(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002348
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】内面に樹脂層を有する飲食料用缶、および樹脂層形成用塗料
(51)【国際特許分類】
B65D 8/00 20060101AFI20231228BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231228BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231228BHJP
【FI】
B65D8/00 A
C09D201/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101479
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】夏本 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄介
【テーマコード(参考)】
3E061
4J038
【Fターム(参考)】
3E061AA15
3E061AB05
3E061AB08
3E061AC02
3E061AC09
3E061BA01
3E061BA02
4J038BA212
4J038CB001
4J038CG001
4J038DB001
4J038DD001
4J038DG001
4J038KA06
4J038MA09
4J038MA12
4J038MA13
4J038NA07
4J038PA06
4J038PA19
4J038PB04
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】本発明は、異物除去性および水切れ性が優れる飲食料用缶を提供することを目的とする。
【解決手段】缶胴と缶底とを有する飲食料用缶であって、少なくとも前記缶胴または缶底の内面に樹脂層を有し、前記樹脂層のESCAにより得られた原子濃度比C/Oが6~80である飲食料用缶による解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶胴と缶底とを有する飲食料用缶であって、
少なくとも前記缶胴または缶底の内面に樹脂層を有し、
前記樹脂層のESCAにより得られた原子濃度比C/Oが6~80である飲食料用缶。
【請求項2】
前記樹脂層はDSC測定において80~180℃に融点を有し、その融解熱量が0.1~20J/gである請求項1に記載の飲食料用缶。
【請求項3】
前記樹脂層のATR-FTIRにより得られた赤外線吸収スペクトルの1720~1730cm-1における吸光度の極大値A1と、2845~2855cm-1における吸光度の極大値A2との比A2/A1が、0.5~10である請求項1または2に記載の飲食料用缶。
【請求項4】
前記樹脂層表面の動摩擦係数が0.15以下である、請求項1または2に記載の飲食料用缶。
【請求項5】
前記樹脂層のゲル分率が85質量%以上である、請求項1または2に記載の飲食料用缶。
【請求項6】
前記樹脂層が炭化水素系表面改質剤を含む、請求項1または2に記載の飲食料用缶。
【請求項7】
缶胴と缶底とを有する飲食料用缶の、
前記缶胴または缶底の内面に樹脂層を形成するための塗料であって、
前記樹脂層は前記塗料を塗装して得た塗膜からなり、
前記樹脂層のESCAにより得られた原子濃度比C/Oが6~80である、塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶胴または缶底の内面に樹脂層を有する飲食料用缶、およびその樹脂層を形成するための塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食料用缶は、製缶工場で生産されたのち梱包され、内容物の充填工場へ運搬される。内容物充填工場にて開梱された缶は充填ラインに供給され、リンサーと呼ばれる装置を用いて空缶内部に水を噴射して洗浄される。この洗浄工程において、空缶内の異物を確実に取り除き、かつ洗浄水を効率よく排除することが求められる。
【0003】
例えば特許文献1には、缶胴を洗浄する段階において、缶内面の異物をより確実に除去することを目的とする異物除去方法及び異物除去装置が開示されている。同文献には、洗浄前に除電エアを噴きつける工程を設けることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、節水が可能な容器洗浄設備及び容器洗浄方法が開示されている。同文献には、洗浄用水に周囲の空気を吸引混合させて噴射する気液混合ノズルを備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-051897号公報
【特許文献2】特開2018-094462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献による洗浄工程によっても、異物を完全に除去することができず水圧により異物が押し当てられ、異物が残存する問題があった(以下、異物の除去しやすさを「異物除去性」と称す)。また、洗浄水が空缶内面に残留し歩留まりが低下する他、内容物の品質に悪影響を及ぼす問題があった(以下、洗浄水の排除しやすさを「水切れ性」と称す)。
