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特開2024-2359耐熱性高タフネスフィルム、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002359
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】耐熱性高タフネスフィルム、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101504
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA56
4F071AA81
4F071AA83
4F071AA86
4F071AF15Y
4F071AF21Y
4F071AF30
4F071AF43Y
4F071AF61Y
4F071AH13
4F071AH16
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】強度、伸度および耐熱性の物性のバランスが優れる耐熱性高タフネスフィルムを提供する。
【解決手段】破断強度が80~150MPa、破断伸度5~30%、ガラス転移温度250℃以上、300℃における熱収縮率が5%以下である耐熱性高タフネスフィルムにより得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
破断強度が80~150MPaであり、破断伸度が5~30%であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、かつ、300℃における熱収縮率が5%以下であることを特徴とする耐熱性高タフネスフィルム。
【請求項2】
JIS K 7361に準拠した全光線透過率(TT)が80%以上であり、JIS K 7136に準拠したヘイズ値が5.0%以下である請求項1に記載の耐熱性高タフネスフィルム。
【請求項3】
耐熱性高タフネスフィルムが、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイルおよびテレフタロイルからなる群から選ばれる3種のモノマー単位、またはメタフェニレンテレフタルアミド単位、またはパラフェニレンイソフタルアミド単位を含む共重合アラミド重合体を含んでなる、請求項1または2に記載の耐熱性高タフネスフィルム。
【請求項4】
耐熱性高タフネスフィルムが、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が10以上60未満:90以下40より大きい範囲である共重合アラミド重合体を含んでなる、請求項1または2に記載の耐熱性高タフネスフィルム。
【請求項5】
耐熱性高タフネスフィルムの製造方法であって、
メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイルおよびテレフタロイルからなる群から選ばれる3種のモノマー単位、またはメタフェニレンテレフタルアミド単位、またはパラフェニレンイソフタルアミド単位を含む共重合アラミド重合体を含んでおり、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が10以上60未満:90以下40より大きい範囲であり、アミド系溶媒に5~25質量%の範囲で溶解させた溶液を薄膜上に塗布し、水性凝固液内で凝固させた後、一定伸長下30~150℃で乾燥させることで得られる、耐熱性高タフネスフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性高タフネスフィルム、およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、強度、伸度、および耐熱性の物性のバランスが優れていることを特徴とする耐熱性高タフネスフィルム、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルム材料は、以前から使用されているガラスが抱える重い、割れやすいなどの問題を克服するため、偏光フィルム、位相差フィルム、ディスク保護フィルムなどの用途で代替されてきている。光学フィルムは、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、セルロース樹脂等が使用されている。電子・電気工業分野においては機器の小型化・軽量化の観点からフィルムを基材としたフレキシブルデバイスをはじめとする電気回路や半導体材料への応用が盛んにおこなわれている。これらの用途に求められる性能・用途に応じた物性をもつフィルムが現在盛んに開発・製造されており、特に機械特性や高温条件下でも耐えられる耐熱性は、昨今の材料に求められる必須要件になりつつある。高強度、高弾性フィルムは、高強度の構造体を与えることができるが、伸度が低い場合、大きな変形に対しては緩和することができずに破断してしまう。これらフィルムの強伸度はトレードオフの関係にあり、強度と伸度の双方を満たす高タフネスフィルムの開発は困難であった。耐熱性フィルムに関する報告例としては以下のようなものがある。
【0003】
例えば、特開2003-176354号公報(特許文献1)では、耐熱性に優れるポリイミド骨格を含むポリマーからなる透明なフィルムを報告しているが、ガラス転移温度が120~160℃程度であり高温において変形する可能性がある。特開平3-138129号公報(特許文献2)では、より耐熱性に優れる高強度フィルムが報告されているが、強度が最大160MPaである一方で250℃熱収縮率が20%以下と高い値であり、高温域での使用には不十分である。
