(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023623
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】歯科用上顎模型、歯科用下顎模型、オンライン相談方法、販売方法、遠隔治療支援方法、歯科用上顎模型の製造方法、歯科用下顎模型の製造方法、及び3次元的データの作製方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/34 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
A61C13/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208854
(22)【出願日】2023-12-11
(62)【分割の表示】P 2022556387の分割
【原出願日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2020177061
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520228016
【氏名又は名称】株式会社Dental Prediction
(74)【代理人】
【識別番号】110003476
【氏名又は名称】弁理士法人瑛彩知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野澤 元春
(72)【発明者】
【氏名】笠間 慎太郎
(57)【要約】
【課題】個々の患者の上顎の模型を精度良く作製できる歯科用上顎模型を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、樹脂からなる歯11aを備えた上顎骨12aと、前記上顎骨12aの上顎洞側に付着させた人工シュナイダー膜と、前記上顎骨12aに付着させた人工骨膜と、前記人工骨膜上に付着させた人工歯肉13と、を有する歯科用上顎模型である。前記人工歯肉13には切開線15が明示されていてもよい。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる歯を備えた上顎骨と、
前記上顎骨の上顎洞側に付着させた人工シュナイダー膜と、
前記上顎骨に付着させた人工骨膜と、
前記人工骨膜上に付着させた人工歯肉と、
を有することを特徴とする歯科用上顎模型。
【請求項2】
請求項1において、
前記人工歯肉に明示された切開線を有することを特徴とする歯科用上顎模型。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記上顎骨又は前記人工骨膜に明示された削除部位領域を有することを特徴とする歯科用上顎模型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の歯科用上顎模型の購入者が、前記歯科用上顎模型の販売者が指定する歯科医師にオンラインによるビデオ通信により前記歯科用上顎模型を用いて手術に関する相談をすることを特徴とするオンライン相談方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の歯科用上顎模型の販売者が、前記歯科用上顎模型の作製を依頼した者に、前記歯科用上顎模型を用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けて前記歯科用上顎模型を販売することを特徴とする販売方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の歯科用上顎模型の購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術を行う時に、前記購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術野カメラ及びイヤホンを装着して、オンラインによるビデオ通信により手術の方法を前記歯科用上顎模型の販売者が指定する歯科医師がアドバイス又は指示することを特徴とする遠隔治療支援方法。
【請求項7】
樹脂からなる歯を備えた下顎骨と、
前記下顎骨に付着させた人工骨膜と、
前記人工骨膜上に付着させた人工歯肉と、
を有することを特徴とする歯科用下顎模型。
【請求項8】
請求項7において、
前記人工歯肉に明示された切開線を有することを特徴とする歯科用下顎模型。
【請求項9】
請求項7又は8において、
前記下顎骨又は前記人工骨膜に明示された削除部位領域を有することを特徴とする歯科用下顎模型。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載の歯科用下顎模型の購入者が、前記歯科用下顎模型の販売者が指定する歯科医師にオンラインによるビデオ通信により前記歯科用下顎模型を用いて手術に関する相談をすることを特徴とするオンライン相談方法。
【請求項11】
請求項7から9のいずれか一項に記載の歯科用下顎模型の販売者が、前記歯科用下顎模型の作製を依頼した者に、前記歯科用下顎模型を用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けて前記歯科用下顎模型を販売することを特徴とする販売方法。
【請求項12】
請求項7から9のいずれか一項に記載の歯科用下顎模型の購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術を行う時に、前記購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術野カメラ及びイヤホンを装着して、オンラインによるビデオ通信により手術の方法を前記歯科用下顎模型の販売者が指定する歯科医師がアドバイス又は指示することを特徴とする遠隔治療支援方法。
【請求項13】
患者の歯を備えた上顎骨の3次元的データを基に3Dプリンターによって樹脂からなる前記歯を備えた上顎骨を作製する工程(a)と、
前記上顎骨に人工骨膜と人工歯肉を付着させる工程(b)と、
前記上顎骨の上顎洞側に人工シュナイダー膜を塗布する工程(c)と、
を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記工程(b)の後に、前記人工歯肉に切開線を明示する工程を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【請求項15】
請求項13又は14において、
前記工程(a)の後に、前記上顎骨又は前記人工骨膜に削除部位領域を明示する工程を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか一項において、