【0007】
そこで、本発明は、異物除去性および水切れ性が優れる飲食料用缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の飲食料用は、
缶胴と缶底とを有する飲食料用缶であって、
少なくとも前記缶胴または缶底の内面に樹脂層を有し、
前記樹脂層のESCAにより得られた原子濃度比C/Oが6~80である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空缶内の異物を取り除き易く、かつ洗浄水の残留しにくい樹脂層を有するため、飲料や食品が缶に充填されても内容物の品質が劣化しにくい飲食料用缶を歩留まり良く提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、以下の例示が本発明を限定することはない。また、本発明の「飲食料用缶」とは「飲料用缶」および「食料用缶」の総称であり、本明細書においては単に「缶」と表記する場合もある。
【0011】
(缶の構成)
飲食料用缶は、缶の下面である缶底と、缶の胴体部である缶胴とを有している。缶は、缶底及び缶胴が一体化又は接合状態にある有底筒状であり、上部は食品又は飲料を充填後に蓋により密閉される。蓋はそれ自体が開封できる形態、または蓋の一部の領域に開封可能な開口部が形成された形態が好ましい。
上記缶は、成形性の点でスチール、又はアルミニウムを素材とする金属を用いることが好ましい。金属には、公知の化成処理層、めっき層、プライマー層等が設けられていても良い。
【0012】
(飲食料用缶の製造方法)
飲食料用缶の製造方法の一例について説明する。
缶体を形成する方法としては、絞りしごき加工により予め、金属板からなる有底筒状の缶体を形成する方法(得られた缶はツーピース缶と呼ばれる。)、及び、金属板を筒状に成形し、その一方の開口部に下面となる缶底を巻き締めることで有底筒状の缶体を得る方法(得られた缶はスリーピース缶と呼ばれる。)が挙げられる。どちらの場合も、必要に応じて缶体外面の塗装又は印刷を行ったのち、缶体上部の開放端にフランジ加工をすることができる。また、金属板には、缶体を形成したのち、脱脂処理、化成処理等の、当該技術分野において行われる従来公知の処理を任意でおこなってもよい。
【0013】
缶内面に樹脂層を有する飲食料用缶を製造する場合、ツーピース缶では、有底筒状の缶体を形成した後、スプレー塗装により塗料を塗装し焼き付けを行うことで樹脂層を形成する。スリーピース缶の場合は、成形前の金属板の、缶内面となる予定の領域の一部又は全部に塗料を塗装し焼き付けを行うことで、樹脂層を予め形成することができる。
【0014】
塗料の塗装方法は、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、電着塗装等が好ましく、ツーピース缶においてはスプレー塗装がより好ましく、スリーピース缶においてはロールコーター塗装がより好ましい。塗料の乾燥及び均一な樹脂層の形成のため、塗装の後、速やかに焼き付け処理を行うことが好ましい。
焼き付け工程における条件は、塗料の乾燥・樹脂層形成が可能な条件を適宜選択できる。例えば、150~280℃、10秒間~30分間程度で行うことができ、180~250℃、1分間~15分間程度で行ってもよい。
【0015】
一方、フィルムを缶内面に貼り付けて樹脂層を形成する方法も好ましい。
【0016】
(樹脂層)
缶胴または缶底の内面に形成された樹脂層は、ESCAにより得られた原子濃度比C/Oが6~80であって、8~70が好ましく、10~60がより好ましい。C/Oが6以上であることで、樹脂層表面の疎水性が向上し洗浄水を効率よく排除することができるため水切れ性が向上する。また、C/Oが80以下であることで、樹脂層のゲル分率が向上する。ゲル分率とは、内容物である食品や飲料中への樹脂層成分溶出の指標となるものであり、値が高いほど溶出しにくく、安全性が高まる。詳細は後述する。C/Oは、X線光電子分光分析(ESCA)による1s軌道スペクトルのピーク面積より求めた値であり、後述する実施例に記載の方法で求める。
【0017】
樹脂層のC/Oは、例えば樹脂層を形成する樹脂種を調整することで調整できる。また、表面改質剤を添加し、その種類及び含有量によっても調整できる。
具体的には樹脂の骨格や側鎖に水酸基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基といった酸素原子を有する官能基を導入し官能基含有量を調整することで、原子濃度比C/Oを調整できる。樹脂種はエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂のいずれか1種または2種以上を含有してもよく、より詳細は、後述する。
表面改質剤を添加する場合、長鎖脂肪酸系化合物、長鎖アルコール系化合物、炭化水素系化合物等の、直鎖炭化水素構造を多く有する表面改質剤を含有することで、原子濃度比C/Oを上昇させることもできる。表面改質剤自体の原子濃度比C/Oが10以上であることが好ましい。