【0004】
機械特性と耐熱性を有する材料の一つに全芳香族ポリアミド(アラミド)が挙げられる。しかしながら、アラミドポリマーを用いる場合、耐熱性が必要な分野において、さらに高強度が求められる場合は、一般的にパラ型を用いるが、使用変形を伴いにくい用途に限定される。一方、耐熱性が必要な分野において、柔軟性が求められる場合は、メタ型を用いるが、強度を犠牲にする必要があった。
したがって、アラミド材料相当の耐熱性を有しながらも、強度と伸度のバランスがとれた特徴を有するフィルム材料を得ることは有用であるが、従来技術では得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-176354号公報
【特許文献2】特開平3-138129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した背景の通り、高耐熱性を有しながらも、強度と伸度のバランスがとれた耐熱性高タフネスフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、複数の特定のモノマーを特定の比率で共重合にしたポリマーをフィルム化することにより、高耐熱性を有しながらも、強度と伸度のバランスがとれた耐熱性高タフネスフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明によれば、
1.破断強度が80~150MPaであり、破断伸度が5~30%であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、かつ、300℃における熱収縮率が5%以下であることを特徴とする耐熱性高タフネスフィルム。
2.JIS K 7361に準拠した全光線透過率(TT)が80%以上であり、JIS K 7136に準拠したヘイズ値が5.0%以下である前記1に記載の耐熱性高タフネスフィルム。
3.耐熱性高タフネスフィルムが、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイルおよびテレフタロイルからなる群から選ばれる3種のモノマー単位、またはメタフェニレンテレフタルアミド単位、またはパラフェニレンイソフタルアミド単位を含む共重合アラミド重合体を含んでなる、前記1または2に記載の耐熱性高タフネスフィルム。
4.耐熱性高タフネスフィルムが、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が10以上60未満:90以下40より大きい範囲である共重合アラミド重合体を含んでなる、前記1または2に記載の耐熱性高タフネスフィルム。
5.耐熱性高タフネスフィルムの製造方法であって、
メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイルおよびテレフタロイルからなる群から選ばれる3種のモノマー単位、またはメタフェニレンテレフタルアミド単位、またはパラフェニレンイソフタルアミド単位を含む共重合アラミド重合体を含んでおり、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位と、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が10以上60未満:90以下40より大きい範囲である共重合アラミド重合体をアミド系溶媒に5~25質量%の範囲で溶解させた溶液を薄膜上に塗布し、水性凝固液内で凝固させた後、一定伸長下30~150℃で乾燥させることで得られる、耐熱性高タフネスフィルムの製造方法。
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明で得られる耐熱性高タフネスフィルムは、ガラス転移温度250℃以上かつ300℃における乾熱寸法変化率が5%以下と高い耐熱性を有し、破断強度が80~150MPa、破断伸度が5~30%の高タフネスフィルムであり、物性のバランスが優れているため、高温下でかつ強度と柔軟性の両立が必要な用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明の耐熱性高タフネスフィルムは、破断強度が80~150MPaであり、破断伸度が5~30%であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、かつ、300℃における熱収縮率が5%以下であることを特徴とする。かかる耐熱性高タフネスフィルムを構成するポリマーとして、全芳香族ポリアミド(以下、アラミドと称する場合がある)が挙げられ、具体的にはメタ型およびパラ型芳香族ジアミン成分とメタ型およびパラ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、共重合により合成されるものである。
【0011】
