(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002352
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20231228BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20231228BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231228BHJP
【FI】
F04B39/00 106A
F04C29/00 T
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101489
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁幸
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亨
(72)【発明者】
【氏名】ワンダー ノージャー
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
5H770
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB07
3H003AC03
3H003CD01
3H003CF02
3H129AA02
3H129AA18
3H129AB03
3H129BB33
3H129CC09
3H129CC27
5H770AA21
5H770BA05
5H770QA01
5H770QA28
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】比較的簡単な構造でハーメチックピンを接続するプレスフィット端子間の絶縁距離を確保することができる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機1は、電動モータ2が内蔵されたモータ室12と、電動モータ2に給電するインバータ3が取り付けられるインバータ収容部13と、モータ室12とインバータ収容部13との隔壁に設けられたハーメチックプレート52と、インバータ13の回路基板51に設けられた複数のプレスフィット端子56を備え、各プレスフィット端子56に、ハーメチックプレート52のハーメチックピン53を接続する。プレスフィット端子56間に位置して回路基板51に設けられた絶縁カバー61を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータが内蔵されたモータ室と、前記モータに給電するインバータが取り付けられるインバータ収容部と、前記モータ室と前記インバータ収容部との隔壁に設けられたハーメチックプレートと、前記インバータの回路基板に設けられた複数のプレスフィット端子を備え、各プレスフィット端子に、前記ハーメチックプレートのハーメチックピンを接続する電動圧縮機において、
前記プレスフィット端子間に位置して前記回路基板に設けられた絶縁カバーを備えたことを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記各プレスフィット端子間に位置する前記回路基板に形成されたスリットを備え、
前記絶縁カバーは係合部を有し、該係合部が前記スリットに挿入され、弾性を利用して前記回路基板に係合することで、前記絶縁カバーは前記回路基板に固定されることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記プレスフィット端子は少なくとも三個前記回路基板に設けられると共に、
前記絶縁カバーは、隣接する前記プレスフィット端子間にそれぞれ位置する一対の絶縁壁部と、各絶縁壁部を連結する連結部を備えたことを特徴とする請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記係合部は前記各絶縁壁部に形成されており、各絶縁壁部には、前記回路基板に当接して前記絶縁カバーの移動を阻止する複数の当接部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記当接部のうちの少なくとも一つは、前記回路基板の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈していることを特徴とする請求項4に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記当接部のうちの少なくとも一つは、前記回路基板の平面方向に対して直交する形状を呈していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの回路基板に設けられたプレスフィット端子に、ハーメチックプレートのハーメチックピンを接続する電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電動車両の空気調和装置に用いられる冷媒圧縮機としては、ハウジングに形成されたインバータ収容部にインバータを取り付けたインバータ一体型の電動圧縮機が用いられている。この場合、ハウジングのモータ室にはモータが収容され、モータ室とインバータ収容部との隔壁には、ハーメチックプレートが設けられる。そして、このハーメチックプレートの三本のハーメチックピンを、インバータの回路基板に電気的に接続するものであるが、その際の接続構造としては、回路基板にパワーバスケットと称される三個のプレスフィット端子を設けて置き、ハーメチックピンを各プレスフィット端子にプレスフィット接続する方法が採られていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6303957号公報