前記工程(a)の前に、
CTの医用画像をフォーマットした画像データを画像解析ソフトウェアに読み込み、前記画像解析ソフトウェアにおいて歯及び骨の領域を抽出する工程(d)と、
前記領域を抽出したデータから三次元画像の構築上の妨げとなる部位を削除し、粗な部分や空洞を塗りつぶす工程(e)と、
前記工程(e)の後の前記領域を抽出したデータの重ね合わせから、前記歯を備えた上顎骨の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する工程(f)と、
前記三次元画像データを3DCGソフトウェアに読み込み、前記3DCGソフトウェアにおいて前記三次元画像データを汎用の画像データに変換する工程(g)と、
前記汎用の画像データから不要なゴミポリゴンを削除する工程(h)と、
前記CTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータを位置合わせして重ね合わせ、不要部分の削除及び足りない部分の修正の少なくとも一方を行うことで、3次元的データを構築する工程(i)と、
を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記工程(d)の前記CTの医用画像をフォーマットした画像データは、DICOMデータであり、
前記工程(g)の前記汎用の画像データは、OBJ形式の画像データであることを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【請求項18】
患者の歯を備えた下顎骨の3次元的データを基に3Dプリンターによって樹脂からなる前記歯を備えた下顎骨を作製する工程(a)と、
前記下顎骨に人工骨膜と人工歯肉を付着させる工程(b)と、
を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記工程(b)の後に、前記人工歯肉に切開線を明示する工程を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【請求項20】
請求項18又は19において、
前記工程(a)の後に、前記下顎骨又は前記人工骨膜に削除部位領域を明示する工程を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【請求項21】
請求項18から20のいずれか一項において、
前記工程(a)の前に、
CTの医用画像をフォーマットした画像データを画像解析ソフトウェアに読み込み、前記画像解析ソフトウェアにおいて歯及び骨の領域を抽出する工程(d)と、
前記領域を抽出したデータから三次元画像の構築上の妨げとなる部位を削除し、粗な部分や空洞を塗りつぶす工程(e)と、
前記工程(e)の後の前記領域を抽出したデータの重ね合わせから、前記歯を備えた下顎骨の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する工程(f)と、
前記三次元画像データを3DCGソフトウェアに読み込み、前記3DCGソフトウェアにおいて前記三次元画像データを汎用の画像データに変換する工程(g)と、
前記汎用の画像データから不要なゴミポリゴンを削除する工程(h)と、
前記CTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータを位置合わせして重ね合わせ、不要部分の削除及び足りない部分の修正の少なくとも一方を行うことで、3次元的データを構築する工程(i)と、
を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【請求項22】
請求項21において、
前記工程(d)の前記CTの医用画像をフォーマットした画像データは、DICOMデータであり、
前記工程(g)の前記汎用の画像データは、OBJ形式の画像データであることを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【請求項23】
CTの医用画像をフォーマットした画像データを画像解析ソフトウェアに読み込み、前記画像解析ソフトウェアにおいて歯及び骨の領域を抽出する工程(d)と、
前記領域を抽出したデータから三次元画像の構築上の妨げとなる部位を削除し、粗な部分や空洞を塗りつぶす工程(e)と、
前記工程(e)の後の前記領域を抽出したデータの重ね合わせから、前記歯を備えた上顎骨又は下顎骨の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する工程(f)と、
前記三次元画像データを3DCGソフトウェアに読み込み、前記3DCGソフトウェアにおいて前記三次元画像データを汎用の画像データに変換する工程(g)と、
前記汎用の画像データから不要なゴミポリゴンを削除する工程(h)と、
前記CTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータを位置合わせして重ね合わせ、不要部分の削除及び足りない部分の修正の少なくとも一方を行うことで、3次元的データを構築する工程(i)と、
を有することを特徴とする3次元的データの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用上顎模型、歯科用下顎模型、オンライン相談方法、販売方法、遠隔治療支援方法、歯科用上顎模型の製造方法、歯科用下顎模型の製造方法、及び3次元的データの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医院等では、歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置等の歯科外科処置が行われている。例えば、インプラント手術については特許文献1に開示されている。
インプラント手術とは、失われた歯根に代えて顎骨に人工歯根(デンタルインプラント)を埋め込む手術である。
【0003】
歯科外科処置の経験が無い歯科医師又は経験が少ない歯科医師の場合、経験豊富な歯科医師から既存の上下顎模型を用いて歯科外科処置の説明を聞いて勉強しただけでは、実際に患者への歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置)を行うのに不安がある。上下顎骨の形状は患者によって異なるので、通常の上下顎模型を用いて勉強しても、実際の患者の上下顎骨に的確に歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置)を行うことは簡単ではない。そのため、歯科外科処置に失敗することも有り得る。
