(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023509
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】カカオ抽出方法および技術
(51)【国際特許分類】
A23G 1/02 20060101AFI20240214BHJP
A23G 1/30 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A23G1/02
A23G1/30
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204200
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2021571890の分割
【原出願日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】19178069.1
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518006983
【氏名又は名称】オーデーツェー リツェンツ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】ヒューン,ティロ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カカオ豆またはカカオニブの加工方法であって、カカオバター、抗酸化物質、および/またはビタミンの収率が増加したカカオ抽出物および製品が得られる方法を提供する。
【解決手段】カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、懸濁液を湿式粉砕する工程と、懸濁液を、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、カカオ香料および/またはポリフェノール濃縮物を少なくとも第1の相から分離してカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得ることを含む、3つの相を別々に処理する工程とを含み、第1の抽出剤が、第1の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ豆またはカカオニブを加工するための方法であって、
カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、
前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
前記懸濁液を、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、前記第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、前記固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、
カカオ香料および/またはポリフェノール濃縮物を少なくとも前記第1の相から分離してカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得ることを含む、3つの相を別々に処理する工程と
を含み、前記第1の抽出剤が、前記第1の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、方法。
【請求項2】
前記3つの相を別々に処理する前記工程で、カカオ香料および/またはポリフェノール濃縮物を、前記第2の相および前記固相からさらに抽出し、前記第1の相から得られた前記カカオ香料抽出物および/または前記ポリフェノール濃縮物と再び組み合わせる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の抽出剤が、前記第1の抽出剤の5~100重量%、例えば、10~100重量%、20~100重量%、50~100重量%、70~100重量%、または90~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
カカオ豆またはカカオニブを加工するための方法であって、
カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、
前記懸濁液を湿式粉砕する工程と、
前記懸濁液を、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、前記第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、前記固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、
3つの相を別々に処理して、カカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得る工程と
を含み、前記第1の抽出剤が水であり、第2の抽出剤が、前記3つの相を別々に処理する前記工程でカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得るために使用され、前記第2の抽出剤が、前記第2の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、方法。