本発明による耐熱性高タフネスフィルムは、破断強度が80~150MPaであり、破断伸度が5~30%であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、かつ、300℃における熱収縮率が5%以下である。破断強度は、80~150MPaであり、好ましくは100~150MPaである。破断強度が80MPaに満たない場合、耐熱フィルム用途としての強度としては不十分である。また、本発明の耐熱性高タフネスフィルムの破断伸度は5%~30%であり、より好ましくは5%~20%である。破断伸度が5%未満である場合、伸度が十分でないため柔軟性が十分に発揮されないことがある。また、ガラス転移温度は、250℃以上であり、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。ガラス転移温度が250℃より低くなると、耐熱性フィルムとしての性能が十分に発揮されないことがある。また、300℃における熱収縮率は、5%以下であり、好ましくは4%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。熱収縮率が5%超となると、耐熱性フィルムとしての性能が十分に発揮されないことがある。
【0012】
本発明において好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、イソフタロイルおよびテレフタロイルからなる群から選ばれる3種のモノマー単位、またはメタフェニレンテレフタルアミド単位、またはパラフェニレンイソフタルアミド単位を含む構造から構成される共重合アラミド重合体を含んでなる全芳香族ポリアミドである。下記表1の組合せ例のうち、一般に例1~4に示す3種のモノマー単位を含むもの、および、例6~7に示す2種のモノマー単位を含むものが好ましく、例6~7に示す2種のモノマー単位を含むものがより好ましい場合がある。
【0013】
さらに、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル比率(モル%ともいう)が全体の10以上60未満、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が全体の90以下40より大きい範囲であることが好ましく、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル比率が全体の20以上60未満、パラフェニレンジアミンおよび/またはテレフタロイルモノマー単位のモル比率が全体の80以下40超であることがより好ましい。メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル比率が60以上であると、目的の強度が達成されないことがある。一方、メタフェニレンジアミンおよび/またはイソフタロイルモノマー単位のモル比率が10未満であると、得られるポリマーが後述するアミド系溶媒に溶解せず、製膜できないことがある。
【0014】
【表1】
【0015】
本発明の耐熱性高タフネスフィルムは、メタ型およびパラ型モノマーをランダム共重合しているため透明性を阻害する結晶構造を抑制することで、高い透明度をもったフィルムとすることができる。透明度の指標として、JIS K 7361に準拠した全光線透過率(TT)が、80%以上が好ましく、83%以上がより好ましく、84%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましく、86%以上がより特に好ましい。また、JIS K 7136に準拠したヘイズ値は5.0%以下であることが好ましく、2.5%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましく、1.0%以下が特に好ましい。全光線透過率が80%未満の場合は、透明性に欠けディスプレイ用途をはじめとするフレキシブルデバイスに好適でない場合がある。また、ヘイズが5.0%より大きい場合は、同様に透明性に欠けディスプレイ用途に好適でない場合がある。
【0016】
全芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミンまたはパラフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。
【0017】
本発明の全芳香族ポリアミドを構成する芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、およびこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。同様に、パラ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、テレフタル酸クロライド、テレフタル酸ブロマイド等のテレフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体を例示することができる。
【0018】
本発明の全芳香族ポリアミドの重合方法としては、メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離する方法(界面重合、特公昭47-10863号公報)、またはアミド系溶媒で上記ジアミンと酸クロライドを溶液重合し次いで水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和する方法(溶液重合、特開平8-074121号公報、特開平10-88421号公報)などに記載の公知のメタアラミドの重合方法を用いて、本発明の全芳香族ポリアミドを製造できるが、これに限定されるものではない。
【0019】
なお、本発明に用いられる全芳香族ポリアミド(共重合アラミド重合体ともいう)の重量平均分子量は、実用に耐え得る破断強度をもつフィルムを形成し得る観点から、後述する分析方法に従い40万~100万であることが好ましい。なお、重量平均分子量40万に満たない場合、粘度が低くなりすぎて安定した製膜ができないことがある。また、分子量が100万を超える場合、後述する全芳香族ポリアミド溶液を作製し製膜する際、粘度が高すぎるため取扱が難しく、専用の設備が必要になることがある。