【0004】
そこで、実際の患者の歯科用上下顎模型を精密で精度良く作ることができれば、歯科外科処置に失敗する可能性を減らすことができる。また、実際の患者の正確な歯科外科処置は、歯科医師たちの勉強会や手術の講習に使用することにも適している。
実際の患者の歯科用上下顎模型を作る方法としては、その患者のCTデータから3Dデータ(3次元的データ)を作製し、その3Dデータを用いて3Dプリンターによって模型を作ることが考えられる。
近年は、一般家庭においても勉強机の上で、無償ながら高機能なCADソフトで3Dモデルデータを構築し、パソコン横に設置された3Dプリンターで造形できる時代である。この潮流は歯科領域においてもデジタルデンティストリー(コンピューター支援による歯科治療)という言葉を生み、今や我々歯科医師は日常臨床において大きな恩恵にあずかっている。
【0005】
しかし、先端技術に造詣の深い臨床家や研究機関、財政的に余裕のある企業を除き、3Dプリントともなるとまだ手が伸び辛い感は否めない。理由は今回紹介する手法が周知されておらず、3D技術を生業とする企業ベースのコーマーシャルによってコスト及びその操作の煩雑さから未だ一般化には程遠いものとなってしまっているためと推察される。
従って、3Dプリンターで模型を作製するための3Dデータを作製することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の種々の態様は、個々の患者の上顎又は下顎の模型を精度良く作製できる歯科用上顎模型、歯科用下顎模型、歯科用上顎模型の製造方法、及び歯科用下顎模型の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明の種々の態様は、歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型を、歯科外科処置を行う歯科医師に効果的に利用してもらうためのオンライン相談方法、販売方法及び遠隔治療支援方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の種々の態様は、3Dプリンターで歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型を製造するための3次元的データの作製方法を提供することを目的とする。
【0010】
以下に本発明の種々の態様について説明する。
[1]樹脂からなる歯を備えた上顎骨と、
前記上顎骨の上顎洞側に付着させた人工シュナイダー膜と、
前記上顎骨に付着させた人工骨膜と、
前記人工骨膜上に付着させた人工歯肉と、
を有することを特徴とする歯科用上顎模型。
【0011】
[2]上記[1]において、
前記人工歯肉に明示された切開線を有することを特徴とする歯科用上顎模型。
【0012】
[3]上記[1]又は[2]において、
前記上顎骨又は前記人工骨膜に明示された削除部位領域を有することを特徴とする歯科用上顎模型。
【0013】
[4]上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の歯科用上顎模型の購入者が、前記歯科用上顎模型の販売者が指定する歯科医師にオンラインによるビデオ通信により前記歯科用上顎模型を用いて手術に関する相談をすることを特徴とするオンライン相談方法。
【0014】
[5]上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の歯科用上顎模型の販売者が、前記歯科用上顎模型の作製を依頼した者に、前記歯科用上顎模型を用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けて前記歯科用上顎模型を販売することを特徴とする販売方法。
【0015】
[6]上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の歯科用上顎模型の購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術を行う時に、前記購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術野カメラ及びイヤホンを装着して、オンラインによるビデオ通信により手術の方法を前記歯科用上顎模型の販売者が指定する歯科医師がアドバイス又は指示することを特徴とする遠隔治療支援方法。
【0016】
[7]樹脂からなる歯を備えた下顎骨と、
前記下顎骨に付着させた人工骨膜と、
前記人工骨膜上に付着させた人工歯肉と、
を有することを特徴とする歯科用下顎模型。
【0017】
[8]上記[7]において、
前記人工歯肉に明示された切開線を有することを特徴とする歯科用下顎模型。
【0018】
[9]上記[7]又は[8]において、
前記下顎骨又は前記人工骨膜に明示された削除部位領域を有することを特徴とする歯科用下顎模型。
【0019】
[10]上記[7]から[9]のいずれか一項に記載の歯科用下顎模型の購入者が、前記歯科用下顎模型の販売者が指定する歯科医師にオンラインによるビデオ通信により前記歯科用下顎模型を用いて手術に関する相談をすることを特徴とするオンライン相談方法。
【0020】
[11]上記[7]から[9]のいずれか一項に記載の歯科用下顎模型の販売者が、前記歯科用下顎模型の作製を依頼した者に、前記歯科用下顎模型を用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けて前記歯科用下顎模型を販売することを特徴とする販売方法。
【0021】
[12]上記[7]から[9]のいずれか一項に記載の歯科用下顎模型の購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術を行う時に、前記購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術野カメラ及びイヤホンを装着して、オンラインによるビデオ通信により手術の方法を前記歯科用下顎模型の販売者が指定する歯科医師がアドバイス又は指示することを特徴とする遠隔治療支援方法。
【0022】
[13]患者の歯を備えた上顎骨の3次元的データを基に3Dプリンターによって樹脂からなる前記歯を備えた上顎骨を作製する工程(a)と、
前記上顎骨に人工骨膜と人工歯肉を付着させる工程(b)と、
前記上顎骨の上顎洞側に人工シュナイダー膜を塗布する工程(c)と、
を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【0023】
[14]上記[13]において、
