(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002357
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】電動圧縮機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20231228BHJP
F04B 39/06 20060101ALI20231228BHJP
H05K 7/12 20060101ALI20231228BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20231228BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231228BHJP
【FI】
F04B39/00 106Z
F04B39/06 Q
H05K7/12 A
H05K7/20 B
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101498
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁幸
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亨
(72)【発明者】
【氏名】ワンダー ノージャー
【テーマコード(参考)】
3H003
4E353
5E322
5H770
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB05
3H003AC03
3H003BE09
3H003CE03
3H003CF01
4E353AA06
4E353AA17
4E353AA18
4E353BB07
4E353CC02
4E353CC12
4E353CC16
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4E353DD11
4E353DR36
4E353DR60
4E353GG16
4E353GG17
5E322AA01
5E322AA03
5E322AB01
5E322AB04
5E322AB07
5E322AB08
5E322EA10
5E322FA04
5H770BA05
5H770PA21
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA08
5H770QA27
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子をヒートシンクに安定的に押圧固定することができる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機1は、スイッチング素子5を有して電動モータに給電するインバータ3を備えたものであって、ヒートシンクであるハウジング11のステータハウジング7と、スイッチング素子5をステータハウジング7の端壁7Aに固定する固定部材71、72を備え、この固定部材71、72は、スイッチング素子5に当接する皿ばね76と、この皿ばね76を圧縮してスイッチング素子5をステータハウジング7の端壁7Aに押圧するカバー73、74から構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を有してモータに給電するインバータを備えた電動圧縮機において、
ヒートシンクと、
前記スイッチング素子を前記ヒートシンクに固定する固定部材を備え、
該固定部材は、前記スイッチング素子に当接する皿ばねと、
該皿ばねを圧縮して前記スイッチング素子を前記ヒートシンクに押圧するカバーから構成されていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記ヒートシンクは、前記モータが内蔵されたハウジングであることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記カバーは、前記スイッチング素子を前記ヒートシンク側に押圧する押え部を有し、
該押え部には、前記皿ばねを保持する保持部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記スイッチング素子は複数設けられ、
前記皿ばねは前記各スイッチング素子に対してそれぞれ配置されると共に、
前記カバーの押え部には、前記各皿ばねをそれぞれ保持する複数の前記保持部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記スイッチング素子は、複数の列を成して配置されると共に、
前記固定部材は、前記スイッチング素子の各列に対応して複数設けられることを特徴とする請求項4に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記皿ばねを、複数枚積層して設けたことを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項7】
複数枚の皿ばねを積層し、当該皿ばねの枚数を変更することにより、前記スイッチング素子を前記ヒートシンクに押圧する荷重を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載の電動圧縮機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子を有してモータに給電するインバータを備えた電動圧縮機、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電動車両の空気調和装置に用いられる冷媒圧縮機としては、ハウジングにインバータを備えたインバータ一体型の電動圧縮機が用いられている。この場合、電動圧縮機のハウジングにはモータを収容するモータ室と、このモータ室と区画されてインバータを収容するインバータ収容部が形成されていた。
【0003】