【請求項5】
前記3つの相を別々に処理する前記工程で、前記固相を前記第2の抽出剤による抽出工程に供する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
3つの相に分離してカカオ香料およびカカオ固形物を得た後に、前記固相を乾燥機内で乾燥させて、乾燥した前記カカオ固形物を前記第2の抽出剤による抽出工程に供して、カカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得る、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記3つの相を別々に処理する前記工程で、前記第2の相を前記第2の抽出剤による抽出工程に供する、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の抽出剤が、前記第2の抽出剤の5~100重量%、例えば、10~100重量%、20~100重量%、50~100重量%、70~100重量%、または90~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の有機溶媒が、C1~C8アルコール、C2~C8ケトン、C3~C7エステル、C2~C8エーテル、C4~C10ラクテート、ハロゲン化C1~C6炭化水素、およびC1~C8アルカンの群から、好ましくは、C1~C8アルコール、C1~C8アルカン、C2~C8エーテルから、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、およびヘキサンの群から、さらに好ましくは、エタノール、ヘキサン、およびメチルt-ブチルエーテルから選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の抽出剤が、1つ以上のC1~C8アルカンから選択され、好ましくはヘキサンである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の有機溶媒が、蒸留、塩析、またはそれらの組み合わせによって前記3つの相を別々に処理する前記工程で除去される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記カカオ加工工程がそれぞれ、70℃以下の温度で実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法によって得られる、カカオ豆抽出物。
【請求項14】
チョコレートまたはチョコレート様製品を製造するための方法であって、
請求項1から13のいずれか一項に従ってカカオ豆またはカカオニブを加工する工程と、
カカオバターを前記第2の相から分離する工程と、
カカオ粉末を前記固相から分離する工程と、
前記カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程と、再び組み合わされた抽出物を、カカオ粉末抽出物、ポリフェノール濃縮物、および/または粉乳と混合する工程と、
前記混合物をコンチングする工程と
を含む、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法によって得られる、チョコレートまたはチョコレート様製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒を使用してカカオ豆からの物質を処理および/または抽出するための改善された方法および/または技術に関する。特定の実施形態では、本発明は、(例えば、未発酵、発酵済、焙煎済、もしくは非焙煎の豆またはそれらの組み合わせを使用する)カカオ豆の加工方法であって、カカオバター、抗酸化物質、および/またはビタミンの収率が増加したカカオ抽出物および製品が得られる、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオ(Theobroma cacao L.)は、ミネラル、ビタミン、ポリフェノール(特に、カテキン、アントシアニジン、およびプロアントシアニジン)、およびフラボノイドなどの抗酸化物質を含む健康成分の重要な供給源として広く認識されており、カカオは、なかでも、酸化ストレスの低減、低密度リポタンパク質(LDL)の酸化の阻害、および血小板凝集の阻害において生理学的に活性であり、血管内の血管拡張物質として作用する。
【0003】
高温での発酵および乾燥/焙煎を含むことが典型的な、カカオベースの食品の製造におけるカカオ豆の従来の加工中に、ポリフェノール、抗酸化物質、および/またはビタミンの含有量は、生カカオ豆中のそれらの含有量と比較して減少する。さらなる問題は、カカオ脂肪の抽出を補助する高い機械的負荷もしくは剪断応力および/または高熱の使用による、粗カカオ材料の細胞区画の破壊である。例えば、WO2008/131910A1には、脂質相または脂肪相を分離することなく、カカオ豆からポリフェノール化合物を抽出する方法が開示されている。EP0988794A1は、カカオ香料を得るプロセスに関する。US2008/317891A1には、凍結乾燥したカカオ豆を粉砕する工程を含む方法が開示されている。US2010/055248A1およびWO01/093690A2は、カカオバターを分離するためにカカオニブを従来式でプレスすることを含む、方法に関する。また、US2954293Aには、未粉砕のカカオニブの抽出が開示されている。しかしながら、これらの方法では、栄養的に有益な成分間の効率的な分離、およびそれらの十分な収率を可能にすることができない。