前記工程(b)の後に、前記人工歯肉に切開線を明示する工程を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【0024】
[15]上記[13]又は[14]において、
前記工程(a)の後に、前記上顎骨又は前記人工骨膜に削除部位領域を明示する工程を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【0025】
[16]上記[13]から[15]のいずれか一項において、
前記工程(a)の前に、
CTの医用画像をフォーマットした画像データを画像解析ソフトウェアに読み込み、前記画像解析ソフトウェアにおいて歯及び骨の領域を抽出する工程(d)と、
前記領域を抽出したデータから三次元画像の構築上の妨げとなる部位を削除し、粗な部分や空洞を塗りつぶす工程(e)と、
前記工程(e)の後の前記領域を抽出したデータの重ね合わせから、前記歯を備えた上顎骨の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する工程(f)と、
前記三次元画像データを3DCGソフトウェアに読み込み、前記3DCGソフトウェアにおいて前記三次元画像データを汎用の画像データに変換する工程(g)と、
前記汎用の画像データから不要なゴミポリゴンを削除する工程(h)と、
前記CTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータを位置合わせして重ね合わせ、不要部分の削除及び足りない部分の修正の少なくとも一方を行うことで、3次元的データを構築する工程(i)と、
を有することを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【0026】
[17]上記[16]において、
前記工程(d)の前記CTの医用画像をフォーマットした画像データは、DICOMデータであり、
前記工程(g)の前記汎用の画像データは、OBJ形式の画像データであることを特徴とする歯科用上顎模型の製造方法。
【0027】
[18]患者の歯を備えた下顎骨の3次元的データを基に3Dプリンターによって樹脂からなる前記歯を備えた下顎骨を作製する工程(a)と、
前記下顎骨に人工骨膜と人工歯肉を付着させる工程(b)と、
を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【0028】
[19]上記[18]において、
前記工程(b)の後に、前記人工歯肉に切開線を明示する工程を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【0029】
[20]上記[18]又は[19]において、
前記工程(a)の後に、前記下顎骨又は前記人工骨膜に削除部位領域を明示する工程を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【0030】
[21]上記[18]から[20]のいずれか一項において、
前記工程(a)の前に、
CTの医用画像をフォーマットした画像データを画像解析ソフトウェアに読み込み、前記画像解析ソフトウェアにおいて歯及び骨の領域を抽出する工程(d)と、
前記領域を抽出したデータから三次元画像の構築上の妨げとなる部位を削除し、粗な部分や空洞を塗りつぶす工程(e)と、
前記工程(e)の後の前記領域を抽出したデータの重ね合わせから、前記歯を備えた下顎骨の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する工程(f)と、
前記三次元画像データを3DCGソフトウェアに読み込み、前記3DCGソフトウェアにおいて前記三次元画像データを汎用の画像データに変換する工程(g)と、
前記汎用の画像データから不要なゴミポリゴンを削除する工程(h)と、
前記CTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータを位置合わせして重ね合わせ、不要部分の削除及び足りない部分の修正の少なくとも一方を行うことで、3次元的データを構築する工程(i)と、
を有することを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【0031】
[22]上記[21]において、
前記工程(d)の前記CTの医用画像をフォーマットした画像データは、DICOMデータであり、
前記工程(g)の前記汎用の画像データは、OBJ形式の画像データであることを特徴とする歯科用下顎模型の製造方法。
【0032】
[23]CTの医用画像をフォーマットした画像データを画像解析ソフトウェアに読み込み、前記画像解析ソフトウェアにおいて歯及び骨の領域を抽出する工程(d)と、
前記領域を抽出したデータから三次元画像の構築上の妨げとなる部位を削除し、粗な部分や空洞を塗りつぶす工程(e)と、
前記工程(e)の後の前記領域を抽出したデータの重ね合わせから、前記歯を備えた上顎骨又は下顎骨の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する工程(f)と、
前記三次元画像データを3DCGソフトウェアに読み込み、前記3DCGソフトウェアにおいて前記三次元画像データを汎用の画像データに変換する工程(g)と、
前記汎用の画像データから不要なゴミポリゴンを削除する工程(h)と、
前記CTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータを位置合わせして重ね合わせ、不要部分の削除及び足りない部分の修正の少なくとも一方を行うことで、3次元的データを構築する工程(i)と、
を有することを特徴とする3次元的データの作製方法。
【0033】
本発明の種々の態様によれば、個々の患者の上顎又は下顎の模型を精度良く作製できる歯科用上顎模型、歯科用下顎模型、歯科用上顎模型の製造方法、及び歯科用下顎模型の製造方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明の種々の態様によれば、歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型を、歯科外科処置を行う歯科医師に効果的に利用してもらうためのオンライン相談方法、販売方法及び遠隔治療支援方法を提供することができる。
【0035】
また、本発明の種々の態様によれば、3Dプリンターで歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型を製造するための3次元的データの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、実際の患者の3Dデータによる画像である。
【
図2】