そして、インバータのスイッチング素子(IGBT等)はモータ室とインバータ収容部との隔壁に設けられ、この隔壁をヒートシンクとして、例えば特許文献1に示されるような板ばねにより隔壁(ヒートシンク)に押圧することで、スイッチング素子は隔壁に固定され、隔壁のモータ室側を流れる低温の冷媒により冷却する構造が採られていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、IGBT等のスイッチング素子を隔壁(ヒートシンク)に押圧する荷重は、電動圧縮機では、400N以上であることが望ましい。しかしながら、従来の如く板ばねで押圧する構造では、スイッチング素子を400Nで押さえた際の発生応力が板ばね自体の材料の引張応力を超えてしまうため、実際には400N以下の荷重でスイッチング素子を固定していた。そのため、スイッチング素子の固定が不安定となり、十分な冷却が確保できず、且つ、位置ずれが発生する危険性があった。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、スイッチング素子をヒートシンクに安定的に押圧固定することができる電動圧縮機、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動圧縮機は、スイッチング素子を有してモータに給電するインバータを備えたものであって、ヒートシンクと、スイッチング素子をヒートシンクに固定する固定部材を備え、この固定部材は、スイッチング素子に当接する皿ばねと、この皿ばねを圧縮してスイッチング素子をヒートシンクに押圧するカバーから構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の電動圧縮機は、上記発明においてヒートシンクは、モータが内蔵されたハウジングであることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の電動圧縮機は、請求項1の発明においてカバーは、スイッチング素子をヒートシンク側に押圧する押え部を有し、この押え部には、皿ばねを保持する保持部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の電動圧縮機は、上記発明においてスイッチング素子は複数設けられ、皿ばねは各スイッチング素子に対してそれぞれ配置されると共に、カバーの押え部には、各皿ばねをそれぞれ保持する複数の保持部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の電動圧縮機は、上記発明においてスイッチング素子は、複数の列を成して配置されると共に、固定部材は、スイッチング素子の各列に対応して複数設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の電動圧縮機は、請求項1の発明において皿ばねを、複数枚積層して設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の電動圧縮機の製造方法は、上記各発明において複数枚の皿ばねを積層し、当該皿ばねの枚数を変更することにより、スイッチング素子をヒートシンクに押圧する荷重を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スイッチング素子を有してモータに給電するインバータを備えた電動圧縮機において、ヒートシンクと、スイッチング素子をヒートシンクに固定する固定部材を備え、この固定部材を、スイッチング素子に当接する皿ばねと、この皿ばねを圧縮してスイッチング素子をヒートシンクに押圧するカバーから構成したので、スイッチング素子を所用の押圧力、例えば必要とされる400Nで押さえた際に発生する応力を低く抑えることができるようになる。
【0015】
これにより、所用の応力でスイッチング素子をヒートシンクに押圧固定することができるようになり、スイッチング素子の固定力が向上し、安定的にスイッチング素子をヒートシンクに取り付けることができるようになる。
【0016】
この場合、電動圧縮機でのヒートシンクは請求項2の発明の如く、モータが内蔵されたハウジングとなる。
【0017】
また、具体的には請求項3の発明の如くカバーに、スイッチング素子をヒートシンク側に押圧する押え部を設け、この押え部に皿ばねを保持する保持部が形成する。
【0018】
更に、スイッチング素子は複数設けられるものであるが、請求項4の発明の如く皿ばねを各スイッチング素子に対してそれぞれ用意し、カバーの押え部には、各皿ばねをそれぞれ保持する複数の保持部を形成することで、各スイッチング素子を安定的にヒートシンクに押圧固定することが可能となる。
【0019】
この場合、請求項5の発明の如くスイッチング素子が複数の列を成して配置される場合は、固定部材をスイッチング素子の各列に対応して複数設けることで、各列のスイッチング素子をそれぞれ安定的に押圧固定することが可能となる。
【0020】
また、請求項6の発明の如く皿ばねを複数枚積層して設けるようにすれば、請求項7の発明の如く皿ばねの枚数を変更することにより、スイッチング素子をヒートシンクに押圧する荷重を調整することも可能となり、汎用性も増すという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明を適用した一実施形態の電動圧縮機の概略断面図である。
【
図2】
図1の電動圧縮機のインバータケース部分の詳細断面図である。
【
図4】
図1の電動圧縮機のスイッチング素子部分の拡大断面図である。
【
図5】
図1の電動圧縮機の固定部材の分解斜視図である。
【
図6】
図1の電動圧縮機を下面から見た場合の斜視図である。
【
図7】固定部材を取り付けた状態で
図1の電動圧縮機のケース本体を下面から見た場合の斜視図である。
【
図8】
図1の電動圧縮機の固定部材によるスイッチング素子の押圧固定を説明する図である。
【
図10】
図3の電動圧縮機のもう一つの分解斜視図である。
【
図11】
図3の電動圧縮機の更にもう一つの分解斜視図である。
【
図12】固定部材の他の実施例を説明する図である。
【
図13】皿ばねの積層使用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明を適用した一実施形態の電動圧縮機1の概略断面図である。
【0023】
実施例の電動圧縮機1は、例えば電動車両用の空調装置の冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、本発明におけるモータとしての三相の電動モータ2と、この電動モータ2を運転するためのインバータ3と、電動モータ2によって駆動される圧縮機構としてのスクロール圧縮機構4を備えた所謂横置き型のインバータ一体型スクロール式電動圧縮機である。