表面改質剤を添加する場合、樹脂層のC/Oを上昇させるためには表面改質剤自体が表面に露出することが好ましい。
例えば、粒子状である表面改質剤の少なくともその一部分が、樹脂層から露出している態様が好ましい。
また使用する樹脂種よりも表面改質剤の比重が小さいことも好ましい。
【0018】
[融点・融解熱量]
また、樹脂層は、DSC(示差走査熱量分析)測定において80~180℃に融点を有することが好ましく、100~140℃に融点を有することがより好ましい。また、その融解熱量が0.1~20J/gであることが好ましく、2~10J/gであることがより好ましい。融点および融解熱量がかかる範囲内であれば、樹脂層の疎水性が向上し異物除去性および水切れ性が向上する。
融点および融解熱量はDSCにより得られたピークの温度およびピーク面積より求めた値であり、後述する実施例に記載の方法で求める。
DSC測定において80~180℃に融点を有し、その融解熱量が0.1~20J/gである樹脂層を形成するためには、表面改質剤として、上記炭化水素系化合物のうち融点が90~140℃であるポリエチレンや、融点が160~170℃であるポリプロピレンを用いることが好ましい。また、エチレン、プロピレン以外のアルケンを含む共重合体を用いてもよく、酸変性炭化水素系化合物を用いてもよい。これらの表面改質剤を樹脂層中に2質量%以上用いることで、融解熱量を0.1J/g以上とすることができる。
【0019】
[吸光度比A2/A1]
また、樹脂層はATR-FTIRにより得られた赤外線吸収スペクトルの1720~1730cm-1における吸光度の極大値A1と2845~2855cm-1における吸光度の極大値A2との比A2/A1が0.5~10であることが好ましく、0.7~8であることがより好ましい。比A2/A1がかかる範囲内であれば異物除去性および水切れ性が向上する。
赤外線吸収スペクトル1720~1730cm-1での吸光度の極大値A1は、エステル結合のC=O伸縮振動に由来する吸収スペクトルに対応する吸光度である。また、2845~2855cm-1での吸光度A2は、エチレン基のCH伸縮振動に由来する吸収スペクトルに対応する吸光度である。つまり、アクリル樹脂やポリエステル樹脂などエステル結合を有する樹脂が多いほどA1は増大し、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂のようにエチレン基を有する樹脂が多いほどA2が増大する。例えば、表面改質剤としてのポリエチレンを樹脂層中に2質量%以上用いることで、A2/A1を0.5~10とすることができる。
【0020】
[ゲル分率]
樹脂層のゲル分率は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。ゲル分率がかかる範囲内であれば、内容物である食品や飲料中への樹脂層成分の溶出が軽減する。ゲル分率は後述する実施例に記載の方法で求める。
【0021】
[動摩擦係数]
樹脂層表面の動摩擦係数は、0.15以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。動摩擦係数がかかる範囲内であれば樹脂層表面のすべり性が向上し異物除去性および水切れ性が向上する。動摩擦係数は後述する実施例に記載の方法で求める。
【0022】
樹脂層の単位面積当たりの乾燥質量は12~480mg/dm2が好ましく、より好ましくは36~120mg/dm2である。
樹脂層は、缶胴内面又は缶底内面の一部又は全部に設けられることが好ましく、缶胴内面の一部又は全部であることも好ましい。塗料を用いて樹脂層を形成する場合、樹脂層は、塗布された塗料を乾燥、焼き付けさせた後の層であることを意味する。
【0023】
(塗料)
樹脂層を形成するための塗料について説明する。
塗料は、樹脂を必須成分として含み、溶媒または分散媒を含んでもよい。溶媒および分散媒は有機溶剤、または水のいずれであってもよい。溶媒または分散媒を含む場合には、塗料を塗布した後、溶媒または分散媒を揮発させ、焼き付けることによって樹脂層が形成される。
【0024】
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができ、特にエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。上記の樹脂は複数種の樹脂を組み合わせて使用してもよいし、反応により異なる種類の樹脂を複合化させてもよい。これらを用いることで、缶の素材であるアルミニウムやスチールへの密着性が向上する。
【0025】
エポキシ樹脂を用いる場合は、ビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン型、ビフェニル型等のエポキシ樹脂が好ましい。これらの中でも、塗膜にした際の加工性、耐レトルト性、金属密着性を考慮すると、ビスフェノール型エポキシ樹脂がより好ましい。
ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、三菱ケミカル(株)製のJER1007、JER1009、JER1010等が挙げられる。
【0026】