図2は、人骨に近似した硬さの樹脂により作製した3Dモデルの写真である。
【
図3】
図3は、人工骨膜上に人工歯肉13をつけた状態を示す写真である。
【
図4】
図4は、
図2に示す3Dモデルに
図3に示す人工骨膜と人工歯肉13を付着させた状態を示す写真である。
【
図5】
図5は、
図4に示す3Dモデルに付着させる人工シュナイダー膜14である。
【
図6】
図6は、
図4に示す人工歯肉13と人工骨膜を付着させた3Dモデルに、
図5に示すような人工シュナイダー膜14を付着させた状態を示す写真である。
【
図7】
図7は、
図6に示す3Dモデルに切開線15を明示した状態を示す写真である。
【
図8】
図8は、DICOMを画像解析ソフトウェアに読み込むことで得られた画像データを示す図である。
【
図9】
図9は、画像解析ソフトウェアにおいて骨や歯を選択する値を基準に自動抽出することで得られた画像データを示す図である。
【
図10】
図10は、頚椎や三次元画像の構築上の妨げとなる部位の削除、及び粗な部分や空洞の塗りつぶしを、ペンツールと塗りつぶしツールを用いて行うことで得られた画像データを示す図である。
【
図11】
図11は、表面形状データの表示した画像データを示す図である。
【
図12】
図12は、オンラインサポートシステム又はOutputサポートシステムを詳細に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0038】
公知技術の3D Printer(プリンター)より作成した3D Modelは硬組織(骨)の描出を可能とし、臨床医療現場においても、研修医や若手の医師の手術練習や研究用模型として利用することも可能である。CT技術の向上により得られる患者のデータが、より鮮明になり、限りなく個々の患者の硬組織の形態に近いModelを作成できる。
しかし、この3D Printerでは、軟組織(歯肉、膜、神経、血管等の硬組織以外)の生態構成組織の構築が難しく、手術の一連の流れの麻酔、切開、剥離、縫合といった軟組織に対する処置が、患者のデータから構築した3D modelでは再現できない。
【0039】
本発明の一態様に係るSRPM(Similar Real Patient Model)は、3D Printerより作製した患者類似の硬組織(骨)に、人工歯肉、人工骨膜、及び、上顎洞内のシュナイダー膜を人工的に再現した人工シュナイダー膜を付与することにより、患者の上下顎骨及び軟組織の形態を再現した模型を作製することが可能である。
【0040】
そのモデルに、指導医や専門医の知識によって切開線や骨を開けて骨造成をする部位(Window)にマークを付与することにより、歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置)のナビゲートシステムを構築することが可能となる。
【0041】
<歯科用上顎模型の製造方法>
以下に、本発明の一態様に係る歯科用上顎模型の製造方法について図面を参照しつつ説明する。
図1は、実際の患者の3Dデータ(3次元的データ)による画像である。詳細には、歯科医院で撮影された実際の患者のCTデータから歯11を備えた上顎骨12を表す3Dデータを歯科用上顎模型作製者が公知のソフトウェアを用いて作製し、その3Dデータによって
図1に示すような画像を表示することができる。この3Dデータの作製方法の詳細については後述する。なお、CTデータに加えて3Dスキャナーのデータ(口腔内スキャナーのデータ)も用いて3Dデータを作製してもよい。
【0042】
上記のCTデータや3Dスキャナーのデータの取得方法は、歯科医院で撮影された実際の患者のCTデータや3Dスキャナーのデータを、歯科医院に設置された端末から送信し、そのデータを歯科用上顎模型の作製者の端末が受信することで取得してもよい。
【0043】
以下に、DICOM(Digital Imaging and COmmunications in Medicine)データからの3Dデータ作製の方法(手順)について詳細に説明する。
なお、「DICOM」とは、CTやMRI、CRなどで撮影した医用画像のフォーマットと、それらを扱う医用画像機器間の通信プロトコルを定義した標準規格である。
【0044】
(1)セグメンテーション(領域抽出)
医用画像解析におけるセグメンテーションとは、CT等の医用画像をフォーマットしたDICOMなどの画像データからCT値等を基準に特定の領域を抽出することである。本方法では画像データから硬組織(歯や骨)を抽出する工程を意味する。以下に詳細に説明する。
【0045】
歯科用上顎模型作製者(又は歯科用下顎模型作製者)が画像解析ソフトウェア(Fiji is just)imageJのインストールを行う。DICOMを画像解析ソフトウェアに読み込む(Fire→ import→ image sequence→ DICOM選択)。これにより、
図8に示すようなデータを得る。
次に、画像解析ソフトウェアにおいて骨や歯を選択する値を基準に自動抽出する(image→ adjust→ threshold)。これにより、
図9に示すようなデータを得る。
【0046】
次いで、骨や歯の領域を抽出したデータから頚椎や三次元画像の構築上の妨げとなる部位の削除、及び粗な部分や空洞の塗りつぶしを、ペンツールと塗りつぶしツールを用いて行う。これにより、
図10に示すようなデータを得る。脳頭蓋と下顎骨は一つの画像から分離し、それぞれTIFFファイルフォーマット(TIFF)で保存する(Fire→ save as→ image sequence)。場合によっては歯の神経である歯髄及び歯、顔面表皮、気道などもそれぞれ単独で必要箇所を表示する。なお、「TIFF」は、ビットマップ画像の符号化形式の一種である。タグと呼ばれる識別子を使うことによって、様々な形式のビットマップ画像を柔軟に表現できる。
【0047】
(2)3Dモデルデータの構築
3Dモデルデータ、すなわち表面形状データの表示(サーフェスレンダリング)は、セグメンテーション(特定の領域の抽出)が終了した画像データから3Dビューワーでsurfacedisplay(表面表示)のThreshold100(しきい値100)、Sampling2(サンプリング2)を選択することで行う(plugins→ 3Dviewer)。これにより得られたデータはSTLのバイナリー形式で保存する(file→ export surfaces→ STL(binary))。これにより、
図11に示すようなデータを得る。
【0048】