【0004】
したがって、より高い含有量の価値ある成分を維持するために、代替的なカカオ豆加工方法が開発されてきた。例えば、WO2010/073117、EP3114940B1、EP3114941B1、EP3114942B1、およびEP3114939B1には、カカオ豆またはカカオニブおよび水を含む懸濁液を形成することと、懸濁されたカカオ豆またはカカオニブを湿式粉砕することと、懸濁液を加熱することと、これをデカントして、該懸濁液を、水相、脂肪相、および固相に分離し、機械加工中のカカオ脂肪の液化およびチョコレートリカーの形成を回避することとを含む、カカオ豆を加工する方法であって、従来の方法と比較してカカオマスにかかる熱負荷がより低く、したがって、より高い含有量のポリフェノール、抗酸化物質、および/またはビタミンを維持する方法が開示されている。
【0005】
前述の方法は、熱に敏感な健康成分の維持に関して利点を提供するが、栄養的に有益な各成分間でより効率的に分離することと、得られる抽出物において、カカオバターの収率、ならびに親水性および親油性の栄養的に有益な成分の両方の収率をさらに改善することが望ましい場合がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、本明細書で定義される特許請求の範囲の主題によって、この課題を解決する。本発明の利点は、以下の段落でさらに詳細に説明され、さらなる利点は、本発明の開示を考慮して、当業者に明らかになるであろう。
【0007】
総じて、一態様では、本発明は、カカオ豆またはカカオニブを加工するための方法であって、カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、該懸濁液を湿式粉砕する工程と、懸濁液を、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、該第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、該固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、カカオ香料および/またはポリフェノール濃縮物を少なくとも極性液相から分離してカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得ることを含む、3つの相を別々に処理する工程とを含み、第1の抽出剤が、第1の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、方法を提供する。
【0008】
代替的な実施形態では、本発明は、カカオ豆またはカカオニブを加工するための方法であって、カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、該懸濁液を湿式粉砕する工程と、懸濁液を、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、該第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、該固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、3つの相を別々に処理して、カカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得る工程とを含み、第1の抽出剤が水であり、第2の抽出剤が、3つの相を別々に処理する工程でカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得るために使用され、第2の抽出剤が、第2の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、方法に関する。
【0009】
本発明のさらなる態様は、前述の方法によって得られたカカオ豆抽出物を提供することである。
【0010】
別の態様では、本発明は、チョコレートまたはチョコレート様製品を製造するための方法であって、上記の方法に従ってカカオ豆またはカカオニブを加工し、第2の液相からカカオバターを分離し、固相からカカオ粉末を分離する工程と、カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程と、再び組み合わされた抽出物を、カカオ粉末抽出物、ポリフェノール濃縮物、および/または粉乳と混合する工程と、該混合物をコンチングする工程とを含む、方法を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、前述の方法によって得られたチョコレートまたはチョコレート様製品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態による、カカオ香料、カカオ粉末、カカオバター、およびポリフェノール濃縮抽出物を提供するまでの、カカオ豆を加工するための例示的な方法を示す。
【
図2】本発明の第2の実施形態による、カカオ香料、カカオ粉末、カカオバター、およびポリフェノール濃縮抽出物を提供するまでの、カカオ豆を加工するための例示的な方法を概略的に示す。