【0020】
本発明で規定する分子量範囲のポリマーは、低分子量ポリマーと高分子量ポリマーの混合物を使用することができ、混合比の調整により全体分子量が規定する分子量範囲の値であればよい。例えば、重量平均分子量が20万のポリマーと80万のポリマーを混合し、この混合されたポリマーの重量平均分子量が60万であった場合、本発明で規定する分子量範囲のため、利用は何ら問題ない。
【0021】
[フィルムの製造方法]
本発明の耐熱性高タフネスフィルムは、前述した製造方法によって得られた全芳香族ポリアミドを含むポリマー原液を、アルコール、水などの溶媒の中に投入し、再沈、分離された後、再び溶媒に溶解させてフィルムの成形に用いることができる。さらには、好ましくはポリマー原液をそのまま、もしくは重合後に適宜濃度を調整して製膜に用いることが好ましい。この時の濃度の調整は濃縮、もしくは溶媒での希釈によりおこなうことができる。かかる溶媒としては、重合溶媒として例示したものと同様なものを使用できる。
【0022】
また、成膜は、溶液製膜法により製造されることが好ましい。溶液製膜法としては、乾湿式法、乾式法または湿式法などが挙げられるが、乾湿式法または乾式法が、表面性のよいフィルムが得られる点で好ましい。
【0023】
湿式法で製膜する場合には、該原液を口金から直接製膜用浴中に押出するか、または一旦ドラムなどの支持体上に押出し、支持体ごと湿式浴中に導入する方法を用いるのが好ましい。この浴は一般に水系媒体からなるものであり、水の他に有機溶媒や無機塩などを含有していてもよい。湿式浴を通すことでフィルム中に含有された塩類や有機溶媒などの抽出をおこなうことができる。これら湿式浴全体を通過する時間はフィルムの厚みにもよるが、10秒~30分であることが好ましい。
【0024】
延伸フィルムの場合は、湿式浴を出たポリマーを、長手方向に延伸され、次いで乾燥、横延伸、熱処理に付しても良い。その場合、これらの処理は一般に100~500℃で、合計でl秒~30分であることが好ましい。
【0025】
乾湿式法で製膜する場合は該原液を口金からドラム、エンドレスベルトなどの支持体上に押出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を飛散させ薄膜が自己保持性をもつまで乾燥する。乾燥条件は室温~300℃、60分以内が好ましい。乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて湿式工程に導入し、上記の湿式法と同様に脱塩、脱溶媒などをおこなう。延伸フィルムの場合は、さらに延伸、乾燥、熱処理を行ってもよい。
【0026】
乾式法のプロセスを採用した場合には、ドラム、エンドレスベルトなどの上で乾燥し、自己保持性をもったフィルムを、これら支持体から剥離する。延伸フィルムの場合は、さらに残存溶媒を除去するための乾燥、延伸、熱処理を行ってもよい。これらの処理は100~500℃で、合計で1秒~30分でおこなうことが好ましい。
【0027】
本発明において特に好ましいフィルム製造方法として、溶液成膜法が挙げられ、具体的には本発明の全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に5~25質量%の範囲で溶解させた溶液を薄膜上に塗布し、水性凝固液内で凝固させた後、一定伸長下、好ましくは30~150℃、より好ましくは50~140℃、さらに好ましくは70~120℃、最も好ましくは100℃、の範囲で乾燥させることで得られる。
【実施例0028】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例および比較例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0029】
[重量平均分子量Mw]
JIS-K-7252に準じ、サイズ排除クロマトグラフィー用カラムを装着した高速液体クロマトグラフィー装置にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【0030】
[フィルムの破断強度、破断伸度]
フィルムの引張試験時の最大応力は、エー・アンド・デイテンシロンを用いて、JIS K 7127に準拠して測定を行い、応力および伸度が最大となる値を記録した。試験片は、幅10mm、長さ50mmの試料とし、引張速度は20mm/minとした。
【0031】
[フィルムのガラス転移温度および熱収縮率]
フィルムの軟化点(ガラス転移温度)、および熱収縮率は、日立ハイテクサイエンス製の熱機械分析装置TMAを用いて、JIS K 7196およびJIS K 7197に準拠して測定を行った。
【0032】
[フィルムの全光線透過率(TT)およびヘイズ値]
芳香族ポリアミドフィルムの全光線透過率およびヘイズ値は、日本電色工業製のヘイズメーターNDH2000を用いて、JIS K 7361およびJIS K 7136に準拠して測定を行った。
【0033】
[実施例1]
