al-Cu系複合酸化物等を含む)からなる最表層とを有する。
【0034】
(2)造形物の用途は種々あり得る。上述した成分組成のCu基合金からなる造形物は、導電性(電気伝導率)、熱伝導性、抗菌効果等に優れるため、例えば、導電部材、放熱部材、包丁等に用いられる。
【実施例0035】
DEDにより銅基材からなる試料(積層造形物)を製造し、その外観や金属組織等を評価した。このような具体例に基づいて、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
【0036】
[第1実施例]
《試料の製造》
(1)原料粉末
原料粉末として、純Cu粉末、Cu-1.5%Al粉末、Cu-3%Al粉末、Cu-1.3%Cr粉末を用意した。いずれの粉末もガスアトマイズ粉であり、それらの粒度は25~105μmであった。なお、各粉末の成分組成は質量割合である。
【0037】
(2)積層造形
各原料粉末をLMD装置(エンシュウ株式会社製レーザー加工試験機)のパウダーフィーダ(粉箱)に入れ、キャリアガス(N2)によりパウダーノズルへ供給した。
【0038】
そのLMD装置を用いて、室温大気雰囲気中で、基板(SS400(100×100×t10mm)上に、略立方体状(10mm×10mm×10mm)のブック(積層造形物/磁性部材)を製作した。
【0039】
加熱源である高エネルギービームには、IRレーザ(株式会社IPG製YLS-4000CW)を用いた。上記のブロックを製作するためにノズルを走査させた回数(積層数)は33とした。IRレーザの出力と走査速度は各原料粉末毎に調整した。例えば、純Cu粉末:2000W×10mm/min、Cu-3%Al粉末:1750W×2400mm/min、Cu-1.3%Cr粉末:2000W×2400mm/minとした。なお、スポット径はいずれも2000μmとした。
【0040】
《観察》
(1)外観
Cu-3%Al粉末とCu-1.3%Cr粉末を用いて得られた各ブロックの外観を、
図1Aと
図1B(両者を併せて「
図1」という。)に示した。
図1Aから明らかなように、Cu-3%Al粉末を用いたブロックの外観は、銅に特有な光沢がある赤橙色であった。一方、
図1Bから明らかなように、Cu-1.3%Cr粉末を用いたブロックの外観は、黒灰色であり、中央が窪んだ崩れた形状となった。
【0041】
(2)ブロックから切り出した試験片を、走査型電子顕微鏡(SEM)と電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察した。Cu-3%Al粉末を用いたブロックに係る観察像を
図2に示した。
【0042】
図2からわかるように、内部は主にCuからなり、表層域は主に酸化アルミニウムからなることがわかった。
【0043】
《評価》
(1)DED(LMD)条件
Cu-3%Al粉末を用いると、純Cu粉末等を用いるよりも、IRレーザの低出力化と走査速度の高速化を図れることがわかった。これは
図3に示すように、純CuよりもCu-3%Alの方が、IRレーザの波長域(1070nm付近)における吸収率が大きいためと考えられる。なお、
図3は、石英ガラスで囲んだ容器内に封入した粉末に対し、高感度・高分解の紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600/株式会社島津製作所製)とそのオプションである積分球(ISR-3100)とを用いて求めた。
【0044】
(2)被膜
Cu-3%Al粉末を用いたブロックの表面に酸化アルミニウム膜が安定形成された理由は次のように考えられる。Cu-3%AlとCu-5%Crについて、酸化物(Al
2O
3、Cr
2O
3)が形成される酸素分圧域を
図4Aと
図4B(両者を併せて「
図4」という。)にそれぞれ示した。
図4からわかるように、AlはCrより少量でも、より低い酸素分圧下で酸化物が安定的に形成され得る。このため、
図1Aに示すように、薄い透明な酸化アルミニウム膜がブロック表面に形成されて、光沢ある銅系色を発現するブロックが得られたと考えられる。なお、
図4は、多元系熱力学計算ソフトウェア(Themo-Calc)とそのデータベース(TCOX10)とを用いた熱力学計算から求めた。
図4中に示す平衡相分率は、雰囲気中の酸素分圧において安定となる酸化物(Al
2O
3やCr
2O
3)のモル分率を意味する。
【0045】
[第2実施例]
《試料の製作》
既述した原料粉末を用いて、DEDの一種である浮遊造形法により、棒状(線状)の積層造形物を製作した。得られた積層造形物を
図5A、
図5B(両者を併せて「
図5」という。)に例示した。なお、浮遊造形法は、特開2022-77054号公報の記載に沿って実施した。
【0046】
《観察》
(1)外観
図5Aからわかるように、Cu-3%Al粉末を用いた積層造形物は、銅に特有な光沢ある赤橙色となった。一方、
図5Bからわかるように、Cu-1.3%Cr粉末を用いた積層造形物は黒褐色であり、その表面に酸化スケールが多く観られた。
【0047】
(2)組織
各積層造形物から切り出した試験片をSEMで観察した。Cu-3%Al粉末と純Cu粉末を用いて得られた各積層造形物に係る観察像を、
図6Aと
図6B(両者を併せて「
図6」という。)に示した。
図6Aからわかるように、Cu-3%Al粉末を用いたときは、表層域に内部酸化組織(マトリックス中に酸化物粒子が分散した組織)は観察されなかった。一方、
図6Bからわかるように、純Cu粉末を用いたときは、表層域に内部酸化組織(Cu酸化物粒子が分散した組織)が観察された。
【0048】
[補足]
(1)Cu-1.5%Al粉末を用いたときも、銅に特有な光沢がある積層造形物が得られた。その金属組織をSEMとEPMAで確認したところ、表面にAl系酸化物が形成されていた。
【0049】
(2)原料粉末中におけるAl量の増加により、積層造形物の電気伝導率が低下し得る。例えば、純Cuの電気抵抗値:1.2×10-4Ωに対して、Al-3%Al合金の電気抵抗値:2×10-4Ωとなった。もっとも、この程度の電気伝導率の低下(電気抵抗値の増加)は十分に許容できる範囲であるといえる。
【0050】
以上から、本発明の原料粉末を用いてDED(LMD)を行えば、外観、寸法精度、金属組織等が良好な銅基材からなる積層造形物が得られることが確認された。