アクリル樹脂は、エチレン性不飽和モノマーを重合開始剤により重合してなる。本発明においては、エチレン性不飽和モノマーは、金属密着性の向上を目的に、カルボキシル基含有モノマーを含むことが好ましい。
カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸〔「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを併せて「(メタ)アクリル酸」と表記する。以下同様。〕、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。なお、2つのカルボキシル基から脱水されて生成する酸無水物基含有モノマーも、本発明におけるカルボキシル基含有モノマーに含む。
その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、
スチレン、メチルスチレン等の芳香族系モノマー、
N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマーが挙げられる。
本発明においてカルボキシル基含有モノマーは、エチレン性不飽和モノマーの合計100モル%のうち5~70モル%含むことが好ましく、10~60モル%含むことがより好ましい。カルボキシル基含有モノマーがかかる範囲であれば、アクリル樹脂単独ではC/O比が低い場合であっても、他のC/O比の高い樹脂と併用することで、塗膜の強度を維持しながらC/O比を6~80とすることができる。
【0027】
ポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸およびポリオールを反応させてなり、塗膜にした際の加工性、耐内容物汚染性を考慮すると、ポリカルボン酸としてテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれるいずれかの単量体を含むことが好ましい。
ポリカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸以外の芳香族二塩基酸、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸およびα、β-不飽和ジカルボン酸、ならびにこれらの酸無水物やアルキルエステルを使用できる。
前記芳香族二塩基酸は、例えばオルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、およびビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
前記脂肪族二塩基酸は、例えばコハク酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸等が挙げられる。
前記脂環式二塩基酸は、例えば1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、および1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
前記α、β-不飽和ジカルボン酸は、例えばフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0028】
ポリエステル樹脂は分岐構造を有してもよい。そのため二塩基酸に加えて、3官能以上の酸を使用してもよい。その例としては、例えば、(無水)トリメリット酸〔トリメリット酸と無水トリメリット酸とを併せて「(無水)トリメリット酸」と表記する。以下同様。〕、(無水)ピロメリット酸、およびエチレングリコールビストリメリテート二無水物等が挙げられる。
さらに、必要に応じて、1官能の酸を使用してもよい。
本発明においてポリカルボン酸およびポリオールの平均炭素数は4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。炭素数がかかる範囲であれば、ポリエステル樹脂単独ではC/O比が低い場合であっても、他のC/O比の高い樹脂と併用することで、塗膜の強度を維持しながらC/O比を6~80とすることができる。
【0029】
ポリウレタン樹脂は、好ましくはポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とからなり、ポリエステルポリオールは上記ポリエステル樹脂についての説明で示したものと同様の構成であることが好ましい。
前記イソシアネート化合物は、例えばトリメチレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、メチレンビス(4、1-フェニレン)=ジイソシアネート(MDI)、3-イソシアネートメチル-3、5、5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等のジイソシアネート、ならびにこれらジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ならびにこれらジイソシアネートの三量体であるイソシアヌレート体、ならびにこれらジイソシアネートのビューレット結合体、ポリメリックジイソシアネート等が挙げられる。