【0024】
実施例の電動圧縮機1は、電動モータ2やセンターケーシング6をその内側に収容するステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側の端壁7Aに取り付けられ、インバータ3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0025】
これらステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されて実施例の電動圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0026】
ステータハウジング7内には電動モータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面はステータハウジング7の端壁7Aにより基本的には閉塞されている。そして、この端壁7Aがモータ室12と後述するインバータ収容部13とを区画する隔壁となる。モータ室12の他端面は開口しており、この開口には電動モータ2が収容された後、センターケーシング6が収容される。また、端壁7Aの内面(モータ室12側)には、電動モータ2の駆動軸14の一端部を回転可能に支持するための副軸受16が取り付けられている。
【0027】
センターケーシング6は、電動モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口はスクロール圧縮機構4の後述する可動スクロール22が収容された後、スクロール圧縮機構4のこれも後述する固定スクロール21が固定されたリアケーシング9がステータハウジング7に固定されることで閉塞される。
【0028】
また、センターケーシング6には電動モータ2の駆動軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17のスクロール圧縮機構4側のセンターケーシング6内には、スクロール圧縮機構4側で駆動軸14の他端部を回転可能に支持する主軸受18が取り付けられている。
【0029】
電動モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ23から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、電動モータ2のステータ25のコイルに給電されることで、ロータ23が回転駆動されるよう構成されている。そして、駆動軸14はこのロータ23に固定されている。
【0030】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート21が形成されており、吸入ポート21から吸入された冷媒は、ステータハウジング7内の電動モータ2を通過した後、センターケーシング6内に流入し、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、電動モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、スクロール圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート20より、ハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0031】
スクロール圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンターケーシング6側としてリアケーシング9に固定されている。固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0032】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧力室34を形成する。
【0033】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、駆動軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、電動モータ2のロータ23と共に駆動軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0034】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧力室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0035】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンターケーシング6との間に形成された背圧室39と、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンターケーシング6と可動スクロール22の間に介設されている。また、41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0036】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)の吐出室27内に取り付けられた遠心式のオイルセパレータである。このオイルセパレータ48はスクロール圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルを当該冷媒から分離するものである。このオイルセパレータ48には流入口49が形成され、この流入口49から流入したオイルを含む冷媒は、オイルセパレータ48内で旋回する。このときの遠心力でオイルは分離され、冷媒は上端の流出口から吐出ポート20に向かい、前述した如く吐出配管に吐出される。