【特許文献2】特開2000-252607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、近年ではこの種の電動圧縮機においても高電圧化が求められており、係る高電圧仕様に応じたプレスフィット端子間の絶縁距離の確保が課題となっている。そのために、従来ではハーメチックピン相互の間隔はそのままで、回路基板側の各プレスフィット端子相互の間隔を広くして絶縁距離を稼ぎ、各ハーメチックピンと各プレスフィット端子は接続端子で接続するようにしていたが、複数(三個)の接続端子を必要とし、部品点数の増加と構造の複雑化を招く問題があった。
【0005】
一方、従来では端子間に絶縁枠を配置して、絶縁距離を確保するものもあった(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、比較的簡単な構造でハーメチックピンを接続するプレスフィット端子間の絶縁距離を確保することができる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動圧縮機は、モータが内蔵されたモータ室と、モータに給電するインバータが取り付けられるインバータ収容部と、モータ室とインバータ収容部との隔壁に設けられたハーメチックプレートと、インバータの回路基板に設けられた複数のプレスフィット端子を備え、各プレスフィット端子に、ハーメチックプレートのハーメチックピンを接続するものであって、プレスフィット端子間に位置して回路基板に設けられた絶縁カバーを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の電動圧縮機は、上記発明において各プレスフィット端子間に位置する回路基板に形成されたスリットを備え、絶縁カバーは係合部を有し、この係合部がスリットに挿入され、弾性を利用して回路基板に係合することで、絶縁カバーは回路基板に固定されることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の電動圧縮機は、上記発明においてプレスフィット端子は少なくとも三個回路基板に設けられると共に、絶縁カバーは、隣接するプレスフィット端子間にそれぞれ位置する一対の絶縁壁部と、各絶縁壁部を連結する連結部を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の電動圧縮機は、上記発明において係合部は各絶縁壁部に形成されており、各絶縁壁部には、回路基板に当接して絶縁カバーの移動を阻止する複数の当接部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の電動圧縮機は、上記発明において当接部のうちの少なくとも一つは、回路基板の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈していることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の電動圧縮機は、請求項4又は請求項5の発明において当接部のうちの少なくとも一つは、回路基板の平面方向に対して直交する形状を呈していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータが内蔵されたモータ室と、モータに給電するインバータが取り付けられるインバータ収容部と、モータ室とインバータ収容部との隔壁に設けられたハーメチックプレートと、インバータの回路基板に設けられた複数のプレスフィット端子を備え、各プレスフィット端子に、ハーメチックプレートのハーメチックピンを接続する電動圧縮機において、プレスフィット端子間に位置するかたちで絶縁カバーを回路基板に設けたので、絶縁カバーを取り付けるという比較的簡単な構成で、ハーメチックプレートのハーメチックピンを接続するプレスフィット端子間の絶縁距離を確保することができるようになる。これにより、電動圧縮機の高電圧仕様化に十分対応することが可能となる。
【0014】
この場合、回路基板の平面方向に対する絶縁距離を確保するために各プレスフィット端子間にスリットが形成されている場合、請求項2の発明の如く絶縁カバーに係合部を設け、この係合部をスリットに挿入し、絶縁カバー自体の弾性を利用して回路基板に係合するようにすれば、格別な設計変更を行うこと無く、また、インバータ収容部内の他の部品に影響を与えることなく、容易に絶縁カバーを回路基板に固定することができるようになる。これにより、他の仕様の電動圧縮機との部品の共通化も図ることができるようになり、総じて利便性の高いものとなる。
【0015】
また、プレスフィット端子は少なくとも三個回路基板に設けられるものであるが、請求項3の発明の如く絶縁カバーに、隣接するプレスフィット端子間にそれぞれ位置する一対の絶縁壁部と、各絶縁壁部を連結する連結部を形成すれば、簡単な構造で、隣接するプレスフィット端子間の絶縁距離を確実且つ安定的に確保することが可能となる。また、絶縁カバーの各絶縁壁部の回路基板からの高さ寸法を調整することで、必要な絶縁距離の設定が可能となる効果もある。
【0016】
この場合、請求項4の発明の如く係合部を各絶縁壁部に形成し、各絶縁壁部には、回路基板に当接して絶縁カバーの移動を阻止する複数の当接部を形成することにより、絶縁カバーを回路基板に安定的に取り付けることができるようになり、特に走行時の振動に晒される車載用の電動圧縮機に極めて有利となる。