本発明においてイソシアネート化合物は、C/O比を6~80とするために、MDI、IPDI、またはその三量体、ポリメリックジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0030】
(表面改質剤)
上述の塗料には、表面改質剤を含むことが好ましい。本発明における表面改質剤とは、好ましくは樹脂層表面に露出して樹脂層のC/O比を上昇させる添加剤のことを指し、C/O比が10以上の化合物を用いることが好ましい。
表面改質剤として有用な、C/O比が10以上の化合物としては、長鎖脂肪酸系化合物、長鎖アルコール系化合物、炭化水素系化合物等の、直鎖炭化水素構造を多く有する化合物が挙げられる。
また、塗料の焼き付け工程において融解し表面に浮上することが可能であるということから、常温で固体かつ融点を有するワックスを用いることがより好ましい。ワックスとしては天然ワックスと合成ワックスとを挙げることができる。ワックスの融点としては、80℃~180℃であることが好ましい。
なお、常温とは25℃のことをいう。
【0031】
天然ワックスとしては、例えば蜜蝋、ラノリンワックス、鯨蝋、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバ油等の動植物系ワックスを挙げることができる。また、モンタンワックス、オゾゲライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の鉱物、石油系ワックス等を挙げることができる。
これらの中でも、洗浄水や異物の残留しにくさを考慮すると、カルナバワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスが好ましい。
【0032】
合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュ(FT)ワックス、ポリエチレン(PE)ワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の炭化水素系ワックス、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス、硬化ヒマシ油、硬化ヒマシ油誘導体等の水素化ワックス、等が挙げられる。洗浄水や異物の残留しにくさを考慮すると、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス誘導体が好ましい。
【0033】
表面改質剤として、焼き付け温度よりも低い軟化点および融点を持たないものを使用しても良い。焼き付け温度よりも低い軟化点および融点を持たない表面改質剤としては、例えば、シリカまたは酸化チタンが挙げられる。樹脂層のC/O比をより上昇させるためには、上述した長鎖脂肪酸系化合物、長鎖アルコール系化合物、炭化水素系化合物等の、直鎖炭化水素構造を多く有する化合物などと併用することが好ましい。
【0034】
表面改質剤の配合方法としては、粉末状の表面改質剤を直接配合する方法、または予め表面改質剤分散体を作製した後、配合する方法が挙げられる。これらの中でも凝集物の発生を抑制できる点で後者の方法が好ましい。表面改質剤分散体は、例えば表面改質剤、水を配合して強制乳化させる方法、または、表面改質剤を加熱溶融した液体、または溶媒に溶解させた溶液を攪拌しながら水を少量ずつ滴下して転相乳化させる方法等の公知の方法で作製できる。表面改質剤分散体の不揮発分濃度は、20~50質量%程度である。必要に応じて分散剤を用いてもよい。
【0035】
本発明における表面改質剤の市販品としては、ShamrockTechnologies社製のS-232N1(ポリエチレン/カルナバ)、S-368N5T(ポリエチレン)、S-379H(フィッシャー・トロプシュ)、S-395N1(ポリエチレン)、SPP15(ポリプロピレン)、BYK社製のCERAFLOUR925N(変性ポリエチレン)、CERAFLOUR962(変性ポリエチレン)、CERAFLOUR970(ポリプロピレン)、CERAFLOUR988(アマイド変性ポリエチレン)、CERAFLOUR991(ポリエチレン)、MICROPOWDERS社製のMPP-611(ポリエチレン)等が例示できる。
【0036】
本発明における表面改質剤分散体の市販品としては、ShamrockTechnologies社製のHydrocer257(ポリエチレン)、Hydrocer600(マイクロクリスタリン/ポリエチレン)、Hydrocer901(ポリエチレン/パラフィン)、HydrocerEE95(ポリエチレン)、BYK社製のAQUACER515(ポリエチレン)、AQUACER526(変性エチレン-酢酸ビニル共重合体)、AQUACER1540(カルナバ)、AQUACER1547(ポリエチレン)、CERACOL79(カルナバ)、CERACOL609N(ラノリン)、CERAFAK127N(フィッシャー・トロプシュ)、CERAMAT250(ポリエチレン)、エレメンティス社製のSL18(ポリエチレン)、東邦化学工業社製のハイテックE-5403P(ポリエチレン)、ハイテックE-8237(ポリエチレン)、三井化学社製のケミパールW200(ポリエチレン)、ケミパールW400(ポリエチレン)、MICROPOWDERS社製のMicrospersion215-50(ポリエチレン)、Microspersion250(ポリエチレン)、Microspersion930(ポリエチレン)等が例示できる。