【0037】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンターケーシング6に渡って形成された背圧通路である。この背圧通路43はリアケーシング9内の吐出室27内(スクロール圧縮機構4の吐出側)のオイルセパレータ48と背圧室39とを連通する経路であり、実施例ではオリフィス50を有している。これにより、背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0038】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、スクロール圧縮機構4の圧力室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧力室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0039】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する蓋部材15から構成されている。そして、インバータ収容部13にインバータ3の後述する回路基板51が収容されると共に、蓋部材15はインバータ3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられるものである。
【0040】
次に、
図2~
図8を参照しながら、実施例の電動圧縮機1のインバータ3周辺の詳細構造について説明する。尚、
図2以降ではインバータケース8側を上として電動圧縮機1を立てた状態で示す。
図2は電動圧縮機1のインバータケース8部分の詳細断面図、
図3は電動圧縮機1の斜視図、
図4はスイッチング素子5部分の拡大断面図である。実施例のインバータ3は、一枚の回路基板51に制御回路が実装され、スイッチング素子5(実施例では六個のIGBT)や平滑コンデンサ等が接続されて構成されるものである。
【0041】
ここで、ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)にはハーメチックプレート52が取り付けられており、このハーメチックプレート52には導電性のハーメチックピン53が取り付けられている。この場合、ハーメチックピン53は、
図9、
図10に示されるように電動モータ2の各相(三相)に対応して三本取り付けられている。各ハーメチックピン53の一端側は端壁7Aを貫通してモータ室12内に入り、電動モータ2のステータ25のコイルに接続されている。
【0042】
一方、ステータハウジング7の端壁7Aに対応するインバータケース8のケース本体10の底壁10Aには、開口54が形成されており、インバータケース8がステータハウジング7の端壁7Aに取り付けられた状態で、ハーメチックプレート52とハーメチックピン53は、この開口54内に位置してインバータ収容部13内に臨み、各ハーメチックピン53の他端側は、インバータ収容部13内において起立するかたちとなる。
【0043】
また、各ハーメチックピン53の他端側に対応する位置の回路基板51には、パワーバスケットと称される金属製のプレスフィット端子56が三個取り付けられており、各ハーメチックピン53の他端側は各プレスフィット端子56内にそれぞれ進入し、当該プレスフィット端子56に圧接(プレスフィット)される。これにより、各ハーメチックピン53は回路基板51に電気的に接続される構造とされている。
【0044】
他方、スイッチング素子5は、ステータハウジング7の端壁7Aの外側(モータ室12とは反対側)の面に、絶縁部材30(絶縁シート)を介して当該端壁7Aと熱交換関係で配置されている。これにより、各スイッチング素子5は端壁7Aを介してモータ室12内に吸入された冷媒により冷却されるようになる。即ち、この実施例ではハウジング11を構成するステータハウジング7(端壁7A)がスイッチング素子5のヒートシンクとされている。
【0045】
ここで、実施例では六個のスイッチング素子5が、三個ずつ二列で並べられている。各スイッチング素子5は三本の端子5Aを有しており、端子5Aは各スイッチング素子5より、端壁7Aから離間する方向に起立している。
【0046】
インバータケース8がステータハウジング7の端壁7Aに取り付けられた状態で、各スイッチング素子5は、この開口54内に位置してインバータ収容部13内に臨み、各スイッチング素子5の端子5Aは、インバータ収容部13内において起立するかたちとなる。また、各端子5Aに対応する位置の回路基板51には、端子接続孔68が形成されており、各端子5Aは各端子接続孔68内にそれぞれ進入する。そして、各スイッチング素子5の端子5Aは回路基板51に電気的に接続される構成とされている。
【0047】
また、各図において71、72は各スイッチング素子5をステータハウジング7の端壁7Aに固定するための固定部材である。実施例の固定部材71、72は、金属板から構成されたカバー73、74と(
図2、
図4)、各カバー73、74により圧縮されて各スイッチング素子5をステータハウジング7の端壁7Aに押圧される円環状の皿ばね76から構成されている(
図5、
図6)。
【0048】
この場合、固定部材71のカバー73は、
図5や
図6に示すような板材であり、その短手方向の一端に固定部77が形成され、他端に押え部78が形成されている。押え部78には皿ばね76を保持する円柱状の保持部79が三箇所突出形成されており、
図5中矢印で示すように各保持部79を三つの皿ばね76の中央の円形孔にそれぞれ嵌合させるかたちで各皿ばね76を各保持部79に取り付け、保持させる(
図6)。
【0049】
そして、皿ばね76を開口54側とした状態で、固定部77が開口54近傍のケース本体10の底壁10Aにネジ止めされ、固定部材71はケース本体10の底壁10Aに固定される。この状態で、カバー73の他端側は開口54側に延在し、押え部78の保持部79に取り付けられた三つの皿ばね76が、一方の列(
図4の上側の列)の三つのスイッチング素子5に対応し、各スイッチング素子5をそれぞれ端壁7Aに押圧する(
図4)。
【0050】
固定部材72のカバー74は、
図8に示すような長尺の板材であり、その長手方向の一端に固定部81が形成され、そこから他端側に渡って押え部82が形成されている。押え部82には皿ばね76を保持する円柱状の保持部83が三箇所突出形成されており(
図8)、各保持部83が三つの皿ばね76の中央の円形孔にそれぞれ嵌まるかたちで各皿ばね76は各保持部83に取り付けられ、保持される。
【0051】