【
図3】第1および/または第2の実施形態で得られた抽出物を使用してダークチョコレート/ミルクチョコレートを調製するための例示的な方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これより、本発明をより完全に理解するために、その例示的な実施形態の以下の説明を参照する。
【0014】
カカオ豆および/またはカカオニブを加工する方法
本発明の第1の実施形態による、カカオ豆またはカカオニブを加工するための方法は、一般に、カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、該懸濁液を湿式粉砕する工程と、懸濁液を、3つの相、すなわち、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、該第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、該固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、カカオ香料および/またはポリフェノール濃縮物を少なくとも極性液相から分離してカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得ることを含む、3つの相を別々に処理する工程とを特徴とし、第1の抽出剤は第1の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む。
【0015】
第1の実施形態による方法では、第1の抽出剤に含まれる1つ以上の有機溶媒は、特に限定されることはなく、第1の液相と第2の液相との間の相分離を促進し、かつこれを妨げない限り、当業者によって適切に選択され得る。言い換えるなら、本明細書で使用される場合の「第1の液相」および「第2の液相」という用語は、3相分離が実施される物理的条件下で非混和性である別々の液相を示す。特に、「第2の液相」という用語は、典型的には、「第1の液相」と呼ばれる親水性液相と非混和性である、主成分としてカカオバターを含む非極性液相を定義する。
【0016】
第1の実施形態では、第1の抽出剤は、好ましくは、第2の抽出剤の5~100重量%、例えば、10~100重量%、20~100重量%、50~100重量%、70~100重量%、または90~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、第1の抽出剤は、95重量%未満(例えば、90重量%未満、80重量%未満、50重量%未満、30重量%未満、10重量%未満、または5重量%未満)の含有量の水を、抽出条件下で水と混和性または非混和性であり得る1つ以上の有機溶媒と組み合わせてさらに含み得る。該水は、例えば、フルーツジュースまたはミルクなどの含水液体によって所与の内容物に組み込まれ得る。
【0018】
抽出すべき標的物質と抽出物の所望の使用(例えば、食品加工とは対照的な化粧品へのカカオバターの使用)とに応じて、1つ以上の有機溶媒は、好ましくは、C1~C8アルコール、C2~C8ケトン、C3~C7エステル、C2~C8エーテル、C4~C10ラクテート、ハロゲン化C1~C6炭化水素、およびC1~C8アルカンの群から、好ましくは、C1~C8アルコール、C1~C8アルカン、C2~C8エーテルから、さらに好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、およびヘキサンの群から、特に好ましくは、エタノール、ヘキサン、およびメチルt-ブチルエーテルから選択される。特に好ましい実施形態では、有機溶媒はエタノールである。
【0019】
好ましい実施形態では、第1の抽出剤は、豆における微生物活性によって形成される酢酸および/またはクエン酸に加えて提供される酸性成分(酢酸、クエン酸、または他の酸を含むがこれらに限定されることはない)を含み得て、それによって、チョコレート香味のさらなる発現および低温での効率的な抽出が可能になる。
【0020】
カカオ加工技術は、一般に、カカオ豆/カカオニブの粉砕の前またはその間に第1の抽出剤を加えることによってカカオ豆またはカカオニブの懸濁液を形成することから始まる。得られる抽出物の所望の用途に応じて、(果肉および粘液と一緒に、またはこれらなしで)未発酵または過少発酵のカカオ豆およびカカオニブを使用してもよく、同様に、発酵済もしくはインキュベーション済のホールビーン(例えば、US8,501,256B2またはWO2014/130539A1に従ってインキュベーションされた豆を含む)、またはホールビーンではないより小さな粒子(例えば、カカオニブ)に豆が砕かれる破壊工程に後に供される発酵済もしくはインキュベーション済の豆を使用してもよい。カカオ豆またはカカオニブは、懸濁液を調製する前に焙煎または予備乾燥に供された可能性のあるものであってもよいが、これに限定されることはない。ポリフェノール、抗酸化物質、および/またはビタミンの最適化された収率を達成するためには、カカオポッドを開けた直後に得られる未発酵の生豆を有する、特に好ましくは、ポッド内に存在する果肉および粘液を一緒に有する懸濁液を調製することが好ましい。
【0021】