なお、上記の「サーフェスレンダリング」とは、得られた断層撮影画像データの重ね合わせから、対象とするもの(即ち歯を備えた上顎骨又は歯を備えた下顎骨)の表面構造のみを抽出し、その抽出したデータにより三次元画像データを構築する三次元画像表示のための画像処理法(image processing)の手法である。また、上記の「3Dビューワー」は、一般的な3Dファイルを表示したり、3Dモデルを背景と合成して撮影したりできるアプリである。また、上記の「plugins」は、アプリケーションの機能を拡張するソフトウェアを指す。個別に追加してバージョンアップが可能である。また、上記の「STL」は、3Dプリンターに持っていくデータとして標準的なファイルフォーマットであり、「バイナリー形式」は、データが軽いので、データ容量に制限がある場合に適している。
【0049】
次に、STLのバイナリー形式で保存したデータをBlender(Blender Foundation)に読み込み、STLデータからOBJ形式に変換し、Zbrush(Pixologic Co)に読み込みが可能な状態にデータ形式を変換する。なお、上記の「Blender」とは、オープンソースの統合型3DCGソフトウェア(3次元コンピュータグラフィックスを制作するためのソフトウェア)の一つであり、3Dモデリング、レンダリング、デジタル合成などの機能を備えている。また、上記の「Blender Foundation」は、フリーかつオープンソースの3DCGソフトウェアであるBlenderの開発を行う非営利団体である。また、「OBJ形式」とは、3Dデータのファイル形式の一つであり、そのファイル形式は、3Dジオメトリのみを表現する単純なデータ形式である。なお、「3Dジオメトリのみ」とは、各頂点の位置、各テクスチャ座標の頂点のUV位置、頂点法線、頂点リストとして定義された各ポリゴンを形作る面、そしてテクスチャ頂点である。また、上記の「Zbrush」は、Pixologic社が開発するWindowsおよびmacOS用の3DCGソフトウェアである。
→PC上で彫刻(デジタル彫刻)ができる特徴があり、いわば主観的操作が可能となる。とりわけ、マニュアル操作が多い歯科医療業界においては親和性が高いといえる。
【0050】
(3)3Dデータの処理手順
OBJフォーマットにした各データをZbrushにインポートし読み込む。
セグメンテーション作業(特定の領域の抽出作業)からからSTL化したデータの問題点は、主要なデータから離れている不要な一般的に呼ばれるゴミポリゴンを多く含有し、ただデータを重たくしていることにある。ゴミポリゴンの存在は3Dプリントでも影響することから取り除く必要がある。
【0051】
Zbrush上で「polygroups→ AutoGroups→ subtool→ split→ Groups split」を行い、データ分離を行い、不要データをDelete機能で削除していく。
【0052】
また、上記の「polygroups」は複数のポリゴンにユニークなカラーを割り当て、一つのグループにまとめることができる機能である。ポリグループを利用することで、ポリゴンをまとめてワンクリックで非表示にすることや、マスクの適用ができる。また、上記の「Groups split」は、ポリグループごとにサブツールを分割する機能である。
【0053】
前述したCTの医用画像をフォーマットした画像データからの歯列データと口腔内スキャナーのデータ(即ち前記の3Dスキャナーのデータ)の重ね合わせ及び位置合わせは、Fusion360(Autodesk Inc.)に基準となるCTデータと口腔内スキャナデータを読み込み、CTデータを基準として口腔内スキャナデータを動かすことで修正及び位置合わせを行う。位置情報が変わった口腔内スキャナデータはSTLでエクスポートし、上述した方法でOBJファイルに変換する。なお、Fusion360は、Autodesk社が提供している高機能クラウド3DCADソフトである。このソフトでは、幾何学的な形やフィギュアのような滑らかな形まで両方の3Dモデルを作ることができる。
【0054】
必要データをZbrusuに取り込み、不要部分を削除したり、足りない部分は一部同ソフトウェア上で修正して3Dプリント用のデータ(即ち3次元的データ)を構築していく。なお、不要部分の削除と足りない部分の修正はいずれか一方のみを行う場合もあり得る。
【0055】
仕上げた3DデータはZpluginから3D Print Exporterを選択し、STLデータとしてエクスポートし3Dプリンターへと送る。
【0056】
なお、上記の「Zplugin」は、プラグインの中の補完用のファイルを自動で探索し、そのファイルを参照するシンボリックリンクを使ってfpath(コロンで区切られたディレクトリのリスト)に追加する機能がある。ディレクトリは、コンピューターのファイルシステムにおいて、ファイルをグループ化するための特殊なファイルで、整理・管理などの目的で活用される。
【0057】
また、「3D Print Exporter」は、3Dプリンターで一般的に使われているファイルフォーマットであるSTL形式を、Zbrushから直接出力できるようにするプラグインである。
【0058】
上記のようにしてCTデータや3Dスキャナーからの3Dデータを作製することができる。その3Dデータによって例えば
図1に示すような画像を表示することができる。
【0059】
(4)DICOMデータからの3Dデータの作製方法の効果
本方法はフリーウェアと汎用のソフトウェアを使用することからコスト面の問題を大幅に解決できる。また使用するソフトウェアは特別な保守を必要とせず一度入手すれば、定期的に最新版をダウンロードでき常に最新の状態を維持できる。ソフトウェアの操作に伴う煩雑性という点では、汎用ソフトウェアを使用している観点からもインターネットを通じて多くの情報を得ることが可能であり、実際に扱う機能はソフトウェアの極僅かに限られていることからも一度習得すればそれ相応の3Dモデルを容易に制作することが可能となる。ハードウェアもPCについては動画編集が可能なスペックがあれば対応可能である。3Dプリンターによる3Dデータの出力は外部委託が可能な為、特別に購入の必要もない。
つまり本方法は従来の特別な手法、限られた機関だけの技術となりうる障害を解決することができる。
【0060】
図2は、人骨に近似した硬さの樹脂により作製した3Dモデルの写真である。詳細には、
図1に示す画像の3Dデータ(3次元データ)を基に、歯科用上顎模型の作製者が3DPrinterで上記の樹脂からなる歯11aを備えた上顎骨12aの3Dモデルを作製する。
【0061】
図3は、上顎骨12a上に付着させる人工骨膜16と人工歯肉13を示す写真である。詳細には、上顎骨12a上に人工骨膜16が位置し、その人工骨膜16上に人工歯肉13が位置する構造であるため、