そして、皿ばね76を開口54側とした状態で、固定部81が開口54近傍のケース本体10の底壁10Aにネジ止めされ、固定部材72はケース本体10の底壁10Aに固定される。この状態で、カバー74の他端側は開口54側に延在し、押え部82の保持部83に取り付けられた三つの皿ばね76が、他方の列(
図4の向かって左側の列)の三つのスイッチング素子5に対応し、各スイッチング素子5をそれぞれ端壁7Aに押圧する構造とされている(
図4)。
【0052】
上記のように固定部材71、72を取り付けた状態のケース本体10を下から見た場合の斜視図を
図7に示している。この図のように固定部材71、72のカバー73、74はケース本体10の底壁10Aから開口54側に延在し、それらの保持部78、83に取り付けられた皿ばね76が開口54から三つずつ見えるかたちとなる。
【0053】
次に、
図9~
図11を更に参照しながら、インバータ3を組み付ける際の電動圧縮機1の組立手順について説明する。回路基板51には各端子接続孔68を形成しておき、各プレスフィット端子56も取り付けておく。尚、開口54はインバータケース8をステータハウジング7に取り付けた際に、ハーメチックプレート52が当該開口54内に位置するように形成しておくものとする。
【0054】
先ず、前述したように皿ばね76を取り付けた各固定部材71、72を、前述した如くケース本体10の底壁10Aに取り付け、カバー73、74を開口54側に延在させる(
図7)。次に、
図9中白抜き矢印の如く回路基板51をケース本体10に取り付ける。また、各スイッチング素子5を、インバータケース8がステータハウジング7に取り付けられた際に、開口54内に位置することになる箇所の端壁7Aに前述した如く二列で配置しておく。
【0055】
そして、各固定部材71、72と回路基板51が取り付けられたケース本体10を、
図10中白抜き矢印で示すようにステータハウジング7の端壁7Aにボルトで固定する。その際、各スイッチング素子5は開口54からインバータ収容部13内に臨み、各固定部材71、72の各皿ばね76は各スイッチング素子5にそれぞれ当接する。そして、各皿ばね76はカバー73、74により圧縮され、各スイッチング素子5をステータハウジング7の端壁7Aに押圧固定する。
【0056】
また、各スイッチング素子5の端子5Aは回路基板51の端子接続孔68内にそれぞれ進入する。そして、実施例でははんだ付けにより、各端子5Aを回路基板51に電気的に接続する。更に、ハーメチックプレート52と各ハーメチックピン53も、開口54からインバータ収容部13内に臨み、各ハーメチックピン53は回路基板51の各プレスフィット端子56に圧入(プレスフィット)され、回路基板51に電気的に接続される。即ち、ハーメチックピン53を、プレスフィットにより回路基板51に電気的に接続する。
【0057】
このようにインバータケース8のケース本体10をステータハウジング7の端壁7Aに取り付けた後、
図11中白抜き矢印の如く蓋部材15をケース本体10にボルト固定で取り付ける。この状態が
図3に示されている。
【0058】
以上詳述した如く、本発明ではスイッチング素子5をステータハウジング7(ヒートシンク)の端壁7Aに固定する固定部材71、72を設け、この固定部材71、72を、スイッチング素子5に当接する皿ばね76と、この皿ばね76を圧縮してスイッチング素子5を端壁7Aに押圧するカバー73、74から構成したので、スイッチング素子5を所用の押圧力である400Nで押さえた際に発生する応力を低く抑えることができるようになる。
【0059】
これにより、所用の応力でスイッチング素子5を端壁7Aに押圧固定することができるようになり、スイッチング素子5の固定力が向上し、安定的にスイッチング素子5を端壁7Aに取り付けることができるようになる。
【0060】
また、実施例では皿ばね76を各スイッチング素子5に対してそれぞれ用意し、カバー73、74の押え部78、82には、各皿ばね76をそれぞれ保持する複数の保持部79、83を形成しているので、各スイッチング素子5を安定的に端壁7Aに押圧固定することが可能となる。
【0061】
この場合、実施例ではスイッチング素子5の各列に対応して複数の固定部材71、72設けているので、各列のスイッチング素子5をそれぞれ安定的に押圧固定することが可能となる。
【0062】
次に、
図12は固定部材71、72の他の実施例を示している。尚、
図8と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。前述した実施例では各列のスイッチング素子5に対応して二つ(複数)の固定部材71、72を取り付けたが、この実施例では、
図12に示すように固定部材71に相当する部分71Aと、固定部材72に相当する部分72Aを一体に備えた一つの固定部材70を用いる。
【0063】
この場合は、スイッチング素子5を避けたかたちで、部分71Aのカバー73と部分72Aのカバー74が連結されたかたちとなる。このように、一体の固定部材70を用いることで、部品点数の削減を図ることが可能となる。
【0064】
また、前記実施例では一枚の皿ばね76を用いてスイッチング素子5を押圧した。係る一枚の皿ばね76の断面を
図13の(a)に示す。しかしながら、一枚の皿ばね76では押圧する荷重が不足する場合には、例えば、
図13の(b)や(c)に示すように二枚積層して用いる。更に大きい荷重が必要な場合は更に積層する枚数を増やす。
【0065】
このように、皿ばね76を複数枚積層して設けるようにすれば、皿ばね76の枚数を変更することにより、スイッチング素子5をステータハウジング7(ヒートシンク)の端壁7Aに押圧する荷重を調整することが可能となり、汎用性も増す。
【0066】
尚、実施例で示した各部材の具体的形状は、それらに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 電動圧縮機
2 電動モータ(モータ)
3 インバータ
4 スクロール圧縮機構(圧縮機構)
5 スイッチング素子
5A 端子
7 ステータハウジング(ヒートシンク)
7A 端壁(隔壁)
8 インバータケース
10 ケース本体
10A 底壁
11 ハウジング(ヒートシンク)
12 モータ室
13 インバータ収容部
51 回路基板
54 開口
68 端子接続孔
70、71、72 固定部材
73、74 カバー
76 皿ばね
78、82 押え部
79、83 保持部