【0017】
尚、請求項5の発明の如く当接部のうちの少なくとも一つを、回路基板の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈するようにすれば、絶縁カバー自体の弾性で回路基板の取り付け状態を安定させることが可能となる。
【0018】
また、請求項6の発明の如く当接部のうちの少なくとも一つを、回路基板の平面方向に対して直交する形状を呈するようにしても、回路基板との面接触で取り付け状態を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用した一実施形態の電動圧縮機の概略断面図である。
【
図2】
図1の電動圧縮機のインバータケース部分の詳細断面図である。
【
図4】蓋部材とプレスフィット端子を取り外した状態の
図1の電動圧縮機のインバータ収容部の平面図である。
【
図6】
図1の電動圧縮機のプレスフィット端子部分の拡大斜視図である。
【
図7】
図1の電動圧縮機の絶縁カバーの斜視図である。
【
図8】
図1の電動圧縮機の絶縁カバーのもう一つの斜視図である。
【
図9】
図6に絶縁カバーを取り付けた状態の図である。
【
図10】
図1の電動圧縮機のプレスフィット端子部分の拡大断面図である。
【
図11】
図10の中央のハーメチックピンのプレスフィット端子部分の拡大断面図である。
【
図12】
図7の絶縁カバーの回路基板への取付状態を説明する図である。
【
図14】
図3の電動圧縮機のもう一つの分解斜視図である。
【
図15】
図3の電動圧縮機の更にもう一つの分解斜視図である。
【
図16】
図3の電動圧縮機の更にもう一つの分解斜視図である。
【
図17】他の実施例の絶縁カバーを取り付けた中央のハーメチックピンのプレスフィット端子部分の拡大断面図である。
【
図18】更に他の実施例の絶縁カバーを取り付けた中央のハーメチックピンのプレスフィット端子部分の拡大断面図である。
【
図19】更に他の実施例の絶縁カバーの回路基板への取付状態を説明する図である。
【
図20】更に他の実施例の絶縁カバーを取り付けた中央のハーメチックピンのプレスフィット端子部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明を適用した一実施形態の電動圧縮機1の概略断面図である。
【0021】
実施例の電動圧縮機1は、例えば電動車両用の空調装置の冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、本発明におけるモータとしての三相の電動モータ2と、この電動モータ2を運転するためのインバータ3と、電動モータ2によって駆動される圧縮機構としてのスクロール圧縮機構4を備えた所謂横置き型のインバータ一体型スクロール式電動圧縮機である。
【0022】
実施例の電動圧縮機1は、電動モータ2やセンターケーシング6をその内側に収容するステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側の端壁7Aに取り付けられ、インバータ3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0023】
これらステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されて実施例の電動圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0024】
ステータハウジング7内には電動モータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面はステータハウジング7の端壁7Aにより基本的には閉塞されている。そして、この端壁7Aがモータ室12と後述するインバータ収容部13とを区画する隔壁となる。モータ室12の他端面は開口しており、この開口には電動モータ2が収容された後、センターケーシング6が収容される。また、端壁7Aの内面(モータ室12側)には、電動モータ2の駆動軸14の一端部を回転可能に支持するための副軸受16が取り付けられている。
【0025】
センターケーシング6は、電動モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口はスクロール圧縮機構4の後述する可動スクロール22が収容された後、スクロール圧縮機構4のこれも後述する固定スクロール21が固定されたリアケーシング9がステータハウジング7に固定されることで閉塞される。
【0026】
また、センターケーシング6には電動モータ2の駆動軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17のスクロール圧縮機構4側のセンターケーシング6内には、スクロール圧縮機構4側で駆動軸14の他端部を回転可能に支持する主軸受18が取り付けられている。
【0027】
電動モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ23から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、電動モータ2のステータ25のコイルに給電されることで、ロータ23が回転駆動されるよう構成されている。そして、駆動軸14はこのロータ23に固定されている。