図3は、人工骨膜16上に人工歯肉13が付着した状態を示している。なお、人工骨膜を作製するための材料は、酢酸ビニル樹脂を主成分とし、溶剤として水を用い、必要に応じて樹脂、可塑剤、防腐剤、充てん剤、界面活性剤等を混入させることで得られる。
【0062】
図4は、
図2に示す3Dモデルに
図3に示す人工骨膜(図示せず)と人工歯肉13を付着させた状態を示す写真である。詳細には、
図2に示す樹脂からなる歯11aを備えた上顎骨12aの3Dモデルに、厚さ・強度・見た目が実際の患者の骨膜と歯肉に近似した人工骨膜と人工歯肉13を付着させる。
【0063】
人工歯肉13は、粘着力増強剤としてのガントレッツ塩、粘膜付着剤としてのCMCナトリウム、植物性ゴムであるカラヤゴムやアラビアゴム、軟膏であるワセリン、吸水性ポリマーとしてのポリアクリル酸ナトリウム、親水性ポリマーとしてのポリエチレングリコールを用いて作製される。
【0064】
図5は、
図4に示す3Dモデルに付着させる人工シュナイダー膜14である。この人工シュナイダー膜14は、厚さ・強度・見た目が実際の患者のシュナイダー膜と近似しており、厚さは0.3~0.3mmである。なお、シュナイダー膜とは、上顎骨の中の上顎洞(空洞)を覆っている粘膜のことである。また、上顎洞は、上顎の内部に広がる空洞であり、鼻の穴から広がる鼻腔という空洞の両脇に通じている。
【0065】
図6は、
図4に示す人工歯肉13と人工骨膜を付着させた3Dモデルに、
図5に示すような人工シュナイダー膜14を付着させた状態を示す写真である。詳細には、上顎骨の上顎洞側(人工歯肉13と逆側)にシュナイダー膜材料を塗布することで、上顎骨に人工シュナイダー膜14を形成する。これにより、上顎洞の内部を精密に再現することができる。なお、シュナイダー膜材料は、酢酸ビニル樹脂を主成分とし、溶剤として水を用い、必要に応じて樹脂、可塑剤、防腐剤、充てん剤、界面活性剤等を混入させることで作製される。
【0066】
このようにして
図6に示す実際の患者の上顎洞内部を精密に再現した3Dモデルを作製し、実際の患者に歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置等)を行う歯科医院に3Dモデルを送ることで、実際の歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置等)に役立てることができる。
【0067】
また、必要であれば、
図7に示すように、人工歯肉13に切開線15を黒インク等で明示してもよいし、歯肉を切開した後に歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置)に必要な骨造成のために上顎骨に開ける穴(Window)の削除部位領域(図示せず)を上顎骨又は人工骨膜にマーク等をつけて明示してもよい。さらに、歯科医師が手術練習の際に便利なナビケーションシステム(手術手順を説明した動画等)をオプションでつけてもよい。詳細には、歯科用上顎模型の作製を依頼した者に、その歯科用上顎模型を用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けて歯科用上顎模型を販売するオプションがあってもよい。このような動画を依頼者である歯科医師が見ることで、歯科用上顎模型を用いて効率的に手術の練習をすることができる。
【0068】
上述した製造方法により製造された歯科用上顎模型は、
図7に示すように、樹脂からなる歯11aを備えた上顎骨12aと、その上顎骨12aの上顎洞側に付着させた人工シュナイダー膜と、上顎骨12aに付着させた人工骨膜と、その人工骨膜上に付着させた人工歯肉13を有している。また、歯科用上顎模型は、人工歯肉13に明示された切開線15を有していてもよいし、上顎骨又は前記人工骨膜に明示された削除部位領域(Window)を有していてもよい。この削除部位領域は、人工歯肉13を切開線15に沿って切開し、その切開した人工歯肉13の下に位置している。
【0069】
また、本発明の別の態様として、歯科医師の勉強会・講演会において、受講者で共有したい患者のCTデータを歯科用上顎模型の作製者に送信してもらい、そのCTデータから3DPrinterで
図2に示す3Dモデルを作成してもよい。その3Dモデルに人工シュナイダー膜14と人工骨膜と人工歯肉13をつけて、上記の歯科医師の勉強会・講演会の開催者に送ることで、勉強会や講演会に役立てることができる。
【0070】
<歯科用下顎模型の製造方法>
以下に、本発明の一態様に係る歯科用下顎模型の製造方法について説明する。
歯科用上顎模型の製造方法と同様に、歯科医院で撮影された実際の患者のCTデータから歯11を備えた下顎骨を表す3Dデータを歯科用下顎模型作製者が公知のソフトウェアを用いて作製し、その3Dデータによって画像を取得する。この3Dデータの作製方法の詳細は前述したとおりである。なお、CTデータに加えて3Dスキャナーのデータも用いて3Dデータを作製してもよい。
【0071】
なお、上記のCTデータや3Dスキャナーのデータの取得方法は、歯科用上顎模型の製造方法と同様に、歯科医院で撮影された実際の患者のCTデータや3Dスキャナーのデータを、歯科医院に設置された端末から送信し、そのデータを歯科用下顎模型の作製者の端末が受信することで取得してもよい。
【0072】
次に、上記の画像の3Dデータ(3次元データ)を基に、歯科用下顎模型の作製者が3DPrinterで歯科用上顎模型の製造方法と同様の樹脂からなる歯を備えた下顎骨の3Dモデルを作製する。
【0073】
次に、歯科用上顎模型の製造方法と同様に、人工骨膜上に人工歯肉が付着した状態のものを作製する。
【0074】
次に、歯科用上顎模型の製造方法と同様に、上記の3Dモデルに人工骨膜と人工歯肉を付着させる。
【0075】
このようにして実際の患者の下顎を精密に再現した3Dモデルを作製し、実際の患者に歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置等)を行う歯科医院に3Dモデルを送ることで、実際の歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置等)に役立てることができる。
【0076】
また、必要であれば、歯科用上顎模型の製造方法と同様に、人工歯肉に切開線を黒インク等で明示してもよいし、歯肉を切開した後に歯科外科処置(歯周外科、インプラント手術、口腔外科処置)に必要な骨造成のために上顎骨に開ける穴(Window)の削除部位領域を下顎骨又は人工骨膜にマーク等をつけて明示してもよい。さらに、歯科医師が手術練習の際に便利なナビケーションシステム(手術手順を説明した動画等)をオプションでつけてもよい。詳細には、歯科用上顎模型の場合と同様に、歯科用下顎模型の作製を依頼した者に、その歯科用下顎模型を用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けて歯科用下顎模型を販売するオプションがあってもよい。このような動画を依頼者である歯科医師が見ることで、歯科用下顎模型を用いて効率的に手術の練習をすることができる。