形成される懸濁液中の第1の抽出剤とカカオ豆/カカオニブとの重量比は、特にこれに限定されることはないが、好ましくは1:1~6:1、より好ましくは2:1~4:1、特に好ましくは約3:1であり、これによって、さらなる工程における加工性に有利な影響が与えられ得る(例えば、容易なポンプ輸送、粉砕、およびより簡単な相分離)。
【0022】
カカオ豆/カカオニブは、単回または複数回の湿式粉砕工程に供され、それによって、豆の粒子サイズは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは20μm以下になる。豆の粒子をそのようなサイズ範囲に縮小すると、豆粒子材料の露出表面積が大幅に増加し、したがって、抽出結果の改善(脂肪または脂質、芳香物質、および/またはポリフェノールの抽出の改善など)のために、溶媒による濡れが向上する。豆の粒子サイズの縮小は、例えば、ディスクミル(例えば、有孔ディスクミル)、コロイドミル(例えば、歯付きコロイドミル)、またはコランダム石ミルを使用することによって達成することができる。少なくとも1回の粉砕工程において、カカオ豆の細胞がふやかされて、ふやかされたカカオ豆の利用可能な表面積の増加によって第1の抽出剤がカカオ豆材料をより良好に濡らすことができるようになることが好ましい。湿式粉砕に使用される方法および装置は、著しい摩擦熱の生成または大きな機械的力による不所望な乳化が回避される限り、特に制限されることはない。例えば、複数回の粉砕工程を使用する場合、粗い湿式粉砕工程(例えば、任意選択的にさらなる抽出剤を用いる)は、有孔ディスクミルを使用して行われ得て、粗く粉砕された懸濁液は、微細粉砕工程のために歯付きコロイドミルにポンプ輸送され得る。
【0023】
湿式粉砕工程の後に、全体的な熱負荷を低減し、かつ乳化を防止するために、懸濁液を約70℃以下の温度で熱処理に供することができる。カカオバターの収率と、芳香物質、抗酸化物質、および/またはビタミンなどの所望の香味の維持との好ましいバランスの観点から、65℃未満の加熱温度が好ましい。カカオバターの液化および/または改善された機械的相分離の観点から、30~50℃の加熱温度範囲が特に好ましい。湿式粉砕された懸濁液の加熱は、掻き取り式またはチューブ式熱交換器によって行われ得るが、これに限定されることはない。
【0024】
その後、相分離を行うと、3つの相、すなわち、第1の液相、第1の液相と非混和性である第2の液相、および固相が得られ、該第2の液相は、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または水を含み、該固相は、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む。さらに、固相は、総乾燥重量に対して最大30重量%、好ましくは27重量%未満、より好ましくは20重量%未満の含有量の残留カカオバターを含み得る。好ましくは、デカンタまたはノズルセパレータなどの、遠心力を用いる装置を利用して、機械的粒子分離を達成することができる。例えば、懸濁液をデカントして、粗いまたは大きなまたは高質量の固形物を液体から分離してもよく、次いで、より小さなおよび/または微細な固体粒子を液体からさらに分離してもよい、および/または油生成物を非油生成物から分離してもよい。
【0025】
第1の液相、第2の液相、および固相の間の改善された分離を達成するために、複数の相分離および再組み合わせ工程を用いることができる。例えば、最初のデカント工程によって得られた第2の液相を、さらに濾過または遠心分離して、残存する微粒子または第1の抽出剤を第2の液相から分離してもよく、そのようにして得られた微粒子および第1の抽出剤を、最初のデカント工程からのまたは該相の後の加工段階の第1の抽出剤および固相と再び組み合わせてもよい。また、第1の液相は、微粒子を除去して液体の曇りを低減するために、例えば真空回転フィルタを使用した濾過による、さらなる精製工程に供してもよい。
【0026】
3つの相を分離したら、
図1に示されるように、これらを独立的に処理して、カカオ香料(主に第1の液相からのもの)およびポリフェノール濃縮物(主に第1の液相からのもの)、カカオバター(主に第2の液相からのもの)、ならびにカカオ粉末(主に固相からのもの)を分離することができる。
【0027】
先に示されるように、第2の液相を、(例えば、振動スクリーンを用いることによって)濾過し、および/または3相分離器(例えば、遠心分離機)に運び、(任意選択的に、乾燥/焙煎工程の前またはその間に固相に加えられ得る)微粒子および(香料回収の前に任意選択的に第1の液相に加えられ得る)残留水を除去してもよい。カカオバターは、主に濾過および精製の際に第2の液相から得られる。
【0028】
有機溶媒は、好ましくは、3つの相を別々に処理する工程で除去される。対応する技術は特に限定されることはないが、蒸留、塩析、またはそれらの組み合わせが好ましい。
【0029】
好ましい実施形態では、上記のカカオ加工工程はそれぞれ、70℃以下の温度で実施される。
【0030】
3つの相への分離後に得られた(濡れた)固相は、任意選択的に、加熱可能なロール粉砕機で処理して粒子サイズを小さくし、予備乾燥を開始することができる。また、乾燥前に、砂糖、砂糖溶液、および/またはフルーツジュースを、分離されたカカオ固形物に任意選択的に加えて、乾燥/焙煎プロセス中の香味の発現を改善することができる。
【0031】