【0028】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート21が形成されており、吸入ポート21から吸入された冷媒は、ステータハウジング7内の電動モータ2を通過した後、センターケーシング6内に流入し、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、電動モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、スクロール圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート20より、ハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0029】
スクロール圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンターケーシング6側としてリアケーシング9に固定されている。固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0030】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧力室34を形成する。
【0031】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、駆動軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、電動モータ2のロータ23と共に駆動軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0032】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧力室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0033】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンターケーシング6との間に形成された背圧室39と、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンターケーシング6と可動スクロール22の間に介設されている。また、41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0034】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)の吐出室27内に取り付けられた遠心式のオイルセパレータである。このオイルセパレータ48はスクロール圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルを当該冷媒から分離するものである。このオイルセパレータ48には流入口49が形成され、この流入口49から流入したオイルを含む冷媒は、オイルセパレータ48内で旋回する。このときの遠心力でオイルは分離され、冷媒は上端の流出口から吐出ポート20に向かい、前述した如く吐出配管に吐出される。
【0035】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンターケーシング6に渡って形成された背圧通路である。この背圧通路43はリアケーシング9内の吐出室27内(スクロール圧縮機構4の吐出側)のオイルセパレータ48と背圧室39とを連通する経路であり、実施例ではオリフィス50を有している。これにより、背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0036】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、スクロール圧縮機構4の圧力室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧力室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0037】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ3が収容されるインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する蓋部材15から構成されている。この蓋部材15はインバータ3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられるものである。
【0038】
次に、
図2~
図16を更に参照しながら、実施例の電動圧縮機1のインバータ3周辺の構造について説明する。尚、
図2以降ではインバータケース8側を上として電動圧縮機1を立てた状態で示す。
図2は電動圧縮機1のインバータケース8部分の詳細断面図、
図3は電動圧縮機1の斜視図である。実施例のインバータ3は、一枚の回路基板51に制御回路が実装され、スイッチング素子5(
図13~
図15に示す。実施例ではIGBT)や平滑コンデンサ等が接続されて構成されるものである。
【0039】
ここで、ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)にはハーメチックプレート52が取り付けられており、このハーメチックプレート52には導電性のハーメチックピン53が取り付けられている。
図2にハーメチックプレート52の詳細構造を示す。この場合、ハーメチックピン53は、電動モータ2の各相(三相)に対応して三本取り付けられている。各ハーメチックピン53の一端側は端壁7Aを貫通してモータ室12内に入り、電動モータ2のステータ25のコイルに接続されている。