NMPに対しアミンモノマーを溶解した後、この溶液を0℃まで冷却し、メカニカルスターラーで攪拌しながら酸クロライドモノマーを投入した。この際、メタフェニレンジアミン単位が全体の50モル%、テレフタロイルモノマー単位が50モル%、溶液全体に対して重合後のポリマーの質量濃度が10.7%になるよう調整した。また、酸クロライドモノマーはテレフタル酸クロライドを使用し、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンを使用した。重量平均分子量は56万であった。このポリマー溶液をガラス板の上にのせ、ドクターブレード法により、薄膜化させた。次いで、100℃で5分間乾燥させ、水浴中に導入し溶媒を除去した。その後、100℃で30分乾燥させ、全芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムは、膜厚14μm、破断強度130MPa、破断伸度17%、ガラス転移温度320℃、300℃における熱収縮率は0.5%であった。また全光線透過率は86%、ヘイズ値は0.95%であった。
【0034】
[実施例2]
実施例1に準じた溶液重合により、メタフェニレンジアミン単位が全体の25モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が75モル%である共重合アラミド重合体を含むポリマー溶液を合成した。この際、酸クロライドモノマーはテレフタル酸クロライドを使用した。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し質量比が1:1となるようにした。重量平均分子量は58万であった。 このポリマー溶液を実施例1と同様の方法により製膜し、共重合アラミドフィルムを得た。得られたフィルムは、膜厚14μm、破断強度120MPa、破断伸度6%、ガラス転移温度280℃、300℃における熱収縮率は3.0%であった。また全光線透過率は84%、ヘイズ値は1.8%であった。
【0035】
[実施例3]
実施例1に準じた溶液重合により、メタフェニレンジアミン単位が全体の29モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が71モル%である共重合アラミド重合体を含むポリマー溶液を合成した。この際、酸クロライドモノマーはテレフタル酸クロライドを使用した。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンおよびパラフェニレンジアミンの双方を使用し質量比が4:3となるようにした。重量平均分子量は69万であった。このポリマー溶液を実施例1と同様の方法により製膜し、共重合アラミドフィルムを得た。得られたフィルムは、膜厚15μm、破断強度125MPa、破断伸度12%、ガラス転移温度290℃、300℃における熱収縮率は1.7%であった。また全光線透過率は85%、ヘイズ値は1.2%であった。
【0036】
[比較例1]
実施例1に準じた溶液重合により、メタフェニレンジアミン単位が全体の66モル%、パラフェニレンジアミンおよびテレフタロイルモノマー単位が34モル%である共重合アラミド重合体を含むポリマー溶液を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライドおよびテレフタル酸クロライドを使用し、質量比が1:2となるようにした。また、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンを使用した。重量平均分子量は58万であった。合成したポリマー溶液を実施例1と同様の方法により製膜し、共重合アラミドフィルムを得た。得られたフィルムは、膜厚15μm、破断強度50MPa、破断伸度13%、ガラス転移温度260℃、300℃における熱収縮率は5.8%であった。また全光線透過率は70%、ヘイズ値は10%であった。
【0037】
[比較例2]
実施例1に準じた溶液重合により、メタフェニレンジアミン単位が全体の50モル%、イソフタロイルモノマー単位が50モル%であるアラミド重合体を含むポリマー溶液を合成した。この際、酸クロライドモノマーはイソフタル酸クロライド、アミンモノマーはメタフェニレンジアミンを使用した。重量平均分子量は70万であった。合成したポリマー溶液を実施例1と同様の方法により製膜し、アラミドフィルムを得た。得られたフィルムは、膜厚15μm、破断強度40MPa、破断伸度15%、ガラス転移温度200℃、300℃における熱収縮率は20%であった。また全光線透過率は87%、ヘイズ値は2.8%であった。
【0038】
[比較例3]
実施例1に準じた溶液重合により、パラフェニレンジアミン単位が全体の50モル%、テレフタロイルモノマー単位が50モル%であるアラミド重合体を含むポリマー溶液を合成した。この際、酸クロライドモノマーはテレフタル酸クロライド、アミンモノマーはパラフェニレンジアミンを使用し、溶液全体に対して重合後のポリマーの質量濃度が5.0%になるよう調整した。重量平均分子量は50万であった。合成したポリマー溶液を実施例1と同様の方法により製膜し、アラミドフィルムを得た。得られたフィルムは、膜厚15μm、破断強度55MPa、破断伸度3%、ガラス転移温度は検出されず、300℃における熱収縮率は0.3%であった。また全光線透過率は21%、ヘイズ値は80%であった。
前記の実施例および比較例で得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0039】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明で得られる耐熱性高タフネスフィルムは、強度、伸度および耐熱性の物性のバランスが優れていることから、耐熱性を犠牲にして汎用樹脂が使用されていた用途や、複数のフィルム材料の組合せにより機械物性と耐熱性を補っていた用途に好適に使用できる。また、適度な強度と柔軟性を兼ねそろえた新規な耐熱性高タフネス材料であることから、例えば変形を多く伴い強度が求められるフレキシブルデバイス材料に適用できる。