【0037】
上記の表面改質剤としては、炭化水素系化合物を含むことがさらに好ましい。炭化水素系化合物を含むことにより、塗料から形成した樹脂層の疎水性が向上し、原子濃度比C/Oが向上するため、洗浄水を効率よく排除することができる。炭化水素系化合物は、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンからなる重合体が好ましい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンの重合体がより好ましく、エチレン、プロピレンの重合体がさらに好ましい。これらは共重合されていてもよく、それぞれの重合体が混合されていてもよい。また、エチレン等からなるオレフィン重合体が酸変性された酸変性炭化水素系化合物を含んでいてもよい。
【0038】
塗料中の表面改質剤の含有量は、塗料の不揮発分100質量%中に好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。塗料中の表面改質剤の含有量を上記の範囲にすることにより、原子濃度比C/Oを6~80の範囲内に制御することができる。
【0039】
塗料は、樹脂の他に有機溶剤や水等の任意の溶媒または分散媒を含んでも良く、塗装方式に合致した粘度に調整されることが好ましい。
有機溶剤としては、樹脂を溶解ないし分散できるものが使用でき、具体的には、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、1,2-ジエチルベンゼン、1,3-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、2,6-ジメチルナフタレン、p-シメン、スチレン、テトラリン、α-ピネン、β-ピネン、ドデシルベンゼン、トルエン、メシテレンなどの他、スワゾール1000、スワゾール1500(以上、丸善石油化学社製)、T-SOL100FLUID、T-SOL150FLUID(以上、JXTGエネルギー社製)等の炭化水素系溶剤;
メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;
酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、コハク酸ジメチルエステル、グルタル酸ジメチルエステル、アジピン酸ジメチルエステルなどの他、FlexiSolvDBEesters(INVISTA社製)等のエステル系溶剤;
メタノール、エタノール、n-アミルアルコール、s-アミルアルコール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-オクタノール、ネオペンチルアルコール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、1-プロパノール、n-ヘキサノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-ヘプタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール等のアルコール系溶剤;
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
また、塗料は、当該技術分野において使用される硬化剤や添加剤等のその他の成分を任意に含んでいてもよい
【実施例0040】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」に基づく値である。
【0041】
(製造例1)
(アクリル樹脂溶液Aの調製)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、スチレン240部、アクリル酸エチル120部、メタクリル酸240部、エチレングリコールモノブチルエーテル388部、及び過酸化ベンゾイル12部からなる混合物の1/4を仕込み、窒素ガス雰囲気下、80~90℃に加熱し、その温度に保ちつつ残りの全量を2時間かけて滴下した。滴下終了から2時間撹拌後冷却し、不揮発分濃度60%のアクリル樹脂溶液Aを得た。
【0042】
(製造例2)
(エポキシアクリル系エマルジョンBの調製)
製造例1と同様の反応容器に、JER1009(三菱ケミカル社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)を60部、エチレングリコールモノブチルエーテル40部及び製造例1で得たアクリル樹脂溶液Aを50部仕込んで、窒素ガス雰囲気下、120℃まで昇温して溶解させた。溶解確認後に90℃まで冷却し、続いて、ジメチルアミノエタノール1部、水1部を混合して添加し、90℃で1時間撹拌し、エポキシ樹脂とアクリル樹脂との反応を行った。反応終了後に冷却し、ジメチルアミノエタノール4部を添加して10分間撹拌した後、水299部を1時間かけて滴下し、不揮発分濃度20%のエポキシアクリル系エマルジョンB(表1、表2の配合表における「B」)を得た。