【0040】
一方、ステータハウジング7の端壁7Aに対応するインバータケース8のケース本体10の底壁10Aには、開口54が形成されており、インバータケース8がステータハウジング7の端壁7Aに取り付けられた状態で、ハーメチックプレート52とハーメチックピン53は、この開口54内に位置してインバータ収容部13内に臨み、各ハーメチックピン53の他端側は、インバータ収容部13内において起立する。
【0041】
また、各ハーメチックピン53の他端側に対応する位置の回路基板51には、パワーバスケットと称される金属製のプレスフィット端子56が三個取り付けられており、各ハーメチックピン53の他端側は各プレスフィット端子56内にそれぞれ進入し、当該プレスフィット端子56に圧接(プレスフィット)される。これにより、各ハーメチックピン53は回路基板51に電気的に接続される構造とされている。
【0042】
ここで、各プレスフィット端子56は
図6に示すように連結された6枚のバネ性を有する金属板の先端がバスケット状に相互にすぼまった形状を呈しており、
図4や
図5に示すように回路基板51に円環状に配置形成された六個の取付孔57に差し込まれて取り付けられる。また、取付孔57で囲繞される各プレスフィット端子56の中心となる位置の回路基板51には、ハーメチックピン53が貫通する貫通孔58が形成されており、各ハーメチックピン53はこの貫通孔58を通過し、その先端がプレスフィット端子56に圧接されることになる。
【0043】
上記のような六個の取付孔57と貫通孔58の組はプレスフィット端子56の数に合わせて三箇所並んで設けられている(
図4~
図5)。そして、隣接するプレスフィット端子56間に対応する位置の回路基板51には、
図4~
図6に示すようなスリット59が二箇所形成されている。このスリット59は、回路基板51において、各プレスフィット端子56(ハーメチックピン53)間における絶縁距離を確保するために設けられたものである。
【0044】
そして、実施例ではこれら二箇所のスリット59を利用して、本発明の絶縁カバー61が取り付けられる。実施例の絶縁カバー61は、硬質合成樹脂等の絶縁材料にて形成されており、
図7、
図8に示すような一対の絶縁壁部62、63と、これら絶縁壁部62、63の一端上部を相互に連結する連結部64を備えている。また、各絶縁壁部62、63の回路基板51側となる下端部には、外側に突出した係合部66がぞれぞれ形成されている。更に各絶縁壁部62、63の他端中央部は、この実施例では回路基板51の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈した当接部67がそれぞれ形成されている。この場合、当接部67は、各絶縁壁部62、63の下端部側が当該絶縁壁部62、63の一端側に向かうように傾斜している。
【0045】
このような絶縁カバー61を取り付ける際には、回路基板51の上面(ケース本体10の底壁10Aとは反対側となる面)側から、各絶縁壁部62、63の下端部を回路基板51の各スリット59に挿入する。このとき、各係合部66は各スリット59の縁部の回路基板51の下面(底壁10A側の面)に、当該絶縁カバー61の弾性を利用して係合する。
【0046】
この実施例では、各係合部66の上面は
図11に示すように斜めに傾斜したテーパ形状とされている。また、前述したように当接部67は回路基板51に斜めに交差する形状を呈しているため、スリット59への挿入を円滑に行える。そして、
図12に示すように各絶縁壁部62、63の一端縁(ここも当接部62A、63Aとなる)は、当接部67の斜め形状に誘導されて、スリット59の一端の回路基板51に面で当接する。実施例では当接部62A、63Aが回路基板51の平面方向に対して直交する形状を呈しており、各当接部62A、63Aは回路基板51に面接触する。このように絶縁壁部62、63の各当接部62A、63Aが面接触し、各当接部67がスリット59の他端の回路基板51に当接することで、絶縁カバー61は移動が阻止されることになり、その弾性により安定的に固定される。
【0047】
このようにして、絶縁カバー61は回路基板51に固定される。この状態で、絶縁カバー61は中央のプレスフィット端子56を囲うかたちで回路基板51に取り付けられ、絶縁カバー61の各絶縁壁部62、63は、左右のプレスフィット端子56と中央のプレスフィット端子56の間(隣接するプレスフィット端子56間)に割り込み、起立して位置することになる(
図9~
図11)。これにより、隣接する各プレスフィット端子56間(各ハーメチックピン53間)の絶縁距離は、絶縁カバー61の各絶縁壁部62、63の表面の距離の分、少なくとも長くなることになる。
【0048】
次に、
図3、
図13~
図16を利用して、電動圧縮機1のインバータケース8部分の組立手順を説明する。先ず、
図13に白抜き矢印で示すように回路基板51の取付孔57に各プレスフィット端子56を取り付け、絶縁カバー61を回路基板51のスリット59に取り付ける。このようにプレスフィット端子56と絶縁カバー61が取り付けられた回路基板51を、
図14中白抜き矢印で示すようにケース本体10に取り付ける。
【0049】
また、スイッチング素子5は予め
図13に示す如く絶縁部材30(絶縁シート)を介してステータハウジング7の端壁7Aに配置しておく。そして、上記のようにして回路基板51が取り付けられたケース本体10を、
図15中白抜き矢印で示すようにステータハウジング7の端壁7Aにボルトで固定する。その際、ハーメチックプレート52と各ハーメチックピン53は、開口54からインバータ収容部13内に臨み、回路基板51の各プレスフィット端子56に圧入(プレスフィット)される。