【0077】
上述した製造方法により製造された歯科用下顎模型は、樹脂からなる歯を備えた下顎骨と、前記下顎骨に付着させた人工骨膜と、前記人工骨膜上に付着させた人工歯肉を有している。また、歯科用下顎模型は、人工歯肉に明示された切開線を有していてもよいし、下顎骨又は前記人工骨膜に明示された削除部位領域(Window)を有していてもよい。
【0078】
また、本発明の別の態様として、歯科医師の勉強会・講演会において、受講者で共有したい患者のCTデータを歯科用下顎模型の作製者に送信してもらい、そのCTデータから3DPrinterで3Dモデルを作成してもよい。その3Dモデルに人工骨膜と人工歯肉をつけて、上記の歯科医師の勉強会・講演会の開催者に送ることで、勉強会や講演会に役立てることができる。
【0079】
上記実施形態によれば、歯科医師が手術前にSRPMを用いて、切開線の位置、骨の削除部位、シュナイダー膜の剥離、骨造成、縫合などの術式の確認をすることができる。
また、歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型を作製しておくことで、患者に行うまたは行なった処置・手術の説明に用いることができ、その結果、患者が処置・手術の内容を容易に理解することができる。
【0080】
また、患者一人のCTデータを3DPrinterにより複数再現できるので、勉強会や手術の講習にも、同じ模型で複数の受講者が練習することができる。
【0081】
<オンラインサポートシステム>
オンラインサポートシステムは、前述した歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型の3DモデルSRPMを購入した者(User)が、そのSRPMの販売元(販売者)に所属する歯科医師又は販売元が指定する歯科医師にオンラインによるビデオ通信により3DモデルSRPMを用いて、手術前に、手術に関する相談やアドバイスを受けるシステムである。なお、オンラインによるビデオ通信については、公知の技術を用いればよい。
【0082】
<Outputサポートシステム>
Outputサポートシステムは、3DモデルSRPMを用いた説明を受けるセミナーの参加者(歯科医師)が、セミナー後、その参加者のクリニックの患者データにより3DモデルSRPMの作製を依頼し、その3DモデルSRPMを購入したセミナー参加者(User)が、そのSRPMの販売元(販売者)に所属する歯科医師又は販売元が指定する歯科医師にオンラインによるビデオ通信により3DモデルSRPMを用いて、相談やアドバイスを受けるシステムである。この相談やアドバイスは、手術前の手術に関する相談であってもよいし、その他の相談であってもよい。
【0083】
<遠隔治療サポートシステム>
オンラインサポートシステム(Outputサポートシステム)を利用した相談者、又は前述した歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型の3DモデルSRPMを購入した者(User)は、実際の手術時に、手術野カメラおよびイヤホンを用いて、オンラインサポートシステムと同様に、SRPMの販売元(販売者)に所属する歯科医師又は販売元が指定する歯科医師によりサポートを受けられる。サポート内容は、オンラインサポートシステム(Outputサポートシステム)と同様に手術のポイントのみならず、実際の手術中のアクシデントに対する対応法などであり、リアルタイムで相談およびアドバイスをもらえる。
【0084】
別言すれば、歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型の購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術を行う時に、前記購入者又は前記購入者が指定する歯科医師が手術野カメラ及びイヤホンを装着して、オンラインによるビデオ通信により手術の方法を前記歯科用下顎模型の販売者が指定する歯科医師がアドバイス又は指示する。これにより、遠隔地で治療を行う際に、熟練した歯科医師から治療の支援を受けることができる。
【0085】
上記のシステムにより日本のみならず世界中の依頼者(3DモデルSRPMを購入した者)からの相談およびアドバイスを受けることができる。
【0086】
図12は、オンラインサポートシステム又はOutputサポートシステムを詳細に説明するための図である。
まず、依頼元(依頼者)であるクリニック又は病院から前述した歯科用上顎模型又は歯科用下顎模型の3DモデルSRPMの作製を販売者に依頼する。この販売者は、3DモデルSRPMを作製する会社、歯科医師のクリニック又は病院であるとよい。
【0087】
次に、依頼を受けた販売者は、前述した方法で3DモデルSRPMを作製し、そのSRPMを依頼元であるクリニック又は病院に送付し、依頼元が販売者に対価を支払ってSRPMを購入する。この際、販売者は、そのSRPMの購入者に、SRPMを用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けてSRPMを販売してもよい。そして、購入者(依頼元)のクリニック又は病院の歯科医師がSRPMを手術前の練習や手術方法の検討を行うために利用するとよいが、症例によっては販売者に相談を依頼することも可能である。
【0088】
販売者が相談依頼を受けた場合は、依頼元(購入者)の歯科医師が、販売者に所属する歯科医師又は販売者が指定する歯科医師に、オンラインによるビデオ通信によりSRPMを用いて症例の相談や手術に関する相談をする。これがオンライン相談である。このようなオンライン相談を用いれば、相談する依頼元と相談される販売者との間の場所的な制約がなくなるため、販売者は日本のみならず世界中の依頼者(3DモデルSRPMの購入者)から相談およびアドバイスを受けることができる。
【0089】
上記のオンラインサポートシステムによるオンライン相談方法、SRPMを用いて手術手順を説明した動画を格納した記録媒体を付けてSRPMを販売する販売方法、及びOutputサポートシステムによるオンライン相談方法を適用することで、歯科外科処置を行う歯科医師にSRPMを効果的に利用してもらうことが可能となる。
【符号の説明】
【0090】
11,11a 歯
12,12a 上顎骨
13 人工歯肉
14 人工シュナイダー膜
15 切開線
16 人工骨膜