【0043】
(製造例3)
(フェノール樹脂溶液Cの調製)
製造例1と同様の反応容器に、石炭酸9.3部、37%ホルマリン36.5部を仕込み、撹拌しながら、25%水酸化ナトリウム水溶液を3.2部添加し、80℃で3時間反応した後、n-ブタノールを30部加え冷却した後、20%塩酸3.7部を加え水酸化ナトリウムを中和した。水層を分離し、フェノール樹脂の溶液層を取り出し、水洗を行い、脱水、濃縮し不揮発分濃度50%のフェノール樹脂溶液Cを得た。
【0044】
(製造例4)
(エポキシアクリルフェノール系エマルジョンDの調製)
製造例1と同様の反応容器に、エポキシアクリル系エマルジョンBを100部、フェノール樹脂溶液Cを0.4部仕込み撹拌して、不揮発分濃度20%のエポキシアクリルフェノール系エマルジョンD(表1、表2の配合表における「D」)を得た。
【0045】
(製造例5)
(アクリル樹脂分散液Eの調製)
製造例1と同様の反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル8部、イオン交換水18.2部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、約100℃で還流するまで加熱した。還流を維持したまま、メタクリル酸10部、スチレン6部、アクリル酸エチル4部、および過酸化ベンゾイル0.3部の混合物を滴下槽から4時間にわたって滴下した。滴下終了から1時間後、および2時間後に過酸化ベンゾイル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間還流を維持した。次いで加熱を停止し、ジメチルアミノエタノール5.2部を添加して10分間撹拌した後、イオン交換水46.3部を加え、不揮発分濃度20%のアクリル樹脂分散液Eを得た。
【0046】
(製造例6)
(アクリルエマルジョンFの調製)
製造例1と同様の反応容器に、製造例5で得られたアクリル樹脂分散液Eを45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃まで加熱した。別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また、滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。反応容器を70℃に保持し撹拌しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下した。滴下終了から2時間70℃を維持し、不揮発分濃度19%のアクリルエマルジョンF(表1、表2の配合表における「F」)を得た。
【0047】
(製造例7)
(ポリエステル・フェノール系樹脂溶液Gの調製)
撹拌機、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、バイロンGK360(東洋紡社製ポリエステル樹脂)を20部、シクロヘキサノン42部、スワゾール1000(丸善石油化学社製芳香族炭化水素系溶剤)42部を仕込み、窒素ガス雰囲気下で80℃まで加熱し、ポリエステルが溶解するまで撹拌した。溶解確認後冷却し、スミライトレジンPR-55317(住友ベークライト社製フェノール樹脂、不揮発分濃度50%)4部を撹拌しながら添加し、不揮発分濃度20%のポリエステル・フェノール系樹脂溶液G(表1、表2の配合表における「G」)を得た。
【0048】
(実施例・比較例)
製造例にて得られた樹脂溶液やエマルジョンを撹拌しながら表1、表2に示す割合で表面改質剤分散体を添加した(比較例1~3においては添加せず)。得られた塗料を、缶底及び胴部を有するアルミニウム製の容器(350ml容)の胴部内面の全面にスプレー塗装により塗装し、続けて200℃で2分間加熱し、各実施例・比較例に係る缶を得た。
缶内面に形成された樹脂層の乾燥質量は50mg/dm2であった。
なお、市販されている表面改質剤が水などに分散した状態である場合にはそのまま用い、粉体や液状である場合には、ブチルセロソルブ80部に対し表面改質剤20部を撹拌しながら混合し、不揮発分濃度20%の表面改質剤分散体として用いた。
【0049】
(缶の評価)
以下のようにして、実施例及び比較例で得られた缶内面の樹脂層について、原子濃度比C/O、吸光度比A2/A1、融点・融解熱量、動摩擦係数、ゲル分率、水切れ性、異物除去性を評価した。
【0050】
[原子濃度比C/O]
得られた缶を切り開き、缶底部を取り除き、缶胴部を平板状としたものを測定試料〔(測定試料(1)〕とし、その樹脂層表面についてESCA分析を次の条件で行い、炭素原子数、酸素原子数から原子濃度比C/Oを算出した。下記に測定条件を示す。
装置:AXIS-HS(島津製作所社製/Kratos)
試料チャンバー内真空度:1×10-8Torr以下
X線源:Dual(Mg)15kV,5mAPassenergy80eV
Step:0.1eV/Step
Speed:120秒/元素
Dell:300、積算回数:5
光電子取り出し角:試料表面に対して90度