【0050】
尚、このとき回路基板51には
図4に示すようにスイッチング素子5の端子5Aが挿入される端子接続孔68が予め形成されており、ケース本体10を取り付ける際に、各スイッチング素子5も開口54内に位置してインバータ収容部13内に臨み、端子接続孔68に端子5Aが挿入された後、はんだ付けされることで、スイッチング素子5も回路基板51に電気的に接続されることになる。
【0051】
このようにインバータケース8のケース本体10をステータハウジング7の端壁7Aに取り付けた後、
図16中白抜き矢印の如く蓋部材15をケース本体10にボルト固定で取り付ける。この状態が
図3に示されている。
【0052】
以上詳述した如く、本発明ではインバータ3の回路基板51に設けられた複数のプレスフィット端子56間に位置するかたちで絶縁カバー61を回路基板51に設けたので、絶縁カバー61を取り付けるという比較的簡単な構成で、ハーメチックプレート52のハーメチックピン53を接続するプレスフィット端子56間の絶縁距離を確保することができるようになる。これにより、電動圧縮機1の高電圧仕様化に十分対応することが可能となると共に、ハーメチックピン54とプレスフィット端子56を接続する従来の如き格別な接続端子も不要となる。
【0053】
この場合、回路基板51の平面方向に対する絶縁距離を確保するために各プレスフィット端子56間の回路基板51にはスリット59が形成されているが、実施例では絶縁カバー61に係合部66を設け、この係合部66をスリット59に挿入し、絶縁カバー61自体の弾性を利用して回路基板51に係合するようにしているので、格別な設計変更を行うこと無く、また、インバータ収容部13内の他の部品に影響を与えることなく、容易に絶縁カバー61を回路基板51に固定することができるようになる。これにより、他の仕様の電動圧縮機との部品の共通化も図ることができるようになり、総じて利便性の高いものとなる。
【0054】
また、プレスフィット端子56は実施例では三個回路基板51に設けられ、絶縁カバー61には、隣接するプレスフィット端子56間にそれぞれ位置する一対の絶縁壁部62、63と、各絶縁壁部62、63を連結する連結部64を形成しているので、簡単な構造で、隣接するプレスフィット端子56間の絶縁距離を確実且つ安定的に確保することが可能となる。
【0055】
また、実施例では係合部66を各絶縁壁部62、63に形成し、各絶縁壁部62、63には、回路基板51に当接して絶縁カバー61の移動を阻止する複数の当接部67、62A、63Aを形成しているので、絶縁カバー61を回路基板51に安定的に取り付けることができるようになり、特に走行時の振動に晒される車載用の電動圧縮機1に極めて有利となる。
【0056】
更に、実施例では当接部67を、回路基板51の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈するようにしたので、回路基板51への取り付けが容易となると共に、絶縁カバー61自体の弾性で回路基板51の取り付け状態を安定させることが可能となる。
【0057】
また、実施例では当接部62A、63Aを、回路基板51の平面方向に対して直交する形状を呈するようにしたので、斜め形状の当接部67の誘導により当接部62A、63Aは回路基板51と面接触するようになり、取り付け状態が安定化する。
【0058】
尚、上記実施例では絶縁カバー61の各係合部66の上面を斜めに傾斜したテーパ形状としたが(
図11)、それに限らず、
図17に示すように係合部66の上面が直角に外側に張り出す形状(段差形状)としてもよい。また、
図18に示すように係合部66が内側に突出するようにしてもよい。
【0059】
また、前記実施例では当接部67が回路基板51の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈するようにしたが(
図12)、それに限らず、
図19に示すように、直角に階段状としてもよい。また、
図12、
図19において、当接部62A、63Aが回路基板51の平面方向に対して斜めに交差する形状を呈するようにしてもよい。その場合は、当接部62A、63Aが、各絶縁壁部62、63の下端部側に向かう程、当該絶縁壁部62、63の他端側に向かうように傾斜させる。
【0060】
更に、絶縁距離を更に長くしたい場合には、
図20に示すように、絶縁カバー61の各絶縁壁部62、63の回路基板51からの高さ寸法を高くするとよい。それにより、容易に必要な絶縁距離を確保することができる。
【0061】
更にまた、実施例ではハーメチックピン53とプレスフィット端子56が三個設けられる構造で説明したが、それに限らず、電動モータ2の相が更に多い場合には、それに応じて更に多くのハーメチックピン、プレスフィット端子が設けられることになる。更に、実施例で示した絶縁カバー61等の具体的形状は、それに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1 電動圧縮機
2 電動モータ(モータ)
3 インバータ
4 スクロール圧縮機構(圧縮機構)
7 ステータハウジング
7A 端壁(隔壁)
8 インバータケース
11 ハウジング
12 モータ室
13 インバータ収容部
51 回路基板
52 ハーメチックプレート
53 ハーメチックピン
56 プレスフィット端子
59 スリット
61 絶縁カバー
62、63 絶縁壁部
64 連結部
66 係合部
67、62A、63A 当接部