3つの相への分離後に得られた固相は、熱負荷を低減し、かつ健康誘発成分を維持する観点から、55~100℃の温度で、好ましくは、減圧下で55~70℃から選択される温度で、穏やかに乾燥および同時に焙煎して、焙煎された香味および他の芳香物質を収集することが可能になる。必要に応じて、該香味および他の芳香物質を、カカオバターに加えても、またはカカオ豆加工方法のさらなる経過における第1の液相の香料回収工程に加えてもよい。
【0032】
乾燥/焙煎を行う方法は、特に限定されることはなく、例えば、ドラム乾燥機内で達成され得る。好ましい実施形態では、乾燥/焙煎工程は、EP3114941B1に従った混合装置を用いて行われる。
【0033】
一般に、該カカオ加工工程はそれぞれ、70℃以下の温度で実施されることが好ましいであろう。
【0034】
第2の実施形態では、本発明は、カカオ豆またはカカオニブを加工するための方法であって、カカオ豆またはカカオニブに第1の抽出剤を加えて懸濁液を形成する工程と、該懸濁液を湿式粉砕する工程と、該懸濁液を70℃以下の温度での熱処理に供する工程と、懸濁液を、第1の液相、第2の液相、および固相に分離する工程であって、該第2の液相が、主成分としてカカオバターを含み、かつ微量成分として固形物および/または第1の抽出剤を含み、該固相が、カカオ粉末および第1の抽出剤を含む、分離する工程と、3つの相を別々に処理して、カカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得る工程とを含み、第1の抽出剤が水であり、第2の抽出剤が、3つの相を別々に処理する工程でカカオ香料抽出物および/またはポリフェノール濃縮物を得るために使用され、第2の抽出剤が、第2の抽出剤の2~100重量%の含有量で1つ以上の有機溶媒を含む、方法に関する。
【0035】
したがって、第2の実施形態は、第1の抽出剤が水であり、1つ以上の有機溶媒が、3つの相を別々に処理する工程の間に第2の抽出剤で使用されるという点で、第1の実施形態とは異なる。それとは別に、第1の実施形態の好ましい特徴は、少なくともいくつかの特徴が相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで第2の実施形態と自由に組み合わせることができると理解されるであろう。
【0036】
第2の実施形態による方法は、有利には、3つの相のうちの1つまたは2つに含まれる成分の抽出および収率を選択的に高めること(例えば、第2の液相からのカカオバターの抽出および/または第1の液相からのポリフェノールの抽出)を可能にし、その一方で、別の相(例えば、固相)が有機溶媒と接触することを防止する。このようにして、栄養的に有益な成分および/または価値のあるカカオバターの収率を、有機溶媒の使用を最小限に保ちながら、選択的に最適化することができる。
【0037】
第1の実施形態と同様に、1つ以上の有機溶媒を、抽出すべき標的物質と抽出物の所望の使用とに応じて適切に選択することができ、例示的な溶媒は、先に挙げられている。
【0038】
第2の実施形態によるカカオ豆加工技術の例示的な方法は、
図2に示されている。
【0039】
好ましい実施形態では、固相を第2の抽出剤による抽出工程に供する(
図2のAを参照)。例えば、カカオバターの残留物を、非極性の第2の抽出剤(例えば、C
1~C
8アルカン(例えば、ヘキサン、ヘプタン、またはシクロヘキサン)またはC
2~C
8エーテル(例えば、メチルt-ブチルエーテルまたはジエチルエーテルなど))を使用することによって固相から抽出することができ、有機溶媒を除去し、乾燥抽出物を第2の相から得られたカカオバターと再び組み合わせて、カカオバターの収率を最適化することができる。あるいは、または続いて、親水性の第2の抽出剤(例えば、C
1~C
8アルコールまたはアセトンなど)に可溶な残留物(カテキン、エピカテキン、およびプロシアニジンなどのポリフェノールを含む)を固相から抽出することができる。
【0040】
別の好ましい実施形態では、第2の相を第2の抽出剤による抽出工程に供し(
図2のBを参照)、それによって、水への溶解度が低い残留ポリフェノールおよび/または栄養的に価値のある成分を弱極性または親油性溶媒での抽出によって回収すること、乾燥させること、および第1の相の濃縮から得られたポリフェノール濃縮物と再び組み合わせることが可能になる。また、第2の相を抽出することによって、多環芳香族炭化水素(PAH)汚染物(アスファルト上での、太陽下のビチューメン上での、または直接乾燥プロセスの使用による、または貯蔵もしくは輸送中の包装内のバッチオイルを原因とする汚染からの、カカオ豆の乾燥条件の悪さから生じ得る)などの不所望な親油性物質の分離が可能になる。
【0041】
さらなる好ましい実施形態では、カカオ香料の収率は、第1の相からの水の分離(例えば、水の蒸発または逆蒸留による)によって得られる親水性カカオ香味を、疎水性の第2の抽出剤による第2の相の抽出から得られる親油性カカオ香味と組み合わせることによって高めることができる。
【0042】
(例えば、疎水性香料または疎水性ポリフェノールの残留物をさらに抽出するために)第2の抽出剤を第1の液相にさらに適用して、抽出物の収率および純度をさらに高めることができる(
図2のCを参照)。
【0043】
一般に、
図2の工程A、B、Cは、選択的に(すなわち、工程A、B、および/またはCのうちの1つまたは2つのみ)または組み合わせて適用され得ると留意されたい。また、