結合エネルギー:C1s主ピークを284.6eVとしてシフト補正
C(1s)ピーク領域:280~296eV
O(1s)ピーク領域:529~535eV
上記ピーク領域に出現したピークを直線法にてベースラインを引き、各原子の原子濃度「AtomicConc」から酸素原子数に対する炭素原子数の割合C/Oを算出した。
C/O=C(1s)の原子濃度/O(1s)の原子濃度
なお、測定は試料表面の任意の5箇所についておこない、それらの平均値を採用した。
【0051】
[吸光度比A2/A1]
フーリエ変換赤外分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NicoletiS10)を用いて、ATR-FTIRにより、測定試料(1)の樹脂層の赤外線吸収スペクトルを測定した。下記に測定条件を示す。
測定範囲:4000~400cm-1
積算回数:16回
得られた赤外線吸収スペクトルの1720~1730cm-1での吸光度の極大値A1と2845~2855cm-1での吸光度の極大値A2から、吸光度の比A2/A1を算出した。
なお、測定は試料表面の任意の5箇所についておこない、それらの平均値を採用した。
【0052】
[融点・融解熱量]
示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC2500)を用いて、融点および融解熱量を以下の条件で測定した。
(i)測定試料(1)から採取した樹脂層約5mgを精秤して入れたアルミニウムパンと、リファレンスである空のアルミニウムパンとをDSC測定ホルダーにセットし、窒素気流中で室温から0℃まで降温し、降温完了後5分間保持した。
(ii)次いで、0℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持した。
(iii)次いで、再度0℃まで降温し、降温完了後5分間保持した。
(iv)次いで、再度0℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持した。このときに結晶の融解ピークが観察される温度を融点とした。また、得られたピークとベースラインに囲まれた部分の面積とアルミニウムパンに精秤して入れたサンプル質量から融解熱量を算出した。
【0053】
[動摩擦係数]
3個の鋼球がついた重さ1kgの錘を、鋼球が測定試料(1)の樹脂層面と接するようにして乗せ、この錘を150cm/分の速さで引っ張り、このときの動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が小さいほど滑り性は良好である。
【0054】
[ゲル分率]
測定試料(1)を15cm四方の大きさに切り出しテストパネルとした。
このテストパネルの質量を測定した(質量をW1(g)とする)。次いでテストパネルを80℃にて還流させたメチルエチルケトン(MEK)中に60分間浸漬し、風乾後の質量を測定した(質量をW2(g)とする)。その後、テストパネルを濃硫酸に浸漬し水洗して樹脂層を剥離したテストパネルを得た(質量をW3(g)とする)。下記式(1)からゲル分率を算出した。
ゲル分率[%]=(W2-W3)/(W1-W3)×100 ・・・式(1)
【0055】
[水切れ性]
測定試料(1)の樹脂層に、イオン交換水を20μL滴下し、試料を水平面から45°に傾けたときに水が流れ落ちる様子を目視観察した。
(評価基準)
◎:水が即座に流れ落ちる
〇:水がゆっくり流れ落ちる
×:水が残る
【0056】
[異物除去性]
測定試料(1)の樹脂層の中央部付近に、1cm×1cmのポリエチレンフィルム(厚さ0.1mm)を押し付けて付着させた。試料を水平面から45°に傾けて固定し、付着させたポリエチレンフィルムの上端より上部に位置する樹脂層部にポリスポイトを用いてイオン交換水0.5mLを滴下した。ポリエチレンフィルムが流れ落ちない場合、さらに同様にイオン交換水0.5mLを滴下した。イオン交換水の滴下を合計4回繰り返し、ポリエチレンフィルムが樹脂層から流れ落ちるまでの回数をカウントした。
(評価基準)
◎:イオン交換水の滴下1~2回でポリエチレンフィルムが流れ落ちる
〇:イオン交換水の滴下3~4回でポリエチレンフィルムが流れ落ちる
×:ポリエチレンフィルムが流れ落ちない
【0057】
表1、表2に示されるとおり、実施例の缶はいずれも水切れや異物除去性が良好であった。
【0058】
【0059】
【0060】
表1、表2における表面改質剤の品名、樹脂種の内容は以下のとおりである。
CERAFLOUR 925N:BYK社製(変性PE)
S-368N5T:ShamrockTechnologies社製(PE)
S-395N1:ShamrockTechnologies社製(PE)
CERAFLOUR988:BYK社製(アマイド変性PE)
S-232N1:ShamrockTechnologies社製(PE/カルナバ)
S-379H:ShamrockTechnologies社製(FT)
CERACOL79:BYK社製(エチレングリコールモノメチルエーテルを分散媒とするカルナバ分散体)
Versaflow HV:ShamrockTechnologies社製(液状PE)
PE:ポリエチレン
FT:フィッシャー・トロプシュ