図2に示される方法は、単なる例示であると理解される。例えば、いくつかの実施形態では、第2の抽出剤を、すでに処理されたポリフェノール濃縮物、カカオ香料、カカオ粉末、および/またはカカオバター抽出物の分離および精製に使用してもよい(
図2には図示せず)。
【0044】
第2の実施形態の方法では、第2の抽出剤を使用する抽出工程は、好ましくは0℃~45℃の温度で、さらに好ましくは10~30℃の温度で、特に好ましくは室温で実施される。
【0045】
一般に、カカオ抽出材料(すなわち、カカオバター、カカオ粉末、カカオ香料、およびポリフェノール濃縮物)の微生物腐敗がある場合、そのような材料は、真空脱気装置を用いて脱臭することができる。さらに、微生物汚染が発生した場合は、パスカリゼーションなどの高圧処理が可能である(例えば、これは、芳香族化合物を維持することができるため望ましい)。しかしながら、微生物の腐敗および汚染の両方が発生する場合は、熱処理および脱臭が用いられ得る。しかしながら、本発明による方法は、カカオ豆/カカオニブの迅速な加工を可能にし、それによって、微生物の増殖を最小限に保つことができる。
【0046】
本明細書に記載の技術を使用して、カカオ豆を効率的に加工して、カカオバター、カカオ香味、およびポリフェノール濃縮物の大幅に高められた収率を生み出すことができる。さらに、得られる特定のカカオ抽出物は、所望のレベルの抗酸化物質および/もしくはビタミンを保持もしくは含有し、ならびに/またはより所望の香味を有する。
【0047】
第3の実施形態では、先に概説した第1および第2の実施形態に記載の方法工程に従って生成されるカカオ抽出物が提供される。
【0048】
本発明によるカカオ抽出物は、食品、栄養補助食品に組み込まれ、治療目的で使用され得るが、これらに限定されることはない。さらに、カカオバターは、化粧品(例えば、ローション)、ヘルスケア製品(天然ヘルスケア製品を含む)、および後者の組み合わせ(局所製剤など)に使用され得る。
【0049】
チョコレート製品を製造するための方法
第4の実施形態では、本発明は、チョコレートまたはチョコレート様製品を製造するための方法であって、第1または第2の実施形態に従ってカカオ豆またはカカオニブを加工し、第2の相からカカオバターを分離し、固相からカカオ粉末を分離する工程と、カカオ香料抽出物をカカオバター抽出物と再び組み合わせる工程と、再び組み合わされた抽出物を、カカオ粉末抽出物、ポリフェノール濃縮物、および/または粉乳と混合する工程と、該混合物をコンチングする工程とを含む、方法を提供する。
【0050】
図3は、ダークチョコレートおよびミルクチョコレートの調製方法の例を示しており、第1の相の脱香料処理から得られたカカオ香料抽出物、および/または任意選択的に、乾燥/焙煎工程から得られた焙煎カカオ香料が、最初にカカオバターに加えられる。コンチング工程に供する前に、乾燥および焙煎した固体カカオ粉末を、香料を加えたカカオバターと混合し、微粉砕する。ポリフェノール濃縮物を必要に応じて混合物に加えて、最終的な製品においてより強い香味およびより高い含有量の抗酸化物質を提供することができる。香味のさらなる調整または香味の発現は、砂糖、甘味料、カカオパルプ、および/またはフルーツジュースのうちの1つ以上を加えることによって実施することができる。ミルクチョコレートを調製するために、好ましくは混合工程の前に、粉乳がさらに加えられる。任意選択的に、乳化剤(例えば、レシチン)をコンチングの前に加えて、粘度を下げること、砂糖の結晶化およびチョコレートの流動特性を制御すること、ならびに成分の均一な混合を助けることができる。また、追加の成分および香味、例えば、バニラ、ラムなどを、コンチング工程の前またはその間に、およびコンチングの後に加えてもよい(例えば、海塩、フルールドセル、ナッツ、およびレーズン)。
【0051】
コンチングプロセスは、チョコレートから不要な酢酸、プロピオン酸、および酪酸を除去し、水分を減らし、かつ生成物の香味をまろやかにしながら、香味を生み出す乾燥したカカオからの物質を脂肪相に再分配する。コンチェの温度は制御されており、チョコレートの様々な種類に応じて異なる(ミルクチョコレートの場合の約49℃~ダークチョコレートの場合の最大82℃)。従来のチョコレート製造プロセスにおけるコンチング時間は、ある程度温度に依存するが、良好な結果を達成するためには、一般に16時間~72時間の範囲である。本発明による方法では、コンチング時間は、好ましくは16時間未満、より好ましくは12時間未満、典型的には10時間以下である。したがって、長いコンチング時間で観察されるような、所望の香料特性の喪失は起こらない。
【0052】
本発明の方法によって得られるチョコレートまたはチョコレート様製品は、任意の適切な形態をとり得て、例えば、ブロックまたはバーとして包装および販売され得て、フィリングされ得て、コーティングとして使用され得て、他の菓子およびベーカリー用途で使用され得る(例えば、ケーキのコーティングもしくはフィリング、ビスケットのコーティングもしくはフィリング、スポンジのコーティングもしくはフィリング、またはアイスクリームのコーティング層として)。また、得られるチョコレートまたはチョコレート様製品は、製品の最終的な使用の前に加えられる追加の添加剤を任意選択的に有し得る。
【0053】
上記の開示を考慮すると、他の多くの特徴、修正、および改善が当業者に明らかになるであろう。